説明

アクリル系水性エマルジョン

【課題】耐ブロッキング性と成膜性とのバランスに優れ、また柔軟性にも優れる塗膜を得ることが可能なアクリル系水性エマルジョンを提供すること。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合することにより得られる水性エマルジョンであって、ガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合体が中心部分(コア)と外側部分(シェル)から成る異相構造粒子を形成し、コア部を構成する重合体のTgがシェル部を構成する重合体のTgよりも10℃以上高く、コア部を構成する重合体が特定組成の単量体系[I]の乳化重合により得られ、シェルを構成する重合体のうちの最も外側に存在する重合体が、特定組成の単量体系[II]の乳化重合により得られることを特徴とするアクリル系水性エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料、建材の下地処理材又は仕上げ材、その他コーティング材において優れた性能を有する塗膜を形成することができるアクリル系水性エマルジョンに関するものである。
本発明のアクリル系水性エマルジョンにより形成された塗膜は、耐ブロッキング性と成膜性とのバランスに優れ、また柔軟性にも優れる。なお、ブロッキングとは、水性塗料等が塗装された製品が積み重ねられた際に、塗膜が製品の非塗装面又は製品間に挿入する緩衝材等と接着する現象、あるいは塗膜どうしが接着する現象を指す。
【背景技術】
【0002】
乳化重合により得られるアクリル系水性エマルジョン(以下、単にエマルジョンと略す)は、常温あるいは加熱下で乾燥形成した塗膜が比較的良好な耐久性を示すことから、水性塗料や各種コーティング材の原料として多く用いられている。水性塗料等は、工場で建築用部材、家電品、プラスチック製品等の様々な物体に塗装されるが、塗装後に十分な乾燥を行ったとしても、製品を多数積み重ねたり、高温条件下で積み重ねることにより、ブロッキングが起こる場合があるため、このような状況下で使用される場合には、耐ブロッキング性に対する要求は非常に厳しい。ブロッキングは、重合体のガラス転移温度(Tg)が大いに関係し、一般にTgが低く、成膜性(塗膜形成性)に優れるエマルジョンにより得られる塗膜は、乾燥後も粘着性が残り、耐ブロッキング性は劣る。一方Tgが高い水性エマルジョンの場合には、高温状態で塗装することにより得られる塗膜の耐ブロッキング性は優れるものの、成膜が困難である。従って、ヒビ割れの無い良好な塗膜を得るためには、多量の成膜助剤を添加する必要があり、その結果乾燥が不十分な場合は、製膜助剤が塗膜中に残留し、ブロッキングが起こる。このように耐ブロッキング性と成膜性は二律背反の関係にあるため、Tgが高く耐ブロッキング性に優れると共に成膜性も良好なエマルジョン開発が望まれ、これまで様々な検討が行われてきた。
【0003】
しかしながら、このような要求を満足するエマルジョンは無いのが現状であり、耐ブロッキング性と成膜性とのバランスに優れるエマルジョンの開発が期待されている。そのための手法としては、エマルジョン粒子のコア部が高Tg重合体、シェル部が低Tg重合体で構成された異相構造エマルジョンとする手法が、特許文献1及び特許文献2に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のエマルジョンにおいては、例えばMFT(最低成膜温度)が40℃未満であり、成膜性が非常に優れるエマルジョンを得るためには、粒子全体の平均Tgを21℃以下にする必要があり、耐ブロッキング性の要求が非常に厳しい用途に対しては、Tgが低く不適である。また、特許文献2に記載のエマルジョンは、製膜性には優れるものの、高Tg成分の比率が10〜35質量%と少なく、同様に耐ブロッキング性の要求が非常に厳しい用途には不適である。このように従来のエマルジョンでは、成膜性の良いエマルジョンを得るため、Tgが90℃以上の重合体の割合を下げたり、粒子全体の平均Tgを下げたりして、耐ブロッキング性を犠牲にするものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−355602号公報
【特許文献2】特開2003−226793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のエマルジョンでは、高いレベルで耐ブロッキング性と成膜性を両立することが困難であったが、近年の当業界の要求レベルはますます厳しいものとなってきており、より一層の改良が求められている。更には、塗膜の柔軟性は水性塗料等の耐凍害
性を支配する重要な因子であるが、本発明の目的は前述の課題を解決すると共に、塗膜の柔軟性にも優れるアクリル系水性エマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エマルジョン粒子のコア部とシェル部の重合体比率を最適化することにより、耐ブロッキング性と成膜性のバランスに優れ、また塗膜の柔軟性にも優れるエマルジョンが得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち第1の発明は、エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合することにより得られるアクリル系水性エマルジョンであって、ガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合体を含み、かつ該重合体が中心部分(コア)と外側部分(シェル)から成る異相構造粒子を形成し、コア部を構成する重合体のTgがシェル部を構成する重合体のTgよりも10℃以上高く、コア部を構成する重合体が、ホモポリマーTgが90℃以上であるエチレン性不飽和単量体(A成分)50〜94.9質量%、ホモポリマーTgが90℃未満であるエチレン性不飽和単量体(B成分)5〜40質量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(C成分)0.1〜10質量%からなる単量体系[I]の乳化重合により得られ、シェル部を構成する重合体のうちの最も外側に存在する重合体が、A成分0〜10質量%、B成分80〜100質量%、C成分0〜10質量%からなる単量体系[II]の乳化重合により得られることを特徴とするアクリル系水性エマルジョンに関するものである。
第2の発明は、コア部を構成する重合体のTgが70℃以上、異相構造粒子全体の平均Tgが40℃以上である第1の発明におけるアクリル系水性エマルジョンである。
第3の発明は、異相構造粒子全体に占めるコア部の比率が35質量%以上70質量%以下である第1の発明又は第2の発明におけるアクリル系水性エマルジョンである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアクリル系水性エマルジョンにより得られる塗膜は、耐ブロッキング性と成膜性とのバランスに優れ、また柔軟性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明のアクリル系水性エマルジョンは、通常の乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体、界面活性剤、ラジカル重合開始剤および必要に応じて用いられる他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、通常60〜90℃の加温下にて単量体成分の乳化重合を行い、この工程を少なくとも2回以上繰り返す方法である。重合系内への単量体組成物の供給方法としては、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルジョン法、あるいはこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
【0009】
まず本発明のエマルジョンにおけるコア部とシェル部の定義であるが、異相構造粒子が3相以上(3種類以上の重合体)で構成されている場合、中心側と外側の2つの領域で分割し、中心に位置する重合体を含む領域をコア部とし、最も外側に位置する重合体を含むコア部以外の外側の領域をシェル部と定義する。領域分割の仕方については特に制限はなく、コア部又はシェル部が2相以上で構成されている場合のTgは平均値を用いることとする。
【0010】
本発明のエマルジョンにおいて、異相構造粒子のコア部を構成する重合体は、単量体系[I]の乳化重合により得られるが、単量体系[I]におけるA成分の比率を高め、コア
部を構成する重合体のTgを高くするほど、得られる塗膜の耐ブロッキング性が良くなる。具体的なTgの値としては50℃以上であり、好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。その上限は130℃以下、好ましくは120℃以下である。
コア部の高Tg重合体を得るために必要なA成分の量としては、単量体系[I]におけるB成分とC成分のホモポリマーTgや量によって変わるが、具体的には50質量%以上、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
ところでA成分の量を増やし過ぎると、重合安定性が悪くなり、凝集物が多量に発生する場合があるため、具体的には94.9質量%以下とすることが好ましい。
コア部の高Tg重合体を得る際に用いるB成分の量としては、単量体系[I]におけるA成分とC成分のホモポリマーTgや量によって変わるが、少なくするほどコア部を構成する重合体のTgを高くできるため、具体的には5質量%以上40質量%以下、好ましくは5質量%以上35質量%以下、更に好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0011】
本発明においては、異相構造粒子を乳化重合する際、単量体系[I]にC成分のカルボキシル含有エチレン性不飽和単量体を含むことが必須である。C成分を含有することにより、本発明のアクリル系水性エマルジョンから得られる塗膜の柔軟性が向上する。C成分の量としては、具体的には0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.3質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。また単量体系[II]におけるC成分の量については、塗膜表面の乾燥速度に影響し、C成分が無い又は少ない場合には、作製する水性塗料の組成にもよるが、塗膜表面の乾燥が急速に進行してクラックが発生する場合があるため、0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
一方シェルを構成する重合体のうちの最も外側に存在する重合体は、単量体系[II]の乳化重合により得られるが、そのTgは低いほど成膜性が良くなり、具体的なTgの値としては40℃未満であり、好ましくは30℃未満、更に好ましくは20℃未満である。その下限は−80℃以上、好ましくは−70℃以上である。
【0012】
ここで、単量体系[II]におけるA成分の比率は、本発明においては0質量%以上30質量%以下とすることが必須である。A成分の比率を30質量%以下とすることで、成膜性が非常に優れるアクリル系水性エマルジョンが得られる。
単量体系[II]におけるB成分の比率は60質量%以上100質量%以下であり、好ましくは70質量%以上99質量%以下である。
異相構造粒子全体の平均Tgは耐ブロッキング性と成膜性に大きく影響し、40℃未満の場合は成膜性は良好であるが、耐ブロッキング性の要求が厳しい場合には、適さないことがある。耐ブロッキング性が良好なエマルジョンを得るためには、異相構造粒子全体の平均Tgを40℃以上にすることが好ましい。その上限は80℃以下、好ましくは70℃以下である。
【0013】
異相構造粒子におけるコア部とシェル部の比率については、コア部と粒子全体のTgが前記の温度範囲にあれば、特に制限は無いが、コア部の比率が低いと耐ブロッキング性が悪くなるため、具体的には35質量%以上であることが好ましい。一方、コア部の比率を高くし過ぎると、耐ブロッキング性は向上する方向であるが、Tgの低い重合体で構成されるシェル部が少なり、成膜性が悪くなる。その結果、成膜助剤の添加量を増やすことになって耐ブロッキング性を低下させることにつながるため、コア部の比率としては、70質量%以下とすることが好ましい。
【0014】
ここで本発明において示される重合体のTgは、実験的にまたは計算により得られる。実験的には、重合体の動的粘弾性測定や示差走査熱量分析(DSC)を行うことにより測定できる。計算では、通常知られているFoxの式:1/Tg=W1 /Tg1 +W2
/Tg2 +・・・+Wn /Tgn(W1、W2、・・・、Wn は各重合性単量体
の質量分率、Tg1、Tg2、・・・、Tgn は各重合性単量体のホモポリマーTg(K:絶対温度))により求めることができる。このとき、計算に使用するホモポリマーのTgは、例えばポリマーハンドブック(John Willey & Sons)に記載されている。なお、実施例及び比較例で用いた各単量体のホモポリマーTgを表1に記載する。
【0015】
本発明に用いられるA成分及びB成分のエチレン性不飽和単量体は、カルボキシル基を含有しない単量体であり、具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、エポキシ基含有単量体などが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。好ましくは、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートである。
【0016】
芳香族単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。好ましくはスチレンである。ヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。好ましくはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0017】
アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、マレイン酸アミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等を挙げることができる。好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドである。
エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレートなどが挙げられる。好ましくはグリシジルメタクリレートである。
【0018】
また、これらの単量体に加えて、本発明のアクリル系水性エマルジョンに要求される様々な品質・物性を改良するために、前記以外の単量体成分をさらに使用することもできる。それらの単量体としては、上記の単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体が使用できる。例えば、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基などの官能基を有する各種の単量体、さらには酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなども所望に応じて使用できる。
【0019】
C成分のカルボキシル含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、例えば、モノカルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸のハーフエステル、マレイン酸のハーフエステル、フマール酸のハーフエステルなどが挙げられ、ジカルボン酸としては
イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸である。
【0020】
本発明で用いられる界面活性剤は、一分子中に少なくとも一つ以上の親水基と一つ以上の親油基を有する化合物を指す。
界面活性剤としては、例えば非反応性のアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤が挙げられ、また非反応性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
これらのほかに親水基と親油基を有する界面活性剤の化学構造式の中にエチレン性2重結合を導入した、いわゆる反応性界面活性剤を用いても良い。
【0021】
反応性界面活性剤の中でアニオン性界面活性剤としては、例えばスルホン酸基、スルホネート基又は硫酸エステル基及びこれらの塩を有するエチレン性不飽和単量体であり、スルホン酸基、又はそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基、又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物であることが好ましい。例えばアルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば三洋化成(株)エレミノール(商標)JS−2、JS−5等が挙げられる)、例えばポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば第一工業製薬(株)製アクアロン(商標)HS−10等が挙げられる)、例えばα−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば旭電化工業(株)製アデカリアソープ(商標)SE−1025N等が挙げられる)、例えばアンモニウム−α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば第一工業製薬(株)製アクアロンKH−10などが挙げられる)など、スチレンスルホン酸塩が挙げられる。
【0022】
また、反応性界面活性剤でノニオン性界面活性剤としては、例えばα−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば旭電化工業(株)製アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等が挙げられる)、例えばポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば第一工業製薬(株)製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等が挙げられる)などが挙げられる。
界面活性剤の量としては、単量体組成物100質量部に対して0.1〜5質量%とするのが良い。
【0023】
本発明で用いられるラジカル重合開始剤としては、熱または還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤および有機系開始剤のいずれも使用できる。このようなものとしては、水溶性、油溶性の重合開始剤が使用できる。
水溶性の重合開始剤としては例えばペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、過酸化物−還元剤のレドックス系などが挙げられ、ペルオキソ二硫酸塩としては
例えばペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)などが挙げられ、過酸化物としては例えば過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t―ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、過酸化ベンゾイルなどが挙げられ、水溶性アゾビス化合物としては、例えば2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2、2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩化水素、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)などが挙げられ、過酸化物−還元剤のレドックス系としては、例えば先の過酸化物にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、およびその塩、第一銅塩、第一鉄塩などの還元剤を重合開始剤に組み合わせて用いることもできる。
ラジカル重合開始剤の使用量としては、単量体組成物100質量部に対して、ラジカル重合開始剤0.05〜1質量%とするのが良い。
【0024】
本発明においては、エマルジョンを乾燥して得られる塗膜が屋外等に長時間暴露された際の光沢保持性を改良する目的で、乳化重合時に加水分解性のシランを添加しても良い。加水分解性のシランとは、酸触媒又はアルカリ触媒等によって加水分解及び縮合し、オルガノポリシロキサンを形成するものであり、例えば、下式(1)で示されるシリコーン構造を有するものである。
(R1)n−Si−(R2)4−n (1)
(式中nは0〜3の整数であり、R1は水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基、炭素数1〜10のアクリロキシアルキル基、または炭素数1〜10のメタクリロキシアルキル基から選ばれる。n個のR1は同一であっても、異なっても良い。R2は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基から選ばれる。4−n個のR2は同一であっても、異なっても良い。)
【0025】
加水分解性シランは、大まかにはラジカル重合性の二重結合を有するものと、有しないものとに大別される。
重合性加水分解性シランの具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。好ましくは、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0026】
非重合性の加水分解性シランの具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。好ましくは、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランである。
【0027】
その他の非重合性加水分解性シランとしては、環状シラン等も上げられ、例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、及びポリシロキサンなどが挙げられる。
これらの加水分解性シランは、1種又は2種以上含んでいても良い。これらの加水分解性シランを用いることにより、本発明のエマルジョンにより得られる
【0028】
加水分解性シランの添加方法は特に限定されない。例えば、単量体組成物と別々に添加
する方法、単量体組成物にあらかじめ混合して添加する方法、単量体組成物の乳化液にあらかじめ混合して添加する方法、単量体組成物の乳化液を反応機に投入する時に混合して添加する方法などが挙げられる。好ましくは乳化重合の安定性に問題ないことから、単量体組成物の乳化液を反応機に投入する時に混合して添加する方法である。加水分解性シランは、乳化重合中に存在することにより、加水分解、それに続いて縮合反応が進行する。
乳化重合中の乳化重合系の水素イオン濃度(pH)は特に限定されないが、pH4.0以下で実施することが好ましい。pH4.0以下で加水分解性シランの縮合反応が進行し、製品としての貯蔵安定性が問題ない。特に好ましくはpH1.5以上3.0以下である。
【0029】
加水分解性シランの加水分解、縮合反応をさらに促進させるために、例えば塩酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸、2−メシチレンスルホン酸、カンファ−10−スルホン酸、三フッ化ホウ素などが乳化重合中に用いられる。とくにヘキシルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、セチルベンゼンスルホン酸のような酸触媒と乳化重合用界面活性剤との両機能を有するものを乳化重合中に使用してもよい。
【0030】
本発明の水性樹脂分散体には耐久性の向上のために紫外線吸収剤及び/または光安定剤を添加することができる。紫外線吸収剤としては、分子内にラジカル重合性の二重結合を有する反応性のもの、及びラジカル重合性の二重結合を有しない非反応性のもの、光安定剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有する反応性のもの、及びラジカル重合性の二重結合を有しない非反応性のものを用いることもできる。
本発明において紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、蓚酸アニリド系、シアノアクリレート系、ベンゾエート系、サリシレート系から選ばれる少なくとも1種以上を用いることが好ましく、光安定剤として、例えば2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を有するヒンダードアミン系から選ばれる少なくとも1種以上を用いることが好ましい。
【0031】
ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、例えば、非反応性のものとして2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0032】
反応性のベンゾフェノン系の紫外線吸収剤として例えば、2−ヒドロキシ−4−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−トリエトキシ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0033】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤として、例えば、非反応性としては2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキ シ−3’
,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN1130が挙げられる)、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN384が挙げられる)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN571が挙げられる)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN900が挙げられる)などが挙げられる。
【0034】
反応性ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤として例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(例えば大塚化学(株)製、製品名:RUVA−93が挙げられる)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチル−3−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリルオキシプロピル−3−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2’’−ベンゾトリアゾリル)−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:CGL−104が挙げられる)などが挙げられる。
【0035】
トリアジン系紫外線吸収剤として、例えば、非反応性としては例えば2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン混合物(例えば日本チバガイギー社(株)製、製品名:TINUVIN400が挙げられる)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシー4−イソ−オクチルフェニル)−s−トリアジン(例えば日本チバガイギー社(株)製、製品名:TINUVIN411Lが挙げられる)などが挙げられる。
【0036】
本発明において使用できるヒンダードアミン系光安定剤としては、塩基性が低いものが好ましく、具体的には塩基定数(pKb)が8以上のものが好ましい。例えば、非反応性としてはビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラ
メチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN292が挙げられる)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(例えば日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN123が挙げられる)などが挙げられる。
【0037】
反応性のヒンダードアミン系光安定剤として例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,−テトラメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−シアノ−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
紫外線吸収剤及び/または光安定剤は、乳化重合時に存在させる、または成膜助剤などと混合して後添加させるなど添加方法に制限はない。好ましくは、乳化重合時に存在させることである。紫外線吸収剤及び/または光安定剤の好ましい量としては、全単量体組成物100質量部に対して、紫外線吸収剤及び/または光安定剤0.1〜10質量部である。
【0038】
本発明のエマルジョンには、前記シリコーン変性剤、紫外線吸収剤、光安定剤以外にも、水性塗料に一般に配合される成分、例えば防腐剤、成膜助剤、増粘剤、消泡剤、凍結防止剤等を任意に配合することができる。
本発明のエマルジョンは、長期の分散安定性を保つため、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類を用いてpH5〜10の範囲に調整することが好ましい。本発明のアクリル系エマルジョンは、分散質の平均粒子径として、10〜1000nmであることが好ましい。
本発明のエマルジョンには、通常水系塗料などに添加配合される成分、例えば、成膜助剤、増粘剤、消泡剤、顔料、分散剤、染料、防腐剤などを任意に配合することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。なお、実施例および比較例中の部および%は、それぞれ質量部および質量%を示す。また、得られたアクリル系水性エマルジョンの物性試験については、下記に示す配合組成で塗料を調整し、以下に示す試験方法に従って試験を実施した。
【0040】
・引張試験用クリアー塗料の作製
実施例及び比較例のエマルジョン(固形分換算) 50 部
エチレングリコールモノブチルエーテル 5 部
水 5 部
CS−12(チッソ株式会社製) 10 部
【0041】
・耐ブロッキング性評価用クリアー塗料の作製
実施例及び比較例のエマルジョン(固形分換算) 50 部
エチレングリコールモノブチルエーテル 評価法を参照
【0042】
<評価方法>
・固形分率の測定
予め質量の分かっているアルミ皿に、実施例及び比較例で得られたエマルジョン約1gを正確に秤量し、乾燥機で105℃にて3時間乾燥した後、シリカゲルを入れたデシケーター中で30分放冷後に秤量する。乾燥物の質量を乾燥前質量で割った値を固形分率とした。
【0043】
・粒子径の測定
リーズ&ノースラップ社製の粒度分布計UPA150を用い、実施例及び比較例で得られたエマルジョンの平均粒子径を測定した。測定値の1つとして、体積平均粒子径を表3に示す。
【0044】
・成膜性の評価:MFT(最低成膜温度)の測定
MFT測定装置の温度勾配板上に実施例及び比較例のエマルジョンを0.1ミリの厚みで塗工し、測定したMFT値を以下の基準で評価した。MFT値及び成膜性の評価結果を表3に示す。△以上が合格ラインである。
◎ : MFTが25℃未満
○ : MFTが25℃以上40℃未満
△ : 40℃以上50℃未満
× : 50℃以上
【0045】
・耐ブロッキング性の評価
実施例及び比較例のエマルジョンに対し、MFTが10〜15℃の範囲になるように成膜助剤のエチレングリコールモノブチルエーテルを配合し、評価用クリアー塗料を作製した。これをガラス板上に0.1ミリの厚みで塗工し、恒温室(室温23℃、湿度50%)にて1時間自然乾燥させた。次に設定温度100℃の乾燥機で5分間乾燥した後、塗布表面に5cm角に切り取ったガーゼを4枚重ねて乗せ、40℃の乾燥機内で0.1MPaの荷重を16時間かけた。乾燥機から取り出して室温に戻した後、荷重を取り除き、ガーゼをゆっくり剥がして塗膜表面の状態を目視で観察した。評価の基準は以下であり、評価結果を表3に示す。△以上が合格ラインである。
◎ : ガーゼの痕跡がほとんどなし。
○ : ガーゼの痕跡が少し見られる。
△ : 網目状の痕跡あり。
× : ガーゼの剥離が困難
【0046】
・柔軟性の評価:クリアー塗膜の引張試験
前記の引張試験用クリアー塗料をガラス板に0.25ミリの厚みで塗工し、室温23℃、湿度50%の条件下で3時間自然乾燥させた。得られた塗膜を10ミリ×80ミリの短冊型に切り出し、50℃の乾燥機で7日間乾燥後、前記恒温室で1日養生した後、同恒温室に設置されている株式会社オリエンテック製テンシロン引張試験機RTC−1250Aを用い、チャック間距離を50ミリに設定して塗膜の伸度を測定し、結果を以下の基準で評価した。測定結果及び柔軟性の評価結果を表3に示す。△以上が合格ラインである。
◎ : 伸度100%以上
○ : 伸度50%以上100%未満
△ : 伸度20%以上50%未満
× : 伸度20%未満
【0047】
[実施例1]
第1段階の乳化重合で異相構造粒子のコア部を形成させ、第2段階の乳化重合でシェル部を形成させる2段乳化重合を行った。まず第1段階として、撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水449部、乳化剤としてアクアロンKH−1025(第一工業製薬株式会社製)3.2部及びアデカリアソープSR−1025(旭電化
工業株式会社製)3.2部を投入し、反応容器を加熱した。反応容器内の液温が80℃に到達したところで、2%過硫酸アンモニウム水溶液を12部添加した。その5分後、表2に示す組成の単量体系[I]乳化液(平均計算Tg 101℃)を滴下槽より105分かけて滴下した。滴下中は反応容器内の液温を80℃に保った。滴下終了後、乳化液の入っていた容器に水17.5部を投入して容器の底面を簡単にすすぎ、そのすすぎ液を反応容器内に投入して、30分間80℃に保った。
【0048】
第2段階として、表2に示す組成の単量体系[II]乳化液(平均計算Tg 0℃)を滴下槽より90分かけて滴下した。滴下中は反応容器の温度を80℃に保ち、滴下終了後は第1段階と同様に乳化液の容器すすぎ液17.5部を反応容器へ投入し、液温80℃で60分保った後、水を72部投入し、室温まで冷却した。得られたエマルジョンについて、25%アンモニア水を添加してpHを8.5に調整後、前記の評価を行った。その結果を表3に示す。また、単量体系[I]及び[II]における各単量体の比率を百分率で表した値を表3に併せて示す。
【0049】
[実施例2]
実施例1における単量体系[II]の組成において、シクロヘキシルメタクリレートをブチルメタクリレートに変更し、平均計算Tgが同じ0℃となるように組成比を変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0050】
[実施例3]
表2に示す組成の単量体系[I]及び[II]乳化液を用い、実施例1と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示す。
[実施例4及び5]
実施例3における単量体系[I]の組成において、メチルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートの組成比を変更した点以外は、すべて実施例3と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0051】
[比較例1及び2]
実施例1における単量体系[I]の組成において、メチルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートの組成比を変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示すが、塗膜の柔軟性は優れるものの、成膜性が非常に劣り、MFTが通常の温度設定(高温側80℃設定)では測定できないほどである。添加する成膜助剤(エチレングリコールモノブチルエーテル)量も増えるため、耐ブロッキング性は芳しくない。
【0052】
[比較例3]
実施例1における単量体系[II]の組成において、シクロヘキシルメタクリレートをメチルメタクリレートに変更し、平均計算Tgが同じ0℃となるように組成比を変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示すが、単量体系[II]におけるMMA比率が38.9%と高いため、成膜性が劣る。
【0053】
[比較例4]
実施例3における単量体系[I]の組成において、アクリル酸の量を0にした点以外は、すべて実施例3と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示すが、単量体系[I]にカルボキシル基含有単量体が含まれないため、塗膜の柔軟性が悪い。
【0054】
[比較例5]
実施例4における単量体系[I]の組成において、アクリル酸の量を0にした点以外は、すべて実施例4と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示す。単量体系[I]にカルボキシル基含有単量体が含まれないため、塗膜の柔軟性が悪い。
【0055】
[比較例6]
実施例5における単量体系[I]の組成において、アクリル酸の量を0にした点以外は、すべて実施例5と同様にして乳化重合を行い、得られたエマルジョンについて同様の評価を行った。その結果を表3に示す。単量体系[I]にカルボキシル基含有単量体が含まれないため、塗膜の柔軟性が悪い。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のアクリル系エマルジョンは、塗料、建材の下地処理材または仕上げ材、接着剤、紙加工剤、または織布、不織布の仕上げ材として有用である。特に塗料用、建材の仕上げ材として、具体的にはコンクリート、セメントモルタル、スレート板、ケイカル板、石膏ボード、押出成形板、発砲性コンクリートなどの無機建材、織布あるいは不織布を基材とした建材、金属建材などの各種下地に対する塗料または建築仕上げ材として、複層仕上げ塗材用の主材およびトップコート、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、石材調仕上げ材、グロスペイントなどの合成樹脂エマルジョンペイント、金属用塗料、木部塗料、瓦用塗料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合することにより得られる水性エマルジョンであって、ガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合体を含み、かつ該重合体が中心部分(コア)と外側部分(シェル)から成る異相構造粒子を形成し、コア部を構成する重合体のTgがシェル部を構成する重合体のTgよりも10℃以上高く、コア部を構成する重合体が下記に示す単量体系[I]の乳化重合により得られ、シェル部を構成する重合体のうちの最も外側に存在する重合体が下記に示す単量体系[II]の乳化重合により得られることを特徴とするアクリル系水性エマルジョン。
[I];A成分が50〜94.9質量%、B成分が5〜40質量%、C成分が0.1〜10質量%からなる単量体系。
[II];A成分が0〜30質量%、B成分が60〜100質量%、C成分が0〜10質量%からなる単量体系。
ただし、前記A〜C成分は、下記に示す通り。
A成分;ホモポリマーTgが90℃以上であるエチレン性不飽和単量体。
B成分;ホモポリマーTgが90℃未満であるエチレン性不飽和単量体。
C成分;カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体。
【請求項2】
コア部を構成する重合体のTgが70℃以上、異相構造粒子全体の平均Tgが40℃以上である請求項1記載のアクリル系水性エマルジョン。
【請求項3】
異相構造粒子全体に占めるコア部の比率が35質量%以上70質量%以下である請求項1又は2記載のアクリル系水性エマルジョン。

【公開番号】特開2008−38115(P2008−38115A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218369(P2006−218369)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】