説明

アクリル樹脂及び防汚塗料

【課題】優れた防汚性を示す塗料を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂側鎖に下記一般式(1)


で表される基及び下記一般式(2)


で表される基を有するアクリル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂、及び、それを含有する防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、漁網、その他の水中構造物には、フジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物が付着しやすく、それによって、船舶等では効率のよい運行が妨げられ燃料の浪費を招く等の問題があり、また漁網等では目詰まりが起こったり、耐用年数が短くなる等の問題が生じる。これら水中構造物に対する生物の付着を防止するために、通常、水中構造物の表面に防汚塗料を塗布することが行われている。
【0003】
近年、防汚塗料のうちでも、長期にわたって防汚性能が発揮できる等の優れた利点から加水分解型防汚塗料が広く用いられており、その1つとしてトリオルガノシリル基を有する樹脂を含む塗料が開発されてきた(特開平1−146808号公報、特開平3−31372号公報、特開平4−264170号公報、特開平7−102193号公報等)。しかし、一般的にトリオルガノシリル基を有する樹脂を含む塗料により得られる塗膜は、クラックや剥離を生じたり、溶解速度が大き過ぎたりするものである。
【0004】
特開2001−226440号公報には、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレート及びその他の重合性モノマーを含む共重合体、並びに、防汚剤からなる塗料組成物が開示されている。これは、特定のトリオルガノシリル(メタ)アクリレートを用いることによって、貯蔵安定性を優れたものとし、貯蔵後であっても塗装した塗膜が可撓性及び長期防汚性を示すものとすることを目的とするものである。
【0005】
ところで、現在使用されているトリオルガノシリル基を有する樹脂を含む塗料は、一般的に、一定期間経過後には塗装した防汚塗膜が溶解してしまうことによって防汚性能が消失してしまい、再度防汚塗料の塗装を行って防汚性能を付与する必要があり、そのような手間を省くために、塗膜の寿命を少しでも長期化することが望ましく、これまで以上に長寿命の防汚塗料が望まれている。ここで、長寿命の防汚塗料を提供するためには、塗装された塗膜が水中において安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間にわたって維持でき、かつ、クラック等を生じにくい塗膜に改良することが考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、得られる塗膜が安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間にわたって維持でき、かつ、クラック等を生じにくい好適な塗膜性能を有するものに塗膜を改良することにより、長期間にわたってより優れた防汚性を示す防汚塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アクリル樹脂側鎖に下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ有し、かつ、下記一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Xは、
【0012】
【化3】

【0013】
で表される基、nは0又は1、Yは炭化水素、Mは2価金属、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ有することを特徴とするアクリル樹脂である。
【0014】
本発明は、(A)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、下記一般式(3)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Zは、水素原子又はメチル基を表し、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。)
で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程、並びに、(B)上記工程により得られた樹脂、金属化合物、及び、一塩基酸を反応させる工程により得られることを特徴とするアクリル樹脂である。
【0017】
上記一塩基酸が、一塩基環状有機酸であることが好ましい。
上記一塩基酸が、一塩基酸が、ロジン類、水添ロジン類、不均化ロジン類、ナフテン酸、アビエチン酸、水素添加アビエチン酸及びデヒドロアビエチン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
上記一般式(1)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基であることが好ましい。
上記一般式(3)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基であることが好ましい。
本発明はまた、上記アクリル樹脂を含有することを特徴とする防汚塗料である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
第一の本発明のアクリル樹脂は、アクリル樹脂側鎖に上記一般式(1)で表される基を少なくとも1つ有し、かつ、上記一般式(2)で表される基を少なくとも1つ有するものである。トリオルガノシリル基のみを有する樹脂を含む塗料により得られる塗膜は、一定期間経過後に防汚塗膜が溶解してしまい、防汚性能が消失してしまうような不具合が生じるものであるが、本発明のアクリル樹脂は、上記一般式(1)で表される基だけでなく、上記一般式(2)で表される基をも含むものである。これにより、本発明のアクリル樹脂を含む防汚塗料により得られる防汚塗膜は、水中において安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間にわたって維持することができ、長期間にわたってより優れた防汚性を示すことができるものである。
【0020】
また、アクリル樹脂側鎖に、上記一般式(1)で表される基のみを有する樹脂とトリアルキルシリル基のみを有する樹脂とを含む塗料により得られる塗膜は、本発明のアクリル樹脂を含む塗料により得られる塗膜と比べて、水中において安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持することができないものである。即ち、本発明のアクリル樹脂を含む防汚塗料により得られる防汚塗膜は、上記一般式(1)で表される基のみを有する樹脂とトリアルキルシリル基のみを有する樹脂とを単に混合した樹脂を含む防汚塗料では容易に得られない効果を有するものである。
【0021】
上記一般式(1)において、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の炭素数が20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基、置換シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリール基、置換アリール基等が挙げられる。置換アリール基としては、ハロゲン、炭素数18程度までのアルキル基、アシル基、ニトロ基又はアミノ基等で置換されたアリール基等を挙げることができる。なかでも、得られる塗膜において安定したポリッシングレート(研磨速度)を示し、防汚性能を長期間安定して維持することができる観点から、イソプロピル基が好ましい。
【0022】
上記一般式(1)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基であることがより好ましい。これにより、得られる塗膜において、ポリッシングレート(研磨速度)がより安定したものとなり、防汚性能をより長期間安定して維持することが可能となる。
【0023】
上記一般式(2)において、Mは2価金属であり、2価金属(M)としては、例えば、長期周期律表中3A〜7A、8、1B〜7B族元素を挙げることができる。なかでも、銅、亜鉛が好ましい。
【0024】
上記2価金属(M)は、上記アクリル樹脂固形分中、下限0.3質量%、上限20質量%含有されていることが好ましい。0.3質量%未満では、得られる塗膜における金属塩の部分が加水分解しても樹脂中の溶出が極めて遅く、20質量%を超えると、得られる塗膜の溶出速度が速すぎて、何れも好ましくない。下限0.5質量%、上限15質量%であることがより好ましい。
【0025】
上記一般式(2)において、Aは、一塩基酸の有機酸残基であり、上記一塩基酸としては、例えば、一塩基環状有機酸等を挙げることができる。
上記一塩基環状有機酸としては特に限定されず、例えば、ナフテン酸等のシクロアルキル基を有するもののほか、三環式樹脂酸等の樹脂酸及びこれらの塩等を挙げることができる。
【0026】
上記三環式樹脂酸としては特に限定されず、例えば、ジテルペン系炭化水素骨格を有する一塩基酸等を挙げることができ、このようなものとしては、例えば、アビエタン、ピマラン、イソピマラン、ラブダン各骨格を有する化合物があり、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、水添アビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、デキストロピマル酸、サンダラコピマル酸等を挙げることができる。これらのうち、加水分解が適度に行われるので長期防汚性に優れるほか、塗膜の耐クラック性、入手容易性にも優れることから、アビエチン酸、水添アビエチン酸及びこれらの塩が好ましい。
【0027】
上記一塩基環状有機酸としては、高度に精製されたものである必要はなく、例えば、松脂、松の樹脂酸等を使用することもでき、このようなものとしては、例えば、ロジン類、水添ロジン類、不均化ロジン類等を挙げることができる。ここでいうロジン類とは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等である。ロジン類、水添ロジン類及び不均化ロジン類は、廉価で入手しやすく、取り扱い性に優れ、長期防汚性を発揮する点で好ましい。これらの一塩基環状有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で使用できる一塩基酸のうち、上記一塩基環状有機酸以外のものとしては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、クロル酢酸、フルオロ酢酸、吉草酸等の炭素数1〜20のもの等を挙げることができる。これらの一塩基酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記一般式(2)における一塩基酸の有機酸残基のうち、下限5モル%、上限100モル%が環状有機酸であることが好ましい。下限15モル%、上限100モル%であることが好ましく、下限25モル%、上限100モル%であることが更に好ましい。5モル%未満であれば、長期の防汚性と塗膜の耐クラック性の両立が達成できない。
【0030】
上記一塩基環状有機酸残基を導入するために使用する一塩基環状有機酸の酸価は、下限100mgKOH/g、上限220mgKOH/g、好ましくは下限120mgKOH/g、上限190mgKOH/gである。この範囲内である場合には、上記アクリル樹脂の加水分解が適度に行われることにより、安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持し、防汚効果を長期に保つことができる。更に好ましくは下限140mgKOH/g、上限185mgKOH/gであることが望ましい。
【0031】
上記一般式(2)におけるYとしては、炭化水素であれば特に限定されず、例えば、重合性不飽和有機酸単量体にフタル酸、コハク酸、マレイン酸等の二塩基酸を付加した場合における残基を挙げることができる。上記Yは、不飽和一塩基酸ヒドロキシアルキルエステルに二塩基酸を付加し、これを共重合して樹脂を得ることにより導入することができ、又は、樹脂を製造する際に又は製造した後に上記二塩基酸を存在させて導入することもできる。この場合、n=1となる。
【0032】
第二の本発明のアクリル樹脂は、第一の工程として、(A)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程、次いで第二の工程として、(B)上記第一の工程により得られた樹脂、金属化合物、及び、一塩基酸を反応させる工程を行うことにより得られるものである。
【0033】
上記第一の工程は、(A)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程である。
【0034】
上記重合性不飽和有機酸としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基を1つ以上有するものが挙げられ、このようなものとしては、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸及びこのモノアルキルエステル、イタコン酸及びこのモノアルキルエステル等の不飽和二塩基酸及びこのモノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのマレイン酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのフタル酸付加物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのコハク酸付加物等の不飽和一塩基酸ヒドロキシアルキルエステルの二塩基酸付加物等を挙げることができる。これらの重合性不飽和有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記重合性不飽和有機酸は、第一の工程における重合に用いられるモノマー成分100質量%中に、下限3質量%、上限50質量%含まれるものである。3質量%未満であると、塗装した塗膜の柔軟性や可撓性に劣るおそれがあり、50質量%を超えると、長期間にわたって防汚性を維持できないおそれがある。
【0036】
上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートにおいて、Zは、水素原子又はメチル基を表す。
、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表し、例えば、上記R、R及びRと同様の炭化水素残基を挙げることができる。
【0037】
上記一般式(3)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基であることがより好ましい。これにより、得られる塗膜において、ポリッシングレート(研磨速度)がより安定したものとなり、防汚性能をより長期間安定して維持することが可能となる。
【0038】
上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−i−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−s−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−アミルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ヘキシルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−オクチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−ドデシルシリル(メタ)アクリレート、トリフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリ−p−メチルフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリベンジルシリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0039】
上記一般式(3)で示されるトリオルガノ(メタ)アクリレートとしてはまた、エチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n−ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ジ−i−プロピル−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、n−オクチルジ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、ジ−i−プロピルステアリルシリル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルフェニルシリル(メタ)アクリレート、t−ブチルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、ラウリルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、t−ブチル−m−ニトロフェニルメチルシリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なかでも、安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持する点から、トリ−i−プロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましい。これらのトリオルガノシリル(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートは、第一の工程における重合に用いられるモノマー成分100質量%中に、上限90質量%、下限5質量%含まれるものである。90質量%を超えると、塗装した塗膜に剥離が生じるおそれがあり、5質量%未満であると、得られる樹脂中のトリオルガノシリル基の割合が少なくなり、長期防汚性が望めないおそれがある。上限70質量%、下限10質量%であることが好ましい。
【0041】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等のエステル部の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のエステル部の炭素数が1〜20の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸環状炭化水素エステル;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、重合度2〜10のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル;炭素数1〜3のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等のほか、(メタ)アクリルアミド;スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル等のビニル化合物;クロトン酸エステル類;マレイン酸ジエステル類、イタコン酸ジエステル類等の不飽和二塩基酸のジエステルを挙げることができる。上記(メタ)アクリル酸エステル類のエステル部分は炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルである。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記第一の工程において、重合させる方法としては特に限定されず、例えば、上記重合性不飽和有機酸、上記トリオルガノシリル(メタ)アクリレート及び上記その他の共重合可能な不飽和単量体からなるモノマー成分を、アゾ化合物、過酸化物等の重合開始剤と混合して混合溶液を調製した後、例えば、キシレン、n−ブタノール等の溶剤中に滴下して、加熱条件下に反応させる方法等を挙げることができる。
【0043】
上記第一の工程により得られた樹脂の数平均分子量としては特に限定されず、下限2000、上限100000であることが好ましく、下限3000、上限40000であることがより好ましい。2000未満であると、塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、100000を超えると、得られる塗料の貯蔵安定性が悪くなり実用に適さないだけでなく、塗装時に大量の希釈溶剤の使用により公衆衛生、経済性等の点で好ましくない。
【0044】
上記第一の工程により得られた樹脂は、酸価30〜300mgKOH/gであることが好ましい。30未満であると、側鎖に結合させる金属塩の量が少なくなり、防汚性に劣ることがあり、300を超えると、溶出速度が速すぎて、長期の防汚性が望めない。
【0045】
上記第二の工程は、上記第一の工程により得られた樹脂、金属化合物、及び、一塩基酸を反応させる工程である。即ち、この第二の工程により得られるアクリル樹脂は、上記一般式(2)で示される側鎖を少なくとも1つ有するものとなる。
【0046】
上記金属化合物としては特に限定されず、例えば、金属酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、塩基性炭酸塩等を挙げることができる。これらの金属化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記一塩基酸としては特に限定されず、例えば、上述したものを挙げることができる。
【0047】
上記第二の工程において、上記第一の工程により得られる樹脂、金属化合物及び一塩基酸を反応させる方法は、従来公知の方法により行うことができるが、加熱・攪拌等は金属エステルの分解温度以下で行うことが望ましい。
【0048】
本発明のアクリル樹脂は、上述した方法以外に、例えば、以下の方法により得ることができる。
(1)重合性不飽和有機酸と上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートとその他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させることにより得られた樹脂と、一塩基酸の金属塩とを反応させる方法、(2)重合性不飽和有機酸と金属化合物と一塩基酸とを反応させるか、又は、重合性不飽和有機酸と一塩基酸の金属塩とを反応させ、得られる金属含有不飽和単量体と、上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートと、その他の共重合可能な不飽和単量体とを重合させる方法、等を挙げることができる。
【0049】
上述したような方法で得られた本発明のアクリル樹脂は、上記一般式(3)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレートに由来する側鎖と、上記一般式(2)で示される側鎖とを、それぞれ少なくとも1つ有するものであることから、トリオルガノシリル基を有する樹脂を含む防汚塗料を用いて得られる塗膜のように、一定時間経過後に塗装した塗膜が溶解してしまうことを防止することができ、また、得られる塗膜のポリッシングレート(研磨速度)は長期間安定したものとなり、クラックも生じにくくなることにより、長期間にわたってより優れた防汚性を示すものとすることが可能となる。
【0050】
上述したようにして得られたアクリル樹脂は、防汚剤を含む慣用の添加剤を添加して防汚塗料に調製することができる。この防汚塗料は、自己研磨性を有する加水分解型防汚塗料である。
【0051】
本発明の防汚塗料には、塗膜の物性や塗膜の消耗速度を調整するために、上記アクリル樹脂のほかに他のバインダー樹脂を含むことができる。上記他のバインダー樹脂は、アクリル樹脂に対する樹脂固形分に基づく質量比〔アクリル樹脂〕:〔他のバインダー樹脂〕が100:0〜50:50で含むことが好ましい。上記他のバインダー樹脂の割合が上記範囲を超えると、優れた長期防汚性と塗膜の耐クラック性の両立が保てず好ましくない。
【0052】
上記他のバインダー樹脂としては、例えば、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ポリプロピレンセバケート、部分水添ターフェニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ポリエーテルポリオール、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコンオイル、ワックス、ワセリン、流動パラフィン、ロジン、水添ロジン、ナフテン酸、脂肪酸及びこれらの2価金属塩等を挙げることができる。
【0053】
上記防汚塗料には、上記アクリル樹脂に、例えば、防汚剤、可塑剤、顔料、溶剤等の慣用の添加剤を添加することができる。
上記防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0054】
上記防汚剤としては特に限定されず、例えば、亜酸化銅、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルカーバーメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバーメート、ロダン銅、4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩及び銅塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン塩、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、ラウリルアミン−トリフェニルボロン等を挙げることができる。これらの防汚剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記防汚剤の使用量は、塗料固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%が好ましい。0.1質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。下限1質量%、上限60質量%であることがより好ましい。
【0056】
上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルすずラウリレート、ジブチルすずラウリレート等の有機すず系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記顔料としては、例えば、沈降性バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト等の体質顔料;酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化すず、カーボンブラック、黒鉛、ベンガラ、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドン等の着色顔料等を挙げることができる。これらの顔料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n−ブタノール、プロピルアルコール等のアルコール等を挙げることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
上記のほか、その他の添加剤としては特に限定されず、例えば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳、ひまし油等;水結合剤、タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤等を挙げることができる。
【0060】
本発明の防汚塗料は、例えば、本発明に係る上記アクリル樹脂組成物に、防汚剤、可塑剤、塗膜消耗調整剤、顔料、溶剤等の慣用の添加剤を添加し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。
上記防汚塗料は、常法に従って被塗物の表面に塗布した後、常温下又は加熱下で溶剤を揮散除去することによって乾燥塗膜を形成することができる。
【0061】
本発明のアクリル樹脂は、上記一般式(1)で表される基と、上記一般式(2)で表される基とを、それぞれ少なくとも1つ有するものであることから、このアクリル樹脂を含む防汚塗料により得られる塗膜は、安定したポリッシングレート(研磨速度)長期間維持できるものであり、クラックも生じにくいものであることから、長期間にわたってより優れた防汚性を示すものであり、従来から使用されているトリオルガノシリル基を有する樹脂を含む防汚塗料により得られる塗膜を水中に晒す場合に生じる問題点、即ち一定時間経過後には塗装された塗膜が水中に溶解してしまったり、塗膜にクラックが生じたりしてしまうことにより、防汚性能が消失してしまい、長期間の防汚性能が維持できなくなってしまうような問題点を生じることを防止することができるものである。また、本発明のアクリル樹脂により得られた塗膜を水中に晒した経過時間と塗膜の消耗膜厚との関係がほぼ直線関係を示すものであるので、得られる塗膜は、安定したポリッシングレート(研磨速度)を経過時間に関わらず維持し、長期間にわたってより優れた防汚性を有するものである。これにより、本発明のアクリル樹脂を含む防汚塗料は、船舶、漁網、その他の水中構造物に好適に適用されるものである。
【発明の効果】
【0062】
本発明のアクリル樹脂及び防汚塗料は、上述した構成よりなるので、従来の防汚塗料に比べて、様々な条件下において、得られる塗膜が安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間にわたって維持でき、かつ、クラック等を生じにくい好適な塗膜性能を有するものに改良されたものであり、長期間にわたってより優れた防汚性を示すものである。従って、上記アクリル樹脂を含む防汚塗料は、船舶、漁網、その他の水中構造物に好適に適用されるものである。
【実施例】
【0063】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0064】
樹脂ワニスの調製
以下に示した樹脂ワニス製造例1〜9によりワニスA〜Iを調整した。なお、表1中に記載のモノマーは下記の化合物であり、得られたワニスA〜Iのガードナー粘度(25℃)を表1に示した。
EA:アクリル酸エチル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
CHA:アクリル酸シクロヘキシル
M−90G:メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(NKエステルM−90G、新中村化学社製)
NBA:アクリル酸n−ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
TIPSI:アクリル酸トリイソプロピルシリル
TBSI:アクリル酸トリブチルシリル
【0065】
樹脂ワニス製造例1
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコにキシレン64部、n−ブタノール16部を加え、100℃に保った。
この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部の混合液を3時間にわたり等速滴下した。
滴下終了後、30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が50.2%、粘度23ポイズ、数平均分子量7000のワニスAを得た。得られた樹脂は、酸価(固形分、以下同じ)が250であった。
【0066】
樹脂ワニス製造例2
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン72部、n−ブタノール18部を加え115℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が50.0%、粘度11ポイズ、数平均分子量5000のワニスBを得た。得られた樹脂は、酸価が130であった。
【0067】
樹脂ワニス製造例3
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え110℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が49.5%、粘度7ポイズ、数平均分子量6500のワニスCを得た。得られた樹脂は、酸価が150であった。
【0068】
樹脂ワニス製造例4
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え115℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が49.6%、粘度6ポイズ、数平均分子量6000のワニスDを得た。得られた樹脂は、酸価が70であった。
【0069】
樹脂ワニス製造例5
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え105℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が49.9%、粘度10ポイズ、数平均分子量6500のワニスEを得た。得られた樹脂は、酸価が200であった。
【0070】
樹脂ワニス製造例6
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え115℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が50.0%、粘度25ポイズ、数平均分子量6000のワニスFを得た。得られた樹脂は、酸価が130であった。
【0071】
樹脂ワニス製造例7
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン72部、n−ブタノール18部を加え105℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、アゾビスイソブチロニトリル3部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン8部、n−ブタノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が50.8%、粘度4ポイズ、数平均分子量6000のワニスGを得た。得られた樹脂は、酸価が30であった。
【0072】
樹脂ワニス製造例8
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え115℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が49.7%、粘度9.5ポイズ、数平均分子量6500のワニスHを得た。得られた樹脂は、酸価が160であった。
【0073】
樹脂ワニス製造例9
樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、キシレン64部、n−ブタノール16部を加え100℃に保った。この溶液中に表1の配合(質量部)に従ったモノマー、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部の混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16部、n−ブタノール4部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1.5時間保温した。
得られた樹脂溶液中の固形分が60.0%、粘度7ポイズ、数平均分子量8000のワニスIを得た。
【0074】
【表1】

【0075】
アクリル樹脂ワニスの調製
樹脂ワニス製造例1〜9で得られたワニスA〜Iを用いて、以下に示したアクリル樹脂ワニス製造例1〜11によりワニス1〜11を調整した。
【0076】
アクリル樹脂ワニス製造例1
攪拌機、窒素導入管、還流冷却器、デカンター、温度制御装置を備えた4つ口フラスコ中にワニスA100部、酢酸亜鉛48.9部、水添ロジン(酸価160)78.1部、キシレン60部を加えてリフラックス温度まで昇温し、流出する酢酸、水、溶剤の混合溶液を除去し、同量のキシレン/ブタノール混合液を補充しながら反応を18時間継続した。反応の終点は、流出溶剤中の酢酸量を定量して決定した。
冷却後、ブタノールとキシレンを加え、固形分が55%のワニス1を得た。
【0077】
アクリル樹脂ワニス製造例2
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスB100部、酢酸銅24.1部、水添ロジン(酸価160)40.6部、キシレン60部加えてリフラックス温度まで昇温し、流出する酢酸、水、溶剤の混合溶液を除去し、同量のキシレンを補充しながら反応を18時間継続した。反応の終点は、流出溶剤中の酢酸量を定量して決定した。
冷却後、ブタノールとキシレンを加え、固形分が50.2%のワニス2を得た。
【0078】
アクリル樹脂ワニス製造例3
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスC100部、酢酸銅27.8部、WWロジン(酸価160)47.0部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が47.3%のワニス3を得た。
【0079】
アクリル樹脂ワニス製造例4
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスD100部、酢酸銅12.97部、水添ロジン(酸価160)21.88部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が51.3%のワニス4を得た。
【0080】
アクリル樹脂ワニス製造例5
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスE100部、酢酸亜鉛39.1部、WWロジン(酸価160)62.5部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例1と同様に反応を行い、固形分が53.3%のワニス5を得た。
【0081】
アクリル樹脂ワニス製造例6
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスF100部、酢酸銅24.09部、水添ロジン(酸価160)40.63部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が50.2%のワニス6を得た。
【0082】
アクリル樹脂ワニス製造例7
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスG100部、酢酸銅5.56部、水添ロジン(酸価160)9.38部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が60.2%のワニス7を得た。
【0083】
アクリル樹脂ワニス製造例8
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスD100部、酢酸銅37.06部、ナフテン酸(NA−165、酸価165、大和油脂工業社製)60.6部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行 い、固形分が50.6%のワニス8を得た。
【0084】
アクリル樹脂ワニス製造例9
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスD100部、酢酸銅37.06部、ピバリン酸15.0部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が50.6%のワニス9を得た。
【0085】
アクリル樹脂ワニス製造例10
アクリル樹脂ワニス製造例1と同様の反応容器中に、ワニスH100部、酢酸銅29.6部、ピバリン酸12.6部を用いることのほかは、アクリル樹脂ワニス製造例2と同様に反応を行い、固形分が45.2%のワニス10を得た。
【0086】
アクリル樹脂ワニス製造例11
樹脂ワニス製造例9で得られたワニスIをそのままワニス11として得た。
【0087】
実施例1〜11、比較例1〜3
アクリル樹脂ワニス製造例1〜11で得られたワニス1〜11及び表2で示すその他の成分を使用して、高速ディスパーにて混合することで、塗料組成物を調製し、下記評価方法に従って長期防汚性及び塗膜状態を評価した。評価結果を表3に記載した。なお、表2中に記載の防汚剤は下記の化合物であり、アクリル樹脂は「パラロイドB−66」(ローム アンド ハース社製)、タレ防止剤は「ディスパロン A630−20X」(楠本化成社製)である。
防汚剤1:ZPT(ジンクピリチオン)
防汚剤2:CuPT(カッパーピリチオン)
防汚剤3:ピリジントリフェニルボラン
防汚剤4:2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン
防汚剤5:4,5−ジクロロ−2−nオクチル−3(2H)イソチアゾロン
防汚剤6:N,N‘ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド
防汚剤7:ステアリルアミン−トリフェニルボロン
防汚剤8:ラウリルアミン−トリフェニルボロン
【0088】
【表2】

【0089】
(評価)
ポリッシングレート(研磨速度)
上記塗料組成物を、予め防錆塗料を塗布してあるブラスト板に乾燥膜厚300μmになるように塗布し、2昼夜室内に放置し乾燥させて試験板を得た。上記試験板を直径750mm長さ1200mmの円筒側面に取り付け、海水中で周速15ノットで24月間連続回転させた。3ヶ月毎の試験板の塗膜消耗量(μm、合計量)を測定した。
【0090】
塗膜状態
上記によって6ヶ月経過後の試験板の塗膜状態を目視で観察し塗膜状態を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
長期防汚性
上記により塗膜状態を観察した後の試験板を岡山県玉野市にある日本ペイント社臨海研究所設置の実験用筏で生物付着試験を行い防汚性を評価した。結果を表3に示す。
表3中の月数は筏浸漬期間を示し、数値は付着性物の塗膜面積に占める割合を示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3より、実施例1〜10の塗料は、安定したポリッシングレート(研磨速度)を長期間維持するものであり、また、長期防汚性及び優れた塗膜状態を示した。実施例11の塗料は、24ヶ月後には少し汚れが見られるものであったが、塗膜は正常な状態を維持していた。比較例1〜3の塗料は、塗膜消耗が少ないものであったり、ある時間経過後には塗膜が消耗しないものであったり、塗膜消耗量が多すぎるものであったりするものであり、長期防汚性と塗膜状態の両立ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂側鎖に
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ有し、かつ、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Xは、
【化3】

で表される基、nは0又は1、Yは炭化水素、Mは2価金属、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。)
で表される基を少なくとも1つ有することを特徴とするアクリル樹脂。
【請求項2】
(A)重合性不飽和有機酸3〜50質量%、下記一般式(3)
【化4】

(式中、Zは、水素原子又はメチル基を表し、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。)
で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート90〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を重合させる工程、並びに、
(B)前記工程により得られた樹脂、金属化合物、及び、一塩基酸を反応させる工程
により得られることを特徴とするアクリル樹脂。
【請求項3】
一塩基酸が、一塩基環状有機酸である請求項1又は2記載のアクリル樹脂。
【請求項4】
一塩基酸が、ロジン類、水添ロジン類、不均化ロジン類、ナフテン酸、アビエチン酸、水素添加アビエチン酸及びデヒドロアビエチン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2又は3記載のアクリル樹脂。
【請求項5】
一般式(1)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基である請求項1、3又は4記載のアクリル樹脂。
【請求項6】
一般式(3)におけるR、R及びRが、すべてイソプロピル基である請求項2、3又は4記載のアクリル樹脂。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載のアクリル樹脂を含有することを特徴とする防汚塗料。

【公開番号】特開2006−265560(P2006−265560A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118242(P2006−118242)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【分割の表示】特願2002−372778(P2002−372778)の分割
【原出願日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(597091890)日本ペイントマリン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】