説明

アルツハイマー病を予防および治療するためのGタンパク質共役レセプターアンタゴニスト及びその使用

本発明は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法を開示する。本発明の方法は、以下の工程を含む:
(a) レセプターを活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第一の程度を決定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターを工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第二の程度を決定すること;
(c) エンドサイトーシスの第一の程度とエンドサイトーシスの第二の程度との間の差を決定すること;および
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと。
また、本発明は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬の製造におけるレセプターアンタゴニストの使用であって、前記レセプターアンタゴニストはエンドサイトーシスの間にプレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターのエンドサイトーシスを阻害する使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は、一般にアルツハイマー病または関連する神経学的な病状の予防または治療に関する;特に、アルツハイマー型の疾患を治療するためのβアドレナリン作動性またはオピオイドレセプターアンタゴニストの使用に関する。
【0002】
[背景技術]
進行性の痴呆および人格障害で特徴付けられるアルツハイマー病 (AD)は、老化に関連する最も一般的な神経変性疾患である。ADは、65齢をこえる集団の5-11%に及び85齢をこえる集団の30%に影響する。ADは、変性しているニューロンの及び反応性アストロサイトの近傍のアミロイドプラークの異常な蓄積によって生じる。 D. J. Selkoe, Annu. Rev. Neurosci. 17, 489 (1994).
アミロイドプラーク〔殆どアミロイド β (Aβ)から構成される〕は、AD 神経病理学の特徴である。そして、アミロイドプラークの形成は、ADの主な原因であると考えられる。加えて、最近の研究は、拡散性のオリゴマーのAβも神経毒性で潜在的にADに関連しえることを明らかとした(Walsh, D.M. et al., "Naturally Secreted Oligomers of Amyloid Beta Protein Potently Inhibit Hippocampal Long-Term Potentiation in vivo," Nature 416, 535-9 (2002))。
【0003】
Aβは、β-アミロイド前駆物質タンパク質 (APP)から、β-およびγ-セクレターゼによる連続的な切断を介して産生される。図 1に説明されるとおり、APPは、β-セクレターゼで切断されて、可溶性のAPPs-β断片およびC99断片が産生される。後者は、次々にγ-セクレターゼで切断されてAβ断片およびC60断片を産生する。
【0004】
アミロイド 断片 (Aβ)は、少なくとも二つの形態、40 アミノ 酸形態(Aβ40)および42 アミノ酸形態(Aβ42)を含む。42 アミノ酸形態(Aβ42)は、よりプラーク形成の傾向があり、AD病因により関連性があると考えられる。γ-セクレターゼは、ADにおいて中心的な役割を担っている。というのも、それが二つの主な Aβ 種(Aβ40 および Aβ42)の比を決定するからである。
【0005】
図 2に示したとおり、γ-セクレターゼ 複合体には、少なくとも四つの必須な成分: プレセニリン (PS), ニカストリン(NCSTN), APH-1, およびPEN-2が含まれる。推定上の触媒コンポーネントのプレセニリン-1 (PS1)における変異によって、大抵のケースの家族性AD(FAD)が説明され、γ-セクレターゼがADの病原(少なくともFADの病原)に決定的に関与するだろうことを示唆している。
【0006】
プレセニリン-1変異およびFADの間の相関によってADの遺伝的な原因への手がかりが提供されるが、FADは全ADケースの10%未満である。対照的に、大抵のADのケースは自然状態では散発性であり、プレセニリン-1変異以外の因子がADの病原により重要であることを示している。従って、如何に他の因子または環境の影響がADの病原に寄与するかを研究することが重要である。
【0007】
以前の研究は、細胞培養におけるAβ産生が細胞内のシグナル伝達経路または膜レセプター(例えば、ムスカリン性アセチルコリンレセプター)の活性化によって減少できることを示している。また、Aβレベルおよびアミロイドプラーク形成がソマトスタチンまたは環境因子により影響されることが最近の証拠によって示されている。
【0008】
また、APPのプロセッシングは、神経伝達物質およびシナプスの活性によって制御される。例えば、神経伝達物質レセプターの活性化〔ホスファチジルイノシトール(PI)加水分解またはプロテインキナーゼC(PKC)活性化と共役する〕によって、APP代謝を促進し、アミロイド形成を減少できる〔Ulus and Wurtman, J. Pharm. Exp. Ther., 281,149 (1997)〕。他方で、cAMP産生と共役した神経伝達物質の活性化によって、星細胞腫および一次アストロサイトにおける構成的な及びPKC/PI-刺激性のAPPs分泌の両方を抑制できる〔Lee et al., J. Neurochem., 68,1830 (1997)〕。APPs分泌におけるcAMPの阻害効果は、アストロサイト性細胞に特異的であろう。というのも、cAMPおよびPKA活性化が、クロム親和細胞腫PC-12およびヒト胚性腎臓細胞におけるAPPs分泌を刺激すると報告されているからである〔Xu et al., PNAS USA, 93, 4081 (1996); Marambaud et al., J. Neurochem., 67, 2616 (1996)〕。いずれにしても、上記の結果は、次の事項を示している;つまり、神経伝達物質レベルまたは二次メッセンジャーシグナル伝達における変化(ADにおけるニューロン変性およびシナプス欠損の結果であろう)は、APPプロセッシングを破壊でき、アミロイド形成的な又は神経毒性のAPP断片の蓄積へと至ることである。
【0009】
さらにまた、cAMPの上昇への至るβ-アドレナリン作動性のレセプターの変調によって、アストロサイトのAPPの合成を増加できることが示されている。これらの所見に基づいて、Leeらの米国特許第6,187,756および6,043,224号は、cAMPレベルを調節するβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストを用いることによってAPPの異常な発現から生じる神経学的な障害を緩和するための方法を開示している。このアプローチでは、β-アドレナリンレセプターアンタゴニストが使用されて、cAMPレベルの変調を通じてAPPの合成が抑制される。
【0010】
APP合成の抑制に加えて、APP代謝の変調を使用して、APP関連のプラーク形成と関連する神経学的な障害が軽減されえる。例えば、Buxbaumらの米国特許第5,385,915号は、タンパク質リン酸化を制御する因子(すなわち、キナーゼまたはホスファターゼに影響する因子)を用いてAPPプロセッシングに作用するための方法および組成物を開示している。APPプロセッシングの調節によって、アミロイド形成性プラークに蓄積するAβペプチドの産生の制御へと至る。
【0011】
同様に、Gandyらの米国特許第5,242,932号は、化学物質(例えば、クロロキン および プリマキン)を用いて哺乳類細胞中のタンパク質(APPを含む)の細胞内の輸送およびプロセッシングを調製または作用する方法を公開し、請求している。
【0012】
これらの従来技術の方法は、APPの産生および代謝を調節することに効果的であると思われるが(それ故、プラークの形成)、ADの治療および予防のためのさらなる方法および試薬に対する要求がある。
【0013】
[発明の概要]
本発明の課題には、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法の提供が含まれ、これによってアルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬が提供される。
【0014】
一側面において、本発明の態様は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法に関する。本発明の一態様に基づく方法は、以下の工程を備える:
(a) レセプターを活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第一の程度を決定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターを工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第二の程度を決定すること;
(c) エンドサイトーシスの第一の程度とエンドサイトーシスの第二の程度との間の差を決定すること;および
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと。
【0015】
本発明の別の側面は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法に関する。本発明の一態様に基づく方法は、以下の工程を備える:
(a) レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第一の程度を測定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第二の程度を、工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で測定すること;
(c) 会合の第一の程度と会合の第二の程度との間の差を決定すること;および
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと。
【0016】
本発明の別の側面は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬を製造するためのレセプターアンタゴニストの使用に関する。本発明の一態様に基づく使用は、前記レセプターアンタゴニストがエンドサイトーシスの間にプレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターのエンドサイトーシスを阻害することを特徴とする。
【0017】
本発明の他の側面および利点は、以下の記載および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0018】
[詳細な記載]
本発明は、アルツハイマー病または他の関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法に関する。
【0019】
本発明の態様は、アドレナリン作動性またはオピオイドレセプター(特に、βアドレナリン作動性またはδオピオイドレセプターアンタゴニスト)のアンタゴニストを用いるアルツハイマー病の治療に関する。本発明の幾つかの態様は、ADの治療におけるβ-アドレナリンレセプターブロッカー(アンタゴニスト)の新しい使用に関連する。また、本発明の幾つかの態様は、アルツハイマー病を治療するためのδ-オピオイド レセプター (DOR) アンタゴニストの新規の使用に関連する。本発明の幾つかの態様は、ADまたは関連する神経学的な病状を治療するために使用できる試薬をスクリーニングするための方法に関する。
【0020】
上記のとおり、FADは、全ADの約 10%と計算される。従って、遺伝以外の因子が、ADの病因に重要な役割を担っているだろう。環境因子(例えば、ストレス)は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)であるβ-アドレナリン作動性のレセプター(β-ARs)およびδ-オピオイドレセプター(DOR)を含んでいるレセプターを活性化することによって作用を発揮しえる。幾つかのGPCRsは、中枢神経系(CNS)に発現する、特にβ2-アドレナリンレセプター(β2AR)は、海馬および皮質(ADの病原に関与する脳における主な領域)において発現する。CNS中で、これらのレセプターが機能して、エピネフリン, ドーパミン, およびオピオイドペプチドに関するシグナル伝達を媒介し、多様な神経機能(例えば、刺激反応, 学習, 記憶, および痛覚)の変調に至る。
【0021】
一旦活性化したら、これらのレセプターは、ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)と共役し、細胞内のセカンドメッセンジャー(例えば、cAMP)のレベルを調節することにより下流のシグナル伝達を誘発する。加えて、活性化したレセプターは、レセプター脱感作のみならずシグナル伝達にも重大な役割を担うクラスリン媒介性のエンドサイトーシスを経験する。エンドサイトーシスしたGPCRは、早期エンドソーム, 後期エンドソームおよびリソソーム(LEL)をとおりサイクルする。様々なエンドサイトーシスのベシクル(endosomes)の輸送は、Rab GTPaseによって媒介される(これは様々なエンドソームに関するマーカーとしても貢献しえる)。
【0022】
本発明の態様は、発明者による次の予想外の所見に基づく;その所見とは、β-アドレナリン作動性レセプター(特に, β2-アドレナリン作動性レセプター)またはδ-オピオイドレセプターの活性化によって、後期エンドソームおよびリソソーム(LEL)におけるγ-セクレターゼの増強を生じさせることができることである。酸性の至適pHを有しているアスパラギン酸プロテアーゼであることから、酸性の環境を有するLEL中に蓄積されたγ-セクレターゼの活性が増強し、Aβの産生の増強に至る。
【0023】
図 3は、β-アドレナリンレセプターまたはδ-オピオイドレセプター活性化からAβの産生の増加への経路を説明している。図 3に示したとおり、β-アドレナリン作動性レセプターおよびδ-オピオイドレセプターの活性化は、クラスリン被覆ピット(図 3においてCCPとして示される)の形成が関与するクラスリン媒介性のエンドサイトーシスおよびCCPの挟み取りを伴う。本発明の発明者は、γ-セクレターゼの活性部位コンポーネント, プレセニリン-1(図 3においてPS1として示される)が、構成的にこれらのレセプターと関連することを見出した。係るエンドサイトーシスの結果として、プレセニリン-1またはγ-セクレターゼは、エンドソームに運ばれる。それから、Rab5 および Rab7によって媒介されるベシクル輸送をとおして、これらのエンドソームは、γ-セクレターゼの活性が増強される後期エンドソームおよびリソソーム(LEL)へと移動する。γ-セクレターゼの活性の増強によって、Aβの産生の増加へと至る。
【0024】
これらの所見は、次の事項を示唆している;つまり、アンタゴニストによるβ-アドレナリン作動性レセプターおよびδ-オピオイドレセプターの阻害によって、γ-セクレターゼ活性の増強を予防できることである。従って、これらのレセプターのアンタゴニストを使用して、Aβの産生を減少させえるので、それらを使用してADまたは関連する神経学的な病状を阻止する又は治療しえる。本明細書中に使用される「アンタゴニスト」は、広い意味で、レセプター活性化を阻止する, 減少させる, または無効にできる化合物を含むために使用される。係る化合物は、同じ結合部位に対してレセプターアゴニストと競合しえる。或いは、それらは異なる部位に結合してアゴニストの効果を減少させえる。
【0025】
加えて、これらの所見は、次の事項を示唆している。その事項とは、ADまたは関連する神経学的な病状の治療又は予防に使用するための潜在的なアンタゴニストを、関連性のあるレセプターのエンドサイトーシスをモニターすることによってスクリーニングしえることである。これらのレセプターのエンドサイトーシスは、プレセニリン-1 (PS1)またはγ-セクレターゼのエンドサイトーシス、プレセニリン-1またはγ-セクレターゼのLELにおける蓄積、γ-セクレターゼの活性の増強、またはアミロイド-β (Aβ) 産生の増強をモニターすることによって決定しえる。
【0026】
このように、本発明の幾つかの態様は、ADまたは関連する神経学的な病状を治療または予防するために使用できる試薬をスクリーニングするための方法に関する。スクリーニング方法は、プレセニリン-1もしくはγ-セクレターゼと関連するレセプターのエンドサイトーシスを阻害する候補試薬の能力に基づいてもよい又は前記レセプターおよびプレセニリン-1もしくはγ-セクレターゼの間の会合を減少させる若しくは崩壊させる能力に基づいてもよい。図 4に示したとおり、本発明の態様と一致して方法40には、候補試薬の存在下および非存在下で、プレセニリン-1(またはγ-セクレターゼ)と関連するレセプターのエンドサイトーシスの程度を測定すること又はレセプターおよびプレセニリン-1もしくはγ-セクレターゼの間の会合の程度を測定することが含まれる(工程 41)。係るレセプターには、内在性の又は前記レセプターをコード化している遺伝子を含んでいるベクターでトランスフェクションしたGタンパク質共役レセプターが含まれる。
【0027】
次に、候補試薬の存在下および非存在下でエンドサイトーシスまたは会合の程度の差が、決定される(工程 42)。上記のとおり、エンドサイトーシスの程度は、エンドサイトーシスしたベシクル、エンドサイトーシスしたプレセニリン-1またはγ-セクレターゼ、プレセニリン-1またはγ-セクレターゼのLEL中の蓄積、またはAβの産生の増強を定量することによってモニターしえる。レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の程度は、後に詳細に記載される蛍光エネルギー移動(fluorescence energy transfer,FRET)などの任意の適切な方法を用いて測定しえる。
【0028】
エンドサイトーシスまたは会合の差(工程 42で決定される)が有意である又は閾値をこえる場合、潜在的に候補試薬はADまたは関連する神経学的な病状を治療する又は予防するために使用しえる(43と示される)。その差が非有意な場合、前の工程は別の候補試薬で反復されてもよい(44と示される)。次の事項が注意される;つまり、図 4の方法は経時的な様式で説明され、その中で一つの候補試薬がある時間に試験されるが、当業者はマルチウェルプレートまたは他の大規模またはハイスループットスクリーニングセットアップを用いることなどによって多くの試薬を同時に試験しえることを認識するだろうことである。
【0029】
本発明の幾つかの態様は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を、β-アドレナリンレセプター(特に、β2-アドレナリンレセプター)および/またはδ-オピオイドレセプターに結合するアンタゴニストの有効量を被験者に投与することによって治療する又は予防する方法に関する。有効量のアンタゴニストは、γ-セクレターゼを後期エンドソームおよびリソソーム(LEL)に移動させるプロセスを開始させるレセプターエンドサイトーシスを減少させるために十分である。本発明の他の態様は、アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬の製造における、β-アドレナリンレセプター(特に、 β2-アドレナリンレセプター)および/またはδ-オピオイドレセプターに結合するアンタゴニストの使用に関する。
【0030】
β-アドレナリン作動性および/またはδ-オピオイドレセプターに結合する有効量のアンタゴニストは、投与のモード、投与の頻度、および、化合物を患者に送達するために使用される薬学的組成物のタイプ、同様に患者の重量, 性別, 齢, および身体の状態に依存する。典型的には、有効量は、約 1 μg/Kg 体重〜約 10 mg/Kg 体重/日の範囲であってもよい。個々の必要性は変動するが、各化合物の有効量の至適な範囲の決定は当業者の技術の範囲である。本発明の化合物を患者に投与することは、類似する薬物を患者投与するために使用される任意の適切な経路(少数の例を挙げると、経口投与, 注射, および経皮性パッチが含まれる)を経由してもよい。
【0031】
本発明の態様に基づく化合物または組成物は、哺乳類(ヒトおよび非ヒト哺乳類)におけるアルツハイマー病または関連する神経学的な病状の治療に使用しえる。本発明の係る化合物または組成物は、例えば、 生理食塩水, 緩衝剤, グルコース, グリセリン, アルコール, デンプン, などの薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含んでもよい。加えて、これらの化合物または組成物は、一般に注射, 丸剤, カプセル, パッチ, などを含んでいる類似する薬物に使用される剤形に調製してもよい。これらの剤形を作出するための方法は、当該技術において周知である。
【0032】
Aβの産生を減少させるための多様なアプローチが既に報告されているが〔APP 産生の変調(例えば、米国特許第6,187,756 および 6,043,224号)およびAPPプロセッシングの阻害(例えば、米国特許第5,242,932号)が含まれる〕、本発明の態様は異なる機構に基づいている(γ-セクレターゼをLELへともっていくレセプター エンドサイトーシスの阻害)。以下の実験および例によって、明瞭に本発明の態様に基づいてアルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するためにβ-アドレナリンレセプター(特に, β2-アドレナリンレセプター)および/またはδ-オピオイドレセプターアンタゴニストまたはインヒビターを用いる理論的根拠が確立された。
【0033】
例 1: アミロイド β 産生は、β2ARを活性化することによって増加する
Aβ産生におけるβ2AR活性化の効果は、最初に機能的な GPCR シグナル伝達経路を所有し、正常なAβ分泌を示すHEK293細胞で評価された。本実験に使用されたHEK293細胞は、β2ARおよび変異体 APP(APPswe)(コドン670 および 671にFAD関連「スウェーデン」変異を保持する)でトランスフェクトされた。図 5aに示したとおり、β2ARのアゴニスト〔イソプラノロール(Iso;isopranolol)〕での刺激によって、二つの分泌されたAβ 種 (Aβ40 および Aβ42)のレベルが増加した。他方で、それ自身では効果を有さないβ2ARアンタゴニスト〔プロプラノロール(Pro)〕の添加によって、分泌されたAβレベルを増加させるIsoの能力が無効にされる。特異的なγ-セクレターゼインヒビターL685,458での前処理によって分泌されたAβの産生の増加が無効になるとの事実によって証明されているとおり、Aβ 産生の増加はγ-セクレターゼを必要とする。
【0034】
γ-セクレターゼがAβのβ2AR-誘導性の産生に関与しているとの事実は、さらにγ-セクレターゼ基質(C99)およびβ2ARのHEK293細胞へのコトランスフェクションで確認された。C99は、APPのβ-セクレターゼ媒介性の切断の産物である(図 1を参照されたい)。C99は、γ-セクレターゼの直接の基質として、同様にAβ26への直接の前駆物質として機能する。図 5bは次の事項を示している。つまり、Isoでのβ2ARの刺激によって、コトランスフェクションされたHEK293細胞におけるAβ 産生の増加を生じることである(APPswe および β2ARでコトランスフェクションした細胞を用いた上記の結果と類似する)。この増加は、Pro(それ自体は効果がない)の存在によって再び無効にされる。従って、分泌されたAβの増加は、γ-セクレターゼ活性の増加が原因であるらしい。
【0035】
β2ARに加えて、δ-オピオイドレセプター(DOR)の活性化によって、分泌されたAβレベルの増加を生じることが見出された。図 5cに示したとおり、C99-トランスフェクションしたHEK293細胞におけるDADLE(D-Ala2-D-Leu5-エンケファリン、δ-オピオイド レセプターのアゴニスト)処理によって、Aβの産生の増加を生じた。δ-オピオイドレセプターアンタゴニスト, NALT (δ-ナルトリンドール)での処理によって、DADLEの効果が無効化された。上記の実験にはトランスフェクションしたレセプターを有している細胞が使用され、同じ結果が内在性のレセプターで見られた。C99でトランスフェクションした初代の海馬培養細胞において、内在性のβ-ARsまたはDORの刺激によって、分泌型Aβの上昇が導かれることが図 5dに示される。
【0036】
上記の結果は、明瞭にβ-ARまたはDORの活性化がAβの分泌の増加へと導くことを示している。分泌型Aβの産生は、パルスチェイス実験で示されたとおりトランスフェクションしたC99基質の切断からである。図 5eに示したとおり、DOR および C99でコトランスフェクションしたHEK293細胞におけるC99のターンオーバーは、DADLE処理の非存在下よりもDADLE(DORアゴニスト)処理の存在下でより急速であった。この結果は、C99切断がレセプター活性化で促進されたことを示唆している。以上のとおり、β-アドレナリン作動性レセプター(β-AR)(特に, β2AR)および/または DORの活性化によって、γ-セクレターゼによるC99(または類似する基質)の切断が促進された結果としてAβの産生および分泌が増強される。
【0037】
例 2: β2ARの活性化がγ-セクレターゼ活性を増強する
上記のβ-ARまたはDORの活性化に際したAβの産生の増加は、γ-セクレターゼ発現の増加またはγ-セクレターゼ活性の増強から生じえる。この質問に答えるために、γ-セクレターゼの発現 および 活性化におけるβ2AR 活性化の効果を評価した。図 6aにウエスタンブロット分析によって示されたとおり、C60(C99のγ-セクレターゼ媒介性の切断から産生される)産生は、C99トランスフェクションしたHEK293細胞のIso処理後に増加した。しかしながら、同じ処理は、γ-セクレターゼの活性部位コンポーネントであり、アミノ- およびカルボキシル-末端の断片(PS1-NTFおよびPS1-CTF)のヘテロ二量体として存在する、PS1の発現レベルの変化を生じることに失敗した。この結果は、β2AR活性化によって、γ-セクレターゼ発現が変化することなくγ-セクレターゼ活性が増加したことを示唆している。
【0038】
γ-セクレターゼの酵素活性を直接的に測定するために、蛍光原基質が使用された。蛍光原基質は、蛍光レポーター分子を結合させたγ-セクレターゼ特異的な基質配列に基づいている。γ-セクレターゼ活性がC6神経膠腫における内在性β2ARの刺激30 min後に増強されることが見出された(図 6b)。この効果は、急性海馬スライスにおいて確認された(図 6c)。プレセニリン欠乏によって、マウス胚性線維芽細胞におけるIso-誘導性の増強が無効とされ(図 6d)、γ-セクレターゼ活性に関するこのアッセイの特異性が確認された。以上より、これらのデータは、β2ARの活性化がγ-セクレターゼ活性を刺激し、Aβ産生の増加が導かれることを明瞭に示している。
【0039】
レセプターの活性化に際したγ-セクレターゼ活性の増強は、β-ARに限定されない。SH-SY5Y神経芽細胞腫(図 7a)または初代海馬培養物(図 7b)において内在性DORが刺激されたとき、類似する結果が観察された。さらにまた、これらのγ-セクレターゼアッセイからの結果によって、次の事項が示された。その事項とは、γ-セクレターゼ活性が30 min付近でピークとなり、レセプター(例えば、β2AR)刺激の約 60 min 後に基礎レベルに戻った(図 7c)ことである。
【0040】
例 3: γ-セクレターゼ活性の増強はcAMPシグナル伝達に非依存性である
上記で議論したとおり、一度活性化したら、GPCR (β2ARを含む)は、Gs タンパク質依存性アデニリルシクラーゼの活性化を誘発し、細胞内cAMPレベルの上昇へと導くだろう。β2AR 活性化によるγ-セクレターゼ活性増強の原因となる分子機構を明らかにするために、Gs タンパク質活性化の能力を有していない新規のβ2AR変異体(β2AR T68F, Y132G, Y219A またはβ2AR TYY)を更なる研究に使用した。β2ARのこれらの変異体がγ-セクレターゼ活性の増強の無効化に失敗したことが見出された(図 8a)。この結果は、γ-セクレターゼにおけるβ2AR効果におけるGs タンパク質シグナル伝達の関与を除外している。さらにまた、例えば、コレラ毒素(CTX), フォルスコリン(Fsk), およびジブチル-cAMP(db-cAMP)などの試薬(Gタンパク質活性化およびcAMPレベル上昇を模倣する)で処理された細胞は、γ-セクレターゼ活性の増加を生じなかった(図 8b)。従って、β-アドレナリンレセプター活性化から生じるγ-セクレターゼ活性の増強にcAMPシグナル伝達は関与しない。
【0041】
γ-セクレターゼ活性の増強にcAMPシグナル伝達が関与しないとの事実は、この事項がDORに関しても正しいであろうことを示唆している。DORが百日咳毒素(PTX)感受性Gi/oタンパク質を活性化し、次にアデニリルシクラーゼを阻害することによってcAMPレベルの減少へと導かれることが知られている。SH-SY5Y神経芽細胞腫をPTXで前処理することによって、DADLE刺激への応答におけるγ-セクレターゼ活性の増強を変化させないことが見出された(図 9)。この結果は、DOR活性化によるγ-セクレターゼ活性の増強がcAMPで制御されないことを示唆する。従って、β2ARまたはDORの活性化によるγ-セクレターゼの制御は、Gタンパク質 シグナル伝達または正準的なcAMP経路によらない。
【0042】
例 4: レセプターエンドサイトーシスはγ-セクレターゼ活性の増強と相関する
γ-セクレターゼ活性の増強にG-タンパク質シグナル伝達もcAMP経路も関与しないならば、どのような機構が関与しているのか?上記で図 3を参照して議論したとおり、GPCR(βAR および オピオイド レセプターを含む)活性化は頻繁にレセプターエンドサイトーシスを伴う(これも特異的なシグナル伝達を惹起できる)。レセプターエンドサイトーシスおよび関連するシグナル伝達がγ-セクレターゼ活性の増強に関与しているかどうかは、エンドサイトーシス経路の多様なインヒビターを用いることによって証明できる。
【0043】
図 8cは、次の事項を示している。その事項とは、γ-セクレターゼ活性におけるIsoの効果がコンカナバリン(Con A), 高張液処理(Suc), および カリウム枯渇培地(K+ dpl)などのエンドサイトーシスインヒビターで処理することによって無効化できることである。図 8dは、次の事項を示している。その事項とは、γ-セクレターゼ活性のIso-誘導性の増強が、クラスリン-またはカベオリン-媒介性のエンドサイトーシスを阻害するドミナントネガティブなバージョンのダイナミン(Dyn K44A)でトランスフェクションされることによって無効化できることである。β2ARは主にクラスリン依存的な様式でインターナライズするので、クラスリン重鎖に対する低分子干渉RNA(RNAi)を使用して細胞のクラスリン発現を枯渇させえる。図 8eは、γ-セクレターゼ活性の増強が前記RNAiによって無効化できたことを示している。これらの結果は、共に次の事項を示している。その事項とは、γ-セクレターゼ活性のβ2AR-誘導性の増強が、アゴニスト誘導性でクラスリン媒介性のエンドサイトーシスと関連するシグナル伝達機構によって媒介されることである。
【0044】
さらにγ-セクレターゼ活性増強に関するβ2ARのアゴニスト誘導性エンドサイトーシスの必要性を確認するために、実験をβ2ARの別の変異(β2AR L339,340 A, またはβ2AR LL)同様に別の内因性アドレナリンレセプターβ3ARで繰り返した(その両方がアゴニスト誘導性エンドサイトーシスに欠陥がある)。HEK293細胞におけるこれらのレセプターの刺激によって、レセプターエンドサイトーシス(図 8f)もγ-セクレターゼ活性の増強(図 8g)も生じないが、cAMPレベルの上昇が発生することが見出された(データ示さず)。これらの結果は、次の事項を明瞭に示している。その事項とは、β2ARのアゴニスト誘導性でクラスリン媒介性のエンドサイトーシスが、γ-セクレターゼ活性の増強に関与することである。
【0045】
上記の実験は、クラスリン媒介性のエンドサイトーシスがレセプター活性化によるγ-セクレターゼの増強に必要であることを示している。しかしながら、クラスリン媒介性のエンドサイトーシス単独がγ-セクレターゼ 活性の増強を誘発するために不十分であるかどうかはなお不明である。この質問に答えるために、HEK293細胞を、トランスフェリンレセプターの構成的なクラスリン依存性エンドサイトーシスを誘発できるトランスフェリンで処理した。図 10に示したとおり、トランスフェリン処理は、たとえ構成的なエンドサイトーシスを誘発できるとしても、γ-セクレターゼ活性を増強することには失敗した。これらの結果は、クラスリン媒介性のエンドサイトーシスは必要であるが、γ-セクレターゼ活性のβ2AR-誘導性の増強には十分ではなかったことを示唆している。
【0046】
例 5: 増強したγ-セクレターゼ活性およびAβ産生はエンドサイトーシス経路と関連する
図 3に示したとおり、一旦細胞の内側にはいれば、エンドサイトーシスのベシクルは特異的なエンドサイトーシス経路を経由して彼等の目的地へと輸送される。エンドサイトーシス経路には、Rabグアノシントリホスファターゼ(Rab GTP加水分解酵素)によって制御される細胞内コンパートメントの輸送が関与する。原形質膜から早期エンドソーム、そしてLELへのエンドサイトーシス輸送が、それぞれ早期のエンドソームマーカーRab5またはLELマーカーRab7のドミナントネガティブ変異体であるRab5 S34NまたはRab7 T22Nによってブロックできることが知られている。図 11aおよび図 11bに示したとおり、HEK293細胞におけるRab5 S34NまたはRab7 T22Nの発現によって、γ-セクレターゼ活性 (図 11a) および Aβ産生 (図 11b)のβ2AR-刺激性の増強が無効化された。というのも、Rab7 T22Nトランスフェクト細胞は、早期エンドソームに輸送されるエンドサイトーシスベシクルをなおも有しえるからである。これらの結果は、次の事項を示唆している。その事項とは、増強したγ-セクレターゼ活性 および Aβ産生がLELへ輸送されるエンドサイトーシスベシクルを必要とし、LELがγ-セクレターゼ活性 および Aβ産生におけるβ2ARの効果に決定的に関与していること指摘していることである。
【0047】
さらにLELの関与を示すために、LELベシクルをFlag-Rab7-トランスフェクト細胞からFlag抗体で免疫単離し、引き続いて単離体を早期エンドソームマーカー, 早期エンドソーム 抗原 1 (EEA1), またはLELマーカー, リソソーム関連膜タンパク質-1(LAMP-1;lysosome-associated membrane protein-1)でブロッティングして検証した。図 11cに示したとおり、LELにおけるAβの量(Flag-Rab7またはLAMP-1ではない)は、1-hのβ2AR 刺激の後に増加し、LELにおけるAβ産生がLELの量を増加させることなくβ2AR活性化によって増強したことを指摘している。
【0048】
再び、γ-セクレターゼ活性の増強におけるLELの関与は、β-ARに限定されない。LELにおけるγ-セクレターゼ活性がDOR刺激後にも増強されたことを図 12は示している。図 12に示される実験は、SH-SY5Y神経芽細胞腫で行った。これらの細胞を、1 μM DADLEで30 分間処理し、次に分画した。その分画物を、アルカリホスファターゼ (AP) アッセイ および 蛍光原基質アッセイに供試した。これらの結果は、DADLE処理がAP陽性分画におけるγ-セクレターゼ活性を増強するが(*P < 0.01)、AP陰性分画では増強しないことを明瞭に示している。
【0049】
以上より、図 11 および 図 12に示された結果は次の事項を示唆している。その事項とは、LELが、Aβ産生におけるβ2ARまたはDOR活性化の効果において決定的な役割を担っていることである。これらの観察は、エンドサイトーシスのコンパートメントがγ-セクレターゼ活性に至適な環境を提供できることを確認している。
【0050】
LELにおけるγ-セクレターゼがAβ産生の増加と関連することを確認するために、免疫蛍光顕微鏡を使用して、LELにおけるγ-セクレターゼの局在化がβ2AR刺激によって促進されるかどうかを検討した。細胞株における実験に関して、LELを発現したGFP-Rab7でマークした。図 11dは、次の事項を示している。その事項とは、PS1(γ-セクレターゼ活性部位サブユニット)とGFP-Rab7との共局在化が、トランスフェクションしたHEK293細胞においてβ2AR刺激30 min後にHEK293細胞において発生したことである。急性海馬スライスに関して、LELを特異的な抗体を用いてLAMP-1でマークした。図 11eは、PS1またはニカストリン(別のγ-セクレターゼコンポーネント)とLAMP-1との共局在化がIso処理後に増加したことを示している。上記の結果は共に、β2AR刺激がγ-セクレターゼのLELへの局在化を促進し、次にγ-セクレターゼ活性およびAβ産生の増強が導かれることを示唆している。
【0051】
例 6: PS1/γ-セクレターゼ および β2ARの間の構成的な会合
Dyn K44AまたはRab5 S34Nの共発現によってβ2AR刺激に続くLELにおけるPS1の局在化の上昇が効率的に阻止される(図 13a)との所見は、PS1が原形質膜からLELへと輸送されるだろうことを示唆している。クラスリン被覆ピットおよびベシクルを特異的にマークするβ-アダプチン(β-adaptin)を用いることで、HEK293細胞においてDORの3-min刺激後にPS1とβ-アダプチンおよびエンドサイトーシスしたレセプターとの共局在化が見出された(図 13b)。これらの所見は、β2ARまたはDORのアゴニスト刺激後のPS1および活性化レセプターの共エンドサイトーシスを暗示する。この事項は、驚くべきことではない。というのも、PS1は、構成的に膜タンパク質(例えば、APPおよびNotch)と相互作用し、β2ARは他の膜貫通タンパク質のエンドサイトーシスを後者とヘテロダイマーを形成することによって仲介できるからである。このことが行われていることを示すために、PS1およびβ2ARまたはDORの間の会合を共免疫沈降アッセイで検討した。
【0052】
図 13cに示したとおり、四つの必須のγ-セクレターゼ成分, PS1, ニカストリン, APH-1a(anterior pharynx defective-1a)およびプレセニリンエンハンサー2 (PEN-2)を、CHAPSO含有緩衝剤中でβ2ARまたはDORで共沈し(図 13cの左のパネル)、そこではγ-セクレターゼは複合体として残っている。CHAPSOをTriton X-100(γ-セクレターゼ複合体を解離することが知られている)で置換することによって、レセプターとニカストリン, APH-1a およびPEN-2との共沈が崩壊されたが、PS1-NTFまたはPS1-CTF抗体で検出されたとおり、PS1はされなかった(図 13cの中央パネル)。これらの結果は、β2ARおよびDORがPS1への直接的な結合を介してγ-セクレターゼと会合することを示唆している。しかしながら、係る会合は、どのGPCRでも発生することはない。というのも、別のメンバーのGPCRs, B2ブラジキニンレセプター(B2R)は、PS1/γ-セクレターゼと会合すること(図 13c, 右)又はγ-セクレターゼ活性を誘発すること(図 13d)に失敗したからである。以上より、これらの結果は、次の事項を示唆している。その事項とは、β2AR-PS1またはDOR-PS1会合が、特異的であり且つこれらのレセプターの活性化によるγ-セクレターゼ活性の増強に機構的な基礎を提供することである。加えて、これらの結果は、次の事項を示唆している。その事項とは、レセプタ ― PS1会合を崩壊させる又は弱めることができる試薬が、アルツハイマー又は関連する神経疾患を治療または予防するための潜在的な治療剤であることである。
【0053】
例 7: PS1およびレセプターの間の会合を崩壊させる又は弱めることができる試薬のスクリーニング
PS1 および レセプターの間の会合を崩壊させる又は弱めることができる試薬は、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)などの任意の適切な方法でスクリーニングしえる。FRETは、エネルギーが励起したドナーフルオロフォアからアクセプターフルオロフォアへと短距離(< 10 nm)の双極子間相互作用を介して移動するプロセスである。従って、FRETを使用して二つの結合タンパク質の間の物理的な相互作用を検出できる。FRETでは、エネルギーの非放射性の伝達によって、前記ドナーからの光の放射を減弱する。従って、FRETは、例えば、アクセプター上の蛍光部分を光退色などの適切な方法で破壊する前後で、同じサンプルにおける前記ドナーからの光放射の強度を比較することにより検出しえる。FRETが現在する場合、ドナーの発光はアクセプターの光退色後により強い。
【0054】
一つの例において、PS1-Cy3 光退色の前後でのGFP-DOR および PS1-Cy3の間のFRET効率の変化が、コトランスフェクションしたHEK293細胞中で検出された。前記細胞を、GFP-DOR および HA-ps1でコトランスフェクションした。HA-PS1発現は、HAに対する一次抗体およびフルオロフォア, Cy3 (Jackson ImmunoResearch)を結合させた二次抗体を添加することによって同定しえる。他方、GFP-DOR 発現はGFPの蛍光で検出しえる。
【0055】
図23A-23Cは、そのような実験の一つからの結果を示している。ライカ共焦点顕微鏡から得られたイメージには、GFP-DORドナーおよびPS1-Cy3アクセプターのフルオロフォア(488nmレーザーで励起)の混合性の発光スペクトルが含まれる。最初に、二つのタンパク質をHEK293細胞で共発現させたときの、ドナー(GFP-DOR)による光放射がアクセプター(PS1-Cy3)の光退色後により強くなるかどうかを検査した。図 23Aは、局所的な光退色の前後での細胞の光退色および非光退色領域からのイメージを示す。選択された領域を、Cy3の吸収スペクトルの561 nmのレーザーで光退色した。GFP-DOR 発光に対応する強度は、同じ細胞における非光退色と比較して、光退色領域において実質的に高かった。これらの結果は、GFP および Cy3の間で発生したFRETおよび係るエネルギー移動がCy3の光退色に際して無効化または減少化されることを指摘している。
【0056】
図 23 Bは、トランスフェクションしたHEK293細胞からの個々のイメージ(GFP-DORまたはPS1-Cy3)の代表的なセットを、561 nmのレーザーでのアクセプターの光退色の前後で示す。GFP-DORイメージは、光退色後のドナー放射(疑似色の強度イメージ)における増加を示し、この増加は光退色に暴露した細胞の領域のみで発生した。
【0057】
図 23Cに示したとおり、表面領域付近の会合したGFP-DOR および PS1-Cy3の間の平均化した相対的なFRET効率は、彼等の相互作用の指標の22.8±3.9%付近であることが見出された。ポジティブコントロールにおいて、GFP-DORを発現している細胞をGFPに対する一次抗体およびCy3を結合させた第二抗体でインキュベーションした。このポジティブコントロールは、27.9±5.3%のFRET効率を示した。ネガティブコントロールにおいて、GFP-DORを発現している細胞をアクチンに対する一次抗体およびCy3を結合させた第二抗体でインキュベーションした。このネガティブコントロールは、7.8±4.7%のFRET効率を示した。これらのデータは、共にDORレセプターがPS1と会合することを示唆する。
【0058】
例 8: 動物におけるγ-セクレターゼ活性, Aβ産生, およびアミロイドプラーク形成の増強
これらのAD-関連分子におけるβ2ARの効果を、さらに動物において調査した。インビボ実験は、次の事項を示した。その事項とは、ラット海馬におけるγ-セクレターゼ活性(図 14a)およびAβレベル(図 14b)の両方が、アドレナリン作動性レセプター(ノルエピネフリン, NE)に対する内在性リガンドまたは公知のβ2AR-選択的アゴニスト クレンブテロール(Cle)の急性注射によって有意に増強したことである。これらの結果に基づいて、これらのレセプターのアゴニストへの慢性的な暴露によって動物モデルにおけるAD-関連の病態が悪化することが予測できる。ADのマウスモデル(APPswe/PS1ΔE9 二重トランスジェニックマウス)での実験によって、このアイデアが支持される。というのも、これらのマウスは、30日間のIsoまたはCleの長期投与後に大脳のアミロイドプラークの増加を呈したからである(図14c - 14e)。この観察によって、β2ARの活性化がγ-セクレターゼ活性, Aβ産生, およびアミロイドプラーク形成を増強できることが指摘された。従って、これらのレセプターのアンタゴニストは、Aβまたはアミロイドプラークの形成の減少に有用である。図14fおよび14gは、このことが実際に事実であることを示しており、ICI 118,551(β2AR特異的なアンタゴニスト)は有意にアミロイドプラークの量を減少させた。
【0059】
例 9: インビボでの動物モデルの研究
β-アドレナリンレセプターアンタゴニストのインビボ有効性を評価するために、係る化合物をアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデル(APPswe/PS1ΔE9)に投与した。約 6月齢で、これらのマウスは、大脳のAβレベルの上昇および大脳のアミロイドプラーク数の増加を伴う進行性の空間的な記憶障害を呈した。
【0060】
以下の研究において、APPswe/PS1ΔE9 マウス および 非-トランスジェニック (NTg)同腹仔を、性および齢が適合したコホートに割当てた。試験化合物を、最初の4月齢および引き続く一又は二月で経口的に投与した。APPswe/PS1ΔE9および非トランスジェニックマウスにおける多様な化合物の効果を、次にモーリス水迷路検査で評価した。
【0061】
神経科学者のRichard G. Morrisが1984に開発したモーリス水迷路検査は、現在一般に空間的な記憶の形成における海馬の役割を探索するために使用されている。実験に使用された迷路は、ミルク粉末を付加して不透明にした24-25 ゜Cの水で満たした環状のプール(直径 1.2 m)であった。そのプールは、別個の物体を含んでいる大まかにパターン化されたカーテンおよび棚からなる固定された空間的な手がかりのなかに配置された。検査の間、マウスを穏やかに水中に下げて、プールの壁に向かわせた。マウスは、最初にポールでマークし高くしておいた環状の足場(10 cm 直径)へと遊泳させる、選択した回数のセッションのための可視の足場での訓練を経験(例えば、一日に八試行で2日の連続日)した。可視の足場訓練は、統計分析のために二つの訓練ブロック(例えば、一日に四つの試行)に分けられた。可視の足場訓練の間、足場位置(NE, SE, SW, またはNW)および開始ポジション(N, E, S, またはW)の両方を、各試行で擬似ランダムに変化させた。
【0062】
隠れ足場訓練を、選択した日数(例えば、一日に四試行で6日の連続日)行った。この訓練でマウスを、水面下1.5 cmに沈められた足場を探索させる。60 sec内に足場に到達することに失敗したマウスを、足場に導いた。隠れた足場の試行の間、足場の位置はそのままで、マウスは四つの擬似ランダムに選択した位置(N, E, S, またはW)の一つのプールに入った。各々の隠れた足場試行の後、マウスは、足場に30 sec残され、足場から除かれ、ホームケージに戻される。
【0063】
最終的な隠れ足場訓練の二十四時間後、足場がプールから除去され、マウスに足場を60 sec探索させるプローブ試行を行った。全ての試行を、上記プールに直接的にマウントしたカメラでモニターし、コンピュータトラッキングシステムを用いて記録し、分析した。
【0064】
動物モデル実験1
一つの実験において、プロプラノロールおよびナルドロール(naldolol)をAPPswe/PS1ΔE9 トランスジェニックおよび非-トランスジェニック(NTg)マウス投与して、アミロイドプラーク形成におけるβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストの効果を評価した。APPswe/PS1ΔE9 マウス および 非-トランスジェニック (NTg)同腹仔を、性および齢が適合したコホートに割当てた。化合物を、最初の4月齢および引き続き6月齢まで投与した。プロプラノロールは、容易に血液脳関門(BBB)を通過できるので、中枢神経系のβ-アドレナリンレセプターと拮抗できる。他方、ナドロール(同様にβ-アドレナリン作動性のレセプターアンタゴニストである)は、BBBを通過できない。マウスを、モーリス水迷路を用いて空間学習および記憶で試験した。
【0065】
モリスの水迷路課題において、マウスは最初に各日二ブロックの訓練で二日間の可視の足場訓練に供試された。訓練の各ブロックにおいて、足場を見出して登るマウスの逃避時間を記録した。遺伝形質または薬物効果は、この訓練で見出されなかった(P = 0.101, 図 15a)。
【0066】
次に、マウスを、各日一ブロックの訓練で六日間の隠れ足場訓練に供試した。コントロールマウスは、非-トランスジェニックマウスと比較して、有意な障害を示した(P < 0.001, 図 15b)。プロプラノロール処理によって、コントロールマウスと比較して、処理マウスでは障害が部分的に軽減されたが(P = 0.039)、ナドロール処理によって効果は示されなかった(P = 0.222)。
【0067】
最終的に、マウスは、最終的な隠れ足場訓練の24 h後にプローブ試行に供試された。この試行において、マウスを、足場なしで1 min自由に泳がせた。足場クアドラントにおいてマウスが過ごす時間のパーセンテージを分析した(図 15c)。再び、トランスジェニックマウスおよび非トランスジェニックコントロールマウスの間に有意な遺伝形質効果が存在した(P < 0.001)。プロプラノロール処理によって、部分的にトランスジェニックマウスにおける空間的な記憶の障害が軽減された(P = 0.021)、他方でナドロールは効果を有さなかった(P = 0.703)。プロプラノロールは足場検査に効果を示したが、これらの効果は遊泳速度の差から生じたのではない(図 15d)。
【0068】
上記研究によって、プロプラノロールが中枢神経系におけるβ-アドレナリン作動性レセプターと拮抗できることが明瞭に示された。プロプラノロールは非選択的なβ-アドレナリン作動性アンタゴニストであるので、どのサブタイプが上記で観察された効果の原因であるのかを決定するためにインビボでサブタイプ選択的なβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストを検討した。検討したサブタイプ選択的なβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストには、ベタキソロールおよびICI 118,511が含まれる。ベタキソロールは、BBBを通過できるβ1AR選択的なアンタゴニストである。ICI 118,551は、BBBを通過できるβ2AR選択的なアンタゴニストである。
【0069】
可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかった(図 16a, P = 0.747)。しかしながら、隠れ足場訓練(図 16b)において、ICI 118,551治療は認知障害を有意に軽減した(P < 0.001)。ベタキソロールは、ある程度効果を示した;しかしながら、この効果は、ICI 118,511のものと比べて有意ではなかった(P = 0.071)。プローブ試行(図 16c)において、ICI 118,551の効果は、有意であった(P < 0.001)。再び、ベタキソロールは、ICI 118,511のものと比べて低い有意な効果を示した(P = 0.391)。プロプラノロールの効果は、遊泳速度における変化からの結果ではなかった(図 16d)。
【0070】
より効果的であるβ2AR選択的アンタゴニストは、それぞれβ1AR および β2ARに特異的な別のペアのアンタゴニストを比較する更なる実験によって確認された。図17a - 17dは、図16のものと類似する動物試験からの結果を示している。メトプロロールは、BBBを通過できるβ1AR選択的なアンタゴニストである。ブトキサミンは、BBBを通過できるβ2AR選択的なアンタゴニストである。図 17aに示したとおり、可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかった(F = 2.017, P = 0.139)。しかしながら、図17bに示されたとおり、隠れ足場訓練において、ブトキサミン治療は認知障害を有意に軽減した(F = 15.581, P < 0.001)。対照的に、メトプロロールは、効果を示さなかった(F = 0.104, P = 0.748)。図 17cによって、次の事項が示された。その事項とは、プローブ試行において、ブトキサミンの効果は有意であり(P = 0.020)、他方でメトプロロールは効果を有さなかった(P = 0.768)。再び、図 17dに示したとおり、観察された効果は、遊泳速度の差によらない。
【0071】
以上より、上記の結果は、次の事項を示している;つまり、β-アドレナリンレセプターアンタゴニストは、第一に中枢神経のβ-アドレナリン作動性レセプター(β-AR)を標的にして、増強したγ-セクレターゼ活性および減少したAβ産生を達成することである。さらにまた、空間的な記憶障害を軽減させる大部分の所望の効果は、β2ARの阻害によって達成できるが、他方でβ1ARの阻害は低い効果を生じた。従って、本発明の態様により、アルツハイマー病の予防または治療に使用されるβ-ARアンタゴニストは、好ましくはβ2ARにおいて作用するものである。
【0072】
更なる実験において、これらのβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストが非トランスジェニックマウスに効果を示さないことが見出された。図 18に示したとおり、薬物効果は、可視の足場訓練(図18a, P = 0.054), 隠れ足場訓練(図18b, P = 0.929), またはプローブ試行(図18c, P = 0.940)で観察されなかった。これらの結果は、次の事項を示唆している。その事項とは、これらのβ-アドレナリンレセプターアンタゴニストが記憶障害を軽減させることに効果的であるが、記憶障害を有していない「正常な」被験者に検出可能な効果を有さないことである。
【0073】
図19A-19Cは、図15のものと類似する試験からの結果を示している(しかし、DORアンタゴニスト ナルトリンドールでのもの)。ナルトリンドールは、BBBを通過できるDOR選択的なアンタゴニストである。図19aは、可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかったことを示している(F = 0.754, P = 0.391)。また、図19bは、隠れ足場訓練において、ナルトリンドール治療は認知障害を軽減したことを示している(F = 4.945, P < 0.030)。プローブ試行において、図 19cに示したとおり、ナルトリンドールの効果は、有意であった(P = 0.006)。
【0074】
動物モデル実験2
更なる動物実験において、四月齢のAPPswe/PS1ΔE9二重トランスジェニックマウスは、一日に生理食塩水 (Sal)、2 mg/kgのクレンブテロール(Cle, β2AR選択的なアゴニスト)または1 mg/kgのICI 118,551(ICI, β2AR選択的なアンタゴニスト)を30日間経口的に投与された。マウスを、次に実質的に上記のように従来のモーリス水迷路のバージョンを用いて空間的な学習および記憶で試験した。
【0075】
水迷路は、24-25 ゜Cの水で満たし、ミルク粉末を付加して不透明にした環状の 1.2 mのプールである。そのプールは、別個の物体を含んでいる大まかにパターン化されたカーテンおよび棚からなる固定された空間的な手がかりのまんなかに配置された。マウスを穏やかに水中に下げて、プールの壁に向かわせた。マウスは、最初にポールでマークし高くしておいた環状の足場(10 cm 直径)へと遊泳させる、2連続日(一日に八試行)の可視の足場での訓練を経験した。可視の足場の日は、統計分析のために四つの試行の二つの訓練ブロックに分けられた。可視の足場訓練の間、足場位置(NE, SE, SW, またはNW)および開始ポジション(N, E, S, またはW)の両方を、各試行に擬似ランダムに変化させた。
【0076】
図 20に示したとおり、モーリス水迷路の視覚的な足場バージョンにおける、生理食塩水(Sal), クレンブテロール(cle), およびICI 118,551 (ICI)処理した二重トランスジェニックマウスと非トランスジェニック同腹仔(NTg)の避難の逃避時間によって、小さい(しかし、統計学的に非有意)薬治療の効果が示された。同様に、小さい(しかし、統計学的に非有意)効果が、Sal処理したトランスジェニックおよび非トランスジェニックマウスの間に見られた。(n = 3-7)。
【0077】
隠れ足場訓練を、6日の連続日(一日に四試行)で行った。この訓練でマウスを、水面下1.5 cmに沈められた足場を探索させる。60 sec内に足場に到達することに失敗したマウスを、足場に導いた。隠れた足場の試行の間、足場の位置はそのままで、マウスは四つの擬似ランダムに選択した位置(N, E, S, またはW)の一つのプールに入った。各々の隠れた足場試行の後、マウスは、足場に30 sec残され、足場から除かれ、ホームケージに戻される。
【0078】
図 21は、モーリス水迷路の隠れた足場への遊泳における、生理食塩水(Sal), クレンブテロール(cle), およびICI 118,551(ICI)処理した二重トランスジェニックマウスと非トランスジェニック同腹仔(NTg)の避難の逃避時間を示している(各日に4試行の1ブロック)。この検査において、有意なトランスジェニック効果が、NTg および Salマウスの間に見られた。ICI マウスは、Sal マウスよりも早い学習曲線を呈示した。他方で、Cle治療では効果がないようであった。(n=3-5)。この結果は、ICI 治療がトランスジェニックマウスの記憶障害の軽減において非常に効果的であることを示唆している。
【0079】
最終的な隠れ足場訓練の二十四時間後、足場がプールから除去され、マウスに足場を60 sec探索させるプローブ試行を行った。全ての試行を、上記プールに直接的にマウントしたカメラでモニターし、コンピュータトラッキングシステムを用いて記録し、分析した。
【0080】
図 22は、モーリス水迷路での最終的な隠れた足場訓練の24-h後に行われたプローブ試行の間に足場で過ごしたパーセンテージ時間を示している。NTgおよびICIマウスは、足場で長い比率の時間を過ごした。(n=3-5)、これはICI治療が記憶障害の軽減において実質的な効果を与えることを示唆している。
【0081】
方法および試薬
以下は、上記で議論した実験および例で使用した幾つかの特定の処置を記載する。明確性のために、当業者に周知である使用された一般的な生化学的および分子生物学技術は、記載されない。
【0082】
試薬および細胞トランスフェクション
全ての試薬は、他に断らない限りSigmaまたは他の市販の供給源から得た。ヒト FL-APPを、pcDNA3 ベクターにクローン化し、PCRでAPPsweに変異させた。APPのシグナルペプチドを有しているC99を、pcDNA3 ベクターにサブクローン化した。DNA配列の信憑性を、シークエンシングにより確認した。ヒトのクラスリン重鎖に関するRNAiプラスミドを、設計して5'-GCTGGGAAAACTCTTCAGATT-3'の配列を標的とした。NS RNAiは、5'-GGCCGCAAAGACCTTGTCCTTA-3'であった。
【0083】
動物および薬治療
全ての動物実験は、実験動物の取扱い及び使用に関する国立衛生研究所ガイドラインに従って行った。急性実験において、Sprague-Dawlyラット(Shanghai SLAC Laboratory Animal Companyからえた)は、2 μgのノルエピネフリンを脳室内に注射された。標準脳座標は:前側-後側, ~ 0.9 mm; 左-右, ~ 1.5 mm; 背側-腹側, ~ 3.8 mmであった。ラットの急性腹腔内注射を、0.5 mg/kgのクレンブテロールで行った。30-dの長期実験において、5月齢までのAPPswe/PS1ΔE9 マウス (Jackson Laboratory)は、生理食塩水(n = 4, 二個体のメスおよび二個体のオス) および 3 nMのイソプロテレノール (n = 6, 四個体のメス および 二個体のオス)の日々の注射のためにカニューレを備えつけられた(前側-後側, ~ 0.6 mm; 左-右, ~ 1.2 mm; 背側-腹側, ~ 1.8 mm)。APPswe/PS1ΔE9 マウスは、一日に生理食塩水 (n = 6, 三個体のメスおよび三個体のオス), 2 mg/kg/d クレンブテロール(n = 7, 四個体のメスおよび三個体のオス), および1 mg/kg/d ICI 118,551(n = 6, 三個体のメスおよび三個体のオス)を経口投与された。
【0084】
免疫組織化学およびアミロイドプラークの定量
マウスを、麻酔し、心臓への生理食塩水灌流によって屠殺した。脳を単離し、中部矢状縫合で二分し、4% パラホルムアルデヒドをリン酸緩衝液(pH 7.6)中に有する溶液に5 h、4°Cで配置した。次に、固定後の半球を、10 μmの切片に環状に凍結切片を作製した。切片を、抗-Aβ 6E10 抗体 (Chemicon)でインキュベーションし、TRITC-結合型の 抗-マウス抗体でインキュベーションした。切片を、次にレーザー共焦点蛍光顕微鏡(Leica TCS SP2)を用いて視覚化し、イメージを作製した。アミロイドプラークの領域を、Image-Pro Plus 5.1ソフトウェア(Media Cybernetic)で定量した。イメージを、閾値化によってグレイスケールに転換し、プラーク領域を推定した。
【0085】
海馬の培養および急性切片の調製
初代の海馬培養を、Amaxa Nucleofectorシステムを用いてエレクトロポレーションした出生後1日のSDラットから調製し、B27/neurobasal培地(インビトロゲン)で二週間維持し、それからアゴニスト処理に使用した。出生後8週のSDラットからの急性海馬スライスを、氷冷の人工的なCSF中でビブラトームを用いて調製した。
【0086】
Aβに対するELISA
細胞を、Iso (10 μM)またはDADLE (1 μM)に1 h暴露し、さらに馴化培地中で別に6 hインキュベーションした。その馴化培地を、サンドイッチELISAキット(Biosource)でAβ40 および Aβ42に関して検出した。ラット海馬を、ホモジナイズし、100,000 X g で1 h遠心分離した。上清を、以前の報告52にしたがって、BNT77/BA27 および BNT77/BC05サンドイッチ ELISAキット(Wako)でラット Aβ40 および Aβ42に関して検出した。全ての測定は、二重に行われた。
【0087】
免疫沈降
HEK293細胞またはラット海馬スライスを、RIPA緩衝剤で溶解した。Flagタグをつけたレセプターおよび内在性DORを、Flag 抗体結合ビーズまたはDOR 抗体(Santa Cruz)で免疫沈降した。免疫沈降した複合体を、SDS-PAGEで分離し、Flag, PS1-NTF, PS1-CTF, ニカストリン, APH-1a およびPEN-2抗体(Calbiochem)でブロットした。HEK293
発現基質アッセイ
実験を、以前27に記載と同様に行った。HEK293細胞を溶解し、アリクウォット(50 μg タンパク質を含有している)を13, 000 X g で15 min遠心分離した。細胞膜分画を、再懸濁し、50 μlの1, 10-フェナントロリン, アプロチニン, およびロイペプチンを含有している緩衝液(pH 6.5)中で37 °Cで2 hインキュベーションした。インキュベーションした膜分画から生じたC60を、HA抗体12CA5を用いるウエスタンブロットで測定した。
【0088】
蛍光原基質アッセイ
アッセイを、報告28,29のとおり行った。細胞または海馬組織を、溶解し、ホモジナイズした。アリクウォット(50 μgの細胞溶解産物または海馬のホモジネートを含有している)を13, 000 X g で15 min遠心分離した。膜のペレットを、再懸濁し、12 μlの蛍光原基質(Calbiochem)を含有している50 μlの緩衝液(pH 6.5)中で37 °Cで2 hインキュベーションした。インキュベーション後、蛍光を励起波長355 nm および発光波長440 nmで分光計を用いて測定した。
【0089】
パルスチェイスアッセイ
HA-C99 および DORでコトランスフェクションしたHEK293細胞を、メチオニンおよび血清がない培地(Invitrogen)中で2 h飢餓させ、引き続いてDADLEの非存在下または存在下で、1 hで500μCi[35S]メチオニン(Amersham Pharmacia)でパルス標識した。細胞を、次に過剰量の非標識メチオニンを含有している培地中で3 h追跡した。細胞溶解産物中のC99を、12CA5で免疫沈降し、オートラジオグラフィーで分析した。
【0090】
LELの免疫単離
実験は、ベシクル単離プロトコール53を修飾したものである。β2AR, C99 およびFlag-Rab7でコトランスフェクションしたHEK293細胞からのホモジネートを、500 x g で10 min遠心分離した。生じた上清を、4 °CでM2抗体結合ビーズで8 hインキュベーションした。単離したLELを、次にLAMP-1およびEEA1に対する抗体(BD Biosciences)でのウエスタンブロットに供試した。
【0091】
免疫蛍光顕微鏡観察
HA-タグをつけたレセプターとGFP-Rab7またはGFP-Rab7 T22Nの有り無しの条件でトランスフェクションしたHEK293細胞における実験に関して、細胞は抗体 12CA5 を30 min与えられ、アゴニストで処理され、固定された。Flag-Rab7およびHA-Dyn K44AまたはGFP-Rab5 S34Nでトランスフェクションした細胞における実験に関して、細胞をアゴニストで処理し、次に固定した。急性海馬スライスにおける実験に関して、IsoまたはDADLEに暴露されたスライスを固定し、凍結切片を作製した。引き続く免疫染色には、一次抗体(PS1-NTF, Flag, LAMP-1, またはβ-アダプチン抗体またはFITC結合HA抗体を含む)および二次抗体(Cy3結合抗ウサギおよび FITC結合抗マウス抗体, Jackson ImmunoResearch)が関与した。イメージを、レーザー共焦点蛍光顕微鏡(Leica TCS SP2)を用いて獲得した。
【0092】
レセプターとPS1の会合のFRET測定
FRET分析に関して光退色有り無しのイメージを、Leica TCS SP2共焦点顕微鏡で得て、ソフトウェアで分析した。要約すると、HEK293細胞を、GFP-DOR および HA-ps1でコトランスフェクションした。HA-PS1発現は、HAに対する一次抗体およびCy3(Jackson ImmunoResearch)を結合させた二次抗体でインキュベーションした後のCy3蛍光をモニタリングすることによって検出された。他方、GFP-DOR 発現はGFP蛍光検出で同定された。GFP-DORまたはPS1-Cy3を発現している細胞からの発光スペクトルを、488 nm レーザーを用いてλモードで取得した。この方法によるFRET効率の測定に関して、アクセプター光退色に関するLeicaソフトウェアアプリケーションを適用した。選択した細胞表面領域を、Cy3フルオロフォアを退色させる561 nm レーザーで光退色させた。GFP-DORおよびHA-ps1でコトランスフェクションしたHEK293細胞における光退色後のCy3シグナルの減少は、平均して84 ± 5.3% (n = 50)であった。FRETは、ps1-Cy3(アクセプター)の光退色後のGFP-DOR(ドナー)シグナルにおける増加として解釈された。相対的なFRET効率を、(1-[Cy3 I退色前/Cy3 I退色後]) X 100%として計算された。コントロールの目的で、光退色のない細胞表面の領域も、FRETで分析した。
【0093】
統計学的分析
細胞実験からのデータを、共分散の蓄積推定値での独立平均の比較に関するスチューデントのt検定で分析した。マウスのデータの統計学的な有意性を、ANOVAとスチューデントのt検定で決定した。
【0094】
本発明は限られた数の態様に関して記載されているが、当業者(この開示の利益を有している)は他の態様が本明細書中に開示される本発明の範囲から逸脱することなく達成できると認識するだろう。従って、本発明の範囲は、本願の特許請求の範囲における請求項によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、APPからのAβの形成におけるβ-セクレターゼ および γ-セクレターゼの経時的な作用のプロセスを説明する図である。APPは、最初にβ-セクレターゼで切断されて、可溶性のAPPs-βおよびC99を産生する。C99は、γ-セクレターゼで次々に切断されて、Aβ および C60を産生する。
【図2】図2は、γ-セクレターゼの四つの主な成分を示す(すなわちプレセニリン, ニカストリン(NCSTN), アセチルコリン-1, およびPEN-2)。
【図3】図3は、レセプター活性化およびLELへとエンドサイトーシスしたベシクルの輸送の結果としてのエンドサイトーシスのプロセスを説明する図である。
【図4】図4は、アルツハイマー病の予防または治療するためのレセプターアンタゴニストをスクリーニングする本発明の一態様による一方法のフローチャートを示す図である。
【図5】図5a - 5eは、GPCR刺激が細胞株および初代海馬細胞におけるAβ産生を増加させることを示す図である。β2AR および APPsweを共発現しているHEK293細胞(a)は、ビヒクルまたは1 μMのL685,458の6-hの前処理後に10 μM Proの非存在下または存在下で10 μM Isoで1 h処理された; β2AR および C99を共発現しているHEK293細胞(bからc)は、10 μM Proの非存在下または存在下で10 μM Isoで1 h処理された。C99を発現している初代の海馬培養細胞(d)を、10 μM Isoまたは1 μM DADLEで1 h処理した。分泌されたAβ40(暗色のバー)およびAβ42(明色のバー)を、ELISAで検出した。それらの値は、三つの独立の実験の平均±S.E.であり、基礎レベルの倍数値として表される(*P<0.01)。(e) DOR および C99でコトランスフェクションしたHEK293細胞におけるC99切断の1 μM DADLEの1-h処理の有り無しでのパルスチェイス分析。データは、少なくとも三つの独立の実験の代表である。Con, コントロール; Iso, イソプロテレノール; Pro, プロプラノロール; DADLE, [D-Ala2, D-Leu5]-エンケファリン。Pro, プロプラノロール; DADLE, [D-Ala2, D-Leu5]-エンケファリン; NALT, ナルトリンドール。
【図6】図6a - 6dは、β2AR刺激がニューロン細胞におけるγ-セクレターゼ 活性を増強することを示す図である。(a) C99 および β2ARでコトランスフェクションしたHEK293細胞を、10 μM Proの非存在下または存在下で10 μM Isoで異なる時間処理した。細胞膜分画を、インビトロで37°Cで2 hインキュベーションした。これらの細胞膜分画からの生じたC60を、ウエスタンブロットで検出した。データは、少なくとも四つの独立の実験の代表である。(bからd) C6神経膠腫(b), ラット急性海馬スライス(c), およびβ2AR-トランスフェクションした野生型の及びプレセニリン欠乏性のMEFs(d)を、それぞれ10 μM Iso, 10 μM Pro, 1 μM DADLE および 1 μM NALTを含む指摘した試薬で30 min処理した。細胞またはスライスのホモジネートからの膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した。データは、少なくとも三つの独立の実験の平均±S.E.であり、基礎活性の倍数値として表される(*P<0.001)。NALT, ナルトリンドール。
【図7】図7A - 7Bは、DOR活性化の結果としてのγ-セクレターゼ活性の増強、および係る増強の時間経過の結果を示す図である。SH-SY5Y神経芽細胞腫(図 7A) および 急性海馬スライス(図 7B)を、1 μM DADLE または1 μM NALTで30 分間処理した。膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した(*P < 0.001)。図 7Cは、β2AR活性化後のγ-セクレターゼ活性の時間経過を示す。C6神経膠腫を、10 μM Isoで指摘した時間刺激した。細胞膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した(*P < 0.01)。
【図8】図8a - 8gは、γ-セクレターゼ活性の増強と関連したレセプターエンドサイトーシスを示す図である。(a) HEK293細胞は、β2ARまたはβ2AR TYYでトランスフェクションされ、10 μM Iso で30 min処理された; (b) C6神経膠腫を、10 μM Iso, 1 μg/ml CTX, 10 μM Fsk, および1 mM db-cAMP(左)を含む指摘した試薬で30 min処理した; (c) C6 神経膠腫を、0.25 mg/ml Con A, 0.5 M Suc, およびカリウム枯渇培地を含む指摘した試薬で前処理後に10 μM Isoで30 min処理した。(d) C6 神経膠腫を、β-galまたはDyn K44Aでトランスフェクションし、10 μMのIso で30 min処理した; (e) HEK293細胞を、NSまたはクラスリン RNAiでトランスフェクションし、10 μMのIso で30 min処理した。(aからe)における細胞膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した。(f および g) 指摘したレセプターでトランスフェクションしたHEK293細胞を、10 μMのIsoで30 min処理し、免疫蛍光アッセイ (f)または蛍光原基質アッセイ(g)に供試した。(aからeおよびg)におけるデータは、少なくとも三つの独立の実験の平均±S.E.であり、基礎活性の倍数値として表される(*P<0.001)。CTX, コレラ毒素; Fsk, フォルスコリン; db-cAMP, ジブチリル環状アデノシン一リン酸; PTX, 百日咳毒素; Dyn K44A, ダイナミンII K44A; Con A, コンカナバリンA; Suc, 高浸透圧性スクロース溶液; K+ dpl, カリウム枯渇培地; NS RNAi, 非特異的なRNA干渉; β2ARm, β2AR L339,340A.。
【図9】図9は、DOR 活性化によるγ-セクレターゼ活性の増強がPTX処理で無効化されないことを示す図である。SH-SY5Y神経芽細胞腫を、200 ng/ml PTXでの12 時間前処理後に1 μMのDADLEで刺激した。細胞膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した(*P < 0.01)。
【図10】図10は、トランスフェリンにより誘導されるレセプターエンドサイトーシスがγ-セクレターゼ活性の増強を導かないことを示す図である。
【図11】図11a - 11dは、エンドサイトーシスコンパートメントにおけるγ-セクレターゼ および Aβの増加を示す図である。(a) β2ARおよび指摘したプラスミド(C99の存在または非存在の組み合わせ)でコトランスフェクションしたHEK293細胞を、10 μM Isoで処理した。膜および細胞質の分画を、それぞれ蛍光原基質アッセイ(*P<0.001)またはウエスタンブロットに供試した。(b) HEK293細胞を、(a)のとおりトランスフェクションし、処理した。細胞質分画を、Aβ特異的な免疫沈降/ウエスタンブロットに供試した。(c) β2AR, C99 および Flag-Rab7でコトランスフェクションしたHEK293細胞を、1 h 、10 μM Isoで処理した。細胞ホモジネートを、LELの免疫単離および指摘したタンパク質に対する特異的な抗体を用いるウエスタンブロットに供試した。データは、少なくとも三つの独立の実験の代表である。(d) HA-β2AR および GFP-Rab7でコトランスフェクションしたHEK293細胞を、30 min 、10 μM Isoで処理し、PS1 (赤色), GFP-Rab7 (緑色), およびβ2AR (青色)の分布に関して検出した。矢印は、PS1 および GFP-Rab7を含んでいる点状の構造をマークしている。
【図12】図12は、DOR 活性化によるγ-セクレターゼ活性の増強がLEL分画と関連することを示す図である。
【図13】図13a - 13dは、γ-セクレターゼ濃縮がエンドサイトーシス輸送を必要とすることを示す図である。(a) HA-β2AR および Flag-Rab7とβ-gal, Dyn K44A またはRab5 S34Nとを組み合わせてトランスフェクションしたHEK293細胞を、10 μM Iso で30 min処理し、PS1-NTF (赤色)またはFlag (緑色)に対する抗体で染色した。スケールバー, 8 μm。(b) HA-DORでトランスフェクションしたHEK293細胞を、1 μM DADLE で3 min処理し、PS1-NTF (赤色), DOR (緑色) および β-アダプチン(青色)に対する抗体で染色した。矢印は、PS1, DOR およびβ-アダプチン(挿入図)を含んでいる点状の構造をマークしている。スケールバー, 8 μm。(c) HA-β2AR, HA-DOR またはHA-B2RでトランスフェクションしたHEK293細胞を、0.1% トリトン X-100 (左) または1% CHAPSO (右)を含有している緩衝液での免疫沈降に供試した。そして、免疫沈降物および5%の全体の細胞溶解産物を、指摘の抗体で免疫ブロットした。データは、少なくとも三つの独立の実験の代表である。(d) β2AR またはB2RでトランスフェクションしたHEK293細胞を、10 μM Iso または1 μM BKで処理した。膜分画を、蛍光原基質アッセイに供試した(*P<0.001)。Con, コントロール; Dyn K44A, ダイナミンII K44A; IB, イムノブロット。BK, ブラジキニン。
【図14】図14a - 14eはインビボでの増強したγ-セクレターゼ活性 および Aβ産生 および促進的なアミロイドプラーク形成を示し、他方で図14f および 14gは選択的なβ2-アドレナリン作動性レセプターアンタゴニスト, ICI 118,551がβ-アミロイドプラークの形成の抑制に効果的であることを示す。(a および b) ラットは、2 μgのノルエピネフリン (脳室内)または0.5 mg/kgのクレンブテロール(i.p.)で急性的に注射された。海馬を、それぞれ蛍光原基質 アッセイ (a) またはラット Aβ ELISA (b)に供試した(*P<0.01)。(c および d) 30日の薬物の長期投与後の雌性(左) および 雄性(右) APPswe/PS1ΔE9 マウスの皮質における典型的なアミロイドプラーク負荷。(c) マウスは、毎日生理食塩水または3 nM Isoを脳室内投与された。(d) マウスは、毎日生理食塩水または2 mg/kg Cleを経口的に投与された。スケールバー, 320 μm。(e) (c) および (d)からのマウスにおけるアミロイドプラーク負荷の領域の定量分析(ANOVA, p<0.05)。NE, ノルエピネフリン; Sal, 生理食塩水; Cle, クレンブテロール。インビボでの増強したγ-セクレターゼ活性 および Aβ産生, および促進的なアミロイドプラーク形成。(a,b) ノルエピネフリン (NE) またはクレンブテロール (Cle)でのラットの急性治療によって、海馬におけるγ-セクレターゼ活性が増強(a)し、分泌されたAβ 40 および Aβ 42 レベル(b)が増加した。*P < 0.01。(~c g) イソプロテレノール (c), クレンブテロール (d) またはICI 118,551 (ICI) (f)を長期投与されたAPPswe/PS1ΔE9 マウスの大脳のアミロイドプラーク形成。c,d および fにおけるイメージ: 雌性(左) および 雄性(右)マウスにおける典型的なプラーク。e: c および dからのマウスにおけるアミロイドプラーク領域の定量分析(*P < 0.05)。g: fにおけるマウスと同じ(*P < 0.05)。
【図15】図15a - 15dは、動物モデル研究からの結果を示す。(a) 視覚的な足場訓練検査からの避難に対する逃避時間。遺伝形質または薬物効果は、この訓練で見出されなかった(F = 2.145, P = 0.096)。(b) 隠れた足場訓練検査における避難に対する逃避時間。コントロールのマウスは、非トランスジェニックマウスと比較して、有意な障害を示した(F = 28.754, P < 0.001)。他方で、プロプラノロール治療によって、コントロールマウスと比較して、部分的に障害が軽減された(F = 4.571, P = 0.034)。ナドロール治療は、障害に効果を示さなかった(F = 1.192, P = 0.277)。(c) プローブ試行において足場クアドラントで過ごしたパーセント時間。コントロールおよび非トランスジェニックコントロールマウスの間に有意な遺伝形質効果が存在した(P = 0.002)。プロプラノロール治療は、部分的に空間的な記憶の障害を軽減した(P = 0.048)。ナドロールは、効果がなかった(P = 0.969)。
【図16】図16a - 16dは、図15のものと類似する動物試験からの結果を示している(しかし、レセプターサブタイプ特異的なアンタゴニストでのもの)。ベタキソロールは、BBBを通過できるβ1AR選択的なアンタゴニストである。ICI 118,551は、BBBを通過できるβ2AR選択的なアンタゴニストである。(a)可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかった(F = 0.0310, P = 0.969)。(b)隠れ足場訓練において、ICI 118,551治療は認知障害を有意に軽減した(F = 24.164, P < 0.001)。ベタキソロールは、ある程度の軽減を示したが、効果は統計的に有意ではなかった(F = 3.698, P = 0.057)。(c)プローブ試行において、ICI 118,551の効果は、有意であった(P = 0.005)。ベタキソロールは、効果を示さなかった(P = 0.552)。
【図17】図17a - 17dは、図16のものと類似する動物試験からの結果を示している。メトプロロールは、BBBを通過できるβ1AR選択的なアンタゴニストである。ブトキサミンは、BBBを通過できるβ2AR選択的なアンタゴニストである。(a)可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかった(F = 2.017, P = 0.139)。(b)隠れ足場訓練において、ブトキサミン治療は認知障害を有意に軽減した(F = 15.581, P < 0.001)。メトプロロールは、効果を示さなかった(F = 0.104, P = 0.748)。(c)プローブ試行において、ブトキサミンの効果は、有意であった(P = 0.020)。メトプロロールは、効果を示さなかった(P = 0.768)。
【図18】図18は、非トランスジェニックマウスからの結果を示している。β-アドレナリンレセプターアンタゴニストは、非トランスジェニックマウスにおいて効果を示さず、導入遺伝子が必須であることを示唆している。(a)薬物効果は、可視の足場訓練において観察されなかった(F = 2.327, P = 0.077)。(b)薬物効果は、隠れ足場訓練において観察されなかった(F = 0.264, P = 0.851)。(c)薬物効果は、プローブ試行において観察されなかった(P = 0.817)。
【図19】図19は、図15のものと類似する試験からの結果を示している(しかし、DORアンタゴニスト ナルトリンドールでのもの)。ナルトリンドールは、BBBを通過できるDOR選択的なアンタゴニストである。(a)可視の足場訓練において、薬物効果は観察されなかった(F = 0.754, P = 0.391)。(b)隠れ足場訓練において、ナルトリンドール治療は認知障害を軽減した(F = 4.945, P < 0.030)。(c)プローブ試行において、ナルトリンドールの効果は、有意であった(P = 0.006)。
【図20】図 20は、モーリス水迷路の視覚的な足場バージョンにおける、生理食塩水(Sal), クレンブテロール(cle), およびICI 118,551(ICI)処理した二重トランスジェニックマウスと非トランスジェニック同腹仔(NTg)の避難の逃避時間を示している(各日に4試行の2ブロック)。薬治療または導入遺伝子の有意な効果は、いずれの群のマウスでも認められなかった。
【図21】図 21は、モーリス水迷路の隠れた足場への遊泳における、生理食塩水(Sal), クレンブテロール(cle), およびICI 118,551(ICI)処理した二重トランスジェニックマウスと非トランスジェニック同腹仔(NTg)の避難の逃避時間を示している(各日に4試行の1ブロック)。有意なトランスジェニック効果が、NTg および Salマウスの間に見られた。ICI マウスは、Salのものよりも早い学習曲線を呈示した。他方で、Cle治療では効果がないようであった。(n=3-5)。
【図22】図 22は、モーリス水迷路での最終的な隠れた足場訓練の24-h後に行われたプローブ試行の間に足場で過ごしたパーセンテージ時間を示している。NTg および ICI マウスは、標的クアドラントにおいて長い比率の時間を過ごした。(n=3-5)。
【図23】図 23A-23Cは、PS1へ結合している表面会合DORレセプターの結果を示す図である。図23A: GFP-DORドナーおよびPS1-Cy3アクセプターフルオロフォア(励起, 488-nm レーザー)の混合性の発光スペクトルの典型的な例が、GFP-DOR および HA-ps1でコトランスフェクションしたHEK293細胞における光退色 (561-nmレーザー)の前(赤色ライン)および後(青色ライン)に得られた。スペクトルは、同じ細胞における一つの光退色した領域(左のプロット)および光退色なしの別の領域(右のプロット)に関して示される。GFPのドナー発光は、細胞の光退色した領域でのみで増加している。図 23B: 293細胞の非混合性のGFP-DOR および PS1-Cy3イメージのセットは、アクセプター光退色の前後で得られる。光退色の領域は、白色輪郭のボックスで示される。下部の増大させた疑似色イメージによって、退色の前後でえられた細胞表面の光退色および非光退色領域におけるGFP発光の強度が示される。293細胞におけるドナーGFP-DOR発光の表面会合強度は、アクセプターps1-Cy3光退色の後に増加する。スケールバーは、10 μmを示す。図 23C: 表面会合したGFP-DOR および PS1-Cy3の間の平均化したFRET効率(%)。カラムの上方の番号は、実験で得られた細胞を指し示す。データは、三つの独立の実験からのものである。**, p <0.01(GFP-DORでトランスフェクションしたネガティブコントロール細胞と比較して)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬を調製するための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(a) レセプターを活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第一の程度を決定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターを工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で活性化すること、及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第二の程度を決定すること;
(c) エンドサイトーシスの第一の程度とエンドサイトーシスの第二の程度との間の差を決定すること;
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと;および
(e) アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬として候補試薬を調製すること及び/又は精製すること。
【請求項2】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(a) レセプターを活性化すること及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第一の程度を決定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターを工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で活性化すること、及び前記レセプターのエンドサイトーシスの第二の程度を決定すること;
(c) エンドサイトーシスの第一の程度とエンドサイトーシスの第二の程度との間の差を決定すること;および
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと。
【請求項3】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬を調製するための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(a) レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第一の程度を測定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第二の程度を、工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で測定すること;
(c) 会合の第一の程度と会合の第二の程度との間の差を決定すること;
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと;および
(e) アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬として候補試薬を調製すること及び/又は精製すること。
【請求項4】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための試薬をスクリーニングするための方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(a) レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第一の程度を測定すること(ここで、前記レセプターは、プレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターである);
(b) 前記レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの間の会合の第二の程度を、工程(a)と同じ条件下で候補試薬の存在下で測定すること;
(c) 会合の第一の程度と会合の第二の程度との間の差を決定すること;および
(d) 前記差が閾値未満である場合、工程(a) - (c)を繰り返すこと。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記レセプターがβ-アドレナリンレセプターおよびδ-オピオイドレセプターからなる群から選択される少なくとも一つである方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記β-アドレナリンレセプターが2型β-アドレナリンレセプター(β2AR)である方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法であって、前記レセプターが、前記レセプターをコード化している遺伝子でトランスフェクションされている細胞で発現される方法。
【請求項8】
請求項1, 2, 5, 6, および7の何れか1項に記載の方法であって、前記エンドサイトーシスの第一の程度を決定すること及び前記エンドサイトーシスの第二の程度を決定することが、エンドサイトーシスしたベシクル, エンドサイトーシスしたベシクル中のプレセニリン-1, 後期エンドソームまたはリソソーム(LEL)中のγ-セクレターゼ活性, またはアミロイド-β(Aβ)形成の量をモニターすることによって行われる方法。
【請求項9】
請求項3〜7の何れか1項に記載の方法であって、会合の第一の程度を決定すること及び会合の第二の程度を決定することが、蛍光共鳴エネルギー移動をモニターすることによって行われる方法。
【請求項10】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬の製造におけるレセプターアンタゴニストの使用であって、前記レセプターアンタゴニストはエンドサイトーシスの間にプレセニリン-1と会合するGタンパク質共役レセプターのエンドサイトーシスを阻害する使用。
【請求項11】
アルツハイマー病または関連する神経学的な病状を治療する又は予防するための医薬の製造における試薬の使用であって、前記試薬はGタンパク質共役レセプターおよびプレセニリン-1またはγ-セクレターゼの会合に干渉する使用。
【請求項12】
請求項10または11に記載の使用であって、前記Gタンパク質共役レセプターがβ-アドレナリンレセプターおよびδ-オピオイドレセプターからなる群から選択される少なくとも一つである使用。
【請求項13】
請求項12に記載の使用であって、前記β-アドレナリンレセプターが2型β-アドレナリンレセプター(β2AR)である使用。
【請求項14】
請求項10, 12 および13の何れか1項に記載の使用であって、前記アンタゴニストがICI 118,551, プロプラノロール, ブトキサミン, およびナルトリンドールから選択される少なくとも一つである使用。
【請求項15】
請求項10, 12 および13の何れか1項に記載の使用であって、前記アンタゴニストがICI 118,551またはブトキサミンである使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公表番号】特表2009−521238(P2009−521238A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547831(P2008−547831)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【国際出願番号】PCT/CN2006/003595
【国際公開番号】WO2007/073687
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(507349949)
【Fターム(参考)】