説明

アゾ顔料、着色組成物、着色方法および着色物品

【課題】光学特性として赤外線や太陽光の熱線を反射あるいは透過する性質を有し、顔料特性として優れた堅牢性、特に優れた耐熱性を有する暗色系アゾ顔料を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されることを特徴とする暗色系アゾ顔料。


特に粒子径がサブミクロンないしナノメーターレベルに超微小化に調整されている顔料は、色材として着色力が高い利点を有し、耐溶剤性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などの顔料物性が、特に耐熱性に優れている。さらに、光学的に近赤外部に透過性が大きい光学特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な暗色ないし黒色(以下、暗色系と称す)アゾ顔料、着色組成物、着色方法および着色物品に関する。さらに詳しくは、カップリング成分として新規な特定のカップリング成分である2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボキシ−N−ベンズイミダゾロン−5−アミドを使用し、ジアゾ成分として公知のジアゾ化合物を用い、両者のカップリング反応によって得られる新規な暗色系アゾ顔料、それを含有する着色組成物、それらを使用する着色方法および着色物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から黒色系顔料としては、一般にカーボンブラックが使用され、他には酸化鉄ブラック(四三酸化鉄)、黒色複合酸化物顔料などが使用されてきた。これらの顔料は黒色を示し、可視光領域から遠赤外線領域までの波長の光を吸収することから、これらの顔料で着色された塗膜などの物品は、日光の吸収により高温になり易い。また、カーボンブラックは導電性を有することから、カーボンブラックで着色された物品は、電気絶縁性に乏しいという性質を持っている。
【0003】
また、近年、電子機器や光学機器分野において、赤外線レーザー放射の利用や、それに対応するセンサーの発達により、従来一般に使用されていたカーボンブラックなどの黒色顔料にはない性質を有する黒色顔料を求める分野が多くなっている。例えば、赤外線通信、赤外線迷彩、光学フィルターなどでは、赤外線透過性フィルターの着色材料として油溶性染料が使用されてきたが、これらの油溶性染料で合成樹脂材料を着色するには、当該染料の耐熱性、耐溶剤性、耐光性などの耐久性に問題があり、従って優れた耐久性を有し、かつ赤外線透過性に優れた暗色系顔料が求められている。また、省エネルギーの観点より太陽光を反射する遮熱塗装が要望され、そのための熱線反射材料が、構造物の屋根や壁の塗装、道路舗装、自動車の外装や内装など、さらに電子部品塗料などの昇温性材料用として、また、農業用でも遮熱材などとしての熱線反射材料が要望されている。
【0004】
これらの問題点を解決する手段として、赤外線反射性を有する黒色顔料として、カップリング成分として従来公知のカラーインデックス(C.I.)カップリングコンポーネント25(2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボキシ−(2’−メチル)−p−アニシダイド)あるいはC.I.カップリングコンポーネント13(2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボキシ−p−アニシダイド)を使用した黒色アゾ顔料があるが、これらのカップリング成分は、これに組合せるジアゾ成分によっては、耐熱性や耐溶剤性などの顔料物性が不十分で、プラスチックの着色、特にエンジニアリングプラスチックの着色時の混練に際して、耐熱性が不十分であった。従って、上記の光学的特性および電気的特性を有し、かつ耐熱性や耐溶剤性などの顔料物性に優れた暗色系顔料が要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、光学特性として赤外線や太陽光の熱線を反射あるいは透過する性質を有し、顔料特性として優れた堅牢性、特に優れた耐熱性を有する暗色系アゾ顔料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カップリング成分として2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボン酸−N−ベンズイミダゾロン−5−アミドを使用し、適当なジアゾ成分とのカップリング反応によって得られた、暗色系アゾ顔料が優れた耐熱性を有する十分な暗色を示し、特に、粒子径をサブミクロンからナノサイズの超微粒子顔料にすることで、近赤外領域の光の透過性を高くすることができ、かつ赤外線反射性については、該暗色系顔料による着色層を透過した赤外線を白色の下地で反射させる(本発明では、これを「赤外線反射性」といっている)ことなどで達成できることから、優れた赤外線透過性および赤外線反射性の光学特性、および耐熱性などの顔料堅牢性を有する暗色系アゾ顔料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする暗色系アゾ顔料、着色組成物、着色方法および着色物品を提供する。

〔但し、上記式中のnは1または2であり、Xは水素基あるいは置換基を示し、置換基はハロゲン基、アルキル(C1〜C20)基およびアルコキシル(C1〜C20)基、フタルイミドメチル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個の置換基であり、Arは、置換基が導入されてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基および9,10−アントラキノニル基からなる群から選ばれる基である。〕
【0008】
上記本発明においては、前記Arの置換基が、アルキル基(C1〜C20)、アルコキシル基(C1〜C20)、フルオロアルキル基(C1〜C20)、ハロゲン基、カルボキシル基、エステル基、オキシカルボニル(エステル)基、カルボアミド基、アミノカルボニル基、イミノジカルボニル環基、イミダゾロン環基、ニトロ基、アルキル(C1〜C20)スルホニル基、フェニルメチルスルホニル基、アルキル(C1〜C20)アミノスルホニル基、ベンゾイルアミノ基、フェニルアミノ基およびフェニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個であること;暗色系アゾ顔料の平均粒子径が、20nm〜1,000nmであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記本発明の暗色系アゾ顔料を含む顔料成分を、液体分散媒体中あるいは固体分散媒体中に含むことを特徴とする着色組成物を提供する。上記本発明の着色組成物においては、前記顔料成分が、前記本発明の暗色系アゾ顔料単独、あるいは該暗色系アゾ顔料と他の有彩色顔料、白色顔料、他の黒色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物であること;前記液体分散媒体が、反応性基を有してもよい液体重合体、反応性基を有してもよい液体オリゴマーおよび反応性基を有してもよい液体単量体から選ばれる少なくとも1種を皮膜形成材料として含むこと;および前記固体分散媒体が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ワックス、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属石鹸から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0010】
上記本発明の着色組成物は、塗料用、プラスチック用、繊維用、印刷インキ用、画像記録用、画像表示用または顔料捺染剤用着色剤として有用である。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の着色組成物を用いて物品を着色することを特徴とする物品の着色方法を提供する。該着色方法では、前記物品が、赤外線高透過性樹脂からなり、該物品の表面または内部を着色すること;赤外線反射性物品それ自体、または物品表面に形成された赤外線反射性層上に着色をすることが好ましい。また、本発明は、上記本発明の方法で得られたことを特徴とする着色物品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
従来、カーボンブラックなどの黒色顔料により着色された物品は、赤外線を吸収し易く、直射日光などにより高温になり易く、また、電気抵抗性を低下させてしまうので、電気絶縁性の用途では不適切であるという問題点があった。
また、カップリング成分として従来公知のC.I.カップリングコンポーネント25やC.I.カップリングコンポーネント13を使用した黒色アゾ顔料による着色物品は、赤外線反射性および電気絶縁性を有するが、上記顔料は、それに使用したジアゾ成分によっては、耐熱性や耐溶剤性などの顔料物性が不十分で、プラスチックの混練着色に際して、耐熱性が不十分であった。
【0013】
これに対して2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボン酸のアリールアミドとして、極性基であるウレイレン(ureylene)基を有するベンズイミダゾロンのアミドをカップリング成分として使用した新規な本発明の暗色系アゾ顔料が十分な黒色を示し、顔料として耐熱性や耐溶剤性などの堅牢性を有し、プラスチック用着色剤として、従来使用できなかったポリエチレンテレフタレート(成型温度:凡そ270℃)、ポリブチレンテレフタレート(成型温度:凡そ250℃)、ポリカーボネート(成型温度:凡そ280℃)などの着色などの、混練加工温度の高い用途にも使用される。
【0014】
また、上記本発明のアゾ顔料は、その粒子径をサブミクロンないしナノサイズの超微粒子に制御することで、赤外線高透過性など、優れた光学特性を有し、電子機器の赤外線を使用したリモートコントローラーの、内部を見えないように暗色にした投光窓材料として有効であり、また、白色の赤外線反射性の下地や金属面、あるいは混在させた白色顔料、体質顔料あるいは金属箔顔料での反射性効果を生かして日光を反射させることによる建造物の塗装、道路の遮熱舗装、自動車の外装、内装、繊維、織物類の遮熱など、省エネルギーに関連する用途などに優れた特長と効果をもたらす。上記において、本発明のアゾ顔料は、暗色系顔料として、単独で暗色の用途に使用される他、白色顔料と併用して灰色に、有彩色顔料と併用して暗赤色、暗青色、暗褐色、暗緑色などの明度の低い色調の着色用途に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用し、主として本発明を特徴づける上記一般式(I)のアゾ顔料は、下記一般式(II)で表されている芳香族アミンであるジアゾ成分を、下記一般式(III)で表されるカップリング成分に常法に従ってカップリングさせる方法によって得られる。

なお、上記式中のX、nおよびArは前記と同意義である。
【0016】
本発明において使用する一般式(III)で表されるカップリング成分は、2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボン酸、その塩あるいは酸ハロゲン化物、低級脂肪酸エステルなどの反応性誘導体と、置換基を有してもよい5−アミノベンズイミダゾロンとを反応させることによって得られる。置換基(X)としては、ハロゲン基、アルキル(C1〜C20)基およびアルコキシル(C1〜C20)基、フタルイミドメチル基およびスルホン基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個が挙げられる。
【0017】
上記一般式(II)で表される芳香族アミンとしては、従来公知の置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基または9,10−アントラキノニル基であり、その置換基としてはアルキル基(C1〜C20)、アルコキシル基(C1〜C20)、フルオロアルキル基(C1〜C20)、ハロゲン基、カルボキシル基、エステル基、オキシカルボニル(エステル)基、カルボアミド基、アミノカルボニル基、イミノジカルボニル環基、イミダゾロン環基、ニトロ基、アルキル(C1〜C20)スルホニル基、フェニルメチルスルホニル基、アルキル(C1〜C20)アミノスルホニル基、ベンゾイルアミノ基、フェニルアミノ基、フェニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個が挙げられる。
【0018】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−メチル−3−クロロアニリン、2−メチル−4−クロロアニリン、2−メチル−5−クロロアニリン、2−メトキシ−5−クロロアニリン、2−ニトロアニリン、3−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン、2−メチル−5−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロアニリン、2−ニトロ−4−メチルアニリン、2−メトキシ−4−ニトロアニリン、2−メトキシ−5−ニトロアニリン、2−ニトロ−4−メトキシアニリン、2−ニトロ−4−クロロアニリン、2−(4’−クロロフェノキシ)−5−クロロアニリン、2−メトキシ−5−ブチルアミノスルフォニルアニリン、2−メトキシ−5−ジエチルアミノスルフォニルアニリン、2−メトキシ−5−メチル−4−ベンゾイルアミノアニリン、2,5−ジメトキシ−4−ベンゾイルアミノアニリン、2−クロロ−4−ベンゾイルアミノ−5−メトキシアニリン、1−アミノアントラセン、1−アミノアントラキノンなどの如きアニリンまたはアニリン誘導体、ナフチルアミン誘導体、アミノアントラセンあるいはアミノアントラキノンなどが挙げられる。前記一般式(I)において、n=2のときの芳香族アミンとしては、例えば、4,4’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジメチルベンジジン、4,4’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノ−ジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジクロロジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−ジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルフォンなどが挙げられる。
【0019】
上記芳香族アミンをジアゾ化する方法は、従来の芳香族アミンのジアゾ化法をそのまま使用することができ、例えば、芳香族アミンの鉱酸塩の冷水溶液に亜硝酸ナトリウム溶液を加え、冷却下しばらく撹拌してジアゾ化し、ジアゾニウム塩の水溶液を得る方法や、さらに塩化亜鉛などとの安定化複塩、サルコシン(N−メチルグリシン)などのアミノ化合物とのジアゾアミノ化合物に変えて使用することができる。
【0020】
本発明の暗色系アゾ顔料は、上記した一般式(II)で表される芳香族アミンのジアゾニウム塩、その複塩、あるいはジアゾアミノ化合物などの誘導体(以下、ジアゾニウム塩と総称する)と、前記一般式(III)で表されるカップリング成分とを、従来行われているアゾ顔料の製造方法に準じてカップリングすることにより得られる。ジアゾニウム塩は1種類を使用する場合のほか、顔料の色調の制御や結晶や粒子径のコントロール、保存安定性などの目的に応じて他のジアゾニウム塩を1種以上併用することも好ましい。カップリング成分においても同様の目的で、本発明の一般式(III)で表されるカップリング成分に加えて、公知の他のカップリング成分を併用することもできる。
【0021】
すなわち、上記カップリング成分をアルカリ水溶液に加えて加熱溶解させ、次いでその溶液を25℃近くに冷却し、これに緩衝剤を加え、さらにpHを調整し、しかる後これに上記の芳香族アミンのジアゾニウム塩水溶液を滴下してアルカリ性にて低温(10℃以下)でカップリング反応を行い、粗アゾ顔料を生成し、次いで濾過、水洗し、乾燥し、必要に応じてさらに結晶形制御のための工程や顔料の微粒子化工程による粒子径の調整などを目的とする顔料化工程を経て目的とする本発明のアゾ顔料が得られる。
【0022】
さらに本発明において、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキサイドなどの親水性有機溶剤、あるいは、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンなどの親油性有機溶媒中においても前記カップリング反応を行うことができる。
【0023】
上記の如くして製造された本発明のアゾ顔料は、黒色ないし暗紫色、暗褐色、暗緑色などの暗色を呈する顔料であり、耐溶剤性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性も良好であり、着色力も高く、特に耐熱性に優れた性質を示す顔料であるが、それをさらに微粒子化することで、さらに鮮明性、冴え、透明性のある色相が顔料に付与される。微粒子化顔料の平均粒子径としては20nm〜1,000nmであり、特に赤外領域での高透過性をもたらすためには、20nm〜300nmであることが好ましく、カラーフィルターなどの光学機器に使用するためには20nm〜100nmであることがさらに好ましい。
【0024】
顔料の微粒子化方法について、以下に幾つかの方法を例示するが、本発明は、これらの方法に限定されるものではない。最も好ましい方法は、
(1)顔料を磨砕するソルベントソルトミリング法であり、顔料を塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどの水溶性無機塩およびエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性有機溶剤を適切な割合でニーダーに仕込み、温度コントロールしながら一定時間、内容物を圧縮混練した後、混練物を加温した希硫酸水溶液中に投入して、撹拌した後、濾過、水洗して水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去し、次いで温風などで乾燥させる方法である。また、ボールミルや振動ミルを用いるドライミリング法も有効であり、この方法ではスチールボール、スチールロッドなどの粉砕媒体が使用され、必要により無機塩が磨砕助剤として使用される。この方法で使用する磨砕助剤としては、上記と同様に塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムの他に、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0025】
(2)粗顔料を硫酸あるいはポリリン酸などの良溶剤に溶解し、この溶液を水などの貧溶剤中に注入して顔料を再沈殿させる方法、すなわち、アシッドペースト法と呼ばれる手法が挙げられる。こうして得られた顔料を充分水洗するだけでも目的とする微細化顔料が得られるが、適当な有機溶媒などで顔料化を行い、粒子径を揃えることにより確実に所望の顔料が得られる。
【0026】
(3)前記方法で、芳香族アミンのジアゾ成分とカップリング成分とをカップリング反応させる時に、ジアゾ成分を2種類以上使用するか、あるいは別のカップリング成分をさらに1種類以上併用して、生成する顔料粒子の成長を阻害することで、微細化顔料を製造する方法が挙げられる。この方法のみで所望の微細化顔料が得られる場合もあるが、好ましくは、上記(3)の方法に前記(1)のソルベントソルトミリング法を併用することがより好ましい。
【0027】
本発明の暗色系アゾ顔料は、光学特性として赤外線や太陽光の熱線を反射あるいは透過する性質を有し、顔料特性として優れた堅牢性、特に優れた耐熱性を有する。本発明の暗色系アゾ顔料は、塗料用着色組成物、プラスチック用着色組成物、繊維用着色組成物、印刷インキ用着色組成物、画像記録用着色組成物、画像表示用着色組成物または顔料捺染剤用着色組成物の着色剤として使用される。これらの着色組成物は、用途や使用形態により、本発明の暗色系アゾ顔料を含む顔料成分を液体分散媒体中あるいは固体の分散媒体中に分散させて含有する着色組成物として使用される。
【0028】
上記の顔料成分としては、本発明の暗色系アゾ顔料を、黒色あるいは暗色の顔料組成物の着色剤として単独で使用するか、あるいは目的に応じて本発明の暗色系アゾ顔料に他の有彩色顔料、白色顔料、他の黒色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種の顔料を併用することによって、暗赤色、暗青色、暗緑色、褐色、暗紫色などの有彩色の、淡黒色、灰色などの無彩色の色調の顔料組成物として使用される。
【0029】
上記有彩色顔料、白色顔料、他の黒色顔料および体質顔料などとしては、従来公知の有機顔料、無機顔料、体質顔料が使用される。例えば、溶性・不溶性アゾ顔料、高分子アゾ顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノフタロン顔料、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、インジゴ・チオインジゴ顔料、金属錯体顔料などの有機顔料、および酸化鉄系顔料、酸化チタン系顔料などの無機顔料、炭酸カルシウム、シリカなどの体質顔料が挙げられる。
【0030】
有機顔料としては、例えば、黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー(PYと略記する)−74、83、93、94、95、97、109、110、120、128、138、139、147、150、151、154、155、166、175、180、181、185、191などが、橙色顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ(POと略記する)−61、64、71、73などが、赤色顔料としては、C.I.ピグメントレッド(PRと略記する)−4、5、23、48:2、48:4、57:1、112、122、144、146、147、150、166、170、177、184、185、202、207、214、220、221、242、254、255、264、272などが、青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー(PBと略記する)−15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、16、17:1、60、80、アルミニウムフタロシアニンブルーなどが、緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(PGと略記する)−7、36、ポリ(13−16)ブロムフタロシアニンなどが、紫色顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット(PVと略記する)−19、23、37などが挙げられる。
【0031】
本発明の顔料組成物の液体分散媒体としては、反応性基を有してもよい重合体、反応性基を有してもよいオリゴマーおよび反応性基を有してもよい単量体から選ばれる少なくとも1種である皮膜形成材料を含み、かつそれ自体液体であるか、あるいはさらに有機溶剤および水から選ばれる成分の一種をまたは2種以上を混合して、溶液、分散液あるいはエマルジョンの形で使用される。
【0032】
有機溶剤としては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系炭化水素、ハロゲン化炭化水素系、エステル系、ケトン系、グリコールエーテル系、アルコール系などが使用され、特に限定されるものではない。また、塗料用ベヒクル、印刷インキ用ワニスおよびコーティング剤用ベヒクルとしては、各用途に応じて従来公知の油性乃至水性のバインダー材料が使用される。例えば、長油長、中油長および短油長のアルキッド樹脂、フェノール変性アルキッド樹脂、スチレン化アルキッド樹脂などの変性アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、オイルフリーアルキッド樹脂、焼付用アクリル樹脂、アクリルラッカー樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、尿素−メラミン樹脂、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン−ジエン共重合体、塩化ビニル系共重合体、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ブチラール樹脂、石油樹脂、ロジンエステル、マレイン化ロジンエステルなどの変性樹脂、乾性油、ボイル油などが挙げられる。
【0033】
紫外線、電子線などのエネルギー線硬化型の感光性樹脂としては、例えば、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂など、および不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステル−アクリレート系樹脂、ポリエポキシ−アクリレート系樹脂、ポリウレタン−アクリレート系樹脂、ポリエーテル−アクリレート系樹脂、ポリオール−アクリレート系樹脂などが挙げられ、さらに反応性希釈剤として各種のモノマーを加えることができる。
【0034】
本発明の顔料組成物の固体分散媒体としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ワックス、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属石鹸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。カラーテレビジョン各種の電子機器のリモートコントローラーの着色した窓に使用されるカラーフィルターに使用される分散液は、通常、皮膜形成樹脂を含む有機溶剤と顔料分散剤などからなっている。
【0035】
ここで使用される熱可塑性樹脂の例としては、プラスチック成形物用では、各種プラスチック、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル−スチレン樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。合成繊維用では、繊維原料、例えば、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0036】
本発明の物品の着色方法は、上記の着色組成物を用いて物品を着色する方法であり、物品が赤外線高透過性樹脂である場合は、本発明の着色組成物を用いて赤外線高透過性樹脂を表面着色または内部着色することにより、赤外線透過性の着色をする方法、および物品の有するあるいは予め形成させた赤外線反射性の下地の上に、本発明の着色組成物を用いて塗布、捺染、印刷または印字することにより、赤外線反射性の着色をする方法が挙げられる。また、本発明によれば、上記の物品の着色方法で得られた着色物品が提供される。
【実施例】
【0037】
次に合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中、「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
[合成例1]
(a)カップリング成分「カップラーK」の合成
クロロベンゼン2,000ml、2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボン酸ナトリウム170.5g(0.57モル)および5−アミノベンズイミダゾロン56.7g(0.38モル)の混合物に80〜85℃で三塩化リン52.4g(0.38モル)を1時間かけて加えた後、同温度で2時間、さらに128〜130℃で25時間攪拌後、アルカリ性にした状態で溶剤を水蒸気蒸留にて除去し、50〜60℃にてろ過、乾燥して、2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボキシ−N−ベンズイミダゾロン−5−アミドの粗製物を得た。この粗製物を水酸化ナトリウム23gを溶かしたメタノール3,000mlに溶解させ、不溶分を濾別後、酢酸68gを加えて析出させた(2回)。析出物を濾過し、メタノール洗浄、水洗、乾燥してカップラー(以下「カップラーK」と称する)を得た(融点449℃)。
【0038】
(b)黒色アゾ顔料の合成
4−ニトロアニリン1.38g(0.01モル)を、氷酢酸11.3gに懸濁し、これに濃塩酸3.7gを加えて撹拌した。これに水2.6gを加え、温度0〜5℃に保ち、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.0gを加え、約30分間同温度にて撹拌しジアゾニウム塩の溶液を得た。これに酢酸ナトリウム3水和物4.8gを加えてジアゾニウム塩の溶液を調製した。
一方、上記カップラーK4.08g(0.01モル)を水酸化ナトリウム0.6gが溶けたメタノール250g中に溶解し、0〜10℃で上記ジアゾニウム塩溶液を加え、15℃以下に保ち酢酸ナトリウムでpHを6.5〜7.0に調整してカップリングを行い、下記式のアゾ顔料が得られた。該アゾ顔料は黒色を呈する。以下、「黒色顔料−1」と称する。
【0039】

【0040】
[比較合成例1]
合成例1の「カップラーK」に代えて、2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボキシ−(2’−メチル)−p−アニシダイド(C.I.カップリングコンポーネント25(以下、「カップラー25」と称する)4.20g(0.01モル)を使用し、合成例1と同様にして4−ニトロアニリン1.38g(0.01モル)とカップリングさせて下記式の黒色顔料を得た。以下、「比較黒色顔料−1」と称する。
【0041】

【0042】
[合成例2]
芳香族アミンとしての1−アミノアントラキノン2.23g(0.01モル)を氷酢酸11.3gに懸濁し、これに濃塩酸3.7gを加えて撹拌した。これに水2.6gを加え温度0〜5℃に保ち、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.0gを加え、約30分間同温度にて撹拌して黄色のジアゾニウム塩の溶液を得た。これに酢酸ナトリウム3水和物4.8gを加えてジアゾニウム塩の溶液を調製した。合成例1(b)と同様にして、カップラーK4.08g(0.01モル)とカップリングを行い、下記式の黒色のアゾ顔料を合成した。以下、「黒色顔料−2」と称する。
【0043】

【0044】
[比較合成例2]
合成例2のカップラーKに代えてカップラー25を4.20g(0.01モル)使用し、合成例2と同様にして1−アミノアントラキノン2.23g(0.01モル)とカップリングさせて下記式の黒色顔料を得た。以下、「比較黒色顔料−2」と称する。
【0045】

【0046】
[黒色顔料の熱的性質の測定]
上記の合成例および比較合成例で得られた黒色顔料を、空気中での熱分析により熱的性質を測定し、その結果を表1に示した。同じ芳香族アミンを使用した顔料を比較すると、カップリング成分として本発明のカップラーKを使用した黒色アゾ顔料の方が、カップラー25を使用した公知の黒色アゾ顔料よりも非常に高い熱安定性を示した。
芳香族アミンとして4−ニトロアニリンを使用した本発明の黒色顔料−1では、比較黒色顔料−1よりも約80℃上昇して減量開始温度で約300℃を示し、1−アミノアントラキノンを使用した本発明の黒色顔料−2では、減量開始温度で、比較黒色顔料−2よりも約170℃上昇して約360℃を示し、本発明の暗色系アゾ顔料は樹脂の混練などに際して、300℃付近での加工温度には充分耐えることが示された。
【0047】

【0048】
実施例1(アルキッド焼付け塗料)
(a)黒色アルキッド焼付け塗料の調製
前記合成例1および2で得られた黒色顔料−1、−2のそれぞれと、油変性アルキッド樹脂(油長33%、純分60%)とブチル化メラミン樹脂(純分50%)とを含むアルキッドメラミン焼付け塗料とを下記の表2の配合処方に従って配合し、常法に従いガラスビーズを加えてペイントシェーカーを用いて分散させて2種の塗料を調製した(黒色顔料−1を用いたものを塗料−1とし、黒色顔料−2を用いたものを塗料−2とした)。
【0049】

【0050】
(b)近赤外領域の透過率の測定
前記合成例1および2で得られた黒色顔料−1、−2を使用した塗料−1、−2の光学特性を測定した。各塗料を、それぞれ石英ガラス板に2milアプリケーターで塗布し、常法に従い乾燥させた。330型自記分光光度計(日立製作所製)にて可視部および近赤外部の透過率を測定し、表3に測定結果を示した。各黒色塗料とも800nm以上の近赤外領域で大きな透過率を示した。
【0051】

【0052】
(c)反射率の測定
次に、330型自記分光光度計(日立製作所製)にて、上記で得られた各塗装ガラス板を用い、それぞれのガラス板に、白色板(酸化マグネシウム板)を裏面に当てた白バックでの反射率および黒色板(カーボンブラック板)を裏面に当てた黒バックでの反射率を測定した。白バック反射率は、塗膜の反射と塗膜を通った光の白バック面からの反射との合算値であり、黒バック反射率は塗膜のみの反射を示す。
表4に測定結果を示した。各黒色塗膜とも黒バックでは反射率が低く、塗膜として反射率は低いことを示したが、塗膜の透過率が高いことと同じ結果を示した。白バックでは下地の反射が効果して各塗膜とも近赤外領域では高い反射率を示した。
【0053】

【0054】
実施例2(アクリル常乾塗料)
黒色顔料−1の17部、熱可塑性アクリル樹脂70部、混合溶剤13部(トルオール:キシロール:ブタノール:セロソルブ=6.8:3.2:2.2:0.8)からなる組成物をボールミルで分散処理して黒色塗料を調製した。これを、酸化チタン白色顔料および体質顔料を含む白色塗料で、予め下地塗布した鋼板に塗布して黒色塗膜を形成した。この黒色塗装物は、上層塗膜を透過した光の下地からの反射作用とあいまって、太陽光の赤外線を反射し、遮熱塗料として有効であり、カーボンブラック顔料を使用した黒色塗装物より昇温が抑制された。また、上記において黒色顔料−1に代えて黒色顔料−2を使用して、上記と同様にして黒色塗料を調製し、鋼板に塗布した。上記と同様に太陽光の遮熱塗料として有効であった。
【0055】
実施例3(金属製品用塗料)
黒色顔料−2の5部、水酸基およびカルボキシル基を有するメタクリル酸アルキルエステル−スチレン共重合体からなる反応性アクリルスチレン樹脂の酢酸エチル溶液(固形分:50%)45部、メトキシメチルメラミン架橋剤(固形分:50%)5部、色別れ防止剤0.1部およびキシレン44.9部の配合処方の黒色の金属製品用アクリルスチレン塗料を調製した。得られた塗料を用いて金属製品にスプレイ塗装し、焼付を行って、金属製品に美麗な黒色の塗装を行った。また、アルミ粉と併用して金属製品用アクリル焼付塗料として美麗な黒色の塗装ができた。これらの黒色塗装物は下地の反射作用にもより、太陽光の熱線を反射し、遮熱塗料として有効であり、カーボンブラック顔料を使用した黒色塗装物より昇温が抑制された。また、上記と同様にして、上記において黒色顔料−2に代えて黒色顔料−1を使用して黒色塗料を調製し、鋼板に塗布した。上記と同様に太陽光の遮熱塗料として有効であった。
【0056】
実施例4(成型樹脂板)
黒色顔料−2の5部、酸化チタン白色顔料20部および顔料分散剤としてポリエチレン樹脂粉末75部をヘンシェルミキサー(粉体高速混合機)で混合し、粉末着色剤(ドライカラー)を得た。次いで得られた粉末着色剤1.0部をポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂ペレット100部に配合し、ヘンシェルミキサーで混合し、押出し機で黒色樹脂ペレットとした。得られた黒色ペレットをインラインスクリュー射出成型機にて240℃にて成型し、顔料分散性に優れた黒色のPBT樹脂成型板を得た。黒色顔料の赤外線透過性と酸化チタン白色顔料の光線の反射作用により、太陽光の熱線を反射し、昇温防止性を示した。また、上記において黒色顔料−2に代えて黒色顔料−1を使用して同様にして淡黒色のPBT樹脂成型板を得た。上記と同様に太陽光の昇温防止を示した。
【0057】
実施例5(透明成型板)
黒色顔料−1を20%含有するアクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート)黒色マスターバッチ2部を、アクリル樹脂ペレット100部に配合し、ヘンシェルミキサーで混合し、押出し機で黒色樹脂ペレットとした。得られた黒色樹脂ペレットをインラインスクリュー射出成型機にて成型し、顔料分散性に優れた黒色のアクリル樹脂成型板を得た。この成型板を、可視光を遮光し赤外線のみを透過する黒色のアクリル樹脂製赤外線カラーフィルターとして使用した。この成型板は、赤外線放射型リモートコントローラーなどのカラーフィルタープレートとして有用である。また、上記に使用した黒色顔料−1に代えて、黒色顔料−2を使用して同様に赤外線透過性に優れた黒色透明成型板を得た。
【0058】
実施例6(透明成型板)
黒色顔料−2を20%含有するポリカーボネート(PC)樹脂黒色マスターバッチペレット2部をPC樹脂ペレット100部に配合し、ヘンシェルミキサーで混合し、押出し機で280℃にて混練し、黒色樹脂ペレットとした。得られた黒色樹脂ペレットをインラインスクリュー射出成型機で280℃にて成型した。可視光を遮光し、赤外線のみを透過する黒色のPC樹脂製赤外線カラーフィルタープレートを得た。この成型板は、赤外線放射型リモートコントローラーおよび赤外線放射型自動車の障害物検知システムのカラーフィルタープレートとして有用である。また、上記黒色顔料−2に代えて、黒色顔料−1を使用して、同様に赤外線透過性に優れた黒色透明成型板を得た。
【0059】
実施例7(原液着色紡糸)
黒色顔料−2の50部および顔料分散剤としてエチレンビスステアリン酸アミド粉末50部をヘンシェルミキサーで混合し、顔料分50%のドライカラーを得た。次いで得られたドライカラー1.0部をポリプロピレン樹脂ペレット99.0部に配合し、ヘンシェルミキサーで混合し、ベント式40m/m押出機で押出条件として温度200〜220℃で混練し、0.5%黒色樹脂ペレットとした。得られた黒色樹脂ペレットを熔融紡糸機にて紡糸条件として温度220〜240℃で紡糸し、繊度10デニールの黒色のポリプロピレン原液着色糸を得た。織布にして太陽光による昇温防止を示した。また、上記において黒色顔料−2に代えて黒色顔料−1を使用して、同様に太陽光の昇温防止性に優れた黒色のポリプロピレン原液着色糸を得た。
【0060】
実施例8(塩ビコーティング剤)
黒色顔料−2の0.5部とアジピン酸エステル系可塑剤1.0部とを混練したものをポリ塩化ビニル樹脂コンパウンド50部と混合し、6インチロールで155〜160℃で3分間ロール練りしてシートを形成した。別に準備した白色の下地シートの上に表皮層として上記で得た黒色シートあるいは上記の黒色コンパウンドと酸化チタン白色顔料を用いた白色コンパウンド、フタロシアニンブルー顔料(C.I.ピグメントブルー(PB)15:3)、キナクリドン顔料(PV19)、ジオキサジンバイオレット顔料(PV23)およびシアニングリーン顔料(PG36)を用いた有彩色のコンパウンドと混練して得た、灰色シートや暗色系の有彩色シートを170℃で50kgの圧力で厚さ5mmにプレス成形して積層させた多層シートは太陽光の熱線を反射し、昇温防止作用を示した。また、上記において黒色顔料−2に代えて黒色顔料−1を使用して同様にして太陽光の昇温防止性の黒色あるいは暗色系の有彩色の多層シートを得た。
【0061】
実施例9(ポリウレタンコーティング剤)
カルボキシル基を有するポリエーテルポリオール−ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリウレタンの乳白色のメチルエチルケトン分散液(固形分:30%)100部、ポリエーテルポリオール−ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリウレタンのメチルエチルケトン溶液(固形分:50%)5部およびポリカルボジイミド系架橋剤(固形分:20%)2.5部を充分混合した。そこへ黒色顔料−2の0.5部とアジピン酸エステル系可塑剤1.0部とを混練した黒色顔料ペーストを1部添加し、充分混合し、黒色ポリウレタンコーティング液を準備した。それをポリエステル織布表面に約200g/m2で塗付し、乾燥して、黒色の繊維加工製品を得た。この黒色ポリウレタンシートは太陽光の熱線に対して昇温防止性を示した。上記の黒色顔料ペーストに白色顔料ペーストあるいは青色、赤色、緑色、茶色の有彩色顔料ペーストを加えて混練して得た、灰色シートや暗色系の有彩色シートも同様に太陽光に対して昇温防止作用を示した。また、上記において黒色顔料−2に代えて黒色顔料−1を使用して同様にして太陽光の昇温防止性黒色あるいは灰色や暗色系の有彩色のポリウレタンシートを得た。
【0062】
実施例10(オフセットインキ)
黒色顔料−2の15部、オフセット平版インキ用調合ワニス83部、5%コバルトドライヤー0.2部、8%マンガンドライヤー1.0部およびインキソルベント0.8部を十分に混合練肉してオフセット印刷インキを得た。この印刷インキにて上質紙にベタ印刷した。上記で使用したオフセット平版インキ用調合ワニスは、ロジン変性フェノール樹脂35部、乾性油変性イソフタール酸アルキッド10部、乾性油35部、インキソルベント29.5部およびアルミニウムキレート0.5部を配合して得た。上記の黒色インキに白色インキあるいは青色、赤色、緑色、茶色の有彩色インキを加えて練肉して灰色インキや暗色系の有彩色インキを得、灰色印刷物や暗色系の有彩色印刷物を得た。
【0063】
実施例11(水性グラビアインキ)
黒色顔料−1の15部、ポリカーボネートポリオールと脂肪族イソシアネートから得られたカルボキシル基を含有するポリウレタン水性樹脂(固形分:30%)60部、水分散性ワックス(固形分:30%)5部、消泡剤1部、ポリカルボジイミド架橋剤(固形分:50%)5部および水14部を配合し、黒色水性グラビアインキを調製した。同様にして、それぞれの色のインキ100部中に、フタロシアニンブルー顔料(PB15:3)15部、不溶性アゾ系レッド顔料(PR5)15部およびジスアゾイエロー顔料(PY74)8部をそれぞれ含有する青色、赤色、黄色の水性グラビアインキ100部を調製した。得られた4色の印刷インキを使用してポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどの透明な無色のプラスチックフィルムに印刷をした。黒色インキを使用した印刷は、他の色の印刷と同様に赤外線の高い透過性を有した。また、黒色インキと上記3色の有彩色インキと調色して暗色系有彩色インキを調製し、プラスチックフィルムに赤外線透過性の高い暗色系有彩色印刷をした。上記において黒色顔料−1に代えて黒色顔料−2を使用して上記と同様にして黒色インキを調製した。
【0064】
実施例12(織布用捺染糊)
黒色顔料−1の25%、ノニオン系顔料分散剤10%、消泡剤1%、水64%からなる水性顔料分散液20部、反応性アクリル酸アルキルエステルラテックス(固形分40%)25部、消泡剤0.5部、分散剤1部、水中油滴型乳化用分散安定剤3部、ミネラルターペン38部、水12.5部および上記処方にてアゾ顔料を分散させた糊状の黒色ペーストに、エポキシ系の架橋剤を1%併用し、黒色捺染糊を調製した。ポリエステル−綿混紡布上にシルクスクリーンにてプリントし、120℃で15分間のキュアーを行うことにより、黒色のプリント物を得た。このプリント物は、太陽光の暑さを和らげる性能を示した。また、上記と同様にして、上記において黒色顔料−1に代えて黒色顔料−2を使用して黒色捺染糊を調製し、黒色のプリント物を得た。
【0065】
合成例3〜12
合成例1と同様にして、他の芳香族アミンを使用して下記表5に記載の本発明の暗色系アゾ顔料を得た。熱的性質も合成例1と同様にして測定した。
【0066】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の暗色系アゾ顔料、特に粒子径がサブミクロンないしナノメーターレベルに超微小化に調整されている顔料は、色材として着色力が高い利点を有し、有機顔料であることから耐溶剤性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などの顔料物性が、特に耐熱性に優れている。さらに、超微粒子顔料であることから粗大な粒子の顔料に比し、光学的に近赤外部に透過性が大きい光学特性を有しており、従来、油溶性染料が使用されていた赤外線通信、赤外線迷彩、赤外線照射センサーの光学フィルターとして有用である。
【0068】
本発明の暗色系アゾ顔料は、近赤外領域が高透過性であることから、顔料としては逆に反射性が低い。しかし、例えば、遮熱塗料においては白色の下地塗装の上に塗装するなど塗装方法を工夫することによって、反射性の高い粗大粒子の顔料を使用するよりもむしろ高い遮熱性が期待できる。建物、住宅、倉庫などの建造物の遮熱塗料、自動車の外装塗装用、内装材の昇温防止塗料、農業用寒冷紗用の顔料捺染剤、繊維原液着色剤や電子部品の塗料用の着色剤として有用である。
また、本発明の暗色系アゾ顔料は、暗色系有機顔料として、耐溶剤性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性も良好であり、着色力が高くアゾ顔料であることから、単独の暗色および他の白色顔料或いは有彩色顔料と併用して灰色あるいは暗色系の有彩色塗料、顔料捺染剤、繊維用着色組成物、プラスチック用着色組成物、印刷インキ、画像記録用着色組成物、画像表示用着色組成物などの着色剤として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されることを特徴とする暗色系アゾ顔料。

〔但し、上記式中のnは1または2であり、Xは水素基あるいは置換基を示し、置換基はハロゲン基、アルキル(C1〜C20)基およびアルコキシル(C1〜C20)基、フタルイミドメチル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個の置換基であり、Arは、置換基が導入されてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基および9,10−アントラキノニル基からなる群から選ばれる基である。〕
【請求項2】
前記Arの置換基が、アルキル基(C1〜C20)、アルコキシル基(C1〜C20)、フルオロアルキル基(C1〜C20)、ハロゲン基、カルボキシル基、エステル基、オキシカルボニル(エステル)基、カルボアミド基、アミノカルボニル基、イミノジカルボニル環基、イミダゾロン環基、ニトロ基、アルキル(C1〜C20)スルホニル基、フェニルメチルスルホニル基、アルキル(C1〜C20)アミノスルホニル基、ベンゾイルアミノ基、フェニルアミノ基およびフェニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも1個である請求項1に記載の暗色系アゾ顔料。
【請求項3】
平均粒子径が、20nm〜1,000nmである請求項1に記載の暗色系アゾ顔料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の暗色系アゾ顔料を含む顔料成分を、液体分散媒体中あるいは固体分散媒体中に含むことを特徴とする着色組成物。
【請求項5】
前記顔料成分が、請求項1〜3の何れか1項に記載の暗色系アゾ顔料単独、あるいは該暗色系アゾ顔料と他の有彩色顔料、白色顔料、他の黒色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物である請求項4に記載の着色組成物。
【請求項6】
前記液体分散媒体が、反応性基を有してもよい液体重合体、反応性基を有してもよい液体オリゴマーおよび反応性基を有してもよい液体単量体から選ばれる少なくとも1種を皮膜形成材料として含む請求項4に記載の着色組成物。
【請求項7】
前記固体分散媒体が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ワックス、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属石鹸から選ばれる少なくとも1種を含む請求項4に記載の着色組成物。
【請求項8】
塗料用、プラスチック用、繊維用、印刷インキ用、画像記録用、画像表示用または顔料捺染剤用である請求項4に記載の着色組成物。
【請求項9】
請求項4〜8の何れか1項に記載の着色組成物を用いて物品を着色することを特徴とする物品の着色方法。
【請求項10】
前記物品が、赤外線高透過性樹脂からなり、該物品の表面または内部を着色する請求項9に記載の物品の着色方法。
【請求項11】
赤外線反射性物品それ自体、または物品表面に形成された赤外線反射性層上に着色をする請求項9に記載の物品の着色方法。
【請求項12】
請求項9〜11の何れか1項に記載の方法で得られたことを特徴とする着色物品。

【公開番号】特開2010−116549(P2010−116549A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236156(P2009−236156)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】