説明

X線CT装置

【課題】大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を可能とするX線CT装置を提供する。
【解決手段】X線管105とコリメータユニット107の間にX線管側リファレンス検出器106を設置し、予めX線管側リファレンス検出器106の出力データとX線検出器側リファレンス検出器115の出力データを計測し、変換係数を算出・記憶しておくことで、両端のX線検出器側リファレンス検出器115に被写体がはみ出した場合に同時に計測しているX線管側リファレンス検出器106の出力データと変換係数を用いて疑似的にX線検出器側リファレンス検出器115のデータを算出し、リファレンス補正データとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャン中のX線出力変動の補償や被写体を透過したX線の出力信号レベルを校正するリファンレンス補正を行うX線CT装置に関する。特に、被写体が撮影可能領域(FOV)をはみ出した場合に発生するリファレンス補正不良や不足を補い、CT値の異常やアーチファクトを補正可能とするX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、被写体周辺をX線管とX線検出器を搭載したスキャナが回り、その回転中心付近の被写体に向けてX線を照射する。被写体を透過したX線は、X線検出器に検出され、電気信号に変換された後にデータ処理装置に送信される。データ処理装置によって施される各種補正の中には、X線の出力変動を補正するリファレンス補正という処理がある。リファレンス補正では、X線検出器の両端にあるリファレンス検出器の空気のみを通過したX線のデータによって、X線出力変動の補償とリファレンス検出器以外の検出器の出力レベルの校正が施される。このリファレンス補正により被写体の投影高さが正規化され、結果として画像のCT値が正しく算出される。
【0003】
ところで、被写体が非常に大きい場合、もしくは被写体はさほど大きくないが、X線検出器のチャネル数が少なくFOVが小さい装置の場合は、空気のみを通過したX線を計測するはずのリファレンス検出器に被写体が入ってしまう“はみ出し”の可能性がある。 “はみ出し有り”のデータで正規化してしまうと、被写体の投影高さが正しく算出されず、結果として被写体のCT値が異常となってしまう。
【0004】
例えば、特許文献1には、X線管と被検体との間に補正用検出器が設けられた放射線撮像装置が記載されている。この放射線撮像装置では、X線管から照射されたX線を補正用検出器によって検出する。そして、データ処理手段によって、X線検出器の検出データに対して、補正用検出器の出力変動量を用いてX線強度の変動補正を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−150138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、X線管側に設けられた補正用検出器の出力データを直接リファレンス補正データとして使用すると、リファレンス補正の精度が低下するという問題がある。リファレンス補正の精度が低下する理由としては、以下のことが考えられる。例えば、X線管の焦点から補正用検出器までの距離と、X線管の焦点からX線検出器までの距離とが異なる為、単位面積当たりのX線強度が距離の二乗で減衰するというX線の性質によって、精度が低下する。また、補正用検出器とX線検出器とでは、温度などの周辺環境、検出器までの透過物質などが異なる為、これらの要因によっても精度が低下する。
【0007】
また、近年メタボリックシンドロームに代表されるように、肥満が問題視されている背景もあり、比較的大柄の被写体をX線CT装置で撮影することは珍しくない。大きな被写体に対応するために寝台のワイド化が進み、最近では被写体を寝台に載せたまま左右方向に移動可能な寝台もあり、寝台自体がFOVをはみ出す可能性が高くなりつつある。また、X線CT装置の普及に伴う価格低下に対して原価を抑えるために、FOVが従来の500mmに比べて小さなFOVのX線CT装置も製品化されている。
【0008】
このように、はみ出しが懸念される被写体やX線CT装置において、X線検出器側にリファレンス検出器が設けられている場合を考える。図18(a)に示すように、“はみ出し無し”の場合の投影高さに比べて、図18(b)、(c)のように被写体がはみ出した場合において、従来の検出器両端のリファレンス検出器のデータを使ってリファレンス補正を実施すると、見かけ上投影高さが低くなっていることが分かる。この投影データから作成した画像のCT値は、図18(a)の正しいCT値に比べて低く算出されてしまう。従って、被写体がFOVからはみ出す可能性が高く、スキャン中にほとんどの計測ビューにおいて被写体がはみ出した場合においても、精度の高いはみ出し補正が必要となる。
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を可能とするX線CT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために本発明は、X線を照射するX線管と、前記X線管と対向する位置に設置され、X線を検出するX線検出素子が配列されたX線検出器と、前記X線検出器の端部に設置されているX線検出器側リファレンス検出器と、前記X線管から照射されたX線が直接検出可能な位置に設置されるX線管側リファレンス検出器と、前記X線管、前記X線検出器、前記X線検出器側リファレンス検出器、及び前記X線管側リファレンス検出器が搭載されたスキャナと、被写体が載置され、スキャン中に前記スキャナの開口部を通過する寝台と、を備えるX線CT装置であって、前記X線管側リファレンス検出器の出力データを前記X線検出器側リファレンス検出器の出力データに変換するための変換係数を算出する変換係数算出手段と、前記変換係数算出手段によって算出された前記変換係数を記憶する変換係数記憶手段と、前記変換係数記憶手段からスキャン条件に対応する前記変換係数を読み出し、読み出された前記変換係数を用いて前記X線管側リファレンス検出器の出力データから前記X線検出器側リファレンス検出器の出力データに変換する変換処理手段と、を備えることを特徴とするX線CT装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を可能とするX線CT装置を提供することができる。特に、本発明によると、両側のX線検出器側リファレンス検出器に被写体がはみ出した場合でもリアルタイムのX線出力変動データで正規化するリファレンス補正が可能となり、CT値異常やアーチファクトが無い高画質な診断画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わるX線CT装置の基本構成を示す図
【図2】X線CT装置のローデータ作成処理の流れを示す図
【図3】はみ出し有無判定処理の流れを示す図
【図4】はみ出し有無判定処理のデータ例を示す図
【図5】X線管側リファレンス検出器の設置位置を示す図
【図6】両側はみ出し時におけるリファレンス補正処理の流れを示す図
【図7】検出器側リファレンス検出器データの算出例を示す図
【図8】両側はみ出し時のリファレンス補正後のデータを示す図
【図9】第1実施形態における工場出荷時のエア計測における変換係数算出処理の流れを示す図
【図10】第1実施形態におけるエア計測から算出した変換係数テーブルを示す図
【図11】第1実施形態における管電流リニアリティーを考慮した変換係数テーブルを示す図
【図12】第2実施形態における設置施設においてデイリーで実施するエア計測における変換係数算出処理の流れを示す図
【図13】第3実施形態における固定管電流のスキャン中における変換係数算出処理の流れを示す図
【図14】第3実施形態におけるはみ出し状態別に算出する変換係数を示す図
【図15】第3実施形態における固定管電流のスキャン中から算出した変換係数テーブルを示す図
【図16】第3実施形態における管電流自動制御のスキャン中における変換係数算出処理の流れを示す図
【図17】第3実施形態における管電流自動制御のスキャン中から算出した変換係数テーブルを示す図
【図18】はみ出し補正の概念を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
最初に、図1〜図4を参照しながら、本発明に係るX線CT装置の概要について説明する。
【0015】
図1は、本発明を搭載したX線CT装置の基本構造を示している。図1の左上には、X線CT装置における方向の定義を示している。以下の文中では、これらの方向をX/Y/Z方向と示す。
【0016】
X線CT装置は、開口部を有するスキャナ104と、被写体が載置され、スキャン中にスキャナ104の開口部を通過する寝台108と、を備える。スキャナ104には、X線を照射するX線管105と、X線管105と対向する位置に設置され、X線を検出するX線検出素子が配列されたX線検出器109と、X線検出器109の両端に設置されるX線検出器側リファレンス検出器115と、X線管105から照射されたX線が直接検出可能な位置に設置されるX線管側リファレンス検出器106と、が搭載される。ここで、X線が直接検出可能な位置とは、常に被写体を通過しないX線を検出可能な位置である。
【0017】
また、スキャナ104には、更に、X線の強度分布を調整するX線補償フィルタや、被写体へ照射するX線の低エネルギー部分を除去する線質硬化フィルタなどが格納されているコリメータユニット107、X線検出器109のデータを収集してA/D変換を行うデータ収集回路110等が搭載される。
【0018】
また、X線CT装置は、操作卓に設置される操作装置101、制御装置102(CPU、ROM、RAM等を備える。)、通信I/F103等を備える。また、X線CT装置は、スキャン後の各種のデータ処理を実現する為に、通信I/F111、画像処理装置112(CPU、ROM、RAM等を備える。)、記憶装置113、表示装置114、はみ出し有無判定機能116、リファレンス補正データ変換係数算出機能117、リファレンス補正データ変換係数記憶機能118、リファレンス補正データ変換処理機能119等を備える。
【0019】
尚、はみ出し有無判定機能116、リファレンス補正データ変換係数算出機能117、リファレンス補正データ変換係数記憶機能118、及びリファレンス補正データ変換処理機能119は、例えば、図示しない制御装置(CPU、ROM、RAM等を備える。)が、記憶装置113に記憶されている各種プログラムを読み出して実行することによって実現されるものである。図示しない制御装置は、スキャナ104に搭載されていても良いし、スキャナ104以外の場所に設置されても良い。また、制御装置102又は画像処理装置112が、図示しない制御装置の役割を果たしても良い。
【0020】
X線CT装置は、操作装置101から入力したスキャン条件を制御装置102が制御信号に変換し、通信I/F103を介して、スキャナ104に送る。制御信号を受けたスキャナ104は、スキャン条件に応じて作動する。具体的には、X線管105、コリメータユニット107、寝台108が、スキャン条件に応じて作動する。
【0021】
X線検出器109は、X方向に数百〜1000程度のチャネルとZ方向に1〜数百程度の列のX線検出器素子が配列された2次元マトリックス状の検出器である。X線検出器109は、被写体を透過したX線を電気信号に変換する。データ収集回路110は、各X線検出器素子のデータを収集してA/D変換を行い、通信I/F111を介して画像処理装置112に送る。画像処理装置112は、投影データの補正処理、補正処理後の生データ(ローデータ)の作成、断面像の再構成をして、記憶装置113にローデータや再構成した断面像を保存し、表示装置114に断面像を表示する。
【0022】
X線検出器109のX方向の両端付近には、リファレンス補正データを計測する1〜数チャネルのX線検出器側リファレンス検出器115がある。はみ出し有無判定機能116は、X線検出器側リファレンス検出器115の出力データに基づいて、被写体のX線検出器側リファレンス検出器115へのはみ出しの有無を判定する。
【0023】
リファレンス補正データ変換係数算出機能117は、予め、X線管側リファレンス検出器106の出力データをX線検出器側リファレンス検出器115の出力データに変換するための変換係数を算出する。リファレンス補正データ変換係数記憶機能118は、リファレンス補正データ変換係数算出機能117によって算出された変換係数を記憶装置113に記憶する。リファレンス補正データ変換処理機能119は、記憶装置113からスキャン条件に対応する変換係数を読み出し、読み出された変換係数を用いてX線管側リファレンス検出器106の出力データからX線検出器側リファレンス検出器115の出力データに変換する。
【0024】
例えば、はみ出し有無判定機能116が、左右のX線検出器側リファレンス検出器115に対して“はみ出し有り”と判定した場合、リファレンス補正データ変換処理機能119は、記憶装置113から変換係数を読み出し、X線管側リファレンス検出器106の出力データ及び読み出された変換係数から、模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115の出力データを算出し、算出された模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115の出力データをリファレンス補正データとして画像処理装置112に送信する。
【0025】
図2では、画像処理装置112によって行われるローデータ作成の処理手順の一例を示している。ローデータ作成処理では、画像処理装置112は、公知のオフセット補正(S101)、Log変換(S102)、リファレンス補正(S103)などの処理を実施した後、エア補正(S104)を行う。また、S103のリファレンス補正時に被写体のはみ出しが有る場合、画像処理装置112は、はみ出し補正も実施する。
【0026】
エア補正は、空気に対する被写体の減弱率を算出する処理である。X線CT装置では、日常的にエア補正のためのデータとして、エア計測を実施している。エア計測では、空気をスキャンして減弱率の基準となるデータを収集する。画像処理装置112は、エア補正後、X線検出器109のリニアリティー補正などの各種補正(S105)を実施して、ローデータ作成処理を終了する。尚、図2はローデータ作成処理の一例を示したものであり、本発明における処理手順はこれに限ったことではない。
【0027】
次に、図3と図4を参照しながら、はみ出し有無判定機能216の判定処理について説明する。はみ出し有無判定処理では、X線CT装置は、左右のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データのオフセット補正後のデータを監視する。図1の左側のX線検出器側リファレンス検出器115の各計測ビューにおけるオフセット補正後のデータを“Lin_RDL(v)”とし、右側のX線検出器側リファレンス検出器115の各ビューにおけるオフセット補正後のデータを“Lin_RDR(v)”とする。“v”は計測ビューの変数を意味する。いま、管電圧をScan_TubeVol[kV]、管電流をScan_TubeCur[mA]、回転速度をScan_Rot[s]のスキャン条件によってスキャンしていると仮定する(以下、仮スキャン条件とする)。S201では、X線CT装置は、判定に使用する閾値ThLとThRを以下の式によって算出する。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、ThLは、Lin_RDL(v)に対するはみ出し判定の閾値である。ThRは、Lin_RDR(v)に対するはみ出し判定の閾値である。ARDL_aveは、仮スキャン条件に対応するエア計測時の左側のX線検出器側リファレンス検出器115の全計測ビューの平均値である。ARDR_aveは、エア計測時の右側のX線検出器側リファレンス検出器115の全計測ビューの平均値である。Aircal_TubeCurは、エア計測時の設定管電流値である。
【0030】
式(1)、(2)におけるRatio_thよりも前の項は、左右のX線検出器側リファレンス検出器115におけるエア計測のデータから仮スキャン条件における仮基準データを作成したことになる。この仮基準データにRatio_thという係数を乗算して、閾値を設定する。
【0031】
次に、S202において、X線CT装置は、仮スキャン条件によってスキャン中のLin_RDL(v)が、式(1)によって算出されたThL以下かどうかを各計測ビューのデータを用いて判定する。左側のX線検出器側リファレンス検出器115に被写体がはみ出した場合はオフセット補正後のデータLin_RDL(v)が減少するため、X線CT装置は、ThLを下回る場合を“左側はみ出し有り”と判定する。S202においてNoの場合、X線CT装置は、Lin_RDR(v)が式(2)によって算出されたThR以下かどうかを各計測ビューのデータを用いて判定する。更に、S203においてもNoの場合、X線CT装置は、S204へ進み、“はみ出し無し”と判定する。
【0032】
図4(a)には、“はみ出し無し”判定時のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データLin_RDL(v)とLin_RDR(v)を示している。“はみ出し無し”の場合、従来のリファレンス補正と同様に、Lin_RDL(v)とLin_RDR(v)をリファレンス補正データとして使用する。例えば、Lin_RDL(v)とLin_RDR(v) の平均値などを使用する。
【0033】
S203においてYesの場合、X線CT装置は、S205に進み、 “右側はみ出し有り”と判定する。S202においてYesの場合、X線CT装置は、S206に進み、S203と同様に、Lin_RDR(v)が式(2)によって算出されたThR以下かどうかを各計測ビューのデータを用いて判定する。S206においてNoの場合、X線CT装置は、S207に進み、“左側はみ出し有り”と判定する。
【0034】
図4(b)には、“片側はみ出し有り”判定時のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データLin_RDL(v)とLin_RDR(v)を示している。図4(b)は、被写体が左側のX線検出器側リファレンス検出器115にはみ出した場合の例である。“片側はみ出し有り”の場合、はみ出していない方のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データ(図4(b)ではLin_RDR(v))をリファレンス補正データとして使用する。“片側はみ出し有り”時の補正技術は公知のものを利用すれば良い為、説明を省略する。
【0035】
S206においてYesの場合、X線CT装置は、S208に進み、“両側はみ出し有り”と判定する。
【0036】
図4(c)には、“両側はみ出し有り”判定時のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データLin_RDL(v)とLin_RDR(v)を示している。“両側はみ出し有り”の場合、Lin_RDL(v)とLin_RDR(v)に被写体の計測ビュー方向の変動成分も入っているため、リファレンス補正データとして使用できない。そこで、本実施形態のX線CT装置では、予めX線管側リファレンス検出器106の出力データとX線検出器側リファレンス検出器115の出力データを計測し、変換係数を算出・記憶しておき、X線管側リファレンス検出器106の出力データと変換係数を用いて、疑似的にX線検出器側リファレンス検出器115のデータを算出し、リファレンス補正データとして使用する。尚、はみ出し有無判定処理は、図3に示す例に限るものではない。
【0037】
次に、図5〜図17を参照しながら、両側はみ出し時のリファレンス補正方法ついて説明する。
【0038】
図5は、図1のコリメータユニット107の部分を拡大した図である。X線CT装置は、X線管105の焦点から角度α[deg]のX線ビームを照射し、更に、コリメータユニット107の開口部に従って角度γ[deg]のファン状のX線ビームに絞った状態で被写体にX線ビームを照射する。
【0039】
X線管側リファレンス検出器106は、X線管105の焦点から照射されたX線ビームが直接検出できる位置に設置される。より具体的には、X線管側リファレンス検出器106は、常に被写体を通過しないX線ビームが検出できる位置に設置される。また、X線管側リファレンス検出器106は、被写体に照射されるX線ビームを遮らない位置に設置される。
【0040】
図5の例であれば、X線管側リファレンス検出器106は、被写体に照射されていないβ[deg]のX線ビームを検出できるような位置に配置される。X線管側リファレンス検出器106は、図5に示すように、例えば、コリメータユニット107の内部の下方に設置される。但し、X線管側リファレンス検出器106は、被写体に照射される角度γ[deg]外であれば、どこに設置されても良い。
【0041】
X線管側リファレンス検出器106がコリメータユニット107の外部に設置される場合、X線管側リファレンス検出器106やその周辺を通過するX線によって、無効被曝が生じる可能性がある。これは、本発明では、X線管側リファレンス検出器106にもX線が照射される必要があり、何ら対策を講じないと、X線がX線管側リファレンス検出器106やその周辺を通過し、ひいては、撮影に寄与しないX線が被写体等に照射されてしまうからである。そこで、X線管側リファレンス検出器106がコリメータユニット107の外部に設置される場合、例えば、X線管側リファレンス検出器106の背面(X線管105から見て背面)に、X線を遮蔽する為の遮蔽物を設けることが望ましい。
【0042】
また、既存の構造物を有効活用して無効被曝を回避するという意味では、X線管側リファレンス検出器106は、コリメータユニット107の内部に設置されることが望ましい。これは、一般に、コリメータユニット107のケーシングは、被写体に照射されるX線が通過する開口部を除き、X線が遮蔽される材質によって形成されており、X線管側リファレンス検出器106やその周辺を通過したX線を遮蔽するからである。
【0043】
ここで、コリメータユニット107には、前述したように、X線補償フィルタや線質硬化フィルタが格納されている。例えば、X線管側リファレンス検出器106がX線補償フィルタや線質硬化フィルタよりも上方に設置される場合、つまり、X線管側リファレンス検出器106が、X線補償フィルタや線質硬化フィルタを通過しないX線を検出する位置に設置される場合、X線管側リファレンス検出器106に入射するX線は、X線補償フィルタや線質硬化フィルタを通過したX線に比べて強度が大きくなり、X線管側リファレンス検出器106の出力データのS/N比が良い為、X線管側リファレンス検出器106として、感度が低い検出器を用いても問題がない。また、例えば、X線管側リファレンス検出器106がX線補償フィルタや線質硬化フィルタよりも下方に設置される場合、つまり、X線管側リファレンス検出器106が、X線補償フィルタや線質硬化フィルタを通過するX線を検出する位置に設置される場合、X線の線質という意味では、X線検出器側リファレンス検出器115に近い環境となり、予め算出しておく変換係数の数を減らすことができる。
【0044】
また、X線管側リファレンス検出器106は、1チャネル分だけ設置しても良いし、複数チャネル分設置しても良い。また、X線管側リファレンス検出器106は、チャネル方向だけでなく、列方向に並べて設置しても良い。
【0045】
また、X線管側リファレンス検出器106は、X線検出器側リファレンス検出器115と同様、X線管105の焦点を挟んで、左側と右側の両側に設置しても良い。この場合、例えば、左側のX線管側リファレンス検出器106の出力データを用いて、左側のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データを補正し、右側のX線管側リファレンス検出器106の出力データを用いて、右側のX線検出器側リファレンス検出器115の出力データを補正することによって、よりリファレンス補正の精度を上げることができる。
【0046】
また、リファレンス補正の精度を上げる為には、X線管側リファレンス検出器106の単位時間当たりの計測ビューレートは、X線検出器側リファレンス検出器115のレートと同じであることが望ましい。また、計測のタイミングも同じであることが望ましいため、X線検出器109の計測タイミングに使用するビュートリガーと同じ信号を使用することが望ましい。
【0047】
図6では、両側はみ出し時のリファレンス補正処理の流れを示している。S301では、X線CT装置は、スキャン条件に応じて、X線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後データから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後データに変換するための変換係数KL、KRを、記憶装置113から取得する。尚、変換係数KL、KRの算出方法については後述する。
【0048】
S302では、X線CT装置は、X線検出器側リファレンス検出器115の出力データを以下の式に従って算出する。
【0049】
【数2】

【0050】
ここで、Lin_RDU(v)は、各計測ビューにおけるX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータである。Calc_RDL(v)とCalc_RDR(v)は、算出された模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータである。
【0051】
図7では、左側の模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115のデータを算出する場合を示している。図7に示すように、X線CT装置は、予め算出しておいた変換係数KLとLin_RDU(v)から、模擬的な左側のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後データCalc_RDL(v)を算出する。右側のCalc_RDR(v)も同様に算出することができる。
【0052】
図8には、スキャン途中で、“はみ出し無し”の状態から、“左側はみ出し有り”、“両側はみ出し有り”に変化する場合のリファレンス補正データの切り替わりを示している。(a)“はみ出し無し”の状態では、Lin_RDL(v)とLin_RDR(v)をリファレンス補正データとして使用する。例えばLin_RDL(v)とLin_RDR(v)の平均値などを使用する。次に、(b)“左側はみ出し有り”の状態では、はみ出していないLin_RDR(v)をリファレンス補正データとして使用する。次に、(c)“両側はみ出し有り”の状態では、算出されたCalc_RDL(v)とCalc_RDR(v)をリファレンス補正データとして使用する。例えば、Calc_RDL(v)とCalc_RDR(v)の平均値などを使用する。
【0053】
以下、図9〜図17を参照しながら、変換係数KL、KRの算出方法の第1実施形態から第3実施形態を説明する。
【0054】
<第1実施形態>
第1実施形態では、工場出荷時における変換係数KL、KRの算出方法を説明する。第1実施形態は、図9のフローチャートに従って実施する。
【0055】
S401では、X線CT装置は、出荷調整に使用するエア補正のためのエア計測を実施する。考えられる計測条件としては、管電圧、焦点サイズ、X線検出器109のコリメーション、回転速度、X方向のX線強度を調整するX線補償フィルタ(複数種類ある場合)、被写体へ照射するX線の低エネルギー部分を除去線質硬化フィルタ(複数種類や無しの切り替え機能がある場合)、データ収集回路110によるA/D変換前に信号を増幅するDASゲインなどがある。
【0056】
S402では、X線CT装置は、S401において計測した際のX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータLin_RDU(v)の計測ビュー方向平均値であるAve_RDUと、左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータの計測ビュー方向平均値であるAve_RDLとAve_RDRから、以下の式に従ってKL_AirとKR_Airを算出する。
【0057】
【数3】

【0058】
ここでKL_AirとKR_Airは、エア計測のデータから算出する変換係数である。X線CT装置は、KL_AirとKR_Airをエア計測の条件ごとに算出し、図10に示すように、各スキャン条件におけるKL_AirとKR_Airのテーブルを、リファレンス補正データ変換係数記憶機能118によって、記憶装置113に記憶する。
【0059】
S403では、X線CT装置は、必要な条件において収集完了か否かを判定し、収集完了であれば、S404に進む。
【0060】
S402におけるエア計測は、エア補正のためのエア計測であり、通常はデータがオーバーフローしない程度の管電流値のみで計測する。しかしながら、実際に被写体をスキャンする場合は、あらゆる管電流値でスキャンする。そこで、エア補正のためのエア計測で計測した管電流以外に対応するために、S404では、X線CT装置は、X線管側リファレンス検出器106とX線検出器側リファレンス検出器115の管電流に対するリニアリティー特性の差を校正するために、変換係数の管電流依存性を算出し、記憶装置113に記憶する。
【0061】
X線管側リファレンス検出器106とX線検出器側リファレンス検出器115の管電流に対するリニアリティー特性が異なる理由としては、X線管側リファレンス検出器106がX線検出器側リファレンス検出器115と同じ検出器ではなく、汎用的な検出器の可能性も考慮したためである。尚、前述したように、X線管側リファレンス検出器106が汎用的な検出器であっても、ビューレートや計測タイミングはX線検出器側リファレンス検出器115と同じものが望ましい。
【0062】
また、X線管側リファレンス検出器106とX線検出器側リファレンス検出器115が同じ検出器だとしても、両検出器とX線管105の間の透過物(補償フィルタの形状や線質硬化フィルタ)によって入射するX線の線質(エネルギー)が異なると、両検出器のリニアリティー特性が異なる場合が考えられる。つまり、エネルギーが変化する条件である管電圧、X線補償フィルタ、X線硬化フィルタの条件においてリニアティー特性をおさえておく必要がある。リニアリティー特性は、検出器などを交換しない限り変化しないため、工場出荷時に算出・記憶しておけば、その後は同じデータが使用可能である。
【0063】
S404では、X線CT装置は、エネルギーに関する条件(管電圧、X線補償フィルタ、X線硬化フィルタ)別に、設定可能な管電流値の中でN+1点以上の異なる管電流値でエア計測する。X線CT装置は、計測されたX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータLin_RDU(v)の計測ビュー方向平均値であるAve_RDUと、左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータ計測ビュー方向平均値であるAve_RDLとAve_RDRから、式(5)、(6)に示すKL_mAとKR_mAを各計測管電流値Scan_TubeCurにおいて算出する。そして、X線CT装置は、算出されたKL_mA、KR_mAと計測管電流値Scan_TubeCurを用いて、以下のようにN次の多項式で近似する。
【0064】
【数4】

【0065】
ここで、KL_mAとKR_mAは、管電流に対するX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータへの管電流リニアリティー変換係数である。CL(R)、CL(R)N-1、…CL(R)は、多項式近似の各次の係数である。
【0066】
X線CT装置は、こうして算出された多項式のN+1個の係数を、図11に示すように、各スキャン条件別に記憶装置113に記憶する。尚、多項式近似は一例であり、指数関数やその他の近似関数等を用いても良い。X線CT装置は、変換係数の管電流リニアリティーを校正するための近似関数のパラメータを算出し、算出された近似関数のパラメータを各スキャン条件別に記憶装置113に記憶する。
【0067】
以上の通り、第1実施形態では、X線CT装置は、工場出荷時におけるX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータへの変換係数を算出し、記憶する。実際に被写体をスキャンしてX線検出器側リファレンス検出器115の両側に被写体がはみ出した場合、X線CT装置は、スキャン時のX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータへの変換係数KLとKRを、以下の式で算出する。
【0068】
【数5】

【0069】
X線CT装置は、こうして算出されたKLとKRを式(3)、(4)に代入し、各計測ビューの模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後データCalc_RDL(v)とCalc_RDR(v)を算出し、両側はみ出し時のリファレンス補正データとして使用する。
【0070】
第1実施形態によれば、大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を行うことができる。特に、工場出荷時に変換係数を算出しておくので、工場出荷後から直ちに実施することができる。
【0071】
<第2実施形態>
第2実施形態では、病院(設置施設)において行われるデイリーのエア計測時における変換係数KL、KRの算出方法を説明する。第2実施形態は、第1実施形態に加えて実施することによって、一層精度の高い変換係数を算出することが可能となる。第2実施形態は、図12のフローチャートに従って実施する。
【0072】
S501では、X線CT装置は、エア補正のためのエア計測を毎朝検査開始前に実施する。このエア計測は第1実施形態の工場出荷時のS401のエア計測と同じである。X線検出器109のX線に対する感度が周辺環境の影響で経時的に変化するため、基準データを算出するためのエア計測はデイリーで実施しているのが通例である。
【0073】
この感度変化は、X線管側リファレンス検出器106や左右のX線検出器側リファレンス検出器115においても同じことが言える。そこで、S502では、X線CT装置は、S501において計測されたエアデータから再度変換係数KL_Air とKR_Airを算出し、図10に示すテーブルを更新する。そして、S503では、X線CT装置は、必要な条件において収集完了か否かを判定し、収集完了であれば、処理を終了する。
【0074】
尚、施設によっては検査に必要な条件のみエア計測する場合も考えられる。その場合は計測した条件のみを更新する。更新後に被写体をスキャンして左右のX線検出器側リファレンス検出器115に被写体がはみ出した場合、第1実施形態と同様に、式(9)、(10)に従ってX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータへの変換係数KLとKRを算出し、式(3)、(4)に代入して、各計測ビューの模擬的なX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後データCalc_RDL(v)とCalc_RDR(v)を算出して、両側はみ出し時のリファレンス補正データとして使用する。
【0075】
第2実施形態によれば、大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を行うことができる。特に、院(設置施設)において行われるデイリーのエア計測とともに変換係数を更新するので、周辺環境の経時的な変化の影響を抑えることができる。
【0076】
<第3実施形態>
第3実施形態では、被写体のスキャン中のデータに基づく変換係数KL、KRの算出方法を説明する。第3実施形態は、図13又は図16のフローチャートに従って実施する。
【0077】
第3実施形態では、X線CT装置は、実際の被写体をスキャン中に、被写体がはみ出していない計測ビューのX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータLin_RDU(v)と左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータLin_RDL(v)・Lin_RDR(v)から変換係数を算出する。このように、実際のスキャン中のLin_RDU(v)と Lin_RDL(v)・Lin_RDR(v)の相関性を得ることによって、より精度の高い変換係数を得ることが可能となる。これは、温度などの検出器周辺の環境状態がスキャン時と同じ状態のデータが得られるからである。また、被写体や寝台108はスキャン面内にあるため、左右のX線検出器側リファレンス検出器115のデータに被写体からの散乱線による出力増加の可能性も考えられる。以上の点から、スキャン中に算出される変換係数を用いることによって、実際のスキャンにより適したリファレンス補正データを算出することができると言える。
【0078】
S601では、X線CT装置は、スキャン開始後、左右のX線検出器側リファレンス検出器115の各計測ビューにおいて、Lin_RDL(v)・Lin_RDR(v)をモニタリングする。
【0079】
S602では、X線CT装置は、左側のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のLin_RDL(v)がはみ出し判定の閾値ThL以下かどうかを判定する。S602においてNoの場合(左側がはみ出していない場合)、S603に進み、右側のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のLin_RDR(v)がはみ出し判定の閾値ThR以下かどうかを判定する。S603においてもNoの場合、X線CT装置は、S604に進み、
“はみ出し無し”と判定し、その計測ビューにおけるX線管側リファレンス検出器106のオフセット補正後のデータから左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータへの変換係数KL_scan(v)とKR_scan(v)を以下の式に従って算出する。
【0080】
【数6】

【0081】
X線CT装置は、算出されたKL_scan(v) とKR_scan(v)を、記憶装置113に記憶しておく。
【0082】
S603において、Lin_RDR(v)がはみ出し判定の閾値ThR以下の場合、X線CT装置は、S606に進み、“右側はみ出し有り”と判定し、S607において“はみ出し無し”の左側のKL_scan(v)を算出し、記憶装置113に記憶する。
【0083】
S602において、左側のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のLin_RDL(v)がはみ出し判定の閾値ThL以下の場合、X線CT装置は、S608に進み、右側のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のLin_RDR(v)がはみ出し判定の閾値ThR以下かどうかを判定する。S608においてNoの場合、X線CT装置は、S609に進み、“左側はみ出し有り”と判定し、式(12)を用いてはみ出していない右側のKR_scan(v)を算出し、記憶装置113に記憶する。
【0084】
S608においてYesの場合、X線CT装置は、S611に進み、“両側はみ出し有り”と判定する。X線CT装置は、S605、S607、S610、及びS611のいずれの処理を行った後も、S612に進み、スキャン終了かどうかを判定し、終了していなければS613に進み、次の計測ビューについてS601から処理を繰り返し実施する。S612においてスキャン終了と判定された場合、X線CT装置は、S614に進み、記憶済のKL_scan(v)とKR_scan(v)の平均変換係数KL_scanaveとKR_scanaveを算出し、記憶装置113に記憶する。
【0085】
図14は、図13に示す処理の算出例を示している。図14では、比較的大きな楕円状の被写体を撮影していると仮定する。横軸が計測ビュー、縦軸が左右のX線検出器側リファレンス検出器115のオフセット補正後のデータ値とする。図中の2本の実線は、Lin_RDL(v)とLin_RDR(v)であり、計測ビュー方向の変化を示している。
【0086】
計測開始直後の(a)“はみ出し無し”の領域では、図13のS605に示すように、X線CT装置は、KL_scan(v)とKR_scan(v)を算出し、記憶装置113に記憶する。次の(b)“左側はみ出し”では、左側のX線検出器側リファレンス検出器115に被写体がはみ出した状態となっているので、X線CT装置は、はみ出していない右側の変換係数KR_scan(v)を算出し、記憶装置113に記憶する。次の(c)“両側はみ出し”では、完全に両側ではみ出した状態となっているため、X線CT装置は、変換係数を算出しない。次の(d)“右側はみ出し”では、右側のみはみ出した状態となっているため、X線CT装置は、左側の変換係数KL_scan(v)を算出し、記憶装置113に記憶する。そして、(a)“はみ出し無し”の状態に戻る。こうして算出された変換係数の平均変換係数KL_scanaveとKR_scanaveは、図15に示すテーブルに記憶される。以下の式によって算出されたCalc_RDL(v)とCalc_RDR(v)は、(c)“両側はみ出し”時のリファレンス補正データとして使用する。
【0087】
上記では、スキャン終了後にKL_scanaveとKR_scanaveを算出・保存する例を示したが、X線を連続的に照射し、且つ被検体を載せた寝台108を動かしながらスキャンするヘリカルスキャン時においては、KL_scanaveとKR_scanaveを1回転毎に算出し、同じ回転中の両側はみ出し時のリファレンス補正データとして使用してもよい。または、図2に示したローデータの処理を、各ビュー計測直後から処理を開始するようなリアルタイム処理を重視する場合は、両側はみ出し有りと判定される前までのKL_scanaveとKR_scanaveを算出し、その後の両側はみ出し有りと判定された場合のリファレンス補正データとして使用してもよい。図14を例にとると、(a)のはみ出し無し時のKL_scan(v)とKR_scan(v)や、(b)の左側はみ出し時のKR_scan(v)からKL_scanaveとKR_scanaveを算出し、(c)の“両側はみ出し”時のリファレンス補正データとして使用することで、リアルタイム処理を可能とする。
【0088】
【数7】

【0089】
以上の通り、被写体のスキャンを固定管電流で実施した場合、X線CT装置は、被写体が固定の管電流によってスキャンされている間に、被写体がX線検出器側リファレンス検出器115にはみ出していない1又は複数の計測ビュー群を特定し、スキャン終了後、はみ出していないと特定された計測ビュー群におけるX線管側リファレンス検出器106の出力データに基づいて、計測ビュー群の平均の変換係数を算出し、算出された計測ビュー群の平均の変換係数を記憶する。そして、X線CT装置は、記憶されている計測ビュー群の平均の変換係数を用いて、両側はみ出し時のリファレンス補正データを算出する。
【0090】
以上の説明は、被写体のスキャンを固定管電流で実施した場合である。一方、被写体がはみ出すような部位は体幹部であり、特に腹部の可能性が高い。体幹部は近年のX線CT装置であれば、体軸方向の減弱量に応じて管電流変調を制御する管電流自動制御でスキャンすることが考えられる。
【0091】
図16は、管電流自動制御を使用した場合のスキャン中の変換係数算出処理を示している。図13に示す固定管電流によるスキャン中の変換係数算出処理と異なる点のみについて説明する。X線CT装置は、S702、S703、及びS708において使用するはみ出し判定のための閾値ThLとThRについて、スキャン計画時に設定する管電流値から計測ビュー毎に算出する。また、X線CT装置は、S705、S707、及びS710において、変換係数を算出し、記憶装置113に記憶する場合、そのビューにおける管電流値Scan_TubeCurも記憶装置113に記憶する。そして、X線CT装置は、スキャン終了後、記憶装置113に記憶されている左側の変換係数KL_AEC(v)と管電流値Tube_Curの関係を以下のようなM次の多項式によって近似する。また、X線CT装置は、右側のKR_AEC(v)についても同様に、以下のようなM次の多項式によって近似する。
【0092】
【数8】

【0093】
X線CT装置は、こうして算出されたKL_AECとKR_AECのM+1個の近似係数を、図17に示すテーブルに記憶する。尚、多項式近似は一例であり、指数関数やその他の近似関数等を用いても良い。X線CT装置は、設定管電流値と計測ビュー群の変換係数との関係を近似するための近似関数のパラメータを算出し、算出された近似関数のパラメータを記憶する。
【0094】
そして、X線CT装置は、両側はみ出し時の管電流値Scan_TubeCurからKL_AECとKR_AECを式(15)、(16)によって算出し、以下の式によって算出されるCalc_RDL(v)とCalc_RDR(v)を、両側はみ出し時のリファレンス補正データとして使用する。
【0095】
上記では、スキャン終了後にM+1個の近似係数(CSLM、CSLM-1、・・・、CSL0)を算出・保存する例を示したが、ヘリカルスキャン時においては、M+1個の近似係数を1回転毎に算出して、M+1個の近似係数と式(15)、(16)のようなM次の多項式近似からKL_AECとKR_AECを算出し、同じ回転中の両側はみ出し時のリファレンス補正データとして使用してもよい。または、ローデータのリアルタイム処理を重視する場合は、両側はみ出し有りと判定されるビューまでのKL_AEC(v)とKR_AEC(v)と管電流値Scan_TubeCurからM+1個の近似係数を算出しておき、その後の両側はみ出し時の管電流値Scan_TubeCurとM+1個の近似係数による式(15)、(16)のようなM次の多項式近似からKL_AECとKR_AECを算出し、リファレンス補正データとして使用してもよい。
【0096】
【数9】

【0097】
以上の通り、管電流自動制御を使用した場合、X線CT装置は、被写体が管電流自動制御によってスキャンされている間に、被写体がX線検出器側リファレンス検出器115にはみ出していない1又は複数の計測ビュー群を特定し、スキャン終了後、はみ出していないと特定された計測ビュー群におけるX線管側リファレンス検出器106の出力データに基づいて、設定管電流値ごとの計測ビュー群の変換係数を算出し、更に、設定管電流値と計測ビュー群の変換係数との関係を近似するための近似関数のパラメータを算出し、算出された近似関数のパラメータを記憶する。そして、X線CT装置は、記憶されている近似関数のパラメータを用いて、両側はみ出し時のリファレンス補正データを算出する。
【0098】
尚、スキャン計測中全ての計測ビューにおいて両側はみ出し有りの場合は、第3実施形態の手法は適用不可のため、第1実施形態や第2実施形態の方法による実施となる。
【0099】
第3施形態によれば、大部分の計測ビューにおいて被写体がリファレンス検出器からはみ出した場合においても、精度の高いリファレンス補正を行うことができる。特に、スキャン中のデータに基づいて算出される変換係数を用いるので、実際のスキャンにより適したリファレンス補正データを算出することができる。
【0100】
以上の実施例により、大きな被写体が多くの計測ビューにおいてX線検出器側リファレンス検出器115にはみ出した場合でも、精度の高いリファレンス補正が可能となる。また、計測FOVが小さく被写体がはみ出す可能性が高くなるX線CT装置においても、同様の効果がある。尚、前述の説明では、X線管側リファレンス検出器106や左右のX線検出器側リファレンス検出器115のデータをオフセット補正後のデータで説明したが、log変換後のデータでも実施可能である。また、前述の説明では、スキャン時の両側はみ出しについて説明したが、スキャン計画のためのスキャノグラム撮影時に対しても適用可能である。
【0101】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るX線CT装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0102】
101………操作装置
102………制御装置
103………通信I/F
104………スキャナ
105………X線管
106………X線管側リファレンス検出器
107………コリメータユニット
108………寝台
109………X線検出器
110………データ収集回路
111………通信I/F
112………画像処理装置
113………記憶装置
114………表示装置
115………X線検出器側リファレンス検出器
116………はみ出し有無判定機能
117………リファレンス補正データ変換係数算出機能
118………リファレンス補正データ変換係数記憶機能
119………リファレンス補正データ変換処理機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線管と、前記X線管と対向する位置に設置され、X線を検出するX線検出素子が配列されたX線検出器と、前記X線検出器の端部に設置されているX線検出器側リファレンス検出器と、前記X線管から照射されたX線が直接検出可能な位置に設置されるX線管側リファレンス検出器と、前記X線管、前記X線検出器、前記X線検出器側リファレンス検出器、及び前記X線管側リファレンス検出器が搭載されたスキャナと、被写体が載置され、スキャン中に前記スキャナの開口部を通過する寝台と、を備えるX線CT装置であって、
前記X線管側リファレンス検出器の出力データを前記X線検出器側リファレンス検出器の出力データに変換するための変換係数を算出する変換係数算出手段と、
前記変換係数算出手段によって算出された前記変換係数を記憶する変換係数記憶手段と、
前記変換係数記憶手段からスキャン条件に対応する前記変換係数を読み出し、読み出された前記変換係数を用いて前記X線管側リファレンス検出器の出力データから前記X線検出器側リファレンス検出器の出力データに変換する変換処理手段と、
を備えることを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記変換係数算出手段は、出荷時に実施される第1エア計測における前記X線管側リファレンス検出器の出力データに基づいて、前記第1エア計測の条件毎の前記変換係数を算出し、
前記変換係数記憶手段は、前記変換係数算出手段によって算出された前記第1エア計測の条件毎の前記変換係数を記憶する
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記変換係数算出手段は、設置施設において実施される第2エア計測における前記X線管側リファレンス検出器の出力データに基づいて、前記第2エア計測の条件毎の前記変換係数を算出し、
前記変換係数記憶手段は、前記変換係数算出手段によって算出された前記第2エア計測の条件毎の前記変換係数を用いて、前記第1エア計測の条件毎の前記変換係数を更新する
ことを特徴とする請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記変換係数算出手段は、前記変換係数の管電流リニアリティーを校正するための第1近似関数のパラメータを算出し、
前記変換係数記憶手段は、前記変換係数算出手段によって算出された前記第1近似関数のパラメータを記憶する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のX線CT装置。
【請求項5】
スキャン中に前記X線検出器側リファレンス検出器に対する前記被写体のはみ出しを判定する判定手段、
を更に備え、
前記判定手段は、前記被写体が固定の管電流によってスキャンされている間に、前記被写体が前記X線検出器側リファレンス検出器にはみ出していない1又は複数の第1計測ビュー群を特定し、
前記変換係数算出手段は、スキャン終了後、前記判定手段によって特定された前記第1計測ビュー群における前記X線管側リファレンス検出器の出力データに基づいて、前記第1計測ビュー群の平均の前記変換係数を算出し、
前記変換係数記憶手段は、前記変換係数算出手段によって算出された前記第1計測ビュー群の平均の前記変換係数を記憶する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線CT装置。
【請求項6】
スキャン中に前記X線検出器側リファレンス検出器に対する前記被写体のはみ出しを判定する判定手段、
を更に備え、
前記判定手段は、前記被写体が管電流自動制御によってスキャンされている間に、前記被写体が前記X線検出器側リファレンス検出器にはみ出していない1又は複数の第2計測ビュー群を特定し、
前記変換係数算出手段は、スキャン終了後、前記判定手段によって特定された前記第2計測ビュー群における前記X線管側リファレンス検出器の出力データに基づいて、設定管電流値ごとの前記第2計測ビュー群の前記変換係数を算出し、更に、前記設定管電流値と前記第2計測ビュー群の前記変換係数との関係を近似するための第2近似関数のパラメータを算出し、
前記変換係数記憶手段は、前記変換係数算出手段によって算出された前記第2近似関数のパラメータを記憶する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−102837(P2013−102837A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247078(P2011−247078)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】