説明

X線発生装置及びX線管の駆動方法

【課題】背景技術よりも小型化が可能なX線発生装置及びX線管の駆動方法を提供する。
【解決手段】レンズ電極とグリッド電極、またはレンズ電極とカソード電極に所定の電圧を供給する各駆動回路でインバータ回路を共用する。レンズ電極にはインバータ回路から出力されたパルス列を全波整流することで得られる直流電圧を供給し、グリッド電極またはカソード電極にはインバータ回路から出力されたパルス列を半波整流することで得られる直流電圧を供給する。そして、X線の発生期間におけるインバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、トランス回路から全波整流回路及び半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧が出力されるようにインバータ回路の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線を発生するX線発生装置及びX線発生装置が備えるX線管の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を発生するX線管には、従来から反射型ターゲットまたは透過型ターゲットを用いた構成が知られている。いずれの構成も電子源から放出された電子をターゲットに衝突させ、その衝突エネルギーによりターゲットからX線を発生させる方式である。発生したX線はX線管に設けられた透過窓を通して外部へ出射される。
【0003】
一般に、X線管は、電子を放出する電子源と、電子源から放出された電子を集束するレンズ電極と、電子が衝突することでX線を発生するターゲットとを備えている。電子源にはフィラメント(直熱型の場合)やカソード電極(傍熱型の場合)等の電子放出源から電子を引き出すグリッド電極を備えている。フィラメント、カソード電極、グリッド電極、レンズ電極、ターゲット等には、外部の駆動回路からそれぞれ所要の電力が供給される。
【0004】
また、例えばターゲットに透過型ターゲットを用いるX線管では、透過型ターゲットに電子が衝突すると、その衝突領域から全方向に向かってX線が放射される。そのため、透過型ターゲットのレンズ電極側には後方遮蔽部材が設けられ、透過型ターゲットの透過窓側には前方遮蔽部材が設けられている。これら後方遮蔽部材及び前方遮蔽部材を設けることで、X線が不要な方向へ放射されるのを抑制している。
【0005】
通常、X線管では、X線の発生時に、電子放出源、グリッド電極、レンズ電極、ターゲット等に対する各電圧の印加順を制御する必要がある。また、X線の停止時に、電子放出源、グリッド電極、レンズ電極、ターゲット等に対する各電圧の印加停止順を制御する必要がある。
【0006】
例えばX線の照射時、予めフィラメントやヒータに所定の電圧を印加して予熱しておき、グリッド電極及びレンズ電極に電子放出源から放出された熱電子をターゲットに到達させないための電圧(第1の電圧)を印加しておく。そして、実際にX線を発生させる際には、最初にターゲットに所定の高電圧を印加する。次にレンズ電極に電子放出源から放出された電子を集束させるための電圧(第2の電圧)を印加し、最後にグリッド電極に電子放出源から電子を引き出すための電圧(第2の電圧)を印加する。なお、フィラメントやヒータに対する予熱は、X線の照射指示の入力(グリッド電極への第2の電圧の印加)と同時にX線を安定して出射するために必要である。
【0007】
一方、X線の停止時は、グリッド電極及びレンズ電極の順に第2の電圧から第1の電圧へ切り替え、続いてターゲットに対する高電圧の印加を停止し、最後にフィラメントやヒータに対する電圧印加を停止する。
【0008】
ここで、例えばターゲットに高電圧が印加されていない状態でグリッド電極に第2の電圧が印加されると、電子放出源から引き出された電子はターゲット以外の部材(レンズ電極、後方遮蔽部材等)に衝突してしまう。そのため、意図しない不要なX線が発生するおそれがある。このとき、レンズ電極に第2の電圧が印加されていれば、電子放出源から引き出された電子が集束するため、後方遮蔽部材に衝突するのを抑制できる。但し、その場合は、電子放出源から引き出された電子の多くがレンズ電極に流れ込むため、レンズ電極やその駆動回路に過電流が流れてしまう。レンズ電極や駆動回路に過電流が流れる状態が長く続くと、レンズ電極や駆動回路が破損するおそれもある。
【0009】
したがって、背景技術のX線発生装置では、X線管のフィラメント(またはヒータ)、グリッド電極、レンズ電極、ターゲットに対する電圧の印加順や停止順を制御できるように各電圧をそれぞれ独立した駆動回路で生成している。
【0010】
なお、X線管の各電極に対する電圧の印加タイミングについては、例えば特許文献1にも記載されている。特許文献1には、電子放出源として用いるフィラメントあるいはカソード電極を加熱するヒータを予熱しておき、その後、グリッド電極に電圧を印加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−299098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように背景技術のX線発生装置では、X線管のフィラメント(またはヒータ)、グリッド電極、レンズ電極、ターゲットに対する電圧の印加順や停止順を制御できるように各電圧をそれぞれ独立した駆動回路で生成している。そのため、X線管の駆動回路の規模が大きくなり、X線発生装置の小型化を阻害する要因となっていた。
【0013】
本発明は上述したような背景技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、背景技術よりも小型化が可能なX線発生装置及びX線管の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明のX線発生装置は、電子源から放出された電子をグリッド電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線発生装置であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記グリッド電極に供給する半波整流回路と、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路部と、
を有する。
【0015】
または、電子源から放出された電子をカソード電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線発生装置であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記カソード電極に供給する半波整流回路と、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ正極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路部と、
を有する。
【0016】
一方、本発明のX線管の駆動方法は、電子源から放出された電子をグリッド電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線管の駆動方法であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記グリッド電極に供給する半波整流回路と、
を備えておき、
制御回路部が、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する方法である。
【0017】
または、電子源から放出された電子をカソード電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線管の駆動方法であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記カソード電極に供給する半波整流回路と、
を備えておき、
制御回路部が、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ正極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する方法である。
【0018】
上記のようなX線発生装置及びX線管の駆動方法では、グリッド電極とレンズ電極、またはカソード電極とレンズ電極に所定の電圧を供給する各駆動回路のインバータ回路を共用できる。そのため、X線管の駆動回路の規模を背景技術よりも小さくできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、背景技術よりもX線発生装置の小型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のX線発生装置を含むX線撮影装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示したX線管の一構成例を示す模式図である。
【図3】第1の実施の形態のX線管の駆動方法の一例を示す波形図である。
【図4】第1の実施の形態のX線発生装置の一構成例を示すブロック図である。
【図5】図4に示したレンズ電極及びグリッド電極駆動部の一構成例を示す回路図である。
【図6】図4に示したレンズ電極及びグリッド電極駆動部の動作波形の一例を示す波形図である。
【図7】第2の実施の形態のX線管の駆動方法の一例を示す波形図である。
【図8】第2の実施の形態のX線発生装置の一構成例を示すブロック図である。
【図9】図8に示したレンズ電極及びカソード電極駆動部の一構成例を示す回路図である。
【図10】図8に示したレンズ電極及びカソード電極駆動部の動作波形の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は本発明のX線発生装置を含むX線撮影装置の一構成例を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、X線撮影装置10は、X線発生装置11、X線検出部12、制御部13及び表示部14を備えている。
【0024】
X線発生装置11は、制御部13の指示にしたがってX線を発生し、被写体(例えば人体)へX線を照射する。X線発生装置11は、X線を発生するX線管20と、X線管20の各電極に所要の電力を供給するX線電源駆動部15とを備えている。X線管20は、例えば電子源から放出された電子を透過型ターゲットに衝突させ、該透過型ターゲットからX線を発生させる電子管である。X線電源駆動部15は、制御部13の指示にしたがってX線管20のフィラメント(またはヒータ)、グリッド電極、レンズ電極、透過型ターゲット等にそれぞれ所要の電力を供給する。
【0025】
X線検出部12は、X線発生装置11から照射され、被写体を透過したX線を検出する。これにより被写体のX線画像を撮影できる。
【0026】
表示部14は、X線検出部12で検出された被写体のX線画像を表示する。
【0027】
制御部13は、X線発生装置11、X線検出部12及び表示部14の動作を制御する。例えば、制御部13は、X線発生装置11とX線検出部12とによる被写体のX線撮影を制御する。また、制御部13は、X線検出部12で検出された被写体のX線撮影画像を表示部14に表示させる。なお、図1に示すX線検出部12や表示部14は、X線撮影装置10内に備える必要はなく、それぞれ独立した装置であってもよい。
【0028】
図1に示す制御部13は、例えば1台または複数台のコンピュータで実現できる。コンピュータは、CPU等の主制御手段とROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶手段とを備えている。コンピュータは、記憶手段に格納されたプログラムにしたがって主制御手段により所定の処理を実行することで上述した制御部13の機能を実現する。コンピュータには、ネットワークカード等の通信手段や、キーボード、ディスプレイ、タッチパネル等の入出力手段等を備えていてもよい。
【0029】
次に、図2を用いて図1に示したX線管20について説明する。
【0030】
図2は図1に示したX線管の一構成例を示す模式図である。
【0031】
図2に示すように、X線管20は、電子源21、レンズ電極27、後方遮蔽部材22、前方遮蔽部材23、透過型ターゲット24及び真空容器29を備えている。X線管20は、上述したように、電子源21から電子を放出し、レンズ電極27により該電子を集束させて透過型ターゲット24に衝突させることでX線を発生させる。
【0032】
真空容器29は、電子源21、レンズ電極27、後方遮蔽部材22、前方遮蔽部材23及び透過型ターゲット24を含むX線管20内部を真空状態で維持する外囲器である。真空容器29は、内部を10-5パスカルオーダーの真空度で維持できればよく、ガラス、金属、セラミックス等で形成される。真空容器29には、X線を透過させる開口であるX線透過窓28が設けられている。X線透過窓28には、例えばアルミニウム、ベリリウム等の軽元素金属、あるいはガラス等のセラミックス材料が用いられる。
【0033】
電子源21は、熱電子を放出する電子放出源であるフィラメント25と、フィラメント25から熱電子を引き出すためのグリッド電極26と、電子源21の電位を規定するカソード電極34とを備えている。フィラメント25とカソード電極34とは絶縁されている。
【0034】
電子放出源には、フィラメント25あるいは含浸型のカソード電極等の熱陰極を用いてもよく、カーボンナノチューブ等の冷陰極を用いてもよい。電子放出源として含浸型のカソード電極を用いる場合は、不図示のヒータに所定の電圧を印加して加熱することでカソード電極から熱電子を放出させればよい。
【0035】
フィラメント25には、配線30を介して所定の電圧が供給されて加熱される。カソード電極34には、配線35を介して電子源21の電位を規定する所定の基準電圧が印加される。グリッド電極26には、配線31を介して電子源21から電子を放出させない電圧である第1の電圧、または電子を放出させるための電圧である第2の電圧が印加される。第1の電圧は電子源21と同電位または電子源21の電位よりも低い電圧(負電圧)であり、第2の電圧は電子源21の電位よりも高い電圧である。本実施形態では、電子源21はカソード電極34と同電位である。
【0036】
レンズ電極27は、電子源21と後方遮蔽部材22間に設けられ、レンズ作用により電子源21から放出された電子を集束して電子線を形成する。レンズ電極27には、配線32を介してレンズ作用を生じさせない電圧である第1の電圧、またはレンズ作用を生じさせる電圧である第2の電圧が印加される。第1の電圧は電子源21と同電位または電子源21の電位よりも低い電圧(負電圧)であり、第2の電圧は電子源21の電位よりも高い電圧である。
【0037】
後方遮蔽部材22は、透過型ターゲット24の電子源21側(後方)に設けられ、電子源21から放出された電子を通過させる開口が設けられている。後方遮蔽部材22は、電子が衝突することで透過型ターゲット24から全方向に放射されるX線のうち、後方へ放射されるX線を遮蔽する。
【0038】
前方遮蔽部材23は、透過型ターゲット24のX線透過窓28側(前方)に設けられ、透過型ターゲット24から発生したX線を通過させる開口が設けられている。前方遮蔽部材23は、電子が衝突することで透過型ターゲット24から全方向に放射されるX線のうち、X線透過窓28以外の前方へ放射させるX線を遮蔽する。
【0039】
透過型ターゲット24は電子が衝突することでX線を発生する。X線の発生時、透過型ターゲット24には、配線33を介して電子源21の電位を基準に所定の高電圧(例えば、100kVの直流電圧)が印加される。透過型ターゲット24には、融点が高く、X線の発生効率がよい材料、例えばタングステン(W)やタンタル(Ta)等の重金属が用いられる。透過型ターゲット24に対する印加電圧は、X線管20の用途や透過型ターゲット24の材料によって異なる。例えば、透過型ターゲット24がタングステンで形成され、医療用に用いられるX線管20では、80〜110kVとなる。
【0040】
次に、図3を用いて第1の実施の形態のX線管20の駆動方法について説明する。
【0041】
図3は、第1の実施の形態のX線管の駆動方法の一例を示す波形図である。
【0042】
図3は、透過型ターゲット24に対する高電圧の印加タイミングと、グリッド電極26及びレンズ電極27に対する第1の電圧及び第2の電圧の印加タイミングとをそれぞれ示している。電子源21からの電子の放出・停止はグリッド電極26に対する印加電圧で制御される。なお、図3の横方向は時間軸を示している。図3に示す透過型ターゲット24、レンズ電極27及びグリッド電極26に対する印加電圧は、図1に示した制御部13の指示にしたがってX線電源駆動部15により制御される。
【0043】
制御部13は、例えばX線撮影装置10の主電源がONされると、X線電源駆動部15によりグリッド電極26に第1の電圧を印加させ、レンズ電極27に第1の電圧を印加させる。また、X線の発生時に電子源21から熱電子が安定して放出されるように、予めフィラメント25に所定の電圧を印加して加熱しておく。フィラメント25に対する加熱開始は透過型ターゲット24に対する高電圧の印加開始よりも前に実施し、フィラメント25に対する加熱の停止は透過型ターゲット24に対する高電圧の印加停止後に実施する。
【0044】
図3に示すように、制御部13は、まず時点T1にて、X線電源駆動部15により透過型ターゲット24に高電圧(所定電圧)を印加させる。透過型ターゲット24に電圧印加を開始してから該印加電圧が所定の高電圧に到達するまでには時間を要する(期間T5)。制御部13は、上記期間T5の情報を予め保持しておき、レンズ電極27やグリッド電極26に対する印加タイミングを決定すればよい。透過型ターゲット24の印加電圧は時点T2で所定の高電圧に到達する。
【0045】
透過型ターゲット24の印加電圧が所定の高電圧に到達すると、制御部13は、X線電源駆動部15により、時点T8にてレンズ電極27に第2の電圧を印加する。次に、時点T10にてグリッド電極26に第2の電圧を印加し、電子源21から電子を放出させてX線管20にX線を発生させる。
【0046】
所要のX線の発生期間(期間T6)が経過すると、制御部13は、X線電源駆動部15により、時点T11にてグリッド電極26の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替え、電子源21からの電子の放出を停止させる。次に、時点T9にてレンズ電極27の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替える。その後、時点T3にて、透過型ターゲット24に対する電圧印加を停止する。このとき、実際に透過型ターゲット24の印加電圧が元の電圧(電子源21の電位)に戻るのは、時点T4となる。
【0047】
ここで、期間T5(T1〜T2)では、透過型ターゲット24に電圧が印加されているが、電子源21から電子が放出されていないため、X線は発生しない。一方、期間T6(T10〜T11)では、透過型ターゲット24に所定の高電圧が印加され、かつレンズ電極27及びグリッド電極26に第2の電圧が印加されているため、X線透過窓28からX線が出射される。この期間T6は、例えば10msec〜1sec程度に設定される。電子源21からの電子の放出は、時点T11で停止するため、時点T3(透過型ターゲット24に対する電圧印加の停止タイミング)は、時点T11以降に設定すればよい。
【0048】
上述したように、時点T1と時点T2間でグリッド電極26に第2の電圧が印加されると、電子源21から放出された電子がレンズ電極27や後方遮蔽部材22等に衝突し、不要なX線が発生してしまう。但し、その場合でもレンズ電極27に第2の電圧が印加されていれば、後方遮蔽部材22には電子がほとんど衝突しないため、不要なX線の発生が抑制される。そのため、真空容器29の外部に不要なX線が漏洩することがない。
【0049】
また、レンズ電極27に印加する第1の電圧が電子源21の電位よりも低く設定されている場合、時点T1と時点T2間でグリッド電極26に第2の電圧が印加されても、電子源21から放出された電子はレンズ電極27によって電子源21側へ戻される。したがって、この場合も不要なX線の発生が抑制される。
【0050】
次に、図4を用いて第1の実施の形態のX線発生装置の構成について説明する。
【0051】
図4は、第1の実施の形態のX線発生装置の一構成例を示すブロック図である。
【0052】
図4に示すように、X線発生装置11は、X線電源駆動部15及びX線管20を有する構成である。
【0053】
X線電源駆動部15は、DC電源部41、制御回路部42、高電圧発生部43、レンズ電極及びグリッド電極駆動部44、並びに電子源フィラメント駆動部45を備えている。
【0054】
DC電源部41は、外部の直流電源または交流電源から電力を受給し、制御回路部42、高電圧発生部43、レンズ電極及びグリッド電極駆動部44、並びに電子源フィラメント駆動部45に所定の直流電圧を供給する。
【0055】
制御回路部42は、制御部13(図1参照)からの指示にしたがって、高電圧発生部43、レンズ電極及びグリッド電極駆動部44、並びに電子源フィラメント駆動部45の動作を制御する。
【0056】
高電圧発生部43は、インバータ回路46、トランス回路47及び昇圧回路48を備え、透過型ターゲット24に供給する、電子源21の電位を基準電位(例えば−50kV)とする直流電圧(約±50kV)を生成する。インバータ回路46は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路46から出力された交流電圧はトランス回路47を介して昇圧回路48に供給される。昇圧回路48は、インバータ回路46から出力された交流電圧を昇圧し、約100kVの直流電圧に変換する。昇圧回路48の出力電圧は透過型ターゲット24とカソード電極34に供給される。
【0057】
レンズ電極及びグリッド電極駆動部44は、インバータ回路49,61と、トランス回路50,62と、全波整流回路51,63と、半波整流回路52とを有する構成である。レンズ電極及びグリッド電極駆動部44は、レンズ電極27及びグリッド電極26に供給する、電子源21の電位を基準電位(例えば−50kV)とする直流電圧(第1の電圧及び第2の電圧)を生成する。インバータ回路49、トランス回路50、全波整流回路51及び半波整流回路52は、レンズ電極27及びグリッド電極26に供給する第2の電圧を生成する。インバータ回路61、トランス回路62及び全波整流回路63は、グリッド電極26に対して第2の電圧を印加していないとき、半波整流回路52の出力電圧を第1の電圧に設定するためのバイアス電圧を生成する。以降、インバータ回路61、トランス回路62及び全波整流回路63は、バイアス回路と称す。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、例えば電子源21と同電位に設定する。
【0058】
インバータ回路49は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧(パルス列)に変換する。インバータ回路49から出力されたパルス列は、該パルス列を入力とし、全波整流回路51と半波整流回路52とに異なる電圧のパルス列が出力可能な、例えば1入力2出力タイプのトランス回路50に入力される。トランス回路50は、レンズ電極27用としてピーク電圧が約2kVのパルス列を出力し、グリッド電極26用としてピーク電圧が約200Vのパルス列を出力する。なお、トランス回路50は、1入力2出力タイプに限定されるものではなく、1入力1出力タイプのトランス回路50を全波整流回路51及び半波整流回路52に対応して2つ備えていてもよい。トランス回路50として、1入力2出力タイプのトランスを備えていれば、レンズ電極及びグリッド電極駆動部44の回路規模をより小さくできる。
【0059】
レンズ電極27用の約2kVのパルス列は、全波整流回路51により約1kVの直流電圧に変換され、第2の電圧としてレンズ電極27に供給される。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、上述したようにカソード電極34と同電位とすればよい。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、例えば上記バイアス回路と同様の回路を設け、該バイアス回路で生成した電圧を全波整流回路51の出力電圧に加算することで負電圧に設定してもよい。
【0060】
グリッド電極26用の約200Vのパルス列は、半波整流回路52により約100Vの直流電圧に変換され、第2の電圧としてグリッド電極26に供給される。グリッド電極26に印加する第1の電圧は、上記バイアス回路により約−70Vの直流電圧を生成し、半波整流回路52の出力電圧に加算することで生成される。
【0061】
上記バイアス回路が備えるインバータ回路61は、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路61から出力された交流電圧はトランス回路62により約140Vの交流電圧に変換される。トランス回路62から出力された交流電圧は、全波整流回路63により約−70Vの直流電圧に変換され、半波整流回路52の出力電圧に加算される。
【0062】
電子源フィラメント駆動部45は、インバータ回路53、トランス回路54及び全波整流回路55を備え、電子源21のフィラメント25に供給する約10Vの直流電圧を生成する。インバータ回路53は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路53から出力された交流電圧はトランス回路54により約20Vの交流電圧に変換される。トランス回路54から出力された交流電圧は、全波整流回路55により約10Vの直流電圧に変換され、電子源21のフィラメント25に供給される。
【0063】
次に、図4に示したレンズ電極及びグリッド電極駆動部44の具体的な構成例について図5を用いて説明する。
【0064】
図5は、図4に示したレンズ電極及びグリッド電極駆動部の一構成例を示す回路図である。
【0065】
図5に示すように、インバータ回路49は、ブリッジ接続されたトランジスタQ1〜Q4を備え、DC電源部41から約100Vの直流電圧が供給される。インバータ回路49は、制御回路部42によりトランジスタQ1及びQ4、またはトランジスタQ2及びQ3が同時にON/OFFするように制御される。また、インバータ回路49は、制御回路部42によりトランジスタQ1及びQ2、並びにトランジスタQ3及びQ4が同時にONしないように制御される。
【0066】
トランジスタQ1及びQ4がONのとき、インバータ回路49からは正極性の電圧(以下、正極電圧と称す)が出力され、トランジスタQ3とQ2がONのとき、インバータ回路49からは負極性の電圧(以下、負極電圧と称す)が出力される。このようにして、インバータ回路49は、DC電源部41から供給される約100Vの直流電圧を、振幅が約100Vの交流電圧(パルス列)に変換する。
【0067】
インバータ回路49から出力されたパルス列は、例えば1入力2出力のトランス回路50によりレンズ電極27用の約2kVのパルス列及びグリッド電極26用の約200Vのパルス列に変換される。
【0068】
全波整流回路51は、整流用ダイオードブリッジ回路56及び平滑用コンデンサ57を備え、トランス回路50から出力された約2kVのパルス列を約1kVの直流電圧に変換する。全波整流回路51の出力電圧は、第2の電圧としてレンズ電極27に供給される。
【0069】
半波整流回路52は、整流用ダイオード58、平滑用コンデンサ59及びコンデンサ放電用抵抗64を備え、トランス回路50から出力された約200Vのパルス列を約100Vの直流電圧に変換する。
【0070】
次に、本実施形態のレンズ電極及びグリッド電極駆動部44の動作について図6を用いて説明する。
【0071】
図6は、図4に示したレンズ電極及びグリッド電極駆動部の動作波形の一例を示す波形図である。
【0072】
図3に示したように、本実施形態では、X線の照射時、先にレンズ電極27に第2の電圧を印加し(T8)、その後、グリッド電極26に第2の電圧を印加する(T10)。また、X線の停止時、先にグリッド電極26に印加する電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替え(T11)、その後、レンズ電極27に印加する電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替える(T9)。
【0073】
図4に示したように、レンズ電極及びグリッド電極駆動部44は、インバータ回路49から出力されたパルス列を全波整流してレンズ電極27に供給し、該パルス列を半波整流してグリッド電極26に供給する。本発明では、この整流方式の違いを利用して上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間を確保する。具体的には、X線の発生期間におけるインバータ回路49の最初の動作時及び最後の動作時、制御回路部42は、トランス回路50から全波整流回路51及び半波整流回路52にそれぞれ負極性の電圧が出力されるように、インバータ回路49の動作を制御する。このようにすると、負極電圧を利用せずに整流する半波整流回路52よりも先に、負極電圧も利用して整流する全波整流回路51から直流電圧(第2の電圧)を出力させることができる。また、負極電圧を利用せずに整流する半波整流回路52よりも後に、負極電圧も利用して整流する全波整流回路51から出力される直流電圧を停止させることができる。すなわち、グリッド電極26よりも先に、レンズ電極27に第2の電圧を印加することが可能であり、グリッド電極26よりも後に、レンズ電極27の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替えることができる。なお、上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間は、全波整流回路51及び半波整流回路52にそれぞれ供給する負極電圧のパルス幅で設定できる。
【0074】
また、本実施形態では、上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間を除くX線の発生期間において、トランス回路50から全波整流回路51及び半波整流回路52にそれぞれ負極電圧よりも正極電圧の期間が長いパルス列が出力されるように、インバータ回路49の動作を制御する。このようにすることで、半波整流回路52から出力される第2の電圧の変動を低減できる。
【0075】
以下では、フィラメント25に所定の電圧が印加され、レンズ電極27及びグリッド電極26に第1の電圧が印加され、透過型ターゲット24に所定の高電圧が印加されている状態からのレンズ電極27及びグリッド電極26の駆動方法について説明する。なお、X線の照射時間は10msとし、制御部13からのX線の照射指示に対して、X線発生装置11は1回だけX線を照射する(単発照射)ものとする。この場合、X線の照射時間は、グリッド電極26にパルス状に印加する第2の電圧のパルス幅によって制御できる。
【0076】
図6に示すように、X線の照射時、制御回路部42は、まずインバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。ここでは、トランジスタQ2及びQ3のON時間Ta1を1msとする。また、全波整流回路51及びレンズ電極27による負荷を考慮して、レンズ電極27に供給する第2の電圧の立ち上がり時間を0.4msと推定し、該第2の電圧が安定するまでに要する時間を0.6msと推定する。
【0077】
期間Ta1では、インバータ回路49から図6のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転させ、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を遮断し、図6のiで示すようにグリッド電極26に対する出力電圧を第1の電圧で維持する。
【0078】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。この段階からグリッド電極26にも第2の電圧が印加される。ここでは、トランジスタQ1及びQ4のON時間Ta2を2.2msとする。また、半波整流回路52及びグリッド電極26による負荷を考慮して、グリッド電極26に供給する第2の電圧の立ち上がり時間を0.2msと推定する。この場合、グリッド電極26に対する第2の電圧の印加時間は2.0msであり、X線の実照射時間は2.05msと推定できる。
【0079】
期間Ta2では、インバータ回路49から図6のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のiで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してグリッド電極26に供給する。
【0080】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。ここでは、トランジスタQ2及びQ3のON時間Tb1を0.2msとする。
【0081】
期間Tb1では、インバータ回路49から図6のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転させ、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を遮断するため、期間Ta2で平滑用コンデンサ59に蓄積された電荷がコンデンサ放電用抵抗64により放電される。したがって、図6のiで示すようにグリッド電極26に対する出力電圧は、期間Tb1内にて第2の電圧からほぼ第1の電圧まで低下する。この平滑用コンデンサ59が放電することによる立下り期間におけるX線の照射時間は0.05msと推定した。
【0082】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。ここでは、期間Ta2と同様に、トランジスタQ1及びQ4のON時間Tb2を2.2msとする。
また、半波整流回路52及びグリッド電極26による負荷を考慮して、グリッド電極26に供給する第2の電圧の立ち上がり時間を0.2msと推定した。この場合、グリッド電極26に対する第2の電圧の印加時間は2.0msであり、X線の実照射時間は2.05msと推定できる。
【0083】
期間Tb2では、期間Ta2と同様に、インバータ回路49から図6のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のiで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してグリッド電極26に供給する。
【0084】
以降、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1〜Q4を上記期間Tb1及び期間Tb2と同様に順次ON/OFFさせ、全波整流回路51によりレンズ電極27に第2の電圧を供給し、半波整流回路52によりグリッド電極26に第2の電圧を供給する。
【0085】
上述したように、本実施形態ではX線の1回の照射時間を10msに設定しており、期間Tb1を0.2msに設定し、期間Tb2を2.0msに設定している。そのため、X線の照射時、グリッド電極26に供給する第2の電圧は、インバータ回路49から出力される5周期のパルス列によって生成される。ここで、インバータ回路49から出力されるパルス列の第1周期〜第4周期の長さはそれぞれ上記期間Tb2及びTb1の長さに等しく、第5周期のみ長さが異なる。
【0086】
第5周期のパルス生成時、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。このときのトランジスタQ1及びQ4のON時間Te1は1.7msとする。また、半波整流回路52及びグリッド電極26による負荷を考慮して、グリッド電極26に供給する第2の電圧の立ち上がり時間を0.2msと推定し、グリッド電極26に対する第2の電圧の印加時間を1.5msとする。これは、インバータ回路49から出力されるパルス列の第1周期〜第4周期におけるX線の実照射時間の総計が8.4msであり、その後の立下り時におけるX線の推定実照射時間が0.05msと推定できるため、期間Te1における実照射時間を1.55msと推定できるからである。
【0087】
期間Te1では、期間Ta2と同様に、インバータ回路49から図6のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図6のiで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してグリッド電極26に供給する。
【0088】
制御回路部42は、X線の照射期間における最後の動作時、インバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。ここでは、直前に終了するグリッド電極26に対する印加電圧の立下り時間を考慮し、電子源21から放出される電子をレンズ電極27で確実に集束できるようにトランジスタQ2及びQ3のON時間Te2を2msとする。
【0089】
期間Te2では、インバータ回路49から図6のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図6のd及びeで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図6のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転させ、図6のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路52は、図6のgで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を遮断するため、図6のiで示すようにグリッド電極26に対する出力電圧は第2の電圧から第1の電圧まで低下する。この平滑用コンデンサ59が放電することによる立下り期間におけるX線の照射時間は0.05msと推定した。
【0090】
最後に、レンズ電極27に対する印加電圧が確実に立下がった時点で、透過型ターゲット24に対する電圧印加を停止し、電子源21のフィラメント25に対する電圧印加を停止してX線の照射動作を終了する。
【0091】
なお、上述したように、インバータ回路49から出力するパレス列のパルス数及びパルス幅は、予め設定したX線の照射時間と、グリッド電極26及びレンズ電極27の負荷特性並びに各整流回路の特性とを考慮して決定すればよい。
【0092】
また、本実施形態では、制御部13からのX線の照射指示に対して1回だけX線を照射する単発照射を例にしてレンズ電極及びグリッド電極駆動部44の動作を説明したが、制御部13からのX線の照射指示に対してX線を連続して照射する連続照射の場合も、上述した単発照射の動作を繰り返すことで実現できる。
【0093】
本実施形態のX線発生装置によれば、インバータ回路49を共用してレンズ電極27及びグリッド電極26に供給する電圧を生成するレンズ電極及びグリッド電極駆動部44を構成することで、X線管20の各電極に対する印加電圧を生成する駆動回路の回路規模を背景技術よりも小さくできる。したがって、背景技術よりもX線発生装置の小型化が可能になる。
【0094】
(第2の実施の形態)
次に本発明のX線発生装置の第2の実施の形態について説明する。
【0095】
第2の実施の形態のX線発生装置は、図2に示したX線管20のグリッド電極26及びカソード電極34に印加する電圧が第1の実施の形態と異なっている。すなわち、第2の実施の形態のX線発生装置では、図2に示したグリッド電極26に代わってカソード電極34にフィラメント25から電子を引き出す機能を持たせる。グリッド電極26には、電子源21の電位を規定する所定の基準電圧(例えば−50kV)が印加される。
【0096】
また、本実施形態のX線発生装置11では、グリッド電極26の電位を基準に、フィラメント25、カソード電極34、レンズ電極27及び透過型ターゲット24にそれぞれ所定の電圧が供給される。
【0097】
カソード電極34には、電子源21から電子を放出させない電圧である第1の電圧、または電子を放出させるための電圧である第2の電圧が印加される。第1の電圧は電子源21と同電位または電子源21の電位よりも高い電圧(正電圧)であり、第2の電圧は電子源21の電位よりも低い電圧である。本実施形態では、電子源21の電位は上述したようにグリッド電極26と同電位である。
【0098】
レンズ電極27には、第1の実施の形態と同様に、レンズ作用を生じさせない電圧である第1の電圧、またはレンズ作用を生じさせる電圧である第2の電圧が印加される。第1の電圧は電子源21と同電位または電子源21の電位よりも低い電圧(負電圧)であり、第2の電圧は電子源21の電位よりも高い電圧である。
【0099】
透過型ターゲット24には、第1の実施の形態と同様に、電子源21の電位を基準に所定の高電圧(例えば、100kVの直流電圧)が印加される。X線管20及びX線撮影装置10の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0100】
まず、図7を用いて第2の実施の形態のX線管の駆動方法について説明する。
【0101】
図7は、第2の実施の形態のX線管の駆動方法の一例を示す波形図である。
【0102】
図7は、透過型ターゲット24に対する高電圧の印加タイミングと、カソード電極34及びレンズ電極27に対する第1の電圧及び第2の電圧の印加タイミングとをそれぞれ示している。電子源21からの電子の放出・停止はカソード電極34に対する印加電圧で制御される。なお、図7の横方向は時間軸を示している。図7に示す透過型ターゲット24、レンズ電極27及びカソード電極34に対する印加電圧は、図1に示した制御部13の指示にしたがってX線電源駆動部15により制御される。
【0103】
制御部13は、例えばX線撮影装置10の主電源がONされると、X線電源駆動部15によりカソード電極34に第1の電圧を印加させ、レンズ電極27に第1の電圧を印加させる。また、X線の発生時に電子源21から熱電子が安定して放出されるように、予めフィラメント25に所定の電圧を印加して加熱しておく。フィラメント25に対する加熱開始は透過型ターゲット24に対する高電圧の印加開始よりも前に実施し、フィラメント25に対する加熱の停止は透過型ターゲット24に対する高電圧の印加停止後に実施する。
【0104】
図7に示すように、制御部13は、まず時点T1にて、X線電源駆動部15により透過型ターゲット24に高電圧(所定電圧)を印加させる。透過型ターゲット24に電圧印加を開始してから該印加電圧が所定の高電圧に到達するまでには時間を要する(期間T5)。制御部13は、上記期間T5の情報を予め保持しておき、レンズ電極27やカソード電極34に対する印加タイミングを決定すればよい。透過型ターゲット24の印加電圧は時点T2で所定の高電圧に到達する。
【0105】
透過型ターゲット24の印加電圧が所定の高電圧に到達すると、制御部13は、X線電源駆動部15により、時点T8にてレンズ電極27に第2の電圧を印加する。次に、時点T10にてカソード電極34に第2の電圧を印加し、電子源21から電子を放出させてX線管20にX線を発生させる。
【0106】
所要のX線の発生期間(期間T6)が経過すると、制御部13は、X線電源駆動部15により、時点T11にてカソード電極34の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替え、電子源21からの電子の放出を停止させる。次に、時点T9にてレンズ電極27の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替える。その後、時点T3にて、透過型ターゲット24に対する電圧印加を停止する。このとき、実際に透過型ターゲット24の印加電圧が元の電圧(電子源21の電位)に戻るのは、時点T4となる。
【0107】
ここで、期間T5(T1〜T2)では、透過型ターゲット24に電圧が印加されているが、電子源21から電子が放出されていないため、X線は発生しない。一方、期間T6(T10〜T11)では、透過型ターゲット24に所定の高電圧が印加され、かつレンズ電極27及びカソード電極34に第2の電圧が印加されているため、X線透過窓28からX線が出射される。この期間T6は、例えば10msec〜1sec程度に設定される。電子源21からの電子の放出は、時点T11で停止するため、時点T3(透過型ターゲット24に対する電圧印加の停止タイミング)は、時点T11以降に設定すればよい。
【0108】
上述したように、時点T1と時点T2間でカソード電極34に第2の電圧が印加されると、電子源21から放出された電子がレンズ電極27や後方遮蔽部材22等に衝突し、不要なX線が発生してしまう。但し、その場合でもレンズ電極27に第2の電圧が印加されていれば、後方遮蔽部材22には電子がほとんど衝突しないため、不要なX線の発生が抑制される。そのため、真空容器29の外部に不要なX線が漏洩することがない。
【0109】
また、レンズ電極27に印加する第1の電圧が電子源21の電位よりも低く設定されている場合、時点T1と時点T2間でカソード電極34に第2の電圧が印加されても、電子源21から放出された電子はレンズ電極27によって電子源21側へ戻される。したがって、この場合も不要なX線の発生が抑制される。
【0110】
次に、図8を用いて第2の実施の形態のX線発生装置の構成について説明する。
【0111】
図8は、第2の実施の形態のX線発生装置の一構成例を示すブロック図である。
【0112】
図8に示すように、X線発生装置11は、X線電源駆動部15及びX線管20を有する構成である。
【0113】
X線電源駆動部15は、DC電源部41、制御回路部42、高電圧発生部43、レンズ電極及びカソード電極駆動部65、並びに電子源フィラメント駆動部45を備えている。
【0114】
DC電源部41は、外部の直流電源または交流電源から電力を受給し、制御回路部42、高電圧発生部43、レンズ電極及びカソード電極駆動部65、並びに電子源フィラメント駆動部45に所定の直流電圧を供給する。
【0115】
制御回路部42は、制御部13(図1参照)からの指示にしたがって、高電圧発生部43、レンズ電極及びカソード電極駆動部65、並びに電子源フィラメント駆動部45の動作を制御する。
【0116】
高電圧発生部43は、インバータ回路46、トランス回路47及び昇圧回路48を備え、透過型ターゲット24に供給する、電子源21の電位を基準電位(例えば−50kV)とする直流電圧(約±50kV)を生成する。インバータ回路46は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路46から出力された交流電圧はトランス回路47を介して昇圧回路48に供給される。昇圧回路48は、インバータ回路46から出力された交流電圧を昇圧し、約100kVの直流電圧に変換する。昇圧回路48の出力電圧は透過型ターゲット24とグリッド電極26に供給される。
【0117】
レンズ電極及びカソード電極駆動部65は、インバータ回路49,61と、トランス回路50,62と、全波整流回路51,63と、半波整流回路66とを有する構成である。レンズ電極及びカソード電極駆動部65は、レンズ電極27及びカソード電極34に供給する、電子源21の電位を基準電位(例えばー50kV)とする直流電圧(第1の電圧及び第2の電圧)を生成する。インバータ回路49、トランス回路50、全波整流回路51及び半波整流回路66は、レンズ電極27及びカソード電極34に供給する第2の電圧を生成する。インバータ回路61、トランス回路62及び全波整流回路63は、カソード電極34に対して第2の電圧を印加していないとき、半波整流回路66の出力電圧を第1の電圧に設定するためのバイアス電圧を生成する。以降、インバータ回路61、トランス回路62及び全波整流回路63は、バイアス回路と称す。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、例えば電子源21と同電位に設定する。
【0118】
インバータ回路49は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧(パルス列)に変換する。インバータ回路49から出力されたパルス列は、該パルス列を入力とし、全波整流回路51と半波整流回路66とに異なる電圧のパルス列が出力可能な、例えば1入力2出力タイプのトランス回路50に入力される。トランス回路50は、レンズ電極27用としてピーク電圧が約2kVのパルス列を出力し、カソード電極34用としてピーク電圧が約200Vのパルス列を出力する。なお、トランス回路50は、1入力2出力タイプに限定されるものではなく、1入力1出力タイプのトランス回路50を全波整流回路51及び半波整流回路66に対応して2つ備えていてもよい。トランス回路50として、1入力2出力タイプのトランスを備えていれば、レンズ電極及びカソード電極駆動部65の回路規模をより小さくできる。
【0119】
レンズ電極27用の約2kVのパルス列は、全波整流回路51により約1kVの直流電圧に変換され、第2の電圧としてレンズ電極27に供給される。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、上述したようにカソード電極34と同電位とすればよい。レンズ電極27に供給する第1の電圧は、例えば上記バイアス回路と同様の回路を設け、該バイアス回路で生成した電圧を全波整流回路51の出力電圧に加算することで負電圧に設定してもよい。
【0120】
カソード電極34用の約200Vのパルス列は、半波整流回路66により約−100Vの直流電圧に変換され、第2の電圧としてカソード電極34に供給される。カソード電極34に印加する第1の電圧は、上記バイアス回路により約70Vの直流電圧を生成し、半波整流回路66の出力電圧に加算することで生成される。
【0121】
上記バイアス回路が備えるインバータ回路61は、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路61から出力された交流電圧はトランス回路62により約140Vの交流電圧に変換される。トランス回路62から出力された交流電圧は、全波整流回路63により約70Vの直流電圧に変換され、半波整流回路66の出力電圧に加算される。
【0122】
電子源フィラメント駆動部45は、インバータ回路53、トランス回路54及び全波整流回路55を備え、電子源21のフィラメント25に供給する約10Vの直流電圧を生成する。インバータ回路53は、制御回路部42の制御により、例えばDC電源部41から供給される直流電圧を、周波数が数k〜数十kHzであり、ピーク電圧が100V程度の交流電圧に変換する。インバータ回路53から出力された交流電圧はトランス回路54により約20Vの交流電圧に変換される。トランス回路54から出力された交流電圧は、全波整流回路55により約10Vの直流電圧に変換され、電子源21のフィラメント25に供給される。
【0123】
次に、図8に示したレンズ電極及びカソード電極駆動部65の具体的な構成例について図9を用いて説明する。
【0124】
図9は、図8に示したレンズ電極及びカソード電極駆動部65の一構成例を示す回路図である。
【0125】
図9に示すように、インバータ回路49は、ブリッジ接続されたトランジスタQ1〜Q4を備え、DC電源部41から約100Vの直流電圧が供給される。インバータ回路49は、制御回路部42によりトランジスタQ1及びQ4、またはトランジスタQ2及びQ3が同時にON/OFFするように制御される。また、インバータ回路49は、制御回路部42によりトランジスタQ1及びQ2、並びにトランジスタQ3及びQ4が同時にONしないように制御される。
【0126】
トランジスタQ1及びQ4がONのとき、インバータ回路49からは正極性の電圧(以下、正極電圧と称す)が出力され、トランジスタQ3とQ2がONのとき、インバータ回路49からは負極性の電圧(以下、負極電圧と称す)が出力される。このようにして、インバータ回路49は、DC電源部41から供給される約100Vの直流電圧を、振幅が約100Vの交流電圧(パルス列)に変換する。
【0127】
インバータ回路49から出力されたパルス列は、例えば1入力2出力のトランス回路50によりレンズ電極27用の約2kVのパルス列及びカソード電極34用の約200Vのパルス列に変換される。
【0128】
全波整流回路51は、整流用ダイオードブリッジ回路56及び平滑用コンデンサ57を備え、トランス回路50から出力された約2kVのパルス列を約1kVの直流電圧に変換する。全波整流回路51の出力電圧は、第2の電圧としてレンズ電極27に供給される。
【0129】
半波整流回路66は、整流用ダイオード58、平滑用コンデンサ59及びコンデンサ放電用抵抗64を備え、トランス回路50から出力された約200Vのパルス列を約−100Vの直流電圧に変換する。
【0130】
次に、本実施形態のレンズ電極及びカソード電極駆動部65の動作について図10を用いて説明する。
【0131】
図10は、図8に示したレンズ電極及びカソード電極駆動部の動作波形の一例を示す波形図である。
【0132】
図7に示したように、本実施形態では、X線の照射時、先にレンズ電極27に第2の電圧を印加し(T8)、その後、カソード電極34に第2の電圧を印加する(T10)。また、X線の停止時、先にカソード電極34に印加する電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替え(T11)、その後、レンズ電極27に印加する電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替える(T9)。
【0133】
図8に示したように、レンズ電極及びカソード電極駆動部65は、インバータ回路49から出力されたパルス列を全波整流してレンズ電極27に供給し、該パルス列を半波整流してカソード電極34に供給する。本発明では、この整流方式の違いを利用して上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間を確保する。具体的には、X線の発生期間におけるインバータ回路49の最初の動作時及び最後の動作時、制御回路部42は、トランス回路50から全波整流回路51及び半波整流回路66にそれぞれ正極性の電圧が出力されるように、インバータ回路49の動作を制御する。このようにすると、正極電圧を利用せずに整流する半波整流回路66よりも先に、正極電圧も利用して整流する全波整流回路51から直流電圧(第2の電圧)を出力させることができる。また、正極電圧を利用せずに整流する半波整流回路66よりも後に、正極電圧も利用して整流する全波整流回路51から出力される直流電圧を停止させることができる。すなわち、カソード電極34よりも先に、レンズ電極27に第2の電圧を印加することが可能であり、カソード電極34よりも後に、レンズ電極27の印加電圧を第2の電圧から第1の電圧に切り替えることができる。なお、上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間は、全波整流回路51及び半波整流回路66にそれぞれ供給する正極電圧のパルス幅で設定できる。
【0134】
また、本実施形態では、上記T8〜T10の期間およびT11〜T9の期間を除くX線の発生期間において、トランス回路50から全波整流回路51及び半波整流回路66にそれぞれ正極電圧よりも負極電圧の期間が長いパルス列が出力されるように、インバータ回路49の動作を制御する。このようにすることで、半波整流回路66から出力される第2の電圧の変動を低減できる。
【0135】
以下では、フィラメント25に所定の電圧が印加され、レンズ電極27及びカソード電極34に第1の電圧が印加され、透過型ターゲット24に所定の高電圧が印加されている状態からのレンズ電極27及びカソード電極34の駆動方法について説明する。なお、X線の照射時間は10msとし、制御部13からのX線の照射指示に対して、X線発生装置11は1回だけX線を照射する(単発照射)ものとする。この場合、X線の照射時間は、カソード電極34にパルス状に印加する第2の電圧のパルス幅によって制御できる。
【0136】
図10に示すように、X線の照射時、制御回路部42は、まずインバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。ここでは、トランジスタQ1及びQ4のON時間Ta1を1msとする。また、全波整流回路51及びレンズ電極27による負荷を考慮して、レンズ電極27に供給する第2の電圧の立上り時間を0.4msと推定し、該第2の電圧が安定するまでに要する時間を0.6msと推定する。
【0137】
期間Ta1では、インバータ回路49から図10のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧を遮断し、図10のnで示すようにカソード電極34に対する出力電圧を第1の電圧で維持する。
【0138】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。この段階からカソード電極34にも第2の電圧が印加される。ここでは、トランジスタQ2及びQ3のON時間Ta2を2.2msとする。また、半波整流回路66及びカソード電極34による負荷を考慮して、カソード電極34に供給する第2の電圧の立下り時間を0.2msと推定する。この場合、カソード電極34に対する第2の電圧の印加時間は2.0msであり、X線の実照射時間は2.05msと推定できる。
【0139】
期間Ta2では、インバータ回路49から図10のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧をそのまま出力し、図10のnで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してカソード電極34に供給する。
【0140】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。ここでは、トランジスタQ1及びQ4のON時間Tb1を0.2msとする。
【0141】
期間Tb1では、インバータ回路49から図10のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧を遮断するため、期間Ta2で平滑用コンデンサ59に蓄積された電荷がコンデンサ放電用抵抗64により放電される。したがって、図10のnで示すようにカソード電極34に対する出力電圧は、期間Tb1内にて第2の電圧からほぼ第1の電圧まで上昇する。この平滑用コンデンサ59が放電することによる立上り期間におけるX線の照射時間は0.05msと推定した。
【0142】
次に、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。ここでは、期間Ta2と同様に、トランジスタQ2及びQ3のON時間Tb2を2.2msとする。
また、半波整流回路66及びカソード電極34による負荷を考慮して、カソード電極34に供給する第2の電圧の立下り時間を0.2msと推定した。この場合、カソード電極34に対する第2の電圧の印加時間は2.0msであり、X線の実照射時間は2.05msと推定できる。
【0143】
期間Tb2では、期間Ta2と同様に、インバータ回路49から図10のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧をそのまま出力し、図10のnで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してカソード電極34に供給する。
【0144】
以降、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ1〜Q4を上記期間Tb1及び期間Tb2と同様に順次ON/OFFさせ、全波整流回路51によりレンズ電極27に第2の電圧を供給し、半波整流回路66によりカソード電極34に第2の電圧を供給する。
【0145】
上述したように、本実施形態ではX線の1回の照射時間を10msに設定しており、期間Tb1を0.2msに設定し、期間Tb2を2.0msに設定している。そのため、X線の照射時、カソード電極34に供給する第2の電圧は、インバータ回路49から出力される5周期のパルス列によって生成される。ここで、インバータ回路49から出力されるパルス列の第1周期〜第4周期の長さはそれぞれ上記期間Tb2及びTb1の長さに等しく、第5周期のみ長さが異なる。
【0146】
第5周期のパルス生成時、制御回路部42は、インバータ回路49のトランジスタQ2及びQ3をONにし、トランジスタQ1及びQ4をOFFにする。このときのトランジスタQ2及びQ3のON時間Te1は1.7msとする。また、半波整流回路66及びカソード電極34による負荷を考慮して、カソード電極34に供給する第2の電圧の立下り時間を0.2msと推定し、カソード電極34に対する第2の電圧の印加時間を1.5msとする。これは、インバータ回路49から出力されるパルス列の第1周期〜第4周期におけるX線の実照射時間の総計が8.4msであり、その後の立上り時におけるX線の推定実照射時間が0.05msと推定できるため、期間Te1における実照射時間を1.55msと推定できるからである。
【0147】
期間Te1では、期間Ta2と同様に、インバータ回路49から図10のcで示すように負極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように負極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を反転出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧をそのまま出力し、図10のnで示すように平滑用コンデンサ59により平滑してカソード電極34に供給する。
【0148】
制御回路部42は、X線の照射期間における最後の動作時、インバータ回路49のトランジスタQ1及びQ4をONにし、トランジスタQ2及びQ3をOFFにする。ここでは、直前に終了するカソード電極34に対する印加電圧の立上り時間を考慮し、電子源21から放出される電子をレンズ電極27で確実に集束できるようにトランジスタQ1及びQ4のON時間Te2を2msとする。
【0149】
期間Te2では、インバータ回路49から図10のcで示すように正極電圧が出力され、トランス回路50から図10のd及びkで示すように正極電圧が出力される。全波整流回路51は、図10のfで示すようにトランス回路50から出力された正極電圧をそのまま出力し、図10のhで示すように平滑用コンデンサ57により平滑してレンズ電極27に供給する。一方、半波整流回路66は、図10のmで示すようにトランス回路50から出力された負極電圧を遮断するため、図10のnで示すようにカソード電極34に対する出力電圧は第2の電圧から第1の電圧まで上昇する。この平滑用コンデンサ59が放電することによる立上り期間におけるX線の照射時間は0.05msと推定した。
【0150】
最後に、レンズ電極27に対する印加電圧が確実に立下がった時点で、透過型ターゲット24に対する電圧印加を停止し、電子源21のフィラメント25に対する電圧印加を停止してX線の照射動作を終了する。
【0151】
なお、上述したように、インバータ回路49から出力するパレス列のパルス数及びパルス幅は、予め設定したX線の照射時間と、カソード電極34及びレンズ電極27の負荷特性並びに各整流回路の特性とを考慮して決定すればよい。
【0152】
また、本実施形態では、制御部13からのX線の照射指示に対して1回だけX線を照射する単発照射を例にしてレンズ電極及びカソード電極駆動部65の動作を説明したが、制御部13からのX線の照射指示に対してX線を連続して照射する連続照射の場合も、上述した単発照射の動作を繰り返すことで実現できる。
【0153】
本実施形態のX線発生装置によれば、インバータ回路49を共用してレンズ電極27及びカソード電極34に供給する電圧を生成するレンズ電極及びカソード電極駆動部65を構成することで、X線管20の各電極に対する印加電圧を生成する駆動回路の回路規模を背景技術よりも小さくできる。したがって、背景技術よりもX線発生装置の小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0154】
10 X線撮影装置
11 X線発生装置
12 X線検出部
13 制御部
14 表示部
15 X線電源駆動部
20 X線管
21 電子源
22 後方遮蔽部材
23 前方遮蔽部材
24 透過型ターゲット
25 フィラメント
26 グリッド電極
27 レンズ電極
28 X線透過窓
29 真空容器
30、31、32、33、35 配線
34 カソード電極
41 DC電源部
42 制御回路部
43 高電圧発生部
44 レンズ電極及びグリッド電極駆動部
45 電子源フィラメント駆動部
46、49、53、61 インバータ回路
47、50、54、62 トランス回路
48 昇圧回路
51、55、63 全波整流回路
52、66 半波整流回路
56 整流用ダイオードブリッジ回路
57、59 平滑用コンデンサ
58 整流用ダイオード
64 コンデンサ放電用抵抗
65 レンズ電極及びカソード電極駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源から放出された電子をグリッド電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線発生装置であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記グリッド電極に供給する半波整流回路と、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路部と、
を有するX線発生装置。
【請求項2】
電子源から放出された電子をカソード電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線発生装置であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記カソード電極に供給する半波整流回路と、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ正極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路部と、
を有するX線発生装置。
【請求項3】
前記制御回路部は、
前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時を除く前記X線の発生期間において、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧よりも正極性の電圧の期間が長いパルス列が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する請求項1記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記制御回路部は、
前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時を除く前記X線の発生期間において、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ正極性の電圧よりも負極性の期間が長いパルス列が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御する請求項2記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記トランス回路は、
前記インバータ回路で生成されたパルス列を入力とし、前記全波整流回路と前記半波整流回路とに異なる電圧のパルス列が出力可能な、1入力2出力タイプである請求項1乃至4のいずれか1項記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記半波整流回路の出力電圧をバイアスするための、所定の直流電圧を生成するバイアス回路をさらに有する請求項1乃至5のいずれか1項記載のX線発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のX線発生装置と、
前記X線発生装置から照射されて被写体を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記X線検出部で検出された被写体のX線画像を表示する表示部と、
前記X線発生装置、前記X線検出部及び前記表示部の動作を制御する制御部と、
を有するX線撮影装置。
【請求項8】
電子源から放出された電子をグリッド電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線管の駆動方法であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記グリッド電極に供給する半波整流回路と、
を備えておき、
制御回路部が、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ負極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御するX線管の駆動方法。
【請求項9】
電子源から放出された電子をカソード電極及びレンズ電極を介してターゲットへ衝突させることで前記ターゲットからX線を発生させるX線管の駆動方法であって、
所定の直流電圧を生成するDC電源部と、
前記DC電源部から出力された直流電圧からパルス列を生成するインバータ回路と、
前記パルス列の電圧を所定の電圧に変換して出力するトランス回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を全波整流して前記レンズ電極に供給する全波整流回路と、
前記トランス回路から出力されたパルス列を半波整流して前記カソード電極に供給する半波整流回路と、
を備えておき、
制御回路部が、
前記X線の発生期間における前記インバータ回路の最初の動作時及び最後の動作時、前記トランス回路から前記全波整流回路及び前記半波整流回路にそれぞれ正極性の電圧が出力されるように、前記インバータ回路の動作を制御するX線管の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−109106(P2012−109106A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256793(P2010−256793)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】