説明

β−Ga2O3系単結晶の成長方法

【課題】双晶化を効果的に抑えることのできるβ−Ga系単結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】EFG(Edge-defined film-fed growth)法によるβ−Ga2O3系単結晶の製造において、β−Ga系単結晶をその(101)面に平行な方向に成長させ、(101)面内における<10−1>方向と成長方向とのなす角度φ(0°≦φ<90°)を90°未満とする。FZ(Floating Zone)法等の他の結晶成長方法を用いた場合であってもβ−Ga2O3系単結晶25の双晶化を効果的に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−Ga系単結晶の成長方法に関し、特に、双晶化を抑えることのできるβ−Ga系単結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のβ−Ga系単結晶の成長方法として、FZ(Floating Zone)法を用いた双晶化やクラッキングを抑えることのできる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法によれば、β−Ga系単結晶をそのa軸、b軸、又はc軸と平行な方向に成長させることにより、双晶化やクラッキングを減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−262684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際には、特許文献1に記載の方法により必ずしも十分な効果が得られるとは限らず、特に、b軸に沿った方向にβ−Ga系単結晶を成長させた場合には、実用可能なレベルのβ−Ga系単結晶を得るために十分な程度に双晶化を抑えることは難しい。
【0005】
したがって、本発明の目的は、双晶化を効果的に抑えることのできるβ−Ga系単結晶の成長方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、[1]〜[11]のβ−Ga系単結晶の成長方法を提供する。
【0007】
[1]β−Ga系単結晶をその(101)面に平行な方向に成長させ、前記(101)面内における<10−1>方向と前記方向とのなす角度φ(0°≦φ<90°)が90°未満である、β−Ga系単結晶の成長方法。
【0008】
[2]前記角度φは45°以下である、前記[1]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0009】
[3]前記角度φは20°以下である、前記[2]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0010】
[4]前記角度φは0°である、前記[3]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0011】
[5]前記β−Ga系単結晶は前記(101)面を主面とする平板状の結晶である、前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0012】
[6]EFG法により前記β−Ga系単結晶を成長させる、前記[5]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0013】
[7]β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が55.2°以内の方向に成長させる、β−Ga系単結晶の成長方法。
【0014】
[8]β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が36.2°以内の方向に成長させる、前記[7]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0015】
[9]β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が13.7°の方向に成長させる、前記[8]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0016】
[10]β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が0°の方向に成長させる、前記[9]に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【0017】
[11]FZ法により前記β−Ga系単結晶を成長させる、前記[7]〜[10]のいずれか1つに記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、双晶化を効果的に抑えることのできるβ−Ga系単結晶の成長方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態に係るEFG結晶製造装置の一部の垂直断面図
【図2】β−Ga系単結晶の成長中の様子を表す斜視図
【図3】β−Ga系結晶の単位格子を示す図
【図4】β−Ga系単結晶の成長中に発生する双晶の概念図
【図5】(a)(101)面が結晶成長方向に平行である場合のβ−Ga系単結晶の<10−1>方向と成長方向の関係を表す概念図、(b)β−Ga系単結晶の単位格子における<10−1>方向、(101)面、及び(100)面
【図6】β−Ga系単結晶の双晶化度と角度φとの関係を表すグラフ
【図7】(a)、(b)第2の実施の形態に係るβ−Ga系単結晶の結晶成長方向の範囲を表す概念図
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1の実施の形態〕
本実施の形態においては、EFG(Edge-defined film-fed growth)法によりβ−Ga系単結晶を成長させる。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るEFG結晶製造装置の一部の垂直断面図である。このEFG結晶製造装置10は、β−Ga系融液12を受容するルツボ13と、このルツボ13内に設置されたスリット14Aを有するダイ14と、スリット14Aの開口14Bを除くルツボ13の上面を閉塞する蓋15と、β−Ga種結晶(以下、「種結晶」という)20を保持する種結晶保持具21と、種結晶保持具21を昇降可能に支持するシャフト22とを有する。
【0022】
ルツボ13は、β−Ga系粉末を溶解させて得られたβ−Ga系融液12を収容する。ルツボ13は、β−Ga系融液12を収容しうる耐熱性を有するイリジウム等の金属材料からなる。
【0023】
ダイ14は、β−Ga系融液12を毛細管現象により上昇させるためのスリット14Aを有する。
【0024】
蓋15は、ルツボ13から高温のβ−Ga系融液12が蒸発することを防止し、さらにスリット14Aの上面以外の部分にβ−Ga系融液12の蒸気が付着することを防ぐ。
【0025】
種結晶20を下降させて毛細管現象で上昇したβ−Ga系融液12に接触させ、β−Ga系融液12と接触した種結晶20を引き上げることにより、平板状のβ−Ga系単結晶25を成長させる。種結晶20の底面の幅はダイ14の長手方向の幅よりも小さく、β−Ga系単結晶25は種結晶20の引き上げに伴ってダイ14の長手方向に拡張しながら成長する(肩拡げ過程)。β−Ga系単結晶25の結晶方位は種結晶20の結晶方位と等しく、β−Ga系単結晶25の結晶方位を制御するためには、例えば、種結晶20の底面の面方位及び水平面内の角度を調整する。
【0026】
図2は、β−Ga系単結晶の成長中の様子を表す斜視図である。図2中の面26は、スリット14Aのスリット方向と平行なβ−Ga系単結晶25の主面である。成長させたβ−Ga系単結晶25を切り出してβ−Ga系基板を形成する場合は、β−Ga系基板の所望の主面の面方位にβ−Ga系単結晶25の面26の面方位を一致させる。例えば、(101)面を主面とするβ−Ga系基板を形成する場合は、面26の面方位を(101)とする。また、成長させたβ−Ga系単結晶25は、新たなβ−Ga系単結晶を成長させるための種結晶として用いることができる。
【0027】
β−Ga系単結晶25及び種結晶20は、β−Ga単結晶、又は、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、Ge、Sn、Hf、Mg等の元素が添加されたβ−Ga単結晶である。
【0028】
図3は、β−Ga系結晶の単位格子を示す。図3中の単位格子2がβ−Ga系結晶の単位格子である。β−Ga系結晶は単斜晶系に属するβ-ガリア構造を有し、不純物を含まないβ−Ga結晶の典型的な格子定数はa=12.23Å、b=3.04Å、c=5.80Å、α=γ=90°、β=103.8°である。
【0029】
図4は、β−Ga系単結晶の成長中に発生する双晶の概念図である。双晶は、鏡面対称な2つのβ−Ga系結晶からなる。β−Ga系結晶の双晶の対称面(双晶面)は、(100)面である。EFG法によりβ−Ga系単結晶を成長させる場合、結晶成長開始後の結晶の肩拡げ過程において双晶が発生しやすい。
【0030】
この双晶面となる(100)面がβ−Ga系単結晶25の成長方向(種結晶20の引き上げ方向)に平行である場合に、β−Ga系単結晶25が双晶化しやすくなる傾向がある。反対に、β−Ga系単結晶25の成長方向と(100)面とのなす角度が直角に近いほど、β−Ga系単結晶25の成長時の双晶化を抑えることができる。
【0031】
図5(a)は、(101)面が結晶成長方向に平行である場合のβ−Ga系単結晶25の<10−1>方向と成長方向の関係を表す概念図である。図5(b)には、β−Ga系単結晶25の単位格子2における<10−1>方向、(101)面、及び(100)面を示す。図5(a)においては、(101)面が紙面に平行である。φは、β−Ga系単結晶25の(101)面内において<10−1>方向と結晶成長方向(鉛直方向)とのなす角度である。
【0032】
ここで、角度φが90°であるとき、β−Ga系単結晶25の成長方向と(100)面は平行であり、角度φが0°であるとき、β−Ga系単結晶25の成長方向と(100)面とのなす角度は最も直角に近くなる。つまり、角度φが0°に近いほど、β−Ga系単結晶25の成長時の双晶化を効果的に抑えることができる。
【0033】
そのため、本実施の形態においては、角度φ(0°≦φ<90°)の範囲は少なくとも90°未満、好ましくは45°以下、より好ましくは20°以下、最も好ましくは0°である。例えば、β−Ga系単結晶25の面26を(101)面とした場合、この条件を満たすことにより、β−Ga系単結晶25から(101)面を主面とする双晶の少ないβ−Ga系基板を切り出すことができる。
【0034】
図6は、β−Ga系単結晶の双晶化度と角度φとの関係を表すグラフである。図6の縦軸は、(100)面を双晶面として結晶構造が反転した領域の平均密度(面26上の成長方向と垂直な方向の1cm当たりの平均数)を表す。横軸は、角度φを表す。φ=90°のときは、反転領域が1cm当たり平均27.8本存在し、φ=45°のときは、反転領域が1cm当たり平均9本存在し、φ=0°のときは、反転領域が存在しない。
【0035】
図6に示されるように、φ=90°、すなわちβ−Ga系単結晶25の<10−1>方向が結晶成長方向に対して垂直であるときに最も双晶が多く、φ=0°、すなわちβ−Ga系単結晶25の<10−1>方向が結晶成長方向に対して平行であるときに最も双晶が少ない。これは、β−Ga系単結晶25の成長方向と(100)面が、φ=90°のときに平行であり、φ=0°のときに最も直角に近くなることによると考えられる。
【0036】
なお、第1の実施の形態においては、EFG法を用いてβ−Ga系単結晶25を成長させたが、CZ(Czochralski)法、FZ(Floating Zone)法等の他の結晶成長方法を用いた場合であってもβ−Ga系単結晶25の双晶化を効果的に抑えることができる。それらの場合も、β−Ga系単結晶25の結晶方位と成長方向の関係はEFG法を用いる場合と同様である。
【0037】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、結晶の成長方向の範囲が第1の実施の形態と異なる。第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0038】
図7(a)、(b)は、第2の実施の形態に係るβ−Ga系単結晶の結晶成長方向の範囲を表す概念図である。図7(a)においては、β−Ga系単結晶のb軸及びc軸が紙面に平行である。図7(b)においては、β−Ga系単結晶のa軸及びc軸が紙面に平行であり、b軸が紙面に垂直である。
【0039】
本実施の形態のβ−Ga系単結晶の結晶成長方向は、β−Ga系単結晶の(100)面に垂直な直線3となす角度がθ以内の方向である。すなわち、図7(a)、(b)に点線で示される円錐4内を通る方向である。ここで、円錐4は、直線3を軸とした、軸と稜線のなす角度がθの直円錐である。
【0040】
角度θは55.2°であり、より好ましくは36.2°であり、さらに好ましくは13.7°であり、最も好ましくは0°である。結晶成長方向が(100)面に垂直な直線3となす角度が小さいほど、β−Ga系単結晶の成長時の双晶化を効果的に抑えることができる。
【0041】
例えば、FZ法によりβ−Ga系単結晶を直線3に平行な方向に成長させた場合、及びa軸方向、すなわち<100>方向に成長させた場合、成長方向に25cm以上にわたって、結晶構造が反転した反転領域が現れないことが確認されている。また、β−Ga系単結晶をb軸方向、すなわち<010>方向に成長させた場合、成長方向と垂直な方向の1cm当たりの反転領域の平均数が数十以上になることが確認されている。ここで、直線3に平行な方向が直線3となす角度は0°、a軸方向が直線3となす角度は13.7°、b軸方向が直線3となす角度は90°である。
【0042】
なお、第1の実施の形態で述べられた(101)面内における<10−1>方向となす角度が0°である方向は、直線3に対して36.2°の角度をなす。また、(101)面内における<10−1>方向となす角度が45°である方向は、直線3に対して55.2°の角度をなす。
【0043】
β−Ga系単結晶の成長にFZ法を用いる場合、EFG法を用いる場合と比較して、結晶が双晶化しにくいことが本発明者らにより確認されている。そのため、第1の実施の形態に記載されたEFG法を用いる場合の結晶成長方向と双晶化度の関係から、FZ法により直線3に対して36.2°の角度をなす方向に結晶を成長させた場合、結晶が双晶化しないことが予測される。また、FZ法により直線3に対して55.2°の角度をなす方向に結晶を成長させた場合、成長方向と垂直な方向の1cm当たりの反転領域の平均数が9本以下になると予測される。
【0044】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、β−Ga系単結晶の結晶方位とその成長方向を制御することにより、β−Ga系単結晶の双晶化を効果的に抑えることができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0046】
3…直線、4…円錐、10…EFG結晶製造装置、25…β−Ga系単結晶、26…面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−Ga系単結晶をその(101)面に平行な方向に成長させ、前記(101)面内における<10−1>方向と前記方向とのなす角度φ(0°≦φ<90°)が90°未満である、
β−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項2】
前記角度φは45°以下である、
請求項1に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項3】
前記角度φは20°以下である、
請求項2に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項4】
前記角度φは0°である、
請求項3に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項5】
前記β−Ga系単結晶は前記(101)面を主面とする平板状の結晶である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項6】
EFG法により前記β−Ga系単結晶を成長させる、
請求項5に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項7】
β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が55.2°以内の方向に成長させる、
β−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項8】
β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が36.2°以内の方向に成長させる、
請求項7に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項9】
β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が13.7°の方向に成長させる、
請求項8に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項10】
β−Ga系単結晶をその(100)面に垂直な直線となす角度が0°の方向に成長させる、
請求項9に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。
【請求項11】
FZ法により前記β−Ga系単結晶を成長させる、
請求項7〜10のいずれか1項に記載のβ−Ga系単結晶の成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82587(P2013−82587A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224243(P2011−224243)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【出願人】(000153236)株式会社光波 (98)
【Fターム(参考)】