t−PA亢進物質及びその製造方法
【課題】本発明の課題は、ナットウキナーゼ以外に有効な血栓溶解活性物質(t−PA亢進物質)及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】発明者らは、納豆菌培養液及び菌体そのものを用い、加熱処理で酵素であるナットウキナーゼを失活させ、ヒト細胞に添加した結果、細胞内のt-PA産生能を亢進する物質の存在を確認した。すなわち、本発明に係るt−PA亢進物質は、納豆菌培養液又は納豆菌菌体を熱処理することで作製される。
【解決手段】発明者らは、納豆菌培養液及び菌体そのものを用い、加熱処理で酵素であるナットウキナーゼを失活させ、ヒト細胞に添加した結果、細胞内のt-PA産生能を亢進する物質の存在を確認した。すなわち、本発明に係るt−PA亢進物質は、納豆菌培養液又は納豆菌菌体を熱処理することで作製される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(以下、「t−PA」と称する。)
【背景技術】
【0002】
血液には凝固系と線溶系の2つの作用がある。血管壁が損傷すると血小板が凝集し一次止血が起こり、その後凝固系因子であるトロンビンは血中のフィブリノーゲンに働くことでフィブリンが形成され止血が完了する。一方、このように血管内で形成されたフィブリンを血管内皮細胞から分泌される線溶系因子である組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)が血中に存在する酵素源であるプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、そのプラスミンがフィブリンを分解する(非特許文献1)。
【非特許文献1】植木厚、続生化学実験講座8,血液(下)、東京化学同人、p.603(1987)
【0003】
納豆菌(Bacillus
subtilis natto)は、枯草菌と同様にグラム陽性桿菌であり、胞子形成能を有する。発明者らは、これまでこの納豆菌を用いた我が国の伝統的大豆発酵食品である納豆中に、血栓溶解に直接働く酵素ナットウキナーゼ(非特許文献2、非特許文献3)や、線溶賦活活性物質(FAS)などの生理活性物質が含まれていることを研究してきた(非特許文献4)。ナットウキナーゼは、経口投与においても血栓溶解活性を高め、同様に経口投与したウロキナーゼ(UK)に比べ血中で長時間線溶効果が持続することを報告している(非特許文献3)。
【0004】
【非特許文献2】Sumi, H., Hamada, H., Tsushima, H.,Mihara, H. and Muraki, H., A novel fibrinolytic enzyme(nattokinase) in the vegetable cheese Natto; a typical and popular soybean foodin the Japanese diet, Experientina,43,1110-1111 (1987)
【非特許文献3】Sumi, H., Hamada, H., Nakanishi, K. andHiratani, H., Enhancement ofthe fibrinolytic activity in plasma by oral administation of Nattokinase, Acta Haematol., 84,139-143 (1990)
【非特許文献4】須見洋行, 佐々木智広, 矢田貝智恵子,小崎泰宣, 納豆中に含まれる線溶賦活物質とその性質,農化,74,11,1259-1264 (2000)
【非特許文献5】Tage,A. and Sten, M., The fibrin plate method for estimatingfibrinolytic activity, Biological Institute, 346-351 (1952)
【非特許文献6】Laemmli,U. K., Cleavage of structural proteins during the assembly of the head ofbacteriophage T4, Nature, 227, 680-685 (1970)
【非特許文献7】Granelli-piperno,A. and Reich, E., A study of proteases and proteases-inhibitor complexes inbiological fluids, J. Exp. Med., 148, 223-234 (1978)
【非特許文献8】Robert,L. M., Marlies, R. and Wolf-Dieter, S., A DNA motif related to thecAMP-responsive element and an exonlocated activator protein-2 binding site inthe human tissue-type plasminogen activator gene promoter cooperate in basalexpression and convey activation by phorbol ester and cAMP, J. Biol. Chem.,265(24), 14618-14626 (1990)
【非特許文献9】Yoshida,E., Elaine, N. V., Mihara, H., Oh D. and Hau, C. K., Enhancement of the expressionof urokinase-type plasminogen activator from PC-3 human prostate cancer cellsby thrombin, Cancer Res., 54, 3300-3304 (1994)
【非特許文献10】佐竹久男, 食品素材の機能性創造・制御技術−新しい食品素材へのアプローチ―, ニューフードクリエーション技術研究所, 恒星社厚生閣(東京), pp.269-271 (1999)
【非特許文献11】Hodge,J. E. and Hofreiter, B. T., Determination of reducing sugars and carbohydrates,Methods in Carbohydrate Chemistry, pp.380-394 (1962)
【非特許文献12】山田猛,糖蛋白質糖鎖研究法,高橋禮子,株式会社学会出版センター(東京),pp.9-10 (1989)
【非特許文献13】須見洋行,血栓症予防に働く食品、及び機能成分, Priming BioMedicine, 1,16-24 (2004)
【非特許文献14】須見洋行,食品成分による血流改善と病気予防,FOOD Style 21,7(4),47-53(2003)
【非特許文献15】Hagiwara,H., Shimonaka, M., Morisaki, M., Ikekawa, N. and Inada, Y.,Sitosterol-stimulative production of plasminogen activator in culturedendothelial cells from bovine carotid artery, Thromb. Res., 33, 363-370 (1984)
【非特許文献16】Shimonaka,M., Hagiwara, H., Kojima, S., and Inada, Y., Successive study on the productionof plasminogen activator in cultured endothelial cells by phytosterol, Thromb.Res., 36, 217-222 (1984)
【非特許文献17】Schneider,J., Stimulation of the plasma fibrinolytic activity in rats by the prostacyclinanalogue CG 4203, Thromb. Res., 48, 233-244 (1987)
【非特許文献18】Motoyama,Y., Sakata, Y., Seki, J., Sato, M., Namikawa, Y., Horiai, H. and Ono, T.,TFC-612, a prostaglandin E1 derivative, enhances fibrinolytic activity in rats,Thromb. Res., 65, 55-63 (1992)
【非特許文献19】Sumi,H., Hamada, H., Morimoto, N. and Mihara, H., Urokinase-like plasminogenactivator incresed in plasma after alcohol drinking, Alcohol & Alcoholism, 23(1), 33-43 (1988)
【非特許文献20】Sumi,H., Yanagisawa, Y., Yatagai, C. and Saito, J., Natto bacillus as an oralfibrinolytic agent: Nattokinase activity and ingestion effect of bacillussubtillis natto, Food Sci.Technol. Res.,10(1),17-20 (2004)
【非特許文献21】Sasaki, Blood, 66, 69-75, 1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、納豆摂取による血栓溶解活性がナットウキナーゼだけによるものではなく、他の因子も関与しているのではないかと考えた。
【0006】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、ナットウキナーゼ以外に有効な血栓溶解活性物質(t−PA亢進物質)及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、納豆菌培養液及び菌体そのものを用い、加熱処理により酵素であるナットウキナーゼを失活させ、ヒト細胞に添加した結果、細胞内のt-PA産生能を亢進する物質の存在を確認した。
【0008】
納豆中に存在するナットウキナーゼは、血液中の血栓症の原因となる不溶性タンパク質フィブリンを分解する酵素であり、ナットウキナーゼに関する研究はこれまで多数報告されている。しかし、今回納豆摂取による血栓溶解活性がナットウキナーゼだけによるものではなく、他の因子も関与しているのではないかと考え実験を試みた。その結果、加熱処理後の納豆菌培養液及び菌体中にヒト細胞内の組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)産生亢進に関与する物質の存在を確認した。
【0009】
先にも述べたように、現在、納豆を摂取することで、納豆中に含まれるナットウキナーゼやFASが血管内の血栓溶解に作用し、血栓症の予防に働くことが報告されている。発明者らは、121℃で30分間加熱処理した納豆菌培養液のナットウキナーゼ活性がなくなっており、ヒト細胞培養液のフィブリン分解を示した活性は、ナットウキナーゼによるものではないことを確認した。また、121℃、30分の加熱処理を繰り返してもフィブリン溶解活性に変化がなく、極めて熱安定性の物質が存在することを確認した。この物質は、透析後に活性がなくなることから分子量10000以下のものと考えられ、分液操作、限外濾過、ゲル濾過により分子量1400近辺の水溶性低分子物質であることが分かった。ノーザンブロット法、また培養後の細胞数に変化がないことから、試料添加に伴う細胞数の増加によるt-PA産生の亢進ではなく、細胞自体の生産能力を高めるものであることを確認した。また、今回の物質をガン細胞だけではなくヒト正常細胞にも添加し、得られた培養液の活性をフィブリン平板で測定した結果、試料添加により活性が高まることが分かった。なお、細胞数の増加がないことから、HeLa細胞と同様に細胞自身のt-PA産生能力を高めるものであると考えられる。
【0010】
培地として3%乾燥ブイヨンを用い、納豆菌(成瀬株、高橋株、宮城野株、419株、IAM1076株)、枯草菌(IAM12118株)、大腸菌(IFO3301株)の計7種類を96時間振盪培養した。培養後121℃、30分間加熱処理した培養物(培養液熱処理物・菌体熱処理抽出物)をt-PA産生細胞で、ヒト子宮頸ガン由来の株化細胞であるHeLa S3に添加し、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培養後、得られた培養液のフィブリン溶解活性を標準フィブリン平板法で測定した結果、培養液熱処理物では成瀬株、宮城野株、IAM1076株、IAM12118株、菌体熱処理抽出物では成瀬株でフィブリン溶解活性が高まることが分かった。成瀬株培養液熱処理物に対して、フィブリン平板法で、平均値と標準偏差の値を出した結果、コントロール16.4±20.2mm2に比べて原液添加は326.2±121.5mm2と19.9倍となった。ザイモグラフィー法によってt-PAのバンド溶解部位がコントロールよりも増加していることから、t-PA活性が増大しており、ノーザンブロット法でもt-PA mRNA量が増加していることを確認した。さらに、限外濾過法・分液操作により分子量10000以下で水溶性の低分子物質であることが分かり、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行った結果、分子量1400近辺の物質であった。
【0011】
次に、限外濾過法で得られた成瀬株培養液熱処理物低分子分画(分子量10000以下)の試料を正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECに添加し、得られた培養液のフィブリン溶解活性を測定した結果、Hela S3と同様にt-PA産生亢進が認められた。いずれの実験も試料添加による培養細胞数に変化のないことから、細胞数増加に伴うt-PA産生能の増加ではないことを確認した。また、限外濾過法で得られた成瀬株培養液熱処理物低分子分画(MW10,000以下)の試料をヒトへ経口投与し、血中線溶系之亢進を示すELTの短縮とt-PA抗原の増加を確認した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明するにあたり、まず試験の条件について説明する。
【0013】
(材料・試薬)
試験に使用する納豆菌(Bacillus subtilis natto)は、一般的に市販納豆に使用されている成瀬株、宮城野株、高橋株、我々の保存株である納豆菌419株、東京大学分子細胞生物学研究所より分与されたIAM1076株、納豆菌と同じBacillus属である枯草菌(Bacillus subtilis
Marburg) IAM12118株、及び財団法人発酵研究所より分与された大腸菌(Escherichia
coli)IFO3301株の7種類を用いた。牛製フィブリノーゲンはシグマ社(株)より、牛製トロンビンは持田製薬(株)、乾燥ブイヨン、Eagle's MEM培地は日水製薬(株)より購入した。その他試薬はすべて特級品を用いた。なお、牛製フィブリノーゲンはLot.No.31K7608、112K7601の2種類を用いた。
【0014】
(納豆菌培養及び抽出法)
納豆菌培養液熱処理物の作製に当たっては、3% 乾燥ブイヨンを培地とし、500ml振盪三角フラスコに培地250mlを入れ、121℃、15分間オートクレーブで滅菌後、スラント培養した各種菌を1白金耳接種し、37℃、100rpmで96時間振盪培養を行った。培養終了後、4℃、4000rpmで10分間遠心分離した上清をオートクレーブを用いて121℃、30分間加熱処理し、0.2μmメンブレンフィルター(ADVANTEC KGS-47-TF)で濾過したものを用いた。成瀬株培養液熱処理物をAbs280nmで測定したタンパク濃度は牛血清アルブミンに換算すると54.35mg/mlであった。
【0015】
また、納豆菌菌体熱処理抽出物は遠心分離後得られた菌体を0.9%
NaCl溶液で2回洗浄し、凍結乾燥後、得られた粉末0.125gをイオン交換水5mlに懸濁し、121℃、30分間加熱処理し、4℃、10000rpmで10分間遠心分離して得られた上清を0.2μmフィルターにかけ用いた。なお、成瀬株菌体熱処理抽出物のAbs280nmで測定したタンパク濃度は牛血清アルブミンに換算すると9.47mg/mlであった。
【0016】
(細胞培養)
プラスミノーゲンアクチベーター(PA)生産細胞は、ヒト子宮頸ガン由来の株化細胞であるHeLa S3(大日本製薬(株))と、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVEC(東洋紡績(株))を用いた。HeLa S3の培養液は、Eagle's MEM培地を121℃、15分間オートクレーブ処理し、そこに濾過滅菌した10%牛胎児血清(FBS)、アミノ酸ビタミン培地、0.03% L-グルタミン酸、0.2%重炭酸ナトリウムを加えたものを用いた。
【0017】
細胞は、T-25
cm2フラスコ、T-75cm2フラスコ内で培養後、ファルコン製24ウェルプレート(2.0cm2/well)、48ウェルプレート(0.75cm2/well)に1.0×105/cm2になるように移してコンフルエント状態になるまで培養し、添加実験を行った。培養液をアスピレーターで吸出し、細胞をPBS(-)でそれぞれ500μl、200μlで1回洗浄した。その後、24ウェルプレートでは培養液450μlに対して試料50μl、48ウェルプレートでは培養液180μlに対して試料20μlを添加し37℃、5% CO2の条件下で24時間培養を行った。
【0018】
なお、試料は添加前に0.2μm Cellulose Acetateフィルター(ADVANTEC DISMIC-13cp)で濾過滅菌したものを用いた。24時間培養後、サンプリングして得られた培養液は4℃、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を1st mediumとして測定まで-20℃で保存した。サンプリング後の細胞は24ウェルプレートではPBS(-)500μlで2回洗浄し、培養液500μlを加え、48ウェルプレートではPBS(-)200μlで2回洗浄し、培養液200μlを加えさらに37℃、5% CO2条件下で24時間培養を行った。培養後の培養液は4℃、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を2nd mediumとし-20℃で保存した。
培養後の細胞はPBS(-)で2回洗浄し、トリプシンで細胞をはがした後、培養液とPBS(-)を加え、分光光度計SmartSpec Plus(BIO-RAD)とtrUViewTM Cuvette(BIO-RAD)を使用し、Abs600nmで測定した値よりウェル内の細胞数を算出した。
【0019】
HUVECの培養液は、Endothelial Cell Basal Medium及びEndothelial Cell Growth Supplementの混合物であるEndothelial Cell Growth Medium (東洋紡績(株))を用いた。細胞は、ファルコン製48ウェルプレートに移し、コンフルエント状態になるまで培養し、培養液をアスピレーターで吸出し、新しい培養液135μl及び試料15μlを添加し37℃、5% CO2の条件下で24時間培養を行った。試料は添加前に0.2μm Cellulose
Acetateフィルター(ADVANTEC DISMIC-13cp)で濾過滅菌したものを用いた。24時間培養後、サンプリングして得られた培養液は1st mediumとして−20℃で保存した。サンプリング後の細胞は培養液をアスピレーターで除いた後、PBS(-)150μlで2回洗浄し、培養液150μlを加えさらに24時間培養を行った。培養後の培養液は2nd mediumとして-20℃で保存した。培養後の細胞数はHeLa S3と同様にPBS(-)で2回洗浄し、トリプシン-EDTAと培養液を加え分光光度計でAbs600nmを測定し、検量線を用いて算出した。なお、最低3回以上の測定を行い、平均値で示した。
【0020】
(標準フィブリン平板法(非特許文献2、5))
HeLa S3、HUVEC培養液中のPA活性および納豆菌培養液中のナットウキナーゼ活性は、標準フィブリン平板法で測定した。
フィブリン平板は、10cm×14cm角型シャーレ内にフィブリノーゲンをホウ酸緩衝液(pH7.80)で0.5%に溶解した20mlと50U/mlのトロンビン200μlを用いて作製した。そこに、サンプリングしたHeLa S3及び、HUVECの培養液を各々30μlのせ、37℃でインキュベーションし、48時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。また、納豆菌培養液のナットウキナーゼ活性は、各々30μl載せ、37℃でインキュベーションし、24時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。
【0021】
(ザイモグラフィー法(非特許文献6、7))
HeLa S3培養液を用いてザイモグラフィー法を行った。SDS-ポリアクリルアミド電気泳動は、10%ゲルスラブを作製し、その上に濃縮ゲルを作製した。得られた培養液に等量のサンプルバッファーを加え混合し、20μlずつウェルに注入し、30mAで約2時間泳動した。ザイモグラフィーは、泳動後、2.5%トリトンX-100を用いてゲル内のSDSを除去した。フィブリノーゲンを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し0.8%とした溶液と、寒天を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液とを100U/mlトロンビン50μl加え作製したフィブリン−寒天平板にゲルを重層し、37℃でインキュベーション後生じたバンドより血栓溶解活性及び分子量測定を行った。
【0022】
(ノーザンブロット法(非特許文献8、9))
ファルコン製6ウェルプレート(9.6cm2/well)で培養した細胞を、PBS(-)3mlで2回洗浄し、酸性条件下で酢酸ナトリウム(pH4.0)、グアニジンチオシアネート、フェノール、クロロホルムを用い、total RNAを抽出した。得られたtotal RNA 15μg及び1.2%アガロースゲルを用い、100Vで2時間電気泳動を行った。泳動後、UVライト上でmRNAを確認し、ゲル中のmRNAをHybond-N+(アマシャム)の膜に転写させ、UVクロスリンク(700×100μJ/cm2)で固定した。ハイブリダイゼーションは65℃で一晩行い、プローブはGene Image’s(アマシャム)を用いて標識したt-PA mRNAプローブとGAPDH mRNAプローブを使用した。検出にはCDP-starを用い化学発光させ、ECL-mini camera(アマシャム)、FUJI FILM FP-3000Bフィルムを使用しt-PAプローブでは露光時間4日間、GAPDHプローブでは露光時間2日間で撮影した。
【0023】
(分液操作(非特許文献10))
成瀬株培養液熱処理物40mlを分液ロート100ml(岩城硝子)に入れ、5倍量の有機溶媒、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、水飽和1-ブタノールの順で抽出を行った。抽出は、それぞれ同一溶媒で5回行い、4℃、3500rpmで10分遠心分離によって分液した。各溶媒層は、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、50℃乾燥後、100%エタノール 4mlに溶解し、試料として用いた。また、残渣である水溶性分画においては50℃乾燥後、イオン交換水15mlに溶解させたものを試料とした。
【0024】
(限外濾過法)
分子量カットは、ウルトラフィルター用限外濾過器(ADVANTEC UHP-K)で、分子量50000、20000、10000のフィルター(ADVANTEC)を用いて行った。成瀬株培養液熱処理物30mlを各フィルターにかけ、分子量50000以上の分画は5.3mlと5.7倍、分子量20000〜50000の分画は3.8mlと6.6倍、分子量10000〜20000の分画は3.3mlと6.1倍に濃縮されたもの、分子量10000以下の分画は全てのフィルターを通った14.5mlを試料として用いた。
【0025】
(ゲル濾過カラムクロマトグラフィー法)
ゲル濾過は、Bio-Gel
P-2 (分画分子量100-1800)、P-6 (分画分子量1000-6000)(BIO-RAD)をエコノカラム(1.5cm×50cm、BIO-RAD)に充填し、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.4)で平衡化後、限外濾過で分子量10000以下に分子量カットした分画を2.5ml載せ、分子量を測定した。フラクションの分取は、74滴(2.5ml)で操作した。分子量測定のための標準物質にはバシトラシン(分子量1420)、ビタミンB12(分子量1350)、マルトヘキサオース(分子量990)、マルトース(分子量342)及びチロシン(分子量181)を用い、バシトラシンとチロシンはAbs280nm、マルトヘキサオースとマルトースはフェノール硫酸法(非特許文献11、12)により検出した。
【0026】
(統計処理)
統計学的な有意は不対データを比較するためのStudent t-testでp値を算出した。
【0027】
(培養時間の検討)
試料添加後のHeLa
S3培養時間と、フィブリン溶解活性との関係を調べるために、96時間振盪培養した成瀬株培養液熱処理物をHeLa S3に添加後、37℃、5% CO2条件下で3、6、12、24時間と培養時間を変えて培養した。得られた培養液1st mediumの48時間後のフィブリン溶解活性を測定した結果、溶解面積は12時間では102.7mm2でコントロールと比較し8.6倍、24時間では388.2mm2で22.5倍となり、試料添加後12〜24時間でフィブリン溶解活性を亢進することを確認した(図1)。このことから、以後の実験は全て24時間培養で行った。
【0028】
(試料濃度の検討)
成瀬株培養液熱処理物をオートクレーブ滅菌したMilli-Q水を用いて希釈系列(原液、2、4、8、16、32、64倍希釈)を作成し、試料濃度による活性の変化を検討した。各試料を24ウェルプレートで培養したHeLa S3に添加し、得られた1st medium、2nd mediumをフィブリン平板で測定した。1st mediumの原液では溶解面積が498.3mm2であるのに対し、2倍希釈では193.5mm2と急激に溶解活性が減少した。それ以下の希釈倍率では緩やかに減少していった。なお、原液添加はコントロールに対し9.5倍活性が高まることが分かった。また、2nd mediumにおいても活性は高まるもののコントロールの値も高いため、活性の比率は3.6倍であった(図2)。
【0029】
(ザイモグラフィー法による血栓溶解活性)
次に、HeLa
S3を培養し、成瀬株培養液熱処理物を添加後得られた培養液1st mediumと、標準マーカーとしてt-PA(分子量68000)をSDS-PAGEにかけ、ザイモグラフィー法で調べた(図3)。原液、2倍希釈の培養液ではt-PAのバンドの溶解部位がコントロールよりも増加していることから、ザイモグラフィー法でもフィブリン平板と同様にt-PA活性が増大することを確認した。
【0030】
(ノーザンブロット法による解析)
細胞内で発現している遺伝子転写物(mRNA)の存在量を解析するために、成瀬株培養液熱処理物を6ウェルプレートで培養したHeLa S3に添加し、37℃、5% CO2条件下で24時間培養後、得られた細胞からRNAを抽出しノーザンブロットを行った。また、細胞数と活性の相関関係を調べるために細胞数を測定した結果、図4に示すように、ウェル内の細胞数に顕著な変化は見られなかったが、フィブリン溶解活性はコントロールに比べ原液添加では105倍、2倍希釈では30.6倍、4倍希釈では14倍と細胞数に関係なく活性が高まっており、測定を繰り返しても同じ結果が得られた。ノーザンブロットにおいて、t-PA mRNAバンドがコントロールでは確認されなかったが、原液を添加することにより発現量が高まることが分かった。また、内部標準であるGAPDH mRNA発現量に変化は見られなかった。これにより、細胞内のt-PAの合成系を高めることを確認した(図5)。
【0031】
(培養液熱処理物によるフィブリン溶解活性の比較)
表1は、納豆菌培養液熱処理物質によるHeLa 細胞での線溶発現を示し、数値は平均±S.D.である。成瀬株の他に、同じ納豆菌である高橋株、宮城野株、419株、IAM1076株、納豆菌と同じBacillus属である枯草菌IAM12118株、その他の菌として大腸菌IFO3301株も同様に96時間振盪培養して得られた培養液熱処理物をHeLa S3に添加し、1st mediumのフィブリン溶解活性を測定した。高橋株、419株はそれほど高い活性は見られなかったが、宮城野株、IAM1076株、IAM12118株では成瀬株と同様に高い活性を得られることが分かった。また、IFO3301株においては影響は少なかった(表1)。なお,HeLa S3に添加前の試料のナットウキナーゼ活性を測定したが、活性は見られなかった。
【表1】
【0032】
(菌体熱処理抽出物によるフィブリン溶解活性の比較)
次に、納豆菌菌体中に存在する物質にも培養液と同じく、HeLa S3でのt-PA活性を亢進するかを検討した。表2は、納豆菌菌体熱処理抽出物によるHeLa細胞での線溶発現を示し、数値は平均±S.D.である。納豆菌菌体熱処理抽出物でも培養液熱処理物と同条件で測定した結果、成瀬株菌体熱処理抽出物の1st mediumにおいては培養液熱処理物と同様にフィブリン溶解活性の増加が見られ、コントロールに対して13倍活性が高まることが分かった。なお,培養液熱処理物で活性の高かったIAM12118株は、コントロールと比較して1.8倍と菌体熱処理抽出物では活性が低く、他の菌においてもそれほど影響は見られなかった(表2)。
【表2】
【0033】
(試料の精製)
次に、分液操作を行った成瀬株培養液熱処理物の各分画を用い、HeLa S3に添加しフィブリン溶解活性を測定した結果、活性は有機溶媒層には見られず、水層にのみ現れた。また、透析膜を用いイオン交換水で18時間透析を行った結果、透析前129.4mm2あったものが透析後3.2mm2となり、透析後の試料に活性は見られなかった(図6)。さらに、分子量50000、20000、10000のフィルターを用いて分子量カットし、各分画をHeLa S3に添加した結果、分子量10000以下の低分子分画に活性があることが分かった(図7)。このことからHeLa S3での成瀬株培養液熱処理物によるt-PA産生亢進物質は水溶性でなおかつ低分子物質であることを確認した。
【0034】
(ゲル濾過による分子量測定)
分子量カット後活性の見られた分子量10000以下の分画をBio-Gel P-2カラム(1.5×47.5cm)を用いゲル濾過を行った。フラクションは2.5mlずつ分取し、得られた計50フラクションをAbs280nmでタンパク量を測定した結果、いくつかのタンパクピークが確認された。ピークが始まった10本目から50本目までのフラクションをクリーンベンチ内でDISMIC-13CPを用いて濾過滅菌し、HeLa S3に添加した。24時間培養後の培養液1st mediumをフィブリン平板で測定した結果、フラクション13本目に活性が存在することを確認し、コントロールとの比率は4.8倍であった(図8)。また、測定を繰り返しても同様の結果が得られ、標準物質から分子量を検出した結果、分子量1400近辺であることが分かった。
【0035】
(ヒト正常細胞への影響)
正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECに成瀬株培養液熱処理物低分子分画(分子量10000以下)の濃度を変え、48ウェルプレートに添加し、培養後得られた1st mediumのフィブリン溶解活性をフィブリン平板で測定した。HeLa S3の場合と同様に、HUVECでも1st mediumで活性が見られ、ウェル内の細胞数にほとんど変化がないことから、細胞数の増加によるt-PA産生の亢進ではないことが分かった(図9)。このことより、成瀬株培養液熱処理物がHeLa S3のt-PA産生だけでなく、ヒト正常細胞でも同様にt-PA産生亢進に働くことを確認した。
【0036】
(ヒトへの投与実験)
次に、分子量カット後活性のみられたMW10,000以下の試料(成瀬株培養液熱処理物低分子分画)を凍結乾燥した。ヒトの場合、投与された物質が吸収される時間が重要である。これまでの多くの実験(非特許文献3、18,19)を基に、0.5g相当の物質は、ELTの低下(31.8→15.7)と、t-PA抗原量の増加(6.6→17.6)を示し、ELT及びt-PA抗原量の増加は有意の変化(p<0.001)であった。その結果を図10、図11に示す。一方、血液のCa再加時間およびプロトロンビン時間に目立った変化はなかった。なお、ELTはSasakiらの方法(非特許文献21)、t-PA抗原はELISA(ImulyseTM5t-PA Biopool Umea Sweden)に従った。血漿凝固系は、0.2ml血漿、0.1ml50mMCaCl2をClot Digitam TE-20(Elma Optics)を用いた。Pro-thrombinは5mg/mlのトロンポプラスチン(時間)と0.1ml血漿を用いて調べた。
【0037】
次に、アデノシン、グアノシンおよびその誘導体の線溶増強活性について実験を行った。
核酸系医薬の原料として、バチルス属の生産するアデノシンなどが注目されている。アデノシン誘導体は、低分子量の生理活性物質として血管拡張物質あるいは血小板凝集阻害物質として知られている。本発明者は、アデノシン誘導体がHeLa細胞に働いてt-PA亢進に働く効果を確認した。また、各種ペプチド関連物質としてトリプシンをはじめ、いろいろの酵素によるたんぱく質の分子切断の影響を調べた。
【0038】
(材料)Adenosine、Adenosine 5’-monophosphate
sodium salt 、Adenosine 5’-triphosphate disodium salt、 Adenosine 5’-diphosphate sodium salt、Guanosine-3’-5’-monophosphate mixed isomer sodium salt、Guanosine-2’&3’-monophosphate mixed isomer sodium salt、Guanosine 5’-diphosphate disodium salt およびCytidineはSigma社より購入した。
その他プロテアーゼ(たんぱく分解酵素)としてTripsin 、Chymotrypsin 、Papaine、Elastase I、Elastase IV 、Bromelain、Ficin(Sigma社)を用いた。
【0039】
(方法)上述した段落0018に記載の方法に従って操作した。まず、上記試料をNaOHでpH7.8に合わせてから水で希釈して用いた。
成瀬株培養液の分子量10,000以下の分画を各試験管に900μl加え、Trypsin1.0mg(100μl)あるいはNutrient brothを加え、37℃、1時間incubationした後、121℃、15分間加熱処理を行った。その後のt-PA産生亢進活性を調べてみた。
アデノシン・グアノシンの分析は30mmol/l 2-ジエチルアミノエタノール(pH7.4)を用い、Inertsil ODS-3を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で行った。
【0040】
(結果)
図12〜図14はその結果を示す。特に、アデノシンやグアノシン1リン酸で強いt-PA産生亢進効果がみられた。Adenosine 5’-monophosphate sodium salt 、Guanosine-2’&3’-
monophosphate mixed isomer sodium
salt、Guanosine 5’-diphosphate disodium saltあるいはCytidineの添加効果は少なかった。図15は、成瀬株培養液(分子量10,000以下の分画)への各種酵素処理を行った結果を示すが、7種類のたんぱく分解酵素ではいずれも活性はみられなかった。納豆(成瀬株)、あるいはその抽出液中にはHPLCでかなり多量のAdenosineおよびGuanosineが検出された。
【0041】
(考察)
アデノシン、グアノシン1リン酸などの核酸成分がt-PAの産生に関与するという報告はこれまでに全くないことである。事実、DNAの構成成分として納豆にも存在する。また、最近はアデノシンが血行促進や育毛にも効果を有することで注目されている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
これまで血管内皮細胞において女性ホルモンや各種ホルモン剤、ステロイド、プロスタグランジンを用いることでt-PA産生を亢進することが報告されている(非特許文献15〜18)。今回、HeLa S3及びHUVECに加熱処理した納豆菌培養物による刺激を与えることで、細胞内のPA産生能を亢進する物質の存在を初めて明らかにした。この物質は水溶性かつ低分子物質であるため、体内での吸収性も高いと考えられる。熱に安定であることから加工にも適しており、経口線溶療法など血栓性疾患予防としての使用、また、サプリメントのような栄養補助食品や機能性食品などへの応用としても期待される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、Hela細胞による線溶活性を示す写真であり、成瀬培養液を121℃,30分間処理し,Hela細胞に添加した。平板には,30μlをのせ,37℃で,3,6,12,48時間後の結果である。
【図2】図2は、Hela細胞でみた成瀬菌の線溶活性を示すグラフであり、白抜きのラインが1st medium、黒塗りのラインが2nd mediumを示す。
【図3】図3は、Hela細胞で生じたプラスミノーゲンアクチベーターのザイモグラフィー(写真)であり、各レーンには成瀬菌の希釈倍率を示し、フィブリン−寒天平板でインキュベーションは37℃,65時間である。
【図4】図4は、成瀬菌によるHela細胞からの線溶活性を示すグラフである。
【図5】図5は、成瀬菌によるHela細胞からのノーザンブロット法による解析結果を示す写真である。
【図6】図6は、各試料によるHela細胞からの線溶発現を示すグラフであり、成瀬株培養液熱処理物による透析前後のデータを示す。
【図7】図7は、各試料によるHela細胞からの線溶発現を示すグラフであり、分子量毎の溶解面積データを示す。
【図8】図8は、成瀬菌のMW1万以下の分画をゲル濾過して分子量を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図9は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画によるHUVECからの線溶発現を示すグラフである。
【図10】図10は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画による経口投与後のELTの変化を示すグラフである。
【図11】図11は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画による経口投与後のt-PA 量の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、AdenosineによるHeLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図13】図13は、Adenosine 5’-triphosphateによるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図14】図14は、Guanosine-3’-5’-monophosphateによるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図15】図15は、各種酵素処理によるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(以下、「t−PA」と称する。)
【背景技術】
【0002】
血液には凝固系と線溶系の2つの作用がある。血管壁が損傷すると血小板が凝集し一次止血が起こり、その後凝固系因子であるトロンビンは血中のフィブリノーゲンに働くことでフィブリンが形成され止血が完了する。一方、このように血管内で形成されたフィブリンを血管内皮細胞から分泌される線溶系因子である組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)が血中に存在する酵素源であるプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、そのプラスミンがフィブリンを分解する(非特許文献1)。
【非特許文献1】植木厚、続生化学実験講座8,血液(下)、東京化学同人、p.603(1987)
【0003】
納豆菌(Bacillus
subtilis natto)は、枯草菌と同様にグラム陽性桿菌であり、胞子形成能を有する。発明者らは、これまでこの納豆菌を用いた我が国の伝統的大豆発酵食品である納豆中に、血栓溶解に直接働く酵素ナットウキナーゼ(非特許文献2、非特許文献3)や、線溶賦活活性物質(FAS)などの生理活性物質が含まれていることを研究してきた(非特許文献4)。ナットウキナーゼは、経口投与においても血栓溶解活性を高め、同様に経口投与したウロキナーゼ(UK)に比べ血中で長時間線溶効果が持続することを報告している(非特許文献3)。
【0004】
【非特許文献2】Sumi, H., Hamada, H., Tsushima, H.,Mihara, H. and Muraki, H., A novel fibrinolytic enzyme(nattokinase) in the vegetable cheese Natto; a typical and popular soybean foodin the Japanese diet, Experientina,43,1110-1111 (1987)
【非特許文献3】Sumi, H., Hamada, H., Nakanishi, K. andHiratani, H., Enhancement ofthe fibrinolytic activity in plasma by oral administation of Nattokinase, Acta Haematol., 84,139-143 (1990)
【非特許文献4】須見洋行, 佐々木智広, 矢田貝智恵子,小崎泰宣, 納豆中に含まれる線溶賦活物質とその性質,農化,74,11,1259-1264 (2000)
【非特許文献5】Tage,A. and Sten, M., The fibrin plate method for estimatingfibrinolytic activity, Biological Institute, 346-351 (1952)
【非特許文献6】Laemmli,U. K., Cleavage of structural proteins during the assembly of the head ofbacteriophage T4, Nature, 227, 680-685 (1970)
【非特許文献7】Granelli-piperno,A. and Reich, E., A study of proteases and proteases-inhibitor complexes inbiological fluids, J. Exp. Med., 148, 223-234 (1978)
【非特許文献8】Robert,L. M., Marlies, R. and Wolf-Dieter, S., A DNA motif related to thecAMP-responsive element and an exonlocated activator protein-2 binding site inthe human tissue-type plasminogen activator gene promoter cooperate in basalexpression and convey activation by phorbol ester and cAMP, J. Biol. Chem.,265(24), 14618-14626 (1990)
【非特許文献9】Yoshida,E., Elaine, N. V., Mihara, H., Oh D. and Hau, C. K., Enhancement of the expressionof urokinase-type plasminogen activator from PC-3 human prostate cancer cellsby thrombin, Cancer Res., 54, 3300-3304 (1994)
【非特許文献10】佐竹久男, 食品素材の機能性創造・制御技術−新しい食品素材へのアプローチ―, ニューフードクリエーション技術研究所, 恒星社厚生閣(東京), pp.269-271 (1999)
【非特許文献11】Hodge,J. E. and Hofreiter, B. T., Determination of reducing sugars and carbohydrates,Methods in Carbohydrate Chemistry, pp.380-394 (1962)
【非特許文献12】山田猛,糖蛋白質糖鎖研究法,高橋禮子,株式会社学会出版センター(東京),pp.9-10 (1989)
【非特許文献13】須見洋行,血栓症予防に働く食品、及び機能成分, Priming BioMedicine, 1,16-24 (2004)
【非特許文献14】須見洋行,食品成分による血流改善と病気予防,FOOD Style 21,7(4),47-53(2003)
【非特許文献15】Hagiwara,H., Shimonaka, M., Morisaki, M., Ikekawa, N. and Inada, Y.,Sitosterol-stimulative production of plasminogen activator in culturedendothelial cells from bovine carotid artery, Thromb. Res., 33, 363-370 (1984)
【非特許文献16】Shimonaka,M., Hagiwara, H., Kojima, S., and Inada, Y., Successive study on the productionof plasminogen activator in cultured endothelial cells by phytosterol, Thromb.Res., 36, 217-222 (1984)
【非特許文献17】Schneider,J., Stimulation of the plasma fibrinolytic activity in rats by the prostacyclinanalogue CG 4203, Thromb. Res., 48, 233-244 (1987)
【非特許文献18】Motoyama,Y., Sakata, Y., Seki, J., Sato, M., Namikawa, Y., Horiai, H. and Ono, T.,TFC-612, a prostaglandin E1 derivative, enhances fibrinolytic activity in rats,Thromb. Res., 65, 55-63 (1992)
【非特許文献19】Sumi,H., Hamada, H., Morimoto, N. and Mihara, H., Urokinase-like plasminogenactivator incresed in plasma after alcohol drinking, Alcohol & Alcoholism, 23(1), 33-43 (1988)
【非特許文献20】Sumi,H., Yanagisawa, Y., Yatagai, C. and Saito, J., Natto bacillus as an oralfibrinolytic agent: Nattokinase activity and ingestion effect of bacillussubtillis natto, Food Sci.Technol. Res.,10(1),17-20 (2004)
【非特許文献21】Sasaki, Blood, 66, 69-75, 1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、納豆摂取による血栓溶解活性がナットウキナーゼだけによるものではなく、他の因子も関与しているのではないかと考えた。
【0006】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、ナットウキナーゼ以外に有効な血栓溶解活性物質(t−PA亢進物質)及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、納豆菌培養液及び菌体そのものを用い、加熱処理により酵素であるナットウキナーゼを失活させ、ヒト細胞に添加した結果、細胞内のt-PA産生能を亢進する物質の存在を確認した。
【0008】
納豆中に存在するナットウキナーゼは、血液中の血栓症の原因となる不溶性タンパク質フィブリンを分解する酵素であり、ナットウキナーゼに関する研究はこれまで多数報告されている。しかし、今回納豆摂取による血栓溶解活性がナットウキナーゼだけによるものではなく、他の因子も関与しているのではないかと考え実験を試みた。その結果、加熱処理後の納豆菌培養液及び菌体中にヒト細胞内の組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)産生亢進に関与する物質の存在を確認した。
【0009】
先にも述べたように、現在、納豆を摂取することで、納豆中に含まれるナットウキナーゼやFASが血管内の血栓溶解に作用し、血栓症の予防に働くことが報告されている。発明者らは、121℃で30分間加熱処理した納豆菌培養液のナットウキナーゼ活性がなくなっており、ヒト細胞培養液のフィブリン分解を示した活性は、ナットウキナーゼによるものではないことを確認した。また、121℃、30分の加熱処理を繰り返してもフィブリン溶解活性に変化がなく、極めて熱安定性の物質が存在することを確認した。この物質は、透析後に活性がなくなることから分子量10000以下のものと考えられ、分液操作、限外濾過、ゲル濾過により分子量1400近辺の水溶性低分子物質であることが分かった。ノーザンブロット法、また培養後の細胞数に変化がないことから、試料添加に伴う細胞数の増加によるt-PA産生の亢進ではなく、細胞自体の生産能力を高めるものであることを確認した。また、今回の物質をガン細胞だけではなくヒト正常細胞にも添加し、得られた培養液の活性をフィブリン平板で測定した結果、試料添加により活性が高まることが分かった。なお、細胞数の増加がないことから、HeLa細胞と同様に細胞自身のt-PA産生能力を高めるものであると考えられる。
【0010】
培地として3%乾燥ブイヨンを用い、納豆菌(成瀬株、高橋株、宮城野株、419株、IAM1076株)、枯草菌(IAM12118株)、大腸菌(IFO3301株)の計7種類を96時間振盪培養した。培養後121℃、30分間加熱処理した培養物(培養液熱処理物・菌体熱処理抽出物)をt-PA産生細胞で、ヒト子宮頸ガン由来の株化細胞であるHeLa S3に添加し、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培養後、得られた培養液のフィブリン溶解活性を標準フィブリン平板法で測定した結果、培養液熱処理物では成瀬株、宮城野株、IAM1076株、IAM12118株、菌体熱処理抽出物では成瀬株でフィブリン溶解活性が高まることが分かった。成瀬株培養液熱処理物に対して、フィブリン平板法で、平均値と標準偏差の値を出した結果、コントロール16.4±20.2mm2に比べて原液添加は326.2±121.5mm2と19.9倍となった。ザイモグラフィー法によってt-PAのバンド溶解部位がコントロールよりも増加していることから、t-PA活性が増大しており、ノーザンブロット法でもt-PA mRNA量が増加していることを確認した。さらに、限外濾過法・分液操作により分子量10000以下で水溶性の低分子物質であることが分かり、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行った結果、分子量1400近辺の物質であった。
【0011】
次に、限外濾過法で得られた成瀬株培養液熱処理物低分子分画(分子量10000以下)の試料を正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECに添加し、得られた培養液のフィブリン溶解活性を測定した結果、Hela S3と同様にt-PA産生亢進が認められた。いずれの実験も試料添加による培養細胞数に変化のないことから、細胞数増加に伴うt-PA産生能の増加ではないことを確認した。また、限外濾過法で得られた成瀬株培養液熱処理物低分子分画(MW10,000以下)の試料をヒトへ経口投与し、血中線溶系之亢進を示すELTの短縮とt-PA抗原の増加を確認した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明するにあたり、まず試験の条件について説明する。
【0013】
(材料・試薬)
試験に使用する納豆菌(Bacillus subtilis natto)は、一般的に市販納豆に使用されている成瀬株、宮城野株、高橋株、我々の保存株である納豆菌419株、東京大学分子細胞生物学研究所より分与されたIAM1076株、納豆菌と同じBacillus属である枯草菌(Bacillus subtilis
Marburg) IAM12118株、及び財団法人発酵研究所より分与された大腸菌(Escherichia
coli)IFO3301株の7種類を用いた。牛製フィブリノーゲンはシグマ社(株)より、牛製トロンビンは持田製薬(株)、乾燥ブイヨン、Eagle's MEM培地は日水製薬(株)より購入した。その他試薬はすべて特級品を用いた。なお、牛製フィブリノーゲンはLot.No.31K7608、112K7601の2種類を用いた。
【0014】
(納豆菌培養及び抽出法)
納豆菌培養液熱処理物の作製に当たっては、3% 乾燥ブイヨンを培地とし、500ml振盪三角フラスコに培地250mlを入れ、121℃、15分間オートクレーブで滅菌後、スラント培養した各種菌を1白金耳接種し、37℃、100rpmで96時間振盪培養を行った。培養終了後、4℃、4000rpmで10分間遠心分離した上清をオートクレーブを用いて121℃、30分間加熱処理し、0.2μmメンブレンフィルター(ADVANTEC KGS-47-TF)で濾過したものを用いた。成瀬株培養液熱処理物をAbs280nmで測定したタンパク濃度は牛血清アルブミンに換算すると54.35mg/mlであった。
【0015】
また、納豆菌菌体熱処理抽出物は遠心分離後得られた菌体を0.9%
NaCl溶液で2回洗浄し、凍結乾燥後、得られた粉末0.125gをイオン交換水5mlに懸濁し、121℃、30分間加熱処理し、4℃、10000rpmで10分間遠心分離して得られた上清を0.2μmフィルターにかけ用いた。なお、成瀬株菌体熱処理抽出物のAbs280nmで測定したタンパク濃度は牛血清アルブミンに換算すると9.47mg/mlであった。
【0016】
(細胞培養)
プラスミノーゲンアクチベーター(PA)生産細胞は、ヒト子宮頸ガン由来の株化細胞であるHeLa S3(大日本製薬(株))と、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVEC(東洋紡績(株))を用いた。HeLa S3の培養液は、Eagle's MEM培地を121℃、15分間オートクレーブ処理し、そこに濾過滅菌した10%牛胎児血清(FBS)、アミノ酸ビタミン培地、0.03% L-グルタミン酸、0.2%重炭酸ナトリウムを加えたものを用いた。
【0017】
細胞は、T-25
cm2フラスコ、T-75cm2フラスコ内で培養後、ファルコン製24ウェルプレート(2.0cm2/well)、48ウェルプレート(0.75cm2/well)に1.0×105/cm2になるように移してコンフルエント状態になるまで培養し、添加実験を行った。培養液をアスピレーターで吸出し、細胞をPBS(-)でそれぞれ500μl、200μlで1回洗浄した。その後、24ウェルプレートでは培養液450μlに対して試料50μl、48ウェルプレートでは培養液180μlに対して試料20μlを添加し37℃、5% CO2の条件下で24時間培養を行った。
【0018】
なお、試料は添加前に0.2μm Cellulose Acetateフィルター(ADVANTEC DISMIC-13cp)で濾過滅菌したものを用いた。24時間培養後、サンプリングして得られた培養液は4℃、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を1st mediumとして測定まで-20℃で保存した。サンプリング後の細胞は24ウェルプレートではPBS(-)500μlで2回洗浄し、培養液500μlを加え、48ウェルプレートではPBS(-)200μlで2回洗浄し、培養液200μlを加えさらに37℃、5% CO2条件下で24時間培養を行った。培養後の培養液は4℃、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を2nd mediumとし-20℃で保存した。
培養後の細胞はPBS(-)で2回洗浄し、トリプシンで細胞をはがした後、培養液とPBS(-)を加え、分光光度計SmartSpec Plus(BIO-RAD)とtrUViewTM Cuvette(BIO-RAD)を使用し、Abs600nmで測定した値よりウェル内の細胞数を算出した。
【0019】
HUVECの培養液は、Endothelial Cell Basal Medium及びEndothelial Cell Growth Supplementの混合物であるEndothelial Cell Growth Medium (東洋紡績(株))を用いた。細胞は、ファルコン製48ウェルプレートに移し、コンフルエント状態になるまで培養し、培養液をアスピレーターで吸出し、新しい培養液135μl及び試料15μlを添加し37℃、5% CO2の条件下で24時間培養を行った。試料は添加前に0.2μm Cellulose
Acetateフィルター(ADVANTEC DISMIC-13cp)で濾過滅菌したものを用いた。24時間培養後、サンプリングして得られた培養液は1st mediumとして−20℃で保存した。サンプリング後の細胞は培養液をアスピレーターで除いた後、PBS(-)150μlで2回洗浄し、培養液150μlを加えさらに24時間培養を行った。培養後の培養液は2nd mediumとして-20℃で保存した。培養後の細胞数はHeLa S3と同様にPBS(-)で2回洗浄し、トリプシン-EDTAと培養液を加え分光光度計でAbs600nmを測定し、検量線を用いて算出した。なお、最低3回以上の測定を行い、平均値で示した。
【0020】
(標準フィブリン平板法(非特許文献2、5))
HeLa S3、HUVEC培養液中のPA活性および納豆菌培養液中のナットウキナーゼ活性は、標準フィブリン平板法で測定した。
フィブリン平板は、10cm×14cm角型シャーレ内にフィブリノーゲンをホウ酸緩衝液(pH7.80)で0.5%に溶解した20mlと50U/mlのトロンビン200μlを用いて作製した。そこに、サンプリングしたHeLa S3及び、HUVECの培養液を各々30μlのせ、37℃でインキュベーションし、48時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。また、納豆菌培養液のナットウキナーゼ活性は、各々30μl載せ、37℃でインキュベーションし、24時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。
【0021】
(ザイモグラフィー法(非特許文献6、7))
HeLa S3培養液を用いてザイモグラフィー法を行った。SDS-ポリアクリルアミド電気泳動は、10%ゲルスラブを作製し、その上に濃縮ゲルを作製した。得られた培養液に等量のサンプルバッファーを加え混合し、20μlずつウェルに注入し、30mAで約2時間泳動した。ザイモグラフィーは、泳動後、2.5%トリトンX-100を用いてゲル内のSDSを除去した。フィブリノーゲンを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し0.8%とした溶液と、寒天を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液とを100U/mlトロンビン50μl加え作製したフィブリン−寒天平板にゲルを重層し、37℃でインキュベーション後生じたバンドより血栓溶解活性及び分子量測定を行った。
【0022】
(ノーザンブロット法(非特許文献8、9))
ファルコン製6ウェルプレート(9.6cm2/well)で培養した細胞を、PBS(-)3mlで2回洗浄し、酸性条件下で酢酸ナトリウム(pH4.0)、グアニジンチオシアネート、フェノール、クロロホルムを用い、total RNAを抽出した。得られたtotal RNA 15μg及び1.2%アガロースゲルを用い、100Vで2時間電気泳動を行った。泳動後、UVライト上でmRNAを確認し、ゲル中のmRNAをHybond-N+(アマシャム)の膜に転写させ、UVクロスリンク(700×100μJ/cm2)で固定した。ハイブリダイゼーションは65℃で一晩行い、プローブはGene Image’s(アマシャム)を用いて標識したt-PA mRNAプローブとGAPDH mRNAプローブを使用した。検出にはCDP-starを用い化学発光させ、ECL-mini camera(アマシャム)、FUJI FILM FP-3000Bフィルムを使用しt-PAプローブでは露光時間4日間、GAPDHプローブでは露光時間2日間で撮影した。
【0023】
(分液操作(非特許文献10))
成瀬株培養液熱処理物40mlを分液ロート100ml(岩城硝子)に入れ、5倍量の有機溶媒、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、水飽和1-ブタノールの順で抽出を行った。抽出は、それぞれ同一溶媒で5回行い、4℃、3500rpmで10分遠心分離によって分液した。各溶媒層は、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、50℃乾燥後、100%エタノール 4mlに溶解し、試料として用いた。また、残渣である水溶性分画においては50℃乾燥後、イオン交換水15mlに溶解させたものを試料とした。
【0024】
(限外濾過法)
分子量カットは、ウルトラフィルター用限外濾過器(ADVANTEC UHP-K)で、分子量50000、20000、10000のフィルター(ADVANTEC)を用いて行った。成瀬株培養液熱処理物30mlを各フィルターにかけ、分子量50000以上の分画は5.3mlと5.7倍、分子量20000〜50000の分画は3.8mlと6.6倍、分子量10000〜20000の分画は3.3mlと6.1倍に濃縮されたもの、分子量10000以下の分画は全てのフィルターを通った14.5mlを試料として用いた。
【0025】
(ゲル濾過カラムクロマトグラフィー法)
ゲル濾過は、Bio-Gel
P-2 (分画分子量100-1800)、P-6 (分画分子量1000-6000)(BIO-RAD)をエコノカラム(1.5cm×50cm、BIO-RAD)に充填し、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.4)で平衡化後、限外濾過で分子量10000以下に分子量カットした分画を2.5ml載せ、分子量を測定した。フラクションの分取は、74滴(2.5ml)で操作した。分子量測定のための標準物質にはバシトラシン(分子量1420)、ビタミンB12(分子量1350)、マルトヘキサオース(分子量990)、マルトース(分子量342)及びチロシン(分子量181)を用い、バシトラシンとチロシンはAbs280nm、マルトヘキサオースとマルトースはフェノール硫酸法(非特許文献11、12)により検出した。
【0026】
(統計処理)
統計学的な有意は不対データを比較するためのStudent t-testでp値を算出した。
【0027】
(培養時間の検討)
試料添加後のHeLa
S3培養時間と、フィブリン溶解活性との関係を調べるために、96時間振盪培養した成瀬株培養液熱処理物をHeLa S3に添加後、37℃、5% CO2条件下で3、6、12、24時間と培養時間を変えて培養した。得られた培養液1st mediumの48時間後のフィブリン溶解活性を測定した結果、溶解面積は12時間では102.7mm2でコントロールと比較し8.6倍、24時間では388.2mm2で22.5倍となり、試料添加後12〜24時間でフィブリン溶解活性を亢進することを確認した(図1)。このことから、以後の実験は全て24時間培養で行った。
【0028】
(試料濃度の検討)
成瀬株培養液熱処理物をオートクレーブ滅菌したMilli-Q水を用いて希釈系列(原液、2、4、8、16、32、64倍希釈)を作成し、試料濃度による活性の変化を検討した。各試料を24ウェルプレートで培養したHeLa S3に添加し、得られた1st medium、2nd mediumをフィブリン平板で測定した。1st mediumの原液では溶解面積が498.3mm2であるのに対し、2倍希釈では193.5mm2と急激に溶解活性が減少した。それ以下の希釈倍率では緩やかに減少していった。なお、原液添加はコントロールに対し9.5倍活性が高まることが分かった。また、2nd mediumにおいても活性は高まるもののコントロールの値も高いため、活性の比率は3.6倍であった(図2)。
【0029】
(ザイモグラフィー法による血栓溶解活性)
次に、HeLa
S3を培養し、成瀬株培養液熱処理物を添加後得られた培養液1st mediumと、標準マーカーとしてt-PA(分子量68000)をSDS-PAGEにかけ、ザイモグラフィー法で調べた(図3)。原液、2倍希釈の培養液ではt-PAのバンドの溶解部位がコントロールよりも増加していることから、ザイモグラフィー法でもフィブリン平板と同様にt-PA活性が増大することを確認した。
【0030】
(ノーザンブロット法による解析)
細胞内で発現している遺伝子転写物(mRNA)の存在量を解析するために、成瀬株培養液熱処理物を6ウェルプレートで培養したHeLa S3に添加し、37℃、5% CO2条件下で24時間培養後、得られた細胞からRNAを抽出しノーザンブロットを行った。また、細胞数と活性の相関関係を調べるために細胞数を測定した結果、図4に示すように、ウェル内の細胞数に顕著な変化は見られなかったが、フィブリン溶解活性はコントロールに比べ原液添加では105倍、2倍希釈では30.6倍、4倍希釈では14倍と細胞数に関係なく活性が高まっており、測定を繰り返しても同じ結果が得られた。ノーザンブロットにおいて、t-PA mRNAバンドがコントロールでは確認されなかったが、原液を添加することにより発現量が高まることが分かった。また、内部標準であるGAPDH mRNA発現量に変化は見られなかった。これにより、細胞内のt-PAの合成系を高めることを確認した(図5)。
【0031】
(培養液熱処理物によるフィブリン溶解活性の比較)
表1は、納豆菌培養液熱処理物質によるHeLa 細胞での線溶発現を示し、数値は平均±S.D.である。成瀬株の他に、同じ納豆菌である高橋株、宮城野株、419株、IAM1076株、納豆菌と同じBacillus属である枯草菌IAM12118株、その他の菌として大腸菌IFO3301株も同様に96時間振盪培養して得られた培養液熱処理物をHeLa S3に添加し、1st mediumのフィブリン溶解活性を測定した。高橋株、419株はそれほど高い活性は見られなかったが、宮城野株、IAM1076株、IAM12118株では成瀬株と同様に高い活性を得られることが分かった。また、IFO3301株においては影響は少なかった(表1)。なお,HeLa S3に添加前の試料のナットウキナーゼ活性を測定したが、活性は見られなかった。
【表1】
【0032】
(菌体熱処理抽出物によるフィブリン溶解活性の比較)
次に、納豆菌菌体中に存在する物質にも培養液と同じく、HeLa S3でのt-PA活性を亢進するかを検討した。表2は、納豆菌菌体熱処理抽出物によるHeLa細胞での線溶発現を示し、数値は平均±S.D.である。納豆菌菌体熱処理抽出物でも培養液熱処理物と同条件で測定した結果、成瀬株菌体熱処理抽出物の1st mediumにおいては培養液熱処理物と同様にフィブリン溶解活性の増加が見られ、コントロールに対して13倍活性が高まることが分かった。なお,培養液熱処理物で活性の高かったIAM12118株は、コントロールと比較して1.8倍と菌体熱処理抽出物では活性が低く、他の菌においてもそれほど影響は見られなかった(表2)。
【表2】
【0033】
(試料の精製)
次に、分液操作を行った成瀬株培養液熱処理物の各分画を用い、HeLa S3に添加しフィブリン溶解活性を測定した結果、活性は有機溶媒層には見られず、水層にのみ現れた。また、透析膜を用いイオン交換水で18時間透析を行った結果、透析前129.4mm2あったものが透析後3.2mm2となり、透析後の試料に活性は見られなかった(図6)。さらに、分子量50000、20000、10000のフィルターを用いて分子量カットし、各分画をHeLa S3に添加した結果、分子量10000以下の低分子分画に活性があることが分かった(図7)。このことからHeLa S3での成瀬株培養液熱処理物によるt-PA産生亢進物質は水溶性でなおかつ低分子物質であることを確認した。
【0034】
(ゲル濾過による分子量測定)
分子量カット後活性の見られた分子量10000以下の分画をBio-Gel P-2カラム(1.5×47.5cm)を用いゲル濾過を行った。フラクションは2.5mlずつ分取し、得られた計50フラクションをAbs280nmでタンパク量を測定した結果、いくつかのタンパクピークが確認された。ピークが始まった10本目から50本目までのフラクションをクリーンベンチ内でDISMIC-13CPを用いて濾過滅菌し、HeLa S3に添加した。24時間培養後の培養液1st mediumをフィブリン平板で測定した結果、フラクション13本目に活性が存在することを確認し、コントロールとの比率は4.8倍であった(図8)。また、測定を繰り返しても同様の結果が得られ、標準物質から分子量を検出した結果、分子量1400近辺であることが分かった。
【0035】
(ヒト正常細胞への影響)
正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞HUVECに成瀬株培養液熱処理物低分子分画(分子量10000以下)の濃度を変え、48ウェルプレートに添加し、培養後得られた1st mediumのフィブリン溶解活性をフィブリン平板で測定した。HeLa S3の場合と同様に、HUVECでも1st mediumで活性が見られ、ウェル内の細胞数にほとんど変化がないことから、細胞数の増加によるt-PA産生の亢進ではないことが分かった(図9)。このことより、成瀬株培養液熱処理物がHeLa S3のt-PA産生だけでなく、ヒト正常細胞でも同様にt-PA産生亢進に働くことを確認した。
【0036】
(ヒトへの投与実験)
次に、分子量カット後活性のみられたMW10,000以下の試料(成瀬株培養液熱処理物低分子分画)を凍結乾燥した。ヒトの場合、投与された物質が吸収される時間が重要である。これまでの多くの実験(非特許文献3、18,19)を基に、0.5g相当の物質は、ELTの低下(31.8→15.7)と、t-PA抗原量の増加(6.6→17.6)を示し、ELT及びt-PA抗原量の増加は有意の変化(p<0.001)であった。その結果を図10、図11に示す。一方、血液のCa再加時間およびプロトロンビン時間に目立った変化はなかった。なお、ELTはSasakiらの方法(非特許文献21)、t-PA抗原はELISA(ImulyseTM5t-PA Biopool Umea Sweden)に従った。血漿凝固系は、0.2ml血漿、0.1ml50mMCaCl2をClot Digitam TE-20(Elma Optics)を用いた。Pro-thrombinは5mg/mlのトロンポプラスチン(時間)と0.1ml血漿を用いて調べた。
【0037】
次に、アデノシン、グアノシンおよびその誘導体の線溶増強活性について実験を行った。
核酸系医薬の原料として、バチルス属の生産するアデノシンなどが注目されている。アデノシン誘導体は、低分子量の生理活性物質として血管拡張物質あるいは血小板凝集阻害物質として知られている。本発明者は、アデノシン誘導体がHeLa細胞に働いてt-PA亢進に働く効果を確認した。また、各種ペプチド関連物質としてトリプシンをはじめ、いろいろの酵素によるたんぱく質の分子切断の影響を調べた。
【0038】
(材料)Adenosine、Adenosine 5’-monophosphate
sodium salt 、Adenosine 5’-triphosphate disodium salt、 Adenosine 5’-diphosphate sodium salt、Guanosine-3’-5’-monophosphate mixed isomer sodium salt、Guanosine-2’&3’-monophosphate mixed isomer sodium salt、Guanosine 5’-diphosphate disodium salt およびCytidineはSigma社より購入した。
その他プロテアーゼ(たんぱく分解酵素)としてTripsin 、Chymotrypsin 、Papaine、Elastase I、Elastase IV 、Bromelain、Ficin(Sigma社)を用いた。
【0039】
(方法)上述した段落0018に記載の方法に従って操作した。まず、上記試料をNaOHでpH7.8に合わせてから水で希釈して用いた。
成瀬株培養液の分子量10,000以下の分画を各試験管に900μl加え、Trypsin1.0mg(100μl)あるいはNutrient brothを加え、37℃、1時間incubationした後、121℃、15分間加熱処理を行った。その後のt-PA産生亢進活性を調べてみた。
アデノシン・グアノシンの分析は30mmol/l 2-ジエチルアミノエタノール(pH7.4)を用い、Inertsil ODS-3を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で行った。
【0040】
(結果)
図12〜図14はその結果を示す。特に、アデノシンやグアノシン1リン酸で強いt-PA産生亢進効果がみられた。Adenosine 5’-monophosphate sodium salt 、Guanosine-2’&3’-
monophosphate mixed isomer sodium
salt、Guanosine 5’-diphosphate disodium saltあるいはCytidineの添加効果は少なかった。図15は、成瀬株培養液(分子量10,000以下の分画)への各種酵素処理を行った結果を示すが、7種類のたんぱく分解酵素ではいずれも活性はみられなかった。納豆(成瀬株)、あるいはその抽出液中にはHPLCでかなり多量のAdenosineおよびGuanosineが検出された。
【0041】
(考察)
アデノシン、グアノシン1リン酸などの核酸成分がt-PAの産生に関与するという報告はこれまでに全くないことである。事実、DNAの構成成分として納豆にも存在する。また、最近はアデノシンが血行促進や育毛にも効果を有することで注目されている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
これまで血管内皮細胞において女性ホルモンや各種ホルモン剤、ステロイド、プロスタグランジンを用いることでt-PA産生を亢進することが報告されている(非特許文献15〜18)。今回、HeLa S3及びHUVECに加熱処理した納豆菌培養物による刺激を与えることで、細胞内のPA産生能を亢進する物質の存在を初めて明らかにした。この物質は水溶性かつ低分子物質であるため、体内での吸収性も高いと考えられる。熱に安定であることから加工にも適しており、経口線溶療法など血栓性疾患予防としての使用、また、サプリメントのような栄養補助食品や機能性食品などへの応用としても期待される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、Hela細胞による線溶活性を示す写真であり、成瀬培養液を121℃,30分間処理し,Hela細胞に添加した。平板には,30μlをのせ,37℃で,3,6,12,48時間後の結果である。
【図2】図2は、Hela細胞でみた成瀬菌の線溶活性を示すグラフであり、白抜きのラインが1st medium、黒塗りのラインが2nd mediumを示す。
【図3】図3は、Hela細胞で生じたプラスミノーゲンアクチベーターのザイモグラフィー(写真)であり、各レーンには成瀬菌の希釈倍率を示し、フィブリン−寒天平板でインキュベーションは37℃,65時間である。
【図4】図4は、成瀬菌によるHela細胞からの線溶活性を示すグラフである。
【図5】図5は、成瀬菌によるHela細胞からのノーザンブロット法による解析結果を示す写真である。
【図6】図6は、各試料によるHela細胞からの線溶発現を示すグラフであり、成瀬株培養液熱処理物による透析前後のデータを示す。
【図7】図7は、各試料によるHela細胞からの線溶発現を示すグラフであり、分子量毎の溶解面積データを示す。
【図8】図8は、成瀬菌のMW1万以下の分画をゲル濾過して分子量を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図9は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画によるHUVECからの線溶発現を示すグラフである。
【図10】図10は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画による経口投与後のELTの変化を示すグラフである。
【図11】図11は、成瀬株培養液熱処理物低分子分画による経口投与後のt-PA 量の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、AdenosineによるHeLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図13】図13は、Adenosine 5’-triphosphateによるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図14】図14は、Guanosine-3’-5’-monophosphateによるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【図15】図15は、各種酵素処理によるHeaLa細胞からの線溶発現を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質。
【請求項2】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のt−PA亢進物質。
【請求項3】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項1又は2に記載のt−PA亢進物質。
【請求項4】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む医薬。
【請求項5】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項4又は5に記載の医薬。
【請求項7】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む食品。
【請求項8】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項7に記載の食品。
【請求項9】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項7又は8に記載の食品。
【請求項10】
納豆菌を培養する工程と、その培養液を熱処理する工程と、熱処理後の培養液を濾過する工程とを含むことを特徴とするt−PA亢進物質の製造方法。
【請求項11】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項10に記載のt−PA亢進物質の製造方法。
【請求項12】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質。
【請求項13】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項12に記載のt−PA亢進物質。
【請求項14】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む医薬。
【請求項15】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む食品。
【請求項17】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
納豆菌を培養する工程と、その培養液から菌体を分離する工程と;分離した菌体を熱処理する工程とを含むことを特徴とするt−PA亢進物質の製造方法。
【請求項1】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質。
【請求項2】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のt−PA亢進物質。
【請求項3】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項1又は2に記載のt−PA亢進物質。
【請求項4】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む医薬。
【請求項5】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項4又は5に記載の医薬。
【請求項7】
納豆菌培養液を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む食品。
【請求項8】
前記t−PA亢進物質は、少なくともアデノシン、グアノシンの一方を含むことを特徴とする請求項7に記載の食品。
【請求項9】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項7又は8に記載の食品。
【請求項10】
納豆菌を培養する工程と、その培養液を熱処理する工程と、熱処理後の培養液を濾過する工程とを含むことを特徴とするt−PA亢進物質の製造方法。
【請求項11】
前記納豆菌は、成瀬株、宮城野株、IAM1076株又はIAM12118株であることを特徴とする請求項10に記載のt−PA亢進物質の製造方法。
【請求項12】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質。
【請求項13】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項12に記載のt−PA亢進物質。
【請求項14】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む医薬。
【請求項15】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
納豆菌菌体を熱処理することで製造されるt−PA亢進物質を含む食品。
【請求項17】
前記納豆菌は成瀬株であることを特徴とする請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
納豆菌を培養する工程と、その培養液から菌体を分離する工程と;分離した菌体を熱処理する工程とを含むことを特徴とするt−PA亢進物質の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−106064(P2008−106064A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255042(P2007−255042)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(599064339)株式会社 ホンダ トレーディング (5)
【出願人】(592197061)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(599064339)株式会社 ホンダ トレーディング (5)
【出願人】(592197061)
【Fターム(参考)】
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