説明

α,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの製造方法

【課題】オレフィンからα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時かつ高収率で製造する方法の提供。
【解決手段】貴金属含有触媒およびモリブデン化合物の存在下、オレフィンを液相中で分子状酸素により酸化するα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの製造方法である。特に、貴金属含有触媒が貴金属およびテルルを含有する触媒であることを特徴としてα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンから貴金属含有触媒を用いた液相酸化によりα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンを液相中で酸化してジオールを製造する方法として、特許文献1において、オレフィンを水の存在下で酸素と接触させて液相酸化する製造方法が開示されている。この反応において触媒は必ずしも必要でないが、好ましい触媒として、コバルト、マンガン、鉄、バナジウム、クロム、銅、ニッケル、アンチモン、白金族金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属の化合物が例示されている。
【0003】
オレフィンを液相中で酸化してα,β−不飽和アルデヒドおよびα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、特許文献2において、モリブデン化合物およびパラジウム触媒の存在下でオレフィンを分子状酸素で酸化する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−65807号公報
【特許文献2】特開昭56−59722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の方法では、オレフィンの酸化によって、α,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時に製造することは困難であった。
【0006】
したがって本発明の目的は、オレフィンからα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時かつ高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、貴金属含有触媒およびモリブデン化合物の存在下、オレフィンを液相中で分子状酸素により酸化するα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オレフィンからα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時かつ高収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを製造するにあたり、貴金属を含有する触媒を使用し、かつ反応系中にモリブデン化合物を存在させる。貴金属を含有する触媒を使用して液相酸化を行う反応系中にモリブデン化合物を存在させることで、α,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時かつ高収率で製造できる。
【0010】
液相酸化を行う反応系中に存在させるモリブデン化合物としては、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物;リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸等のヘテロポリモリブデン酸;そのヘテロポリモリブデン酸の塩などを用いることができる。ヘテロポリモリブデン酸の塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。モリブデン化合物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
モリブデン化合物は、(A)触媒にモリブデン化合物を担持させる方法;(B)担持型の触媒を使用し、その触媒中の担体にモリブデン化合物を担持させる方法;(C)液相酸化を行う反応液中に、モリブデン化合物を溶解および/または分散させる方法;などにより、液相酸化を行う反応系中に存在させることができる。
【0012】
本発明において貴金属とは、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、レニウム、オスミウムであり、なかでもパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金が好ましく、パラジウムが特に好ましい。触媒中の貴金属元素の化学状態は、金属状態でも酸化状態でもよいが、高い触媒活性を示すことから貴金属元素は金属状態であることが好ましい。
【0013】
本発明の触媒では貴金属以外の金属成分を含むものとすることができる。貴金属以外の金属成分としては、例えば、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス等が挙げられるが、テルル、ビスマス、アンチモンが好ましく、テルルが特に好ましい。
【0014】
触媒は、非担持型でもよいが、貴金属が担体に担持されている担持型であることが好ましい。担体としては、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニア、ジルコニア等を用いることができる。中でも、活性炭、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが好ましい。担体は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の担体を併用する場合は、例えばシリカとアルミナを混合した混合物を用いることもでき、シリカ−アルミナ等の複合酸化物を用いることもできる。
【0015】
好ましい担体の比表面積は担体の種類等により異なるので一概に言えない。例えば、活性炭担体の比表面積は、100〜5000m/gが好ましく、300〜4000m/gがより好ましい。シリカ担体の比表面積は、10〜2000m/gが好ましく、50〜1500m/gがより好ましく、100〜1000m/gがさらに好ましい。担体の比表面積が上記範囲で小さいほど有用成分(貴金属)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、上記範囲で大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。担体の比表面積は、窒素ガス吸着法により測定できる。
【0016】
担体の細孔容積は、0.1〜2.0cc/gが好ましく、0.2〜1.5cc/gがより好ましい。
【0017】
担持型の触媒における貴金属の担持率は、担持前の担体質量に対して1質量%〜40質量%が好ましく、2質量%〜30質量%がより好ましく、4質量%〜20質量%がさらに好ましい。
【0018】
用いた担体の質量は、担体の種類に応じて適切な方法で測定できる。例えば、シリカ担体の場合、触媒を白金るつぼにとり、炭酸ナトリウムを加えて融解し、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のSi原子を定量することで、シリコン元素の質量を得ることができ、シリカ担体の質量を算出することができる。チタニア担体またはジルコニア担体の場合、触媒をテフロン(登録商標)製分解管にとり、濃硫酸および弗酸を加えてマイクロ波加熱分解装置で溶解し、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のTi原子またはZr原子を定量することで、チタン元素またはジルコニア元素の質量を得ることができ、チタニア担体またはジルコニア担体の質量を算出することができる。
【0019】
前述の(A)または(B)の方法によって液相酸化を行う反応系中にモリブデン化合物を存在させる場合、触媒中のモリブデン化合物の含有量は、触媒中の貴金属100質量部に対して、1〜5000質量部が好ましく、5〜1000質量部がより好ましく、10〜500質量部がさらに好ましい。
【0020】
以上のような触媒は、貴金属を供給する原料を用いて製造することができる。触媒が他の金属元素を含有する場合は、その金属元素を供給する原料を併用すればよい。原料としては、各元素の単体金属、これらの2種以上の合金、各元素を含む化合物を用いることができる。このような原料を適宜選択し、目的とする組成の触媒が得られるように原料の使用量を適宜調整する。
【0021】
貴金属の例としてパラジウムを挙げると、パラジウムの原料としては、パラジウム金属、パラジウム塩、酸化パラジウム等を用いることができる。中でも、パラジウム塩が好ましい。パラジウム塩の例としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム等が挙げられる。中でも、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましく、硝酸パラジウムがより好ましい。パラジウムの原料は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
貴金属以外の金属成分の例としてテルルを挙げると、テルルの原料としては、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等を用いることができる。中でも、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。テルル塩の例としては、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等が挙げられる。テルル酸塩の例としては、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等が挙げられる。亜テルル酸塩の例としては、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等が挙げられる。テルルの原料は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
触媒の製造方法としては、酸化状態の貴金属元素を含む化合物を還元剤で還元する工程を有する方法が好ましい。還元剤としては、少なくとも酸化状態の貴金属元素を還元する能力を有するものを用いることができる。還元剤の例としては、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
還元剤による還元は気相で行ってもよいが、液相で行うことが好ましい。気相での還元を行う場合の還元剤としては、水素が好ましい。液相での還元を行う場合の還元剤としては、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。
【0025】
ただし、還元剤には硫黄が含まれていないことが好ましい。ここで、硫黄が含まれていない還元剤とは、還元剤の構造中に硫黄元素が含まれないこと、即ち硫黄含有化合物でないことを意味し、硫黄や硫黄化合物が少量の不純物として含まれる還元剤は含まない。還元剤による還元を比較的低温で行うことが好ましいため、硫黄含有化合物である還元剤を使用すると、担体や貴金属に硫黄が強く吸着し、得られる触媒の活性が低下することがある。
【0026】
液相での還元の際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、原料や還元剤の溶解性、担持型の触媒を製造する場合の担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機溶媒と水との混合溶媒を用いることもできる。
【0027】
還元剤が気体の場合、溶液中への還元剤の溶解度を上げるオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は、0.1〜1.0MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。
【0028】
還元剤が液体の場合、溶液中に還元剤を添加することで還元を行うことができる。還元剤の使用量は、酸化状態の貴金属元素1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0029】
還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0030】
前述の(A)の方法によって液相酸化を行う反応系中にモリブデン化合物を存在させる場合、触媒を製造する際に、モリブデン化合物を混合する工程を行えばよい。こうすることで、モリブデン化合物が触媒に担持される。モリブデン化合物の還元は必要ないので、上記の還元工程を行った後にモリブデン化合物を混合することができる。ただし、上記の還元工程を行う前にモリブデン化合物を混合しても構わない。
【0031】
担持型の触媒を製造する場合は、原料を担体に担持させれば良い。原料を担体に担持させる方法の例としては、沈澱法、イオン交換法、含浸法、沈着法等が挙げられる。担体の使用量は、目的とする担持率の触媒が得られるように適宜調整する。
【0032】
ただし、活性炭担持型の触媒を製造する場合、貴金属の原料を含む溶液と担体(活性炭)が接触すると、担体の外表面に存在する活性基との反応により貴金属元素が還元されて析出し、貴金属が担体の外表面に偏在した触媒となる場合がある。したがって、還元剤での還元を行う場前の貴金属の原料を含む溶液中に、過酸化水素、硝酸、次亜塩素酸等の酸化剤を適量存在させておくことが好ましい。なお、他の担体の場合でも製造条件よっては貴金属元素が還元される場合があるが、同様に酸化剤を適量存在させることでその還元を防ぐことができる。
【0033】
前述の(B)の方法によって液相酸化を行う反応系中にモリブデン化合物を存在させる場合、あらかじめ担体にモリブデン化合物を担持させる工程を行えばよい。例えば、担体とモリブデン化合物とを溶媒に溶解および/または分散させた後、溶媒を除去する方法により、担体にモリブデン化合物を担持させることができる。溶媒としては、担体の溶媒への溶解を抑制する観点から、pHが9以下の溶媒が好ましい。モリブデン化合物は、溶媒に分散させてもよく、全てあるいは一部を溶媒に溶解させてもよい。溶媒の除去は、ろ過、エバポレーション、ドライアップ、遠心分離などで行うことができる。また、溶媒を除去した後、必要に応じて乾燥および/または焼成を行ってもよい。乾燥は、例えば一般的な箱型乾燥機で行うことができる。焼成は、例えばマッフル炉を用い、乾燥温度以上で、かつ担体の構造変化が少ない800℃以下の温度で行うことができる。焼成時間は、0.5〜24時間が好ましい。
【0034】
貴金属の原料を担体に担持した後、還元を行う前に熱処理して、酸化状態の貴金属元素が担体に担持された状態にしてもよい。熱処理温度は、用いる原料の分解温度〜800℃が好ましく、200〜700℃がより好ましい。熱処理時間は、0.5〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましい。熱処理は、空気中で行ってもよく、窒素などの不活性ガス中で行ってもよい。
【0035】
製造された触媒は、水、溶媒等で洗浄することが好ましい。水、溶媒等での洗浄により、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の原料由来の不純物が除去される。不純物によっては液相酸化反応を阻害する可能性があるため、不純物を十分除去できる方法および回数の洗浄を行うことが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0036】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。例えば、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で触媒を乾燥することができる。乾燥された触媒は、必要に応じて液相酸化に使用する前に活性化することもできる。例えば、水素気流中の還元雰囲気下で触媒を熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、貴金属表面の酸化皮膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。
【0037】
製造された触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定、XPS測定等により確認できる。
【0038】
次に、オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを製造する方法について説明する。
【0039】
原料のオレフィンとしては、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等を用いることができる。中でも、プロピレン、イソブチレンが好適である。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。製造されるα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールは、オレフィンと同一炭素骨格を有する。例えば、原料がプロピレンの場合はアクロレイン、アクリル酸およびプロピレングリコールが製造され、原料がイソブチレンの場合はメタクロレイン、メタクリル酸およびイソブチレングリコールが製造される。このようにして製造されたジオールを酸触媒等を用いて脱水すれば、容易に原料のオレフィンと同一炭素骨格を有する不飽和アルコールが製造できる。上記の不飽和アルコールを貴金属触媒等を用いて酸化すれば、α,β−不飽和アルデヒドおよびα,β−不飽和カルボン酸を製造することが出来る。
【0040】
液相酸化反応は、連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0041】
液相酸化反応に用いる分子状酸素の源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、これらのガスと、窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。分子状酸素の源となるガスは、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給されることが好ましい。
【0042】
液相酸化反応に用いる溶媒としては、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の有機溶媒を用いることができる。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸が好ましい。有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、有機溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。混合溶媒中の水の含有量は、2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。混合溶媒は均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0043】
原料の濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
【0044】
分子状酸素の使用量は、原料1モルに対して0.1〜20モルが好ましく、0.2〜15モルがより好ましく、0.3〜10モルがさらに好ましい。
【0045】
触媒は、液相酸化反応を行う反応液中に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜15質量%がさらに好ましい。
【0046】
前述の(C)の方法によって液相酸化を行う反応系中にモリブデン化合物を存在させる場合、モリブデン化合物を直接反応容器内に添加してもよく、溶媒の全部または一部にモリブデン化合物を溶解させた溶液を反応容器内に添加してもよい。
【0047】
また、モリブデン化合物は、液相酸化を行う反応液中に溶解および分散していることが好ましい。反応液中に溶解しているモリブデン化合物と、反応液中に分散しているモリブデン化合物の両方の効果により、目的生成物であるα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの収率をさらに高めることができる。したがって、モリブデン化合物は、液相酸化を行う反応液中に溶解できる量を超えて用いることが好ましい。例えば、モリブデン化合物として三酸化モリブデンを用い、溶媒としてアルコールおよび/または水を用いた場合、モリブデン化合物の添加量は、溶媒100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜1質量部がより好ましく、0.1〜0.5質量部がさらに好ましい。モリブデン化合物としてヘテロポリモリブデン酸を用い、溶媒としてアルコールおよび/または水を用いた場合、モリブデン化合物の添加量は、溶媒100質量部に対して0.005〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.1質量部がより好ましく、0.03〜0.07質量部がさらに好ましい。
【0048】
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は、30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。反応圧力は、0〜10MPaが好ましく、0.5〜5MPaがより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
(触媒中のテルルとパラジウムとのモル比(Te/Pd)の測定)
触媒中のパラジウムおよびテルルの質量および原子量から算出した。触媒中のパラジウムおよびテルルの質量は、以下の工程を順に行うことで測定した。
・A処理液の調製:触媒0.2g、および所定量の濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、商品名:MARS5)で溶解処理を行った。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、A処理液とした。
・B処理液の調製:A処理液の調製における不溶解部を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融した。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、B処理液とした。
・触媒中のテルルとパラジウムの定量:得られたA処理液およびB処理液に含まれるパラジウムおよびテルルの質量をそれぞれICP発光分析装置(サーモエレメンタル製、商品名:IRIS−Advantage)で定量し、その合計値をそれぞれ触媒中のパラジウムおよびテルルの質量とした。
【0051】
(反応系に含まれるMo元素の測定)
反応液中に含まれるモリブデンの質量は、モリブデン化合物の濃度、モリブデン化合物の分子量、モリブデンの原子量などから常法により算出した。反応に使用した後の触媒に吸着しているモリブデンの質量は、上記のテルルとパラジウムの質量測定方法に準じてICP発光分析装置で測定した。
【0052】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。原料として用いたオレフィンの反応率、生成したα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの選択率、並びに生成したα,β−不飽和カルボン酸の生産性は、以下のように定義される。
オレフィンの反応率(%) =(B/A)×100
α,β−不飽和アルデヒドの選択率(%) =(C/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の選択率(%) =(D/B)×100
ジオールの選択率(%) =(E/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(g−Pd・h))=F/(G×H)
ここで、Aは供給したオレフィンのモル数、Bは反応したオレフィンのモル数、Cは生成したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Eは生成したジオールのモル数、Fは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)、Gは反応に使用した触媒中のパラジウムの質量(単位:g)、Hは反応時間(単位:h)である。

<実施例>
(触媒の製造)
純水270gにテルル酸0.809gを溶解し、得られた溶液に硝酸パラジウム溶液(N.E.ケムキャット製、Pd含有率23.41質量%)64.08gを溶解することで、混合溶液を調製した。この混合溶液中に、シリカ担体(比表面積450m/g、細孔容積0.68cc/g)300gを添加して浸漬させた後、エバポレーションすることで、テルル酸および硝酸パラジウムをシリカ担体に担持させた。次いで、このシリカ担体を空気中200℃で3時間焼成することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液900gに添加し、70℃で2時間の還元を行った。吸引ろ過および純水での洗浄を経て、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。得られた触媒のTe/Pdは0.025であった。
【0053】
(反応評価)
液相酸化反応を行う反応容器としては、内径126mm、容量4リットルのジャケット付きステンレス製撹拌槽式反応器を用いた。原料は溶媒と共に反応容器上部から供給し、反応液は液相部の液面を一定に保ちつつ、連続的に系外へ抜き出す構造となっている。反応容器にあらかじめ上記の調製された触媒(パラジウム質量は15g)と、溶媒として75質量%t−ブタノール水溶液を制御液面に達するように投入した(液面は液容積が3リットルになるように調整した)。
【0054】
窒素ガスを反応容器上部から614g/hrで気相部へ供給して圧力を4.8MPa(絶対圧)まで加圧し、以後圧力制御装置によりこの圧力を保持した。液相温度を110℃まで昇温し、約10分間安定させた後、液化イソブチレンを950g/hr、80.4質量%t−ブタノール水溶液(重合防止剤としてp−メトキシフェノール215ppmを含有させて調製したもの)を3543g/hr、モリブデン含有水溶液(純水4995.6gに三酸化モリブデン4.43gを加え80℃で3時間加熱攪拌し調製したもの)を257g/hrで反応容器へ連続的に供給した。このときの供給した液体に対するMo元素の濃度(反応系中に存在する液体に対するMo元素の濃度に相当)は32ppmであり、平均滞留時間は0.5時間であった。
【0055】
次に、液相酸化反応の酸素源として、圧縮空気を焼結金属からなるスパージャーを通して、反応容器内液相部に連続的に供給し反応を開始とした。その後、気相部に供給した窒素ガスを徐々に減量し最終的には供給停止した。反応中は排ガス中酸素濃度を磁気式酸素計(横河電気社製)で常時モニターし、未反応酸素濃度を約6体積%に保持するよう圧縮空気の供給量を制御した。
【0056】
反応成績の確認として反応液と排ガスをサンプリングし、それぞれ分析を行った。原料および生成物の分析は、FIDまたはTCD検出器を備えたガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)を用いて行った。結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

<比較例>
(触媒の製造)
純水450gにテルル酸5.395gを溶解し、得られた溶液に硝酸パラジウム溶液(N.E.ケムキャット製、Pd含有率23.41質量%)213.58gを溶解することで、混合溶液を調製した。この混合溶液中に、シリカ担体(比表面積450m/g、細孔容積0.68cc/g)250gを添加して浸漬させた後、エバポレーションすることで、テルル酸および硝酸パラジウムをシリカ担体に担持させた。次いで、このシリカ担体を空気中200℃で3時間焼成することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液900gに添加し、70℃で2時間の還元を行った。吸引ろ過および純水での洗浄を経て、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。得られた触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0058】
(反応評価)
上記の調製された触媒(パラジウム質量は50g)を用いて、モリブデン含有水溶液の反応液への供給を行わず、75質量%t−ブタノール水溶液(重合防止剤としてp−メトキシフェノール200ppmを含有させて調製したもの)を1900g/hrで連続供給した以外は、実施例1と同様の方法で行った。このときの供給した液体に対するMo元素の濃度は0ppmであり、平均滞留時間は1.0時間であった。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

以上のように、本発明の方法によれば、α,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールを同時かつ高収率で製造できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属含有触媒およびモリブデン化合物の存在下、オレフィンを液相中で分子状酸素により酸化するα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの製造方法。
【請求項2】
貴金属含有触媒が貴金属およびテルルを含有する触媒であることを特徴とする請求項1に記載のα,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和カルボン酸およびジオールの製造方法。

【公開番号】特開2011−32184(P2011−32184A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178076(P2009−178076)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】