説明

X線管装置及びX線管の加熱制御方法

【課題】 撮影ボタンが通常よりも短い間に押された場合でも、フィラメント温度が上がりすぎず、X線管電流が設定値を越えてしまうことによる撮影像のばらつきを防止するX線管装置及びX線管の加熱制御方法を提供する。
【解決手段】 予備加熱後の撮影開始タイミングでプリフラッシュを行うことによって、X線管フィラメントを加熱した後に、本加熱を行うX線管制御装置において、前記予備加熱の期間を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に応じて、前記X線管フィラメントに対して前記プリフラッシュの条件を変更して制御する制御手段とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線診断装置等に装備されるX線管装置及びX線管の加熱制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線管装置では、陰極フィラメントに電流を流して加熱し、それにより放出された熱電子を高電圧により陽極のターゲットに衝突させることによりX線を発生させる。陰極から陽極への電子ビームにより流れる管電流の制御は、陰極フィラメントに流す電流を増減することにより行われるのが一般的である。フィラメント電流を増減させることによりフィラメントの温度が変化して、フィラメントから放出される熱電子の量が変化する。それに応じて管電流も変化する(例えば、特許文献1)。
【0003】
X線管のフィラメント温度を加減するにはフィラメント電流を増減させるが、フィラメントには熱慣性があるので、フィラメント電流の変動に対して温度が追随するのにはある程度(約1秒)の遅延が生じる。撮影ボタンが押された時、管電圧印加とともに、フィラメント電流の供給を開始する。上記熱慣性により、フィラメント温度が設定温度で安定するまでの約1秒程度の期間は、実際の管電流は設定値に達していない。
【0004】
このように、撮影ボタンが押されてから、フィラメント温度が設定温度に達するまでの約1秒程度の期間は、実際の管電流は設定値に達していない。それによりこの期間の透視画像は、濃度不足を起こしており、診断を行う術者にとって最適とはなり得ない。
【0005】
また、透視期間中に自動輝度補正を行う、つまり輝度レベルを安定させるように透視中に管電流をダイナミックに変更する場合にも、実際に管電流が設定値に変化するまでには遅れが生じることになり、被写体厚が急激に変わった場合などには透視像の輝度が安定するまでにある程度の時間を要する。
【0006】
このような、管電流不足を解消する手法として、X線管装置のフィラメントを加熱するプリフラッシュというものがある。これは、X線管のフィラメント温度を短時間で立ち上げるための手法であり、X線管装置の「撮影ボタン」を押してから実際にX線が照射されるまでの時間を短くできるので、撮りたい画像をタイミングよく得ることができる。
【0007】
ここで、前記「撮影ボタン」がいつ押されてもいいように、X線管のフィラメントを、撮影用に常時加熱しておけば、前記プリフラッシュの必要はない。しかし、常時加熱しておくと、X線管のフィラメントの寿命が加熱時間に反比例して短くなるので、このような方法は採用できず、結局プリフラッシュが用いられてきた。
【0008】
【特許文献1】特公昭60−19639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記プリフラッシュは、X線高電圧装置の操作パネルで設定される撮影条件(X線管電圧、X線管電流)によって決められるフィラメントの本加熱量Hに所定の定数Aを乗じて(何割り増しかにして)、所定の時間Tにかける方式が採用される。なお、本加熱量Hは、X線高電圧装置の操作パネルで設定される撮影条件(X線管電圧、X線管電流)によって決定される。
【0010】
しかしながら、前の撮影が終わってからフィラメント温度が十分に下がってないうちに次の撮影を行った場合、すなわち、撮影間隔が短かった場合には、通常と同じようにプリフラッシュを行うと、フィラメントの温度が上がりすぎ、X線管電流が設定値を越えてしまい、結果として撮影像にばらつきが生じることがあった。
【0011】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、撮影ボタンが通常よりも短い間に押された場合でも、フィラメント温度が上がりすぎず、X線管電流が設定値を越えてしまうことによる撮影像のばらつきを防止するX線管装置及びX線管の加熱制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための、請求項1記載の発明に係るX線管装置は、予備加熱後の撮影開始タイミングでプリフラッシュを行うことによって、X線管フィラメントを加熱した後に、前記X線管フィラメントの本加熱を行うX線管装置において、前記予備加熱の期間を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に応じて、前記プリフラッシュの条件を変更して前記X線管フィラメントを制御する制御手段とを設けたことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するための、請求項2記載の発明に係るX線管装置は、請求項1に記載のX線管装置において、前記制御手段は、前記検出手段による検出結果が前回の予備加熱の時間よりも短いときには、前記X線管フィラメントを制御する電力量が前回よりも少なくなるように前記プリフラッシュの条件を設定することを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するための、請求項3記載の発明に係るX線管装置は、請求項1に記載のX線管装置において、前記制御手段は、前記予備加熱の期間と前記プリフラッシュの条件とを関連付けたテーブルを有し、前記検出手段による検出結果を基に前記テーブルを参照して前記検出結果に対応する前記プリフラッシュの条件に変更して前記X線管フィラメントを制御することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するための、請求項4記載の発明に係るX線管装置は、請求項1〜3の何れかに記載のX線管装置において、前記プリフラッシュの条件は、前記プリフラッシュ時における前記フィラメントの電圧、電流、電力及び前記プリフラッシュを行う時間の何れか1つ又は複数の組み合わせであることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するための、請求項5記載の発明に係るX線管装置は、請求項1〜4の何れかに記載のX線管装置において、前記検出手段は、前記予備加熱の期間を計時するタイマーであることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するための、請求項6記載の発明に係るX線管装置は、請求項5に記載のX線管装置において、前記タイマーは、前記撮影開始タイミングの間隔を用いて前記予備加熱の期間を計時することを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するための、請求項7記載の発明に係るX線管の加熱制御方法は、X線管フィラメントに対して予備加熱する予備加熱過程と、撮影開始信号を受けて前記予備加熱過程を終了させ、前記X線管フィラメントを加熱するプリフラッシュ過程と、前記プリフラッシュ過程終了後、前記X線管フィラメントを所定時間本加熱する本加熱過程とを有し、その本加熱過程後、再び予備加熱過程を行うX線管の加熱制御方法であって、前記プリフラッシュ過程は、前回の予備加熱過程を終了させた後、前回の予備加熱過程に要した時間を検出し、その検出した時間に対応するプリフラッシュ条件を制御することによって、前記X線フィラメントを加熱制御することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するための、請求項8記載の発明に係るX線管の加熱制御方法は、請求項7に記載のX線管の加熱制御方法において、前記予備加熱過程に要した時間が前回の予備加熱の時間よりも短いときには、前記X線管フィラメントを制御する電力量が前回よりも少なくなるように前記プリフラッシュの条件を設定することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するための、請求項9記載の発明に係るX線管の加熱制御方法は、請求項7又は8に記載のX線管の加熱制御方法において、前記プリフラッシュの条件は、前記プリフラッシュ過程における前記X線フィラメントの電流、電圧、電力及び前記プリフラッシュを行う時間の何れか1つ又は複数の組み合わせにより制御可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、予備加熱時間(前回の撮影信号オフから撮影信号オンまでの時間)に応じてプリフラッシュ時のフィラメントの電力(電流/電圧)又はそれに要する時間を制御するようにしたので、プリフラッシュ後のフィラメントの温度が上がりすぎるということがなくなる。これは、X線管のフィラメントの温度が本加熱時において常に安定となることに繋がり、結果として安定したX線画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係るX線管装置を好ましい実施形態により説明する。X線管装置は、医用分野、非破壊検査分野等の様々な分野で適用されている。ここでは、医用分野を例に説明する。さらに、X線管装置は、医用分野の中でも、X線診断装置やX線CT等様々な装置に装備される。管電流の制御機会の多いX線診断装置への適用を例に説明する。
【0023】
X線診断装置について簡単に説明すると、X線診断装置では、X線管装置のX線管が、フラットパネル又はイメージインテンシファイアとTVカメラとの組み合わせで構成されたX線検出器に対して被検体を挟んでアーム又はスタンドにより保持されている。X線検出器で検出されたX線信号に基づいて画像データが生成され、表示される。
【0024】
本発明は、本加熱時におけるフィラメント温度のばらつきをなくし、安定したX線像を得る手法として、予備加熱時間の長さに応じて、プリフラッシュの電力量を制御する手法を本発明者が知見により想到したものである。従って、以下、X線管フィラメント制御電流やX線管フィラメントに印加される電圧は、本発明に係るX線管装置において前記電力に相対するものである。
【0025】
図1は本実施形態に係るX線管装置の主要部の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るX線管装置は、グリッド制御X線管10とX線高電圧装置20と制御装置30とから構成される。X線管10は、内部が高真空に保持されているガラスバルブ11を有する。ガラスバルブ11には、一般的には回転式の陽極12と、陰極とが収容される。陰極は、フィラメント13と、図示しない集束電極とから構成される。陰極と陽極11との間には、グリッド14が配置される。
【0026】
X線高電圧装置20は、陽極12と陰極との間に高電圧を印加するための高電圧電源21と、高電圧電源21の出力を制御する高電圧制御回路22と、フィラメント13にフィラメント制御電流を供給するフィラメント加熱電源23と、陰極13に対してグリッド14に負のバイアス電圧(グリッド制御電圧)を印加するグリッド制御用電源24と、フィラメント加熱電源23とグリッド制御用電源24を制御する陰極制御回路25とを有する。
【0027】
制御装置30は、X線制御回路31を有する。X線制御回路31は、管電圧制御信号を高電圧制御回路22に供給する。管電圧制御信号に応じた電圧が陽極12と陰極との間に印加される。X線制御回路31は、フィラメント電流制御信号及びグリッド電圧制御信号を陰極制御回路25に供給する。フィラメント電流制御信号に応じたフィラメント制御電流がフィラメント加熱電源23から発生される。実際にフィラメント13に流れる電流は、管電流が流れていないとき(予備加熱時)、フィラメント制御電流に一致し、また管電流が流れているとき、フィラメント制御電流と管電流との和又は差に一致する。グリッド制御用電源24は、グリッド電圧を、グリッド電圧制御信号に応じた電圧だけ、陰極電位から低下させる。陰極電位に対するグリッド電位を調整することにより、電子の放出を制御することができる。なお、この制御装置30、特にX線制御回路31が本請求項にいう制御手段に相当する。
【0028】
X線制御回路31には、管電圧設定部、管電流操作部、撮影ボタンを有する操作部32が接続される。X線制御回路31は、管電圧設定部を介して設定された管電圧(管電圧設定値)、管電流設定部を介して設定された管電流(管電流設定値)に応じた管電圧制御信号、フィラメント電流制御信号及びグリッド制御信号を撮影ボタン押下時に発生する。
【0029】
このX線制御回路31には、リファレンス記憶部33が設けられている。このリファレンス記憶部33には、予備加熱時間に対応するプリフラッシュ条件、すなわち、予備加熱時間に対応するフィラメント13の電力、又は予備加熱時間に対応するプリフラッシュを行う時間がテーブルの形態で予め記憶されている。このプリフラッシュ条件は、予備加熱時間に対応するフィラメント13の電流、X線管に印加される電圧、それらに依存する電力及びプリフラッシュを行う時間の何れかによる組み合わせでもよい。また、リファレンス記憶部33には、プリフラッシュ条件の他に、予備加熱条件や本加熱条件が予め記憶されている。ここで、予備加熱条件とは、例えば、予備加熱時のフィラメント13の電力量である。本加熱条件とは、例えば、本加熱時のフィラメント13の電力量である。ここで、電力量は、加熱量に比例し、フィラメント13の電圧、電流、電力、又はそれらを印加しているプリフラッシュ時間の何れによっても制御可能である。
【0030】
ここで、リファレンス記憶部33に予め記憶されている前記テーブルの例を図8に示す。図8(a)は、前記予備加熱時間と、それに応じたプリフラッシュを行う時間とを関連付けたテーブル(フィラメント13の電力Hが一定)を示し、図8(b)は、前記予備加熱時間と、それに応じたフィラメント13の電力の比とを関連付けたテーブル(プリフラッシュ時間Tが一定)を示したものである。図8(a),(b)に示すテーブルによれば、設定されるプリフラッシュ時間(T)及びフィラメント13の電力比(プリフラッシュ時におけるフィラメント13の電力Hと本加熱時におけるフィラメント13の電力Hとの比)は、予備加熱時間が短いほど短く、又は少なく設定されている。
【0031】
そして、X線制御回路31は、リファレンス記憶部33に設定されている予備加熱時間と、フィラメント13の電力及びプリフラッシュを行う時間との関係を前記テーブルを参照し、フィラメント電流制御信号及び/又はグリッド制御信号を変化させる。なお、前記フィラメント13の電力は、前記フィラメント制御電流又は電圧であってもよい。
【0032】
図2及び図3は、本実施形態におけるX線管の加熱制御方法として、操作者による撮影ボタンの押下(撮影信号のオン/オフ)と、それに応じてX線制御回路31が制御する、X線管の電力と、フィラメント13の予備加熱、プリフラッシュ過程及び本加熱過程のそれぞれに要する時間とを示す図である。
【0033】
図2及び図3に示すように、本実施形態におけるX線管装置を用いた撮影では、X線管のフィラメントに対して、「予備加熱」過程、「プリフラッシュ」過程及び「本加熱」過程が一連の動作として行われる。なお、本請求項における撮影開始タイミングとは、操作者によって撮影ボタンが押下されたとき(撮影信号オン)のタイミングを指すものである。
【0034】
具体的には、操作部32の撮影ボタンが入力(撮影信号オン)されることによって、予備加熱状態にあったフィラメント13を、前記本加熱条件で予め設定された温度の本加熱状態にスムーズに移行させるためのプリフラッシュ過程が、その直前の予備加熱時間に応じて所定時間T(t〜t)行われ、その後、予め設定されたプリフラッシュ条件及び本加熱条件に基づいて撮影が終了(撮影信号オフ)されるまで(t〜t)、フィラメント13が本加熱される。
【0035】
なお、「プリフラッシュ」過程は、操作部32で設定される撮影条件(X線管に印加される電圧、フィラメント電流)によって決定されるフィラメント13の単位時間あたりの電力Hよりも大の電力Hが所定時間(T)与えられる過程である。
【0036】
以下、本実施形態における「予備加熱」過程、「プリフラッシュ」過程及び「本加熱」過程について図2及び図3を比較しながら説明する。まず、撮影ボタンが押される以前(〜t)において、X線制御回路31によるフィラメント13の電流制御は、リファレンス記憶部33に記録された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、比較的低い予備加熱電流に設定される。このようにしてフィラメント13には予備加熱電流が流れ、フィラメント13は予備的に加熱される。
【0037】
そして、フィラメント13が予備加熱されている状態で、操作者により撮影ボタンが押される(t)と、操作部32からX線制御回路31に透視信号がオフレベルからオンレベルに変位し、本加熱過程が終了する(t)までその状態は継続する。透視信号がオンレベルに維持される期間、透視が行われる。
【0038】
このとき、X線制御回路31は、リファレンス記憶部33に記憶された本加熱条件及びプリフラッシュ条件を参照して、前記予備加熱電流よりも大きな電流(電力)が設定されたプリフラッシュ期間(t〜t)と、プリフラッシュ期間の電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱期間(t〜t)とでフィラメント13を加熱制御する。具体的には、操作者によって撮影ボタンが押下された後は、それまでの予備加熱時間に応じたプリフラッシュ期間の時間をリファレンス記憶部33のテーブル(図8(a)参照)から取得してフィラメント13を加熱制御する。なお、前記プリフラッシュ期間は前記プリフラッシュ過程を示す期間であり、前記本加熱期間とは、本加熱過程を示す期間である。
【0039】
そして、プリフラッシュ期間の時間が経過した(t)ことを契機にX線制御回路31は、リファレンス記憶部33に記憶された本加熱条件を参照して取得した電力及び本加熱時間にしたがい、本加熱終了時(t)までフィラメント13を加熱制御する。
【0040】
その後、図2及び図3に示すように、2回目の撮影指示(t:撮影信号オン)がなされるまでは、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、前記予備加熱条件に基づいた電力量で予備加熱がToff(t〜t)の時間で行われる。
【0041】
ここで、X線制御回路31内には、操作者によって入力された撮影信号を検知するタイマー31aが設けられており、当該タイマー31aが、本加熱過程終了時(t)から、操作者により撮影ボタンが押されたとき(t)までの経過時間、すなわち前記予備加熱時間を計測している。このタイマー31aが本請求項にいう検出手段である。また、このタイマー31aは、撮影ボタンが押されたときの撮影開始タイミングを検出し、その間に経過した時間から、プリフラッシュ過程及び本加熱過程に要した時間を差し引いて予備加熱時間を算出する。
【0042】
従って、図2に示すように、X線制御回路31は、その予備加熱時間(t〜t)に応じて、リファレンス記憶部33に記憶されたテーブル(図8(a)参照)を元に特定されたプリフラッシュ条件として、予備加熱時間Toff(t〜t)経過後のプリフラッシュ過程をフィラメント13に対して所定時間T(t〜t)行う。
【0043】
このようにして特定されたプリフラッシュ時間(T)が経過した後は、プリフラッシュ過程における電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱過程(t〜t)を経て、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、フィラメント13は再び予備加熱される(t〜)。
【0044】
一方、図3に示すように、タイマー31aが計測した予備加熱時間Toff(t〜t)が、図2に示した予備加熱時間Toff(t〜t)よりも短かった場合には、X線制御回路31は、その時間(t〜t)に応じて、リファレンス記憶部33に設定されたテーブル(図8(a)参照)を元に特定されたプリフラッシュ時間T(t〜t)で、予備加熱時間Toff(t〜t)経過後にプリフラッシュ過程をフィラメント13に対して行う。ここで、図2及び図3からも明確なように、予備加熱期間Toffが短い場合にはそれに比例してプリフラッシュ時間Tもプリフレッシュ時間T(予備加熱時間が十分長い場合のプレフラッシュ時間)より短く設定される。
【0045】
このようにして特定されたプリフラッシュ時間(T)が経過した後は、プリフラッシュ過程における電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱過程(t〜t)を経て、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、フィラメント13は再び予備加熱される(t〜)。
【0046】
図5は、本発明に係るX線管装置の一実施形態において、「予備加熱」過程〜「プリフラッシュ」過程〜「本加熱」過程の各過程(期間)におけるフィラメント温度を示す図であり、図4は、図5の比較例として、2度の撮影(撮影信号オン〜撮影信号オフ)のうち、どちらの「プリフラッシュ」時間(T)も同じ時間にした場合の各期間におけるフィラメント温度を示す図である。図4及び図5共に、フィラメント13の温度を破線で示した。
【0047】
本発明を示す図5に示されるように、予備加熱に要する時間に応じて2度目の撮影時のプリフラッシュ時間(T)を、1度目の撮影時のプリフラッシュ時間(T)よりも短く設定することにより、フィラメント温度が、図4に示すように上がりすぎることがなくなるだけでなく、2度目の撮影時の本加熱過程(t〜t)では、フィラメント13の温度が平坦な推移で確認できる。
【0048】
これは、撮影(照射)毎のX線管の管電流のばらつきが改善されたことを示しており、また、操作者の撮影ボタンを操作する間隔(撮影信号オン〜撮影信号オフ)を短くする余地ができ、検査自体を短時間で行うことができる。
【0049】
従って、本発明によれば、予備加熱時間(前回の撮影信号オフから撮影信号オンまでの時間)に応じてプリフラッシュを行う時間を制御するようにしたので、プリフラッシュ過程後のフィラメント13の温度が上がりすぎるということがなくなる。これは、X線管のフィラメント13の温度が本加熱過程において常に安定となることに繋がり、結果として安定したX線画像を得ることができる。
【0050】
(他の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について図面を参照して以下に説明する。図6及び図7は、本実施形態におけるX線管の加熱制御方法として、操作者による撮影ボタンの押下(撮影信号のオン/オフ)と、それに応じてX線制御回路31が制御する、X線管の電力と、フィラメントの予備加熱過程、プリフラッシュ過程及び本加熱過程のそれぞれに要する時間とを示す図である。
【0051】
図6及び図7に示すように、本実施形態におけるX線管装置を用いた撮影でも、X線管のフィラメント13に対して、「予備加熱」過程、「プリフラッシュ」過程及び「本加熱」過程が一連の動作として行われる。
【0052】
具体的には、操作部32の撮影ボタンが入力(撮影信号オン)されることによって、予備加熱状態にあったフィラメント13を、予め設定された温度の本加熱状態にスムーズに移行させるためのプリフラッシュ過程が直前の予備加熱時間に応じて所定時間T(t〜t)行われ、その後、予め設定されたプリフラッシュ条件及び本加熱条件に基づいて撮影が終了(撮影信号オフ)されるまで(t〜t)、フィラメント13が本加熱される。
【0053】
なお、「プリフラッシュ」過程は、前述の実施形態と同様、操作部32で設定される撮影条件(X線管に印加される電圧、フィラメント電流)によって決定されるフィラメント13の単位時間あたりの電力Hよりも大の電力Hが所定時間(T)与えられる過程である。
【0054】
以下、本実施形態における「予備加熱」過程、「プリフラッシュ」過程及び「本加熱」過程について図6及び図7を比較しながら説明する。まず、撮影ボタンが押される以前(〜t)において、X線制御回路31によるフィラメント13の電流制御は、リファレンス記憶部33を参照したX線制御回路31により、比較的低い予備加熱電流に設定される。このようにしてフィラメント13には予備加熱電流が流れ、フィラメント13は予備的に加熱される。
【0055】
そして、フィラメント13が予備加熱されている状態で、操作者により撮影ボタンが押される(t)と、操作部32からX線制御回路31に透視信号がオフレベルからオンレベルに変位し、撮影ボタンが再度押される(t)までその状態は継続する。透視信号がオンレベルに維持される期間、透視が行われる。
【0056】
このとき、X線制御回路31は、リファレンス記憶部33を参照して、前記予備加熱電流よりも大きな電流(電力)が設定されたプリフラッシュ期間(t〜t)と、プリフラッシュ期間の電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱期間(t〜t)とでフィラメント13を加熱制御する。具体的には、操作者によって撮影ボタンが押下された後は、それまでの予備加熱時間に応じたプリフラッシュ期間の時間をリファレンス記憶部33のテーブル(図8(a)参照)から取得してフィラメント13を加熱制御する。
【0057】
そして、プリフラッシュ期間の時間が経過した(t)ことを契機にX線制御回路31は、リファレンス記憶部33に記憶された本加熱条件を参照して取得した電力及び本加熱時間にしたがい、本加熱終了時(t)までフィラメント13を加熱制御する。
【0058】
その後、図6及び図7に示すように、2回目の撮影指示(t:撮影信号オン)がなされるまでは、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、前回と同様の電力で予備加熱がToff(t〜t)の時間で行われる。
【0059】
ここで、本実施形態においても、X線制御回路31内には、操作者によって入力された撮影信号を検知するタイマー31aが設けられており、当該タイマー31aが、本加熱過程終了時(t)から、操作者により撮影ボタンが押されたとき(t)までの経過時間、すなわち前記予備加熱時間を計測している。
【0060】
従って、図6に示すように、X線制御回路31は、その予備加熱時間(t〜t)に応じて、リファレンス記憶部33に設定されたテーブル(図8(b)参照)の電力の比(H/H)を元に特定された電力H(Hは本加熱条件によって予め設定されている。)を与えるべく、予備加熱時間Toff(t〜t)経過後のプリフラッシュ過程(t〜t)を当該電力Hに応じたフィラメント電流又はX線管に印加する電圧で行う。
【0061】
このようにして、プリフラッシュ過程(t〜t)が経過した後は、プリフラッシュ過程における電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱過程(t〜t)を経て、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、フィラメント13は再び予備加熱される(t〜)。
【0062】
一方、図7に示すように、タイマー31aが計測した予備加熱時間Toff(t〜t)が、図6に示した予備加熱時間Toff(t〜t)よりも短かった場合には、X線制御回路31は、その時間(t〜t)に応じて、リファレンス記憶部33に設定されたテーブル(図8(b)参照)の電力の比(H/H)を元に特定された電力H(Hは本加熱条件によって予め設定された電力)を与えるべく、予備加熱時間Toff(t〜t)経過後のプリフラッシュ過程(t〜t)を当該電力に応じたフィラメント電流又はX線管に印加する電圧で行う。ここで、図6及び図7からも明確なように、予備加熱時間Toffが短い場合には、それに比例して電力Hも電力H(予備加熱時間が十分長い場合の電力)より小さく設定される。
【0063】
このようにして、プリフラッシュ時間T(t〜t)が経過した後は、プリフラッシュ過程における電流(電力)よりも小の電流(電力)での本加熱過程(t〜t)を経て、リファレンス記憶部33に記憶された予備加熱条件を参照したX線制御回路31により、フィラメント13は再び予備加熱される(t〜)。
【0064】
以上説明したように、本発明によれば、予備加熱時間(前回の撮影信号オフから撮影信号オンまでの時間)に応じてプリフラッシュ過程における電力(フィラメント電流、管電圧)を制御するようにしたので、プリフラッシュ過程後のフィラメント13の温度が上がりすぎるということがなくなる。これは、X線管のフィラメント13の温度が本加熱過程において常に安定となることに繋がり、結果として安定したX線画像を得ることができる。
【0065】
上述の実施形態は、本発明の一例であり、本発明は上記実施形態に限定されることはない。また、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るX管装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の一実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたプリフラッシュの時間(T)を示す図。
【図3】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の一実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたプリフラッシュの時間(T)を示す図。
【図4】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の一実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたフィラメントの温度変化を示す図。
【図5】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の一実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたフィラメントの温度変化を示す図。
【図6】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の他の実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたプリフラッシュの電力(H)を示す図。
【図7】本発明に係るX線管装置及びX線管の加熱制御方法の他の実施形態において予備加熱時間(Toff)に基づいてX線制御回路により制御されたプリフラッシュの電力(H)を示す図。
【図8】本発明に係るX管装置及びX線管の加熱制御方法の実施形態における予備加熱時間(Toff)とプリフラッシュの時間(T)又はフィラメントの電力比(H/H)とを関連付けるテーブルを示す図。
【符号の説明】
【0067】
10 グリッド制御X線管
11 ガラスバルブ
12 陽極
13 フィラメント
14 グリッド
20 X線高電圧装置
21 高電圧電源
22 高電圧制御回路
23 フィラメント加熱電源
24 グリッド制御用電源
25 陰極制御回路
30 制御装置
31 X線制御回路
32 操作部
33 リファレンス記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備加熱後の撮影開始タイミングでプリフラッシュを行うことによって、X線管フィラメントを加熱した後に、前記X線管フィラメントの本加熱を行うX線管装置において、
前記予備加熱の期間を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に応じて、前記プリフラッシュの条件を変更して前記X線管フィラメントを制御する制御手段とを設けたことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段による検出結果が前回の予備加熱の時間よりも短いときには、前記X線管フィラメントを制御する電力量が前回よりも少なくなるように前記プリフラッシュの条件を設定することを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記予備加熱の期間と前記プリフラッシュの条件とを関連付けたテーブルを有し、前記検出手段による検出結果を基に前記テーブルを参照して前記検出結果に対応する前記プリフラッシュの条件に変更して前記X線管フィラメントを制御することを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記プリフラッシュの条件は、前記プリフラッシュ時における前記フィラメントの電圧、電流、電力及び前記プリフラッシュを行う時間の何れか1つ又は複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のX線管装置。
【請求項5】
前記検出手段は、前記予備加熱の期間を計時するタイマーであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のX線管装置。
【請求項6】
前記タイマーは、前記撮影開始タイミングの間隔を用いて前記予備加熱の期間を計時することを特徴とする請求項5に記載のX線管装置。
【請求項7】
X線管フィラメントに対して予備加熱する予備加熱過程と、
撮影開始信号を受けて前記予備加熱過程を終了させ、前記X線管フィラメントを加熱するプリフラッシュ過程と、
前記プリフラッシュ過程終了後、前記X線管フィラメントを所定時間本加熱する本加熱過程とを有し、その本加熱過程後、再び予備加熱過程を行うX線管の加熱制御方法であって、
前記プリフラッシュ過程は、前回の予備加熱過程を終了させた後、前回の予備加熱過程に要した時間を検出し、その検出した時間に対応するプリフラッシュ条件を制御することによって、前記X線フィラメントを加熱制御することを特徴とするX線管の加熱制御方法。
【請求項8】
前記予備加熱過程に要した時間が前回の予備加熱の時間よりも短いときには、前記X線管フィラメントを制御する電力量が前回よりも少なくなるように前記プリフラッシュの条件を設定することを特徴とする請求項7に記載のX線管の加熱制御方法。
【請求項9】
前記プリフラッシュの条件は、前記プリフラッシュ過程における前記X線フィラメントの電流、電圧、電力及び前記プリフラッシュを行う時間の何れか1つ又は複数の組み合わせにより制御可能であることを特徴とする請求項7又は8に記載のX線管の加熱制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−120548(P2006−120548A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309250(P2004−309250)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】