説明

X線高電圧発生装置およびX線CT装置

【課題】省スペース化が可能で、被検体の無効被爆を防止できる高電圧発生装置を提供する。
【解決手段】X線管に供給する管電圧を生成する回路と、管電圧を降下させた際に回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、前記容器内に満たされた電気絶縁油とを有する。筺体の一面には、内部空間が筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結され、伸縮性容器には放熱ユニットが搭載されている。これにより、筺体の一面のみで、電気絶縁油の膨張を吸収できるとともに、電気絶縁油を冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透視撮影を行うX線装置やX線CT装置に電力を供給する高電圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線高電圧装置では、血管内の血流を動画として撮影するシネ撮影や、血管でカテーテルを操作する時等に高画質なリアルタイム画像を得るためのパルス透視等において、高速なパルス状の管電圧が要求される。管電圧を高速に制御するため、交流高電圧出力を高電圧整流器で整流し、X線管に並列に接続したコンデンサや高電圧ケーブル等の浮遊静電容量で平滑化して、直流高電圧をX線管に印加する回路構成が用いられている。コンデンサ等に蓄えられた電荷は、高電圧整流器があるために電源側には流れることができず、電荷はX線管を経由して放電される。そのため、管電圧オフ時に、撮影には使用されないX線がX線管から放射され、被検体にとって無効被爆が生じるという問題があった。高速のパルス状の管電圧を供給する撮影方法においては、管電圧パルスの下降波形(以下、波尾と称する)のたびに、電荷放電による無効被爆が生じる。
【0003】
そのため特許文献1では、コンデンサ等に蓄えられた電荷を放電させるための回路(波尾遮断回路)をX線管と並列に接続した構成を開示している。波尾遮断回路は、電荷を放電させるためのインピーダンスと、インピーダンスを波尾のタイミングでX線管と接続するスイッチとを備える。スイッチは、コンデンサに充電される高電圧に耐えるために、多数の半導体スイッチを直列に接続したものである。特許文献1では、半導体スイッチを多数の基板に数個ずつ搭載し、多数の基板を間隔を開けて積層しながら、基板同士を電気的に接続した高電圧スイッチが提案されている。
【0004】
特許文献2では、波尾遮断回路をX線高電圧装置の他の回路とともに絶縁油が封入されたタンク内に配置した構成を開示している。波尾遮断回路のスイッチが搭載された多数の基板は、枠状の固定具に収容され、タンク内に多段に積み上げられている。これにより、波尾遮断回路を含めた高電圧発生装置全体として省スペース化している。波尾遮断回路の放電時の発熱により、電気絶縁油が加熱されるため、タンクの外側には放熱フィンが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−284097号公報
【特許文献2】特開2008−098072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のように電気絶縁油を使用する高電圧発生装置は、波尾遮断回路等の温度上昇に伴い電気絶縁油が膨張する。放熱フィンによる自然空冷や強制空冷などで温度上昇を抑えられなかった場合には、高電圧発生装置のタンクの内部圧力が上昇し、容器の変形または電気絶縁油が漏れ出すという不具合が起こる。そこで、電気絶縁油の膨張に対応するために、膨張容積分だけ予めタンク内に空間を設けておく方法と、伸縮可能な蛇腹構造(ベローズ)を備えたタンクを使用することが考えられるが、前者は、タンク全体を大きく形成しておく必要があり、後者は蛇腹構造の伸長可能な空間をタンク外に確保する必要がある。
【0007】
X線透視撮影を行うX線装置やX線CT装置等は、高電圧発生装置の搭載スペースが限られており、小型化が要求される。そのため、大がかりな冷却設備を配置しにくい。また、移動式X線装置やX線CT装置の高電圧発生装置は、被検体や操作者の近くに配置されるため、温度が高温になるのは望ましくない。
【0008】
本発明の目的は、省スペース化が可能で、被検体の無効被爆を防止できる高電圧発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様によれば、以下のようなX線高電圧発生装置が提供される。すなわち、X線管に供給する管電圧を生成する回路と、管電圧を降下させた際に回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、容器内に満たされた電気絶縁油とを有するX線高電圧発生装置であって、筺体の一面には、内部空間が筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結されている。伸縮性容器には放熱ユニットが搭載されている。
【0010】
上記伸縮性容器が所定量伸長したことを検出する検出部をさらに有する構成にすることも可能である。検出部が、伸縮性容器が所定量伸長したことを検出した場合、制御部が波尾遮断回路の放電を停止させることが可能になる。もしくは、制御部は、管電圧生成回路にパルス状の管電圧の生成を停止させるとともに、波尾遮断回路の放電を停止させることもできる。もしくは、制御部は、波尾遮断回路の放電を停止させるとともに、操作者にパルス状の管電圧を用いる所定の撮像方法の受け付けができないことを報知することもできる。
【0011】
上記検出部としては、伸縮性容器または前記放熱ユニットの一部で押し上げられる位置にスイッチを配置することができる。この場合、伸縮性容器または放熱ユニットの一部には、スイッチを押し上げるための突起を備えることが可能である。
【0012】
また、伸縮性容器の伸縮する方向に沿ってガイド部材を配置することも可能である。
【0013】
放熱ユニットとしては、底面板と、底面板上に所定の間隔をあけて並べて搭載された複数のフィンとを備えるものを用いことが可能であり、例えば、底面板の裏面は、伸縮性容器内の電気絶縁油に接するように伸縮性容器に固定する。
【0014】
また、本発明の第2の態様によれば、以下のようなX線高電圧発生装置が提供される。すなわち、X線管に供給する管電圧を生成する回路と、管電圧を降下させた際に回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、容器内に満たされた電気絶縁油とを有するX線高電圧発生装置であって、筺体の一面には、内部空間が筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結されている。伸縮性容器は、金属製の蛇腹部を有し、蛇腹部は、放熱ユニットを兼用している。
【0015】
また、本発明の第3の態様によれば、以下のようなX線CT装置が提供される。すなわち、被検体の周囲を回転するための回転円盤と、回転円盤に搭載された、X線管および高電圧発生装置とを有するX線CT装置であって、高電圧発生装置は、X線管に供給する管電圧を生成する回路と、管電圧を降下させた際に回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、容器内に満たされた電気絶縁油とを含む。筺体の一面には、内部空間が筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結されている。伸縮性容器には放熱ユニットが搭載されている。
【0016】
高電圧発生装置の伸縮性容器は、伸縮方向を回転円盤の遠心力の方向と直交する方向に向けて回転円盤に搭載されていることが望ましい。
【0017】
放熱ユニットは配列して配置された複数のフィンを有する構成とすることができる。この場合、フィンの主平面方向は、回転円盤の回転の接線方向に沿うように配置されていることが望ましい。
【0018】
伸縮性容器の伸縮方向は、回転円盤の周方向と直交する方向に向けられた構成とすることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、省スペース化が可能で、かつ、波尾遮断回路等による温度上昇を効率よく冷却でき、被検体の無効被爆を防止可能なX線高電圧発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態の高電圧発生装置を用いた電源の全体回路を示すブロック図。
【図2】図1の高電圧発生装置の回路図。
【図3】第1の実施形態の高電圧発生装置の切り欠き斜視図。
【図4】図3の高電圧発生装置の波尾遮断回路の実装状態を示す説明図。
【図5】図3の波尾遮断回路の基板の接続の向きを示す説明図。
【図6】第1の実施形態の高電圧発生装置の斜視図。
【図7】第2の実施形態の高電圧発生装置の斜視図。
【図8】第3の実施形態の高電圧発生装置の斜視図。
【図9】第4の実施形態のX線CT装置の回転円盤の正面図。
【図10】第4の実施形態のX線CT装置の回転円盤の斜視図。
【図11】第4の実施形態の高電圧発し装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1に本発明のX線撮影装置の電源装置100の全体構成図を示す。電源装置100は、商用電源105から直流電圧を発生する直流電源部110、直流電源部110の出力する直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ回路120、インバータ回路120の出力する交流電圧を昇圧・整流・平滑化して管電圧を生成する高電圧発生装置1、および、制御部160を備えている。高電圧発生装置1は、X線管7に接続され、X線管7に管電圧を供給する。制御部160は、X線撮影装置のコンソールの制御回路300に接続されている。
【0023】
高電圧発生装置1の回路構成を図2に、外観の切り欠き斜視図を図3に示す。図2のように、高電圧発生装置1は、インバータ回路120に接続される高電圧変圧器2および加熱変圧器3と、高電圧変圧器2で昇圧された高周波電圧を直流に変換するための高電圧整流回路4a,4bと、波尾遮断回路50と、平滑化コンデンサ51と、接続端子9a,9bとを備えている。接続端子9aは、X線管7の陽極に接続され、接続端子9bは、X線管7の陰極に接続される。平滑化コンデンサ51は、X線管7とそれぞれ並列になるように接続される。
【0024】
高電圧変圧器2は、インバータ回路120に接続された一次巻線2aと、高電圧整流回路4aに接続される二次巻線2bとを含む。加熱変圧器3は、インバータ回路120に接続された一次巻線3aと、接続端子9bに接続される二次巻線3bとを含む。
【0025】
波尾遮断回路50は、RC回路等のように電荷を放電するための高電圧放電回路5a,5bと、スイッチング回路6a,6bとを直列接続した回路である。スイッチング回路6a,6bは、図2では、それぞれ一つのスイッチ回路として省略して図示しているが、実際には、高電圧に対応するために、数十から数百の半導体スイッチング素子を直列に接続した構成である。波尾遮断回路50は、X線管7と並列になるように、高電圧整流回路4a,4bと加熱変圧器3との間に接続されている。高電圧放電回路5a,5bおよびスイッチング回路6a,6bの負荷抵抗の合計は、X線管7の負荷抵抗よりも小さくなるように設計されている。
【0026】
スイッチング回路6a,6bは、制御部160の制御信号により管電圧の立ち下がりに同期してオンに切り替えられる。これにより、平滑化コンデンサ51および高電圧ケーブルの浮遊容量に蓄えられた電荷は、波尾遮断回路50を流れ、高電圧放電回路5a,5bにおいて放電される。よって、管電圧の立ち下がり以降に、X線管7からX線が放射されて無効被爆を生じるのを防止することができる。また、電荷の流れが、X線管7の負荷抵抗よりも短い時定数の波尾遮断回路50に瞬時に切り替わることにより、管電圧の立ち下がりを高速にすることができる。よって、本実施形態の電源装置を用いることにより、波尾の短い高速な管電圧を用いたパルス透視撮影を行うことが出来る。
【0027】
図3のように、高電圧変圧器2、加熱変圧器3、高電圧整流回路(カソード側)4a、高電圧整流回路(アノード側)4b、高電圧放電回路(カソード側)5a、高電圧放電回路(アノード側)5b、高電圧スイッチ回路(カソード側)6a、高電圧スイッチ回路(アノード側)6bは、高電圧タンク8内に収容されている。タンク8の内部空間は電気絶縁油で満たされている。タンク8に収容されている回路は、周囲を電気絶縁油で満たされることにより、相互に絶縁されている。
【0028】
高電圧スイッチ回路5a,5bは、上述したように半導体スイッチング素子を数十から数百個直列接続したものである。半導体スイッチング素子は、数十枚のスイッチ基板6cに数個ずつ間隔をあけて搭載されている。図4のように、数十枚のスイッチング基板6cはそれぞれ、枠状の固定具10に収容されている。複数の固定具10を積み重ねるように連結することにより、複数のスイッチング基板6cは、図5のように一定の間隔(絶縁距離11)をあけて積層配置され、管電圧に対して電気的絶縁性が確保されている。また、隣合うスイッチング基板6cは、図5のように接続線13により接続され、すべてのスイッチング基板6c上の半導体スイッチング素子を直列に接続している。接続線13による基板6c同士の接続は、基板を上下交互に180°ずつ回転させて接続線が交差しないようにする。接続方法については、特許文献1、2等に記載された広く知られた技術であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0029】
また、固定具10に3枚の仕切り板10aが備えられており、固定具10を積み重ねたときに仕切り板10a間に生じるスペース12に、高電圧放電回路5a,5bが収納される。
【0030】
このように波尾遮断回路50を収納用固定具10に収納したことにより、別々に回路を実装する必要がなくなり、作業工数を低減できる。
【0031】
なお、図4、図5では、半導体スイッチング素子を搭載したスイッチング基板6c、ならびに、高電圧放電回路5a,5bを模式的に直方体形状に図示しているが、実際には、スイッチング基板6cには、半導体スイッチング素子が露出されるように実装され、高電圧放電回路5a,5bは、抵抗線を露出した構成である。
【0032】
高電圧タンク8内には、図3のように、最下段に固定具10に収容された波尾遮断回路が配置され、中段手前側に高電圧整流回路(カソード側)4aと高電圧整流回路(アノード側)4bが並べて配置されている。中段奥側には高電圧変圧器2が配置されている。上段手前には、接続端子(カソード側)9a、接続端子(アノード側)9bが並べて配置され、上段奥側には、加熱変圧器3が配置されている。このように、高電圧変圧器2の一次巻線などのアース電位に近い電気部品は奥側に配置し、手前側に行くに従って電位の高い部品を配置している。
【0033】
また、高電圧スイッチ回路5a,5bについては積層された基板の最奥側をアース電位として接続し、一番手前側をアノードあるいはカソードの高電位部分として、接続端子9a、9bおよび高電圧整流回路4a、4bにそれぞれ接続している。これにより、上段および中段の高電圧発生回路および下段の波尾遮断回路50の等電位部分が隣接する配置となるので、絶縁部品を追加する必要がない。
【0034】
高電圧タンク8の内部空間全体は、電気絶縁油により満たされている。これにより、タンク8内に配置された回路同士を絶縁するとともに、回路を冷却している。
【0035】
高電圧タンク8内に配置された回路で、動作中においてもっとも発熱する回路は、X線爆射中に鉄損や銅損が生じる高電圧変圧器2と、X線爆射終了時に放電する高電圧放電回路5a、5bが挙げられる。高電圧放電回路5a,5bが収容される固定具10は、高電圧放電回路5a,5bを収容しても電気絶縁油が自然対流し易い構造となっている。これにより、電気絶縁油の自然対流により効率よく高電圧放電回路5a,5bを冷却することができる。高電圧変圧器2についても周囲を電気絶縁油に包まれているので、効率よく冷却することができる。
【0036】
高電圧タンク8の側面の一つの面には矩形の開口が設けられ、図6のように開口形状が矩形の筒型ベローズ15の一端が固定されている。ベローズ15の他端には、開口を塞ぐようにヒートシンク14が固定されている。ヒートシンク14は、ベローズ15の端部を塞ぐ底面板14aと、底面板14a上に所定の間隔をあけて立設された複数のフィン14bとを備えている。ベローズ15とタンク8との接続部、ベローズ15とヒートシンク14との接続部は、電気絶縁油が漏れないように密閉状態を維持している。
【0037】
このベローズ15は、例えば、耐油性ゴム、あるいは、アルミなどの放熱性のよい金属で構成する。
【0038】
高圧タンク8の側面には、ベローズ15の角部近傍にガイド18が立設されており、ベローズ15の伸縮をガイドする。
【0039】
ガイド18には、所定の位置にマイクロスイッチ16が固定されている。ヒートシンク14のフィン14bの側面には、マイクロスイッチ16をガイド18に沿って押し上げるための突起17が取り付けられている。
【0040】
高電圧タンク8内の回路の発熱により、電気絶縁油の温度が上昇すると、電気絶縁油が熱膨張係数に従って膨張する。膨張した電気絶縁油は、タンク8の側面の開口からベローズ15の内部空間に入り、ベローズ15をガイド18に沿って押し出す。このように電気絶縁油の膨張に応じて、ベローズ15が伸長することにより、電気絶縁油の体積変化を吸収することができ、タンク8に圧力が加わるのを防止できる。
【0041】
ベローズ15の端部開口には、ヒートシンク14の底面板14aが取り付けられているため、電気絶縁油の熱は、底面板14aからフィン14bに熱伝導し、フィン14bから周囲の大気に放熱される。よって、電気絶縁油の熱をベローズの先端のヒートシンク14から効率よく大気に放熱することができ、電気絶縁油は冷却される。
【0042】
また、ベローズ15にヒートシンク14を搭載したことにより、高電圧タンク8の一つの面にベローズ15とヒートシンク14の両方を設置することができる。よって、高電圧タンク8の一つの面の脇にのみ空間を用意すればよく、ベローズ15とヒートシンク14とを別々の側面に配置する構成と比較して、周囲に必要なスペースの小さい、コンパクトな高電圧発生装置1を提供できる。
【0043】
また、図6のようにガイド18を配置したことにより、ベローズ15をタンク8の側面に配置した場合であっても、ベローズ15内の電気絶縁油の自重でベローズ18が傾くのを防止することができる。
【0044】
また、電気絶縁油の膨張時の容積によって、その時点の電気絶縁油の温度を求めることができる。本実施形態では、予め定めた電気絶縁油の許容最大温度に対応する電気絶縁油の容積および、その容積に対応するベローズ15の伸び量を予め求め、その伸び量のときに、突起17がマイクロスイッチ16のレバーを押し上げる位置に、突起17およびマイクロスイッチ16を取り付けている。
【0045】
マイクロスイッチ16の出力信号は、制御部160に受け渡される。制御部160は、マイクロスイッチ16を受け取ったならば、電気絶縁油の温度が許容最大温度に達したとして、所定の動作を行う。
【0046】
すなわち、これ以上の電気絶縁油の温度上昇を防ぐために、制御部160は、波尾遮断回路50の動作を停止させることができる。具体的には、制御部160はスイッチング回路6a,6bを所定時間オフにする。波尾遮断回路50をオフにする間は、無効被爆を防止するために、高速なパルス状の管電圧が要求される、血管内の血流を動画として撮影するシネ撮影や、血管でカテーテルを操作する時等に高画質なリアルタイム画像を得るためのパルス透視等を行わないように制御する。例えば、制御部160は、インバータ120に対して、高速なパルス状の管電圧の出力させないように制御する。また、制御部160は、X線撮影装置のコンソールの制御回路300に、高速なパルス状管電圧の必要な撮影方法は受け付けできないことを知らせる信号を出力する。コンソールは、その旨を表示装置に表示して操作者に報知するとともに、受け付け可能な撮影方法を制限する。
【0047】
このように、第1の実施形態によれば、放熱の大きな波尾遮断回路を備えた高電圧発生装置の許容温度以上の温度上昇を防ぐことができ、かつ、コンパクトな装置を提供することができる。また、タンク8の変形や電気絶縁油が漏れだすという不具合を防止することができる。
【0048】
本高電圧発生装置は、X線撮影装置、特に、移動式X線撮影装置のように小型で電源の冷却設備を確保しにくい装置に有用である。
【0049】
なお、本高電圧発生装置は、ガイド18にマイクロスイッチ16をフィン14bに突起17を配置したが、これらの配置に限らず、ベローズ15の伸長によりマイクロスイッチ16がオンになる位置であればどのような配置であってもよい。
【0050】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態の高電圧発生装置の斜視図を図7に示す。
【0051】
図7の高電圧発生装置は、ベローズ15を伸縮方向が側面に平行となるように設置している。タンク8の側面下部には開口(通油口)19を設け、開口19と連通するように容器20を固定している。容器20の上部開口にベローズ15の下端が接続されている。ベローズ15の上端開口はヒートシンク14で塞がれている。
【0052】
第1の実施形態の構成では、電気絶縁油量の増加具合でベローズ15が伸びる方向(側面に垂直な方向)に伸縮に応じたスペースを用意しておく必要があるが、第2の実施形態では、ベローズ15は側面に平行な方向に伸縮するため、タンク8の側面の横に必要なスペースは、伸縮前後で変化しないというメリットがある。よって、第2の実施形態では、第1の実施形態よりも省スペースな高電圧発生装置が提供できる。
【0053】
なお、タンク8の構造は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0054】
第2の実施の形態の装置構造では、第1の実施形態と比較してヒートシンク14の放熱面積が小さくなるため、ベローズ15の材質を放熱性のよい金属にして、ベローズ15からも積極的に放熱させ、放熱効率を向上させることが望ましい。
【0055】
また、本実施形態においても、図7のように、マイクロスイッチ16をタンク8側面の所定位置に固定することにより、ヒートシンク14によりマイクロスイッチ16を押し上げ、電気絶縁油の温度を検出することができる。
【0056】
図7には図示していないが、容器20上にベローズ15の伸縮方向に沿ってガイドを設けることももちろん可能である。
【0057】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態の高電圧発生装置の斜視図を図8に示す。
【0058】
この高電圧発生装置は、小型の複数の円筒状ベローズ21を配列して、タンク8の側面に固定している。小型の円筒状ベローズ21の内部に電気絶縁油が入り込み、それぞれの円筒状ベローズ21が伸縮することで電気絶縁油の膨張を吸収することができ、タンク8に圧力がかかるのを防止する。
【0059】
複数の円筒状ベローズ21は、放熱性の高い金属により構成されていることが望ましい。複数の円筒状ベローズ21は、電気絶縁油の温度が低ければ縮んだ状態であるが、温度が高くなれば伸長し表面積が広がるため、電気絶縁油の熱を効率よく放熱することができる。すなわち、円筒状ベローズ21は、ヒートシンクを兼用している。
【0060】
図8の構成では、円筒状ベローズ21の最長長さが決まれば、側面に垂直な方向には、それ以上のスペースを確保する必要がない。
【0061】
なお、円筒状ベローズ21の表面積が冷却効率に依存するため、図8で示している形状に限らず、伸縮構造を保ちつつ形状を複雑化するか、もしくは円筒状ベローズ21の数を増やすことにより、冷却効率をさらに向上させることも可能である。
【0062】
(第4の実施形態)
第4の実施形態として、本発明の高電圧発生装置を搭載したX線CT装置の例について説明する。
【0063】
図9は、X線CT装置の被検体の周囲を回転する回転円盤91の正面図であり、図10は、回転円盤91の斜視図である。回転円盤91には、X線管7と、高電圧発生装置1と、X線検出器92が少なくとも搭載されている。回転円盤91を被検体の周りで回転させながら、高電圧発生装置1からX線管7に管電圧を供給すると、X線管7から被検体にX線が放射される。被検体を透過したX線をX線検出器92で検出することにより、被検体の断層像を撮影することができる。
【0064】
高電圧発生装置1は、図11にその斜視図を示すように、第2の実施形態の図7の装置に、ベローズ15の伸縮をガイドするためのガイド18を備えた構成である。高電圧発生装置1には、回転円盤91が高速で回転することにより、遠心力(回転加速度)が加わる。そのため、本実施形態では、図9〜図11のように、ベローズ15の伸長方向が遠心力と直交し、かつ、ヒートシンク14のフィン14bの主平面が回転円盤91の接線方向に沿うように高電圧発生装置1を回転円盤91に搭載している。
【0065】
これにより、ベローズ15の伸長は遠心力や回転開始および停止時の加速度で妨げられない。しかも、回転円盤91の回転に伴いフィン14bの間を空気が通り抜けるため、フィン14bを効率よく冷却することができ、電気絶縁油の冷却効率を高めることができる。
【0066】
また、ガイド18がベローズ15の傾斜を防止するため、ベローズ15を電気絶縁油の膨張に応じてタンク8の側面と平行に伸縮させることができる。
【0067】
マイクロスイッチ16の出力により、許容最大温度に電気絶縁油が達したことをベローズ15の容積で検出することができるため、第2の実施形態と同様に波尾遮断回路を停止させることができる。
【0068】
なお、X線CT装置に搭載可能な高電圧発生装置は、第2の実施形態の装置に限られるものではなく、第1及び第3の実施形態の高電圧発生装置を搭載することも可能である。この場合も、ベローズ15の伸長方向が遠心力と直交することが望ましい。ヒートシンク14のフィン14bの主平面が回転円盤91の接線方向に沿うように回転円盤91に搭載することが望ましい。回転円盤91の回転開始・停止時の加速度の方向が、ベローズ15の伸長方向と直交していればさらに望ましい。
【0069】
本発明において、フィン14bの形状やベローズ15の形状、および、ベローズ15の取り付け位置は、上述してきた各実施形態に示した形状および位置に限定されるものではない。放熱効率を考慮した形状および位置に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1:高電圧発生装置、2:高電圧変圧器回路、3:加熱変圧器、4a,4b:高電圧整流回路、5a,5b:高電圧放電回路、6a,6b高電圧スイッチ回路、7:X線管、8:高電圧タンク、9a,9b:接続端子、10:固定具、11:絶縁距離、12:スペース、13:接続線、14a:底面板,14b:フィン、14:ヒートシンク、15:ベローズ、16:マイクロスイッチ、17:突起、18:ガイド、19:通油口(開口)、20:容器、21:円筒状ベローズ、50:波尾遮断回路、51:平滑化コンデンサ、91:回転円盤、92:X線検出器、100:電源装置、110:直流電源、120:インバータ回路、160:制御部、300:コンソールの制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管に供給する管電圧を生成する回路と、前記管電圧を降下させた際に前記回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、前記管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、前記容器内に満たされた電気絶縁油とを有し、
前記筺体の一面には、内部空間が前記筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結され、該伸縮性容器には放熱ユニットが搭載されていることを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線高電圧発生装置において、前記伸縮性容器が所定量伸長したことを検出する検出部をさらに有することを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線高電圧発生装置において、前記検出部が、前記伸縮性容器が所定量伸長したことを検出した場合、前記波尾遮断回路の放電を停止させる制御部をさらに有することを特徴とする高電圧発生装置。
【請求項4】
請求項2に記載のX線高電圧発生装置において、前記検出部が、前記伸縮性容器が所定量伸長したことを検出した場合、前記管電圧生成回路にパルス状の管電圧の生成を停止させるとともに、前記波尾遮断回路の放電を停止させる制御部をさらに有することを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項5】
請求項2に記載のX線高電圧発生装置において、前記検出部が、前記伸縮性容器が所定量伸長したことを検出した場合、前記波尾遮断回路の放電を停止させるとともに、操作者にパルス状の管電圧を用いる所定の撮像方法の受け付けができないことを報知する制御部をさらに有することを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項6】
請求項2に記載のX線高電圧発生装置において、前記検出部は、前記伸縮性容器または前記放熱ユニットの一部で押し上げられる位置に備えられたスイッチであることを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項7】
請求項6に記載のX線高電圧発生装置において、前記伸縮性容器または前記放熱ユニットの一部には、前記スイッチを押し上げるための突起が備えられていることを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項8】
請求項1に記載のX線高電圧発生装置において、前記伸縮性容器の伸縮する方向に沿って配置されたガイド部材をさらに有することを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項9】
請求項1に記載のX線高電圧発生装置において、前記放熱ユニットは、底面板と、当該底面板上に所定の間隔をあけて並べて搭載された複数のフィンとを含み、
前記底面板の裏面は、前記伸縮性容器内の電気絶縁油に裏面が接するように前記伸縮性容器に固定されていることを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項10】
X線管に供給する管電圧を生成する回路と、前記管電圧を降下させた際に前記回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、前記管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、前記容器内に満たされた電気絶縁油とを有し、
前記筺体の一面には、内部空間が前記筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結され、該伸縮性容器は金属製の蛇腹部を有し、当該蛇腹部は、放熱ユニットを兼用していることを特徴とするX線高電圧発生装置。
【請求項11】
被検体の周囲を回転するための回転円盤と、前記回転円盤に搭載された、X線管および高電圧発生装置とを有するX線CT装置であって、
前記高電圧発生装置は、X線管に供給する管電圧を生成する回路と、前記管電圧を降下させた際に前記回路内の電荷を放電する波尾遮断回路と、前記管電圧生成回路および放電回路を収容する筺体と、前記容器内に満たされた電気絶縁油とを含み、
前記筺体の一面には、内部空間が前記筺体内の空間と連通した伸縮性容器が連結され、該伸縮性容器には放熱ユニットが搭載されていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項12】
請求項11に記載のX線CT装置において、前記高電圧発生装置の伸縮性容器は、伸縮方向を前記回転円盤の遠心力の方向と直交する方向に向けて前記回転円盤に搭載されていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項13】
請求項12に記載のX線CT装置において、前記放熱ユニットは配列して配置された複数のフィンを有し、前記フィンの主平面方向は、前記回転円盤の回転の接線方向に沿うように配置されていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項14】
請求項12に記載のX線CT装置において、前記伸縮性容器の伸縮方向は、前記回転円盤の周方向と直交する方向に向けられていることを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−146530(P2012−146530A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4254(P2011−4254)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】