説明

csPCNAイソ型抗体およびその使用

非悪性の増殖細胞核抗原(nmPCNA)イソ型には結合せず、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対してのみ特異的に結合する抗体が提供される。csPCNAイソ型の存在を検出するための方法および組成物が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌特異的なタンパク質に特異的に結合する抗体の使用を伴う、悪性細胞の検出および処置に関する。
【背景技術】
【0002】
最も理解されず、また、最も複雑な疾患プロセスの1つが、細胞が悪性になるに従って生じる形質転換である。本プロセスは遺伝子的変異およびプロテオミック形質転換の両方を伴い、それらの結果として、細胞が、正常な制御、すなわち、不適切な細胞分裂を防止することを受けられなくなる。全ての癌は、特異であり、他の癌だけでなく、他の細胞とは異なる。この特異さにもかかわらず、癌細胞はいくつかの共通する属性を互いに有する。ほとんどの癌細胞が、正常な細胞周期制御を外れて増殖し、様々な形態学的変化を示し、また、細胞プロセスに対する様々な生化学的混乱を示す。
【0003】
癌は通常、細胞の変化が最初に始まったずっと後に、腫瘍が視認されたときに診断される。多くの癌は、生検サンプルが、形態学的異常、細胞増殖の不整および遺伝子的不整の証拠について組織学によって調べられた後で診断される。悪性腫瘍のための効果的な処置は多くの場合、効果的な処置が、疾患がそのような処置に対して最も感じやすい段階で開始できるように、悪性細胞の存在を疾患の早期段階で確実に検出できるかどうかに依存する。従って、まだ悪性として認識される組織学的段階には進行していないがしかし悪性状態に進行し得る、潜在的に悪性の細胞を確実に検出できることが求められている。また、悪性細胞または潜在的に悪性の細胞を確実に検出することができる、迅速で、侵襲性が最小限の技術が求められている。
【0004】
増殖細胞核抗原(PCNA)は29kDaの核タンパク質であり、細胞周期のS期およびG2期の期間中におけるその発現により、このタンパク質は良好な細胞増殖マーカーとなっている。増殖細胞核抗原はまた、細胞の生死に関わる分子的経路の多くにおいて関係することが示されている。S期の核におけるその周期的出現により、DNA複製における関与が示唆された。PCNAは、その後、哺乳動物細胞におけるDNAポリメラーゼの補助的因子として、また、インビトロでのSV40のDNA複製のための必須因子として同定された。PCNAは、哺乳動物細胞におけるDNA滑動クランプタンパク質およびDNAポリメラーゼ補助的因子として機能することに加えて、転写、細胞周期チェックポイント、組換え、アポトーシスおよび他の形態のDNA修復に関与する、数多くの他のタンパク質と相互作用する。作用において多様であることの他に、PCNAの多くの結合性パートナーが、それらの寄与によって、細胞のそれぞれの新しい世代による細胞機能の正確な継承に結び付けられる。PCNAは、染色体プロセシングを調整するマスター分子として作用しているかもしれない。
【0005】
悪性の癌細胞は、癌特異的PCNA(csPCNA)と呼ばれるPCNAのイソ型を発現し、非悪性の細胞は、非悪性PCNA(nmPCNA)と呼ばれるイソ型を発現する。これら2つのイソ型を識別するための効果的な組成物および方法が癌の診断および処置には必要である。
【発明の開示】
【0006】
増殖細胞核抗原の癌特異的イソ型(csPCNA)に対する抗体、および、その使用が開示される。抗体は、PCNAの癌特異的イソ型に対して特異的に結合し、しかし、PCNAの非悪性イソ型(nmPCNA)には結合しない。このような抗体が、色素性乾皮症G群(XPG)と相互作用するcsPCNAタンパク質の領域において見出されるアミノ酸配列を含むペプチドを含む免疫原から作製される。
【0007】
ヒトPCNAタンパク質のアミノ酸残基126〜133(配列番号1;LeuGlyIleProGluGlnGluTyr)に対応するペプチド領域が、csPCNA抗体を生じさせるための好適な抗原性ペプチドである。本明細書中に開示される抗原性ペプチドは、得られる抗体のcsPCNAに対する特異性を実質的に妨害することのない、ペプチドの免疫原性を改善する追加のアミノ酸残基を含むことができる。例えば、ペプチドは配列番号2(CysGlyGlyGlyLeuGlyIleProGluGlnGluTyr)のアミノ酸配列を有することができる。得られる抗体はポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、またはそれらのフラグメントであり得る。
【0008】
本明細書中に開示される単離された抗体は、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に特異的に結合する。csPCNAイソ型は、配列番号3のアミノ酸配列、ならびに、csPCNA特異的抗体の特異性に影響を及ぼさない任意の変種や変異体(置換、挿入および欠失を含む)を含む。csPCNA特異的抗体は、nmPCNAイソ型には結合しない。
【0009】
1つの実施形態において、抗体は、色素性乾皮症G群(XPG)タンパク質に結合するcsPCNAタンパク質内のアミノ酸配列を含むエピトープに結合する。
【0010】
1つの実施形態において、抗体は、LGIPEQEY(配列番号1)、VEQLGIPEQEY(配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(配列番号7)、EQLGIPEQEY(配列番号8)、QLGIPEQEY(配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(配列番号13)、LGIPEQEYSCV(配列番号14)およびLGIPEQEYSC(配列番号15)から選択されるアミノ酸配列を含む、csPCNAのエピトープに結合する。
【0011】
1つの実施形態において、抗体には、モノクローナル抗体またはキメラ抗体または組換え抗体または単鎖抗体が含まれる。
【0012】
1つの実施形態において、抗体は、Fab、Fab’またはF(ab’)2から選択される抗体フラグメントである。
【0013】
抗体には、検出可能な因子を結合させることができ、検出可能な因子は、蛍光性標識、放射性標識、色素形成性標識および酵素標識から選択される。
【0014】
組成物は、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)のエピトープに特異的に結合する、単離され、かつ実質的に精製された抗体を含み、このエピトープは、LeuGlyIleProGluGlnGluTyr(配列番号1)のアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0015】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型を生物学的サンプルにおいて検出するための方法では、
生物学的サンプルを、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型と特異的に結合する抗体と接触させる工程;
抗体の結合のための条件を提供する工程;および
抗体とcsPCNAイソ型との結合を検出する工程、
が含まれる。
【0016】
1つの実施形態において、生物学的サンプルは、血液、血漿、リンパ、血清、胸膜液、脊髄液、唾液、痰、尿、胃液、膵液、腹水、滑液、乳汁および精液から選択される体液である。体液は、csPCNAイソ型またはPCNAイソ型を含有することが疑われる限り、任意の体液が好適である。
【0017】
1つの実施形態において、生物学的サンプルは、乳房、前立腺、肺、結腸、上皮組織、結合組織、子宮頸部、食道、脳、胸腺、甲状腺、膵臓、精巣、卵巣、腸、膀胱、胃、軟部組織肉腫、骨肉腫、白血病、リンパ腫、癌腫、腺癌、胎盤、線維組織、生殖細胞組織およびそれらの抽出物から選択される組織サンプルである。
【0018】
1つの実施形態において、抗体の検出工程は、インビボまたはインビトロで行われる。
【0019】
1つの実施形態において、抗体の検出は、標識された二次抗体を提供することによって行われる。別の実施形態において、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型と特異的に結合する抗体は、標識されている。別の実施形態において、csPCNA特異的抗体に結合したcsPCNAイソ型の検出は、質量分析法を使用して行われる。1つの実施形態において、csPCNAイソ型の検出は、酵素結合免疫吸着アッセイを使用して行われる。1つの実施形態において、csPCNAイソ型の検出は、免疫組織化学的方法を使用して行われる。csPCNA特異的抗体に結合するcsPCNAイソ型、または、csPCNA特異的抗体を使用して単離されるcsPCNAイソ型の検出は、特定の検出技術に限定されない。
【0020】
悪性腫瘍を診断または予後判定するための方法では、
動物から得られた生物学的サンプルにおける癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)を、csPCNAイソ型と特異的に結合する抗体によって検出する工程;および、生物学的サンプルにおけるcsPCNAの検出に基づいて悪性腫瘍を診断する工程、が含まれる。1つの実施形態において、動物は脊椎動物または哺乳動物である。
【0021】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的な抗体を製造するための方法では、
抗体生成源に、非悪性のイソ型(nmPCNA)において露出せず、csPCNAイソ型においてのみ露出するエピトープを呈示する、ペプチドの免疫原量を投与する工程(このペプチドは、色素乾皮症G群(XPG)タンパク質と相互作用するcsPCNAの領域における連続または非連続のアミノ酸残基から選択されることを特徴とする);
抗体生成のための条件を提供する工程;および
抗体を単離および精製する工程、
が含まれる。
【0022】
1つの実施形態において、抗体は、ハイブリドーマ細胞から単離および精製される。
【0023】
1つの実施形態において、免疫原ペプチドは、CGGGLGIPEQEY(配列番号2)のアミノ酸配列を含む。1つの実施形態において、ペプチドには、キャリアタンパク質が結合される。1つの実施形態において、キャリアタンパク質はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である。任意の好適なキャリアタンパク質を本開示のペプチドとともに使用することができる。
【0024】
生体内での腫瘍の存在部位を同定するための方法では、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)と結合する、csPCNAイソ型特異的抗体を投与する工程(この抗体は、検出可能な因子により標識されていることを特徴とする);および
腫瘍の存在部位を、腫瘍部位における標識されたcsPCNA特異的抗体の蓄積を検出することによって決定する工程
が含まれる。
【0025】
対象における腫瘍の進行の低減を強化するための方法では、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に特異的な抗体の治療的有効量と、送達成分との配合物を含む、医薬的に許容される組成物を提供する工程;
配合物を対象に投与する工程;および、
csPCNA特異的抗体を含む配合物を腫瘍部位に送達することによって、腫瘍の進行を低減させる工程(このcsPCNA特異的抗体は、腫瘍細胞に存在するcsPCNAイソ型と反応することを特徴とする)
が含まれる。
【0026】
1つの実施形態において、配合物はリポソームまたはナノ粒子を含む。1つの実施形態において、配合物は殺腫瘍剤または免疫増強剤を含む。
【0027】
抗癌剤を同定する方法では、
癌細胞の集団を薬剤と接触させる工程;
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型のレベルを、csPCNAイソ型に対する、csPCNA特異的抗体の結合をアッセイすることによって、測定する工程;および
薬剤と接触した癌細胞におけるcsPCNAイソ型のレベルが、薬剤と接触していない癌細胞におけるcsPCNAイソ型のレベルよりも小さいならば、薬剤が抗癌剤であると決定する工程
が含まれる。
【0028】
1つの実施形態において、薬剤は小分子またはペプチドまたは核酸である。
【0029】
1つの実施形態において、癌細胞の集団が、癌細胞株、異種移植片、および、癌の同所性モデルシステムから選択される。
【0030】
1つの実施形態において、薬剤が抗癌剤であるがどうかを決定することは、薬剤と接触した正常な細胞、および、薬剤と接触していない正常な細胞における、非悪性PCNAイソ型のレベルを測定することを含む。1つの実施形態において、抗癌剤の同定は、ハイスループットシステムで行われる。
【0031】
PCNAのcsPCNAイソ型を検出するための免疫アッセイキットは下記の構成成分を含む。
正常な増殖細胞核抗原(nmPCNA)イソ型には結合せず、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対してのみ特異的に結合し、それにより、抗体およびcsPCNAが複合体を形成する抗体の調製物;
および、複合体を検出するための試薬。
【0032】
キットの中の陽性コントロールペプチドは、LGIPEQEY(配列番号1)、VEQLGIPEQEY(配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(配列番号7)、EQLGIPEQEY(配列番号8)、QLGIPEQEY(配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(配列番号13)、LGIPEQEYSCV(配列番号14)およびLGIPEQEYSC(配列番号15)から選択されるアミノ酸配列のペプチドを含む。
【0033】
1つの実施形態において、csPCNAイソ型は、免疫アッセイキットにおける陽性コントロールとして使用される。
【0034】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的な、単離された自己抗体が開示される。1つの実施形態において、自己抗体はcsPCNAイソ型のエピトープに対して複合体形成する。
【0035】
悪性細胞の存在を求める方法では、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的である自己抗体を含有することが疑われる生物学的サンプルを、csPCNAイソ型またはそのフラグメントが結合した基材に接触させる工程(この自己抗体はcsPCNAイソ型に特異的であることを特徴とする);
csPCNA−自己抗体の複合体形成のための条件を提供する工程;および
生物学的サンプルにおける自己抗体−csPCNA複合体の存在を検出する工程、
が含まれる。
【0036】
1つの実施形態において、自己抗体csPCNA複合体の存在は、抗ヒト二次抗体を使用して検出される。1つの実施形態において、自己抗体csPCNA複合体の存在は、標識された生物学的サンプルを使用して検出される。
【0037】
循環している癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型の存在を検出する方法では、csPCNAイソ型に対して特異的な自己抗体を生物学的サンプルにおいて検出する工程、および、それにより、循環しているcsPCNAイソ型の存在を求める工程、が含まれる。
【0038】
個体の寛解状態をモニターする方法では、
個体における増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型の存在を癌治療の前および後で検出する工程;および、
癌治療の前および後での循環しているcsPCNAイソ型のレベルを比較することによって、個体の寛解状態を求める工程、
が含まれる。
【0039】
1つの実施形態において、csPCNAイソ型は、csPCNAイソ型に対する自己抗体の存在を求めることによって検出される。1つの実施形態において、csPCNAイソ型は、csPCNAイソ型に対して特異的な抗体によって検出される。
【0040】
現時点で理解されるような本開示の主題を実施する最良の形態を例示する、下記の実施形態の詳細な説明を検討したとき、本開示のさらなる特徴が当業者には明らかになる。
【0041】
関連出願に対する相互参照
本出願は、米国特許出願第60/675,275号(2005年4月27日出願)および米国特許出願第60/689,614号(2005年6月9日出願)に対する優先権を主張する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
増殖細胞核抗原(PCNA)タンパク質は癌細胞において変化する。PCNAは28kDのタンパク質であり、電気泳動移動度が36kDaのタンパク質の電気泳動移動度と等しい。PCNAは、非常に効率的なDNA複製活性を媒介するためにDNAポリメラーゼδによって要求される補助的因子である。悪性細胞から精製されたDNAシンセソームは少なくとも2つの型のPCNAを含有する。これら2つの型は、PCNAに特異的に結合する市販の抗体(PC10、Oncogene Science、Cambridge, MA)により染色された二次元ポリアクリルアミドゲルのウエスタンブロットで測定されたとき、同じ分子量を有する。しかしながら、PCNAのこれら2つの化学種はそれらの全体的な荷電において著しく異なる。従って、PCNAの酸性の悪性型または癌特異的な型、すなわち、csPCNAと、PCNAの塩基性の非悪性型または正常な型、すなわち、nmPCNAとを、二次元ポリアクリルアミドゲルで識別することができる。
【0043】
酸性csPCNAが、様々な悪性の細胞株において、例えば、HeLa(ヒト子宮頸癌)、Hs578T(乳癌)、HL−60(ヒト前骨髄性白血病)、FM3A(マウス乳癌)、PC10(前立腺癌)、LNCaP(前立腺癌)、LN99(前立腺癌)、MD−MB468(ヒト乳癌)、MCF−7(乳癌)、KGE90(食道・結腸癌)、KYE350(食道・結腸癌)、SW48(食道・結腸癌)およびT98(悪性神経膠腫)などにおいて発現する。酸性csPCNAはまた、ヒト乳腫瘍、前立腺腫瘍、脳腫瘍、ヒト胃腸腫瘍または食道・結腸腫瘍、マウス乳腫瘍から得られた悪性細胞において、また、ヒト慢性骨髄性白血病において発現する。酸性csPCNAは、非悪性の細胞株(例えば、乳房細胞株のHs578BstおよびMCF−10Aなど)において、あるいは、非悪性の血清または組織(例えば、乳房)のサンプルにおいては検出されない。
【0044】
市販の抗体では、csPCNAおよびnmPCNAが識別されない。従って、市販の抗PCNA抗体は、PCNAの悪性型のみを特異的に検出するために使用することができない。
【0045】
csPCNAイソ型を特異的に検出することができる抗体の、単離されて精製された調製物が提供される。本明細書中に開示される抗体調製物は実質的に純粋である。例えば、csPCNA特異的抗体調製物は、約90%純粋であるか、または、約95%純粋である。調製物は、nmPCNAイソ型には結合せず、csPCNAイソ型に対してのみ特異的に結合する抗体を含む。csPCNA抗体およびcsPCNA抗原との結合の親和性定数は、約10/molの程度から、1011/molを超えるまでの範囲であり得る。
【0046】
この抗体の調製物は、nmPCNAイソ型には存在せず、csPCNAイソ型において存在するエピトープに結合する抗体を含有する。1つの態様において、エピトープは、色素乾皮症G群(XPG)タンパク質に結合するcsPCNAタンパク質領域内の連続したアミノ酸残基または非連続のアミノ酸残基から形成される。用語「エピトープ」は本明細書中では、抗体分子が同定および結合することができる抗原の表面における局在化領域を示す。
【0047】
別の態様において、この抗体の調製物は、配列番号1のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する抗体を含有する。
【0048】
別の実施形態において、csPCNAに対して特異的な抗体を製造するための方法が提供される。この方法は、nmPCNAには存在せず、csPCNAにおいてのみ存在するエピトープを提示するペプチドの免疫原量を、試験動物に投与する工程を含む。ペプチドは、XPGタンパク質に結合するcsPCNAの領域のうちの、5個〜50個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含む。ペプチドは、5個〜12個の連続したアミノ酸残基、あるいは、13個〜20個または30個の非連続のアミノ酸残基を含むことができ、また、ドメイン間のコネクターループ領域(アミノ酸残基121〜135)におけるアミノ酸残基もまた含むことができる。ペプチドは、試験動物におけるポリクローナル抗体の効果的な産生を保証するために、必要に応じて何度も投与することができる。続いて、ポリクローナル抗体は精製される。
【0049】
さらなる実施形態において、モノクローナル抗体を製造するための方法が提供される。この方法は、nmPCNAには存在せず、csPCNAにおいてのみ存在するエピトープを提示するペプチドの免疫原量を、試験動物(これは通常、マウスである)に投与する工程を含む。ペプチドは、XPGタンパク質に結合するcsPCNAの領域のうちの、5個〜12個の連続したアミノ酸残基、または13個〜50個の非連続のアミノ酸残基から選択されるアミノ酸配列を含有する。ペプチドは、マウスにおける抗体の効果的な産生を保証するために、必要に応じて何度も投与することができる。続いて、試験動物の脾臓の細胞が採取されて、ハイブリドーマ細胞を製造するために調製される。ハイブリドーマ細胞は、csPCNAモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞についての選択に供される。選択されたハイブリドーマ細胞は適切な培地において増殖させられ、モノクローナル抗体がハイブリドーマの培地から精製される。
【0050】
具体的な実施形態において、抗体を生じさせるための免疫原として使用されるペプチドは、配列番号1(LeuGlyIleProGluGlnGluTyr)のアミノ酸配列を含む。
【0051】
配列番号1(LeuGlyIleProGluGlnGluTyr)のアミノ酸配列および1つ以上の追加のアミノ酸残基を有するようなペプチドが、csPCNAに対する特異性が維持される限り、抗体を生じさせるために好適である。追加のアミノ酸残基には、PCNAに由来するアミノ酸、または、別の供給源に由来するアミノ酸、または、ランダムに選ばれたアミノ酸が含まれ得る。追加のアミノ酸にはまた、安定性および免疫原性を改善するためのアミノ酸が含まれ得る。例えば、より具体的な実施形態において、抗体を生じさせるための免疫原として使用されるペプチドは、配列番号2(CysGlyGlyGlyLeuGlyIleProGluGlnGluTyr)のアミノ酸配列を含む。さらに、抗体は、当分野で周知の任意の方法によって精製することができる。例えば、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体は、抗血清または培地を、抗体が結合するクロマトグラフィーカラムまたは修飾されたフィルターメンブランに通すことによってアフィニティー精製される。その後、結合した抗体を、例えば、高い塩濃度または変化させたpHを有する緩衝液を使用してカラムから溶出することができる。
【0052】
別の実施形態において、csPCNA特異的抗体を生じさせることができるペプチドには、配列番号1(LGIPEQEY)のNH2末端における約+3個の連続または非連続の追加のアミノ酸、および、LGIPEQEYのCOOH末端における約+9個の連続または非連続の追加のアミノ酸を含むアミノ酸配列のペプチドが含まれる。例えば、これらのペプチドのいくつかとしては、VEQLGIPEQEY(+3−NH2末端、配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(+5−COOH末端、配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(+9−COOH末端、配列番号7)、EQLGIPEQEY(+2−NH2末端、配列番号8)、QLGIPEQEY(+1−NH2末端、配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(+8−COOH末端、配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(+7−COOH末端、配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(+6−COOH末端、配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(+4−COOH末端、配列番号13)、LGIPEQEYSCV(+3−COOH末端、配列番号14)、LGIPEQEYSC(+2−COOH末端、配列番号15)、LGIPEQEYS(+1−COOH末端、配列番号16)、ならびに、LGIPEQEY(配列番号1)に隣接する、追加のNH2末端アミノ酸およびCOOH末端アミノ酸の組合せのアミノ酸配列、が挙げられる。csPCNA特異的抗体を生じさせるためのペプチドの特異性に影響を及ぼさない置換を含むアミノ酸変異は、本開示の範囲内である。ペプチドにおけるアミノ酸残基の1つ以上をアミノ酸アナログまたは非天然アミノ酸により置換することができる。加えて、本明細書中に開示されるペプチドの配列に基づいて開発されるペプチドミメティクスもまた、csPCNAイソ型に対する抗体を生じさせるために使用することができる。
【0053】
別の実施形態において、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型を検出するための方法が提供される。この方法は、csPCNAイソ型を含む生物学的サンプルを抗体の調製物と接触させ、それにより、抗体およびcsPCNAイソ型が複合体を形成する工程、および、複合体を検出する工程を含む。
【0054】
生物学的サンプルとしては、体液のサンプルが可能であり、これには、血液、血漿、リンパ、血清、胸膜液、脊髄液、唾液、痰、尿、精液、涙液、滑液、または、csPCNAイソ型の存在について試験することができる任意の体液が含まれ得る。あるいは、生物学的サンプルとしては、組織のサンプルが可能であり、この場合、組織サンプルの細胞は、悪性であることが疑われるものであってもよい。例えば、組織切片または細胞培養物を、標準的な免疫細胞化学的プロトコルに従ってガラススライドまたはプラスチックスライド上に固定し、抗体と接触させることができる。組織抽出物または細胞の濃縮物または細胞抽出物もまた好適である。抗体は検出可能な標識(例えば、比色測定用成分、放射性成分、蛍光性成分、化学発光成分、酵素成分またはビオチン化成分など)を含むことができる。抗体およびcsPCNAの間での特異的な結合を、二次抗体を使用して検出することができる。結合した抗体を検出するための多くのシステムが当分野では知られている。あるいは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、比色測定、蛍光測定および表面プラズモン共鳴(SPR)を、可溶化細胞、細胞抽出物、液体サンプルにおける抗体の特異的な結合、および、固体基質に結合した抗体の特異的な結合を検出するために使用することができる。本開示の抗体はまた、試験される細胞または組織からタンパク質を分離するために使用されている、一次元ポリアクリルアミドゲルまたは二次元ポリアクリルアミドゲルのウエスタンブロットにおいて、使用することができる。そのような方法は当分野では熟知されており、また、広範囲に実施される。csPCNAイソ型に対して特異的な抗体は、循環しているcsPCNAイソ型またはそのフラグメントを捕捉するために使用され、csPCNAイソ型またはそのフラグメントの正体を、質量分析法による方法を使用して確認することができる。
【0055】
別の実施形態において、悪性腫瘍を診断するための方法が提供される。この方法は、人、または、特に、悪性の状態を有することが疑われる患者から得られた生物学的サンプルにおいて、csPCNAを免疫検出する工程を含み、csPCNAを免疫検出することは、本明細書中に開示される抗体の調製物の使用を伴うことを特徴とする。
【0056】
別の実施形態において、悪性腫瘍を診断することを助けるための方法が提供される。この方法は、csPCNAを組織サンプルにおいて免疫検出する工程を含み、組織サンプルの細胞は、悪性であることが疑われるものであって、また、csPCNAを免疫検出する工程は、本明細書中に開示される抗体の調製物の使用を伴うことを特徴とする。この抗体を使用して検出することができる悪性細胞には、様々な組織(例えば、乳房、前立腺、血液、脳、膵臓、平滑筋もしくは横紋筋、肝臓、脾臓、胸腺、肺、卵巣、皮膚、心臓、結合組織、腎臓、膀胱、腸、胃、副腎、リンパ節または子宮頸部など)における悪性細胞、または、細胞株での悪性細胞(例えば、Hs578T、MCF−7、MDA−MB468、HeLa、HL60、FM3A、BT−474、MDA−MB−453、T98、LNCaP、LN99、PC10、SK−OV−3、MKN−7、KGE90、KYE350またはSW48)が含まれるが、これらに限定されないことを理解しなければならない。
【0057】
別の実施形態において、悪性腫瘍の発達の予後を助けるための方法が提供される。この方法は、組織サンプルにおけるcsPCNAを、本明細書中に開示される抗体を使用して免疫検出する工程(組織サンプルの細胞は、悪性であることが疑われるものであってもよい)、および、csPCNAのレベルを特定の悪性疾患の予後と相関させる工程を伴う。さらに、この抗体は、悪性腫瘍を発症している患者について、生存結果の可能性を予後判定するために使用することができる。抗体を使用して診断または予後判定することができる疾患には、様々な悪性腫瘍、例えば、様々な形態の神経膠芽細胞腫、神経膠腫、星状膠細胞腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、メラノーマ、結腸癌、肺癌、腺癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ芽球腫、白血病、骨肉腫、乳癌、肝癌、腎腫、副腎癌または前立腺癌、食道癌が含まれるが、これらに限定されないことを理解しなければならない。悪性細胞がcsPCNAイソ型を発現するならば、本明細書中に開示される抗体により、そのcsPCNAイソ型を検出することができる。
【0058】
本明細書中に開示される抗体はまた、乳房組織における腫瘍タイプのいくつかにおいて悪性腫瘍を検出することができ、そのような腫瘍タイプには、乳管嚢胞、アポクリン化生、硬化性腺症、乳管上皮過形成、非異型性、管内乳頭腫症、円柱細胞の変化、放射状硬化性病変(放射状瘢痕)、乳頭腺腫、管内乳頭腫、線維腺腫、乳汁分泌性乳頭腫、非定型乳管上皮過形成、非定型小葉過形成、非浸潤性乳管癌(核悪性度1、同2および同3として分類される)、上皮内小葉癌、多形性上皮内小葉癌、乳房内脂肪腫、乳房過誤腫、顆粒細胞腫、乳房内脂肪壊死、偽血管腫性間質過形成(PASH)、乳房を巻き込む悪性メラノーマ、乳房を巻き込む悪性リンパ腫、葉状腫瘍(良性、境界線上および悪性のサブクラス)、および、乳房の肉腫が含まれる。
【0059】
別の実施形態において、本明細書中に開示される抗体は、腫瘍におけるcsPCNAのレベルを経時的に比較することによって、悪性疾患の進行または処置に対する患者の応答を追跡して、腫瘍における悪性の段階を求めるために使用される。この抗体はまた、血液サンプルをcsPCNAイソ型の存在についてアッセイするために抗体を使用することによって、腫瘍から抜け出て患者の血流に存在する悪性細胞を検出するために使用することができる。生物学的サンプルは、ヒト患者または動物患者から得ることができる。
【0060】
使用される抗体の濃度は、特定の抗体、および、csPCNAについてのその親和性に依存することを理解しなければならない。典型的には、抗体の親和性は約10−1〜約10−1である。上記で議論された免疫化学的方法において使用される抗体の濃度は、例えば、およそ、1mlあたり約50ナノグラム〜約2000ナノグラムの抗体、または、1mlあたり50μg〜500μgまでが可能である。
【0061】
別の実施形態において、csPCNAイソ型を検出するための免疫アッセイキットが提供される。キットは、csPCNAに対してのみ結合する抗体を含み、また、さらなる構成成分、例えば、抗体を用いた免疫化学的染色、ELISAまたはRIAを行うための試薬(例えば、ブロッキング処理用抗血清、二次抗体、緩衝液または標識化試薬など)を含むことができる。キットはまた、陽性コントロール(例えば、csPCNAイソ型またはそのペプチド、あるいは、悪性組織または悪性細胞のサンプル)および陰性コントロール(例えば、非悪性の組織サンプル)を含むことができる。キットはまた、キットを悪性腫瘍についての診断または予後判定の補助として使用するための説明書を含むことができる。
【0062】
別の実施形態において、細胞の悪性表現型を抑制する能力について、試験化合物をスクリーニングするためのアッセイシステムが提供される。このキットは、csPCNAに対してのみ結合する本明細書中に開示される抗体と、生存可能な悪性細胞のサンプルとを含む。
【0063】
別の実施形態において、csPCNA特異的抗体は、細胞の悪性表現型を抑制する能力、あるいは、抗腫瘍化合物または抗癌化合物である可能性について、試験化合物をスクリーニングするためのアッセイにおいて使用することができる。そのようなアッセイは、悪性細胞を試験化合物と接触させる工程、および、csPCNAのレベルを、本明細書中に開示される抗体を使用して観測する工程を含む。試験化合物としては、悪性表現型に対する作用または他の薬理学的作用を有することが当分野で公知の薬理学的化合物が可能であり、あるいは、何らかの薬理学的活性を有することが以前には知られていない化合物が可能である。試験化合物は天然に存在し得るし、または、研究室で設計することもできる。試験化合物は、微生物、動物または植物から単離することができ、あるいは、組換え的に製造することができ、または、当分野で公知の化学的方法によって合成することができる。試験化合物にはまた、核酸、ペプチド、ペプチド核酸(PNAS)、アンチセンスオリゴ、siRNA核酸および他の抗体が含まれる。csPCNAイソ型の発現を低減させる試験化合物、または、精製されたシンセソームのDNA合成活性のレベルを低減させる試験化合物、または、精製されたDNAシンセソームの複製忠実度のレベルを増大させる試験化合物は、悪性表現型を抑制するための、また、悪性腫瘍を処置するための可能性のある治療剤である。
【0064】
さらに別の実施形態において、抗体はまた、PCNAの正常な機能を悪性細胞において回復させるための治療剤として使用することができる。抗体は、当分野で公知の任意の方法を使用して、ヒト患者または動物患者における悪性細胞に送達することができる。例えば、悪性細胞においてcsPCNAに特異的に結合する、全長の抗体、抗体フラグメント、または抗体融合タンパク質を、そのような患者に投与することができる。csPCNA特異的抗体を含む治療用カクテルを、腫瘍の内部に送達することができる。治療用組成物は、本明細書中に開示される診断方法を使用して陽性の結果を得た直後に投与される。治療用組成物の用量および投与手段はともに、組成物の具体的な性状、患者の状態、年齢および体重、処置されている具体的な疾患の進行、ならびに、他の関連した要因に基づいて決定することができる。投与は、注射、経口投与、カテーテルによる投与、および、局所投与を含む、局所的または全身的な投与であってもよい。
【0065】
抗体を含有する治療用組成物の受容体媒介による標的化された送達が、抗体を特定の組織に送達するために使用されることを理解しなければならない。乳癌、肺癌および卵巣癌を含めて、多くの腫瘍が、悪性細胞に対して特異的な抗原(例えば、糖タンパク質p185HER2など)を過剰発現する。このような抗原に特異的に結合する抗体を、csPCNAに対して特異的な抗体を含有するリポソームに結合させることができる。患者の血流に注入されたとき、抗p185HER2抗体はリポソームを標的癌細胞に向かわせ、標的癌細胞において、リポソームはエンドサイトーシスを受け、従って、その中身を悪性細胞に送達する(Kirpotin et al., Biochem, 36:66, 1997)。
【0066】
リポソームには、当分野で公知のように、抗体を負荷することができる(Papahadjopoulos et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 88:11640, 1991; Gabizon,Cancer Res, 52:891, 1992; Lasic and Martin, Stealth Liposomes, 1995; Lasic and Papahadjopoulos, Science, 267:1275, 1995; Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci.,92:1327, 1995を参照のこと)。そのようなリポソームは1μmolのリポソームあたり約0.02mg〜0.15mgのcsPCNA特異的抗体を含有し、約5mg/kgの範囲で患者に投与することができる。治療用組成物は薬理学的賦形剤を含むことができる(例えば、エトポシドまたはシトシンアラビノシドあるいはアドリアマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない)。
【0067】
腫瘍細胞に関連した特異的な細胞タンパク質に対する自己抗体が、多くのタイプの腫瘍が成長しているときに生じる。これらの抗体は、自己抗体を生じさせる抗原性タンパク質は、一般に健康な個体においては自由に循環しているとは見出されないという事実に基づいて、悪性腫瘍の存在を同定するために使用される。従って、これらの自由に循環しているタンパク質の存在は疾患を示しており、直接には疾患についてのマーカーとして有用であり得るか、または、これらのタンパク質の1つ以上に対する自己抗体の検出は、疾患の存在についての指標として役立ち得る。化学療法による処置に先立ってサンプリングされた第IV期乳癌患者の血清におけるcsPCNAに対する自己抗体の存在により、遊離の循環csPCNAの存在が明らかにされる。
【0068】
別の態様において、csPCNAに対して特異的な自己抗体が同定および単離された。自己抗体の用語は本明細書中では、身体の免疫系によって作製される抗体を示す。csPCNAが、進行した癌患者または後期段階の癌患者の血流に循環していることが見出され得るという認識、および、csPCNAに対する抗体が、癌細胞の存在を1個の細胞レベルで同定するために使用され得ることを示す免疫組織化学的データは、癌を有する個体の発現によりまた、csPCNAに対する自己抗体が産生されることを示していた。この癌特異的タンパク質には、一般に、健康な個体の身体では、免疫系の細胞による遭遇がないので、csPCNAは「自己」として認識されない。従って、csPCNAに対するこれらの自己抗体はまた、悪性腫瘍の存在の予測因子として役立つ。加えて、これらの自己抗体が存在することは、強い免疫応答を、csPCNAを産生する癌細胞に仕掛けることが可能であること、および、これらの自己抗体は、癌細胞が存在する体内部位を同定するためのツールとして有用であるかもしれないことを示している。さらに、抗体産生が一般には、抗原と比較して、数における数倍の増大を表し、従って、csPCNAに対する自己抗体は、検出アッセイにおける検出の感度を増大させる。
【0069】
csPCNAに対して特異的な自己抗体は、当分野で公知の任意の好適な方法を使用して、生物学的サンプル(例えば、悪性の組織または血清など)から単離することができる。自己抗体はまた、自己抗体−csPCNA複合体の形態で単離することができる。結合したcsPCNAイソ型を、複合体から分離し、本明細書中に記載されるcsPCNA特異的抗体を使用して同定することができる。1つの実施形態において、csPCNAイソ型に対して特異的な自己抗体は、ヒト抗IgGまたは他の好適な検出試薬を使用して同定することができる。例えば、csPCNAを、csPCNAイソ型に対して特異的な自己抗体に結合させるために使用することができ、その後、結合したcsPCNAイソ型が次に、本明細書中に記載されるcsPCNA特異的抗体を使用して免疫検出される。あるいは、csPCNAタンパク質を、結合アッセイの前に、検出可能な因子(例えば、蛍光色素)により標識することができる。
【0070】
別の実施形態において、流体または組織において検出された、csPCNAイソ型に対して特異的な自己抗体の存在は、悪性腫瘍の指標として使用することができる。csPCNAに対して特異的な自己抗体の検出はまた、悪性細胞の組織部位を示すことができる。加えて、この特異的な自己抗体の存在は、長期生存の可能性を評価するための予後指標として、あるいは、腫瘍切除手術または癌治療の後での患者の寛解状態を決定するためのモニターリングのツールとして、使用することができる。抗体の代謝回転およびcsPCNA発現の喪失は、原発性腫瘍を除去すれば、csPCNAに対する循環している自己抗体のレベルを著しく低減させることが予想される。さらに、この特異的な自己抗体は、csPCNAを標的化するワクチン、および、タンパク質を血流に分泌する部位における細胞が、細胞傷害性の免疫応答を生じさせることによる破壊のために標的とできることを示唆する根拠を提供する。
【0071】
用語「抗体」には、所望される生物学的活性または特異性を示す限り、モノクローナル抗体(全長のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体フラグメントが含まれる。
【0072】
「抗体フラグメント」は全長抗体の一部分を含み、一般には、その抗原結合領域または可変領域を含む。抗体フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメントおよびFvフラグメント;ジアボディー;線状抗体;単鎖抗体分子;および、抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0073】
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を示す。すなわち、集団を構成する個々の抗体が、微量で存在し得る可能な天然に存在する変異体を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、1つだけの抗原性部位またはエピトープに対して指向するので非常に特異的である。さらに、それぞれのモノクローナル抗体は抗原における1つだけの決定部位に対して指向する。モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法(これに限定されない)を含む様々な方法によって作製することができ、または、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。モノクローナル抗体はまた、Clackson et al., Nature, 352: 624~626 (1991)、および、Marks et al., J. Mol. Biol., 222: 581~597 (1991)に記載される技術を使用して、ファージ抗体ディスプレーライブラリーから単離することができる。モノクローナル抗体を製造することには、一般に、動物(例えば、マウス)を免疫すること;免疫細胞をその脾臓から得ること;および、免疫細胞を癌細胞(例えば、骨髄腫由来の細胞など)と融合すること、が必要である。融合された細胞の腫瘍はハイブリドーマと呼ばれ、このような細胞がmAbを分泌する。不死性ハイブリドーマの開発では、一般に、動物の使用が必要とされる。csPCNAイソ型またはそのフラグメントと強く反応するmAbを分泌するハイブリドーマ細胞株が選択される。細胞は増殖し、増加して、所望するmAbを産生するクローンを形成する。一般に、このような細胞を増殖させるには、細胞をマウスに腹膜腔に注入するか、または、インビトロ細胞培養技術を使用するという2つの方法がある。マウスまたは任意の好適な動物に注入されたとき、ハイブリドーマ細胞は増殖し、その腹腔に液体(腹水)を産生する。この腹水は高濃度の抗体を含有する。代わりとなる別の方法は、ハイブリドーマ細胞を小規模なバッチシステムまたは大規模なバッチ反応容器の中で、組織培養培地で増殖させることである。
【0074】
mAbのインビトロ製造では、通常、ハイブリドーマ培養物をバッチ様式で成長させること、および、mAbを培養培地から精製することが必要とされる。ハイブリドーマ細胞株の成長を支援するために配合された無血清組織培養培地を利用することができる。細胞培養では、標準的な成長条件のもとで約10日間、一般に使用される組織培養フラスコにおいてインキュベーションすることができる。その後、mAbが培地から集められる。ハイブリドーマ細胞を培養においてより高密度に増殖させることによって、より多くの量のmAbを培地から集めることができる。低分子量カットオフ(10,000〜30,000kD)を有するバリア(例えば、中空繊維またはメンブランなど)の使用は、ハイブリドーマ細胞を高密度で成長させるために好適である。半透過性膜に基づいたこれらのシステムでは、培養培地を含有するより大きい区画からバリアによって分離された、小さい空間に細胞が単離され、mAbがその空間において製造される。培養では、ハイブリドーマの成長を最適化することを助ける増殖因子を補充することができる。抗体の製造プロトコルおよび精製プロトコルの一般的な総説については、Current Protocols in Molecular Biology (Ed Ausubel et al., John Wiley & Sons Inc, 1988)を参照のこと。
【0075】
本明細書中におけるモノクローナル抗体には、所望する生物学的活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来する抗体、あるいは、特定の抗体クラスまたは抗体サブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同的であり、一方で、鎖の残り部分が、別の種に由来する抗体、あるいは、別の抗体クラスまたは抗体サブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同的であるような、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに、そのような抗体のフラグメントが含まれる(米国特許第4,816,567号、および、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851~6855 (1984))。
【0076】
ファージディスプレー方法論もまた、csPCNA特異的抗体を製造するために使用することができる。この技術では、細菌、および、ファージとして知られている細菌ウイルスが、免疫系によって作製された抗体の標的認識特異性の全てを有する合成抗体を製造および選択するために使用される。このような合成抗体は、哺乳動物の系に由来する天然の抗体における標的認識領域または可変領域をコードするものと同じ遺伝子を使用して作製される。ファージは、特定の抗体がファージの外殻におけるタンパク質に融合され、かつ、呈示された抗体をコードする遺伝子がファージ粒子の内部に含有されるように、遺伝子操作される。従って、この技術では、呈示された抗体の表現型がその遺伝子型に結び付けられ、このことは、選択された抗体をコードするDNAを将来の使用のために容易に回収することを可能にする。抗体で覆われたこのようなファージを集めたものがライブライーと呼ばれる。
【0077】
所望する抗体を有するファージをライブラリーから選択するために、ファージは、固体表面に付着させた標的分子に結合させることができる。標的分子を認識する抗体を有するファージは強固に結合し、それ以外のファージ(非結合性ファージ)は簡単に洗い流される。ファージディスプレーでは、所与の標的について異なる結合特性を有する抗体を選択することができる。その後、所望するファージに含有されるDNAを使用して、選択された抗体のより多くの量を、研究または医学的診断での使用のために製造することができる。
【0078】
ファージペプチドディスプレー方法論を、csPCNA特異的抗体と結合するペプチドを同定するために使用することができる。例えば、ペプチドまたはタンパク質の変異体を含む、約6個のアミノ酸から約12個または15個のアミノ酸に及ぶ様々なペプチドのライブラリーがファージビリオンの外側表面に発現され、一方で、そのようなペプチド残基のそれぞれをコードする遺伝物質がファージ粒子の内部に存在する。これは、それぞれの変異体タンパク質配列と、それをコードするDNAとの間での物理的な連関をもたらし、そのような連関は、パンニングと呼ばれる選択プロセスによる所与の標的分子(例えば、csPCNA特異的抗体など)に対する結合親和性に基づいた迅速な特定を容易にする。例えば、ファージにより呈示されたペプチドのライブラリーを、csPCNA特異的抗体により被覆されたプレートまたはビーズまたは任意の固体基材とインキュベーションする工程、結合していないファージを洗い流す工程、および、特異的に結合したファージを溶出する工程によって、パンニングが行われる。その後、溶出されたファージは増幅され、結合性配列についてのプールを濃縮するためのさらなる結合/増幅サイクルがその後に行われる。3回〜4回の処理の後、個々のクローンが、DNA配列決定およびELISAによって特徴づけられる。csPCNA抗体もまた、csPCNA特異的抗体と結合するペプチドまたはペプチドミメティクスについて合成ペプチドライブラリーを同定するために使用することができる。
【0079】
リボソームディスプレーは、数十億個の異なるヒト抗体フラグメントを含有し、かつ、標的分子に対する抗体を迅速に単離することができるライブラリーを作製するために、タンパク質合成に関与する細胞成分をインビトロで使用する、無細胞ディスプレー技術である。
【0080】
リボソームディスプレー技術はまた、標的分子(例えば、csPCNAなど)に対する抗体を同定するために使用することができる。この方法論は、安定な抗体リボソームmRNA複合体の形成に基づいており、抗体タンパク質がそのコードDNA配列に直接に結び付けられるという点でファージディスプレーとの類似性を有する。ヒト細胞から抽出された抗体遺伝子のライブラリーが、標準的なPCRによって複製および増幅される。転写後、mRNA分子の集団はそれぞれが、異なる抗体遺伝子をコードする。その後、mRNA分子が、溶解物系リボソーム(細菌由来のリボソームおよびそれらのタンパク質作製機構)とインキュベーションされ、このとき、リボソームにより、mRNAがタンパク質複合体(リボソームディスプレーライブラリー)に翻訳される。そのような複合体(それぞれが異なる抗体を呈示する)が標的の抗原性ペプチド(例えば、csPCNAイソ型に由来するペプチドなど)と混合されると、標的に対して特異的である抗体は標的に結合し、非結合体は洗い流される。
【0081】
一次抗体(例えば、csPCNA抗体)または二次抗体を、そのFc領域に対して向けられた二次抗体の色素標識Fabフラグメントまたは酵素標識Fabフラグメントにより複合体化またはコンジュゲート化することは、本開示の範囲内である。複数の標識を、一次抗体または二次抗体にカップリングまたはコンジュゲート化するために利用することができ、これらには、アミノメチルクマリン(AMCA)、フルオレセイン(FITC)、フルオレセイン(DTAF)、ローダミン(TRITC)、Texas Red(商標)、Cy2(商標)、Cy3(商標)、Cy5(商標)、Cy7(商標)、R−フィコエリトリン(RPE)、B−フィコエリトリン(BPE)、C−フィコシアニン、R−フィコシアニンが含まれるが、これらに限定されない。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)については、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC、赤色)およびジアミノベンジジン(DAB、褐色);アルカリホスファターゼ(AP)については、Fastレッド(ピンク色)、ブロモクロロインドリルホスフェート(BCIP、黄色)、ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(INT)(赤褐色)、Nitroblueテトラゾリウム(NBT、紫色)、New Fuchsin(赤色)、TNBT(紫色)およびVegaレッド(ピンク色)。抗体と結合させることができる検出可能な標識はどれも、csPCNA特異的抗体とともに使用するために好適である。
【実施例】
【0082】
下記の実施例は例示目的のために提供されるだけであり、上記において広い用語で記載されている本開示を限定するようには意図されない。
【0083】
〔実施例1:csPCNA特異的抗体の作製〕
本実施例は、nmPCNAには結合せず、csPCNAに対してのみ結合するペプチド特異的抗体の作製を明らかにすることである。
【0084】
ヒトのcsPCNAイソ型およびnmPCNAイソ型は、配列番号3として本明細書中では同定される同一のアミノ酸配列を有する。図1における配列に示されるように、csPCNAまたはnmPCNAは261個のアミノ酸残基を含有する。
【0085】
本明細書中に開示されるPCNAの免疫原は、配列番号3のアミノ酸残基75と、アミノ酸残基150との間に広がる領域から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。PCNAのアミノ酸配列は、csPCNA抗体の結合の特異性に影響を及ぼさない変異(例えば、挿入、欠失、置換など)を含むことができる。PCNAまたはcsPCNAのペプチドまたはフラグメントは、PCNAにおける短い連続または非連続の配列に関連する。ペプチドは、PCNAのLeu126からTyr133までの配列、すなわち、配列番号1(LeuGlyIleProGluGlnGluTyr)を少なくとも含むアミノ酸配列を含有することができる。追加のアミノ酸もまた、特異性に実質的な影響を及ぼすことなく、免疫原性または抗原性を増大させるという目的のために付加することができる。例えば、保存的アミノ酸置換を、特異性を変化させることなく行うことができる。本明細書中に提供される指針に基づいて、合成ペプチドもまた、csPCNAイソ型に対して特異的である抗体を生じさせるために作製することができる。ペプチドを作製するための任意の好適な手順を、本明細書中に開示される免疫原を作製するために用いることができる。
【0086】
〔実施例1A:ペプチド特異的抗体〕
配列番号2(CysGlyGlyGlyLeuGlyIleProGluGlnGluTyr)として同定される配列を有するペプチドと、配列番号5(CysAspValGluGlnLeuGlyIleProGluGlnGluTyr)として同定される配列を有する第2のペプチドとの、2つの合成ペプチドを作製した。配列番号5はPCNAの免疫優性領域の一部(AspValGluGln)を含む。これら2つの合成ペプチドを、当分野で公知の手順を使用して、ポリクローナル抗体をウサギにおいて生じさせるために使用した。得られた抗体は、Ab126(これは配列番号1から生じた)およびAb121(これは配列番号5から生じた)として同定された。
【0087】
ウエスタンブロット分析を、csPCNAを特異的に認識する抗体の能力を評価するために行った。MCF−7乳癌細胞株およびPA−1卵巣癌細胞株の高速度上清(S3)から調製されたタンパク質サンプルを、2D−PAGEによって分離した。その後、分離されたポリペプチドのウエスタンブロット分析を、Ab126、Ab121、またはPC10(市販の抗PCNA抗体)を使用して行った。図2に示されるように、PC10抗体は、PCNAに対する他の市販の抗体と同様に、非悪性細胞において見出される塩基性イソ型(nmPCNA)と、もっぱら癌細胞においてのみ見出される酸性イソ型(csPCNA)との両方を認識した。本実験で使用された両方の癌細胞株(MCF−7(図2A)およびPA−1(図2B))が、検出可能なnmPCNAを産生することは注目される。市販の抗体の非特異的な結合特性により、市販の抗体は悪性細胞および非悪性細胞を識別することができない。これらの抗体の比較分析では、Ab126抗体は乳癌細胞および卵巣癌の両方のタンパク質のウエスタンブロットにおいて、csPCNAを特異的に認識することができることが明らかにされる。しかしながら、Ab121を使用するウエスタンブロットでは、csPCNAに対する特異性が示されない。PC10抗体と同様に、Ab121はcsPCNAイソ型およびnmPCNAイソ型の両方を認識する。従って、PCNAの免疫優性領域の一部を含有するペプチドが非特異的な抗体をもたらし、その一方で、PCNAの免疫優性領域の一部分を何ら含有しないペプチドがcsPCNA特異的抗体をもたらしたことは予想外であった。
【0088】
モノクローナル抗体が、上記のペプチドを使用して調製される。モノクローナル抗体作製の従来の方法を、ヒト抗csPCNA抗体を同定するために、HuCal GOLD(登録商標)組換え抗体ライブラリーおよびファージディスプレー技術を使用する方法と同様に用いることができる。得られたモノクローナル抗体もまた、csPCNAイソ型のみを特異的に認識すると考えられる。
【0089】
〔実施例1B.AB126抗体は、培養で増殖した癌細胞を特異的に認識する〕
2つの異なるタイプの細胞染色分析を、Ab126抗体(以降、csPCNAabとして示されることがある)が悪性乳房細胞および非悪性乳房細胞を識別し得るかどうかを評価するために行った。結果から、Ab126抗体は癌細胞について高い特異性を有すること、および、Ab126抗体は悪性腫瘍についての早期検出因子として役立つこと、が明らかにされる。免疫蛍光細胞染色実験を、Ab126抗体を使用して行った(図3)。非悪性のヒト乳房上皮細胞(HME)、および、テロメラーゼ遺伝子により不死化された非悪性HME細胞(HME50hTERT)を使用した。HME細胞とHME50hTERT細胞はどちらも、ヌードマウスにおいて腫瘍を生じさせる能力を有していない。加えて、乳癌患者に由来する悪性HME細胞(HME−腫瘍)、ならびに、悪性MCF−7細胞を使用した。これらの異なる細胞タイプを、緑色蛍光性の標識された抗PCNA(PC10)抗体および赤色標識されたAb126により染色した。PC10、または、PCNAについての市販の任意の他の抗体、または、Ab121はいずれも、これらの抗体の全てがPCNA分子内の免疫優性領域に対して調製されるので、非悪性のヒト細胞と、悪性のヒト細胞とを識別するために使用することができない。これに対して、Ab126、すなわちcsPCNAabは、免疫優性領域から遠位にあるPCNAの領域に対して作製される。図3において認められ得るように、標識されたPC10抗体は、調べられた異なる細胞タイプの全て(悪性および非悪性の両方)を容易に染色する。しかしながら、標識されたAb126(これはcsPCNAに対して特異的に作製された)は非悪性細胞を染色せず、しかも癌細胞を容易に検出することができる。非悪性細胞のDAPI染色は、これらの細胞の核を染色するので、視野における細胞の存在を確かに示し、また、PC10による染色は、PCNAがこれらの正常な細胞に存在すること、および、これがPCNAの癌特異的なイソ型ではないことを示す。本実施例は、Ab126により、癌細胞が特異的に検出されることを明らかにし、従って、csPCNAが悪性腫瘍についてのバイオマーカーであるという前提を支持する。
【0090】
〔実施例1C.AB126抗体は早期段階の癌細胞を認識する〕
本実施例では、より迅速な診断のために、Ab126抗体が早期段階の癌細胞を認識することが明らかにされる。非悪性のHME50hTERT細胞、ならびに悪性のHME−腫瘍細胞およびMCF−7細胞を、免疫蛍光染色実験で使用した。加えて、テロメラーゼ、cdk4、およびRasによりトランスフェクションされたHME細胞を同様に評価した(HME5+cdk4,hTERT+Ras)。マウスに導入されたとき、これらの細胞は、長い時間の後でのみではあるが、腫瘍を生じさせる。それらは非常に早期の形質転換細胞を代表し得ることが考えられる。この実験では、図4に示されるように、これらの細胞タイプの全てがDAPIにより染色され、それぞれの拡大視野における細胞の存在が示された。標識されたPC10抗体は、これらの異なる細胞タイプの全てを染色した。しかしながら、癌特異的なAb126抗体は、非悪性細胞を標識せず、悪性細胞を容易に標識する。加えて、Ab126抗体はHME5+cdk4+hTERT+Ras細胞を標識する。このことは、早期形質転換細胞におけるcsPCNAの存在を示している。
【0091】
〔実施例1D.AB126抗体は組織における癌細胞を特異的に認識する〕
悪性および非悪性のパラフィン包埋乳房組織標本の免疫組織学的染色もまた、Ab126抗体を用いて行った。結果を図5に示す(パネルA&B)。結果から、この抗体は、パネルBにのみ存在する癌細胞のみを特異的に認識することができることが示される。両方のパネルにおける細胞はまた、核を同定するために、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染料により対比染色される。Ab126抗体による細胞染色は褐色となる(パネルB)。
【0092】
これらの例から、本明細書中に開示された方法に従って作製されたAb126抗体または他の抗体が、csPCNAイソ型を特異的に同定するために使用され得ること、および、csPCNAイソ型が悪性腫瘍の正真正銘のマーカーであること、が明らかにされる。従って、Ab126抗体または同様な抗体は、癌について処置されている個体の寛解状態をモニターするために有用である。Ab126または同様な抗体は、ELISAおよび免疫組織化学的アッセイをスクリーニング目的のために開発するための有用な試薬である。加えて、Ab126または同様な抗体は、個体の体液において、または、個体の細胞もしくは組織において、悪性腫瘍の可能性を同定することによって、早期段階の癌を有する個体を同定するために有用である。抗体はまた、抗体を放射能標識または蛍光標識し、その抗体を、腫瘍細胞によって腫瘍の近傍に放出されているcsPCNAと反応させることによって、腫瘍の存在部位を同定するために有用であり得る。Ab126または同様な抗体は、それらの悪性腫瘍の可能性を評価するために現在使用されているマーカーを認識する能力を有する、抗体パネルの有用な構成要素である。
【0093】
〔実施例2:csPCNA特異的抗体は悪性の乳癌細胞を認識する〕
本実施例は、抗csPCNA抗体により、乳癌細胞が正常な細胞から選択的に認識されることを明らかにする。PCNAに由来するアミノ酸配列を使用して、商業的な抗体供給者(Zymed,Inc., San Francisco, CA)に、csPCNA特異的な抗体を作製するように契約した。nmPCNAイソ型ではなく、csPCNAイソ型を選択的に同定するウサギポリクローナル抗体が作製された。csPCNA特異的抗体のこの特異性を、ヒト乳房細胞株およびヒト腫瘍/正常組織の両方のウエスタンブロット、免疫蛍光染色によって、また、DABに基づいた免疫組織化学的染色(IHC)によって確認した。動物の免疫化では、ペプチドのアミノ末端部分に付加された4つのシステインを介してキーホールリンペットヘモシアニンにカップリングされた、PCNAのペプチドフラグメントが利用された。PCNAのアミノ酸100〜アミノ酸160に広がる領域から選択されたKLHコンジュゲート化ペプチドフラグメントの100マイクログラムを、完全フロイントアジュバントに再懸濁し、2羽のメスのNew Zealand白ウサギの多数の部位に皮下注射した。ウサギを1ヶ月間休ませ、その後、動物に、不完全アジュバント中のKLHカップリング抗原の2回目の100μg用量による、追加抗原刺激を行った。抗原に対する抗体力価を、免疫化後の約10日〜14日にELISAアッセイによって求め、さらに14日間の休息期間の後、KLHカップリング抗原による、動物の2回目の追加抗原刺激を行った。12日後、25mlの抗血清をそれぞれのウサギから集め、−20℃で保存した。抗血清を20mMリン酸塩緩衝化生理的食塩水(pH7.0)に対して2回透析し、同じ緩衝化生理的食塩水で事前に平衡化されたプロテインG Sepharoseカラムに負荷した。ゲルの結合能は1mlの充填ゲルベッドあたり19mgのウサギIgGであった。カラムを10カラム体積のPBSにより洗浄し、10体積の0.1Mグリシン緩衝液(pH3.0)により溶出した。カラムから溶出する1ミリリットル毎の分画物を1ml/分〜2ml/分の流速で0.25mlの0.25M Tris−HCl(pH8.0)に集めた。カラムから溶出するタンパク質ピークを含有する分画物におけるタンパク質の濃度をBradfordアッセイによって求め、これらの分画物を一緒にし、10mMのNaN3を含有するリン酸塩緩衝化生理的食塩水に対して透析してから、様々なアッセイで使用されるまで4℃で保存した。その後、分離されたポリペプチドのウエスタンブロット分析を、市販の抗PCNA PC10抗体、または、ウサギポリクローナル抗体のいずれかを使用して行った(図6)。PC10抗体は、PCNAに対する市販の抗体と同様に、非悪性細胞において見出されるPCNAの塩基性イソ型(nmPCNA)と、乳癌細胞においてもっぱら見出されるPCNAの酸性イソ型(csPCNA)との両方を認識する。csPCNA抗体は、癌細胞抽出物の2D−PAGEウエスタンブロット分析において、csPCNAイソ型を特異的に認識する。
【0094】
〔実施例2A:csPCNAabを使用する乳癌組織標本の比較選択性分析〕
正常な乳房組織の標本および乳癌組織の標本からなるパネルを、市販の抗体またはcsPCNAabのいずれかを使用してPCNAの存在についてウエスタンブロッティングによって分析した(図7)。市販の抗体には、C20(PCNAのC末端に対する抗体)およびPC10(これはラットのPCNAタンパク質全体に対して調製された)が含まれた。これらの市販の抗体は、正常な乳房組織または悪性の乳房組織のいずれであってもそこに存在するPCNAを認識した。しかしながら、csPCNAab抗体は、悪性の組織のみにおけるPCNAの存在を検出した。csPCNAabのこの能力は、csPCNAが、正常な細胞においてではなく、悪性の細胞において発現するということに起因した。csPCNAイソ型についてのこの抗体の特異性は、より高い濃度の市販のPC10抗体またはcsPCNAabを用いて、PCNA検出のために非悪性組織の抽出物および悪性組織の抽出物をウエスタンブロット分析した実験において、さらに明らかにされた(図8)。この実験の結果から、ウエスタン分析におけるcsPCNAabの高い濃度でさえ、この抗体は癌組織のみにおけるcsPCNAの存在を検出したことが明らかにされる。これに対して、全ての濃度において、PC10抗体は、悪性の乳房組織および非悪性の乳房組織の両方においてPCNAタンパク質を容易に検出した。
【0095】
〔実施例2C:csPCNAabは培養および組織における乳癌細胞を特異的に検出する〕
免疫蛍光分析を、csPCNAabが細胞培養標本および組織標本において悪性の乳房細胞および非悪性の乳房細胞を識別し得るかどうかを評価するために行った。結果から、この抗体は癌細胞について高い特異性を有することが明らかにされる(図9〜図10)。csPCNAabを、培養増殖させた非悪性の乳房細胞および悪性の乳房細胞を染色できるかどうかについて調べた(図9)。この実験では、それぞれの倍率視野における細胞の存在を求めるために、異なる細胞タイプの全てがDAPIにより染色された。調べられた細胞は、正常なヒト乳房上皮細胞(HMEC)、および、腫瘍形成性ではない自発的に不死化したHMECであった。p53における変異を有し、ヒトテロメラーゼの触媒作用成分(hTERT)およびRas癌遺伝子(H−Ras−V12)によりトランスフェクションされていた形質転換HMECもまた評価した。加えて、無胸腺マウスの体内で成長させた腫瘍から培養された形質転換HMEC、ならびに、MCF−7細胞を、図9については乳腫瘍細胞として使用した。図9において認められ得るように、市販のPC10抗体は、調べられた異なる細胞タイプの全て(すなわち、悪性および非悪性の両方)を容易に染色した。PC10抗体は、PCNAの発現を定量するために広範囲で使用されている。市販の抗体とは異なり、csPCNAabは、csPCNAを選択的に認識する一方で、非悪性細胞を染色せず、しかも乳癌細胞を容易に検出することができる。非悪性細胞のDAPI染色により、視野における細胞の存在が示される。csPCNAabにより染色された非悪性培養物において認められる少数の明るい赤色蛍光「スポット」は、これらの「スポット」が、緑色標識されたPC10抗体により染色された培養物において同じ場所に認められるので、破片に対する非特異的な結合のためである。本実験は、csPCNAabが、培養された乳癌細胞を特異的に検出することを示している。
【0096】
別の実験では、新鮮な凍結された非悪性の乳房組織標本および悪性の乳房組織標本もまた、市販の抗体およびcsPCNAab抗体を使用して、比較免疫蛍光染色によって評価された(図10)。この研究では、市販のPC10抗体、C20抗体、および100−478抗体(Novus)が評価された。図10に例示されるように、これらの市販の抗体は全てが非悪性の乳房組織および悪性の乳房組織の両方を容易に染色する。PC10抗体、C20抗体、および478抗体とは対照的に、csPCNAabは、悪性の乳房組織のみを染色した。培養増殖させた両方の細胞、ならびに、ヒト組織を使用して行われたこれらの実験は、csPCNAabが乳癌細胞のみを特異的に検出することを明らかにしており、csPCNAが乳房の悪性腫瘍についての真のマーカーであるという証拠をもたらす。
【0097】
〔実施例3.csPCNAの抗原性ペプチドに対するマウスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の作製〕
2系統のマウス(系統あたり3匹のマウス)を100μgのKLHコンジュゲート化csPCNAペプチドフラグメントにより免疫した。ヒトPCNAタンパク質のアミノ酸位126〜133(配列番号1)(LeuGlyIleProGluGlnGluTyr)を含むcsPCNA由来のペプチドフラグメントを使用した。マウスを休ませ、12日目に、マウスがペプチドに対する免疫応答を発達させたかどうかを明らかにするために、免疫化後試験採血を行った。csPCNAペプチドに対する抗体の産生能を、ELISAプレートにカップリングされた抗原性ペプチドを使用したELISAアッセイによって求めた。マウス抗血清の希釈物を固定化ペプチドとインキュベーションし、捕捉された抗csPCNA抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲート化された抗マウスIgG抗体とインキュベーションしてから定量した。マウスの全てを30日間休ませ、抗体力価がベースライン近くに低下した後、マウスに、2回目の用量のcsPCNAペプチドによる追加抗原刺激を行った。このプロセスを3回繰り返し、csPCNAペプチドに対する免疫学的応答を定量した後、最大の免疫応答を有したマウスからの脾臓を取り出し(図12)、脾臓細胞をNS−0骨髄腫細胞と融合した。マウス抗血清はランダムなペプチド配列には結合せず、また、csPCNAの異なる免疫優性領域に由来するペプチドをスクリーニング期間中においてコントロールとして使用したが、このペプチドは、ヒストグラム(図12)では示されないベースライン吸収値しかもたらさなかった(図12)。ハイブリドーマをHAT培地において選択した。HAT選択を生き延びたハイブリドーマを、csPCNAペプチドに対する抗体産生についてスクリーニングし、抗csPCNAを作製する29個のクローンを選択した。これらのクローンをHAT培地においてさらに2週間継続し、15個のクローンをELISAによって再選択し、安定な抗体産生細胞株として特定した。これらの細胞株を限界希釈によってサブクローン化し、csPCNAに対する抗体を産生するクローンを選択し、高密度に増殖させて、アフィニティー精製によって抗csPCNA抗体を調製し、2D−PAGE分解後のウエスタンブロットおよびIHC分析を用いて、csPCNAについての特異性を確認した。これらのアフィニティー精製されたモノクローナル抗体のうちの5個が、生物学的サンプルにおける悪性細胞の検出のために使用される。
【0098】
〔実施例4:パラフィン包埋された乳房組織標本の免疫組織化学的(IHC)染色〕
本実施例は、本明細書中に開示されるcsPCNA特異的抗体および方法により、悪性細胞が包埋組織標本において検出されたことを明らかにする。パラフィン包埋された乳房組織標本の免疫組織化学的染色もまた、csPCNAabを用いて行った。調べられた組織は、乳房切除手術後に得られた非悪性の組織、ならびに、非浸潤性乳管癌(DCIS)(乳管の外側で、乳房内の他の組織への拡大、または、乳房外への拡大の証拠を伴うことなく、乳管の裏層における悪性様細胞のクローナル増殖によって特徴づけられる前癌状態)の患者から得られた組織であった。DCISは浸襲性疾患または転移性疾患の前兆である。代表的な結果が例示される(図11)。これらの結果から、csPCNAabは、癌細胞の核内のエピトープを特異的に認識し、かつ、早期段階(DCIS)の疾患を検出することが明らかにされる。csPCNAの発現は、正常な乳腺小葉では観測されなかった。
【0099】
1つの態様において、陽性コントロールのスライドは既知の浸襲性乳腫瘍コア部の二連の切片を含有し、ブランクのパラフィン切片が陰性コントロールとして役立つ。簡単に記載すると、組織標本の5μmパラフィン切片を正荷電のスライドに固定処理し、キシレン中で脱パラフィン化し(3回の交換)、その後、段階的なアルコールおよび蒸留水により再水和した。抗原回復を、電子レンジを10分間使用し、続いて、20分間冷却してクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中で行う。この後、Peroxo-block(登録商標)(Zymed)を用いた内因性ペルオキシダーゼ活性のブロッキング処理を行う。スライドをリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)で洗浄した後、スライドをビオチン化csPCNAab(1:400の希釈度)または市販のビオチン化PC10抗体(BioScience、1:250の希釈度)と1時間インキュベーションする。アビジンコンジュゲート化ペルオキシダーゼ(Zymed, Picture Plus(商標)キット:HRP/Fabポリマーコンジュゲート、Invitrogen, Carlsbad, CA)をビオチン化一次抗体に結合させ、抗体ペルオキシダーゼ複合体をジアミノベンジジン(DABplus(登録商標)、Dako、Carpinteria, CA)と反応することによって、抗原抗体反応を可視化する。可視化に先だって、スライドをヘマトキシリン(Vector Labs)により対比染色し、アルコールおよびキシレン中で洗浄し、Histomount(商標)(Zymed, Invitrogenm, Carlsbad, CA)により固定する。csPCNAab一次抗体またはPC10一次抗体を、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)またはイソタイプ特異的なコントロール抗体により置き換えることもまた、陰性コントロールとして使用される。それぞれの組織切片において細胞構造を明らかにするために、また、細胞の核を同定するために、混合H&E染料が使用されるが、これは、組織病理学的評価における悪性腫瘍の存在を決定するための標準的な方法を表す。H&Eは、csPCNAab抗体またはPC10抗体のいずれかによるパラフィン包埋標本のIHC染色の後で組織切片に添加する。
【0100】
IHCによる評価およびスコア化を本明細書中に記載される通りに行う。PC10抗体およびcsPCNAab抗体との反応性についての病理学標本および組織アレイの染色および最初のスコア化の完了後、染色されたスライドを染色結果の確認のために独立して評価する。それぞれの組織学的切片を、免疫染色を呈示する正常な核および新生物の核の割合についてスクリーニングし、評価する。細胞の核の2%未満、2%〜20%、21%〜70%、または71%〜100%が陽性に染色されるならば、csPCNAabについての免疫反応性を、それぞれ、陰性、低い、中程度、または高い、として分類する。これらの選ばれた免疫反応性範囲の値は、乳癌についての他のバイオマーカーによる臨床病理学判断のために使用される値と一致している。任意の好適なスコア化方法も、本明細書中に記載される方法に加えて、使用することができる。10個の重ならない高倍率顕微鏡視野を1つの標本について計数し、核の少なくとも2%がcsPCNAabにより染色されるならば、その標本を乳癌として分類する。一致することが必要ならば、分析は再評価することができる。増殖中の悪性細胞は、DABを基質として使用すると、csPCNAab抗体およびPC10抗体の両方により褐色に染色されることが予想される。正常な組織の標本は、csPCNAabと反応しないのでH&E染料のために青/紫色のままであることが予想されるが、正常な組織における増殖細胞は、それらの増殖速度にかかわらず、PC10抗体でプローブされたときにだけ、褐色に染色されるはずである(図9〜図10)。
【0101】
〔実施例4A:悪性乳癌細胞の臨床診断〕
培養において増殖する場合(図9)または悪性組織に存在する場合(図10)のいずれであっても、csPCNAabが乳癌細胞に選択的に結合できることを明らかにするために、免疫蛍光による細胞染色および組織染色を使用した。悪性乳癌の臨床診断もまた、csPCNA特異的抗体を使用する癌性組織の免疫組織化学的染色によって行われる。
【0102】
市販のアレイ供給元からの組織アレイスライド、および、組織標本から調製された個々のスライドを、csPCNAab抗体および/またはPC10抗体と結合するそれらの能力について分析する。3μm〜5μmの切片に薄切されたパラフィン包埋組織を、パラフィンを除くために、キシレン中で2回、それぞれ10分間インキュベーションする。スライドを、一連のエタノール洗浄液(dH2O中の濃度が100−90−80−70−0%)により、それぞれ10分間、再水和する。抗原回復を、Antigen Unmasking Solution(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を説明書に従って使用して行う。その後、スライドをブロッキング緩衝液(PBSにおける3%BSA)に室温で30分間〜60分間入れる。ブロッキング緩衝液中の1:200の希釈度での、マウス抗PCNA(PC10)抗体(これはPCNAの全てのイソ型を認識する)またはウサギcsPCNAabのいずれかを組織に直接に添加し、パラフィンで覆い、加湿チャンバーにおいて室温で60分間インキュベーションする。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、スライドを、ブロッキング緩衝液中の1:600の希釈度での適切な蛍光二次抗体(Alexa468(緑色蛍光)(Calbiochem, San Diego, CA)、抗マウスIgG、またはAlexa568(赤色蛍光)、抗ウサギIgG(Molecular Probes, Invitrogen, Carlsbad, CA)とインキュベーションし、パラフィンで覆い、加湿チャンバーにおいて、室温で30分間〜60分間、暗所に置く。3回の5分間の洗浄をPBS中でもう一度行い、スライドを、DAPIを含有するVectashield(登録商標)(Vector Laboratories, Burlingame, CA)により固定する。組織切片を、20X(および40X)の対物レンズを有するLeica蛍光顕微鏡を使用して調べる。DAPIは対比染料として役立つ。増殖中の正常な乳房細胞および悪性の乳房細胞をcsPCNA抗体およびPC10抗体とインキュベーションした後、これらの細胞に対するAlexa468抗体およびAlexa568抗体の結合を評価する。Leica蛍光顕微鏡は、一方または両方の抗体が同じ乳房細胞に結合しているかどうかを識別することを可能にする赤色−緑色のフィルターを備える。それぞれの組織学的切片を、赤色または緑色の免疫蛍光を呈示する、正常な核および新生物の核の割合についてスクリーニングし、評価する。細胞の核の2%未満、2%〜20%、21%〜70%、または71%〜100%が赤色の蛍光を有するならば、csPCNAabについての免疫反応性を、それぞれ、陰性、低い、中程度、または高い、として分類する。IHCによるスコア化および評価を本明細書中上記で記載されたように行う。正常な組織の標本は、PC10抗体とだけ反応することができるので、緑色の蛍光を発するだけであり、一方で、悪性の細胞は、PCNAの両方のイソ型を発現して、PC10およびcsPCNAabの両方と反応することが予想される。加えて、正常な組織の標本に含まれる遅く増殖する細胞および急速に増殖する細胞はともに、PC10抗体とのみ結合することが予想される(図9〜図10)。csPCNA特異的抗体を使用した分析によるcsPCNAイソ型の検出は、抗体に結合した特定の標識によっては制限されない。例えば、免疫蛍光染色はDAB染色よりも高感度であり、また、免疫蛍光標識された連続組織切片のデジタル画像は互いに重ねることができるので、赤色および緑色の染色細胞の同時局在化が、分析されたそれぞれの組織標本について容易に確認され、そのような同時局在化は、悪性細胞が、分析されている癌標本にだけ存在することを選択的に示すことが予想される。赤色の蛍光が乳腫瘍標本にだけ存在することにより、悪性の乳房細胞についてのcsPCNAabの選択性が確認される。
【0103】
増殖中の非悪性の乳房細胞は、培養において増殖させた場合、または、正常な組織に存在する場合であっても、csPCNAを発現せず、従って、csPCNAabと反応しない。対照的に、増殖中の非悪性の乳房細胞は非選択的なPC10抗体と反応する。
【0104】
本明細書中に開示される抗体組成物および方法によりまた、様々な乳腫瘍タイプが検出され、これらには、乳管嚢胞、アポクリン化生、硬化性腺症、乳管上皮過形成、非異型性、管内乳頭腫症、円柱細胞の変化、放射状硬化性病変(放射状瘢痕)、乳頭腺腫、管内乳頭腫、線維腺腫、乳汁分泌性乳頭腫、非定型乳管上皮過形成、非定型小葉過形成、非浸潤性乳管癌(核悪性度1、同2および同3として分類される)、上皮内小葉癌、多形性上皮内小葉癌、乳房内脂肪腫、乳房過誤腫、顆粒細胞腫、乳房内脂肪壊死、偽血管腫性間質過形成(PASH)、乳房を巻き込む悪性メラノーマ、乳房を巻き込む悪性リンパ腫、葉状腫瘍(良性、境界線上および悪性のサブクラス)、および、乳房の肉腫、が含まれる。
【0105】
乳癌は、p53、ER、PR、細胞周期タンパク質、B72.3、α−ラクトアルブミン、乳脂肪球、マンマグロビン、マスピン、およびHER2の発現変化を含む、様々なバイオマーカーと結び付けられてきた。しかしながら、必ずしも全ての乳癌が、これらのバイオマーカーの全ての変化した発現を同時に、または、同じレベルに示すわけではない。csPCNA、および他の予後/診断因子(Ki67、p53、ER、PR、B72.3、α−ラクトアルブミン、乳脂肪球、マンマグロビン、マスピンおよびHER2)のいずれかの発現状況もまた行うことができる。csPCNAab、または、その他のバイオマーカーに対する市販の一次抗体、および、それらに対する適切な二次抗体が、乳癌についての他のバイオマーカーに対するcsPCNA発現の相関を評価するために使用される。csPCNAイソ型に対するモノクローナル抗体はまた、乳癌組織を検出および診断するために使用される。抗原抗体結合の条件は、最適な感度を得るために必要ならば調節される。
【0106】
〔実施例4C:csPCNAabの感度および特異性を求めるための統計学的方法〕
悪性の乳房細胞を組織標本において検出するためのcsPCNAabの感度および特異性を計算するために、まず統計学的方法を使用して、免疫組織化学的(IHC)データの分析を行う(S.C.Chuah et al., 2005, Pathology, 37(2): pp.169-171を参照のこと)。csPCNAabのこれらの特徴に加えて、悪性の乳房細胞および非悪性の乳房細胞を互いに識別するためにcsPCNAabを使用することの、陽性の予測値(PPV)および陰性の予測値(NPV)を、下記の式を使用して求める[感度=a/(a+c);特異性=d/(b+c);PPV=[a/(a+b)]×100;およびNPV=[d/(c+d)×100;式中、a=真の陽性、b=偽陽性、c=偽陰性、および、d=真の陰性]。個々の標本の真陽性染色/偽陽性染色および真陰性染色/偽陰性染色が、染色された組織切片の目視検査のあいだに病理学者によって確認される。IHCデータはまた、χ二乗検定によって最初に分析され、本明細書中に記載されるIHC評点システムを使用して、得られたデータに対する分析が行われる(H. Brustmann, 2005, Gynecologic Oncology, 98:396~402を参照のこと)。データは単変量解析に供され、悪性の乳房標本および非悪性の乳房標本を識別する様々なcsPCNAabの能力が評価される。悪性の乳房細胞を患者の組織標本において選択的かつ特異的に同定するcsPCNAabの能力を定量化するために、GraphPad Prism4およびStatMate統計学的分析ソフトウエア(GraphPad, San Diego, CA)を使用して、正常な乳房組織の標本および良性の乳房病変を用いて得られたデータが分析される。csPCNAabは、この抗体が、ヒト乳房生検物における悪性の乳房細胞の存在を同定するために使用されるとき、90%以上の選択性および95%を超える信頼性レベルを提供するはずである。csPCNAabは、組織標本が第I期の疾患として分類される場合でさえ、強く反応する。乳癌病変の種々の下位カテゴリーもまた、本明細書中に開示される様々なcsPCNAabによって評価される。
【0107】
〔実施例5.csPCNA特異的ペプチドの設計、および、csPCNAに対して特異的に指向する抗体の開発〕
PCNAに対する市販の抗体のエピトープマッピングにより、抗体の大部分が、PCNAタンパク質のほぼ中央部(aa85〜125)における40アミノ酸(aa)の範囲に結合することが示された。この領域はPCNAポリペプチド内の免疫優性ドメインを表す。ウサギポリクローナル抗体が、PCNAのタンパク質−タンパク質相互作用を容易にするコネクター間ドメイン(aa118〜135)(表1)を含むPCNAのペプチドフラグメントに対して、商業的供給元(Zymed Inc., San Francisco, CA)によって調製された。それぞれのペプチドを、それぞれのペプチドのアミノ末端部分に付加された4つのシステイン残基を介してキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にカップリングした。100μgのそれぞれのKLHコンンジュゲート化ペプチドフラグメントを、完全フロイントアジュバントに再懸濁し、1つのペプチドあたり2羽ずつのメスのNew Zealand白ウサギに多数の部位で皮下注射した。ウサギを1ヶ月間休ませ、その後、不完全アジュバント中のKLHカップリング抗原の2回目の100μg用量を用いて、動物の追加抗原刺激を行った。抗原に対する抗体力価を、免疫化後の約10日〜14日でELISAアッセイによって求め、さらに14日間の休息期間の後、動物にKLHカップリング抗原の2回目の追加抗原刺激を行った。12日後、25mlの抗血清をそれぞれのウサギから集め、−20℃で保存した。抗血清を20mMリン酸塩緩衝化生理的食塩水(pH7.0)に対して2回透析し、同じ緩衝化生理的食塩水により事前に平衡化されたプロテインG Sepharoseカラムに負荷した。カラムから溶出する1ml毎の分画物を0.25mlの0.25M Tris−HCl(pH8.0)に集めた。抗体を含有する分画物を一緒にし、透析し、様々なアッセイで使用されるまで4℃で保存した。ウエスタンブロット分析を、csPCNAを特異的に認識するそれぞれの抗体の能力を評価するために行った。MCF7乳癌細胞抽出物を2D−PAGEによって分離した。その後、分離されたポリペプチドのウエスタンブロット分析を、種々のポリクローナル抗体または市販のPC10抗体のいずれかを使用して行った(図13)。PC10抗体は、PCNAに対する全ての市販の抗体と同様に、非悪性細胞において見出されるPCNAの塩基性イソ型(nmPCNA)と、乳癌細胞においてもっぱら見出されるPCNAの酸性イソ型(csPCNA)との両方を認識する。これらの抗体の全ての比較分析では、これらの抗体のうちの1つだけ(PCNAペプチド(aa126〜133)に対して調製された抗体)が、癌細胞抽出物の2D−PAGEウエスタンブロット分析において、csPCNAを認識し得るのみであることが示される。データは、コネクター間ドメイン全体(aa118〜135)に対して惹起された抗体がnmPCNAおよびcsPCNAの両方を認識することを示す。また、PCNAのaa121〜133に対して惹起された抗体もnmPCNAおよびcsPCNAの両方と結合する。これらのデータはまた、csPCNAの抗原性部位が、PCNAのaa122〜142の間のどこかにあることを示唆していた。PCNAのaa126〜133に対して開発された抗体(csPCNAを特異的に認識する抗体)がcsPCNAabとして名付けられている。加えて、ペプチド#126〜133を使用することによって、4羽のさらなるNew Zealand白ウサギにおいて、また、2つの異なる系統のマウスにおいて、csPCNA特異的抗体を得ることに成功している。
【0108】
<表1:ウサギポリクローナル抗体を生じさせるために使用されたPCNAペプチドの配列(使用されたペプチドには下線が付される)>

【0109】
〔実施例5A.csPCNAに対する抗体の特異性〕
本実施例では、csPCNAに対する抗体の特異性が明らかにされる。直接ELISAアッセイにおいて、抗原性ペプチドおよび精製されたcsPCNAを、抗PCNA抗体(「Ab126抗体」)による結合のための標的として互いに競合させた。抗体がcsPCNAについて特異的であったならば、十分な濃度において、この抗体を惹起させるために使用されたペプチドは、アッセイにおいて用いられるAb126抗体に対する結合について、精製csPCNAと効果的に競合することが予想される。
【0110】
本実験においてはまず、0.1μgの組換えPCNAをカップリング緩衝液(炭酸塩緩衝液、pH9.6)中でELISAプレートに固定化し、その後、1%ウシ血清アルブミンとカップリング緩衝液中で1時間インキュベーションして、それぞれのウエルに残存する残存結合性部位をブロッキング処理した。その後、所定範囲の濃度(0.024ng/ウエル〜2400ng/ウエル)の抗原性ペプチド(UMPB6、PCNAのアミノ酸126〜133と等価)を氷上でAb126抗体と混合し、それぞれのウエルに入れて室温で1時間振とうした。この一次抗体をPBS−0.05%Tween20による洗浄によって除き、アルカリホスファターゼにコンジュゲート化された抗ウサギIgG二次抗体をそれぞれのウエルに加えた。ウエルをPBSにより洗浄し、反応緩衝液における100μlのパラ−ニトロフェノールホスファート(1mg/ml)を20分間インキュベーションして、基質を加水分解させ、その後、反応混合物の光学濃度を405nmの波長で読み取った。
【0111】
図15Aに示される結果から、このペプチドは、ELISAプレートに固定化されたcsPCNAに対するAb126抗体の結合を、増大するペプチド濃度の関数として阻害することができ、見かけのIC50が0.1μg/mlをわずかに上回ることが明らかにされる。このデータは、csPCNAイソ型タンパク質に対するAb126抗体の特異性を明らかにしている。
【0112】
〔実施例5B:サンドイッチELISAにおけるAB126抗体の特異性〕
本実施例では、サンドイッチELISAにおける、本明細書中に開示される抗体のcsPCNAに対する特異性が明らかにされる。サンドイッチELISAにおいて、csPCNA特異的なAb126抗体(1μg/ウエル)または非特異的なPCNA抗体C20(1μg/ウエル)のいずれかを、ELISAプレートに固定化して、アッセイで使用された組換えPCNAを捕捉するために用いた。ELISAプレートにおける残存結合性部位をBSAによりブロッキング処理し、組換えPCNAを、所定の濃度範囲の競合性ペプチド(UMPB6(0.024ng/ウエル〜2400ng/ウエル))の存在下、固定化された捕捉抗体とインキュベーションした。結合していないPCNAを洗い流した後、結合しているタンパク質を、第1の場合にはC20抗体により検出し、第2の場合にはAb126により検出した。これらの検出抗体をELISAプレートのそれぞれのウエルに加えた。アルカリホスファターゼにコンジュゲート化された適切な二次の抗ウサギIgG抗体または抗ヤギIgG抗体を、ELISAプレートのウエルのそれぞれにおける結合した抗体とインキュベーションし、非特異的に結合した抗体をPBS−0.05%Tween20により洗い流した後、捕捉されたPCNAに結合した検出抗体の量を、それぞれのウエルに残存する二次抗体を1mg/mlのp−ニトロフェノールホスファートと30分間インキュベーションすることによって求めた。
【0113】
図15Bに示される結果は、特異的な捕捉抗体(Ab126−ひし形)が、アッセイに添加された組換えPCNAに存在するcsPCNAイソ型を捕捉するために使用されたとき、UMPB6ペプチドが、この捕捉抗体についての競合において効率的であり、このタイプのアッセイにおける見かけのIC50が1μg/ウエルをわずかに上回っていたことを示している。対照的に、UMPB6は、組換えPCNAを捕捉するC20抗体(ピンク色の四角)の能力に対する検出可能な影響を何ら有していなかった。これは、イソ型非特異的なC20抗体の結合性部位が、UMPB6ペプチドをその標的化されたエピトープとして認識しないという事実のためであるかもしれない。これら2つの抗体の間での結合量における全体的な違いは、組換えPCNAタンパク質についてのこれら2つの抗体の親和性における違いから生じているか、または、組換えタンパク質におけるPCNA分子の混合(すなわち、組換えタンパク質のcsPCNAイソ型および非csPCNAイソ型を含む混合)の結果であると考えられる。
【0114】
〔実施例5C.csPCNAについてのELISAの感度〕
本実施例では、本明細書中に開示されるcsPCNA特異的抗体の感度が明らかにされる。ELISAアッセイの感度を、csPCNAを所定範囲の濃度にわたって検出するアッセイの能力を測定することによって求めた。サンドイッチELISAを、アッセイで使用された精製組換えPCNAに存在するcsPCNAイソ型を捕捉するために非特異的な抗PCNA抗体(C20抗体)を使用して、本明細書中に概略されるように行った。C20抗体に結合したcsPCNAの存在を検出するために、Ab126抗体を使用して、結合した抗体を特異的に可視化した。アルカリホスファターゼにコンジュゲート化された抗ウサギIgGを、捕捉されたcsPCNAに結合したAb126抗体の存在を同定するために使用した。図15Cに例示されるように、アッセイでは、csPCNAが、3ng/ウエル〜200ng/ウエルに及ぶ濃度範囲にわたって検出される。
【0115】
〔実施例5D.癌細胞抽出におけるcsPCNAの検出〕
本実施例では、csPCNA特異的抗体により、csPCNAイソ型を癌細胞抽出物において検出できることが明らかにされる。様々な卵巣癌細胞(PA−1細胞株を含む)が、csPCNAイソ型を発現することが示されている。本明細書中に記載されるサンドイッチELISAを使用して、PA−1細胞から調製された核抽出物を、その濃度を増大させながらインキュベーションした。0〜100μg/ウエルに及ぶ核抽出物の濃度範囲にわたって、抽出物におけるcsPCNAの存在が検出されたことが明らかにされた。csPCNAの検出は、図16に示されるように、Ab126抗体を使用して調べられたタンパク質の範囲にわたって直線的であった。PA−1細胞によって発現されたPCNAは、ELISAウエルに固定化されたC20抗体によって捕捉された。
【0116】
〔実施例6:csPCNAは、DNA複製に関与し、POLδと相互作用する〕
PCNAはシンセソームの機能性成分である。加えて、DNApolαおよびDNApolδの阻害剤であるDNApolα抗体に対するシンセソームの機能的応答、ならびに、PCNAの必要性は、シンセソームのインビトロ複製活性が、polαおよびpolδの両方によって媒介されることを示唆していた。今回、csPCNAが実際に、乳癌細胞のDNA複製において役割を果たし、また、そのpolδとともに機能するかどうかを明らかにするために、DNApolδのDNA複製アッセイおよびインビトロでのSV40のDNA複製アッセイを、MCF7細胞抽出物を使用してcsPCNAabの存在下および非存在下で行った(表2)。csPCNAabが乳癌細胞抽出物において、DNApolδのDNA複製活性およびインビトロでのSV40のDNA複製活性の両方を阻害したことが観測された。ウシ血清アルブミン(BSA)がコントロール反応に添加されたが、阻害は何ら認められなかった。これらの結果から、csPCNAが乳癌細胞のDNA複製に積極的に関与し、かつ、DNApolδとともに容易に機能し得ることが示される。
【0117】
<表2 インビトロでのSV40のDNA複製活性およびDNApolδ活性に対する増大するcsPCNAab濃度の影響>

【0118】
反応開始前に、シンセソーム分画物を、増大する濃度のcsPCNAabと4℃で1時間インキュベーションした。データは3回の独立した実験の平均を表す。#測定されず。SV40のDNA複製アッセイおよびDNAポリメラーゼアッセイは、発表された手順に従って行った(Malkas, L. H. et al., (1990), Biochem, 29: 6362~6374; Waleed et al., (2004), Biochemical Pharmacology, 68: 11~21; Han et al.,(2000), Biochemical Pharmacology, 60: 403~411)。
【0119】
結果から、csPCNA特異的抗体はDNA複製を選択的に阻害することができ、また、癌細胞の複製を阻害するための治療ツールとして役立ち得ることが明らかにされる。csPCNA特異的抗体はまた、csPCNAイソ型のタンパク質−タンパク質相互作用に影響を及ぼし、それにより、癌細胞の複製経路に影響に及ぼす。
【0120】
〔実施例7:csPCNAに対する自己抗体〕
本実施例は、循環しているcsPCNAイソ型を検出し、また、早期段階および後期段階の癌を診断するためのツールとしての、csPCNAイソ型に対する自己抗体の使用を明らかにする。
【0121】
実験設計では、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)プレートを、csPCNAイソ型を含有する組換えPCNAにより被覆すること、ELISAウエルをBSAによりブロッキング処理すること、および、被覆されたウエルを、第IV期の患者から得られたヒト血清とインキュベーションすること、を含む。患者を2つの群に分けた。一方の群には、生存が試験登録後200日未満であった患者が含まれ、もう一方の群は、生存が登録後1300日を超えていた。その後、ウエルをPBSにより洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲート化された抗ヒト抗体とインキュベーションした。もしPCNAに対する循環抗体が患者の血清試料に存在したならば、これらの抗PCNA抗体は、プレートに結合しているPCNAと結合し、洗浄工程の後でプレートに保持される。そのような場合、抗ヒト二次抗体が、抗PCNA抗体を発現する患者の血清を含有するそのようなウエルにおいて抗体に結合することが予想される。抗ヒト抗体の存在が、p−ニトロフェノールホスファート基質の黄色生成物への変換によって認められる。生成物の存在量が、その吸光度を405nmで測定することによって求められる。結果は、長期生存者の1人が、相当量の自由に循環する抗PCNA抗体を有し、一方、1人の短期生存者が、少量のこの同じタイプの抗体を作っていたことを示した。それぞれの群に由来する1人の患者が、長期生存または短期生存のいずれかと相関するようには見えなかった検出不能なレベルの抗PCNA抗体を有していた。図14は、生データ、コントロール、および、コントロールから得られたバックグラウンドを引いた実験値を示す。自己抗体についてのELISA手順が本明細書に概略される。簡単に記載すると、ELISAプレートを0.2μgのPCNAにより被覆し、体積をカップリング緩衝液(50mM炭酸塩緩衝液、pH9.6;10mM NaN3)により100μlにし、プレートを37℃で2時間振とうする。PCNAの濃度は約0.250μg/μlである。200μlのブロッキング緩衝液(1XPBS、pH7.4;1%BSA;0.05%Tween20)を使用して、非結合部位を37℃で1時間ブロッキング処理する。洗浄緩衝液(1XPBS、pH7.4;0.05%Tween20)により洗浄を3回行う。50μlのヒト血清(第IV期の乳癌患者)を加え、37℃で1時間インキュベーションする。最初の血清を除き、50μlの新鮮な血清と置き換え、37℃で1時間インキュベーションする。その後、プレートを洗浄緩衝液により3回洗浄する。洗浄後、100μlの2°Abの抗ヒトAP(1:1000)を加え、プレートを37℃で1時間インキュベーションする。洗浄を洗浄緩衝液により3回行う。発色させるために、100μlの1mg/mlのp−ニトロフェノールホスフェート(pNPP)(10mMジエタノールアミン、pH9.0;0.5mM MgCl2において)を加え、、室温で、発色の程度に応じて約10分間〜30分間インキュベーションする。50μlの1%SDSを加えることによって発色を停止させ、吸光度を405nmで測定する。
【0122】
吸光度ユニットを血清中の自己抗体の量に相関させる。csPCNAイソ型に対する自己抗体の存在により、個体における遊離の循環しているcsPCNAイソ型の存在が示され、従って、悪性細胞の存在が示される。循環しているcsPCNAイソ型の量は、癌の段階および癌タイプに依存して変化し得る。
【0123】
〔実施例8:癌細胞のインビボ検出および腫瘍細胞へのcsPCNA抗体の送達〕
csPCNAと相互作用する抗体、ファージディスプレー抗体、またはXPGフラグメントは、放射性同位体標識(例えば、F18)または蛍光性タグを試薬に付加し、csPCNA特異的試薬を対象に注入して、腫瘍細胞が、標識された試薬(抗体、ファージ粒子)と反応することを可能にすることによって、対象または患者の体内における腫瘍の部位位を同定するために使用することができる。その後、対象の体内の特定の部位における標識された試薬の蓄積が、好適な装置(例えば、CCDカメラまたはPETスキャナーなど)によってモニターされ、従って、腫瘍が、標識された試薬の蓄積により突き止められる。
【0124】
同様に、csPCNAと相互作用する、抗体、ファージディスプレー抗体、またはXPGフラグメントは、腫瘍への送達のためにリポソーム送達ビヒクルに組み込まれる。リポソームに組み込まれた抗体、ファージ粒子、またはXPGフラグメントがcsPCNAと反応するとき、送達が達成される。癌細胞内へ放出された薬剤は、癌細胞においてcsPCNAと相互作用し、csPCNAを伴う細胞の生化学的反応について競合するであろう。そのような反応が、遅くなるか、または中断されるのは、csPCNA結合性パートナーが、競合するcsPCNAペプチドと相互作用するか、または、csPCNAを、csPCNAとの複合体を形成することによって癌細胞から除き、従って、csPCNAが、その天然で意図された結合性パートナー(例えば、DNAポリメラーゼδ、DNA修復タンパク質、転写装置、および、DNA組換えに関与するタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない)と相互作用することを妨げるときである。
【0125】
リポソームにはまた、様々な悪性腫瘍を処置するために臨床環境で使用され、または、臨床環境で試験されている、従来の化学療法薬物の特定のカクテルを詰めることができる。csPCNA特異的抗体、ファージ粒子、またはXPGフラグメント、あるいは、csPCNAと結合することが公知のタンパク質のフラグメント(例えば、p21cip/waflが挙げられるが、これに限定されない)の組み込みは、治療的リポソームが腫瘍部位において蓄積し、腫瘍内および腫瘍の近くで腫瘍と融合することを可能にする。csPCNAに対してcsPCNA試薬が選択性があるために、これらの試薬はnmPCNA−タンパク質相互作用を乱さず、従って、非悪性細胞には、csPCNAタンパク質特異的相互作用を乱すことによって媒介される細胞殺傷効果を及ぼさない。
【0126】
リポソームにはまた、刺激性分子を腫瘍部位における腫瘍細胞または細胞に送達したときに免疫応答を腫瘍の部位において刺激することができるような、特異的な免疫系刺激性の分子または薬剤を詰めることができる。csPCNA特異的抗体、ファージ粒子、XPG、または他のタンパク質のフラグメントをリポソームの表面に組み込み、このような治療用リポソームを、腫瘍を有する対象に注入した後で腫瘍細胞および腫瘍環境と反応することを可能にすることによって、腫瘍部位特異的な送達が達成される。
【0127】
csPCNAイソ型に関連するペプチド、抗体、およびそれらの使用が、詳しく、また、その具体的な実施形態を参照して記載されているが、それらの精神および範囲から逸脱することなく、それらにおいて様々な変化および改変がなされ得ることが当業者には明らかである。本明細書中に引用された全ての参考文献は、それらの全体が参考されることによって本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】配列番号1〜配列番号4を含む配列表を示す。
【図2】PC10抗体、Ab121抗体およびAb126抗体を使用したウエスタンブロットの結果を示す。
【図3】PC10抗体およびAb126抗体を使用した、培養中で増殖する細胞の免疫蛍光染色の結果を示す。
【図4】PC10抗体およびAb126抗体を使用した、培養中で増殖する細胞の免疫蛍光染色の結果を示す。
【図5】Ab126抗体を使用した、パラフィン包埋組織切片における細胞の免疫組織化学的染色の結果を示す。
【図6】csPCNAab抗体がcsPCNAを特異的に認識することを示す。60μgのMCF7細胞抽出物が2D−PAGEおよびウエスタンブロットによる分析に供された。PC10抗体およびcsPCNAab抗体は、ウエスタンブロット分析において1:1000の希釈度で使用した。
【図7】csPCNAab抗体が、悪性細胞において特有に発現する型のPCNAを特異的に認識することを示す。レーン1、MCF細胞抽出物(PCNAについてのマーカーとして役立つ)。レーン2〜9、乳癌組織抽出物。レーン10〜12、正常な乳房組織の抽出物。フィルムを一晩感光させた。
【図8】ウエスタンブロット分析における高濃度のcsPCNAabにより、非悪性の乳房組織に存在するPCNAイソ型が認識されないことを示す。200μgの組織抽出物(乳癌の女性または疾患のない女性のいずれかから調製された)を、発表された手順を使用した2D−PAGEおよびウエスタンブロットによる分析に供した。PC10抗体およびcsPCNAab抗体は、ウエスタンブロット分析において、1:250、1:500または1:1000の希釈度で使用した。レーン1は、MCF細胞抽出物(PCNAについてのマーカーとして役立つ)。レーン2、レーン4、レーン6は、それぞれ1:1000、1:500または1:250の希釈度で使用されたPC10抗体を使用してプローブされた乳癌組織抽出物。レーン3、レーン5、レーン7は、それぞれ1:1000、1:500または1:250の希釈度で使用されたPC10抗体を使用してプローブされた、非悪性の乳房組織の抽出物。レーン8、レーン10、レーン12は、それぞれ1:1000、1:500または1:250の希釈度で使用されたcsPCNAabを使用してプローブされた、乳癌組織抽出物。レーン9、レーン11、レーン13は、それぞれ1:1000、1:500または1:250の希釈度で使用されたcsPCNAabを使用してプローブされた、非悪性の乳房組織の抽出物。
【図9】腫瘍形成性の乳房上皮細胞がcsPCNAを発現し、その一方で、非腫瘍形成性の乳房上皮細胞はcsPCNAを発現しないことを示す。これらの実験のために使用されたヒト乳房上皮細胞(HMEC)は、血清非含有条件下で成長させられた。非腫瘍形成性の、まだ不死化していない細胞株を得るために、このHMECは、31歳のリー・フロイメニ症候群(LFS)患者の非癌性乳房組織(野生型p53タンパク質の立体配座に影響を及ぼす、p53遺伝子の2つの対立遺伝子の1つにおけるコドン133での生殖細胞系列変異(MetからThrへの変異[M133T])を含有する)に由来するものを使用した。これらの細胞は50〜60の集団倍加(PD)レベル付近でクリーゼを受け、1千万個において5個の頻度で自発的に不死化する。形質転換されたHME細胞株を、不死化前のHME細胞にhTERTおよびH−RasV12を感染させ、その後、軟寒天およびヌードマウス異種移植片において成長したクローンを集めることによって樹立した(Herbert et al.、準備中の原稿)。MCF−7乳癌細胞を、10%の普遍的(cosmic)子ウシ血清(HyClone, Logan, UT)および50μg/mlのゲンタマイシン(Invitrogen, Carlsbad、CA)を含有するDMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA)において成長させた。細胞を、マウス抗PC10(これはPCNAの全ての形態を認識する)またはウサギcsPCNAab(これはcsPCNAを認識する)のいずれかによる免疫蛍光染色に供した。カバースリップ上で一晩増殖させた細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定処理し、0.1%TritonX−100により透過処理し、その後、3%BSAによるブロッキング処理を行った。0.5%アジ化ナトリウムを含むPBSに希釈されたPCNA抗体と、Alexa−Fluor468抗マウスIgGまたはAlexa−Fluor568抗ウサギIgGのコンジュゲート化二次抗体(Molecular Probes, Eugene, Oregon)とを用いて、染色を行った。カバースリップを、DAPIを含有するVectashield(Vector Laboratories, Burlingame, CA)により固定し、Leica蛍光顕微鏡を使用して細胞を検鏡した。細胞をDAPIで対比染色し、20Xの対物レンズを使用してLeica蛍光顕微鏡で可視化した。
【図10】csPCNAab抗体が乳癌細胞を特異的に認識することを示す。正常な乳房組織切片を3名の異なる患者から得た:(a〜b、e〜f)、(c〜d、g〜h)、(i〜j、k〜l)。乳癌組織切片を3名の異なる患者から得た:(m〜n、q〜r)、(o〜p、s〜t)、(u〜v、w〜x)。パラフィン包埋組織を3μmの切片で切断し、ガラススライドに載せ、キシレン中で2回、それぞれ10分間インキュベーションして、パラフィンを除いた。スライドを、エタノール洗浄液系列(dH2O中の濃度が100−90−80−70−0%)により、それぞれ10分間、再水和した。抗原回復を、Antigen Unmasking Solution(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を使用して行った。スライドをブロッキング緩衝液(PBS中の3%BSA)に室温で30分間〜60分間入れた。ブロッキング緩衝液における1:200の希釈度でのマウスPC10抗体、マウスC20抗体、マウス100−478抗体またはウサギcsPCNAabのいずれかを組織上に直接添加し、パラフィンで覆い、加湿チャンバーにおいて室温で60分間インキュベーションした。スライドに対し、PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、ブロッキング緩衝液中で1:600に希釈した適切な蛍光性二次抗体とインキュベーションし、パラフィンで覆い、加湿チャンバーにおいて、暗所で、室温で30分間〜60分間置いた。スライドに対し、さらなる3回の5分間の洗浄をPBSで行い、DAPIを含有するVectashield(商標)により固定した。組織切片を、20Xの対物レンズを使用してLeica蛍光顕微鏡で調べた。DAPIは対比染料として役立った。
【図11】csPCNAabによるIHCにより、組織における乳癌細胞が検出されることを示す。結果は、乳房切除手術後に得られた正常な乳房組織;DCIS患者から得られた乳房組織;浸襲性乳癌;または転移疾患を表す。矢印は悪性細胞のcsPCNAab染色を示す。20症例の乳癌が選択された。また、正常な乳房組織または良性の線維嚢胞変化を示す10症例も選択された。悪性および非悪性のパラフィン包埋乳房組織標本のIHC染色を、色素原(褐色)としてDABを使用し、csPCNAabを用いて行った;切片をヘマトキシリン染料(青色)により対比染色して、核を特定した。
【図12】csPCNA抗原性ペプチドに対するペプチド特異的マウスポリクローナル抗体の作製を示す。ウサギポリクローナル抗体を調製するために使用されたPCNAのペプチドフラグメントを、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にカップリングした。100μgのコンジュゲート化ペプチドを使用して、マウスを腹腔内投与により免疫化、血清を免疫化後12日で尾での採血によって集めた。血清を図に示されたようにPBSで希釈し、ELISAプレートに捕捉された抗原性ペプチドとインキュベーションした。プレートをPBSにより洗浄した後、捕捉されたマウス抗体を抗マウスIgGとインキュベーションし、発色させた。csPCNAに対するポリクローナル抗体力価を定量し、その後、csPCNAに対する最も高いレベルの抗体を産生するマウスを選択した。そのマウスの脾臓を取り出し、脾臓の細胞をNS−0細胞に融合し、HAT培地での選択に供した。
【図13】csPCNAab抗体がcsPCNAを特異的に認識することを示す。60μgのMCF7細胞抽出物を2D−PAGEおよびウエスタンブロットによる分析に供した。種々のPCNAペプチドフラグメントに対して調製されたウサギポリクローナル抗体、および、市販のPC10抗体をそれぞれ、ウエスタンブロット分析において1:1000の希釈度で使用した。csPCNAイソ型が、示されたゲルパネルにおいて左側に配置されるゲルの酸性領域に移動し、一方で、nmPCNAイソ型が、それぞれのゲルパネルの右側に配置されるゲルの塩基性領域へ分離する。これらのゲルは少なくとも3回の異なる実験を表す。
【図14】癌患者における自己抗体のレベルを示す。
【図15】csPCNA抗体(「Ab126」)の特異性および感度を示す(A〜C)。
【図16】癌細胞抽出物におけるcsPCNAイソ型の検出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型と特異的に結合する単離された抗体。
【請求項2】
前記csPCNAイソ型が配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
色素乾皮症G群(XPG)タンパク質に結合するcsPCNAタンパク質内のアミノ酸配列を含むエピトープに結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
LGIPEQEY(配列番号1)、VEQLGIPEQEY(配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(配列番号7)、EQLGIPEQEY(配列番号8)、QLGIPEQEY(配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(配列番号13)、LGIPEQEYSCV(配列番号14)、およびLGIPEQEYSC(配列番号15)から選択されるアミノ酸配列を含むcsPCNAのエピトープに結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
キメラ抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
組換え抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
単鎖抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
Fab、Fab’またはF(ab’)から選択される抗体フラグメントである、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
検出可能な因子と結合された、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
前記検出可能な因子が、蛍光性標識、放射性標識、色素形成性標識、および酵素標識から選択される、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)のエピトープに特異的に結合する、単離され、かつ、実質的に精製された抗体を含む組成物であって、前記エピトープが、LeuGlyIleProGluGlnGluTyr(配列番号1)のアミノ酸配列を含むことを特徴とする組成物。
【請求項13】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型を生物学的サンプルにおいて検出するための、csPCNA特異的抗体の使用方法であって、
生物学的サンプルを、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型と特異的に結合する請求項1に記載の抗体と接触させる工程、
前記抗体の結合のための条件を提供する工程、および、
前記抗体とcsPCNAイソ型との結合を検出する工程
を含む使用方法。
【請求項14】
前記生物学的サンプルが体液である、請求項13に記載の使用方法。
【請求項15】
前記体液が、血液、血漿、リンパ、血清、胸膜液、脊髄液、唾液、痰、尿、胃液、膵液、腹水、滑液、乳汁および精液から選択される、請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
前記生物学的サンプルが組織サンプルである、請求項13に記載の使用方法。
【請求項17】
前記組織が、乳房、前立腺、肺、結腸、上皮組織、結合組織、子宮頸部、食道、脳、胸腺、甲状腺、膵臓、精巣、卵巣、腸、膀胱、胃、軟部組織肉腫、骨肉腫、白血病、リンパ腫、癌腫、腺癌、胎盤、線維組織、生殖細胞組織およびそれらの抽出物から選択される、請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
前記抗体の検出が、インビボで行われる、請求項13に記載の使用方法。
【請求項19】
前記抗体の検出が、標識された二次抗体を提供することによって行われる、請求項13に記載の使用方法。
【請求項20】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型と特異的に結合する前記抗体が、標識されている、請求項13に記載の使用方法。
【請求項21】
csPCNAイソ型の前記検出が、質量分析法を使用して行われる、請求項13に記載の使用方法。
【請求項22】
csPCNAイソ型の前記検出が、酵素結合免疫吸着アッセイを使用して行われる、請求項13に記載の使用方法。
【請求項23】
csPCNAイソ型の前記検出が、免疫組織化学的方法を使用して行われる、請求項13に記載の使用方法。
【請求項24】
悪性腫瘍を診断または予後判定するための、csPCNA特異的抗体の使用方法であって、
生物学的サンプルにおける癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)を、csPCNAイソ型と特異的に結合する抗体によって検出する工程、および、
前記生物学的サンプルにおけるcsPCNAの検出に基づいて悪性腫瘍を診断する工程
を含む使用方法。
【請求項25】
前記生物学的サンプルが生物学的組織または体液である、請求項24に記載の使用方法。
【請求項26】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的な抗体を製造するための方法であって、
抗体生成源に、csPCNAイソ型に対して特異的なエピトープを呈示するペプチドの免疫原量を投与する工程であって、前記ペプチドは、色素乾皮症G群(XPG)タンパク質と相互作用するcsPCNAの領域における、連続または非連続のアミノ酸残基から選択されることを特徴とする工程、
抗体生成のための条件を提供する工程、および、
抗体を単離および精製する工程
を含む方法。
【請求項27】
前記抗体がハイブリドーマ細胞から単離および精製される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記エピトープが、LGIPEQEY(配列番号1)、VEQLGIPEQEY(配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(配列番号7)、EQLGIPEQEY(配列番号8)、QLGIPEQEY(配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(配列番号13)、LGIPEQEYSCV(配列番号14)、および、LGIPEQEYSC(配列番号15)から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ペプチドがCGGGLGIPEQEY(配列番号2)のアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記ペプチドがキャリアタンパク質と結合される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記キャリアタンパク質がキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
インビボでの腫瘍の存在部位を同定するための、csPCNA特異的抗体の使用方法であって、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)と特異的に結合する請求項1に記載のcsPCNAイソ型特異的抗体を投与する工程であって、前記抗体は、検出可能な因子により標識されていることを特徴とする工程、および、
前記腫瘍の存在部位を、腫瘍部位における前記標識されたcsPCNA特異的抗体の蓄積を検出することによって決定する工程
を含む使用方法。
【請求項33】
腫瘍の進行の低減を強化するための、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)特異的抗体の使用方法であって、
請求項1に記載のcsPCNAイソ型特異的抗体の治療的有効量と、送達成分との配合物とを含む、医薬的に許容される組成物を提供する工程、
前記配合物を投与する工程、および、
csPCNA特異的抗体を含む配合物を前記腫瘍部位に送達することによって、腫瘍の進行を低減させる工程であって、前記csPCNA特異的抗体が、腫瘍細胞に存在するcsPCNAイソ型と反応することを特徴とする工程
を含む使用方法。
【請求項34】
前記配合物がリポソームまたはナノ粒子を含む、請求項33に記載の使用方法。
【請求項35】
前記配合物が殺腫瘍剤または免疫増強剤を含む、請求項33に記載の方法方法。
【請求項36】
抗癌剤を同定するための、csPCNA特異的抗体の使用方法であって、
癌細胞の集団を薬剤と接触させる工程、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型のレベルを、csPCNAイソ型に対する、請求項1に記載のcsPCNA特異的抗体の結合をアッセイすることによって、測定する工程、および、
前記薬剤と接触した癌細胞におけるcsPCNAイソ型のレベルが、前記薬剤と接触していない癌細胞におけるcsPCNAイソ型のレベルよりも小さいならば、前記薬剤が抗癌剤であると決定する工程
を含む使用方法。
【請求項37】
前記薬剤が小分子である、請求項36に記載の使用方法。
【請求項38】
癌細胞の前記集団が、癌細胞株、異種移植片、および、癌の同所性モデルシステムから選択される、請求項36に記載の使用方法。
【請求項39】
前記決定する工程が、前記薬剤と接触した正常な細胞、および、前記薬剤と接触していない正常な細胞における、非悪性PCNAイソ型のレベルを測定する工程を含む、請求項36に記載の使用方法。
【請求項40】
前記抗癌剤の同定がハイスループットシステムで行われる、請求項36に記載の使用方法。
【請求項41】
PCNAのcsPCNAイソ型を検出するための免疫アッセイキットであって、
正常な増殖細胞核抗原(nmPCNA)イソ型には結合せず、癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対してのみ特異的に結合し、それにより、抗体およびcsPCNAが複合体を形成する、請求項1に記載の抗体の調製物、および、
前記複合体を検出するための試薬
を含む免疫アッセイキット。
【請求項42】
LGIPEQEY(配列番号1)、VEQLGIPEQEY(配列番号5)、LGIPEQEYSCVVK(配列番号6)、LGIPEQEYSCVVKMPSG(配列番号7)、EQLGIPEQEY(配列番号8)、QLGIPEQEY(配列番号9)、LGIPEQEYSCVVKMPS(配列番号10)、LGIPEQEYSCVVKMP(配列番号11)、LGIPEQEYSCVVKM(配列番号12)、LGIPEQEYSCVV(配列番号13)、LGIPEQEYSCV(配列番号14)、および、LGIPEQEYSC(配列番号15)から選択されるアミノ酸配列のペプチドを含み、前記ペプチドが陽性コントロールとして使用されることを特徴とする、請求項41に記載の免疫アッセイキット。
【請求項43】
配列番号3のアミノ酸配列を含むcsPCNAイソ型の調製物を含み、前記csPCNAイソ型が陽性コントロールとして使用されることを特徴とする、請求項41に記載の免疫アッセイキット。
【請求項44】
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的な、単離された自己抗体。
【請求項45】
csPCNAイソ型のエピトープに対して複合体形成する、請求項44に記載の自己抗体。
【請求項46】
悪性細胞の存在を求める方法であって、
癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型に対して特異的である自己抗体を含有することが疑われる生物学的サンプルを、csPCNAイソ型またはそのフラグメントが結合した基材に接触させる工程であって、前記自己抗体はcsPCNAイソ型に特異的であることを特徴とする工程、
csPCNA−自己抗体の複合体形成のための条件を提供する工程、および、
前記生物学的サンプルにおける前記自己抗体csPCNA複合体の存在を検出する工程
を含む方法。
【請求項47】
前記自己抗体−csPCNA複合体の存在が、抗ヒト二次抗体を使用して検出される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記自己抗体−csPCNA複合体の存在が、標識された生物学的サンプルを使用して検出される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記生物学的サンプルが、血液、血漿、リンパ、血清、胸膜液、脊髄液、唾液、痰、尿、胃液、膵液、腹水、滑液、乳汁および精液から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
循環している癌特異的な増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型の存在を検出する方法であって、csPCNAイソ型に対して特異的な自己抗体を生物学的サンプルにおいて検出する工程、および、それにより、循環しているcsPCNAイソ型の存在を求める工程を含む方法。
【請求項51】
個体の寛解状態をモニターする方法であって、
個体における増殖細胞核抗原(csPCNA)イソ型の存在を、癌治療の前および後で検出する工程、および、
癌治療の前および後での循環しているcsPCNAイソ型のレベルを比較することによって、個体の寛解状態を求める工程
を含む方法。
【請求項52】
前記csPCNAイソ型が、csPCNAイソ型に対する自己抗体の存在を求めることによって検出される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記csPCNAイソ型が、前記csPCNAイソ型に対して特異的な抗体によって検出される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記csPCNAイソ型が、酵素結合免疫吸着アッセイによって検出される、請求項51に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2008−539271(P2008−539271A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509143(P2008−509143)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/016096
【国際公開番号】WO2006/116631
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507277642)インディアナ ユニバーシティー リサーチ アンド テクノロジー コーポレーション (21)
【氏名又は名称原語表記】INDIANA UNIVERSITY RESEARCH AND TECHNOLOGY CORPORATION
【出願人】(507356785)シーエス−キーズ,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CS−KEYS,INC.
【住所又は居所原語表記】351 West 10th Street,Indianapolis,IN 46202 U.S.A.
【Fターム(参考)】