説明

はんだ付け方法

【課題】簡易な方法で、応力集中が回避され、冷熱サイクル耐久性の高いはんだ層を形成することのできる、はんだ接合方法を提供する。
【解決手段】第1の部材(回路基板2)上に第2の部材(半導体素子1)をはんだ付けする、はんだ付け方法であり、第1の部材上にはんだ合金4’を配し、かつ、該はんだ合金4’の方向に突出する側面21を有する成形型20をはんだ合金4’の周囲に配し、第2の部材を成形型20の上に配する、第1の工程と、加熱処理してはんだ合金4’を溶かし、はんだ付けする第2の工程と、からなる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子を搭載したパワーモジュールは、熱膨張率(熱膨張係数、線膨張係数)の相違する複数の構成部材の積層構造を呈するものが一般的である。そのために、半導体素子からの伝熱や周囲の温度雰囲気の変化、駆動時の繰り返し振動等に起因して、各構成部材の変形量等が相互に相違することなどから、この変形量等の相違に起因して、その耐久性に影響を及ぼす要素が多分に存在している。
【0003】
ここで、従来のパワーモジュールの実装構造の一実施例を図5aに基づいて説明する。図示するパワーモジュールPは、半導体素子aがはんだ層hを介して回路基板b上に固定されるとともに、該半導体素子aと回路基板bが接続導線c(ボンディングワイヤ)にて接続され、回路基板bが絶縁基板d上にろう付けされ、絶縁基板dは、ヒートシンク板eと冷媒還流路f1を具備する冷却器fとのアルミダイキャスト一体成形体上にろう付けされて、その全体が構成されている。なお、より具体的には、これらの積層体がセラミックスや絶縁金属製のケース内に収容され、半導体素子aや回路基板bの上方空間にシリコーン樹脂等からなるポッティング材が成形されて、半導体素子等の絶縁性が担保されるものである。
【0004】
上記のごとく、従来のパワーモジュールは各種構成部材の多層積層構造となっているが、たとえばシリコン素材の半導体素子の熱膨張率が3ppm/K程度、絶縁基板の熱膨張率が4〜5ppm/K程度、ヒートシンクアルミ板の熱膨張率が25ppm/K程度と、構成部材ごとに熱膨張率が非常に異なっている。
【0005】
ところで、上記するパワーモジュールがハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される場合には、長期に亘り、しかも寒暖差が極めて激しい冷熱サイクルに対してその耐久性の確保が要求される。しかし、上記のごとく構成部材ごとに熱膨張率が大きく異なっていることから、温度変化に起因する熱膨張差によって熱応力が構成部材間の接合部に生じ、たとえばはんだ層等の接合界面でクラックが生じ、これがパワーモジュールの耐久性を低下させる大きな要因となり得る。そこで、応力緩和材を上記する積層構造内に介在させることにより、界面に集中し易い応力を緩和せんとするパワーモジュールが現在開発されている。
【0006】
しかし、パワーモジュールに応力緩和部材等を介層させたとしても、回路基板b上に半導体素子aを取り付けるはんだ層hが構造弱部であって、パワーモジュール供用時における上記冷熱サイクルや振動に起因して、クラック等が生じ易い部位であることに変わりはない。
【0007】
ここで、図5aを再度参照するに、はんだ層hと半導体素子aとの接合面(上面)、および、はんだ層hと回路基板bとの接合面(下面)のそれぞれの角度をα1、α2とすると、α1は鈍角、α2は鋭角となっており、すなわち、はんだと半導体素子との接合角α1は鈍角となっている。
【0008】
通常のはんだ付けの場合には、はんだと基板とのなじみを良好にするために、たとえばアルミニウムやその合金からなる基板表面にニッケルメッキ等が施されている。このように、接合界面で双方のなじみが良好となると、はんだ層が広がり易くなり、その結果として、はんだ層の接合角が図示のごとく鈍角となり易くなるのである。
【0009】
従来技術に目を転じると、たとえば特許文献1で開示の半導体装置では、はんだ接合角を積極的に鈍角とし、さらには、はんだバンプを鼓型形状とすることで、応力やひずみが分散される構造となる、とされている。
【0010】
しかし、本発明者等の検証によれば、はんだ接合角が鈍角であるが故に、このはんだ層に応力が集中するとの知見が得られている。この理由を図5bを参照して説明する。
【0011】
パワーモジュール駆動時の半導体素子からの伝熱や、周囲の温度変化(冷熱サイクル)により、たとえば、熱を受けた際に、はんだ層hはその側方に熱膨張する(たとえば図5bの矢印方向)。この熱膨張の際に、はんだ層hの中央領域では相対的に大きな熱変形が生じ、はんだ層hにおける半導体素子aおよび回路基板bとの界面隅角部h1、h2では、この中央領域の大きな熱変形に対して被接合部材との間の接合耐力にて抗するために、往々にして、この界面隅角部h1、h2にて応力が集中するというものである。
【0012】
この応力集中箇所を起点として亀裂が生じ、パワーモジュール駆動に伴う繰り返し振動や、繰り返しの冷熱サイクルを受けることで、生じた亀裂は成長し、場合によってははんだ層h内で破壊に至り得る。したがって、本発明者等は、これらの亀裂の発生やその成長原因の一つは、図示のごとく、はんだ層と半導体素子との接合角α1が鈍角だからである、との知見に至っている。
【0013】
ところで、特許文献2では、はんだ接合角を鋭角とするはんだ付け方法が開示されている。具体的には、半導体パッケージと回路基板との間にスペーサー部材を配置し、リフローハンダ付けの際に、スペーサー部材の熱膨張によって半導体パッケージと回路基板との間隔がリフローハンダ付け前よりも広がり、その後に、その間隔を保ってハンダが固化させることでハンダバンプの接合角を鋭角とするものである。
【0014】
特許文献2に開示のはんだ付け方法では、はんだ接合角を鋭角とすることはできるものの、スペーサー部材を配置していることから、図5aのようにはんだ層の全面ではんだ接合できないこと、スペーサー部材の熱膨張によって半導体パッケージと回路基板との間隔をリフローハンダ付け前よりも広がらせるような制御は現実的には極めて困難であること、により、より簡易な方法で鋭角な接合角を有するはんだ層の形成方法が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−86161号公報
【特許文献2】特開2006−339491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で、応力集中が回避され、冷熱サイクル耐久性の高いはんだ層を形成することのできる、はんだ接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明によるはんだ接合方法は、第1の部材上に第2の部材をはんだ付けする、はんだ付け方法であって、第1の部材上にはんだ合金を配し、かつ、該はんだ合金の方向に突出する側面を有する成形型をはんだ合金の周囲に配し、第2の部材を成形型の上に配する、第1の工程と、加熱処理して前記はんだ合金を溶かし、はんだ付けする第2の工程と、からなるものである。
【0018】
本発明のはんだ接合方法は、第1の部材上に第2の部材をはんだ付けする場合において、まず、はんだ合金を包囲する形状を有し、かつ、はんだ合金の方向に突出する側面を有する成形型を第1の部材上に配するとともに、はんだ合金をこの成形型内に配し、第2の部材をはんだ合金および成形型の上に配した後にリフローするものであり、このような成形型を使用するだけで、容易に、はんだ接合角を所望の鋭角に調整できるとともに、第1の部材および第2の部材間に、隙間のないはんだ層を形成できるものである。
【0019】
ここで、使用されるはんだ合金は、従来公知の合金を使用することができ、たとえば、錫と銀からなる合金、錫と銅からなる合金、錫と銀と銅からなる合金、などの錫系合金をはじめ、その素材は特に限定されるものではない。なお、昨今の環境影響負荷低減の動向を勘案すれば、鉛フリー素材を使用するのが好ましい。
【0020】
また、はんだ合金の形態は、クリームはんだ、板はんだ、ボールはんだ、のうちのいずれか一種を適用することができる。たとえば、クリームはんだを使用する場合は、第1の部材上に枠状の成形型を載置固定し、その枠内の全範囲にクリームはんだ層を配することができるし、ボールはんだを使用する場合は、複数のボールはんだを枠内に載置し、リフローした際に、枠内の全範囲にはんだ層が形成されるようにボールはんだの寸法や数が調製されればよい。
【0021】
さらに、適用される成形型は、たとえばニッケルやその合金等からなる枠状の部材であり、リフロー用のはんだ合金がその枠内に載置される場合において、このはんだ合金側の側面は、はんだ合金の方向に突出するものである。たとえば、その断面が円形、楕円形のほか、はんだ合金側に突の三角形状、はんだ合金側に突の半円形、半楕円形などの断面形状を挙げることができる。なお、たとえば枠状の成形型は、4つの直線状の部材の端部同士を接合して枠状部材を形成するものであってもよいし、平面視が2つのコの字状の部材の端部同士を着脱自在としたものであってもよく、これらの形態の場合には、脱型作業が容易となる。
【0022】
また、前記成形型の少なくともはんだ合金側となる側面には、フラックス層が形成されているのが好ましい。
【0023】
このフラックス層は、たとえば松脂からなるものであり、本発明者等によれば、このフラックス層を成形型表面に形成しておくことで、リフローの際に気泡が抜かれ、品質のよいはんだ層が形成されることが特定されている。さらには、フラックス層が成形型とはんだ層の間に介在することで、はんだ層形成後の成形型の脱型性が良好となることも同様に特定されている。
【0024】
本発明者等は、上記製造方法により、接合角を鋭角範囲で種々変化させながら、2つの部材を接合させてそれぞれの接合角ごとに接合体を製作し、所定回数の冷熱サイクル試験を実施して、はんだ層に生じる亀裂長さを測定している。パワーモジュールが冷熱サイクルを受ける場合に、そのサイクル数が増加するにつれて、生じた亀裂長さが進展し、場合によってははんだ層の破壊に至ることから、この亀裂長さは、はんだ層の冷熱サイクル耐久性を示す一つの指標となるものである。
【0025】
上記測定の結果、接合角の低減にほぼ比例するようにして亀裂長さが低減することが実証されている。尤も、鋭角範囲内においても、接合角が小さ過ぎては、その製造困難性やはんだ層自体の剛性低下に繋がることなどから、その鋭角範囲は、50〜60度程度が下限であると規定することもできる。
【0026】
また、上記する第1の部材、第2の部材を実際のパワーモジュールに適用する場合には、前記第1の部材が基板であり、前記第2の部材が半導体素子となる。
【0027】
ここで、「基板」とは、回路基板、もしくは回路基板と絶縁基板の組み合わせ、もしくは回路基板と絶縁基板と応力緩和基板の組み合わせなど、のすべてを総称するものである。また、この絶縁基板は、たとえば純アルミニウムからなる基板と窒化アルミニウムからなる基盤とを積層してなる積層体(DBA)であってもよいことは勿論のことである。
また、このパワーモジュールは、上記基板の下方に、ヒートシンク板や、ヒートシンク板と冷媒還流路を具備する冷却器とのアルミダイキャスト一体成形体を具備するものであってもよく、さらには、半導体素子、上記基板、ヒートシンク板等の積層体が絶縁素材(セラミックス、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂素材、アルミニウムやその合金素材など)のケース内に収容されるものであっても、ケースレス構造のものであってもよい。さらに、半導体素子や回路基板表面に絶縁性を付与するべく、比較的高剛性なポッティング樹脂体、低剛性で可撓性に富むゲル状のポッティング樹脂体などを、半導体素子や回路基板表面上に具備する形態であってもよい。
【0028】
上記する本発明のはんだ接合方法によって半導体素子と基板が接合されたパワーモジュールは、その構成部材の中で最も構造弱部となり得るはんだ層を、極めて簡易な方法にて、冷熱サイクル耐久性の高いはんだ層とすることができる。したがって、その車載機器に高性能かつ高耐久が要求される、近時のハイブリッド車や電気自動車に車載されるインバータ等への適用に最適である。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明のはんだ接合方法によれば、所定形状の成形型を使用しただけの極めて簡易な方法により、被接合部材との間のはんだ層の接合角を所望の鋭角に調整することができ、もって、被接合部材との界面隅角部における応力集中を効果的に緩和でき、冷熱サイクル耐久性の高いはんだ層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、本発明のパワーモジュールを模式的に示した縦断面図であり、(b)は、そのはんだ層を含む範囲を拡大した図である。
【図2】(a)は、本発明のはんだ接合方法にて使用される成形型の一実施の形態を示した斜視図であり、(b)は、(a)のb−b矢視断面図であり、(c)、(d)、(e)は、断面形状の他の実施の形態を示した図である。
【図3】(a),(b),(c)の順に、本発明のはんだ接合方法を説明した模式図である。
【図4】接合角の異なるはんだ層を具備する接合体に冷熱サイクル試験をおこない、試験後のはんだ層に生じた亀裂長さを接合角ごとにプロットした計測結果である。
【図5】(a)は、従来のパワーモジュールを模式的に示した縦断面図であり、(b)は、そのはんだ層を含む範囲を拡大した図であって、はんだ層への伝熱によってはんだ層が熱膨張している状態をともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0032】
図1aは、本発明のパワーモジュールを模式的に示した縦断面図であり、図1bは、そのはんだ層を含む範囲を拡大した図である。
【0033】
本発明のはんだ接合方法にて形成されるはんだ層を具備するパワーモジュール10の実装構造は、半導体素子1(IGBTチップ)がはんだ層4を介して回路基板2上に取付けられ、回路基板2が絶縁基板5上にろう付けにて取り付けられ、ヒートシンク板6と、冷水もしくは冷風、冷油などの冷媒が流れる冷媒還流路71を具備する冷却器7と、のアルミダイキャスト一体成形体に絶縁基板5がろう付けされることで大略構成されている。なお、不図示の応力緩和部材が回路基板2と絶縁基板5の間、もしくは、絶縁基板5とヒートシンク板6の間に介在する構造であってもよい。
【0034】
なお、絶縁基板5は、2枚の純アルミニウム板の間に窒化アルミニウム板が介在された、いわゆるDBAからなるものであってもよい。
【0035】
また、半導体素子1と回路基板2は、多数の導線3(ボンディングワイヤ)にて接続されている。
【0036】
はんだ層4と半導体素子1の間の接合角:β、および、はんだ層4と回路基板2の間の接合角:βは、ともに鋭角に形成されており、これにより、はんだ層4の接合隅角部において、冷熱サイクル時の応力集中が効果的に緩和されるようになっている。
【0037】
はんだ層4の接合角を鋭角とすることで、応力集中が緩和される理由を、図示のはんだ層構造を取り挙げて説明する。はんだ層4の接合角を鋭角とすることで、はんだ層の側面形状はおのずとその中央領域で内側に窪んだ形状となる。たとえば半導体素子1からの伝熱により、この窪んだ中央領域は、既述のごとく他の部位に比して相対的に大きく熱膨張する。このように窪んだ中央領域に相対的に大きな熱膨張が生じたとしても、この熱膨張によってむしろ側面の窪みが緩和され、当初の側面形状に比して側面が直線形状に近似するに過ぎない。そのため、半導体素子1や回路基板2と接合するはんだ層4の接合隅角部には、当該箇所にて抗すべき過大な応力が生じることはないし、当該箇所に応力が集中することもないのである。
【0038】
図2は、本発明のはんだ接合方法を適用する際に使用される成形型の一実施例を示したものである。
【0039】
図2aで示す成形型20は、ニッケルもしくはニッケル合金からなるワイヤを、平面寸法が半導体素子1の寸法程度の正方形もしくは矩形の枠状とした部材であり、より具体的には、はんだ層形成後の脱型をも考慮して、平面視がコの字状の2つのワイヤ部材20a,20bを、その一端同士を蝶番機構20cで繋ぎ、この蝶番機構20cを回転支点として、他端で双方の部材が着脱自在となっているものである。なお、成形型20の線形は、たとえば半導体素子1の輪郭に応じて調整すればよく、半導体素子1の輪郭が円形の場合には、これに応じて成形型の線形も相似の円形とするのがよい。
【0040】
図2bは、図2aのb−b矢視断面図を示しており、図2c、d、eはそれぞれ、断面形状の他の実施の形態を示したものである。いずれの断面形状も、成形型のうち、載置されるはんだ合金側、すなわち、形成されるはんだ層側の側面は、該はんだ合金の方向に突出する形態となっている。
【0041】
まず、図2bで示す成形型20の断面形状は円形であり、そのはんだ層側の側面21は、半円形で一点鎖線で示したはんだ合金4’側に突出している。
【0042】
一方、図2cで示す成形型20Aの断面形状は半円形であり、そのはんだ層側の側面21Aは、成形型20と同様に半円形であり、はんだ合金側に突出している。
【0043】
図2dで示す成形型20Bの断面形状は半楕円形であり、そのはんだ層側の半楕円形の側面21Bは、やはりはんだ合金側に突出している。
【0044】
図2eで示す成形型20Cの断面形状は三角形であり、そのはんだ層側の側面21Cは、その頂点をはんだ合金側とすることで、やはりはんだ合金側に突出するものである。
【0045】
このように、任意形状で、少なくともはんだ層側に突出する側面を有する成形型を使用するだけで、鋭角な接合角を有するはんだ層を形成することができる。しかも、この突出形状等を任意に調整するだけで、接合角の鋭角の程度を所望に調整することができるのである。
【0046】
なお、上記する成形型20〜20Cにおいて、少なくとも、それらのはんだ層側の側面21A〜21Cには、フラックス層が形成されているのがよい。
【0047】
本発明者等の経験則より、たとえば松脂からなるフラックス層をはんだ層側の側面に形成しておくことで、リフローの際にはんだ層内から気泡が抜かれ易くなり、内部に気泡を具備しない、品質のよいはんだ層を形成することができる。また、フラックス層が成形型とはんだ層の間に介在することで、はんだ層形成後の成形型の脱型性が良好となる。
【0048】
次に、図3を参照して、本発明のはんだ付け方法を概説する。なお、リフローはんだ接合は、公知のリフロー炉内でおこなわれるのが一般的であるが、リフロー炉の図示は省略している。たとえば公知のリフロー炉を適用するに際し、はんだ層の酸化抑制のために、炉内を所望に窒素ガス雰囲気としてもよいし、セラミックヒータ等で予熱をおこない、パイプヒータ等で本加熱をおこなう機構を具備するものを使用してもよい。
【0049】
まず、図3aで示すように、第1の部材である回路基板2上に、枠状の成形型20を位置決め固定し、この枠内にはんだ合金からなるクリームはんだ4’を塗布形成する。
【0050】
次に、図3bで示すように、成形型20上に半導体素子1を載置し、リフロー炉内を加熱して(リフロー処理)はんだ合金を溶かし、所定のクーリング時間を置くことで、枠状の成形型20と、半導体素子1と、回路基板2と、で画成された空間にはんだ層4を形成する。
【0051】
最後に、図3cで示すように成形型20を脱型し、鋭角な接合角を具備するはんだ層4を介して、回路基板2上に半導体素子1を接続することができる。
【0052】
[接合角の異なるはんだ層を具備する接合体に冷熱サイクル試験をおこない、試験後のはんだ層に生じた亀裂長さを測定する実験と、その結果]
本発明者等は、銅素材で、その寸法が39.2mm×22mm×3mm(厚み)の放熱板上に、ニッケル素材で、φ150μmのワイヤ状の成形型を使用して、寸法が10mm×8mm×0.2mm(厚み)で、Sn−3Ag−0.5Cu素材(3,0.5は質量%)のはんだ層を形成し、寸法が12.6mm×9.2mm×0.2mm(厚み)のシリコンウエハ(半導体チップ)をはんだ層上に配置し、260℃でリフローする方法により、接合体を製作した。
【0053】
ここで、本実験では、使用する成形型のはんだ層側の側面形状を変化させることにより、接合角の異なる複数の接合体を製作しており、接合角が鋭角(90度未満)の実施例を4体、比較例として90度を超える鈍角な接合角を有する接合体を4体、それぞれ製作した。
【0054】
それぞれの接合体に対して、−40℃〜105℃の冷熱サイクルを3000サイクル実施し、はんだ層に生じた亀裂長さを測定した。その結果を図4に示している。
【0055】
図4において、プロット点は測定結果を示しており、この測定結果に基づいた、接合角とはんだ亀裂長さに関する相間グラフを実線で示している。
【0056】
図4より、90度かそれを超えた鈍角領域でおよそ5000μmの亀裂長さのピークを向かえ、さらに接合角が大きくなるに従って、はんだ亀裂長さも大きくなる傾向を示すことが特定された。
【0057】
一方、接合角が鋭角領域では、接合角の減少に比例するようにはんだ亀裂長さも減少する傾向を示している。ただし、その接合角の最小値、すなわち、最適値は、はんだ層の全体剛性など、亀裂長さ以外の要素をも勘案して設定されることとなる。
【0058】
本実験より、本発明のはんだ接合方法によって接合角が鋭角なはんだ層を形成することにより、はんだ層に生じ得る亀裂長さを効果的に低減することができることが実証された。したがって、パワーモジュールの製造、特に、その構造弱部となるはんだ層の形成に際し、本発明のはんだ接合方法を適用することにより、該はんだ層の冷熱サイクル耐久を高めることができ、もって、高耐久なパワーモジュールを製造することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
1…半導体素子(第2の部材)、2…回路基板(第1の部材)、3…接続導線(ワイヤボンディング)、4…はんだ層、5…絶縁基板、6…ヒートシンク板、7…冷却器、10…パワーモジュール、20,20A,20B,20C…成形型、21,21A,21B,21C…はんだ層側の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材上に第2の部材をはんだ付けする、はんだ付け方法であって、
第1の部材上にはんだ合金を配し、かつ、該はんだ合金の方向に突出する側面を有する成形型をはんだ合金の周囲に配し、第2の部材を成形型の上に配する、第1の工程と、
加熱処理して前記はんだ合金を溶かし、はんだ付けする第2の工程と、からなる、はんだ付け方法。
【請求項2】
前記はんだ合金は、クリームはんだ、板はんだ、ボールはんだ、のうちのいずれか一種からなる、請求項1に記載のはんだ付け方法。
【請求項3】
前記成形型の少なくともはんだ合金側となる側面に、フラックス層が形成されている、請求項1または2に記載のはんだ付け方法。
【請求項4】
前記第1の部材が基板であり、前記第2の部材が半導体素子である、請求項1〜3のいずれかに記載のはんだ付け方法。
【請求項5】
前記基板は、回路基板、もしくは回路基板と絶縁基板の積層体、もしくは回路基板と絶縁基板と応力緩和基板の積層体、のいずれか一種からなる、請求項4に記載のはんだ付け方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−225635(P2010−225635A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68204(P2009−68204)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】