説明

アクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置

【課題】 簡単な構造で装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能なだけでなく、移動の真直性とX−Y方向の直交性に優れたアクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置を提供する。
【解決手段】 被駆動部材35において、2つの駆動体41,42を、直交する2軸に対して線対称となるように配置することで、各駆動体の移動方向の傾きを相殺し、各駆動体の2つの電気機械変換素子に、互いに同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の変位の往復時の速度を異ならせて振動させることで移動部材を移動するためのインパクト式アクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置としては、ステッピングモータやボイスコイルモータなどの電磁方式による駆動が一般的に用いられていたが、近年の電子機器の小型化に伴い、アクチュエータとして圧電素子などの電気機械変換素子を駆動方式に用いることで、位置決め装置そのものを小型化しようとする開発が活発に行われている。
【0003】
たとえば、特許文献1および特許文献2に開示されているように、圧電素子を伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることで、被駆動部材を移動させるアクチュエータが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−110919号公報
【特許文献2】特開2006−81348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示されている方法においては、駆動部材の長さに被駆動部材の可動範囲が限定され、動作ストロークを大きくできないという問題があった。また、X−Yの2次元に移動可能とするために、固定部材に対して2つの駆動部材と被駆動部材が必要であり、各々を独立して駆動するので、積層して構成する必要があり、同一平面上に設置できないため、駆動装置の厚さを薄くすることが困難であった。
【0006】
本発明者は、上記に鑑みて、新たに平面上をX−Y方向に移動可能で自走可能な駆動機構への適用が好適なアクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置を開発して、移動ストロークを大きくでき、かつ、簡単な構造により同一平面上で駆動させることができるため、装置の低背化が可能な発明を出願している。
【0007】
図6は、参考例のアクチュエータの基本構成を示す。図6(a)は上面方向からの外観平面図、図6(b)は図6(a)の側面図(A6方向矢視図)である。略直方体の磁石61の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としての積層型圧電セラミックによる圧電セラミック素子51,52の変位方向の一端を、エポキシ樹脂等を用いて接着してなる駆動体71と、これと同じ構成の駆動体72(磁石62と圧電セラミック素子53、54からなる)と、これらの圧電セラミック素子51,52,53,54の各変位方向の他端がエポキシ樹脂等を用いて接着されている被駆動部材65と、磁石61,62に対して磁力によって吸着可能な固定部材66とから構成されている。圧電セラミック素子51,52,53,54の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材65と駆動体71,72からなる移動体73を、固定部材66に対して移動させる機構を有している。すなわち、同じ平面に配置された駆動体71,72によって、固定部材66の平面上をX−Y方向の2次元に並進移動可能な自走型のアクチュエータ76である。被駆動部材65は、直方体の平板から駆動体71,72を配置する部分として、対角上の部分を矩形に切り取った形状にしているが、被駆動部材65は、駆動体71,72が接続できる形状であれば、直方体とは限らない。
【0008】
図6のアクチュエータ76は、伸長時と縮小時とで異なる速度で伸縮をする電圧を圧電セラミック素子51,52,53,54に印加して伸縮時間の差による摩擦と滑りを利用したインパクト駆動方式を用いている。駆動方法について、図7を使用して詳細に説明する。図7は、参考例のアクチュエータに係る駆動方法を説明するもので、図7(a)は移動状況の簡略図、図7(b)は圧電セラミック素子51のタイムチャート、図7(c)は圧電セラミック素子54のタイムチャート、図7(d)は移動体のタイムチャートである。Y方向に移動させる場合について説明する。圧電セラミック素子51、54に、図7(b)、図7(c)のタイムチャートのように、t1の時間において駆動電圧を入力すると、図面左下の圧電セラミック素子51が伸び、右上の圧電セラミック素子54が縮み、移動体73はゆっくり+Y方向に移動する。このとき磁石61,62は、固定部材66と磁力によって吸着された状態で移動しない。また、圧電セラミック素子51,54に、図7(b)、図7(c)のタイムチャートのように、t2の時間において駆動電圧を入力すると、左下の圧電セラミック素子51が縮み、右上の圧電セラミック素子54が伸びるが、磁石61,62と固定部材66との最大静止摩擦力を超える加速度で圧電セラミック素子51,54は急速に変形するため、磁石61,62と固定部材66との間で滑りが生じて、磁石61,62は移動するが、移動体73は−Y方向に移動することはできない。よって、図7(d)に示す移動体73の移動になる。これを連続的に繰り返せば、移動体73は、固定部材66に対して一方向に連続的に移動する。なお、駆動方向を反転させるには、圧電セラミック素子51,54に入力する駆動電圧の極性を反対にすれば良い。同様に、圧電セラミック素子52,53により、X方向の移動を行うことができる。
【0009】
図7では、三角波状の入力電圧(駆動電圧)波形を与えた場合の駆動について説明したが、これは駆動方法の1例であって、各部品形状に応じて周波数を調整した矩形波状の入力電圧(駆動電圧)を入力するようにしても、同様に圧電セラミック素子を振動させることができる。
【0010】
すなわち、図6に示すアクチュエータにおいては、Y方向への移動は圧電セラミック素子51,54の伸縮方向に一致し、X方向への移動は圧電セラミック素子52,53の伸縮方向に一致する。
【0011】
図6に示すアクチュエータのY方向への移動について詳細に説明する。圧電セラミック素子51,54の伸縮は、それぞれ同じ駆動体71,72を形成する圧電セラミック素子52,53によって拘束されるため、磁石61,62の振動方向はY軸に沿わずに拘束される向きに傾いてしまう。このときの傾きは磁石61,62で同じため(α°とする)、移動体73の移動方向もY軸に対してα°傾いてしまうことになる。X方向への移動についても、Y方向と同様に、圧電セラミック素子52,53の伸縮は、それぞれ同じ駆動体71,72を形成する圧電セラミック素子51,54によって拘束されるため、磁石61,62の振動方向および移動体73の移動方向はX軸に対して、拘束される向きにβ°傾いてしまう。
【0012】
拘束される向きとは、Y方向への移動の場合は、図6(a)のY軸に対して反時計回りの方向であり、X方向への移動の場合は、図6(a)のX軸に対して時計回りの方向である。すなわち、傾き方向が逆であるから、傾きα,βの大きさが同じであっても、移動体73においてX方向とY方向への移動は直交しない。
【0013】
本発明者らの提案による図6の参考例のアクチュエータは、公知の従来技術と比較して、移動ストロークを大きくでき、かつ、簡単で装置の低背化が可能な構造であるが、移動の真直性とX−Y方向の直交性に関しては十分とは言えないという課題が残っていた。
【0014】
この状況にあって、本発明の課題は、簡単な構造で装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能なだけでなく、移動の真直性とX−Y方向の直交性に優れたアクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、上記課題を解決するために、被駆動部材において、2つの駆動体を、直交する2軸に対して線対称となるように配置することで、各駆動体の移動方向の傾きを相殺し、各駆動体の2つの電気機械変換素子に、互いに同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に駆動している。
【0016】
本発明によれば、少なくとも2つの電気機械変換素子と該電気機械変換素子各々の一端が接続された磁石とを備えた駆動体と、前記電気機械変換素子の各々の前記一端との相対位置が変位する他端が固定されている被駆動部材とを有する移動体と、前記磁石により吸着可能な固定部材とを備え、前記電気機械変換素子の前記変位方向により速度を異ならせて振動させることにより、前記移動体が前記固定部材に対して移動するアクチュエータであって、2つの駆動体が、直交する2軸に対して線対称に配置されているアクチュエータが得られる。
【0017】
本発明によれば、前記駆動体を構成する2つの電気機械変換素子に、同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に駆動するアクチュエータが得られる。
【0018】
本発明によれば、前記アクチュエータを有する位置決め装置が得られる。
【0019】
前記被駆動部材としては、ポリカーボネートや紙ベークなどの密度が低く、加工性に優れた樹脂材料が望ましい。
【0020】
前記磁石部材としては、ネオジム系、またはサマリウム系の希土類磁石などの強い吸着力が発生可能な磁性材料が望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、インパクト駆動方式によって、被駆動部材と駆動体からなる移動体が、固定部材に対して移動するが、少なくとも2つの駆動体を、直交する2軸に対して線対称となるように被駆動部材に配置するため、電気機械変換素子の振動が拘束されることによる移動方向の傾きを2つの駆動体で相殺し、移動体の直進性を向上することができる。
【0022】
なお、各駆動体において、2つの電気機械変換素子に、互いに同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に移動することができるため、X軸およびY軸に沿った駆動がそれぞれ可能となる。
【0023】
以上のように、本発明により、簡単な構造で装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能なだけでなく、移動の真直性とX−Y方向の直交性に優れたアクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のアクチュエータの基本構成を示す。図1(a)は上面方向からの外観平面図、図1(b)は図1(a)の側面図(A1方向矢視図)である。
【図2】本発明の実施例1と比較例1に係るアクチュエータについて、磁石の振動方向および振動量をシミュレーションした結果である。図2(a)は実施例1の結果、図2(b)は比較例1の結果である。
【図3】本発明のアクチュエータのX方向への駆動方法を説明するもので、図3(a)は移動状況の簡略図、図3(b)は圧電セラミック素子11,12のタイムチャート、図3(c)は圧電セラミック素子13,14のタイムチャート、図3(d)は移動体のタイムチャートである。
【図4】本発明のアクチュエータのY方向への駆動方法を説明するもので、図4(a)は移動状況の簡略図、図4(b)は圧電セラミック素子11,13のタイムチャート、図4(c)は圧電セラミック素子12,14のタイムチャート、図4(d)は移動体のタイムチャートである。
【図5】本発明の実施例2と比較例2のアクチュエータについて、XおよびY方向に駆動したときの移動経路を評価した結果を示す。図5(a)は実施例2の結果、図5(b)は比較例2の結果である。
【図6】参考例のアクチュエータの基本構成を示す。図6(a)は上面方向からの外観平面図、図6(b)は図6(a)の側面図(A6方向矢視図)である。
【図7】参考例のアクチュエータの駆動方法を説明するもので、図7(a)は移動状況の簡略図、図7(b)は圧電セラミック素子51のタイムチャート、図7(c)は圧電セラミック素子54のタイムチャート、図7(d)は移動体のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のアクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置は、被駆動部材において、少なくとも2つの駆動体を、直交する2軸に対して線対称となるように配置することで、各駆動体の移動方向の傾きを相殺し、各駆動体の2つの電気機械変換素子に、互いに同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に駆動している。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて、電気機械変換素子の変位の振動が伸縮振動の場合で説明する。
【0027】
図1は本発明のアクチュエータの基本構成を示す。図1(a)は上面方向からの外観平面図、図1(b)は図1(a)の側面図(A1方向矢視図)である。図1においても、図6に示した参考例のアクチュエータと同様に、直方体の磁石31の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としての圧電セラミック素子11,12の各変位方向の一端を、エポキシ樹脂等を用いて接着してなる駆動体41と、これと同じ構成の駆動体42(磁石32と圧電セラミック素子13,14からなる)と、これらの圧電セラミック素子11,12,13,14の各変位方向の他端がエポキシ樹脂等を用いて接着されている被駆動部材35と、磁石31,32に対して磁力によって吸着可能な固定部材36とから構成され、圧電セラミック素子11,12,13,14の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材35と駆動体41,42からなる移動体43を固定部材36に対して移動させる機構を有している。但し、本実施の形態では、駆動体41,42が駆動軸となるX軸,Y軸に対して線対称となるように配置されている。すなわち、同じ平面に配置された駆動体41,42によって、固定部材36の平面上をX−Y方向の2次元に並進移動可能な自走型のアクチュエータ46である。
【0028】
また、移動体43の駆動に関しては、同じ駆動体41,42を構成する2つの圧電セラミック素子11,12および圧電セラミック素子13,14に、同じ電圧波形を入力することでX方向に移動し、電圧の正負が反対の電圧波形を入力することでY方向に移動する。このとき、4つの圧電セラミック素子11,12,13,14に入力される電圧波形は、さらに、被駆動部材35における配置が、各駆動軸(進行方向)に対して、前方2つと後方2つとの間で電圧の正負が反対となるようにしている。(X方向駆動時:−X側の圧電セラミック素子11,12に対して、+X側の圧電セラミック素子13,14の入力波形は電圧の正負が反対、Y方向駆動時:+Y側の圧電セラミック素子11,13に対して、−Y側の圧電セラミック素子12,14の入力波形は電圧の正負が反対)
【0029】
圧電セラミック素子11,12,13,14は、同じ形状であり、かつ、所定の電圧に対する変位量も同じであると良い。所定の変位を発生できれば材質や構造を適宜選択できるものであるが、小型で駆動電圧を小さくできることから積層型圧電セラミックを用いるものとする。
【0030】
磁石31,32は、同じ材質からなり、同じ形状で、同じ表面粗さと同じ吸着力を有することが望ましい。又、磁石31,32は、直方体の例を示したが、固定部材36に安定して吸着できる底面を有し、2つの圧電セラミック素子を接続できる形状であれば良い。磁石31、32の材質は特に限定されないが、強い吸着力が発生可能なネオジウム系またはサマリウム系の希土類磁石とすることが好ましい。
【0031】
被駆動部材35としては、ポリカーボネートや紙ベークなどの密度が低く、加工性に優れた樹脂材料が望ましい。
【0032】
被駆動部材35と固定部材36は直接、接触していないことが望ましい。被駆動部材35と固定部材36を接触させるように構成することでも、本発明の効果は得られるが、移動時の摩擦力の増加による速度低下が生じやすくなる。
【0033】
図1に示したように駆動体は2個である必要はなく、直交する軸に対して線対称になるように、移動体の4角に1個ずつというように構成してもよい。変位のモードを伸縮モードで説明したが、例えば、伸縮モードに限らずに円弧状の圧電素子の両端を接続して曲げモードを用いれば接続間の距離を変位できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げ、本発明のアクチュエータについて、図面を参照して具体的に、電気機械変換素子の変位の振動が伸縮振動の場合で説明する。
【0035】
本発明の実施の形態に係る実施例のアクチュエータ46について説明する。アクチュエータ46の構造は実施の形態で説明した図1と同様である。圧電セラミック素子11,12,13,14として、断面寸法が縦0.9mm×横0.9mm、高さ1.4mm の圧電積層型セラミックを準備した。これらの圧電セラミック素子の変位発生方向は、積層方向である。磁石31,32として、断面寸法が縦1.0mm×横1.0mm、高さ1.3mmのネオジム系希土類磁石を準備した。磁石31の直交する2面に、圧電セラミック素子11,12の各変位発生方向の一方の端面側で、熱硬化性エポキシ樹脂を用いて接着して、駆動体41とした。この時、磁石31と圧電セラミック素子11,12の接着位置は、被駆動部材35と固定部材36が接触しないような位置にした。駆動体42については、圧電セラミック素子13,14と磁石32により、駆動体41と同様にして作製した。
【0036】
これらの駆動体41,42を、図1に示す配置で、被駆動部材35にエポキシ樹脂を用いて接着して移動体43とした。被駆動部材35は、紙ベーク製で、縦22mm×横22mm×厚さ2.0mmの矩形の平板から、駆動体41,42を配置する部分として対角上の6mm×6mmの部分を矩形に切り取った形状にした。
【0037】
移動体43は、磁石に吸着可能なSUS430からなる固定部材36に、磁石31,32の磁力により吸着しており、圧電セラミック素子11,12に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を入力し、同時に、圧電セラミック素子13,14に圧電セラミック素子11,12と伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を入力することで、移動体43は固定部材36に対して、図1のX方向へと移動する。圧電セラミック素子11,13に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を入力し、同時に、圧電セラミック素子12,14に圧電セラミック素子11,13と伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を入力することで、移動体43は固定部材36に対して、図1のY方向へと移動する。
【0038】
また、図6に記載の参考例のアクチュエータとの比較のために、図6の構造のアクチュエータについても同様に作製し、比較例とした。なお、圧電セラミック素子、磁石、被駆動部材、固定部材のいずれについても、上記の実施例と同じ形状および特性を有するものを使用した。すなわち、本実施例のアクチュエータ46と比較例のアクチュエータ76との構造上の違いは、固定部材(駆動軸)に対する移動体の配置(45°回転している)だけであり、移動体43と移動体73は同じ構造である。なお、比較例のアクチュエータ76の駆動方法については、段落[0008]にて記述したため割愛する。
【0039】
(実施例1)
はじめに、本発明の実施例および比較例のアクチュエータについて、シミュレーションを行った。具体的には、参考例の移動体73について、圧電セラミック素子51,52に電圧を入力した場合の、駆動体71の振動状態をシミュレーションした。駆動体72の振動状態については向きが異なるだけで、原理は同一であるため割愛した。シミュレーションソフトにはPiezo plus(株式会社ウェーブリサーチ製)を使用した。計算に用いた材料定数は、被駆動部材65については、紙ベークの値として密度1350kg/m3,ヤング率5GPa,ポアソン比0.35を用い、磁石61については、ネオジム系磁石の値として密度7600kg/m3,ヤング率200GPa,ポアソン比0.3を用いた。圧電セラミック素子51,52については、一般的な圧電アクチュエータ用ソフト系PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)材料の値を使用したが、計算の簡素化のために、積層型ではなくバルク単板とした。印加電圧には1Vp−pの正弦波を設定し、その周波数を20kHzから1000kHzまで20kHz間隔で変化させたときの、磁石61のX方向およびY方向への振動量を計算した。
【0040】
前述のとおり、実施例の移動体43と比較例の移動体73は同じ構造であるから、圧電セラミック素子51,52へ同じおよび電圧の正負が反転した電圧を入力した場合を本発明の実施例1とし、圧電セラミック素子52のみに電圧を入力した場合(X方向駆動)を比較例1とした。なお、圧電セラミック素子51のみに入力した場合(Y方向駆動)は、圧電セラミック素子52のみへの入力と比較して、向きが異なるだけで、原理は同一であるため割愛した。
【0041】
図2は、本発明の実施例1と比較例1に係るアクチュエータについて、磁石の振動方向および振動量をシミュレーションした結果である。図2(a)は実施例1の結果、図2(b)は比較例1の結果である。実施例1については、図2(a)に示されるとおり、同じ電圧および正負が反転した電圧のいずれの場合も、計算した周波数範囲において、X方向とY方向の振動量がおおよそ一致していた。すなわち、磁石61の振動方向が図6(a)のX軸とY軸のちょうど中間である(X軸に対して±45°回転している)ことを示している。図示していないが、シミュレーション結果より、磁石61の振動方向は、圧電セラミック素子51,52に同じ電圧波形を入力した場合には、図6(a)のX軸に対して反時計回りに45°回転しており、電圧の正負が反転した電圧波形を入力した場合には、図6(a)のX軸に対して時計回りに45°回転していた。これは、図1に示される本発明の実施例のアクチュエータ46において、磁石31は、圧電セラミック素子11,12に同じ電圧波形を入力した場合には図1(a)のX軸に沿って振動し、電圧の正負が反転した電圧波形を入力した場合には図1(a)のY軸に沿って振動することを表している。
【0042】
また、圧電セラミック素子51,52に同じ電圧波形を入力した場合には、磁石61内部に移動量の違いはなかったが、電圧の正負が反転した電圧波形を入力した場合には、圧電セラミック素子51,52による拘束のため、磁石61の移動量はXY平面において分布を有し、移動体の中心に近い方が小さく、外側に向けて同心円状に大きくなっていた。これは、駆動体が1つの場合には、同じ電圧波形を入力した場合には駆動軸に沿った移動ができるが、電圧の正負が反転した波形では、駆動軸に対して移動体の左右で移動速度が異なることを示している。しかしながら、本発明の実施例においては、駆動体2つの配置と圧電セラミック素子への入力を、駆動軸に対して線対称となるように行っているため、電圧の正負が反転した波形による場合でも、振動量の差異は相殺され、駆動軸に沿った移動が可能となる。これは、図1に示される本発明の実施例のアクチュエータ46において、移動体43は、圧電セラミック素子11,12に同じ電圧波形を入力した場合には図1(a)のX軸に沿って駆動し、電圧の正負が反転した電圧波形を入力した場合には図1(a)のY軸に沿って駆動することを表している。すなわち、本発明の実施例のアクチュエータ46は直交する2軸に沿った駆動が可能である。
【0043】
一方、比較例1では、図2(b)のとおり、圧電セラミック素子52のみに電圧を入力しているにも関わらず、X方向への振動に加えて、Y方向への振動も観察された。すなわち、比較例のアクチュエータ76を駆動する場合に、移動体73はX軸(駆動軸)に沿って移動しない。また、図示していないが、シミュレーション結果より、比較例1における磁石61の振動は、図6(a)のX軸に対して時計回り方向へ傾いていた。圧電セラミック素子51のみに電圧を印加した場合には、磁石61の振動は、図6(a)のY軸に対して反時計回り方向へ傾くので、比較例のアクチュエータ76においては移動体73の駆動軸は直交しない。
【0044】
本発明の駆動方法について、図3および図4を使用して詳細に説明する。図3は本発明のアクチュエータのX方向への駆動方法を説明するもので、図3(a)は移動状況の簡略図、図3(b)は圧電セラミック素子11,12のタイムチャート、図3(c)は圧電セラミック素子13,14のタイムチャート、図3(d)は移動体のタイムチャートである。圧電セラミック素子11,12には図3(b)、圧電セラミック素子13,14には図3(c)のタイムチャートのように、t1の時間において駆動電圧を入力すると、図面左側の圧電セラミック素子11,12が伸び、右側の圧電セラミック素子13,14が縮み、移動体43はゆっくり+X方向に移動する。このとき磁石31,32は、固定部材36と磁力によって吸着された状態で移動しない。また、圧電セラミック素子11,12には図3(b)、圧電セラミック素子13,14には図3(c)のタイムチャートのように、t2の時間において駆動電圧を入力すると、左側の圧電セラミック素子11,12が縮み、右側の圧電セラミック素子13,14が伸びるが、磁石31,32と固定部材36との最大静止摩擦力を超える加速度で圧電セラミック素子11,12,13,14は急速に変形するため、磁石31,32と固定部材36との間で滑りが生じて、磁石31,32は移動するが、移動体43は−X方向に移動することはできない。よって、図3(d)に示す移動体43の移動になる。これを連続的に繰り返せば、移動体43は、固定部材36に対して一方向に連続的に移動する。なお、駆動方向を反転させるには、圧電セラミック素子11,12,13,14に入力する駆動電圧の極性を反対にすれば良い。すなわち、駆動体41を構成する2つの圧電セラミック素子11,12と駆動体42を構成する2つの圧電セラミック素子13,14に、それぞれ同じ電圧を入力することで、X軸方向へ駆動することができる。
【0045】
図4は本発明のアクチュエータのY方向への駆動方法を説明するもので、図4(a)は移動状況の簡略図、図4(b)は圧電セラミック素子11,13のタイムチャート、図4(c)は圧電セラミック素子12,14のタイムチャート、図4(d)は移動体のタイムチャートである。圧電セラミック素子11,13には図4(b)、圧電セラミック素子12、14には図4(c)のタイムチャートのように、t1の時間において駆動電圧を入力すると、図面上側の圧電セラミック素子11,13が伸び、下側の圧電セラミック素子12,14が縮み、移動体43はゆっくり+Y方向に移動する。このとき磁石31,32は、固定部材36と磁力によって吸着された状態で移動しない。また、圧電セラミック素子11,13には図4(b)、圧電セラミック素子12,14には図4(c)のタイムチャートのように、t2の時間において駆動電圧を入力すると、上側の圧電セラミック素子11,13が縮み、下側の圧電セラミック素子12,14が伸びるが、磁石31,32と固定部材36との最大静止摩擦力を超える加速度で圧電セラミック素子11,12,13,14は急速に変形するため、磁石31,32と固定部材36との間で滑りが生じて、磁石31,32は移動するが、移動体43は−Y方向に移動することはできない。よって、図4(d)に示す移動体43の移動になる。これを連続的に繰り返せば、移動体43は、固定部材36に対して一方向に連続的に移動する。なお、駆動方向を反転させるには、圧電セラミック素子11,12,13,14に入力する駆動電圧の極性を反対にすれば良い。すなわち、駆動体41を構成する2つの圧電セラミック素子11,12と駆動体42を構成する2つの圧電セラミック素子13,14に、それぞれ電圧の正負が反対の電圧を入力することで、Y軸方向へ駆動することができる。
【0046】
図3および図4では、三角波状の入力電圧(駆動電圧)波形を与えた場合の駆動について説明したが、各部品形状に応じて周波数を調整した矩形波状の入力電圧(駆動電圧)を印加するようにしても、同様に圧電セラミック素子を振動させることができる。移動体の共振周波数は、インピーダンス・アナライザ(ヒューレッド・パッカード製:型番4194A)を用いて、圧電セラミック素子に周波数を変えながら交流電圧を印加して、その時のインピーダンスの値を測定して求めた。その結果、X・Y軸方向の圧電セラミック素子11,12,13,14の伸縮振動による移動体の共振周波数は615kHzであった。
【0047】
本実施例では、X・Y軸方向の圧電セラミック素子11,12,13,14に、駆動電圧±4V、共振成分の変位に合わせて駆動電圧の極性を変えると安定した変位を得ることが出来るので、移動体の共振周波数の約2/3である410kHzとし、それに合わせるように、デューティー比30%とした矩形波を駆動信号とした。また、X軸方向に移動させる場合、圧電セラミック素子13,14には、圧電セラミック素子11,12と電圧の正負を反転した駆動信号を入力して、X軸の正方向に駆動した。同様にY軸方向に移動させる場合には、圧電セラミック素子11,13に、駆動電圧±4V、駆動体の共振周波数の約2/3である410kHz、デューティー比30%の矩形波を、圧電セラミック素子12,14には圧電セラミック素子11,13と電圧の正負を反転した駆動信号を入力した。圧電セラミック素子をゆっくり伸ばして急速に縮める場合のDuty比(正の電圧を入力する時間/矩形波周期×100)は30%とし、急速に伸ばしてゆっくり縮める場合のDuty比は70%(100−30%)とした。なお、移動体の駆動方向を反転させるには、正の電圧と負の電圧を入力する時間を逆にすればよい。
【0048】
(実施例2)
次に、本発明の実施例および参考例のアクチュエータについて、実際に作製したものをXおよびY方向に駆動した場合の移動経路を測定し、実施例2および比較例2とした。移動経路の測定は、三脚で固定したデジタルカメラを用いて0.5秒おきに移動の様子を撮影し、撮影した写真から各時間における移動体の中心位置を読み取ることで行った。
【0049】
図5は、本発明の実施例2および比較例2のアクチュエータについて、XおよびY方向に駆動した場合の移動経路を評価した結果を示す。図5(a)は実施例2の結果、図5(b)は比較例2の結果である。
【0050】
図5(a)に示すとおり、本発明の実施例2においては、移動体43のX方向への移動はX軸に沿っており、Y方向への移動もY軸からの傾きは1°程度である。一方、図5(b)に示すとおり、比較例2においては、移動体73のX方向への移動はX軸から12°傾いており、Y方向への移動もY軸から12°傾いていた。すなわち、本発明の実施例2は比較例2に対して、X,Y各軸の真直性が向上している。また、X,Y軸の直交性についても、比較例2の114°に対して、本発明の実施例2においては89°であり、大幅に向上している。
【0051】
以上、説明したように、本発明によれば、被駆動部材において、2つの駆動体を、直交する2軸に対して線対称となるように配置し、各駆動体の2つの電気機械変換素子に、互いに同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、X−Yの2方向への駆動を行い、かつ、各駆動体の移動方向の傾きを相殺できるため、真直性と直交性に優れたX−Yの2軸駆動が可能となる。
【0052】
以上述べたことから、本発明では、比較例に対してはX,Y軸の真直性と直交性が良好であり、簡単な構造で装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能な自走式アクチュエータまたは該アクチュエータを用いた位置決め装置を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は上記の実施の形態や実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、被駆動部材および固定部材の材料、形状、寸法などは他の部分の形状や重量に応じて変更することができる。また、アクチュエータや該アクチュエータを用いた位置決め装置の用途に応じて、圧電素子や磁石の構造や形状、材質、固定部材の材質、形状などを選択、設計することができる。
【0054】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上記した実施の形態では、本発明の各アクチュエータはX−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置に適用可能である旨説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、位置決めを行う必要があるすべての構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11,12,13,14 圧電セラミック素子
31,32 磁石
35 被駆動部材
36 固定部材
41,42 駆動体
43 移動体
46 アクチュエータ
51,52,53,54 圧電セラミック素子
61,62 磁石
65 被駆動部材
66 固定部材
71,72 駆動体
73 移動体
76 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電気機械変換素子と該電気機械変換素子各々の一端が接続された磁石とを備えた駆動体と、前記電気機械変換素子の各々の前記一端との相対位置が変位する他端が固定されている被駆動部材とを有する移動体と、前記磁石により吸着可能な固定部材とを備え、前記電気機械変換素子の前記変位方向により速度を異ならせて振動させることにより、前記移動体が前記固定部材に対して移動するアクチュエータであって、
2つの駆動体が、直交する2軸に対して線対称に配置されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記駆動体を構成する2つの電気機械変換素子に、同じ電圧または正負が反転した電圧を印加することで、直交する2軸方向に駆動することを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載のアクチュエータを有することを特徴とする位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−226849(P2010−226849A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70247(P2009−70247)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】