説明

ヒートポンプ式車両用空調装置

【課題】デフロスト運転時の問題が解決されたヒートポンプ式車両用空調装置を提供する。
【解決手段】冷媒と吸入空気との間で熱交換を行う室内熱交換器25と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器21と、圧縮機31、絞り抵抗34及び四方弁33を具備してなるコンプレッサユニット20とが冷媒流路30により連結され、前記冷媒の流れ方向を切り換えて冷房運転及び暖房運転を実施するヒートポンプ式車両用空調装置であって、暖房運転中にデフロスト運転を開始または終了する場合、前記圧縮機31の機能をいったん停止させた状態で前記四方弁33を切り換え操作することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設置されるヒートポンプ式車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境への改善要求、地球環境問題に伴い、低公害車、代替エネルギ車に対する導入ニーズが高まりを見せている。この中で、エネルギ源を天然ガスなどに置き換える場合は、基本的には燃料のみの変更であってもともとの内燃機関エンジン(以下エンジンと呼ぶ)があるため、空調装置(以下エアコンと呼ぶ)に関する基本構成の変更は不要である。
【0003】
しかし、代替エネルギ車の有力候補のひとつである電気自動車やハイブリッド車(駆動源として電動モータとエンジンとを併用)に従来車のエアコンをそのまま適用すると、暖房運転時の熱源や冷房運転時の圧縮機駆動源を見直す必要が生じてくる。すなわち、暖房運転時においては、従来車のように加熱源となるエンジン冷却水が全くない(電気自動車)か、あるいは、エンジンを停止して電動モータのみで走行するというモータ走行モードがあるため十分な温水が得られない(ハイブリッド車)という問題が生じてくる。また、冷房運転時においては、従来車のように圧縮機の駆動源をエンジンにのみたよることはできず、他の駆動源を設ける必要がある。たとえばハイブリッド車の場合、電動モータのみで走行するモータ走行モードがあったり、あるいは、エンジンで走行していても停車時にはエンジンを停止してアイドリング運転を行わないようにしたものもあるため、圧縮機の駆動源がエンジンのみでは安定したエアコンの運転が不可能になる。
【0004】
このような背景から、電気自動車やハイブリッド車などの車両に設置するエアコンとして、家庭用の冷暖房エアコン等に利用されているヒートポンプ式を採用することが行われている。図4は従来のヒートポンプ式車両用空調装置の概略構成例を示したもので、図中の符号1は室内熱交換器、2はコンプレッサユニット、3は室外熱交換器、4は外気吸い込み用ファンである。この場合、室外熱交換器3はコンプレッサユニット2などとともに動力室内に設置され、外気吸い込み用ファン4を作動させることにより、動力室内に外気を吸引できるようになっている。
【0005】
上述した従来構成では、冷媒が下記のように循環して車室内の冷暖房を実施する。暖房運転時の冷媒は、図中に実線矢印で示すように時計廻りに循環する。コンプレッサユニット2内の圧縮機で高温高圧の気体となった冷媒は、室内熱交換器1に送られて車外の空気(外気)または車室内空気(内気)と熱交換する。この結果、外気または内気(以下吸入空気と呼ぶ)は高温高圧の気体冷媒から熱を奪って温風となり、同時に、高温高圧の気体冷媒は熱を奪われて凝縮液化し、高温高圧の液冷媒となる。続いて、高温高圧の液冷媒はコンプレッサユニット2を通過して低温低圧の液冷媒となって室外熱交換器3へ送られるが、室外熱交換器3では、低温低圧の液冷媒が外気から熱を汲み上げ、蒸発気化することで低温低圧の気体冷媒となる。この低温低圧の気体冷媒は、再度コンプレッサユニット2へ送られて圧縮され、高温高圧の気体となる。以下、上述した過程を繰り返す。すなわち、暖房運転時においては、室外熱交換器3がエバポレータとして機能し、室内熱交換器1が凝縮器として機能している。
【0006】
このような暖房運転を続けていると、室外熱交換器3に霜が付着して十分な熱交換を実施できなくなる。このため、所定のデフロスト条件を満たした場合、冷媒の流れ方向を変えて、すなわち後述する冷房運転と同様に冷媒を流すことで、霜をとかすデフロスト運転が行われている。このようなデフロスト運転では、暖房運転時にエバポレータとして機能していた室外熱交換器3が凝縮器として機能するので、冷媒から熱を受けて霜をとかすことができる。
【0007】
冷房・除湿運転時の冷媒は、図中に破線矢印で示すように反時計廻りに循環する。コンプレッサユニット2内の圧縮機で高温高圧の気体となった冷媒は、室外熱交換器3へ送られて外気と熱交換する。この結果、冷媒は外気に熱を与えて凝縮液化し、高温高圧の液冷媒となる。このようにして高温高圧の液冷媒となった冷媒は、コンプレッサユニット2内の絞り抵抗を通過して低温低圧の液冷媒となり、室内熱交換器1に送られる。続いて、低温低圧の液冷媒は、室内熱交換器1で吸入空気から熱を奪って冷却するので、冷風を車室内に供給でき、同時に、冷媒自身は蒸発気化して低温低圧の気体冷媒となる。こうして低温低圧の気体となった冷媒は、再度コンプレッサユニット2内の圧縮機に送られて圧縮され、高温高圧の気体となる。以下、上述した過程を繰り返す。すなわち、冷房運転時においては、室内熱交換器1がエバポレータとして機能し、室外熱交換器3が凝縮器として機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−171346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した従来のヒートポンプ式車両用空調装置では、暖房運転時における駆動源(エンジン、電動モータ等)排熱の有効利用が望まれている。すなわち、外気温度の低い状況では、ヒートポンプにより外気から十分な熱量を汲み上げるのが困難になる場合があり、思うように温度が上がらなかったり、あるいは所望の温度に達するまで長時間を要するなど、エアコンの暖房能力が不足するという問題が生じることがある。このため、従来捨てられていたエンジン排熱などからヒートポンプにより熱を汲み上げ、エアコンの暖房運転に有効利用して暖房能力を向上させることが車両用空調装置の商品性を向上させる上で強く望まれる。
【0010】
また、上述したデフロスト運転は、暖房運転が必要な状況で冷房運転を実施するものであるから、乗員に快適な車室内環境を提供するという観点からできるだけ回数が少なく短時間で終了するのが好ましい。さらに、デフロスト運転を開始または終了する際には、四方弁を操作して冷媒の流れ方向を切り換えることになるが、この時高圧側と低圧側とが入れ替わるため異音を発することがある。このような異音の発生は、車両用空調装置として好ましいものではなく、その対策が望まれていた。このようなデフロスト運転時の問題解決は、車両用空調装置としての商品性を向上させる上で重要な課題である。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明においては、暖房運転時にエンジン排熱などを有効利用して暖房能力を向上させること、及びデフロスト運転時の問題を解決することで、商品性の高いヒートポンプ式車両用空調装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明においては以下の手段を採用した。本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、冷媒と吸入空気との間で熱交換を行う室内熱交換器と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器と、圧縮機、絞り抵抗及び四方弁を具備してなるコンプレッサユニットとが冷媒流路により連結され、前記冷媒の流れ方向を切り換えて冷房運転及び暖房運転を実施するヒートポンプ式車両用空調装置であって、暖房運転中にデフロスト運転を開始または終了する場合、前記圧縮機の機能をいったん停止させた状態で前記四方弁を切り換え操作することを特徴とするものである。
【0013】
この場合、前記圧縮機は、駆動源との間に設けたクラッチを切ることで機能停止させられるようにするとよい。また、暖房運転を実施した後、車両が駐停車したらデフロスト運転を実施するようにするとよい。
【0014】
このようなヒートポンプ式車両用空調装置によれば、四方弁を切り換える時点で圧縮機の機能が停止して圧力差がなくなっているので、異音の発生が防止される。
【0015】
また、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、冷媒と吸入空気との間で熱交換を行う室内熱交換器と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器と、圧縮機、絞り抵抗及び四方弁を具備してなるコンプレッサユニットとが冷媒流路により連結され、前記冷媒の流れ方向を切り換えて冷房運転及び暖房運転を実施するヒートポンプ式車両用空調装置であって、暖房運転を実施した後、車両が駐停車したらデフロスト運転を実施することを特徴とするものである。
【0016】
このようなヒートポンプ式車両用空調装置によれば、駐停車中にデフロスト運転を実施しておけるので、車両走行中におけるデフロスト運転回数及び時間を減らすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヒートポンプ式車両用空調装置によれば、デフロスト運転の開始及び終了時に冷媒の気流音が発生するのを防止できるようになり、さらに、走行中のデフロスト運転を最小限に抑制できるようになるので、デフロスト運転時の問題を解決することができ、ヒートポンプ式車両用空調装置の商品性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒートポンプ式車両用空調装置の構成を示す系統図である。
【図2】図1に示したヒートポンプ式車両用空調装置を搭載したハイブリッド車の平面配置図である。
【図3】デフロスト運転時における各構成要素の動作を示すタイムチャート図である。
【図4】従来例としてヒートポンプ式車両用空調装置の概略構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態としてのヒートポンプ式車両用空調装置を搭載したハイブリッド車について、図面に基づいて説明する。図2において、符号の10はハイブリッド車であり、車体前部に前輪駆動用のモータ11を内蔵したドライブユニット12を備え、車体後部の動力室内には後輪駆動用のエンジン13を備えている。このハイブリッド車10は、低速時はモータ11を駆動源とする前輪駆動車として走行し、一定速度以上の高速時においては駆動源をエンジン13に切り替えて後輪駆動車として走行する。また、モータ11を車体前部に設けたため、搭載スペース上の理由および空気抵抗(Cd値)の低減を考慮し、エンジン13を車体後部に設けている。なお、エンジン13とモータ11とが同時に駆動源として起動され、四輪駆動車として走行する場合もある。
【0020】
図2において、符号の14はモータ11の電源となるバッテリであり、15はエンジン13の駆動力を電力に変換してバッテリ14に蓄積するモータ・ジェネレータ・ユニットである。モータ・ジェネレータ・ユニット15には発電用モータ(図示省略)が搭載されており、該発電用モータにエンジン13の駆動力が伝達されることによって発電が行われる。モータ・ジェネレータ・ユニット15はまた、電力によって発電用モータを駆動させることにより、バッテリ14に蓄積された電力を駆動力に変換する機能も有する。なお、符号の50は、エンジン13に設けられたI/C(インタークーラ)・EGRシステムである。
【0021】
また、16はエンジン13冷却用のラジエータであり、17はエンジン冷却用ラジエータ16と併設されたパワエレ用ラジエータである。パワエレ用ラジエータ16は駆動用モータ11、モータ・ジェネレータ・ユニット15、さらにはI/C・EGRシステム50を冷却するためのものである。これらエンジン冷却用ラジエータ16、パワエレ用ラジエータ17はラジエータ冷却用ファン18を備えており、車体側面から吸い込んだ外気を通過させて冷却することで動力室(エンジンルーム)内周囲の空気に放熱されるようになっている。さらに、エンジン13の熱をバッテリ14に与えるバッテリ熱交換器19が設けられている。
【0022】
次に、このハイブリッド車10に搭載されるエアコンについて説明する。図1及び図2において、符号の20は冷媒を圧縮するコンプレッサユニット、21は室外熱交換器、22は外気吸い込み用ファン、23はHPVM(Heat Pump Ventilating Module)と呼ばれるモジュールであり、内部にはブロワファン24、室内熱交換器25、ヒータコア26などを備えている。室外熱交換器21は、車体後部に配置された動力室、すなわちエンジンルーム内の右側面部に設けられ、外気吸い込み用ファン22の作動によって車体側面の開口部から吸い込んだ外気と強制的に熱交換される。HPVM23は車体後部の中央に設けられ、同HPVM23前面には車体下部中央に沿って車体前方に延びるダクト27が接続されている。ダクト27は筒状に形成されているとともに、同ダクト27の中央部および前端部にはそれぞれ吹出部28、29が設けられている。この場合、吹出部28が後席用、吹出部29が前席用であるが、必要に応じて適宜増減が可能である。
【0023】
HPVM23は、ブロワファン24の作動により車外から吸引した外気または車室内から吸引した内気を室内熱交換器25、ヒータコア26を通過させることで、冷暖房及び除湿を行って空気調和を実施するモジュールである。室外熱交換器25は、コンプレッサユニット20及び室内熱交換器21と冷媒流路30により接続されてヒートポンプ式空調装置を構成している。コンプレッサユニット20内には、圧縮機31、アキュムレータ32、四方弁33、及び膨張弁等の絞り抵抗34を具備しており、圧縮機31を運転することで冷媒を循環させてヒートポンプ運転が実施される。
【0024】
以下、ヒートポンプ式空調装置による空調運転を冷房・除湿運転及び暖房運転に分けて説明する。最初に暖房運転について説明する。この時の冷媒の流れは、図1において時計廻り(実線矢印で表示)となる。さて、圧縮機31では、低温低圧の気体冷媒を吸引して圧縮し、高温高圧の気体冷媒として四方弁33へ送り出す。この時、四方弁33は室内熱交換器25へ冷媒を送るように設定されているので、高温高圧の気体冷媒が冷媒流路30を通って室内熱交換器25へ送られ、ブロワファン24で吸引された内気または外気(以下吸入空気)と熱交換して暖める。すなわち、高温高圧の気体冷媒が吸入空気に熱を奪われて凝縮液化することで高温高圧の液冷媒となり、同時に、室内熱交換器25を通過する吸入空気がこの熱で暖められた温風となって車室内に供給される。この場合の室内熱交換器25は、凝縮器として機能している。
【0025】
高温高圧の液冷媒となって室内熱交換器25を出た冷媒は、コンプレッサユニット20内の絞り抵抗34で減圧・膨張して低温低圧の液冷媒となり、車体の側面に沿って設置された室外熱交換器21へ送られる。この室外熱交換器21は、外気吸い込みファン22で吸い込んだ外気が通過することで、外気と熱交換して熱を汲み上げることになる。このため、低温低圧の液冷媒は相対的に温度の高い外気により暖められて蒸発気化し、低温低圧の気体冷媒となる。この場合の室外熱交換器21は、エバポレータとして機能している。
【0026】
こうして、低温低圧の気体となった冷媒は四方弁33へ送られ、さらにアキュムレータ32で液状成分が除去された後、再度圧縮機21に吸引されて圧縮される。以後、同様の冷凍サイクルが繰り返されて、車室内の暖房が実施される。
【0027】
次に冷房運転時について説明するが、この時の冷媒の流れは図1において反時計廻り(実線矢印で表示)となる。さて、圧縮機21では、低温低圧の気体冷媒を吸引して圧縮し、高温高圧の気体冷媒として四方弁33へ送り出す。この時、四方弁33は室外熱交換器21へ冷媒を送るように設定されているので、高温高圧の気体冷媒が冷媒流路30を通って室外熱交換器21へ送られ、外気吸い込みファン22に吸引された外気と熱交換する。この結果、高温高圧の気体冷媒は相対的に低温の外気に熱を奪われて凝縮液化し、高温高圧の液冷媒となる。この場合の室外熱交換器21は、凝縮器として機能している。
【0028】
この後、高温高圧の液冷媒は絞り抵抗34へ送られ、絞り抵抗34を通過する際に減圧・膨張して低温低圧の液冷媒となる。こうして低温低圧となった液冷媒は室内熱交換器25へ送られ、ブロワファン24で吸い込んだ吸入空気と熱交換し、吸入空気から熱を奪って冷却する。この結果、低温低圧の液冷媒は蒸発気化して低温低圧の気体冷媒となり、同時に、吸入空気は冷風となって車室内に供給される。この場合の室内熱交換器25は、エバポレータとして機能している。また、室内熱交換器25を出た低温低圧の気体冷媒は、四方弁33を通ってアキュムレータ32へ送られ、冷媒中の液分が除去される。そして、低温低圧の気体冷媒は、アキュムレータ32から再度圧縮機31に吸引され、圧縮された後同様の冷凍サイクルが繰り返されて、車室内の冷房が実施される。
【0029】
さらに、図1に示したHPVM23にはヒータコア26が設置されている。このヒータコア26は、ハイブリッド車10に設置されたエンジン13から高温のエンジン冷却水を導入して通過する吸入空気を加熱する機能を有している。すなわち、エンジン冷却水が所定値以上の高温となった場合、エンジン冷却水を暖房の熱源として補助的に使用することができるようにしたものである。なお、このヒータコア26は、エンジン13を持たないため温水の供給を受けられない電気自動車のヒートポンプ式空調装置には設置されない。
【0030】
ところで、上述したヒートポンプ式車両用空調装置では、暖房運転中にエンジンルーム内が所定値以上の高温になると、これをエンジンルーム内適所に設置した温度センサTeなどの検出手段で検知して外気吸い込みファン22を逆転させる。すなわち、外気吸い込みファン22の回転方向を逆向きに変えて、エンジンルーム内の高温の空気が車外へ排出されるように運転する。この時、外気吸い込みファン22が車体の側面に設けられているので、走行中であってもラム圧の影響を受けることなくエンジンルーム内の高温空気を排出することができる。なお、エンジンルーム内の温度は、エンジン13本体からの輻射熱やラジエータ16から放熱された熱などの排熱によって、外気温の高い夏場で90℃程度、外気温がかなり低い冬場でも40〜50℃程度まで上昇すると見込まれる。
【0031】
このような外気吸い込みファン22の逆転運転を実施すると、エンジンルーム内の高温の空気がエバポレータとして機能している室内熱交換器21を逆向きに通過して車外へ排出される。従って、室内熱交換器21内を流れる低温低圧の液冷媒は、外気温度が低いため暖房運転を必要とする条件で外気よりもかなり温度の高い空気と熱交換して熱を汲み上げることが可能になる。このため、効率の良い熱交換を行うことができるので、室外熱交換器21の吸熱能力が向上し、ヒートポンプによる暖房能力を向上させることができる。すなわち、エンジン排熱によるエンジンルーム内の空気エンタルピを利用した暖房運転が可能となるので、特に、外気温が低い場合の暖房運転能力を大幅に向上させることができる。
【0032】
なお、上述したような外気吸い込みファン22の逆転運転は、エンジンルーム内の温度が所定値以下まで下がったことを検知した時点で停止すると共に通常回転の運転に戻すが、このような逆転終了の設定温度と前述した逆転開始の設定温度との間には適当なヒステリシスを設けておくとよい。
【0033】
以上説明した実施形態では、室外熱交換器21がハイブリッド車10の後部側面に横向きに設置され、外気吸い込みファン22が車体側面から外気を吸い込むように構成されたものであったが、他の実施形態では、一般的な自動車のように車体前部に設けられた動力室内に室内熱交換器21を配置し、車両前面から外気を吸い込むようにしてもよい。すなわち、上述したハイブリッド車10の場合、前部投影面積が大となってCd値の面では不利になるが、モータ11を内蔵したドライブユニット12を設置する車体前部の動力室に外気吸い込みファン22を備えた室外熱交換器21を配置してもよい。このような場合、一般的にはフロントグリルから動力室内に走行風が入り込んでラム圧の影響を受けるため、外気吸い込みファン22の逆転運転は、動力室内が所定温度以上の高温になったことに加え、車両が停止していることをアンド条件として実施する。なお、車両の停止状態を検知するには、車両に一般的に使用されている車速センサなどから信号をもらうようにすればよい。
【0034】
また、上述した本発明は、好適な実施形態として説明したハイブリッド車に搭載されたヒートポンプ式車両用空調装置に限定されるものではなく、内燃機関を駆動源とする車両や電動モータを駆動源とする電気自動車にも適用可能なことはいうまでもない。なお、電気自動車の場合は電動モータやバッテリが発熱源となるので、この場合の動力室は電動モータやバッテリを設置する空間、すなわちモータルームに室外熱交換器21を設置して、外気吸い込みファン22の逆転運転を実施するようにすればよい。
【0035】
また、上述したヒートポンプ式車両用空調装置は、暖房運転を継続した後デフロスト運転が必要となる。このデフロスト運転は、エバポレータとして機能する室外熱交換器21に付着した霜をとかして除去するための運転のことであり、暖房運転とは逆方向に冷媒を流す冷房運転と同様のヒートポンプ運転を実施して、室外熱交換器21を凝縮器として機能させる。
【0036】
上述したデフロスト運転は、暖房運転を継続していて所定のデフロスト条件に達したとき、自動的に暖房運転から切り換えられる。図3はデフロスト運転のタイムチャートを示したもので、暖房運転中は四方弁33が暖房位置、ブロワファン24及び外気吸い込みファン22がON、圧縮機31と駆動源35との間に設置された圧縮機クラッチ36がつながれた(ON)状態、そして絞り抵抗34が通常の開度となっている。ここで、デフロスト条件の具体例を示すと、室外熱交換器21に取り付けられた室外熱交換器フィンセンサ(以下フィンセンサと呼ぶ)Tfが設定温度(たとえば−2℃)以下の低温を検出し、かつ、暖房運転の継続時間が設定時間(たとえば50分以上)となった時、アンド条件でデフロスト運転を開始するように設定する。なお、このデフロスト条件は、一具体例にすぎず、適宜変更可能なことはいうまでもない。
【0037】
さて、デフロスト条件が整ってデフロスト運転が開始されると、ブロワファン24及び外気吸い込みファン22がOFFとなり、絞り抵抗34が全開位置へと変化していく。これと同時に、圧縮機クラッチ36が切られた(OFF)状態となり、一時的に圧縮機31は駆動源35から遮断されて圧縮機としての機能を停止する。この場合、外気吸い込みファン22の停止はデフロスト運転時間の短縮に有効である。一方、ブロワファン24の停止により、デフロスト運転中において車室内への吹出温度が低下するのを防止することができる。このため、四方弁33に接続される各冷媒流路30間の圧力差がなくなり、この状態で四方弁33を暖房位置から冷房位置へ切換操作することで、高圧側から低圧側へ急激にガス状の冷媒が流れて移動するのを防止できる。この結果、ガス状の冷媒が高速で流れて移動する時に発生していた「プシュー」という気流音がなくなるので、異音のない静かな切換操作が可能になる。こうして四方弁33の切換操作が完了した後、再度圧縮機クラッチ36をONにして圧縮機31の運転を再開する。
【0038】
圧縮機31の運転再開により、冷媒は冷房運転時と同様の反時計廻りに流れてデフロスト運転が実施されるので、室外熱交換器21に熱を供給して周囲に付着した霜をとかすことができる。このようなデフロスト運転は、デフロスト終了条件が整った時点で終了する。デフロスト終了条件の具体例としては、フィンセンサTfの検出温度が設定温度(たとえば10℃)以上まで上昇した時か、あるいは、デフロスト運転の継続時間が設定時間(たとえば9分)以上となった時のいずれか一方の条件が満たされればよい。この場合、デフロスト運転の継続時間をOR条件として入れたのは、フィンセンサTfにトラブルが発生した場合、デフロスト運転がいつまでも継続されるのを防止するのが目的である。
【0039】
こうしてデフロスト終了条件が満たされると、最初に圧縮機クラッチ36をOFFにして圧縮機31の機能が停止される。この結果、四方弁33に接続される各冷媒流路30間の圧力差はなくなるので、この状態で四方弁33を冷房位置から暖房位置へ切り換えても異音が発生することはない。また、ブロワファン24及び外気吸い込みファン22は圧縮機クラッチ36のOFF操作からやや遅れてONとなり、絞り抵抗34は全開位置から通常位置へと変化していき、さらに、圧縮機クラッチ36を再度ONとすることで圧縮機31の運転が再開されるので、冷媒は暖房運転の流れ方向へ流れて暖房運転が開始される。
【0040】
上述したデフロスト運転は、車両の駐停車時にも自動的に実施される。この場合のデフロスト運転は、もちろん走行中に暖房運転を実施した場合にのみ実施されるものであり、たとえばエンジンキー操作部37からキーを抜き取ったことで駐停車状態になったと判断してデフロスト運転を開始する。このデフロスト運転は、上述したデフロスト終了条件で終了するようにしてもよいが、走行中にデフロスト条件に達するほど霜が付着していないことを考慮すると、より短い時間で終了するように設定してもよい。また、フィンセンサTfの検出温度が所定値以上に高い場合や暖房運転の継続時間が所定値より短い場合には、デフロスト運転が不要と判断して駐停車時のデフロスト運転を実施しないようにしてもよい。
【0041】
このような駐停車時のデフロスト運転を実施することにより、車両が走行していない時間を有効に利用して霜を除去できるので、走行中のデフロスト運転回数や時間を低減できる。すなわち、暖房運転が必要な状況で冷房運転を行うという車室内乗員にとって好ましくないデフロスト運転が最小限に抑制される。
【符号の説明】
【0042】
20 コンプレッサユニット
21 室外熱交換器
22 外気吸い込みファン
23 HPVM(Heat Pump Ventilating Module)
24 ブロワファン
25 室内熱交換器
30 冷媒流路
31 圧縮機
32 アキュムレータ
33 四方弁
34 絞り抵抗
35 駆動源
36 圧縮機クラッチ
37 エンジンキー操作部
Tf 室外熱交換器フィンセンサ
Te 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と吸入空気との間で熱交換を行う室内熱交換器と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器と、圧縮機、絞り抵抗及び四方弁を具備してなるコンプレッサユニットとが冷媒流路により連結され、前記冷媒の流れ方向を切り換えて冷房運転及び暖房運転を実施するヒートポンプ式車両用空調装置であって、暖房運転中にデフロスト運転を開始または終了する場合、前記圧縮機の機能をいったん停止させた状態で前記四方弁を切り換え操作することを特徴とするヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項2】
前記圧縮機は、駆動源との間に設けたクラッチを切ることで機能停止させられることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項3】
暖房運転を実施した後、車両が駐停車したらデフロスト運転を実施することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項4】
冷媒と吸入空気との間で熱交換を行う室内熱交換器と、冷媒と外気との間で熱交換を行う室外熱交換器と、圧縮機、絞り抵抗及び四方弁を具備してなるコンプレッサユニットとが冷媒流路により連結され、前記冷媒の流れ方向を切り換えて冷房運転及び暖房運転を実施するヒートポンプ式車両用空調装置であって、暖房運転を実施した後、車両が駐停車したらデフロスト運転を実施することを特徴とするヒートポンプ式車両用空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−154868(P2009−154868A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54246(P2009−54246)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【分割の表示】特願2000−171252(P2000−171252)の分割
【原出願日】平成12年6月7日(2000.6.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(592120324)ジェネラル・モータース・コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL MOTORS CORPORATION
【Fターム(参考)】