説明

アモルファスシリコンの結晶化方法

【課題】 基板とシリコン層との間に電極形成用金属膜が設けられてなるボトムゲート型のシリコン複合体を、短時間で、クラックや反りの発生を小さく抑制しながら、アモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層を結晶シリコンよりなるものに変質させることができるアモルファスシリコンの結晶化方法の提供。
【解決手段】 アモルファスシリコンの結晶化方法は、基板上にアモルファスシリコンによるシリコン層が形成され、当該基板とシリコン層との間に電極形成用金属膜が形成されてなるシリコン複合体を雰囲気加熱してシリコン層を結晶化度が30〜75%である結晶シリコンからなるものに変質させる予備加熱工程と、予備加熱工程を経たシリコン複合体のシリコン層に対してフラッシュランプからの光を照射して当該シリコン層を結晶化度が80%以上である結晶シリコンからなるものに変質させる光照射加熱工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン層を形成するアモルファスシリコンを結晶化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの用途において、アモルファスシリコン薄膜に電子易動度を高くするためにフラッシュランプ光を照射することによりアモルファスシリコンを結晶化させて結晶シリコン薄膜を形成する技術が知られている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1においては、図8に示されるように、ガラス基板51上にSiO2 薄膜57を介してアモルファスシリコンよりなるシリコン層55が形成され、さらにこのシリコン層55上に電極形成用金属膜52が形成されてなるトップゲート型のシリコン複合体をワークとして、当該ワークを載置してこれを加熱するヒータを備えたステージと、このワークに対して光を照射する複数本のフラッシュランプよりなる光源とを備える光照射装置を用いて、当該ワークをヒータによって加熱された状態でフラッシュランプによる光を照射することにより、アモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層55を結晶シリコンよりなるものに変質させることが行われている。
このようなフラッシュランプを用いたアモルファスシリコンの結晶化によっては、全体的に短時間で高い結晶化度の結晶シリコンのシリコン層が得られる。
【0004】
最近、図1に示すような、ガラスなどからなる基板11上に電極形成用金属膜12が設けられ、当該電極形成用金属膜12が基板11とシリコン層15とに挟まれて存在する、ボトムゲート型のシリコン複合体についてこれをワークとして、同様にアモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層15を結晶シリコンよりなるものに変質させることが行われている。
【0005】
然るに、このボトムゲート型のシリコン複合体をワークとして、上述の光照射装置を用いてアモルファスシリコンを結晶化させた場合に、当該ワークにクラックや反りが生じる、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−031643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このワークに反りやクラックが発生する問題の原因について、本発明者が鋭意検討したところ、電極形成用金属膜12の直上領域においてクラックや反りが生じていることから、次のように推測している。
すなわち、図9に示されるように、ボトムゲート型のシリコン複合体からなるワークに対してフラッシュランプからの光(図9において実線矢印で示す。)が照射されるとき、シリコン層15は、当該光の一部を吸収することにより加熱されるところ、前記光のうちの吸収されなかった光(図9において点線矢印で示す。)は、シリコン層15を通過して、電極形成用金属膜12の直上以外の領域においてはバリア層17および基板11を透過するが、電極形成用金属膜12の直上領域に照射された光は、当該電極形成用金属膜12の表面で反射され、再度シリコン層15に向かい、当該シリコン層15に吸収される。これにより、シリコン層15は、電極形成用金属膜12の直上領域において吸収される光の量が、それ以外の領域において吸収される光の量よりも多いことに起因して、電極形成用金属膜12の直上領域に形成される結晶層の厚みが、それ以外の領域に形成された結晶層の厚みよりも大きくなってしまい、このような結晶層の厚みの差が、熱膨張量の差となってワークのクラックや反りの原因になったものと推測される。
または、ボトムゲート型のシリコン複合体からなるワークに対してフラッシュランプからの光が照射されるとき、当該光のうちシリコン層15に吸収されなかった光が電極形成用金属膜12に照射されることによって生じる当該電極形成用金属膜12の熱膨張に起因して、ワークにクラックや反りが発生するものとも推測される。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、基板とシリコン層との間に電極形成用金属膜が設けられてなるボトムゲート型のシリコン複合体を、短時間で、クラックや反りの発生を小さく抑制しながら、アモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層を結晶シリコンよりなるものに変質させることができるアモルファスシリコンの結晶化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法は、基板上にアモルファスシリコンによるシリコン層が形成され、当該基板とシリコン層との間に電極形成用金属膜が形成されてなるシリコン複合体を雰囲気加熱して前記シリコン層を結晶化度が30〜75%である結晶シリコンからなるものに変質させる予備加熱工程と、
前記予備加熱工程を経たシリコン複合体のシリコン層に対してフラッシュランプからの光を照射して当該シリコン層を結晶化度が80%以上である結晶シリコンからなるものに変質させる光照射加熱工程とを有することを特徴とする。
本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法においては、前記予備加熱工程の加熱温度が、500〜700℃であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法においては、前記光照射加熱工程において、フラッシュランプからの光を、シリコン複合体のシリコン層側からのみ照射する構成とすることができ、また、フラッシュランプからの光を、シリコン複合体のシリコン層側および基板側の両方から照射する構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法によれば、予備加熱工程を経てシリコン層が結晶化度が特定の範囲にある結晶シリコンからなるものに変質されることによって当該シリコン層の光吸収特性が変化してシリコン層のフラッシュランプからの光の吸収率が高くなる、すなわち、当該フラッシュランプからの光の透過率が低くなって電極形成用金属膜に対する光の照射が抑制された状態で、光照射加熱工程が行われることとなる結果、短時間で、クラックや反りの発生を小さく抑制しながら、アモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層を所望の結晶化度の結晶シリコンよりなるものに変質させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るシリコン複合体の構成の一例を示す説明用断面図である。
【図2】本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法に用いられるシリコン結晶化装置の一例を示す説明用断面図である。
【図3】本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法における光照射加熱工程に用いられるフラッシュランプの構成の一例を示す説明用断面図である。
【図4】本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法において、時間に対するシリコン層の温度変化を示したグラフである。
【図6】本発明に係る実験例において、加熱温度と加熱時間に対するシリコン層の透過率を示したグラフである。
【図7】本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法に用いられるシリコン結晶化装置の別の一例を示す説明用断面図である。
【図8】トップゲート型のシリコン複合体の構成の一例を示す説明用断面図である。
【図9】ボトムゲート型のシリコン複合体に光が照射された場合を示す説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法は、図1に示されるように、基板11上にアモルファスシリコンによるシリコン層15が形成され、当該基板11とシリコン層15との間に電極形成用金属膜12が形成されてなるシリコン複合体Wを雰囲気加熱してシリコン層15を結晶化度が30〜75%である結晶シリコンからなるものに変質させる予備加熱工程と、この予備加熱工程を経たシリコン層15に対してフラッシュランプ30(図3参照。)からの光を照射して当該シリコン層15を結晶化度が80%以上である結晶シリコンからなるものに変質させる光照射加熱工程とを有することを特徴とする方法である。
【0015】
本発明において、結晶化度は、シリコン層15について測定されるラマンスペクトルにおける結晶シリコンに係るピーク面積cry(515〜525cm-1)、μ結晶シリコンに係るピーク面積μcry(500cm-1)、アモルファスシリコンに係るピーク面積amo(480cm-1)から、下記式(1)によって算出されるものである。
式(1):結晶化度(%)={(cry+μcry)/(cry+μcry+amo)}×100
【0016】
このシリコン複合体Wは、具体的には、基板11上の電極形成用領域に電極形成用金属膜12が設けられ、この基板11および電極形成用金属膜12の積層体上にバリア層17が設けられ、さらにこのバリア層17上にアモルファスシリコンによるシリコン層15が設けられてなるものである。
【0017】
基板11は、例えば無アルカリガラスなどからなるものであって、その厚みは、例えば500〜1000μmとされる。
【0018】
電極形成用金属膜12は、例えばモリブデン、タングステン、チタン、タンタルなどの高融点金属もしくは合金からなり、蒸着法によって形成することができる。
この電極形成用金属膜12は、その線幅が例えば0.1〜100μmのものとされる。
【0019】
バリア層17は、例えばSiO2 やSiNx よりなるものであり、例えばCVD法によって形成することができる。
このバリア層17の厚みは、例えば50〜500nmとされる。
【0020】
アモルファスシリコンによるシリコン層15は、例えばプラズマCVD法によって形成することができる。
このシリコン層15の厚みは、例えば10〜100nmとされる。
【0021】
このようなシリコン複合体Wをワークとして予備加熱工程および光照射加熱工程を行うシリコン結晶化装置としては、図2に示されるように、例えば、予備加熱工程と光照射加熱工程とを連続的に行う、予備加熱筐体28A中のワークが位置される処理位置26Aの上部空間および下部空間にそれぞれヒータ23が設けられ、予備加熱工程が行われる予備加熱部20Aと、光照射チャンバ28B中のワークが位置される処理位置26Bの上部空間に複数のフラッシュランプ30が配設され、光照射加熱工程が行われる光照射加熱部20Bとが隣接して備えられたものを用いることができる。
【0022】
〔予備加熱部〕
シリコン結晶化装置における予備加熱部20Aのヒータ23は、処理位置26Aにワークが載置された状態において接触状態または非接触状態のいずれの状態とされて設けられてもよい。
シリコン結晶化装置における予備加熱部20Aのヒータ23としては、加熱温度を下記に詳述するような適宜の温度にすることができるものであれば特に限定されず、ハロゲンヒータ、ハロゲンランプ、ホットプレート、炉などを用いることができる。
【0023】
この予備加熱工程における加熱温度は、シリコン複合体Wのシリコン層15に係る結晶化度を30〜75%にすることができる温度であって、例えば500〜700℃とされることが好ましく、より好ましくは500〜650℃である。
本発明においては、予備加熱工程における加熱温度とは、雰囲気加熱中のシリコン複合体Wのシリコン層15の表面温度の最高温度をいう。
このシリコン複合体Wのシリコン層15の表面温度は、接触温度計、放射温度計を用いて測定することができる。
予備加熱部20Aにおける加熱温度が500〜700℃であることにより、アモルファス複合体Wのシリコン層15を確実に結晶化度が30〜75%である結晶シリコンからなるものに変質させることができる。
予備加熱部20Aにおける加熱温度が500℃未満である場合は、アモルファス複合体Wのシリコン層15を結晶化度が30%以上の結晶シリコンからなるものに変質させることができないおそれがあり、また、加熱温度が700℃を超える場合であって、基板11が無アルカリガラスからなるものである場合は、当該基板11が軟化するおそれがある。
【0024】
また、予備加熱部20Aにおける加熱温度が700℃を超える場合は、基板11が熱によって反りかえるおそれがあることから、加熱温度が650℃以下とされることが好ましい。
【0025】
また、この予備加熱工程における加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、シリコン複合体Wのシリコン層15に係る結晶化度を30〜75%にすることができるだけの時間であって、例えば5分間以上とされることが好ましく、より好ましくは5〜20分間である。
【0026】
予備加熱筐体28A内は、例えば大気雰囲気、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気などとすることができる。
【0027】
〔光照射加熱部〕
シリコン結晶化装置における光照射加熱部20Bは、光照射チャンバ28B内のワークが位置される処理位置26Bの上部空間に複数本例えば4本の棒状のフラッシュランプ30が、処理位置26Bを含む面に平行な方向であって互いに同一の方向に伸びた状態で並んで配置されて収容されている。
この光照射チャンバ28Bの処理位置26Bを含む面と対向する天井面はフラッシュランプ30からの放射光を反射させて光照射筐体28Bの処理位置26Bを含む面に向かって放射する反射ミラー(図示せず)が設けられている。
【0028】
この光照射チャンバ28B内は、大気雰囲気、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気などとすることができる。
この光照射チャンバ28B内の雰囲気温度は、熱アシスト効果を得る観点から、200〜650℃とされることが好ましい。
【0029】
光照射加熱部20Bのフラッシュランプ30としては、公知の種々のものを用いることができる。
具体的な一例を挙げると、図3に示されるように、円筒状であって両端が封止され、内部に放電空間が区画された直管型の例えば石英ガラスなどの透光性を有する材料よりなる発光管31を備えてなり、この発光管31の両端から管軸方向内方に突出して伸びる例えばタングステンよりなる電極棒34A、35Aの各々の先端に形成された陽極34および陰極35が、当該発光管31内において互いに対向する状態とされ、電極棒34A、35Aの各々の外端から例えばタングステンやモリブデンなどよりなる外部リード32、33が伸びると共に、当該発光管31の内部にはXeガスなどの希ガスが封入され、さらに、当該発光管31の外面に管軸方向に伸びるよう配設されたトリガー電極36がトリガー固定用バンド37によって支持された状態で設けられてなるものである。
このフラッシュランプ30の寸法の一例を示すと、例えば、発光管31の管径がφ13mm、電極間距離(発光長)が250mmである。
【0030】
このフラッシュランプ30においては、高電圧パルスがトリガー電極36に印加されて放電空間内において絶縁破壊が生じることにより、極めて短時間の閃光が放射されるフラッシュ点灯状態が得られる。
【0031】
このようなフラッシュランプ30の点灯条件は、シリコン複合体Wの結晶化度が30〜75%の結晶シリコンよりなるシリコン層15における当該結晶シリコンを、結晶化度が80%以上にすることができる温度にすることができれば特に限定されず、例えば、パルス幅が0.01〜0.1msec、照射エネルギーが2〜10J、電流密度が10kA/cm2 とすることができる。
【0032】
以上説明したようなアモルファスシリコンの結晶化方法は、具体的には、図4に示されるように、以下のように行われる。
すなわち、まず、ワークを作製し、これを、予め始動されていたヒータ23によって所定の温度の高温雰囲気とされた予備加熱筐体28A内の処理位置26A上に載置することにより、雰囲気加熱が開始される(ステップs1)。
さらに、図5のa部に示されるように、ワークの温度(シリコン層15の表面温度)が雰囲気加熱によって所望の温度まで上昇され、さらに、図5のb部に示されるように、上昇された所望の温度のままシリコン層15が結晶化度が30〜75%の結晶シリコンからなるものに変質されるまでの時間にわたって処理位置26A上に載置された状態を維持する(ステップs2)。
この予備加熱工程に必要な時間、すなわち処理位置26A上に載置する時間は、例えば5分間とされる。
次いで、予備加熱工程に必要な時間が経過したら、ワークを光照射加熱部20B内の処理位置26B上に搬送して載置する(ステップs3)。
そして、フラッシュランプを点灯させて光照射加熱を行い、図5のc部に示されるように、短時間で一次的にワークの温度を高温、例えば約1000℃に上昇させてシリコン層15が結晶化度が80%以上の結晶シリコンからなるものに変質させる(ステップs4)。
さらに、光照射加熱後、ワークを光照射加熱部20B外に搬送する(ステップs5)。
最後に、図5のd部に示されるように、除冷などによってワークを冷却させる。
【0033】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0034】
〔実験例1:透過率の変化〕
以下に、加熱によるアモルファスシリコンの光吸収特性の変化を確認するための実験を示す。
まず、サンプルを作製した。すなわち、通常の脱脂洗浄を終えた400nm以下の波長域の光を透過しない無アルカリガラス基板(厚み500μm)を、製膜装置のロードロック室に入れ、真空に排気した後に製膜室へ搬送し、CVD法によりSiO2 薄膜を100nmの厚さに形成し、次いで、当該SiO2 薄膜上に、プラズマCVD法によりアモルファスシリコンによるシリコン層を50nmの厚さに形成することにより、シリコン複合体からなるサンプルを25個作製した。それぞれ(4−a)〜(4−e)、(5−a)〜(5−e)、(6−a)〜(6−e)、(6.5−a)〜(6.5−e)、(7−a)〜(7−e)とする。
各サンプルを、ホットプレート上にガラス基板が接触する状態に載置し、大気雰囲気中において、下記表1に示す加熱温度(サンプルのシリコン層の表面温度)および加熱時間の加熱条件で加熱する加熱実験を行い、加熱実験後の570nmの光についての透過率を測定した。
なお、各サンプルの加熱実験前の570nmの光についての透過率は、30%であった。
結果を図6に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
図6の結果から、500℃以上の加熱により、シリコン層について570nmの光の透過率を低下させることができることが確認された。
なお、700℃で20分間以上加熱を行ったところ、基板に反りが生じたことから、(7〜c)〜(7−e)の実験は中止した。
【0037】
〔実験例2:雰囲気加熱および光照射加熱による結晶化度の変化〕
また、雰囲気加熱および光照射加熱によるシリコン層の結晶化度の変化を確認するための実験を行った。
上記の実験例1と同様にしてシリコン複合体からなるサンプルを51個作製し、雰囲気加熱のみ、または、雰囲気加熱後に光照射加熱をする結晶化実験を行った。雰囲気加熱のみの結晶化実験においては、下記表2に示す加熱温度(サンプルのシリコン層の表面温度)および加熱時間の加熱条件で、大気雰囲気でホットプレート加熱を行った。雰囲気加熱+光照射加熱の結晶化実験においては、下記表3に示す加熱温度(サンプルのシリコン層の表面温度)および加熱時間の加熱条件で、大気雰囲気でホットプレートで加熱を行った後、光照射加熱を行った。光照射加熱は発光長250mmのフラッシュランプ10本を用いて、雰囲気温度が常温(25℃)、照射エネルギーが5J/m2 、パルス幅が100μsecの条件で行った。また、サンプルの1つは、雰囲気加熱を行わずに、上記の条件で光照射加熱だけを行った。
そして、各サンプルの結晶化実験後のシリコン層の結晶化度を、ラマンスペクトルを測定して上述の通りに算出した。結果を表2および表3に示す。なお、700℃で20分間以上加熱を行ったところ、基板に反りが生じたことから、その結晶化度は未測定である。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
雰囲気加熱を行わずに、光照射加熱だけを行ったサンプルについては、その結晶化度は34%であった。この光照射加熱だけを行った結果と表2および表3の結果から、雰囲気加熱および光照射加熱を組み合わせて行うことにより、アモルファスシリコンを高い結晶化度の結晶シリコンに変質させることができることが確認された。
【0041】
〔実験例3:光照射加熱時の雰囲気温度による結晶化度の変化〕
また、光照射加熱を行うときの、その雰囲気温度によるシリコン層の結晶化度の変化を確認するための実験を行った。
この実験では、上記の実験例1と同様にしてシリコン複合体からなるサンプルを26個作製し、光照射加熱時の雰囲気温度を450℃にしたことの他は実験例1と同様の条件において雰囲気加熱+光照射加熱の結晶化実験を行った。また、サンプルの1つは、雰囲気加熱を行わずに、光照射加熱時の雰囲気温度を450℃にした上で、実験例1の条件で光照射加熱だけを行った。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表3および表4の結果から、光照射加熱時の雰囲気温度を常温より温度の高い450℃とすることにより、アモルファスシリコンを高い結晶化度の結晶シリコンに変質させることができることが確認された。
なお、雰囲気加熱を行わずに、450℃の雰囲気温度で光照射加熱だけを行った場合、その結晶化度は68%となった。従って、光照射加熱の前に雰囲気加熱を行わなければ、80%以上の結晶化度が得られないことも確認された。
【0044】
以上のようなアモルファスシリコンの結晶化方法によれば、予備加熱工程を経ることによってシリコン層15を構成するアモルファスシリコンの結晶化度が特定の範囲となることによって当該アモルファスシリコンの光吸収特性が変化してシリコン層15のフラッシュランプからの光の吸収率が高くなる、すなわち、当該フラッシュランプからの光の透過率が低くなって電極形成用金属膜12に対する光の照射が抑制された状態で、フラッシュランプからの光を照射することとなる結果、短時間で、クラックや反りの発生を小さく抑制しながら、アモルファスシリコンを結晶化させてシリコン層15を結晶シリコンよりなるものに変質させることができる。
【0045】
以上、本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法について説明したが、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【0046】
例えば、シリコン複合体Wをワークとして予備加熱工程および光照射加熱工程を行うシリコン結晶化装置として、予備加熱工程および光照射加熱工程をバッチ処理する構成のものを用いることができる。具体的には、図7に示されるように、予備加熱部20Aと光照射加熱部20Bとが離間して設けられていることの他は同様の構成を有するものとされる。
なお、図7において、その他の符号は図2に係る符号と同じものを示す。
このようなシリコン結晶化装置においては、例えば、予備加熱部20Aと光照射加熱部20Bとの間に、ワークを一旦冷却させる冷却部(図示せず)が備えられていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
通常の脱脂洗浄を終えた400nm以下の波長域の光を透過しない無アルカリガラス基板(厚み500μm)上にモリブデンからなる線幅5μmの電極形成用金属膜を形成し、これを製膜装置のロードロック室に入れ、真空に排気した後に製膜室へ搬送し、CVD法によりSiO2 薄膜を100nmの厚さに形成し、次いで、当該SiO2 薄膜上に、プラズマCVD法によりアモルファスシリコンによるシリコン層を50nmの厚さに形成することにより、ボトムゲート型のシリコン複合体からなるサンプルを6個作製した。
各サンプルを、500℃で30分間、上述の実験例2と同様にして雰囲気加熱による予備加熱を行った後、発光長250mmのフラッシュランプ10本を用いて、雰囲気温度が常温(25℃)、照射エネルギーが表5に示される大きさ、パルス幅が100μsecの条件で光照射加熱を行った後、シリコン層の結晶化度を、ラマンスペクトルを測定して上述の通りに算出した。また、光照射加熱後のサンプルについて、反りやクラックなどのダメージの発生を観察した。
結果を表5に示す。
【0049】
<実施例2>
実施例1と同様にして得たボトムゲート型のシリコン複合体からなるサンプルを6個作製し、光照射加熱時の雰囲気温度を500℃にしたことの他は実施例1と同様にして予備加熱後に光照射加熱を行った後、シリコン層の結晶化度を、ラマンスペクトルを測定して上述の通りに算出した。また、光照射加熱後のサンプルについて、反りやクラックなどのダメージ発生を観察した。
結果を表5に示す。
【0050】
<比較例1>
実施例1と同様にして得たボトムゲート型のシリコン複合体からなるサンプルを6個作製し、これについて雰囲気加熱による予備加熱を行わなかったことの他は実施例1と同様にして光照射加熱を行った後、シリコン層の結晶化度を、ラマンスペクトルを測定して上述の通りに算出した。また、光照射加熱後のサンプルについて、反りやクラックなどのダメージの発生を観察した。
結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
表5の結果から明らかなように、実施例1に係る本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法によれば、比較例1に係る方法で得たシリコン層に比べて高い結晶化度のシリコン層が、反りやクラックなどのダメージが生じない状態で得られることが示された。また、実施例2に係る本発明のアモルファスシリコンの結晶化方法によれば、実施例1に係る方法で得たシリコン層に比べて、照射エネルギーが4.5J/cm2 や5.0J/cm2 である場合においてもシリコン層に80%以上の結晶化度が得られることが示された。
【符号の説明】
【0053】
11 基板
12 電極形成用金属膜
15 シリコン層
17 バリア層
20A 予備加熱部
20B 光照射加熱部
23 ヒータ
26A,26B 処理位置
28A 予備加熱筐体
28B 光照射チャンバ
30 フラッシュランプ
31 発光管
32、33 外部リード
34 陽極
35 陰極
34A、35A 電極棒
36 トリガー電極
37 トリガー固定用バンド
51 ガラス基板
52 電極形成用金属膜
55 シリコン層
57 SiO2 薄膜
W シリコン複合体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にアモルファスシリコンによるシリコン層が形成され、当該基板とシリコン層との間に電極形成用金属膜が形成されてなるシリコン複合体を雰囲気加熱して前記シリコン層を結晶化度が30〜75%である結晶シリコンからなるものに変質させる予備加熱工程と、
前記予備加熱工程を経たシリコン複合体のシリコン層に対してフラッシュランプからの光を照射して当該シリコン層を結晶化度が80%以上である結晶シリコンからなるものに変質させる光照射加熱工程とを有することを特徴とするアモルファスシリコンの結晶化方法。
【請求項2】
前記予備加熱工程の加熱温度が、500〜700℃であることを特徴とする請求項1に記載のアモルファスシリコンの結晶化方法。
【請求項3】
前記光照射加熱工程においては、フラッシュランプからの光を、シリコン複合体のシリコン層側からのみ照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアモルファスシリコンの結晶化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−212835(P2012−212835A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78772(P2011−78772)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】