説明

アクネ用皮膚外用剤

【課題】 抗炎症効果、殺菌効果、角質剥離効果、保湿効果のそれぞれについての効果と、低刺激性であること、べたつきの無い良好な使用感を兼ね備えたアクネ用皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 (A)殺菌剤を0.01〜0.3質量%、(B)角質剥離剤を0.1〜3.5質量%、(C)抗炎症剤を0.01〜0.8質量%、及び(D)糖類を0.01〜15質量%、含有するアクネ用皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)殺菌剤を0.01〜0.3質量%、(B)角質剥離剤を0.1〜3.5質量%、(C)抗炎症剤を0.01〜0.8質量%、及び(D)糖類を0.01〜15質量%含有するアクネ用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アクネは、種々の要因が関連して発症するため、アクネ用皮膚外用剤には各要因に対応した薬剤が種々組み合わせて配合される場合が多い。皮脂の過剰分泌については皮脂抑制剤、角化亢進による毛包の閉塞に対しては角質溶解・剥離剤、細菌の増殖抑制に対しては殺菌剤が、炎症を抑える目的で抗炎症剤などが用いられることが知られている(非特許文献1参照)。また、複数の要因に対応するためこれらの成分を併用してアクネ用皮膚外用剤に用いることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35488号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】光井武夫著、新化粧品学第2版、173−175ページ、南山堂、2001年
【特許文献2】特開2002−226354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にアクネ化粧品では、殺菌効果や角質剥離効果を優先させると皮膚に対する刺激が高くなり、配合量を抑えると効果が低下する。抗炎症剤や保湿剤は高配合するとべたつきが気になるため、アクネ用皮膚外用剤においてはこれらの添加をできるだけ抑えるのが一般的である。このため、アクネ用皮膚外用剤は一般的に効果が物足りない、若しくは効果はあるが刺激が強い、乾燥する、などの欠点があり、効果、刺激、保湿の3点を満足するものはこれまで得られていない。
【0006】
そこで、本発明は抗炎症効果、殺菌効果、角質剥離効果、保湿効果のそれぞれについての効果と、低刺激性であること、べたつきの無い良好な使用感を兼ね備えたアクネ用皮膚外用剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、(A)殺菌剤を0.01〜0.3質量%、(B)角質剥離剤を0.1〜3.5質量%、(C)抗炎症剤を0.01〜0.8質量%、及び(D)糖類を0.01〜15質量%、含有するアクネ用皮膚外用剤を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクネ用皮膚外用剤は、抗炎症効果、殺菌効果、角質剥離効果、保湿効果のそれぞれについての効果と、低刺激性であること、べたつきの無い良好な使用感を兼ね備えた優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、殺菌剤の配合量による、アクネ菌増殖抑制作用と皮膚刺激への影響を示す図である。
【図2】図2は、角層剥離剤の配合量による、角層剥離効果と、皮膚刺激への影響を示す図である。
【図3】図3は、抗炎症剤の配合量による、抗炎症効果と使用感(べたつき)への影響を示す図である。
【図4】図4は、糖類の配合量による、保湿効果と使用感(べたつき)への影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアクネ用皮膚外用剤は、(A)殺菌剤を0.01〜0.3質量%、(B)角質剥離剤を0.1〜3.5質量%、(C)抗炎症剤を0.01〜0.8質量%、及び(D)糖類を0.01〜15質量%、を必須成分として含有する。
【0011】
本発明で用いる成分(A)殺菌剤としては、アクネ用皮膚外用剤に用いられるものであれば特に限定されないが、サリチル酸、サリチル酸塩、イオウまたはイオウ化合物、ヒノキチオール、トリクロサン、トリクロロカルバニリド、クロロヘキシジン塩酸塩、クロロヘキシジングルコン酸塩、ハロカルバン、クロロフェネシン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化リゾチーム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール、安息香酸、感光素201号、チモール、ヘキサクロロフェン、ベルベリン、チオキソロン、ユキノシタエキス、オウバクエキス、オウゴンエキスとそれらの誘導体及び塩のうち少なくとも一つであることが好ましい。殺菌剤を配合することにより、アクネ菌の増殖を抑え、ニキビがひろがり悪化することを抑制することができる。本発明においてはこれらの殺菌剤の中でも、高い効果を保ったまま皮膚への刺激を低減する目的で、サリチル酸を用いることが最も好ましい。
【0012】
殺菌剤は、アクネ用皮膚外用剤全量に対し0.01〜0.3質量%配合する。0.01質量%未満の配合では有効な殺菌効果が得られない場合がある。0.3質量%をこえて配合してもそれ以上の殺菌効果が得られない場合があり、皮膚刺激性も懸念される。
【0013】
本発明で用いる成分(B)角質剥離剤としては、アクネ用皮膚外用剤に用いられるものであれば特に限定されないが、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、及び酒石酸からなる群より選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。本発明においてはこれらの角質剥離剤の中でも、低濃度で高い角質剥離効果を発揮するグリコール酸を用いることが好ましい。
【0014】
角質剥離剤は、アクネ用皮膚外用剤全量に対し0.1〜3.5質量%配合する。0.1質量%未満の配合では有効な角質剥離効果を得られない場合がある。3.5質量%を越えて配合すると皮膚への刺激性が生じる場合がある。
【0015】
本発明で用いる成分(C)抗炎症剤としては、アクネ用皮膚外用剤に用いられるものであれば特に限定されないが、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、アズレン、アラントイン及びそれらの誘導体並びにそれらの塩、シコン(Lithospermi Radix)、ニンジン(Ginseng Radix)、シャクヤク(Paeoniae Radix)、ボタンピ(Moutan Cortex)、クジン(Sophorae Radix)の各生薬抽出物から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。本発明においてはこれらの抗炎症剤の中でも、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントインから選択される1種または2種を用いることが好ましい。
【0016】
抗炎症剤は、アクネ用皮膚外用剤全量に対し0.01〜0.8質量%配合する。0.01質量%未満の配合では有効な抗炎症効果を得られない場合がある。0.8質量%を越えて配合すると、使用感上べたつきが生じる場合がある。
【0017】
本発明で用いる成分(D)糖類としては、アクネ用皮膚外用剤に用いられるものであれば特に限定されず、ガラクトース,フルクトース,グルコース,マンノース,ソルビトール、リボース,シアル酸,グルコサミン,2−デオキシグルコース,グルコン酸,グルクロン酸などの単糖類及びその誘導体、アガロビオース,マルチトール、マルトース,デキストリン,セロビオース,トレハロース,サッカロース,アセチルラクトサミン,グルクロノキシロース,ガラクツロノラムノース,グルコシルマンニトール,ガラクチノール等のオリゴ糖類及びその誘導体、グルカン,カラギーナン,ポリガラクツロン酸,ケラト硫酸,ケラタン硫酸,コンドロイチン,コンドロイチン−4−硫酸,デルマタン硫酸,コンドロイチン硫酸,ティクロン酸,ヒアルロン酸,ヘパリチン硫酸,ヘパリン,アルギン酸等の多糖類及びこれらの塩並びにこれらの誘導体が例示される。本発明においてはこれらの糖類の中でも、アクネ菌に対する資化性の点からソルビトール、マルチトール、トレハロース、ヒアルロン酸、及びこれらの塩並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0018】
糖類は、アクネ用皮膚外用剤全量に対し0.01〜15質量%配合する。0.01質量%未満の配合では有効な保湿効果を得られない場合がある。15質量%を越えて配合すると、使用感上べたつきが生じる場合がある。
【0019】
本発明のアクネ用皮膚外用剤には、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0020】
本発明のアクネ用皮膚外用剤の性状は、例えばクリーム、ローション、軟膏、乳液、パック、浴用剤等、従来皮膚外用剤に適用できるものであればいずれでも良く、剤型は特に問わない。
【実施例】
【0021】
次に試験例および実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。また以下特に限定しない限り質量%は単に%と標記する。
【0022】
殺菌剤の配合量による、アクネ菌増殖抑制作用と皮膚刺激への影響を検討した。表1に示した処方にて殺菌剤であるサリチル酸の量目を変化させたアクネ用化粧水を調製し下記の試験を実施した。
【0023】
[アクネ菌の増殖抑制試験]
GAM培地にてPropionibacterium acnes菌(アクネ菌)を24時間培養した。これを10倍希釈したものを接種菌液とした。検体10mLに対して菌液を0.1mL接種し培養した。その後10〜60分の間で生菌数を測定した(10、20、30、60分)。生菌数の測定は、希釈液を用いて検体を公比10で3段階に希釈し、それぞれシャーレに1.0mLずつ分注し、変法GAM寒天培地を用いて混釈培養を行った。嫌気条件下37℃で4日間培養後カウントした。アクネ菌の増殖抑制結果は、生菌数が0となる最短の培養時間で示した。
【0024】
[皮膚刺激性試験]
評価者20名を1群とし、各群に処方例をそれぞれ使用させ、塗布後30秒から1分間の間に感じる刺すような痛み,ヒリヒリ感,チクチク感といった刺激感について評価させた。評価結果は、「非常に強く感じる;5点」,「やや強く感じる;4点」,「感じる;3点」,「少し感じる;2点」,「微妙に感じる;1点」,「感じない;0点」として評価し、20名の平均値をとり、皮膚刺激指数として示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1及び図1に示したとおり、殺菌剤の配合量は0.1%以上の配合で、殺菌効果に影響を与えないことが示された。これに対し、皮膚刺激指数は濃度に比例して上昇し、比較例2(サリチル酸0.5%配合)においては、2.00まで上昇することが示された。これに対し、本発明の実施例においては、皮膚刺激指数は1.5以下におさえた上でアクネ菌に対し高い殺菌効果を示していた。
【0027】
角層剥離剤の配合量による、角層剥離効果と、皮膚刺激への影響を検討した。表2に示した処方にて角質剥離剤であるグリコール酸の量目を変化させたアクネ用化粧水を調製し下記の角層剥離試験並びに上述の皮膚刺激性試験を実施した。
【0028】
[角層剥離試験]
メイラード反応により角層たんぱく質を着色する性質を有するセルフタンニング剤であるジヒドロキシアセトン(DHA)の10質量%水溶液を25mL/cm2塗布し、一晩静置した。その後DHA塗布部位に表2に示したアクネ用皮膚外用剤を1週間、一日2回、約2μL/cm2を塗布し、1週間後の退色度合いを測色計(分光測色計CM−2002:ミノルタ社製)にて評価した。評価は測色値のL*を用い塗布前のL*値を1とした場合の相対値にて示した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2及び図2に示したとおり、皮膚刺激指数はグリコール酸の配合量に比例して高くなったが、角層剥離効果は3.0%(実施例4)で頭打ちとなり、それ以上の濃度でも角層剥離効果に向上は認められなかった。
【0031】
抗炎症剤の配合量による、抗炎症効果と使用感(べたつき)への影響を検討した。抗炎症試験はグリチルリチン酸ジカリウムの添加濃度を0%、0.1%、0.5%、1.0%となるように変化させて試験を実施した。また表3に示した処方にて抗炎症剤であるグリチルリチン酸ジカリウムの量目を変化させたアクネ用化粧水を調製しべたつきに関する官能評価を実施した。
【0032】
抗炎症(ヒアルロニダーゼ阻害活性)試験
市販のヒアルロン酸カリウム塩(ヒト臍の緒由来)を0.9mg/mLになるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、基質溶液とした。市販のヒアルロニダーゼ(ウシ精巣由来)を530unit/mLとなるように、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、酵素溶液とした。なお酵素溶液は用時調製とした。試験管に、緩衝液で各濃度に調製したグリチルリチン酸ジカリウム溶液0.1mL、及び酵素溶液0.03mLをとり、37℃で20分間反応させた。次に活性化剤を0.06mL加え、37℃で20分間反応させた。さらに基質溶液を0.15mL加え、37℃で1時間反応させた。0.4規定のNaOHを0.06mL加え反応を停止させた後すぐに氷冷し、ホウ酸緩衝液(pH9.1)を0.06mL添加し、3分間煮沸した後さらに氷冷した。p−ジメチルベンズアルデヒド(p−DABA)溶液溶液を2.0mL添加し、37℃で20分間反応させた後、各試験管から96ウェルマイクロプレートに移しかえ、マイクロプレートリーダーを用いて585nmにおける吸光度を測定した。コントロールには、サンプルを溶かすのに用いた緩衝溶液のみを加えたものを用いた。ヒアルロニダーゼの活性が阻害されると分解産物であるN−アセチルグルコサミンが減少し。p−DABAによる吸光度が低くなる。このことを利用し、阻害活性は次式より求めた。結果を表2にまとめる。
阻害率(%)=(コントロール吸光度−サンプル吸光度)/コントロール吸光度×100
【0033】
べたつきに関する官能評価
表3に示したアクネ用皮膚外用剤を9名に使用させ、下記の基準にて評価を行い、それぞれの平均点を算出し、表3に記載した。
<評価基準>
べたつきが無い:0点
べたつきがややある:1点
べたつきがある:2点
べたつきがかなりある:3点
【0034】
【表3】

【0035】
表3及び図3に示したとおり、抗炎症剤であるグリチルリチン酸ジカリウムの濃度が高くなるに従い、べたつく使用感となっていた。また抗炎症効果は実施例6(濃度0.5%)で頭打ちとなり、それ以上の抗炎症効果の向上は認められなかった。
【0036】
糖類の配合量による、保湿効果と使用感(べたつき)への影響を検討した。べたつきに関しては表4に示した処方にて上述のべたつきに関する官能評価を行った。官能評価のn数は8人であった。
【0037】
保湿試験
人前腕部を同条件で洗浄後15分静置した後、表4に示したアクネ用皮膚外用剤を2μL/cm2となるように塗布し、その保湿効果を角質水分量測定器(Skicon−200:アイ・ビイ・エス株式会社製)にて測定した。測定は、塗布前と、塗布15分後に行い、塗布前の水分量を1としたときの相対値で示した。なおn数は4である。
【0038】
【表4】

【0039】
表4及び図4に示したとおり、糖類の濃度が高くなるに従い、べたつく使用感となっていた。また保湿効果は実施例7(濃度0.5%)で頭打ちとなり、それ以上の保湿効果の向上は認められなかった。
【0040】
本発明のアクネ用皮膚外用剤の処方例を表5に示す。表5に示したジェル状アクネ用皮膚外用剤は、殺菌効果、角層剥離効果、抗炎症効果、保湿効果、使用感(べたつき)に優れたものであった。
【0041】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)殺菌剤を0.01〜0.3質量%、(B)角質剥離剤を0.1〜3.5質量%、(C)抗炎症剤を0.01〜0.8質量%、及び(D)糖類を0.01〜15質量%、含有するアクネ用皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98901(P2011−98901A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253730(P2009−253730)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】