説明

鋼材の多電極サブマージアーク溶接方法

【課題】板厚25mm以上のUOE鋼管、スパイラル鋼管などの大径鋼管の造管溶接に用いて好適な多電極サブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】板厚25mm以上の鋼材を2電極以上のサブマージアーク溶接で内外面一層盛り溶接する際に、内面溶接と外面溶接の両方について、第1電極の電流密度を220A/mm以上とし、鋼材表面位置における第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離を25mm以上とし、第1電極と第2電極との電流比を0.8以下とし、さらに内面溶接、外面溶接のそれぞれにおける溶込み深さに対する開先形状、溶接速度、電流の影響を、これらをパラメータとするパラメータ式で求まる値(内面溶接金属の溶込み深さはLIW、外面溶接金属の溶込み深さはLOW)で代表させ、これらの値と板厚からなるパラメータ式を満足するように開先寸法と溶接条件を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の多電極サブマージアーク溶接方法に関し、UOE鋼管、スパイラル鋼管などの大径鋼管の造管溶接に用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
大径鋼管の造管溶接(シーム溶接)には2電極以上のサブマージアーク溶接が適用されている。パイプ生産能率向上の観点から鋼管の内面側を1パス、外面側を1パスで溶接する両面一層盛り溶接が一般的で、高能率な溶接施工がなされている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
両面一層盛り溶接では内面溶接金属と外面溶接金属が重なる領域で未溶融部がないように十分な溶込み深さを確保するため、1000A以上の大電流を適用して溶接を行うのが一般的であるが、能率と欠陥抑制を重視することで、溶接入熱が過剰となり、溶接部特に溶接熱影響部の靭性が劣化する問題がある。
【0004】
溶接部の高靭性化のためには、溶接入熱を低減するのが有効であるが、特に板厚の大きな鋼管では必要な入熱が大きくなるため、可能な限り入熱を低減することが課題となっている。しかし入熱を低減すると溶込み不足を生じる危険性が増大するため、従来より入熱低減と深溶込みの両立を目的に種々の提案がなされている。
【0005】
例えば特許文献3には高電流密度でのサブマージアーク溶接方法が提案されており、アークエネルギーをできるだけ板厚方向に投入することにより、必要な溶込み深さだけを確保し、鋼材幅方向の母材の溶解を抑制することで過剰な溶接入熱を省いて、入熱低減と深溶込みの両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−138266号公報
【特許文献2】特開平10−109171号公報
【特許文献3】特開2006−272377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3記載のサブマージアーク溶接方法では、入熱低減と深溶込みが両立できるものの、溶込み中央部近傍のビード幅が狭くなりやすく、梨型割れの溶接欠陥が発生しやすいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は板厚25mm以上の鋼材を2電極以上のサブマージアーク溶接で内外面一層盛溶接するに際し、入熱量を低下させても梨型割れの溶接欠陥を抑制しながら十分な溶込みが得られる鋼材の多電極サブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、多電極サブマージアーク溶接で鋼材の両面一層盛溶接を、開先形状、溶接条件、電極配置を種々に変化させて行い溶接金属断面形状および溶接欠陥について調査した。
【0010】
その結果、板厚25mm以上の鋼材を2電極以上のサブマージアーク溶接で内外面一層盛溶接する場合、開先形状、溶接条件、電極配置を適正に設定することで、入熱量を低下させても十分な溶込みが得られ、梨型割れの溶接欠陥も抑制できることを見出した。本発明は、上述の知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
1.板厚25mm以上の鋼材を2電極以上のサブマージアーク溶接で内外面一層盛り溶接する際、内面溶接と外面溶接の両方について、第1電極の電流密度を220A/mm以上とし、鋼材表面位置における第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離を25mm以上とし、第1電極と第2電極との電流比が(1)式および(2)式を満足し、さらに開先角度、開先深さ、第1電極電流、溶接速度が(3)式を満足することを特徴とする鋼材の多電極サブマージアーク溶接方法。
2IW/I1IW≦0.8 (1)
2OW/I1OW≦0.8 (2)
0<LIW+LOW−t≦0.30t (3)
(1)、(2)、(3)式において、
IW=(−1.07×θIW−0.76)×VIW+(1.38×10−6×θIW+7.56×10−3)×I1IW+dIW+5.6
OW=(−1.07×θOW−0.76)×VOW+(1.38×10−6×θOW+7.56×10−3)×I1OW+dOW+4.6
t:鋼材の板厚(mm)、
1IW:内面溶接の第1電極の電流(A)、I2IW:内面溶接の第2電極の電流(A)、
1OW:外面溶接の第1電極の電流(A)、I2OW:外面溶接の第2電極の電流(A)、
IW:内面溶接速度(cm/min)、VOW:外面溶接速度(cm/min)、
θIW:内面開先角度(deg)、θOW:外面開先角度(deg)、
IW:内面開先深さ(mm)、dOW:外面開先深さ(mm)
2.1に記載された溶接方法で作製された溶接継手。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低い入熱量の多電極サブマージアーク溶接で、十分な溶込み深さを有し、梨型割れの溶接欠陥が抑制された内外面1層盛溶接部が得られ産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】開先形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る鋼材のサブマージアーク溶接方法では、鋼材を内外面から溶接する際、
溶込み不足が生じないように内面溶接、外面溶接のそれぞれにおける第1電極の電流密度を220A/mmとし、溶接金属の梨型割れを抑制するため、第1電極と第2電極の極間距離を25mm以上とし、かつ第1電極と第2電極との電流比は(1)、(2)式を満足させる。
2IW/I1IW≦0.8 (1)
2OW/I1OW≦0.8 (2)
ここでI1IW:内面溶接の第1電極の電流(A)、I1OW:外面溶接の第1電極の電流(A)、I2IW:内面溶接の第2電極の電流(A)、I2OW:外面溶接の第2電極の電流(A)
また、内面溶接、外面溶接のそれぞれにおける溶込み深さに対する開先形状、溶接速度、電流の影響は、これらをパラメータとするパラメータ式で求まる値(内面溶接金属の溶込み深さはLIW値、外面溶接金属の溶込み深さはLOW値)で代表させ、これらの値と板厚からなるパラメータ式である下記(3)式を満足させることで低い溶接入熱で十分な溶込み深さと良好なビード外観を備えた溶接継手を得る。
0<LIW+LOW−t≦0.30t (3)
内面溶接金属の溶込み深さ(LIW)は、下記(4)式で、外面溶接金属の溶込み深さ(LOW)は下記(5)式で代表させる。 (4)式で表されるLIWおよび(5)式で表されるLOWを上記(3)式の範囲に制御することにより、低い溶接入熱で十分な溶込み深さと良好なビード外観を得る。
【0014】
IW=(−1.07×θIW−0.76)×VIW+(1.38×10−6×θIW+7.56×10−3)×I1IW+dIW+5.6 (4)
OW=(−1.07×θOW−0.76)×VOW+(1.38×10−6×θOW+7.56×10−3)×I1OW+dOW+4.6 (5)
ここで、t:鋼材の板厚(mm)、I1IW:内面溶接の第1電極の電流(A)、I1OW:外面溶接の第1電極の電流(A)、VIW:内面溶接速度(cm/min)、VOW:外面溶接速度(cm/min)、θIW:内面開先角度(deg)、θOW:外面開先角度(deg)、dIW:内面開先深さ(mm)、dOW:外面開先深さ(mm)
IW+LOW−tが0.30tを上回ると、開先断面積に対してワイヤ溶着量が足りずに余盛不足となる。一方、LIW+LOW−tが0以下になると、内面溶接および/または外面溶接の溶込み深さが足りずに内面溶接金属と外面溶接金属とが重ならなくなり、健全な溶接ビードが得られなくなる。好適なLIW+LOW−tの範囲は0.10t〜0.30tの範囲である。以下、実施例によって本発明の作用効果を説明する。
【実施例】
【0015】
板厚25.4、30.9、38.1mmで板長さ1000mmの鋼板に図1に示す形状の開先加工を施して内外面1層盛溶接の4電極サブマージアーク溶接を行って溶接継手を作成し、得られた溶接継手の溶込み状態と溶接欠陥の有無について調査した。調査方法は始終端300mmを除いて溶接長さを等分して3個のマクロ断面試験片を採取し、目視観察した。表1に鋼板の化学成分を、表2に開先形状を、表3に溶接条件を示す。
【0016】
開先形状では、内外面において開先角度と開先深さを変化させ、溶接条件では、内外面溶接のそれぞれにおいて第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離、第1電極の電流密度、第1電極と第2電極との電流比(内面側:I2IW/I1IW、外面側:I2OW/I1OW)を変化させた。
【0017】
表4に、(LIW+LOW−t)の値、第1電極の電流密度、第1電極と第2電極との電流比と溶接欠陥の有無と溶込み状態とを示す。表4の溶接欠陥の欄において、○は溶接欠陥が発生せず健全な溶接ビードが得られたことを示す。また、表4の溶込みの欄において、溶込み不足とは、断面マクロ試料において内面溶接金属と外面溶接金属とが重なっていないことを示し、○は内面溶接金属と外面溶接金属とが重なっていることを示す。更に表4の余盛の欄において、余盛不足とは開先断面積に対して溶接ワイヤの溶着量が不足し、溶接後に開先が残っている状態を示し、○は開先が溶着金属で満たされていることを示す。
【0018】
表4において、記号1,2,7,8,9,16,17は本発明例で、内面溶接および外面溶接において第1電極の電流密度が220A/mm以上で、鋼材表面位置における第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離が25mm以上、第1電極と第2電極との電流比が0.8以下で、上記(1)式、(2)式、(3)式を満足しており、内面溶接金属と外面溶接金属とが重なるために必要十分な溶込み深さを得ながら梨型割れの溶接欠陥を抑制することができ、低入熱で健全な溶接ビードが得られている。
【0019】
一方、記号3〜6、10〜15、18〜20は比較例で、記号3は(3)式を満たさず、内面に余盛不足が生じ、記号4は(3)式を満たさず、内外面に溶込み不足が生じ、記号5は外面第1電極の電流密度が220A/mmを満たさず内外面に溶込み不足が生じた。
【0020】
記号6は外面側溶接の1−2電極ワイヤ中心間距離が22mmで外面側に梨型割れが生じ、記号10は(3)式を満たさず、内外面に余盛不足が生じ、記号11は(3)式を満たさず、内外面に溶込み不足が生じた。
【0021】
記号12は外面溶接の第1電極と第2電極の電流比が0.8を越え、外面側に梨型割れが発生した。記号13は外面第1電極の電流密度が220A/mmを満たさず溶込み不足が生じた。
【0022】
記号14は(3)式を満たさず、内外面に溶込み不足が生じ、記号15は外面側溶接の1−2電極ワイヤ中心間距離が22mmで外面側に梨型割れが生じ、記号18は、(3)式を満たさず、内外面に余盛不足が生じた。
【0023】
記号19は(3)式を満たさず、内外面に溶込み不足が生じた。記号20は第1電極と第2電極の電流比が0.8以上で、梨型割れが発生している。
【0024】
すなわち、(LIW+LOW−t)が0.30tを上回ると、開先断面積に対してワイヤ溶着量が足りずに余盛不足となり、一方、(LIW+LOW−t)が0以下になると、内面溶接および/または外面溶接の溶込み深さが足りずに内面溶接金属と外面溶接金属とが重ならなくなり、健全な溶接ビードが得られなくなっている。
【0025】
以上より、板厚25mm以上の鋼材を内外面から溶接する際、第1電極の電流密度を220A/mm以上とし、第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離を25mm以上とし、第1電極と第2電極との電流比を上記(1)式、(2)式を満足するように規定し、更に、上記(4)式で求まる値LIW、(5)式で求まる値LOWが上記(3)式を満足するように溶接条件および開先形状を選定すると溶込み不足が生じないことが確認された。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚25mm以上の鋼材を2電極以上のサブマージアーク溶接で内外面一層盛り溶接する際、内面溶接と外面溶接の両方について、第1電極の電流密度を220A/mm以上とし、鋼材表面位置における第1電極と第2電極のワイヤ中心間距離を25mm以上とし、第1電極と第2電極との電流比が(1)式および(2)式を満足し、さらに開先角度、開先深さ、第1電極電流、溶接速度が(3)式を満足することを特徴とする鋼材の多電極サブマージアーク溶接方法。
2IW/I1IW≦0.8 (1)
2OW/I1OW≦0.8 (2)
0<LIW+LOW−t≦0.30t (3)
(1)、(2)、(3)式において、
IW=(−1.07×θIW−0.76)×VIW+(1.38×10−6×θIW+7.56×10−3)×I1IW+dIW+5.6
OW=(−1.07×θOW−0.76)×VOW+(1.38×10−6×θOW+7.56×10−3)×I1OW+dOW+4.6
t:鋼材の板厚(mm)、
1IW:内面溶接の第1電極の電流(A)、I2IW:内面溶接の第2電極の電流(A)、
1OW:外面溶接の第1電極の電流(A)、I2OW:外面溶接の第2電極の電流(A)、
IW:内面溶接速度(cm/min)、VOW:外面溶接速度(cm/min)、
θIW:内面開先角度(deg)、θOW:外面開先角度(deg)、
IW:内面開先深さ(mm)、dOW:外面開先深さ(mm)
【請求項2】
請求項1に記載された溶接方法で作製された溶接継手。

【図1】
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【公開番号】特開2011−131257(P2011−131257A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294530(P2009−294530)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】