説明

YBCO被覆において高い臨界電流密度の改良された構造体

超伝導性フィルム構造体に対する臨界電流容量の改良が開示され、個々の耐高温バリウム−銅酸化物層がCeO2等の如き金属酸化物材料の薄層によって分離された、例えば多層耐高温バリウム−銅酸化物構造体の使用が包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米国エネルギー局によって与えられた契約番号W−7405−ENG−36の下に政府の支援により成された。
【0002】
本発明は超伝導性フィルムテープにおいて高い臨界電流密度(critical current density)を達成するための複合構造体に関する。かかる複合構造体は多層構造体又は高い臨界電流の超伝導性テープ用の構成を包含する。
【背景技術】
【0003】
複合構造体の初期の開発以来、被覆した導体の研究は、全体の臨界電流担持容量を増大しながら、増大した長さの材料を成形するのに集中していた。種々の研究グループは被覆した導体を成形する幾つかの技術を開発した。該技術を被覆した導体に用いたにも拘らず、金属基材上に高い超伝導電流(supercurrent)担持能力を有する高度に組織化した超伝導性厚膜(superconducting thick film)、例えばYBa2Cu3O7−x(YBCO)を得る目標は未解決である。被覆した導体に超伝導性厚膜を用いることは論理的である。何故ならば、全臨界電流と工学的な臨界電流密度(全臨界電流とテープの断面積との比率として定義した)との両方は超伝導性フィルムの厚みと直接相関するからである。
【0004】
YBCOフィルムの臨界電流密度は単結晶ウェファー又は多結晶質ニッケル基質合金基材の何れかにおけるフィルム用の膜厚(film thickness)の関数であることは或る時期知られていた(Foltyn等のAppl. Phys. Lett., 63, 1848〜1850頁(1993)参照)。より高い臨界電流密度は約100〜約400ナノメーター(nm)の範囲のYBCO膜厚で達成される。他方、臨界電流密度はYBCO膜厚が増大するにつれて減少する傾向がある。臨界電流密度は、主としてYBCOフィルムの余り優れていない平面内組織に因り、多結晶質金属基材上にYBCOについてはより低い。金属基材上に通常の加工条件を用いて約2μmを超えてより以上のYBCO材料を添加することであった試みは全体の超伝導電流担持能力に寄与しない。
【0005】
米国特許第6,383,989号明細書は、YBCOの厚膜のJcがYBCOと酸化セリウムの如き絶縁体の中間層材料又はサマリウム−BCOの如き異なる超伝導性材料との交互層を包含する多層構造体の使用によって改良し得ることを証明した。これらの中間層材料の両方共Jc値を上昇させるのに役立つけれども(Appl. Phys. Lett. (2002) 80 pp1601~1603参照)、Ic値は数百A/cm−幅を越えなかった。更には、Jcの改良は匹敵しうる単一層のYBCOフィルムには存在しない特性である多層構造体のフィルム平滑化効果の特性から得られることが決定された。続いて、その時に使用している荒い基材は平滑化の必要性を生起することが決定された。より平滑な基材の開発(Kreiscott等の米国特許出願セリアルNo.10/624,350“被覆した導体用に高度に平滑な基材テープを製造するのに高い電流密度の電解研磨”)はかかる多層により平滑化効果の必要性を終了させた。米国特許第6,383,989号に開示される多層構造体における別の因子は電流がフィルムのz方向を進行できない即ち酸化セリウムとYBCOとの多層を横切って進行できないことである。これによって酸化セリウムによって分離された種々のYBCO層の電流測定を可能とするパターン化過程(patterning process)を用いることを必要とされる。
【0006】
超伝導性テープの製造における最近の進歩にも拘らず、臨界電流特性の大きさには連続した改良が望ましいままである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的及び他の目的を達成するのに且つここに具体的に広く記載される通り、本発明は単結晶基材、非晶質基材及び多結晶質基材よりなる群から選ばれた基材であってその上に少なくとも1枚の配向層を含有する基材;及び
前記の少なくとも1枚の配向層上に載置した多層超伝導構造体であって、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料の少なくとも2層を含有し、その際各々の層は約100 nm〜約1000 nmの厚みを特徴とし、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料の層の各対は該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料と化学的且つ構造上の相溶性を有する電導性の金属酸化物材料の1層によって分離されており、該金属酸化物材料層は約3nm〜約60nmの厚みを特徴とし、これによって多層超伝導構造体を通してz−方向に電気的接触が存在し、該多層超伝導構造体は少なくとも1.0ミクロンの耐高温超伝導材料層の全体を合した厚みを有し且つ500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcを有することを特徴とする多層超伝導構造体;
を含有してなる物品を提供する。
【0008】
本発明の1つの具体例においては、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の複数層同志間の電導性金属酸化物材料は酸化セリウムである。
【0009】
本発明の別の具体例においては、少なくとも1枚の配向層上に直接設けた耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料層は約400nm〜約800nmの厚みを有し、少なくとも1枚の配向層上に直接には設けていない耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の次後の層は約100nm〜約400nmの厚みを有する。
【0010】
本発明の別の要旨においては、少なくとも1.0ミクロンの耐高温超伝導性材料の全体を合した厚みと500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcとを含有することを特徴とする耐高温超伝導性物品の製造方法であって、該物品は、単結晶基材、非晶質基材及び多結晶質基材よりなる群から選んだ基材であってその上に少なくとも1枚の配向層を有する基材と、少なくとも1枚の配向層上に設けた多層超伝導構造体とを含有してなり、該多層超伝導性構造体は耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の少なくとも2層を含有し、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の複数層の各対は該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料と化学的且つ構造上の相溶性を有する電導性金属酸化物材料の1層によって分離されている、耐高温超伝導性物品の製造方法において、次の工程;
(1)前記基材の配向層上に耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の1層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性(HTS)材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有するものとし;
(2)HTS材料の第1の層上に電導性金属酸化物の1層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該電導性金属酸化物は約3nm〜約100nmの厚みを有するものとし;
(3)該電導性金属酸化物層上に耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の次後の層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有するものとし;及び
(4)HTSの次後の層上にCeO2と耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料との複数層の追加の少なくとも1対を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、その際追加の対のCeO2層は耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の前もって沈着させた1層と追加の対の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料との間にあるものとし、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有し、電導性金属酸化物は約3nm〜約100nmの厚みを有するものとし、これによって得られる耐高温超伝導性物品は、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料と電導性金属酸化物との沈着が約770℃以上の温度で行われるIc値よりも更に良いことを特徴とするようなIc値である、500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcを有して形成されるものであることからなる、耐高温超伝導性物品の製造方法が提供される。
【0011】
添附図面を参照するに、図1は本発明の具体例による複合多層YBCOフィルムの一般的な構造を示す。
【0012】
図2は膜(フィルム)厚の関数として単層YBCOフィルムの電流担持容量(臨界電流及び電流密度)のプロット図を示す
図3は臨界電流密度対YBCO及びCeO2の全厚(total thickness)例えば各々が75.4K及び自己電磁界(self field)で測定したIBAD−MgO−Ni合金基材上に設けたYBCO単層(図中の円形);酸化セリウム中間層によって分離したYBCO4層(図中の菱形)及び酸化セリウム中間層によって分離したYBCO6層(図中の四角形)を有する全厚のプロット図を示す。
【0013】
本発明は耐高温超伝導性ワイヤ又はテープ(high temperature superconducting wire or tape)に関し且つかかるワイヤ又はテープを形成するのに耐高温超伝導性フィルム(膜)の使用に関する。本発明においては、超伝導性材料は一般にバリウム銅酸化物耐高温超伝導体である。例えばサマリウム、ジスプロシウム、エルビウム、ネオジミウム、ユーロピウム、ホルミウム、イッテルビウム及びガドリニウムを含めて多数の希土類金属が耐高温バリウム銅酸化物超伝導体を形成するのに知られている。イットリウムは耐高温バリウム銅酸化物超伝導体(YBCO)、例えばYBa2Cu3O7−δ、Y2Ba4Cu7O14+x又はYBa2Cu4O8を形成するのに好ましい金属であるが、この基本的な超伝導材料の別の小さな変更も用い得る。イットリウムと別の希土類金属との組合せ体も耐高温バリウム銅酸化物超伝導体として用い得る。別の超伝導性材料例えばビスマス及びタリウム基質の超伝導体材料を時として用い得る。YBa2Cu3O7−δが超伝導性材料として好ましい。
【0014】
耐高温超伝導性材料に選択した粒状材料を添加することはフラックス ピンニング(flux pinning)特性を促進させ得る。かかる粒状材料はバリウムジルコネート、イットリウムバリウムジルコネート、酸化イットリウム等を有し得る。該粒子は約5ナノメーター〜約100ナノメーターの寸法であるのが好ましく、一般に約1〜約20重量%の量で存在する。
【0015】
本発明の耐高温超伝導性フィルムにおいては、基材は例えば何れかの非晶質材料又は多結晶質材料であり得る。多結晶質材料には金属又はセラミックの如き材料があり得る。かかるセラミックには例えば多結晶質の酸化アルミニウム又は多結晶質の酸化ジルコニウムの如き材料があり得る。好ましくは、基材はニッケル、銅等の如き多結晶質の金属であり得る。種々のハステロイ金属の如きニッケル含有合金は、銅、バナジウム及びクロム含有合金と同様に基材として有用である。超伝導性材料が結局沈着される金属基材は得られる物品が可撓性であるように斟酌するのが好ましくこれによって超伝導性物品(例えばコイル、モーター又は磁石)を成形し得る。別の基剤例えばローリング補助二軸構造の基材(rolling assisted biaxially textured substrates)(RABiTS)もまた使用し得る。
【0016】
電流担持容量の尺度は「臨界電流」(critical current)と呼ばれ、アンペア数(A)で測定したIcと略称され、「臨界電流密度」はアンペア数/平方センチ(A/cm2)で測定したJcと略称される。幅で常態化した値(width normalized value)として、Icは超伝導性材料の寸法を記載する幅と共にアンペア数/センチ−幅(A/cm−幅)で記録し得る。この様にして、数値は種々の試料間でより有意義に対比し得る。
【0017】
本発明は被覆した導体用のYBCOフィルムの電流担持全能力を高めることに関する。本発明は臨界電流がフィルムの厚みの増大と共に直線的に増大しない、被覆した導体で用いた単層フィルムの限界を除去する多層構造を用いる。
【0018】
本発明はYBCOフィルムの電流担持全能力を高めるのに図1に示した構造を提供する。連続する超伝導性層例えばYBCO層同志の間に中間層として電導性の金属酸化物材料を用いる。この過程は所望に応じて又は必要に応じて何回も反復し得る。この多層方式は表面のピンニング(pinning)が超伝導性フィルムの臨界電流を高めるのに追加の役割を演じ得るより多くの表面積を提供する。中間層として用いた金属酸化物材料は化学的に且つ構造上YBCOと相溶性であるべきであり、本発明で用いた厚みで電導性を有するべきであり、一般には例えば酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、ストロンチウムチタネート(SrTiO3)、ストロンチウムルテニウムオキシド(SrRuO3)、酸化ハフニウム(HfO2)、イットリアで安定化したジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル、酸化サマリウム、酸化ユーロピウム、ランタンアルミニウムオキシド(LaAlO3)、ランタンストロンチウムコバルトオキシド(La0. 5Sr0. 5CoO3)、ネオジム銅オキシド、カドミウム銅オキシド、ユーロピウム銅オキシド、及びネオジムガドリニウムオキシド(NdGaO3)から選択できる。好ましくは金属酸化物材料はCeO2、Y2O3、SrRuO3又はSiTiO3であり、より好ましくは金属酸化物材料はCeO2である。
【0019】
金属酸化物層の厚みは一般に約3ナノメーター(nm)〜約60nmであり、より好ましくは約5nm〜約60nmであり、最も好ましくは約5nm〜約40nmである。好ましくは、金属酸化物層の厚みは電流が集合体の頂部から底部に進行し得る即ち多層超伝導性構造体を通ってz−方向に進行し得るようなものであり、これによって全膜厚に亘って電気的接続を得るのに種々の層のパターン化(patterning)の必要性を解消する。
【0020】
YBCOの個々の複数層は約100nm(0.1μ)〜約1000nm(1μ)の範囲の一般的な厚みを有することができ、より好ましくは約100nm(0.1μ)〜約600nm(0.6μ)の範囲の厚みを有し得る。1つの具体例においては、YBCOの第1の層の厚みをYBCOの次後の層よりも厚く沈着させる。例えば、第1のYBCO層を約400nm(0.4μ)〜約800nm(0.8μ)の厚みで沈着でき、然るに次後のYBCO層を約100nm(0.1μ)〜約400nm(0.4μ)の厚みで沈着できる。多層構造体に添加したYBCOのより薄い複数層の多数を添加するとより良いIc及びJc値が得られる。
【0021】
多層フィルムの全厚は約1μより大きく、好ましくは約1.5μより大きく、より好ましくは約3μより大きい。全厚は例えば約10μまでの所望に応じて高く及び得るが、一般には約2μ〜約5μである。多層の種々の層は選択した用途に対して異なる厚みを有し得る。
【0022】
耐高温超伝導性バリウム−銅酸化物の種々の組合せを種々の層で用い得る。前記の如く、耐高温超伝導性バリウム−銅酸化物は一般にイットリウム又は周期表からの何れか適当な希土類金属例えばサマリウム、ジスプロシウム、エルビウム、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、イッテルビウム及びガドリニウムを含有できる。若干の場合、耐高温超伝導性バリウム−銅酸化物はイットリウム及び希土類金属の1個又はそれ以上を含有できあるいは希土類金属の2個又はそれ以上含有できる。イットリウムは周知のYBCOを形成するのに耐高温超伝導性バリウム−銅酸化物に好ましい金属である。
【0023】
多層YBCOフィルムは、テンプレート(template)としてイオンビームで補助した沈着(deposition)により沈着させたMgO(IBAD−MgO)を用いて多結晶質のNi−合金上に沈着させた。テンプレートとしてIBAD−YSZも用い得る。多層のYBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO構造をIBAD−MgO/Ni−合金基材上に沈着させ、その際YBCO層の厚みは約0.75μでありCeO2層の厚みは約50nmである。別の多層YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO構造をIBAD−MgO/Ni−合金基材上に沈着させ、その際YBCO層の厚みは約0.55μであり、CeO2層の厚みは約40nmである。両者の場合、電流は多層集合体を横切って又は通ってz−方向で測定できる。
【0024】
YBCO層は例えばパルスレーザー沈着(pulsed laser deposition)により又は複数の方法により例えば同時蒸発、e−ビーム蒸発及び賦活化した反応性蒸発を含めての蒸発、マグネトロン スパッター、イオン ビームスパッター及びイオン補助スパッターを含めてのスパッター法、カソードアーク沈着、化学的な蒸着、有機金属の化学的な蒸着、プラズマで促進される化学的蒸着、分子ビームのエピタクシー、ゾル−ゲル法、溶液法及び液相エピタクシーにより沈着させ得る。所望の超伝導性を得るには若干の沈着技術に対しては沈着後のアニール過程が必要である。
【0025】
パルスレーザー沈着においては、沈着すべき材料の粉末を先ず高圧下に一般には1平方インチ当り約1000ポンド以上(PSI)で円盤又はペレット状に加圧でき、次いで加圧した円盤を酸素雰囲気中で又は酸素含有雰囲気中で約950℃の温度で少なくとも約1時間好ましくは約12〜約24時間焼結する。パルス化したレーザー沈着に適当な装置はAppl. Phys. Lett., 56, 578 (1990)「YBa2Cu3O7−δのエキシマーレーザー沈着におけるビームパラメーターの効果」に示されており、かかる記載は参考のため本明細書に組入れてある。
【0026】
パルスレーザー沈着用の適当な条件には、例えば約45°の入射角で標的材料の回転しているペレット上に目標を定めたエキシマーレーザー(20ナノセカンド(ns)、248又は308ナノメーター(nm))の如きレーザーがある。基材は、得られるフィルム又は被覆で厚みの変動を最小とするのに約0.5rpmで回転する加熱済みホルダーに載置できる。基材は約600℃〜約950℃の温度で好ましくは約740℃〜約765℃の温度で沈着中に加熱でき、その際YBCOが超伝導性材料である。約0.1ミリトル(mTorr)〜約10トル、好ましくは約100〜約250ミリトルの酸素雰囲気を沈着中の沈着室内で維持できる。基材とペレットとの間の間隔は約4cm〜約10cmであり得る。驚くべきことには、約740℃〜約765℃の温度で多層超伝導性構造体を沈着すると約775℃以上の如き高温で沈着を行なうよりも優れた結果が得られることが見出され、そこではJcが単結晶基材上で減少した。
【0027】
フィルムの沈着率はレーザーの反復速度を約0.1ヘルツ(Hz)から約200Hzまで変化させることにより約0.1オングストローム/秒(A/s)から約200A/sまで変動させ得る。一般には、レーザービームは1平方センチ当り約1〜4ジュールの平均エネルギー密度(J/cm2)で約1mm×4mmの寸法を有し得る。沈着後に、フィルムは一般に約100トル以上の酸素雰囲気内で室温に冷却する。
【0028】
本発明は次の実施例でより詳細に記載するが、該実施例は単に例示のために意図されたものである。何故ならば種々の改良及び変更が当業者には明らかであるからである。
【0029】
実施例1(HW219)
4層のYBCOと3枚の中間層の酸化セリウム(CeO2)とを含有する多層(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)を、ニッケル上に酸化アルミニウム(Al2O3)の1層とAl2O3上の酸化イットリウム(Y2O3)の1層と、イオンビーム補助沈着(IBAD)によりY2O3上に沈着させた酸化マグネシウム(MgO)の1層と、IBAD MgO上の酸化マグネシウムのホモエピタクシー層とMgOの緩衝層としてのストロンチウムチタネートの1層とを含有するニッケル金属基材上に、慣用の加工条件下に即ち約700℃の基材温度で、パルスレーザー沈着を用いて沈着させた(Jia等のPhysica C, 228巻、160〜164頁(1994)参照)。約3.0μのYBCO全厚に対して各々のYBCO層は厚みが約0.75μであった。各々のCeO2層は約30nmであった。測定したJcは約2.5MA/cm2であった。
【0030】
実施例2(HW162)
YBCO4層と酸化セリウム(CeO2)の3中間層とを含有する多層(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)を、ニッケル上の酸化アルミニウム(Al2O3)の1層とAl2O3上の酸化イットリウム(Y2O3)の1層と、イオンビーム補助沈着(IBAD)によりY2O3上に沈着した酸化マグネシウム(MgO)の1層と、IBAD MgO上の酸化マグネシウムのホモエピタクシー層とMgOの緩衝層としてのストロンチウムチタネートの1層とを含有するニッケル金属基材上に慣用の加工条件下にパルスレーザー沈着を用いて沈着させた。約2.5μのYBCO/Y2O3全厚に対して各々のYBCO層は厚みが約0.6μであった。各々のCeO2層は約30nmであった。測定したJcは約3.2MA/cm2であった。
【0031】
実施例3(HW370)
YBCO4層と酸化セリウム(CeO2)3中間層とを含有する多層(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)を、MgOの緩衝層としてのストロンチウムチタネートの1層を含有する単結晶MgO基材上に、約760℃の低い基材温度を用いる以外は慣用の加工条件下にパルスレーザー沈着を用いて沈着させた。約2.2μのYBCO全厚に対して各々YBCO層は厚みが約0.55μであった。各々のCeO2層は約30nmであった。測定したJcは約4.0MA/cm2であった。
【0032】
実施例4(HW372)
YBCO4層と酸化イットリウム(Y2O3)3中間層とを含有する多層(YBCO/Y2O3/YBCO/Y2O3/YBCO/Y2O3/YBCO)を、MgOの緩衝層としてのストロンチウムチタネートの1層を含有する単結晶MgO基材上に、約760℃の低い基材温度を用いる以外は慣用の加工条件下にパルスレーザー沈着を用いて沈着させた。約2.5μのYBCO/Y2O3全厚に対して各々のYBCO層は厚みが約0.60μであった。各々のY2O3層は約30nmであった。測定したJcは約3.5MA/cm2であった。
【0033】
実施例5(HW310)
6層のYBCOと5中間層の酸化セリウム(CeO2)とを含有する多層(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)を、ニッケル上の酸化アルミニウム(Al2O3)の1層と、Al2O3上の酸化イットリウム(Y2O3)の1層と、イオンビーム補助沈着(IBAD)によりY2O3に沈着させた酸化マグネシウム(MgO)の1層と、IBAD MgO上の酸化マグネシウムのホモエピタクシー層とを含有するニッケル金属基材上に、慣用の加工条件下にパルスレーザー沈着を用いて沈着させた(Jia等のPhysica C, 228巻、160〜164頁(1994)参照)。約3.3μのYBCO全厚に対して、各々のYBCO層は厚みが約0.55μであった。各々のCeO2層は約40nmであった。YBCO/セリア多層の全厚は約3.5μであった。測定したJcは約4.0MA/cm2であった。Icは約1400A/cm−幅であると算出した。
【0034】
比較のため、約3.7μの厚みを有するYBCOの単層を同様な基材上に沈着させ、約1.3MA/cm2の測定Jcを有した。即ち、単層は多層構造体としての臨界電流の約1/3のみを担持した。
【0035】
実施例6(HW335〜339)
YBCOの2層と酸化セリウム(CeO2)の相異なる厚みの単一中間層とを含有する一連の多層構造体(YBCO/CeO2/YBCO)を、MgO上に緩衝層としてストロンチウムチタネートの1層を含有する単結晶MgO基材上に、慣用の加工条件下にパルスレーザー沈着を用いて沈着させた。約1.2μのYBCO/CeO2全厚に対して各々のYBCO層は厚みが約0.60μであった。CeO2層は約5nmから約50nmで変動した。これらの例の各々において、Jcは酸化セリウム層を通っての電気的接触が確立されるように多層構造体の相対する側上のリード部で測定した。測定したJc値を表1に示す。酸化セリウムの層が薄いと優れたJcを提供することが見られる。
【0036】
表1

本発明は特定の詳細を参照して記述されたけれども、かかる詳細は添附の請求項に包含される程度にまで本発明の範囲を限定するものと考えられるとは意図しない。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基材、非晶質基材及び多結晶質基材よりなる群から選ばれた基材であってその上に少なくとも1枚の配向層を含有する基材;及び
前記の少なくとも1枚の配向層上に載置した多層超伝導構造体であって、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料の少なくとも2層を含有し、その際各々の層は約100 nm〜約1000 nmの厚みを特徴とし、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料の層の各対は該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料と化学的且つ構造上の相溶性を有する電導性の金属酸化物材料の1層によって分離されており、該金属酸化物材料層は約3nm〜約60nmの厚みを特徴とし、これによって多層超伝導構造体を通してz−方向に電気的接触が存在し、該多層超伝導構造体は少なくとも1.0ミクロンの耐高温超伝導材料層の全体を合した厚みを有し且つ500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcを有することを特徴とする多層超伝導構造体;
を含有してなる物品。
【請求項2】
前記の電導性金属酸化物材料は酸化セリウム、酸化イットリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ハフニウム、イットリアで安定化したジルコニア、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化ユーロピウム、酸化サマリウム、ネオジミウム銅酸化物、カドミウム銅酸化物及びユーロピウム銅酸化物よりなる群から選ばれる請求項1記載の物品。
【請求項3】
前記の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導材料は希土類バリウム−銅酸化物である請求項1記載の物品。
【請求項4】
前記の電導性金属酸化物材料は約5nm〜約50nmの厚みを有する請求項1記載の物品。
【請求項5】
前記の基質は非晶質基材又は多結晶質基材であり、前記の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の少なくとも2層からの耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の1層は前記の基材上に直接存在し、約400nm〜約800nmの厚みを有する請求項1記載の物品。
【請求項6】
前記の基材上に直接存在しない前記の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の複数層は約100nm〜約600nmの厚みを有する請求項5記載の物品。
【請求項7】
前記の電導性金属酸化物材料は酸化セリウムである請求項1記載の物品。
【請求項8】
前記の多層超伝導性構造体は耐高温超伝導性材料の少なくとも3層を含有し、該複数層の各々は約100nm〜約600nmの厚みを有する請求項1記載の物品。
【請求項9】
前記の多層超伝導構造体は耐高温超伝導性材料の少なくとも4層を含有し、該複数層の各々は約100nm〜約600nmの厚みを有する請求項1記載の物品。
【請求項10】
前記の電導性金属酸化物材料は酸化セリウムであり、電導性酸化セリウムの各層は約5nm〜約50nmの厚みを有する請求項8記載の物品。
【請求項11】
前記の多層超伝導性構造体は、少なくとも約3.0ミクロンの耐高温超伝導材料層の全体を合した厚みを有し且つ1000アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcを有することを特徴とする、請求項1記載の物品。
【請求項12】
前記の希土類バリウム銅酸化物はイットリウム バリウム 銅酸化物である請求項3記載の物品。
【請求項13】
前記の希土類バリウム銅酸化物はイットリウム サマリウム バリウム銅酸化物である請求項3記載の物品。
【請求項14】
前記の耐高温超伝導性材料の少なくとも2層は、相異なる組成の希土類バリウム銅酸化物の複数層を含有する請求項1記載の物品。
【請求項15】
前記の耐高温超伝導性材料の複数層はそこにバリウム ジルコネートのフラックス ピンニング粒子を更に含有する請求項1記載の物品。
【請求項16】
前記のイットリウム バリウム 銅 酸化物はそこにフラックス ピンニング粒子を更に含有する請求項12記載の物品。
【請求項17】
フラックス ピンニング粒子はバリウム ジルコネートのナノ粒子である請求項15記載の物品。
【請求項18】
フラックス ピンニング粒子はバリウム ジルコネートのナノ粒子である請求項16記載の物品。
【請求項19】
前記の基材は単結晶基材であり、前記の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の少なくとも2層からの耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の1層は前記の基材上に直接存在し且つ約100nm〜約600nmの厚みを有する請求項1記載の物品。
【請求項20】
少なくとも1.0ミクロンの耐高温超伝導性材料の全体を合した厚みと500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcとを含有することを特徴とする耐高温超伝導性物品の製造方法であって、該物品は、単結晶基材、非晶質基材及び多結晶質基材よりなる群から選んだ基材であってその上に少なくとも1枚の配向層を有する基材と、少なくとも1枚の配向層上に設けた多層超伝導構造体とを含有してなり、該多層超伝導性構造体は耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の少なくとも2層を含有し、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の複数層の各対は該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料と化学的且つ構造上の相溶性を有する電導性金属酸化物材料の1層によって分離されている、耐高温超伝導性物品の製造方法において、次の工程;
(1)前記基材の配向層上に耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の1層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性(HTS)材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有するものとし;
(2)HTS材料の第1の層上に電導性金属酸化物の1層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該電導性金属酸化物は約3nm〜約100nmの厚みを有するものとし;
(3)該電導性金属酸化物層上に耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の次後の層を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、該耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有するものとし;及び
(4)HTSの次後の層上にCeOと耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料との複数層の追加の少なくとも1対を約740℃〜約765℃の温度で沈着させ、その際追加の対のCeO層は耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料の前もって沈着させた1層と追加の対の耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料との間にあるものとし、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料は約100nm〜約1000nmの厚みを有し、電導性金属酸化物は約3nm〜約100nmの厚みを有するものとし、これによって得られる耐高温超伝導性物品は、耐高温バリウム−銅酸化物超伝導性材料と電導性金属酸化物との沈着が約770℃以上の温度で行われるIc値よりも更に良いことを特徴とするようなIc値である、500アンペア/cm−幅(A/cm−幅)以上のIcを有して形成されるものであることからなる、耐高温超伝導性物品の製造方法。

【公表番号】特表2009−503792(P2009−503792A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524055(P2008−524055)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/028807
【国際公開番号】WO2007/016079
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(507128229)ロス アラモス ナショナル セキュリティ,リミテッド ライアビリテイ カンパニー (9)
【Fターム(参考)】