アシストボギー角操舵台車用アクチュエータ
【課題】 油圧回路制御用スプール弁を用いて制御フェール時の旋回抵抗の増大を抑制することができるアシストボギー角操舵台車用アクチュエータを提供する。
【解決手段】 両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁6を組み込んだ油圧回路1と、この油圧回路1を駆動するポンプ2とを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁6は、前記アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプ2が作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路1を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制する。
【解決手段】 両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁6を組み込んだ油圧回路1と、この油圧回路1を駆動するポンプ2とを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁6は、前記アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプ2が作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路1を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに係り、特に、アシストボギー角操舵台車用アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車としては、以下に示すようなものがあった(下記特許文献1参照)。
図11は従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車の構成図、図12は従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータ回路の基本構成図である。
図11において、101は台車枠、102は台車回転中心ピン、103は操舵梁、104は側受スリ板、105は操舵てこ、106は連結棒、107は軸箱、108は輪軸、109は車輪、110は前後支持ばね、111はアクチュエータである。また、図12において、121は操舵用油圧シリンダ、122は油圧ポンプ、123は電動モータである。
【0003】
この鉄道車両用アシストボギー角操舵台車は、台車枠101に対して台車回転中心ピン102周りを旋回可能な操舵梁103を有するボギー角連動誘導操舵台車である。
台車枠101と操舵梁103との間には側受スリ板104が配置され、車体重量×摩擦係数の分だけ旋回時に回転抵抗が発生する。また、曲線軌道通過時に操舵梁103(車体)に対して生じる台車枠101の回転変位を、操舵てこ105及び連結棒106を介して、一定のてこ比で軸箱107に伝え、軸箱107をハの字状に操舵する。さらに、台車枠101と操舵梁103の間に台車旋回トルクを発生するアクチュエータ111が配置されている。このシリンダ111は、台車枠101及び操舵梁103それぞれに設けたブラケット112,113の間に取り付けられる。
【0004】
曲線軌道の入口側及び出口側の緩和曲線において、台車が旋回する際に、曲率の変化に応じてアクチュエータ111により旋回トルクを発生させて、台車の旋回抵抗を減少させることによって車輪109とレールとの間に生じる横圧を低減する。アクチュエータ111の発生力の制御は、予め測定した地上データ(曲率)と地点検知、速度との照合により、緩和曲線及びその前後の区間のみ行う。
【0005】
図12に示すように、アクチュエータは、操舵用油圧シリンダ121、油圧ポンプ122、電動モータ123から構成される電動油圧アクチュエータであり、外部からの制御信号及び駆動用電力の供給により力を発生する。
アシスト操舵非制御時は、油圧ポンプ122は無負荷(モータに電気的な負荷が接続されていない)状態であり、操舵用油圧シリンダ121の伸縮動作に伴う油の流れに対する抵抗は発生しないため、台車旋回動作に支障を与えない。一方、アシスト操舵制御時は、油圧ポンプ122を電動モータ123で駆動し、油圧シリンダ121の動作方向に油圧を補助的に負荷することで台車旋回抵抗を小さくする。
【0006】
また、本願発明者らは、走行安全性の低下を防止することができる、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータを提案している(特許文献2)。
図13はかかる先行発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータの回路図である。
このアクチュエータは、操舵用油圧シリンダ201、ポンプ202、モータ203に加えて、操舵用油圧シリンダ201の台車枠側油室201Aと操舵梁側油室201Bとの間に接続される差圧検知シリンダ204、台車枠側油室201Aに接続される第1のフロー検知シリンダ205、操舵梁側油室201Bに接続される第2のフロー検知シリンダ206、台車枠側油室201Aに接続され差圧検知シリンダ204によって制御される第1のバイパス回路制御弁207、この第1のバイパス回路制御弁207に直列に接続され第2のフロー検知シリンダ206によって制御される第2のバイパス回路制御弁208、操舵梁側油室201Bに接続され差圧検知シリンダ204によって制御される第3のバイパス回路制御弁209、ならびに、この第3のバイパス回路制御弁209に直列に接続され第1のフロー検知シリンダ205によって制御される第4のバイパス回路制御弁210を備えている。バイパス回路は2系統あり、各系統に上記したバイパス回路制御弁207,208と209,210とがそれぞれ設けられている。2台のバイパス回路制御弁207,208と209,210は各々、差圧検知シリンダ204と第1及び第2のフロー検知シリンダ205,206とにより駆動される。また、第1のフロー検知シリンダ205及び第2のフロー検知シリンダ206それぞれと並列にチェックバルブ211,212が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−168510号公報
【特許文献2】特願2010−041948
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車では、緩和曲線通過時にアクチュエータにより台車の旋回方向に旋回を補助する力(旋回トルク)を発生させることで旋回抵抗を減少し、横圧を低減させるものであるので、万が一、アクチュエータが逆方向動作(逆操舵)してしまうと、横圧が増大してしまう。すなわち、図13に示すアクチュエータ回路において、アクチュエータが逆に動いてしまい、作動油の逃げ道がないため旋回抵抗となってしまうという問題があった。
【0009】
そこで、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおけるフェールセーフ対策が必要とされている。
本発明は、上記状況に鑑みて、油圧回路制御用スプール弁を用いて制御フェール時の旋回抵抗の増大を抑制することができるアシストボギー角操舵台車用アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕アシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、この油圧回路を駆動するポンプとを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は前記アクチュエータの動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記アクチュエータは通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力を前記シリンダに負荷するが、前記フェール動作時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、前記ポンプからの供給圧を前記シリンダへ負荷しない状態とすることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記ポンプが電動式油圧ポンプであることを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記油圧回路制御用スプール弁はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの制御フェール時に、アクチュエータによる旋回抵抗の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車とそのアクチュエータの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのシリンダ内圧力を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路図である。
【図4】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のアクチュエータ正常動作時の作動油流れを示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのアクチュエータ異常動作時の作動油流れを示す図である。
【図6】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール内部構造を示す図である。
【図7】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のポンプの目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール弁体とポートのラップ量を示す図である。
【図9】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのアシスト動作(通常動作)時のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのフェール動作(異常動作)時のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車の構成図である。
【図12】従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータ回路の基本構成図である。
【図13】先行発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、この油圧回路を駆動するポンプとを一体化した鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は、前記アクチュエータの動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車とそのアクチュエータの概略構成図、図2はそのシリンダ内圧力を示す図、図3はその油圧回路図、図4はその油圧回路のアクチュエータ正常動作時の作動油流れを示す図、図5はその油圧回路のアクチュエータ異常動作時の作動油流れを示す図、図6はその油圧回路のスプール内部構造を示す図、図7はその油圧回路のポンプの目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す図であり、図7(a)はそのフェール時のポンプ動作の設定を示す図、図7(b)はそのアシスト時のポンプ動作の設定を示す図である。
【0017】
本発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、図1に示すように、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路1とポンプ2をアクチュエータの一部を構成するシリンダ3と一体化し、このシリンダ3の両端を操舵梁4と台車枠5にそれぞれ取り付けるように構成している。なお、ポンプ2にはタンクが接続されているが自明であるので説明は省略する。
【0018】
なお、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのフェールセーフ対策としてはセンサを活用してフェール検知を行って安全性を確保する方法と、機械的にフェール状態の発生を抑制する方法が考えられるが、本発明では機械的にフェール状態の発生を抑制する方法について説明する。
アクチュエータは電動油圧式(以下、操舵EHA:Electro Hydraulic Actuator)であり、ポンプ(電動式油圧ポンプ)2からの油圧によりアクチュエータの一部を構成するシリンダ3のピストンが動作する。操舵EHAは台車旋回のアシスト動作をするため、図2に示すように、正常動作時はシリンダ3内に供給圧力が負荷されるが、異常動作(逆動作)時には逆方向、すなわちポンプ2から作動油が供給される側へシリンダ3のピストンが動作するため、シリンダ3の内部が高圧となる。シリンダ3の内部の圧力が規定圧を超えるとリリーフ動作をする弁を用いることで、制御圧を無効化しフェール発生を抑制することは可能であるが、リリーフ弁単体により構成する場合は、正常動作時の圧力を確保するために、リリーフ時圧力を正常動作時の圧力よりも低く設定できないので、異常動作時にも正常動作時と同じ制御圧がシリンダ3のピストンに負荷されてしまうという問題がある。
【0019】
そこで、本発明では、制御方向を判別する弁とリリーフ回路を組み合わせた油圧回路をポンプ〜シリンダ間に追加することで、正常時にはリリーフされない構造とし、フェール動作を抑制する。
図3は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路図である。
【0020】
この図3の左半分を系統1、右半分を系統2とする。どちらの系統においても、アクチュエータの一部をなす操舵用油圧シリンダ3とポンプ(電動式油圧ポンプ)2はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁6ならびにチェック弁7を介して接続されている。
アクチュエータ正常動作時の作動油流れを図4に示す。アクチュエータ正常動作時にポンプ2から油圧回路1に供給される作動油は、スプール弁6を経由して、シリンダ3の手前のチェック弁7を通りシリンダ3への制御圧となる。これに対して、アクチュエータ異常動作時の作動油の流れを図5に示す。異常動作時にポンプ2の運転方向とは逆方向にアクチュエータが動作し、圧力のリリーフが必要な場合には、スプール弁6の動作によりバイパス回路が構成され、ポンプ2から油圧回路1に供給される作動油はスプール弁6を通りポンプ2の低圧側へと流れ、タンクへ戻る。この動作とともに操舵用油圧シリンダ3高圧側のリリーフ回路が構成されるため操舵用油圧シリンダ3への供給圧が制御され、逆方向動作が抑制される。また、逆方向動作が発生した後、正常動作への復帰が必要なため、スプール弁6端部はそれぞれポンプ側、操舵用油圧シリンダ3側の油圧回路1と接続しており、それぞれの圧力が負荷されている。なお、スプール弁保持用ばね8はポンプ側の圧力が負荷される端部に組み込まれている。
【0021】
次に、その油圧回路のスプール弁6について詳細に説明する。
アクチュエータ正常動作時には、ポンプ2から供給される作動油を操舵油圧シリンダ3への負荷として通過させるが、逆方向動作時には、ポンプ2からの作動油をバイパスし、操舵油圧シリンダ3への作動油供給を遮断する回路を確保すると同時に、操舵油圧シリンダ3内部の圧力をリリーフする回路をスプール弁6により構成する必要がある。ここでは、図6に示すスプール弁6を用いる。ポートP1 ,A,D2 はそれぞれポンプ2の供給側、シリンダ3側、バイパス回路に接続している。また、ポートAは外部回路によりポートBと接続しており、スプール弁保持用ばね8側の油室にもポンプ供給圧力を負荷している。ポートCにはシリンダ油圧を負荷しており、フェール時にはポートCからポートD1 への流路が確保され、同時にポートP1 からポートD2 への流路によりポンプ2から供給される作動油をバイパスすることができる。
【0022】
次に、シミュレーションに用いる条件について説明する。
図7に電動式油圧ポンプ2の目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す。
図7(b)に示す正常動作(アシスト)時は、アクチュエータがストロークした方向への動作をアシストできるように、操舵油圧シリンダ3へ作動油が供給されるのに対して、図7(a)に示す異常動作(フェール)時は、アクチュエータがストロークした方向とは逆方向への動作をさせるべく操舵油圧シリンダ3へ作動油が供給されるように電動式油圧ポンプ2を作動させる。
【0023】
図8は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール弁体とポートのラップ量を示す図である。
作動油供給側(ポンプ側)のポートP1 におけるオーバーラップ量はゼロとしているため、アクチュエータの正常動作時にはポートP1 →ポートAの流路が確保され、アクチュエータへ作動油を供給できる。この流路が確保されている場合は、アクチュエータへの供給圧はポートBにも作用する構成である。一方、作動油供給側よりもアクチュエータ側が高圧となる場合、すなわち異常動作時にはスプール弁体が変位し、変位がオーバーラップ量yD2を超えると供給作動油がポートD2 よりバイパス回路へと流れる。さらに変位が大きくなりスプール弁体の変位がyD1を超えるとポートD1 が開きポートC→ポートD1 の流路が確保される。これにより逆方向動作時のシリンダ圧をリリーフすることができる。
【0024】
各ポートの大きさならびにオーバーラップ量、変位には、次の関係がある。
wP1≧yD1,yD1≧yD2 またwP1≧yP1,wD2≧yD2である。
以下、アシスト動作(通常動作)及びフェール動作(異常動作)のシミュレーション結果について説明する。
〔アシスト動作(通常動作)〕
シミュレーションでは、アクチュエータに強制的な変位ならびに速度を与えることで外力による動作を模擬する。これと同時に、アクチュエータの動作を補助する方向へポンプ2に吐出指令を与えることでアシスト動作とする。設定した条件は以下の (1) , (2) である。
【0025】
(1) 2〜10秒,38〜46秒:
・系統2のシリンダ3に作動油が供給される。
・アクチュエータは系統1側へと変位する。
(2) 14〜22秒,26〜34秒:
・系統1のシリンダ3に作動油が供給される。
【0026】
・アクチュエータは系統2側へと変位する。
なお、上記の時刻以外ではアクチュエータの位置を保持するとともにポンプ回転を停止し、シリンダ3への作動油の供給は行わない。
シミュレーション結果を図9に示す。スプール弁6の動作により作動油がシリンダ3に供給される回路が確保(ポートP1 →ポートA)されるため、アクチュエータ動作をアシストできる。また、ポンプ2から作動油が供給される側とは逆の系統(系統2)のスプール弁6が変位することで、アクチュエータからポンプ2へと作動油を戻すための回路が確保され、アクチュエータの動作を阻害しないことが確認できる。アクチュエータのシリンダ3内にはアシスト動作中の作動目標圧力を負荷することができる。なお、ポンプ2の回転を停止させた際にもスプール弁6が動作し、アクチュエータ内に負荷されていた圧力がリリーフされる。
【0027】
また、ポンプ2の回転開始時にはポンプ流量が急増するが、アクチュエータ動作中は一定の流量を回路に供給している。
〔フェール動作(異常動作)〕
シミュレーションでは、アクチュエータに強制的な変位ならびに速度を与えることで外力による動作を模擬する。これと同時に、アクチュエータの動作に逆らう方向へポンプ2に吐出指令を与えることでフェール動作とする。設定した条件は以下の (1) , (2) である.
(1) 2〜10秒,38〜46秒:
・系統2のシリンダ3に作動油が供給されるべくポンプ2は吐出を続ける。
【0028】
・アクチュエータは系統2側へと変位する。
(2) 14〜22秒,26〜34秒:
・系統1のシリンダ3に作動油が供給されるべくポンプ2は吐出を続ける。
・アクチュエータは系統1側へと変位する。
なお、上記の時刻以外ではアクチュエータの位置を保持するとともにポンプ回転を停止し、シリンダ3への作動油の供給は行わない。
【0029】
シミュレーション結果を図10に示す。ポンプ回転開始時にはシリンダ3内にサージ圧を生じるが、スプール弁6が動作することでシリンダ内圧が低く抑えられることが確認できる。この時、スプール弁6の動作により供給作動油をポンプ2の低圧側へと流すバイパス回路(ポートP1 →ポートD2 )が確保されるため、シリンダ3には作動油が供給されない。また、高圧となったシリンダ3内の作動油を逃がすリリーフ回路(ポートC→ポートD1 )も確保されるため,アクチュエータが変位している間もシリンダ3内は低圧のまま維持される。
【0030】
アクチュエータに強制的に速度を与えている間はポンプ2の駆動が指令されており、この間、ポンプ2は最大流量の吐出を継続する様子が確認できる。
図9,図10を比較すると、フェール動作時のポンプ流量は最大流量で飽和しており、バイパス回路を通じて作動油がポンプ低圧側に戻される状態となっていることが確認できる。
【0031】
上記したように、本発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、機械的なフェールセーフ性確保のための油圧回路を構成した。すなわち、本発明のアシスト操舵用アクチュエータは、通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力をシリンダに負荷するが、アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまう異常動作(フェール動作)時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、ポンプ2からの供給圧をシリンダへ負荷しない状態とする油圧回路構成を実現した。
【0032】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、鉄道車両用のみならず、パワーステアリングなどの機構の異常動作を抑制するための機構としても用いることができる。
また、上記実施例では、作動流体を作動油とする油圧回路として説明を行ったが、これに限定されるものではなく、水や空気などの他の作動流体を用いる回路にも適用することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、油圧回路制御用スプール弁を用いて制御フェール時の旋回抵抗の増大を抑制することができるアシストボギー角操舵台車用アクチュエータとして利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路
2 ポンプ(電動式油圧ポンプ)
3 アクチュエータの一部を構成する操舵用油圧シリンダ
4 操舵梁
5 台車枠
6 油圧回路制御用スプール弁
7 チェック弁
8 スプール弁保持用のばね
A,B,C,D1 ,D2 ,P1 ポート
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに係り、特に、アシストボギー角操舵台車用アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車としては、以下に示すようなものがあった(下記特許文献1参照)。
図11は従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車の構成図、図12は従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータ回路の基本構成図である。
図11において、101は台車枠、102は台車回転中心ピン、103は操舵梁、104は側受スリ板、105は操舵てこ、106は連結棒、107は軸箱、108は輪軸、109は車輪、110は前後支持ばね、111はアクチュエータである。また、図12において、121は操舵用油圧シリンダ、122は油圧ポンプ、123は電動モータである。
【0003】
この鉄道車両用アシストボギー角操舵台車は、台車枠101に対して台車回転中心ピン102周りを旋回可能な操舵梁103を有するボギー角連動誘導操舵台車である。
台車枠101と操舵梁103との間には側受スリ板104が配置され、車体重量×摩擦係数の分だけ旋回時に回転抵抗が発生する。また、曲線軌道通過時に操舵梁103(車体)に対して生じる台車枠101の回転変位を、操舵てこ105及び連結棒106を介して、一定のてこ比で軸箱107に伝え、軸箱107をハの字状に操舵する。さらに、台車枠101と操舵梁103の間に台車旋回トルクを発生するアクチュエータ111が配置されている。このシリンダ111は、台車枠101及び操舵梁103それぞれに設けたブラケット112,113の間に取り付けられる。
【0004】
曲線軌道の入口側及び出口側の緩和曲線において、台車が旋回する際に、曲率の変化に応じてアクチュエータ111により旋回トルクを発生させて、台車の旋回抵抗を減少させることによって車輪109とレールとの間に生じる横圧を低減する。アクチュエータ111の発生力の制御は、予め測定した地上データ(曲率)と地点検知、速度との照合により、緩和曲線及びその前後の区間のみ行う。
【0005】
図12に示すように、アクチュエータは、操舵用油圧シリンダ121、油圧ポンプ122、電動モータ123から構成される電動油圧アクチュエータであり、外部からの制御信号及び駆動用電力の供給により力を発生する。
アシスト操舵非制御時は、油圧ポンプ122は無負荷(モータに電気的な負荷が接続されていない)状態であり、操舵用油圧シリンダ121の伸縮動作に伴う油の流れに対する抵抗は発生しないため、台車旋回動作に支障を与えない。一方、アシスト操舵制御時は、油圧ポンプ122を電動モータ123で駆動し、油圧シリンダ121の動作方向に油圧を補助的に負荷することで台車旋回抵抗を小さくする。
【0006】
また、本願発明者らは、走行安全性の低下を防止することができる、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータを提案している(特許文献2)。
図13はかかる先行発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータの回路図である。
このアクチュエータは、操舵用油圧シリンダ201、ポンプ202、モータ203に加えて、操舵用油圧シリンダ201の台車枠側油室201Aと操舵梁側油室201Bとの間に接続される差圧検知シリンダ204、台車枠側油室201Aに接続される第1のフロー検知シリンダ205、操舵梁側油室201Bに接続される第2のフロー検知シリンダ206、台車枠側油室201Aに接続され差圧検知シリンダ204によって制御される第1のバイパス回路制御弁207、この第1のバイパス回路制御弁207に直列に接続され第2のフロー検知シリンダ206によって制御される第2のバイパス回路制御弁208、操舵梁側油室201Bに接続され差圧検知シリンダ204によって制御される第3のバイパス回路制御弁209、ならびに、この第3のバイパス回路制御弁209に直列に接続され第1のフロー検知シリンダ205によって制御される第4のバイパス回路制御弁210を備えている。バイパス回路は2系統あり、各系統に上記したバイパス回路制御弁207,208と209,210とがそれぞれ設けられている。2台のバイパス回路制御弁207,208と209,210は各々、差圧検知シリンダ204と第1及び第2のフロー検知シリンダ205,206とにより駆動される。また、第1のフロー検知シリンダ205及び第2のフロー検知シリンダ206それぞれと並列にチェックバルブ211,212が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−168510号公報
【特許文献2】特願2010−041948
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車では、緩和曲線通過時にアクチュエータにより台車の旋回方向に旋回を補助する力(旋回トルク)を発生させることで旋回抵抗を減少し、横圧を低減させるものであるので、万が一、アクチュエータが逆方向動作(逆操舵)してしまうと、横圧が増大してしまう。すなわち、図13に示すアクチュエータ回路において、アクチュエータが逆に動いてしまい、作動油の逃げ道がないため旋回抵抗となってしまうという問題があった。
【0009】
そこで、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおけるフェールセーフ対策が必要とされている。
本発明は、上記状況に鑑みて、油圧回路制御用スプール弁を用いて制御フェール時の旋回抵抗の増大を抑制することができるアシストボギー角操舵台車用アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕アシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、この油圧回路を駆動するポンプとを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は前記アクチュエータの動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記アクチュエータは通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力を前記シリンダに負荷するが、前記フェール動作時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、前記ポンプからの供給圧を前記シリンダへ負荷しない状態とすることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記ポンプが電動式油圧ポンプであることを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔1〕記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記油圧回路制御用スプール弁はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの制御フェール時に、アクチュエータによる旋回抵抗の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車とそのアクチュエータの概略構成図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのシリンダ内圧力を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路図である。
【図4】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のアクチュエータ正常動作時の作動油流れを示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのアクチュエータ異常動作時の作動油流れを示す図である。
【図6】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール内部構造を示す図である。
【図7】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のポンプの目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール弁体とポートのラップ量を示す図である。
【図9】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのアシスト動作(通常動作)時のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのフェール動作(異常動作)時のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車の構成図である。
【図12】従来の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータ回路の基本構成図である。
【図13】先行発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車のアクチュエータの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、この油圧回路を駆動するポンプとを一体化した鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は、前記アクチュエータの動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車とそのアクチュエータの概略構成図、図2はそのシリンダ内圧力を示す図、図3はその油圧回路図、図4はその油圧回路のアクチュエータ正常動作時の作動油流れを示す図、図5はその油圧回路のアクチュエータ異常動作時の作動油流れを示す図、図6はその油圧回路のスプール内部構造を示す図、図7はその油圧回路のポンプの目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す図であり、図7(a)はそのフェール時のポンプ動作の設定を示す図、図7(b)はそのアシスト時のポンプ動作の設定を示す図である。
【0017】
本発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、図1に示すように、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路1とポンプ2をアクチュエータの一部を構成するシリンダ3と一体化し、このシリンダ3の両端を操舵梁4と台車枠5にそれぞれ取り付けるように構成している。なお、ポンプ2にはタンクが接続されているが自明であるので説明は省略する。
【0018】
なお、鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータのフェールセーフ対策としてはセンサを活用してフェール検知を行って安全性を確保する方法と、機械的にフェール状態の発生を抑制する方法が考えられるが、本発明では機械的にフェール状態の発生を抑制する方法について説明する。
アクチュエータは電動油圧式(以下、操舵EHA:Electro Hydraulic Actuator)であり、ポンプ(電動式油圧ポンプ)2からの油圧によりアクチュエータの一部を構成するシリンダ3のピストンが動作する。操舵EHAは台車旋回のアシスト動作をするため、図2に示すように、正常動作時はシリンダ3内に供給圧力が負荷されるが、異常動作(逆動作)時には逆方向、すなわちポンプ2から作動油が供給される側へシリンダ3のピストンが動作するため、シリンダ3の内部が高圧となる。シリンダ3の内部の圧力が規定圧を超えるとリリーフ動作をする弁を用いることで、制御圧を無効化しフェール発生を抑制することは可能であるが、リリーフ弁単体により構成する場合は、正常動作時の圧力を確保するために、リリーフ時圧力を正常動作時の圧力よりも低く設定できないので、異常動作時にも正常動作時と同じ制御圧がシリンダ3のピストンに負荷されてしまうという問題がある。
【0019】
そこで、本発明では、制御方向を判別する弁とリリーフ回路を組み合わせた油圧回路をポンプ〜シリンダ間に追加することで、正常時にはリリーフされない構造とし、フェール動作を抑制する。
図3は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路図である。
【0020】
この図3の左半分を系統1、右半分を系統2とする。どちらの系統においても、アクチュエータの一部をなす操舵用油圧シリンダ3とポンプ(電動式油圧ポンプ)2はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁6ならびにチェック弁7を介して接続されている。
アクチュエータ正常動作時の作動油流れを図4に示す。アクチュエータ正常動作時にポンプ2から油圧回路1に供給される作動油は、スプール弁6を経由して、シリンダ3の手前のチェック弁7を通りシリンダ3への制御圧となる。これに対して、アクチュエータ異常動作時の作動油の流れを図5に示す。異常動作時にポンプ2の運転方向とは逆方向にアクチュエータが動作し、圧力のリリーフが必要な場合には、スプール弁6の動作によりバイパス回路が構成され、ポンプ2から油圧回路1に供給される作動油はスプール弁6を通りポンプ2の低圧側へと流れ、タンクへ戻る。この動作とともに操舵用油圧シリンダ3高圧側のリリーフ回路が構成されるため操舵用油圧シリンダ3への供給圧が制御され、逆方向動作が抑制される。また、逆方向動作が発生した後、正常動作への復帰が必要なため、スプール弁6端部はそれぞれポンプ側、操舵用油圧シリンダ3側の油圧回路1と接続しており、それぞれの圧力が負荷されている。なお、スプール弁保持用ばね8はポンプ側の圧力が負荷される端部に組み込まれている。
【0021】
次に、その油圧回路のスプール弁6について詳細に説明する。
アクチュエータ正常動作時には、ポンプ2から供給される作動油を操舵油圧シリンダ3への負荷として通過させるが、逆方向動作時には、ポンプ2からの作動油をバイパスし、操舵油圧シリンダ3への作動油供給を遮断する回路を確保すると同時に、操舵油圧シリンダ3内部の圧力をリリーフする回路をスプール弁6により構成する必要がある。ここでは、図6に示すスプール弁6を用いる。ポートP1 ,A,D2 はそれぞれポンプ2の供給側、シリンダ3側、バイパス回路に接続している。また、ポートAは外部回路によりポートBと接続しており、スプール弁保持用ばね8側の油室にもポンプ供給圧力を負荷している。ポートCにはシリンダ油圧を負荷しており、フェール時にはポートCからポートD1 への流路が確保され、同時にポートP1 からポートD2 への流路によりポンプ2から供給される作動油をバイパスすることができる。
【0022】
次に、シミュレーションに用いる条件について説明する。
図7に電動式油圧ポンプ2の目標圧力とアクチュエータのピストンストロークの関係を示す。
図7(b)に示す正常動作(アシスト)時は、アクチュエータがストロークした方向への動作をアシストできるように、操舵油圧シリンダ3へ作動油が供給されるのに対して、図7(a)に示す異常動作(フェール)時は、アクチュエータがストロークした方向とは逆方向への動作をさせるべく操舵油圧シリンダ3へ作動油が供給されるように電動式油圧ポンプ2を作動させる。
【0023】
図8は本発明の実施例を示す鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータの油圧回路のスプール弁体とポートのラップ量を示す図である。
作動油供給側(ポンプ側)のポートP1 におけるオーバーラップ量はゼロとしているため、アクチュエータの正常動作時にはポートP1 →ポートAの流路が確保され、アクチュエータへ作動油を供給できる。この流路が確保されている場合は、アクチュエータへの供給圧はポートBにも作用する構成である。一方、作動油供給側よりもアクチュエータ側が高圧となる場合、すなわち異常動作時にはスプール弁体が変位し、変位がオーバーラップ量yD2を超えると供給作動油がポートD2 よりバイパス回路へと流れる。さらに変位が大きくなりスプール弁体の変位がyD1を超えるとポートD1 が開きポートC→ポートD1 の流路が確保される。これにより逆方向動作時のシリンダ圧をリリーフすることができる。
【0024】
各ポートの大きさならびにオーバーラップ量、変位には、次の関係がある。
wP1≧yD1,yD1≧yD2 またwP1≧yP1,wD2≧yD2である。
以下、アシスト動作(通常動作)及びフェール動作(異常動作)のシミュレーション結果について説明する。
〔アシスト動作(通常動作)〕
シミュレーションでは、アクチュエータに強制的な変位ならびに速度を与えることで外力による動作を模擬する。これと同時に、アクチュエータの動作を補助する方向へポンプ2に吐出指令を与えることでアシスト動作とする。設定した条件は以下の (1) , (2) である。
【0025】
(1) 2〜10秒,38〜46秒:
・系統2のシリンダ3に作動油が供給される。
・アクチュエータは系統1側へと変位する。
(2) 14〜22秒,26〜34秒:
・系統1のシリンダ3に作動油が供給される。
【0026】
・アクチュエータは系統2側へと変位する。
なお、上記の時刻以外ではアクチュエータの位置を保持するとともにポンプ回転を停止し、シリンダ3への作動油の供給は行わない。
シミュレーション結果を図9に示す。スプール弁6の動作により作動油がシリンダ3に供給される回路が確保(ポートP1 →ポートA)されるため、アクチュエータ動作をアシストできる。また、ポンプ2から作動油が供給される側とは逆の系統(系統2)のスプール弁6が変位することで、アクチュエータからポンプ2へと作動油を戻すための回路が確保され、アクチュエータの動作を阻害しないことが確認できる。アクチュエータのシリンダ3内にはアシスト動作中の作動目標圧力を負荷することができる。なお、ポンプ2の回転を停止させた際にもスプール弁6が動作し、アクチュエータ内に負荷されていた圧力がリリーフされる。
【0027】
また、ポンプ2の回転開始時にはポンプ流量が急増するが、アクチュエータ動作中は一定の流量を回路に供給している。
〔フェール動作(異常動作)〕
シミュレーションでは、アクチュエータに強制的な変位ならびに速度を与えることで外力による動作を模擬する。これと同時に、アクチュエータの動作に逆らう方向へポンプ2に吐出指令を与えることでフェール動作とする。設定した条件は以下の (1) , (2) である.
(1) 2〜10秒,38〜46秒:
・系統2のシリンダ3に作動油が供給されるべくポンプ2は吐出を続ける。
【0028】
・アクチュエータは系統2側へと変位する。
(2) 14〜22秒,26〜34秒:
・系統1のシリンダ3に作動油が供給されるべくポンプ2は吐出を続ける。
・アクチュエータは系統1側へと変位する。
なお、上記の時刻以外ではアクチュエータの位置を保持するとともにポンプ回転を停止し、シリンダ3への作動油の供給は行わない。
【0029】
シミュレーション結果を図10に示す。ポンプ回転開始時にはシリンダ3内にサージ圧を生じるが、スプール弁6が動作することでシリンダ内圧が低く抑えられることが確認できる。この時、スプール弁6の動作により供給作動油をポンプ2の低圧側へと流すバイパス回路(ポートP1 →ポートD2 )が確保されるため、シリンダ3には作動油が供給されない。また、高圧となったシリンダ3内の作動油を逃がすリリーフ回路(ポートC→ポートD1 )も確保されるため,アクチュエータが変位している間もシリンダ3内は低圧のまま維持される。
【0030】
アクチュエータに強制的に速度を与えている間はポンプ2の駆動が指令されており、この間、ポンプ2は最大流量の吐出を継続する様子が確認できる。
図9,図10を比較すると、フェール動作時のポンプ流量は最大流量で飽和しており、バイパス回路を通じて作動油がポンプ低圧側に戻される状態となっていることが確認できる。
【0031】
上記したように、本発明の鉄道車両用アシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、機械的なフェールセーフ性確保のための油圧回路を構成した。すなわち、本発明のアシスト操舵用アクチュエータは、通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力をシリンダに負荷するが、アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまう異常動作(フェール動作)時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、ポンプ2からの供給圧をシリンダへ負荷しない状態とする油圧回路構成を実現した。
【0032】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、鉄道車両用のみならず、パワーステアリングなどの機構の異常動作を抑制するための機構としても用いることができる。
また、上記実施例では、作動流体を作動油とする油圧回路として説明を行ったが、これに限定されるものではなく、水や空気などの他の作動流体を用いる回路にも適用することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータは、油圧回路制御用スプール弁を用いて制御フェール時の旋回抵抗の増大を抑制することができるアシストボギー角操舵台車用アクチュエータとして利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路
2 ポンプ(電動式油圧ポンプ)
3 アクチュエータの一部を構成する操舵用油圧シリンダ
4 操舵梁
5 台車枠
6 油圧回路制御用スプール弁
7 チェック弁
8 スプール弁保持用のばね
A,B,C,D1 ,D2 ,P1 ポート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、該油圧回路を駆動するポンプとを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は、前記アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制することを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記アクチュエータは通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力を前記シリンダに負荷するが、前記フェール動作時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、前記ポンプからの供給圧を前記シリンダへ負荷しない状態とすることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記ポンプが電動式油圧ポンプであることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記油圧回路制御用スプール弁はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁であることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項1】
両端を操舵梁と台車枠にそれぞれ取り付けたアシストボギー角操舵台車用アクチュエータに、油圧回路制御用スプール弁を組み込んだ油圧回路と、該油圧回路を駆動するポンプとを一体化したアシストボギー角操舵台車用アクチュエータであって、前記油圧回路制御用スプール弁は、前記アクチュエータ動作を阻害する方向へポンプが作動油を供給してしまうフェール動作時には、前記アクチュエータの一部を構成するシリンダへの油圧回路を遮断し、前記作動油をタンクへ戻すことにより、旋回抵抗の増大を抑制することを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記アクチュエータは通常動作(アシスト動作)時にはポンプ圧力を前記シリンダに負荷するが、前記フェール動作時にはバイパス回路が動作し作動油をポンプ低圧側に流すことで、前記ポンプからの供給圧を前記シリンダへ負荷しない状態とすることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記ポンプが電動式油圧ポンプであることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1記載のアシストボギー角操舵台車用アクチュエータにおいて、前記油圧回路制御用スプール弁はバイパス回路制御ならびにアクチュエータリリーフの機能を有するスプール弁であることを特徴とするアシストボギー角操舵台車用アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−245959(P2012−245959A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121667(P2011−121667)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
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