説明

アルミ基複合層の形成方法及びブレーキロータの製造方法

【課題】本発明は、健全なセラミックスの複合層を迅速にアルミ基材に対して密着性よく形成することができるアルミ基複合層の形成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】アルミ基材13上に、セラミックスと金属との複合層を形成するアルミ基複合層3の形成方法であって、アルミ基材13上にセラミックと金属とを含む混合粉末14を配置する際に、前記混合粉末14から前記アルミ基材13が露出する露出部17を形成し、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末14と前記露出部17とに跨った部分を加熱することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスと金属との複合層をアルミ基材上に形成するアルミ基複合層の形成方法、及びこの形成方法を使用したブレーキロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミやアルミ合金からなるアルミ基材の表面改質方法としては、例えば、このアルミ基材に対してセラミックスや鉄鋼を、ろう付け、クラッディング等で接合する方法、アルミ基材を鉄鋼等で鋳ぐるみする方法、CVD、PVD、イオンプレーティング、溶射、めっき、アルマイト等によってアルミ基材を薄膜でコーティングする方法が挙げられる。このような表面改質方法によれば、アルミ基材の耐熱性や耐摩耗性を向上させることができる。
そして近年では、アルミ基材に対する薄膜の密着性や薄膜の特性を更に改善するために、レーザ等の高密度エネルギを照射しながら薄膜を形成する方法が行われている。具体的には、アルミ基材にレーザを照射してアルミナ被膜を形成し、このアルミナ被膜上にアルミナ粉末を供給しながらレーザをさらに照射してアルミ基材上にアルミナからなるセラミックス層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、アルミ基材にレーザを照射してアルミの溶融池を形成し、この溶融池にレーザを照射しつつチタン、ホウ素等を混入してアルミ基材の表面にセラミックス粒子(TiB)を含む被覆層を形成する方法(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。
これらの表面改質方法によれば、セラミックスを含む層を迅速にアルミ基材の表面に形成することができる。
【特許文献1】特開平1−152284号公報
【特許文献2】特開平9−195066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたセラミックス層の形成方法では、セラミックスでのレーザ吸収率が大きいために、セラミックスの温度だけが急激に上昇する。その結果、アルミ基材上に一旦形成されたセラミックスがプラズマ化して蒸散するために、材料の歩留まりが悪くなる。また、セラミックスが蒸散すると、アルミ基材に形成されたセラミックス層の表面状態が悪くなって、健全なセラミックスの複合層を得ることができない場合がある。そして、この形成方法では、アルミ基材上に載せたセラミックス粉末(アルミナ粉末)によって、アルミ基材に対するレーザの熱の伝達が阻害されてアルミ基材の溶融が妨げられることとなる。その結果、アルミ基材と複合層との密着性が悪くなる。
【0004】
また、特許文献2に記載されたセラミックス粒子を含む被覆層の形成方法では、アルミ基材上で溶融池を形成する際にアルミのレーザ反射率が大きいために、大きな熱量が必要となる。その結果、この形成方法では、セラミックスの複合化に必要な熱を安定して供給することができないという問題がある。したがって、この形成方法では、健全なセラミックスの複合層を得ることができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、健全なセラミックスの複合層を迅速にアルミ基材に対して密着性よく形成することができるアルミ基複合層の形成方法及びこの形成方法を使用したブレーキロータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、アルミ基材上に、セラミックスと金属との複合層を形成するアルミ基複合層の形成方法であって、アルミ基材上にセラミックと金属とを含む混合粉末を配置する際に、前記混合粉末から前記アルミ基材が露出する露出部を形成し、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末と前記露出部とに跨った部分を加熱することを特徴とする。
また、前記課題を解決する本発明のブレーキロータの製造方法は、ブレーキロータ用アルミ基材に凸部を形成し、このブレーキロータ用アルミ基材上にセラミックと金属とを含む混合粉末を配置する際に、この凸部の先端が露出するように前記混合粉末を配置し、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末と前記凸部の露出した先端とに跨った部分を加熱することを特徴とする。
【0007】
これらの形成方法及び製造方法では、混合粉末と、アルミ基材が露出する部分(凸部)とに跨って高密度エネルギ照射が行われると、露出したアルミ基材が溶融することによって、この溶融アルミが混合粉末に浸透する。そして、浸透した溶融アルミと混合粉末とは複合層を形成する。
【0008】
この際、高密度エネルギ照射による熱が、前記した露出する部分(凸部)を介してアルミ基材に効率良く伝達される。その結果、混合粉末とアルミ基材との界面ではアルミ基材の溶融が効率良く進行するので、複合層の形成が確実に行われると共に、この複合層とアルミ基材との密着性が高められる。
【0009】
また、この形成方法では、前記した露出する部分(凸部)が高密度エネルギ照射で溶融するので、このような露出する部分がない場合と比較して、より多くの溶融アルミが混合粉末に供給される。その結果、より厚い健全な複合層をより確実に形成することができる。したがって、この形成方法によれば、耐摩耗性及び耐熱性に優れた複合層を形成することができる。
【0010】
また、この形成方法によれば、高密度エネルギ照射で、表面近傍のアルミ基材が早く溶融して、より多くの溶融アルミが混合粉末に浸透するので、混合粉末中のセラミックスの温度の上昇が抑制される。その結果、この形成方法では、アルミ基材上でセラミックスが蒸散することが防止されるので、材料の歩留まりが良好となる。また、セラミックスの蒸散が防止されるので、アルミ基材に形成された複合層の表面状態も良好となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、健全なセラミックスの複合層を迅速にアルミ基材に対して密着性よく形成することができるアルミ基複合層の形成方法及びこの形成方法を使用したブレーキロータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは自動車のブレーキロータの製造方法について説明しながら、この製造方法に適用されるアルミ基複合層の形成方法について説明する。図1は、ブレーキロータを備えたブレーキ機構の分解斜視図である。図2は、図1のブレーキロータの摺動面に形成されたアルミ基複合層の構成を模式的に表す断面図である。図3(a)から(f)は、ブレーキロータの製造方法を説明するための工程図であって、(a)、(c)及び(e)は、図1のブレーキロータが製造されていく工程をA部に対応する部分で拡大して示す図、(b)、(d)及び(f)は、(a)、(c)及び(e)のそれぞれでのB−B断面図である。
【0013】
ここでは、本実施形態に係るブレーキロータの製造方法の説明に先立って、このブレーキロータが組み込まれたブレーキ機構について説明する。なお、ここではディスクロータを例にとって説明する。
【0014】
図1に示すように、このブレーキ機構8では、環状体で形成されたディスクロータ10の内側に組み付けられたアクスルシャフト9がボルト18とナット19でホイールWに締結されることによって、ディスクロータ10は、ホイールWと一体に回転するようになっている。そして、ホイールWの制動時には、このホイールWと共に回るディスクロータ10の表裏両面を図示しない外側パッドと内側パッドとが挟み込むようになっている。そして、これらの外側パッドと内側パッドとが押し当てられるディスクロータ10の表裏の摺動面11は、後記するアルミ基複合層3の表面で構成されている。
【0015】
また、この摺動面11には、複数の溝12がディスクロータ10の同心円上で等間隔に並ぶように形成されている。この溝12は、ディスクロータ10の中心から略放射状に延びる線分に沿うように形成されている。ちなみに、溝12は、摺動面11に前記した外側パッドと内側パッドが押し当てられた際に発生する摩耗粉の排出、摩擦力の向上、摩擦熱の放散等を促すものである。
なお、図1においては、作図の便宜上、同心円上で並ぶ溝12のうち一部の溝12のみを記載しており、その他の溝12は省略している。また、図1においては、ホイールW側の摺動面11にのみ溝12を表しているが、この反対側の摺動面(図示せず)にも溝12は形成されている。
【0016】
次に、本実施形態に係る方法で製造するアルミ基複合層3について説明する。このアルミ基複合層3(以下、単に複合層3ということがある)は、燃焼合成反応によって得られたチタン−アルミ金属間化合物を主成分とし、これにセラミックス繊維を含んでいる。ちなみに、このセラミックス繊維としては、SiC(炭化ケイ素)、Al(アルミナ)等からなる繊維を挙げることができるが、この実施形態では、セラミックス繊維としてSiCからなる繊維を使用したものについて説明する。
【0017】
図2に示すように、複合層3は、チタン−アルミ金属間化合物2としてのAlTiと、セラミックス粉末6としてのTiNと、セラミックス繊維4としてのSiCと、AlNとを含んでいる。
【0018】
本実施形態での複合層3は、チタン−アルミ金属間化合物2を主成分として含んでおり、アルミ金属基複合材料(Al−MMC)よりも残存する金属アルミ成分が極めて少ない。つまり、この複合層3は、優れた耐熱性及び耐摩耗性を発揮することとなる。
【0019】
本実施形態での複合層3は、セラミックス繊維4がアンカ効果を発揮することによって、クラックの発生や進展を防止する。その結果、この複合層3は、靭性や耐衝撃性に優れる。また、この複合層3は、冷熱の繰返し疲労によるクラックの発生や進展をも防止するので高温特性を改善する。
【0020】
本実施形態での複合層3は、セラミックス繊維4を含むので、これを含まないチタン−アルミ金属間化合物2からなるものと比較して低密度となる。その結果、この複合層3は、ディスクロータ10の重量の低減化を図ることができる。
【0021】
次に、本実施形態に係る複合層3の形成方法について説明する。
この形成方法は、セラミックス粉末及びセラミックス繊維、並び金属粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、この混合粉末をアルミ基材の表面に配置する際にこの混合粉末の配置面に前記アルミ基材が露出する露出部を形成する混合粉末配置工程と、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末と前記露出部とに跨った部分を加熱する加熱工程とを有している。
【0022】
本実施形態での前記混合工程では、Ti粉末(金属チタン粉末)と、このTi粉末1モルに対して7.5〜20モルのTiN粉末(セラミックス粉末)と、このTi粉末1モルに対して0.5〜2.5モルのSiCからなる繊維(セラミックス繊維)との混合粉末が調製される。
【0023】
次に、前記混合粉末配置工程では、図3(a)に示すように、ディスクロータ10の心材となるアルミ基材13(ブレーキロータ用アルミ基材)が準備される。このアルミ基材13は、平面視で、前記ディスクロータ10(図1参照)と略同形状の環状体であって、このディスクロータ10の摺動面11(図1参照)に対応する位置に複数のリブ15が形成されている。このリブ15は、特許請求の範囲にいう「凸部」に相当する。
このリブ15は、ディスクロータ10に形成される溝12(図1参照)の平面形状に略等しい平面形状で、溝12の位置に等しい位置に形成されている。なお、溝12は、特許請求の範囲にいう「凹部」に相当する。
そして、図3(b)に示すリブ15の高さHは、溝12の深さD(図3(f)参照)と比較して短く(低く)なるように形成されている。ちなみに、このリブ15は、このアルミ基材13の図示しない裏面の前記した溝12に対応する位置にも形成されている。
【0024】
次に、この混合粉末配置工程では、図3(c)に示すように、アルミ基材13の表面に前記した混合粉末14が配置される。そして、図3(d)に示すように、混合粉末14は、リブ15と同じ高さで配置される。言い換えれば、混合粉末14の配置面16で、アルミ基材13のリブ15が露出するように混合粉末14が配置される。つまり、リブ15の先端部が露出部17となる。
【0025】
前記加熱工程では、図3(c)に示す混合粉末14と露出部17とに跨った部分が加熱される。本実施形態での加熱はレーザによって行われるが、この加熱は、高密度エネルギ照射であればよく、例えば、近赤外線を使用したものであってもよい。このような加熱は、アルゴンガス等の不活性雰囲気下で行われる。この加熱工程での高密度エネルギ照射は、リブ15が加熱によって溶融する程度に設定されるが、アルミ基材13の表面に配置される混合粉末14の厚さに応じて高密度エネルギ照射の出力及びその照射時間を調節することができる。具体的には、配置した混合粉末14の厚さが厚いほど高密度エネルギ照射の出力を増加し、或いはその照射時間を長くすることで、混合粉末14を介してアルミ基材13に伝達される熱量が増大してアルミ基材13上で効率良くセラミックスの複合化が進行する。つまり、後記するように、アルミ基材13上に健全で密着性に優れた複合層3が効率良く形成される。
【0026】
そして、この加熱工程では、アルミ基材13からなるリブ15が加熱によって溶融すると共に、この溶融アルミが混合粉末14に浸透する。その結果、Ti粉末(金属チタン粉末)およびTiN粉末(セラミックス粉末)と、溶融アルミとが燃焼合成反応することで前記した複合層3が得られる。ちなみに、この燃焼合成反応は、次式(1)に示すように、146kJの発熱(チタン−アルミ金属間化合物の生成熱)を伴う反応である。
3Al + Ti → AlTi + 146kJ (1)
また、この反応が開始すると、この反応は、溶融アルミが金属チタン粉末、セラミックス粉末、およびセラミックス繊維の間に浸透しながら連鎖的に伝播していく。
【0027】
また、浸透する溶融アルミは、図2の符号6で示されるセラミックス粉末(TiN)と反応してAlNと金属チタン(Ti)を生成する。つまり、次式(2)で示す反応が進行する。ちなみに、この反応は、20kJの吸熱を伴う反応である。
Al + TiN + 20kJ → AlN + Ti (2)
【0028】
そして、前記式(2)に示す反応で生成した金属チタン(Ti)は、前記式(1)に示すように、溶融アルミと反応してチタン−アルミ金属間化合物(AlTi)を生成する。
【0029】
したがって、この加熱工程を経ることによって、前記式(1)および前記式(2)で示す反応が進行し、図3(e)に示すように、複合層3が形成されて前記したディスクロータ10が製造される。そして、得られたディスクロータ10は、リブ15(図3(c)参照)が溶融して混合粉末14(図3(c)参照)に浸透したことで溝12が形成される。そして、図3(f)に示す溝12の深さDは、前記したリブ15の高さH(図3(b)参照)よりも長く(深く)なっており、複合層3を貫通してアルミ基材13まで達している。
【0030】
次に、この複合層3の形成方法及びこの形成方法を使用したディスクロータ10(ブレーキロータ)の製造方法の作用効果について説明する。
この複合層3の形成方法では、レーザ照射(高密度エネルギ照射)を行って前記混合粉末14とリブ15の先端(露出部17)とに跨った部分を加熱するため、レーザの熱がリブ15を介してアルミ基材13に効率良く伝達される。その結果、混合粉末14とアルミ基材13との界面ではアルミ基材13の溶融が効率良く進行するので、複合層3の形成が確実に行われると共に、この複合層3とアルミ基材13との密着性が高められる。
【0031】
また、この形成方法では、リブ15(凸部)がレーザで溶融するので、このリブ15がない場合と比較して、より多くの溶融アルミが混合粉末14に供給される。その結果、より厚い健全な複合層3をより確実に形成することができる。したがって、この形成方法によれば、耐摩耗性及び耐熱性に優れた複合層3を形成することができる。
【0032】
また、この形成方法によれば、レーザがリブ15(凸部)に照射されて、表面近傍のアルミ基材13が早く溶融して、より多くの溶融アルミが混合粉末14に浸透するので、混合粉末14中のセラミックス(粉末、繊維)の温度の上昇が抑制される。その結果、この形成方法では、アルミ基材13上でセラミックスが蒸散することが防止されるので、材料の歩留まりが良好となる。また、セラミックスの蒸散が防止されるので、アルミ基材13に形成された複合層3の表面状態も良好となる。
【0033】
また、この形成方法を使用したディスクロータ10の製造方法では、前記した形成方法の作用効果を奏すると共に、ディスクロータ10の溝12を簡単に低コストで形成することができる。具体的には、この製造方法によれば、硬質のディスクロータに溝やスリットを切削加工するものと異なって、アルミ基材13にリブ15を形成することで、複合層3と溝12とを同時にしかも簡単な構成で形成することができる。
【0034】
また、この製造方法によれば、アルミ基材13にリブ15を形成したことで、混合粉末14を配置する際に、このリブ15が支えになって混合粉末14をしっかりとアルミ基材13に配置することができる。
【0035】
本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、セラミックス粉末としてTiN粉末を使用するものについて説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、他のセラミックス粉末を使用するものであってもよい。
TiN以外の図1のセラミックス粉末6としては、例えば、FeN、Ca、MoN、TiO、NiO、SiO、Nb、B、MnO、FeO、Fe、CuO、CuO、ZnO等からなる粉末が挙げられる。
【0036】
前記実施形態では、セラミックス繊維として、SiC(炭化ケイ素)、Al(アルミナ)からなる繊維を挙げたが、本発明はこれに限定されることなく、他のセラミックス繊維を使用してもよい。ちなみに、セラミックス繊維としては、溶融アルミとの反応性が殆どなく、前記した反応工程での熱的安定性に優れていることから、SiC(炭化ケイ素)およびAl(アルミナ)が望ましい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を示しながら本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1乃至実施例3)
実施例1乃至実施例3では、まず、混合粉末が調製された(混合工程)。
ここでは、金属チタン粉末(Ti)1モルに対して、セラミックス粉末(TiN)を15モル含むと共に、セラミックス繊維(SiC)を1モル含む混合粉末(Ti/15TiN/SiC)が調製された。
【0038】
この混合粉末の調製においては、予めセラミックス繊維(SiC)がエタノールと共にマグネチックスターラで60分間解砕混合された。次いで、これに金属チタン粉末(Ti)およびセラミックス粉末(TiN)が投入されて更に15分間混合された。そして、エタノールを吸引ろ過にて除去すると共に、分離された固形分を乾燥炉にて90℃で1時間乾燥した後、これを強制通篩にて造粒することによって混合粉末が得られた。
【0039】
次に、調製した混合粉末がアルミ基材上に配置された(混合粉末配置工程)。
ここで参照する図4は、本実施例で使用されたアルミ基材の平面図である。図4に示すように、このアルミ基材13は、平面視で長方形の板材であって、純アルミで形成されている。そして、このアルミ基材13には、その長手方向に沿って長さ80mm、幅4.5mm、深さ0.5mmの窪み30が2箇所形成されている。また、窪み30,30同士の間には、リブ15が形成されており、このリブ15は、幅1mm、長さ80mm、高さ0.5mmに形成されている。
【0040】
そして、この混合粉末配置工程では、窪み30,30内に前記混合粉末が配置された。この際、混合粉末はアルミ基材上で平らに均されると共に所定の治具で押し固められて、リブ15の先端と、配置した混合粉末の表面(図3(d)の配置面16に相当)とがリブ15の長さ方向80mmにわたって面一となった。
【0041】
次に、図4に示すリブ15の長さ方向の一端側からその他端側までレーザを移動させてレーザ照射が行われた(加熱工程)。この際、混合粉末を配置したアルミ基材は、レーザクラッド装置にクランプで固定され、その周囲がビニルシートで覆われた。そして、ビニルシートの内に、アルゴンガスが10L/分の流量で供給されつつ、レーザ照射が行われた。
レーザ照射は、リブ15の先端(露出部)と、その幅方向の両側に配置された混合粉末とに対して跨るように行われた。レーザの移動速度は、250mm/分に設定された。
そして、レーザの出力は、実施例1が2000W、実施例2が2300W、実施例3が2600Wにそれぞれ設定された。
本実施例に係る形成方法の前記した設定条件を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
その結果、リブ15は、溶融すると共に、その溶融アルミは混合粉末に浸透した。その結果、溶融アルミと混合粉末とは前記した燃焼合成反応によってアルミ基複合層をアルミ基材上に形成した。一方、リブ15が溶融して消失した跡には、溝が形成された。
そして、形成されたアルミ基複合層は、実施例1から実施例3のいずれにおいても、材料のセラミック(粉末、繊維)が蒸散することなく健全であり、アルミ基材との密着性も良好であった。
【0044】
ここで参照する図5(a)は、実施例2で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、図5(b)は、図5(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。図6は、実施例2で形成されたアルミ基複合層のX線回折測定結果を示すチャートである。図7(a)は、実施例3で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、図7(b)は、図7(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。
【0045】
図5(a)及び(b)に示すように、本実施例の形成方法によれば、アルミ基材13上にアルミ基複合層3及び溝12を同時に形成することができることが確認された。
また、図6に示すように、形成されたアルミ基複合層3には、チタン−アルミ金属間化合物としてのAlTiと、セラミックス粉末としてのTiNと、セラミックス繊維としてのSiCと、AlNとが含まれていることが確認された。
【0046】
そして、図7に示すように、実施例3で得られたアルミ基複合層3は、実施例2で得られたアルミ基複合層3よりも更に健全性に優れていることが確認された。このことは、実施例3での形成方法は、実施例2での形成方法よりも、レーザの出力が大きいことで、溶融アルミの量が増大してセラミックスの蒸散が抑制されたことに起因するものと考えられる。つまり、一般にはセラミックスに対して照射するレーザの出力が大きいとセラミックスが殆どのレーザ光を吸収してしまう結果、セラミックスは発光を伴いながら蒸散する。しかしながら、本実施例では、レーザの出力を増大させた際に、セラミックスがその蒸散温度に達する前に、レーザの照射で溶融したアルミがセラミックスに浸透するので、セラミックスの急激な温度上昇が抑制される。その結果、本実施例では、レーザの出力を増大させたとしても、セラミックスの蒸散にエネルギを奪われることなく、混合粉末を介してアルミ基材13に熱が効率良く伝達されて健全性に優れたアルミ基複合層3が得られたものと考えられる。
なお、表1中、アルミ基材上にアルミ基複合層が形成された実施例、及び溝が形成された実施例については「複合層の形成」の欄、及び「溝の形成」の欄にそれぞれ「○」を記している。
【0047】
(実施例4及び実施例5)
実施例4及び実施例5においては、レーザの移動速度を、実施例4で125mm/分、実施例5で500mm/分とした以外は、実施例2と同様に、アルミ基材上にアルミ基複合層を形成した。
なお、実施例4及び実施例5に係るアルミ基複合層の形成方法の設定条件を表1に示す。また、アルミ基材上にアルミ基複合層が形成された実施例、及び溝が形成された実施例については「複合層の形成」の欄、及び「溝の形成」の欄にそれぞれ「○」を記す。
そして、図8(a)は、実施例4で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、図8(b)は、実施例5で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真である。なお、図8(a)及び(b)において、符号3はアルミ基複合層であり、符号12は溝であり、符号13はアルミ基材である。
【0048】
実施例4及び実施例5のいずれの形成方法においても、アルミ基材に対して健全なアルミ基複合層が密着性良く形成された。
また、実施例4及び実施例5のいずれの形成方法においても、アルミ基複合層と溝とが同時に形成できることが確認された。
【0049】
(実施例6)
本実施例においては、図4に示すアルミ基材13のリブ15の高さを、0.5mmから1.0mmに変更した以外は、実施例3と同様に、アルミ基材上にアルミ基複合層を形成した。
なお、本実施例に係るアルミ基複合層の形成方法の設定条件を表1に示す。また、アルミ基材上にアルミ基複合層が形成された実施例、及び溝が形成された実施例については「複合層の形成」の欄、及び「溝の形成」の欄にそれぞれ「○」を記す。
【0050】
そして、図9(a)は、実施例6で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、図9(b)は、図9(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。図10は、実施例6で形成されたアルミ基複合層のX線回折測定結果を示すチャートである。
【0051】
本実施例の形成方法によれば、アルミ基材に対して健全なアルミ基複合層が密着性良く形成されることが確認された。
また、図9(a)及び(b)に示すように、本実施例の形成方法によれば、アルミ基材13上にアルミ基複合層3及び溝12を同時に形成することができることが確認された。
【0052】
また、図10に示すように、形成されたアルミ基複合層3には、チタン−アルミ金属間化合物としてのAlTiと、セラミックス粉末としてのTiNと、セラミックス繊維としてのSiCと、AlNとが含まれていることが確認された。
【0053】
(実施例1乃至実施例6の評価結果)
以上の実施例1乃至実施例6の結果から明らかなように、本発明に係るアルミ基複合層の形成方法によれば、アルミ基材上に健全なアルミ基複合層を密着性良く形成できることが確認された。また、この形成方法によれば、アルミ基複合層が形成されるのと同時に溝が形成されることが確認された。つまり、本発明によれば、硬質のアルミ基複合層に機械加工を施して溝を形成する必要がないことが検証された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ブレーキロータを備えたブレーキ機構の分解斜視図である。
【図2】図1のブレーキロータの摺動面に形成されたアルミ基複合層の構成を模式的に表す断面図である。
【図3】(a)から(f)は、ブレーキロータの製造方法を説明するための工程図であって、(a)、(c)及び(e)は、図1のブレーキロータが製造されていく工程をA部に対応する部分で拡大して示す図、(b)、(d)及び(f)は、(a)、(c)及び(e)のそれぞれでのB−B断面図である。
【図4】本実施例で使用されたアルミ基材の平面図である。
【図5】(a)は、実施例2で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、(b)は、(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。
【図6】実施例2で形成されたアルミ基複合層のX線回折測定結果を示すチャートである。
【図7】(a)は、実施例3で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、(b)は、(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。
【図8】(a)は、実施例4で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、(b)は、実施例5で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真である。
【図9】(a)は、実施例6で形成されたアルミ基複合層の図面代用写真、(b)は、(a)のX−X断面を示す図面代用写真である。
【図10】実施例6で形成されたアルミ基複合層のX線回折測定結果を示すチャートである。
【符号の説明】
【0055】
2 チタン−アルミ金属間化合物
3 アルミ基複合層
4 セラミックス繊維(セラミックス)
6 セラミックス粉末(セラミックス)
10 ディスクロータ
11 摺動面
12 溝
13 アルミ基材
14 混合粉末
15 リブ
17 露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ基材上に、セラミックスと金属との複合層を形成するアルミ基複合層の形成方法であって、
アルミ基材上にセラミックと金属とを含む混合粉末を配置する際に、前記混合粉末から前記アルミ基材が露出する露出部を形成し、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末と前記露出部とに跨った部分を加熱することを特徴とするアルミ基複合層の形成方法。
【請求項2】
ブレーキロータ用アルミ基材に凸部を形成し、このブレーキロータ用アルミ基材上にセラミックと金属とを含む混合粉末を配置する際に、この凸部の先端が露出するように前記混合粉末を配置し、不活性雰囲気で高密度エネルギ照射を行って前記混合粉末と前記凸部の露出した先端とに跨った部分を加熱することを特徴とするブレーキロータの製造方法。
【請求項3】
不活性雰囲気での前記高密度エネルギ照射によって、前記凸部を溶融して前記混合粉末中に浸透させてアルミ基複合層を形成すると共にこのアルミ基複合層に前記凸部に対応した前記凹部を形成することを特徴とする請求項2に記載のブレーキロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−299167(P2009−299167A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157480(P2008−157480)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】