説明

X線異物検査装置及びそれに用いられるX線異物検査方法

【課題】X線異物検査装置において、微細な異物を検出可能とする。
【解決手段】X線検査画像メモリ11がX線エリアセンサ6から出力されたX線検査画像データを記憶し、基準良品画像メモリ12が異物の有無を判定するための基準良品画像データを記憶する。画像除算演算処理器13が、X線検査画像データから基準良品画像データを除算処理することにより、異物の画像データを算出し、異物判定処理器14が画像除算演算処理器13によって算出された異物の画像データに基づいて異物の有無を判定する。画像除算演算処理器13が行なう除算処理によって検査対象物の材質又は形状に起因するノイズが除去され、異物に関する高品位なX線画像を取得できるので、微細な異物が検出可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物に対してX線を照射することにより、内部の異物を非破壊検査するX線異物検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線異物検査装置においては、S/Nが低いX線検査画像から微細な異物を正確に検出できるように、1つの検査対象物に対して複数枚の画像を撮像し、これらを重ね合わせた画像データに基づいて異物を検出する手法が用いられている。しかしながら、このような複数枚の画像を撮像する手法にあっては、1つの検査対象物の検査に要する時間が長くなることから、検査対象物が流される生産ラインに組み込むことが困難とされている。
【0003】
そこで、生産ラインの渋滞を招くことなく、低コントラストで微少な異物を検出できるように、種々の試みがなされている。例えば、特許文献1においては、検査対象物にX線を照射する直前に、センサの各X線検出素子で発生している暗電流情報を取得し、検査対象物にX線を照射して取得した撮像情報から上記暗電流情報を除算処理するX線異物検査装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、検査対象物のX線検査画像データと良品のX線検査画像データとの差分をとることにより、異物を検出するX線異物検査装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−70250号公報
【特許文献2】特開2007−170926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1に示されたX線異物検査装置においては、暗電流ノイズによるX線画像の品位の低下を防止できるが、X線画像から検査対象物の材質又は形状に起因するノイズ(透過むら)までは除去できないため、真に高品位のX線画像を得ることが困難であった。
【0006】
また、一般に物質を透過したX線の強度は、その物質のX線吸収係数に応じて,指数関数的に減衰する。そのため、上記特許文献2に示されるように、検査対象物のX線検査画像データと良品のX線検査画像データとの差分をとることにより異物の画像を得ようとするX線異物検査装置においては、ある特定領域のX線透過率を有する微細な異物を正確に検出することができない場合が生ずる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、X線検査画像から検査対象物の材質又は形状に起因するノイズを除去することにより高品位なX線画像を取得し、微細な異物を検出することができるX線異物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、
X線を出射するX線源と、
前記X線源から出射され検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像手段と、
前記X線撮像手段によって出力されたX線検査画像データを記憶するX線画像記憶手段と、
異物の有無を判定するための基準となる基準良品画像データを記憶する基準良品画像記憶手段と、
前記X線画像記憶手段によって記憶された検査対象物のX線検査画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出する除算演算手段と、
前記除算演算手段によって算出された除算画像データに基づいて、検査対象物内の異物の有無を判定する異物判定手段とを備えたX線異物検査装置である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のX線異物検査装置において、
前記X線検査画像記憶手段によって記憶されたX線検査画像データのうち、前記異物判定手段によって異物が混入していないと判定された複数の検査対象物のX線検査画像データを蓄積する良品画像蓄積手段と、
前記良品画像蓄積手段によって蓄積されている複数のX線検査画像データを加算平均して良品平均画像データを算出する加算平均演算手段とをさらに備え、
前記基準良品画像記憶手段は、前記加算平均演算手段によって算出された良品平均画像データを基準良品画像データとして記憶するものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のX線異物検査装置において、
前記異物判定手段は、前記除算演算手段によって算出された除算画像データにおいて、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、検査対象物内に異物が有ると判定するものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のX線異物検査装置において、
前記良品画像蓄積手段は、所定数のX線検査画像データを蓄積し、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去するものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のX線異物検査装置において、
前記基準良品画像記憶手段によって記憶されている基準良品画像データと、X線検査画像記憶手段によって記憶されているX線検査画像データとを比較して、X線検査画像中の検査対象物の大きさを該基準良品画像中の検査対象物の大きさと同一となるように補正された大きさ補正画像データを算出する大きさ補正手段をさらに備え、
前記除算演算手段は、前記大きさ補正手段によって算出された大きさ補正画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出するものである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のX線異物検査装置において、
前記基準良品画像記憶手段によって記憶されている基準良品画像データと、X線検査画像記憶手段によって記憶されているX線検査画像データ又は前記大きさ補正手段によって算出された大きさ補正画像データとを比較して、X線検査画像中の検査対象物の位置と角度を該基準良品画像中の検査対象物の位置と角度と同一となるように補正された位置角度補正画像データを算出する位置角度補正手段をさらに備え、
前記除算演算手段は、前記位置角度補正手段によって算出された位置角度補正画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、検査対象物内の異物画像データを算出するものである。
【0014】
請求項7の発明は、
検査対象物にX線を照射するX線照射ステップと、
前記X線照ステップにおいて出射され検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像ステップと、
検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像ステップと、
前記X線撮像ステップによって出力されたX線検査画像データを記憶するX線検査画像記憶ステップと、
異物の有無を判定するための基準となる基準良品画像データを記憶する基準良品画像記憶ステップと、
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶された検査対象物のX線検査画像データから前記基準良品画像記憶ステップによって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出する除算演算ステップと、
前記除算演算ステップによって算出された除算画像データに基づいて、検査対象物内の異物の有無を判定する異物判定ステップとを有することを特徴とするX線異物検査方法である。
【0015】
請求項8の発明は、請求項7に記載のX線異物検査方法において、
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶されたX線検査画像データのうち、前記異物判定ステップによって異物が混入していないと判定された検査対象物のX線検査画像データを蓄積する良品画像蓄積ステップと、
前記良品画像蓄積ステップによって蓄積されている複数のX線検査画像データを加算平均して良品平均画像データを算出する加算平均演算ステップとをさらに有し、
前記基準良品画像記憶ステップは、前記加算平均演算ステップによって算出された良品平均画像データを基準良品画像データとして記憶することを特徴とするものである。
【0016】
請求項9の発明は、請求項7又は請求項8に記載のX線異物検査方法において、
前記異物判定ステップは、前記除算演算ステップによって算出された除算画像データにおいて、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、検査対象物内に異物が有ると判定するものである。
【0017】
請求項10の発明は、請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のX線異物検査方法において、
前記良品画像蓄積ステップは、所定数のX線検査画像データを蓄積し、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去するものである。
【0018】
請求項11の発明は、請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載のX線異物検査方法において、
X線を照射しない状態でX線暗画像を撮像し、X線暗画像データとして出力するX線暗画像撮像ステップと、
前記X線暗画像撮像ステップによって出力されたX線暗画像データを記憶するX線暗画像記憶ステップとをさらに有し、
前記除算演算ステップは、
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶された検査対象物のX線検査画像データからX線暗画像記憶ステップによって記憶されたX線暗画像データを減じることによって得た第1画像データから、
前記基準良品画像記憶ステップによって記憶された基準良品画像データからX線暗画像記憶ステップによって記憶されたX線暗画像データを減じることによって得た第2画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出するものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、除算演算手段が検査対象物のX線検査画像データから基準良品画像データを除算処理することにより検査対象物内の異物画像データを算出するので、単に検査対象物のX線検査画像と基準良品画像との差分をとることによって得た差分画像に比べて、異物の背景が除去され、かつ異物が存在する部分が強調された除算画像を得ることができる。これにより、X線検査画像から検査対象物の材質又は形状に起因するノイズを除去することができ、真に高品位なX線透過画像を得ることが可能となり、微細な異物を検出できるようになる。
【0020】
請求項2の発明によれば、異物の混入がないと実際に判定された検査対象物のX線検査画像データを加算平均演算手段が加算平均することにより良質な基準良品画像データを算出できるので、異物の有無の判定を正確に行えるようになる。
【0021】
請求項3の発明によれば、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、異物判定手段が検査対象物内に異物が有ると判定するので、想定されている異物よりも小さな像が除算画像中に存在する場合であっても、フィルタリングされて異物として誤認される虞がない。従って、より一層正確に異物を検出できるようになる。
【0022】
請求項4の発明によれば、良品画像蓄積手段に良品のX線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去するので、良品画像蓄積手段には常に最新のX線検査画像データが蓄積されることになる。従って、X線源の出射X線強度やX線撮像手段の撮像感度等が経時的に変化するような場合にあっても、それに対応する良品のX線検査画像データで良品画像蓄積手段に蓄積されるデータを次々と更新していくことが可能となり、X線異物検査装置が過酷な環境で長期間に亘って使用される場合であっても、安定した異物の検出を実現できる。
【0023】
請求項5の発明によれば、X線検査画像における検査対象物の大きさが異なる場合、すなわち異なる大きさの検査対象物を検査する場合、又はX線源、検査対象物及びX線撮像手段の距離関係が変動する場合に、画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行える。これにより、特に検査対象物の端部における異物の検出を正確に行えるようになる。
【0024】
請求項6の発明によれば、X線検査画像における検査対象物の位置又は角度が変動する場合、すなわちX線撮像手段に対する検査対象物の位置及び姿勢が変動する場合に、画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行える。これにより、特に検査対象物の端部における異物の検出をより一層正確に行えるようになる。
【0025】
請求項7の発明によれば、除算演算ステップが検査対象物のX線検査画像データから基準良品画像データを除算処理することにより検査対象物内の異物画像データを算出するので、単に検査対象物のX線検査画像と基準良品画像との差分をとることによって得た差分画像に比べて、異物が存在する部分が強調された除算画像を得ることができる。これにより、X線検査画像から検査対象物の材質又は形状に起因するノイズを除去することができ、真に高品位なX線透過画像を得ることが可能となり、微細な異物を検出できるようになる。
【0026】
請求項8の発明によれば、加算平均演算ステップにおいて異物の混入がないと実際に判定された検査対象物のX線検査画像データを加算平均することにより良質な基準良品画像データを算出できるので、異物の有無の判定を正確に行えるようになる。
【0027】
請求項9の発明によれば、異物判定ステップにおいて、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、検査対象物内に異物が有ると判定されるので、想定されている異物よりも小さな像が除算画像中に存在する場合であっても、フィルタリングされて異物として誤認される虞がない。従って、より一層正確に異物を検出できるようになる。
【0028】
請求項10の発明によれば、良品画像蓄積ステップは、所定数のX線検査画像データを蓄積し、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去するので、蓄積されているX線検査画像データは、常に最新のものとすることができる。従って、X線撮像ステップにおける撮像感度等が経時的に変化するような場合にあっても、それに対応する良品のX線検査画像データで次々と更新していくことが可能となり、過酷な環境で長期間に亘る異物の検出を余儀なくされる場合であっても、安定した異物の検出を実現できる。
【0029】
請求項11の発明によれば、除算演算ステップにおいてX線暗画像データを考慮して得た第1画像データから第2画像データを除算処理することにより除算画像データを算出するので、算出された除算画像データからは暗電流ノイズが除去されることになる。これにより、微細な異物をより一層正確に検出できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の一実施形態によるX線異物検査装置について図面を参照して説明する。図1はX線異物検査装置の全体構成を示している。X線異物検査装置1は、X線を出射するX線源2と、X線源2を制御するX線源制御部3と、検査対象物100が載置されるテーブル4と、テーブル4の位置及び姿勢を制御するテーブル制御部5と、検査対象物100及びテーブル4を透過したX線を検知してX線検査画像を撮像するX線エリアセンサ(X線撮像手段)6と、X線エリアセンサ6を制御すると共にX線エリアセンサ6が撮像したX線検査画像の画像データを出力するX線エリアセンサ制御部7と、X線エリアセンサ制御部7から出力された画像データを処理することにより検査対象物100内の異物を検出する画像処理部8と、画像処理部8が検出した異物のX線画像を表示する表示部9等によって構成されている。
【0031】
X線源2は、X線源制御部3によって制御され、所定の照射角でX線を放射状に出射する。X線源2から出射されたX線は、検査対象物100及びテーブル4を透過して、X線エリアセンサ6によって検知される。このとき、検査対象物100の内部にX線透過率の異なる異物が混入している場合、X線エリアセンサ6によって撮像された画像内に斑点として現れる。画像処理部8は、画像内に現れた斑点を異物によるものか否かを判別することにより、検査対象物100の表面又は内部の状態を非破壊検査する。
【0032】
X線エリアセンサ6は、X線源2から出射され検査対象物100及びテーブル4を透過した後入射したX線を検知して電荷に変換し、検査対象物100のX線検査画像データとしてX線エリアセンサ制御部7に出力する。X線エリアセンサ制御部7は、X線エリアセンサ6から出力されたX線検査画像データを画像処理部8に転送する。
【0033】
画像処理部8は、X線エリアセンサ制御部7を介してX線エリアセンサ6から出力されたX線検査画像データを記憶するX線検査画像メモリ(X線検査画像記憶手段)11と、X線検査画像メモリ11に記憶されたX線検査画像データのうち、異物の有無を判定するための基準となる基準良品画像データを記憶する基準良品画像メモリ(基準良品画像記憶手段)12と、X線検査画像メモリ11に記憶されたX線検査画像データから基準良品画像メモリ12によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、検査対象物内の異物の背景が除去された除算画像データを算出する画像除算演算処理器(除算演算手段)13と、画像除算演算処理器13によって算出された除算画像データに基づいて、検査対象物100内の異物の有無を判定する異物判定処理器(異物判定手段)14等を有している。
【0034】
異物判定処理器14によって異物が存在すると判定された場合、画像除算演算処理器13によって算出された異物画像データが表示部9に転送される。このとき、表示部9は、転送された異物画像データに基づいて、異物のX線画像を表示する。
【0035】
また、画像処理部8は、X線検査画像メモリ11によって記憶されたX線検査画像データのうち、異物判定処理器14によって異物が混入していないと判定された複数(図1においては3個)の検査対象物のX線検査画像データを蓄積する良品画像メモリ(良品画像蓄積手段)15と、良品画像メモリ15によって蓄積されている複数のX線検査画像データを加算平均して良品平均画像データを算出する画像加算平均演算処理器(加算平均演算手段)16等を有している。
【0036】
X線検査画像メモリ11は、例えばX線エリアセンサ6が最後に撮像したX線検査画像を記憶する。ある検査対象物に対して異物判定処理器14によって異物が混入していないと判定された場合、図1において破線の矢印で示すように、その検査対象物についてのX線検査画像データは、良品画像メモリ15に転送されてこの良品画像メモリ15によって蓄積される。基準良品ずらし画像メモリ12に記憶される基準良品ずらし加算画像データは、異物の有無を判定するための基準となるデータであれば、特に限定されないが、本実施形態では、ずらし画像加算平均演算処理器16によって算出された良品平均画像データを、基準良品画像データとして用いることとしている。
【0037】
図2(a)は、X線検査画像メモリ11によって記憶されたX線検査画像(異物あり)を、図2(b)は、基準良品画像メモリ12に記憶された基準良品画像(異物なし)を、図2(c)は、画像除算演算処理器13によって算出された異物の背景が除去された背景除去画像をそれぞれ示している。画像除算演算処理器13は、X線検査画像データから基準良品画像データを各ピクセル毎に除算処理することにより背景除去画像データを算出する。
【0038】
画像除算演算処理器13が処理する演算式は、例えば以下の数式で示される。
CIx,y−BLx,y=M×(Ix,y−BLx,y)/(BIx,y−BLx,y) (1)
ただし、Ix,y :X線検査画像の座標(x,y)の位置にあるピクセル(画素)の輝度値
BIx,y:良品基準画像の座標(x,y)の位置にあるピクセルの輝度値
BLx,y:ダーク画像の座標(x,y)の位置にあるピクセルの輝度値
CIx,y:除算処理によって算出した座標(x,y)の位置にあるピクセルの輝度値
とする。ここで上記ダーク画像とは、X線源2からX線を出射していない状態で、X線エリアセンサ6が撮像したX線画像であり、X線エリアセンサ6に固有のノイズだけが記録された画像である。ダーク画像のデータBLx,yは、例えばX線検査画像メモリ11や別途設けられたダーク画像メモリに記憶されている。このダーク画像のBLx,yをIx,y、BIx,y及びCIx,yから減じることにより、X線検査画像から暗電流ノイズが除去されることになる。これにより、微細な異物をより一層正確に検出できるようになる。なお、上記数式(1)において、右辺分子の(Ix,y−BLx,y)が請求項に記載の第1画像データに相当し、右辺分母の(BIx,y−BLx,y)が請求項に記載の第2画像データに相当する。また、Mは、X線異物検査装置1及び検査対象物100の仕様により適宜設定される係数である。
【0039】
図3は、異物判定処理器14が異物の有無を判定する際に着目する画素Pとその周辺画素P1乃至P8との関係を示している。異物判定処理器14は、画像除算演算処理器13によって算出された除算画像データ(背景除去画像データ)に基づいて、各ピクセル毎に着目している画素Pの輝度値と周辺画素P1乃至P8の輝度値との差を算出して、検査対象物100内の異物の有無を判定する。図3(b)に示すように、周辺画素P1乃至P8は、着目している画素Pに対して上下左右と斜めの8方向に画定される。周辺画素を画定するためのマトリクスサイズ及びピクセルピッチは、X線異物検査装置1及び検査対象物100の仕様、例えば予想される異物の大きさよりも十分に大きな値として適宜設定される。
【0040】
異物判定処理器14は、除算画像における周辺画素P1乃至P8の平均輝度値CI(avg)を算出し、着目している画素の輝度値から平均輝度値CI(avg)を減ずることにより、輝度値の差を算出する。この算出式は例えば、以下に示す数式で示さる。
CI(avg)=ci1+ci2+ci3+ci4+ci5+ci6+ci7+ci8 (2)
輝度値の差=CIx,y−CI(avg) (3)
ただし、ci1乃至ci8は、数式(1)によって画素毎に算出された周辺画素P1乃至P8の輝度値とする。
【0041】
上記数式(3)によって算出された輝度値の差が所定の閾値Lよりも大きい場合には、異物判定処理器14は、着目している画素を異物候補画素とする。異物判定処理器14は、すべての画素に対して、輝度値の差を算出して閾値Lと比較して異物候補画素を抽出する。そして、異物候補画素が所定の個数X以上連続している場合には、その部分を異物として判定する。なお、閾値L及び個数Xは、X線異物検査装置1及び検査対象物100の仕様、例えば予想される異物の大きさに基づいて適宜設定される。
【0042】
図4は、良品画像メモリ15によって蓄積されているX線検査画像データが更新される要領を示している。図4(a)に示すように、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像A内に異物が存在するか否かを判定するときには、良品画像メモリ15にはn枚のX線検査画像データが蓄積されているものとする。異物判定処理器14によってX線検査画像A内に異物が存在しないと判定された場合、すなわち良品であると判定された場合、X線検査画像Aの画像データが良品画像メモリ15に蓄積される。このとき、あらかじめ、最先に蓄積されている最も古い良品画像(1)が良品画像メモリ15から消去され、X線検査画像Aの画像データを蓄積する領域が確保される。このようにして、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去して、良品画像メモリ15によって蓄積されている良品のX線検査画像データが更新される。
【0043】
図5は、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像が傾いている場合を示している。これは、検査対象物100がテーブル4に対して回転した状態で載置されたときに生ずる。このような場合に、画像除算演算処理器13が通常と同様に、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像データから基準良品画像メモリ12によって記憶された基準良品画像データを除算処理すると、図5(a)に示すように、検査対象物の周縁部に異常な画像が算出され、その部分の異物を正確に検出できない。X線エリアセンサ6によって撮像されたX線検査画像の位置がずれている場合も同様である。
【0044】
そこで、X線異物検査装置1は、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像データの位置及び角度を補正する位置角度補正部をさらに有している。位置角度補正部は、例えば画像除算演算処理器13に備えられ、基準良品画像メモリ12によって記憶されている基準良品画像データと、X線検査画像メモリ11によって記憶されているX線検査画像データとを比較して、図5(b)に示すように、X線検査画像中の検査対象物を移動・回転させて、X線検査画像中の検査対象物の位置と角度を該基準良品画像中の検査対象物の位置と角度と同一となるように補正された位置角度補正画像データを算出する。このように、位置角度補正部が検査対象物のX線検査画像位置と角度を基準良品画像データと同一とした位置角度補正画像データを算出し、この位置角度補正画像データから基準良品画像データを除算処理するので、画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行える。これにより、特に検査対象物の端部における異物の検出を正確に行えるようになり、その結果として検査対象物の全体を隈無く検査することができる。なお、位置の補正は、例えば、予め設定されているX線検査画像上の基準点(図5においては三角形の頂点)を基準良品画像上の基準点に合致させるものとする。
【0045】
また、画像除算演算処理器13には、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像データを拡大・縮小する大きさ補正部が備えられている。大きさ補正部は、例えば、X線エリアセンサ6によって撮像されたX線検査画像中検査対象物100の大きさが小さい場合、図6に示すように、X線検査画像メモリ11に記憶されているX線検査画像データを拡大する。これにより、上記と同様に画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行うことができ、検査対象物の全体を隈無く検査することができる。なお、基準良品画像に対してX線エリアセンサ6によって撮像されたX線検査画像が位置、角度、大きさのすべてにおいて相違する場合には、まず位置を補正し、その次に角度を補正し、最後に大きさを補正するものとする。
【0046】
以上のような構成を備えたX線異物検査装置1によれば、画像除算演算処理器13が検査対象物100のX線検査画像データから基準良品画像データを除算処理することにより検査対象物100内の異物画像データを算出するので、単に検査対象物100のX線検査画像と基準良品画像との差分をとることによって得た差分画像に比べて、異物の背景が除去され、かつ異物が存在する部分が強調された除算画像を得ることができる。これにより、X線検査画像から検査対象物100の材質又は形状に起因するノイズを除去することができ、真に高品位なX線透過画像を得ることが可能となり、微細な異物を検出できるようになる。また、異物の混入がないと実際に判定された検査対象物100のX線検査画像データを画像加算平均演算処理器16が加算平均することにより良質な基準良品画像データを算出できるので、異物の有無の判定を正確に行えるようになる。
【0047】
また、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、異物判定処理器14が検査対象物100内に異物が有ると判定するので、想定されている異物よりも小さな像が除算画像中に存在する場合であっても、フィルタリングされて異物として誤認される虞がない。従って、より一層正確に異物を検出できるようになる。
【0048】
また、良品画像メモリ15に良品のX線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去するので、良品画像メモリ15には常に最新のX線検査画像データが蓄積されることになる。従って、X線源2の出射X線強度やX線エリアセンサ6の撮像感度等が経時的に変化するような場合にあっても、それに対応する良品のX線検査画像データで良品画像メモリ15に蓄積されるデータを次々と更新していくことが可能となり、X線異物検査装置1が過酷な環境で長期間に亘って使用される場合であっても、安定した異物の検出を実現できる。
【0049】
また、X線検査画像における検査対象物100の位置又は角度が変動する場合、すなわちX線エリアセンサ6に対する検査対象物100の位置及び姿勢が変動する場合に、画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行える。これにより、特に検査対象物100の端部における異物の検出をより一層正確に行えるようになる。また、X線エリアセンサ6によって撮像される画像の大きさが異なる場合、すなわち異なる大きさの検査対象物100を検査する場合、又はX線源2、検査対象物100及びX線エリアセンサ6の距離関係が変動する場合に、画像データの除算処理を検査対象物の画像領域において過不足なく行える。これにより、特に検査対象物100の端部における異物の検出を正確に行えるようになる。
【0050】
また、画像除算演算処理器13が、X線検査画像データから基準良品画像データを各ピクセル毎に除算処理する際に、ダーク画像のBLx,yをIx,y、BIx,y及びCIx,yから減じるので、算出された除算画像から暗電流ノイズが除去されることになる。これにより、微細な異物をより一層正確に検出できるようになる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくともX線エリアセンサ6から出力されたX線検査画像データを記憶するX線検査画像メモリ11と、異物の有無を判定するための基準良品画像データを記憶する基準良品画像メモリ12と、上記X線検査画像データから基準良品画像データを除算処理する画像除算演算処理器13と、画像除算演算処理器13によって算出された異物の背景が除去された画像データに基づいて異物の有無を判定する異物判定処理器14によって構成されていればよい。また、本発明は種々の変形が可能であり、例えば、画像除算演算処理器13が、X線検査画像データから基準良品画像データを除算処理する際に、Ix,y、BIx,y及びCIx,yからBLx,yを減じることなく、除算処理を行なうように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態によるX線異物検査装置の構成を示すブロック図。
【図2】X線検査画像メモリによって記憶されたX線検査画像、基準良品画像メモリに記憶された基準良品画像及び画像除算演算処理器によって算出された異物の画像を示す図。
【図3】異物判定処理器が異物の有無を判定する際に着目する画素とその周辺画素との関係を示す図。
【図4】良品画像メモリによって蓄積されているX線検査画像データが更新される要領を示す図。
【図5】X線検査画像メモリに記憶されているX線検査画像データを回転補正することにより、異物を検出する要領を示す図。
【図6】X線検査画像メモリに記憶されているX線検査画像データを拡大補正することにより、異物を検出する要領を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1 X線異物検査装置
2 X線源
6 X線エリアセンサ(X線撮像手段)
11 X線検査画像メモリ(X線検査画像記憶手段)
12 基準良品画像メモリ(基準良品画像記憶手段)
13 画像除算演算処理器(除算演算手段)
14 異物判定処理器(異物判定手段)
15 良品画像メモリ(良品画像蓄積手段)
16 画像加算平均演算処理器(加算平均演算手段)
100 検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を出射するX線源と、
前記X線源から出射され検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像手段と、
前記X線撮像手段によって出力されたX線検査画像データを記憶するX線画像記憶手段と、
異物の有無を判定するための基準となる基準良品画像データを記憶する基準良品画像記憶手段と、
前記X線画像記憶手段によって記憶された検査対象物のX線検査画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出する除算演算手段と、
前記除算演算手段によって算出された除算画像データに基づいて、検査対象物内の異物の有無を判定する異物判定手段とを備えたことを特徴とするX線異物検査装置。
【請求項2】
前記X線検査画像記憶手段によって記憶されたX線検査画像データのうち、前記異物判定手段によって異物が混入していないと判定された複数の検査対象物のX線検査画像データを蓄積する良品画像蓄積手段と、
前記良品画像蓄積手段によって蓄積されている複数のX線検査画像データを加算平均して良品平均画像データを算出する加算平均演算手段とをさらに備え、
前記基準良品画像記憶手段は、前記加算平均演算手段によって算出された良品平均画像データを基準良品画像データとして記憶することを特徴とする請求項1に記載のX線異物検査装置。
【請求項3】
前記異物判定手段は、前記除算演算手段によって算出された除算画像データにおいて、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、検査対象物内に異物が有ると判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のX線異物検査装置。
【請求項4】
前記良品画像蓄積手段は、所定数のX線検査画像データを蓄積し、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のX線異物検査装置。
【請求項5】
前記基準良品画像記憶手段によって記憶されている基準良品画像データと、X線検査画像記憶手段によって記憶されているX線検査画像データとを比較して、X線検査画像中の検査対象物の大きさを該基準良品画像中の検査対象物の大きさと同一となるように補正された大きさ補正画像データを算出する大きさ補正手段をさらに備え、
前記除算演算手段は、前記大きさ補正手段によって算出された大きさ補正画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のX線異物検査装置。
【請求項6】
前記基準良品画像記憶手段によって記憶されている基準良品画像データと、X線検査画像記憶手段によって記憶されているX線検査画像データ又は前記大きさ補正手段によって算出された大きさ補正画像データとを比較して、X線検査画像中の検査対象物の位置と角度を該基準良品画像中の検査対象物の位置と角度と同一となるように補正された位置角度補正画像データを算出する位置角度補正手段をさらに備え、
前記除算演算手段は、前記位置角度補正手段によって算出された位置角度補正画像データから前記基準良品画像記憶手段によって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、検査対象物内の異物画像データを算出することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のX線異物検査装置。
【請求項7】
検査対象物にX線を照射するX線照射ステップと、
前記X線照ステップにおいて出射され検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像ステップと、
検査対象物を透過した後入射したX線を電荷に変換し、検査対象物のX線検査画像データとして出力するX線撮像ステップと、
前記X線撮像ステップによって出力されたX線検査画像データを記憶するX線検査画像記憶ステップと、
異物の有無を判定するための基準となる基準良品画像データを記憶する基準良品画像記憶ステップと、
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶された検査対象物のX線検査画像データから前記基準良品画像記憶ステップによって記憶された基準良品画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出する除算演算ステップと、
前記除算演算ステップによって算出された除算画像データに基づいて、検査対象物内の異物の有無を判定する異物判定ステップとを有することを特徴とするX線異物検査方法。
【請求項8】
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶されたX線検査画像データのうち、前記異物判定ステップによって異物が混入していないと判定された検査対象物のX線検査画像データを蓄積する良品画像蓄積ステップと、
前記良品画像蓄積ステップによって蓄積されている複数のX線検査画像データを加算平均して良品平均画像データを算出する加算平均演算ステップとをさらに有し、
前記基準良品画像記憶ステップは、前記加算平均演算ステップによって算出された良品平均画像データを基準良品画像データとして記憶することを特徴とする請求項7に記載のX線異物検査方法。
【請求項9】
前記異物判定ステップは、前記除算演算ステップによって算出された除算画像データにおいて、周辺画素との輝度値の差が所定の閾値以上である画素が所定の個数以上連続して存在する場合に、検査対象物内に異物が有ると判定することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のX線異物検査方法。
【請求項10】
前記良品画像蓄積ステップは、所定数のX線検査画像データを蓄積し、X線検査画像データを追加して蓄積する際に、最先のX線検査画像データを消去することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のX線異物検査方法。
【請求項11】
X線を照射しない状態でX線暗画像を撮像し、X線暗画像データとして出力するX線暗画像撮像ステップと、
前記X線暗画像撮像ステップによって出力されたX線暗画像データを記憶するX線暗画像記憶ステップとをさらに有し、
前記除算演算ステップは、
前記X線検査画像記憶ステップによって記憶された検査対象物のX線検査画像データからX線暗画像記憶ステップによって記憶されたX線暗画像データを減じることによって得た第1画像データから、
前記基準良品画像記憶ステップによって記憶された基準良品画像データからX線暗画像記憶ステップによって記憶されたX線暗画像データを減じることによって得た第2画像データを除算処理することにより、除算画像データを算出することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載のX線異物検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−236637(P2009−236637A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82017(P2008−82017)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】