説明

アルミニウム軸受用クラッド材の製造方法

【課題】アルミニウム材と鋼材とを接着してアルミニウム軸受の形成用材料となるクラッド材を製造する方法において、クラッド材の厚さ方向、或いは幅方向の形状精度を良くする。
【解決手段】アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、このアルミニウム材と鋼材とのクラッド材の厚さ方向の形状精度を高めるための二次圧延を行った後、熱処理を行う。或いは、クラッド材を幅方向に複数分割した後、熱処理を行う。更には、クラッド材を幅方向に複数分割し、そして二次圧延、引抜を行い、最後に熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材と鋼材とを接合してアルミニウム軸受の形成用材料となるクラッド材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム軸受用クラッド材は、従来、連続鋳造後に圧延して板状にしたアルミニウム材と板状の鋼材(帯鋼板)とをロール圧延機に連続的に送り込んで高い圧下率にて圧延圧接して得られる。この圧延圧接により得られたクラッド材では、その後、アルミニウム材の靱性を高め、且つ、アルミニウム材と鋼材との接着強度を高くするために、焼鈍を行うことが不可欠とされている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特願2002−38230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
圧延圧接は、被圧延圧接物をロール圧延機に通すことにより行われる。そして、ある種の用途に使用するクラッド材については、断面形状精度(特に長手方向での厚さ寸法精度、即ち、長手方向厚さ寸法精度)を整えるために、焼鈍後に圧延加工(以下、二次圧延とも言う)を行うようにしている。この二次圧延は、数%という低い圧下率でのロール圧延を1回以上実施することによって行われる。しかしながら、長手方向厚さ寸法精度を向上させるために高い圧下率になるまでロール圧延を実施すると、当該クラッド材からすべり軸受を製造した場合、耐疲労性が悪化した。
【0004】
また、アルミニウム材を鋼材に圧延圧接したクラッド材は、通常、幅広であるから、焼鈍後のクラッド材をスリッタによって幅方向に複数分割する。複数分割されたクラッド材は、その後、所望の長さ寸法に切断されて短冊状のクラッド片に形成され、このクラッド片を半円筒状或いは円筒状に曲げてすべり軸受とする。しかしながら、スリッタによってクラッド材を分割すると、スリッタによる切断端に大きな「ダレ」が生じるため、後でその「ダレ」部分を除去する切削加工を必要とし、生産性低下の要因となっていた。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、生産性の低下を招来することなく、断面形状精度(長手方向厚さ寸法精度および/または幅方向形状精度)を良くすることができるアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
クラッド材の厚さに関する形状精度(特に長手方向厚さ寸法精度)を向上させるために二次圧延を行うが、そのためには当該工程において圧下率を高くする必要がある。
しかしながら、本発明者の実験によると、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接したクラッド材を焼鈍し、その後に圧下率を高くした二次圧延を行うと、耐疲労性が低下した。本発明者は、この耐疲労性低下の理由を究明するために鋭意研究を重ねた結果、次のような結論を得た。
【0007】
クラッド材を製造する場合において、圧延圧接により接合されたアルミニウム材と鋼材とは、その後、熱処理、例えば焼鈍されることにより、機械的な結合から、金属原子が相手材の中に拡散する金属的な結合へと変化するため、接着強度が高くなる。ところが、従来では、長手方向厚さ寸法精度向上のための二次圧延を焼鈍の後工程として実施している。このように二次圧延を焼鈍後に行うと、焼鈍によって互いの金属原子の結合位置が定まったアルミニウム材と鋼材とに対して、この結合位置をずらそうとする力が作用し、そのために接着面における金属原子の結合が破壊されて結合力、即ち、アルミニウム材と鋼材との密着力(接着強度)が低下してしまう。この結合力の低下は、すべり軸受として製造された場合、その耐疲労性を損ねる。以上が、従来のクラッド材の製造方法において、長手方向厚さ寸法精度を向上させるための二次圧延を、高圧下率まで行った場合、すべり軸受の耐疲労性を低下させるに至る理由である。そのため、従来のクラッド材の製造方法では、二次圧延を高圧下率まで行えなかった。
【0008】
また、従来、幅広のクラッド材をスリッタにより複数分割した場合、分割されたクラッド材の切断端の「ダレ」を除去するために、切削加工を行っていた。もしも、上記の「ダレ」が小さければ、切削加工を行う必要はなく、仮に切削加工を行ったとしても、その切削量は少なくて済む。
【0009】
アルミニウム材や鋼材は、焼鈍によって軟化する傾向を呈するが、本発明者は、切断端の「ダレ」と、クラッド材の硬さとの関係に着目した。そして、実験の結果、スリッタによりクラッド材を切断した場合、軟質のものでは、スリッタの回転カッタによる「ダレ」が大きくなるが、硬質のものでは、回転カッタによる切削が良好に行い得ると共に、「ダレ」も小さくなるという結論を得た。
本発明は、以上のような本発明者の研究結果に基づいてなされたものである。
【0010】
<請求項1の発明>
請求項1の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材に対して厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施した後、熱処理することを特徴とする。この請求項1の発明の工程を図1(a)に示した。
【0011】
この請求項1の発明のように、クラッド材の厚さに関する形状精度(特に長手方向厚さ寸法精度)を向上させるための圧延加工(二次圧延)を行うことによってアルミニウム材と鋼材との金属原子の結合位置がずれたとしても、その後に行われる熱処理によりアルミニウム材と鋼材とが金属原子の拡散により金属的に結合する。従って、二次圧延において、ロール圧延機によって圧延を高い圧下率まで行っても、二次圧延後に行われる熱処理、例えば焼鈍により、金属原子を相手材の中に拡散させてアルミニウム材と鋼材とを金属的な結合をさせてその接着強度を向上させることができる。このため、二次圧延においてクラッド材を高圧下率まで圧延機に通すことができ、しかも、すべり軸受として製造した場合、その耐疲労性を損なわせることがない。
【0012】
例えば、図5(a)および(b)は、ロール圧延機で焼鈍前のクラッド材を圧下率40%まで圧延した場合と焼鈍後のクラッド材を圧下率8%まで圧延した場合の長手方向各部の厚さ寸法のばらつきを示すもので、図5(a)は焼鈍前のクラッド材の長手方向厚さ寸法のばらつき、図5(b)は焼鈍後のクラッド材の長手方向厚さ寸法のばらつきの場合を示す。この図5から、焼鈍前に二次圧延を施すことにより高い圧下率まで二次圧延をすることができた場合には、長手方向における厚さの寸法精度が高いことが分かる。
このように、二次圧延を焼鈍前に行うことにより、圧延回数を多くすることができる、即ち、高圧下率まで二次圧延を施すことができるので、耐疲労性を損なわせることなく長手方向厚さ寸法精度を向上させることができる。
【0013】
<請求項2の発明>
請求項2の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割した後、熱処理することを特徴とする。この請求項2の発明の工程を図1(b)に示した。
圧延圧接により得られたクラッド材の幅が製造するすべり軸受に対して広い場合、そのクラッド材を幅方向に複数に分割して分割クラッド材を得る。クラッド材を幅方向に分割するための機械加工としては、例えば、スリッタ用の回転カッタによる切断加工が採用される。回転カッタによってクラッド材を切断すると、切断端の角部に図4(a)および(b)に示すようなダレDa,DbやカエリEa,Ebが生ずる。このダレDa,DbやカエリEa,Ebは、クラッド材の硬軟に応じて大小異なる。
【0014】
この場合、従来では、クラッド材を熱処理、例えば焼鈍した後、つまりやや軟化したクラッド材に対して、幅方向に複数分離する加工を行っていたため、図4(a)に示すように切断端の角部のダレDaやカエリEaが大きくなり、断面形状精度(特に幅方向形状精度)を悪くしていた。このような大きなダレDaやカエリEaを残したまますべり軸受として製造することはできないので、ダレDaやカエリEaをバイトで切除する加工を行うが、大きなダレDaやカエリEaに対しては、その切削しろWaが大きくなり、材料ロスが多くなると共に、生産性低下の要因となる。
【0015】
しかしながら、請求項2の発明によれば、クラッド材を複数に分離する加工を、焼鈍前、つまり、硬度の比較的高いクラッド材に対して行うので、図4(b)に示すように、切断端の角部のダレDbやカエリEbを小さくすることができ、幅方向形状精度を向上させることができる。このため、その後のダレDbやカエリEbを除去する加工は、小さな切削しろWbで済み、材料ロスが少なくなると共に、生産性が向上する。
【0016】
<請求項3の発明>
請求項3の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材に対して厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施し、更に、前記圧延加工されたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割した後、熱処理することを特徴とする。この請求項3の発明の工程を図1(c)に示した。
このように、二次圧延を行った後に、クラッド材を幅方向に複数分割する加工を行った場合には、クラッド材の断面形状精度(長手方向厚さ寸法精度及び幅方向形状精度)を向上させることができる。
【0017】
<請求項4の発明>
請求項4の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割し、更に前記分割クラッド材に対して厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施した後、熱処理することを特徴とする。この請求項4の発明の工程を図1(d)に示した。
このように、クラッド材を幅方向に分割する加工を行った後、二次圧延を行うことにより、分割クラッド材の切断端の角部のダレやカエリを二次圧延によって小さくできるから、より断面形状精度が向上する。
【0018】
<請求項5の発明>
請求項5の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割し、更に前記分割クラッド材に対して幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工を施した後、熱処理することを特徴とする。この請求項5の発明の工程を図1(e)に示した。
このように、クラッド材を複数に分割した後、その分割クラッド材に引抜加工を施すことにより、分割加工時のダレを矯正でき、分割クラッド材の幅方向形状精度を効率良く向上させることができる。
【0019】
例えば、図7(a)は、引抜前の分割クラッド材の長手方向に垂直な断面を示し、図7(b)は、引抜後の分割クラッド材の長手方向に垂直な断面を示す。この図7から明らかなように、引抜前に分割クラッド材の角部にあったダレやカエリは、引抜によって矯正でき、更に引抜ダイスによって分割クラッド材の角部に面取りを施すこともできる。
通常、クラッド材製造後の軸受成形時に機械加工により、幅方向の寸法をその完成品の寸法に仕上げる工程(幅仕上げ工程)を実施する。この請求項5の発明の実施によって、クラッド材製造後に行う幅仕上げ工程を省略することができる。
【0020】
<請求項6の発明>
請求項6の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割し、更に前記分割クラッド材に対して長手方向厚さ寸法精度向上のための圧延加工と幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工とを順に施した後、熱処理することを特徴とする。この請求項6の発明の工程を図1(f)に示した。
この請求項6のようにした場合には、クラッド材の断面形状精度(長手方向厚さ寸法精度、幅方向形状精度)を更に向上させることができる。しかも、クラッド材製造後に行う幅仕上げ工程を省略することができる。
【0021】
<請求項7の発明>
請求項7の発明は、アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材に対して長手方向厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施し、更に、前記圧延加工されたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割し、この分割クラッド材に対して幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工を施した後、熱処理することを特徴とする。この請求項7の工程を図1(g)に示した。
この請求項7のようにした場合には、更に断面形状精度(長手方向厚さ寸法精度、幅方向形状精度)を向上させることができる。また、同様に、クラッド材製造後に行う幅仕上げ工程を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を説明する。まず、連続鋳造法により製造したすべり軸受用アルミニウム合金板と接着用アルミニウム合金板とを圧延圧接させて、アルミニウム材を製造した。ここでは、すべり軸受用アルミニウム合金板は、Al−Sn−Si系のアルミニウム合金を用いた(Sn:10質量%、Si:3質量%、Al:残部)。また、接着用アルミニウム合金板は、Al−Mn−Cu系のアルミニウム合金を用いた(Mn:1質量%、Cu:0.1質量%、Al:残部)。
【0023】
一方、鋼材として、帯鋼板(JISG3141)を用意した。そして、図2に示すように、上記のアルミニウム材1を、鋼材2に重ねるようにしてロール圧延機3に通して圧下率40%で圧延圧接を行い、アルミニウム材1と鋼材2とを接着してなるクラッド材4を得た。このクラッド材4は、厚さ1.4mmのアルミニウム材1と厚さ3.0mmの鋼材2とを圧延圧接して全厚2.6mm、幅200mmとしたものである。
この後、クラッド材4を幅方向に複数の分割クラッド材に分割する分割工程、分割クラッド材9の厚さを整えるための圧延工程(二次圧延)、引抜工程、焼鈍工程を順に行って次の表1に示す実施品1,2を得た。各工程の詳細は後述する。
【0024】
【表1】

【0025】
上記分割工程は、図3に示すスリッタ5を使用した。このスリッタ5は、主軸6に複数の回転カッタ7を固定してなり、クラッド材4を矢印方向に送りながら主軸6により回転カッタ7を回転させてクラッド材4に分割用のスリット8を形成し、クラッド材4を複数の分割クラッド材9に分割するというものである。この場合の分割クラッド材9の幅は、18.2mmである。
次の二次圧延は、図2のロール圧延機3と同様のロール圧延機を用いて行った。このロール圧延機による二次圧延は、実施品1については、10%の圧下率まで実施し、実施品2については、40%の圧下率まで実施した。
【0026】
引抜工程は、分割クラッド材9を、図6に示す引抜ダイス10に矢印方向に通すことによって行った。この引抜により、スリッタ5によって切断された分割クラッド材9の幅方向両端部の整形が行われ、図7(a)の断面形状から同図(b)の断面形状へと幅方向の形状精度が高められる。つまり、クラッド材4をスリッタ5により分割して得た分割クラッド材9は、図7(a)に示すように、幅方向両端の角部にダレやカエリが生じている。このダレやカエリは、引抜を施すことによって図7(b)に示すように矯正され且つ角部が面取りされる。ここでは同時に、幅方向の寸法を18.2mmから17.5mmにした。
【0027】
そして、最後の焼鈍工程は、引抜工程を終えた分割クラッド材9を350℃で10時間、炉内に保持することによって行った。
一方、表1に示す比較品1〜3を得るために、上述と同様にしてアルミニウム材1と鋼材2とを圧延圧接してクラッド材4を得た。この場合のクラッド材4は、厚さ1.0mmのアルミニウム材1と厚さ2.2mmの鋼材2とを圧延圧接して全厚1.7mm、幅200mmとしたものである。そして、このクラッド材4から表1の比較品1〜3を以下のようにして製造した。
【0028】
まず、比較品1は、クラッド材4に対し、上記実施品1,2と同条件の焼鈍工程、上記のスリッタ5による分割工程を順に行って得た。従って、比較品1は、アルミニウム材と鋼材との圧延圧接、焼鈍、分割の工程だけを実施し、二次圧延、引抜の各工程は実施していない。分割クラッド材9の幅は、切削加工により幅仕上げをして17.5mmとした。
また、クラッド材4に対し、上記実施品1,2と同条件の焼鈍工程を行い、その後に二次圧延工程、分割工程を順に行って比較品2,3を得た。この場合の二次圧延は、比較品2に対しては圧下率8%まで、比較品3に対しては圧下率10%まで行った。なお、焼鈍工程後に二次圧延を行う場合、10%を超えるような圧下率まで行おうとすると、アルミニウム材と鋼材との間の接着不良が生じてきたので、10%を超える圧下率の比較品は準備しなかった。また、分割工程は図3に示すスリッタ5を用いた。この場合も、分割クラッド材9の幅は、比較品1と同じ17.5mmとした。
【0029】
以上のようにして得た実施品1,2および比較品1〜3について、各種の計測、疲労試験を行った。
断面形状精度に関しては、軸受有効投影面積に占める疲労部の面積の割合が5%以下を安定して得られる(当該疲労部の面積の割合については後述する)高圧下率で二次圧延を施した実施品と比較品とをもって比較した。なお、本発明の製造方法を実施すると、40%より高い圧下率でも、疲労部の面積の割合が5%以下のクラッド材を安定して得られた。
【0030】
<スリッタ5によるダレ>
比較品2と実施品2について、スリッタ5によってクラッド材4を分割して得た分割クラッド材8のダレとカエリの程度を測定し、その測定結果を図4(a)および(b)に示した。比較品2では、図4(a)のように、ダレの幅Waが0.3mmに及んでいたが、実施品2では、図4(b)のように、ダレの幅が0.2mmと小さくなっていた。
【0031】
<二次圧延による形状精度>
二次圧延を行った実施品2と比較品2について、二次圧延による形状精度を比較するために、それらの長手方向に沿って連続的に肉厚を測定し、二次圧延によって得るべく肉厚との差を取って図5(a),(b)に示した。
比較品2では、図5(b)のように、二次圧延を行っても肉厚変動は大きい。これに対し、実施品2では、図5(a)のように、肉厚の変動が少なく、厚さ方向の形状精度(長手方向厚さ寸法精度)が高い。
【0032】
<引抜による幅方向形状>
図7(a)および(b)は実施品2について、分割クラッド材9の引抜工程前後の断面形状を示す。この引抜工程により、実施品2の幅寸法が18.2mmから17.5mmに、厚さ寸法が1.6mmから1.5mmへと減少している。また、角部に0.5mm、0.2mmの面取りが施され、これによりダレやカエリ部分を切除しなくとも良いようにしている。
【0033】
<疲労試験>
実施品1,2および比較品1〜3について疲労試験を行った。この疲労試験は、実施品1,2および比較品1〜3の分割クラッド材9から図8に示すように所定長さの短冊状のクラッド片11を取得し、このクラッド片11を半円筒状に曲げ、そして、内面側となったアルミニウム材側を仕上げ加工して図9に示す半割軸受12(試料)を製作した。この半割軸受12を疲労試験機に装着し、最初、30分のなじみ運転を行った後、10分毎に軸受面圧を5MPaずつ最高試験面圧まで高めて行き、そして、最高試験面圧で20時間運転して疲労程度を調べた。最高試験面圧は、100MPa、110MPaに設定し、それぞれについて疲労程度を調べた。
疲労程度は、軸受有効投影面積に占める疲労部の面積の割合で5段階評価することとし、評価1は50%超え、評価2は15%超え〜50%、評価3は5%超え〜15%、評価4は5%以下、評価5は疲労部なし、とした。疲労試験の条件は、次の表2の通りである。
【0034】
【表2】

【0035】
疲労評価の結果を表1に示した。
【0036】
疲労試験の結果を見ると、最高試験面圧100MPaでは、実施品1,2および比較品1〜3のすべての試料が評価5であった。
これに対し、最高試験面圧が110MPaでは、比較品2,3と実施品1,2とで耐疲労性に差が見られた。即ち、焼鈍後に二次圧延を行った比較品2,3では、いずれも疲労評価4の試料が存在し、特に、二次圧延の圧下率が10%と高い比較品3では、疲労評価1の試料が存在する。しかし、二次圧延後に焼鈍を行った実施品1,2では、全ての試料が疲労評価5であった。なお、比較品1は、二次圧延を実施していないため、耐疲労性は実施例品1,2と同程度であった。
【0037】
このように焼鈍後に二次圧延を行った比較品2,3では、耐疲労性に劣る。特に、二次圧延の圧下率が高くなるに従って耐疲労性が低下する傾向を呈し、最高試験面圧が100MPaでは未だ良いが、最高試験面圧が110MPaになると、二次圧延圧下率10%の比較品3では、評価1の試料が出現し、圧下率8%の比較品2では、評価4の試料ばかりで、評価5の試料は一つも出現しなかった。
【0038】
これに対し、二次圧延を行っても、焼鈍前にその二次圧延を行った実施品1,2では、最高試験面圧110MPaで全ての試料が評価5で、耐疲労性に優れていることが理解される。特に実施品2は、二次圧延を圧下率40%で行ったが、圧下率10%の実施品1と同等の高い耐疲労性を得ることができた。
【0039】
焼鈍後に二次圧延を行った比較品2,3で耐疲労性の低下が見られた理由は、二次圧延時にアルミニウム材と鋼材とが外力によって位置ずれを起し、接着強度の低下を招いたからであると思われる。これに対し、焼鈍前に二次圧延を行った実施品1,2では、二次圧延時にアルミニウム材と鋼材とが位置ずれを起しても、その後の焼鈍時にアルミニウム材と鋼材とが互いに原子拡散を起して結合を強化するので、比較品2,3に比べて耐疲労性に優れるものと思われる。
また、実施品1,2では、分割結合板9の幅方向の形状精度を高めるために引抜を行ったが、この引抜工程でアルミニウム材1と鋼材2とが位置ずれを生じたとしても、その後に行われる焼鈍によって、アルミニウム材1と鋼材2との結合が強固になされるので、耐疲労性の低下はないものと思われる。
【0040】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、以下のような拡張或いは変更が可能である。
圧延圧接の圧下率は、40%に限らない。二次圧延の圧下率も10%、40%に限らない。二次圧延では、1回又は複数回の圧延を実施しても良い。
圧延圧接と二次圧延を行った後に焼鈍するようにしても良い。
圧延圧接と分割を行った後に焼鈍するようにしても良い。
圧延圧接、二次圧延、分割を順に行った後、焼鈍するようにしても良い。
圧延圧接、分割、引抜を順に行った後、焼鈍するようにしても良い。
圧延圧接、二次圧延、分割、引抜を順に行った後、焼鈍するようにしても良い。
アルミニウム材と鋼材とに位置ずれを生じさせないような加工であれば、焼鈍後に実施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の製造方法の工程を示す図
【図2】圧延圧接を行うロール圧延機の概略図
【図3】スリッタによりクラッド材を分割する状態を示す斜視図
【図4】スリッタにより分割した分割クラッド材の部分断面図であり、(a)は比較品の断面図、(b)は本発明の実施品の断面図である。
【図5】二次圧延後のクラッド材の長手方向の肉厚変化の測定結果を示すもので、(a)は本発明の実施品の肉厚変化を示すグラフ、(b)は比較品の肉厚変化を示すグラフである。
【図6】引抜ダイスを示すもので、(a)は縦断側面図、(b)は引抜孔の縦断正面図
【図7】分割クラッド材の断面を示すもので、(a)は引抜前の図6中A−A線に沿う断面図、(b)は引抜後の図6中B−B線に沿う断面図である。
【図8】分割クラッド材を所望の長さに切断した状態の斜視図
【図9】半割軸受の斜視図
【符号の説明】
【0042】
図面中、1はアルミニウム板(アルミニウム材)、2は帯鋼板(鋼材)、3はロール圧延機、4はクラッド材、5はスリッタ、9は分割クラッド材、10は引抜ダイス、12は半割軸受である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム材と鋼材とを接合してアルミニウム軸受の形成用材料となるクラッド材を製造する方法において、
前記アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材に対して厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項2】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム材と鋼材とを接合してアルミニウム軸受の形成用材料となるクラッド材を製造する方法において、
前記アルミニウム材と鋼材とを圧延圧接し、この圧延圧接により得られたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法において、
前記圧延加工されたクラッド材を機械加工によって所望の幅寸法の分割クラッド材に分割した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載のアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法において、
前記分割クラッド材に対して厚さ寸法精度向上のための圧延加工を施した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載のアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法において、
前記分割クラッド材に対して幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工を施した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法において、
前記圧延加工後の前記分割クラッド材に対して、更に幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工を施した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。
【請求項7】
請求項3記載のアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法において、
前記分割クラッド材に対して幅方向端部の形状精度向上のための引抜加工を施した後、熱処理することを特徴とするアルミニウム軸受用クラッド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−222934(P2007−222934A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50182(P2006−50182)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】