説明

アディポネクチンの分泌促進又は誘導作用を有するアシルアミド化合物

【課題】 アディポネクチンの組織中発現の誘導作用、血中への分泌促進作用を有する新規化合物、及び低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬又は抗炎症薬などを提供すること
【解決手段】 式(1)で表されるアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩、及びこれらを含有する低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬又は抗炎症薬。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアディポネクチン誘導剤又は分泌促進剤、アディポネクチンの分泌促進作用或いは誘導作用を利用した各種疾患の予防・治療剤に関する。さらに詳しくはアディポネクチンの分泌促進作用或いは誘導作用を有するアシルアミド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
成人病或いは生活習慣病と広く称される疾患群のうち、糖・脂質代謝異常とそれらに関連した耐糖能異常・糖尿病・高脂血症と高血圧、さらに腹部肥満症は疾患のクラスターを形成し、メタボリックシンドロームと呼ばれる症候群として認識されている。メタボリックシンドローム患者は多くの症状でクオリティオブライフが低下するだけでなく、健常者に比べ動脈硬化など致命的な血管障害発症・致死リスクが高い。耐糖能異常、糖尿病、高脂血症、高血圧などの疾患或いは症状はメタボリックシンドロームを全体とすると、その氷山の一角であり、個々の治療も重要であるが、メタボリックシンドロームの発症メカニズムに深く関係する異常の予防・治療により症候群全体を予防・治療することが致死リスクを最も軽減する有効な方法であると考えられる。それにも関わらず、これまでにそのような治療薬・治療方法は見出されていない。
近年の多施設における研究の成果から、メタボリックシンドロームの最も重要な原因として、脂肪組織で発現・産生され血中に分泌されるアディポネクチンに関する異常が注目されている。アディポネクチンは脂肪細胞で特異的に発現し、補体に類似した構造を有する分泌タンパク質として発見された(1, 2)。メタボリックシンドローム患者は低アディポネクチン血症であり、例えば低アディポネクチン血症は2型糖尿病の他因子とは独立したリスクファクターであるとされている(3)。メタボリックシンドロームや糖尿病性網膜症、妊娠糖尿病、多嚢胞性卵巣症などの糖代謝異常と関連する疾患以外にも、虚血性心疾患、心筋梗塞、狭心症、血管狭窄症、肥大性心筋症等を含む心血管疾患、冠動脈性心疾患、冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈障害などの血管性の疾患、肝線維症、肝硬変、肝炎、非アルコール性・非ウイルス性脂肪肝炎及び脂肪肝(NASH及びNAFLD)、アルコール性脂肪肝及びアルコール性肝障害などの肝疾患、子宮内膜腫、子宮平滑筋腫、肺がんなどのがん・悪性新生物、クッシングシンドローム、HIV関連リポジストロフィー症候群、甲状腺機能障害、脂肪組織萎縮症などの内分泌・代謝性疾患、さらには神経性食欲不振、神経性大食症、腎症などでも低アディポネクチン血症や組織中アディポネクチンmRNA発現レベルの低下が報告され、基礎実験レベルも含めてアディポネクチン不足による発症の確認とアディポネクチンを補充することによる治療の可能性が報告されている。
【0003】
特に基礎実験レベルでは組み替えアディポネクチンの投与によってモデル動物における、血中脂質低下作用、血糖降下作用、体重増加予防作用などが確認され、メタボリックシンドロームの治療薬としての可能性が報告されている(4, 5)だけでなく、モノサイトの泡沫化や接着の抑制効果・平滑筋細胞の増殖抑制効果・血管内膜肥厚の抑制など血管への直接的な作用による抗動脈硬化作用が報告されている(6)。さらに化学物質によって惹起された疾患モデルにおける肝線維症の抑制、肝線維化に大きな役割を果たす星細胞の活性化抑制、エンドトキシンにより惹起された肝炎の抑制、などの肝疾患治療剤としての可能性も報告されている(7, 8)。またアディポネクチンには抗炎症作用も報告され、さらにアディポネクチンは運動時に活性化され、運動の効能をもたらす分子メカニズムに重要とされる5'AMP-activated kinase活性を組織中に誘導することから、運動効果を模倣する薬剤としても注目されている。このように、アディポネクチンは多くの致命的疾患の予防・治療薬として注目されているが、アディポネクチンそのものの患者への投与法としては、インスリンなどの生理活性物質と同様に注射が予想され、苦痛や手間がかかる治療法と考えられるため、脂肪細胞に直接働きかけてアディポネクチンの発現を誘導し、血中への分泌量を増やすことができるような治療剤が望まれているのが現状である。
【0004】
【非特許文献1】A novel serum protein similar to C1q, produced exclusively in adipocytes. J Biol Chem 1995 Nov 10;270(45):26746-9
【非特許文献2】AdipoQ is a novel adipose-specific gene dysregulated in obesity. J Biol Chem 1996 May 3;271(18):10697-703
【非特許文献3】Decreased serum levels of adiponectin are a risk factor for the progression to type 2 diabetes in the Japanese Population: the Funagata study. Diabetes Care 2003 Jul;26(7):2015-20.
【非特許文献4】The fat-derived hormone adiponectin reverses insulin resistance associated with both lipoatrophy and obesity. Nat Med. 2001 Aug;7(8):941-6.
【非特許文献5】The adipocyte-secreted protein Acrp30 enhances hepatic insulin action. Nat Med. 2001 Aug;7(8):947-53.
【非特許文献6】Adiponectin reduces atherosclerosis in apolipoprotein E-deficient mice. Circulation. 2002 Nov 26;106(22):2767-70.
【非特許文献7】Enhanced carbon tetrachloride-induced liver fibrosis in mice lacking adiponectin. Gastroenterology. 2003 Dec;125(6):1796-807.
【非特許文献8】Adiponectin protects LPS-induced liver injury through modulation of TNF-alpha in KK-Ay obese mice. Hepatology. 2004 Jul;40(1):177-84.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アディポネクチンの組織中発現の誘導作用、血中への分泌促進作用を有する新規化合物を提供することを目的とする。
本発明は、アディポネクチンの組織中発現の誘導作用、血中への分泌促進作用を有するアディポネクチン誘導剤又はアディポネクチン分泌促進剤を提供することを目的とする。
本発明は、又、メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)治療薬を提供することを目的とする。
本発明は、又、低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬又は抗炎症薬を提供することを目的とする。
本発明は、又、肝炎治療薬、脂肪肝治療薬、肝線維症治療薬又は肥満症治療薬を提供することを目的とする。
本発明は、又、アディポネクチン誘導剤又はアディポネクチン分泌促進剤を含有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、脂肪の性質を良く保持している細胞でアディポネクチンの分泌を増大させ、培養液中のアディポネクチン濃度を増やす物質を探索したところ、特定のアシルアミド化合物がアディポネクチンの分泌を増大させる或いは分泌に必要であることを見出した。特に、低アディポネクチン血症或いはアディポネクチンmRNAの発現が低い患者において、上記化合物が非常に有用であるとの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、式(1)で表されるアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を提供する。
【化1】

(式中、
R1は、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基、
R2は、炭素数1から6のアルキル基、炭素数7〜11のフェニルアルキル基又は炭素数2〜6のアルキルチオアルキル基、
R3は、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基、
R4は、水素原子又は炭素数1から16のアルキル基、
R5は、二重結合を1〜3個含んでもよい炭素数5から21の直鎖炭化水素基、
Xは、OまたはNH、
を表す。)
【0007】
本発明は、又、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とするアディポネクチン誘導剤又はアディポネクチン分泌促進剤又はメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)治療薬を提供する。
本発明は、又、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬、抗炎症薬、肝炎治療薬、脂肪肝治療薬、肝線維症治療薬又は肥満症治療薬を提供する。
本発明は、又、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする低アディポネクチン血症予防・治療効果、高脂血症予防・治療効果、高血圧予防・治療効果、血管障害予防・治療効果、脂肪肝予防・治療効果、肝線維症予防・治療効果又は肥満症予防・治療効果を有する旨を表示することを特徴とする飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
アディポネクチンの分泌促進又は誘導作用を有する式(1)で表されるアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩によって、多くの致命的疾患の予防・治療薬として注目されるアディポネクチンを患者体内で増やすという、従来の治療剤にはない効果が期待され、本発明は低アディポネクチン血症或いは脂肪組織での低アディポネクチン発現を原因・指標として判断される疾患の予防または治療に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
式(1)で表されるアシルアミド化合物に関し、式(1)中、アルキル基としては、直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基が含まれる。また、ハロゲン原子、水酸基などの置換基を有してもよいが、これらの置換基を有しないものが好ましい。
又、フェニルアルキル基及びアルキルチオアルキル基中のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖アルキルであるのが好ましい。又、フェニル基は、ハロゲン原子、水酸基などの置換基を有してもよいが、これらの置換基を有しないものが好ましい。
直鎖炭化水素基としては、直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基、直鎖アルキニル基があげられる。直鎖アルケニル基としては、不飽和結合を分子内に1つ又は2つ有するものが好ましい。これらの直鎖炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基などの置換基を有してもよいが、これらの置換基を有しないものが好ましい。
【0010】
式(1)中、R1は、水素原子又は炭素数1から4のアルキル基であるのが好ましく、アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖であるのが好ましく、特に直鎖アルキル基であるのが好ましい。
R2は、炭素数1から4のアルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基であるのが好ましい。ここで、アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖であるのが好ましい。
R3は、水素原子又は炭素数1から4のアルキル基であるのが好ましい。ここで、アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖であるのが好ましい。
ここで、式(1)中、R1〜R3が結合している構造部分は、Ile、Leu、Val、Phe、Ala及びMetから選ばれるアミノ酸から誘導されるのが好ましく、特にDL体及びL-体のアミノ酸から誘導されるのが好ましい。このうちでもL-体のアミノ酸から誘導されるのが好ましい。
R4は、水素原子又は炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数3から8の環状アルキル基又は炭素数10から16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であるのが好ましい。
R5は、炭素数5から21の直鎖アルキル基又は、二重結合を1又は2個含むアルケニル基であるのが好ましい。
【0011】
本発明では、さらに、
[2] 式(1)中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R4が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基、Xが酸素原子Oを表すのが好ましい。
[3] 上記[2]において、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が水素原子、R4が水素原子、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基であるのが好ましい。
請求項2記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
[4] 上記[2]において、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が炭素数1から4のアルキル基、R4が水素原子、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基を表すのが好ましい。
[5] 式(1)中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、R3が水素原子、R4が水素原子又は炭素数1から16の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基、XがNHを表すのが好ましい。
【0012】
本発明のアシルアミド化合物が塩の形態を成し得る場合、その塩は薬学上許容されるものであれば良く、医薬的に許容しうるものが好ましい。例えば、アシルアミド化合物に酸性基が存在する場合の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピペリジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩などを挙げることができる。アシルアミド化合物に塩基性基が存在する場合の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、グルタミン酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩などを挙げることができる。塩を形成する方法としては、化合物と必要な酸または塩基とを適当な量比で溶媒、分散剤中で混合することや、他の塩の形より陽イオン交換または陰イオン交換を行うことなどがある。
本発明の化合物にはその溶媒和物、例えば水和物、アルコール付加物等も含まれる。さらに本発明の化合物にはそのプロドラッグも含まれる。
【0013】
式1で示される化合物のうちX=OであるN-アシルアミノ酸については、たとえば特開昭29-006713やJ. Am. Chem. Soc., 78巻, 172頁 (1956年) に示されるように、対応するアミノ酸と酸クロリドとの反応で製造することができる。
【化2】

また、式1で示される化合物のうちX=NHRであるN-アシルアミノ酸アミド類については、たとえばJ. Chromatography, 123巻, 149頁 (1976年)やJ. Chromatography, 112巻, 121頁 (1975年)に示されるように、対応するカルボン酸の活性エステルとアミノ酸アミド類との反応、またはN-アシルアミノ酸の活性エステルとアミン類との反応で製造できる。
【0014】
【化3】

なお、式1で示される化合物のいずれの製造についても、これらに例示した製造法に限定されるものではない。
【0015】
本発明は、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とするアディポネクチン誘導剤又はアディポネクチン分泌促進剤又はメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)治療薬を提供する。
本発明は、又、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬、抗炎症薬、肝炎治療薬、脂肪肝治療薬、肝線維症治療薬又は肥満症治療薬を提供する。
本発明は、又、上記アシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする低アディポネクチン血症予防・治療効果、高脂血症予防・治療効果、高血圧予防・治療効果、血管障害予防・治療効果、脂肪肝予防・治療効果、肝線維症予防・治療効果又は肥満症予防・治療効果を有する旨を表示することを特徴とする飲食品を提供する。
【0016】
本発明においては、本発明のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩と、上記疾患における治療薬との併用が可能であり、本発明の治療剤と他の治療薬とを同時に製剤化して得られる単一の製剤であっても、本発明の治療剤と他の治療薬とを別々に製剤化して得られる少なくとも二種の製剤を組み合わせたものであってもよい。本発明の化合物と併用される治療薬としては、例えば抗糖尿病薬であれば、インスリン製剤(NPH、レンテ、ウルトラレンテなど)、インスリン誘導体(リスプロなど)、インスリン分泌促進剤(トルブタミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリピザイド、グリメピリド、グリクラジドなどのスルホニルウレア剤、或いは、例えば、レパグリニド、ナテグリニド、メグリチニド、ミチグリニドなどのグリナイド類)、インスリン抵抗性改善剤(ピオグリタゾン、ロジグリタゾン、シグリタゾン、トログリタゾンなどのPeroxisome proliferator activator receptor (PPAR)-γアゴニストなど)、ビグアナイド剤(メトホルミン、フェンホルミン、ブホルミンなど)α-グルコシダーゼ阻害剤(ボグリボース、アカルボース、ミグリトールなど)などが挙げられる。
【0017】
さらに例示した抗糖尿病薬以外にも高脂血症治療薬(例えばプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチンなどのヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤、例えばクロフィブラート、ベザフィブラート、シンフィブラートなどのフィブラート系薬剤、オルリスタットなどのリパーゼ阻害剤などの脂質吸収阻害剤、胆汁酸排泄促進薬など)、高血圧治療薬(例えばアンジオテンシン転換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗剤、β受容体拮抗剤、α1拮抗剤、カルシウム拮抗剤など)など本発明で対象とする疾患に用いられる他剤と本発明のアシルアミド化合物の併用は本発明に含まれる。併用時の割合については、多くの因子、例えば所望の投与量および使用される医薬的に許容される担体に依存しており、広範囲に変わり得る。
本発明では1製剤あたり、好ましくはアシルアミド化合物を0.001〜10000 mg程度、より好ましくは0.1〜1000 mg程度を含有することができる。投与量は投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常0.1〜1000mg/kg/日であるのが好ましい。
【0018】
本発明の予防・治療剤の投与形態は特に制限されず、静脈内、動脈内、皮下および筋肉内投与、輸液による投与により、安全かつ必要な量を、一気にまたは点滴等により投与できる。また、本発明の糖尿病予防・治療剤の投与形態は非経口および経口投与のいずれも可能であるが、患者への苦痛等を考慮すると経口投与が望ましい。
本発明の予防・治療剤は、種々の剤型、例えば経口剤であれば、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、液剤、細粒剤、その他、注射剤、クリーム剤、座剤等の投与製剤とすることができる。これらの製剤化は、それ自体公知の方法によって行い得る。本発明の有効成分、製剤のいずれにおいても医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性向上剤、その他製剤として必要な物質を含有してよく、これらを適宜組み合わせて処方することにより製剤を製造することができる。製剤用担体としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム等があり、製剤の形に応じて、本発明の化合物と混合して使用される。
【0019】
本発明は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト等)に対して、低アディポネクチン血症やアディポネクチンの発現低下に起因する諸症状の予防・治療剤としても有用である。また、本発明には、使用すべきであることを記載した、本発明のアシルアミド化合物に関する記載物を含む、商業パッケージが含まれる。
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
(合成例1)
N-ラウロイル-L-バリン(表1、化合物20)の合成
L-バリン294g (2.51mol)を、イオン交換水786g、27%水酸化ナトリウム水溶液358g (2.42mol)、アセトン363gに溶解した。溶液を撹拌しながら、pH=12±0.2、19~20℃に保つよう、ラウロイルクロライド533g (2.43mol) と27%水酸化ナトリウム水溶液358g (2.47mol)を同時に滴下した。滴下完了後、20℃で60分撹拌した後、40℃に昇温して、75%硫酸171gを加えpH=1.5に調整した。60℃で分離した油状物と水相を分層して、60℃の温水1950gを油状物に加えた。混合物を20℃まで冷却して析出した固体を濾取、水洗した後、50℃で真空乾燥して、N-ラウロイル-L-バリンを710g得た (2.37mol、収率98%)。
1H-NMR (CDCl3, 300MHz) δ(ppm) 0.88 (3H, t, J=6.8Hz), 0.96 (3H, d, J=6.6Hz), 0.99 (3H, d, J=6.6Hz), 1.20-1.40 (16H, br), 1.58-1.74 (2H, br-m), 2.18-2.34 (3H, m), 4.58 (1H, dd, J=4.8Hz, 8.4Hz), 6.00 (1H, d, J=8.4Hz), 7.4-8.6 (1H, br)
ESI-MS [M+H]+ 300
【0021】
(合成例2)
N-ラウロイル-L-バリン シクロヘキシルアミド(表1、化合物23)の合成
N-ラウロイル-L-バリン61mg (0.20mmol)、N-ヒドロキシスクシンイミド1水和物39mg (0.26mmol)を乾燥クロロホルム3.0mlに溶解して、アルゴン雰囲気、氷浴下、1-エチル-3-(3-ジメチルプロピル)カルボジイミド塩酸塩50mg (0.26mmol)を加えて0℃で3時間撹拌した。トリエチルアミン35μl、シクロヘキシルアミン35μlを加えて室温で一晩撹拌した。酢酸エチル20mlを加えて、0.2N塩酸25ml、水20ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mlで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して減圧濃縮した。残渣を薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、クロロホルム:メタノール 20:1)で精製して、N-ラウロイル-L-バリン シクロヘキシルアミドを34mg得た (0.089mmol、収率44%)。
1H-NMR (CDCl3, 300MHz) δ(ppm) 0.88 (3H, t, J=6.8Hz), 0.94-0.97 (6H, d*2), 1.08-1.44 (20H, m), 1.55-1.76 (6H, m), 1.80-1.96 (2H, m), 1.96-2.10 (1H, m), 2.21 (2H, t, J=7.8Hz), 3.65-3.85 (1H, m), 4.15 (1H, dd, J=7.2Hz, 9.0Hz), 5.95 (1H, d, J=6.9Hz), 6.22 (1H, d, J=8.7Hz)
ESI-MS [M+H]+ 381
【0022】
(実施例1〜31)
3T3-L1細胞を96ウェルプレートに3x104 cells/200μlになるように10%牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(GIBCO、12430-054)に懸濁して播種し、37℃のCO2インキュベータで72時間培養した後、培地を吸引除去し、10ug/mlのインスリン、1uMのデキサメタゾン、0.5mMのIBMX(3-isobutyl-1-methlxanthin)、10%牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地に交換し、さらに37℃のCO2インキュベータで48時間培養した。その後、さらに被検化合物を添加した培地で72時間培養を継続した。
抗マウスアディポネクチン抗体(R&D Systems社、AF1119)のEu(ユーロピウム)キレート標識は、200ugの抗体に対して100ugのEuキレート標識試薬であるLANCE Eu-W1024-ITC chelate(Perkin Elmer社、AD0013)を用い、メーカーのマニュアルに準じた方法を用いて行った。また抗マウスアディポネクチン抗体(R&D Systems社、AF1119)のビオチン標識は、100ugの抗体に対して26.8ugのビオチン標識試薬であるNHS-Biotin(Boehringer Mannheim社、1418165、Biotin Labeling Kit)を用い、マニュアルに準じた方法を用いて行った。
細胞培養上清中のアディポネクチン量の測定は下記の通り行った。384ウェルプレート(Greiner、784075)上で300ng/mlの上記Euキレート標識抗体、300ng/mlの上記ビオチン標識抗体、2.5μg/mlのStreptavidin-APC(Perkin Elmer社、AD0201)、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むTBS(Tris-buffered saline; 20mM Tris-HCl pH7.4、0.15M NaCl)溶液10μlに、0.1%BSAを含むTBSで5倍に希釈した培養上清を10μl加え、室温で2日間静置した後、ARVO-SXマルチラベルカウンター(Perkin Elmer社)を用いてLANCE法のプロトコールにしたがってLANCE countを測定した。同時にマウスアディポネクチン標品(LINCO社、8060-K)についても定量を行い、標品の検量線より培養上清中のアディポネクチン濃度を算出した。








































【0023】
【表1】

【0024】
表中、例えば、R2及びR3がValの場合、R2が−CH(CH32の基であり、R3が水素原子である。表中のアディポネクチン分泌量は実施例8、12、13、16、17、18、19、21、22、23、24は7μg/ml、その他の実施例は12.5μMの濃度で各被検化合物を添加した場合の培養上清中のアディポネクチン濃度で示した。
本発明の化合物を用いないコントロールにおけるアディポネクチン分泌量が24ng/mlであるので、本発明の化合物によればアディポネクチンの分泌を誘導及び/又は促進できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
【化1】

(式中、
R1は、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基、
R2は、炭素数1から6のアルキル基、炭素数7〜11のフェニルアルキル基又は炭素数2〜6のアルキルチオアルキル基、
R3は、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基、
R4は、水素原子又は炭素数1から16のアルキル基、
R5は、二重結合を1〜3個含んでもよい炭素数5から21の直鎖炭化水素基、
Xは、OまたはNH、
を表す。)
【請求項2】
式中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R4が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基、Xが酸素原子Oを表す請求項1記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
【請求項3】
式中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が水素原子、R4が水素原子、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基である請求項2記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
【請求項4】
式中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜8のフェニルアルキル基又は炭素数2〜4のアルキルチオアルキル基、R3が炭素数1から4のアルキル基、R4が水素原子、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基を表す請求項2記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
【請求項5】
式中、R1が水素原子又は炭素数1から4のアルキル基、R2が炭素数1から4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、R3が水素原子、R4が水素原子又は炭素数1から16の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、R5が二重結合を1個含んでもよい炭素数5から21の直鎖アルキル基、XがNHを表す請求項1記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とするアディポネクチン誘導剤又はアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とするメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)治療薬。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする低アディポネクチン血症治療薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、血管障害治療薬又は抗炎症薬。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有することを特徴とする肝炎治療薬、脂肪肝治療薬、肝線維症治療薬又は肥満症治療薬。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有し、低アディポネクチン血症予防・治療効果、高脂血症予防・治療効果、高血圧予防・治療効果又は血管障害予防・治療効果を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項記載のアシルアミド化合物、そのプロドラッグまたはそれらの薬学上許容される塩を含有し、脂肪肝予防・治療効果、肝線維症予防・治療効果又は肥満症予防・治療効果を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2008−105945(P2008−105945A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30828(P2005−30828)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】