説明

X線検査装置

【課題】イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪に起因する輝度ムラを確実に取り除くことができ、ひいては被検査物のX線画像の画質を向上させることのできるX線検査装置を提供する。
【解決手段】イメージインテンシファイア2aおよび/またはCCDカメラ2bの幾何学的歪に基づいてX線検出器2からのX線透過情報を補正する画像歪補正手段13に加えて、同じくイメージインテンシファイア2aおよび/またはCCDカメラ2bの幾何学的歪に基づいてX線透過情報の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正手段14を設けることにより、検査対象物のX線画像の画質を向上させることができ、ひいては検査精度や測定精度の向上を達成することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて各種工業製品等の物品の透視像もしくはCT像を構築してその物品の良否判定等の検査を行うX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検査装置においては、一般に、X線発生装置からのX線を被検査物に照射し、その被検査物を透過したX線をX線検出器で検出することによって、被検査物の2次元のX線透過情報を得る。被検査物のX線透視画像を用いて検査を行う装置にあっては、上記のようにして得たX線透過情報から被検査物のX線透視像を構築する。また、被検査物の断層像を得る装置にあっては、X線発生装置とX線検出器との対と、被検査物とを相対回転させて複数方向からのX線透過情報を得て、これらを再構成することによって被検査物の断層像(CT像)を構築する。
【0003】
このようなX線検査装置に用いられるX線検出器の一つとして、イメージインテンシファイアを用いた検出器がある。このようなイメージインテンシファイアを用いたX線検出器を備えたX線検査装置の構成例を図4に概念的に示す。X線発生装置41の上方にイメージインテンシファイア42aとCCDカメラ42bとからなるX線検出器42が対向配置され、これらの間に被検査物Wを搭載するための観察ステージ43が配置されている。X線発生装置41から発生したコーンビーム状のX線は、被検査物Wを透過し、イメージインテンシファイア42aで可視光に変換され、その可視光がイメージインテンシファイア42aの後段に配置されているCCDカメラ42bに入射する。CCDカメラ42bの出力はコンピュータを主体とする制御部(図示せず)に取り込まれ、被検査物WのX線透視像を構築してモニタ44に表示される。
【0004】
イメージインテンシファイア42aは、図5に内部構造を現す概念図を示すように、X線の入射により光を発する入力蛍光体51と、その光を電子に変換する光電膜52と、その電子を出力蛍光体53に導く収束電極54および加速電極55を主たる構成要素とし、電子の入射による出力蛍光体53からの光は出力ガラス56を介して外部に出力される。CCDカメラ42bはその光を検出することで、イメージインテンシファイア42aに入射したX線の強度分布に対応したデータを得る。
【0005】
このようなイメージインテンシファイアにおいては、受光部やCCDカメラの歪、使用環境下での磁場による影響などにより、イメージインテンシファイアを通ってCCDカメラから出力される画像には、幾何学的な歪が生じる。このように画像に生じる歪については、画像処理などを用いて歪を補正する技術が従来より存在する。
【0006】
この補正の仕方は、例えば格子状のサンプルを撮影したときに、各格子の大きさが等しく、かつ、格子線が真直になるように画像処理を行うことにより、歪を補正することができる。
【0007】
また、以上のような歪補正とは別に、画像を見やすくする目的で、画像の画素値(濃度)の頻度がどの画素値についても同じようになるように平坦化するヒストグラム平均化法や、階調変換することによって画素値のダイナミックレンジを拡大するヒストグラム伸張法などの画像処理を行う技術も知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−46584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、イメージインテンシファイアから出力される画像情報には、幾何学的な歪以外に、同時に輝度のムラが生じる。図6は実際にイメージインテンシファイアを用いたX線検出器から出力されたX線透視像の例であり、中心部分に比べて端の部分が暗く写っている。
【0010】
このようなイメージインテンシファイアの幾何学的歪に起因する輝度ムラは、前記した従来の画質改善法であるヒストグラム平均化法やヒストグラム伸張法では、根本的な解消には至らない。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、イメージインテンシファイアの幾何学的歪に起因する輝度ムラを確実に取り除くことができ、ひいては被検査物のX線画像の画質の向上を達成することのできるX線検査装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のX線検査装置は、被検査物にX線発生装置からのX線を照射し、その透過X線をX線検出器で検出し、その検出データから被検査物の2次元のX線透過情報を得て、その情報を用いて被検査物のX線像を構築するとともに、上記X線検出器としてイメージインテンシファイアとCCDカメラからなる検出器を用いたX線検査装置において、上記イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みに基づいて上記X線透過情報を補正する画像歪み補正手段と、上記イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みに基づいて上記X線透過情報の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正手段とを備えていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0013】
ここで、本発明においては、上記輝度ムラ補正手段の具体的構成としては、上記画像情報を複数の微小領域に分割し、その各微小領域について、拡大する向きへの歪がある領域に対し、当該領域の輝度値が明るくなる向きに輝度値を補正するとともに、その歪の量が大きいほど輝度値の補正量を大きくする構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0014】
本発明は、イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪による輝度ムラの原因を探り、その原因を勘案した対策を講じることによって、課題を解決しようとするものである。
すなわち、イメージインテンシファイアとCCDカメラを用いたX線検出器から出力される画像情報に、固有の輝度ムラが生じる原因は、それらを用いたX線検出器から出力される画像情報に、図7に誇張して示すように外側ほど広がっていくような幾何学的な歪が生じているからであり、一定の面積の格子で囲まれる各領域に入射するX線の量が同じであるとすると、中心部分に比べて端の部分では領域の面積が大きくなるために、単位面積当たりのX線量は少なくなる。そのため、出力される画像では端の部分が相対的に暗く写ってしまう。
【0015】
本発明では、イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みに基づいてX線透過情報を補正する画像歪み補正手段に加えて、同じイメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みの情報を用いて、X線透過情報の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正手段を備えた構成とする。
【0016】
X線検出器から出力される画像を、歪がない場合には互いに等面積となる微小領域に分割すると、出力される画像の輝度は、歪が生じた画像における各領域の面積の逆数に比例することになる。換言すれば、請求項2に係る発明のように、X線検出器からの出力に基づく対象物の2次元の画像情報を複数の微小領域に分割し、その各微小領域について、拡大する向きへの歪がある領域に対し、当該領域の輝度値が明るくなる向きに輝度値を補正し、かつ、その歪の量が大きいほど、輝度値の補正量を大きくすることで、イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪に起因する輝度ムラを取り除くことができる。
【0017】
例えば、イメージインテンシファイアからの歪を含んだ画像上で、各領域の面積を、最も小さい領域の面積で除した値を補正係数として、当該画像の各点の輝度に対し、その点が含まれる微小領域の補正係数を乗じることにより、幾何学的歪に起因する画像の輝度ムラを取り除くことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの歪に由来する輝度のムラを補正することができ、これにより、画像の見た目が改善されるほかに、X線透過画像上での計測についても改善が見込まれる。すなわち、例えばサンプル内部の気泡(ボイド)の量を、X線透視画像を用いて計測するという使用方法が従来から多用されているが、このとき、画像に輝度のムラがあった場合、ボイドを抽出するための2値化のしきい値の決定が困難になり、必然的に計測の精度が悪くなることになる。本発明により画像の輝度ムラが取り除かれることで、2値化のしきい値が決めやすくなる結果、計測の精度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における補正のためのパラメータを決定する際の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における通常の観察に際しての手順を示すフローチャートである。
【図4】イメージインテンシファイアを用いたX線検出器を有するX線検査装置の構成例を示す図である。
【図5】イメージインテンシファイアの内部構造例を示す概念図である。
【図6】従来のイメージインテンシファイアを用いたX線検出器から出力されたX線透視像の例を示す図である。
【図7】イメージインテンシファイアを用いたX線検出器から出力される画像の歪を誇張して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態の構成図であり、装置の概略構造を表す模式図と制御装置の主要な機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0021】
装置構造は前記した図4に示したものと同等であり、X線発生装置1の上方にX線検出器2が対向配置されており、このX線発生装置2はイメージインテンシファイア2aとCCDカメラ2bによって構成されている。X線発生装置1とX線検出器2の間に、被検査物Wを搭載するための観察ステージ3が配置されており、この観察ステージ3は、移動機構(図示略)の駆動によりX線の光軸方向を含む互いに直交する3軸方向に移動可能であり、この観察ステージ3の移動により観察位置の変更や透視倍率の変更を行うことができる。
【0022】
X線発生装置1から発生したコーンビーム状のX線は、被検査物Wを透過してイメージインテンシファイア2aで可視光に変換され、その可視光がCCDカメラ2bで撮影される。CCDカメラ2bの出力は画像データ取り込み回路11を介してデータ記憶部12に一時的に格納される。
【0023】
データ記憶部12に格納された画像データは、後述するように、歪補正用画像処理部13によりイメージインテンシファイア2aの幾何学的歪に起因する歪が取り除かれるとともに、輝度補正部14によりその歪に起因する輝度ムラが補正されたうえで、表示器15に被検査物WのX線透視像として表示される。なお、画像データの歪はCCDカメラ2bに起因するものもあるので、歪補正用画像処理部13と輝度補正部14は、イメージインテンシファイア2aおよび/またはCCDカメラ2bに起因する歪と輝度ムラを補正するものである。以下の記載では、便宜上イメージインテンシファイア2aに起因する歪として説明するが、結果としての歪は両者の影響を厳密に分けられるものではなく、また、分ける必要もないので、CCDカメラ2bに起因する歪の意味も含むものとして説明する。
【0024】
歪補正用画像処理部13で用いる歪補正用パラメータは後述する手順により求められ、歪補正用パラメータ記憶部16にあらかじめ記憶されている。また、輝度補正部14で用いる輝度補正用パラメータについても、同じく後述する手順により求められ、輝度補正用パラメータ記憶部17にあらかじめ記憶されている。
【0025】
上記画像データ取り込み回路11、データ記憶部12、歪補正用画像処理部13、輝度補正部14、歪補正用パラメータ記憶部16および輝度補正用パラメータ記憶部17は演算制御部18の制御下に置かれており、これらは、実際にはコンピュータとその周辺機器によって構成され、インストールされているプログラムに基づく機能を実現するのであるが、図1では説明の便宜上、主要な機能ごとのブロックによって表している。また、演算制御部19は、後述する各種パラメータの演算を行うとともに、この演算制御部18には、マウスやキーボード、ジョイスティックからなる操作部19が接続されており、この操作部18の操作によって演算制御部18に対して各種指令を与えたり、あるいは観察ステージ3に対して随意に移動指令を与えることができる。
【0026】
次に、本発明の実施の形態の使用方法並びに動作を述べる。
図2は本発明の実施の形態におけるパラメータ決定ルーチンの動作手順を表すフローチャートである。このルーチンは例えば装置の出荷時、あるいは、定期点検時等に選択される。
【0027】
このパラメータ決定ルーチンにおいては、まず、X線検出器2のイメージインテンシファイア2aの直前に、寸法・形状が既知の規定の格子状のサンプルや、等間隔に点が並んでいるようなサンプル等、を載せてX線撮影を行い、X線検出器2からの出力、つまり規定の格子状のサンプルのX線透過情報をデータ記憶部12に格納する。そのX線透過情報と、サンプルの既知の寸法・形状とから、イメージインテンシファイア2aの幾何学的歪に起因する像の歪量を測定する。その測定結果から、歪補正用のパラメータを決定し、歪補正用パラメータ記憶部16に記憶する。
【0028】
歪量は、イメージインテンシファイア2aの入力面上での位置(x,y)に依存し、対応する出力画像上での位置(p,q)は、それぞれ以下のように(x,y)の関数として表すことができる。
p=P(x,y),q=Q(x,y) ・・(1)
【0029】
一般に、関数P,Qは(x,y)についての2次の多項式などで近似することができ、出力画像の格子点の位置から関数P,Qの各項の係数を求めることで、歪の量を測定することができる。そして、この(1)式を歪補正用パラメータとして歪補正用パラメータ記憶部16に記憶する。
【0030】
次に、輝度補正用のパラメータを決定する。この輝度補正用パラメータは上記のようにして求めた画像の歪量から以下のようにして求める。
【0031】
出力画像を一定面積の微小領域に分割し、その各領域内におけるp方向およびq方向それぞれの方向への変化量、つまりイメージインテンシファイア2aの入力画像から出力画面に変換した時の寸法の変化量(従ってイメージインテンシファイア2aの入力画像の歪量)をΔp,Δqとしたとき、
ΔSi=Δp・Δq ・・(2)
を算出する。
【0032】
そして、画像上の全ての微小領域について(2)式を計算し、ΔSの最小値ΔSminを求め、そのΔSminが1となるように規格化し、以下の(3)式によって各領域の輝度ムラの補正係数cを算出する。
ci=ΔSi/ΔSmin ・・(3)
【0033】
そして、この補正係数ciを輝度ムラ補正用パラメータ記憶部17に記憶し、このルーチンを終了する。
【0034】
通常の観察時においては、観察ステージ3上に被検査物Wを搭載してX線を照射し、その透過X線をX線検出器2で検出することにより被検査物WのX線撮影を行う。その撮影により取り込まれたX線検出器2による撮影結果は、データ記憶部12に格納された後、歪補正用パラメータ記憶部16に記憶されている前記した(1)式歪を用いて、歪補正用画像処理部13において歪が補正された後、その補正後の画像に対し、輝度ムラ補正用原メータ記憶部17に記憶されている前記した補正係数ciを用いて輝度ムラの補正が実行されたうえで、表示器15に被検査物WのX線透視像として表示される。
【0035】
輝度ムラの補正は、前記した各微小領域に含まれる各点の輝度を、輝度ムラ補正係数ciを乗じた値とすることで行われる。
【0036】
以上の本発明の実施の形態によると、イメージインテンシファイア2aの幾何学的歪に起因するX線透視像の歪が補正されると同時に、その歪に起因する輝度ムラも併せて取り除かれる結果、X線透視像の画質が向上し、オペレータによる検査作業が容易化されるとともに、ボイドや欠陥等の抽出のためのしきい値の設定作業が容易となり、これらのことから、検査精度の向上や計測精度の向上が見込まれる。
【0037】
ここで、以上の実施の形態においては、本発明をX線透視像を構築するX線検査装置に適用した例を示したが、本発明は断層像を構築するいわゆるX線CT装置にも等しく適用することができる。すなわち、X線CT装置においては、X線発生装置とX線検出器の対と被検査物をX線発生装置とを相対的に回転させ、複数の回転角度におけるX線透過情報を取得し、そのX線透過情報を再構築することによって被検査物の断層像を構築するが、断層像を構築する前の各方向からのX線透過情報に対して本発明における輝度ムラ補正を実行することにより、イメージインテンシファイアの幾何学的歪に由来する輝度ムラを除去した上で断層像を構築することができ、断層像の画質が向上し、検査精度や測定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 X線発生装置
2 X線検出器
2a イメージインテンシファイア
2b CCDカメラ
3 観察ステージ
11 画像データ取り込み回路
12 データ記憶部
13 歪補正用画像処理部
14 輝度補正部
15 表示器
16 歪補正用パラメータ記憶部
17 輝度補正用パラメータ記憶部
18 演算制御部
19 操作部
W 被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物にX線発生装置からのX線を照射し、その透過X線をX線検出器で検出し、その検出データから被検査物の2次元のX線透過情報を得て、その情報を用いて被検査物のX線像を構築するとともに、上記X線検出器としてイメージインテンシファイアとCCDカメラを用いたX線検査装置において、
上記イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みに基づいて上記X線透過情報を補正する画像歪み補正手段と、上記イメージインテンシファイアおよび/またはCCDカメラの幾何学的歪みに基づいて上記X線透過情報の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正手段とを備えていることを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
上記輝度ムラ補正手段は、上記画像情報を複数の微小領域に分割し、その各微小領域について、拡大する向きへの歪がある領域に対し、当該領域の輝度値が明るくなる向きに輝度値を補正するとともに、その歪の量が大きいほど輝度値の補正量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−196710(P2011−196710A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61046(P2010−61046)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】