説明

無機粒子を含有する多孔質膜及びその製造方法

【課題】 有機多孔質膜に無機粒子を含有させる他材料複合化により、新たな又は高い機能性を発現できる無機微粒子含有多孔質膜を提供する。
【解決手段】 本発明の多孔質膜は、多数の微小孔が存在する多孔質膜であって、前記多孔質膜は高分子と無機粒子とを含む組成物から構成され、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜85%である。前記高分子が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の空孔特性を有するとともに無機粒子により機能化された、無機粒子を含有する多孔質膜とその製造方法、前記多孔質膜を備えた積層体とその製造方法、前記多孔質膜又は積層体を備えた機能性積層体に関する。本発明の多孔質膜は、例えば、電子ペーパーの表示デバイス(電子ペーパー用フィルム)、色素増感太陽電池等の光電極、光触媒、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放熱板)、電磁波シールドや電磁波吸収体等の電磁波制御材、アンテナ、反射シート(液晶ディスプレイや表示体のバックライト光源に用いられる反射シート等)などに利用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、米国を始めとする各国では魅力的な電子書籍端末と豊富なコンテンツにより電子書籍が本格的な普及期を迎えつつある。この電子書籍には電子ペーパーや液晶パネルが用いられている。電子ペーパーは、紙のように読みやすく薄型軽量で、超低消費電力を特徴とし、また文字や画像表示を書き換えることが可能である。電子ペーパーの白くなった部分は太陽光や室内照明光を反射し、文字や画像は黒くなった部分で表示する反射型表示方式であるため、印刷物のように人間の目に優しく、長時間にわたって文字を読んでも疲れることがない。一方、携帯電話などの液晶画面は常に光を発しているため、長時間利用すると目が疲れると言われている。このように、電子ペーパーにおいて、紙と同等の視認性が最も優先される研究開発の目標の一つであり、このためには、反射率を高くすることが非常に重要である。各種ある電子ペーパーの方式のうち、最も普及しているマイクロカプセル型電気泳動方式において、反射率は35%程度であり、新聞紙の50〜60%よりも低く、必ずしも現状で十分ではない。反射率を上げることは視認性を上げることにつながり好ましいと言える。
【0003】
一方、再生可能エネルギーの利用拡大が望まれるなか、無尽蔵の太陽光を利用する太陽電池に期待が集まっており、その市場は拡大を続けている。しかしながら、現在の世界市場の9割以上を占める結晶シリコン系太陽電池は高純度シリコン原料の安定供給に不安を抱えている。こうしたなか、色素増感太陽電池に注目が集まっている。コストダウンが期待できるし、カラフルであることから新たな分野への市場拡大も期待される。色素増感太陽電池には、光電極としてしばしば酸化チタンの多孔質膜が使われている。酸化チタン多孔質膜は透明電極上に酸化チタンのペーストを塗布して溶剤を乾燥させることにより形成されるが、密着性、割れなどにおいて課題がある。
【0004】
最近、無機粒子を含有する機能性多孔質膜についての提案がいくつかなされている。国際公開WO2006/006340号パンフレットには、フッ化ビニリデン系樹脂100重量部中に0.01〜5重量部の光触媒性酸化チタンが分散しているフッ化ビニリデン系樹脂の多孔膜からなる水処理膜が開示されている。また、特開2009−179698号公報には、ポリオレフィンと不活性微粒子とを特定の割合で含み、且つ揮発性溶媒を特定量含む組成物を溶融押出し、冷却した後、溶媒を乾燥除去し、さらに延伸することにより不活性微粒子を含有する多孔質膜を製造する方法、及び該方法で得られた多孔質膜を利用した反射シートが記載されている。しかし、これらの無機粒子を含有する多孔質膜は、いまだ機能性の点で十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/006340号パンフレット
【特許文献2】特開2009−179698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、有機多孔質膜に無機粒子を含有させる他材料複合化により、新たな又は高い機能性を発現できる無機微粒子含有多孔質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む分散液を基板上へフィルム状に流延し、これを凝固液中に浸漬し、乾燥することにより、前記高分子中に無機粒子が均一に分散した、微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜85%の高機能性多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、多数の微小孔が存在する多孔質膜であって、前記多孔質膜は高分子と無機粒子とを含む組成物から構成され、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜85%である多孔質膜を提供する。
【0009】
前記高分子は、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0010】
前記無機粒子は、酸化チタン粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタン酸バリウム粒子、硫酸バリウム粒子、酸化インジウムスズ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化銅粒子、酸化鉄粒子、磁性粉、カーボン粒子及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0011】
無機粒子の一次粒子の平均粒径は、例えば0.01〜10μmである。また、多孔質膜における無機粒子の含有量は、例えば10〜95重量%である。さらに、微小孔の連通性を示す透気度は、膜厚30μmに対するガーレー値で、例えば0.2〜30秒/100ccである。
【0012】
前記多孔質膜の厚みは、例えば5〜200μmである。
【0013】
前記多孔質膜は、前記多孔質膜を構成すべき前記高分子と前記無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、形成されたフィルム状多孔質層を前記基板から剥離し、次いで、前記フィルム状多孔質層を乾燥に付すことにより形成されたものであってもよい。
【0014】
本発明は、また、前記の多孔質膜を製造する方法であって、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、形成されたフィルム状多孔質層を前記基板から剥離し、次いで、前記フィルム状多孔質層を乾燥に付すことを含む多孔質膜の製造方法を提供する。
【0015】
この製造方法において、前記多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2分間以上保持し、その後、これを凝固液中に浸漬してもよい。
【0016】
本発明は、さらに、基材と、前記基材の少なくとも片面上に設けられた無機粒子を含有する多孔質膜層とを少なくとも有する積層体であって、前記多孔質膜層が前記の多孔質膜で構成されている積層体を提供する。
【0017】
本発明は、さらにまた、前記の積層体を製造する方法であって、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基材上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことを含む積層体の製造方法を提供する。
【0018】
この製造方法において、前記多孔質膜形成用材料分散液を基材上へフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2分間以上保持し、その後、これを凝固液中に浸漬してもよい。
【0019】
本発明は、また、前記の多孔質膜の少なくとも一方の表面に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層及び抵抗体層からなる群より選ばれる少なくとも1つの機能性層が設けられた機能性積層体を提供する。
【0020】
本発明は、さらに、前記の積層体の多孔質膜層表面に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層及び抵抗体層からなる群より選ばれる少なくとも1つの機能性層が設けられた機能性積層体を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無機粒子を含有する多孔質膜は、配合する無機粒子の種類に応じて、他材料複合化による新たな又は高い機能が付与されている。このため、広範な分野において高機能性多孔質膜として有用である。
【0022】
より具体的には、本発明の無機粒子を含有する多孔質膜は、電子ペーパーの表示デバイスの材料として使用できる。無機粒子として酸化チタンなどの白色顔料を含有する場合には、反射率を高くすることが可能である。液体を使用しない空気中粒子移動方式においても、反射率の高さを利用することは可能であるが、多孔質膜中に液体を含浸させる方式においてより機能を発揮させることができる。酸化チタンを含有しない多孔質膜は、樹脂と空気の界面により乱反射が起こり、反射率が高い状態であるが、多孔質膜中に液体を含浸させると乱反射が抑えられ反射率が低下する傾向がある。しかし、酸化チタンなどの白色顔料を含有する多孔質膜は、多孔質膜中に液体を含浸しても酸化チタンなどの白色顔料が高い反射率を持つことにより、反射率の低下は少なくなる。
【0023】
また、本発明の多孔質膜は、色素増感太陽電池等の光電極として使用できる。多孔質膜中に酸化チタンを多量に含有させることが可能であり、しかも柔軟性のあるフィルム状で取り扱うことができるため、従来の酸化チタン多孔質膜と比較して、密着性に優れると共に、割れにくいという利点がある。太陽電池の製造プロセスにおいても、透明電極上へのペーストの塗布、乾燥の工程を、透明電極上へ多孔質膜を重ねるだけですむため、プロセスの簡略化に貢献することができる。
【0024】
また、無機粒子として、酸化チタン粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタン酸バリウム粒子、硫酸バリウム粒子、酸化インジウムスズ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化銅粒子、酸化鉄粒子、磁性粉、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることにより、例えば、反射特性、美観、電気伝導性、熱伝導性、電磁波シールド特性、電磁波吸収特性、吸着特性、耐食性、耐摩耗性、耐熱性、撥水性、濡れ性、触媒活性、高誘電性、絶縁性、焦電性、圧電性など、無機粒子の種類に応じた種々の機能を多孔質膜に付与できる。
【0025】
さらに、本発明の多孔質膜が基材上に積層された本発明の積層体、並びに前記本発明の多孔質膜の表面又は前記積層体における多孔質膜の表面に導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層及び抵抗体層からなる群より選ばれる少なくとも1つの機能性層が設けられた機能性積層体によれば、さらに他の機能が付与され、より高機能化した機能性多孔質膜として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1で得られた無機粒子を含有する多孔質膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図2】実施例6で得られた無機粒子を含有する多孔質膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[多孔質膜]
本発明の多孔質膜は、多数の微小孔が存在する多孔質膜であって、前記多孔質膜は高分子と無機粒子とを含む組成物から構成され、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜85%である。本発明の多孔質膜においては、無機粒子が高分子中に良好な均一性で分散している。また、本発明の多孔質膜は、無機粒子は高分子中に分散しているため、空孔を埋めることなく高い空孔率を維持しているという特徴がある。
【0028】
多孔質膜を構成する高分子としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂(芳香族ポリアミド系樹脂、非芳香族ポリアミド系樹脂)、ポリスルホン系樹脂、アクリル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂(液晶性ポリエステル樹脂を含む)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は共重合体(グラフト共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体)であってもよい。また、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含むポリマー(例えば、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等)を用いることもできる。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
これらの中でも、前記高分子として、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂(芳香族ポリアミド系樹脂、非芳香族ポリアミド系樹脂)及びポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。また、特に、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂及びポリアミド系樹脂(芳香族ポリアミド系樹脂、非芳香族ポリアミド系樹脂)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。これらの高分子は、特に、耐熱性に優れ、機械的強度、耐薬品性、電気特性に優れる。
【0030】
なお、多孔質膜を構成する高分子は架橋構造を有する高分子であってもよい。このような高分子は、例えば、後述する本発明の多孔質膜の製造方法において、架橋可能な官能基を有する高分子と、前記架橋可能な官能基と架橋反応しうる架橋剤とを含む多孔質膜形成用材料を用いて多孔質膜を形成し、その後、架橋反応させることにより得ることができる。架橋構造を有する高分子を用いた多孔質膜は、膜強度、耐熱性、耐薬品性、耐久性に優れる。
【0031】
前記架橋可能な官能基としては、例えば、アミド基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルデヒド基、酸無水物基などが挙げられる。
【0032】
ポリイミド系樹脂は、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸(ポリイミド前駆体)を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。多孔質膜をポリイミド系樹脂で構成する場合には、イミド化すると溶解性が悪くなるため、まずポリアミック酸の段階で多孔質膜を形成してからイミド化(熱イミド化、化学イミド化等)することが多い。ポリイミド前駆体の分子中には多数のカルボキシル基やアミド基を有しているため、これを架橋可能な官能基として用いることができる。また、ポリイミド系樹脂は、末端にカルボキシル基、アミノ基等が残存していることが多く、これらも架橋可能な官能基として利用することができる。
【0033】
ポリアミドイミド系樹脂は、通常、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、又は無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することにより製造することができる。ポリアミドイミド系樹脂は、分子中にアミド基を多数有しているため、これを架橋可能な官能基として用いることができる。また、イミドの一部が未反応の前駆体(アミック酸)の状態で反応性を残したものも存在し、このアミック酸を構成するアミド基やカルボキシル基を架橋可能な官能基として利用することができる。また、ポリアミドイミド系樹脂は、上記の反応により製造されるため、末端にカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらを架橋可能な官能基として利用することもできる。
【0034】
ポリエーテルイミド系樹脂は、例えば、エーテル結合を有する芳香族テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。このアミック酸を構成するアミド基やカルボキシル基を架橋可能な官能基として利用することができる。また、ポリエーテルイミド系樹脂は、末端に、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらも架橋可能な官能基として利用することができる。
【0035】
ポリアミド系樹脂は、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合などによって製造することができる。ポリアミド系樹脂には芳香族ポリアミド系樹脂も含まれる。ポリアミド系樹脂は、分子中に多数のアミド基を有しているため、これを架橋可能な官能基として好ましく用いることができる。また、ポリアミド系樹脂は、末端にカルボキシル基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらを架橋可能な官能基として利用することができる。
【0036】
また、架橋可能な官能基は、樹脂の主鎖に存在していてもよいし、側鎖に存在していてもよい。さらに分子鎖の途中に存在していてもよいし、末端に存在していてもよい。また、架橋可能な官能基は高分子に含まれるベンゼン環等の環に存在していてもよい。
【0037】
前記架橋剤は、前記高分子が有している架橋可能な官能基と反応して架橋構造を形成しうる化合物である。架橋剤としては、例えば、2個以上のエポキシ基を有する化合物、ポリイソシアネート化合物、シランカップリング剤、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、アルキッド樹脂、ジアルデヒド化合物、酸無水物などが挙げられる。架橋剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
前記2個以上のエポキシ基を有する化合物は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミド基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルデヒド基、酸無水物基と反応しうる。ポリイソシアネート化合物は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基と反応しうる。シランカップリング剤は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミド基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルデヒド基、酸無水物基と反応しうる。メラミン樹脂は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基と反応しうる。フェノール樹脂は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルデヒド基、酸無水物基と反応しうる。尿素樹脂は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基と反応しうる。グアナミン樹脂は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アルデヒド基と反応しうる。アルキッド樹脂は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、カルボキシル基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基と反応しうる。ジアルデヒド化合物は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基と反応しうる。酸無水物は、前記高分子が有している架橋可能な官能基、例えば、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、エポキシ基と反応しうる。
【0039】
高分子中の架橋可能な官能基と架橋剤とを反応させる方法としては、熱、活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、放射線等)照射による方法が挙げられる。架橋剤との反応は無触媒で進行させることも可能であるが、触媒を添加して反応を促進させることもできる。
【0040】
前記架橋可能な官能基を有している高分子と架橋剤との配合比については、特に限定されることはなく、所望の架橋度合い、高分子と架橋剤の種類、官能基と架橋剤との反応性等を考慮して、適宜決定される。例えば、架橋剤の配合量は、架橋可能な官能基を有する高分子100重量部に対して、2〜312.5重量部、好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは20〜150重量部である。架橋剤の量が多すぎると、架橋反応に寄与しない架橋剤が架橋処理後の多孔質膜に残存し、多孔質膜の特性を低下させるおそれが生じる。
【0041】
本発明において、多孔質膜を構成する無機粒子としては、特に限定されず、目的に応じて種々の機能を持つ無機粒子を使用できる。無機粒子を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、酸化インジウムスズ、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化鉄、フェライト、カーボン、炭酸カルシウム、タルク、クレー、アルミノシリケート、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白、チタン酸鉛、硫化バリウム、硫化モリブデン、チタン酸ストロンチウム、マイカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、金属(銅、ニッケル、銀等)などが挙げられる。これらの無機粒子を多孔質膜に含有させることにより、その種類に応じて、例えば、反射特性(酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、硫酸バリウム粒子、チタン酸バリウム粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子等)、美観(酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、硫酸バリウム粒子、チタン酸バリウム粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子等)、電気伝導性(カーボン粒子、カーボンナノチューブ、酸化インジウムスズ粒子等)、熱伝導性(窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、アルミナ粒子、カーボン粒子、カーボンナノチューブ等)、電磁波シールド特性[金属粉(銅粒子、ニッケル粒子、銀粒子等)など]、電磁波吸収特性(磁性粉、酸化鉄粒子、フェライト粒子、カーボン粒子等)、吸着特性(シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子等)、耐食性(酸化ジルコニウム粒子等)、耐摩耗性(二硫化モリブデン粒子等)、耐熱性(酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子等)、撥水性、濡れ性(酸化チタン粒子等)、触媒活性(光触媒活性等)(酸化チタン粒子、酸化銅粒子、酸化鉄粒子等)、高誘電性(チタン酸バリウム粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、酸化チタン粒子等)、絶縁性、焦電性(チタン酸バリウム粒子等)、圧電性(チタン酸バリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等)など多種多様の機能を多孔質膜に付与できる。
【0042】
これらの中でも、無機粒子として、酸化チタン粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタン酸バリウム粒子、硫酸バリウム粒子、酸化インジウムスズ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化銅粒子、酸化鉄粒子、磁性粉、カーボン粒子及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0043】
無機粒子の一次粒子の平均粒径は、例えば0.01〜10μm、好ましくは0.05〜8μm、さらに好ましくは0.1〜3μmである。無機粒子の平均粒径が小さすぎる場合は、凝集が起こりやすく、高分子中に均質に分散するのが難しくなる。また、無機粒子の平均粒径が大きすぎると、高分子が形成する孔構造を不均質なものにしやすくなる。
【0044】
本発明の多孔質膜における無機粒子の含有量は、例えば10〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、さらに好ましくは25〜85重量%である。無機粒子の含有量が少なすぎると、無機粒子の添加効果、すなわち無機粒子に基づく機能性が小さくなり、逆に無機粒子の含有量が多すぎると、膜が脆くなる傾向となる。
【0045】
多孔質膜の厚みは、例えば5〜200μm、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは15〜50μmである。厚みが薄くなりすぎると、安定して製造することが困難になり、また、クッション性、印刷特性、機械強度が低下する場合がある。一方、厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0046】
本発明において、多孔質膜の多数の微小孔は、連通性の低い独立した微小孔(独立微小孔)であってもよいし、連通性のある微小孔(連続微小孔)であってもよい。独立微小孔の多い多孔質膜は、断熱性やクッション性、非透過性が求められる用途に適しており、連続微小孔の多い多孔質膜は、透過性や吸着性、高触媒活性等が求められる用途に適している。多孔質膜における微小孔の平均孔径[連続微小孔の多い多孔質膜(後述するガーレー値が30秒/100cc以下の多孔質膜)の場合は、多孔質膜表面の平均孔径であり、独立微小孔の多い多孔質膜(後述するガーレー値が30秒/100ccを超える多孔質膜)においては多孔質膜内部の微小孔の平均孔径]は、0.01〜10μmである。微小孔の平均孔径は、好ましくは0.1〜8μm、さらに好ましくは0.5〜5μmである。微小孔の平均孔径が上記範囲を外れると、用途に応じた所望の効果が得られにくい。例えば、微小孔の平均孔径が小さすぎる場合には、透過性能及び強度が低下する。また、微小孔の平均孔径が大きすぎる場合は、多孔質膜中で孔径分布を均一に制御することが困難になり、多孔質膜の各部位で比誘電率が不均質となる場合があり、また、分離効率、反射特性、吸着特性、触媒活性等が低下しやすくなる。なお、多孔質膜表面の最大孔径は15μm以下が好ましい。
【0047】
本発明において、多孔質膜の空孔率(内部の平均開孔率)は、30〜85%であり、好ましくは35〜83%、さらに好ましくは40〜80%である。多孔質膜の空孔率が上記範囲を外れると、用途に応じた所望の空孔特性が得られなくなる。例えば、空孔率が低すぎると、透過性能、吸着特性、クッション性等が充分でなかったり、機能性材料を充填しても機能が発揮できないことがある。一方、空孔率が高すぎると、機械的強度に劣るおそれがある。
【0048】
多孔質膜がこのような微小孔の平均孔径と空孔率とを備えることにより、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため取扱性にも優れる。
【0049】
多孔質膜の表面の開孔率(表面開孔率)としては、例えば48%以上(例えば48〜80%)であり、好ましくは60〜80%程度である。表面開孔率が低すぎると透過性能が充分でない場合が生じる他、空孔に機能性材料を充填してもその機能が十分に発揮できないことがあり、逆に高すぎると機械的強度が低下しやすくなる。
【0050】
多孔質膜に存在する微小孔の連通性は、透気度を表すガーレー値、及び純水透過速度などを指標とすることができる。膜厚30μmの多孔質膜のガーレー値は、例えば0.2〜30秒/100cc、好ましくは0.5〜25秒/100cc、さらに好ましくは0.8〜20秒/100cc、特に好ましくは1〜10秒/100ccである。数値が大きすぎると、実用上の透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充分に充填できないためにその機能が発揮できないことがある。一方、数値が小さすぎると、機械的強度に劣る可能性がある。
【0051】
多孔質膜の微小孔の径、空孔率、透気度、開孔率は、後述する多孔質膜の製造方法において、用いる基板、水溶性ポリマーの種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0052】
[多孔質膜の製造]
本発明の前記多孔質膜は、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料の分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、形成されたフィルム状多孔質層を前記基板から剥離し、次いで、前記フィルム状多孔質層を乾燥に付すことにより製造できる。
【0053】
この製造法において用いる基板としては、例えば、ガラス板;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、塩化ビニル樹脂、その他の樹脂からなるプラスチックシート;ステンレス板、アルミニウム板等の金属板などが挙げられる。なお、表面素材と内部素材とを違うもので組み合わせた複合板でもよい。
【0054】
多孔質膜形成用材料の分散液(以下、単に「分散液」と称する場合がある)は、例えば、多孔質膜を構成する主たる素材となる高分子成分、無機粒子、及び水溶性極性溶媒を含み、必要に応じて水溶性ポリマー、必要に応じて水、必要に応じて架橋剤(高分子の分子内に架橋構造を形成する場合)を含んでいる。該分散液においては、多孔質膜を構成する高分子成分の代わりに、該高分子成分の単量体成分や、そのオリゴマー、イミド化や環化等の前の前駆体等を用いてもよい。
【0055】
前記分散液に水溶性ポリマーや水を添加することは、膜構造をスポンジ状に多孔化するために効果的である。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、多孔質膜に存在する微小孔の連通性の点から、ポリビニルピロリドンが特に好ましい。多孔化のためには、水溶性ポリマーの重量平均分子量は200以上がよく、好ましくは300以上、さらに好ましくは1000以上、特に好ましくは5000以上(例えば、5000〜20万)である。水の添加量により孔径を調整でき、例えば、前記分散液への水の添加量を増やすことで孔径を大きくすることが可能となる。
【0056】
水溶性ポリマーは、膜構造を均質なスポンジ状多孔構造にするのに非常に有効であり、水溶性ポリマーの種類と量を変更することにより多様な構造を得ることができる。このため、水溶性ポリマーは、所望の空孔特性を付与する目的で、多孔質膜を形成する際の添加剤として極めて好適に用いられる。
【0057】
一方、水溶性ポリマーは、最終的には多孔質膜を構成しない、除去すべき不要な成分である。湿式相転換法を利用する本発明の方法においては、水溶性ポリマーは水等の凝固液に浸漬して相転換する工程において洗浄除去される。これに対し、乾式相転換法においては、多孔質膜を構成しない成分(不要な成分)は加熱により除去され、水溶性ポリマーは通常加熱除去には不向きであることから、添加剤として利用することは極めて困難である。このように、乾式相転換法によっては多様な空孔構造を形成することは困難であるのに対し、本発明の製造方法は、所望の空孔特性を有する多孔質膜を容易に製造することが可能である点で有利である。
【0058】
本発明の方法において、水溶性ポリマーの添加量を増やしていくと、孔の連通性が高くなる傾向となる。よって、連通性の低い多孔質膜(独立微小孔の多い多孔質膜)を得たい場合には、水溶性ポリマーの量を最小量とするのが好ましく、水溶性ポリマーを使用しないことも可能である。
【0059】
水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられ、前記高分子成分として使用するポリマーの化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。これらの溶媒は単独又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0060】
前記分散液における各成分の配合量は、前記分散液を基準として、前記高分子成分8〜25重量%、前記架橋剤0〜25重量%、前記水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、及び水溶性極性溶媒30〜82重量%とすることが好ましい。この際に、前記高分子成分の濃度が低すぎると多孔質膜の厚みが不十分となったり、所望の空孔特性が得られにくく、多孔質膜の強度も弱くなる傾向となり、一方、高分子成分の濃度が高すぎると空孔率が小さくなる傾向となる。水溶性ポリマーの濃度が低すぎると多孔質膜内部に10μmを超えるような巨大ボイドが発生し均質性が低下しやすくなる。水溶性ポリマーの濃度が高すぎると、各成分の溶解性が悪くなったり、多孔質膜の強度が低下するなどの不具合が生じやすい。
【0061】
前記多孔質膜形成用材料の分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、凝固液中に浸漬し、相転換させる。
【0062】
前記多孔質膜形成用材料の分散液を基板上へフィルム状に流延した後、凝固液中に浸漬する際、高分子成分の種類により基板に付着しやすいものと、基板に付着しにくいものとがある。具体的には、ポリアミドイミド系樹脂やポリイミド系樹脂は基板に付きやすい樹脂であり、ポリエーテルイミド系樹脂は基板に付きにくい樹脂である。
【0063】
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤(高分子成分の非溶剤)であればよく、高分子成分として使用するポリマーの種類によって適宜選択されるが、例えば、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコールなどのアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物などの水溶性凝固液などが使用できる。
【0064】
前記凝固液の温度は、特に制限されないが、例えば0〜100℃の範囲が好ましい。凝固液の温度が0℃未満であると、溶剤等の洗浄効果が低下しやすい。凝固液の温度が100℃を超えると、溶剤や凝固液が揮発して、作業環境が損なわれる。凝固液としては、コスト、安全性等の観点から、水が好ましく用いられる。凝固液として水を用いた場合、水の温度5〜60℃程度が適切である。前記凝固液中への浸漬時間は、特に制限されないが、水溶性極性溶媒、水溶性ポリマーが十分に洗浄される時間を適宜選択する。洗浄時間が短すぎると、残存した溶媒により、乾燥工程で多孔質構造が壊れるおそれがある。洗浄時間が長すぎると、製造効率が低下し、製品コストの上昇につながる。洗浄時間は、多孔質膜の厚み等にもよるため、一概には言えないが、0.5〜30分間程度とすることができる。
【0065】
流延後のフィルム状物を凝固液中に浸漬する前に、流延後のフィルム状物を相対湿度70〜100%、温度15〜100℃からなる雰囲気下に、0.2分間以上(例えば、0.2〜180分間)、好ましくは0.2〜60分間、さらに好ましくは0.2〜15分間)保持し、その後、前記凝固液中へ導くのが好ましい。流延後のフィルム状物を上記の加湿条件に置くことにより、均質性の高い多孔質膜が得られやすくなる。加湿下に置くと、水分がフィルム表面から内部へと侵入し、前記分散液の層分離を効率的に促進すると考えられる。そのため、多孔質膜の基板側表面の反対側の表面(多孔質膜の空気側表面)の開孔率が向上するものと推察される。好ましい条件は、相対湿度90〜100%、温度30〜80℃であり、さらに好ましい条件は、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜70℃である。
【0066】
フィルム状多孔質層の基板からの剥離工程は、該フィルム状多孔質層を基板から強制的に剥離してもよいし、あるいは、多孔質膜を構成する高分子成分と基板材料との組合せを選択して、凝固液中に浸漬すると自然に該フィルム状多孔質層が基板から剥離するようにしてもよい。
【0067】
強制的な剥離は、多孔質膜の厚みを均一にできる傾向があるが、強く引っ張ると多孔質膜を破損するおそれがあるので注意が必要となる。
【0068】
自然と剥離するようにした方が、製造は容易であるが、多孔質膜の厚みに若干の厚みむらが生じる傾向がある。フィルム状多孔質層と基板が凝固液に導かれると自然と剥離するようにするためには、基板として撥水性の高いものを使用することが好ましい。例えば、フッ素系フィルム[例えば、テフロン(登録商標)フィルムなど]や、表面にフッ素系樹脂を貼り合わせたりコーティングしたフィルム等を用いることができる。
【0069】
次に、剥離されたフィルム状多孔質層を乾燥する。乾燥処理の方法は、特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、フィルム状多孔質層を所定の温度にコントロールできるものであればよい。乾燥処理時の雰囲気は空気でも窒素等の不活性ガスでもよい。空気を使用する場合は最も安価であるが、酸化反応を伴うおそれがある。これを避ける場合は、窒素等の不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質膜の物性等を考慮して適宜設定できる。
【0070】
上記方法によれば、多数の微小孔を有し、前記微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、厚みが例えば5〜200μmの無機粒子含有多孔質膜を容易に成形することができる。多孔質膜の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、前記分散液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0071】
高分子の分子内に架橋構造を形成する場合は、得られた多孔質膜に架橋処理を施す。上述のようにして得られた多孔質膜中に含まれている架橋剤(必要に応じて添加される)は、通常、未反応の状態である。ただし、架橋剤が熱架橋するものである場合には、上記の乾燥処理条件によっては、一部又は全部の架橋剤が反応して架橋構造が形成される場合がある。
【0072】
架橋処理は、架橋剤の種類に応じて、加熱処理、及び/又は活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、放射線等)照射処理によって行うことができる。それぞれ、適切な条件を設定する。例えば、加熱処理は、100〜400℃、10秒〜5時間の条件で行うのが好ましい。
【0073】
架橋処理を施すことにより、高分子中の架橋可能な官能基と架橋剤の官能基とが反応し、多孔質膜中に架橋構造が形成される。架橋構造形成により、多孔質膜の膜強度、耐熱性、耐薬品性、耐久性、剛性に優れる多孔質膜が得られる。また、多孔質膜(多孔質膜層)の表面上に各種機能性層を形成する場合には、次の(b)、(c)のように、機能性層の形成(機能性の発現)の際に架橋を起こすようにすれば、多孔質膜と機能性層との密着性向上に有効である。
【0074】
多孔質膜表面に機能性層を設けて(機能性化処理)、機能性積層体を得る場合には、次のような架橋処理を施すタイミングがある。
(a)得られた多孔質膜に架橋処理を施し、その後、多孔質膜表面に機能性層を設けて、機能性積層体を得る方法
(b)得られた多孔質膜表面に機能性層を設けて、その後、架橋処理を施し、機能性積層体を得る方法(加熱による架橋処理は、機能性層の機能発現化のための加熱処理を兼ねてもよい)
(c)得られた多孔質膜に部分的架橋処理を施し、その後、多孔質膜表面に機能性層を設けて、さらに、再度の架橋処理を施して架橋処理を完全とし、機能性積層体を得る方法[ここで、部分的架橋処理とは、それにより、半硬化状態(いわゆるBステージ)とすることを意図している]
【0075】
多孔質膜は架橋反応が起こる際に収縮する場合がある。これを避けるため、多孔質膜を適宜固定部材に固定した状態で架橋反応を行うことが好ましい。例えば、多孔質膜の一部を、樹脂、金属、ガラス製等のフィルム、板、フレーム状物(枠)、バット等に固定するしてもよい。なお、固定のさせ方で、面方向の収縮率を適度にコントロールし、厚み、空孔率等をコントロールすることもできる。
【0076】
本発明の多孔質膜には、所望の特性を付与するため、必要に応じて熱処理や被膜形成処理が施されていてもよい。
【0077】
本発明の多孔質膜は、また、多孔質膜に耐薬品性高分子化合物を被覆してもよい。
【0078】
ここで、薬品とは、従来の多孔質膜を構成する樹脂を溶解、膨潤、収縮、分解して、多孔性フィルムとしての機能を低下させるものとして公知のものであり、多孔質膜の構成素材や用途によって異なり一概に言うことはできないが、このような薬品の具体例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;アルカリ溶液;酸性溶液;及びこれらの混合物等が挙げられる。前記アルカリ溶液には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリ性物質を溶解した水溶液や有機溶媒溶液が含まれる。前記酸性溶液には、塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸などの有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒溶液が含まれる。
【0079】
耐薬品性高分子化合物としては、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品に優れた耐性を有していれば特に制限されないが、例えば、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、アルキッド系樹脂、トリアジン系樹脂、フラン系樹脂、不飽ポリエステル、エポキシ系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、フタル酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、飽和ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、キチン、キトサンなどの熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。また、高分子化合物は、共重合物でもよく、グラフト重合物であってもよい。
【0080】
このような耐薬品性高分子化合物により多孔質膜が被覆されていると、前記強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触した場合にも、多孔質膜が溶解したり、膨潤して変形するなどの変質が全く生じないか、使用目的や用途に影響のない程度に変質を抑制できる。例えば、多孔質膜と薬品とが接触する時間が短い用途では、その時間内で変質しない程度の耐薬品性が付与されていればよい。
【0081】
なお、前記耐薬品性高分子化合物は、同時に耐熱性を有する場合が多いため、多孔質膜の耐熱性が低下するおそれな少ない。また、耐薬品性高分子化合物の被覆によって、多孔質膜表面の特性を変化させることも可能である。例えば、フッ素系樹脂を使用すれば、表面を撥水性にすることができ、エチレン−ビニルアルコール共重合体を使用すれば、表面を親水性にすることも可能となる。さらに、フェノール系樹脂を使用すれば、中性の水に対しては表面を撥水性に、アルカリ性の水溶液に対しては表面を親水性にすることも可能となる。このように、被覆に用いる耐薬品性高分子化合物の種類を適宜選択することにより、液体に対する親和性(親水性等)を変更することができる。
【0082】
本発明の多孔質膜は、上記構成を有するため、広範な分野において多様な用途に適用できる。具体的には、多孔質膜が有する空孔特性と無機粒子の有する特性とをともに利用する用途、例えば、電子ペーパーの表示デバイス(電子ペーパー用フィルム)、色素増感太陽電池等の光電極、光触媒、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放熱板)、電磁波シールドや電磁波吸収体等の電磁波制御材、アンテナ、反射シート(液晶ディスプレイや表示体のバックライト光源に用いられる反射シート等)などに利用できる。
【0083】
[多孔質膜層を有する積層体]
本発明の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも片面上に設けられた無機粒子を含有する多孔質膜層とを少なくとも有する積層体であって、前記多孔質膜層が前記の多孔質膜で構成されている。
【0084】
このような積層体は上述した相転換法を利用して製造できる。すなわち、多孔質膜(多孔質膜層)を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料の分散液を基材(前記多孔質膜の製造における「基板」に相当する)上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付す工程を経ることにより製造できる。
【0085】
前記積層体は、例えば、下記方法に基づくテープ剥離試験を行ったとき、前記基材と多孔質膜層との間で界面剥離を起こさないものが好ましい。すなわち、基材と多孔質膜層とが、下記のテープ剥離試験で界面剥離を起こさない程度の層間密着強度で直接的に積層されていることが好ましい。
テープ剥離試験:
積層体の多孔質膜層表面に24mm幅の寺岡製作所製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(♯25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラー(Holbein Art Materials Inc.社製、耐油性硬質ゴムローラーNo.10)で圧着し、その後、引張試験機を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う。
【0086】
基材は、樹脂フィルム、金属箔、貫通穴を多数有する基材などの何れであってもよい。基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合フィルムであってもよい。複合フィルムは、複数のフィルムを必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものであってもよい。また、基材には、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等の1又は2以上の表面処理がなされていてもよい。
【0087】
前記樹脂フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンナフタレート系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(芳香族ポリアミド系樹脂、非芳香族ポリアミド系樹脂)、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂を含む)、ポリアリレート系樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの材料は単独で又は2種以上を混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含むポリマー(例えば、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等)を用いることもできる。
【0088】
樹脂フィルム基材の厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
【0089】
金属箔基材を構成する材料としては、上記テープ剥離試験により多孔質膜層と界面剥離を生じなけれは特に限定されず、多孔質膜層を構成する材料に応じて適宜選択できる。金属箔基材を構成する材料としては、例えば、銅箔、アルミ箔、鉄箔、ニッケル箔、金箔、銀箔、錫箔、亜鉛箔、ステンレス箔等が挙げられる。これらの材料は単独で又は2種以上混合して使用することもできる。
【0090】
金属箔基材の片面に多孔質膜層が形成される場合は、多孔質膜層が積層されていると面と反対側の面には粘着剤層が形成されていてもよく、さらに取り扱いやすいように粘着剤層上に保護フィルム(離型フィルム)が貼られていてもよい。
【0091】
金属箔基材の厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
【0092】
また、貫通穴を多数有する基材を構成する材料には、織布、メッシュクロス、パンチングフィルム、金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、及びエッチングメタル等が含まれる。ここで、「貫通穴を有する基材」とは、基材平面に対してほぼ垂直方向に貫通した空孔を有する基材を意味している。貫通穴を多数有する基材としては、貫通穴が多数形成され、上記テープ剥離試験により多孔質膜層と界面剥離を生じなければ特に限定されない。このような貫通穴を多数有する基材を構成する材料としては、例えば、織布、メッシュクロス、パンチングフィルム等のプラスチックフィルム又はシート;金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、エッチングメタル等の金属箔又はシート等が挙げられ、耐水性、耐熱性、耐薬品性等の特性に応じて適宜選択して利用できる。なかでも、微細で規則正しい構造を持つメッシュクロスが好ましく用いられる。
【0093】
織布としては、例えば、綿繊維や絹繊維等の天然繊維;ガラス繊維、PEEK繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維(ザイロン等)等の樹脂繊維、カーボンファイバー等から選択される一種又は2種を組み合わせて形成された織布を利用できる。
【0094】
メッシュクロスには、目開き(糸と糸の間の隙間の大きさのミクロン数)、糸径(糸の太さのミクロン数)、メッシュ(1インチ間の糸の本数)、目開き率(メッシュ全体に対する開孔部の割合)、厚さ(メッシュの厚さのミクロン数)等によって多種の品番が存在する。メッシュクロスの織り方も色々あり、ASTM(米国工業規格)、DIN(ドイツ工業規格)、HD、XX、GG、HC&P、シュリンガー等の種類がある。これらの中から、目的に応じた物性を備えたものを適宜選択して用いることができる。
【0095】
パンチングフィルムとしては、PET、ポリイミド等のフィルムに打抜加工等を施すことにより、円形、正方形、長方形、楕円等の孔を開けたものが挙げられる。
【0096】
金網としては、市販の平織金網、綾織金網、平畳織金網、綾畳織金網等を利用できる。材質としては、鉄、ステンレス、銅、ニッケル等が挙げられる。
【0097】
パンチングメタルとしては、金属の箔又はシートに打抜加工等を施すことにより、円形、正方形、長方形、楕円等の孔を開けたものが挙げられる。材質としては、鉄、アルミ、ステンレス、銅、チタン等を挙げることができる。
【0098】
エキスパンドメタルとしては、JIS規格の形状のものを挙げることができる。例えば、XS63、XS42フラット等がある。材質としては、鉄、アルミ、ステンレス、等を挙げることができる。
【0099】
上記貫通穴を多数有する基材は、エッチング加工、打抜加工、レーザー照射等の加工方法等材料に応じた慣用の方法により製造することができる。このような貫通穴を多数有する基材によれば、該表面へ高分子溶液を塗布して多孔質膜層を積層することにより、優れた層間密着強度で積層することができるという利点がある。また、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため、取扱性を向上する効果を得ることができる。
【0100】
貫通穴を多数有する基材がメッシュクロスの場合は、基材表面の平均孔径(目開き:線材と線材の間の隙間の大きさ)が、例えば30〜1000μm、好ましくは40〜200μm程度であり、表面開孔率(目開き率:メッシュ全体面積に対する開孔部面積の割合)が、例えば20〜70%であり、好ましくは25〜60%程度である。前記目開き及び目開き率の各数値が低すぎる場合には、層間密着性が不十分となったり、柔軟性が低くなりやすく、前記各数値が高すぎる場合には、機械的強度に剛性が低下しやすく取扱性に劣る傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0101】
貫通穴を多数有する基材がパンチングフィルムやパンチングメタルの場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは30〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向がありいずれも好ましくない。
【0102】
貫通穴を多数有する基材が金網の場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは25〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には、気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向があり、いずれも好ましくない。
【0103】
貫通穴を多数有する基材がエキスパンドメタルの場合は、表面開孔率が20〜80%程度であり、好ましくは25〜70%程度である。表面開孔率の数値が低すぎる場合には気体や液体の透過性が悪くなりやすく、数値が高すぎる場合は強度が低下しやすく取扱性に劣る傾向があり、いずれも好ましくない。
【0104】
貫通穴を多数有する基材の厚みは、例えば1〜1000μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
【0105】
多孔質膜層を構成する多孔質膜は前記本発明の多孔質膜である。
【0106】
多孔質膜層の厚みは、基材が樹脂フィルム又は金属箔の場合は、例えば0.1〜100μm、好ましくは0.5〜70μm、さらに好ましくは1〜50μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0107】
多孔質膜層の厚みは、基材が貫通穴を多数有する基材の場合は、例えば0.1〜1000μm、好ましくは0.5〜500μm、さらに好ましくは1〜200μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0108】
本発明の積層体は、基材と多孔質膜層とが他の層を介することなく直接的に、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で積層されている。基材と多孔質膜層との密着性を向上させる手段としては、例えば、基材における多孔質膜層を積層する側の表面に、サンドブラスト処理(サンドマット処理)コロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、シランカップリング剤処理等の適宜な表面処理を施す方法;基材と多孔質膜層とを構成する成分として、良好な密着性(親和性、相溶性)を発揮しうる素材を組み合わせて用いる方法等が挙げられる。前記表面処理は、複数を組み合わせて施されてもよく、基材によっては、シランカップリング剤処理と、その他の処理を組み合わせて施されることが好ましい。
【0109】
基材と多孔質膜層との密着性の観点から、本発明の積層体は、例えば、多孔質膜層を構成する高分子成分が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、芳香族ポリアミド系、及び非芳香族ポリアミド系樹脂から選択される少なくとも一種であり、基材を構成する材料が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂から選択される少なくとも一種で構成されていることが好ましい。同様の観点から、積層体の好ましい態様として、基材と多孔質膜層を構成する各成分の一部又は全部が同一、例えば両層を構成する高分子化合物のモノマー単位の少なくとも一部が共通である構成が挙げられる。このような多孔膜積層体には、例えば、基材/多孔質膜層を構成する材料が、ポリイミド/ポリイミド、ポリアミドイミド/ポリイミド、ポリイミド/ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド/ポリイミド、ポリイミド/ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド/ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミド/ポリアミドイミドなどの組み合わせからなる積層体が含まれる。
【0110】
多孔質膜層は、基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成することもできる。基材の両面に多孔質膜層が形成することにより、その空孔特性及び無機粒子の持つ特性を生かして、両面に、反射性、光特性、低誘電率性、クッション性、断熱性等が付与された多孔膜積層体を得ることができる。
【0111】
本発明の積層体は、十分な強度を有する基材に柔軟な多孔質膜が積層された構成であるため、上記のような優れた空孔特性及び無機粒子の持つ諸特性を有すると同時に十分な耐折性を備えている。耐折性は、下記条件に基づく折り曲げ試験を繰り返し行い、被検材が切断されるまでの回数が10回以上である場合に耐折性を有すると評価する。また、切断までの折り曲げ回数が高いほど優れた耐折性を有すると判断され、例えば電子材料等で繰り返し折り曲げが要求される用途においては切断までの回数が100回以上程度の耐折性を備えていることが好ましい。折曲げ試験は、東洋精機製作所製MIT耐揉疲労試験機MIT−Dを使用し、サンプル形状15×110mm、折り曲げ角度135°、折り曲げ面の曲率半径(R)0.38mm、折り曲げ速度175cpm、張力4.9Nの条件下、JIS C 5016の耐折性試験に準じて行われる。
【0112】
本発明の積層体によれば、折り曲げ回数が20000回でも切断されず、極めて優れた耐折性を有しているものも含まれる。このため、優れた加工性、成形性を発揮でき、多様な形態で広範な用途に利用できる。
【0113】
本発明の積層体の好ましい形態は、基材が樹脂フィルム又は金属箔の場合、基材の片面又は両面が多孔質膜層により被覆されており、連通性が高い微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質膜層を有する多孔膜積層体であり、その多孔質膜層の厚みが5〜200μmであり、空孔率が30〜85%であって、基材の厚みが1〜300μmである。このような多孔膜積層体は、多孔質膜層及び基材を構成する材料や厚み、製造条件(例えば、加湿条件)等を適宜設定することにより製造できる。
【0114】
前記のように、本発明の積層体は、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料の分散液を基材(前記多孔質膜の製造における「基板」に相当する)上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付す工程を経ることにより製造できる。すなわち、本発明の積層体は、前記多孔質膜の製造法において、「基板」として前記基材を用いる(但し、凝固液中への浸漬により形成されたフィルム状多孔質膜層を前記基材から剥離する工程を省く)ことにより製造できる。
【0115】
本発明の積層体の製造方法においては、凝固液に導いて基材表面に多孔質層を成形した後、そのまま乾燥に付すことにより、基材の表面に多孔質膜層が直接積層された構成を有する多孔膜積層体が製造される。乾燥は、前記のように、凝固液等の溶剤成分を除去しうる方法であれば特に限定されず、加熱下でもよく、室温による自然乾燥であってもよい。加熱処理の方法は特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、多孔膜積層体を所定の温度にコントロールできるものであればよい。加熱温度は、例えば室温〜600℃程度の広範囲から選択することができる。加熱処理時の雰囲気は空気でも窒素や不活性ガスでもよい。空気を使用する場合が最も安価であるが、酸化反応を伴う可能性がある。これを避ける場合は、窒素や不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質膜層及び基材の物性等を考慮して適宜設定される。乾燥に付すことにより、基材表面に多孔質膜層が直接成形された多孔膜積層体を得ることができる。
【0116】
こうして得られた多孔膜積層体には、さらに、熱、可視光線、紫外線、電子線、放射線等を用いて架橋処理を施してもよい。前記処理により、多孔質膜層を構成する前駆体の重合、架橋、硬化等が進行して高分子化合物を形成し、高分子多孔質膜層が高分子化合物で構成されている場合には架橋や硬化等が進行し、剛性や耐薬品性等の特性が一層向上した多孔質膜層を有する多孔膜積層体を得ることができる。例えば、ポリイミド系前駆体を用いて成形した多孔質膜層には、さらに熱イミド化あるいは化学イミド化等を施すことによりポリイミド多孔質膜層を得ることができる。ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形された多孔質膜層には熱架橋を施すことができる。なお、熱架橋は、凝固液に導いた後、乾燥に付すための加熱処理と同時に施すことも可能である。多孔質膜形成用材料の分散液に架橋剤を添加する場合も上記と同様の処理により架橋反応が進行して、高分子の分子内に架橋構造が形成される。
【0117】
上記の架橋処理は、場合により高分子多孔質膜層と基材フィルムの間でも架橋反応を引き起こすことがある。これにより、基材フィルムと多孔質膜層との密着性が向上する。例えば、ポリイミド系前駆体の多孔質膜層を形成したポリイミドフィルムを熱処理すると、前駆体はポリイミドになると同時にポリイミドフィルムに密着する。また、ポリアミドイミド樹脂の多孔質膜層を形成したポリイミドフィルムを熱処理すると多孔質膜層はポリイミドフィルムに密着する。
【0118】
本発明の積層体の製造方法によれば、基材フィルムの片面、又は両面が無機粒子を含む高分子多孔質膜層により被覆されており、高分子多孔質膜層は連通性の高い多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである無機粒子含有多孔質膜層を有するフィルムを容易に得ることができる。
【0119】
本発明の積層体(多孔膜積層体)は、基材の少なくとも片面に無機粒子含有多孔質膜層が積層されていればよく、基材の両面に無機粒子含有多孔質膜層を有していてもよい。また、基材の一方の面に無機粒子含有多孔質膜層が積層され、基材の他方の面に無機粒子非含有多孔質膜層が積層されていてもよい。さらに、多孔膜積層体には、所望の特性を付与するため、必要に応じて熱処理や被膜形成処理を施されていてもよい。
【0120】
本発明の積層体は、上記構成を有するため、広範な分野において多様な用途に適用できる。具体的には、無機粒子を含有する多孔質膜層が有する空孔特性及び無機粒子の持つ諸特性を利用して、例えば、反射板、電子ペーパーの表示デバイスの材料、色素増感太陽電池の光電極、低誘電率材料、セパレーター、クッション材、インク受像シート、試験紙、絶縁材、断熱材等として利用できる。さらに、多孔膜積層体に他の層(金属メッキ層、磁性メッキ層等)を積層した複合材料として、例えば回路用基板、放熱材(放熱板等)、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、細胞培養基材等として利用可能である。
【0121】
[機能性積層体(複合材料)]
本発明の前記多孔質膜の表面や前記積層体の多孔質膜層の表面に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層などの機能性層を設けることができる。このように、前記多孔質膜の表面や前記積層体の多孔質膜層の表面に導電体層などを設けることにより、多孔質膜の空孔特性と無機粒子の機能特性に加えて、さらに別の機能を付加することができる。このような機能性積層体は複数の機能を備えているため、より広範な分野において多様な用途に利用することができる。本明細書では、このように前記多孔質膜の表面又は前記積層体の多孔質膜層の表面に機能性層を設けた機能性積層体を「複合材料」と称する場合がある。
【0122】
前記多孔質膜又は前記積層体の多孔質膜層の表面上への各種機能性層又はその前駆体層の形成は、例えば、メッキ、印刷技術等により行うことができる。メッキにより形成される層には、金属メッキ層、磁性メッキ層が含まれる。
【0123】
金属メッキ層は、例えば、前記多孔質膜又は前記積層体の多孔質膜層(以下、これらをまとめて単に「多孔質膜」と称する場合がある)の表面に薄い金属被覆として形成されていてもよい。金属メッキ層を構成する金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、すず、ビスマス、亜鉛、アルミニウム、鉛、クロム、鉄、インジウム、コバルト、ロジウム、白金、パラジウムやこれらの合金等を挙げることができる。さらにニッケル−りん、ニッケル―銅―りん、ニッケル―鉄―りん、ニッケル―タングステン―りん、ニッケル―モリブデン―りん、ニッケル―クロム―りん、ニッケル―ホウ素―りん等多種多様の金属以外の元素を含む合金皮膜も挙げることができる。金属メッキ層は、上記の金属を単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、単層であってもよく、複数の層を積層してもよい。
【0124】
磁性メッキ層を構成する材料としては、磁性を有する化合物であれば特に限定されず、強磁性体及び常磁性体の何れであってもよく、例えばニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルト−タングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金;メトキシアセトニトリル重合体等のラジカルを発生し得る部位を有する化合物、デカメチルフェロセンの電荷移動錯体等の金属錯体系化合物、グラファイト化途上炭素材料であるポリアクリロニトリルなどの化合物からなる有機磁性体等が例示できる。
【0125】
金属メッキ層の形成には、例えば、無電解メッキ及び電解メッキ等の公知の方法を利用できる。本発明においては、多孔質膜が高分子成分で構成されている観点から、無電解メッキが好ましく用いられ、無電解メッキと電解メッキを組み合わせて用いることもできる。
【0126】
金属メッキ層の形成に用いるメッキ液は、各種の組成のものが知られており、メーカーが販売しているものを入手することもできる。メッキ液の組成は特に制限されず、各種の要望(美観、硬さ、耐磨耗性、耐変色性、耐食性、電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、摺動性、撥水性、ぬれ性、半田ぬれ性、シール性、電磁波シールド特性、反射特性等)に合ったものを選択すればよい。
【0127】
複合材料の製造方法の一形態は、上記多孔質膜の表面に、光により反応基を生成する化合物からなる感光性組成物を塗布して感光層を設ける工程、前記感光層にマスクを介して露光し、露光部に反応基を生成させる工程、及び露光部に生成された反応基を金属と結合させて導体パターンを形成する工程を含む方法;又は、上記製造方法において、光により反応基を生成する化合物の代わりに光により反応基を消失する化合物を用い、露光部に反応基を消失させる工程、未露光部に残る反応基を金属と結合させて導体パターンを形成する工程を含む方法で行われる。
【0128】
光により反応基を生成する化合物としては、金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基を分子内に生成する化合物であれば特に限定されず、例えば、オニウム塩誘導体、スルフォニウムエステル誘導体、カルボン酸誘導体およびナフトキノンジアジド誘導体から選択される少なくとも1種の誘導体を含有する感光性化合物等が挙げられる。これらの感光性化合物は、汎用性に富み、光照射により金属と結合可能な反応基を容易に生成しうるため、微細なパターンを有する導電部を精度良くできる。
【0129】
光により反応基を消失する化合物としては、例えば、金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基を有する化合物であって、光の照射により該反応基が疎水性官能基を生成して、水に溶解あるいは膨潤しにくくなる化合物などが挙げられる。
【0130】
上記光により生成又は消失する反応基とは、前記金属(金属イオンを含む)と結合形成可能な反応基であれば特に限定されず、例えば金属イオンとイオン交換可能な官能基などが例示でき、好ましくは陽イオン交換性基が挙げられる。陽イオン交換性基には、例えば−COOX基、−SO3X基あるいは−PO32基等の酸性基(ここで、Xは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニウム基)等が含まれる。なかでも、pKa値が7.2以下の陽イオン交換性基によれば、単位面積当たりに十分な金属との結合を形成しうるため、所望の導電性を容易に得ることができ好ましい。このような反応基は、次工程において、金属イオン交換され、金属還元体や金属微粒子による安定した吸着能を発揮することができる。
【0131】
照射光としては、反応基の生成又は消失を促進できれば特に限定されず、例えば280nm以上の波長の光を用いることができるが、多孔質膜の露光による劣化を避けるため、好ましくは波長が300nm以上(300〜600nm程度)、特に350nm以上の光が好ましく用いられる。
【0132】
マスクを介して光照射後、必要に応じて洗浄することにより、露光部又は未露光部に反応基で構成されたパターンを形成できる。こうして多孔質膜表面に設けられた反応基を、以下に示す方法により金属と結合させて導体パターンが形成される。
【0133】
本発明では、反応基を金属と結合する方法として無電解メッキによる方法が好ましく用いられる。無電解メッキは、一般的にプラスチック等で形成された樹脂層に金属を積層する方法として有用であることが知られている。多孔質膜の表面は、金属との密着性を向上する目的で、予め脱脂、洗浄、中和、触媒処理等の処理が施されてもよい。前記触媒処理としては、例えば被処理面に金属の析出を促進しうる触媒金属を付着させる触媒金属核形成法等を利用できる。触媒金属核形成法は、触媒金属(塩)を含むコロイド溶液に接触させた後、酸若しくはアルカリ溶液又は還元剤に接触させて化学メッキを促進させる方法(キャタライザー(触媒)−アクセレータ(促進剤)法);触媒金属の微粒子を含むコロイド溶液に接触させた後、加熱等により溶媒や添加剤等を除去して触媒金属核を形成する方法(金属微粒子法);還元剤を含む酸又はアルカリ溶液に接触させた後、触媒金属の酸又はアルカリ溶液に接触させてアクチベーティング(賦活化)液を接触させて触媒金属を析出させる方法(センシタイジング(感作)−アクチベーティング(賦活化)法)等が挙げられる。
【0134】
キャタライザー−アクセレータ法における触媒金属(塩)含有溶液としては、例えばすず−パラジウム混合溶液、硫酸銅等の金属(塩)含有溶液などを用いることができる。キャタライザー−アクセレータ法は、例えば多孔質膜又は積層体を硫酸銅水溶液中に浸漬した後、必要に応じて過剰な硫酸銅を洗浄除去し、次いで水素化ホウ素ナトリウムの水溶液に浸漬することにより、多孔質膜表面に銅微粒子からなる触媒核を形成できる。金属微粒子法は、例えば、銀のナノ粒子が分散したコロイド溶液を多孔質膜表面に接触させた後、加熱して界面活性剤やバインダー等の添加剤を除去することにより、多孔質膜表面に銀粒子からなる触媒核を析出させることができる。センシタイジング−アクチベーティング法は、例えば、塩化すずの塩酸溶液に接触させた後、塩化パラジウムの塩酸溶液に接触させることによりパラジウムからなる触媒核を析出させることができる。これらの処理液に多孔質膜を接触させる方法としては、金属メッキ層を積層させる多孔質膜表面に塗布する方法、多孔質膜又は積層体を処理液に浸漬する方法等を用いることができる。
【0135】
無電解メッキに用いられる主な金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、ニッケル−りん等を挙げることができる。無電解メッキに用いるメッキ液には、例えば、上記金属又はその塩が含まれている他、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、グリオキシル酸等の還元剤、酢酸ナトリウム、EDTA、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グリシン等の錯化剤や析出制御剤等が含まれており、これらの多くは市販されており簡単に入手することができる。無電解メッキは、上記のメッキ液に上記処理を施した多孔質膜又は積層体を浸漬することにより行われる。なお、多孔質膜又は積層体の片面に保護シートを貼った状態で無電解メッキを施すことにより、他の面にのみ無電解メッキが施されるため、例えば基材等への金属の析出を防止することができる。
【0136】
金属メッキ層の厚みは、特に限定されず用途に応じて適宜選択でき、例えば0.01〜20μm程度、好ましくは0.1〜10μm程度である。金属メッキ層の厚みを効率よく厚くするため、例えば無電解メッキと電解メッキとを組み合わせて金属メッキ層を形成する方法が行われる場合がある。すなわち、無電解メッキにより金属被膜が形成された多孔質膜層表面は導電性が付与されるため、次いでより効率のよい電解メッキを施すことによりにより短時間で厚い金属メッキ層を得ることが可能となる。
【0137】
上記方法は、特に回路基板、放熱材又は電磁波制御材に用いられる複合材料を得る方法として好適である。
【0138】
回路基板は、従来は、一般にガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板表面に銅箔を貼り合わせ、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより配線を形成する方法により製造されていた。しかし、このような従来法では、高密度化する回路基板に対応しうる微細な配線の形成が困難になりつつあった。配線の微細化を進めるためには、非常に薄い銅箔をガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板に強く密着させる必要があるが、薄い銅箔は取扱性にきわめて劣り、基板への積層工程が非常に困難であった。また、薄い銅箔の製造はそれ自体が困難で、高価であり、しかも、基材の素材に用いられるガラス・エポキシ樹脂やポリイミドと銅箔はもともと密着力が大きくないため、微細化を進めると配線が基板から剥離してしまうという問題があった。
【0139】
このような背景において、本発明の複合材料によれば、多孔質膜表面に微細な開口部を形成することも可能なので、その場合、金属メッキ層と十分な密着力を確保でき、微細配線を有する回路基板用材料に好適である。回路基板用材料を構成する場合には、金属メッキ層は、銅、ニッケル、銀等で構成されていることが好ましい。
【0140】
本発明の多孔質膜及び積層体は、多孔質膜表面に直接微細配線を形成する方法で製造される回路基板として極めて有用である。このような回路基板を製造する方法としては、上記本発明の複合材料の製造方法として記載されている方法を利用できる。この方法によれば、本発明の多孔質膜又は積層体を用いるため、多孔質膜に強固に絡みついた微細配線を形成することができ、しかも露光技術を用いて精度よく簡単に配線を形成することができる。片面に多孔質膜を有する積層体では片面配線を形成できるし、両面に多孔質膜を有する積層体では両面配線を形成できる。両面をつなぐビア配線が必要な場合は従来から用いられているドリル又はレーザーにより穴を開け、導電ペーストの充填やメッキにより形成することができる。これまで、多孔体に無電解メッキ法を用いて配線を形成する方法が知られているが、従来の多孔体は強度が弱いため取扱性に劣り、製造工程中に破損するなどの問題があった。これに対し、本発明の多孔質膜や積層体を用いる場合には、十分な強度を確保することができ、取扱性に優れた回路基板を提供することができる。
【0141】
電磁波制御材は、電磁波を遮断(シールド)又は吸収する材料として、周囲の電磁環境に及ぼす影響や、機器自体が周囲の電磁環境から受ける影響を軽減又は抑制するために利用されている。デジタル電子機器の普及、パソコンや携帯電話など、われわれの身近には、電気・電子機器や無線機器、システムなど、多くの電磁波発生源が存在し、それらは様々な電磁波を放射している。これらの機器から放射される電磁波は、周囲の電磁環境に影響を及ぼす可能性があり、また、機器自体も周囲の電磁環境から影響を受ける。これらの対策として電磁波シールド材料、電磁波吸収体材料等の電磁波制御材が年々重要となってきている。本発明の複合材料は、例えば、金属メッキ層による導電性の付与によって電磁波を遮断して電磁波シールド性を付与でき、また、多孔質膜を構成する空孔に電磁波吸収材料を充填して電磁波吸収性を付与できるため、優れた電磁波制御材として極めて有用である。
【0142】
電磁波制御材を構成する金属メッキ層は、導電性を付与することができるものが好ましく、例えば、ニッケル、銅、銀等で形成されることが効果的である。また、複合材料が、無電解メッキで多孔質膜表面に磁性メッキ層が成形された層構成を有する場合には電磁波吸収体材料として有用である。無電解メッキにより磁性メッキ層を形成する際に用いる材料としては、例えば、ニッケル、ニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルトタングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金等の磁性材料が挙げられる。本発明の複合材料は、非常に薄く柔軟性の高いものが得られ、メッキにより形成された金属や磁性体は多孔質膜に絡み付いているため、メッキ層が剥離しにくく、折り曲げ耐性(耐折性)を改善することができる。このような複合材料は、電子機器の任意の場所に設置したり、貼り付けたりして使用することができる。
【0143】
本発明の多孔質膜や積層体は、低誘電率材料としても有用である。ブロードバンド時代の到来により、大容量の情報を高速で伝達する必要が生じている。そのため、電子機器で使用される周波数も高まってきており、その中で使われる電子部品も高周波信号に対応する必要がある。これまでの配線基板(主にガラスエポキシ樹脂)を高周波回路に使用すると、(1)高い誘電率による伝達信号の遅れや、(2)高い誘電損失による、信号の混信・減衰の発生、消費電力の増加、回路内の発熱などの問題が生じる。これらの問題を解決するための高周波用配線基板材料としての多孔性の材料が有用であるとされている。それは、空気の比誘電率は1と低いのに対して、多孔性の材料にすれば、低い比誘電率を達成可能なためである。このため、従来、多孔性基板材料が必要とされてきたが、低誘電率にするためには空孔率を上げる必要があり、その結果、基板としての強度が低下してしまうという問題があった。本発明の多孔質膜及び積層体は、低誘電率特性を持っているのみならず、多孔質膜が取り扱う上で十分な強度を確保することができ、低誘電率材料として好ましい媒体である。
【0144】
本発明の多孔質や積層体を低誘電率な回路基板材料として使用する場合、上記したように、多孔質膜表面に銅箔を貼り合わせ、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより配線を形成する方法により製造することが考えられる。配線の微細化、高密度化は困難になりつつあるが、現在でもこの従来法でほとんどの回路基板が作られており、本発明の多孔質膜や積層体もこの方法で使用することができる。非常に要求が強くなってきている基板の低誘電率化に対応しうる有用な材料と言える。
【0145】
本発明の複合材料の製造方法の一形態として、印刷技術による方法が挙げられる。本発明の多孔質膜は印刷特性に優れているため、多孔質膜の上に印刷によりパターン形成を行い使用することができる。このようにインク受像シート(印刷メディア)としても使用されるために、次に印刷技術について説明する。
【0146】
インク受像シートは、印刷メディアとも呼ばれ、印刷技術においてしばしば使用されてる。一方、現在、多くの印刷法が実用化、利用されており、このような印刷技術として、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷等を挙げることができる。使用されるインクの構成成分としては、特に制限されないが、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体、色素等が挙げられる。
【0147】
電子材料を印刷法で作成するメリットとしては、(1)シンプルなプロセスで製造できる、(2)廃棄物の少ない低環境負荷プロセスである、(3)低エネルギー消費によって短時間で製造できる、(4)初期投資額が大幅に低減できる等があるが、その一方、これまでにない高精細な印刷が要求され、技術的に困難であることもこと実である。従って、特に電子材料の製造に利用される印刷に関しては、印刷機械の性能だけでなく、インクやインク受像シートの特性が印刷結果に大きな影響を与える。本発明の多孔質膜や積層体においては、多孔質膜の微細な多孔構造はインクを吸ったり、インクを精密に固定することができるため、これまでにない高精細な印刷を達成することができ、非常に好ましく用いられる。また、多孔質膜が取り扱う上で十分な強度を確保することができ、例えば、ロールツーロールで連続的に印刷することもでき、生産効率を著しく向上することができる。
【0148】
電子材料を印刷により製造する場合、印刷法としては上述の方法を利用できる。印刷により製造される電子材料の具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等を挙げることができる。
【0149】
上記電子材料を製造する方法は、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体等の電子素材を含むインクを多孔質膜表面に印刷する工程を含んでいる。例えば多孔質膜表面に誘電体を含むインクで印刷することにより、コンデンサー(キャパシタ)を形成できる。このような誘電体としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等を挙げることができる。また、半導体を含むインクで印刷することにより、トランジスタ等を形成することができる。半導体としては、ペンタセン、液状シリコン、フルオレン−ビチオフェンコポリマー(F8T2)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等を挙げることができる。
【0150】
導電体を含むインクで印刷することにより、配線を形成することができるため、フレキシブル基板やTAB基板、アンテナ等を製造することができる。前記導電体としては、銀、金、銅、ニッケル、ITO、カーボン、カーボンナノチューブ等の導電性を有する無機粒子;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性の有機高分子からなる粒子を挙げることができる。前記ポリチオフェンとしては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等を挙げることができる。これらは、溶液やコロイド状のインクとして用いることができる。なかでも、無機粒子からなる導電体粒子が好ましく、特に電気特性やコストのバランスから、銀粒子や銅粒子が特に好ましく用いられる。粒子の形状としては、球状、鱗片状(フレーク状)等が挙げられる。粒子サイズは、特に限定されないが、例えば平均粒径数μm程度のものから、数nmのいわゆるナノ粒子も使用できる。これらの粒子は複数の種類を混合して使用することもできる。導電性のインクとして、容易に入手可能な銀インク(銀ペースト)を例に挙げて以下に説明するが、これに限定されず、他の種類のインクも適用可能である。
【0151】
銀インクは、その構成成分として、一般に銀粒子、界面活性剤、バインダー、溶剤等が含まれている。また、他の例として、酸化銀が加熱により還元される性質を利用して、酸化銀の粒子を含むインクを印刷し、後で加熱還元して銀配線とするものもある。さらに他の例として、有機銀化合物を含むインクを印刷し、後で加熱分解して銀配線とするものもある。有機銀化合物には、溶剤に溶解するものも利用できる。銀インクを構成する粒子として、銀粒子、酸化銀、有機銀化合物等は単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、また異なる粒子径のものを混合して用いることもできる。銀インクを用いて印刷後、インクを硬化させる際の温度(焼成温度)は、インクの組成、粒子径等に応じて適宜選択できるが、通常、100〜300℃程度の範囲内であることが多い。本発明の多孔質膜及び積層体は有機材料であるため、劣化を回避するため焼成温度は比較的低温であることが好ましいが、配線の電気抵抗を小さくするため、一般に高温で焼成されることが好ましく、適当な硬化温度をもつインクを選択して用いる必要がある。配線基板に要求される電気抵抗と配線密着性のバランスを考慮して、インクに添加する導電体等の粒子径の大きさや粒度分布、混合比率を選択することが好ましい。
【0152】
スクリーン印刷の場合は、粘度が低すぎるとスクリーンにインクを保持しにくいので、むしろ粘度がある程度高い方が好ましく、インクに含まれる粒子の粒子径は大きくても特に問題はなく、また、粒子径が小さい場合は溶剤量を低減することが好ましい。従って、前記粒子径が0.01〜10μm程度であるのが好ましい。
【0153】
配線は、多孔質膜の片面のみに形成されてもよく、両面に形成されてもよい。両面に配線を形成する場合は、必要に応じて、両面の配線をつなぐビアを形成することもできる。ビアホールはドリルで形成してもよいし、レーザーで形成してもよい。ビアホール内の導電体は、導電ペーストで形成してもよいし、メッキで形成してもよい。
【0154】
また、導電性のインクで形成した配線表面をメッキ又は絶縁体で被覆して使用することができる。特に、銀配線は、銅配線と比較したときに、エレクトロマイグレーションやイオンマイグレーションを起こしやすいとの指摘がある(日経エレクトロニクス2002.6.17号75頁)。そのため、配線の信頼性を向上する目的で、銀インクで形成した配線表面をメッキで被覆することが有効である。メッキとしては、銅メッキ、金メッキ、ニッケルメッキ等が挙げられる。メッキは公知の方法で行うことができる。
【0155】
さらに、導電性のインクで形成した配線表面を樹脂で被覆して使用することもできる。上記構成は、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化やマイグレーションの防止、屈曲性向上などの目的に好適に利用できる。例えば、銀配線は酸化により酸化銀に、銅配線は酸化銅となって導電性が低下していくおそれがあるが、配線表面を前記樹脂で被覆することにより、配線が酸素や水分と接触するのを回避でき、導電性の低下を抑制することができる。配線表面を選択的に樹脂被覆する方法としては、例えば、被覆する樹脂として後述する硬化性樹脂や可溶性樹脂を用いた、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の方法が挙げられる。
【0156】
配線が形成された後において多孔質膜の空孔が保たれている場合は、多孔質膜部は低誘電率となるため、高周波用配線基板として好ましく用いられる。
【0157】
本発明の多孔質膜や積層体の用途としては、多孔質膜の空孔がそのまま残されているものを用いる場合の他に、溶剤処理により多孔質膜の空孔構造を失わせて、それを用いる場合も考えられる。
【0158】
配線表面を樹脂で被覆する時、連通性を有する微小孔を多く有する場合には、樹脂は孔内に侵入しやすいため、空孔内は樹脂が充填され、空孔は消失する傾向がある。
【0159】
配線を被覆する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、無溶剤で用いられる硬化性樹脂や、溶剤に溶解して利用される可溶性樹脂等が挙げられる。可溶性樹脂を使用する場合には、溶剤が揮発したときの体積減少分を考慮して被覆する必要がある。
【0160】
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂等を挙げることができる。
【0161】
エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール系、フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック系等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂及びこれらの変性樹脂等の多様な樹脂が含まれる。エポキシ樹脂の市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社の「アラダイト」、ナガセケムテック社の「デナコール」、ダイセル化学工業社の「セロキサイド」、東都化成社の「エポトート」等を利用できる。エポキシ樹脂硬化物は、例えば、エポキシ樹脂に硬化剤を混合して得た硬化性樹脂組成物により硬化反応を開始させ、加熱により反応を促進させる方法により得ることができる。前記エポキシ樹脂の硬化剤には、例えば有機ポリアミン、有機酸、有機酸無水物、フェノール類、ポリアミド樹脂、イソシアネート、ジシアンジアミド等を利用できる。
【0162】
エポキシ樹脂硬化物は、また、エポキシ樹脂に潜在性硬化剤と言われる硬化触媒を混合して得た硬化性樹脂組成物に、加熱又は紫外線などの光照射によって硬化反応を開始させる方法により得ることもできる。前記潜在性硬化剤としては、三新化学工業社の「サンエイドSI」等の市販品を利用できる。
【0163】
エポキシ樹脂硬化物として、可撓性の高いものを用いれば、フレキシブル基板のような柔軟性のあるものとすることができる。また、耐熱性や高い寸法安定性が要求される場合は、硬化性樹脂組成物として硬化後に硬度が高くなる組成物を用いることで、リジッド基板(硬質基板)として用いることも可能である。
【0164】
エポキシ樹脂を被覆に使用する時、硬化性樹脂組成物は低粘度であると取り扱いやすい。このような特徴を持つものとして、ビスフェノールF系の組成、脂肪族ポリグリシジルエーテル系の組成を挙げることができる。
【0165】
オキセタン樹脂としては、東亞合成社の「アロンオキセタン」等をあげることができる。オキセタン樹脂硬化物は、オキセタン樹脂に、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のカチオン系光重合開始剤「IRGACURE 250」等を混合し、紫外線照射することで硬化反応を開始させる方法により得ることができる。
【0166】
可溶性樹脂としては、三菱ガス化学社製の低誘電性樹脂「オリゴ・フェニレン・エーテル」、東洋紡績社製のポリアミドイミド樹脂「バイロマックス」、宇部興産社製のポリイミドインク「ユピコート」、東都化学工業製のポリイミドインク「エバーレック」、エヌアイマテリアル社製のポリイミドインク「ULIN COAT」、ピーアイ技術研究所製のポリイミドインク「Q−PILON」、日本合成化学社製の飽和ポリエステル樹脂「ニチゴーポリエスター」、アクリル溶剤型粘着剤「コーポニール」、紫外線・電子線硬化型樹脂「紫光」等の市販品を用いることができる。
【0167】
被覆時に用いられる可溶性樹脂を溶解する溶剤としては、公知の有機溶剤から樹脂の種類に応じて適宜選択して用いることができる。可溶性樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液(可溶性樹脂溶液)の代表的な例としては、例えば、「オリゴ・フェニレン・エーテル」をメチルエチルケトンやトルエンなどの汎用溶剤に溶解した樹脂溶液;「バイロマックス」をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解した樹脂溶液(商品名「HR15ET」);「ユピコート」をトリグライムに溶解した樹脂溶液等を用いることができる。
【0168】
配線を樹脂で被覆する方法としては、特に限定されないが、スポイト、さじ、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の手段を用いて、上記の硬化性樹脂組成物や可溶性樹脂溶液を多孔質膜表面へ展開(塗布)し、必要に応じてヘラ等で余分な樹脂を除去する方法等を用いることができる。前記ヘラとして、例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコーンゴム等のゴム、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂製;ステンレス等の金属製のものを使用できる。なかでも、配線や多孔質膜を傷つけにくい点で樹脂製のヘラが好ましく用いられる。また、ヘラ等を使用することなく、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の吐出量をコントロール可能な手段を用いて、適量を多孔質膜層表面に滴下する方法も可能である。
【0169】
多孔質膜の表面に樹脂をスムーズに展開するため、未硬化の樹脂として粘度の低いものが好ましく用いられる。また、粘度が高い樹脂は、適温で加熱するなどの手段を用いて粘度を下げて用いることにより取り扱い性を上げることが可能である。但し、硬化性樹脂を用いる場合には、加熱により硬化反応速度を上昇させてしまうため、必要以上の加熱は作業性を悪化させるため好ましくない。
【0170】
上記樹脂成分を多孔質膜層表面へ展開した後、樹脂の硬化を促進したり、溶剤を揮発する目的で加熱処理が施されることが好ましい。加熱方法は、特に限定されないが、急激な加熱は、樹脂や硬化剤が揮発したり、溶剤が激しく揮発することによりムラができるおそれがあるため、穏やかに昇温する方法が好ましい。昇温は、連続的、逐次的のいずれであってもよい。硬化や乾燥における温度及び時間は、樹脂や溶剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。
【0171】
本発明において、複合材料には、多孔質膜の空孔構造が維持されている場合の他に、多孔質膜表面への機能性膜の形成後(機能性化後)に、多孔質膜の空孔構造を例えば溶剤によって消失させて、好ましくは多孔質膜が透明化している場合も含まれる。
【0172】
本発明において、複合材料は、多孔質膜の空孔がそのまま残されている構成であってもよい。多孔質膜の空孔がそのまま残されている複合材料とは、多孔質膜が多孔体としての特性を備えていることを意味しており、具体的には、例えば、複合材料が、印刷技術により導電体が形成された時点における多孔質膜と同程度の空孔構造を保持していることを意味している。このような複合材料は、多孔質膜が多孔体としての特性を保持可能な範囲で、他の層が積層されたり、種々の処理が施された構成であってもよい。
【0173】
例えば、低誘電率化等のために多孔質膜の空孔をそのまま残す場合は、溶剤処理は行わない。但し、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性向上の目的のために、上記に例示の方法で配線部だけを樹脂で被覆してもよい。
【0174】
本発明の多孔質膜や積層体は、より高周波特性の優れたアンテナに利用することができる。
【0175】
最近では、多くの無線機器が使われており、信号の送受信にはアンテナが必要となる。携帯電話、無線LAN、ICカードなどの普及は著しい。低誘電率の材料をアンテナに使用することはアンテナゲインを増大させることができ、好ましいことである。例えば、ICカード等にはループ状のRFIDアンテナが使われており現状これらは、サブトラクティブ法(エッチング法)により作られている。
【0176】
従来使用されているPET基板等を本発明の多孔質膜や積層体に置き換えることで、より高周波特性の優れたアンテナを製造することができる。製造法はサブトラクティブ法を用いることができる。具体的には、低誘電率な回路基板の製造法で示したのと同様に、多孔質膜や樹脂フィルムを基材とした多孔質膜積層体の表面に銅箔を貼り合わせ、レジストパターン形成後、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより行うことができる。また、他の方法としては、銅などの金属箔を基材とした多孔質膜積層体にレジストパターンを形成した後に、エッチングして、銅箔の不要な部分を除去することにより行うことができる。そして、従来から行われているサブトラクティブ法は工程が長く、手間とコストがかかる方法である。インク受像シートのところで述べたのと同様に、導電体を含むインクで印刷してアンテナを形成する方法を適用すると、より簡単に低コストで製造することができる。
【0177】
特開2006−237322号公報に銅ポリイミド基板の製造方法が開示されている。ポリイミド樹脂フィルムの表面を親水化し、物理現像核層を設け、銀拡散転写法により銀膜を形成させた後、銅めっきすることを特徴とする銅ポリイミド基板の製造方法である。ポリイミド樹脂フィルムは接着性がよくないために、表面の改質のためにアルカリ処理やコロナ放電処理が必要とされている。しかし、本発明の多孔質膜及び積層体は、多孔質膜の上に形成される接着剤が孔内に入り込むことができ、そのアンカー効果のためにより強い密着性が期待できる。よって、本発明の多孔質膜及び積層体は前記用途に好ましく利用できる。
【実施例】
【0178】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0179】
多孔質膜の微小孔の平均孔径、空孔率、透気度を以下の方法で算出、測定した。平均孔径及び空孔率は電子顕微鏡写真に見えている微小孔のみを対象として求められている。
【0180】
1.平均孔径
電子顕微鏡写真から、多孔質膜の表面又は断面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積Saveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここで、πは円周率を表す。
表面又は内部の平均孔径[μm]=2×(Save/π)1/2
【0181】
2.空孔率
多孔質膜内部の空孔率は下記式により算出した。Vは多孔質膜の体積[cm3]、Wは多孔質膜の重量[g]、ρは多孔質膜組成物の密度[g/cm3](ここで、多孔質膜組成物の密度は、該組成物を構成している各成分の密度を重量組成比で分配して算出される値である)を示す。
空孔率[%]=100−100×W/(ρ・V)
なお、実施例で用いた多孔質膜組成物における各成分の密度は以下の通りである。
ポリアミドイミド(商品名「バイロマックスHR−11NN」)の密度:1.45[g/cm3
ポリエーテルイミド(商品名「ウルテム1000」)の密度:1.27[g/cm3
酸化チタン(商品名「R−42」)の密度:4.1[g/cm3
酸化チタン(商品名「R−45M」)の密度:3.9[g/cm3
アルミナ(Al23ナノパウダー)の密度:4[g/cm3
シリカ(SiO2ナノパウダー)の密度:2.4[g/cm3
チタン酸バリウム(BaTiO3ナノサイズパウダー)の密度:6.08[g/cm3
酸化第二鉄(Fe23ナノパウダー)の密度:5.12[g/cm3
【0182】
3.透気度試験
透気度は、テスター産業株式会社製のガーレー式デンソメーターB型を用い、JIS P8117に準じて測定した。秒数はデジタルオートカウンターで測定した。透気度(ガーレー値)の値が小さいほど空気の透過性が高いこと、つまり多孔質膜における微小孔の連通性が高いことを意味する。ガーレー値は膜厚に比例して数値が変化するため、ここでは膜厚30μmに対する値を示した。ガーレー値としては、30秒/100cc以下であれば微小孔の連通性が高いと判断できる。
【0183】
なお、以下の実施例及び比較例では、多孔質膜作製用の基材(キャスト用基板)として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポン社製、HS74ASタイプ、厚み100μm)の易接着面を用いた。
【0184】
実施例1
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR−11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてのポリビニルピロリドン(分子量5万)30重量部、及び無機粒子としての酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)7.5重量部を、ポリアミドイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比が15/85/30/7.5となる割合で混合して、製膜用の原液(分散液)を得た。
ガラス板上に、PETフィルム基材(帝人デュポン社製、HS74ASタイプ、厚み100μm)をPETフィルムの易接着面が外側となるようにテープで固定し、25℃とした前記原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターとPETフィルム基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然とPETフィルム基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することにより、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは40μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が0.5μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は76%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は33.3重量%である。得られた多孔質膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を図1に示す。図1において、黒い部分が孔、灰色の部分が樹脂、白い部分が酸化チタン粒子である。
【0185】
実施例2
ポリエーテルイミド系樹脂(SABICイノベーティブプラスチック社製の商品名「ウルテム1000」)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、ポリエーテルイミド系樹脂/NMPの重量比が18/82となる割合で混合して、ポリエーテルイミド系樹脂溶液を調製した。この液に、水溶性ポリマーとしてのポリビニルピロリドン(分子量5万)30重量部、及び無機粒子としての酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−45M」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)9重量部を、ポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比が18/82/30/9となる割合で混合して、製膜用の原液(分散液)を得た。
ガラス板上に、PETフィルム基材(帝人デュポン社製、HS74ASタイプ、厚み100μm)をPETフィルムの易接着面が外側となるようにテープで固定し、25℃とした前記原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターとPETフィルム基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然とPETフィルム基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することにより、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは35μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は78%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は33.3重量%である。
【0186】
実施例3
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/9としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは37μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は74%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は33.3重量%である。
【0187】
実施例4
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/18としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは40μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は70%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は50重量%である。
【0188】
実施例5
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/27としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは56μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は66%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は60重量%である。
【0189】
実施例6
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/42としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは41μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が2μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は64%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は70重量%である。得られた多孔質膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を図2に示す。図2において、黒い部分が孔、灰色の部分が樹脂、白い部分が酸化チタン粒子である。
【0190】
実施例7
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/72としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは57μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は63%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は80重量%である。
【0191】
実施例8
無機粒子として酸化チタン(堺化学工業社製の商品名「R−42」、ルチル型、平均粒子径0.29μm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化チタンの重量比を18/82/20/102としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは46μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は64%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は85重量%である。
【0192】
実施例9
無機粒子としてアルミナ(アルドリッチ社製、Al23ナノパウダー、平均粒子径50nm以下)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/アルミナの重量比を18/82/20/27としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは60μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は69%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は60重量%である。
【0193】
実施例10
無機粒子としてシリカ(アルドリッチ社製、SiO2ナノパウダー、平均粒子径15nm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/シリカの重量比を18/82/20/9としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは53μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が3μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は63%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は33.3重量%である。
【0194】
実施例11
無機粒子としてチタン酸バリウム(アルドリッチ社製、BaTiO3ナノサイズパウダー、平均粒子径40nm)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/チタン酸バリウムの重量比を18/82/20/27としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは58μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は72%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は60重量%である。
【0195】
実施例12
無機粒子として酸化第二鉄(アルドリッチ社製、Fe23ナノパウダー、平均粒子径50nm以下)を用い、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/酸化第二鉄の重量比を18/82/20/27としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは58μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が2μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は72%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は60重量%である。
【0196】
比較例1
無機粒子を用いず、原液におけるポリエーテルイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドンの重量比を18/82/20としたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは36μmであった。
この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が3μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は73%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は0重量%である。
【0197】
実施例13
ポリエーテルイミド系樹脂(SABICイノベーティブプラスチック社製の商品名「ウルテム1000」)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、ポリエーテルイミド系樹脂/NMPの重量比が18/82となる割合で混合して、ポリエーテルイミド系樹脂溶液を調製した。この液に、無機粒子としての酸化チタン(石原産業社製の商品名「CR−50」、ルチル型、平均粒子径0.25μm)27重量部を、ポリエーテルイミド系樹脂/NMP/酸化チタンの重量比が18/82/27となる割合で混合して、製膜用の原液(分散液)を得た。
ガラス板上に、PETフィルム基材(帝人デュポン社製、HS74ASタイプ、厚み100μm)をPETフィルムの易接着面が外側となるようにテープで固定し、25℃とした前記原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターとPETフィルム基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然とPETフィルム基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することにより、多孔質層のみからなる膜を得た。得られた多孔質層のみからなる膜の厚みは28μmであった。
この多孔質膜の断面を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質膜内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が1.5μmの連通性に乏しい微小孔が存在していた。また、多孔質膜内部の空孔率は60%であった。多孔質膜における無機粒子の含有量は60重量%である。
【0198】
[評価試験]
<透気度試験>
試験1
実施例5で得られた酸化チタンを60重量%含有した多孔質膜について透気度の測定を行ったところ、ガーレー値は4秒/100ccであった。
なお、比較のため、比較例1で得られた無機粒子を含有しない多孔質膜について透気度を測定したところ、ガーレー値は3秒/100ccであった。
このことから、酸化チタンを60重量%含有する多孔質膜は無機粒子を含有しない多孔質膜と同様に、微小孔は連通性を有していることが分かり、酸化チタンは連通性をほとんど阻害していないことが確認された。
【0199】
試験2
実施例13で得られた酸化チタンを60重量%含有した多孔質膜について透気度の測定を行ったところ、ガーレー値は4000秒以上( 秒数測定限界)/100ccであった。
これより、酸化チタンを含有した実施例13の多孔質膜の透気性が悪く、多孔質層内の微小孔の連通性が低いことが確認された。
【0200】
<液浸漬時の白色度の目視観察>
試験1
実施例5で得られた酸化チタンを60重量%含有した多孔質膜を5cm×5cmの大きさに成形し、ガラス製シャーレに入れたイオン交換水中に10秒間浸漬した。サンプルを取り出し、黒色の机の上に静置した。また、比較のために、比較例1の酸化チタンを含有しない多孔質膜においても同様の操作を行った。そして、これらのサンプルの目視観察を行った。
その結果、実施例5のサンプルはイオン交換水の浸漬の前後で白色の程度はほとんど変化が無く白いままであった。一方、比較例1のサンプルは浸漬前は白色であったが、浸漬後は膜が少し透き通ったようになり、机の黒味が感じられるようになった。これより酸化チタンを含有した多孔質膜は、イオン交換水に浸漬した場合にも、酸化チタンを含有しない多孔質膜に比べて白色を維持する特性が高いことが確認された。
【0201】
試験2
実施例5で得られた酸化チタンを60重量%含有した多孔質膜を5cm×5cmの大きさに成形し、ガラス製シャーレに入れたn−ドデカン中に10秒間浸漬した。サンプルを取り出し、黒色の机の上に静置した。また、比較のために、比較例1の酸化チタンを含有しない多孔質膜においても同様の操作を行った。そして、これらのサンプルの目視観察を行った。
その結果、実施例5のサンプルはn−ドデカンの浸漬の前後で白色の程度はほとんど変化が無く白いままであった。一方、比較例1のサンプルは浸漬前は白色であったが、浸漬後は膜が少し透き通ったようになり、机の黒味が感じられるようになった。これより酸化チタンを含有した多孔質膜は、n−ドデカンに浸漬した場合にも、酸化チタンを含有しない多孔質膜に比べて白色を維持する特性が高いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微小孔が存在する多孔質膜であって、前記多孔質膜は高分子と無機粒子とを含む組成物から構成され、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜85%である多孔質膜。
【請求項2】
前記高分子が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記無機粒子が、酸化チタン粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタン酸バリウム粒子、硫酸バリウム粒子、酸化インジウムスズ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化銅粒子、酸化鉄粒子、磁性粉、カーボン粒子及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の多孔質膜。
【請求項4】
無機粒子の一次粒子の平均粒径が0.01〜10μmである請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
多孔質膜における無機粒子の含有量が10〜95重量%である請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
微小孔の連通性を示す透気度が、膜厚30μmに対するガーレー値で0.2〜30秒/100ccである請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記多孔質膜は5〜200μmの厚みを有する請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記多孔質膜は、前記多孔質膜を構成すべき前記高分子と前記無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、形成されたフィルム状多孔質層を前記基板から剥離し、次いで、前記フィルム状多孔質層を乾燥に付すことにより形成されたものである請求項1〜7の何れか1項に記載の多孔質膜。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔質膜を製造する方法であって、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、形成されたフィルム状多孔質層を前記基板から剥離し、次いで、前記フィルム状多孔質層を乾燥に付すことを含む多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質膜形成用材料分散液を基板上へフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2分間以上保持し、その後、これを凝固液中に浸漬する請求項9記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
基材と、前記基材の少なくとも片面上に設けられた無機粒子を含有する多孔質膜層とを少なくとも有する積層体であって、前記多孔質膜層が請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔質膜で構成されている積層体。
【請求項12】
請求項11記載の積層体を製造する方法であって、多孔質膜を構成すべき高分子と無機粒子とを含む多孔質膜形成用材料分散液を基材上へフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことを含む積層体の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質膜形成用材料分散液を基材上へフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2分間以上保持し、その後、これを凝固液中に浸漬する請求項12記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔質膜の少なくとも一方の表面に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層及び抵抗体層からなる群より選ばれる少なくとも1つの機能性層が設けられた機能性積層体。
【請求項15】
請求項11記載の積層体の多孔質膜層表面に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層及び抵抗体層からなる群より選ばれる少なくとも1つの機能性層が設けられた機能性積層体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−167181(P2012−167181A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29053(P2011−29053)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】