説明

X線管装置及びそれを用いたX線CT装置

【課題】 消費電力の低減、検査のスループットの向上、撮影室の空調機の消費電力、騒音の低減が可能なX線管装置及びそれを用いたX線CT装置を提供する。
【解決手段】 陽極9cと、該陽極と対向して配置される陰極9bとを真空外囲器内に収納して成るX線管9aと、冷却用絶縁油9eに満たされた前記X線管を収納する管容器と、前記陽極と陰極間に高電圧を印加するケーブルのブッシングを挿入する陽極用及び陰極用ケーブルレセプタクル9i,9jとを備えたX線管装置9の前記陽極の発生する熱が伝導する所定の部分に前記熱を電力に変換する熱電変換装置9lを設ける。この熱電変換装置で発電した電力を低圧回路端子板9qを介して電力電送線9n,9oにより焦点移動補正装置11及びX線管冷却装置14に給電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,X線管装置に係り、特にX線管装置の陽極の発熱を有効利用するX線管装置及びそれを用いたX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置において、近年、“短時間で広い範囲のスキャンが可能”、“体軸方向に連続したデータが得られ、これによって三次元画像の生成が可能”、さらに、“X線検出器を多列化して一度に多くの断層画像の撮像が可能”等の特徴を有するマルチスライス機能を備えたヘリカルスキャンやスパイラルスキャンと呼ばれるら旋CTが主流となっている。
このら旋CTは、スキャナ回転部にX線線管装置とX線検出器及を搭載し、前記スキャナ回転部を連続回転させると同時に、被検体を載置したテーブルを前記被検体の体軸方向に連続移動させて、前記X線管装置とX線検出器とを前記被検体に対し相対的にら旋運動をさせるものである。
【0003】
このように、ら旋CTは、スキャナ回転部に搭載したX線管装置から連続して長時間X線を曝射しなければならないので、X線管の負荷は増大するために大容量のX線管装置が必要になるが、このX線管装置を大容量化すればX線管の陽極部から発生する熱も増大し、これによってX線源である焦点の移動量が大きくなる。
この焦点移動は、特許文献1に記載されているように、X線管の回転陽極が使用中に熱を蓄積して熱膨張により伸長することに起因するもので、これによって断層画像上にアーチファクトを発生し、X線CT装置の画質向上の妨げとなる。
【0004】
そこで、この問題への対処手段として、X線管装置を回転陽極X線管の管軸方向に移動する機構を付加したものがある。
これは、X線CT装置のX線管装置支持台に、モータ駆動にてX線管装置をX線管軸方向に移動させることができる機構を設け、焦点移動量の計測結果に対応させて、焦点移動の方向とは逆の方向にX線管装置を移動させて、焦点移動量を補正するものである。
上記対処手段の他の例として、焦点移動量の計測結果に対応させて、X線検出器をX線管軸方向に移動するものやX線CT装置に取付けられているコリメータを移動させて上記焦点移動量を補正するものもある。
【0005】
また、非特許文献1に記載されているように、絶縁油で満たされたX線管装置の陽極部から発生する熱による管容器内の温度が上昇して許容温度を超えてしまうと前記絶縁油の絶縁性能が劣化するので、これを防ぐためにラジエータ(放熱器)とポンプで構成される冷却器を用いて強制的に絶縁油を冷却する手段を講じている。
【特許文献1】特開2000-340148号公報
【非特許文献1】医歯薬出版株式会社:医用放射線科学講座13;放射線診断機器工学、第2版、311頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ら旋CTによるX線管装置の大容量化によって、X線管焦点移動補正装置が必要となり、またX線管装置を冷却する冷却器の冷却能力の増大も必要となる。
したがって、前記X線管焦点移動補正装置の電源及び前記冷却器の電源容量の増大によって数百Wの電力が余分に必要となり、X線CT装置全体の電力効率の低下の要因の一つとなっている。
【0007】
また、上記X線管装置の焦点移動補正のためには現在の焦点移動量を把握する必要があるので、そのために被検体が無い状態、あるいは被検体があっても無効曝射のないようにシャッターでしゃへいした状態でX線を曝射(以下、これを予備曝射と呼ぶ)して、X線ビームを検出するX線検出器により前記X線ビームの位置の移動量から焦点移動量を検出している。
このために、上記の予備曝射が必要となるので、これによってX線CT検査のスループットが低下する。
【0008】
さらに、前記X線管装置を冷却する冷却器からの排熱によってX線CT装置内部の温度上昇を招くので、この温度上昇による撮影室を所定温度にするために前記撮影室の空調能力を上げる必要があり、これによって空調機の消費電力及び騒音の増大につながる。
【0009】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであって、消費電力の低減、検査のスループットの向上、撮影室の空調機の消費電力の低減、騒音の低減が可能なX線管装置及びそれを用いたX線CT装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、X線管装置の陽極部で発生する熱を電力に変換し、この電力を有効に利用する考えに基づいて成されたもので、上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)陽極と、該陽極と対向して配置される陰極とを真空外囲器内に収納して成るX線管と、冷却用絶縁油に満たされた前記X線管を収納する管容器と、前記陽極と陰極間に高電圧を印加するケーブルのブッシングを挿入する陽極用及び陰極用ケーブルレセプタクルとを備えたX線管装置の前記陽極の発生する熱が伝導する所定の部分に前記熱を電力に変換する熱電変換手段を備えた。
(2)前記熱電変換手段は、Bi,Te,Sb,及びSe元素のうちの少なくとも一種以上の元素を主成分として含有した材料で形成された熱電材料による熱電変換素子と、この熱電変換素子の一方の面が前記陽極の発生する熱を吸収する吸熱部と、この吸熱部の他方の面に前記吸熱部で吸収した熱を放熱する放熱部とで構成される。
(3)前記管容器と前記X線管の陰極近傍の真空外囲器との間に前記X線管を前記陽極ターゲットの焦点移動方向と逆方向に移動させる圧電素子による圧電手段を設け、この圧電手段に前記熱電変換手段の発電する電力を入力して前記X線管の焦点移動量を補正する。
(4)前記熱電変換手段で発電した電力を前記陽極用及び陰極用ケーブルレセプタクルのいずれか一方を介して外部に電送する電送手段を設けた。
(5)前記絶縁油を冷却する冷却手段をさらに備え、前記電送手段から電送される電力を前記冷却手段の電源とする。
(6)前記冷却手段に、さらに前記熱電変換手段の発電する電力と前記絶縁油に要求される冷却力との相関から前記陽極の発熱量に応じて前記冷却力を制御する制御手段を設けた。
【0011】
上記のように、X線管の陽極から発生する熱を電力に変換する熱電変換手段をX線管装置に設け、該変換された電力を前記X線管装置を用いたX線画像診断装置やX線CT装置を構成する要素(例えば、圧電手段による焦点移動補正や絶縁油冷却手段等の電力)の電力源として利用することにより、システム全体の消費電力はより少ないものとなり効率が向上する。
また、圧電手段をX線管装置の内部に設けることにより、焦点移動量を補正する必要がないX線管装置とすることができる。
さらに、前記陽極の発熱量に応じて前記冷却力を制御する制御手段を設けたので、効率良くX線管を冷却することができる。
特に回転陽極を有するX線管装置においてはその効果が大きい。
【0012】
(7)被検体を配置する開口部を有する回転部材に前記被検体を挟んでX線発生手段とX線検出手段を対向配置し、前記回転部材を前記被検体の周りに回転させて前記X線発生手段から前記被検体にX線を照射し、前記X線検出手段で前記被検体を透過したX線を検出して、この検出信号から前記被検体の断層像を得るX線CT装置であって、前記X線発生手段に上記(3)ないし(6)のいずれかのX線管装置を用いる。
(8)前記電送手段で電送された電力をX線CTシステムの構成要素に用いる。
(9)前記陽極のターゲットから発生するX線の焦点移動量に応じて前記X線管装置を移動させる焦点移動量補正手段を備え、この焦点移動量補正手段の電源を前記電送手段からの電送電力とする。
(10)前記焦点移動量補正手段は圧電素子による補正手段であって、この補正手段を前記回転部材に設けた固定部と前記X線管装置との間に挿入し、前記電送手段からの電送電力を前記補正手段の電源とする。
(11)さらに、前記焦点移動量補正手段に、前記熱電変換手段の発電する電力と前記焦点移動量補正手段に要求される駆動力との相関から前記陽極の発熱量に応じて前記駆動力を制御する制御手段を設けた。
(12)前記X線管装置には、ら旋スキャンに対応可能とするために回転陽極X線管装置を用いる。
【0013】
以上のように構成されたX線CT装置は、熱電変換手段によって変換された電力をX線管の焦点移動補正装置やX線管装置の冷却装置の電力源として利用するので、X線CTシステム全体の消費電力はより少ないものとなり電力利用効率は向上する。
この場合、前記変換によって得られた電力をX線管の焦点移動補正手段やX線管装置の冷却装置の電力源として利用する以外に、X線管装置の陰極フィラメント加熱装置やX線管装置の陽極回転駆動装置等のシステム構成要素の電力源にも利用することにより、さらにX線CT装置の電力利用効率は向上するものとなる。
【0014】
また、前記陽極の発熱量に応じて前記焦点移動量や冷却力を制御する制御手段を設けたので、効率良く焦点移動補正やX線管を冷却することができる。
さらに、前記焦点移動制御手段を設けることによって、焦点移動補正をリアルタイムできめ細かく制御することができるので、従来技術で用いていた現在の焦点移動量を計測する必要がなくなり、そのための予備的なX線曝射も不要となって、X線CT検査のスループットを向上させることができる。
【0015】
さらにまた、前記熱電変換装置手段によってX線管装置の陽極が冷却されるため,X線管冷却装置の冷却能力を縮小することが可能となり、この冷却装置の騒音も低減し、X線CT装置からの排熱も少ないものとなるので、撮影室の空調機の空調能力も少なく済むようになる。
さらにまた、上記X線管装置の内部に圧電手段を備えたX線管装置を用いることによって、X線管装置の外部に焦点移動補正手段を設ける必要がなくなるので、X線CT装置はより簡素で安価なものとなる。
特に、X線管装置に回転陽極X線管装置を用いることによりその効果は大きいものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、X線管装置の陽極で発生する熱を電力に変換する手段を設けたことによって、以下の効果が得られる。
(1)前記変換された電力をX線管の焦点移動量補正装置やX線管の冷却装置等のX線CT装置を構成する要素の電力源として利用することにより、X線CTシステム全体の消費電力はより少ないものとなり電力効率が向上する。
(2)前記焦点移動補正装置に設けた制御手段により、焦点移動補正をリアルタイムできめ細かく制御することができるので、焦点移動量を計測する必要がなくなり,そのための予備的なX線曝射も不要となって、X線CT検査のスループットが向上する。
(3)前記熱電変換装置手段によってX線管装置の陽極が冷却されるため、X線管冷却装置の冷却能力を縮小することが可能となり、この冷却装置の騒音も低減し、X線CT装置からの排熱も少ないものとなるので、撮影室の空調機の空調能力も少なくなり、この結果、撮影室の騒音及び空調機の電源容量の低減を図ることができる。
(4)X線管装置の内部に圧電手段を備え、この圧電手段により焦点移動量補正を行うことによって、X線管装置の外部に焦点移動補正手段を設ける必要がなくなるので、X線CT装置はより簡素で安価なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るX線管装置及びこれを用いたX線CT装置の好ましい実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
X線CT装置は、スキャナガントリィと、被検体を載置するテーブルと、画像処理装置を内蔵した操作卓とで構成される。
前記スキャナガントリィの中心部には、被検体が挿入される開口部が設けられ、該スキャナガントリィの前面には、テーブルが配置されている。
前記テーブルの高さは電動で調節できるように構成され、該テーブルの上面には被検体を載置する天板が設けられ、この天板は被検体を撮影位置に位置決めするために前記スキャナガントリィに対して電動でスライドできるように構成されている。
前記操作卓上には、キーボードやマウス等の入力装置と、患者情報、撮影条件等の各種情報と撮影された断層画像を表示する表示装置としてのモニタが配備され、この操作卓の内部には、画像処理装置やシステム全体を制御する制御装置が収納されて前記スキャナガントリィ、テーブルと接続され、これらのスキャナガントリィ、テーブルは前記制御装置により制御される。
【0018】
図1は、スキャナ回転部に本発明によるX線管装置を用いたX線発生装置とX線検出装置を搭載したX線CT装置のスキャナガントリィの構成を示す図である。
図1において、スキャナガントリィ1は、スキャナ固定部(図示省略)とスキャナ回転部とで構成され、スキャナ回転部には、回転部材2にX線発生装置3とX線検出装置4及びスキャナ回転部内を制御する回転部制御装置5を搭載している。
【0019】
前記X線発生装置3は、開口部8に挿入され撮影位置に載置された被検体(図示省略)に照射するX線発生用X線管装置9と、このX線管装置9からのX線ビームを前記被検体の照射野に制限するコリメータ10と、前記X線管装置9の焦点移動量を補正する焦点移動補正装置11とから成り、X線制御装置12からのX線制御信号に対応した高電圧を高電圧発生装置13で発生し、この高電圧を前記X線管装置9の陽極と陰極間に印加して該X線管装置9から前記X線制御信号に対応したX線を発生する。
なお、前記X線制御装置12には、前記X線管装置9の陰極であるフィラメントを加熱するフィラメント加熱装置が含まれ、前記X線発生装置3には前記X線管装置9の陽極を回転させる陽極駆動装置(図示省略)が含まれている。
また、前記回転部材2にはX線管冷却装置14が搭載されており、これにより前記X線管装置9は冷却されて所定温度以下に抑制される。
【0020】
前記X線検出装置4は、前記被検体を挟んで前記X線発生装置3に対向する位置に配置され、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器15と、このX線検出器15から出力された電気信号を増幅する増幅器16とで構成され、それぞれ前記回転部材2に固着されている。
【0021】
このような構成のスキャナガントリィ1において、X線管の陽極部から発生する熱による焦点移動の補正は、撮影を開始する前に予備曝射を行って前記X線検出器15と別設された焦点移動量検出器でX線ビームの位置の移動量から焦点移動量を求め、この移動量分だけ前記焦点移動とは逆方向に前記X線管装置9を焦点移動補正装置11により移動させて補正する。
【0022】
図2は、上記X線CT装置のX線発生装置3における本発明によるX線管装置9の第1の実施形態の構造図である。
なお、この図2のX線管装置9には該X線管装置を冷却するX線冷却器14も図示されている。
【0023】
前記X線管装置9のX線管9aは、加熱されたフィラメントから熱電子を放出する陰極9bと、電子を受けてX線を発生させる陽極ターゲット9cと、このターゲット9cを回転させる回転陽極9dとを真空外囲器内に収納し、冷却用絶縁油9eに満たされたX線管装置9の管容器の陽極支持体9fと陰極支持体9gにより固定される。
【0024】
X線管装置9の内側のほぼ中央部には、X線濾過性のよいエポキシ樹脂製の放射口9hが取付けられ、両端部には陽極用ケーブルレセプタクル9iと陰極用ケーブルレセプタクル9jが備えられ、ここに高電圧発生装置13から伸びてきたケーブルのブッシングを挿入する。
前記陽極用ケーブルレセプタクル9iと陰極用ケーブルレセプタクル9jからX線管9aの陽極端と陰極端側ガラスバルブのステムにリード線が伸び(図示省略)、高電圧が印加される。
陽極側は1本のケーブルで通電されるが、陰極側はフィラメントや他の共通端子など、複数本のケーブルが互いに絶縁されて用いられる。
陽極を回転駆動する回転陽極用固定子9kには、図示省略の固定子巻線が巻かれており、陽極支持体9fに設けられた低圧回路端子板(図示省略)を介して電力が供給され、前記固定子巻線は接地電位で使用される。
前記絶縁油9eは、上記X線CT装置のような大容量高入力X線管装置の場合、X線管装置9からの放熱だけでは許容温度を超えてしまうので、ラジエータ(放熱器)とポンプで構成されるX線管冷却装置14を用いて強制的に冷却する。
【0025】
このような構成のX線管装置9において、本発明は、X線管9aの陽極ターゲット9cで発生する熱を熱電変換装置9lにより電力に変換し、この変換した電力を、例えば前記焦点移動補正装置11等のX線CT装置の構成要素の電源等に利用するものである。
【0026】
一般に、X線管装置のX線発生効率は非常に低く、99%以上が熱となり、出力100kWのX線管装置では99kWの熱エネルギーが排出される。
この排出される熱エネルギーをBi,Te,Sb,及びSe元素のうちの少なくとも一種以上の元素を主成分として含有した材料で形成された熱電材料による熱電変換素子を用いた熱電変換装置9lを回転陽極9dの端部に設けた支持体9pに固着して、陽極で発生した熱を電力に変換するものである。
【0027】
前記熱電変換装置9lは、図示は省略するが、前記熱電材料による熱電変換素子の一方の面が前記支持体9pの外面に面接して陽極ターゲット9cで発生した熱を吸収する吸熱部と、この吸熱部の他方の面に前記熱電変換素子の他端部が接続されて前記吸熱部で吸収した熱を放熱する放熱部とを備え、前記熱電変換素子により前記吸熱部と放熱部の温度差で起電力を発生させて発電する構成である。
【0028】
この熱電変換装置9lの熱電変換素子の変換効率は数%程度と低いが、上記X線管装置から排出される熱エネルギーを99kWとすると、この熱エネルギーの数%は電力に変換されるので、約数kWの電力を発電することができる。
この発電された数kWの電力は、上記X線CT装置の構成要素の電源等として利用するもので、例えば数十Wの電力が必要な前記焦点移動補正装置11や数百W程度の電力が必要な前記X線管冷却装置14及びその他の装置の電源等として利用する。
【0029】
上記図2の実施形態において、前記熱電変換装置9lで発電した電力は、リード線9mにより低圧回路端子板(陰極用レセプタクルは高圧につき使用不可)9qを介してX線管装置9の外部に取りだされ、それぞれ電送線9n,9oにより焦点移動補正装置11及びX線管冷却装置14に給電する。
【0030】
なお、X線管装置9の内部温度は非常に高いので、上記熱電変換素子の耐熱性についても十分な配慮が必要である。
この点に関して、X線管9aの温度分布は、前記陽極ターゲット9cで最も高く1000℃にも達するが、前記熱電変換装置9lを固定する支持体9pでは150℃程度であるので、前記各熱電材料単体の融点が、Biは271℃,Teは449℃,Sbは630℃,Seは220℃であることから十分な耐熱性を確保できる。
【0031】
また、上記焦点移動補正手段としてX線管装置全体を移動させる例について説明したが、これに限定するものではなく、焦点移動量の計測結果に対応させて、上記焦点移動補正装置11とは別の対処手段であるX線検出器をX線管軸方向に移動する手段やX線CT装置に取付けられているコリメータを移動させる手段を用いた場合でも、これらの手段の駆動電源として利用できる。
【0032】
上記のように構成することによって、前記焦点移動補正装置11の電源(図示省略の駆動モータと制御装置)の電力及びX線管冷却装置11の電源をX線CT装置のスキャナ回転部に設けた外部電源から供給する必要がなくなる。
また、陽極ターゲット9cの発生する熱は、熱電変換装置9lの発電に相当する分だけ該熱電変換装置9lに吸収されて前記X線管装置9の回転陽極9dが冷却されるため,焦点移動量も小さくなる。
したがって、焦点移動補正装置11による焦点移動の補正量も少なくて済むようになり、該焦点移動補正装置11の補正能力を低減することが可能となる。
さらに上記と同様に、熱電変換装置9lによってX線管装置9の回転陽極9dが冷却されるため、X線管冷却器14の冷却能力を低減することが可能となるので,この冷却器14に必要な電力および該冷却器14の騒音,X線CT装置からの排熱も少ないものとなる。
この結果、本発明の第1の実施形態のX線管装置をX線CT装置に適用することによって、該X線CT装置全体の消費電力、コスト及び騒音の低減を図ることが可能となる。
【0033】
図3は、上記X線管装置の熱電変換装置が発電する電力を焦点移動補正装置に利用する本発明の第2の実施形態を示す図である。
上記のように、X線管装置9においては、陽極ターゲット9cの発熱が大きいほど焦点移動量は大きくなるので、焦点移動補正装置11に必要とされる駆動力も大きくなる。
また、前記陽極ターゲット9cの発熱が大きいほど熱電変換装置9lの発電する電力は大きい。
したがって、焦点移動量が大きいほど熱電変換装置9lの発電する電力が大きくなるので、前記熱電変換装置9lの発電する電力を前記焦点移動補正装置11に必要とされる駆動力に対応して制御すれば良い。
【0034】
図3は、この考えに基づいて焦点移動制御部11aを設け、これにより熱電変換装置9lの発電する電力に応じて焦点移動量の補正制御信号を求め、この補正制御信号で焦点移動補正装置11の駆動モータ(図示省略)を制御するものである。
すなわち、焦点移動制御部11aは、熱電変換装置9lの発電する電力と焦点移動補正装置11に必要とされる駆動力との相関を求め,この相関から回転陽極9dの発熱量に対して,必要とされる焦点移動補正装置11の駆動力を制御する。
【0035】
上記熱電変換装置9lの発電する電力と焦点移動補正装置11に必要とされる駆動力との相関は、
(1)回転陽極の発熱量と焦点移動量の関係
(2)熱電変換装置の吸熱部で吸熱する回転陽極の発熱量と前記熱電変換装置の放熱部から放熱する放熱量との関係
(3)前記吸熱部と放熱部との温度差にる起電力と前記焦点移動量の関係
(4)熱電変換装置の起電力と焦点移動補正装置に必要とされる駆動力との関係
から求めることができるので、これを焦点移動制御部11aに備え、これらの関係から熱電変換装置の発電する電力に対応した上記補正制御信号を求め、この信号により焦点移動補正装置の駆動力を制御する。
なお、上記図3の実施形態において、熱電変換装置9lの発電する電力を焦点移動補正装置11及び焦点移動制御部11aに直接給電するように図示したが、これは簡略的に示したもので、実際は図2に示したように低圧回路端子板9qを介して電送線9nにより給電するものである。
【0036】
このように、焦点移動制御部11aを設けることによって、焦点移動補正をリアルタイムできめ細かく制御することができる。
したがって、現在の焦点移動量を計測する必要がなくなり、そのための予備的なX線曝射も不要となるので、X線CT検査のスループットを向上させることができる。
【0037】
図4は、上記X線管装置の熱電変換装置が発電する電力を焦点移動補正に利用する本発明の第3の実施形態を示す図である。
これは、焦点移動補正に圧電素子による焦点移動補正装置17を用いたもので、スキャナ回転部に焦点移動補正装置17を固定する固定部18を設けて、該固定部18とX線管装置9の陰極側近傍との間に焦点移動補正装置17を挿入する。
熱電変換装置9lで発電した電力に応じて焦点移動補正装置17の圧電素子が伸張・収縮して圧力が発生し、焦点移動方向とは逆の方向にX線管装置9を移動させて焦点移動量を補正する。
なお、前記圧電装置17の固定は、X線管装置9の陰極側に相当するスキャナ回転部の固定部18に限定するものではなく、焦点移動を補正できる方向にX線管装置9を移動できる位置に固定するものであればどこの位置に固定しても良い。
このように、焦点移動補正装置に圧電素子を用いることによって、第1の実施形態のモータを用いるものよりも焦点移動補正装置を簡単な機構で構成できる。
【0038】
図5は、上記X線管装置の熱電変換装置が発電する電力を焦点移動補正に利用する本発明の第4の実施形態を示す図である。
これは、圧電素子による圧電装置19をX線管装置9の内部に設けた固定部20に取り付けてX線管装置9内のX線管9aを移動させることによって焦点移動補正を行うもので、X線管装置9の熱電変換装置9lが発電する電力を前記圧電装置19の発生する圧力の電力源とし、これによって生じた圧力でX線管9aそのものを焦点移動とは逆方向に移動させて焦点移動補正を行うものである。
このように構成することによって、上記実施形態1,2,3のようにX線管装置9全体を移動させるのではなく、X線管9aのみを移動させて焦点移動補正を行なうので,X線管装置9の外部に焦点移動補正手段を設ける必要がなくなり、該焦点移動補正手段及びこの手段に要するスペースや配線が不要となるので、スキャナ回転部を軽量、簡素なものとすることができる。
【0039】
図6は、図2の第1の実施形態におけるX線管装置の熱電変換装置が発電する電力をX線管冷却装置14に利用する他の実施態様である本発明の第5の実施形態を示す図である。
上記図2の実施形態に示すように、X線管装置9の熱電変換装置9lが発電する電力をX線管冷却装置14の入力電力とすると、X線管装置9の回転陽極9dの発熱量に応じてX線管冷却装置14から出力する冷却力も可変し、回転陽極9dの発熱量が大きいほどX線管冷却器14の冷却力も大きくなる。
そこで、前記X線管装置9を効率良く冷却するためには、前記熱電変換装置9lの発電する電力を前記X線管冷却装置14に必要とされる冷却力に対応して制御すれば良い。
【0040】
図6に示す本発明の第5の実施形態は、この考えに基づいて冷却制御部14aを設け、これにより熱電変換装置9lの発電する電力に応じてX線管冷却器14の冷却力の補正制御信号を求め、この補正制御信号でラジエータ(放熱器)とポンプで構成(図示省略)されるX線管冷却器の放熱力とポンプ力を制御するものである。
【0041】
すなわち、冷却制御部14aは、熱電変換装置9lの発電する電力とX線管冷却装置14に必要とされる冷却力との相関を求め,この相関から回転陽極9dの発熱量に対して、必要とされるX線管冷却装置14の冷却力を制御する。
【0042】
上記熱電変換装置9lの発電する電力とX線管冷却装置14に必要とされる冷却力との相関は、
(1)X線管装置9の回転陽極9dの発熱量と該回転陽極9dの温度の関係
(2)前記回転陽極9dの温度とX線管冷却器14に必要な冷却力の関係
(3)前記冷却力と熱電変換装置の発電する電力との関係
から求めることができるので、これらの相関を冷却制御部11aに備え、これにより熱電変換装置9lの発電する電力に対応した上記冷却補正制御信号を求め、この制御信号により上記X線管冷却装置14の冷却力を制御する。
このように、冷却制御部11aを設けることによって,よりきめ細かなX線管冷却器14の制御が可能となる。
なお、図6の実施形態において、熱電変換装置9lの発電する電力をX線管冷却装置14及び冷却制御部14aに直接給電するように図示したが、これは簡略的に示したもので、実際は図2に示したように低圧回路端子板9qを介して電送線9oにより給電するものである。
【0043】
本実施形態によれば、X線管冷却器14のための外部電源が不要となり、さらにX線管装置9の回転陽極9dの発熱量に応じて該回転陽極の冷却を自動的に制御することが可能となる。
【0044】
以上の実施形態では、X線管の陽極部で発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換手段を備えたX線管装置と、このX線管装置をX線CT装置に用い、前記変換した電力を前記X線管装置の焦点移動補正装置及びX線管冷却装置の駆動電源や制御電源として利用する形態について説明したが、本発明はこれらに限定するものではなく、X線管のフィラメントを加熱するフィラメント加熱装置や前記X線管の陽極を回転させる陽極回転駆動装置等の前記X線管装置の周辺要素の電源及びこれを用いたX線CT装置やX線診断装置の周辺要素の電源などにも利用して効果が得られるものである。
【0045】
さらに、上記実施形態のX線管装置には陽極を回転させる大容量の回転陽極X線管装置に適用した例について説明したが、固定陽極のX線管装置にも適用することもできる。
さらに、上記実施形態のX線管装置には陽極し陰極の高電圧を印加する中性点接地型に適用した例について説明したが、陰極にのみ高電圧を印加する陽極接地型のX線管装置にも適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】スキャナ回転部に本発明によるX線管装置を用いたX線発生装置とX線検出装置を搭載したX線CT装置のスキャナガントリィの構成を示す図。
【図2】本発明によるX線管装置及びX線冷却装置の第1の実施形態の構成を示す図。
【図3】焦点移動補正装置に焦点移動制御部を設けた本発明の第2の実施形態を示す図。
【図4】焦点移動補正に圧電素子による焦点移動補正装置を用いた本発明の第3の実施形態を示す図。
【図5】X線管装置の内部に圧電素子による圧電装置を設けてX線管を移動させて焦点移動補正を行う本発明の第4の実施形態を示す図。
【図6】X線管冷却装置に冷却制御部を設けた本発明の第5の実施形態を示す図。
【符号の説明】
【0047】
1 スキャナガントリィ、2 回転部材、3 X線発生装置、4 X線検出装置、9 X線管装置,9a X線管、9b 陰極、9c 陽極ターゲット、9d 回転陽極、9e 絶縁油、9f 陽極支持体、9g 陰極支持体、9i 陽極用ケーブルレセプタクル、9j 陰極用ケーブルレセプタクル、9l 熱電変換装置、9m リード線、9n、9o 電力電送線、9p 支持体、9q 低圧回路端子板、10 コリメータ、11 焦点移動補正装置、11a 焦点移動制御部、14 X線管冷却装置、14a 冷却制御部、17 圧電素子による焦点移動補正装置、19 圧電素子による圧電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、該陽極と対向して配置される陰極とを真空外囲器内に収納して成るX線管と、冷却用絶縁油に満たされた前記X線管を収納する管容器と、前記陽極と陰極間に高電圧を印加するケーブルのブッシングを挿入する陽極用及び陰極用ケーブルレセプタクルとを備えたX線管装置であって、前記陽極の発生する熱が伝導する所定の部分に前記熱を電力に変換する熱電変換手段を設けたことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
請求項1において、前記熱電変換手段は、Bi,Te,Sb,及びSe元素のうちの少なくとも一種以上の元素を主成分として含有した材料で形成された熱電材料による熱電変換素子と、この熱電変換素子の一方の面が前記陽極の発生する熱を吸収する吸熱部と、この吸熱部の他方の面に前記吸熱部で吸収した熱を放熱する放熱部とで構成されたことを特徴とするX線管装置。
【請求項3】
請求項1,2において、前記熱電変換手段で発電した電力を前記管容器内に低圧回路端子板を設け、その低圧回路端子板を介して外部に電送する電送手段を設けたことを特徴とするX線管装置。
【請求項4】
被検体を配置する開口部を有する回転部材に前記被検体を挟んでX線発生手段とX線検出手段を対向配置し、前記回転部材を前記被検体の周りに回転させて前記X線発生手段から前記被検体にX線を照射し、前記X線検出手段で前記被検体を透過したX線を検出して、この検出信号から前記被検体の断層像を得るX線CT装置であって、前記X線発生手段は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のX線管装置を備えことを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−344445(P2006−344445A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167867(P2005−167867)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】