説明

アクリル系ゴム組成物及びシール材

【課題】耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、十分なシール性能が得られるアクリル系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】共重合成分として、エチルアクリレートを15〜84.9質量%、n−ブチルアクリレートを15〜84.9質量%、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを0.1〜20質量%含有してなるアクリル系共重合ゴム100質量部に対して、多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有した構成とし、かつアクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率を70〜99.9質量%に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、軸受用シール、オイルシール、摺動を伴うシール材等のシール材の材料などとして用いられるアクリル系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シール材の材料として、ハロゲン基含有エチルアクリレートの重合体、ハロゲン基含有エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート共重合体、ハロゲン基含有エチルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート共重合体が公知である。
【0003】
また、シール材料として、エチルアクリレート60〜85重量%およびn−ブチルアクリレート40〜15重量%の共重合組成を有するハロゲン含有エチルアクリレート−n−ブチルアクリレート共重合体に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、炭素繊維及び脂肪酸金属石鹸/イオウ系加硫剤を含有してなるアクリルゴム組成物が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−302491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のシール材料では、次のような問題があった。即ち、ハロゲン基含有エチルアクリレートの重合体は、耐熱性に優れるものの、低温特性に劣り、シール性能も不十分であるという問題があった。また、ハロゲン基含有エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート三元共重合体は、低温特性は良好であるものの、耐熱性に劣っており、十分なシール性能が得られないという問題があった。また、ハロゲン基含有エチルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート二元共重合体は、耐熱性に劣っており、十分なシール性能が得られないという問題があった。また、特許文献1に記載のアクリルゴム組成物は、耐熱性に優れるものの、シール性能は十分なものではなかった。
【0006】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、十分なシール性能が得られるアクリル系ゴム組成物及びシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]共重合成分として、エチルアクリレートを15〜84.9質量%、n−ブチルアクリレートを15〜84.9質量%、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを0.1〜20質量%含有してなるアクリル系共重合ゴムと、
多価アミン架橋剤と、を含有してなり、
前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有し、
前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率が70〜99.9質量%であることを特徴とするアクリル系ゴム組成物。
【0009】
[2]前記エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルが、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルである前項1に記載のアクリル系ゴム組成物。
【0010】
[3]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルがブテンジオン酸モノアルキルエステルである前項2に記載のアクリル系ゴム組成物。
【0011】
[4]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルがフマル酸モノアルキルエステルである前項2に記載のアクリル系ゴム組成物。
【0012】
[5]前項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物を架橋してなるシール材。
【発明の効果】
【0013】
[1]の発明に係るアクリル系ゴム組成物は、共重合成分として、エチルアクリレートを15〜84.9質量%、n−ブチルアクリレートを15〜84.9質量%、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを0.1〜20質量%含有してなるアクリル系共重合ゴムと、多価アミン架橋剤と、を含有してなり、アクリル系共重合ゴム100質量部に対して多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有し、アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率が70〜99.9質量%であるから、耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、十分なシール性能が得られるアクリル系ゴム組成物が提供される。
【0014】
[2]の発明では、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルとしてエチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルが用いられた構成であるから、耐熱性及び低温特性を向上させることができる。
【0015】
[3]の発明では、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルとしてブテンジオン酸モノアルキルエステルが用いられた構成であるから、耐熱性及び低温特性をより向上させることができる。
【0016】
[4]の発明では、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルとしてフマル酸モノアルキルエステルが用いられた構成であるから、耐熱性及び低温特性をより一層向上させることができる。
【0017】
[5]の発明では、耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、十分なシール性能が得られるシール材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係るアクリル系ゴム組成物は、共重合成分として、エチルアクリレートを15〜84.9質量%、n−ブチルアクリレートを15〜84.9質量%、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを0.1〜20質量%含有してなるアクリル系共重合ゴムと、多価アミン架橋剤と、を含有してなり、前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有し、前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率が70〜99.9質量%であることを特徴とする。
【0019】
前記アクリル系共重合ゴムは、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート及びエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを含有した混合物を共重合して得られる共重合体である。
【0020】
前記アクリル系共重合ゴムの共重合成分であるエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルは、このアクリル系共重合ゴムに架橋点を導入するための成分(単量体)である。
【0021】
前記エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルは、多価カルボン酸の複数個のカルボキシル基のうちの少なくとも1つのカルボキシル基がアルキル基によってエステル化された単量体であって、且つ少なくとも1つのカルボキシル基がエステル化されずに残っている単量体である。前記エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルとしては、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルがより好ましく、特に好適なのはブテンジオン酸モノアルキルエステルである。
【0022】
前記ブテンジオン酸モノアルキルエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−プロピル、フマル酸モノイソプロピル、フマル酸モノn−ブチル、フマル酸モノ2−エチルヘキシル、フマル酸モノ2−メトキシエチル等のフマル酸モノエステルの他、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−プロピル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノn−ブチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸モノ2−メトキシエチル等のマレイン酸モノエステル等が挙げられる。これらの中でも、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル等のフマル酸モノアルキルエステルが好適に用いられる。
【0023】
前記エチレン性不飽和多価カルボン酸エステルとしては、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレート(アクリル酸エチル)の含有率は15〜84.9質量%に設定される。15質量%未満では、加工性が悪くなるという問題を生じ、84.9質量%を超えると低温特性が悪くなり、十分なシール性能が得られない。中でも、20〜75質量%に設定されるのが好ましい。
【0025】
前記アクリル系共重合ゴムにおけるn−ブチルアクリレート(アクリル酸n−ブチル)の含有率は15〜84.9質量%に設定される。15質量%未満では、低温特性が悪くなり、十分なシール性能が得られない。一方、84.9質量%を超えると加工性が悪くなる。中でも、20〜75質量%に設定されるのが好ましい。
【0026】
また、前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率は70〜99.9質量%に設定される。70質量%未満では、耐熱性が悪くなり、十分なシール性能が得られない。中でも、前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率は80〜99質量%に設定されるのがより好ましく、特に好適なのは92〜97質量%である。
【0027】
前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルの含有率は0.1〜20質量%に設定される。0.1質量%未満では、得られるアクリル系架橋ゴム成形体は引張強度が低いものとなるし、一方20質量%を超えると、得られるアクリル系架橋ゴム成形体は伸びが不十分なものとなる。前記共重合ゴムにおけるエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルの含有率は0.1〜10質量%に設定されるのが好ましく、中でも1〜5質量%に設定されるのが特に好ましい。
【0028】
前記アクリル系共重合ゴムは、共重合成分として、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート及びエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを必須成分として含有してなる共重合ゴムであるが、これら必須成分以外の他の共重合成分を含んでいても良い。前記他の共重合成分としては、特に限定されるものではないが、例えばアクリル酸アルキルエステル(エチルアクリレートとn−ブチルアクリレートを除く)、アクリル酸アルコキシルアルキルエステル、エチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルコキシルアルキルエステル等が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えばメチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。前記アクリル酸アルコキシルアルキルエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えばメトキシメチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート等が挙げられる。なお、前記他の共重合成分としてハロゲン基含有架橋性モノマーを含有せしめないものとするのが好ましい。
【0029】
共重合成分として前記他の共重合成分を含有せしめる場合において、前記アクリル系共重合ゴムにおける前記他の共重合成分の含有率は29.9質量%以下に設定する。中でも15質量%以下に設定されるのが好ましく、5質量%以下に設定されるのがより好ましい。
【0030】
前記アクリル系共重合ゴムは、例えば、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート及びエチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを前記所定範囲の割合で含有してなる単量体混合物を重合開始剤の存在下に通常の乳化重合法により共重合させることにより得られる。
【0031】
前記乳化重合法により共重合させる場合において、乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキルサルフェート、アルキルアリールスルフォネート、高級脂肪酸の塩(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、アルキルアリールスルホン酸塩(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、高級アルコール硫酸エステル塩、アニオン性乳化剤(例えばアルキルスルホコハク酸塩等)、カチオン性乳化剤(例えばアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等)、オルガノポリシロキサン系乳化剤(例えばポリオキシエチレンポリオキシプロピレンメチルポリシロキサンコポリマー等)などが挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0032】
中でも、前記乳化剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム又は/及びリン酸3ナトリウムを用いるのが、前記アクリル系共重合ゴムの収率を向上させることができる点で、好ましい。
【0033】
前記乳化剤の使用量は、前記単量体混合物100質量部に対して乳化剤0.1〜10質量部とするのが好ましい。このような範囲に設定することにより、乳化重合反応を効率良く進行させることができる。
【0034】
前記重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いる。中でも、前記重合開始剤としては、PMHP(パラメタンハイドロパーオキサイド)を用いるのが好ましい。前記過酸化物開始剤は、還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属イオンを含有する化合物、スルホン酸化合物、アミン化合物等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いる。中でも、前記還元剤としては、硫酸鉄又は/及びSFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)を用いるのが好ましい。
【0035】
前記重合開始剤の使用量は、前記単量体混合物100質量部に対して重合開始剤0.01〜1.0質量部とするのが好ましい。
【0036】
前記多価アミン架橋剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族多価アミン架橋剤、芳香族多価アミン架橋剤等が挙げられる。前記脂肪族多価アミン架橋剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンカーバメイト等が挙げられる。また、前記芳香族多価アミン架橋剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3,5−ベンゼントリアミン、1,3,5−ベンゼントリ(アミノメチル)等が挙げられる。
【0037】
この発明では、前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有せしめる。0.1質量部未満では十分な架橋構造を形成できないし、20質量部を超えるとゴム成形体の伸びが不十分になるという問題を生じる。中でも、前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.5〜8質量部含有せしめるのが好ましく、特に好適なのは0.5〜2質量部である。
【0038】
この発明のアクリル系ゴム組成物は、前記アクリル系共重合ゴムと、前記多価アミン架橋剤とを含有してなる組成物であるが、これに更に架橋促進剤を含有せしめるのが好ましい。このような架橋促進剤を含有せしめる場合、前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部、架橋促進剤を0.1〜20質量部含有せしめるのが好ましい。架橋促進剤が20質量部を超えると、架橋時に架橋速度が早くなり過ぎたり、架橋物の表面への架橋促進剤のブルーミングが生じたり、架橋物が硬くなり過ぎたりする場合があるので、好ましくない。また、架橋促進剤が0.1質量部未満では、架橋物の引張強さが著しく低下したり、熱負荷後の伸び変化率または引張強さ変化率が大きくなり過ぎたりする場合があるので、好ましくない。中でも、前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部、架橋促進剤を0.1〜15質量部含有せしめるのがより好ましく、特に好ましいのは架橋促進剤を0.1〜10質量部含有せしめる構成である。
【0039】
前記架橋促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、第4級オニウム塩、第3級アミン化合物、第3級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。前記グアニジン化合物としては、例えば1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン等が挙げられる。前記イミダゾール化合物としては、例えば2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。前記第4級オニウム塩としては、例えばテトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリn−ブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。前記第3級アミン化合物としては、例えばトリエチレンジアミン、1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等が挙げられる。前記第3級ホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン等が挙げられる。前記弱酸のアルカリ金属塩としては、例えばナトリウム又はカリウムのリン酸塩、炭酸塩などの無機弱酸塩或いはステアリン酸塩、ラウリル酸塩などの有機弱酸塩等が挙げられる。
【0040】
この発明のアクリル系ゴム組成物には、補強性充填剤(増量剤)、潤滑性充填剤、可塑剤、潤滑油、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、耐油性向上剤、スコーチ防止剤、発泡剤、滑剤等を含有せしめても良い。前記補強性充填剤としては、例えば湿式シリカ、フェームドシリカ、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、繊維、有機補強剤、有機充填剤等が挙げられる。前記潤滑性充填剤としては、例えばグラファイト、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。前記可塑剤としては、例えばフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体等が挙げられる。前記軟化剤としては、例えばプロセスオイル等が挙げられる。前記老化防止剤としては、例えばフェニレンジアミン類、フォスフェート類、キノリン類、クレゾール類、フェノール類等が挙げられる。また、得られるアクリル系ゴム成形体の変色を防止するために、EDTA(キレート剤)を含有せしめても良い。
【0041】
この発明のアクリル系ゴム組成物は、上述した各成分(アクリル系共重合ゴム、多価アミン架橋剤など)を、例えばニーダー、バンバリーミキサ等の密封式混錬装置、ロール等の開放式混錬装置により均一に混合することにより得られる。
【0042】
こうして得られたアクリル系ゴム組成物を、例えば圧縮成形、射出成形、トランスファー成形、押出成形、カレンダー成形などの成形法により架橋、成形することによって、本発明のアクリル系ゴム成形体(架橋成形体)を得ることができる。架橋(加硫)は、一般に140〜200℃で1〜30分間行われる。更に必要に応じて、150〜200℃で1〜24時間のオーブン加硫または蒸気加硫が二次加硫として行われる。
【0043】
このアクリル系ゴム成形体は、耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、シール性能にも優れている。従って、本発明のアクリル系ゴム成形体をシール材として用いた場合には、シール材としての耐熱性、低温特性、加工性を向上させることができ、シール材としてのシール性能を十分に向上させることができる。
【実施例】
【0044】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
3つ口反応フラスコ(重合槽)にイオン交換水を870mL入れた後、これに窒素ガスをバブリングし、40℃まで昇温した後、これにエチルアクリレート189.0g、n−ブチルアクリレート77.0g、フマル酸モノエチルエステル14.0g、さらに電解質のリン酸3ナトリウム(12水和物)を0.6g加え、ミセルが安定するまで良く攪拌して乳化せしめた。
【0046】
次いで、前記乳化液に、EDTA(キレート剤)0.105g、硫酸鉄(II)水和物0.09g、SFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.225gを添加して良く攪拌した。
【0047】
更に、前記乳化液に、重合開始剤としてPMHP(パラメタンハイドロパーオキサイド)を0.3g添加することによって単量体混合物の共重合反応を4時間行った。重合開始剤添加後の液温度は5℃に維持した。
【0048】
共重合反応後に、重合液を10Lビーカーに移し、これにメタノール3000mLを加えて室温で攪拌した(塩析を行った)。この塩析により沈殿したアクリル系共重合ゴムをイオン交換水でモノマー臭気がなくなるまで水洗した。水洗後、40℃で72時間減圧乾燥することによって、アクリル系共重合ゴムを得た。
【0049】
上記乾燥したアクリル系共重合ゴム100質量部に対して、ステアリン酸(滑剤)1.0質量部、4,4’−ビスジフェニルアミン(大内新興化学社製「ノクラックCD」)(老化防止剤)2.0質量部、シリカ40.0質量部、珪藻土40.0質量部、ジ−o−トリルグアニジン(大内新興化学社製「ノクセラーDT」)(架橋促進剤)2.0質量部、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト(デュポンダウエラストマー社製「DIAK No.1」)(多価アミン架橋剤)0.6質量部を混合してなる組成物を8インチオープンロールで混錬することによりアクリル系ゴム組成物を得た。
【0050】
しかる後、アクリル系ゴム組成物を圧力100kg/cm2、温度160℃で12分間プレス成形した後、さらに160℃で4時間のオーブン加硫(二次加硫)を行うことにより、厚さ2mmのアクリル系ゴムシート(前記アクリル系ゴム組成物の架橋体からなるアクリル系ゴム成形体)を得た。
【0051】
<実施例2、3、比較例1〜4>
アクリル系共重合ゴムとして、表1に示す共重合組成からなるアクリル系共重合ゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリル系ゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0052】
<比較例5>
3つ口反応フラスコ(重合槽)にイオン交換水を870mL入れた後、これに窒素ガスをバブリングし、40℃まで昇温した後、これにエチルアクリレート88.5g、n−ブチルアクリレート88.8g、メトキシエチルアクリレート88.8g、フマル酸モノエチルエステル14.0g、さらに電解質のリン酸3ナトリウム(12水和物)を0.6g加え、ミセルが安定するまで良く攪拌して乳化せしめた。
【0053】
次いで、前記乳化液に、EDTA(キレート剤)0.105g、硫酸鉄(II)水和物0.09g、SFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.225gを添加して良く攪拌した。
【0054】
更に、前記乳化液に、重合開始剤としてPMHP(パラメタンハイドロパーオキサイド)を0.3g添加することによって単量体混合物の共重合反応を4時間行った。重合開始剤添加後の液温度は5℃に維持した。
【0055】
共重合反応後に、重合液を10Lビーカーに移し、これにメタノール3000mLを加えて室温で攪拌した(塩析を行った)。この塩析により沈殿したアクリル系共重合ゴムをイオン交換水でモノマー臭気がなくなるまで水洗した。水洗後、40℃で72時間減圧乾燥することによって、アクリル系共重合ゴムを得た。
【0056】
上記アクリル系共重合ゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリル系ゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0057】
<比較例6>
3つ口反応フラスコ(重合槽)にイオン交換水を870mL入れた後、これに窒素ガスをバブリングし、40℃まで昇温した後、これにエチルアクリレート189.0g、n−ブチルアクリレート77.0g、2−クロロエチルビニルエーテル(ハロゲン含有架橋点モノマー)14.0g、さらに電解質のリン酸3ナトリウム(12水和物)を0.6g加え、ミセルが安定するまで良く攪拌して乳化せしめた。
【0058】
次いで、前記乳化液に、EDTA(キレート剤)0.07g、硫酸鉄(II)水和物0.06g、SFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.15gを添加して良く攪拌した。
【0059】
更に、前記乳化液に、重合開始剤としてPMHP(パラメタンハイドロパーオキサイド)を0.2g添加することによって単量体混合物の共重合反応を4時間行った。重合開始剤添加後の液温度は5℃に維持した。
【0060】
共重合反応後に、重合液を10Lビーカーに移し、これにメタノール3000mLを加えて室温で攪拌した(塩析を行った)。この塩析により沈殿したアクリル系共重合ゴムをイオン交換水でモノマー臭気がなくなるまで水洗した。水洗後、40℃で72時間減圧乾燥することによって、アクリル系共重合ゴムを得た。
【0061】
上記乾燥したアクリル系共重合ゴム100質量部に対して、ステアリン酸(滑剤)1.0質量部、4,4’−ビスジフェニルアミン(大内新興化学社製「ノクラックCD」)(老化防止剤)2.0質量部、シリカ40.0質量部、珪藻土40.0質量部、硫黄0.3質量部、ステアリン酸ナトリウム3.5質量部、グラファイト5.0質量部、水酸化カルシウム2.0質量部、炭素繊維5.0質量部を混合してなる組成物を8インチオープンロールで混錬することによりアクリル系ゴム組成物を得た。
【0062】
しかる後、アクリル系ゴム組成物を圧力100kg/cm2、温度160℃で12分間プレス成形した後、さらに160℃で4時間のオーブン加硫(二次加硫)を行うことにより、厚さ2mmのアクリル系ゴムシート(前記アクリル系ゴム組成物の架橋体からなるアクリル系ゴム成形体)を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
次に、上記のようにして得られた各ゴムシートの諸特性を下記評価法に基づいて評価した。その結果を表1に示す。なお、比較例2、比較例4については、ロール加工性の評価結果が「×」であったので、その他の評価項目の評価を行わなかった(表1参照)。
【0065】
<ロール加工性評価法>
ゴム組成物を8インチオープンロール(温度:50℃、回転数:12rpm)で混錬する際の混練性および混練組成物を厚さ0.5mmのシート状に成形する際の成形性を調べて下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「○」…混練性が良好で、成形性も良好である
「△」…混練に少し時間がかかるものの混練性及び成形性ともにほぼ良好である
「×」…混練性が悪く、成形性も悪い。
【0066】
<熱老化試験による耐熱性評価法>
JIS K6257に準拠し、ゴムシートに対し180℃条件下において熱老化試験を開始し、開始から504時間後における、初期値に対する硬度変化量を算出した。これらの結果を表1に示す。この表1において硬度変化量を「ΔHS」と表記した。次の判定基準に基づいて耐熱性を評価した。
(判定基準)
「○」…硬度変化量(ΔHS)が+15以下であり、耐熱性に優れている
「△」…硬度変化量(ΔHS)が+16〜+19であり、耐熱性が良好である
「×」…硬度変化量(ΔHS)が+20以上であり、耐熱性に劣っている。
【0067】
<低温特性評価法>
ASTM D−1356のガラス転移温度評価法に準拠してゴムシートのTg(ガラス転移温度)を測定し、下記判定基準に基づいて低温特性を評価した。
(判定基準)
「○」…Tgが−20℃以下であり、低温特性に優れている
「△」…Tgが−16℃〜−19℃であり、低温特性が良好である
「×」…Tgが−15℃以上の高い温度であり、低温特性に劣っている。
【0068】
<シール性能評価法>
各実施例、各比較例のアクリル系ゴム組成物を用いて6203(アキシャル接触形状)ベアリングシールを成形した。このベアリングシールをベアリングに挿入し、この挿入配置状態で以下の試験条件でシール密封性(水分浸水量)を評価した。水に浸漬する前のベアリング(ベアリングシール装着)の質量を予め測定しておき、ベアリング(ベアリングシール装着)を水に浸漬した状態でベアリングを下記試験条件で稼働せしめ、しかる後この試験後のベアリング(ベアリングシール装着)の質量を測定し、下記算出式よりベアリング内に入り込んだ水分量を求めた。下記判定基準に基づいてシール性能を評価した。
【0069】
浸水量(g)=(試験後のベアリングの質量)−(試験前のベアリングの質量)
(試験条件)
ベアリング:6203(アキシャル接触形状)、外径40mm、内径17mm、幅12mm
回転速度:3000rpm
回転時間:1時間
泥水組成:JIS 8種(5質量%液)
荷重:アキシャル荷重70.5N
水温:27〜30℃
没水位置:水没位置100mm
(判定基準)
「○」…浸水量が0.05g未満であり、シール密封性に優れている
「△」…浸水量が0.05〜0.10gであり、シール密封性が良好である
「×」…浸水量が0.10gより大きく、シール密封性に劣っている。
【0070】
表1から明らかなように、この発明のアクリル系ゴム組成物の架橋により得られた実施例1〜3のアクリル系ゴムシートは、加工性が良好で、耐熱性と低温特性に優れ、シール性能にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明に係るアクリル系ゴム組成物の成形体は、耐熱性に優れ、低温特性、加工性が良好であると共に、シール性能にも優れているので、例えば、軸受用シール、オイルシール、摺動を伴うシール材等のシール材として好適に用いられるが、特にこれら用途に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、エチルアクリレートを15〜84.9質量%、n−ブチルアクリレートを15〜84.9質量%、エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルを0.1〜20質量%含有してなるアクリル系共重合ゴムと、
多価アミン架橋剤と、を含有してなり、
前記アクリル系共重合ゴム100質量部に対して前記多価アミン架橋剤を0.1〜20質量部含有し、
前記アクリル系共重合ゴムにおけるエチルアクリレートとn−ブチルアクリレートの両者の合計含有比率が70〜99.9質量%であることを特徴とするアクリル系ゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和多価カルボン酸不完全エステルが、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルである請求項1に記載のアクリル系ゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルがブテンジオン酸モノアルキルエステルである請求項2に記載のアクリル系ゴム組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルがフマル酸モノアルキルエステルである請求項2に記載のアクリル系ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物を架橋してなるシール材。

【公開番号】特開2010−270172(P2010−270172A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120715(P2009−120715)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】