説明

すり鉢及びすり鉢の製造方法

【課題】胡麻等の種子を煎るとともに擂ることができる器具であって、電子レンジに使用して種子を煎って擂ることができ、器具内から擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易な器具を提供する。
【解決手段】陶磁製材料により形成され容器状を呈する本体部10と、本体部10の内側の面に形成され、四三酸化鉄と、加熱擂り部40を層状に形成するための非金属無機材料である層形成材料と、加熱擂り部の表面に凸部を形成するための非金属無機材料である凸部形成材料とを含有した加熱擂り部40と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すり鉢に関するものであり、特に、胡麻すり用のすり鉢に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、胡麻を煎るとともに擂ることができる器具としては、特許文献1のように、取っ手を有する底部の平らな加熱用調理器具の内面底部の取っ手側に、壁面に沿って勾玉様状のすりおろし面を有するすり溝を設けたことで、取っ手より見て前方の平らな内面底部を加熱焙煎専用面とし、取っ手側に設けた該すり溝を擂り専用部位とする加熱用調理器具が存在する。
【0003】
また、特許文献2には、誘導加熱発熱体として、四三酸化鉄と非金属無機材料とを含むスラリー状の層を塗布した後に、焼成することにより発熱層を形成する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−235722号公報
【特許文献2】特開2007−227191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の加熱用調理器具においては、ガスコンロ等により直火で使用しなければならず、電子レンジに使用することはできないという問題があった。
【0006】
また、特許文献1の器具における擂り専用部位は、櫛目状のすり溝により形成されているので、擂った後の胡麻が溝内に残ってしまい、胡麻の回収効率が悪いという問題があった。また、擂った胡麻が櫛目状の溝内に引っかかって残るので、洗浄が面倒であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする問題点は、胡麻等の種子を煎るとともに擂ることができる器具であって、電子レンジに使用して種子を煎って擂ることができ、器具内から擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易な器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、すり鉢であって、陶磁製材料により形成され容器状を呈する本体部と、本体部の内側の面に形成された層状の加熱擂り部で、四三酸化鉄と、加熱擂り部を層状に形成するための非金属無機材料である層形成材料と、加熱擂り部の表面に凸部を形成するための非金属無機材料である粒状の凸部形成材料とを含有した加熱擂り部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本件発明のすり鉢においては、すり鉢を電子レンジに入れて加熱し、加熱されたすり鉢を電子レンジから取り出して、被擂り対象物(具体的には、胡麻)をすり鉢内に投入し、すりこ木で擂る。加熱擂り部には凸部形成材料が混入されていて、この凸部形成材料により加熱擂り部の表面が凹凸に形成されているので、すりこ木で擂ることにより被擂り対象物を擂ることができる。また、加熱擂り部には、四三酸化鉄が含有されているので、電子レンジで加熱することにより高い発熱温度を得ることができ、被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。以上のようにして、電子レンジに使用して被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。また、本発明のすり鉢によれば、凸部形成材料により複数の凸部が形成された構成であり、櫛目状の溝部は形成されていないので、すり鉢内から擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易に行なうことができる。
【0010】
また、第2には、上記第1の構成において、凸部形成材料の平均粒径が0.2〜0.5mmであることを特徴とする。よって、特に被擂り対象物を胡麻とした場合に、加熱擂り部の表面に形成される凸部の高さを適切にして効率よく胡麻を擂ることができる。
【0011】
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、凸部形成材料の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%であることを特徴とする。よって、凸部の数を適切にして効率的に被擂り対象物を擂ることができる。
【0012】
また、第4には、上記第1から第3までのいずれかの構成において、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における四三酸化鉄の配合割合が、65〜75重量%であることを特徴とする。よって、四三酸化鉄が四三酸化鉄と層形成材料の合計重量において65重量%以上混入されているので、加熱擂り部を短時間で高い発熱温度に安定して加熱することができ、また、75重量%以下となっているので製造に際して焼成後に亀裂が入るのを防止することができる。
【0013】
また、第5には、上記第1から第4までのいずれかの構成において、凸部形成材料が、珪砂であることを特徴とする。
【0014】
また、第6には、上記第1から第5までのいずれかの構成において、加熱擂り部は、本体部の内側の面における内底面領域に形成され、該内底面領域は、該内底面領域以外の面である非内底面領域よりも窪んで形成されていることを特徴とする。よって、加熱擂り部の表面と非内底面領域の表面とを連続した面に形成することができる。
【0015】
また、第7には、容器状の本体部の内側の面に層状の加熱擂り部が形成されたすり鉢の製造方法であって、陶磁製材料により容器状に本体部を成形する成形工程と、成形した本体部を乾燥した後に素焼して本体部素地を形成する素焼工程と、本体部素地の内側の面に、四三酸化鉄と、加熱擂り部を層状に形成するための非金属無機材料である層形成材料と、加熱擂り部の表面に凸部を形成するための粒状の非金属無機材料である凸部形成材料と、粘性材料を水に分散させてなるスラリー状の原料を塗布する塗布工程と、スラリー状の原料を塗布した本体部素地に釉薬を塗布する施釉工程と、施釉された本体部素地を焼成する焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
よって、製造されたすり鉢においては、すり鉢を電子レンジに入れて加熱し、加熱されたすり鉢を電子レンジから取り出して、被擂り対象物(具体的には、胡麻)をすり鉢内に投入し、すりこ木で擂る。加熱擂り部には凸部形成材料が混入されていて、この凸部形成材料により加熱擂り部の表面が凹凸に形成されているので、すりこ木で擂ることにより被擂り対象物を擂ることができる。また、加熱擂り部には、四三酸化鉄が含有されているので、電子レンジで加熱することにより高い発熱温度を得ることができ、被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。以上のようにして、電子レンジに使用して被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。また、製造されたすり鉢によれば、凸部形成材料により複数の凸部が形成された構成であり、櫛目状の溝部は形成されていないので、すり鉢内から擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易に行なうことができる。
【0017】
また、第8には、上記第7の構成において、凸部形成材料の平均粒径が0.2〜0.5mmであることを特徴とする。よって、特に被擂り対象物を胡麻とした場合に、加熱擂り部の表面に形成される凸部の高さを適切にして効率よく胡麻を擂ることができる。
【0018】
また、第9には、上記第7又は第8の構成において、凸部形成材料の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%であることを特徴とする。よって、効率的に被擂り対象物を擂ることができる。
【0019】
また、第10には、上記第7から第9までのいずれかの構成において、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における四三酸化鉄の配合割合が、65〜75重量%であることを特徴とする。よって、四三酸化鉄が四三酸化鉄と層形成材料の合計重量において65重量%以上混入されているので、加熱擂り部を短時間で高い発熱温度に安定して加熱することができ、また、75重量%以下となっているので製造に際して焼成後に亀裂が入るのを防止することができる。
【0020】
また、第11には、上記第7から第10までのいずれかの構成において、凸部形成材料が、珪砂であることを特徴とする。
【0021】
また、第12には、上記第7から第11までのいずれかの構成において、上記成形工程において、本体部の内側の面における内底面領域を該内底面領域以外の面である非内底面領域よりも窪んだ形状に形成し、上記塗布工程において、スラリー状の原料を該内底面領域に塗布することを特徴とする。よって、加熱擂り部の表面と非内底面領域の表面とを連続した面に形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に基づくすり鉢及びすり鉢の製造方法で製造されたすり鉢によれば、加熱擂り部には凸部形成材料が混入されていて、この凸部形成材料により加熱擂り部の表面が凹凸に形成されているので、すりこ木で擂ることにより被擂り対象物を擂ることができる。また、加熱擂り部には、四三酸化鉄が含有されているので、加熱擂り部の加熱状態を保つことができ、被擂り対象物を加熱しながら擂ることができる。以上のようにして、被擂り対象物を加熱しながら擂ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に基づくすり鉢の斜視図である。
【図2】図1におけるP−P断面図である。
【図3】本発明の実施例に基づくすり鉢の平面図である。
【図4】加熱擂り部形成箇所の要部断面図である。
【図5】本発明の実施例に基づくすり鉢の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明においては、胡麻等の種子を煎るとともに擂ることができる器具であって、電子レンジに使用して種子を煎って擂ることができ、器具内に擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易な器具を提供するという目的を以下のようにして実現した。
【0025】
すなわち、本発明に基づくすり鉢5は、すり鉢形状の本体部10の内底面に層状の加熱擂り部40を設けたものであり、具体的には、すり鉢5は、本体部10と、加熱擂り部40とを有している。
【0026】
ここで、本体部10は、全体に容器状を呈していて、ボウル状部20と、台部30と、釉薬層50(図4参照)を有している。すなわち、ボウル状部20は、内側に略半球状の内側面22を有し、その上端の縁部が肉厚に形成されている。また、台部30は、ボウル状部20の底部から突出して形成されている。ボウル状部20の内側面22は、略半球状を呈するが、図2に示すように、内側面22の内底面領域22aは、加熱擂り部40を形成するために該内底面領域22a以外の面である非内底面領域22bよりも加熱擂り部40の厚み(0.6〜0.8mm)分だけ窪んで形成されている。これにより、加熱擂り部40を形成した状態では、すり鉢5の内側の面は連続した曲面(すなわち、略半球面)となっていて、加熱擂り部40の表面と非内底面領域22bの表面とは連続した面を形成している。これにより、すりこ木で擂る際に、擂り動作に支障を来すことがない。
【0027】
上記本体部10は、陶磁製材料(非金属無機材料としてもよい)により形成されていて、特に、耐熱土を素焼(以下のステップS13参照)及び焼成(以下のステップS16参照)することにより形成されたものである。なお、耐熱土としては、例えば、耐熱土全体に対する配合割合は、ペタライト(又はリチウムフラックス)45〜55重量%(好適には50重量%)、粘土20〜25重量%(例えば、木節粘土(例えば、水ヒ木節粘土))、原土20〜25重量%(例えば、木節原土(例えば、本山木節原土)となっている。
【0028】
また、加熱擂り部40は、加熱擂り部本体40aと、加熱擂り部本体40aの表面に形成された釉薬層40bとを有している。
【0029】
ここで、加熱擂り部本体40aは、四三酸化鉄(四酸化三鉄(Fe34))と、層形成用の非金属無機材料(以下「層形成材料」とする)と、凸部形成用の非金属無機材料(以下「凸部形成材料」)42とを有している。加熱擂り部40には凸部形成材料42が混入されているので、加熱擂り部40の表面が凹凸に形成されている。つまり、加熱擂り部40においては、凸部形成材料42の箇所に凸部44が凸状に形成されている。なお、図4においては、加熱擂り部御大40aにおける凸部形成材料42以外の部分が四三酸化鉄と層形成材料となる。
【0030】
層形成材料としては、ペタライト(又はリチウムフラックス)が挙げられるが、ペタライト以外に粘土、長石、珪石等の一般窯業原料でもよい。ただし、発熱による熱膨張を考慮すると、ペタライトが好ましい。
【0031】
また、凸部形成材料42としては、平均粒径(直径)0.2〜0.5mm(好適には、0.25〜0.4mm)の粒状の非金属無機材料であり、具体的には、珪砂が挙げられる。珪砂とは、珪酸塩類(特に、二酸化珪素)を主成分とする砂質の堆積(たいせき)物や風化生成物のうち、とくに石英粒を多量に含むもので、白色粗粒の砂である。
【0032】
なお、すり鉢5は主として胡麻を擂るために用いるが、被擂り対象物を胡麻とする場合には、凸部形成材料の平均粒径が0.5mmより大きい場合には、多くの凸部44において凸部44の高さが高くなってしまい、胡麻が加熱擂り部40の凸部44間の隙間に胡麻の底面側の部分が入り込んでしまうことから、効率的に擂ることができず、また、凸部形成材料の平均粒径が0.2mmより小さい場合には、凸部44の高さを十分に確保することができないので、効率的に擂ることができない。
【0033】
なお、完成された本体部10の加熱擂り部40においては、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における配合割合は、四三酸化鉄が65〜75重量%で、層形成材料が25〜35重量%となっている。また、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%の凸部形成材料42が含有されている。つまり、加熱擂り部40には、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量の25〜35重量%の凸部形成材料42が含有されている。
【0034】
凸部形成材料42は、図4に示すように、加熱擂り部40内に分散した状態で存在していて、凸部形成材料42の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して35重量%を超えると、凸部形成材料が多すぎて凸部44が過剰に形成されてしまい、被擂り対象物を効率的に擂ることができず、また、25重量%よりも少なくなると凸部44の数が過小となり、この場合にも被擂り対象物を効率的に擂ることができない。
【0035】
また、四三酸化鉄の四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における配合割合は、65〜75重量%であるが、65重量%未満となると、短時間に加熱擂り部40を加熱することができず、また、75重量%よりも多くすると、製造に際して焼成後に亀裂が入りやすくなる。
【0036】
また、加熱擂り部40の層の厚みAは、0.6〜0.8mmに形成され、凸部44の高さCは、加熱擂り部本体40aの上面から凸部形成材料42がどの程度の高さ突出しているかによって定まるため、凸部44の高さCは、0より大きく0.2〜0.5mmよりも短く形成されているといえる。なお、凸部形成材料42が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%含有されているので、凸部形成材料42の粒径の1/2以上の高さの凸部44を適度な数だけ形成することができる。
【0037】
この加熱擂り部本体40aは、加熱擂り部本体40aの原料となるスラリー状の原料を本体部10を構成する陶磁製材料を素焼きしたものに塗布し、その後、焼成することにより形成される。詳しくは後述する。
【0038】
また、釉薬層40bは、加熱擂り部本体40aの表面に層状に形成され、本体部10の表面に形成された釉薬層50と連続して形成されている。
【0039】
また、釉薬層50は、本体部10の表面における加熱擂り部40が形成されている領域以外の領域に形成されていて、加熱擂り部40の釉薬層40bと連続して形成されている。
【0040】
上記構成のすり鉢5の製造工程について説明する。まず、加熱擂り部40の原料となるスラリー状の原料を製造する。つまり、四三酸化鉄と、層形成材料と、凸部形成材料と、粘性材料を水に分散させて、スラリー状の原料を製造する。具体的には、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、四三酸化鉄の重量を65〜75重量%とし、層形成材料の重量を25〜35重量%とし、さらに、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、凸部形成材料の重量を25〜35重量%とし、水の重量を50〜60重量%とし、粘性材料の重量を0.3〜0.5重量%とする。つまり、凸部形成材料と、水と、粘性材料とは、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して上記の割合で混合する。なお、粘性材料としては、CMC(カルボキシル酸メチルセルロース)が挙げられるが、他にPVA(ポリビニルアルコール)であってもよい。
【0041】
一方、本体部10を構成する陶磁製材料を本体部10の形状に成形して本体部素地を形成する(S11)。その後、本体部素地を乾燥した(S12)後に焼成して素焼する(S13)。素焼の焼成温度としては、700〜750℃とする。
【0042】
次に、素焼した本体部素地における内底面領域22aに上記スラリー状の原料を塗布する(S14)。
【0043】
スラリー状の原料が乾燥したら、本体部素地の全体に釉薬(耐熱釉薬)を塗布して施釉する(S15)。施釉の方法としては、釉薬の中に本体部素地を浸けることにより行なう。
【0044】
その後、本体部素地を酸化雰囲気の中で焼成する(S16)。焼成温度としては、1180〜1250℃(好適には、1200℃)とする。
【0045】
以上のようにして、すり鉢5が形成される。なお、焼成を行なうことにより、加熱擂り部40においては、スラリー状の原料を製造する際に混合された水や粘性材料は蒸発して除去される。
【0046】
より具体的な実施例の一例としては、加熱擂り部40の原料となるスラリー状の原料を製造に際しては、四三酸化鉄の重量を70重量%とし、層形成材料としてのペタライトの重量を30重量%とし、さらに、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、凸部形成材料としての珪砂の重量を30重量%とし、水の重量を55重量%とし、粘性材料の重量を0.4重量%として、スラリー状の原料を製造した。なお、珪砂としては、平均粒径約0.3mmの珪砂6号(粒径の混合割合は、目開きが0.417mm:25.5重量%、0.349mm:53.6重量%、0.250mm:15.5重量%、0.154mm:3.3重量%、0.110mm:0.9重量%)を使用した。
【0047】
そして、ペタライト50重量%、水ヒ木節粘土25重量%、本山木節原土25重量%の耐熱土を成形した本体部素地を形成し、これを乾燥した後に素焼し、素焼した本体部素地における内底面領域22aに上記スラリー状の原料を塗布し、スラリー状の原料が乾燥したら耐熱釉薬を施釉し、その後、本体部素地を1200℃で焼成して、すり鉢を形成した。
【0048】
なお、凸部形成材料としての珪砂の平均粒径を0.5mmよりも大きくしたり、0.2mmよりも小さくすると、被擂り対象物としての胡麻を効率的に擂ることができなかった。例えば、平均粒径約0.6mmの珪砂5号(粒径の混合割合は、目開きが0.980mm:16.1重量%、0.617mm:59.1重量%、0.417mm:23.1重量%、0.349mm:1.6重量%、0.250mm:0.1重量%)の珪砂を使用した場合には、凸部44の高さが高くなってしまい、効率的に胡麻を擂ることができなかった。また、平均粒径約0.15mmの珪砂7号(粒径の混合割合は、目開きが0.349mm:0.1重量%、0.250mm:23.7重量%、0.154mm:36.7重量%、0.110mm:20.8重量%、0.077mm:12.3重量%)の珪砂を使用した場合には、凸部44の高さを十分確保することができず、効率的に胡麻を擂ることができなかった。
【0049】
また、平均粒径を0.25〜0.4mmとすることにより、最も効率よく胡麻を擂ることができた。
【0050】
また、凸部形成材料42の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して35重量%を超えると、凸部形成材料が多すぎて凸部44が過剰に形成されてしまい、被擂り対象物を効率的に擂ることができず、また、25重量%よりも少なくなると凸部44の数が過小となり、この場合にも被擂り対象物を効率的に擂ることができなかった。
【0051】
また、四三酸化鉄が四三酸化鉄と層形成材料の合計重量において65重量%未満となると、短時間(例えば、30秒以内、出力500W)で加熱擂り部40を胡麻等の種子を得るために十分な温度(200℃以上)に安定して加熱することができなかった。つまり、温度にばらつきが出る結果となった。また、75重量%よりも多くすると、製造に際して焼成後に亀裂が入りやすい結果となった。
【0052】
上記すり鉢5の使用方法について説明する。まず、すり鉢5を電子レンジに入れて加熱する。加熱時間としては、出力500Wで1分以内(好適には、30秒)とする。これにより、すり鉢5が加熱され、特に、加熱擂り部40が200℃以上に加熱される。すり鉢5を電子レンジから取り出して被擂り対象物(具体的には、胡麻)をすり鉢5内に投入する。被擂り対象物をすり鉢5に投入したら、すりこ木を用いて擂る。すると、加熱擂り部40が加熱されているので、被擂り対象物を加熱することができ、すりこ木で擂ることにより被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。つまり、加熱擂り部40内には凸部形成材料が混入されていて、この凸部形成材料により加熱擂り部40の表面が凹凸に形成されているので、すりこ木で擂ることにより被擂り対象物を擂ることができ、また、加熱擂り部40には、四三酸化鉄が含有されているので、電子レンジで短時間加熱することにより高い発熱温度を得ることができ、被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。以上のようにして、電子レンジに使用して被擂り対象物を煎りながら擂ることができる。
【0053】
以上のように、本発明のすり鉢によれば、電子レンジに使用して胡麻等の種子を煎りながら擂ることができる。
【0054】
なお、胡麻等の種子を煎る場合の最低温度としては約200℃が必要であるが、仮に、本実施例のすり鉢5において加熱擂り部40を設けない場合には、すり鉢を電子レンジで加熱しても当該温度には十分加熱することができず、胡麻を煎りながら擂ることができない。
【0055】
特に、凸部形成材料42の平均粒径(直径)が0.2〜0.5mmであるので、特に被擂り対象物を胡麻とした場合に、加熱擂り部40の表面に形成される凸部44の高さを適切にして効率よく胡麻を擂ることができる。
【0056】
また、凸部形成材料42の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%であるので、効率的に被擂り対象物を擂ることができる。
【0057】
また、加熱擂り部40に四三酸化鉄が混入されていて、四三酸化鉄が四三酸化鉄と層形成材料の合計重量において65重量%以上混入されているので、短時間に加熱擂り部40を加熱することができるとともに、胡麻等の種子を煎るために十分な発熱温度(200℃)を安定して得ることができる。また、75重量%以下となっているので製造に際して焼成後に加熱擂り部40に亀裂が入るのを防止することができる。また、加熱擂り部40には、凸部形成材料42が混入されているので、これが骨材の役割を果たし、さらに加熱擂り部40に亀裂が入るのを防止することができる。
【0058】
また、本発明のすり鉢5によれば、従来のすり鉢のように櫛目状の溝部は形成されておらず、凸部形成材料により複数の凸部44が形成された構成であるので、すり鉢5内から擂った種子を容易に回収することができ、洗浄も容易に行なうことができる。
【0059】
なお、上記の説明において、凸部形成材料42として珪砂を例にとったが、他の非金属無機材料でもよい。
【符号の説明】
【0060】
5 すり鉢
10 本体部
20 ボウル状部
30 台部
40 加熱擂り部
40a 加熱擂り部本体
40b 釉薬層
42 凸部形成材料
44 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すり鉢であって、
陶磁製材料により形成され容器状を呈する本体部と、
本体部の内側の面に形成された層状の加熱擂り部で、四三酸化鉄と、加熱擂り部を層状に形成するための非金属無機材料である層形成材料と、加熱擂り部の表面に凸部を形成するための非金属無機材料である粒状の凸部形成材料とを含有した加熱擂り部と、
を有することを特徴とするすり鉢。
【請求項2】
凸部形成材料の平均粒径が0.2〜0.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のすり鉢。
【請求項3】
凸部形成材料の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のすり鉢。
【請求項4】
四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における四三酸化鉄の配合割合が、65〜75重量%であることを特徴とする請求項1又は2又は3に記載のすり鉢。
【請求項5】
凸部形成材料が、珪砂であることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4に記載のすり鉢。
【請求項6】
加熱擂り部は、本体部の内側の面における内底面領域に形成され、該内底面領域は、該内底面領域以外の面である非内底面領域よりも窪んで形成されていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5に記載のすり鉢。
【請求項7】
容器状の本体部の内側の面に層状の加熱擂り部が形成されたすり鉢の製造方法であって、
陶磁製材料により容器状に本体部を成形する成形工程と、
成形した本体部を乾燥した後に素焼して本体部素地を形成する素焼工程と、
本体部素地の内側の面に、四三酸化鉄と、加熱擂り部を層状に形成するための非金属無機材料である層形成材料と、加熱擂り部の表面に凸部を形成するための粒状の非金属無機材料である凸部形成材料と、粘性材料を水に分散させてなるスラリー状の原料を塗布する塗布工程と、
スラリー状の原料を塗布した本体部素地に釉薬を塗布する施釉工程と、
施釉された本体部素地を焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするすり鉢の製造方法。
【請求項8】
凸部形成材料の平均粒径が0.2〜0.5mmであることを特徴とする請求項7に記載のすり鉢の製造方法。
【請求項9】
凸部形成材料の含有量が、四三酸化鉄と層形成材料の合計重量に対して、25〜35重量%であることを特徴とする請求項7又は8に記載のすり鉢の製造方法。
【請求項10】
四三酸化鉄と層形成材料の合計重量における四三酸化鉄の配合割合が、65〜75重量%であることを特徴とする請求項7又は8又は9に記載のすり鉢の製造方法。
【請求項11】
凸部形成材料が、珪砂であることを特徴とする請求項7又は8又は9又は10に記載のすり鉢の製造方法。
【請求項12】
上記成形工程において、本体部の内側の面における内底面領域を該内底面領域以外の面である非内底面領域よりも窪んだ形状に形成し、上記塗布工程において、スラリー状の原料を該内底面領域に塗布することを特徴とする請求項7又は8又は9又は10又は11に記載のすり鉢の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−252877(P2010−252877A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103462(P2009−103462)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(591013045)株式会社三彩 (2)
【Fターム(参考)】