説明

X線発生装置

【課題】不要なエネルギー領域のX線の発生量を抑制するX線発生装置を提供する。
【解決手段】X線発生装置50は、第1の線形加速器54により加速された電子ビームBを出射するビーム出射部52と、電子ビームBの経路上で薄膜ターゲットT1を保持する保持部20と、薄膜ターゲットT1透過後の電子ビームBを減速するための第2の線形加速器56と、減速後の電子ビームBを受け止めるビームダンプ部18とを備え、第2の線形加速器56は、高周波が供給されることによって内部に定在波電場が形成される加速セル15aを備えた加速部15を有し、この加速部15は、定在波電場により荷電粒子を加速したときに当該荷電粒子を外部に出射する開口16を有し、この開口16から加速部15の内部に薄膜ターゲットT1通過後の電子ビームBが入射する位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場プラントや発電所、建造物等の構造物や配管等のX線による非破壊検査に用いられ、加速器により加速された電子ビームをターゲットに照射することによりX線を発生させるX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造物や配管等の非破壊検査としては、検査対象物にX線を透過させ、その透過率等に基づいて内部観察を行う検査が行われていた。このようなX線検査において用いられるX線発生装置としては、特許文献1に記載のX線発生装置が知られている。
【0003】
前記のX線発生装置は、図6に示されるように、電子加速器100と、ターゲットtと、電子加速器100に高周波を供給する高周波源102とを備える。電子加速器100は、例えば、特許文献2に記載の電子銃104と加速管106とによって構成される(図7参照)。この加速管106は、高周波源102から高周波が供給されることによって内部で共振し、定在波電場が形成されるように構成される。ターゲットtは、電子ビームが照射されることによりX線が発生する板状体で、タングステン等の重元素によって構成されている。
【0004】
このような電子加速器100では、電子銃104から出射された電子ビームが加速管106の内部に形成された前記定在波電場によって加速される。そして、この加速された電子ビームbがターゲットtに衝突すると制動放射等によってX線が発生する。このとき電子ビームbは、当該電子ビームbを構成する各電子がターゲットt内に進入し、ターゲットtを構成する電子や原子等との散乱を繰り返しエネルギーが無くなるまで制動放射を繰り返す。このとき、ターゲットtは、電子ビームbを透過させない十分な厚さを有する。
【0005】
このようにして発生させたX線が検査対象物eに照射され、当該検査対象物eを透過したX線が検出器108によって検出されることにより、X線の透過率等が検出され検査対象物eの非破壊検査が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−177841号公報
【特許文献2】特開2000−243599号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の非破壊検査において、検査対象物eが金属で形成された金属部材の場合には、前記のX線発生装置において発生させたX線のうち、金属に対する透過能力の高い高エネルギーのX線が重要となる。即ち、前記のX線発生装置で発生させたX線のうち、前記透過能力の低い低エネルギーのX線は、金属部材の非破壊検査には必要のない不要なX線である。
【0008】
しかし、前記のX線発生装置においては、金属部材の検査に必要なX線(前記高エネルギーのX線)の発生量よりも、不要なX線(前記低エネルギーのX線)の発生量の方が非常に多い。例えば、「検査技術 2008.02」の1〜5頁の「ライナックを使った断熱材下の外面腐食検査」において示されるように、前記のX線発生装置を用いてタングステンで形成されるターゲットtに1.0MeVの電子ビームを照射した場合、発生するX線スペクトルは図8のようになる。
【0009】
尚、前記の例において、金属部材を検査するのに重要な前記高エネルギーのX線とは、薄膜ターゲットに照射された電子ビームの有するエネルギーに近い(0.8〜1.0MeVの)エネルギーのX線であり、前記低エネルギーのX線とは、それ以外(0.8MeV未満)のエネルギーのX線である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、不要なエネルギー領域のX線の発生量を抑制するX線発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解消すべく、前記のX線発生装置において、ターゲットtとして薄膜ターゲットが用いられ、この薄膜ターゲットに照射される電子ビームが当該薄膜ターゲットを透過するように構成される装置が考えられる。
【0012】
このように構成することで、発生したX線のうち、前記高エネルギーのX線の発生量は、電子ビームがターゲットtを透過しない前記のX線発生装置における発生量と変わらず、前記低エネルギーのX線の発生量だけが抑制される。
【0013】
これは、前記電子ビームが、前記薄膜ターゲットを透過する過程において、前記高エネルギーのX線を発生させて自らのエネルギーが低下したあとは、当該薄膜ターゲットを透り抜け、それ以上、薄膜ターゲット内での制動放射や特性X線の放射を行わないからである。
【0014】
具体的には、前記電子ビームを構成する電子は、前記薄膜ターゲットを透り抜ける(透過する)過程において、当該電子の有するエネルギーに近い高エネルギーのX線を制動放射によって発生させる(放出する)。この制動放射により、前記電子はエネルギーの一部を失う。このエネルギーの低下した前記電子は、低下後のエネルギーよりも高いエネルギーのX線を発生させることができない。そのため、このエネルギーの低下した電子がさらに制動放射を行わないようにすることで、前記低エネルギーのX線の発生量が抑制可能となる。
【0015】
しかし、前記の薄膜ターゲットを用いたX線発生装置においては、薄膜ターゲットを透過した前記電子ビームが停止する際にX線が発生する。即ち、前記の薄膜ターゲットを用いたX線発生装置においては、ターゲットが薄く前記電子ビームが透過するため、前記薄膜ターゲット透過後の電子ビームをビームダンプ等に衝突させてその進行を止める必要がある。このとき、前記電子ビームは、前記薄膜ターゲットの透過の際にエネルギーがあまり低下していない、即ち、エネルギーが高いため、ビームダンプ等に衝突して止まる際にX線が発生する。このビームダンプ部等で発生するX線は、検査等に使用することができず、不要なX線である。
【0016】
以上のように、前記の薄膜ターゲットを用いたX線発生装置においては、薄膜ターゲットからは前記低エネルギーのX線の発生は抑制されるが、薄膜ターゲット透過後の電子ビームをビームダンプ等に衝突させて進行を止める際にX線が発生する。即ち、薄膜ターゲットを用いたX線発生装置では、薄膜ターゲットにおける不要なX線の発生が抑制されるが、他の部位で不要なX線が発生してしまう。
【0017】
そのため、薄膜ターゲットを用いることで、当該薄膜ターゲットでのX線の遮蔽の簡素化等を図ることが可能となるが、他の部位(ビームダンプ等)において厳重なX線の遮蔽を行わなければならなくなる。
【0018】
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、以下の構成のX線発生装置を創作することにより上記課題を解消した。
【0019】
本発明に係るX線発生装置は、薄膜ターゲットにパルス状の電子ビームを透過させてX線を発生させるX線発生装置において、高周波によって荷電粒子を加速可能な第1の線形加速器を有し、この第1の線形加速器により加速された前記電子ビームを出射するビーム出射部と、前記電子ビームの経路上に前記薄膜ターゲットを保持する保持部と、前記薄膜ターゲット透過後の前記電子ビームを減速するための第2の線形加速器と、前記第2の線形加速器により減速された前記電子ビームを停止させるビームダンプ部とを備え、前記第2の線形加速器は、高周波が供給されることによって内部に定在波若しくは進行波電場が形成される加速セルを備える加速部を有し、前記加速部は、前記定在波若しくは進行波電場により荷電粒子を加速したときに当該荷電粒子を外部に出射する開口を有し、この開口から前記加速セルの内部に前記薄膜ターゲット通過後の前記電子ビームが入射する位置に配置されることを特徴とする。
【0020】
かかる構成によれば、前記第1の線形加速器により加速されて高エネルギーとなった前記電子ビームが前記薄膜ターゲットを透過するため、不要なエネルギー領域のX線の発生量が抑制される。
【0021】
さらに、前記薄膜ターゲット通過後の電子ビームは、前記第2の線形加速器の加速部の内部に入射することによって減速されてエネルギーが低下する。そのため、前記ビームダンプ部が前記電子ビームを停止させる際にX線が発生しない、若しくは僅かな量しか発生しない。
【0022】
即ち、供給される高周波によって前記加速部の加速セル内部に前記電子ビームの各パルスに対し減速位相となるような定在波若しくは進行波が形成されると、当該加速セル内に入射した前記電子ビームの各パルス(電子)には減速方向の力が加わって減速される。この減速によって各電子は、エネルギーが十分に低下するため、ビームダンプ部において、例えば、カーボン等の軽元素で構成される部材に衝突させられ、X線を発生させることなく、若しくは僅かな量しか発生させずに止められる。
【0023】
その結果、当該装置全体において、前記薄膜ターゲットだけでなく他の部位においても不要なX線の発生が抑制される。
【0024】
このように不要なX線の発生が当該X線発生装置全体において抑制されるため、発生させたX線を用いる検査等においてはノイズが低減し、検査精度が向上する。
【0025】
本発明に係るX線発生装置においては、前記薄膜ターゲット透過後の電子ビームの進行方向を所定の方向に偏向させる磁場を形成する偏向磁場形成手段を備え、前記第2の線形加速器の加速部は、前記偏向磁場形成手段が形成する磁場により偏向された前記電子ビームが前記開口から内部に入射する位置に配置されてもよい。
【0026】
かかる構成によれば、前記加速部の配置位置の自由度が向上し、当該X線発生装置の設計の自由度が向上する。即ち、前記偏向磁場形成手段によって前記電子ビームが所定の方向に偏向されるため、前記ビーム出射部、前記薄膜ターゲット及び前記加速部の配置が一直線上に並ぶような配置に限定されない。
【0027】
また、前記第1の線形加速器と前記第2の線形加速器とが前記加速部を有する共通の線形加速器によって構成され、前記偏向磁場形成手段は、前記加速部の開口から出射された電子ビームが前記薄膜ターゲット通過後に前記開口から入射するような周回経路を通り、この周回経路の長さが、前記定在波若しくは進行波電場が当該電子ビームの各パルスに対して減速位相となったときに前記周回経路を通った前記電子ビームが前記開口から入射する長さとなるように、前記電子ビームの進行方向を偏向させる磁場を形成する周回磁場形成手段であってもよい。
【0028】
かかる構成によれば、前記電子ビームの加速と減速とが共通の線形加速器によって行われるため、前記線形加速器を少なくすることができる。
【0029】
具体的には、前記磁場形成手段が形成する磁場によって規定される前記周回経路を通ることによって、共通の加速部において、加速位相の前記定在波若しくは進行波電場によって加速されて出射された前記電子ビームは、前記薄膜ターゲットを透過した後、当該加速部に入射して減速位相の前記定在波若しくは進行波電場によって減速される。
【0030】
このように1つの線形加速器で、前記電子ビームの加速及び減速が行われるため、当該X線発生装置の小型化や省コスト化が可能となる。
【0031】
また、前記第2の線形加速器は、前記加速部に前記高周波を供給する高周波供給手段を備え、この高周波供給手段は、前記定在波若しくは進行波電場が前記加速部の内部に入射した前記電子ビームの各パルスに対して減速位相となるように前記高周波を供給するよう構成されてもよい。
【0032】
かかる構成によれば、前記加速部の内部に形成される定在波若しくは進行波電場が入射した前記電子ビームの各パルスに対し、より確実に減速位相となるよう前記加速部に対して高周波の供給が可能となる。そのため、より確実に前記電子ビームが減速され、前記ビームダンプ部でのX線の発生がより確実に抑制される。
【0033】
また、前記保持部は、前記電子ビームと直交する保持面を有し、この保持面上に複数の薄膜ターゲットを保持可能なターゲット保持手段と、前記保持面の前記電子ビームに対する姿勢を保ちつつ、この電子ビームと直交する方向に前記保持面を移動させる保持面移動手段とを有する構成であってもよい。
【0034】
かかる構成によれば、電子ビームの経路上に位置する薄膜ターゲットが交換可能になる。例えば、前記保持面上に、それぞれ厚さの異なる複数の薄膜ターゲットが保持された場合、前記保持面移動手段によって前記保持面が移動させられることで、前記電子ビームの経路上に位置していた薄膜ターゲットが厚さの異なる薄膜ターゲットに交換される。
【0035】
また、各薄膜ターゲットが前記保持面上に保持され、この保持面が前記電子ビームに対する姿勢を保ちつつ直交する方向に移動して薄膜ターゲットの交換が行われるため、前記電子ビームに対する各薄膜ターゲットの姿勢も同じにできる。
【0036】
このように薄膜ターゲットが交換可能に構成されることで、照射される前記電子ビームのエネルギーに応じて、適切な厚さの薄膜ターゲットに変更し易くなる。その結果、検査対象物に対して適切なエネルギーのX線を容易に発生させることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
以上より、本発明によれば、不要なエネルギー領域のX線の発生量を抑制するX線発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態に係るX線発生装置の概略構成図である。
【図2】同実施形態に係るX線発生装置のターゲット保持手段の正面図である。
【図3】同実施形態に係るX線発生装置の電子ビームの周回経路を示す図である。
【図4】第2実施形態に係るX線発生装置の概略構成及び電子ビームの経路を示す図である。
【図5】他実施形態に係るX線発生装置の概略構成及び電子ビームの経路を示す図である。
【図6】従来のX線発生装置を含むX線検査装置を示すブロック図である。
【図7】従来の電子加速器の概略構成図である。
【図8】従来のX線発生装置を用いて発生させたX線スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の第1実施形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
【0040】
本発明に係るX線発生装置10は、薄膜ターゲット(以下、単に「ターゲット」とも称する。)T1にパルス状の電子ビームBを透過させてX線を発生させる装置である。具体的には、X線発生装置10は、電子ビームBの出射及び回収を行うビーム出射・回収部12と、ターゲットT1を保持する保持部20と、電子ビームBの進行方向を偏向させる磁場を形成する周回磁場形成手段30とを備える。
【0041】
ターゲットT1は、電子ビームBが照射されることによってX線が発生するものである。このターゲットT1は、タングステンで形成された薄膜であるが、これに限定されず、モリブデン等の重元素の金属で形成された薄膜であればよい。即ち、ターゲットT1は、電子ビームBが照射されることによりX線が発生し易い素材であればよい。尚、ターゲットT1は、電子ビームBが照射されることによって高温となるため、高融点の金属で形成されることが好ましい。
【0042】
ビーム出射・回収部12は、電子ビームBを加速して出射すると共に周回磁場形成手段30が形成する磁場によって戻ってきた前記電子ビームBを減速して停止させる部位である。具体的には、ビーム出射・回収部12は、電子ビームBを出射可能な電子銃13と、電子ビームBの進行方向を偏向する磁場(偏向磁場)を形成する磁場形成手段Mと、電子ビームBの加速及び減速を行う線形加速器14と、線形加速器14に高周波を供給する高周波源17と、電子ビームBを停止させるビームダンプ18とを有している。
【0043】
電子銃13は、熱電子や電界放射電子等をビーム状に収束させて出射するものである。
【0044】
磁場形成手段Mは、一対の偏向マグネットを有し、これら一対の偏向マグネット間に偏向磁場が形成される。具体的に、一対の偏向マグネットは、電子銃13から出射された電子ビームBのビーム軸Cと線形加速器14に入射口nから入射する偏向後の電子ビームのビーム軸(加速部15の開口16から射出される電子ビームBのビーム軸)axとを含む偏向面(図1における紙面)を挟むように互いに間隔をおいて対向するように配置されている。また、磁場形成手段Mによって形成される偏向磁場は、線形加速器14の入射口nからビーム軸axに沿って戻ってきた電子ビームを、その進行方向をビームダンプ18側に偏向する。
【0045】
線形加速器14は、高周波によって電子ビーム(荷電粒子)Bを加速するもので、ライナック(Linac)とも呼ばれる。本実施形態においては、線形加速器14は、電子ビームBの加速だけでなく、出射した電子ビームBが戻ってきたときに当該電子ビームBの減速にも用いられる。具体的には、線形加速器14は、高周波が供給されることによって内部に定在波若しくは進行波電場が形成される加速部15を備える。この線形加速器14は、保持部20及び周回磁場形成手段30と共に真空容器内に配置される。
【0046】
加速部15は、電子ビームBの加速方向に延びる管状体によって構成され、内部には前記電子ビームBの加速方向に沿って並ぶ複数のセル(加速セル)15a,15a,…を備える。各セル15aは、内部に加速空洞sを有し、加速される電子ビームBのビーム軸axに沿って隣り合う加速空洞s同士が連通するように構成されている。本実施形態の加速部15では、高周波が供給されることによりセル15内(加速空洞s内)に定在波電場が形成される。具体的に、各セル15aは、共振器として働く。即ち、加速部15に高周波が供給されることによって各セル15aの加速空洞sで共鳴し、周期的な高電圧(本実施形態では定在波電場)が発生する。この周期的な高電圧によって、加速空洞s内の荷電粒子、即ち、電子ビームBを構成する各電子に加速又は減速方向の力が働く。尚、本実施形態では、加速部15として、高周波を供給されることによって加速空洞s内に定在波電場が形成される共振器(空洞共振器)が用いられるが、これに限定されず、高周波を供給されることにより加速空洞s内に進行波電場が形成される導波管が用いられてもよい。この導波管を用いた加速部は、供給された高周波が電子ビームと共に導波管の中を進行するものであり、円形導波管に絞りを入れると、この絞りの間隔によって導波管の中を通過する高周波(マイクロ波)の位相速度を電子の速度に合わせることができ、これにより電子を電波に同期して加速することができる。
【0047】
また、加速部15は、定在波電場により荷電粒子を加速したときに当該荷電粒子を外部に出射する開口16を有する。
【0048】
尚、本実施形態において、前記開口16は、加速された電子ビームBが加速部15から出射されるだけでなく、ターゲットT1通過後の電子ビームBが加速部15の内部(加速空洞s内)に入射する部位でもある。
【0049】
高周波源17は、線形加速器14の加速部15に高周波(マイクロ波)を供給するためのものである。
【0050】
ビームダンプ18は、線形加速器14により減速された電子ビームBを停止させるためのものである。具体的には、ビームダンプ18は、減速後の電子ビームBをカーボン等の軽元素で構成される部材に衝突させることによって電子ビームBの進行を止める。このように軽元素で構成される部材に電子ビームB(荷電粒子)を衝突させることにより、ビームダンプ18において、電子ビームBの停止時のX線の発生量を減らすことができる。このビームダンプ18は、線形加速器14の入射口nからビーム軸axに沿って戻ってきた電子ビームBが偏向磁場を通過したあとに到達する位置に配置される。詳細には、ビームダンプ18は、電子銃13に対して磁場形成手段M(一対の偏向マグネット)を挟んで反対側の位置において、一対の偏向マグネット間を塞ぐような姿勢で配置される。
【0051】
保持部20は、電子ビームBの経路上でターゲットT1を保持する部位であり、本実施形態においては、ターゲットホルダー(ターゲット保持手段)22と保持面移動手段25とを有する。
【0052】
ターゲットホルダー22は、電子ビームと直交する保持面24を有し、この保持面24上に複数のターゲットT1,T2,…を保持する。具体的には、ターゲットホルダー22は、金属性の円盤であり、複数の開口部26,26,…が周方向に設けられている。これら複数の開口部26,26,…は、前記周方向に沿って等間隔となるように形成されている。この各開口部26には、ターゲットT1,T2,…が保持・固定される。このとき、ターゲットホルダー22の保持面24と各ターゲットT1,T2,…の前面とが面一になるように各ターゲットT1,T2,…がターゲットホルダー22に固定される。
【0053】
例えば、本実施形態においては、第1〜第6のターゲットT1〜T6がターゲットホルダー22に保持される。これら第1〜第6のターゲットT1〜T6は、全てタングステンで形成された薄膜である。このとき、各ターゲットT1〜T6の厚さは、第1のターゲットT1が0.6mm、第2のターゲットT2が、0.5mm、第3のターゲットT3が0.4mm、…のように、開口部26毎に異なる。
【0054】
このように第1〜第6のターゲットT1〜T6を固定可能に構成されるターゲットホルダー22は、当該ホルダー22の中心周りに回転可能に構成される(図2の矢印α参照)。
【0055】
保持面移動手段25は、ターゲットホルダー22の保持面24の電子ビームBに対する姿勢を保ちつつ、この電子ビームBと直交する方向に保持面24が移動するようにターゲットホルダー22を駆動する。具体的には、保持面移動手段25は、電子ビームBに対してターゲットホルダー22の保持面24が直交する状態を保ちつつ、ターゲットホルダー22を前記中心周りに回転駆動する。
【0056】
このように保持部20が構成されることによって、電子ビームBの経路上に位置するターゲットT1〜T6の交換が容易になる。即ち、ターゲットホルダー22に形成された複数の開口部26,26,…に、それぞれ厚さの異なるターゲットT1〜T6が固定され、保持面移動手段25によってターゲットホルダー22が回転駆動されると、例えば、電子ビームBの経路上に位置するターゲットT1が異なる厚さのターゲットT2に交換される。
【0057】
また、電子ビームBに対する姿勢を変えることなくターゲットT1〜T6の交換が可能となる。即ち、各ターゲットT1〜T6が複数の開口部26,26,…に保持された状態で、保持面24が電子ビームBに対する姿勢を保ちつつターゲットホルダー22が回転駆動されるため、前記保持された各ターゲットT1〜T6も姿勢を保ちつつ移動することによって交換が行われる。そのため、電子ビームBに対する各ターゲットT1〜T6の姿勢が同じとなる。
【0058】
周回磁場形成手段30は、加速部15の開口16から出射された電子ビームBがターゲットT1通過後に開口16から入射するような周回経路を通るように電子ビームBの進行方向を偏向させる磁場を形成する偏向磁場形成手段である。また、周回磁場形成手段30によって形成される磁場は、前記周回経路の長さが、加速部15内に形成される前記定在波電場が電子ビームBの各パルスに対して減速位相となったときに周回経路を通った電子ビームBが開口16から入射する長さとなるような磁場である。
【0059】
具体的には、周回磁場形成手段30は、複数の偏向磁場形成手段32a,32b,32c,…によって構成されている。各偏向磁場形成手段32は、一対の磁石で構成され、この一対の磁石が所定間隔をおいて対向するように配置される。そして、全ての偏向磁場形成手段32は、周回経路が位置する共通の平面(図1及び図3においては紙面)を挟むように一方側(前記紙面の前方側)と他方側(前記紙面の後方側)とに磁石が配置される。このように配置されることで、一対の磁石間に形成された磁場(図1及び図3においては、紙面に対して垂直方向の磁場)中を電子ビームBが進み、当該磁場によってその進行方向が偏向される。
【0060】
詳細には、周回磁場形成手段30は、周回経路に沿って配置される第1乃至第4の偏向磁場形成手段32a,32b,32c,32dによって構成される。これら偏向磁場形成手段32は、それぞれ電磁石によって構成されている。また、各偏向磁場形成手段32は、形成した磁場内を通過する電子ビームBのエネルギーに応じて磁場強度を変更可能に構成されている。
【0061】
第1の偏向磁場形成手段32aは、加速部15の開口16近傍に配置され、開口16から出射された電子ビームBをビーム軸axから離れる方向に偏向すると共に、周回経路を通って戻ってきた電子ビームBをビーム軸axと一致するように偏向する磁場形成手段である。第2の偏向磁場形成手段32bは、第1の偏向磁場形成手段32aと保持部20との間に配置され、第1の偏向磁場形成手段32aからの電子ビームBをターゲットT1に向けて偏向する磁場形成手段である。第3の偏向磁場形成手段32cは、保持部20に対し、線形加速器14と反対側に配置され、ターゲットT1透過後の電子ビームBを線形加速器14に向けて進行方向を180°偏向する磁場形成手段である。第4の偏向磁場形成手段32dは、第3の偏向磁場形成手段32cと第1の偏向磁場形成手段32aとの間に配置され、第3の偏向磁場形成手段32cからの電子ビームBをビーム軸axに向けて偏向する磁場偏向手段である。
【0062】
線形加速器14と保持部20との周囲には、それぞれ放射線シールドsdが設けられている。この放射線シールドsdは、鉛板で形成されている。このような放射線シールドsdが設けられることにより、X線検査に用いる必要なX線以外は、外部に漏れない。即ち、線形加速器14における電子ビームB停止時のX線や、ターゲットT1から発生するX線のうち検査対象物と異なる方向に向かうX線等の検査に不要なX線を遮蔽することができる。
【0063】
本実施形態に係るX線発生装置10は、以上の構成からなり、次に、このX線発生装置10の作用について説明する。
【0064】
高周波源17から所定の周波数の高周波が加速部15に供給されると、内部で共振して定在波電場が形成される。このとき、各セル15aでは、内部に周期的な高電圧が発生する。この状態で、電子銃13から磁場形成手段Mの形成する偏向磁場に向けて電子ビームBが出射されると、偏向磁場中で進行方向が偏向され、入射口nから加速部15内に電子ビームBが入射する。加速部15内に入射した電子ビームBは、加速位相の定在波電場によって加速される。
【0065】
詳細には、各セル15a内に発生する高電圧(定在波電場)が電子ビームBに対して加速位相のときに、当該セル15aを通過している電子は加速される。一方、前記高電圧が減速位相のときに、当該セル15aを通過している電子は減速される。このとき、前記加速位相の電圧によって加速された電子は、隣り合うセル15a,15a間に位置し、セル15a内に形成された減速位相の電圧には影響されない。そして、次のセル15a内に進入したときには、当該セル15a内の電圧が加速位相になっている。このように電子ビームBを構成する電子のうち、加速される電子は、各セル15aにおいて次々に加速される。このように周期的に位相が変化する高電圧(定在波電場)によって電子ビームBを構成する電子が加速又は減速されつつ電子ビームB全体としては加速されることにより、電子ビームBは、パルス状となって加速される。尚、内部に進行波電場が形成されるように構成される加速部であっても、進行波電場の加速位相と減速位相とにより、前記同様、電子ビームBがパルス状となって加速される。
【0066】
加速された電子ビームBは、加速部15の開口16から出射される。この電子ビームBは、加速されることによって高エネルギーとなっている。本実施形態においては、加速後の電子ビームBのエネルギーは、1MeVである。
【0067】
この電子ビームBは、第1の偏向磁場形成手段32aと第2の偏向磁場形成手段32bとによってその進行方向が偏向され保持部20へ向かう。このとき、本実施形態においては、保持部20は、電子ビームBの経路上にターゲットT1が位置するように保持している。そして、電子ビームBは、ターゲットT1に衝突して電子エネルギーの一部を制動放射や特性X線として放射しつつターゲットT1を透過する。
【0068】
このとき、線形加速器14により加速されて高エネルギーとなった電子ビームBがターゲットT1を透過するため、不要なエネルギー領域のX線の発生量が抑制される。これは、電子ビームBが、ターゲットT1を透過する過程において、高エネルギーのX線を発生させて自らのエネルギーが低下した後は、当該ターゲットT1を透り抜け、それ以上、ターゲットT1内での制動放射等を行わないからである。
【0069】
具体的には、電子ビームBを構成する電子は、ターゲットT1を透り抜ける(透過する)過程において、当該電子の有するエネルギーに近い高エネルギーのX線を制動放射によって発生させる(放出する)。この制動放射により、電子はエネルギーの一部を失う。
【0070】
このターゲットT1の透過によりエネルギーの低下した電子は、低下後のエネルギーよりも高いエネルギーのX線を発生させることができない。そのため、このエネルギーの低下した電子がさらに制動放射を行わないようにすることで、当該X線発生装置10においては、前記低エネルギーのX線の発生量が抑制可能となる。
【0071】
尚、本実施形態においては、0.6mmの厚さのタングステン膜で構成されるターゲットT1を透過した後の電子ビームBのエネルギーは、0.8MeV程度になっている。このとき、当該X線発生装置10で発生した0.8MeV〜1.0MeVのエネルギーを有するX線の発生量は、電子ビームBが透過できない厚さのターゲットに電子ビームBを衝突させた際に発生する発生量と同量である。
【0072】
このようにして発生させたX線は、非破壊検査の検査対象物に照射され、当該検査対象物を透過した前記X線を検出する。この検出に基づいて、検査対象物のX線透過率等が導出され、内部欠陥等の観察が行われる。
【0073】
一方、ターゲットT1を透過した後の電子ビームBは、第3の偏向磁場形成手段32cによって線形加速器14に向けて進行方向が偏向される。さらに、電子ビームBは、第4の偏向磁場形成手段32dと第1の偏向磁場形成手段32aとによって偏向されることにより、開口16を通って加速部15内に入射する。
【0074】
このとき、周回経路を通って開口16から入射した電子ビームBのパルス長さは、加速部15内に形成されている定在波電場の波長の1/2より短くなっている。これは、電子ビームBが加速される際に、加速位相の定在波電場(セル15a内の前記高電圧)によって加速されるため、当該定在波電場(セル15a内の前記高電圧)の周期と同一周期のパルスとなり、波長の1/2の加速位相でも、場所により加速電圧が異なるためである。従って、開口16から電子ビームBが入射したときに、定在波電場が当該電子ビームBの1つのパルスに対して減速位相になっていれば、前記入射する電子ビームBの全てのパルスに対して定在波電場は、減速位相となる。そのため、周回経路の長さが、定在波電場が当該電子ビームBの一つのパルスに対して減速位相となったときに周回経路を通った電子ビームBの前記パルスが開口16から入射する長さであれば、入射した電子ビームBは、定在波電場によって減速される。尚、内部に進行波電場が形成されるように構成される加速部においても、周回経路の長さが、進行波電場が当該電子ビームBの一つのパルスに対して減速位相となったときに周回経路を通った電子ビームBのパルスが開口16から入射する長さであれば、開口16から入射した電子ビームBは、進行波電場によって、前記同様に減速される。
【0075】
本実施形態においては、周回経路は、前記のような長さであるため、加速部15に入射した電子ビームBは減速され、エネルギーが低下する。
【0076】
このように十分減速され、エネルギーを失った電子ビームBは、入射口nから磁場形成手段Mの形成する偏向磁場に向けて射出され、偏向磁場中を通過する際にビームダンプ18に向けてその進行方向が偏向される。このように減速されエネルギーを失った電子ビームBをビームダンプ18に衝突させ停止させることにより、X線を発生させることなく、若しくは僅かな量しか発生させずに電子ビームBを停止させることができる。
【0077】
以上のようなX線発生装置10によれば、当該装置10全体において、ターゲットT1だけでなく他の部位、例えば、ビームダンプ18等のように電子ビームBの進行を止める部位においても不要なX線の発生が抑制される。このように不要なX線の発生が当該X線発生装置10全体において抑制されるため、当該X線発生装置10によって発生させたX線を用いる検査等においてはノイズが低減し、検査精度が向上する。
【0078】
また、本実施形態においては、1つの線形加速器14(加速部15)によって電子ビームBの加速及び減速が行われるため、当該X線発生装置10の小型化や省コスト化が可能となる。
【0079】
即ち、電子ビームBの加速と減速とが共通の線形加速器14によって行われるため、線形加速器14の数を少なくすることができる。具体的には、周回磁場形成手段30によって規定される周回経路を通ることによって、共通の加速部15において、加速位相の定在波電場(又は進行波電場)によって加速されて出射された電子ビームBは、ターゲットT1を透過後、当該加速部15に入射して減速位相の定在波電場(又は進行波電場)によって減速される。
【0080】
尚、当該X線発生装置10においては、ターゲットT1の交換が可能な保持部20を用いることにより、照射される電子ビームBのエネルギーに応じて、適切な厚さのターゲットT2〜T6に変更し易くなる。その結果、検査対象物に対して適切なエネルギーのX線を容易に発生させることが可能となる。即ち、周回経路が真空容器内に形成されるため、ターゲットT1〜T6も真空容器内に配置されるが、前記のような保持部20を用いることで電子ビームBの強度に対応してターゲットの膜厚変更が容易になる。
【0081】
この場合、電子ビームBのエネルギーが変化するため、周回磁場形成手段30を構成する各偏向磁場形成手段32における磁場強度を調整し、加速部15に戻った電子ビームBが減速されるように周回経路の長さが調整される。
【0082】
次に、本発明の第2実施形態について図4を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0083】
本実施形態に係るX線発生装置50は、電子ビームBの出射行うビーム出射部52と、電子ビームBの回収を行うビーム回収部53と、ターゲットT1〜T6を保持する保持部20と、電子ビームBの進行方向を偏向させる磁場を形成する偏向磁場形成手段32とを備える。
【0084】
ビーム出射部52は、電子銃13と、高周波によって荷電粒子(電子ビームB)を加速可能な第1の線形加速器54と、第1の線形加速器54に高周波を供給する高周波源17とを有する。
【0085】
第1の線形加速器54は、第1実施形態のビーム出射・回収部12の線形加速器14と同様に構成され、加速部15を備える。この加速部15は、高周波源17から高周波(マイクロ波)が供給されることによって内部で共振し、高周波電場(本実施形態では定在波電場)が形成される。
【0086】
尚、本実施形態の第1の線形加速器54では、電子ビームBを加速するために内部に形成される定在波電場を用いているが、これに限定されない。即ち、第1の線形加速器54は、加速部15として共振器(空洞共振器)ではなく導波管を用い、内部に形成される進行波電場に乗った電子が加速されるような構成でもよい。
【0087】
このような線形加速器であっても、出射される電子ビームBは、パルス状の電子ビームとなるため、当該電子ビームBの減速に、第1実施形態同様、線形加速器を用いることが可能となる。
【0088】
偏向磁場形成手段32は、第1実施形態同様、一対の電磁石で構成される。この偏向磁場形成手段32は、電子ビームBの経路を規定するために複数組配置される。これら複数組の偏向磁場形成手段32は、第1の線形加速器54から出射された電子ビームBをターゲットT1まで案内するための磁場を形成する第1の偏向磁場形成手段32a及び第2の偏向磁場形成手段32bと、ターゲットT1透過後の電子ビームBを所定の方向に偏向させる磁場を形成する第5の偏向磁場形成手段32eとである。
【0089】
第5の偏向磁場形成手段32eは、ターゲットT1透過後に当該第5の偏向磁場形成手段32eの形成した磁場に入射した電子ビームの向きを90°偏向することができる。
【0090】
ビーム回収部53は、ターゲットT1通過後の電子ビームBを減速するための第2の線形加速器56と、第2の線形加速器56に高周波(マイクロ波)を供給する高周波源17と、高周波源17から出力される高周波の位相を制御する位相器57と、ビームダンプ18とを有する。本実施形態においては、第1の線形加速器54と第2の線形加速器56とに高周波を供給する高周波源として共通の高周波源17が用いられているが、第1の線形加速器54と第2の線形加速器56とに個別に高周波源が設けられてもよい。
【0091】
第2の線形加速器56は、第1実施形態のビーム出射・回収部12の線形加速器14と同様に構成され、第2の線形加速器56は、加速部15を備える。この加速部15では、高周波源17から位相器57を介して供給される高周波が内部で共振し、定在波電場が形成される。そして、この加速部15は、開口16から当該加速部15の内部にターゲットT1透過後の電子ビームBが入射するような位置に配置される。詳細には、ターゲットT1透過後に第5の偏向磁場形成手段32eによって進行方向を偏向された電子ビームBが開口16から入射するような位置に配置される。尚、本実施形態では、第2の線形加速器56の加速部15として、高周波を供給されることにより内部に定在波電場が形成される共振器が用いられているが、これに限定されず、高周波を供給されることにより内部に進行波電場が形成される導波管が用いられてもよい。
【0092】
位相器57は、高周波源17から第2の線形加速器56の加速部15へ供給される高周波の位相を調整するものであり、制御部57aが接続される。具体的に、位相器57は、制御部57aからの制御信号により、第2の線形加速器56の加速部15内に形成される定在波電場が当該加速部15の内部に入射した電子ビームBの各パルスに対して減速位相となるように高周波源17から加速部15へ供給される高周波の位相を制御する。即ち、制御部57aは、第2の線形加速器56の加速部15内に入射する電子ビームBのパルスを検出し、このパルスに基づいて高周波源17が供給する高周波を制御し、加速部15内に形成される定在波電場の位相を制御する。尚、第2の線形加速器56の加速部15として導波管が用いられる場合には、位相器57によって内部に形成される進行波電場の位相が制御される。
【0093】
以上のように構成されるX線発生装置50では、電子銃13から出射された電子ビームBが第1の線形加速器54によって加速され、パルス状の電子ビームBとなって出射される。この電子ビームBは、第1及び第2の偏向磁場形成手段32a,32bが形成する磁場によって進行方向が偏向され、ターゲットT1に案内される。ターゲットT1に案内された電子ビームBは、ターゲットT1を透過し、その際、X線を発生させる。このX線は、第1実施形態同様、第1の線形加速器54により加速されて高エネルギーとなった電子ビームBがターゲットT1を透過するため、不要なエネルギー領域のX線の発生量が抑制される。
【0094】
ターゲットT1を透過した電子ビームBは、第5の偏向磁場形成手段32eによって進行方向を90°偏向され、第2の線形加速器56に向けて進行する。そして、電子ビームBは、第2の線形加速器56の加速部15の開口16から内部に入射する。
【0095】
このとき、制御部57aによって、第2の線形加速器56の加速部15内に形成されている定在波電場は、入射した電子ビームBの各パルスに対し、減速位相となるように制御されている。そのため、入射した電子ビームBは、定在波電場によって減速される。このように減速され、エネルギーを十分に失った電子ビームBは、ビームダンプ18に入射し停止する。
【0096】
このビームダンプ18においても、電子ビームBが十分に減速されてエネルギーが低下しているため、X線を発生させることなく、若しくは僅かな量しかX線を発生させずに止められる。
【0097】
以上のように、本実施形態に係るX線発生装置50においては、位相器57及び制御部57aによって第2の線形加速器56の加速部15に供給される高周波が制御されることによって、加速部15の内部に形成される定在波電場が入射する電子ビームBの各パルスに対し、より確実に減速位相となるよう、加速部15に対して高周波の供給が可能となる。そのため、より確実に電子ビームBが減速され、ビームダンプ18でのX線の発生がより確実に抑制される。
【0098】
尚、本発明のX線発生装置は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0099】
例えば、上記第1及び第2実施形態においては、ターゲットT1透過前や透過後の電子ビームBの進行方向を偏向するための偏向磁場形成手段32が設けられているが、これら偏向磁場形成手段32がなくてもよい。
【0100】
具体的には、図5に示されるように、電子ビームBを加速するための第1の線形加速器54と電子ビームBを減速するための第2の線形加速器56とが向かい合うように配置されてもよい。即ち、ビーム出射部52(第1の線形加速器54)と、ターゲットT1と、ビーム回収部53(第2の線形加速器56)との配置が一直線上に並ぶような配置であってもよい。このような配置とすることで、第2の線形加速器56における加速部15の配置位置の自由度は少なくなるが、偏向磁場形成手段32が不要になるため、X線発生装置の構成の簡素化が可能となる。
【0101】
この場合、第1の線形加速器54と第2の線形加速器56とを結ぶ線に対し、ターゲットT1が傾斜(図5においては45°)するように配置されるのが好ましい。
【符号の説明】
【0102】
10 X線発生装置
14 線形加速器
15 空洞共振器
16 開口
18 ビームダンプ
20 保持部
50 X線発生装置
52 ビーム出射部
54 第1の線形加速器
56 第2の線形加速器
B 電子ビーム
T1 ターゲット(薄膜ターゲット)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜ターゲットにパルス状の電子ビームを透過させてX線を発生させるX線発生装置において、
高周波によって荷電粒子を加速可能な第1の線形加速器を有し、この第1の線形加速器により加速された前記電子ビームを出射するビーム出射部と、
前記電子ビームの経路上に前記薄膜ターゲットを保持する保持部と、
前記薄膜ターゲット透過後の前記電子ビームを減速するための第2の線形加速器と、
前記第2の線形加速器により減速された前記電子ビームを停止させるビームダンプ部とを備え、
前記第2の線形加速器は、高周波が供給されることによって内部に定在波若しくは進行波電場が形成される加速セルを備える加速部を有し、
前記加速部は、前記定在波若しくは進行波電場により荷電粒子を加速したときに当該荷電粒子を外部に出射する開口を有し、この開口から前記加速セルの内部に前記薄膜ターゲット通過後の前記電子ビームが入射する位置に配置されることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記薄膜ターゲット透過後の電子ビームの進行方向を所定の方向に偏向させる磁場を形成する偏向磁場形成手段を備え、
前記第2の線形加速器の加速部は、前記偏向磁場形成手段が形成する磁場により偏向された前記電子ビームが前記開口から内部に入射する位置に配置されることを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線発生装置において、
前記第1の線形加速器と前記第2の線形加速器とが前記加速部を有する共通の線形加速器によって構成され、
前記偏向磁場形成手段は、前記加速部の開口から出射された電子ビームが前記薄膜ターゲット通過後に前記開口から入射するような周回経路を通り、この周回経路の長さが、前記定在波若しくは進行波電場が当該電子ビームの各パルスに対して減速位相となったときに前記周回経路を通った前記電子ビームが前記開口から入射する長さとなるように、前記電子ビームの進行方向を偏向させる磁場を形成する周回磁場形成手段であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項2に記載のX線発生装置において、
前記第2の線形加速器は、前記加速部に前記高周波を供給する高周波供給手段を備え、この高周波供給手段は、前記定在波若しくは進行波電場が前記加速部の内部に入射した前記電子ビームの各パルスに対して減速位相となるように前記高周波を供給するよう構成されることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のX線発生装置において、
前記保持部は、前記電子ビームと直交する保持面を有し、この保持面上に複数の薄膜ターゲットを保持可能なターゲット保持手段と、
前記保持面の前記電子ビームに対する姿勢を保ちつつ、この電子ビームと直交する方向に前記保持面を移動させる保持面移動手段とを有することを特徴とするX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−165543(P2011−165543A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28590(P2010−28590)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】