説明

torsin遺伝子をコードするヌクレオチド配列、torsinタンパク質、これらを用いてタンパク質凝集を治療する方法

本発明は、様々な程度のtorsin活性を有するポリペプチド配列及びその一部をコードするtor−1、tor−2、ooc−5、DYT1、及びDYT2遺伝子及びその一部に対応するポリヌクレオチド配列を備えたポリヌクレオチド、並びに、様々な程度のTOR−1、TOR2、OOC−5、TOR−A、及びTOR−B活性を有するポリペプチドをコードするポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドをスクリーニングする方法及び増幅する方法に関する。さらに、本発明は、タンパク質凝集を減少させる方法、タンパク質凝集によって引き起こされる疾病を治療する方法、タンパク質凝集を減少させる可能性がある産物をスクリーニングする方法、タンパク質凝集によって引き起こされる疾病の治療薬候補をスクリーニングする方法、tor−1、tor−2、ooc−5、DYT1、及びDYT2遺伝子に対応するポリヌクレオチド及び/又はtorsin活性を有するポリペプチドを含む医薬、治療剤、及びキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本出願は、2002年6月24日に出願された米国出願第10/177104号の利益を主張する。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、tor−1、tor−2、ooc−5、DYT1、及びDYT2遺伝子に対応するポリヌクレオチド配列及び様々な程度のtorsin活性を有するポリペプチド配列及びその一部をコードするそれらの一部を備えたポリヌクレオチド、並びに、様々な程度のTOR−1、TOR2、OOC−5、TOR−A、及びTOR−B活性を有するポリペプチドをコードするポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドをスクリーニングする方法及び増幅する方法に関する。さらに、本発明は、タンパク質凝集を減少させる方法、タンパク質凝集によって引き起こされる疾病を治療する方法、タンパク質凝集を減少させる可能性がある産物をスクリーニングする方法、タンパク質凝集によって引き起こされる疾病の治療薬の候補をスクリーニングする方法、並びにtorsin活性を有するtor−1、tor−2、ooc−5、DYT1、及びDYT2遺伝子及び/又はポリペプチドに対応するポリヌクレオチド配列を含む医薬、治療薬、キットに関する。
【0003】
<背景の説明>
神経の損傷は、凝集しやすい有毒なタンパク質によって引き起こされることがある。さらに、広範な神経変性疾患は、このような神経の損傷を特徴とする。従って、これらの神経変性疾患は、タンパク質凝集の結果であることが確実である。これらの疾患を引き起こすこのような凝集しやすい有毒タンパク質をコードする遺伝子が同定されている。さらに、このような遺伝子中の変異は、異常なプロセッシングをもたらし、誤って折り畳まれたタンパク質を蓄積させる。これらの誤って折り畳まれたタンパク質は、神経顆粒(neuronal inclusion)や神経斑などの神経の損傷をもたらすことが知られている。従って、細胞機序を理解し、このような誤って折り畳まれたタンパク質を減少し、阻害し、軽減するために必要な分子ツールを同定することが不可欠である。さらに、神経の生存に対するタンパク質凝集の影響を理解することは、これらの疾患に対する合理的で効果的な治療の開発を可能とするであろう。
【0004】
早期に発症する捻転ジストニアを含む神経疾患は、制御されない筋肉の痙攣を特徴とする。筋肉の痙攣が反復的且つ周期的である点で、ジストニアは筋肉の痙攣とは区別される(Bressman, SB. 1998. Dystonia. Current Opinion in Neurology. 11: 363-372)。書痙から車椅子の生活を余儀なくされる重度にいたるまで、症候の程度は様々であり得る。早発性捻転ジストニア(原発性ジストニアとも呼ばれる)は、家族的な関連性が強く、他の運動疾患に見られる神経変性が全く存在しないことによって区別される。これは、本疾病の中で最も重篤な形態であり、低い浸透度(30−40%)で優性遺伝する(L. J. Ozelius, et al. , Genomics 62,377 (1999); L. J. Ozelius, et al. , Nature Genetics 17,40 (1997))。従って、ジストニアは診断するのが困難で、病理学的に確定するのが難しい。北米には300万人を超えるジストニアの患者が存在し、ジストニアはハンチントン舞踏病や筋ジストロフィーよりも一般的である。本疾病に対する理解が不十分であるため、治療は極めて限られており、選択肢としては、手術又は筋肉の収縮を調節するためのボツリヌストキシンの注射がある。
【0005】
捻転ジストニアの分子的な基礎はなお不明である。Ozeliusらは、TOR1A(DYT1)と名付けられた原因遺伝子を同定し、ヒト染色体9q34にマッピングした(L. J. Ozelius, et al Nature Genetics 17,40 (1997))。TOR1A遺伝子は、TOR−Aと名付けられたタンパク質を産生する。早期に捻転ジストニアを発症する患者の多くは、1つのコドンが特異的に欠失しており、この欠失によってTOR−Aのカルボキシ末端に存在するグルタミン酸(GAG)残基が失われる。不適切に機能するtorsinタンパク質が産生される。注目すべきことに、これは、本疾病染色体上に観察される唯一の変化であった(L. J. Ozelius, et al. , Genomics 62,377 (1999); L. J. Ozelius, et al. , Nature Genetics 17,40 (1997))。最近の論文に、カルボキシ末端に18塩基対すなわち6アミノ酸の欠失がさらに存在することが記載された。これは、GAG欠失以外に同定された初の変異である(L. J. Ozelius, et al., Nature Genetics 17,40 (1997))。
【0006】
TOR1A遺伝子を同定した原著論文では、線虫のtorsin様タンパク質が記載されており、ooc−5遺伝子をコードすることが示された(L. J. Ozelius, et al., Nature Genetics 17,40 (1997); S. E. Basham, and L. E. Rose, Dev Biol 215 253 (1999))。TOR−Aタンパク質は、AAA+/Hsp100/Clpファミリーのタンパク質と僅かな類似性(25%−30%)がある(染色体(L. J. Ozelius, et al. , Genomics 62, 377 (1999); Neuwald AF, Aravind L, Spouge JL, Koonin EV. 1999. AAA+: A class of chaperone-like ATPases associated with the assembly, operation, and disassembly of protein complexes. Genome Res 9: 27-43)。それらの役割は、その類似性と同程度に多様である。例えば、それらは、シャペロン機能を行い、タンパク質シグナル伝達を制御し、タンパク質の正しい局在を可能とする。しかしながら、本発明が行われる時点までは、torsinタンパク質の機能は解明されておらず、それらの活動は不明である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ジストニア、ジストニア遺伝子、コードされるタンパク質、ジストニア疾患をもたらすジストニア遺伝子中の変異に関する。特に、本発明は、torsinタンパク質、好ましくは、TOR−2をコードする単離された核酸分子を提供する。
【0008】
本発明は、さらに、torsinタンパク質中に含有されるアミノ酸配列を具備する精製されたポリペプチドを提供する。
【0009】
本発明は、torsinタンパク質又はポリペプチドをコードする試料中の核酸の存在及び核酸中の変異を特異的に検出するための核酸プローブも提供する。
【0010】
本発明は、さらに、torsinタンパク質をコードする試料中の核酸の変異の存在を検出する方法を提供する。
【0011】
本発明は、torsinタンパク質をコードする試料中の核酸の変異の存在を検出するためのキットも提供する。
【0012】
本発明は、さらに、宿主細胞中で転写を開始させるのに有効なプロモーターを5’から3’方向に備え、且つ上記単離された核酸分子を備えた組換え核酸分子を提供する。
【0013】
本発明は、ベクターと上記単離された核酸分子とを備えた組換え核酸分子も提供する。
【0014】
本発明は、さらに、ある化合物の存在下でのタンパク質凝集の量を、前記化合物の不存在下でのタンパク質凝集の量と比較することによって、タンパク質凝集を減少し、阻害し、軽減し、又は抑制する化合物をスクリーニングする方法を提供する。本スクリーニング方法は、少なくとも1つのtorsinタンパク質の存在下で行われる。torsinタンパク質は変異されていてもよい。
【0015】
本発明は、さらに、上記ポリペプチドに対応するアミノ酸配列をコードするRNA配列に相補的な配列を備えた組換え核酸分子を提供する。
【0016】
本発明は、上記組換え核酸分子を含有する細胞も提供する。
【0017】
本発明は、さらに、上記組換え核酸分子を含有するヒト以外の生物を提供する。
【0018】
本発明は、torsinタンパク質又はポリペプチドに対して特異的な結合親和性を有する抗体も提供する。
【0019】
本発明は、さらに、試料中のtorsinタンパク質又はポリペプチドを検出する方法を提供する。
【0020】
本発明は、試料中のtorsinタンパク質又はポリペプチドの量を測定する方法も提供する。
【0021】
本発明は、さらに、torsinタンパク質又はポリペプチドに対して特異的な結合親和性を有する抗体を検出する方法を提供する。
【0022】
本発明は、さらに、モノクローナル抗体の結合対と標識とを備えたコンジュゲートを含有する第一の容器手段を備える、診断キットを提供する。
【0023】
本発明は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマも提供する。
【0024】
本発明は、さらに、ヒトのジストニア疾患、捻転ジストニアの診断方法を提供する。好ましくは、本発明においては、ジストニアの有無を診断する方法であって、ヒトにジストニアが発症する可能性又はジストニアを発症する素因を予測する方法が提供される。前記ジストニア疾患は、例えば、捻転ジストニアであり得る。前記診断法では、ヒトから取得した生物試料を使用することができる。前記生物試料は、血液、唾液、精液、膣分泌液、脳脊髄液および羊膜体液試料などの体液であり得る。これに代えて又はこれに加えて、前記生物試料は、絨毛膜、神経、上皮、筋肉及び結合組織試料等の組織試料である。体液と組織試料ともに、試料中には核酸が存在する。
【0025】
前記ジストニア遺伝子は、tor−1、tor−2、ooc−5、DYT1、及びDYT2遺伝子並びにその一部であり得る(配列番号1、3、5、7、9)。一実施形態において、前記遺伝子は、欠失変異などの変異を受けていてもよい。あるいは、前記変異は、ミスセンス変異又はフレームシフト変異であってもよい。例えば、検出すべき前記変異が欠失変異であれば、この領域には3つのヌクレオチドが存在し又は存在しない。
【0026】
本発明は、ヒトにおけるジストニア疾患の有無を検出する方法であって、前記ジストニア疾患がジストニア遺伝子に1個以上の変異を有することを特徴とする、方法にも関する。
【0027】
本発明の別の側面は、ジストニア疾患の有無を検出する方法であって、ジストニア遺伝子を増幅できるオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」という。)を行うことによってヒトから得た被検試料を調べる、方法に関する。核酸試料のPCR増幅の後には、増幅された核酸断片を分離し、tor−2遺伝子中の変異及びジストニア遺伝子の対立遺伝子を検出する。例えば、tor−2遺伝子中の変異は、捻転ジストニアが存在することの指標となるのに対して、変異が存在しないことは、捻転ジストニアが存在しないという診断指標となる。
【0028】
本発明のさらなる側面は、ヒトにおけるジストニア疾患の有無を決定する方法であって、ヒトから取得した生体試料をジストニア遺伝子に対する核酸プローブに接触させる工程と、ハイブリダイゼーションに適した条件下に前記生体試料と前記核酸プローブとを維持する工程と、生体試料と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する工程と、ジストニア疾患を含有する対照試料又は含有しない対照試料とヒトから取得したハイブリダイゼーションシグナルを比較する工程と、を備えた方法である。ハイブリダイゼーションは、配列番号1、3、5、7、及び9などのジストニア遺伝子の核酸断片を用いて行われる。前記核酸プローブには、標識(例えば、蛍光標識、放射性標識、酵素標識、ビオチン標識)を施すことができる。
【0029】
本発明は、あるヒトがジストニア疾患に罹患する可能性があるかどうかを予測する方法であって、ヒトから生体試料を取得することと、該生体試料を核酸プローブと接触させることと、ハイブリダイゼーションに適した条件下に前記生体試料と前記核酸プローブを維持することと、前記生体試料と前記核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出することと、を備えた方法も包含する。別の実施形態では、前記方法は、ジストニア遺伝子(例えば、配列番号1、3、5、7及び9)を増幅することができるオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを実施することと、前記ジストニア遺伝子の増幅されたDNA断片中の変異を検出することとをさらに含み、前記ジストニア遺伝子中の変異が捻転ジストニアの存否についての指標となる。ハイブリダイゼーションは、例えば、陽性診断の指標となるヌクレオチドの欠失、又は陰性診断の指標となるヌクレオチドの存在を検出することができる。
【0030】
本発明は、さらに、ヒトにおけるジストニア疾患の有無を決定する方法であって、ヒトから生体試料を取得することと、ヒトの体液、組織又は両者を含む生体試料中のジストニアタンパク質のレベルを評価することとを備えた、方法を提供する。ジストニアタンパク質のレベル又は濃度は、前記試料をジストニアタンパク質に対して特異的な少なくとも1つの抗体と接触させ、ジストニアタンパク質のレベルを検出することによって測定される。ジストニアタンパク質レベルの変化が、診断の指標となる。本方法で使用される抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体とすることができ、検出可能な指標(例えば、蛍光、ビオチン、コロイド金、酵素)を施すことができる。別の実施形態では、ジストニアタンパク質のレベル又は濃度を評価する前記方法は、さらに、ジストニアタンパク質に対して又は抗体とジストニアタンパク質との複合体に対して特異的な二次抗体に前記試料を接触させることを含む。
【0031】
本発明は、ヒトにおけるジストニア疾患の有無を診断するためのキットであって、ヒトから取得した試料中のDYT1などのジストニア遺伝子又はTOR−Aなどのジストニアタンパク質の変異を検出するための1個以上の試薬を備えたキットも提供する。捻転ジストニアを検出するための前記1個以上の試薬は、酵素結合免疫吸着検定法又はラジオイムノアッセイを実施して、ジストニアタンパク質の有無を検出するために使用される。別の実施形態では、前記キットは、PCR、ハイブリダイゼーション、又は配列を基礎としたアッセイ又はこれらの任意の組み合わせによって捻転ジストニアを検出するための試薬を1個以上備える。
【0032】
本発明の方法は、TOR−Aなどのジストニアタンパク質をコードするDYT1などのジストニア遺伝子中の変異を診断することができ、ヒトのジストニア遺伝子中の変異を、捻転ジストニアに罹患していない前記ヒトの親、捻転ジストニアに罹患している前記ヒトの親及び捻転ジストニアに罹患している前記ヒトの兄弟姉妹(sibling)のジストニア遺伝子の変異と比較する方法も想定している。
【0033】
本方法は、tosinタンパク質をコードする核酸配列の全部若しくは一部又はtorsinタンパク質の全部若しくは一部を治療のために使用する方法も提供する。
【0034】
本発明は、さらに、臨床的神経疾患を媒介し又は他の神経疾患に罹患しやすくする(例えば、遺伝的な素因を与える)変異又は多型を同定するためのプローブ及びプライマーとして有用な核酸配列を提供する。
【0035】
本発明の別の実施形態では、当該遺伝子の神経解剖学的発現と合致して(例えば、相関して)哺乳類中で明瞭な臨床症候を生じる表現型を付与すると推定される別の神経遺伝子中の変異又は多型を検出するために、前記開示されたプローブ及びプライマーを使用する方法を提供する。例えば、本明細書に記載されている方法は、ドーパミンを媒介した疾病、運動障害、神経変性疾患、神経発達障害及び神経精神疾患などの神経病(これらに限定されない)における、TOR−1、TOR−2、ooc−5、TOR−A又はTOR−Bの役割を確認するために使用することができる。
【0036】
ある実施形態では、ドーパミンを介した疾病、又は神経疾患をもたらす変異又は多型を備えた遺伝子を同定する方法を提供する。このような疾病の例は、表1に記されている。
【0037】
本発明の別の実施形態は、神経疾患への感受性を増大させる神経遺伝子中の変異又は多型を同定する方法を提供する。
【0038】
本発明の別の目的は、torsinタンパク質の不存在下におけるタンパク質凝集のレベルと比較して、torsinタンパク質の存在下におけるタンパク質凝集を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する方法である。torsinタンパク質は変異されていてもよい。本方法は、タンパク質凝集を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する化合物をさらに存在させて実施してもよい。
【0039】
本発明の別の目的は、タンパク質凝集の結果として起こる細胞の機能不全を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する方法である。本方法は、タンパク質凝集の結果として起こる細胞の機能不全を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する化合物をさらに存在させて実施してもよい。
【0040】
本発明の別の目的は、タンパク質凝集関連疾患を治療し、減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する方法である。タンパク質凝集関連疾患の例は、表1に記されている。本方法は、タンパク質凝集関連疾患を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する化合物をさらに存在させて実施してもよい。
【0041】
本発明の別の目的は、タンパク質凝集関連疾患の症候を治療し、減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する方法である。タンパク質凝集関連疾患の例は、表1に記されている。本方法は、タンパク質凝集関連疾患の症候を減少し、抑止し、緩和し、軽減し、又は抑制する化合物をさらに存在させて実施してもよい。
【発明の詳細な説明】
【0042】
基本的な技術を実施するための定義及び方法及び手段が記載された分子生物学の標準的なテキストを参考文献として援用し、本発明に包含する。例えば、「Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)」、「Current protocols in Molecular Biology, Ausebel et al (eds.), John Wiley & Sons, New York (2001)」及びこれらに引用されている様々な参考文献を参照されたい。
【0043】
本発明を実施又は試験する際に本明細書に記載されている方法及び材料と同様又は均等の方法及び材料を使用することができるが、本明細書には、適切な方法と材料が記載されている。本明細書に記述されている全ての文献、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、その全体を参考文献として援用する。抵触が生じる場合には、定義を含む本明細書が優越するものとする。さらに、材料、方法、及び実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。本発明は、torsinタンパク質及び該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。torsinタンパク質はヒトに存在することが知られており、C. elegansにも存在すると考えられている。これまで、torsinタンパク質の機能は全く不明であった。しかしながら、本発明によって、torsinタンパク質の少なくとも1つの機能がタンパク質凝集の抑制であることが確定された。ヒトtorsinタンパク質には、TOR1A及びTOR1Bという2つのタンパク質があり、C. elegansから得られるtorsinタンパク質には、TOR−1、TOR2、及びOOC−5という3つのタンパク質がある。
【0044】
本発明において、「単離された」又は「精製された」とは、その天然環境から分離されており、細胞抽出物に見出されることが多い他の夾雑タンパク質、ポリヌクレオチド、及び/又は他の生体物質も実質的に存在しないことを意味する。
【0045】
本発明において、概括して「ポリヌクレオチド」という場合には、ポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これらは非修飾RNA若しくはDNA又は修飾RNA若しくはDNAとすることができる。
【0046】
核酸配列に関して「実質的に〜からなる」とは、本明細書の以下の記述及び特許請求の範囲において、第三塩基の縮重についてヌクレオチドを置換することを意味するために使用する用語である。当業者であれば理解できるように、第三塩基の縮重のため、ほぼ全てのアミノ酸は、コーディングヌクレオチド配列中の2以上のトリプレットコドンによって表すことができる。さらに、塩基対の僅かな変化はコードされるアミノ酸配列に差異をもたらすことがあるが(保存的置換)、遺伝子産物の生物活性を実質的に変化させることはないと予想される。このため、本明細書に開示されているタンパク質又はペプチドをコードする核酸配列は、配列を僅かに改変してもよく(例えば、トリプレットコドン中のヌクレオチドの置換)、なお同一のアミノ酸配列を有するそれぞれの遺伝子産物をコードするようにすることができる。
【0047】
TOR−2のアミノ酸配列は配列番号2として示されており、TOR−2タンパク質をコードするゲノム配列は配列番号1として示されている。TOR−1のアミノ酸配列は配列番号4として示されており、TOR−1のタンパク質をコードするゲノム配列は配列番号3として示されている。OOC−5のアミノ酸配列は配列番号6として示されており、OOC−5タンパク質をコードするゲノム配列は配列番号5として示されている。TOR−Aのアミノ酸配列は配列番号8として示されており、TOR−Aタンパク質をコードするゲノム配列は配列番号7として示されている。TOR−Bのアミノ酸配列は配列番号10として示されており、TOR−Bのタンパク質をコードするゲノム配列は配列番号9として示されている。
【0048】
当業者であれば、ヒト以外の生物(例えば、真核生物、より具体的には、哺乳動物(好ましくは、ゴリラ、アカゲザル、及びチンパンジー)、げっ歯類、虫(worm)(好ましくは、C.elegans)、昆虫(好ましくは、D. melanogaster)、鳥、魚、酵母、及び植物)もtorsin遺伝子を含有しているものと思われることが理解できるであろう。本発明は、上記生物から単離されたtorsin核酸分子を含むが、これらに限定されない。
【0049】
本発明の単離された核酸分子には、化学的に合成された核酸分子も含まれるものとする。例えば、torsin遺伝子の発現産物をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子を設計し、必要であれば、さらに小さな適切な断片に分割することができる。次いで、前記核酸分子又は分割された各断片に対応するオリゴマーを合成することができる。このような合成オリゴヌクレオチドは、合成作業によって(Matteucci et al. , 1981, J Am. Chem. Soc. 103: 3185-3191)又は自動DNA合成装置を使用することによって、調製することができる。
【0050】
オリゴヌクレオチドは、合成によって又はクローニングによって取得することができる。必要であれば、オリゴヌクレオチドの5’末端は、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化することができる。オリゴヌクレオチドの5’末端のリン酸化は、例えば、5’末端に放射性同位体(一般には、32P)を付着させることによってオリゴヌクレオチドを標識する方法を与える。続いて、オリゴヌクレオチドは、T4リガーゼなどを用いたアニーリングやライゲーションに供することができる。
【0051】
torsin遺伝子又はその他の遺伝子を単離するためには、まず遺伝子ライブラリーを準備する。遺伝子ライブラリーの準備は、一般に知られたテキストやハンドブックに記載されている。Winnackerのテキスト:「Gene und Klone, Eine Einfuhrung in die Gentechnologie[Genes and Clones, An Introduction to Genetic Engineering](Verlag Chemie, Weinheim, Germany, 1990)」、又はSambrookらのハンドブック:「Molecular Cloning, A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)」を一例として挙げることができる。周知の遺伝子ライブラリーは、Koharaら(Cell 50,495-508(1987))によってλベクター中に設けられたE.coli K12株W3110の遺伝子ライブラリーである。
【0052】
E.coli中に遺伝子ライブラリーを調製するには、pBR322(Bolivar, 1979, Life Sciences, 25,807-818)又はpUC9(Vieira et al. , 1982, Gene, 19: 259-268)などのプラスミドを使用することも可能である。適切な宿主は、特に、DH5αmcr株などの制限欠損且つ組み換え欠損であるE. coli株であり、これは、Grantら(Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 87 (1990) 4645-4649)によって記載されている。
【0053】
コスミド又はその他のλベクターの補助によってクローニングされた長いDNA断片は、次いで、サブクローニングした後、例えばSangerら(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 74: 5463-5467,1977)によって記載されているものなどのDNA配列決定に適した通常のベクター中で配列を決定することができる。
【0054】
次いで、例えば、Staden(Nucleic Acids Research 14,217- 232 (1986))やMarck(Nucleic Acids Research 16,1829-1836 (1988))、又はButler(Methods of Biochemical Analysis 39,74-97 (1998))のGCGプログラムなどの既知のアルゴリズム又は配列解析プログラムを用いて、得られたDNA配列を調べることができる。
【0055】
配列番号2、4、6、8、及び10に関するtorsin遺伝子の新しいtorsin配列は、このようにして発見された本発明の構成要素である。さらに、対応するタンパク質のアミノ酸配列が、上述の方法によって本DNA配列から得られた。torsin遺伝子産物の得られたアミノ酸配列は、配列番号2、4、6、8及び10に示されている。
【0056】
配列番号1、3,5、7、及び9から遺伝コードの縮重によってもたらされるコーディングDNA配列も、本発明に属する。同様に、配列番号1、3、5、7、及び9又は配列番号1、3、5、7、及び9の一部とハイブリダイズするDNA配列も、本発明に属する。例えば、タンパク質中のグリシンをアラニンに又はアスパラギン酸をグルタミン酸に交換するような保存的なアミノ酸の交換は、タンパク質の活性に基本的な変化をもたらさず(すなわち、中立的に機能する)、当業者の間では「センス変異」として知られている。さらに、タンパク質のN末端及び/又はC末端上の変化は、タンパク質の機能を実質的に損なわないことがあり、場合によっては、タンパク質の機能を安定化させることがあることも知られている。当業者であれば、とりわけ、Ben−Bassatら(Journal of Bacteriology 169:751-757(1987))、O’Reganら(Gene 77:237-251(1989))、Sahin−Tothら(Protein Sciences 3:240-247(1994))、Hochuliら(Bio/Technology 6:1321-1325 (1988))及び遺伝学や分子生物学の公知のテキストに、この点に関する情報を見出すことができるであろう。配列番号2、4、6、8及び10にそれぞれ対応するアミノ酸配列も、本発明に属する。
【0057】
同様に、配列番号1、3、5,7、及び9又は配列番号1、3、5,7、及び9の一部とハイブリダイズするDNA配列は、本発明に属する。最後に、配列番号1、3、5,7、及び9から得られるプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって調製されるDNA配列は、本発明に属する。このようなオリゴヌクレオチドは、少なくとも15ヌクレオチドの長さを有するのが通例である。
【0058】
当業者であれば、ハイブリダイゼーションによってDNA配列を同定するための説明書を、とりわけ、Boehringer Mannheim GmbH(Mannheim,Germany,1993)の「The DIG System Users Guide for Filter Hybridization」及びLieblら(International Journal of Systematic Bacteriology 41:255-260(1991))に見出すことができる。ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で行われる。すなわち、プローブと標的配列(すなわち、プローブによって処理されるポリヌクレオチド)が少なくとも70%の同一性であるハイブリッドのみが形成される。洗浄工程を含むハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、緩衝液の組成、温度及び塩濃度を変化させることによって影響を受け又は決定されることが知られている。ハイブリダイゼーション反応は、洗浄工程と比べて相対的に低いストリンジェンシー下で実施するのが好ましい(Hybaid Hybridisation Guide, Hybaid Limited,Teddington, UK, 1996)。
【0059】
例えば、約50℃−68℃の温度の5×SSC緩衝液をハイブリダイゼーション反応に使用することができる。この場合、プローブの配列との同一性が70%に満たないポリヌクレオチドに、プローブがハイブリダイズすることもあり得る。このようなハイブリッドは安定性が劣るので、ストリンジェントな条件下で洗浄することによって除去される。これは、温度を約50℃−68℃に保ちながら、例えば、塩濃度を2×SSCに低下させた後、必要に応じて、0.5×SSCに低下させることによって行うことができる(The DIG System User’s Guide for Filter Hybridisation, Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany)。必要に応じて、0.1×SSCまで塩濃度を低下させることも可能である。例えば、用いたプローブの配列と少なくとも70%又は少なくとも80%又は少なくとも90%ないし95%同一であるポリヌクレオチド断片は、約1−2℃ごとに50℃から68℃までハイブリダイゼーション温度を段階的に増加させることによって単離することができる。さらに、ハイブリダイゼーションに関する説明書がいわゆるキットの形態で市販されている(例えば、DIG Easy Hyb from Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany, Catalogue n o.1603558)。
【0060】
当業者であれば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の補助によってDNA配列を増幅させる説明書が、とりわけ、「Gait: Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach (IRL Press, Oxford, UK, 1984)、及び「Newton and Graham: PCR (Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg, Germany, 1994)に記載されているのを見出すことができるであろう。
【0061】
「変異(mutation)」とは、娘細胞に伝達され、おそらくは次の世代にまで伝達されることができ、変異細胞又は変異個体を生じる遺伝物質中のあらゆる検出可能な変化である。多細胞生物中で変異細胞の子孫が体細胞のみに生じれば、細胞の変異点又は変異領域が生じる。有性的に生殖を行う生物の生殖系列中の変異は、配偶子によって次世代に伝達されて、その体細胞と生殖細胞の両者に新しい変異状態を有する個体が生じることがある。変異は、化学的又は物理的な構成、易変異性(mutability)、複製、表現型機能、又は1個以上のデオキシリボヌクレオチドの組換えに影響を与える天然に存在しない任意の検出可能な変化(又はその組み合わせ)であり得る。ヌクレオチドには、付加、欠失、置換、反転を施すことができ、又は反転させて及び反転させずに新しい位置に転位させることもできる。変異は自然に生じることもあり、変異誘発物質を用いることによって実験的に誘導することができる。核酸分子の変異的な変化は、突然変異によって生じる。変異ポリペプチドは変異核酸分子から生じることができ、野生型(天然に存在する)ポリペプチドから得られる1個以上のアミノ酸残基が修飾されたポリペプチドも表す。本明細書において使用される「変異」という用語は、ジストニアタンパク質をコードする核酸配列中に存在する任意の修飾を表すこともある。例えば、前記変異は、点変異又は付加、欠失、挿入及び/又は1個以上のヌクレオチドの置換又はこれらの任意の組み合わせであり得る。前記変異は、ミスセンス又はフレームシフト変異であり得る。修飾は、例えば、保存的又は非保存的とすることができ、天然のものでもよいし、非天然のものでもよい。
【0062】
タンパク質又はペプチドのアミノ酸配列に関して使用される「実質的に〜からなる」という用語は、本明細書の以下の記述及び特許請求の範囲において、タンパク質又はペプチドの三次構造が実質的に変化されないように、その配列中の1個以上のアミノ酸が保存的に置換又は修飾されることを意味する用語である。
【0063】
「保存的な置換」とは、上述の機能によって定義され、置換されたアミノ酸と実質的に同一の電荷、サイズ、親水性及び/又は芳香性を有するアミノ酸の置換が含まれる。当業者に公知であるこのような置換には、グリシン−アラニン−バリン:イソロイシン−ロイシン:トリプトファン−チロシン;アスパラギン酸−グルタミン酸;アルギニン−リジン;アスパラギン−グルタミン;及びセリン−スレオニンが含まれる。タンパク質又はペプチドのアミノ酸配列に関して使用される「修飾(modification)」とは、タンパク質又はペプチド配列のコンフォメーションを変化させず、従って生物学的活性も変化させない1個以上のアミノ酸の欠失として機能的に定義される。
【0064】
「発現ベクター」という用語は、本発明のtorsinタンパク質又はその断片をコードするポリヌクレオチドを表し、選択した宿主細胞におけるその発現に必要な配列を提供する。本発明の組換え宿主細胞は、組換えタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを産生させるためにインビトロに維持してもよい。同様に、前記組換え宿主細胞は、本発明の核酸セグメントを動物又はヒトに免疫化することによって得られるものなどのように、インビボで宿主細胞とすることができる。従って、前記組換え宿主細胞は、E.coli、Saccharomyces cerevisiae又はその他の酵母、哺乳類又はヒト宿主細胞などの原核細胞又は真核宿主細胞であり得る。発現ベクターには、転写プロモーターとターミネーターが含まれているか、内在性プロモーターに隣接して取り込まれるのが一般的である。発現ベクターは、複製起点と1個以上の選択可能なマーカーをさらに有するプラスミドであるのが通常であろう。しかし、これに代えて、発現ベクターは、宿主を感染させるように設計されたウイルス組換え体、又は宿主ゲノム内の好ましい部位に組み込まれるように設計された組み込みベクターとしてもよい。他の発現ベクターの例は、「Molecular Cloning: A Labratory Manual, Third Edition, Sambrook, Fritsch, and Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001」に開示されている。好ましい実施形態では、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするこれらのポリヌクレオチドは、torsin活性を有するタンパク質又はペプチドもコードする。
【0065】
本発明において、「torsin活性」には、タンパク質凝集を減少し、緩和し、抑止し、軽減し、阻害することが含まれる。
【0066】
本発明において、「torsin遺伝子」には、torsin活性を有するポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドが含まれる。
【0067】
本発明において、「torsin」タンパク質には、torsin活性を有する任意のポリペプチドが含まれる。
【0068】
共通アミノ酸が、本分野において一般的に知られている。本発明のペプチド中に含まれることがあるその他のアミノ酸には、L−ノルロイシン;アミノ酪酸;L−ホモフェニルアラニン;L−ノルバリン;D−アラニン;D−システイン;D−アスパラギン酸;D−グルタミン酸;D−フェニルアラニン;D−ヒスチジン;D−イソロイシン;D−リジン;D−ロイシン;D−メチオニン;D−アスパラギン;D−プロリン;D−グルタミン;D−アルギニン;D−セリン;D−スレオニン;D−バリン;D−トリプトファン;D−チロシン;D−オルニチン(D−omithine);アミノイソ酪酸;L−エチルグリシン;L−t−ブチルグリシン;ペニシラミン;I−ナフチルアラニン;シクロヘキシルアラニン;シクロペンチルアラニン;アミノシクロプロパンカルボキシレート;アミノノルボルニルカルボキシレート;L−α−メチルアラニン;L−α−メチルシステイン;L−α−メチルアスパラギン酸;L−α−メチルグルタミン酸;L−α−メチルフェニルアラニン;L−α−メチルヒスチジン;L−α−メチルイソロイシン;L−α−メチルリジン;L−α−メチルロイシン;L−α−メチルメチオニン;L−α−メチルアスパラギン;L−α−メチルプロリン;L−α−メチルグルタミン;L−α−メチルアルギニン;L−α−メチルセリン;L−α−メチルスレオニン;L−α−メチルバリン;L−α−メチルトリプトファン;L−α−メチルチロシン;L−α−メチルオルニチン;L−a−メチルノルロイシン;アミノ−α−メチル酪酸;L−α−メチルノルバリン;L−α−メチルホモフェニルアラニン;L−α−メチルエチルグリシン;メチル−α−アミノ酪酸;メチルアミノイソ酪酸;L−α−メチル−t−ブチルグリシン;メチルペニシラミン;メチル−α−ナフチルアラニン;メチルシクロヘキシルアラニン;メチルシクロペンチルアラニン;D−α−メチルアラニン;D−α−メチルオルニチン;D−α−メチルシステイン;D−α−メチルアスパラギン酸;D−α−メチルグルタミン酸;D−α−メチルフェニルアラニン;D−α−メチルヒスチジン;D−α−メチルイソロイシン;D−α−メチルリジン;D−α−メチルロイシン;D−α−メチルメチオニン;D−□−メチルアスパラギン;D−α−メチルプロリン;D−α−メチルグルタミン;D−α−メチルアルギニン;D−α−メチルセリン;D−α−メチルスレオニン;D−α−メチルバリン;D−α−メチルトリプトファン;D−α−メチルチロシン;L−N−メチルアラニン;L−N−メチルシステイン;L−N−メチルアスパラギン酸;L−N−メチルグルタミン酸;L−N−メチルフェニルアラニン;L−N−メチルヒスチジン;L−N−メチルイソロイシン;L−N−メチルリジン;L−N−メチルロイシン;L−N−メチルメチオニン;L−N−メチルアスパラギン;N−メチルシクロヘキシルアラニン;L−N−メチルグルタミン;L−N−メチルアルギニン;L−N−メチルセリン;L−N−メチルスレオニン;L−N−メチルバリン;L−N−メチルトリプトファン;L−N−メチルチロシン;L−N−メチルオルニチン;L−N−メチルノルロイシン;N−アミノ−α−メチル酪酸;L−N−メチルノルバリン;L−N−メチルホモフェニルアラニン;L−N−メチルエチルグリシン;N−メチル−γアミノ酪酸;N−メチルシクロペンチルアラニン;L−N−メチル−t−ブチルグリシン;N−メチルペニシラミン;N−メチル−a−ナフチルアラニン;N−メチルアミノイソ酪酸;N−(2−アミノエチル)グリシン;D−N−メチルアラニン;D−N−メチルオルニチン;D−N−メチルシステイン;D−N−メチルアスパラギン酸;D−N−メチルグルタミン酸;D−N−メチルフェニルアラニン;D−N−メチルヒスチジン;D−N−メチルイソロイシン;D−N−メチルリジン;D−N−メチルロイシン;D−N−メチルメチオニン;D−N−メチルアスパラギン;D−N−メチルプロリン;D−N−メチルグルタミン;D−N−メチルアルギニン;D−N−メチルセリン;D−N−メチルスレオニン;D−N−メチルバリン;D−N−メチルトリプトファン;D−N−メチルチロシン;N−メチルグリシン;N−(カルボキシメチル)グリシン;N−(2−カルボキシエチル)グリシン;N−ベンジルグリシン;N−(イミダゾリルエチル)グリシン;N−(1−メチルプロピル)グリシン;N−(4−アミノブチル)グリシン;N−(2−メチルプロピル)グリシン;N−(2−メチルチオエチル)グリシン;N−(ヒドロキシエチル)グリシン;N−(カルバミルメチル)グリシン;N−(2−カルバミルエチル)グリシン;N−(1−メチルエチル)グリシン;N−(3−グアニジノプロピル)グリシン;N−(3−インドリルエチル)グリシン;N−(p−ヒドロキシフェネチル)グリシン;N−(1−ヒドロキシエチル)グリシン;N−(チオメチル)グリシン;N−(3−アミノプロピル)グリシン;N−シクロプロピルグリシン;N−シクロブチルグリシン(cyclobutyglycine);N−シクロヘキシルグリシン;N−シクロヘプチルグリシン;N−シクロオクチルグリシン;N−シクロデシルグリシン;N−シクロウンデシルグリシン;N−シクロドデシルグリシン;N−(2,2−ジフェニルエチル)グリシン;N−(3,3−ジフェニルプロピル)グリシン;N−(N−(2,2−ジフェニルエチル)カルバミルメチル)グリシン;N−(N−(3,3−ジフェニルプロピル)カルバミルメチル)グリシン;及び1−カルボキシ−1−(2,2−ジフェニルエチルアミノ)シクロプロパンなどがある。
【0069】
そのアミノ酸配列が本発明によって開示されているので、本発明のTOR−1及びTOR−2タンパク質又はその断片は、その配列に基づいて、公知の化学合成法(例えば、液相合成法、固相合成法、及びその他の方法;Izumiya,N.,Kato,T.,Aoyagi,H.,Waki,M.,“Basis and Experiments of Peptide Synthesis”, 1985, Maruzen Co., Ltd.)によって作製することができる。ペプチド合成は、約100アミノ酸以下のさらに短いペプチド断片に対して実施するのが通例である。
【0070】
本発明のTOR−1及びTOR−2タンパク質又はその断片は、保護されたアミノ酸残基を1個以上含有することができる。保護されたアミノ酸とは、公知の方法によって、その一又は複数の官能基が一又は複数の保護基によって保護されたアミノ酸であり、様々な保護されたアミノ酸が市販されている。
【0071】
本発明のTOR−1及びTOR−2タンパク質又はその断片は、グリコシル化された形態で与えることもできるし、グリコシル化されていない形態で与えることもできる。グリコシル化されたTOR−及びTOR−2タンパク質又はその断片の調製は本分野において公知であり、典型的には、真核細胞中で本ペプチドをコードする組換えDNAを発現させることによって行われる。同様に、グリコシル化されていないペプチドを得るために、原核(例えば、細菌)細胞中で、ペプチドをコードする組換えDNAを発現させることも、本分野において一般的に知られている。糖タンパク質上の炭水化物部分を変化させるこれらの方法やその他の方法は、とりわけ、「Essentials of Glycobiology(1999), Edited By Ajit Varki, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York」(参考文献として、その内容を本明細書に援用する。)に記載されている。
【0072】
あるいは、本発明のTOR−1とTOR−2タンパク質又はその断片は、本発明のTOR−1とTOR−2タンパク質又はその断片のアミノ酸配列に対応するポリヌクレオチド(DNA又はRNA)を作製し、該ポリヌクレオチドを用いた遺伝子工学的技術によってTOR−1とTOR−2タンパク質又はその断片を作製することによって、作製することができる。アミノ酸残基に対するポリヌクレオチドコーディング配列は本分野において公知であり、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Sambrook, Fritsch, and Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001」に開示されている。
【0073】
別の実施形態において、本発明は、torsinタンパク質又はその機能的な誘導体に対応するアミノ酸配列を有する精製されたポリペプチド(好ましくは、実質的に純粋な)に関する。好ましい実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、及び10に記載されたアミノ酸配列又はその変異体又はその種変形物(species variation)、又はこれらと少なくとも70%の同一性、さらには少なくとも80%の同一性、さらには少なくとも90%の同一性(好ましくは、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性、又は少なくともそれらと95%、96%、97%、98%、又は99%の類似性)を有するアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくとも6つの連続したアミノ酸(好ましくは、少なくとも10、15、20、25、又は50の連続するアミノ酸)を有する。
【0074】
好ましい実施形態において、本発明は、torsinエピトープに関する。これらのポリペプチドのエピトープは、免疫原性又は抗原性エピトープである。免疫原性エピトープとは、タンパク質全体が免疫原となる場合に、抗体反応を惹起する当該タンパク質の部分をいう。抗原性エピトープとは、抗体反応を惹起することができるタンパク質の断片をいう。抗原性エピトープ断片を選択する方法は、本分野において周知である(Sutcliffe et al., 1983, Science 219: 660-666)。抗原性エピトープを有する本発明のペプチド及びポリペプチドは、ポリペプチドを特異的に認識する免疫反応を誘発するのに有用である。抗原性エピトープを有する本発明のペプチド及びポリペプチドは、前記タンパク質の少なくとも7つのアミノ酸(好ましくは、9.10、12、15又は20アミノ酸)を備える。
【0075】
torsinのアミノ酸配列バリアントは、DNA中の変異によって調製することができる。このようなバリアントには、例えば、配列番号2、4、6、8、及び10に示されたアミノ酸配列内の残基に、例えば、欠失、又は挿入又は置換を含む。最終構築物が所望の活性を保有している限り、最終構築物に到達するために、欠失、挿入、及び置換を任意に組み合わせることもできる。
【0076】
アミノ酸配列の変化を導入する部位が予め決められている場合には、変異自体を予め決める必要はない。例えば、あるポリペプチドの性能を所望の活性について最適化するために、該ポリペプチドの標的コドン又は領域にランダムな突然変異誘発を実施し、発現されたバリアントを最適な所望の活性についてスクリーニングすることができる。既知の配列を有するDNAの所定部位に置換変異を行う技術(例えば、部位特異的変異誘発)は、周知である。
【0077】
このようなtorsinバリアントの調製は、予め調製したタンパク質のバリアント又は非バリアント様式をコードするDNAを部位特異的突然変異誘発によって行うのが好ましい。部位特異的突然変異誘発は、所望の変異を有するDNA配列をコードする特異的なオリゴヌクレオチド配列を使用することによって、torsinバリアントを生成することができる。一般に、部位特異的突然変異誘発の技術は、本分野において周知である(Adelman et al., 1983, DNA 2: 183; Ausubel, et al., In: Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, (1998))。
【0078】
アミノ酸配列の欠失は、一般に、約1乃至30残基、より好ましくは1乃至10残基の範囲にある。
【0079】
アミノ酸配列の挿入には、1残基から実質的に長さに制約のないポリペプチドまでをアミノ末端及び/又はカルボキシル末端に融合させること、並びに単一又は複数のアミノ酸残基を配列内に挿入することが含まれる。配列内挿入(すなわち、完全なtorsin配列内への挿入)は、一般的には約1乃至10残基、より好ましくは1乃至5残基の範囲とすることができる。
【0080】
バリアントの第三グループは、torsin分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基、好ましくはただ一つの残基が除去され、その代わりに異なる残基が挿入されたバリアントである。
【0081】
保存度がさらに低い置換を選択することによって、すなわち、a)置換領域中のポリペプチド骨格の構造(例えば、シート又はヘリックスコンフォメーションとして)、b)分子の標的部位における電荷又は疎水性、又はc)側鎖の嵩高さの維持に対する残基の効果をさらに著しく異ならせる残基を選択することによって、機能的な同一性又は免疫学的な同一性は大きく変化する。一般に想定される置換は、a)グリシン及び/又はプロリンを別のアミノ酸によって置換し、又はグリシン及び/又はプロリンを欠失させ若しくは挿入する;b)親水性残基(例えば、セリン残基又はスレオニル残基)を疎水性残基(例えば、ロイシン残基、イソロイシン残基、フェニルアラニン残基、バリン残基、又はアラニン残基)に置換する;c)システイン残基を他の任意の残基に置換する;d)正電荷側鎖を有する残基(例えば、リジン残基、アルギニン残基、又はヒスチジン残基)を、陰電荷を有する残基(例えば、グルタミン酸残基又はアスパラギン酸残基)に置換する;又はe)嵩高い側鎖を有する残基(例えば、フェニルアラニン)を、嵩高い側鎖を持たない残基(例えば、グリシン)に置換することである。
【0082】
欠失、挿入及び置換の中には、torsinの特性を大幅に変化させないと予測されるものもある。しかしながら、欠失、挿入又は置換の正確な効果を予め予測することは困難であり、当業者であれば、生化学的アッセイやインビボスクリーニングアッセイによってその効果を評価できることを理解できるであろう。例えば、torsinをコードするネイティブ核酸に部位特異的変異誘発を施し、細胞培養中でバリアント核酸を発現させ、必要に応じて、例えば、(バリアントの少なくとも1つの免疫エピトープを結合することにより、バリアントを吸収するために)カラム上で免疫アフィニティー吸着させることによって細胞培養から精製することにより、バリアントを作製するのが通例である。次いで、所望の特性について適切なスクリーニングアッセイを行うことによって、細胞培養可溶化液又は精製されたtorsinバリアントの活性をスクリーニングする。例えば、torsin分子の免疫学的特性(ある抗体に対する親和性)の変化は、拮抗型のイムノアッセイによって測定することができる。イムノモジュレーション活性の変化は、適切なアッセイによって測定することができる。酸化還元若しくは熱的安定性、酵素活性、疎水性、タンパク分解の受けやすさ又は担体と凝集する傾向若しくは凝集してマルチマーになる傾向などのタンパク質特性の修飾は、当業者に周知の方法によってアッセイされる。
【0083】
本発明のポリペプチドを取得するために、本分野において公知である様々な方法を使用することができる。ある実施形態では、前記ポリペプチドは該ペプチドを天然に産生する組織又は細胞から精製される。あるいは、上記単離された核酸断片は、任意の生物中でtorsinタンパク質を発現させるために使用することができる。
【0084】
本発明の試料には、細胞、タンパク質抽出物又は細胞の膜抽出物又は生体液が含まれる。前記試料は、アッセイの様式、検出法、試料として使用する組織、細胞又は抽出物の性質に基づいて変化するであろう。取得源となる生物がこのようなペプチドを天然に含有している限り、本発明のポリペプチドの取得源として任意の生物を使用することができる。本明細書において使用する「取得源生物」とは、ポリペプチドがその生物中に発現されているか、その生物から最終的に単離されたかどうかにかかわらず、ポリペプチドのアミノ酸配列が取得された元の生物を意味する。
【0085】
当業者であれば、天然の夾雑物が存在しないポリペプチドを得るために、タンパク質を単離する公知の方法を容易に実行することができるであろう。これらには、イムノクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、非クロマトグラフィー分離法が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
好ましい実施形態において、前記精製操作には、イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる。例えば、monoQ、Sepharose−Q、macro−prepQ、AG1−X2、又はHQなどの本分野において公知である多数のイオン交換樹脂の何れを使用してもよい。適切なサイズ排除樹脂の例には、Superdex 200、Superose 12、及びSephycryl 200が含まれるが、これらに限定されるものではない。溶出は、濃度が0.01M乃至2.0Mで、pHが幅広い範囲にわたる塩化カリウム又は塩化ナトリウムの水溶液を用いて行うことができる。
【0087】
別の実施形態では、本発明は、試料中のtorsin核酸の存在を特異的に検出するための核酸プローブであって、ストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下でtorsin核酸にハイブリダイズする上記核酸分子又は少なくともその断片を備えた核酸プローブに関する。
【0088】
好ましい一実施形態において、本発明は、torsin RNA又はDNAに優先的にハイブリダイズする10乃至1000ヌクレオチド(好ましくは、10乃至500、10乃至100、10乃至50、10乃至35、20乃至1000、20乃至500、20乃至100、20乃至50、又は20乃至35)からなる単離された核酸プローブであって、torsinポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(例えば、配列番号2、4、6、8、及び10に記載されている配列);上記ヌクレオチド配列の何れかに相補的なヌクレオチド配列;先述されている任意のヌクレオチド配列のうち1個以上に少なくとも90%同一のポリヌクレオチド配列を有する核酸分子に由来する少なくとも10個の連続したヌクレオチド(好ましくは、15、18、20、25、又は30)からなるヌクレオチド配列である又は該ヌクレオチド配列に相補的である、核酸プローブに関する。
【0089】
前記核酸プローブは、通常のハイブリダイゼーション法によって適切な染色体ライブラリー又はcDNAライブラリーをプローブし、本発明の別の核酸分子を得るために使用することができる。染色体DNAライブラリー又はcDNAライブラリーは、本分野で認められた方法によって適切な細胞から調製することができる(Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., 1989, In: Molecular Cloning. A Laboratory Manual. , Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor)。
【0090】
あるいは、torsinアミノ酸配列のN末端及びC末端部分に対応するヌクレオチド配列を有する核酸プローブを得るために、化学合成を実施する。このように、合成された核酸プローブは、本発明の断片を取得するために適切な染色体、cDNA又は細胞株ライブラリーを利用する認知されたPCR技術(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, edited by Michael et al., Academic Press, 1990)に従って行われるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)におけるプライマーとして使用することができる。
【0091】
本発明のハイブリダイゼーションプローブは、放射性標識、蛍光標識、ビオチン−アビジン標識、化学発光などを用いた標準的な標識技術によって、検出のために標識することができる。ハイブリダイゼーションの後、プローブは、公知の方法を用いて可視化することができる。
【0092】
本発明の核酸プローブには、RNAとDNAプローブが含まれ、このようなプローブは本分野において公知の技術を用いて作製される。
【0093】
上述した方法の一実施形態において、核酸プローブは固相支持体上に固定化される。このような固相支持体の例には、ポリカーボネートなどのプラスチック、アガロースやセファロースなどの複合糖質、ポリアクリルアミドやラッテクスビーズなどのアクリル樹脂が含まれるが、これらに限定されるものではない。核酸プローブをこのような固相支持体にカップルさせる技術は、本分野において周知である。
【0094】
本発明の核酸プロービング法に適した被検試料としては、例えば、細胞又は細胞の核酸抽出物又は生体液が含まれる。
【0095】
前記方法で使用される試料は、アッセイ様式、検出法、アッセイに使用される組織、細胞又は抽出液の性状に応じて変わるであろう。細胞の核酸抽出物を調製する方法は本分野において周知であり、用いる方法に適した試料を得るために容易に適合させることができる。
【0096】
別の実施形態において、本発明は、ハイブリダイゼーションが起こる特異的なハイブリダイゼーション条件下で上記核酸プローブに試料を接触させ、核酸分子に結合したプローブの存在を検出することによって、試料中のtorsin核酸の存在を検出する方法に関する。当業者であれば、上述されている本分野で公知の技術に従って、核酸プローブを選択することができるであろう。検査すべき試料には、ヒト組織から得たRNA又はDNA試料が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
別の実施形態では、本発明は、試料中に存在するtorsin核酸を検出するためのキットに関する。該キットは、その中に上記核酸プローブが配置された少なくとも1つの容器を備える。好ましい実施形態において、前記キットは、さらに、洗浄試薬及び/又はハイブリダイズした核酸プローブの存在を検出することができる試薬を有する別の容器を備える。検出試薬の例には、放射性標識されたプローブ、酵素プローブ(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、及びアフィニティー標識されたプローブ(ビオチン、アビジン又はストレプトアビジン)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
詳細には、区画化されたキット(compartmentalized kit)には、試薬が別々の容器に含有されたあらゆるキットが含まれる。このような容器には、小さなガラス容器、プラスチック容器又はプラスチック片若しくは紙片が含まれる。このような容器によって、試料と試薬が交差汚染されず、且つ各容器の物質又は溶液がある区画から別の区画へと定量的に添加できるように、ある区画から別の区画へ試薬を効率的に移すことが可能となる。このような容器には、被検試料を入れる容器、前記アッセイで使用されるプローブ又はプライマーを含有する容器、洗浄試薬(リン酸塩で緩衝化された生理的食塩水、Tris緩衝液など)を含有する容器、ハイブリダイズされたプローブ、結合された抗体、増幅された産物などを検出するために使用される試薬を含有する容器が含まれる。
【0099】
当業者であれば、本分野で周知の確立されたキット様式の1つに、本発明に記載されている核酸プローブを容易に取り込ませ得ることが容易に理解できるであろう。
【0100】
別の実施形態では、本発明は、宿主細胞中で転写を開始させるのに有効なプロモーターを5’から3’方向に備え、且つ上記核酸分子を備えたDNA分子に関する。別の実施形態では、本発明は、ベクターと上記核酸分子とを備えた組換えDNA分子に関する。
【0101】
別の実施形態では、本発明は、細胞中で機能する転写制御領域と、上記ポリペプチドに対応するアミノ酸配列をコードするRNA配列に相補的な配列と、前記細胞中で機能する転写終結領域と、を備えた核酸分子に関する。
【0102】
好ましくは、上記分子は単離されたDNA分子及び/又は精製されたDNA分子である。
【0103】
別の実施形態では、本発明は上記核酸分子を含有する細胞又はヒト以外の生物に関する。
【0104】
別の実施形態では、前記ペプチドは、該ペプチドを発現するように改変された細胞から精製される。
【0105】
本明細書において使用する場合、本来産生しないタンパク質や当該細胞が本来低レベルでしか産生しないタンパク質を、遺伝子操作によって、細胞が産生するようにした場合に、細胞が「所望のペプチドを発現するように改変された」という。当業者であれば、ゲノム、cDNA、又は合成配列を真核細胞又は原核細胞の何れかに導入し、発現させるための操作を容易に適合させることができるであろう。
【0106】
DNAなどの核酸分子は、転写及び翻訳制御情報を含有するヌクレオチド配列を含有している場合に、ポリペプチドを「発現できる」と称され、このような配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「作動可能に連結されている」とされる。作動可能な連結とは、制御DNA配列と発現させるべきDNA配列とが、遺伝子発現が可能になるように接続されている連結をいう。遺伝子発現に必要とされる制御領域の正確な性質は、生物ごとに変わり得るが、例えば、原核細胞においては、RNA転写の開始を誘導するプロモーターとRNAに転写されたときに翻訳開始のシグナルを与えるDNA配列とをともに含有するプロモーター領域を含むのが一般的といえる。このような領域は、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの転写及び翻訳の開始に関与する5’非コード配列が含まれるのが通常である。
【0107】
所望であれば、torsinコーディング配列の3’に位置する非コーディング領域を上記方法によって取得することができる。終結シグナルやポリアデニル化シグナルのような転写終結制御配列を与えるために、該領域を保持させることができる。このように、torsin遺伝子をコードするDNA配列に自然の状態で隣接した3’領域を保持することによって、転写終結シグナルが与えられる。転写終結シグナルは、発現宿主細胞中では機能しないので、宿主配列に由来する機能的な3’領域を置換することができる。
【0108】
2つのDNA配列間の連結の性質が(1)フレームシフト変異の導入をもたらさない、(2)torsinコーディング配列の転写を誘導する前記プロモーター領域の能力を妨害しない、又は(3)プロモーターによって転写すべきtorsinコーディング配列の能力を妨害しなければ、2つのDNA配列(プロモーター領域配列やtorsinコーディング配列など)は、作動可能に連結されているといわれる。このため、プロモーター領域がDNA配列を転写させることができれば、プロモーター領域はこのDNA配列に作動可能に連結されていることになるであろう。
【0109】
本発明は、原核細胞又は真核細胞の何れかにおけるtorsinコーディング配列(又はその機能的な誘導体)の発現を包含する。一般に、組換えタンパク質を産生させるには、原核細胞宿主が最も効率的且つ便利である。最も多用される原核細胞はE.coliの様々な株であるが、Bacillus、Streptomyces、Pseudomonas、Salmonella、Serratiaなどの細菌群に属するその他の細菌株など、他の微生物株を使用することも可能である。原核細胞系では、宿主に適合的な種に由来する複製部位と調節配列とを含有するプラスミドベクターを使用することができる。適切なプラスミドベクターの例には、pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119などが含まれ、適切なファージ又はバクテリオファージベクターには、λgt10、λgt11などが含まれる。真核細胞発現系の場合、適切なウイルスベクターには、pMAM−neo、pKRCなどが含まれる。本発明の選択されたベクターは、選択された宿主細胞中で複製できることが好ましい。
【0110】
原核細胞中でtorsinを発現させるためには、torsinコーディング配列を機能的な原核細胞プロモーターに作動可能に連結することが必要である。このようなプロモーターは、構成的なプロモーターとすることができるが、より好ましくは、制御可能(すなわち、誘導可能又は活性化可能)なプロモーターとすることができる。構成的プロモーターの例には、バクテリオファージλのプロモーター、βラクタマーゼ遺伝子のblaプロモーター、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子のCATプロモーターなどが含まれる。誘導可能な原核細胞プロモーターの例には、バクテリオファージλの主要右方向及び左方向プロモーター(PとP)、trp、recA、lacZ、lacI、E.coliのgalプロモーター、B.subtilisのα−アミラーゼ(Ulmanen et al., 1985, J. Bacteriol. 162:176-182)及びζ−28特異的プロモーター(Gilman et al., 1984, Gene sequence 32: 11-20)、B.subtilisのバクテリオファージのプロモーター(Gryczan, In:The Molecular Biology of the Bacilli, Academic Press, Inc., N.Y. (1982))、ストレプトマイセスのプロモーター(Ward, et al., 1986, Mol. Gen. Genet. 203:468-478)が含まれる。
【0111】
原核細胞中で適切に発現させるには、遺伝子配列をコードする配列の上流にリボソーム結合部位が存在することも必要である(Gold et al.,1981, Ann. Rev. Microbiol. 35: 365-404)。
【0112】
調節配列、発現ベクター、形質転換法などの選択は、遺伝子を発現させるために使用される宿主細胞の種類に依存する。「形質転換体」又は「形質転換された細胞」という用語には、転移の数にかかわらず、初代対象細胞及び該細胞から得られた培養が含まれる。意図的又は偶発的な変異によって、全ての子孫のDNA内容が正確に同一でないことがあり得ることも明らかであろう。しかしながら、先述のように、変異体子孫は、最初に形質転換された細胞と同一の機能を有する。
【0113】
目的とするtorsinペプチドの発現に使用するのに適していれば、本発明の発現系に使用できる宿主細胞は、厳格に制約されるわけではない。適切な宿主には、真核細胞が含まれる。好ましい真核細胞宿主には、例えば、インビボ又は組織培養された酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳類細胞が含まれる。好ましい哺乳類細胞には、HeLa細胞、VERO又はCHO−K1などの繊維芽細胞由来の細胞、又はリンパ系由来の細胞及びそれらから誘導される細胞が含まれる。
【0114】
さらに、植物細胞を宿主として使用することも可能であり、カリフラワーモザイクウイルス35Sと19S、ノパリンシンターゼプロモーター及びポリアデニル化シグナル配列などの植物細胞に適合的な調節配列を利用できる。
【0115】
別の好ましい宿主は、昆虫細胞、例えば、Drosophila melanogasterの幼虫である。昆虫細胞を宿主として使用する場合、Drosophilaのアルコール脱水素酵素プロモーターを使用することができる(Rubin, 1988, Science. 240:1453-1459)。あるいは、バキュロウイルスベクターは、昆虫細胞中でtorsinタンパク質を大量に発現するように加工することができる(Jasny, 1987, Science. 238:1653; Miller et al., In: Genetic Engineering (1986), Setlow, J. K., et al., Eds., Plenum, Vol. 8, pp.277-297)。
【0116】
宿主細胞の別の例は、C.elegans内の細胞である。C.elegans内での発現を調節する例には、RNA干渉(RNAi)が含まれる。Fireらは、発現させるべき遺伝子のポリヌクレオチドと類似のC.elegansポリヌクレオチドを与えると、遺伝子の発現を弱めることができることを記載している。文献には、RNAiを通じて遺伝子の発現を調節するために多くの方法を記載した参考文献が数多く存在する(例えば、米国特許第6,355,415号、第6,326,193号、第6,278,039号、第6,274,630号、第6,266,560号、第6,255,071号、第6,190,867号、第6,025,192号、第5,837,503号、第5,726,299、第5,714,323号、第5,693,781号、第5,616,459号、第5,565,333号、第5,418,149号、第5,198,346号、第5,096,815号、及び第5,015,573号を参照)。
【0117】
異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳及び翻訳後プロセッシングと修飾(例えば、グリコシル化や切断)について特徴的で特異的な機構を有している。発現される外来タンパク質に所望の修飾が行われるのを確保するために、適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。
【0118】
解糖酵素をコードする活発に発現された遺伝子配列から得られるプロモーターとターミネーション要素を取り込んだ一連の酵母遺伝子発現系のうちあらゆるのものを利用することができる。これらの酵素は、グルコースが豊富な培地中で酵母を増殖させたときに、大量に産生される。公知の解糖遺伝子配列は、極めて効率的な転写調節シグナルを与えることもできる。
【0119】
酵母は、翻訳後ペプチド修飾を行うことができる点で、原核細胞に比べて非常に有利である。酵母で所望のタンパク質を産生させるために使用できる強力なプロモーター配列と高コピー数のプラスミドとを利用する組換えDNA法が数多く存在する。酵母は、クローニングされた哺乳類の遺伝子産物上に存在するリーダー配列を認識し、リーダー配列を有するペプチド(すなわち、プレペプチド)を分泌する。
【0120】
哺乳類宿主の場合、torsinを発現させるために、幾つかのベクター系を使用することができるであろう。宿主の性状に応じて、広範な転写及び翻訳制御配列を利用することができる。前記転写及び翻訳制御シグナルは、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サルウイルスなどのウイルス源から取得することができ、制御シグナルは、高い発現レベルを有する遺伝子に随伴される。あるいは、アクチン、コラーゲン、ミオシンなどの哺乳類の発現産物から得られたプロモーターを利用することも可能である。遺伝子配列の発現がモジュレートできるように、抑制又は活性化を可能とする転写開始制御シグナルを選択してもよい。温度を変動させることによって発現を抑制又は開始させ得る温度感受性の制御シグナルや化学的(代謝物など)制御に供される制御シグナルに興味がもたれる。
【0121】
真核生物宿主中でのtorsinの発現には、真核細胞の制御領域を使用する必要がある。このような領域には、一般に、RNA合成の開始を誘導するのに十分なプロモーター領域が含まれているであろう。好ましい真核生物プロモーターとしては、例えば、マウスメタロチオネインI遺伝子配列のプロモーター(Hamer, et al.,1982, J. Mol. Appl. Gen. 1: 273-288);ヘルペスウイルスのTKプロモーター(McKngiht, 1982, Cell.31:355−365);SV40初期プロモーター(Benoist, et al., 1981,Nature.290:304-310);;酵母gal4遺伝子プロモーター(Johnston, et al., 1982, Proc. Nat. Acad Sci. USA 79:6971-6975; Silver, et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 595 1 5955)、及びCMV前初期遺伝子プロモーター(Thomsen, et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 659-663)などがある。
【0122】
広く知られているように、真核生物のmRNAの翻訳は、メチオニンをコードするコドンから開始される。このため、真核生物のプロモーターとtorsinコーディング配列との間の連結に、メチオニンをコードすることができるコドン(すなわち、AUG)が一切介在されないようにすることが好ましい。このようなコドンの存在は、融合タンパク質(AUGコドンがtorsinコーディング配列と同一のリーディングフレーム中に存在する場合)又はフレームシフト変異(AUGコドンがtorsinコーディング配列と同一のリーディングフレーム中に存在しない場合)を生じさせる。
【0123】
torsin核酸分子と作動可能に連結されたプロモーターとは、非複製DNA(又はRNA)分子として(直鎖分子であってもよいし、さらに好ましくは閉環した共有結合の環状分子であってもよい)、レシピエント原核細胞又は真核細胞中に導入することができる。このような分子には自己複製能がないので、導入された配列の一過性発現を通じて、遺伝子を発現させることができる。あるいは、導入されたDNA配列を宿主染色体中に組み込むことによって、恒久的に発現させることもできる。
【0124】
一実施形態では、所望の遺伝子配列を宿主細胞の染色体中に組み込むことができるベクターが使用される。その染色体中に前記導入されたDNAが安定に組み込まれた細胞は、発現ベクターを含有する宿主細胞を選択できる一個以上のマーカーに基づいて選択することができる。このようなマーカーは、例えば、栄養要求性宿主を独立栄養性宿主にしたり、例えば抗生物質や(銅などによる)重金属毒性に対する殺生剤耐性を与えたりすることができる。選択可能なマーカー遺伝子配列は、発現させるべきDNA遺伝子のベクター上に含有させることもできるし、共トランスフェクションによって同一細胞中に導入することもできる。mRNA合成を最適化するためには、さらに要素が必要となることがあり得るかもしれない。これらの要素としては、スプライスシグナルの他、転写プロモーター、エンハンサーシグナル配列、及び終結シグナルなどがあり得る。このような要素を取り込んだcDNA発現ベクターが記載されている(Okayama, 1983, Molec. Cell Biol. 3:280)。
【0125】
好ましい実施形態において、導入された核酸分子は、レシピエント宿主中で自己複製できるプラスミド又はウイルスベクター中に取り込まれるであろう。様々なベクターのうち任意のものを、この目的のために使用することができる。あるプラスミドベクター又はウイルスベクターを選択する上で重要な要素としては、ベクターを含有するレシピエント細胞を容易に認識して、ベクターを含有していないレシピエント細胞から選択できること、宿主細胞中に存在するベクターのコピー数が所望のコピー数であること、種が異なる宿主細胞の間(すなわち、哺乳類細胞と細菌の間)をベクターに「行き来」させる能力があること、が挙げられる。好ましい原核細胞ベクターには、E.Coli中で複製可能なプラスミドが含まれる(例えば、pBR322,Co1E1、pSC101、pACYC 184、.pi.VX)。このようなプラスミドは、当業者に一般に知られている(Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. , 1989, In: Molecular Cloning. A Laboratory Manual. , Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor)。B.subtilis由来のプラスミドには、pC194、pC221、pT127などが含まれる(Gryczan, In: The Molecular Biology of the Bacilli, Academic Press, NY (1982), pp. 307-329)。適切なStreptomycesプラスミドには、pIJ101(Kendall, et al., 1987, J. Bacteriol. 169: 4177-4183)、及びφC31などのstreptomycesバクテオリオファージがある(Chater, et al. , In: Sixth International Symposium on Actinomycetales Biology, Akademiai Kaido, Budapest, Hungary (1986), pp. 45-54)。Pseudomonasプラスミドも記載されている(John, et al., 1986, Rev. Infect. Dis. 8: 693-704; Izaki, 1978, Jpn. J Bacteriol. 33: 729- 742)。
【0126】
好ましい真核生物プラスミドには、例えば、BPV、ワクシニア、SV40、2μサークルなど、又はそれらの誘導物が含まれる。このようなプラスミドは、本分野では周知である(Botstein, et al., 1982, Miami Wntr. Symp. 19: 265-274; Broach, In: The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces: Life Cycle and Inheritance, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y., p.445-470 (1981); Broach, 1982, Cell. 28:203- 204; Bollon, et al, 1980, J. Clin. Hematol. Oncol. 10: 39-48; Maniatis, In: Cell Biology: A Comprehensive Treatise, Vol. 3, Gene Sequence Expression, Academic Press, NY, pp. 563-608 (1980))。
【0127】
構築物を含有するベクター又は核酸分子を発現させる準備が整ったら、様々な適宜の手段(すなわち、形質転換、トランスフェクション、リポフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト、融合、電気穿孔、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈降、直接的なマイクロインジェクションなど)のうち何れかによって、適切な宿主細胞中に前記DNA構築物を導入することができる。ベクターを導入した後に、ベクターを含有する細胞の選択を可能とする選択培地中でレシピエント細胞を増殖させる。クローニングされた遺伝子を発現させると、torsinが産生される。これは、形質転換された細胞中でそのまま起こることも場合もあり、あるいは、(例えば、神経芽細胞腫細胞にブロモデオキシウラシルを投与することなどによって)これらの細胞を分化させるように誘導させた後に起こる場合もある。
【0128】
別の実施形態では、本発明は、上述したようなtorsinポリペプチドに特異的な結合親和性を有する抗体又はそのtorsinポリペプチド結合断片に特異的な結合親和性を有する抗体に関する。非torsinポリペプチドに結合しなければ、抗体はtorsinポリペプチド又はその結合断片に特異的に結合する。torsinに選択的に結合する抗体は、torsinを含有する組織におけるtorsinの発現の変化を分析するなどの方法(これに限定されない)で使用するために選択されるであろう。
【0129】
本発明のtorsinタンパク質は、抗体を生成するため、薬学的組成物を同定するため、DNA/タンパク質相互作用を研究するためなど、様々な手法や方法において使用することができる。
【0130】
本発明のtorsinペプチドは、抗体又はハイブリドーマを産生するために使用することができる。当業者であれば、抗体が所望される場合、本明細書の記載に従ってこのようなペプチドを作製し、免疫原として使用されることが理解できるであろう。
【0131】
本発明の抗体には、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体、及びこれらの抗体の断片が含まれる。さらに、一本鎖抗体も本発明に含まれる。分子のイディオタイプを含有する抗体断片は、公知の技術によって作製することができる。例えば、このような断片には、F(ab’)断片、Fab’断片、Fab断片、及びFv断片が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0132】
本発明に関して特に興味がもたれるのは、ヒトで産生されるか又は組換え技術その他の技術によって「ヒト化された」(すなわち、ヒトで免疫原性を生じない)抗torsin抗体である。例えば、ヒト化抗体は、抗体の免疫原性部分を、対応する部分であるが、抗原性の存在しない部分で置換することによって、作製することができる(すなわち、キメラ抗体(Robinson, R. R., et al., International Patent Publication PCT/US86/02269 ; Akira, K., et al. , European Patent Application 184,187 ; Taniguchi, M., European Patent Application 171,496 ; Morrison, S. L., et al., European Patent Application 173,494 ; Neuberger, M. S., et al., PCT Application WO 86/01533; Cabilly, S., et al., European Patent Application 125,023 ; Better, M., et al, 1988, Science. 240: 1041-1043; Liu, A. Y., et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 84: 3439-3443; Liu, A. Y., et al., 1987, J. Immunol. 139: 3521-3526; Sun, L. K., et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 214-218; Nishimura, Y. , et al., 1987, Canc. Res. 47: 999-1005; Wood, C. R., et al., 1985, Nature. 314: 446-449); Shaw, et al. , 1988, J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553-1559)、及び「ヒト化された」キメラ抗体(Morrison, S. L., 1985, Science. 229: 1202-1207; Oi, V.
T., et al., 1986, BioTechniques 4: 214))。あるいは、CDR又はCEA置換によって、適切な「ヒト化」抗体を作製することも可能である(Jones, P. T., et al., 1986, Nature. 321: 552-525; Verhoeyan, et al., 1988, Science. 239: 1534; Beidler, C. B., et al., 1988, J. Immun ol. 141: 4053-4060)。
【0133】
別の実施形態において、本発明は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。ハイブリドーマとは、特異的なモノクローナル抗体を分泌することができる不死化された細胞株である。
【0134】
一般的に、モノクローナル抗体及びハイブリドーマを調製するための技術は、本分野において周知である(Campbell, “Monoclonal Antibody Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,” Elsevier Science Publishers, Amsterdam, The Netherlands (1984) ; St. Groth, et al., 1980, J. Immunol. Methods. 35: 1- 21)。
【0135】
本発明の方法は、torsinタンパク質又はその一部と反応する抗体を使用する。好ましい実施形態において、前記抗体は、torsinタンパク質又はその一部又はその断片と特異的に結合する。前記抗体はポリクローナル又はモノクローナルであり得る。抗体という用語には、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体、及びそれらの機能的断片が包含されるものとする。ポリクローナル及びモノクローナルという用語は、抗体調製物の均一性の程度を表す用語であり、特定の作製法に限定する趣旨ではない。
【0136】
抗体を産生することが知られている任意の動物(マウス、ウサギなど)を、前記選択されたポリペプチドによって免疫化することができる。免疫化の方法は本分野において周知である。このような方法には、ポリペプチドを皮下注射又は腹腔内注射することが含まれる。当業者であれば、免疫化のために使用されるポリペプチドの量は、免疫化される動物、ポリペプチドの抗原性、注射部位に応じて変動するであろう。
【0137】
前記ポリペプチドは、ペプチドの抗原性を増大させるために、修飾するか又はアジュバントに入れて投与することができる。ポリペプチドの抗原性を増大させる方法は、本分野において周知である。このような操作には、異種タンパク質(グロブリン又はβ−ガラクトシダーゼなど)に抗原を結合させるか、又は免疫化を行っている間にアジュバントを加えることが含まれる。
【0138】
モノクローナル抗体の場合、免疫化された動物から脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合し、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞にする。
【0139】
所望の特性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定するためには、本分野において周知である数多くの方法のうち何れの方法を用いてもよい。これらには、ELISAアッセイ、ウェスタンブロット分析、又はラジオイムノアッセイによるハイブリドーマのスクリーニングなどがある(Lutz, et al., 1988, Exp. Cell Res. 175: 109-124)。
【0140】
所望の抗体を分泌するハイブリドーマをクローン化し、本分野で公知の手法を用いて、そのクラスとサブクラスを決定する(Campbell, In: Monoclonal Antibody Technology. Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, supra (1984))。
【0141】
ポリクローナル抗体の場合には、免疫化された動物から抗血清を含有する抗体を単離し、上述した手法のうちの1つを用いて、所望の特異性を有する抗体の存在についてスクリーニングを行う。
【0142】
本発明の別の実施形態では、上記抗体には、検出可能なように標識が施される。放射性同位体、アフィニティラベル(ビオチン、アビジンなど)、酵素標識(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、蛍光標識(FITC又はローダミンなど)、常磁性原子などを使用することによって、抗体には、検出可能な標識を施すことができる。このような標識を行うための手法は、本分野において周知である(Stemberger, et al., 1970, J. Histochem. Cytochem. 18: 315; Bayer, et al., 1979, Meth. Enzym. 62: 308; Engval, et al., 1972, Immunol. 109: 129; Goding, 1976, J. Immun ol. Meth. 13: 215)。本発明の標識された抗体は、特定のペプチドを発現する細胞又は組織を同定するために、インビトロ、インビボ、及びインシチュアッセイに使用することができる。
【0143】
本発明の別の実施形態では、上記抗体は固相支持体上に固定化されている。このような固相支持体の例には、ポリカーボネートのようなプラスチック、アガロースやセファロースのような複合糖質、ポリアクリルアミドやラッテクスビーズのようなアクリル樹脂などがある。このような固相支持体に抗体を結合させるための技術は、本分野において周知である(Weir, et al., In:“Handbook of Experimental Immunology,” 4th Ed., Blackwell Scientific Publications, Oxford, England, Chapter 10 (1986); Jacoby, et al., 1974, Meth. Enzym. Vol. 34. Academic Press, N.Y.)。
【0144】
本発明の固定化された抗体は、インビトロ、インビボ、及びインシチュアッセイにおいて並びに免疫クロマトグラフィーにおいて使用することができる。
【0145】
さらに、当業者であれば、特異的なペプチド配列に結合できるペプチドを作製して、合理的に設計された抗ペプチド・ペプチド(anti-peptide peptide)を生成させるために、抗体について上記されている技術、方法及びキットの他に、現在利用できる手法を容易に適合させることができるであろう(Hurby, et al., In:“Application of Synthetic Peptides: Antisense Peptides,” In Synthetic Peptides, A User’s Guide, W. H. Freeman, N. Y., pp. 289-307(1992); Kaspczak, et al., 1989, Biochemistry 28: 9230-9238)。
【0146】
抗ペプチド・ペプチドは、2つの様式のうち何れか1つで作製することができる。第一に、抗ペプチド・ペプチドは、疎水性基と帯電していない極性基とをそのままにしつつ、torsinペプチド配列中に存在する塩基性アミノ酸残基を酸性残基に置き換えることによって作製することができる。例えば、リジン、アルギニン、及び/又はヒスチジン残基をアスパラギン酸又はグルタミン酸で置換し、グルタミン酸残基をリジン、アルギニン又はヒスチジンで置換する。
【0147】
別の実施形態では、本発明は、試料中に存在するtorsinポリペプチドを検出するための方法であって、免疫複合体が形成される条件下で、前記試料を上記抗体(又はタンパク質)に接触させることと、前記ポリペプチドに結合した抗体の存在を検出することと、を備えた方法に関する。詳細には、該方法は、本発明の一個以上の抗体とともに被検試料をインキュベートすることと、前記抗体が前記被検試料に結合するかどうかをアッセイすることと、を含む。標準レベルに比べて試料中のtorsinのレベルが変化していれば、特定の疾病の指標となり得る。
【0148】
別の実施形態において、本発明は、試料中のtorsin抗体を検出する方法であって、免疫複合体が形成される条件下で前記試料を上記torsinタンパク質に接触させることと、前記抗体に結合した前記タンパク質又は前記タンパク質に結合した前記抗体の存在を検出することとを含む、方法に関する。詳細には、該方法は、本発明の一個以上のタンパク質とともに被検試料をインキュベートすることと、前記抗体が前記被検試料に結合するかどうかをアッセイすることと、を含む。
【0149】
抗体を被検試料とともにインキュベートする条件は様々である。インキュベーション条件は、アッセイで使用するフォーマット、使用する検出法、アッセイで使用する抗体の種類と性状に応じて変わる。当業者であれば、本発明の抗体が利用できるように、一般に使用できる任意の免疫学的アッセイフォーマット(ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、拡散を基本としたオークタロニー、又はロケット免疫蛍光アッセイなど)を容易に適合させ得ることが理解できるであろう。(Chard, In: An Introduction to Radioimmunoassay and Related Techniques, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, The Netherlands (1986); Bullock, et al., In: Techniques in Immunocytochemistry, Academic Press, Orlando, Fla. Vol.1 (1982), Vol. 2 (1983), Vol.3 (1985); Tijssen, In: Practice and Theory of enzyme Immunoassays: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, The Netherlands (1985))。
【0150】
本発明の免疫学的アッセイの被検試料には、細胞、細胞のタンパク質若しくは膜抽出物、又は血液、血清、血漿、若しくは尿などの体液などが含まれる。上記方法で使用される被検試料は、アッセイ様式、検出法の性質、アッセイすべき試料として使用される組織、細胞又は抽出液に応じて変わるであろう。細胞のタンパク質抽出物又は膜抽出物を調製する方法は本分野において周知であり、用いる系とともに使用できる試料を得るために容易に適合させることができる。
【0151】
特許請求の範囲に記載された発明では、ジストニアタンパク質を測定できる複数の適切なアッセイを使用する。適切なアッセイには、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの免疫学的方法及び化学発光アッセイが包含される。本発明を実施し、torsinタンパク質を測定するために、現在知られ又は今後開発される任意の方法を使用することができる。
【0152】
幾つかの好ましい実施形態では、抗ジストニアタンパク質抗体(すなわち、1個以上の抗体)を用いて、免疫学的技術により、torsinタンパク質レベルを検出し、抗ジストニアタンパク質抗体には、モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体及びそれらの混合物が含まれる。例えば、これらの免疫学的技術は、マウスのモノクローナルとウサギのポリクローナルのカクテルなどのポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体の混合物を使用することができる。
【0153】
当業者であれば、単離されたtorsinタンパク質及び/又は組換えtorsinタンパク質又はその一部又はその断片(合成ペプチドなどの合成分子を含む)など、適切な免疫原に対して抗torsin抗体を生成させることができる。一実施形態では、単離された及び/又は組換えtorsinタンパク質又はその一部若しくは断片(例えば、ペプチド)に対して、又は組換えジストニアタンパク質を発現する宿主細胞に対して、抗体が生成される。さらに免疫原として、又はtorsinタンパク質を結合する抗体のスクリーニングにおいて組換えtorsinタンパク質を発現する細胞(トランスフェクトされた細胞など)を使用することもできる。
【0154】
任意の適切な技術によって、免疫化抗原を調製し、ポリクローナル又はモノクローナル抗体を作製することができる。従来技術には、これらの様々な方法が含まれる(Kohler, et al., 1975, Nature. 256: 495-497; Kohler, et al., 1976, Eur. J. Immunol. 6: 511-519; Milstein, et al., 1977, Nature. 266: 550-552; Koprowski, et al., U.S. Pat. No.4,172,124; Harlow, et al., In:Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor, N.Y.(1988))。
【0155】
一般に、適切な不死又はミエローマ細胞株(SP2/0など)を抗体産生細胞と融合することによって、ハイブリドーマを作製することができる。目的の抗原で免疫化された動物は、抗体産生細胞、好ましくは脾臓又はリンパ節由来の細胞を与える。選択的な培養条件は抗体を産生するハイブリドーマ細胞を単離するのに対して、限界希釈技術は本分野で確立され認知されたELISA、RIA、及びウェスタンブロッティングなどのアッセイを与え、所望の特異性を有する抗体産生細胞を選択するのに使用することができる。
【0156】
他の適切の方法によって、必要な特異性を有する抗体を産生又は単離することができる。他の方法の例には、組換え抗体をライブラリーから選択すること、又はヒト抗体の全レパートリーを産生できるマウスなどのトランスジェニック動物の免疫化を利用することが含まれる(Jakobovits, et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551-2555; Jakobovits, et al., 1993, Nature. 362: 255-258; Lonbert, et al., U.S. Pat. No: 5,545,806; Surani, et al., U.S. Pat. No: 5,545,807)。
【0157】
本方法に従えば、アッセイによって、生物試料中のtorsinタンパク質のレベル又は濃度を測定することができる。torsinタンパク質の量を測定する際には、アッセイでは、抗体とtorsinタンパク質の複合体の形成に適した条件下で、torsinタンパク質に対する特異性を有する抗体と検査すべき試料とを混合し、(直接的又は間接的に)複合体の形成を検出又は測定する。前記試料は、選択した試料(例えば、全血、組織抽出物、血清)及びアッセイフォーマットに適した方法によって、取得し、調製することができる。例えば、全血を収集する適切な方法は、静脈穿刺、又は内在動脈経路からの血液採取である。血液を集めるための容器には、CACD−A、ヘパリン、又はEDTAなどの抗凝固物質を含有させることができる。試料と抗体を混合する方法、複合体の形成を検出する方法も、アッセイフォーマットに適合するように選択される。放射性標識、蛍光標識、又は化学発光標識などの適切な標識は、直接的に検出することも可能であるし、酵素標識及び他の抗原性又は特異的結合対(ビオチンやコロイド金など)のような標識を用いて、間接的に検出することも可能である。このような標識の例には、フルオレセイン、ローダミン、CY5、APCなどの蛍光標識、ルシフェラーゼなどの化学発光標識、32P、125I、131Iなどの放射性同位体標識、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ、O−ガラクトシダーゼなどの酵素標識、ビオチン、アビジン、スピン標識などが含まれる。複合体中の抗体の検出は、二次抗体を用いて免疫学的に行うことも可能であり、次いで二次抗体の検出が行われる。慣用法その他の適切な方法によって、抗体を直接又は間接的に標識することができる。
【0158】
本発明の別の実施形態では、torsinタンパク質の有無又は哺乳類においてジストニアを発症する可能性を診断するためのキットであって、前述した検出方法を実施するために必要な試薬が全て含まれたキットが提供される。
【0159】
例えば、該キットは、上記抗体を含有する第一の容器手段と、前記抗体の結合対と標識とを有するコンジュゲートを含有する第二の容器手段と、を備えることができる。
【0160】
該キットは、上記タンパク質を含有する第一の容器手段と、好ましくは、前記タンパク質の結合対と標識とを有するコンジュゲートを含有する第二の容器手段と、を備えることもできる。より具体的には、感染の可能性が有る動物又はヒトの血清中に抗体を検出するために、診断キットは、上記のtorsinタンパク質を備える。
【0161】
別の好ましい実施形態では、前記キットは、洗浄試薬及び結合された抗体の存在を検出できる試薬を1個以上備えた他の容器を1個以上さらに備える。検出試薬の例には、標識された二次抗体、あるいは、一次抗体が標識されている場合には、標識された抗体と反応することができる発色団、酵素、又は抗体結合試薬が含まれるが、これらに限定されるものではない。この区画化されたキットは、核酸プローブキットについて上述したとおりとすることができる。キットは、例えば、RIAキット又はELISAキットであり得る。
【0162】
当業者であれば、本分野で周知の確立されたキット様式の1つに、本発明に記載されている抗体を容易に取り込ませ得ることが容易に理解できるであろう。
【0163】
以下の考察はヒトの患者について特に記載されているが、本教示はtorsinタンパク質を発現する任意の動物に対しても適用可能であることを理解しなければならない。本明細書において使用する「哺乳類の」という用語は、幼獣に授乳し且つ生きた幼獣を生む(真獣類又は有胎盤類哺乳類)又は卵を産む(後獣類又は非有胎盤類)単孔類、有袋類及び有胎盤類を含む任意の脊椎動物を表す。哺乳類種の例には、霊長類(例えば、ヒト、サル、チンパンジー、ヒヒ)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット、ハムスター)及び反芻動物(例えば、ウシ、ウマ)が含まれる。
【0164】
本発明の診断及びスクリーニング法には、ヒトに神経疾患をもたらす遺伝子中の変異の存在、又は不存在を検出することが含まれる。例えば、本発明の診断及びスクリーニング法は、torsinの発現レベルの変化に関連する疾病を発症するリスクが家族歴から疑われるヒト患者、又はtorsin関連疾患を診断することが望まれる患者の神経細胞遺伝子中に存在する変異又は多型の有無を診断するのに非常に有用である。
【0165】
好ましくは、早発型の全身性ジストニア、晩発型の全身性ジストニアなどの様々な形態の捻転ジストニア;又は任意の形態の遺伝性、環境性、原発性又は続発性ジストニアを区別して診断する手段として、核酸診断が用いられる。次いで、遺伝的なカウンセリングや個別化された治療方針に関して患者を分類する上で、この情報を使用する。
【0166】
本発明によれば、本発明のtorsinタンパク質をコードするDNAを使用して、このようなスクリーニングを必要としている個体の発症前スクリーニングを行うことが可能である。本発明のスクリーニング方法によれば、個体中の喪失されたtorsin遺伝子又は異常なtorsin遺伝子の存在の発症前診断(出生前診断を含む)が可能となるため、このような個体がtorsin関連疾患を発症すると思われる可能性又は発症した可能性についての意見を与えることが可能となる。これは、例えば、torsin関連疾患の家族歴がある個体から、変化又は喪失したtorsin遺伝子の保有者を同定する上で極めて価値が高い。適切な適時の治療の効果を最大限に発揮するためにも、初期診断が望まれる。
【0167】
症候の発症前に遺伝子保有者を同定することによって、症候の発症を誘発する遺伝的因子と環境因子を評価することが可能となる。修飾遺伝因子には、torsinタンパク質中の多型の変動(具体的には、torsinタンパク質)又は関連若しくは随伴タンパク質中の変異が含まれ得るであろう。環境因子には、乱用又は外傷によって引き起こされたものなど、感受性を有する神経細胞によって補助された身体の一部への感覚的な過剰負荷がある(Gasser, T., et al., 1996, Mov Disord. 11: 163-166);高い体温;又は毒性物質への曝露などがある。
【0168】
スクリーニングする診断法の一実施形態では、体液(例えば、血液、唾液、羊水液)又は組織(例えば、神経、絨毛膜)を含む被検試料をこのような個体から採取し、(1)「正常な」torsin遺伝子の有無、(2)torsin mRNAの有無及び/又は(3)torsinタンパク質の有無についてスクリーニングを行うことになるであろう。正常なヒト遺伝子は、例えば、本発明に教示されているtorsin配列(又はその機能的断片)に対して調製されたDNAプローブを用いて検出された「正常」なDNAと患者DNA中の制限消化のパターン(RFLP、PCR、サザンブロット、ノーザンブロット及び核酸配列分析を含む)に基づいて性質決定することができる。一実施形態において、前記torsin配列は、torsin配列(配列番号1、3、5、7、及び9)である。別の実施形態では、3つのヌクレオチドの有無が、それぞれ、捻転ジストニアの陰性又は陽性診断の指標となる。同様に、同様のプローブを用いて、torsinのmRNAの性質を決定し、torsin関連疾患を発症するリスクがないヒトの集団中に見られる正常なtorsin mRNA(a)レベル及び/又は(b)サイズと比較することが可能である。これに加えて又はこれに代えて、核酸の配列を決定して、「正常な」torsin遺伝子の有無を決定することができる。核酸は、DNA(例えば、cDNA又はゲノムDNA)又はRNAであり得る。
【0169】
最後に、torsin活性に対する生物アッセイを用いて又は免疫学アッセイとtorsin抗体を用いて、torsinタンパク質を(a)検出し及び/又は(b)定量することができる。torsinタンパク質をアッセイする際には、そのスピード故に、免疫学的アッセイが好ましい。本発明の一実施形態では、torsinタンパク質配列(配列番号2、4、6、8、及び10)又は配列番号1、3、5、7、及び9によってコードされるタンパク質は、(1)異常なtorsin DNAサイズのパターン、及び/又は(2)異常なtorsin mRNAのサイズ又はレベル及び/又は(3)異常なtorsinタンパク質のレベルが、torsin関連疾患を患者が発症するリスクの指標となるであろう。
【0170】
ジストニア疾患に関連する変異には、tor−2などのジストニア遺伝子中のあらゆる変異が含まれる。前記変異は、単一のアミノ酸を変化させ又はフレームシフト変異をもたらすtor−2遺伝子のコーディング領域又は非コーディング領域中に存在する少なくとも1つのヌクレオチドの欠失又は付加であり得る。
【0171】
ジストニア疾患の有無を診断する1つの方法では、サザン分析などのハイブリダイゼーション法が使用される(Ausubel, et al., In: Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,(1998))。本発明において使用するのに適した被検試料には、核酸(DNA又はRNAの何れでもよい)を含有する任意の試料が包含される。例えば、ゲノムDNAの被検試料は、ジストニア疾患を有すると疑われる(又は欠陥を保有する)ヒトから取得する。前記被検試料は、体液又は組織試料などのゲノムDNAを含有する任意の取得源から得ることができる。一実施形態において、前記DNAの被検試料は、血液、唾液、精液、膣分泌液、脳脊髄液および羊膜体液試料などの体液から採取される。別の実施形態において、前記DNAの被検試料は、絨毛膜、神経、上皮、筋肉及び結合組織試料等の組織試料から採取される。DNAは、本分野で認知された標準的なプロトコールを使用して被検試料から単離することができる(Breakefield, X. O., et al., 1986, J. Neurogenetics. 3: 159-175)。前記DNA試料を調べて、ジストニア疾患に関連する変異の存否を決定する。変異又は多型の有無は、ゲノムDNA中に存在するtor−2遺伝子などの神経細胞遺伝子の核酸プローブへのハイブリダイゼーションによって示される。核酸プローブは、神経遺伝子のヌクレオチド配列である。これに加えて又はこれに代えて、このようなプローブによってコードされるRNAは、ハイブリダイゼーションによって、ジストニア疾患の有無を診断するために使用することができ、ハイブリダイゼーション試料は、tor−2などのジストニア遺伝子を含有する被検試料を核酸プローブと接触させることによって形成される。ハイブリダイゼーション試料は、核酸プローブが所定のジストニア遺伝子に特異的にハイブリダイズできるのに十分な条件下に維持される。ハイブリダイゼーションは、前述したように行うことができる。
【0172】
本発明の別の実施形態では、遺伝子の欠失が制限部位を生成又は消失させる場合、ジストニア遺伝子(tor−2遺伝子など)中の欠失を検出するために、制限消化による欠失分析を使用することができる。例えば、ゲノムDNAを含有する被検試料は、ヒトから得られる。適切な制限酵素でゲノムDNAを消化した後、標準的な方法を用いて、DNA断片を分離し、torsin遺伝子又はcDNAに対して特異的なプローブと接触させる。DNA断片の消化パターンは、ジストニア疾患に関連する変異の有無の指標となる。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、ヒトから得たゲノムDNAの被検試料中に存在するtor−2などの目的のジストニア遺伝子(必要であれば、隣接配列とともに)を増幅することができる。次いで、制限消化又はヌクレオチド配列決定による直接的な変異分析を実施する。関連するDNA断片の消化パターンは、ジストニア疾患に関連する変異の有無の指標となる。
【0173】
ヒトから得た核酸試料を対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いてPCR増幅することによって、特定の疾病と関連する欠失又は多型を検出することにより、神経疾患の有無を検出するために対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドを使用することも可能である。「対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド」(「対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブ」とも称する)とは、特定の変異(3つのヌクレオチドの欠失など)を含有するジストニア遺伝子(tor−2など)(又は遺伝子断片)に特異的にハイブリダイズする約10−300塩基対のオリゴヌクレオチドである。例えばtor−2遺伝子中のある変異に対して特異的な対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブは、標準的な方法を用いて調製することができる(Ausubel, et al., In: Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, (1998))。
【0174】
捻転ジストニアその他任意の神経疾患に関連するtor−2遺伝子中の変異を同定するために、DNAの被検試料をヒトから取得する。tor−2遺伝子の全部又は断片及びその隣接配列を増幅するために、PCRを使用することができる。PCRプライマーは、神経遺伝子の任意の配列から構成される。増幅された神経遺伝子、例えばtor−2遺伝子(又は該遺伝子の断片)を含有するPCR産物は、標準的な方法を用いて、ゲル電気泳動によって分離され(Ausubel, et al., In: Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, (1998))、本分野で認知、確立された技術(蛍光標識されたプライマーを使用する場合には、蛍光イメージングなど)を用いて、断片を可視化する。次いで、神経細胞遺伝子中の変異又は多型の有無の指標となる特異的なDNA断片の有無を検出する。例えば、特異的な分子サイズを有する2つの対立遺伝子が存在することは、捻転ジストニアが存在しないことの指標となるのに対して、これらの対立遺伝子の一方が存在しないことは、捻転ジストニアの指標となる。ヒトから取得し、本明細書に記載されている方法によって評価された試料は、特定の神経細胞疾患について特徴的な変異又は多型を含有する標準試料と含有しない標準試料に対して比較が行われることになるであろう。
【0175】
出生前診断は、所望であれば、羊水穿刺、絨毛採取(CVS)、胎児鏡検査など、胎児細胞を得るためのあらゆる公知の方法を用いて行うことができる。出生前染色体分析は、正常なtorsin遺伝子を保有する染色体の一部がヘテロ接合状態で存在しているかどうかを決定するために使用することができる。torsin関連疾患の治療を必要としている患者を治療する方法では、このような患者を治療するのに十分な時間と量でこのような遺伝子によって与えられたtorsin遺伝子タンパク質が発現できる様式と量になるように、機能的なtorsinDNAをこのような患者の細胞に与えることができる。細胞から失われた遺伝子又はタンパク質を必要としているヒト患者にこのような送達を与えるためのベクター系が、本分野において数多く知られている。例えば、レトロウイルス系、特に修飾されたレトロウイルス系、とりわけ単純ヘルペスウイルス系を使用することができる(Breakefield, X. O., et al., 1991, New Biologist. 3:203-218; Huang, Q., et al., 1992, Experimental Neurology. 115: 303-316; W093/03743; W090/09441)。機能的torsinタンパク質をコードするDNA配列を送達することによって、喪失又は変異された本発明のtorsin遺伝子は効果的に置換されるであろう。本発明の別の実施形態では、哺乳類、好ましくは遺伝子治療を必要としているヒトに細胞を移植できるようにするため、細胞内でtorsin遺伝子を組換え遺伝子として発現させる。個体に遺伝子治療を与えるために、torsin遺伝子の全部又は一部をコードする遺伝子配列をベクターに挿入し、宿主細胞中に導入する。遺伝子治療に適切であり得る疾病の例には、神経変性疾病又は疾患、原発性ジストニア(好ましくは、全身性ジストニアと捻転ジストニア)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0176】
遺伝子治療法は、本発明のtorsinコーディング配列を患者に導入するために使用することができる(Chattedee and Wong, 1996, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 218: 61-73; Zhang, 1996, J. Mol. Med. 74: 191-204; Schmidt-Wolf and Schmidt-Wolf, 1995, J. Hematotherapy. 4: 551-561; Shaughnessy, et al., 1996, Seminars in Oncology. 23: 159-171; Dunbar, 1996, Annu. Rev. Med. 47: 11-20)。
【0177】
遺伝子治療に使用し得るベクターの例には、欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、又はその他のウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されるものではない(Mulligan, R. C. , 1993, Science. 260: 926-932)。遺伝子を担持するベクターを細胞中に導入できる手段には、マイクロインジェクション、電気穿孔、形質導入、DEAE−Dextranを用いたトランスフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム、又は当業者に公知のその他の手法が含まれるが、これらに限定されるものではない(Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., 1989, In: Molecular Cloning. A Laboratory Manual., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor)。
【0178】
torsinのアンタゴニスト及びアゴニストがtorsinの活性を妨害又は増大させる能力は、torsinを含有する細胞を用いて調べることができる。細胞中のtorsin活性についてのアッセイは、アンタゴニスト又はアゴニストとして作用できる物質の存在下で、torsinタンパク質の機能を測定するために使用することができ、このようにして、torsinの活性を妨害又は増大させる物質が同定される。
【0179】
アッセイでスクリーニングされる物質は、ペプチド、炭水化物、ビタミン誘導体、又はその他の薬剤であり得るが、これらに限定されるものではない。これらの物質は、合理的な選択法によって、又は、例えばタンパク質又はリガンドモデリング技術(好ましくは、コンピュータモデリング)を用いた設計によって、ランダムに選択し、スクリーニングすることができる。
【0180】
ランダムスクリーニングの場合、ペプチド、炭水化物、薬剤などの物質をランダムに選択して、torsinタンパク質に結合し又はtorsinタンパク質の活性を刺激/遮断する能力についてアッセイを行う。
【0181】
あるいは、物質を合理的に選択又は選択してもよい。本明細書では、torsinタンパク質の立体配置に基づいて物質が選択された場合に、物質は「合理的に(rationally)選択又は設計」されたと称する。
【0182】
一実施形態において、本発明は、torsinの活性を刺激又は遮断するアンタゴニスト又はアゴニストをスクリーニングする方法であって、torsinを発現している細胞を検査すべき物質とともにインキュベートすることと、torsinのATP結合に対する前記物質の効果を測定することによって前記細胞のtorsinタンパク質活性をアッセイすることと、を含んだ方法に関する。機能的な型のtorsinを発現し、torsin活性を測定できれば、あらゆる細胞を上記アッセイに使用することができる。好ましい発現細胞は、真核細胞又は生物である。このような細胞は、本分野で広く使用される公知の手法を用いて、torsinをコードするDNA配列を含有するように修飾することができる。あるいは、当業者であれば、torsinタンパク質をコードするmRNAを細胞中に直接導入することができる。
【0183】
別の実施形態では、本発明は、変異torsinタンパク質の発現を打ち消すことができる医薬(例えば、薬物)をスクリーニングすることに関する。本明細書に記載されたベクター技術を用いて変異型のtorsinタンパク質を過剰発現させるためには、神経細胞の培養物を使用することが好ましい。神経細胞の形態及びタンパク質分布の変化を評価し、定量の手段を使用する。次いで、表現型を回復することができる薬物のスクリーニングとして、このバイオアッセイを使用する。torsinリガンド(上述したようなアンタゴニスト及びアゴニストを含む)を使用して、本発明は、さらに、細胞中のtorsinタンパク質の活性をモジュレートするための方法を提供する。一般に、torsinの活性を遮断又は刺激するものと同定された物質(アンタゴニスト及びアゴニスト)は、torsinタンパク質をインビボで発現する細胞に前記物質が接触できるように調剤することができる。このような細胞をこのような物質に接触させると、torsinタンパク質活性のモジュレーションがインビボで起こる。調合又は毒性に関する障害がなければ、上記アッセイで同定された物質は、インビボで有効に使用できるであろう。
【0184】
別の実施形態では、本発明は、動物(好ましくは哺乳類(特に、ヒト))に、前記動物中のtorsinレベルを変化させるのに十分な量のtorsin又はtorsinリガンド(torsinアンタゴニスト及びアゴニストを含む)を投与する方法に関する。投与されたtorsin又はtorsinリガンドは、torsinに関連した機能を特異的に発揮することができるであろう。さらに、torsinは脳組織中に発現されているので、torsin又はtorsinリガンドの投与を使用して、脳内のtorsinレベルを変化させることができるであろう。
【0185】
当業者であれば、任意の治療プロトコールについて投与すべき量を容易に決定できることを理解できるであろう。投薬量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど大量とすべきではない。一般に、投薬量は、各医師によって調整すべき、患者の年齢、症状、性別、病状、禁忌によって変動し、もしその他の要素が存在すれば、かかる変動要素によっても変動するであろう。免疫刺激を与えるために本発明において使用される投薬量は、約0.1μgないし約500μgなどであり、0.5、1.0、1.5、2.0、5.0、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、350、400、及び450μgが含まれ、この間のあらゆるレンジ及びサブレンジを含むものとする。このような量は、単回投薬として投与してもよいし、引き続き強化投与を行うなどの有効な治療計画に従って投与してもよい。例えば、本発明の組成物は、一度に投与することもできるし、日、週、月及び/又は年単位にわたって連続して投与することができる。
【0186】
また、投与方法に応じて、注射可能な調製物(溶液、懸濁液、エマルジョン、使用時に溶解させるべき固体など)、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、液体、リポソーム封入体、軟膏、ゲル、外用粉末、スプレー、吸入粉末、点眼液、眼軟膏、座薬、ペッサリーなどの投薬形態を使用することも可能であり、本発明のペプチドは適宜調剤することができる。薬学的製剤は、本分野で一般的に知られており、例えば、「Chapter 25.2 of Comprehensive Medicinal Chemistry, Volume 5, Editor Hansch et al, Pergamon Press 1990」に記載されている。
【0187】
torsin又はtorsinリガンドは、注射によって又は一定時間にわたって徐々に灌流することによって、非経口的に投与することができる。torsin又はtorsinリガンドは、静脈内、腹腔内、筋肉内、又は皮下に投与することができる。
【0188】
非経口的に投与するための調製物には、滅菌又は水性若しくは非水性溶液、懸濁液、及びエマルジョンが含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体には、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン又は懸濁液(生理的食塩水と緩衝化された溶媒など)が含まれる。非経口用ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロースと塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、又は不揮発性油が含まれる。静脈内ビヒクルには、リンゲルのデキストロースなどを基礎としたものなどの、液体(fluid)及び栄養素補充薬、電解質補充薬が含まれる。例えば、抗菌薬、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどの、防腐剤や他の添加物を加えることもできる(Remington’s Pharmaceutical Science, 16th ed., Eds.: Osol, A., Ed., Mack, Easton PA(1980))。
【0189】
別の実施形態では、本発明は、torsin関連活性を変化させるのに十分な量のtorsin又はtorsinリガンドと、薬学的に許容される希釈剤、担体、又は賦形剤とを含む薬学的組成物に関する。適切な濃度と投薬単位のサイズは、上述のように、当業者によって容易に決定することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th ed. , Eds.: Osol, A. , Ed. , Mack, Easton PA (1980); WO 91/19008)。
【0190】
本発明で使用できる薬学的に許容される担体には、医学分野で一般的に使用されている賦形剤、結合剤、潤滑剤、着色剤、分解剤、緩衝液、等張剤、防腐剤、麻酔剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0191】
本発明の前記ヒト以外の動物には、内在性遺伝子が導入遺伝子によって妨害され又は変化を受けた任意の動物(ノックアウト動物)及び/又はヒトtorsinの発現を誘導する1個以上の導入遺伝子がそのゲノム中に導入された動物が含まれる。
【0192】
このようなヒト以外の動物には、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、両生類、爬虫類などの脊椎動物が含まれる。好ましいヒト以外の動物は、ヒト以外の哺乳動物種、最も好ましくは、ラットとマウスを含むげっ歯類ファミリーに属する動物、最も好ましくはマウスから選択される。
【0193】
本発明のトランスジェニック動物は、非自然的な手段によって(すなわち、人為的操作によって)、動物内に天然には存在しない1個以上の遺伝子(例えば、外来遺伝子、遺伝子操作によって改変された内在遺伝子など)が導入された動物である。非自然的に導入された遺伝子(導入遺伝子として知られる)は、該動物と同一の種又は異なる種から得ることができるが、導入遺伝子によって付与された配置及び/又は染色体座位には当該動物中で天然に見出されない遺伝子であり得る。
【0194】
導入遺伝子は、外来DNA配列(すなわち、宿主動物のゲノム中に通常見られない配列)を含むことができる。これに代えて又はこれに加えて、インビボでの遺伝子の正常な発現パターンを変化させ又は該遺伝子によってコードされる内在遺伝子産物の生物活性を変化若しくは除去させるために、インビトロで再編成又は変異されている点で異常な内在性DNA配列を、導入遺伝子が含んでいる場合もある(Watson, J.D., et al., In: Recombinant DNA, 2d Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1992), pg. 255-272 ;Gordon, J. W., 1989, Intl. Rev. Cytol.115:171-229; Jaenisch, R., 1989, Science. 240:1468-1474 ;Rossant, J., 1990, Neuron. 2:323-334)。
【0195】
本発明のヒト以外のトランスジェニック動物は、ヒト以外の動物の生殖系列中に導入遺伝子を導入することによって作製される。様々な発育段階にある標的胚細胞は、本発明の導入遺伝子を導入するために使用される。標的胚細胞の発育段階に応じて、様々な方法が使用される。本発明を実施する際に動物のゲノム中に導入遺伝子を取り込ませるための方法としては、接合体のマイクロインジェクションが好ましい。トランスジェニックDNA配列のマイクロインジェクションには、接合体(前核融合又はその後の細胞分裂を行わなかった受精卵)が好ましい標的細胞である。マウス雄の前核は、直径約20μmのサイズに達し、これは、トランスジェニックDNA配列を含有する1乃至2pLの溶液を生殖可能に注入できる特徴である。導入遺伝子を導入するために接合体を使用することには、多くの場合、注入されたトランスジェニックDNA配列が最初の細胞分裂前に宿主動物のゲノム中に取り込まれるという利点がある(Brinster, et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 4438-4442)。その結果、得られたトランスジェニック動物(創始動物)の全細胞は、取り込まれた導入遺伝子を特定の遺伝子座に安定して担持する(トランスジェニック対立遺伝子と称される。)。トランスジェニック対立遺伝子は、メンデル遺伝を示す。すなわち、トランスジェニック動物と非トランスジェニック動物の交雑から得られた子孫の半分は、メンデルの無作為組み合わせの規則に従って、トランスジェニック対立遺伝子を受け継ぐであろう。
【0196】
本発明の導入遺伝子を動物に導入するために、ウイルス組込みを使用することもできる。発育中の胚は、胚盤胞として知られる発育段階までインビトロで培養される。この段階で、適切なレトロウイルスを割球に感染させることができる(Jaenisch, R., 1976, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73: 1260-1264)。
【0197】
割球の感染は、透明帯を酵素的に除去することによって、増強される(Hogan, et al., In: Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1986))。トランス遺伝子は、典型的には複製欠損であるが、ウイルスに随伴するDNA配列(このようなウイルス配列に連結されたトランスジェニックDNA配列など)の組込み能を保持したウイルスベクターを介して、宿主動物のゲノム中に導入される(Jahner, et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6927-6931 ; van der Putten, et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6148-6152)。トランスフェクションは、導入遺伝子を含有するウイルスベクターを生成する単層の細胞上で割球を培養することによって、容易且つ効率的に得られる(van der Putten, et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6148-6152; Stewart, et al., 1987, EMBO J. 6:383-388)。あるいは、割腔などのさらに後期の段階で、感染を行ってもよい(Jahner, D. , et al., 1982, Nature. 298:623-628)。何れにしろ、ウイルス組込みによって作製された多くの創始トランスジェニック動物は、トランスジェニック対立遺伝子に関してモザイクであろう。すなわち、創始トランスジェニック動物を形成する全細胞の一部のみに、導入遺伝子が取り込まれる。さらに、複数のウイルス組込み現象が、単一の創始動物中で生じることもあり、将来の子孫世代において隔離されることになるであろう複数のトランスジェニック対立遺伝子が生成される。本方法によって生殖系列細胞中に導入遺伝子を導入することは可能であるが、おそらく、導入の頻度は低いであろう(Jahner, D. , et al., 1982, Nature. 298: 623-628)。しかしながら、本方法によって、一旦導入遺伝子が生殖系列中に導入されれば、動物の全細胞中(すなわち、体細胞と生殖細胞の両方)にトランスジェニック対立遺伝子が存在する子孫が生成されるであろう。
【0198】
本発明の導入遺伝子を動物に導入するための標的細胞として利用する胚性幹(ES)細胞を利用することもできる。インビトロで培養された着床前の胚から、ES細胞が得られる(Evans, M. J., et al., 1981, Nature. 292: 154-156; Bradley, M. O., et al., 1984, Nature. 309:255-258; Gossler, et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 9065-9069; Robertson, E. J., et al. , 1986, Nature. 322: 445-448; Robertson, E. J., In:Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical, Approach, Ed.: Robertson, E. J., IRL Press, Oxford (1987), pg. 71-112)。ES細胞((例えば、Genome Systems, Inc., St. Louis, Moから)市販されている)は、確立された方法によって一個以上の導入遺伝子を用いて形質転換することができる(Lovell-Badge, R. H., In: Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, Ed.: Robertson, E. J., IRL Press, Oxford (1987), pg. 153-182)。形質転換されたES細胞は動物の胚盤胞と混合することができ、その後、ES細胞は、胚をコロニー形成して、得られた動物(2以上の動物に由来する細胞から構成されるキメラである)の生殖系列に寄与する(Jaenisch, R., 1988, Science. 240:1468-1474; Bradley, A., In: Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells. A Practical Approach, Ed.:Robertson, E. J., IRL Press, Oxford(1987), pg.113-151)。この場合にも、本方法によって導入遺伝子が生殖系列細胞中に導入されると、動物細胞の全細胞中(すなわち、体細胞と生殖細胞の両方)にトランスジェニック対立遺伝子が存在する子孫を得ることができる。
【0199】
しかしながら、導入遺伝子の最初の導入は非メンデル現象であることはあり得る。しかし、本発明の導入遺伝子は、生殖系列細胞中に安定に組み込まれて、メンデル遺伝子座としてトランスジェニック動物の子孫に伝達され得る。他のトランスジェニック技術は、一部の細胞が導入遺伝子を有するが、他の細胞は導入遺伝子を有しないモザイクトランスジェニック動物を与える。生殖系列細胞が導入遺伝子を有していないモザイクトランスジェニック動物では、導入遺伝子は子孫に伝達されない。しかし、モザイクトランスジェニック動物は、導入遺伝子に付随する表現型を示すことができる。
【0200】
導入遺伝子は、ヒトの疾病の動物モデルを与えるために、ヒト以外の動物中に導入することができる。このような動物モデルを与える導入遺伝子には、例えば、ヒト遺伝病における先天的代謝異常に関連する変異遺伝子産物をコードする導入遺伝子、及びヒト病原体(すなわち、細菌、ウイルス、又はその他の病原性微生物; Leder, et al., U.S. Pat. No:5,175,383; Kindt, et al., U. S. Pat. No:5,183,949; Small, et al., 1986, Cell. 46: 13-18; Hooper, et al., 1987, Nature. 326:292- 295; Stacey, et al., 1988, Nature. 332:131-136; Windle, et al., 1990, Nature. 343: 665-669; Katz, et al., 1993, Cell. 74: 1089-1100)に対する感受性を付与するのに必要とされるヒト因子をコードする導入遺伝子が含まれる。遺伝子導入によって導入された変異は、ヒト以外の動物に通常内在している遺伝子配列が選択可能な及び/又は検出可能なマーカーをコードするDNA配列に置換されたヌル(「ノックアウト」)対立遺伝子を生じ得る。疾病に対する素因を有する得られたヒト以外のトランスジェニック動物、又は導入遺伝子が疾病を引き起こすヒト以外のトランスジェニック動物は、該疾病を誘導する組成物を同定し、疾病を誘導することが知られた又は疑われる組成物の病原能を評価するために(Bems, A.J.M., U.S. Pat. No:5,174,986)、又疾病を治療し若しくはその症候を軽減するために使用し得る組成物を評価するために(Scott et al., WO 94/12627)、使用することができる。
【0201】
本発明の導入遺伝子を承継した子孫は、本発明の導入遺伝子の配列又は本発明の導入遺伝子によってコードされる配列に対応するユニークな配列を備えた生物分子の存在について、該子孫から得た遺伝物質を分析することによって、承継された導入遺伝子を有していない同腹仔から区別される。例えば、ポリペプチドの存在について、本発明の導入遺伝子の選択可能なマーカーによってユニークにコードされたポリペプチドを含有する生体液にイムノアッセイを行うことができる。さらに簡易で信頼できる遺伝子導入された子孫を同定する手段では、動物の端部(例えば、尾)から組織試料を取得し、本発明の導入遺伝子の一又は複数のユニークな部分のDNA配列(その選択可能なマーカーなど)に対応する核酸配列の存在について前記試料を分析する。例えば、導入遺伝子のユニークな部分に対応するDNA配列を用いたサザンブロット分析、試料中のDNA配列を基質として使用し、導入遺伝子のDNA配列に由来するオリゴヌクレオチドなどを用いたPCR反応の産物の分析によって、このような核酸配列の存在を決定することができる。
【0202】
別の実施形態では、本発明は、HSV−1アンプリコンと少なくとも1つの上記torsin核酸分子とを有する組換えDNA分子に関する。
【0203】
幾つかの特徴により、HSV−1はベクターの開発に理想的な候補である。(1)HSV−1は実質的に汎向性であり、神経細胞や肝細胞など分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染させることができる。(2)HSV−1ゲノムは、少なくともある程度の転写活性を有しながら、長期間にわたって神経細胞中に留まることができる。(3)HSV−1ゲノムは、75個を超える遺伝子をコードしており、そのうち38個は、細胞培養中にウイルスを複製させるのに必要でない(不可欠でない)(Ward, P.L. and Roizinan, B., 1994, Trends Genet. 10: 267-274)。このため、そのゲノムの大部分を外来DNA(1又は複数の目的の治療用遺伝子など)で置換する余地がある。
【0204】
組換えHSV−1ベクターを構築する技術は、10年以上前に開発された(Mocarski, E.S., et al., 1980, Cell. 22: 243-255; Post, L. E. and Reizman, B., 1981, Cell. 25: 2227-2232; Roizman, B. and F. J. Jenkins, 1985, Science. 229: 1208- 1214)。プロトタイプHSV−1/HSV−2組換えワクチンを作製することを最終目標として、HSV−1ゲノムのあるドメインを欠失させて、神経毒性を与える幾つかの遺伝子座(ウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子など)を除去し、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)の糖タンパク質D、G、及びIをコードするDNA断片を挿入する余地を作る(Meignier, B. , et al., 1988, J. Inf. Dis. 158: 602-614)。現在、主として神経変性疾患や脳腫瘍の遺伝子治療用の多数のプロトコールにおいて、組換えヘルペスウイルスベクターの評価が行われているところである(Breakefield, X. O., et al, In: Cancer Gene Therapeutics, (1995), pp. 41-56; Glorioso, J. C. , et al.,"Herpes simplex virus as a gene-delivery vector for the central nervous system,"In: Viral vectors: Gene therapy and neuroscience applications, Eds.: Kaplitt, M. G. and Loewy, A. D., Academic Press, NY (1995), pp. 1-23)。
【0205】
いわゆるHSV−1「アンプリコン」ベクターと称される別のタイプのHSV−1ベクターの開発は、天然に存在する欠損HSV−1ゲノムの性質決定に基づいて行われた(Frenkel, N., et al., 1976, J. Virol. 20:527-531)。アンプリコンは、(1)E coliのDNA複製起点と抗生物質耐性遺伝子など、細菌中のプラスミドDNAが増殖するための原核生物配列、(2)複製を補助し且つヘルパーウイルス機能の存在下で哺乳類細胞中のHSV−1粒子にパッケージングするのを補助するoriやpacシグナルなど、HSV−1由来の配列、(3)1個又は複数の目的遺伝子を有する転写ユニット(Ho, D. Y., 1994, Meth. Cell. Biol. 43:191-210)、欠損ウイルスとアンフ゜リコン系の開発(Viral vectors: Gene therapy and neuroscience applications, Eds.: Kaplitt, M. G., and Loewy, A. D., Academic Press, NY (1995), pp. 25-42)、という3つのタイプの遺伝因子を担持している。
【0206】
別の実施形態では、本発明は、torsin核酸分子を神経細胞中に導入するための上記アンプリコンベクターの使用に関する。HSV−1には、CNSへの遺伝子導入ベクターとして使用しやすい生物学的な特性を幾つか備えている。これらには、(1)巨大な遺伝子導入能(理論的には、最大150kb)、(2)インビボでCNSに対する指向性(tropism)があること、(3)非分裂細胞および分裂細胞中の両方で核に局在すること、(4)組織培養で多様な宿主細胞を使用できること、(5)神経毒性が弱毒化され且つ複製能力のない変異体を数多く入手できること、(6)相対的に力価が高いウイルスを作製できる可能性があること、などがある。
【0207】
HSV−1に由来するCNS用のベクター系の重要な特性としては、他に、これらのビリオンが軸索に沿って逆行性に輸送され得ることである。細胞膜との融合の後、ウイルスのキャプシドと随伴する外被タンパク質とが、細胞質中に放出される。これらのキャプシドは、微小管に沿って細胞核までエネルギー依存性の逆行性輸送を媒介するダイニン複合体と会合する(Topp, K. S. , et al, 1994, J. Neurosci. 14: 318-325)。lacZ遺伝子を発現する複製能欠損組換えアンプリコンHSV−1ベクターは、注入後のベクターの局在と分布を決定するために使用されている。尾状核、歯状回、小脳皮質を含む多くの領域に単回注入した後に、β−ガラクトシダーゼ陽性細胞の分布を測定した(Chiocca, E. A., et al., 1990, N. Biol. 2: 739-746; Fink, D. J., et al., 1992, Hum. Gene Ther. 3: 11-19 ; Huang, Q., et al., 1992, Exp. Neurol. 115: 303-316 ; Wood, M. , et al., 1994, Exp. Neurol. 130: 127-140)。注入部位の神経細胞と膠細胞は形質導入され、別の離れた脳内領域において、原注入部位中に存在する細胞と求心的に接続する神経細胞中の活性も測定された。別部位への逆行性輸送は神経解剖学的経路に対して選択的なので、ウイルスキャプシドがシナプスを介して移動したものと推定される。黒質緻密部と青斑核の両方に線条体投与した後に、アンプリコンベクターが逆行性輸送されることが実証された(Jin, B. K., et al., 1996, Hum. Gene Ther. 7: 2015-2024)。求心性経路でHSV−1が逆行性輸送により神経細胞に輸送され得るということは、これらのベクターによる遺伝子の送達は、元の注射部位を越えて、神経解剖学的に重要な他の領域にまで伝播され得ることを示唆している。
【0208】
アンプリコンを介した神経細胞への遺伝子送達に関する最初の報告では、初代培養細胞を使用した(Geller, A. I. and Breakefield, X. O. 1988, Science 241:1667-1669)。アンプリコンベクターは、神経細胞の生理、例えば、神経細胞の形態と増殖に対するGAP43又は低親和性神経成長因子(NGF)受容体の発現の効果を研究するために、使用されてきた(Neve, R. L., et al., 1991, Mol. Neurobiol. 5: 131-141 ; Battleman, D., et al., 1993, J. Neurosci. 13: 941-951)。アンプリコンは、海馬のスライス培養物中で、迅速且つ安定な導入遺伝子の発現を誘導することができ(Bahr, B., et al., 1994, Mol. Brain Res. 26: 277-285)、これは、カイニン酸受容体を介した毒性(Bergold, P. J., et al., 1993, Proc. Natl Acad. Sci. USA 90: 6165-6169)及びグルコース輸送体を介した神経細胞の保護のモデルとして使用されている(Ho, D. Y. , et al., 1995, J. Neurochem. 65: 842-850)。インビボでは、アンプリコンは、CNS疾患の様々なモデルにおける数多くの治療用遺伝子の候補を送達するために使用されている。例えば、グルコース輸送体の発現により、誘導されたてんかんモデルにおいて神経細胞が保護され((Ho, D. Y. , et al., 1995, J. Neurochem. 65: 842-850; Lawrence, M.S., et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7247-7251 ; Lawrence, M. S., et al., 1996, Blood Flow Metab. 16: 181-185)、bcl−2は神経細胞を局所虚血から救出し(Linnik, M. D. , et al., 1995, Stroke 26: 1670-1674)、THの発現は、パーキンソン病ラットの行動の変化を媒介する(During, M. J. , et al., 1994, Science 266: 1399-1403)。このように、アンプリコンは、多くの導入遺伝子をCNS中で機能的に発現させるのに有効なことが証明されている。近年では、アンプリコンは、マウスの体細胞モザイクを作製するために使用されており、体細胞モザイクでは、空間的且つ発育的に制御された態様で、宿主遺伝子の発現が活性化される。トランスジェニックマウスは、loxP部位が隣接したプロモーターと転写物の間に不活性化挿入因子を有するNGF遺伝子が伝達された生殖系列を用いて操作を施した。アンプリコンベクターによってcreリコンビナーゼを体細胞に送達することによって、これらの動物中でNGFの発現を活性化させるのに成功した(Brooks, A. I., et al., 1997, Nat. Biotech. 15: 57-62)。発育時の様々な時点で特定の細胞中で遺伝子特に、当該遺伝子が生殖系列に欠失する(「ノックアウト」)ことが条件致死変異体となる遺伝子を発現させることができれば、幅広い用途が存在するであろう。 伝統的には、形質導入を行った後の導入遺伝子発現の安定性やヘルパーウイルスの細胞壊死効果は、CNSの細胞中にアンプリコンを介して遺伝子を送達する上で制約となる特徴である。最近の進歩によって、これらの制約の多くが解決された。プレプロエンケファリンやチロシンヒドロキシラーゼなどの幾つかのプロモーター因子は、上流に制御配列を与えると、アンプリコンベクターからの導入遺伝子の長期的な発現を駆動することができる(Kaplitt, M.G., et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9:8979-8983; Jin, B.K., et al., 1996, Hum. Gene Ther. 7:2015-2024)。位置指定的な態様で組込みを行える可能性があるか(Johnston, K.M. et al., 1997, Hum. Gene Ther. 8:359-370)、又は安定な複製エピトープを形成できる(Wang, S. and Vos, J., 1996, J. Virol. 70:8422-8430)非HSV遺伝因子を含有するハイブリッドアンプリコンの開発によって、催吐的に(emetically)安定な立体配置に前記
導入された導入遺伝子が維持されるはずである。最後に、混入ヘルパーウイルスが存在しないパッケージング系を開発することによって(Fraefel, C., et al., 1996, J. Virol. 70:7190-7197)、培養及びインビボにおける、アンプリコンベクターの細胞壊死効果が著しく弱められた。操作が容易なプラスミドベースのアンプリコンと、ヘルパーウイルスの存在しないパッケージング系とによって、HSV−1の生物学的利点を保持しつつ、ウイルスを用いた遺伝子治療に伴うリスクが軽減された合成ベクターといい得るベクターを構築することが可能となる。
【0209】
別の実施形態において、本発明は、肝細胞中にtorsin核酸分子を導入するための上記アンプリコンベクターの使用に関する。前項で論述したように、HSV−1アンプリコンベクターは、神経系の細胞内への遺伝子導入について、広く調べられている。しかし、アンプリコンベクターは、肝臓などの他の組織への遺伝子送達の効率的な手段でもあり得る。ある種の遺伝的な肝疾患は、酵素/タンパク質の置換又は肝移植によって治療することができる。しかし、タンパク質の注入は欠損を一時的に回復させ得るにすぎず、多くの細胞内タンパク質については有効でない。肝移植は臓器ドナーの数に制約があり、生涯にわたって患者の免疫を抑制する必要がある。このため、肝臓への遺伝子導入が極めて望ましく、従って、アデノウイルスベクター(Stratford-Perricaudet, L.D., et al., 1990, Hum. Gene Ther. 1:241-256;Jaffe, A.H., et al., 1992, Nat. Genet. 1:372-378; Li, Q., et al., 1993, Hum. Gene Ther. 4:403-409; Herz, J. and Gerard, R. D., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2812-2816)、レトロウイルスベクター(Hafenrichter, D.G. et al., 1994, Blood 84:3394-3404)、ハ゛キュロウイルスヘ゛クター(Boyce, F.M. and Bucher, N.R.L., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:2348-2352; Sandig, V., et al., 1996, Hum. Gene Ther. 7:1937-1945)及びHSV−1をベースとしたベクター(Miyanohara, A., et al., 1992, New Biologist 4:238-246;Lu, B., et al., 1995, Hepatology 21: 752-759;Fong, Y., et al., 1995, Hepatology 22:723-729; Tung, C., et al., 1996, Hum. Gene Ther. 7:2217-2224)を含む、様々なウイルスベクター系が、培養物及び実験動物中の肝細胞への遺伝子導入について調べられている。組換えHSV−1ベクターは、感染したマウス肝臓中で、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAG)、E. coliのβ−ガラクトシダーゼ、イヌのIX因子−CFMを発現させるために使用されてきた(Miyanohara, A., et al., 1992, New Biologist 4:238-246)。ウイルスの株を、肝実質中に直接注入するか、又は門脈を介して与える。何れかの経路によっても、遺伝子導入の効率は極めて高く、循環中と多数のβ−ガラクトシダーゼ陽性肝細胞中のHB SAG又はCFIXのレベルを上昇させることが示された。検出可能な遺伝子発現は一過性であったが、遺伝子導入後には、多数のベクターゲノムが最大2ヶ月にわたって維持されることが実証された。長期遺伝子発現の効率は、HCMV IE1プロモーターをHSV−1 LATで置換して、導入遺伝子の発現を誘導することによって、若干増加させることができた。
【0210】
本発明において「タンパク質凝集」には、何れか一方のポリペプチドを脱溶媒和の状態にするように、少なくとも2つのポリペプチドを互いに接触させる現象が含まれる。これには、ポリペプチドの固有の(native)機能的活性が失われることも含まれる。
【0211】
本発明において「脱溶媒和(de−solvation)」とは、ポリペプチドが溶解していない状態をいう。
【0212】
本発明において「治療する」とは、減少し、阻害し、緩和し、又は抑制することである。タンパク質凝集、タンパク質凝集の結果生じる細胞の機能不全、及びタンパク質凝集関連疾患を治療するのが好ましいであろう。
【0213】
本発明において「タンパク質凝集関連疾患」には、任意の疾病、疾患、及び/又は症状が含まれ、タンパク質凝集関連疾患には、神経変性疾患が含まれる。
【0214】
「神経変性疾患」は、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ハンチントン病、前頭側頭型痴呆、及び運動神経疾患である。これらの疾患には全て、異常なタンパク質の凝集と沈着という共通の顕著な特徴がある(表1)。トランスジェニック動物モデル中で変異タンパク質を発現させると、これらの疾病が再現される(A. Aguzzi and A.J. Raeber, Brain Pathol. 8, 695(1998))。神経細胞は、変異タンパク質又は誤って折り畳まれたタンパク質の毒性効果に対して極めて脆弱である。これらの神経変性疾患に共通の特徴から、有害な作用を及ぼす可能性がある望ましくないタンパク質を廃棄する正常な細胞的機序を把握すれば、類似のアプローチで治療できると推測される。以下では、かかる疾病、それらの細胞的な機能異常、これまでに知られた凝集する各タンパク質の具体例が詳述されている。タンパク質が、発生し得る一群の誤ったコンフォメーションから1つの特定の構造を採るためには、正しい折り畳みが必要である。ポリペプチドが適切な構造を採れないことは、細胞の機能と生存性にとって重大な脅威となる。従って、誤って折り畳まれたタンパク質の有害な効果から細胞を保護するために、巧妙なシステムが進化している。誤って折り畳まれたタンパク質に対する最初の防御は、分子シャペロンであり、分子シャペロンは、リボソームから出現する新生ポリペプチドと会合する(J.P. Taylor, et al., Science 296, 1991(2002))。
【表1】

【0215】
アルツハイマー病は、最も一般的な神経変性疾患であり、約200万人のアメリカ人が直接影響を受けている。本疾患は、2つの病変、すなわちプラーク(大部分がβ−アミロイド(A)ペプチドから構成される細胞外病変)と、タングル(大部分が細胞骨格タウタンパク質から構成される細胞内病変)の存在を特徴とする。アルツハイマー病は主として老年期の疾病であるが、中年期に発症する条染色体優性疾患として遺伝される。この形態の疾病には、Aペプチドをコードするアミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子(A.M. Goate, et al., Nature 349, 704(1991))と膜貫通タンパク質をコードするプレセニリンタンパク質遺伝子(PS1とPS2)(R. Sherington, et al., Nature 375, 754(1995);E. Levy-Lahad, et al., Science 269, 973(1995))という3つの遺伝子が関与していると考えられている。
【0216】
APPの代謝によって、様々なA分子種が生成されるが、主として40アミノ酸のペプチドであるA140が生成され、42アミノ酸のペプチドであるA1−42は、これより量が少ない。本ペプチドの後者の形態は、アミロイド沈着物を形成しやすい。3つの病原遺伝子の変異は、アミロイド生成能が高い種類のAがより多く産生されるように、APPのプロセッシングを変化させる(D. Scheuner, et al., Nature Med. 2, 864(1996))。プレセニリンの正確な機能はなお議論の的となっているが、AのCOOH末端の切除に深く関わっていることが、遺伝子切断実験から明らかであり(B. De Strooper, et al., Nature 391, 387(1998))、プレセニリン変異のAPPプロセッシングに対する効果についての最も単純な説明は、プレセニリン変異によて、APPをプロセッシングする複合体の機能の喪失が不完全となるというものである(L.M.Refolo, et al., J. Neurochem. 73, 2383(1999);M.S. Wolfe et al., Nature 398, 513(1999))。
【0217】
これらの知見が示唆するのは、Aの蓄積プロセスがアルツハイマー病の発病に密接に関連していること、本疾病の他の全ての特徴、すなわち、タングル並びに細胞及びシナプスの喪失は、この発病にとって二次的なものであるということである。これは、アルツハイマー病に関するアミロイドカスケード仮説である(J.A. Hardy and G.A. Higgins, Science 286, 184(1992))。この仮説が正しければ、Aの蓄積を促進する他の遺伝的要因又は環境的要因が、本疾病に対する素因となる可能性があり、この蓄積を抑える治療を探すことが治療を行うための合理的な筋道といえる。典型的な晩発型のアルツハイマー病に対するリスクを増加させることが確認された唯一の遺伝子は、アポリポタンパク質E4対立遺伝子であり(E.H. Corder, et al., Science 261, 921(1993))、アポリポタンパク質Eのノックアウトによって、Aの堆積が抑制されることが示されているが(K.R. Bales, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96, 15233(1999))、これはアミロイドカスケード仮説に符合する。アルツハイマー病への素因を与える他の遺伝子が探索されているが、これらの遺伝子も同様にAの堆積を変化させることによって、作用する可能性が最も高いと思われる(A. Myers, et al., Science 290, 2304(2000));N Ertekin-Taner, et al., Science 290, 303(2000))。
【0218】
これらの知見は、治療に対する標的としてAの代謝が枢要な経路であることを示唆するものであり、プラーク病態を発症するトランスジェニックマウスを用いて、この領域も大きく進歩した(D. Schenk, et al., Nature 400, 173(1999))。Aを用いてこれらのトランスジェニックマウスを免疫化すると、病状が緩和され、行動学的なテストの成績も教条するため、Aを利用した治療が臨床的に適切な可能性があるという証拠といえる(D. Morgan, et al., Nature 408, 982(2000))。免疫化は、治療のための現実的なアプローチとならないかもしれないが、これらの動物実験の結果は、原理的に重要な証明となる。しかし、これらの研究で使用されたAPPトランスジェニックマウスは、タングル又は細胞の喪失を示していないことを銘記すべきであり、さらに新しく完全な疾病モデルで本方法を再度調べることが重要であろう(J. Lewis, et al., Science 293, 1487(2001))。
【0219】
約50万人の米国人がパーキンソン病に罹患しており、以前は、非遺伝的な疾患であると考えられていた。しかし、パーキンソン病の病因に遺伝的要因が関わっていることを示唆する最近のデータが増加しつつある。α−シヌクレイン(PARK1)(M.H. Polymeropoulos, et al., Science 276, 2045(1997))及びハ゜ーキン(PARK2)(T. Kitada, et al., Nature 392, 605(1998))という2つの遺伝子が本疾病に関連していることが明らかである。第三の因子として、ユビキチンCOOH末端ヒドロラーゼ(PARK5)が関与していることを示す証拠があり(E. Leroy, et al., Nature 395, 451(1998);D.M. Maraganore, et al., Neurology 53, 1858(1999))、少なくとも5つの他の連鎖遺伝子座(PARK3、4、6、7、及び8)が存在し、さらなる遺伝子が寄与していることが示唆されている(M. Farrer, et al., Hum. Mol. Genet. 8, 81(1999);T. Gasser, et al., Nature Genet., 262(1998);E.M. Valente, et al., Am. J. Hum. Genet. 68, 895(2001);C.M. Vand Duijn, et al., Am. J. Hum. Genet. 69, 629(2001);A. Hicks et al., Am. J. Hum. Genet. 69(suppl.), 200(2001);M. Funayama, et al., Ann. Neurol. 51, 296(2002))。パーキンソン病の病理的な特徴は、ドーパミンニューロン内にレビ小体(大部分がαシヌクレインから構成される細胞質封入体)が堆積することである。アルツハイマー病に対する研究が示唆するように、複数の遺伝子が単一の疾患に対して影響を与える場合には、これらの遺伝子が発病性の生化学的経路を規定し得る。かかる経路がパーキンソン病に存在するかということは、なお不明である。パーキンがユビキチンタンパク質リガーゼであるという観察(E. Leroy, et al., Nature 395, 451(1998))及びパーキンとαシヌクレインが相互作用し得るという観察(H. Shimura, et al., Science 293(2001))によって、タンパク質分解に関わる経路がこの経路に当たる可能性があるという見解が広く受け入れられている。少なくとも一人の患者において、パーキンの変異によって、散発性パーキンソン病で見られるようなレビ小体の形成が引き起こされた(M. Farrer, et al., Ann. Neurol. 50, 293(2001))。パーキンのαシヌクレインとの相互作用は、シヌフリン−1によって媒介されている可能性がある(K.K. Chung, et al., Nature Med. 7, 1144(2001))。
【0220】
病理的な関連性を有するパーキンの他の基質は、パーキンが変異した患者の脳内に蓄積するのが観察されている非折り畳み型のPaelである(Y. Imai, et al., Cell 105, 891(2001))。タンパク質分解がパーキンソン病における中心的な発病経路であるとすれば、さらに別のパーキンソン病遺伝子座がこの同じ経路中の他のタンパク質をコードしていると予測されるかもしれない。ドーパミン作動性ニューロンは、ドーパミン代謝によって誘導される酸化的ストレスを通じてさらに大きなタンパク質損傷を受け続けるので、他のニューロンより、本疾病プロセスに対する感受性が高い可能性がある。しかしながら、現在のところ、パーキンソン病の分子的な基礎についての研究は、他の神経変性疾患についての研究より進歩が遅れているので、遺伝子がさらに発見されるにつれて、他の発病機序が明らかとなる可能性はある。
最も一般的なヒトのプリオン病は、孤発性のクロイツフェルトヤコブ病(CJD)である。これより一般的でないのは、家族性CJD、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー症候群、及び致死性家族性不眠症などの、遺伝型である(S.B. Prusiner, N. Engl. J. Med.344, 1516(2001))。フ゜リオン病は、伝播性の点で、他の神経変性疾患とは異なる。これらの分子的な発症は共通しているが、プリオン病は臨床的な徴候が大きく異なり、その徴候には、不眠症、精神障害、運動障害、運動失調、不眠症が含まれることがある。プリオン病の病理は、様々な程度の海綿状の空胞化、グリオーシス、神経の喪失を示す。プリオン病の1つの一貫した病理的特徴は、20番染色体の短腕によってコードされるプリオンタンパク質(PrP)に対して免疫陽性なアミロイド物質が蓄積することである。現在では、プリオンがPrPno異常なイソフォームからなるという主張を裏付ける証拠が相当存在する(J. Collinge, Annu. Rev. Neurosci. 24, 519(2001))。
【0221】
構造的な分析によって、正常な細胞PrP(PRPCと表記される)は、βプリーツシートがほとんど含まれておらず、αヘリックスが豊富な可溶性タンパク質である。これに対して、罹患個体の脳から抽出されたPrP(PrPScと表記される)は、凝集度が高く、界面活性剤に不溶性である。
【0222】
PrPSCは、PRPCに比べてヘリックスの含量が少なく、βプリーツシートの含量が多い。PRPCとPrPScのポリペプチド鎖はアミノ酸組成が同一であり、三次元のコンフォメーションのみが異なる。
【0223】
PrPは、ネイティブの状態(PrPC)と、一連のさらなる構造(自己会合して、誤って折り畳まれたPrPモノマーで構成される安定した超分子構造を作り出すことがある1つ又は一連の構造)との間で、変動することが示唆される(J. Collinge, Annu. Rev. Neurosci. 24,519(2001))。従って、PrPScは、PrPCからPrPScへの転換を促進する鋳型として働く可能性がある。病原性の自己伝播性転換反応の開始は、プリオン播種後、β−シートに富むPrPの「種(seed)」に曝露することにより誘導することが可能であり、即ちこれが伝達性の原因となる。この転換反応は、さらなる、「タンパク質X」と呼ばれる種特異的要因にも依存する可能性がある(K. Kanek et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94,10069(1997))。あるいは、PrPScの凝集及び蓄積は、孤発症例をもたらす確率論的な稀に起こる構造変化の結果として生じる可能性がある。遺伝性のプリオン病は、PrPCがPrPSc構造をとる傾向を強くする病原性の突然変異の結果である可能性が高い。
【0224】
少なくとも9種類の遺伝性の神経疾患は、トリヌクレオチド(CAG)反復が拡大することで生じるが、このような疾患には、ハンチントン舞踏病、ケネディー病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症及び6種類の脊髄小脳失調症が含まれる(H.Y. Zoghbi及び H.T.Orr,Annu.Rev.Neurosci.23,217(2000);K. Nakamuraら、Hum.Mol.Genet.10,1441(2001))。これらは全て、神経系の変性が進行し一般的に致死性の成人発症疾患である。これらの疾患に関与する遺伝子は、機能的には関連性がないと思われる。共通する性質として唯一知られているのは、各遺伝子のコード領域のCAGトリヌクレオチド反復であるが、この反復により病因タンパク質中にポリグルタミン領域が生じる。正常な集団では、ポリグルタミン領域の長さは多様であるが、一般に約10−36個の連続したグルタミン残基の範囲にある。しかし、これらの各疾患では、ポリグルタミン領域が正常な範囲を超えて拡大することにより、緩徐に進行する成人発症性の神経変性が起こる。ポリグルタミン領域が長くなるほど、より早期に発症し、疾患が重症になる。
【0225】
これらの疾患では、ポリグルタミン領域の拡大に付随する毒性に起因する共通の分子的な病態があると思われる。今回、ポリグルタミンの拡張により、病因タンパク質が、神経に対して毒性のある機能を優性に獲得することが明らかとなった。各ポリグルタミン疾患では、様々なパターンの神経変性が見られ、このため様々な臨床所見が見られるという特徴を有する。これらの疾患における、様々なニューロン集団の選択的な脆弱性に関してはあまりよく理解されていないが、各病因遺伝子の発現パターン及び正常な機能、さらに病因遺伝子産物の相互作用と関連すると思われる。疾患を引き起こすのに十分ではないとしても、個々の病因遺伝子の部分的な機能低下が、選択的なニューロンの脆弱性に寄与する可能性がある(.I.Dragatsis,M.S.Levine,S.Zeitlin,Nature Genet.26,300(2000);C.Zuccato et al., Science 293,493(2001))。
【0226】
数年前、ポリグルタミン疾患の動物モデル及びこれらの疾患の患者の中枢神経系において、ポリグルタミンの拡張によりニューロンの核内封入体が形成されることが分かった(C.A.Ross,Neuron 19,1147(1997))。これらの封入体は、他のタンパク質と会合する不溶性の凝集したポリグルタミン含有断片の蓄積物からなる。長いポリグルタミン領域を有するタンパク質が誤って折り畳まれ、極性ジッパーと呼ばれる逆平行鎖として凝集するのではないかと考えられている(M.F.Perutz,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,5355(1994))。実験系で凝集を生じるポリグルタミン長の閾値と、ヒトの疾患の原因となるCAG反復の長さとの間の相関関係から、拡張したポリグルタミンの自己会合及び凝集により毒性的な機能を獲得するようになるという論拠が支持される。幾つかの実験系においては、拡張したポリグルタミンの毒性は、目に見える封入体の形成とは無関係であったが、不溶性の分子凝集体形成は、毒性と矛盾しない性質であると思われる(.S.Sisodia,Cell 95,1(1998);I.A.Klement et al., Cell 95,41(1998);F.Saudou,S.Finkbeiner, D.Devys,M.E.Greenberg, Cell 95,55(1998);P.J.Muchowski et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,727(2002))。ポリグルタミン疾患における凝集と毒性との間に見られる相関関係から、異常なタンパク質の沈着という特徴を有する他の神経変性疾患との関連が示唆される。
【0227】
タウは、長い間、ヒト神経変性疾患において病因となる役割を担うのではないかという疑いを持たれてきたが、この見解は、フィラメント状のタウ封入体がピック病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上麻痺(PSP)、及び筋萎縮性側索硬化/パーキンソン痴呆症候群を含む広範囲の孤発性疾患の主要な神経病理学的特徴であるという観察によって裏付けられる。この疾患グループは、「タウパチー(tauopathies)」と総称される(V.M-Y.Lee, M.Goedert, J.Q.Trojanowski, Annu. Rev. Neurosci.24,1121(2001))。フィラメント状のタウの沈着は、アルツハイマー病及びプリオン病の患者の脳でも頻繁に見られる。タウタンパク質は、中枢及び末梢神経系の軸索に豊富に存在する低分子量の微小管結合タンパク質である。17番染色体上にある単一の遺伝子にコードされており、複数のタウアイソフォームが選択的スプライシングにより生じる。タウをコードする遺伝子中に存在する複数の突然変異が、前頭側頭型痴呆及びパーキンソン症候群に関連するという発見(FTDP−17)から、タウの異常型が神経変性疾患に寄与する可能性を強く裏付ける証拠が得られた(L.A. Reed, Z.K.Wszolek, M.Hutton, Neurobiol. Aging 22,89(2001))。さらに、タウ遺伝子と関連する多型は、孤発性CBD、PSP及びパーキンソン病に対するリスクファクターであると思われる(E.R.Martin et al., J. Am. Med. Assoc. 286, 2245(2001);N.Cole及び T.Siddique, Semin. Neurol. 19,407(1999))。新たな証拠から、神経変性疾患と関連するタウの異常がタウのスプライシングに悪影響を及ぼし、繊維化しやすくなるため、全体的にタウ凝集体の沈着を促進することが示唆される。
【0228】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位及び下位運動ニューロンの進行性の神経変性疾患である。ALSの症例のうち約10%が遺伝性であり、残りは弧発性の症例であると考えられている(N. Cole and T. Siddique, Semin. Neurol.19,407(1999))。遺伝的な症例のうち、約20%は、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)をコードする遺伝子の突然変異によって起こる。70種類を超える様々な病因性のSOD1突然変異が報告されているが、90位のバリンがアラニンに置換されているもの(これは劣性又は優性のうち何れでもありうる)を除き、全て優性である。神経病理学的に、ALSの特徴は、運動ニューロンの変性及び損失、そしてグリオーシスである。変性しているニューロンとグリアでは、細胞内封入体が観察される(L.P.Rowland and N. A. Shneider,N.Engl.J.Med. 344,1688(2001))。家族性ALSの神経病理学的な特徴は、主に突然変異SOD1から構成される、ニューロンのレヴィー小体様のヒアリン封入体及び星状細胞のヒアリン封入体(astrocytic hyaline inclusion)である。
【0229】
SOD1は、毒性のあるスーパーオキシドラジカルを過酸化水素と酸素に転換する反応を触媒する銅依存性の酵素である。SOD1の抗酸化機能を低下させる突然変異により、毒性のあるスーパーオキシドラジカルの凝集が起こりうる。しかし、家族性ALSに対する機能低下メカニズムにおいては、SOD1発現が起こらないようにしたトランスジェニックマウスにおいて運動ニューロン変性が見られないことから考えると、あてはまらないと思われる。さらに、トランスジェニックマウスにおいて突然変異SOD1を過剰発現させると、SOD1活性が向上するにもかかわらず運動ニューロン疾患が起こる。この結果は、変異タンパク質による有害な機能獲得の役割を裏付けるものであって、常染色体性優性遺伝と一致する。運動ニューロン変性に寄与する突然変異SOD1が酸化促進の役割を有するという仮説が提案されている。しかし、SOD1に対する特異的な銅シャペロンを除去してSOD1に銅を与えないようにし、酵素活性を阻害しても、突然変異SOD1のトランスジェニックマウスにおいて運動ニューロンの変性に何ら影響がないことから、この仮説は可能性が低い(J.R.Subramaniam et al., Nature Neurosci. 5, 301(2002))。さらに最近では、突然変異SOD1の凝集体蓄積による悪影響の可能性に注目が集まっている。凝集が発病に関連するという考え方は、突然変異SOD1媒介疾患のマウスモデルの運動ニューロンにおいて細胞内封入体が顕著に見られ、あるケースでは、それを取り囲む星状細胞内でも見られるという観察により支持される(D.W.Cleveland and J.Liu, Nature Med.6,1320(2000))。弧発性ALSにおいて様々な封入体が報告されているが、これらの封入体中にSOD1が沈着しているという証拠が寄せられることは殆どなく、凝集が弧発性ALSの発病に寄与するという確たる証拠はない。
【0230】
異常なタンパク質がどのようにして神経変性疾患を引き起こすのかということは正確には明らかになっていない。変異を受け又は誤って折り畳まれた凝集しやすいタンパク質の毒性の機序を決定することが、これらの各疾患に対する最も重要な未解決の研究課題として残されている。様々な疾患は最終的には様々な機序と関連しているが、共通の治療方法への方向性を示す共通のテーマが見え始めた。
【0231】
提案されている毒性の機序には、異常なタンパク質による重要な因子の囲い込み(A.McCampbell and K.H.Fischbeck, Nature Med.7,528(2001);J.S.Steffan et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97, 6763(2000);F.C. Nucifora et al., Science 291,2423(2001))、UPS(4)の阻害、カスパーゼ及びアポトーシスの不適切な誘導(M.P. Mattson, Nature Rev.Mol.Cell Biol. 1, 120(2000))、及び、軸索輸送及びシナプスの完全性の維持等のニューロン特異的な機能の凝集物による阻害(D.W. Cleveland,Neuron 24,515(1999);P.F.Chapman et al., Nature Neurosci.2,271(1999))が含まれる。例えば、変異ポリグルタミンを含有するタンパク質は、CREB結合タンパク質及び他のタンパク質アセチラーゼに結合して、これらを枯渇させる(A. McCampbell and K.H. Fischbeck, Nature Med.7,528(2001); J.S.Steffan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 6763(2000);F.C. Nucifora et al., Science 291,2423(2001))。これがポリグルタミン毒性に寄与するということは、デアセチラーゼ阻害剤が毒性効果を軽減できるという発見により支持される(A. McCampbell et al., Proc.Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98, 15179(2001);J.S. Steffan et al., Nature 413,739(2001))。最近、変異ポリグルタミンが、プロテアソーム活性を妨害することができるという証拠が得られた(N.F.Bence, R.M. Sampat, R.R. Kopito, Science 292,1552(2001))。細胞の生存を維持することにプロテアソームが重要な役割を果たすことから、ニューロンの機能不全とニューロンの死を媒介する上で変異タンパク質のかかる効果が重要であることが示唆される。ポリグルタミン疾患、ALS、及びアルツハイマー病の培養細胞モデルにおいて、カスパーゼが活性化されることとアポトーシスの発生がよく観察されており(M.P. Mattson, Nature Rev. Mol. Cell Biol.1,120(2000))、トランスジェニックマウスモデルにおいてカスパーゼ阻害効果を軽減することにより、ポリグルタミン疾患及びALSにおいてアポトーシスが役割を果たしていることが示唆される(D.W. Cleveland,Neuron 24,515(1999))。患者の病理解剖試料においてアポトーシスを実証することはさらに困難であるが、それはおそらく、ヒトにおいてこれらの疾患が長期間かけて緩徐に進行するからであり、又は別の細胞死経路が関わっている可能性があるからであると考えられる(S.Sperandio, I. de Belle, D.E. Bredesen, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 14376(2000))。ALSの場合、軸索輸送において神経フィラメントの変化及び欠失が起こり(D.W. Cleveland, Neuron 24, 515(1999))、アルツハイマー病のトランスジェニックモデルにおいて早期のシナプス病変が見られる(P.F. Chapman et al., Nature Neurosci. 2, 271(1999))。他の関連メカニズムには、興奮毒性、ミトコンドリア機能障害、酸化的ストレス、及び小グリア細胞の炎症反応が含まれる。実際に、変異タンパク質又は誤って折り畳まれたタンパク質の神経変性疾患における直接的な影響の下流では、毒性の機序は多様であると思われる。
【0232】
神経変性疾患における毒性タンパク質の役割についてのこのような洞察から、治療に対する合理的なアプローチ方法が示唆される。第一に、毒性タンパク質の発現を抑制するか、又は分解を促進することが効果的な治療となるうる。トランスジェニックマウスにおいて、変異ポリグルタミンの発現を低下させることにより、表現型を元に戻すことができ(A. Yamamoto, J.J.Lucas, R.Hen, Cell 101,57(2000))、また、免疫によるβ−アミロイドの除去により、アルツハイマー病の動物モデルで同様の効果が得られる(D. Morgan et al., Nature 408, 982(2000))。毒性タンパク質の断片は、その全長タンパク質よりも病原性が強く、特異的な細胞内局在により毒性が強まっている可能性があるので、タンパク質分解によるプロセッシングと細胞内輸送をブロックすることは、理にかなった治療アプローチである。他の治療方針には、タンパク質の凝集傾向の抑制(そのタンパク質自身又は他のタンパク質のいずれかとの凝集)、誤って折り畳まれたタンパク質の毒性効果を防御するヒートショックタンパク質のアップレギュレーション、及び、神経細胞のアポトーシスを引き起こすといった下流への影響のブロックが含まれる。ヒートショックタンパク質の過剰発現により、変異ポリグルタミン及び変異α−シヌクレイン両方の毒性を軽減することができ(J.M. Warrickら、 et al., Nature Genet.23,425(1999); P.K. Auluck et al., Science 295,865(2002))、カスパーゼ阻害により、ポリグルタミン及び変異SOD両方の毒性を軽減することができる(V.O. Ona et al., Nature 399, 263(1999);M.W. Li et al., Science 288, 335(2000))ことから、このような種類の治療的介入は、様々な神経変性疾患に適用できるであろう。神経変性疾患に関与する毒性タンパク質の発現をブロックするか、又は、プロセッシング及び凝集に変化を与えるか、又は、ニューロンの機能及び生存に対してこれらのタンパク質が及ぼす悪影響を緩和する薬剤を同定するために、医薬のスクリーニングが現在行われている。
【0233】
捻転ジストニアの分子的基礎はまだ明らかではない。Ozeliusらは、ヒト染色体9q34に位置するTOR1Aと呼ばれる原因遺伝子を同定した(L.J. Ozelius et al., Nature Genetics 17, 40(1997))。TOR1A遺伝子から、TOR−Aと呼ばれるタンパク質が産生される。早期発症捻転ジストニア患者の多くにおいて、ユニークな1個のコドンの欠失が見られるが、その欠失の結果、TOR−Aのカルボキシ末端においてグルタミン酸(GAG)残基が欠損することになる。機能を欠くtorsinタンパク質が産生される。とりわけ、これは、疾患染色体で観察される唯一の変化であった(L.J. Ozelius et al., Genomics 62,377(1999); L.J.Ozelius et al., Nature Genetics 17,40(1997))。最近の論文で、カルボキシ末端に18塩基対、すなわち6個のアミノ酸がさらに欠失していることが報告されている。これは、GAG欠失以外に同定された最初の突然変異である(L.J. Ozelius et al., Nature Genetics 17,40(1997))。
【0234】
線虫(Caenorhabditis elegans)では、ヒトTOR1A遺伝子に対して最も同一性が大きなアミノ酸配列を有する相同体は、tor−2遺伝子産物である。この線虫は、tor−1と呼ばれる第2のtorsin遺伝子も有する。TOR1A遺伝子を同定したオリジナルの論文では、線虫のtorsin様のタンパク質について記述されており、ooc−5遺伝子をコードすることが示されている(L.J.Ozelius et al., Nature Genetics 17,40(1997), S.E.Basham, and L. E. Rose, Dev Biol 215 253(1999))。この3種類の線虫(C.elegans)torsin遺伝子は、互いに配列がよく似ている(L.J. Ozelius et al., Nature Genetics 17,40(1997))。
【0235】
C. elegansの染色体IVにおいて、遺伝子tor−1及びtor−2は互いに隣り合っており、向きが同じである。これらの2種類の遺伝子間の距離は、わずか348塩基対である。このことから、おそらく、これらの遺伝子は一緒に配置されて1つのオペロン単位を形成しているものと思われる(Blumenthal, T. 1998. Gene clusters and polycistronic transcription in eukaryotes. Bioessays 6:480-487)。興味深いことに、ヒトもTOR1A及びTOR1Bという2種類のtorsin遺伝子を持っており、タンパク質torsinA及びtorsinBが産生される。これらの2種類のタンパク質は、70%の配列類似性がある(L.J. Ozelius et al., Genomics 62,377(1999))。前記ヒト遺伝子も、同じ染色体(9q34)上に位置しているが、逆方向である(L.J. Ozelius et al., Nature Genetics 17,40(1997); Ozelius LJ, Hewett JW, Page CE, Bressman SB, Kramer PL, Shalish C,de Leon D, Brin MF, Raymond D, Jacoby D, Penney J,Fahn S,Gusella JF, Risch NJ, Breakefield XO. 1998.The gene(DYT1)for early-onset torsion dystonia encodes a Novel protein related to the Clp protease/heat shock family. Advances in Neurology.78:93-105)。
【0236】
TOR−Aタンパク質は、AAA+/Hsp100/Clpファミリーのタンパク質との類似性が低い(25%−30%)(L.J.Ozelius et al., Genomics 62,377(1999); Neuwald AF, Aravind L,Spouge JL, Koonin EV.1999. AAA+:A class of chaperone-like ATPases associated with the assembly,operation,and disassembly of protein complexes.Genome Res 9:27-43)。このファミリーのメンバーは、様々な機能を有する、ATPaseであり、露出面に結合してタンパク質凝集を妨害し、損傷を受けた基質の修復を制御する(Schirmer EC, glover JR, Singer MA,Lindquist S.1996.Hsp100/Clp proteins:a common mechanism explains diverse functions. Trends Biochem Sci 21:289-296)。ヒートショックタンパク質は、シャペロン機能と関連するいくつかの様々な活性を有する。これらのタンパク質は、タンパク質の誤った折り畳みを阻害し、タンパク質シグナリングを制御し、タンパク質が正しく局在するようにする。ヒートショックタンパク質は、細胞中の他のタンパク質が正しく折り畳まれない場合に活性化されると考えられている。ヒートショックタンパク質の活性化が行われないと、誤って折り畳まれたタンパク質が凝集体を形成しやすくなる。これは、タンパク質が凝集体を形成しているアルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン舞踏病等の疾患の原因である可能性があり得る。
【0237】
最近、Hsp40及びHsp70ヒートショックファミリーが、ポリグルタミン凝集の抑制に関連していることが示された(Chai Y, Koppenhafer SL,Bonini NM, and Paulson HL.1999. Analysis of the Role of Heat Shock Protein(Hsp)Molecular Chaperones in Polyglutamine Disease. The Journal of Neuroscience.19(23): 10338-10347)。ポリグルタミン神経変性疾患である、マジャド−ジョゼフ病(Machado−Joseph病)とも呼ばれる脊髄小脳失調3型及びその関連病因タンパク質であるataxin3を調べる際に、彼らは、凝集体が細胞に及ぼす状態とポリグルタミン凝集体に対するシャペロンの影響について調べた。その実験により、Hsp40及びHsp70が、ポリグルタミン凝集に対する細胞反応の一部として使用されることが示された。これらのシャペロンは、凝集物の毒性効果を低下させることができる。変異ataxin−3が存在することにより、細胞においてストレス反応が誘導され、シャペロンHsp70が活性化された。このため、細胞がポリグルタミンタンパク質を異常なものとして認識し、これらの凝集体の縮小を促進するために、シャペロンを動員する。
【0238】
さらに、torsinAが細胞内の膜に局在するという最近の知見から、おそらくtorsinタンパク質がシャペロン機能を有することが示唆される(Kustedjo K,Bracey MH, Cravatt BF. Torsin A and Its Torsin Dystonia-associated Mutant Forms Are Lumenal Glycoproteins That Exhibit Distinct Subcellular Localizations.2000.J of Biol Chem 275: 27933-27939)。蛍光抗体法を用いて、TOR−Aが、小胞体常在タンパク質であるBiPと非常によく共局在することが示された。興味深いことに、ジストニア患者で見られるようにグルタミン酸残基を欠いたTOR−Aの突然変異体は、BiPの免疫反応がない、大きな凝集体様の構造で見られる(Kustedjo K,Bracey MH, Cravatt BF. Torsin A and Its Torsin Dystonia-associated Mutant Forms Are Lumenal Glycoproteins That Exhibit Distinct Subcellular Localizations. 2000.J of Biol Chem 275: 27933-27939)。これは、torsinAが、小胞体タンパク質の特徴であるグリコシル化を受けており、小胞体マーカーであるPDIと共局在しているという他の報告を支持する。変異TOR−Aは、大きな細胞質封入体を成長させるということも示された(Hewett J, Gonzalez-Agosti C,Slater D,Ziefer P,Li S, Bergeron D,Jacoby DJ,Ozelius LJ,Ramesh V,and Breakefield XO.2000. Mutant torsin A, responsible for early-onset torsion dystonia,forms membrane inclusions in cultured neural cells. Human Molecular Genetics 9:1403-1413)。
【0239】
本発明のさらなる実施形態は、ナノ粒子に関する。本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドは、ナノ粒子に取り込ませることができる。本発明の範囲に属するナノ粒子には、単一分子レベルの粒子の他、顕微鏡的な特性を示す粒子の凝集物が含まれるものとする。上記ナノ粒子を使用し、作製する方法が、本分野において公表されている(米国特許第6,395,253号、第6,387,329号、第6,383,500号、第6,361,944号、第6,350,515号、第6,333,051号、第6,323,989号、第6,316,029号、第6,312,731号、第6,306,610号、第6,288,040号、第6,272,262号、第6,268,222号、第6,265,546号、第6,262,129号、第6,262,032号、第6,248,724号、第6,217,912号、第6,217,901号、第6,217,864号、第6,214,560号、第6,187,559号、第6,180,415号、第6,159,445号、第6,149,868号、第6,121,005号、第6,086,881号、第6,007,845号、第6,002,817号、第5,985,353号、第5,981,467号、第5,962,566号、第5,925,564号、第5,904,936号、第5,856,435号、第5,792,751号、第5,789,375号、第5,770,580号、第5,756,264号、第5,705,585号、第5,702,727号、及び第5,686,113号)。
【0240】
本発明のさらなる実施形態は、マイクロアレイに関する。本発明のポリヌクレオチドとポリペプチドは、マイクロアレイに取り込ませることができる。本発明の範囲に属するマイクロアレイには、単一分子レベルの粒子の他、顕微鏡的な特性を示す粒子の凝集物が含まれるものとする。上記ナノ粒子の使用方法と作製方法は、本分野において公表されている(米国特許第6,004,755号)。
【0241】
以下の実施例を参考にしながら、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0242】
<方法と材料>
プラスミドの構築
線虫の全mRNAから、プライマー1(5’−AACGCGTCGACAATGAAAAAGTTCGCTGAAAAATGGTTTCTATTG 3’)(配列番号11)及びプライマー2(5’AAGGCCTTCACAACTCATCATTAAACTCTTTCTTCG)(配列番号12)によるRT−PCRを用いて、tor−2 cDNAを単離した。簡潔に述べると、C.elegansの混合群から、TriReagent(Molecular Research Center)を用いてトータルRNAを単離し、その後、PolyATtract mRNA Isolation System III(Promega)を用いてmRNAを単離して、Life TechnologiesのRT-PCR用Superscript First-Strand Synthesis Systemを用いてcDNA合成を行った。配列決定を行い、推定したORF(WormBase Y37AlB.13)を確認した。PCRによる位置指定突然変異誘発を利用してtor−2 cDNAの突然変異バージョンを作製した。tor−2のΔ368突然変異体を得るために、プライマー1及びプライマー3(5’ GGGAAAAATTCAAGATCAAGAACTCTTTGCATG3’)(配列番号13)を用いて第一回目のPCRを行い、およそ1kbのcDNAを得た(アミノ酸1−367に対応)。同時に、プライマー2及びプライマー4(5’ CATGCAAAGAGTTCTTGATCTTGAATTTTTCCC)(配列番号14)を用いて、およそ200bpの断片(アミノ酸369−412に対応)を増幅した。プライマー1及び2を用いて、この2種類の断片を連結して増幅させ、完全なcDNAを再構築した。以下のプライマーを用いたPCRにより、tor−2のΔNDEL体も作製した。プライマー5(5’ CTAGCTAGCATGAAAAAGTTCGCTGAAAAATGG3’)(配列番号15)及び末端NDELアミノ酸をコードするDNAを欠失しているプライマー6(配列番号16)(5’GGGGTACCTCAAAACTCTTTCTTCGAATTGAGTG3’)(配列番号17)を利用した。配列決定を行い、tor−2の突然変異体の確認を行った。NheI及びKpnIの酵素を用いて、全てのtor−2 cDNAをベクターpPD30.38にサブクローニングした(Fire, A, Harrison, SW, Dixon, D. 1990. A modular set of lacZ fusion vectors for studying gene expression in Caenorhabditis elegans. Gene 93:189-198)。
【0243】
プラスミド、unc−54::Q19−GFP及びunc−54::Q82−GFPは、Dr.Rick Morimoto、Northwestern University(Satyal,S, Schmidt,E, Kitagaya, K,Sondheimer,N, Lindquist, ST,Kramer, J,Morimoto,R.2000). Polyglutamine aggregates alter protein folding homeostasis in Caenorhabditis elegans.Proc Natl Acad Sci USA 97:5750-5755.)より提供された。
【0244】
C.elegansのプロトコール
標準的な手法を用いて線虫を維持した(Brenner,S. 1974. The genetics of Caenorhabditis elegans. Genetics.77:71-94)。ポリグルタミン−GFP融合物をコードするプラスミドの混合物及びtorsin構築物を、rol−6マーカー遺伝子とともに、初期の成虫段階(early adult)にある雌雄同体の性腺に注入した。前記注入用混合物には、標準的な微量注入法を用いてpPD30.38−Q82−GFP又はpPD30.38−Q19−GFP、pRF4(rol−6[su1006]ドミナントマーカー)及び、pPD30.38−tor−2、pPD30.38−Δ368tor−2又はpPD30.38−ΔNDELtor−2のいずれかが含有されていた(Mello CC, Kramer JM, Stinchcomb D, Ambros V. 1991.Efficient gene transfer in C.elegans: Extrachromosomal maintenance and integration of transforming sequences.EMBO J 10: 3959-3970 1992)。プラスミドDNAの各組み合わせに対して、染色体外アレイを発現する線虫株を得た。アレイを安定的に感染させた後、コバルト60から発せられる3500−4000radのγ照射を用いて、ゲノムへの組み込みを行った(Inoue, T,Thomas,J.2000.Targets of TGF-signaling in Caenorhabditis elegans dauer formation. Develop.Biol.217:192-204)。すべての構築物に対して、安定的組み込みが行われた株を得た。
【0245】
蛍光顕微鏡
Endow GFP HYQ及びTexas Red HYQ フィルターキューブ(Chroma,Inc.)を備えたNikon Eclipse E800エピ蛍光顕微鏡を使用して、線虫を調べた。Spot RT CCDカメラにより画像を取り込んだ(Diagnostic Instruments,Inc.)。MetaMorph Software(universal Imaging,Inc.) を使用して、画像への擬似カラー割り当て、画像の重ねあわせ、及び凝集サイズの定量を行った。凝集サイズと量の統計解析は、Statisticaソフトウェアを用いて行った。
【0246】
<結果>
C.elegans TOR−2をコードするcDNAの単離及び位置指定突然変異誘発
いくつかの種類の実験で利用する重要な資源として、C.elegansのtor−2遺伝子に対して予想される全コード領域に対応するcDNAを単離した。両ストランドのDNA配列を調べ、予想されたオープンリーディングフレームを確認して、完全に正しいことを明らかにした。さらに、全てのエクソン及びイントロン境界も同様に確認された。この遺伝子にコードされるTOR−2タンパク質に、C.elegansの他のtorsinでは見られなかったユニークなN末端部分が含有されるため、これは重要であった(図1−3)。1.3kbのtor−2 cDNAは、412個のアミノ酸を有する予想タンパク質をコードする。C.elegans抽出物において、cDNA由来のほぼ正確な分子量(49kD)の単一のタンパク質が、TOR−2特異的ペプチド抗血清により認識される。体壁筋肉細胞で発現されるC.elegansのunc−54プロモーターエレメントの制御下に入るように、tor−2 cDNAをpPD30.38ベクターにサブクローニングした(Fire,A, Harrison, SW, Dixon,D. 1990.A modular set of lacZ fusion vectors for studying gene expression in Caenorhabditis elegans. Gene 93:189-198;Satyal,S, Schmidt,E, Kitagaya,K, Sondheimer,N, Lindquist,ST, Kramer,J, Morimoto,R. 2000)。TOR−2タンパク質の最初の構造機能解析を行うために、2種類のtor−2 cDNA改変体も作製した。これらの改変cDNA両方を、pPD30.38にサブクローニングした。位置指定突然変異誘発により、ヒトの原発性捻転ジストニアを引き起こすドミナントネガティブなタンパク質の発現を模倣するように設計したcDNAを作製した(Ozelius LJ, Hewett JW, Page CE, Bressman SB, Kramer PL, Shalish C, de Leon D, Brin MF, Raymond D, Corey DP, Fahn S, Risch NJ, Buckler AJ, Gusella JF, Breakefield XO. 1997. The early-onset torsion dystonia gene(DYT1) encodes an ATP-binding protein. Nature Genetics 17:40-48)。これは、セリンをコードするアミノ酸368においてコドンを欠失した変異tor−2 cDNAからなった。ヒトの場合、TOR1Aにおいて対応しているアミノ酸は、グルタミン酸である。セリン及びグルタミン酸の両者とも極性アミノ酸である。さらに、TOR−2タンパク質において、最もC末端側の4個のアミノ酸(NDEL)を欠失しているtor−2 cDNAを作製した。NDEL配列は、小胞体残留シグナルであると推定される(データは示さない)。
【0247】
TOR−2の共発現により、ポリグルタミン反復が誘導するタンパク質凝集が抑制される。
【0248】
Satyal及び共同研究者ら(2000)は、性質がよく分かっているunc54プロモーターを使用して、C.elegansの体壁筋肉細胞で異所的に発現されたGFP融合ポリグルタミン反復の凝集体を人工的に作り出した。GFPレポータータンパク質の凝集は、ポリグルタミン領域の長さに依存する。例えば、19個のグルタミン(Q19)とGFPとの融合物の体壁における発現は、通常は細胞質中に均等に分布し拡散しているGFP局在性を変化させない(図4a)。しかし、82個のグルタミン(Q82)領域をGFPと融合させた融合物の場合、GFPの局在性に変化が生じているのが明瞭であり、全ての動物において凝集体が離散している(図4b)。
【0249】
適切なベクターを導入し(unc−54::tor−2 cDNA)、安定したトランスジェニック動物を選択した後、同じ高レベルの構成的プロモーターの制御下にあるTOR−2タンパク質を共発現させたところ、Q82−GFPを含有する動物中で両GFP含有凝集体の数が劇的に低下する(図4c)。これらのうち多くの動物において、実際に、体壁筋肉で再び蛍光が拡散して見られるようになる。TOR−2とQ19との共発現により、正常なGFPの細胞質分布が変化せず、従って、この共発現により凝集は誘導されないと考えられる。これに対して、このタンパク質のC末端におけるアミノ酸368が部位特異的に欠失しているTOR−2(Δ368)とQ82−GFPとの共発現により、これらの動物における体壁での蛍光を回復させることはできない(図4d)。興味深いことに、Q19とTOR−2Δ368とを共発現させた場合、GFPの全体的な細胞質局在性は、Q19−GFP動物で見られた局在性と違いはない。
【0250】
様々な構築物間で、Q82−GFP凝集体のサイズは統計的に有意な差がある。Q82、Q82+TOR−2、及びQ82+TOR−2Δ368動物各30匹から集計した凝集体の平均サイズを記録した。Q82動物の凝集体の平均サイズは、2.7μmであり、一方、Q82+TOR−2の平均サイズは1.6μmであった(図5)。対応のあるt−検定によれば、この差は有意である(p < 0.001)。さらに、Q82と、凝集サイズが4.8μmであるQ82+TOR−2Δ368動物との間の凝集サイズの差も有意であった(p < 0.001)(Q82の場合は2.7μmであることと比較)。これらの差は、図6a−6bで示すように、顕微鏡写真で簡単に観察される。
【0251】
さらに凝集サイズの分布は、トランスジェニック構築物間で異なる。0−3μm、3−5μm、5−9μm、及び9−26μmといったカテゴリに凝集サイズを分類すると、Q82動物由来の凝集体は、それぞれ、63%、25%、9%及び3%というように分布する(表2)。Q82とTOR−2を共発現する動物では、凝集サイズのばらつきは少なく、90%の凝集体が最小サイズのグループに分類され、3−5μm及び5−9μmのカテゴリーにそれぞれ、7%及び3%ずつ分類される。逆に、Q82及びTOR−2Δ368を共発現する動物由来の凝集体ではばらつきの程度が大きく、5−9μm及び9−26μmの両グループにそれぞれ16%ずつ分布する。
【0252】
表2:Q82凝集体サイズのばらつき。様々な各処理について、凝集体をサイズにより分類した。各処理群の総凝集体数を基にパーセンテージを計算した。
【表2】

【0253】
Q82−GFP株の場合、全体的に成長不良が見られる。野生型動物と比較して、この株は成長速度が遅い(特定の時点における幼虫の成長段階により判断)(Satyal,S, Schmidt,E, Kitagaya,K, Sondheimer,N, Lindquist,ST,Kramer,J,Morimoto,R. 2000.Polyglutamine aggregates alter protein folding homeostasis in Caenorhabditis elegans. Proc Natl Acad Sci USA 97: 5750-5755)。野生型及び突然変異torsinの両者を、Q82−GFPと共発現させて、torsinタンパク質がこの明らかなホメオスタシス的負荷を緩和するかどうかを調べた(図4a−4d)。野生型tor−2と共発現させた場合、Q82−GFP動物における成長阻害に対して明確な影響はなかった。しかし、親の産卵から48時間後、Q82−GFP動物の場合はL1/L2ステージにあるものが46%である一方、tor−2Δ368を共発現させたものでは71%がL1/L2ステージにとどまっているというように、成長阻害効果が著しく増強された。tor−2Δ368をQ19と共発現させた場合及び野生型tor−2の場合は、両方とも動物の成長速度は変化しなかった(表3参照)。
【0254】
表3:成長分析 成虫に規定の時間の間産卵させて、その後プレートから除去した。親を除去してから48時間後に、幼虫のステージに従い、その子孫を分類した。
【表3】

【0255】
他のtorsin遺伝子の共発現により、ポリグルタミン反復により誘導されるタンパク質凝集が抑制される。
【0256】
tor−2をooc−5及びTOR−Aで置き換えたこと以外は、上述のQ82+tor−2共発現実験に従い、実験(つまりQ82+ooc−5及びQ82+TOR−A実験)を行った。さらに、ooc−5及びtor−2とQ82を共発現させた(つまり、Q82+tor−2+ooc−5)。図10c−10eにおいて、ooc−5、TOR−A及びtor−2+ooc−5をそれぞれQ82と発現させることにより、tor−2単独の場合のように、Q82発現パターンがさらに拡散し、Q82凝集体が減少した。さらに、OOC−5と組み合わせてTOR−2を発現させると、Q82凝集体のサイズ縮小が明らかに促進された。おそらくこれは、そのようなtorsinタンパク質が複合体中に少なくとも部分的に存在することを示している。
【0257】
ポリグルタミン凝集は時間経過とともに蓄積する。
【0258】
成虫になった時にQ19−GFP動物は小さな凝集体を有しており、動物が加齢していくに従い凝集体のサイズが大きくなった。特に、Q19−GFP、Q19−GFP+TOR−2、又はQ19−GFP+TOR−2Δ368を発現する成虫を、7日間にわたり毎日調べ、凝集サイズを記録した(図7)。成虫第1日目のQ19−GFP発現線虫の平均凝集体サイズは、7.5μmであり、第2日目には7.9μmになった。凝集体のサイズは、第3日目に8.9μmまで大きくなり、第4日目には、8.5μmに縮小した。第5、6、及び7日目には、平均サイズが少し変動したが、平均サイズ8.2μm周辺にとどまっていた。TOR−2を共発現する線虫では、凝集体が著しく小さいことが分かった。第1日目の凝集体平均サイズは4.8μmであった。凝集体サイズは、時間が経つにつれて縮小して安定し、第4日目には平均サイズが3.0μmとなり、第6日目には、平均サイズが3.8μmとなった。特に、TOR−2Δ368を共注入した線虫の凝集体のサイズは毎日拡大し続けた。第1日目に、平均凝集サイズは、10.3μmであったが、第4日目までに、12.8μmとなり、分析の最終日には平均の凝集体サイズが15.0μmとなった。統計解析から、時間経過による有意差がないことが明らかになった。しかし、処理の結果においては差異があり、これらの差異は時間が経過しても継続した。TOR−2タンパク質処理を行ったものでは、平均して他の処理群よりも凝集サイズが小さく(3.9μm)、Q82で処理した場合に平均凝集サイズが8.2μmであったことと比較すると、一貫して小さかった。変異torsinタンパク質の場合は、平均12.8μmであり、野生型torsinタンパク質及びQ82の両方と有意差があった。
【0259】
TOR−2抗体及びSDS−PAGE
線虫の全タンパク質抽出物のSDS−PAGEを行った後、続いてウェスタンブロットを行い、そのブロットをTOR−2抗体で染色した(図8)。それにより、TOR−2タンパク質レベルが野生型N2線虫、Q19及びQ82線虫で最低量であることが示された。Q19/TOR−2、Q82/TOR−2、Q19+TOR−2/Δ368及びQ82+TOR−2/Δ368のTOR−2タンパク質レベルが、N2、Q19、及びQ82よりも高いことが分かった。しかし、この4種類の野生型及び突然変異torsin構築物間のレベルは同等であった。アクチン対照を使用し、使用した全線虫に対して同等であることを確認した。
【0260】
抗体染色
線虫全体をTOR−2抗体で染色したところ、染色が線虫全体に拡散していることが分かった(図9)。しかし、Q82線虫において、凝集体を完全にぴったりと環状に取り囲む部分で、torsinの局在レベルが際立って他よりも高くなっていた。
【0261】
<考察>
早発性捻転ジストニアは、TOR−Aのカルボキシ末端におけるグルタミン酸残基の欠失を引き起こす優性突然変異により発症する。殆どのジストニアの症例において、この欠失が見られる。これは、この領域がそのタンパク質が正しく機能するために非常に重要であることを意味する。最近、AAA+ファミリーメンバーが6員の環状オリゴマーを形成することが示された。この環構造は、他のタンパク質との会合に使用される。Ozeliusら(1997)は、TOR−Aが環を形成するならば、この領域におけるグルタミン酸の欠失が、その環構造において重要な要素であるかもしれないという仮説を立てた。このアミノ酸が欠失していることが、周囲のタンパク質とTOR−Aとの関係に影響を及ぼしている可能性がある(Ozelius LJ, Hewett JW, Page CE, Bressman SB, Kramer PL, Shalish C, de Leon D, Brin MF, Raymond D, Corey DP,Fahn S, Risch NJ, Buckler AJ, Gusella JF, Breakefield XO.1997. The early-onset torsion dystonia gene(DYT1) encodes an ATP-binding protein. Nature Genetics 17: 40-48)。
【0262】
in vivoアッセイを利用して、ポリグルタミン凝集体に対するtorsinの影響を調べる。Q82とTOR−2タンパク質との共発現により、体壁筋肉細胞における凝集体形成が低下した。Q82+TOR−2に対する抗体を用いた局在分析を行ったところ、TOR−2タンパク質が緊密なドーナツ状に凝集体を取り囲んでいるように見えることが明らかとなった。これは、これらのタンパク質が凝集体とどのように相互作用しているかを示す最初の知見であり興味深い。
【0263】
細胞内封入体における凝集体形成及びその存在は、多くの神経変性疾患の特徴である。全ての細胞は、誤って折り畳まれたタンパク質や損傷を受けたタンパク質を処理する系を有する。この系は、ユビキチンプロテアソーム経路(UPS)と呼ばれる。この系は、分解すべきタンパク質にユビキチンで「タグを付加する」ことにより働く。このようにして、そのタンパク質は分解の標的となる。しかし、最近の報告で、タンパク質凝集体の存在によりこの経路が妨害されることが示されている(Benceら、2001)。Benceらは、凝集体の形成を誘導することが知られている2種類のタンパク質を発現させることにより、UPSを完全に抑制することができた。この結果、ユビキチンでタグを付加されたタンパク質を細胞が除去できずに蓄積されることになった。 この蓄積に加えて、さらにタンパク質の異常な折り畳みにより、細胞死がもたらされた(Bence NF, Sampat RM, Kopito RR. Impairment of the Ubiquitin-Proteasome System by Protein Aggregation. Science 292:1552-1555)。
【0264】
Johnstonら(1998)は、アグリソームと呼ばれる、プロテアソーム系とは異なる構造について記述した(Johnston JA, Ward CL, Kopito RR.Aggresome:A Cellular Response to Misfolded Proteins. J of Cell Biology 143(7):1883-1898)。Kopitoら(2000)による関連の総説において、彼らは、細胞が凝集したタンパク質を除去できないことを「細胞の消化不良“cellular indigestion”」と述べている(Kopito RR, Sitia R. Aggresomes and Russell Bodies. 2000. EMBO Reports 1(3):225-231)。彼らの理論は、アグリソームが、この「細胞の消化不良」に対する反応であるというものである。細胞のタンパク質凝集体破壊能を超えると、アグリソームが形成される。アグリソームの形成は、細胞ストレスの結果である。これは構造的に非常によく組織化されている。しかし、アグリソームは、微小管制御中枢(MTOC)でのみ形成される。微小管(MT)は、凝集し又は誤って折り畳まれたタンパク質を分解するためにアグリソームへと輸送するために使用される。アグリソームのための支持骨格を形成するためには、中間径フィラメントも必要であり、特異的な形式で再編成される。アグリソームには、分解を行うためにプロテアソーム、ユビキチン、及び分子シャペロンが大量に含有されている。興味深いことに、多くの神経変性疾患で見られる封入体にも、アグリソームで見られるものと同じ成分が様々な量で含有されている。これらの封入体には、病因タンパク質の凝集体が含有されている。従って、「細胞の消化不良」と疾患との間には明確なつながりがある(Johnston JA, Ward CL, Kopito RR. Aggresomes:A Cellular Response to Misfolded Proteins.1998. J of Cell Biology 143(7):1883-1898;Kopito RR, Sitia R.Aggresomes and Russell Bodies. 2000.EMBO Reports 1(3):225-231)。
【0265】
抗体染色の局在性、及びTOR−2が凝集体を減少させ部分的な体壁染色を回復させることができるという事実に基づいて、おそらくTOR−2がユビキチン−プロテアソーム経路及び/又は小胞体関連分解に関連すると推測されることは興味深い。変異tor−2、TOR−2/Δ368のQ82との共発現により、野生型TOR−2で見られるような、体壁で部分的に染色が拡散して見られる状態を回復させることはできず、むしろ、凝集が亢進するように見える。これは、上記遺伝子のこの部分が、正しく機能するために必要不可欠であるという理論を支持する。小胞体局在シグナル、KEDLとホモロジーを有するtor−2のNDEL領域を欠失させた場合、TOR−2/Δ368で見られるような凝集体の亢進は起こらなかった(データは示さない)。NDELの欠失により、おそらくTOR−2が小胞体に保持されず、細胞質中で遊離していると思われる。おそらく、それは濃度がより高く、凝集体とより相互作用しやすいと考えられる。また、成長分析データにおいて、産卵から48時間後の時点で、L1/L2ステージにあるものがQ82線虫の場合46%であったのに対して、これらの線虫のうち71%がL1/L2ステージに留まっていたことから、「グルタミン酸領域」が成長に非常に重要であることが示唆される。
【0266】
このデータは、TOR−2が分子シャペロンとしての役割を有することを裏付ける。さらに、このデータは、TOR−A、及びooc−5が分子シャペロンであるということも支持する。torsinタンパク質の活性の少なくとも1つがシャペロン活性であることが明らかに示されたのはこれが最初である。さらに、これらのtorsinタンパク質は、in vivoでのQ82タンパク質凝集量を明らかに減少させる。
【0267】
TOR−Aは、パーキンソン病患者のレビ小体においてα−シヌクレインとともに共局在する。α−シヌクレインは、これらの封入体中で誤って折り畳まれている。torsinは、タンパク質の正しい折り畳みを補助し、又は、ユビキチン−プロテアソーム系による、誤って折り畳まれたタンパク質の分解を補助することができる可能性がある。抗体を用いた局在性の観察により、凝集体周囲にタイトな環状のtorsinタンパク質が見られるという事実から、分解における役割がさらに強く示唆される。Q82と共発現させた場合に、部分的な体壁の染色を回復することができたが、これは、凝集体が除去されたことを意味する。凝集体はまだ存在したが、Q82単独の場合と比較して小さかった。
【0268】
Q19の時間経過による分析により、時間が経つにつれて凝集が亢進することが示された。これは、時間経過とともに悪化するハンチントン舞踏病患者等、多くの疾患に当てはまる。このモデルは、薬物療法と密接な関わり合いを持つ可能性がある。TOR−2は、凝集体を減少させることができる。このモデルにより、TOR−2/Δ368と共発現させた場合に凝集体が時間とともに大きくなっていくのに対し、TOR−2が凝集体のサイズをベースライン及び安定なレベルに維持できることも示された。うまくいけば、TOR−2を治療剤として使用できる可能性がある。これにより完全に症状が緩和されないとしても、時間経過と共に悪化させずに、患者の状態を安定なレベルに保つことができる可能性がある。おそらく、TOR−1との共発現により、これらが複合体として機能する可能性があるため、効果が促進されると考えられる。
【0269】
アグリソーム理論と組み合わせて、本データから、ジストニア等の多くの疾患は、凝集したタンパク質に対して細胞が対応できないことにより起こるということが示唆される。 これらのタンパク質凝集体は、他のタンパク質に影響を与え、実際には、カスケード的な影響を引き起こす可能性がある。これは、スポンジ状脳症など、プリオン病の背後にある機構と考えられる。Q82単独の場合と比較して、TOR−2Δ368+Q82の凝集サイズが大きいことから、突然変異体が他のタンパク質の誤った折り畳みや凝集体形成の開始点として働くことが示唆される。TOR−2は、細胞において多角的な役割を果たし、広範囲で発現すると考えられる。
【0270】
上記教示に照らして、本発明に対して数多くの改変や変形を施すことが可能である。従って、本明細書に具体的に記載されていない態様で本発明を実施した場合でも、添付の特許請求の範囲に属することがあることを理解しなければならない。
【0271】
本明細書に引用されている全ての参考文献、並びにそれらに引用されている参考文献は、本発明の主題及び本発明の全ての実施形態に関連した部分について、参考文献として本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0272】
【図1A】tor−2とDYT1のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図1B】tor−2とDYT1のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図1C】tor−2とDYT1のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図1D】tor−2とDYT1のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図2A】tor−2とDYT2のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図2B】tor−2とDYT2のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図2C】tor−2とDYT2のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図2D】tor−2とDYT2のポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図3】TOR−1、TOR−2、OOC−5、TOR−A、及びTOR−Bのポリヌクレオチド配列のアラインメント。
【図4】(a)19ポリグルタミンリピート(Q19)の発現。(b)82ポリグルタミンリピート(Q82)の発現。(c)Q82とtor−2の同時発現。(d)Q82とtor−2/Δ368の同時発現。
【図5】Q82凝集物のサイズ。
【図6】(a)Q82、Q82+tor−2、及びQ82+tor−2/Δ368のテールピクチャー。(b)Q82、Q82+tor−2、及びQ82+tor−2/Δ368の拡大写真。
【図7】Q19凝集物の蓄積の経時変化を示すグラフ。
【図8】tor−2特異抗体で染色した線虫全体に対する抗体による免疫局在性。
【図9】C.elegansから得た全タンパク質抽出物のアクチン対照及びtor−2抗体によるウェスタンブロット。
【図10】(a)82ポリグルタミンリピート(Q82)の発現。(b)Q82とTOR−2の同時発現。(c)Q82とOOC−5の同時発現。(d)Q82とTOR−Aの同時発現。(e)Q82とOOC−5とTOR−2の同時発現。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号3を有する単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを有するベクター。
【請求項3】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを有する宿主細胞。
【請求項4】
torsinポリペプチドを作製する方法であって、torsinポリペプチドの発現に適した条件下で、一定時間、請求項3に記載の宿主細胞を培養させることを備えた、方法。
【請求項5】
請求項1に記載のポリヌクレオチドと少なくとも1つの生理的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを備えた、マイクロアレイ。
【請求項7】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを備えた、ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを有する、トランスジェニック動物。
【請求項9】
請求項1に記載のポリヌクレオチドと少なくとも90%同一の核酸配列を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1に記載のポリヌクレオチドと少なくとも80%同一の核酸配列を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1に記載のポリヌクレオチドと少なくとも70%同一の核酸配列を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載の単離されたポリヌクレオチドを有するベクター。
【請求項13】
請求項11に記載の単離されたポリヌクレオチドを有する宿主細胞。
【請求項14】
torsinポリペプチドを作製する方法であって、torsinポリペプチドの発現に適した条件下で、一定時間、請求項13に記載の宿主細胞を培養させることを備えた、方法。
【請求項15】
請求項11に記載のポリヌクレオチドと少なくとも1つの生理的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項16】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを備えた、マイクロアレイ。
【請求項17】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを備えた、ナノ粒子。
【請求項18】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを有する、トランスジェニック動物。
【請求項19】
65℃で、0.1×SSCと0.1%SDSを含む緩衝液の存在下において、請求項11に記載の単離されたポリヌクレオチドの少なくとも15の連続したヌクレオチドにハイブリダイズし且つtorsin活性を有する単離されたポリヌクレオチド又は少なくとも15ヌクレオチドを有するその相補物。
【請求項20】
配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列のポリペプチドと少なくとも70%の相同性を有し且つtorsin活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を検出する方法であって、
(a)請求項11に記載の単離されたポリヌクレオチドをハイブリダイズすることと、
(b)前記ポリヌクレオチドを発現させて、ポリペプチドを産生させることと、
(c)前記ポリペプチドのtorsin活性の有無を検出することと、を備えた方法。
【請求項21】
torsin活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出する方法であって、torsin活性を有する請求項11に記載されたポリヌクレオチドの少なくとも15の連続したヌクレオチド又は少なくとも15の連続したヌクレオチドを有するその相補物に、ポリヌクレオチド試料を接触させることを備えた、方法。
【請求項22】
torsin活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出する方法であって、torsin活性を有する請求項11に記載されたポリヌクレオチドの少なくとも15の連続したヌクレオチドを含むポリヌクレオチド又は少なくとも15の連続したヌクレオチドを有するその相補物に、ポリヌクレオチド試料を接触させることを備えた、方法。
【請求項23】
インビボ又はインビトロでタンパク質凝集を減少させる方法であって、タンパク質凝集を減少させる必要があるヒト又は動物に請求項11に記載のポリヌクレオチドを投与することを備えた、方法。
【請求項24】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患を治療する方法であって、かかる治療の必要があるヒト又は動物に請求項11に記載のポリヌクレオチドを投与することを備えた、方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患の症候を治療する方法であって、かかる治療の必要があるヒト又は動物に請求項11に記載のポリヌクレオチドを投与することを備えた、方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
配列番号2又は配列番号4のアミノ酸を有するポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項29】
請求項28に記載の単離されたポリヌクレオチドを有するベクター。
【請求項30】
請求項28に記載の単離されたポリヌクレオチドを有する宿主細胞。
【請求項31】
torsinポリペプチドを作製する方法であって、
torsinポリペプチドの発現に適した条件下で、一定時間、請求項30に記載の宿主細胞を培養させることを備えた、方法。
【請求項32】
請求項28に記載のポリヌクレオチドと少なくとも1つの生理的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項33】
請求項28に記載のポリヌクレオチドを備えた、マイクロアレイ。
【請求項34】
請求項28に記載のポリヌクレオチドを備えた、ナノ粒子。
【請求項35】
請求項28に記載のポリヌクレオチドを有する、トランスジェニック動物。
【請求項36】
配列番号2又は配列番号4を有する、単離されたポリペプチド。
【請求項37】
請求項36に記載の単離されたポリペプチドを結合する単離された抗体。
【請求項38】
請求項36に記載のポリペプチドと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
【請求項39】
請求項36に記載の単離されたポリペプチドを有する、トランスジェニック動物。
【請求項40】
請求項38に記載の単離されたポリペプチドと少なくとも1つの生理的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項41】
請求項36に記載の単離されたポリペプチドを有する、マイクロアレイ。
【請求項42】
請求項36に記載の単離されたポリペプチドを有する、ナノ粒子。
【請求項43】
請求項36に記載のポリペプチドと少なくとも80%同一のアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
【請求項44】
請求項36に記載のポリペプチドと少なくとも70%同一のアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
【請求項45】
請求項44に記載の単離されたポリペプチドを有する、トランスジェニック動物。
【請求項46】
請求項44に記載の単離されたポリペプチドと少なくとも1つの生理的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項47】
請求項44に記載の単離されたポリペプチドを有する、マイクロアレイ。
【請求項48】
請求項44に記載の単離されたポリペプチドを有する、ナノ粒子。
【請求項49】
請求項44に記載の単離されたポリペプチドを結合する単離された抗体。
【請求項50】
タンパク質凝集を減少させる方法であって、タンパク質凝集を減少させる必要があるヒト又は動物に請求項44に記載の単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項51】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患を治療する方法であって、かかる治療の必要があるヒト又は動物に請求項44に記載の単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項52】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患の症候を治療する方法であって、かかる治療の必要があるヒト又は動物に請求項44に記載の単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8又は配列番号10と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有する少なくとも1つの単離されたポリペプチドの生物内での発現を制御する方法であって、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、又は配列番号9と少なくとも70%同一である核酸配列を有する少なくとも1つのポリヌクレオチドを前記生物に投与することを備えた、方法。
【請求項56】
前記少なくとも1つの単離されたポリペプチドがC.elegansに投与される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
タンパク質凝集を減少させる方法であって、タンパク質凝集を減少させる必要があるヒト又は動物に、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、又は配列番号10と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項58】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患を治療する方法であって、かかる治療が必要なヒト又は動物に、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、又は配列番号10と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項59】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患の症候を治療する方法であって、かかる治療が必要なヒト又は動物に、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、又は配列番号10と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを投与することを備えた、方法。
【請求項61】
前記少なくとも1つのタンパク質凝集関連疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、ポリグルタミン病、タウパチー、ハンチントン舞踏病、ジストニア、家族性筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項60に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−517383(P2006−517383A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−515707(P2004−515707)
【出願日】平成15年6月24日(2003.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/016229
【国際公開番号】WO2004/000996
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(504474220)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・アラバマ (4)
【Fターム(参考)】