説明

アイドリングストップ装置、及び、バッテリの劣化報知方法

【課題】マイクロコンピュータのリセット後においてもバッテリの電圧低下を把握して、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知できる技術を提供する。
【解決手段】アイドリングストップ装置1においては、バッテリ51の電圧が低下して、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCがマイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt未満となった場合に、マイクロコンピュータ2がリセットされる。その一方で、電圧低下情報が記憶部3に記憶される。このため、リセット後のマイクロコンピュータ2は、電圧低下情報に基づいてバッテリ51の電圧が低下したことを把握でき、警告灯59を点灯することでバッテリ51の劣化を示す劣化情報を車室内にいるユーザに報知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンを自動で停止/始動するアイドリングストップ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料節減や排ガス削減などを目的とし、信号待ちなどの比較的短時間の車両の停車中において、車両のエンジンを自動で停止/始動するアイドリングストップ装置が実用化されている。アイドリングストップ装置を備えた車両においては、走行状態からブレーキが踏まれて停止状態となるなどの停止条件が成立するとエンジンが自動で停止され、そのエンジン停止中にブレーキがリリースされるなどの始動条件が成立するとエンジンが自動で始動されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−13953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のエンジンを始動するためのスタータモータを駆動する電力は車両が備えるバッテリから供給される。エンジンの始動のためにスタータモータが必要とする電力は非常に大きいことから、バッテリの電圧が低下している場合にアイドリングストップ機能によるエンジンの停止/始動を繰り返すと、バッテリの電圧がさらに低下し、エンジンが始動できないなどの支障をきたす可能性がある。したがって、バッテリが劣化してその電圧が低下しているような場合は、バッテリを交換させるために、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知することが望ましい。
【0005】
ところで、前述のように、エンジンの始動のためにスタータモータが必要とする電力は非常に大きいため、エンジンの始動の際にはバッテリの電圧が大きく低下する。このため例えば、アイドリングストップ装置が備えるマイクロコンピュータが、エンジンの始動の際のバッテリの電圧を監視し、バッテリの電圧が所定の閾値よりも低下するような場合は、それ以降に、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知するように構成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、マイクロコンピュータを動作させるための電力もバッテリから供給されるため、エンジンの始動の際に、バッテリの電圧がマイクロコンピュータが動作可能な電圧未満まで大きく低下するような場合は、マイクロコンピュータ自体が動作できずにリセットされてしまう。このようにしてリセットされ再起動したマイクロコンピュータは、リセットの原因やリセット前のバッテリの電圧を把握できない。マイクロコンピュータは、電源の電圧低下のほか、例えば、暴走状態となった場合などにおいてもリセットされるが、このようなリセットの原因を把握できない。
【0007】
このため、バッテリの電圧が大きく低下してリセットされた場合においても、リセット後のマイクロコンピュータは、バッテリの電圧が大きく低下したことを把握できず、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知することができなかった。その結果、劣化したバッテリが継続して使用され、最終的にエンジンが始動できなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、マイクロコンピュータのリセット後においてもバッテリの電圧低下を把握して、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、車両に搭載され、前記車両のエンジンを自動で停止/始動するアイドリングストップ装置であって、所定の停止条件が成立したときに前記エンジンを自動で停止するとともに、前記エンジンの停止中に所定の始動条件が成立したときに前記エンジンを自動で始動するアイドリングストップ機能を有するマイクロコンピュータと、前記車両のバッテリの電圧を降圧して得られる前記マイクロコンピュータの電源の電圧が前記マイクロコンピュータの最低動作電圧未満となったことを検知する検知手段と、前記電源の電圧が前記最低動作電圧未満となった場合に、前記マイクロコンピュータの状態に関わらず電圧低下情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に前記電圧低下情報が記憶されている場合は、前記バッテリの劣化を示す劣化情報をユーザに報知する報知手段と、を備えている。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のアイドリングストップ装置において、前記報知手段は、前記車両の車室内に設けられる表示手段に前記劣化情報を表示させる。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1に記載のアイドリングストップ装置において、前記報知手段は、前記劣化情報を記憶する記憶装置と、外部装置からの信号に応答して、前記記憶装置に記憶された前記劣化情報を前記外部装置に送信する送信手段と、を備えている。
【0012】
また、請求項4の発明は、所定の停止条件が成立したときに車両のエンジンを自動で停止するとともに、前記エンジンの停止中に所定の始動条件が成立したときに前記エンジンを自動で始動するアイドリングストップ機能を有するマイクロコンピュータが搭載された車両におけるバッテリの劣化報知方法であって、前記車両のバッテリの電圧を降圧して得られる前記マイクロコンピュータの電源の電圧が前記マイクロコンピュータの最低動作電圧未満となったことを検知する工程と、前記電源の電圧が前記最低動作電圧未満となった場合に、前記マイクロコンピュータの状態に関わらず電圧低下情報を記憶手段に記憶する工程と、前記記憶手段に前記電圧低下情報が記憶されている場合は、前記バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1ないし3の発明によれば、マイクロコンピュータの電源の電圧がマイクロコンピュータの最低動作電圧未満となった場合に、マイクロコンピュータがリセットされたとしても電圧低下情報が記憶手段に記憶される。このため、リセット後のマイクロコンピュータは、電圧低下情報に基づいてバッテリの電圧低下を把握でき、バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知できる。
【0014】
また、特に請求項2の発明によれば、バッテリが劣化したことを、車両の車室内のユーザに速やかに報知することができる。
【0015】
また、特に請求項3の発明によれば、バッテリの劣化を、外部装置を扱うユーザに報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、第1の実施の形態のアイドリングストップ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態のアイドリングストップ装置の処理の流れを示す図である。
【図3】図3は、バッテリの電圧が低下する場合における各種信号の変化を示す図である。
【図4】図4は、第2の実施の形態のアイドリングストップ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、第2の実施の形態のアイドリングストップ装置の処理の流れを示す図である。
【図6】図6は、劣化情報を読み出す場合のアイドリングストップ装置の処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
<1.第1の実施の形態>
<1−1.構成>
図1は、第1の実施の形態のアイドリングストップ装置1とその周辺要素との構成を示すブロック図である。このアイドリングストップ装置1は、例えば、自動車などの車両に搭載され、信号待ちなどの比較的短時間の車両の停車中において、車両が備えるエンジン57を自動で停止/始動する機能を有している。
【0019】
アイドリングストップ装置1が搭載される車両は、車両各部の電気負荷に電力を供給するバッテリ51を備えている。このバッテリ51には電源ライン91が接続され、この電源ライン91にはユーザが操作可能なイグニッションスイッチ92が設けられている。イグニッションスイッチ92がオンとなると、電源ライン91を介してバッテリ51からアイドリングストップ装置1に電力が供給される。また、イグニッションスイッチ92がオンとなると、車両に搭載される各種の電気負荷に対しても、バッテリ51から電源ライン91を介して電力が供給される。
【0020】
また、このバッテリ51は、発電機であるオルタネータ52によって充電される。オルタネータ52は、エンジン57から伝達される機械的運動エネルギーを交流の電力へと変換し、さらにダイオードを含む整流器で直流の電力へと整流する。発電した電力は、電源ライン91を介してバッテリ51に蓄積される。オルタネータ52が発電する際には発電の目標となる目標電圧が設定され、電源ライン91の電圧が目標電圧となるようにオルタネータ52が発電を行う。
【0021】
また、車両の車室内には、ユーザが視認可能な位置に、バッテリ51の劣化を示す情報を点灯によってユーザに表示する警告灯59が設けられている。この警告灯59は、警告灯駆動部58によって点灯及び滅灯が切り替えられる。
【0022】
アイドリングストップ装置1は、ECU(Electronic Control Unit)として構成されており、主たる構成要素としてマイクロコンピュータ2を備えている。マイクロコンピュータ2は、CPU21、RAM22及びROM23を備えている。マイクロコンピュータ2が備える各種機能は、ROM23に予め記録されたプログラムに従ってCPU21が演算処理を行うことで実現される。このようなマイクロコンピュータ2が備える機能に、アイドリングストップ機能、及び、警告灯59を点灯させる警告機能が含まれている。
【0023】
アイドリングストップ機能は、車両の走行状態に応じて、車両のエンジン57を自動で停止/始動する機能である。車両の走行状態を示す信号は、車両に設けられた各種センサからインターフェイス18を介してマイクロコンピュータ2に入力される。具体的には、車速センサから車両の速度、シフトセンサからシフトレバーのポジション、アクセルセンサからアクセルの操作内容、ブレーキセンサからブレーキの操作内容がそれぞれ信号として入力される。
【0024】
これらの走行状態を示す信号に基づいて所定の停止条件が成立した場合は、アイドリングストップ機能によりエンジン57が停止される。例えば、「車両の速度が0」、「シフトレバーが”D”または”N”」、「アクセルの操作なし」、及び、「ブレーキの操作あり」の各種条件をすべて満足した場合に、停止条件が成立したと判断される。
【0025】
アイドリングストップ機能でエンジン57を停止する際には、マイクロコンピュータ2が、エンジン57を制御するエンジンECU56に対して所定の停止信号を送信する。エンジンECU56は、この信号に応答してエンジン57を停止する。
【0026】
また、アイドリングストップ機能によるエンジン57の停止中に、走行状態を示す信号に基づいて所定の始動条件が成立した場合は、アイドリングストップ機能によりエンジン57が自動で始動される。例えば、「シフトレバーが”D”」、「アクセルの操作あり」、及び、「ブレーキの操作なし」の各種条件をすべて満足した場合に、始動条件が成立したと判断される。
【0027】
アイドリングストップ機能でエンジン57を始動する際には、マイクロコンピュータ2が、アイドリングストップ装置1が備えるスタータ制御回路16に対して所定の始動信号を送信する。スタータ制御回路16は、この信号に応答してリレーコイル53を通電する。このリレーコイル53の通電により、車両のエンジン57を始動するスタータモータ55に接続されたリレースイッチ54がオンとなる。これにより、バッテリ51からスタータモータ55へ電力が供給され、スタータモータ55が駆動してエンジン57が始動する。なお、リレーコイル53は、ユーザが操作可能なスタートスイッチ93をオンすることによっても通電される。ユーザが車両に乗車した際には、このスタートスイッチ93の操作に応答してスタータモータ55が駆動し、エンジン57が始動することになる。
【0028】
また、アイドリングストップ装置1は、マイクロコンピュータ2への電源供給回路として、入力電圧を一定電圧へ降圧するレギュレータ11を備えている。レギュレータ11は、例えば、スイッチングレギュレータとシリーズレギュレータとを組み合わせて構成される。
【0029】
マイクロコンピュータ2の電力は車両のバッテリ51から供給されるが、マイクロコンピュータ2の電源の電圧の理想値は例えば5Vであるのに対し、バッテリ51の通常電圧は例えば12Vである。このため、アイドリングストップ装置1では、バッテリ51の電圧BATTを、レギュレータ11で降圧してマイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCを得るようになっている。
【0030】
なお、レギュレータ11は、入力電圧を上限とする範囲で出力電圧を調整するものであり、入力電圧が一定とすべき目的の電圧より低下すれば、レギュレータ11の出力電圧も目的の電圧より低下することになる。したがって、バッテリ51が劣化している場合においては、バッテリの電圧BATTが低下すれば、それにつれて、レギュレータ11で降圧して得られるマイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCも低下する。
【0031】
また、アイドリングストップ装置1は、マイクロコンピュータ2をリセットするための回路として、減電圧検知部13と、リセット部14と、暴走検知部15とを備えている。
【0032】
減電圧検知部13は、レギュレータ11からマイクロコンピュータ2への電力供給線に接続され、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCを監視する。そして、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが、マイクロコンピュータ2が動作可能な最低動作電圧(以下、記号「Vt」を用いる。)未満となった場合は、リセット部14にリセットすべきことを示す指示信号を出力する。マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vtは例えば3.9Vである。減電圧検知部13は、例えば、電圧VCCと最低動作電圧Vtとを比較するコンパレータで構成される。
【0033】
暴走検知部15は、マイクロコンピュータ2がフリーズするなどの暴走状態に陥っていないかを検出する。暴走検知部15は、例えば、マイクロコンピュータ2のウォッチドッグタイマの動作信号を監視し、規則的な信号が検知されなかった場合に、マイクロコンピュータ2が暴走状態であると判断する。暴走状態となると、マイクロコンピュータ2はリセットしないとその機能を回復できない。このため、暴走検知部15は、リセット部14にリセットすべきことを示す指示信号を出力する。
【0034】
リセット部14は、マイクロコンピュータ2に対してリセットを指示するリセット信号を出力するものである。リセット信号は、通常は”H”であり、”L”となることでマイクロコンピュータ2に対してリセットが指示される。リセット部14は、減電圧検知部13及び暴走検知部15のいずれかからリセットすべきことを示す指示信号が入力されると、リセット信号を”L”とする。マイクロコンピュータ2はこのリセット信号を常時に監視しており、リセット信号が”L”となるとリセットする。すなわち、マイクロコンピュータ2は、一旦動作停止した後、再起動することになる。
【0035】
アイドリングストップ装置1は、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となった場合に、電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となったことを示す情報(以下、「電圧低下情報」という。)を記憶する記憶部3を備えている。減電圧検知部13から出力される指示信号は、記憶部3にも入力される。すなわち、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となった場合は、指示信号により記憶部3にその旨が通知され、それに応答して電圧低下情報が記憶部3に記憶されることになる。
【0036】
記憶部3は、例えば、1ビットの情報を記憶可能な論理回路であるフリップフロップで構成される。記憶部3の最低動作電圧は、マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt(例えば、3.6V)よりも低く、例えば1.6Vとなっている。すなわち、記憶部3は、その電源電圧が、マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vtよりも低くなったとしても、その記憶内容を保持できる。このため、記憶部3は、マイクロコンピュータ2の状態に関わらず、マイクロコンピュータ2のリセット中においても電圧低下情報を記憶できる。
【0037】
バッテリ51の電圧が低下して電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となると、マイクロコンピュータ2はリセットされるが、その一方で記憶部3に電圧低下情報が記憶される。リセット後のマイクロコンピュータ2は、この記憶部3に電圧低下情報が記憶されていることに基づいて、リセット前に電源の電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となったことを把握することが可能となる。
【0038】
このため、リセット後のマイクロコンピュータ2は、記憶部3に電圧低下情報が記憶されている場合は、バッテリ51を交換させるために、バッテリ51の劣化を示す劣化情報をユーザに報知する。具体的には、マイクロコンピュータ2は、警告機能により、警告灯駆動部58に所定の点灯信号を送信する。警告灯駆動部58は、この信号に応答して警告灯59を点灯する。これにより、バッテリ51の劣化を示す劣化情報が車室内のユーザに報知される。
【0039】
バッテリ51の電圧が大きく低下する現象は、スタータモータ55が必要とする電力が非常に大きいことから、エンジン57を始動する際に発生する。以下、このようにエンジン57を始動する際に、バッテリ51の電圧が大きく低下し、マイクロコンピュータ2がリセットされる場合の処理について詳細に説明する。
【0040】
<1−2.処理>
図2は、マイクロコンピュータ2のリセットに関連するアイドリングストップ装置1の処理の流れを示す図である。
【0041】
まず、マイクロコンピュータ2をリセットすべき条件が成立したか否かが判断される。具体的には、減電圧検知部13により、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが、マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt未満となっていないかが判断される(ステップS11)。これとともに、暴走検知部15により、マイクロコンピュータ2が暴走状態に陥っていないかが判断される(ステップS12)。電圧VCCが最低動作電圧Vt以上であり(ステップS11にてNo)、かつ、マイクロコンピュータ2が暴走状態でない場合は(ステップS12にてNo)、処理が終了する。
【0042】
また、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となった場合は(ステップS11にてYes)、減電圧検知部13からリセット部14に指示信号が出力される。また、この指示信号は記憶部3にも入力され、これに応答して記憶部3において電圧低下情報が記憶される(ステップS13)。
【0043】
一方、マイクロコンピュータ2が暴走状態となった場合にも(ステップS12にてYes)、減電圧検知部13からリセット部14に指示信号が出力される。
【0044】
リセット部14は、減電圧検知部13及び暴走検知部15のいずれかから指示信号が入力されると、リセット信号を”L”とする。マイクロコンピュータ2は、このリセット信号が”L”となったことに応答してリセットされる(ステップS14)。記憶部3に電圧低下情報が記憶されている場合は、このようなマイクロコンピュータ2のリセット中においても記憶部3の電圧低下情報の記憶が保持される。
【0045】
その後、マイクロコンピュータ2は再起動する。再起動したマイクロコンピュータ2は、記憶部3に電圧低下情報が記憶されているか否かを確認する(ステップS15)。記憶部3に電圧低下情報が記憶されていない場合は(ステップS15にてNo)、暴走状態となったことに起因してマイクロコンピュータ2がリセットされたと判断し、処理を終了する。
【0046】
一方、記憶部3に電圧低下情報が記憶されていた場合は(ステップS15にてYes)、電圧VCCが最低動作電圧Vt未満となったことに起因してマイクロコンピュータ2がリセットされたと判断する。この場合は、バッテリ51が劣化して、その電圧が通常よりも低下した状態となっている。このため、バッテリ51を交換させるために、マイクロコンピュータ2は、警告機能により警告灯駆動部58に所定の点灯信号を送信し、警告灯59を点灯させる(ステップS16)。
【0047】
図3は、エンジンの始動時にバッテリ51の電圧が低下する場合における各種信号の変化を示すタイムチャートである。このチャートの開始時点では、イグニッションスイッチ92はオフとされ、エンジン57は始動されておらず、警告灯59は滅灯している。
【0048】
まず、時点T1において、ユーザの操作によりイグニッションスイッチ92がオンとなる。これにより、バッテリ51からアイドリングストップ装置1に電力が供給され、マイクロコンピュータ2が起動する。
【0049】
次に、時点T2において、ユーザの操作によりスタートスイッチ93がオンとなりスタータモータ55が駆動される。このスタータモータ55の駆動に伴ってバッテリ51の電圧BATTが低下する。これにより、電源ライン91の電圧が低下する。さらに、バッテリ51が劣化している場合は、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCも低下する。
【0050】
このようにして、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが低下して、時点T3において、マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt未満となると、減電圧検知部13がこれを検知し、指示信号を発生する(”H”とする)。これを受けて、リセット部14は、リセット信号を”L”とし、マイクロコンピュータ2はリセットのために動作を停止する。これとともに、減電圧検知部13からの指示信号が記憶部3にも入力され、記憶部3において電圧低下情報が記憶される。
【0051】
その後、エンジン57の回転に伴いスタータモータ55の負荷が小さくなると、バッテリ51の電圧BATTが徐々に上昇していく。このため、電源ライン91の電圧や、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCも上昇する。そして、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが上昇して、時点T4において、マイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt以上となると、減電圧検知部13は指示信号を停止する(”L”とする)。これを受けて、リセット部14はリセット信号を”H”とし、マイクロコンピュータ2が再起動する。
【0052】
再起動したマイクロコンピュータ2は、記憶部3に電圧低下情報が記憶されていることを確認し、警告機能により警告灯駆動部58に所定の点灯信号を送信する。これにより、時点T4以降は、警告灯59を点灯して、車室内のユーザにバッテリ51の劣化を示す劣化情報が報知される。
【0053】
時点T5において、ユーザの操作によりイグニッションスイッチ52がオフとなると、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCが0となり、マイクロコンピュータ2が動作を停止する。また、記憶部3から電圧低下情報が消去されることになる。
【0054】
以上のように、本実施の形態のアイドリングストップ装置1においては、バッテリ51の電圧が低下して、マイクロコンピュータ2の電源の電圧VCCがマイクロコンピュータ2の最低動作電圧Vt未満となった場合に、マイクロコンピュータ2がリセットされる。その一方で、電圧低下情報が記憶部3に記憶される。このため、リセット後のマイクロコンピュータ2は、電圧低下情報に基づいてバッテリ51の電圧が低下したことを把握でき、バッテリ51の劣化を示す劣化情報を車室内にいるユーザに報知することができる。これにより、ユーザはバッテリ51を交換するなどの措置をとることができる。
【0055】
また、車室内に設けられる警告灯59に劣化情報を表示させるため、バッテリ51が劣化したことを、車室内のユーザ(特に、車両を運転中のドライバ)に速やかに報知することができる。
【0056】
<2.第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、警告灯59を点灯させることでバッテリ51の劣化を示す劣化情報を車室内にいるユーザに報知するようにしていたが、第2の実施の形態では、車両を整備する整備担当者などのユーザに劣化情報を報知するようにしている。第2の実施の形態のアイドリングストップ装置1の構成及び処理は第1の実施の形態とほぼ同様であるため、以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0057】
図4は、第2の実施の形態のアイドリングストップ装置1とその周辺要素との構成を示すブロック図である。第2の実施の形態においては、マイクロコンピュータ2が、CPU21、RAM22及びROM23の他に、SRAM(Standby RAM)24、及び、通信部25を備えている。
【0058】
SRAM24は、その電源電圧がバッテリ51から直接的に供給されるように構成された記憶装置である。このような構成により、SRAM24は、イグニッションスイッチ52のオン/オフに関わらず、バッテリ51が交換されるまでその記憶内容を保持するようになっている。SRAM24には、アイドリングストップ装置1に係る各種の情報を示すダイアグコードが記憶される。
【0059】
また、通信部25は、車両に設けられた車内LAN用の通信ライン81を介して、通信ライン81に接続された装置と通信を行うものである。車両を整備するユーザは、この通信ライン81に対して、ダイアグコードを読み出すための外部装置である読出ツールTを接続することが可能である。通信部25は、通信ライン81を介して読出ツールTからの読出信号を受信すると、これに応答してSRAM24に記憶されたダイアグコードを読み出して読出ツールTに送信する。これにより、ダイアグコードの内容が読出ツールTにおいて表示される。
【0060】
第2の実施の形態では、記憶部3に電圧低下情報が記憶されている場合は、バッテリ51の劣化を示す劣化情報がダイアグコードとしてSRAM24に記憶される。このダイアグコードが読出ツールTを利用して読み出されることで、バッテリ51の劣化を示す劣化情報がユーザに報知されることになる。
【0061】
図5は、第2の実施の形態における、マイクロコンピュータ2のリセットに関連するアイドリングストップ装置1の処理の流れを示す図である。この処理におけるステップS21〜S25は、図2のステップS11〜S15と同一である。ステップS26の処理のみが第1の実施の形態と異なっている。
【0062】
すなわち、再起動したマイクロコンピュータ2が電圧低下情報が記憶部3に記憶されているか否かを確認し、電圧低下情報が記憶部3に記憶されていた場合は(ステップS25にてYes)、マイクロコンピュータ2は、バッテリ51の劣化を示す劣化情報をダイアグコードとしてSRAM24に記憶する(ステップS26)。このようにSRAM24に記憶された劣化情報は、通信ライン81に接続された読出ツールTによって読み出し可能とされる。
【0063】
図6は、劣化情報を読み出す場合のアイドリングストップ装置1の処理の流れを示す図である。この処理は、例えば、車両が整備される場合などに実行される。
【0064】
まず、通信部25が、読出ツールTからダイアグコードの読み出しを要求する読出信号を受信するか否かが判断される(ステップS31)。
【0065】
そして、通信部25が読出信号を受信した場合において(ステップS31にてYes)、SRAM24に劣化情報が記憶されていた場合は(ステップS32にてYes)、その劣化情報が読み出されて、通信部25から読出ツールTに送信される(ステップS33)。
【0066】
これにより、読出ツールTに劣化情報が表示されることになり、読出ツールTを取り扱う車両を整備するユーザは、バッテリ51が劣化していることを明確に把握することが可能となり、ユーザはバッテリ51を交換するなどの措置をとることができる。
【0067】
<3.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態で説明した形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0068】
上記第1の実施の形態では車室内にいるユーザに劣化情報を報知し、第2の実施の形態では車両を整備するユーザに劣化情報を報知するようにしていたが、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを組み合わせて、車室内にいるユーザと車両を整備するユーザとの双方に、バッテリ51の劣化を示す劣化情報を報知できるようにしてもよい。
【0069】
また、第1の実施の形態では、劣化情報を表示する表示手段として警告灯59を採用していたが、ナビゲーション装置など、車両の車室内に設けられる表示手段であればどのようなものを採用してもよい。
【0070】
また、第1の実施の形態では、表示により劣化情報をユーザに報知していたが、警告音の出力などにより劣化情報をユーザに報知するようにしてもよい。
【0071】
また、マイクロコンピュータ2は、記憶部3に電圧低下情報が記憶されているときは、以降、アイドリングストップ機能を無効化するようにしてもよい。このようにすれば、オルタネータ52によるバッテリの充電を強化することができ、バッテリ51の電圧の低下を防止できる。
【0072】
また、記憶部3の電源電圧をバッテリ51から直接的に供給するようにしたり、EEPROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを記憶部3として採用してもよい。この場合は、イグニッションスイッチのオン/オフに関わらず、電圧低下情報を記憶部3に記憶させることができる。このため、バッテリ51の電圧低下に起因するマイクロコンピュータ2のリセットが一回でも生じれば、以降、バッテリ51の劣化を示す情報をユーザに報知できる。電圧低下情報は、バッテリ51の交換時に記憶部3から消去するようにすればよい。また、この構成の場合は、記憶部3に劣化情報を記憶させてもよく、電圧低下情報をそのまま劣化情報として用いてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態のSRAM24に代えて、EEPROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを採用してもよい。
【0074】
また、上記実施の形態では、記憶部3は1ビットの情報を記憶可能な論理回路で構成されていたが、比較的大きな記憶容量を有するメモリなどを採用してもよい。ただし、上記実施の形態のように、記憶部3を1ビットの情報を記憶可能な論理回路を1つのみ備えて構成すれば、記憶部3を非常に低コストで実現することができる。
【0075】
また、上記実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 アイドリングストップ装置
2 マイクロコンピュータ
3 記憶部
13 減電圧検知部
51 バッテリ
59 警告灯
81 通信ライン
T 読出ツール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両のエンジンを自動で停止/始動するアイドリングストップ装置であって、
所定の停止条件が成立したときに前記エンジンを自動で停止するとともに、前記エンジンの停止中に所定の始動条件が成立したときに前記エンジンを自動で始動するアイドリングストップ機能を有するマイクロコンピュータと、
前記車両のバッテリの電圧を降圧して得られる前記マイクロコンピュータの電源の電圧が前記マイクロコンピュータの最低動作電圧未満となったことを検知する検知手段と、
前記電源の電圧が前記最低動作電圧未満となった場合に、前記マイクロコンピュータの状態に関わらず電圧低下情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に前記電圧低下情報が記憶されている場合は、前記バッテリの劣化を示す劣化情報をユーザに報知する報知手段と、
を備えることを特徴とするアイドリングストップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアイドリングストップ装置において、
前記報知手段は、前記車両の車室内に設けられる表示手段に前記劣化情報を表示させることを特徴とするアイドリングストップ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のアイドリングストップ装置において、
前記報知手段は、
前記劣化情報を記憶する記憶装置と、
外部装置からの信号に応答して、前記記憶装置に記憶された前記劣化情報を前記外部装置に送信する送信手段と、
を備えることを特徴とするアイドリングストップ装置。
【請求項4】
所定の停止条件が成立したときに車両のエンジンを自動で停止するとともに、前記エンジンの停止中に所定の始動条件が成立したときに前記エンジンを自動で始動するアイドリングストップ機能を有するマイクロコンピュータが搭載された車両におけるバッテリの劣化報知方法であって、
前記車両のバッテリの電圧を降圧して得られる前記マイクロコンピュータの電源の電圧が前記マイクロコンピュータの最低動作電圧未満となったことを検知する工程と、
前記電源の電圧が前記最低動作電圧未満となった場合に、前記マイクロコンピュータの状態に関わらず電圧低下情報を記憶手段に記憶する工程と、
前記記憶手段に前記電圧低下情報が記憶されている場合は、前記バッテリの劣化を示す情報をユーザに報知する工程と、
を備えることを特徴とするバッテリの劣化報知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−174414(P2011−174414A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39114(P2010−39114)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】