説明

すべり軸受およびその製造方法

【解決手段】 一対の半円状の半割り軸受11、12をその円周方向両端部に形成した突合せ面11a、12aを相互に当接させて円筒状に形成したすべり軸受3に関する。
上記すべり軸受3の外周面は粗面化されており、当該すべり軸受3を製造するには、短冊状の素材21を半円状の素材22に成形した後(b)、当該半円状の素材22の円周方向両端部を切削して上記突合せ面11aを形成し(c)、半円状の素材22の全体に砥粒加工を行うことで、半割り軸受11の外周面を粗面化すると同時に上記突合せ面11aの加工により生じたバリを除去し(d)、最後に半円状の素材22の内周面を加工する(e)。
【効果】 エンジンの始動直後において速やかに潤滑油を昇温することができ、かつ低コストに製造することが可能なすべり軸受を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はすべり軸受およびその製造方法に関し、詳しくは一対の半円状の半割り軸受をその円周方向両端部に形成した突合せ面を相互に当接させて円筒状に形成したすべり軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の半円状の半割り軸受をその円周方向両端部に形成した突合せ面を相互に当接させて円筒状に形成し、外周面がハウジングに当接するとともに内周面で回転軸を回転自在に軸支するすべり軸受は公知となっている。
またこのようなすべり軸受を製造する際には、平板状の素材を半円状に変形させ、当該半円状の素材の円周方向両端部を切削加工して突合せ面を形成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−179572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記すべり軸受を自動車などのエンジンに用いた場合、このエンジンの始動開始から所定時間経過する間、すなわち暖機運転を行う間、エンジン内を流通する潤滑油は冷却されていることから、粘性の高い潤滑油によって回転軸の回転が阻害され、エンジンの始動直後における燃費が良くないという問題が指摘されている。
特に、ハイブリッドエンジンやアイドリングストップを頻繁に行うエンジンにおいては、エンジンが停止する時間が有ることから、潤滑油が十分に加熱されるまでに時間がかかり、燃費が良くない時間が長くなるという問題がある。
また一方では、高性能なすべり軸受を極力低コストで得たいという要請もある。
そこで本発明は、エンジンの始動直後において速やかに潤滑油を昇温することができ、かつ低コストに製造することが可能なすべり軸受およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるすべり軸受は、一対の半円状の半割り軸受をその円周方向両端部に形成した突合せ面を相互に当接させて円筒状に形成し、外周面がハウジングに当接するとともに内周面で回転軸を回転自在に軸支するすべり軸受において、
上記半割り軸受の外周面および突合せ面を砥粒加工によって粗面化したことを特徴としている。
【0006】
また請求項5の発明にかかるすべり軸受の製造方法は、平板状の素材を半円状に変形させ、当該半円状の素材の円周方向両端部を切削加工して突合せ面を形成するすべり軸受の製造方法において、
上記突合せ面を切削加工した後に、上記半円状の素材全体に砥粒加工を行うことで、半割り軸受の外周面を粗面化すると同時に上記突合せ面の加工により生じたバリを除去し、その後半円状の素材の内周面を加工することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
上記請求項1の発明によれば、上記半割り軸受の外周面を砥粒加工によって粗面化したことにより、当該外周面とハウジングとの接触面積を小さくすることができるため、回転軸の回転によって発生した摺動熱がこのすべり軸受からハウジングへと伝熱してしまうのを抑えることができる。
つまり、エンジンの始動開始直後において、すべり軸受からの放熱を抑えることにより、上記すべり軸受と回転軸との間を流通する潤滑油の温度低下を抑えることとなり、速やかに潤滑油を加熱して粘度を低下させることができる。
また、上記半割り軸受の突合せ面を砥粒加工によって粗面化することにより、上記突合せ面を加工した際に発生したバリを除去することができ、このバリの除去を上述した外周面の粗面化と同時に行うことができるため、低コストにすべり軸受を製造することが可能となっている。
【0008】
上記請求項5の発明によれば、半円状の素材全体に砥粒加工を行うことで、半割り軸受の外周面を粗面化すると同時に、上記突合せ面を切削加工することによって発生したバリを除去できることから、上記効果を有するすべり軸受を、別途のバリ取り工程をせずに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施例にかかるすべり軸受についての断面図
【図2】すべり軸受の外周面の表面粗さについての測定結果
【図3】すべり軸受の外周面の表面粗さと表面温度との関係についての実験結果
【図4】すべり軸受の外周面の表面粗さとエンジンの暖機時間との関係についての実験結果
【図5】すべり軸受の製造方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示実施例について説明すると、図1はエンジンの所要部分の断面図を示しており、ハウジングとしてのシリンダブロック1と、シリンダブロック1に対して回転可能に軸支された回転軸としてのクランク軸2と、当該クランク軸2を上記シリンダブロック1に軸支するすべり軸受3とを示している。
シリンダブロック1には上記すべり軸受3の図示上方を収容する半円状の当接面1aが形成され、当該シリンダブロック1の下部には上記すべり軸受3をシリンダブロック1に固定するための半円状の当接面4aが形成されたキャップ4が図示しないボルトによって固定されている。
また上記シリンダブロック1の内部には、潤滑油を流通させて上記すべり軸受3とクランク軸2との間に供給する給油通路1bが形成されており、この給油通路1bは上記当接面1aに開口するようになっている。
【0011】
すべり軸受3は、半円筒状をした上下一対の半割り軸受11、12からなり、それら両半割り軸受11、12の円周方向両端に位置する突合せ面11a、12aを相互に突合せることで円筒状に構成されるようになっている。
上記すべり軸受3は、図示しないが外周面側に位置するステンレス等の金属からなる裏金と、当該裏金の内周面に積層されたアルミ等の金属からなる摺動面層とから構成され、このうち摺動面層の表面には円周方向に沿って微細な溝が形成されている。
また上記すべり軸受3のうち、シリンダブロック1側の半割り軸受11には、上記シリンダブロック1の給油通路1bに連通する給油孔11bが形成され、この給油孔11bを介して潤滑油がすべり軸受3とクランク軸2との間に供給されるようになっている。
さらに、上記半割り軸受11、12の内周面には円周方向に沿って油溝11c、12bが形成されており、この油溝11c、12bは上記給油孔11bに連通し、給油孔11bより排出された潤滑油をすべり軸受3の内周面に沿って流通させるようになっている。
そして両半割り軸受11、12が当接する上記突合せ面11a、12aには、その内周面側に切欠き状の突合せ面面取り11d、12cが形成されており、半割り軸受11、12を相互に突合せた際に、クランク軸2側に突合せ面11a、12aが突出しないようになっている。
【0012】
そして、本実施例におけるすべり軸受3は、その外周面が砥粒加工によって粗面化されており、具体的にはその表面粗さがRvk1.0〜1.6μmの範囲となるように加工されている。
上記外周面の表面粗さはJIS B0671−1/ISO 13565−1で規定された、いわゆる突出谷部深さを用いて表すことができる。
図2は上記外周面の表面粗さを測定した結果を示し、(a)は本実施例にかかるすべり軸受3(発明品)の表面粗さを、(b)は外周面への加工を行っていない、素材の表面粗さそのものが現れたすべり軸受(比較品)の測定結果をそれぞれ示している。なお図2において、図示縦方向の縮尺は横方向の縮尺に対して拡大したものとなっており、表面粗さを誇張した図となっている。
上記測定結果によれば、(a)に示す発明品の表面粗さはRvk1.256μmであり、(b)に示す比較品の表面粗さはRvk0.276μmであった。
【0013】
上記構成を有するすべり軸受3によれば、上記クランク軸2の回転によってクランク軸2とすべり軸受3との間で発生した摺動熱を上記シリンダブロック1へと伝わりにくくし、これによりエンジンの始動時における潤滑油の急速な昇温を行うことが可能となっている。
つまり、すべり軸受3の外周面を粗面化することにより、すべり軸受3の外周面とシリンダブロック1の当接面1aとの接触面積が小さくなることから、摺動熱がすべり軸受3からシリンダブロック1へと伝熱しにくくなっている。
その結果、エンジンの始動時にシリンダブロック1が冷却されている際、クランク軸2が回転してすべり軸受3に摺動熱が発生したとしても、この摺動熱がすべり軸受3からシリンダブロック1へと放熱されず、すべり軸受3の温度が維持されることから、クランク軸2とすべり軸受3との間を流通する潤滑油が速やかに加熱されることとなる。
そして、潤滑油が加熱されると潤滑油の粘度が低下して上記クランク軸2の回転に対する粘性抵抗が減少することから、エンジンの始動時から暖機されるまでの燃費が悪い状態を速やかに解消することが可能となる。
このようなすべり軸受3は、特にハイブリッドエンジンやアイドリングストップを頻繁に行うエンジンに対して好適となっている。つまり、これらのエンジンは頻繁に停止することから、エンジンが暖機されるまでに時間がかかり、その間潤滑油によるクランク軸2への粘性抵抗が比較的長時間維持されてしまうという問題があった。
【0014】
次に、図3、図4は本実施例にかかるすべり軸受3についての実験結果を示した図となっており、これらの実験には外周面の表面粗さを以下のように設定したすべり軸受3を使用した。
発明品1・・・表面粗さRvk1.0μm
発明品2・・・表面粗さRvk1.6μm
比較品1・・・表面粗さRvk0.3μm
比較品2・・・表面粗さRvk0.6μm
このうち比較品1は、すべり軸受の製造時に外周面に対して粗面加工を行っておらず、上記図2(b)で測定した比較品のすべり軸受となっている。
また上記実験には回転荷重試験機を用い、上記すべり軸受3を所要の治具に固定するとともに、当該すべり軸受3に回転可能に回転軸を軸支させ、これらすべり軸受と回転軸との間に所定温度に設定した潤滑油を供給しながら回転軸を所定の回転数で回転させるものとなっている。
さらに本実験では、上記治具におけるすべり軸受3の外周面に接近した位置、換言するとシリンダブロック1の当接面1aと略同じ位置に熱センサを設けて、すべり軸受3の外周面温度を測定するようになっている。
【0015】
そして図3は、すべり軸受3の外周面の表面粗さと表面温度との関係についての実験結果を示し、試験時間が十分経過した状態、すなわちエンジンの暖機が完了した状態での測定結果を表している。
本実験の実験条件は、上記回転荷重試験機の回転数を1000rpm、使用する潤滑油の油種を0W−20、供給する潤滑油の油温を120℃、潤滑油の油量を2l/min、試験時間を5hとした。
図3から理解できるように、外周面が粗面化された発明品1、2は、粗面化されていない比較品1、2に対して外周面温度が低く、発明品1、2におけるすべり軸受3からの放熱が抑えられていることが理解できる。
【0016】
次に図4は、すべり軸受3の外周面の表面粗さとエンジンの暖機時間との関係についての実験結果を示しており、上記熱センサにおいて測定するすべり軸受3の外周面の温度が安定するまでの時間、すなわちエンジンの暖機にかかる時間を測定したものである。
本実験の実験条件は、上記図3の実験における実験条件に対し、供給する潤滑油の油温を30℃とした以外は同一の条件となっている。
図4から理解できるように、外周面が粗面化された発明品1、2は、粗面化されていない比較品1、2に対して暖機時間が半分以下に抑えられており、発明品1、2におけるすべり軸受3の外周面からの放熱が抑えられることで、速やかに潤滑油が昇温されていることが理解できる。
【0017】
以下、図5を用いて上記構成を有するすべり軸受3の製造方法について説明する。ここでは上記半割り軸受11、12のうち、シリンダブロック1側に設けられる半割り軸受11の製造方法について説明する。
まず平板状の金属板を切断して短冊状の素材21を得る(a)。このとき、予めすべり軸受3の内周面側となる部分には上述した摺動面層が形成されているものの、回転軸と摺接する摺動面は形成されていない。
次に、上記短冊状の素材21の中央に上記油溝11cを形成し、その後当該短冊状の素材21をプレス機に投入して半円状に塑性変形させ、これにより半円状の素材22を得る(b)。
さらに、このようにして得られた半円状の素材22に対し、その円周方向両端部を切削加工して上記突合せ面11aおよび上記突合せ面面取り11dを形成し、また上記給油孔11bを穿設する(c)。
ここで、上記突合せ面11aおよび突合せ面面取り11dを切削加工するとともに上記給油孔11bを穿設すると、その加工部分、例えば突合せ面11aと外周面との境界部分や、突合せ面11aと突合せ面面取り11dとの境界部分、給油孔11bと外周面との境界部分に、それぞれ加工によるバリが発生することとなる。
【0018】
そして本実施例では、上記突合せ面11a、突合せ面面取り11dおよび給油孔11bを形成した半円状の素材22に対して、その全周方向から砥粒加工を行い、半円状の素材22全体を粗面化するようになっている(d)。
この砥粒加工としては、例えばバレル加工やショットブラストを用いることができ、その際半円状の素材22の表面が上記すべり軸受3の表面粗さとなるように砥粒の種類や径などの所要の設定を行っている。
この工程を行うことで、半円状の素材22の全周が上述したRvk1.0〜1.6μmの範囲で粗面化され、上記すべり軸受3における外周面が形成されると同時に、上記突合せ面11a、突合せ面面取り11dおよび給油孔11bの形成時に発生したバリが除去されるようになっている。
最後に、上記半円状の素材22に対し、その内周面に対してボーリング加工等を行い、これにより上記クランク軸2と摺接する摺動面を形成し、上記半割り軸受11を得ることができる(e)。
【0019】
このように上記製造方法によれば、すべり軸受3の外周面の粗面化と同時に、突合せ面11a、突合せ面面取り11dおよび給油孔11bを切削加工した際に発生したバリを除去することが可能となっている。
これに対し従来の製造方法では、突合せ面11a、突合せ面面取り11dおよび給油孔11bの加工により発生したバリについては、後工程において別途バリ取りの工程が必要となっており、その分加工コストが高いという問題があった。
【符号の説明】
【0020】
1 シリンダブロック 2 クランク軸
3 すべり軸受 4 キャップ
11、12 半割り軸受 11a、12a 突合せ面
11b 給油孔 11c、12b 油溝
11d、12c 突合せ面面取り 21 短冊状の素材
22 半円状の素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の半円状の半割り軸受をその円周方向両端部に形成した突合せ面を相互に当接させて円筒状に形成し、外周面がハウジングに当接するとともに内周面で回転軸を回転自在に軸支するすべり軸受において、
上記半割り軸受の外周面および突合せ面を砥粒加工によって粗面化したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
上記砥粒加工による表面粗さをRvk1.0〜1.6μmの範囲で設定したことを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
上記突合せ面における内周面側の端部に突合せ面面取りを設け、当該突合せ面面取りを砥粒加工によって粗面化したことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項4】
上記半割り軸受の外周面から内周面に貫通する給油孔を設け、当該給油孔と外周面との境界を砥粒加工によって粗面化したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項5】
平板状の素材を半円状に変形させ、当該半円状の素材の円周方向両端部を切削加工して突合せ面を形成するすべり軸受の製造方法において、
上記突合せ面を切削加工した後に、上記半円状の素材全体に砥粒加工を行うことで、半割り軸受の外周面を粗面化すると同時に上記突合せ面の加工により生じたバリを除去し、その後半円状の素材の内周面を加工することを特徴とするすべり軸受の製造方法。
【請求項6】
上記砥粒加工をバレル加工とすることを特徴とする請求項5に記載のすべり軸受の製造方法。
【請求項7】
上記突合せ面における内周面側の端部を切削加工して突合せ面面取りを形成し、
当該突合せ面面取りの切削加工後に上記砥粒加工を行うことにより、上記突合せ面面取りの加工により生じたバリを除去することを特徴とする請求項5または請求項6のいずれかに記載のすべり軸受の製造方法。
【請求項8】
上記半割り軸受の外周面から内周面に貫通する給油孔を穿設し、当該給油孔の穿設後に上記砥粒加工を行って、給油孔と外周面との境界に形成されるバリを除去することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載のすべり軸受の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−96429(P2013−96429A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236733(P2011−236733)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】