説明

α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法

【課題】原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、簡便な操作により、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程の生成物を低級アルコールによってエステル化するエステル化工程と、該エステル化工程後に中和して中和物を得る中和工程と、該中和物を漂白して漂白物を得る漂白工程と、該漂白物を50℃以上で空気又は不活性ガスが存在する貯留槽に供給すると共に、前記の空気又は不活性ガスと接触させつつ、前記の空気又は不活性ガスを該貯留槽に供給・排出して置換処理を施す脱臭工程とを有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、界面活性剤として使用され、特に洗浄力が高く、また、生分解性が良好で環境に対する影響が小さいことから、種々の洗浄剤に使用されている。
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化ガスと接触させてスルホン化してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルを製造し、これを中和することにより得られる。
脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させた反応物中には、脂肪酸アルキルエステルに一分子のSOが付加した一分子付加体、二分子のSOが付加した二分子付加体、未反応の脂肪酸アルキルエステルおよびその他の副生物が含まれている。
二分子付加体を中和すると、洗浄効果に寄与しないα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩となるため、洗浄剤用途においては二分子付加体の含有量をできるだけ低減することが望まれる。
そこで、スルホン化、熟成の後、低級アルコールを添加することにより、二分子付加体をα−スルホ脂肪酸アルキルエステルとするエステル化が中和の前に行われている。
【0003】
このようにして得られたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩においては、不快臭が残存して臭気が悪いという問題があった。
洗浄剤としての用途では、この不快臭の残りは不都合であるため、中和工程の前又は後で、過酸化水素などによる過酷な条件下での漂白によって無臭化が図られている。
しかしながら、かかる漂白後に得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の漂白物は、その臭気が未だ充分ではなかった。
【0004】
このα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の漂白物における臭気の向上を図るため、以下の(1)〜(3)の技術が提案されている。
(1)脂肪酸アルキルエステルから極性不純物を除去して精製脂肪酸アルキルエステルを得る原料精製工程と、精製脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、中和して中和物を得る中和工程とを有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法(特許文献1参照)。
(2)脂肪酸アルキルエステルと、スルホン化ガスとを接触させるスルホン化ガス導入工程と、熟成工程と、低級アルコールでエステル化するエステル化工程と、アルカリで中和してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルからα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩のスラリーを得る中和工程と、スラリーをフラッシュして臭気を除去する工程とを順次行ってα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を得る方法(特許文献2参照)。
(3)着色抑制剤存在下で脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程の生成物を低級アルコールによってエステル化するエステル化工程と、該エステル化工程後に中和して中和物を得る工程と、該中和物を漂白して漂白物を得る漂白工程と、前記漂白工程で得られた漂白物をフラッシュ法又はそれ以外の方法(活性炭等を用いた吸着による方法、化学反応による方法、抽出により臭気成分を除去する方法)により脱臭する脱臭工程を含むα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−171137号公報
【特許文献2】特開2000−095750号公報
【特許文献3】特開2001−064248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法においては、スルホン化を行う前段に原料精製工程が設けられており、固体吸着剤を用いて原料の脂肪酸アルキルエステルに吸着処理を施すなど、製造プロセスが複雑かつ煩雑になると共に、経済的にも非常に高価となる問題がある。
特許文献2、3に記載された製造方法におけるフラッシュ法は、温度が100℃未満の場合は臭気の改善効果が不充分であるため、温度を100℃以上に設定する必要がある。本発明者らの検討によれば、脱臭の際、温度を100℃以上に高くすると、新たな副生物が生成して臭いを生じ、臭気が悪くなることが分かった。また、フラッシュ法、又は上述した「それ以外の方法」を行う場合、特別な付加設備を準備しなければならず、経済的にも問題がある。
【0007】
また、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品をそのまま使用した場合、従来の製造方法によって得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は不快臭が残りやすく、臭気が悪くなる傾向にある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、簡便な操作により、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
すなわち、本発明は、着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程の生成物を低級アルコールによってエステル化するエステル化工程と、該エステル化工程後に中和して中和物を得る中和工程と、該中和物を漂白して漂白物を得る漂白工程と、該漂白物を脱臭する脱臭工程とを有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法において、前記脱臭工程は、前記漂白工程で得られた漂白物を50℃以上で空気又は不活性ガスが存在する貯留槽に供給すると共に、前記の空気又は不活性ガスと接触させつつ、前記の空気又は不活性ガスを該貯留槽に供給・排出して置換処理を施すことを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法である。
【0010】
本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法は、前記脱臭工程は、前記貯留槽に供給した漂白物の一部を前記貯留槽から取り出し、この取り出した漂白物を再び前記貯留槽に戻す循環処理を行うことが好ましい。
また、前記脱臭工程は、前記漂白工程で得られた漂白物を前記貯留槽にヘッドスペースを設けて供給し、前記の空気又は不活性ガスを該ヘッドスペースに供給すると共に、前記の取り出した漂白物を該ヘッドスペースに流入させて循環処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法によれば、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、簡便な操作により、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】脱臭工程に用いる脱臭装置の一例を示す模式図である。
【図2】α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法に用いる製造システムの一例を示す概略構成図である。
【図3】実施例8で用いた脱臭装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法は、着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、該スルホン化工程の生成物を低級アルコールによってエステル化するエステル化工程と、該エステル化工程後に中和して中和物を得る中和工程と、該中和物を漂白して漂白物を得る漂白工程と、該漂白物を脱臭する脱臭工程とを有する方法である。
【0014】
[スルホン化工程]
スルホン化工程は、着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させて脂肪酸アルキルエステルをスルホン化(ガス接触操作)してα−スルホ脂肪酸アルキルエステル(以下「α−SF」という。)を含むスルホン化物を得る工程である。
スルホン化は、例えば、以下の方法により行う。
まず、反応槽内に脂肪酸アルキルエステルと着色抑制剤を仕込み、加熱し、原料液相とする。次いで、この原料液相に、スルホン化ガスを、好ましくは一定流速で導入し、ガススパージャーから複数の気泡を発生させると共に撹拌機の回転によって原料液相中に分散させる。この回転によって着色抑制剤の粒子が原料液相中に均一に分散する。
【0015】
脂肪酸アルキルエステルは、典型的には下記(1)式に表される物質である。
【0016】
−CH−COOR ・・・(1)
[(1)式中、Rは炭素数8〜20の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はアルケニル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基である。]
【0017】
前記(1)式中、Rは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数8〜20であり、炭素数10〜18が好ましく、炭素数10〜16がより好ましい。
前記(1)式中、Rは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数1〜6であり、炭素数1〜3が好ましい。
【0018】
脂肪酸アルキルエステルは、牛脂、魚油、ラノリン等から誘導される動物系油脂;ヤシ油、パーム油、大豆油等から誘導される植物系油脂;α−オレフィンのオキソ法から誘導される合成脂肪酸アルキルエステル等のいずれでもよく、特に限定はされない。
具体的には、ラウリン酸メチル、エチル又はプロピル;ミリスチン酸メチル、エチル又はプロピル;パルミチン酸メチル、エチル又はプロピル;ステアリン酸メチル、エチル又はプロピル;硬化牛脂脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;硬化魚油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;ヤシ油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;パーム油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;パーム核油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル等を例示することができる。
これらは単独、あるいは2種以上混合して用いることができる。
また、脂肪酸アルキルエステルのヨウ素価は、低い方が色調と臭気の両観点において望ましく、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.2以下とされる。
【0019】
スルホン化工程で得られるα−SFは、典型的には下記(2)式に表される物質である。
【0020】
−CH(SOH)−COOR ・・・(2)
[(2)式中、Rは(1)式中のRと同じであり、Rは(1)式中のRと同じである。]
【0021】
スルホン化ガスとしては、例えば、SOガスや発煙硫酸又はこれらを脱湿した空気で希釈したものが挙げられる。
スルホン化ガスの添加量は、脂肪酸アルキルエステルに対して、等倍モル以上であり、1.0〜2.0倍モルが好ましく、1.1〜1.5倍モルがより好ましい。
【0022】
着色抑制剤としては、一価の金属イオンを有し、平均粒径250μm以下の無機硫酸塩又は有機酸塩が好適である。
平均粒径は、目開き710μm、500μm、350μm、250μm、149μm、75μmの6段の篩と受け皿を用いて分級操作を行うことにより測定される値を示す。
当該分級操作は、受け皿に目開きの小さな篩から目開きの大きな篩の順に積み重ね、最上部の710μmの篩の上から100g/回のサンプルを入れて蓋をし、ロータップ型ふるい振盪機((株)飯田製作所製、タッピング:156回/分、ローリング:290回/分)に取り付け、温度25℃、相対湿度40%の雰囲気条件下で、10分間振動させる。その後、それぞれの篩及び受け皿上に残留したサンプルを篩目ごとに回収する操作を行う。
この操作によって、500〜710μm(500μmの篩上に残留)、350〜500μm(350μmの篩上に残留)、250〜350μm(250μmの篩上に残留)、149〜250μm(149μmの篩上に残留)75〜149μm(75μmの篩上に残留)、受け皿〜75μm(75μmの篩を通過)の分級サンプルを得、それぞれの質量頻度(質量%)を算出する。
次に、算出した質量頻度が50質量%以上となる最初の篩の目開きをaμmとし、またaμmよりも一段大きい篩の目開きをbμmとし、受け皿からaμmの篩までの質量頻度の積算値をc質量%、またaμmの篩上の質量頻度をd質量%として、次式によって平均粒径(50質量%)を求める。
【0023】
【数1】

【0024】
無機硫酸塩は、一価の金属イオンを有する粉末状の無水塩であれば特に限定されず、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム等が例示される。無機硫酸塩は、着色抑制効果が高く、安価なものが多く、さらに洗浄剤に配合される成分であるため、最終的にα−SF塩(最終製品)から除去する必要がない。
また、有機酸塩としては蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、酢酸ナトリウム等が好ましい。
着色抑制剤の添加量は、原料の脂肪酸アルキルエステル100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは1〜20質量部である。0.1質量部未満の場合は添加効果が得られない。30質量部を超えて添加しても、着色抑制効果が飽和し、もはや着色抑制効果の向上が図れない場合がある。
【0025】
撹拌機の回転速度は、たとえば撹拌機に備えられている撹拌翼の撹拌羽根先端の周速を0.5〜6.0m/secとすることが好ましく、2.0〜5.0m/secとすることがより好ましい。周速が0.5m/sec未満の場合は気泡の分散効果が不充分で、反応率が低下する場合がある。また、着色抑制剤の分散も不充分となるため、その着色抑制効果が低下する場合がある。一方、周速が6.0m/secを超えると着色抑制効果が飽和するが、消費動力が増大する場合がある。
また、撹拌羽根先端の周速を上述の好ましい数値範囲に保ちつつ回転させることによって、後述の熟成操作においても着色抑制剤を充分に分散させつつ反応させることができる。
【0026】
スルホン化工程のガス接触操作における反応温度は、脂肪酸アルキルエステルが流動性を有する温度とされ、脂肪酸アルキルエステルの融点以上であり、好ましくは融点以上であって、融点より70℃高い温度までの範囲で決定することが好ましい。
スルホン化工程におけるスルホン化ガスの導入時間は、10〜300分間程度とされる。
【0027】
スルホン化の方法としては、流下薄膜式スルホン化法、回分式スルホン化法等のいずれのスルホン化法であってもよい。また、スルホン化反応方式としては槽型反応、フィルム反応、管型気液混相反応等の方式が用いられる。着色抑制剤を原料中に均一に分散させた状態でスルホン化ガスと接触させることが好ましいため、特に回分式スルホン化法においては、槽型反応方式が好適である。
【0028】
(熟成操作)
スルホン化工程には、ガス接触操作の後、必要に応じて熟成操作を設けることができる。α−SF塩の収率向上の観点からは、熟成操作を設けることが好ましい。
熟成操作は、ガス接触操作の後、所定の温度に維持して、ガス接触操作で生成した二分子付加体からのSOの脱離を促進する工程である。
熟成操作は、例えば、原料液相とスルホン化ガスとを接触させた反応槽内で、撹拌して熟成することができる。また、例えば、ガス接触操作にフィルム式反応、管型気液混相反応等を用いた場合には、スルホン化物を他の槽型反応器に移して熟成操作を行う。
【0029】
熟成操作における反応温度(熟成温度)は、例えば、70〜100℃の範囲で決定することができる。熟成温度が70℃未満であると反応が速やかに進行しにくく、100℃を超えると着色が著しくなるためである。
熟成操作における反応時間(熟成時間)は、例えば、1〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0030】
[エステル化工程]
エステル化工程は、ガス接触操作、さらには熟成操作の後、低級アルコールを添加して前記スルホン化工程の生成物をエステル化し、α−SFを生成する反応(エステル反応)を進行させる工程である。
前記スルホン化工程の生成物には、SOの一分子付加体、SOの二分子付加体、未反応の脂肪酸アルキルエステル及びその他の副生物が含まれている。特に、二分子付加体を中和すると洗浄効果に寄与しないα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩となるため、洗浄剤用途においては二分子付加体の含有量をできるだけ低くする必要がある。本エステル化工程を有することで、二分子付加体からα−SFを生成させることにより、二分子付加体の含有量を低くでき、さらにはα−SF塩の収率向上が図られる。
エステル化操作は、例えば、スルホン化物に低級アルコールを添加し、所定の温度に維持しながら撹拌するものが挙げられる。
【0031】
エステル化操作で用いる低級アルコールとは、好ましくは炭素数1〜6のものである。中でも、低級アルコールは、その炭素数が原料の脂肪酸アルキルエステルのアルコール残基の炭素数と等しいものが好ましい。
低級アルコールの添加量は、SOの二分子付加体に対して0.5〜50倍モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜2倍モルである。当該添加量の下限値未満の場合は添加効果が得られない。上限値を超えて添加しても、それ以上のエステル反応の進行が見られない。
たとえばSOの二分子付加体がスルホン化工程の生成物中に5〜50質量%含まれている場合、メタノールの添加量は、α−SFの100質量部に対して0.25〜250質量部が好ましく、より好ましくは0.4〜10質量部である。
【0032】
エステル化操作における反応温度は、50〜100℃であり、好ましくは50〜90℃である。
エステル化操作における反応時間は、5〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0033】
[中和工程]
中和工程は、前記エステル化工程で得られるエステル化物に対して中和処理を行うことにより中和物を得る工程である。
本中和工程を有することにより、エステル化物中のα−SFからα−SF塩が生成する。
【0034】
α−SF塩において、塩を形成する対イオンとしては、
−CH(CO−O−R)−SO
とともに水溶性の塩を形成するものであればよい。該水溶性の塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩等が挙げられる。
【0035】
中和は、たとえば、エステル化物と、アルカリ水溶液とを接触させることにより行うことができる。
アルカリ水溶液としては、目的とする塩を形成することができるもの、たとえば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、エタノールアミン等が挙げられる。
アルカリ水溶液の濃度は、下記中和物のアニオン界面活性剤濃度となるように調整する。
ここで、「アニオン界面活性剤濃度」とは、本発明の製造方法により得られる生成物中に含まれる、界面活性剤としての機能を有するアニオン性化合物の濃度である。当該生成物中には、通常、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩のほか、副生物としてα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩が含まれる。α−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩も、α−SF塩と同様、界面活性剤としての機能を有している。したがって、本発明において、アニオン界面活性剤濃度は、洗浄有効成分であるα−SF塩と、副生物の1つであるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩)との合計の濃度として求められる。
中和物中のアニオン界面活性剤濃度は、10〜80質量%が好ましい。10質量%以上であると製造効率が向上し、80質量%以下であるとハンドリング性に優れる。特に、粘度が適度に低く、製造効率、ハンドリング性ともに優れることから、アニオン界面活性剤濃度は、60〜80質量%がより好ましく、62〜75質量%がさらに好ましい。
【0036】
中和温度は、30〜140℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。
中和時間は、5〜60分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
中和時のpHは、生成したα−SF塩の加水分解を防止するために、酸性あるいは弱いアルカリ性の範囲(pH4〜9)が好ましい。この範囲外では、α−SF塩のエステル結合が切断されやすくなる可能性がある。
【0037】
また、中和工程においては、生成したα−SF塩の加水分解とそれに伴う副生物の生成を防止するために、過激な中和操作を避け、極力マイルドな中和処理を行うことが好ましい。
かかる中和処理としては、ループ中和方式が挙げられる。この方式は、ループ状の配管(リサイクルループ)内で、中和処理した中和物の一部(リサイクル中和物)を循環させ、該リサイクル中和物を、エステル化工程後の未中和の生成物に添加して中和を行う方式である。
ループ中和方式において、中和は、たとえばリサイクル中和物と未中和の生成物との混合物に対してアルカリ水溶液を接触させて行ってもよく、また、前記リサイクル中和物と、未中和の生成物と、アルカリ水溶液とを、強力なせん断力の元で瞬時に混合して行ってもよい。
リサイクル中和物の添加量は、未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計量の5〜25質量倍が好ましく、10〜20質量倍がより好ましい。未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計量に対するリサイクル中和物の添加量の比、すなわちリサイクル比が5以上であると副生物の生成抑制効果に優れ、25以下であると製造効率が向上する。
【0038】
中和工程は、アルカリ水溶液を用いる以外に、固体の金属炭酸塩又は炭酸水素塩を用いることによっても行うことができる。
特に固体の金属炭酸塩(濃厚ソーダ灰)による中和は、濃厚ソーダ灰が他のアルカリよりも安価であるため好ましい。また、固体の金属炭酸塩で中和を行うと、生成物と混合した際に、その混合物に含まれる水分量が少なく強アルカリ性になりにくく、また、中和時の中和熱が金属水酸化物の場合よりも低いため、α−SF塩の加水分解を抑制でき、有利である。
金属炭酸塩又は炭酸水素塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどの無水塩、水和塩、又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0039】
[漂白工程]
漂白工程は、前記中和工程で得られる中和物を漂白して漂白物を得る工程である。
本漂白工程を設けることにより、中和工程までに生じた着色物を漂白し、良好な色調のα−SF塩を得ることができる。
漂白工程は、たとえば、中和物に漂白剤を添加してα−SF塩を漂白するものが挙げられる。
【0040】
漂白剤には、たとえば過酸化水素の水溶液が好適に用いられる。
漂白剤中の過酸化水素の濃度は、漂白工程における水分量、反応時間(漂白時間)又は漂白工程における反応温度(漂白温度)を勘案して決定することができる。
漂白剤の添加量は、中和物中のアニオン界面活性剤(α−SF塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩))100質量部に対して、漂白剤の純分で0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
漂白温度は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白時間を勘案して決定することができ、例えば、50〜120℃の範囲で決定することが好ましく、60〜90℃の範囲で決定することがより好ましい。50℃未満では、漂白物の粘度が上昇し、移送や撹拌等の製造適正が悪化する。120℃を超えるとα−SF塩は加水分解されやすくなり、α−SF塩の色調劣化が生じると共に、α−SF塩よりも洗浄力が低いジ塩が増加する傾向にあり好ましくない。
漂白時間は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白温度を勘案して決定することができ、例えば、30〜600分間の範囲で決定することが好ましく、60〜480分間の範囲で決定することがより好ましい。
【0042】
漂白工程における漂白方法としては、例えば、反応槽内に中和物を投入し、所定の温度に維持したまま、漂白剤を添加・混合する方法が挙げられる。
また、例えば、反応槽で得られた漂白物の一部を再び反応槽に戻す循環系を設け、該循環系に中和物を添加し、次いで漂白剤を添加する方法が挙げられる。
また、ループ方式の漂白も挙げられ、具体的には、循環ラインに、漂白剤と混合された中和物の一部を循環させながら、そこへ中和物と漂白剤をそれぞれ添加する方法が挙げられる。
さらに、漂白剤を添加・混合した後、流通管方式によって漂白反応を進行させてもよい。
【0043】
[脱臭工程]
脱臭工程は、前記漂白工程で得られた漂白物を50℃以上で空気又は不活性ガスが存在する貯留槽に供給すると共に、前記の空気又は不活性ガスと接触させつつ、前記の空気又は不活性ガスを該貯留槽に供給・排出して置換処理を施すことによりα−SF塩を脱臭する工程である。
脱臭工程について、図1を参照しながら説明する。
【0044】
図1は、脱臭工程に用いる脱臭装置の一例を示す模式図である。図1には、貯留槽41に、漂白物50が収容された状態が示されている。
脱臭装置40は、貯留槽41と、漂白物50を撹拌して均一にする撹拌機44と、漂白物50を供給するためのライン29と、空気又は不活性ガスをヘッドスペース60に供給するためのガス導入ライン42と、空気又は不活性ガスを排出するための排ガスライン43と、貯留槽41の出口41aに接続された経路46と、経路46から2つに分岐した経路47および経路48とから概略構成されている。
ガス導入ライン42には、図示されないポンプが設けられている。
ここで「ヘッドスペース60」は、貯留槽41に収容された漂白物50の液面と、貯留槽41の内面とで囲まれた気相(空間)をいう。
【0045】
撹拌機44は、回転自在な撹拌軸45aと、撹拌軸45aに設けられた複数の撹拌翼45bとを有している。
撹拌翼45bは、槽底部の中央付近に配置されていることが好ましい。
撹拌翼45bの構造は、例えば、ディスクタービン翼、傾斜パドル翼、プロペラ翼、アンカー翼、傾斜タービン翼、ファンタービン翼などが好適である。なかでも、1枚から8枚のディスクタービン翼又は傾斜パドル翼を設けることがさらに好ましい。
撹拌翼45bの翼径dは、貯留槽41の内径Dに対してd/D=0.4〜0.6程度とすることが好ましい。
【0046】
ガス導入ライン42の供給口は、空気又は不活性ガスを、漂白物50の液面に対して垂直方向からヘッドスペース60に供給するように配置されている。
【0047】
経路46から分岐した経路47は、その途中にポンプ49aが設けられ、漂白物50の一部が出口41aから取り出されて循環するように、貯留槽41の底面と対向する対向面に接続されている。
経路46から分岐した経路48は、その途中にポンプ49bが設けられ、最終品貯留槽(図示なし)に接続されている。
【0048】
図1に示す脱臭装置40を用いたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の脱臭は、たとえば下記操作(i)〜(iv)により行うことができる。
操作(i):前記漂白工程で得られた漂白物50を50℃以上に保持しつつライン29から貯留槽41にヘッドスペース60を設けて供給し、撹拌を行う。
操作(ii):貯留槽41に収容した漂白物50の一部を貯留槽41の出口41aから取り出し、この取り出した漂白物50を再び貯留槽41に戻す循環処理を行う。
操作(iii):前記の撹拌および循環処理を行うと共に、空気又は不活性ガスを、ガス導入ライン42からヘッドスペース60に連続的に供給し、漂白物50と空気又は不活性ガスとを接触させつつ、漂白物50と接触した前記の空気又は不活性ガスを、排ガスライン43から貯留槽41の外へ排出することにより、ヘッドスペース60内のガスを置換する。
操作(iv):貯留槽41内の漂白物50の平均滞留時間が所定の時間となるように、貯留槽41内の液面の高さを一定に保ちつつ、漂白物50を連続的に最終品貯留槽へ送液する。
【0049】
操作(i):
本発明において、貯留槽41に収容する漂白物50の温度は50℃以上であり、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、上限値は100℃未満が好ましく、漂白物50の温度として特に好ましくは80〜90℃である。
漂白物50の温度が50℃未満であると、不快臭が残りやすくなり、脱臭効果が低くなる。また、漂白物の粘度が高くなりすぎて循環処理を行うことが難しくなる。一方、100℃以上であると、漂白物50中の漂白剤成分の分解が起こり、副生物が生じて新たな臭いが発生するおそれがある。また、水分のコントロールが困難となる。
ライン29から貯留槽41に導入する際の漂白物50の流量は、貯留槽41内の漂白物50の滞留時間が所定の時間となるように、また、貯留槽41内の液面の高さ(ヘッドスペース60の容量)が一定に保たれるように、制御することが好ましい。
撹拌機44の回転速度は、10〜150rpmとすることが好ましく、20〜100rpmとすることがより好ましい。回転速度が下限値以上であると、漂白物50の均一性がより高まる。一方、回転速度が上限値以下であれば、気泡の混入がより抑制される。
本発明においては、操作(i)の撹拌は必須ではないが、漂白物50の均一性がより高まることから、当該撹拌を行うことが好ましい。
【0050】
操作(ii):
漂白物50の循環量は、ライン29から貯留槽41に導入する漂白物50の流量に応じて決定でき、漂白物50の循環量(L/h)/漂白物50の流量(L/h)で表される比で3以上とすることが好ましく、7以上とすることがより好ましい。上限値は飛沫同伴量の増大を抑えるという理由から、30以下とすることが好ましい。漂白物50の循環量/流量で表される比が3以上、特には7以上とすることで、脱臭効果がより向上する。
貯留槽41内における漂白物50の平均滞留時間は、30〜240分間とすることが好ましく、60〜180分間とすることがより好ましい。
平均滞留時間が下限値以上であると、脱臭効果がより向上する。一方、平均滞留時間が上限値以下であれば、気泡の混入がより抑制される。
脱臭装置40において、出口41aから取り出された漂白物50は、ヘッドスペース60に戻される。これにより、空気又は不活性ガスとの接触効率が高まり、脱臭効果がより向上する。
また、取り出した漂白物50を経路47からヘッドスペース60に戻す際、漂白物50を一箇所から流入させてもよく、複数箇所から流入させてもよい。また、ヘッドスペース60への漂白物50の流入は、空気又は不活性ガスとの接触割合が高まり、脱臭効果がさらに良好となることから、漂白物50をシャワー状とすることが好ましい。
【0051】
操作(iii):
不活性ガスは、特に限定されず、たとえば窒素、ヘリウム、二酸化炭素、アルゴンを用いることができる。
貯留槽41に供給するガスとしては、使用性に優れ、安価であることから、空気が最も好ましい。
空気又は不活性ガスの導入量は、漂白物50の循環量に応じて決定でき、ガスの導入量(m/h)/漂白物50の循環量(m/h)で表される比で10以上とすることが好ましく、50以上とすることがより好ましく、100以上とすることがさらに好ましい。当該比を10以上とすることで、脱臭効果がより向上する。
空気又は不活性ガスのヘッドスペース60への供給は、ガス導入ライン42(液面に対して垂直方向)から連続的に供給される。
【0052】
操作(iv):
所定回数の循環等を経た漂白物50は、出口41aから取り出され、ポンプ49bにより経路46から経路48へと送られ、最終品貯留槽へ収容される。
【0053】
上述したように、本発明においては、貯留槽41に収容する漂白物50の温度が50℃以上であることにより、漂白物50自体から不快臭の原因成分が除去されやすい。また、空気又は不活性ガスを貯留槽41に連続的に供給して漂白物50と積極的に接触させ、かつ、貯留槽41内の空気又は不活性ガスを置換処理することにより、前記除去の効果が促進される。
以上により、本発明によれば、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、無臭化を図ることができ、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる、と考えられる。
【0054】
本発明における脱臭工程では、操作(ii)の循環処理は必須ではないが、当該循環処理を行うことが好ましい。これにより、漂白物50と空気又は不活性ガスとの接触が漂白物50とヘッドスペース60との界面だけでなく、漂白物50の全体と直接的に接触するようになるため、脱臭効果が向上し、臭気のより良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が製造される。
また、貯留槽41にヘッドスペース60を設けることにより、貯留槽41内の空気又は不活性ガスが容易に置換され、また、処理の間中、漂白物50が漂白物50を含んでいない新たに供給される空気又は不活性ガスと接触することから、脱臭効率が格段に高まる。
さらに、ガス導入ライン42(漂白物50の液面に対して垂直方向)から供給することにより、漂白物50の飛沫の発生又はその同伴がより抑制される。その結果、排ガスライン43から排出されるベントガス中の有機物の含有量を低減できる。また、空気又は不活性ガスがヘッドスペース60に供給されることから、漂白物50へ気泡が混入しにくいために粘度の増加を抑制でき、常圧下で脱臭処理を行うことができる。
【0055】
本発明における脱臭工程は、図1に示した脱臭装置40を用いた脱臭方法に限定されず、脱臭装置40の出口41aから取り出された漂白物50を再び貯留槽41に戻す際、取り出された漂白物50を貯留槽41内の漂白物50中に戻してもよい。
空気又は不活性ガスのヘッドスペース60への供給は、ガス導入ライン42からの供給に限定されず、たとえば後述の図3に示すように、漂白物50の液面に対して水平方向から吹き込むよう、貯留槽41の側面にガス導入ラインが設けられていてもよい。
また、空気又は不活性ガスの貯留槽41への供給は、ヘッドスペース60への供給に限定されず、貯留槽41内の漂白物50中に供給してもよく、ヘッドスペース60及び漂白物50中の両方に供給してもよい。
また、操作(iii)において、ヘッドスペース60内の空気又は不活性ガスの置換を促進するため、貯留槽41におけるガス供給口付近又は排出口付近に、空気又は不活性ガスを吹き込む又は吸い込むためのポンプ、ファン等が設けられていてもよい。
【0056】
[他の任意の工程]
本発明のα−SF塩の製造方法は、スルホン化工程、エステル化工程、中和工程、漂白工程及び脱臭工程以外の工程を有していてもよく、たとえば、中和工程後、漂白工程を行う前に、中和物を加熱処理する加熱工程を有していてもよい。該加熱工程を行うと、得られるα−SF塩の色調が向上する。
加熱処理は、中和物を所定の温度に加熱し、該温度を所定時間保持することによって行うことができる。
加熱温度は70℃以上が好ましく、70〜120℃がより好ましい。
また、加熱時間は0.5時間〜7日間が好ましく、1時間〜5日間がより好ましく、2〜24時間がさらに好ましい。
【0057】
また、本発明のα−SF塩の製造方法は、脱臭工程の後、得られたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を熟成する工程を有していてもよい。
この場合、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストは、別の貯留槽に移送され、所定温度で所定時間、静置される。かかる熟成工程を経ることにより、色調の良好なペーストを得ることができる。
熟成温度は、好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜80℃であり、熟成時間は好ましくは1〜48時間、より好ましくは2〜24時間、さらに好ましくは2〜12時間である。
熟成温度が60℃未満又は熟成時間が1時間未満であると、ペーストの色調が改善されない場合があり、熟成温度が90℃、熟成時間が48時間を超えると、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が加水分解する場合がある。
【0058】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る製造方法の好ましい態様について説明する。
図2は、本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法に用いる製造システムの一例を示す概略構成図である。
図2に示す製造システムは、反応槽1および撹拌機4を備えた槽型反応器と、反応槽1の出口1aにライン21を介して接続されたエステル化反応槽31と、エステル化反応槽31にライン23を介して接続されたリサイクルループ32と、リサイクルループ32にライン24を介して接続されたリサイクルループ33と、リサイクルループ33にライン25を介して接続された漂白管34と、漂白管34にライン29を介して接続された貯留槽41並びに撹拌機44、ガス導入ライン42、排ガスライン43及び経路46、47、48を備えた脱臭装置40とから概略構成されている。
脱臭装置40は、図1に示す例の脱臭装置と同一の構成を備えている。
【0059】
反応槽1の上部には、SOガス導入ライン8および排ガスライン10が接続されており、SOガスを反応槽1内に供給できるようになっている。
エステル化反応槽31としては、3つの混合スペースを有する連続式多段撹拌槽31aおよびバッファ31bが用いられている。連続式多段撹拌槽31aには、アルコール供給ライン26が接続されており、連続式多段撹拌槽31aに低級アルコールを供給できるようになっている。
【0060】
リサイクルループ32は、ライン23およびライン24にその端部が連結された中和ライン32aと、中和ライン32aの両端から分岐する循環ライン32bとから構成されている。中和ライン32a上には、2つのミキサー32c、32dが設けられており、ミキサー32cとミキサー32dとの間の部分には、アルカリ水溶液供給ライン27が接続されており、中和ライン32a内にアルカリ水溶液を供給できるようになっている。また、循環ライン32b上にはポンプ32eおよび熱交換器32fが設けられており、中和物を冷却できるようになっている。
【0061】
リサイクルループ33は、ライン24およびライン25にその端部が連結されたライン33aと、ライン33aの両端から分岐する循環ライン33bとから構成されている。ライン33a上には、ミキサー33cが設けられている。ミキサー33cの上流側には、漂白剤供給ライン28が接続されており、ライン33a内に漂白剤を供給できるようになっている。
【0062】
図2に示す製造システムを用いたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造は、たとえば以下のようにして行うことができる。
スルホン化工程:
まず、反応槽1に、原料である脂肪酸アルキルエステルと着色抑制剤を仕込む。
撹拌機4で撹拌しながら反応槽1の内温を所定の反応温度まで上昇させ、液状の原料中に着色抑制剤粒子が分散した原料液相とする。
ついで、この原料液相に、SOガス導入ライン8からスルホン化ガスを導入する。
スルホン化ガスは、SOガス導入ライン8から、SOガス導入ライン8先端に接続されたガススパージャー(図示なし)を経て反応槽1内に導入され、撹拌機4によって原料液相中に分散する。これと同時に、着色抑制剤粒子も原料液相中に均一に分散する。
原料液相にスルホン化ガスを導入して撹拌した後、反応槽1内を所定温度に保持して、スルホン化ガス導入後の熟成を行うことが好ましい。
【0063】
エステル化工程:
次に、スルホン化物を連続式多段撹拌槽31aに導入するとともに、アルコール供給ライン26から低級アルコールを供給し、それらを混合する。そして、得られた混合物を、所定の温度で、所定の時間、連続式多段撹拌槽31aおよびバッファ31bにて保持する。
【0064】
中和工程:
その後、得られた生成物(エステル化物)を、ライン23を通じてリサイクルループ32の中和ライン32aに供給する。
このエステル化物を、アルカリ供給ライン27からアルカリ水溶液を供給して中和し、得られた中和物の一部を、循環ライン32bを通して循環させ、熱交換器32fで冷却した後、中和ライン32a内の未中和のエステル化物に添加する。これを、ミキサー32cで混合した後、上記と同様にして中和する。
【0065】
漂白工程:
中和後、得られた中和物を、ライン24を介してリサイクルループ33のライン33aに供給し、漂白剤供給ライン28から供給される漂白剤とミキサー33cで混合した後、該混合物を漂白管34に供給し、所定の漂白温度として漂白反応を進行させる。
【0066】
脱臭工程:
漂白後、得られた漂白物に対し、上述した操作(i)〜(iv)により脱臭処理を施す。
【0067】
以上の工程を経ることにより、目的とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩(漂白脱臭品)が得られる。
製造されたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、そのまま製品としてもよく、液体洗浄剤組成物等の調製に用いてもよい。また、粉状、粒状、フレーク状、ヌードル状等の形状に成形し、粉末洗浄剤組成物、固体洗浄剤等の調製に用いてもよい。
【0068】
以上説明した本発明の製造方法によれば、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、簡便な操作により、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できる。
本発明の製造方法により、原料の脂肪酸アルキルエステルの精製度合いを問わず、不快臭の低減したα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が得られる。
また、本発明の製造方法は、脱臭操作のための特別な付加設備が不要であることから、簡便な方法である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<使用した原料>
以下に示す脂肪酸メチルエステル、スルホン化ガス、着色抑制剤等をそれぞれ用いた。
【0071】
・脂肪酸メチルエステル
ME(1):エメリー社製の商品名「Edenor ME C16−80 MY」。
パーム油を起源とし、エステル化を行い、アシル基の炭素数16のメチルエステルを所定比率になるように添加・混合した後、水添し、全蒸留(ボトムカット)を行ったもの。
ME(2):パーム核油、ヤシ油、パーム油を起源とし、エステル化して蒸留したパステルM−16(商品名、ライオン株式会社製)と、パステルM−180(商品名、ライオン株式会社製)とを質量比9:1で混合した後、さらに水添処理してヨウ素価を0.05以下に低減した脂肪酸メチルエステル混合物。水添処理は常法に従い、水添触媒としてSO−850(商品名、堺化学株式会社製)を、脂肪酸メチルエステル100質量部に対して0.1質量部添加し、170℃、1時間の条件で行った。水添処理の後、濾過により触媒を除去した。
これら原料のアシル基の炭素数分布と性状(ヨウ素価、硫酸呈色値)を表1に示した。
【0072】
ヨウ素価の測定は、基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)に準拠した方法により行った。
【0073】
硫酸呈色値の測定(硫酸呈色物の紫外可視分光光度計を用いた測色及び着色度の算出)は、以下の手順により行った。
手順1.栓付きのエプトン管に、評価する脂肪酸メチルエステル5gを採取し、そのエプトン管を80℃の恒温水槽に浸漬して予熱した。
手順2.予熱したエプトン管内に、ホールピペットを用いて硫酸(濃度95.0〜95.5質量%)1mLを正確に加えて振り混ぜた後、80℃の恒温水槽で1時間保温した(硫酸呈色処理)。
手順3.前記硫酸呈色処理の後、エプトン管の内容物(硫酸呈色物)5gを栓付きの容器に採取し、そこへエタノール12.5gを添加して混合することにより試験液を調製した。
手順4.試験液を、10mm光路長のセルに採取し、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、製品名:UV−2200)により、該試験液の波長420nmにおける吸光度を測定した。
手順5.測定された吸光度(波長420nm)から、次式により硫酸呈色値を求めた。
【0074】
硫酸呈色値=吸光度(波長420nm)×1000×手順3で調製した試験液量(g)/手順3で採取した硫酸呈色物量(g)×1/手順1で採取した脂肪酸メチルエステル量(g)
【0075】
【表1】

【0076】
スルホン化ガスは、乾燥空気(露点−55℃)を用いてSOを触媒酸化して生成したものを用いた。
着色抑制剤は、工業グレードの微粉芒硝(カーギル社製)を用いた。
エステル化工程において、メタノールは、工業グレード(水分1000ppm以下)のものを使用した。
中和工程において、苛性ソーダは、工業グレードの48質量%のものを上水で希釈して用いた。
漂白工程においては、35質量%の工業グレードの過酸化水素水(純正化学株式会社)を用いた。
【0077】
<α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造>
図2に示した製造システムと同一の構成を備えた製造システムを用いて、各例のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を、表2、3に示す設定条件でそれぞれ製造した。
なお、図3は、実施例8で用いた脱臭装置を示す模式図である。図3に示す脱臭装置は、貯留槽のヘッドスペースに空気を供給するガス導入ラインの位置を変更した以外は図1に示す脱臭装置と同一の構成を備えている。
【0078】
(実施例1)
[スルホン化工程]
槽型スルホン化反応器に、脂肪酸メチルエステル混合物のME(1)100質量部と微粉芒硝5質量部とを投入し、スルホン化ガスを反応モル比(SO/脂肪酸メチルエステル)=1.2で添加し、脂肪酸メチルエステル混合物のスルホン化(ガス接触操作)(80℃、240分間)を行った。その後、熟成操作(80℃、20分間)を行った。
【0079】
[エステル化工程]
スルホン化工程で得られたα−スルホ脂肪酸メチルエステル(MES)100質量部に対してメタノール3質量部(SOの二分子付加体に対して1.5倍モル)を添加し、エステル化(80℃、30分)を行った。
【0080】
[中和工程]
次いで、エステル化工程で得られた生成物を、30質量%水酸化ナトリウム水溶液と共に、ミキサーの撹拌羽根近傍に同時かつ連続的に投入し、撹拌混合することにより、中和反応を行った。得られた中和物の温度が80℃、pH5.5になるように中和物を調製した。その際、pHは、中和ラインに設置したpH計(SHDM−135:東亜ディーケーケー(株)製)により、中和ラインを流れる中和物(原液、80℃)を直接測定した。なお、中和物中のアニオン界面活性剤濃度は69質量%であった。
アニオン界面活性剤濃度の測定方法:
アニオン界面活性剤濃度は、以下のようにして測定した。
試料0.3gを200mLメスフラスコに正確に量り取り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加えて超音波で溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、この中から5mLをホールピペットで滴定瓶にとり、MB(メチレンブルー)指示薬25mLとクロロホルム15mLを加え、さらに0.004mol/L塩化ベンゼトニウム溶液5mLを加えた後、0.002mol/Lアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液で滴定した。滴定は、その都度滴定瓶に栓をして激しく振とうした後、静置し、白色板を背景として両層が同一色調になった点を終点とした。同様に空試験(試料を使用しない以外は上記と同じ試験)を行い、滴定量の差からアニオン界面活性剤濃度を算出した。
【0081】
[漂白工程]
次いで、この中和物に、当該中和物中のアニオン界面活性剤(α−SF塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩))100質量部に対して過酸化水素(35質量%)を純分として1.0質量部を定量供給し、ミキサーで混合した後、漂白管(流通型熟成管)に導入し、熟成滞留時間6時間、漂白温度80℃の条件で漂白した。
【0082】
[脱臭工程]
図1に示した脱臭装置と同一の構成を備えた脱臭装置を用いて脱臭処理を施した。
具体的には、貯留槽と、撹拌機と、漂白管に接続した漂白物を導入するためのライン(漂白物導入配管(管径25A))と、ガス導入配管(管径50A)と、排ガスラインとしてガスベント配管(管径40A)と、貯留槽底部の出口に接続された経路(抜出配管)と、この経路(抜出配管(管径80A))から2つに分岐した循環経路(管径40A)及び最終品貯留槽に接続した経路とから概略構成された脱臭装置を用いた。
循環経路及び最終品貯留槽に接続した経路には、循環を行うためのポンプ及び最終品貯留槽へ抜き出すためのポンプをそれぞれ設置した。
漂白物導入配管とガスベント配管と循環経路の一端は、貯留槽の底面と対向する対向面(天板)に設置した。
貯留槽には、10%皿形鏡板の底部を有し、槽内径D=1100mm、直胴部高さ1000mm、容量1000LのSUS316製のものを用いた。
撹拌機としては、撹拌軸に4枚傾斜パドル翼(羽根径d=550mm)を取り付けたものを用いた。傾斜パドル翼は、槽底部の中央付近に配置した。
【0083】
脱臭処理は、以下のようにして行った。
操作(i):
漂白工程で得られた漂白物を温度80℃で、流通型熟成管から導入(漂白物の流量317L/h)して貯留槽にヘッドスペースを設けて収容し、撹拌(30rpm)を行った。
操作(ii):
貯留槽に収容した漂白物の一部を貯留槽底部の出口から取り出し、この取り出した漂白物を再び貯留槽に戻す循環処理(漂白物の循環量2500L/h)を行った(漂白物の循環量(L/h)/漂白物の流量(L/h)で表される比を7.9として行った)。
操作(iii):
前記の撹拌および循環処理を行うと共に、空気を、ガス導入配管(図1における符号42の位置)からヘッドスペースに供給(空気の導入量125m/h)し、漂白物と空気とを接触させ、漂白物と接触した空気を、ガスベント配管から貯留槽の外へ排出した(空気の導入量(m/h)/漂白物の循環量(m/h)で表される比を50として空気を供給した)。
操作(iv):
貯留槽内の漂白物の平均滞留時間が所定の時間(120分間)となるように、貯留槽内の液面の高さを一定に保ちつつ、漂白物を連続的に最終品貯留槽へ送液した。
【0084】
(実施例2〜7、比較例3)
表2、3に示す設定条件に変更した以外は、実施例1と同様にしてα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造した。
【0085】
(実施例8)
脱臭工程において図3に示す脱臭装置を用い、ガス導入配管の位置を符号42aの位置に変更した以外は、実施例1と同様にしてα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造した。
【0086】
(比較例1)
操作(i)、操作(ii)及び操作(iv)を実施例1と同様にして行い、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造した。すなわち、操作(iii)を行わなかった。
【0087】
(比較例2)
操作(i)、操作(ii)及び操作(iv)を実施例2と同様にして行い、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造した。すなわち、操作(iii)を行わなかった。
【0088】
<α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の評価>
得られたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を用いて以下に示す評価をそれぞれ行った。その結果を表2、3に示す。
表2、3中に示す「−」は、操作(iii)を行っていないことを意味する。
表2、3中、ガスの導入位置における「上」は図1における符号42の位置を示し、「横」は図3における符号42aの位置を示す。
【0089】
[ベントガス中の有機物の含有量の測定]
「JIS Z8808排ガス中のダスト濃度の測定方法」に準拠して、ベントガス中の有機物の含有量を測定し、下記の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:漂白物の流量に対して1質量%未満であった。
○:漂白物の流量に対して1質量%以上5質量%未満であった。
△:漂白物の流量に対して5%質量以上10%質量未満であった。
×:漂白物の流量に対して10質量%以上であった。
【0090】
[臭気の評価]
各例のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩における、脱臭工程の直後と、40℃で4週間(40℃/4W)保管後の臭気について、5人のパネラーによる官能評価を行い、下記の評価基準に基づいて評価した。その結果を表2〜3に示す。
◎:ほぼ無臭であった。
○:やや臭いがあるが、実用上問題ないレベルであった。
△:かなり臭気が感じられた。
×:強い臭気が感じられた。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
表2〜3の結果から、実施例の製造方法は、比較例の製造方法に比べて、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できることが確認できた。
実施例1と実施例2との対比から、原料の脂肪酸アルキルエステルとして未精製品を使用しても、本発明によれば、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できることが分かる。
実施例1と実施例8との対比から、ガスの導入位置を「上」とすることにより、臭気がさらに良好となり、また、ベントガス中の飛沫同伴の量をより低減できることが分かる。
また、実施例の製造方法によれば、脱臭操作のための特別な付加設備が不要であり、空気又は不活性ガスを貯留槽へ供給・排出するだけの、簡便な操作により、臭気の良好なα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を製造できることが確認できた。
【符号の説明】
【0094】
1…反応槽 4…撹拌機 8…SOガス導入ライン 10…排ガスライン 31…エステル化反応槽 32…リサイクルループ 33…リサイクルループ 34…漂白管 40…脱臭装置 41…貯留槽 42…ガス導入ライン 43…排ガスライン 44…撹拌機 60…ヘッドスペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させてスルホン化するスルホン化工程と、
該スルホン化工程の生成物を低級アルコールによってエステル化するエステル化工程と、
該エステル化工程後に中和して中和物を得る中和工程と、
該中和物を漂白して漂白物を得る漂白工程と、
該漂白物を脱臭する脱臭工程とを有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法において、
前記脱臭工程は、前記漂白工程で得られた漂白物を50℃以上で空気又は不活性ガスが存在する貯留槽に供給すると共に、前記の空気又は不活性ガスと接触させつつ、前記の空気又は不活性ガスを該貯留槽に供給・排出して置換処理を施すことを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。
【請求項2】
前記脱臭工程は、前記貯留槽に供給した漂白物の一部を前記貯留槽から取り出し、この取り出した漂白物を再び前記貯留槽に戻す循環処理を行う、請求項1記載のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。
【請求項3】
前記脱臭工程は、
前記漂白工程で得られた漂白物を前記貯留槽にヘッドスペースを設けて供給し、前記の空気又は不活性ガスを該ヘッドスペースに供給すると共に、
前記の取り出した漂白物を該ヘッドスペースに流入させて循環処理を行う、請求項2記載のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68579(P2011−68579A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219392(P2009−219392)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】