説明

アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物からアルカリ金属またはアルカリ土類金属を得る装置

【課題】アルカリ金属、アルカリ土類金属を太陽熱をエネルギー源として得る装置を提供する。
【解決手段】底頂部に穴の開いたパラボラ型集光器1と、集光器1の焦点近傍に設置した副鏡2と、副鏡により反射された太陽光が集光器2の底頂部の穴4を通る進路であって集光器1の裏側に耐熱ルツボ5を設置した装置である。太陽光をパラボラ型集光器1の凹面で反射させ、焦点に集光し、焦点近傍に設けた副鏡2で反射させ、集光器1の底頂部にあけた穴を通して集光器の裏側に導き、その進路にあたる所に被溶融物を入れた耐熱ルツボ5を設置し、太陽熱により被溶融物を加熱溶融させる。または太陽光の進路上に反射鏡を設け、反射鏡の反射光を耐熱ルツボに照射して被溶融物を加熱溶融させる。溶融物はそのまま電気分解処理をしてアルカリ金属、アルカリ土類金属を得る。被溶融物はアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物もしくはその混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物からアルカリ金属またはアルカリ土類金属を得る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属は非常に危険な物質である。空気に触れると急激に酸化し爆発を起こすこともあるし、また、水と触れると急激に反応し水素ガスを発生しながら燃焼する。
【0003】
近年、地球環境の悪化が懸念され、環境の浄化方法が模索されている。その一環としてクリーンなエネルギー源の利用が研究されている。一般に、エネルギー源としては電力エネルギー、風力エネルギー、波力エネルギー、地熱エネルギーさらに石油、石炭などの化石燃料を燃焼させて得られる熱エネルギーなどがある。
【0004】
電力エネルギーにしても、現在は火力発電を主力として、水力発電、原子力発電、風力発電、地熱発電、太陽光発電などで発電された電力エネルギーが供給されている。火力発電では、石油や石炭などを燃焼させるため排気ガスによる大気汚染の原因としてしばしば話題になっている。また、ガソリン等を燃焼させてエンジンで動く自動車なども排気ガスが大気汚染の原因ともなっている。これらのことから地球環境を汚染しないクリーンなエネルギーとして風力エネルギー、太陽光エネルギーが注目されつつある。
【0005】
一方、水素ガスをエネルギー源として利用しようとする試みもある。すなわち、燃料電池のエネルギー源として利用することである。燃料電池として利用された場合、排出されるのは水のみであり、環境汚染の心配は全くない。また、水素ガスを内燃機関の燃料として利用しようとする動きもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−194230号公報
【特許文献2】特開2006−258085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような観点から、本発明者は金属ナトリウムなどのアルカリ金属、金属マグネシウムなどのアルカリ土類金属を水と接触させることにより水素ガスが発生する反応を利用するために、アルカリ金属、アルカリ土類金属を安価に得る研究を進めていたところ、太陽熱を利用することで効率よく得られることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の特徴とするところは、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物を耐熱ルツボに入れ、パラボラ型太陽光集光器で集光した太陽熱により溶融させた後、電気分解することによりアルカリ金属やアルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は太陽熱を利用してアルカリ金属塩化物やアルカリ土類金属塩化物を溶融し、この溶融物を電気分解してアルカリ金属やアルカリ土類金属を得る装置を提供するものである。アルカリ金属やアルカリ土類金属は水と反応させることで水素ガスを発生させることができる。発生した水素ガスは新しいエネルギー源としてまた化学品合成の原料として活用することができる。石油資源等が乏しいか皆無の国においても、容易にエネルギー源を確保することができ、産業上、大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施態様を示す装置の概略図。
【図2】懸架されているルツボの状態を示す概略図。
【図3】耐熱ルツボを地上に置いた実施態様を示す装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を交えて本発明を説明する。図1は凹面の反射面を持つパラボラ型太陽光集光器を用いて目的物を得るための装置の概要を示す概略図である。太陽追尾装置(図示していない)により太陽方向に向けられたパラボラ型集光器で集められた太陽光は凹面により反射し、焦点付近に光が集まる。その焦点近傍に被溶融物を入れた耐熱ルツボを置くと集められた太陽熱により加熱され、ルツボ内の被溶融物は溶融する。このような態様で実施することもできるが、ルツボを集光器の裏側に置く方が好ましい。
【0012】
パラボラ型集光器1(主鏡とも云う)に入射した太陽光は凹面の反射面で反射され、凹面の焦点に収束される。その焦点近傍に副鏡2を設置しておく。副鏡はパラボラ型集光器の外縁から伸びた支持アーム3で固定されている。副鏡は凹面鏡または凸面鏡のいずれかを使用できるが、凹面鏡が好ましく用いられる。集光器から反射されてきた太陽光を副鏡2で反射させ、集光器の底頂部に向かって反射させることができる。底頂部に穴を開けておくと、太陽光をその穴を通して集光器の裏側に導くことができる。集光器の底頂部には穴4があけられており、反射光は集光器の裏側に導かれる。集光器の裏側には太陽光の進路に当たる場所に被溶融物を入れた耐熱ルツボ5が設けられており、太陽熱により加熱されて被溶融物は溶融する。耐熱ルツボは着脱自在の懸架装置により固定されている。溶融塩混合物を耐熱ルツボに入れたままの状態で後の電気分解を行うので、耐熱ルツボは地表に近い場所に設置するのが好ましい。
【0013】
パラボラ型集光器は太陽光の入ってくる方向を感知し、最も入射光の強い方向を向くよう設定されている。そのため曇天時など、太陽光の方向が鋭敏に感知できない場合は追尾装置のスイッチがオフの状態になるようにしてある。また、日没後もオフになるようにしてある。
【0014】
本発明で使用する被溶融物を入れる耐熱ルツボの材質は、セラミック製のものが好ましく用いられる。1000℃以上の耐熱温度があれば十分である。例えば、炭化ケイ素製のものが好ましい。また、被溶融物をルツボに入れたまま電気分解作業を行うのでルツボは垂直にしておくことが好ましい。その一つの実施態様を図2に示す。ルツボはパラボラ型集光器の裏側で、太陽光の進路に当たる場所に懸架棒6の先端にあるフック7により吊されている。垂直にしておくには、ルツボ上部の周囲に板状の輪8を取付け、板状の輪から両側に伸びる支持棒9でフック7に取付けることによってルツボを垂直に維持する方法が採用できる。支持棒とフックは固定されておらず、ルツボは支持棒を軸として前後に回転できるようにするのが好ましい。
【0015】
他の実施態様では、図3に示すように、耐熱ルツボを地上に設置することができる。副鏡から反射されてきた太陽光を集光器の裏側で太陽光の進路に当たる場所に反射鏡10を設置し、太陽光を地上に置いた耐熱ルツボに照射し、加熱することができる。ここで云う反射鏡とは、副鏡から照射されてきた太陽光を耐熱ルツボに向けて反射させ、照射する作用をする。反射鏡としては凹面鏡、凸面鏡または平面鏡が使用できるが、平面鏡が好ましく使用できる。この方式では、耐熱ルツボ内の溶融物を地上において電気分解、生成物の取出しなどの作業が行えるため、耐熱ルツボを吊り下げる方式に比べると危険性は少ないが、刻々と変化する太陽光の進路に合わせて常に耐熱ルツブに反射光を照射しなければならない。このために平面鏡の設置角度は太陽光の入射角度と耐熱ルツボへの反射角度が同じになるよう調整してある。
【0016】
ルツボと支持枠は一組のユニットとしてもよいし、支持枠はそのままにし、ルツボだけを交換できるようにしてもよい。一組のユニットとした場合は、数組のユニットを用意しておき、交代に使用してもよい。
【0017】
本発明で用いられる被溶融物とは、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物であり、またこれらの混合物が用いられる。塩化物以外の塩も用いることができるが、後の電気分解工程で副生する酸性ガスの処理の面から塩化物が好ましく用いられる。被溶融物を溶融するにあたっては、被溶融物を最初からルツボに大量に入れるのではなく、最初は少量入れ、溶融が始まってから被溶融物を追加する方が早く全量が溶融するので好ましい。
【0018】
アルカリ金属やアルカリ土類金属は水と反応して容易に水素ガスを発生させるものなら何でも良く、なかでも入手のし易さの面からナトリウムやマグネシウムが好ましい。アルカリ土類金属は原子量が大きくなると水と反応しにくくなり、希酸でないと水素ガスを発生しなくなるので、マグネシウムが好ましい。しかし、その他のアルカリ金属やアルカリ土類金属が含まれていても水素ガスを発生させるという目的には何ら支障をきたさない。
【0019】
ナトリウムやマグネシウムの塩化物は、海水を蒸発させることによりこれら金属の塩化物を主成分とする塩化物や塩化物の混合物として得ることができる。また、岩塩を原料とすることもできる。
【0020】
これら被溶融物はその組成にもよるが600℃以上、また800℃以上にならなければ溶融しない。集光した太陽熱では季節、時間帯、天気により異なるが、真夏で晴天時では加熱後約10分程度でルツボは800℃程度に加熱され、内容物は溶融する。このような状況から、本発明は低緯度の亜熱帯地方、熱帯地方、また雨がほとんど降らない砂漠地方において効率よく実施される発明である。
【0021】
溶融混合物の電気分解は通常の方法が採用できるが、溶融物が固化しない温度を保ったまま行う必要がある。溶融物が固化してしまうと通電しても電気分解は出来ない。電極としては陽極として炭素棒を、陰極として鉄棒を用いることができる。通電値は4〜6V、3〜5Aで行うことができる。陽極で塩素ガスが発生するので、塩素に対する耐性を有する材料を電極にする必要がある。
【0022】
電気分解に使用する電力は、本発明者が特願2007−139788号、特願2007−156284号にて提案した太陽熱により発電する方法で得られた電力を使用することができる。この方法によれば、被溶融物の溶融と電気分解をすべて太陽熱エネルギーでまかなうことができる。もちろん、他の方法により得られた電力も使用することができる。
【0023】
電気分解され陰極に析出した金属類はルツボの底部に貯まる。ルツボの表層部にはスラグが貯まる。ルツボの底部に蓄積した金属を取出すには、一端、ルツボの温度を200℃位まで冷却した後、ルツボを傾けて内容物を油中に投入することで空気に触れさせることなく金属を得ることができる。
【実施例1】
【0024】
直径1mのパラボラ型集光器の焦点近傍に凹面反射鏡を設置した装置を使用した。集光器の底頂部には凹面反射鏡からの反射光が通過できるように直径10cmの穴を開けてある。集光器の裏側に2本の懸架棒を取付け、先端にあたるところのフックに支持棒で支えられた耐熱ルツボを架けた。耐熱ルツボのサイズは直径5cm、深さ7cmであった。ルツボの懸架位置は反射光がルツボの側面から上端面に当たるように設置した。ルツボは支持棒に支えられ、垂直方向を維持していた。
【0025】
ルツボに陽極として炭素棒を、陰極として鉄棒をセットし、さらに約30gの食塩を入れ、反射光に照射させた。照射後約9分でルツボは850℃以上に達し、食塩は溶融を始めた。溶融を始めてから電極に6V、4Aの直流電流を流して電気分解した陽極から塩素ガスが発生し、陰極付近には銀灰色の金属ナトリウムが析出した。ルツボをフックから取外し、約200℃程度まで冷やした後、灯油を満たした容器に内容物を入れた。約11gの金属ナトリウムが得られた。
【実施例2】
【0026】
食塩の代わりに食塩と塩化マグネシウムの約1:1の混合物をルツボに入れ、実施例1と同様の操作を行った。ルツボは照射後約9分で850℃近辺に達し、混合物は溶融を始めた。以降実施例1と同様の操作を行ったところ、陽極から塩素ガスが発生し、陰極付近には銀灰色の金属ナトリウムと金属マグネシウムの混合物が約10g得られた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、太陽熱を利用してアルカリ金属塩化物やアルカリ土類金属塩化物を溶融し、この溶融物を電気分解してアルカリ金属やアルカリ土類金属を得ることができる。アルカリ金属やアルカリ土類金属は水と反応させることで水素ガスを発生させることができ、発生した水素ガスは新しいエネルギー源としてまた化学品合成の原料として活用することができるため、石油資源等が乏しいか皆無の国においても、容易にエネルギー源を確保することができ、産業上、大きく貢献することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 …… パラボラ型集光器
2 …… 副鏡
3 …… 副鏡支持アーム
4 …… 穴
5 …… 耐熱ルツボ
6 …… 懸架棒
7 …… フック
8 …… 輪
9 …… 支持棒
10 …… 反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底頂部に穴の開いたパラボラ型集光器と、その集光器の焦点近傍に設置した副鏡と、副鏡により反射された太陽光が集光器の底頂部の穴を通る進路であって集光器の裏側に耐熱ルツボを設置したことを特徴とするアルカリ金属、アルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置。
【請求項2】
底頂部に穴の開いたパラボラ型集光器と、その集光器の焦点近傍に設置した副鏡と、副鏡により反射された太陽光が集光器の底頂部の穴を通る進路であって集光器の裏側に太陽光を耐熱ルツボに向け反射させる反射鏡を設置したことを特徴とするアルカリ金属、アルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置。
【請求項3】
耐熱ルツボに電気分解のための電極を組込んだことを特徴とする請求項1記載または請求項2記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置。
【請求項4】
副鏡が凹面鏡または凸面鏡のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置。
【請求項5】
請求項2記載の反射鏡が凹面鏡、凸面鏡または平面鏡のいずれかであることを特徴とする請求項2記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属またはこれらの混合物を得る装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−249345(P2010−249345A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96788(P2009−96788)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(591266445)
【出願人】(508371758)
【Fターム(参考)】