説明

アクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法

【課題】
プロピレンおよび/またはプロパンの接触気相酸化によりアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法において、工業的な規模で一時的に運転を停止した後、再度運転を再開した場合でも、長期間安定して高収率でアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する。
【解決手段】
接触気相酸化工程の運転を停止する際、反応原料ガスの供給停止後、当該反応器に不活性ガスを供給し、次いで分子状酸素含有ガスを供給した後、反応器への分子状酸素の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器を用いて、プロピレンおよび/またはプロパンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は、各種合成樹脂、塗料、可塑剤の原料として工業的に重要な物質であり、近年では吸水性樹脂の原料としての重要性が高まり、アクリル酸の需要も増大する傾向にある。
【0003】
アクリル酸の製法としては、プロピレンを原料とした二段接触気相酸化法が最も一般的であり、広く工業的に行われている。この方法の形態としては、プロピレンをアクロレインに変換するための触媒(以下、「前段触媒」という。)が充填されたの第一固定床反応器にて、プロピレンおよび分子状酸素を含む原料ガスの接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインをアクリル酸に変換するための触媒(以下、「後段触媒」という。)が充填された第二固定床反応器にて接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法と、一つの反応器に前段触媒と後段触媒とが充填された固定床反応器にてプロピレンおよび分子状酸素を含む原料ガスを接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法と、大きく分けて2つの方法がある。
【0004】
また近年、プロピレンに比べ安価なプロパンを原料として、脱水素あるいは酸化脱水素によりプロピレンとし、得られたプロピレンを上記二段接触気相酸化する方法やプロパンを直接一段で接触気相酸化する方法などが種々検討されている。
【0005】
このようなプロピレンおよび/またはプロパンの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する方法において、高収率で長期間安定かつ安全に製造することを目的に様々な提案がされており、気相酸化反応の停止方法あるいはスタートアップ方法についても幾つかの提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、接触気相酸化工程の運転停止中においても酸素を含有するガスを反応器に供給することで、触媒性能の劣化が防止できることが開示されている。
【0007】
特許文献2では、反応器入口の各導入ガスの流量を基に計算して得られた各ガスの濃度の値と、ガス分析計による分析値とが共に設定範囲外になったときにのみ運転を停止させることで、運転の無駄な緊急停止を省き、停止が必要な場合のみに確実に停止するための方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、反応器に供給する被酸化原料と分子状酸素含有ガスとの組成によって請ずる爆発範囲を回避し、かつ希釈ガスの供給量を低減することで、安全な反応器のスタートアップが達成できることが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−314314号公報
【特許文献2】特開2004−277339号公報
【特許文献3】特開2002−53519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、アクリル酸は現在数百万トン/年の規模で生産されており、工業的規模で0.1%でも収率が向上すれば経済的に非常に大きな意味を持つことになる。さらに、より長期間にわたり安定に製造できればなおのことである。前記した製造方法あるいは停止方法では、目的とするアクリル酸の収率や長期間の製造において改善は見られているものの、近年の需要の増大を鑑みればなお改善の余地を残すものである。
【0011】
特許文献1では、接触気相酸化工程の運転を停止して再度運転を再開するまで、触媒の温度を保ったまま酸素を連続的に供給しないと触媒上に蓄積している一部重質の副生成物等の還元性物質が触媒を還元して、触媒の酸化状態が変化するため、触媒の性能が劣化すること、そのため、運転停止時も分子状酸素を供給すれば触媒の酸化状態が維持され触媒の性能が劣化しないことが開示されている。しかしながら、その実施例においては、反応に供していない新しい触媒を反応管に充填して、その運転前に酸素含有ガスを供給した際の効果しかなく、実際の製造において、一旦反応に供した後の触媒について、定期点検あるいは緊急停止などで反応を停止する際の評価は全くなされていない。このような、一旦反応に供した後の運転停止時においては触媒の温度を保った状態で酸素を連続的に供給しつづけた場合、触媒の酸化が進み、定常状態での高収率が得られていた触媒の微妙な酸化状態が崩れ、再スタート後定常状態に達するまで収率が低くなり、長期間にわたる安定製造において十分とは言えない。
【0012】
特許文献2では、分析計の誤作動などによる緊急停止を避け、必要時のみ緊急停止できる方法に関するものであり、運転停止における触媒性能への影響に関しては何ら開示されていない。
【0013】
特許文献3では、運転停止状態から効率よく反応をスタートアップさせる方法に関するものであり、特許文献2同様に運転停止における触媒性能への影響に関しては何ら開示されていない。
【0014】
かくして、本発明の目的は、プロピレンおよび/またはプロパンの接触気相酸化によりアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法において、工業的な規模で定期点検や緊急停止等で運転を一時的に中断した場合でも、運転再開後も高い収率を維持し、長期間安定して高収率でアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、プロピレンおよび/またはプロパンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法において、接触気相酸化工程の運転を停止する際、反応原料ガスの供給が停止された後、当該反応器に不活性ガスを供給し、次いで前記不活性ガスの供給を停止し、分子状酸素含有ガスを供給した後、反応器への分子状酸素の供給を停止することで、再度運転を開始しても高収率で長期間安定かつ安全に製造できることを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記課題の解決により、プロピレンおよび/またはプロパンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法において、酸化反応工程の停止、再スタートによる収率の低下がなく、高収率で長期間安定かつ安全な製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明にかかる接触気相酸化法によるアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0018】
本発明によれば、接触気相酸化工程の運転を停止する際、プロピレンおよび/またはプロパン、分子状酸素および不活性ガス等からなる混合ガス(以下、「反応原料ガス」という。)の供給を停止した後、反応器に不活性ガスを供給させ、次いで好ましくは260℃〜440℃の温度範囲、特に好ましくはで分子状酸素含有ガスを供給した後、ガスの供給を停止すればよい。本発明における運転停止時としては、装置の点検や部品等の交換による停止や装置トラブル等による緊急停止などが挙げられる。
【0019】
運転を停止する際には、当然ながらの反応原料ガスの供給も停止する必要がある。しかしながら、反応原料ガスの供給を停止しても、反応器内および配管内には、反応原料ガスあるいはその反応生成物含有ガスが滞留した状態になるため、この状態で分子状酸素含有ガスを供給すると、高温物や電気スパークなどの着火源により爆発を起こしうる爆発組成を形成する場合がある。それ故、反応原料ガスの供給を停止し、続いて、窒素、水蒸気などからなる不活性ガスを製造装置に導入することで、系内に滞留している原料ガスを系外へ放出させる必要がある。この不活性ガスの導入量は、装置固有の大きさにより異なるため一概に特定できないが、通常反応器および配管容量の30倍程度の量を導入すれば十分である。
【0020】
上記不活性ガスによる反応系内の置換ができれば、次に分子状酸素含有ガスを反応器内に導入すればよい。分子状酸素の供給を行わない場合、触媒の表面上には原料あるいは反応物あるいは副生成物などの有機物が吸着しており、これらの触媒上に吸着している有機物が触媒中の酸素によって酸化され、その際に触媒自体は酸素が引き抜かれるため還元されて触媒の反応に好適な微妙な酸化状態が変化してしまい性能が低下するためと推測される。このような触媒上に吸着した有機物を除去するには、分子状酸素を供給することが必要であり、その際、260℃以上の温度で行うのが好ましく、260℃より低いと触媒上に吸着した有機物の除去が不十分となる。一方、分子状酸素による処理をあまり高い温度行うと、有機物の除去は容易になるが、触媒自体が高温の処理により熱劣化してしまう可能性が高く好ましくない。好ましくは440℃以下、より好ましくは4420℃以下、特に好ましくは400℃以下の温度で処理するのが良い。中でも、気相酸化を停止する直前の反応温度を維持した状態で処理するのが最も好ましい。
【0021】
分子状酸素含有ガスの導入量については、装置固有の大きさによって異なるため一概に特定できないが、好ましくは、分子状酸素含有ガスを反応管に充填された前段触媒に対する空間速度で200〜3000h−1の範囲で導入した際の、供給した分子状酸素含有ガス中に含まれる酸化炭素の量を除く反応器出口ガス中に含まれる酸化炭素の量(以下、「反応器出口部酸化炭素含有量」という。)が好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下になるまで供給すれば良い。但し、後述のように長期間分子状酸素を導入してしまうと、触媒性能の低下に繋がるため、少なくとも反応器出口部酸化炭素含有量が0ppmになる前、すなわち反応器出口ガス中の酸化炭素濃度と供給した分子状酸素含有ガス中の酸化炭素濃度とが等しくなる前に分子状酸素の供給を停止する必要がある。
【0022】
酸化炭素の検出方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ方式等のガス濃度分析計で分析すればよく、分析方法としては、製造の一連の装置に組みこまれたオンライン分析でも、ガスをサンプリングし、そのサンプリングガスを別途分析計に導入して分析してもよい。
【0023】
本発明においては、最終的に、分子状酸素含有ガスを供給した後に、分子状酸素の供給を停止する必要がある。その際、分子状酸素の供給を停止すればよく、供給ガスを完全に停止するあるいは分子状酸素含有ガスを不活性ガスに切り替えるなどの方法が採用される。
【0024】
分子状酸素を停止せずに、長時間あるいは再運転時まで供給し続けた場合、上記の有機物による還元とは逆に、触媒の酸化が進み、触媒の反応に好適な酸化状態が変化してしまい性能が低下するためと推測される。
【0025】
本発明で用いられる前段触媒としては、特に制限はなく、公知の一般に用いられている酸化物触媒を用いることができる。
【0026】
具体的には、前段触媒としては、下記一般式(I):
MoBiFeX1X2X3X4 (I)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、X1はコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素、X2はアルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、X3はタングステン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンから選ばれる少なくとも1種の元素、X4はリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またa、b、c、d、e、f、gおよびxはそれぞれMo、Bi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.001〜10、f=0〜30、g=0〜4であり、xは各元素の酸化状態によって定まる数値である)で示される酸化物触媒が好適に使用できる。
【0027】
同様に、後段触媒についても特に制限はなく、公知の一般に用いられている酸化触媒を用いることができる。具体的には、後段触媒としては、下記一般式(II):
MoY1Y2Y3Y4 (II)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Y1はアンチモン、ビスマス、クロム、ニオブ、リン、鉛、亜鉛、コバルト、ニッケルおよびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Y2は銅および鉄から選ばれる少なくとも1種の元素、Y3はアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Y4はケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ロジウムおよびセリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またh、i、j、k、l、m、nおよびyはそれぞれMo、V、W、Y1、Y2、Y3、Y4およびOの原子比を表し、h=12のとき、i=2〜14、j=0〜12、k=0〜5、l=0.01〜6、m=0〜5、n=0〜10であり、yは各元素の酸化状態によって定まる数値である)で示される酸化物触媒が好適に使用できる。
【0028】
触媒の成形方法としては、従来からよく知られている活性成分を一定の形状に成形する押し出し成形法や打錠成形法等、あるいは活性成分を一定の形状を有する任意の不活性担体に担持させる担持法によって製造することができ、その形状についても特に制限はなく、球状、円柱状、リング状、不定形などのいずれの形状でもよい。もちろん球状の場合、真球である必要はなく実質的に球状であればよく、円柱状およびリング状についても同様である。
【0029】
なお、反応器に充填される触媒は、それぞれ単一な触媒である必要はなく、例えば前段触媒において、活性の異なる複数種の触媒を用い、これらを活性の異なる順に充填したり、触媒の一部を不活性担体などで希釈したりしてもよい。後段触媒についても同様である。
【0030】
前段触媒および後段触媒の好適な反応温度は、反応条件などによって適宜選択されるが、前段触媒では、通常、300〜380℃であり、また、後段触媒では、通常、250〜350℃である。さらに、前段触媒の反応温度と後段触媒の反応温度との差は10〜110℃、好ましくは30〜80℃とするのがよい。
【0031】
なお、前段触媒の反応温度と後段触媒の反応温度とは、それぞれの反応器または反応帯における熱媒体入口温度に実質的に相当するものであり、熱媒体入口温度は、上記の範囲内で設定されたそれぞれの設定温度に応じて決定される。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。なお、プロピレン転化率およびアクリル酸収率は次式によって求めた。
【0033】
プロピレン転化率(モル%)
=(反応したプロピレンのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
<参考例>
[前段触媒1の調製]
蒸留水2000部を加熱攪拌しつつモリブデン酸アンモニウム500部を溶解した(A液)。別に500部の蒸留水に硝酸コバルト137部および硝酸ニッケル206部を溶解させ(B液)、さらに別途、350部の蒸留水に濃硝酸(65wt%)30部を加えて酸性とした溶液に硝酸第二鉄38.1部および硝酸ビスマス572部を溶解させた(C液)。A液にこれらの硝酸塩溶液(B液、C液)を滴下した。引き続き、ホウ砂9.0部、20wt%シリカゾル1702部および硝酸カリウム2.4部を加えた。このようにして得られた懸濁液を加熱、攪拌、蒸発せしめた。得られた乾燥物を200℃で乾燥後に粉砕し、外径5mm、長さ4mmのペレット状に打錠成型した。次いで、得られた成形物を空気雰囲気下470℃で6時間焼成し、前段触媒1を得た。その酸素以外の金属元素の組成は原子比で以下の通りであった。
Mo12BiCoNiFe0.4Na0.20.40.1Si24
[後段触媒1の調製]
蒸留水3000部を加熱攪拌しながら、そのなかにパラモリブデン酸アンモニウム525部、メタバナジン酸アンモニウム87部、パラタングステン酸アンモニウム80.3部を溶解した。別に蒸留水300部を加熱攪拌しながら、硝酸銅71.9部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン18.1部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を、蒸発乾固にてケーキ状の固形物とし、得られた固形物を、390℃で約5時間焼成を行った。焼成後の固形物を250μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4mmのα−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15重量%の硝酸アンモニウム水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして後段触媒1を得た。この触媒の担体を除いた酸素以外の金属元素の組成は原子比で以下の通りであった。
Mo121.2Cu1.2Sb0.5
[反応器]
全長6000mm、内径25mmのSUS製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意した。なお、シェルの下から3000mmの位置にシェルを上下に分割する厚さ50mmの仕切り板を設け、上方および下方のシェル空間部のいずれにおいても熱媒体を下方から上方に循環した。反応管上部より順に前段触媒1、外径8mmのSUS製ラシヒリングおよび後段触媒1を落下させて、それぞれの長さが前段触媒:2800mm、ラシヒリング:400mmおよび後段触媒:2800mmとなるように充填した。
[酸化反応]
前段触媒層の温度(下方シェル空間部の熱媒体入口温度):330℃、後段触媒層の温度(上方シェル空間部の熱媒体入口温度):265℃とし、反応器の下部から、プロピレン5体積%、酸素10体積%、水蒸気20体積%および窒素65体積%からなる混合ガスを反応原料ガスとして、前段触媒に対する空間速度1600h−1(STP)で導入し、気相接触酸化を2000時間継続して行った。その反応結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】

<実施例1>
参考例において、2000時間気相酸化反応を継続した後、運転を停止した。その際、反応器へのガス供給を停止するにあたり、まず反応原料ガスを停止した後、熱媒体温度は維持したまま、窒素70体積%および水蒸気30体積%からなる不活性ガスを毎分25L(STP)の風量で約5分間流通させた後、続いて酸素18体積%、窒素82体積%からなる酸素含有ガスを毎分25L(STP)の風量で反応器出口部酸化炭素含有量が2000ppmになるまで流通させた後、ガスの供給を停止した。ガスの供給を48時間停止した後、再度反応原料ガスを導入し運転を開始した。その反応結果を表2に示す。
<比較例1>
実施例1において、運転停止時に不活性ガスを流通させた後、酸素含有ガスを流通させずにガスの供給を停止した以外は、同様に行った。その反応結果を表2に示す。
<実施例2>
実施例1において、運転停止時に反応器出口部酸化炭素含有量が1000ppmになるまで流通させた後、ガスの供給を停止した以外は、同様に行った。その反応結果を表2に示す。
<実施例3>
実施例1において、運転停止時に反応器出口部酸化炭素含有量が500ppmになるまで流通させた後、ガスの供給を停止した以外は、同様に行った。その反応結果を表2に示す。
<比較例2>
実施例3において、運転停止時に反応器出口部酸化炭素含有量が0ppmになった後も再運転を開始するまで(48時間)供給し続けた以外は、同様に行った。その反応結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】

<実施例4>
[気相酸化触媒の調製]
プロピレン含有ガスを気相接触酸化してアクロレイン含有ガスを生成するための前段触媒4および5を特開平4−217932号の実施例1記載の方法に準じて調製した。同様に、アクロレイン含有ガスを気相接触酸化してアクリル酸を製造するための後段触媒4および5を特開平9−241209号の実施例2記載の方法に準じて調製した。これら触媒の担体を除いた酸素以外の金属元素の組成は原子比で以下の通りであった。
前段触媒2 Mo10BiFeCo0.06Si1.5 平均直径5mm
前段触媒3 Mo10BiFeCo0.06Si1.5 平均直径8mm
後段触媒2 Mo122.5CuSr0.2 平均直径5mm
後段触媒3 Mo122.5CuSr0.2 平均直径8mm
[反応器]
反応管数約9,500本(反応管径25mm、長さ6000mm)およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる固定床多管式反応器に、反応管上部より順に前段触媒3、前段触媒2、外径8mmのSUS製ラシヒリング、後段触媒3、後段触媒2を落下させてそれぞれの長さが、前段触媒3:800mm、前段触媒2:2000mm、ラシヒリング:400mm、後段触媒3:800mm、後段触媒2:2000mm層長800mmとなるように充填した。なお、シェルの下から3000mmの位置にシェルを上下に分割する厚さ50mmの仕切り板を設け、上方および下方のシェル空間部のいずれにおいても熱媒体を下方から上方に循環した。
[酸化反応]
前段触媒層の温度(下方シェル空間部の熱媒体入口温度):320℃、後段触媒層の温度(上方シェル空間部の熱媒体入口温度):260℃とし、反応器の下部から、プロピレン8体積%、酸素15体積%、水蒸気10体積%および窒素67体積%からなる混合ガスを原料ガスとして、前段触媒に対する空間速度1600h−1(STP)で導入し、気相接触酸化を行った。
[運転停止および再運転]
上記反応条件にて、4000時間気相酸化反応を継続した後、運転を停止した。その際、反応器へのガス供給を停止するにあたり、まず原料ガスを停止した後、熱媒体温度は維持したまま、窒素70体積%および水蒸気30体積%からなる不活性ガスを毎分200m(STP)の風量で約15分間流通させた後、続いて酸素18体積%、窒素82体積%からなる酸素含有ガスを毎分200m(STP)の風量で反応器出口部酸化炭素含有量が500ppmになるまで流通させた後、ガスの供給を停止した。ガスの供給を48時間停止した後、再度原料ガスを導入し運転を開始した。その反応結果を表3に示す。
【0038】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器を用いて、プロピレンおよび/またはプロパンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法において、接触気相酸化工程の運転を停止する際、反応原料ガスの供給停止後、当該反応器に不活性ガスを供給し、次いで分子状酸素含有ガスを供給した後、反応器への分子状酸素の供給を停止することを特徴とするアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
接触気相酸化工程の運転を停止する際に、分子状酸素含有ガスを、供給した分子状酸素含有ガス中に含まれる酸化炭素の量を除く反応器出口におけるガス中に含まれる酸化炭素の量が0ppmより多く1000ppm以下になるまで供給した後、反応器への分子状酸素の供給を停止することを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2009−84167(P2009−84167A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253251(P2007−253251)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】