説明

はんだ接合部の品質管理方法および品質管理装置

【課題】追加検査無しにリアルタイムで非破壊的且つ精度よく品質検査できるはんだ接合部の品質管理方法を得る。
【解決手段】樹脂基板上にはんだ及び局所的な熱エネルギーを供給(S0)して形成する接合部の品質管理方法であって、接合中に接合部の温度の時間変化を計測する工程(S1)と、計測データから複数の特徴量を求める工程(S2)と、複数の特性量から単一数値指標を求める工程(S3)と、数値指標と予め定めたしきい値を比較して接合部が適合(S5)か不適合(S6)かを判定する工程(S4)とを備え、複数の特徴量は、接合部の温度が(基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めた温度T以上になっている時間tと、接合部の温度が熱エネルギーによる加熱開始時点から(基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めたTに到達するまでの時間tとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板端子と電子部品端子のはんだ接合部の品質管理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂などの樹脂母材と、銅などの金属配線で構成されるプリント基板やビルドアップ基板(以下、総称して樹脂基板という)の端子に、電子部品端子を接合させる技術として、はんだ付けが広く用いられている。一般的には、樹脂基板の端子上にはんだペーストをスクリーン印刷して、電子部品の電極を位置決め、搭載したのち、炉内で基板全体を加熱してはんだ付けするリフロー方式が広く用いられている。
【0003】
しかし、リフロー方式は基板全体を加熱するため、搭載されている電子部品も同程度の熱的な負荷にさらされる。そのため、耐熱性の低い要素(例えば、発光ダイオード、樹脂成形部品など)を含むパッケージ部品は、その耐熱温度上限以上の高温となる炉で処理ことができない。そのような低耐熱性の部品は、パッケージ温度が耐熱温度上限まで上がらないように、基板端子と部品端子の接合部に局所的に熱とはんだを供給して電気的接合を実現する方法(以下、局所加熱実装方式という)がとられている。
【0004】
このような局所加熱実装方式の代表例として、糸はんだと高温のこてを前記接合部に供給して接合する、はんだごて方式が広く用いられているが、生産性が低いことや人による作業のばらつきが存在することに課題があり、多ピン、狭ピッチ、大量生産の部品はんだ付けには向いていない。
【0005】
このような生産形態に適合する局所加熱実装方式として、高温のこてで熱エネルギーを供給するかわりに、制御装置により精密に位置決めされたビームによって接合部に熱エネルギーを供給する方法が知られている。ビームとしては半導体レーザが用いられることが多いが、それに限定されるわけではない(以下代表してレーザはんだ方式という)(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
レーザはんだ方式では、極めて微小な接合部(おおむねスポット径 1mm以下)に短時間(おおむね1秒以内)で位置精度よく熱エネルギーを供給することができるので、自動化・高速化が容易で、多ピン、狭ピッチ、大量生産の部品はんだ付けに向いている。
【0007】
なお、糸はんだと熱エネルギーを同時供給する方法のほか、あらかじめ部品電極または基板電極またはその両方に予備はんだを形成しておく方法においても、レーザはんだ方式が同様に有利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】村上喜作:半導体レーザはんだ付け装置 ,光アライアンス , 2003年 3月号 , p.32-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本願発明者らは、レーザはんだ方式では、接合部における短時間の過渡的な温度−時間変化の特性(以下、単に温度特性という)は接合ごとにばらつきやすく、これが接合品質に大きく影響することを見出した。これは、物質(はんだ)と熱エネルギー(レーザビーム)の供給が行われ、また短時間の過程ではんだの溶融・濡れ広がり・凝固などの複数の現象が同時・連続的に生じることとあわせて、はんだの供給速度、予備はんだ量やレーザパワーのばらつき、電極表面状態の違いによる濡れ性のばらつき、接合部の熱容量(電極厚さ、予備はんだの量、基板の厚さなど)のばらつきなどに対して、温度特性が敏感に変化するからである。
【0010】
このような現象は、熱エネルギーのみを与える抵抗溶接や、接合時間が長い溶接やロウづけでは発生せず、局部加熱実装方式に特有のものである。またここでいう接合品質とは、一般には、(1)はんだが適切な量だけ接合部に転写され、濡れ広がってフィレットを形成し、良好な金属接合界面を形成することによって、接合の信頼性が確保できることを指すことが多い。
【0011】
しかし、(2)接合部の過度な入熱によって樹脂基板の端子下部の金属と樹脂母材の界面に熱的な劣化が生じていないことも求められる。このような界面の樹脂の劣化は製品出荷当初では不良が顕在化しないものの、市場におけるヒートショックや吸湿によって界面のはがれや、それにともなう金属配線の断線を引き起こす可能性がある。
【0012】
上記(2)のような基板の金属と樹脂母材の界面の熱的な劣化状態では、製品出荷時点での電気的導通が得られているため電気試験や外観試験で判別することは難しく、また前記界面は完全に離れているわけではないので、特開2000−261137号公報に開示されているような界面の熱伝導の違いで判別する方法を適用することも難しいという問題点があった。
【0013】
なお、上記(2)で述べた接合品質における課題は、低耐熱性の樹脂基板への実装に関するものであり、主に金属同士の接合である抵抗溶接、溶接、ろう付けでは同課題は発生せず、樹脂基板に適用する局部加熱実装方式に特有のものである。
【0014】
またさらに、特開2000−261137号公報に開示された技術は、はんだ付け工程とは別に追加の工程が必要になりリードタイムが長くなるという問題点があった。また、後段である検査工程で連続して不適合が発覚した場合に、前段のはんだ付け工程や、さらに前段の工程に対する原因究明や工程修正のタイミングが遅れて、多数の不良品を作りこんでしまうという問題点があった。またさらに、検査工程で追加の熱エネルギーを与えるため、基板の金属と樹脂母材の界面の熱的な劣化を促進させてしまうという問題点があった。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、はんだと熱エネルギーの両方を接合部に供給するようなはんだ接合技術において、基板の金属と樹脂母材の界面の熱的な劣化を含めた接合品質を、追加の検査工程無しにリアルタイムで非破壊的且つ精度よく検査できるはんだ接合部の品質管理方法および品質管理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、樹脂基板上にはんだ及び局所的な熱エネルギーを供給して形成するはんだ接合部の品質管理方法であって、接合中に前記接合部の温度の時間変化のデータを計測するステップと、計測された前記データから複数の特徴量を求めるステップと、複数の前記特性量から単一の数値指標を求めるステップと、前記数値指標と予め定めたしきい値とを比較して前記接合部が適合か不適合かを判定するステップとを備え、複数の前記特徴量は、前記接合部の温度が、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めた温度T以上になっている時間tと、前記接合部の温度が、前記熱エネルギーによる加熱開始時点から、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めたTに到達するまでの時間tとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、はんだ接合における界面劣化を含めた接合品質を、追加の検査工程無しにリアルタイムで非破壊的且つ精度よく検査できるはんだ接合部の品質管理方法および品質管理装置を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明にかかる実施の形態1のレーザはんだ付けにおける接合中の状態を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1における接合条件であるレーザパワーおよびはんだ供給速度のプロファイルの一例を説明する図である。
【図3】図3は、実施の形態1における適合品となった接合部の温度の時間変化の様子を温度特性計測手段で計測した結果を示す図である。
【図4】図4は、実施の形態1における不適合品となった接合部の温度の時間変化の様子を温度特性計測手段で計測した結果を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態1における特徴量tの値ごとの適合品、不適合品の発生度数を示した図である。
【図6】図6は、実施の形態1における特徴量tの値ごとの適合品、不適合品の発生度数を示した図である。
【図7】図7は、実施の形態1における特徴量t、tの値ごとの適合品、不適合品の発生分布と、しきい値境界線を示した図である。
【図8】図8は、実施の形態1における単一指標Dの値ごとの適合品、不適合品の発生度数を示した図である。
【図9】図9は、実施の形態1におけるはんだ接合部の品質管理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる品質管理方法および品質管理装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、本発明にかかる実施の形態1のレーザはんだ付けにおける接合中の状態を示す図である。電子部品100の部品端子101は樹脂基板200の基板端子201とはんだ401を介して接合される。所定のタイミングで接合部に固体の糸はんだ400が速度v(時間の関数)で供給されつつ(糸はんだ400の供給機構は図示せず)、熱エネルギー供給源であるレーザビーム300がパワーp(時間の関数)で供給される(レーザビーム照射源、位置あわせ機構などは図示せず)。図1に示すように、熱エネルギーが局部的に供給されることで電子部品100の温度上昇は抑えられる。
【0021】
図2は糸はんだ供給速度vと、レーザのパワーpの接合条件プロファイルの一例を示すものである。この接合条件は、接合部を構成する部品端子101、基板端子201、および基板端子201の下部の基板内配線の熱容量や、接合に必要なはんだ量などよって、以下に示す2つの接合品質が満たされるように適宜決定される設計要件であり、図2のプロファイルに限定されるものではない。
(接合品質1)はんだが適切な量だけ接合部に転写され、濡れ広がってフィレットを形成し、良好な金属接合界面を形成することによって、接合の信頼性が確保できること。
(接合品質2)接合部の過度な入熱によって樹脂基板の端子下部の金属と樹脂母材の界面に熱的な劣化(以下、界面劣化とよぶ)が生じていないこと。
【0022】
また、糸はんだ400を供給する代わりに、部品端子101または基板端子201またはその両方にあらかじめ予備はんだを供給しておいてもよい。予備はんだはペースト状のはんだをディスペンサやスクリーン印刷、めっきなどの公知の方法で形成することができる。また、予備はんだと糸はんだを併用してもよい。いずれの場合でも以下に示すような同様の問題が発生する。
【0023】
糸はんだを供給する場合は、図2におけるレーザパワーpや糸はんだ供給速度vがばらつくことに加えて、レーザパワーpがpまで立ち上がり、はんだ供給速度vがvからvに変化する時刻tのような変化点においては、接合ごとの接合部における短時間の過渡的な温度特性のばらつきが発生し得る。
【0024】
また、予備はんだをあらかじめ供給した場合も、予備はんだ量が電極ごとにばらつき、熱容量が電極ごとに変化するため同様の問題が生じる。
【0025】
このような接合条件のばらつきに加えて、電極表面状態の違いによる濡れ性のばらつき、接合部の熱容量(電極厚さ、予備はんだ量、基板の厚さなど)のばらつきが必ず存在し、特に本実施の形態のような局部過熱方式の場合、短時間で現象が進むため、その影響が顕著である。
【0026】
このような製造上のばらつきがあるため、上記(接合品質1)を満足する接合条件を適宜決定したとしても、上記(接合品質2)が確率的に満たされない不適合(以下、単に不適合とよぶ)が生じる可能性がある。特に、図1に示したような界面劣化202が生じた場合、外観検査や電気的検査でこれを検出することができず、信頼性低下を内在したまま出荷されるおそれがある。
【0027】
不適合の存在は、たとえば接合後のはんだ部401を再加熱して、基板端子201に剪断力(基板面に対して水平な方向)を与え、基板端子201と樹脂基板200の基板界面203の破断強度の低下をもって知ることができるが、破壊試験であるため、このような方法で全数検査することは難しい。
【0028】
また剪断力に上限値をもうけて、破断したかどうかで検査する方法も考えられるが、再加熱することで本来適合品であったものが不適合になってしまったり、剪断力をかけすぎて適合品を破壊してしまうおそれがある。したがって、再加熱などの負荷をあたえずに、非破壊で検査する方法が望まれる。
【0029】
図3及び図4は、図2の接合条件ではんだ付けした場合の接合部(転写されたはんだ401の表面)の温度の時間変化の様子を図1に示す温度特性計測手段500で計測した結果である。上述した破壊試験の結果、図3の温度-時間特性を示したものは適合品、図4の温度-時間特性を示したものは不適合品であった。
【0030】
図3、図4の温度-時間特性を概観すると、不適合となった図4に対応する接合部では、全体に温度が高く、また高温になっている時間が長いなどの傾向がみてとれる。そこで、適合品と不適合品の温度特性データを多数集め、統計的方法でその差異を検証した結果、以下の少なくとも2つの特徴量が、適合品と不適合品を判別するのに必要であることがわかった。
【0031】
(特徴量1)t:接合部の温度が温度T以上になっている時間。ただし、(基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(基板のガラス転移温度+250℃)
【0032】
(特徴量2)t:接合部の温度が加熱開始時点(時刻t)から温度Tに到達するまでの時間。ただし、(基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(基板のガラス転移温度+250℃)
【0033】
なお、本実施の形態ではガラスエポキシ製の樹脂基板200(ガラス転移温度150℃)を用いたため、具体的には、t(特徴量1)は接合部の温度が100℃≦T≦400℃の範囲のある温度(例えばT=300℃)以上になっている時間である。同様に、t(特徴量2)は接合部の加熱開始時点(時刻t)から温度が100℃≦T≦400℃の範囲のある温度(例えばT=200℃)に到達するまでの時間を示している。
【0034】
特徴量t及びtは、図1の温度特性計測手段500による計測結果に基づき品質管理手段600によって算出される。以下、上記特徴量1(t)、特徴量2(t)を決定付ける温度TおよびTの好適な範囲について説明する。
【0035】
特徴量1は接合部があらかじめ設定した温度T以上にさらされている時間tで、基板界面203に存在する樹脂母材200が熱によって劣化する程度を示している。樹脂はガラス転移温度で軟化し、この温度付近かそれ以上で長時間さらされると熱劣化が生じ、基板界面203での金属と樹脂の密着強度が低下する。
【0036】
このとき、Tを(基板のガラス転移温度−50℃)より小さく設定した場合、ほとんどの接合部においてtに差異が生じにくく、適合品と不適合品の判別精度が低下する。また、Tを(基板のガラス転移温度+250℃)より大きく設定した場合、tが0になる接合部が大半をしめてしまい、同様に適合品と不適合品の判別精度が低下する。
【0037】
特徴量2は接合部の温度が加熱開始時点(図2の時刻t)から、あらかじめ設定した温度Tに到達するまでの時間tであり、基板界面203が受ける熱衝撃の強さの程度を示している。すなわちtが小さいほど、短時間に多くの熱量を吸収することになる。熱衝撃が大きくなると、界面劣化の前段階で基板界面203に機械的な応力がより大きく加わるため、不適合になりやすいものと考えられる。
【0038】
このとき、Tを(基板のガラス転移温度−50℃)より小さく設定した場合、基板樹脂が軟化していない状態の衝撃であり、接合品質にはほとんど影響をあたえないため、適合品と不適合品の判別精度が低下する。また、Tが(基板のガラス転移温度+250℃)より大きく設定した場合、ほとんどの接合部においてtに差異が生じにくく、同様に適合品と不適合品の判別精度が低下する。
【0039】
またTおよびTのより好適な値は、たとえば公知の重回帰分析などの統計的な方法で、実際の実験データをもとに設定することができる。本実施の形態においては、T=300℃、T=200℃がより好適な値であったが、これに限定されるものではない。
【0040】
図5および図6はそれぞれ、特徴量1(t)の値と特徴量2(t)の値と、適合品・不適合品の発生頻度を示す図である。いずれの特徴量も、好適なTおよびTを設定することで、判定しきい値tth1およびtth2それぞれの前後においておおむね適合品と不適合品を判別することができる。
【0041】
しかし、いずれか1つの特徴量では完全に適合品と不適合品を判別することができない場合がある。図5および図6において、不適合品を流出させないようにしきい値tth1およびtth2を決めると、適合品のうちいくつかは不適合品とみなされ、本来出荷できるはずの適合品が廃却されることになってしまい、不適合品率、製造コストが共に増大する。この問題は、上記した2つの特徴量以外の特徴量(たとえば最高温度など)を追加しても変わらない。
【0042】
そこで、上記2つの特徴量を1つの単一指標Dに総合し、これを用いることによって適合品と不適合品とを判別する精度がより向上することを以下に説明する。多数の適合品と不適合品について特徴量t及びtとの関係を調べたところ、図7に示すような分布になった。
【0043】
適合品と不適合品は、t或いはtのいずれか一方のみを用いた単独の特徴量での判別や、tのしきい値判定とtのしきい値判定の論理積(t>tth1かつt2<tth2)では完全に判別することはできない。しかし、図7に示すしきい値境界線900の前後で判別することができる。すなわち、しきい値tth1及びtth2がお互いの関数になるようにすれば適合品と不適合品の判別が可能となる。
【0044】
このような多次元(ここでは2次元)の特徴量に対する境界線(3次元以上の場合は境界超平面)に直交する方向の位置を示す数値に多次元の特徴量を変換できれば、1つのスカラー量で判別ができることになる。このような単一の数値指標Dに総合する方法として、たとえば、MT法(マハラノビス-タグチ法)におけるマハラノビスの距離や、T法(タグチ法)における総合評価尺度(タグチの距離と称す)が知られている。このうち後者の方がより簡便であるため、計算速度や計算ソフトウエアのメモリ容量の面で、はんだ付け工程内のリアルタイム判定処理にはより適している(田口玄一 ,品質工学便覧 ,日刊工業新聞社 ,(2007), p.143-147、参照)。
【0045】
ここで単一の数値指標Dをタグチの距離で計算する過程で、適合品、不適合品の状態を数値化した尺度が必要となる。そこで、たとえば適合品の場合0、不適合品の場合1のように、任意の異なる値を与えればよい(この値を、適合品の場合の真値、不適合品の場合の真値という)。したがって上記のように真値を設定した場合、数値指標Dは、適合品の場合は0に近い値に、不適合品の場合は1に近い値かそれより大きい値になる。
【0046】
このようにして計算した数値指標Dを用いて、適合品、不適合品の分布を調べると、図8のようになった。図8より明らかなように、数値指標Dに対してしきい値Dthを設ければ、適合品と不適合品を判別することができる。
【0047】
具体的な数値指標Dの求め方としては、例えば特徴量t及びtの重み付け加算値として定めることなども考えられる。即ち、t及びtの重み付け加算値として、図7のしきい値境界線900に平行な線上では常に同じ値をとるような係数を選択すれば、それを単一の数値指標Dとすることで、上記した閾値判定による適合品と不適合品の判別が可能となる。
【0048】
上記実施の形態においては、2つの特徴量について説明したが、これに他の特徴量を加えて総合する場合も同様の計算方法で単一指標Dを計算することができる。この単一指標Dは品質管理手段600で算出され、算出されたDのしきい値Dthとの比較による適合品か不適合品かの合否判定も品質管理手段600によって行われる。
【0049】
即ち、本実施の形態においては、品質管理手段600が特徴量算出手段、単一指標算出手段、合否判定手段を全て兼ねているとして説明したが、特徴量t及びtの算出、単一指標Dの算出、上記品合否判定はそれぞれ別の装置で実行しても構わない。
【0050】
以上説明した工程をフローチャートにまとめると図9のようになる。即ち、図1に示すように、接合部にはんだ400および熱エネルギー300を供給する(ステップS0)。次に、熱エネルギー300供給開始から接合完了までの接合部(はんだ401の表面)の「温度-時間特性」を温度特性計測手段500により計測する(ステップS1)。次に、温度特性計測手段500が計測した「温度-時間特性」から、t、tを含む特徴量を品質管理手段600が算出する(ステップS2)。
【0051】
そして、ステップS2で求めた複数の特徴量(t、t、x、x、…、x)から、上述した公知の方法により総合評価尺度(タグチの距離)を品質管理手段600が計算して単一指標D=f(t、t、x、x、…、x)を求める(ステップS3)。単一指標Dの求め方としては、上述したt及びtの重み付け加算値のように複数の特徴量の重み付け加算値を計算して求めてもよい。
【0052】
最後に、品質管理手段600は、ステップS3で求めた単一指標Dをしきい値Dthと比較し(ステップS4)、D<Dthの場合は適合品と判定し(ステップS5)、D≧Dthの場合は不適合品と判定する(ステップS6)。
【0053】
上記ステップS0〜S6の手順に基づいたはんだ接合部の品質管理方法および品質管理装置により、追加の検査工程無しにリアルタイム且つ非破壊的に精度よくはんだ接合部の品質を検査できる品質管理が可能となる。
【0054】
しかし、基板電極の大きさ、電極下層へのビアホールの有無などの違いによって、1つの基板内の電極ごとに熱容量が異なるような場合、図2に示したはんだ付けの接合条件のプロファイルはその熱容量に適した値をおのおの設定することになる。その場合は電極ごとに採取した温度特性データを用いて、単一数値指標の計算式と、そのしきい値Dthを電極ごとに個別に決定することになる。
【0055】
また、温度特性計測手段500が温度-時間特性を採取する際のサンプリング周期としては0.1ms以上10ms以下であることがより望ましい。サンプリング周期が0.1msより短くなると、処理を行うべきデータ数が膨大になり、計算速度が遅くなり、多量のメモリ容量を必要とするため望ましくない。
【0056】
他方、サンプリング周期が10msより長くなると、特徴量1、特徴量2の計測精度が低くなるため、適合、不適合の判別精度が低下するため望ましくない。なお、本実施の形態ではサンプリング周期として1ms(接合に要する総時間1秒の場合、1000データ)を選択したが、これに限定されるものではない。
【0057】
またさらに、温度-時間特性を計測するための手段としては放射温度計が望ましい。たとえば熱電対の場合と比べて計測応答性がよく、非接触ではんだ表面の温度を計測することができる。また小さい電極の箇所に位置決めして計測できるので、局所加熱実装方式に好適である。
【0058】
さらに、本願発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出されうる。例えば、実施の形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出されうる。更に、異なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明にかかるはんだ接合部の品質管理方法および品質管理装置は、樹脂基板端子と電子部品端子のはんだ接合時の接合部の品質管理に有用であり、特に、はんだ接合部の品質に基づいた製品の適合品か不適合品かの合否判定に適している。
【符号の説明】
【0060】
100 電子部品
101 部品端子
200 樹脂基板
201 基板端子
202 界面劣化
203 基板界面
300 レーザビーム
400 糸はんだ
401 はんだ部
500 温度特性計測手段
600 品質管理手段
900 しきい値境界線
th1、tth2、Dth しきい値
S0〜S6 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上にはんだ及び局所的な熱エネルギーを供給して形成するはんだ接合部の品質管理方法であって、
接合中に前記接合部の温度の時間変化のデータを計測するステップと、
計測された前記データから複数の特徴量を求めるステップと、
複数の前記特性量から単一の数値指標を求めるステップと、
前記数値指標と予め定めたしきい値とを比較して前記接合部が適合か不適合かを判定するステップとを備え、
複数の前記特徴量は、
前記接合部の温度が、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めた温度T以上になっている時間tと、
前記接合部の温度が、前記熱エネルギーによる加熱開始時点から、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めたTに到達するまでの時間tとを
含むことを特徴とするはんだ接合部の品質管理方法。
【請求項2】
前記数値指標は、時間tおよび時間tに基づいたT法(タグチ法)における総合評価尺度であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合部の品質管理方法。
【請求項3】
前記数値指標は、時間tおよび時間tの重み付け加算値であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合部の品質管理方法。
【請求項4】
前記接合部の温度の時間変化のデータを計測するサンプリング周期は0.1ms以上10ms以下であることを特徴とする請求項1、2または3に記載のはんだ接合部の品質管理方法。
【請求項5】
樹脂基板上にはんだ及び局所的な熱エネルギーを供給して形成するはんだ接合部の品質管理装置であって、
接合中に前記接合部の温度の時間変化のデータを計測する温度特性計測手段と、
計測された前記データから複数の特徴量を求める特徴量計算手段と、
複数の前記特性量から単一の数値指標を求める数値指標計算手段と、
前記数値指標と予め定めたしきい値とを比較して前記接合部が適合か不適合かを判定する判定手段とを備え、
複数の前記特徴量は、
前記接合部の温度が、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めた温度T以上になっている時間tと、
前記接合部の温度が、前記熱エネルギーによる加熱開始時点から、(前記基板のガラス転移温度−50℃)≦T≦(前記基板のガラス転移温度+250℃)の条件を満たす予め定めたTに到達するまでの時間tとを
含むことを特徴とするはんだ接合部の品質管理装置。
【請求項6】
前記数値指標は、時間tおよび時間tに基づいたT法(タグチ法)における総合評価尺度であることを特徴とする請求項5に記載のはんだ接合部の品質管理装置。
【請求項7】
前記数値指標は、時間tおよび時間tの重み付け加算値であることを特徴とする請求項5に記載のはんだ接合部の品質管理装置。
【請求項8】
前記接合部の温度の時間変化のデータを計測するサンプリング周期は0.1ms以上10ms以下であることを特徴とする請求項5、6または7に記載のはんだ接合部の品質管理装置。
【請求項9】
前記温度特性計測手段は放射温度計であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載のはんだ接合部の品質管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−210884(P2011−210884A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76100(P2010−76100)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】