説明

さび除去剤水溶液

【課題】さび除去後に硬度の高い水ですすいでも白粉が発生しない、蓚酸を含むさび除去剤を提供する。
【解決手段】蓚酸、多価アルコールおよびアミンを含有しており、前記蓚酸を1質量%以上50質量%以下含有し、前記多価アルコールを20質量%以上80質量%以下含有し、前記蓚酸のアミン中和率が3%以上60%以下である、さび除去剤水溶液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さび除去剤に関する。詳細には、ステンレス外装材、鉄道車両の外板等の金属あるいは塗装面のさび除去を目的としたさび除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常さび除去剤は酸性フッ化アンモニウム(例えば、特許文献1)、チオグリコール酸アンモニウム(例えば、特許文献2)、塩酸、硫酸、燐酸、蓚酸、スルファミン酸、クエン酸等を組み合わせたものが用いられる。酸性フッ化アンモニウムはさび除去性に優れるが、人体への影響が大きいという問題があった。また、燐酸、スルファミン酸、クエン酸などは人体への影響は大きくないが、さび除去性に劣るという問題があった。人体への影響が少なく、さび除去性に優れるものとしては、蓚酸を主体とするものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−249488号公報
【特許文献2】特開2002−105497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、蓚酸を主体とするさび除去剤は、人体への影響が少なく、さび除去性に優れている。しかしながら、蓚酸を含む従来のさび除去剤では、使用後に硬度の高い水ですすぐと、該さび除去剤が残っている場所に白粉を生じるという問題があった。これまでには、このような白粉の発生を防ぐことができるさび除去剤がなかった(特開平10−251694号公報、特開平8−337891号公報、および特開2006−182932号公報参照。)。
【0005】
そこで、本発明は、さび除去後に硬度の高い水ですすいでも白粉が発生しない、蓚酸を含むさび除去剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、蓚酸、多価アルコールおよびアミンを併用することで、さび除去性を維持し、使用後に硬度の高い水ですすいでも白粉が発生しないさび除去剤を得られることを見出した。また、所定のカルボン酸、スルファミン酸、グリシンなどの有機酸およびこれらのアミン塩を併用することで、さびの除去速度を向上させることができることを見出した。これにより、本発明者らは、以下の発明を完成させた。
【0007】
本発明は、蓚酸、多価アルコールおよびアミンを含有しており、蓚酸を1質量%以上50質量%以下含有し、多価アルコールを20質量%以上80質量%以下含有し、蓚酸のアミン中和率が3%以上60%以下である、さび除去剤水溶液である。
【0008】
本発明のさび除去剤水溶液において、さらに、カルボン酸A、スルファミン酸、グリシンおよびこれらのアミン塩からなる群から選ばれる1種以上を含有し、カルボン酸Aが、マロン酸、コハク酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、イタコン酸、ピルビン酸、およびアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、蓚酸以外の酸の合計濃度が、1質量%以上30質量%以下であり、蓚酸を含む酸の全体の中和率が3%以上60%以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のさび除去剤水溶液は、ステンレス外装材のさびを除去するために好適に用いられる。
【0010】
本発明のさび除去剤水溶液は、鉄道車両の外板のさびを除去するために好適に用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、さび除去後に硬度の高い水ですすいでも白粉が発生しない、蓚酸を含むさび除去剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
<さび除去剤水溶液>
本発明のさび除去剤水溶液は、蓚酸、多価アルコール、およびアミンを含有してなる。
【0013】
本発明に用いられるアミンは、モノ、ジおよびトリアミンを含むアルカノールアミンまたはアルキルアミンである。例えば、アルカノールアミンとして、モノエタノールアミン、ジエタノーエルアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、アミノメチルプロパノールアミン等が挙げられる。アルキルアミンとしては、炭素数1〜12のアルキル基を有するアミンを用いることができ、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−アミルアミン、イソアミルアミン、トリエチレンテトラミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクチルアミン、2−エチルへキシルアミン等が挙げられる。これらの中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明のさび除去剤水溶液において、蓚酸は、上記アミンにより部分中和されており、中和率は、3%以上60%以下、好ましくは5%以上50%以下、より好ましくは10%以上45%以下である。該中和率が低すぎると、水溶媒中への蓚酸の溶解量が少なくなるため、さび除去性が劣る虞がある。また、該中和率が高すぎると、さび除去速度が低下する。
【0015】
本発明のさび除去剤水溶液中における、蓚酸の濃度(アミンにより中和されている蓚酸も含む)は、さび除去剤水溶液全体を基準として、1質量%以上50質量%以下、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上15質量%以下である。蓚酸の濃度が低すぎると、さび除去性に劣る虞がある。また、上限は、蓚酸をこれ以上水に溶解させて濃度を高くすることは難しいことによる。
【0016】
本発明に用いられる多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール、ラクトールなどが挙げられる。これら中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明のさび除去剤水溶液中における、多価アルコールの濃度は、さび除去剤水溶液全体を基準として、20質量%以上80質量%以下、好ましくは30質量%以上70質量%以下、より好ましくは35質量%以上60質量%以下である。多価アルコールの含有量が少な過ぎると蓚酸を可溶化できない虞があり、また、白粉の生成防止効果が低下する虞がある。一方、多価アルコールの含有量が多い場合は、直接的な問題は特にないが、相対的に蓚酸を含むその他成分の配合量が少なくなる。
【0018】
本発明のさび除去剤水溶液は、カルボン酸A、スルファミン酸、グリシンおよびこれらのアミン塩からなる群から選ばれる1種以上(以下、「カルボン酸A等」ということがある。)を、上記した蓚酸、多価アルコール、およびアミンと併用することができる。これらを併用することで、さらにさび除去性を向上させることができる。
【0019】
ここで、カルボン酸Aは、マロン酸、コハク酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、イタコン酸、ピルビン酸、およびアスコルビン酸からなる群より選ばれる1種以上である。
【0020】
カルボン酸A等を併用する場合、さび除去剤水溶液中の蓚酸以外の酸の合計濃度は、さび除去剤水溶液全体を基準として、1質量%以上30質量%以下、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。蓚酸以外の酸の合計濃度が上記範囲を外れて小さ過ぎる場合は、さび除去速度の向上効果が得られない虞がある。また、上限は、酸をこれ以上水に溶解させて濃度を高くすることは難しいことによる。
【0021】
カルボン酸A等を併用する場合における、蓚酸とカルボン酸A等との全体の中和率は、3%以上60%以下、好ましくは5%以上50%以下、より好ましくは10%以上45%以下である。該中和率が低すぎると、水溶媒中への蓚酸等の溶解量が少なくなるため、さび除去性が劣る虞がある。また、該中和率が高すぎると、さび除去速度が低下する。
【0022】
本発明のさび除去剤水溶液中における、蓚酸とカルボン酸A等との含有比率は、質量比で、蓚酸:カルボン酸A等=10:0.1〜10:10であることが好ましく、蓚酸:カルボン酸A等=10:1〜10:6であることがより好ましく、蓚酸:カルボン酸A等=10:2〜10:5であることがさらに好ましい。上記範囲を外れた場合は、カルボン酸A等によるさび除去性の向上が認められない虞がある。
【0023】
<さび除去剤水溶液の用途>
本発明のさび除去剤水溶液は、人体への影響が少なく、かつ、さび除去性能に優れている。これより、ステンレス外装材、ステンレス製の流し台、鉄道車両の外板等の塗装面または金属面のさびを除去するのに好適に用いることができる。特に、迅速にさびを除去する必要がある、鉄道車両の外板等の塗装面または金属面のさびを除去するためのさび除去剤として好適である。
【実施例】
【0024】
(実施例1〜6および比較例1〜5)
下記表1に示す配合比率で、実施例および比較例のさび除去剤水溶液を調整した。調製したさび除去剤水溶液は、以下の評価方法により、白粉の発生およびさび除去性について評価した。評価結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
1)蓚酸、品名:蓚酸(蓚酸2水和物、純度99.5%以上)、三菱ガス化学株式会社製、
2)クエン酸、品名:クエン酸(結晶)S(クエン酸1水和物、99.0%以上)、磐田化学工業株式会社製、
3)スルファミン酸、品名:スルファミン酸(99.5%以上)、日産化学工業株式会社製、
4)エチレングリコール、品名:エチレングリコール(99%以上)、三井化学株式会社製、
5)グリセリン、品名:精製グリセリン(99%以上)、阪本薬品工業株式会社製、
6)モノエタノールアミン、品名:モノエタノールアミン(99%以上)、ダウ・ケミカル日本株式会社製、
7)モノイソプロパノールアミン、品名:モノイソプロパノールアミン(99%以上)、ダウ・ケミカル日本株式会社製、
8)トリイソプロパノールアミン、品名:トリイソプロパノールアミン(99%以上)、ダウ・ケミカル日本株式会社製、
9)メチルアミン、品名:モノメチルアミン(99%以上)、三菱ガス化学株式会社製、
【0027】
(白粉の発生防止の評価)
車両外板に試料の3倍に希釈した試料液(上記で調製したさび除去剤水溶液)を塗布した。その後、20分放置し、再度同様に塗布し、20分放置した。次いで、ブラシで軽くこすりながら水(硬度65以上)ですすいだ。乾燥後、外板に発生する白粉を観察した。
○:白粉が発生しないかあるいは極僅かに発生した。
×:白粉が発生した。
【0028】
(さび除去性の評価)
プラスチックシャーレ(φ50mm)に鋳物切りくずを入れ、水を加えた後、液切りしてふたをした。次いで、2日間放置してからふたを取り、室温で乾燥させた後、鋳物切りくずを取り除き、さびが転写されたシャーレを試験片とした。
この試験片に3倍に希釈した試料液(上記で調製したさび除去剤水溶液)を5g加え、経時でさびの除去スピードを以下の基準により評価した。
◎:1時間以内にさびがほとんど除去された。
○:2時間以内にさびがほとんど除去された。
×:2時間後さびが明らかに残っていた。
【0029】
(評価結果)
本発明のさび除去剤水溶液(実施例1〜6)では、いずれも白粉の発生を防止し、良好なさび除去性を示した。これに対して、比較例1の水溶液は多価アルコールの含有量が本発明の範囲よりも少なく、白粉が発生していた。比較例2の水溶液はアミンが添加されておらず、中和率(%)がゼロであり、白粉が発生し、さび除去性に劣っていた。比較例3の水溶液はアミンは添加されているが、中和率が本発明の範囲よりも小さく、さび除去性に劣っていた。比較例4の水溶液はアミンの添加量が多く、中和率が本発明の範囲よりも高くなり、白粉が発生し、さび除去性に劣っていた。比較例5の水溶液は多価アルコールの含有量が本発明の範囲よりも多く、アミンが添加されておらず中和率(%)がゼロであり、白粉が発生し、さび除去性に劣っていた。
【0030】
以上、現時点において最も実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うさび除去剤水溶液もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓚酸、多価アルコールおよびアミンを含有しており、前記蓚酸を1質量%以上50質量%以下含有し、前記多価アルコールを20質量%以上80質量%以下含有し、前記蓚酸のアミン中和率が3%以上60%以下である、さび除去剤水溶液。
【請求項2】
さらに、カルボン酸A、スルファミン酸、グリシンおよびこれらのアミン塩からなる群から選ばれる1種以上を含有し、
前記カルボン酸Aが、マロン酸、コハク酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、イタコン酸、ピルビン酸、およびアスコルビン酸からなる群から選らばれる1種以上であり、
前記蓚酸以外の酸の合計濃度が、1質量%以上30質量%以下であり、前記蓚酸を含む酸の全体の中和率が3%以上60%以下である、請求項1に記載のさび除去剤水溶液。
【請求項3】
ステンレス外装材のさびを除去するための、請求項1または2に記載のさび除去剤水溶液。
【請求項4】
鉄道車両の外板のさびを除去するための、請求項1または2に記載のさび除去剤水溶液。

【公開番号】特開2011−32495(P2011−32495A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176718(P2009−176718)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】