説明

アロエソン合成酵素

【課題】抗炎症作用を持つアロエシンの原料となる、アロエソンの合成活性を備えた新規なタンパク質、即ちアロエソン合成酵素と、それをコードする核酸(遺伝子)、及びそれを利用したアロエソンの合成方法の提供。
【解決手段】キダチアロエ(Aloe arborescens)に由来し、特定の塩基配列を有する核酸、及びそれと相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアロエソン合成活性を有するタンパク質をコードする核酸、更に該遺伝子を導入した微生物を用いるアロエソンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロエソン合成活性を備えた新規なタンパク質及び該タンパク質をコードする核酸等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キダチアロエ(Aloe arborescens、ユリ科)は、バルバロインなどアンスロン配糖体に加え、アロエシンなどのポリケタイドを豊富に産生する代表的な薬用植物である。アロエシンには抗炎症作用が報告されており、生理活性物質としての有用性が期待されている。
【0003】
【化1】

【0004】
そもそも植物体においては、アロエシンは、7分子のマロニルCoA、もしくは、アセチルCoAと6分子のマロニルCoA、からアロエソン合成酵素によって合成されるアロエソンが配糖化され生合成されるものと考えられている。
【0005】
アロエソン及び抗炎症物質アロエシンは、キダチアロエを含むアロエの近縁植物が生産することが知られているが、その生産量も限られており、工業的に十分な量のアロエシンを生産することが難しく、実用的ではない。
【0006】
例えば、これまでに7分子のマロニルCoA、もしくは、アセチルCoAと6分子のマロニルCoA、の縮合反応によりアロエソンを生成する植物ポリケタイド合成酵素が、ダイオウ(Rheum palmatum、タデ科)より報告されているが(Abe et al., FEBS Lett., 562, 171, 2004)、ダイオウは抗炎症物質アロエシンを生産しない。
【非特許文献1】Abe et al., FEBS Lett., 562, 171, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、キダチアロエ由来のアロエソン合成酵素については、詳細な検討はなされておらず、これをコードする核酸についても知られていなかった。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アロエソン合成活性を備えた新規なタンパク質、即ち、アロエソン合成酵素、及びそれをコードする核酸(遺伝子)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的に鑑み鋭意検討を重ねた結果、植物由来のアロエソン合成酵素を抽出し、その塩基配列、及びアミノ酸配列を解明することに成功し、基本的には本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は次の(1)〜(6)の各態様に係るものである。
(1)次の(a)、(b)、または(c)に記載の核酸:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸、
(b)配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸、またはこの核酸と相補的な核酸、
(c)上記(a)、または(b)に記載の核酸またはこの核酸と相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアロエソン合成活性を有するタンパク質をコードする核酸。
(2)次の(d)または(e)に記載のタンパク質:
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつアロエソン合成活性を有するタンパク質。
(3)上記(1)に記載の核酸が発現可能に結合された発現用組換えベクター。
(4)上記(3)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(5)上記(2)に記載のタンパク質をアセチルCoA及びマロニルCoA、もしくは、マロニルCoAを含有する溶液中で反応させることを特徴とするアロエソンの合成方法。
(6)上記5で合成されたアロエソンを配糖化することを含む、アロエシンの製造方法。
(7)上記6記載の方法で製造されたアロエシンから成る抗炎症剤。
【発明の効果】
【0011】
キダチアロエ由来のアロエソン合成酵素が本発明によって初めて単離・精製され、それをコードする遺伝子の塩基配列が決定された。本発明によれば、新規なタンパク質であるアロエソン合成酵素のアミノ酸配列、及びこのタンパク質をコードする核酸が提供される。このタンパク質を用いることにより、副反応が少なく、かつ大量にアロエソンを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施する形態について、詳細に説明する。
本発明に用いられるアロエソンとは、アロエに含まれている植物ポリケタイドの一種であり、この配糖体が抗炎症物質アロエシンである。アロエソンは、2-アセトニル-7-ヒドロキシ-5-メチルクロモンとも称される。
【0013】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載の通り、403個のアミノ酸配列を有するアロエソン合成酵素である。本発明のタンパク質は、アロエソン合成活性を有するタンパク質であれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。更に、タンパク質には、糖鎖が付加され、1個もしくは複数のアミノ酸を欠失、置換、挿入若しくは付加することにより糖鎖の付加を調節することができる。こうして、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、糖鎖の付加を調節されたタンパク質についても、アロエソン合成活性を有する限り、本発明のタンパク質に含まれる。
【0014】
「タンパク質」とは、モノマーであるアミノ酸が、互いにアミド結合で一緒に結合されたポリマーのことを意味する。本明細書中において、「ポリペプチド」または「タンパク質」という語は、いかなるアミノ酸配列も含み、かつグリコプロテインのような修飾されたアミノ酸配列を含む。また、「ポリペプチド」には、自然に生じているタンパク質と共に、組換えまたは化学合成によって形成されたタンパク質をも含む。
【0015】
「コードする」とは、本発明のタンパク質であるアロエソン合成酵素をその活性を備えた状態で発現させるということを意味している。また、「コードする」とは、本発明のタンパク質を連続する構造配列(エクソン)としてコードすること、または本発明のタンパク質を適当な介在配列(イントロン)を介してコードすることの両者を含んでいる。
【0016】
「核酸」とは、リボ核酸、デオキシリボ核酸、またはいずれの核酸の修飾体をも含む。また、核酸は、一本鎖または二本鎖のDNAを含んでいる。本明細書中において、「遺伝子」とは、アロエソン合成活性を備えたタンパク質をコードする核酸を意味している。
【0017】
「アロエソン合成活性」とは、7分子のマロニルCoA、もしくは、アセチルCoAと6分子のマロニルCoA、からアロエソンを合成する活性を意味する。
【0018】
「ストリンジェントな条件」とは、例えば、(1)温度約40℃以上、塩濃度約5×SSC(1×SSCの組成は、15mM クエン酸ナトリウム緩衝液[pH7.0]、150mM 塩化ナトリウムである)、好ましくは、(2)約50℃以上、約2×SSC、更に好ましくは、(3)約65℃以上、約0.1×SSCでのハイブリダイズ条件をいうが、この条件に制限されるものではない。この条件以外にも、モレキュラー・クローニング(第2版)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University(1995)等に記載されているハイブリダイゼーションの条件に準じることができる。
【0019】
「1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の当業者にとって周知の方法により、欠失、置換、挿入若しくは付加できる程度の個数のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されるということを意味している。
【0020】
上記(3)の発明では、本発明のタンパク質を取得するための発現用ベクターについて述べているが、本発明の核酸を取得するためには、必ずしも発現用ベクターである必要はなく、本発明の核酸のうちのDNAが結合された組換えベクターであればよいことは、当業者ならば極めて容易に考えつくであろう。
【0021】
「発現可能」とは、所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが、所定の条件下で、そのアミノ酸配列を有するタンパク質を発現させる能力を有するという意味である。所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが発現可能に結合されていると、そのDNAは、所定の条件下で、所定のタンパク質を発現するということになる。具体的には、そのDNAは、ベクター中において、発現調節配列に結合されている。ここで、「発現調節配列」とは、他の核酸配列の発現を調節する核酸配列のことを意味しており、他の核酸配列の転写、及び、好ましくは翻訳をも制御及び調節する。発現調節配列には、適当なプロモータ、エンハンサ、転写ターミネータ、タンパク質をコードする遺伝子における開始コドン(すなわちATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、ポリアデニル化部位、及びストップコドンが含まれる。
【0022】
「プロモータ」とは、転写を行うために必要最小限な配列のことを意味している。プロモータには、細胞タイプ特異的、組織特異的、または外部からの信号や調節剤によってプロモータ依存的に遺伝子の発現を制御するプロモータ要素も含まれる。プロモータ要素は、発現されるDNAの5'領域、または3'領域のいずれかに結合される。また、プロモータには、構成的なもの、または誘導的なもののいずれも含まれる。例えば、バクテリアにおいて発現ベクターを作製する場合には、誘導的なプロモータとして、バクテリオファージγのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp−lacのハイブリッドプロモータ)などのプロモータが使用できる。また、哺乳動物細胞において発現ベクターを作製する場合には、哺乳動物細胞由来のプロモータ(例えば、メタロチオネインプロモータ)や、哺乳動物ウイルス由来のプロモータ(例えば、レトロウイルスの末端反復配列(LTR)、アデノウイルス後期プロモータ、ワクシニアウイルス7.5Kプロモータなど)が使用できる。
【0023】
「組換えベクター」とは、プラスミド、またはウイルスを含む。一般的には、発現用組換えベクターは、複製開始点、プロモータおよび、その発現用組換えベクターが細胞に導入されたときに選択を許容する特別な遺伝子を含んでいる。本願発明のために適切なベクターとしては、バクテリアシステムにはT7に基づく発現ベクター、哺乳動物細胞システムにはpMSXND発現ベクター、レトロウイルスベクター、及びアデノウイルスベクター、昆虫細胞システムにはバキュロウイルス由来のベクター、その他にカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等が含まれる。また、当業者であれば、本発明の実施のために、これら以外の適当なベクターを極めて容易に選択することができる。なお、使用されるベクターに従って、多くの適切な転写および翻訳要素、例えば構成的または誘導的なプロモータ、転写エンハンサ要素、転写ターミネータ等を使用できるが、これらの要素は、当業者にとって公知のものである。酵母においても、構成的または誘導的プロモータを含んでいる多くのベクターを使用することができる。例示すれば、ADHまたはLEU2のような構成的なイーストプロモータや、GALのような誘導的なプロモータがある。また、外来性DNA配列が、イーストクロモソームへ組み込まれることを促進するベクターも使用できる。
【0024】
「形質転換」とは、ある細胞にとって新しい(外来性の)DNAを導入することによって、その細胞が永久的な遺伝子変化を起こすことを意味している。細胞が哺乳動物細胞である場合には、永久的な遺伝子変化は、その細胞のゲノム中にDNAが導入されることによって達成される。
【0025】
「形質転換体」とは、その細胞、あるいはその細胞の祖先の細胞が、組換えDNA技術によって、本発明のタンパク質をコードしているDNA(を含むベクター)が導入された細胞であることを意味している。組換えDNAで宿主細胞を形質転換することは、当業者にとって周知な方法によって行うことができる。宿主が原核細胞(例えば大腸菌)であるときには、DNAの取り込み能力を有するコンピテント細胞は、当業者に周知の手順によって、塩化カルシウム法で処理することで準備できる。トランスフォーメーションは、エレクトロポレーション等の代替方法によっても実行することができる。
【0026】
本発明のタンパク質は、原核生物においてそのタンパク質をコードしている核酸を発現させることによって得ることができる。原核生物としては、本発明のタンパク質をコードする核酸配列を含むバクテリオファージ・プラスミドDNA・コスミドDNA発現用組換えベクターによって形質転換された微生物(例えばバクテリア)が例示できるが、本発明の技術的範囲は、これによって限定されるものではない。また、本発明のタンパク質は、インビトロ試験系において、大腸菌を大規模スケールで培養することによって、発現させることが可能である。
【0027】
宿主が真核生物である場合には、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム、ウイルスベクターによって、DNAをトランスフェクションすることができる。また、真核細胞には、本発明のタンパク質をコードしているDNA分子と、選択可能な形質(例えば単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子)をコードしている第2のDNA分子とを共にトランスフェクションすることができる。別の方法としては、真核生物ウイルスベクター(例えば、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルス)を使用して、一時的に真核細胞にウイルスベクターを感染させて形質を転換させ、タンパク質を発現させることが可能である。
【0028】
真核細胞では、タンパク質が発現された後に適当な翻訳後修飾が生じる。転写一次産物の適切なプロセシング(例えばグリコシル化、リン酸化)を行ったり、遺伝子産物を分泌するための細胞内機構を持っている真核細胞では、蛍光性指示薬によって発現を確認できるような宿主細胞として使用できる。このような宿主細胞株としては、例えば、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、Jurkat、HEK−293、またはWI38が挙げられる。
【0029】
組換えタンパク質を長期間に渡って高い収率で生産するためには、安定的な発現系を構築することが好ましい。そのためには、ウイルスの複製開始点を含む発現ベクターを使用するよりは、むしろ宿主細胞が、適切な発現調節要素(例えば、プロモータ、エンハンサ、配列、転写ターミネータ、ポリアデニル化部位など)によって制御され、かつ本発明のタンパク質をコードしているDNAと、選択可能なマーカーとによって形質転換されていることが好ましい。組換えプラスミドにおける選択可能なマーカーは、細胞に対して選択に対する耐性を授け、安定してプラスミドをそれらのクロモソームに組み込んで、順番にクローンをつくることが可能でありかつ細胞株として確立できるような細胞コロニーを形成することができるようなものが好ましい。例えば、宿主となる細胞に対して外来性DNAを導入し、その細胞を1〜2日間を栄養素の豊富な培地で培養した後に、選択用培地に変更して培養する。そのような選択系としては、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼがある。各選択系において、選択用遺伝子は、それぞれtk−、hgprt−、およびaprt−である。また、代謝系をブロックする選択系として、dhfr、gpt、neo、hygro、trpB、hisD、ODCなどがある。dhfrはメトトレキセートへの耐性を与える遺伝子であり、gptはミコフェノール酸への耐性を与える遺伝子であり、neoはアミノグリコシドG−418への耐性を与える遺伝子であり、hygroはハイグロマイシンへの耐性を与える遺伝子である。また、trpBは細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを許容する遺伝子であり、hisDは細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを許容する遺伝子であり、ODC(オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子)は、オルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤である2−(ジフルオロメチル)−DL−オルニチン(DFMO)に対する耐性を与える遺伝子である。このような選択用遺伝子を用いることもできる。
【0030】
本発明のタンパク質が発現された後の単離または精製の技術については、従来より公知の手段、例えばクロマトグラフ分離、硫安沈殿、及び抗原または抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)を利用した免疫学的な分離方法によって行うことができる。
【0031】
例えば、そのタンパク質を微生物から精製するには、例えばニッケルキレートクロマトグラフィを用いて、一つの工程で純化するための標識をタンパク質の配列中に持たせることによって単純化できる。そのような標識としては、例えば、複数個(好ましくは、5個〜15個)のヒスチジン残基からなるポリヒスチジン標識を本発明のタンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端に組み込むことができる。そのようなポリヒスチジン標識によって、ニッケルキレートクロマトグラフィを用いて、一つの工程でタンパク質の単離を効率よく行うことができる。本発明のタンパク質には、回収を良好にする目的で、適当な酵素の切断部位を含むように設計することもできる。
【0032】
次に、本発明の核酸およびタンパク質の単離方法等についてより具体的に説明する。
本発明の核酸は、例えば、以下(1)〜(3)のステップを経て単離することが可能である。
(1)キダチアロエ植物核酸ライブラリーの調製
核酸ライブラリーには、ゲノミックDNA、cDNA、RNAが含まれる。このうち、cDNAの調製は、例えば Eur. J. Biochem, 268, 3354-3359 (2001) に開示された公知方法に従って行うことができる。この他に、ゲノミックDNAを用いることもできる。
【0033】
(2)アロエソン合成酵素遺伝子の単離
アロエソン合成酵素遺伝子については、上記のダイオウ由来のもの以外には知られていない。このため、本発明者は、活性が類似のタンパク質であるカルコン合成酵素の既知配列に基づき工夫して設計した配列番号3〜配列番号6に記載の縮重合入りPCRプライマーを用いることによって初めて、キダチアロエ核酸ライブラリーからPCR法によって、アロエソン合成酵素遺伝子の単離を行うことができる。例えば、ライブラリーがRNAの場合には、RT−PCR法により、アロエソン合成酵素遺伝子を単離することができる。また、mRNAを精製した後に、cDNAを合成し、そのcDNAライブラリーからPCR法により、アロエソン合成酵素遺伝子を単離することもできる。
【0034】
また、得られた部分断片の5’−、又は3’−に存在する未知の遺伝子領域は、RACE法などの公知の方法を用いることで単離できる。
【0035】
配列番号3 5'-(A/G)A(A/G) GCI ITI (A/C)A(A/G) GA(A/G) TGG GGI CA-3'
配列番号4 5'- GCI AA(A/G) GA(T/C) ITI GCI GA(A/G) AA(T/C) AA-3'
配列番号5 5'-CCC (C/A)(A/T)I TCI A(A/G)I CCI TCI CCI GTI GT-3'
配列番号6 5'-TCI A(T/C)I GTI A(A/G)I CCI GGI CC(A/G) AA-3'
【0036】
(3)塩基配列の決定
単離された遺伝子の塩基配列は、ダイデオキシ法などの公知の方法により決定することができる。また、決定された塩基配列に基づいて、既知遺伝子の塩基配列との相同性検索を行うことができる。
【0037】
(4)単離したアロエソン合成酵素遺伝子によってコードされるタンパク質の機能解析
単離したアロエソン合成酵素遺伝子によってコードされるタンパク質は、アロエソン合成酵素遺伝子のcDNAを発現ベクターに組み込み、このベクターを大腸菌に導入することにより大腸菌の菌体内で発現させることができる。アロエソン合成酵素遺伝子によってコードされるタンパク質の発現、及びタンパク質の精製は、例えば「QIAexpress ExpressionSystem」(Qiagen社製)に添付のプロトコールに記載の方法に基づいて行うことができる。また、この大腸菌で発現、精製したアロエソン合成酵素タンパク質の機能は公知の方法で確認することができる。例えば、 FEBS Lettes, 562, 171-176 (2004) に開示された公知方法に従って行うことができる。
【0038】
(5)本発明に係る遺伝子またはタンパク質への変異の導入
本発明に係る遺伝子の塩基配列に1個もしくは複数の塩基の欠失、置換、挿入若しくは付加といった変異を導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。このような方法としては、例えば、亜硫酸ナトリウムを用いた化学的な処理によりシトシンをウラシルに置換するトランジション変異を起こさせる方法、マンガンを含む反応液中でPCRを行いDNA合成時のヌクレオチド取り込みの正確さを低下させることにより変異を導入する方法等のランダムな変異の導入方法、アンバー変異を導入する方法等の部位特異的に変異を導入する方法が挙げられる。
【0039】
また、本発明にかかるタンパク質のアミノ酸配列に1個もしくは複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入若しくは付加といった変異を導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、上記のようにして調製された変異遺伝子を用いて組み換えタンパク質を転写・合成する方法が挙げられる。
【0040】
(6)本発明の核酸またはタンパク質の利用
本発明の新規アロエソン合成酵素を利用することによって、アセチルCoA及びマロニルCoA、もしくは、マロニルCoAを含有する溶液中とから、アロエソンを合成することができる。更に、こうして得られたアロエソンを当業者に公知の任意の方法で配糖化することによってアロエシンを製造することができる。このアロエシンは抗炎症剤等の医薬組成物の有効成分として有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および試験例により本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発明の一部を示すものであり、本発明の技術的範囲は、これらの実施例および試験例によって限定されるものではない。
【0042】
なお、以下の実施例において、PCR法については、Ex−Taq DNAポリメラーゼ(Takara)を使用し、Robocycler Gradient 40(Stratagene)の手順書に従った。また、塩基配列は、Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE Applied Biosystems)を用い、ABI 373A DNAシークエンサにより、両ストランドを解析した。
【0043】
実施例1 キダチアロエからのcDNAの調製
キダチアロエの若葉からのcDNAの調製は以下のようにして行った。
すなわち、キダチアロエ若葉を摘み取り、速やかに液体窒素中にて冷凍した。全RNAをAGPC(acid guanidium thiocyanate / phenol / chloroform)法により調製した。このRNAを逆転写酵素(Reverscript:Wako)、及び配列番号5に記載のオリゴdTプライマー(RACE32)を用い、逆転写酵素の手順書に従って、cDNAを合成した。得られたcDNAは、Tris/EDTA(10mM Tris、1mM EDTA、pH8.0)に溶解し、PCR法において鋳型として用いた。
【0044】
実施例2 アロエソン合成酵素遺伝子の単離
塩基配列が既知のカルコン合成酵素遺伝子の塩基配列を基に、配列番号3〜配列番号6に記載の二組のPCRプライマーセットを作製した。実施例1で調製したcDNAについて、配列番号3と配列番号5の組からなる第1プライマーセットにより、一度目のPCR反応を行った後、配列番号4と配列番号6の組からなる第2プライマーセットにより、二度目のPCR反応を行うことにより、ネステッドPCR法を実施した。PCR法の条件は、94℃、0.5分間の熱変成、42℃、0.5分間のアニーリング、及び72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとして、30サイクルを行った後、最後に10分間の伸長反応を行った。ゲル精製したPCR産物は、pT7Blue T-Vector(Novagen)に組み込み、塩基配列を解析した。
【0045】
実施例3 アロエソン合成酵素遺伝子の塩基配列の決定
上記実施例2において、アロエソン合成酵素を得た。配列番号1には、アロエソン合成酵素の塩基配列を、また、配列番号2には、アロエソン合成酵素のアミノ酸配列をそれぞれ示した。
【0046】
このクローンは、以下の表1に示すように、他の植物由来のカルコン合成酵素の配列とアミノ酸レベルで50−60%程度の低い相同性しか示さなかった。また、これまでに7分子のマロニルCoA、もしくは、アセチルCoAと6分子のマロニルCoA、の縮合反応によりアロエソンを生成する植物ポリケタイド合成酵素が、ダイオウ(Rheum palmatum、タデ科)より報告されているが(Abe et al., FEBS Lett., 562, 171, 2004)、本クローンとはアミノ酸レベルで50%程度の相同性しか示さなかった。尚、表1中の略記号は、上から順に、 M.s CHS, Medicago sativa カルコン合成酵素; A.h STS, Arachis hypogaea スチルベン合成酵素;G.h.2PS, Gerbera hybrida パイロン合成酵素; R.g ACS, Ruta graveolens アクリドン合成酵素; R.p BAS,Rheum palmatum ベンザルアセトン合成酵素;R.p ALS, Rheum palmatum アロエソン合成酵素; A.a PCS, Aloe arborescens ペンタケタイドクロモン合成酵素; A.a OKS, Aloe arborescens オクタケタイド合成酵素; 及び、A.a ALS, Aloearborescens アロエソン合成酵素を意味する。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例4 アロエソン合成酵素遺伝子を有する発現用組換えベクターの構築
配列番号1の塩基差異列を有するクローンの全長cDNA配列をRT−PCRにより増幅し、大腸菌発現ベクターpQE-81L(+)(QIAGEN)に組み込んだ。この結果、このクローンは、N末端にヒスチジンタグを有する組み換え酵素として、大腸菌において異種発現されるように組み込まれた。なお、構築した発現用組換えベクターについては、DNA配列を確認した。
【0049】
実施例5 発現用組換えベクターによる形質転換、及び組換えタンパク質の発現
実施例4で構築した発現用組換えベクターを大腸菌M15を宿主として形質転換した。形質転換した大腸菌は、100μg/mLのアンピシリンを含むLuria-Bertani培地で、吸光度A600=0.6になるまで30℃で培養し、次に0.4mM isopropyl thio-β-D-glactosideを添加し、さらに16℃で14時間培養した。
【0050】
実施例6 アロエソン合成酵素の精製
実施例5で培養した大腸菌を集菌の後、0.1M NaClを含む 40mMリン酸カリウム緩衝液pH7.9に懸濁し、ソニケーターで細胞を破砕し、15,000gで40分間遠心した。
【0051】
次に、上清をPro−BondTM Ni2+ アフィニティ担体(Invitrogen)カラムに通し、0.5M NaCl及び40mMイミダゾールを含む20mMリン酸カリウム緩衝液pH7.9でカラムを洗浄の後、組み換え酵素を10%グリセリン及び500mMイミダゾールを含む15mMリン酸カリウム緩衝液pH7.5で溶出した。その結果、得られた組み換え酵素が10%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量42kDaの単一バンドを示すことが確認された。
【0052】
実施例7 アロエソン合成酵素の活性評価
実施例6で調製したアロエソン合成酵素の酵素活性を次の方法で測定した。すなわち、
標準反応混合液はマロニルCoA(140 nmol)、その他のCoAエステル(54 nmol)、及び実施例6で精製したアロエソン合成酵素(220 pmol)を含むリン酸カリウム緩衝液であった(最終容量:500 μL、pH 7.0)。これを30℃で90分間インキュベートし、50μLの20%塩酸を添加して反応を停止させた。反応産物を酢酸エチル(1,000μL)で抽出し,文献記載の方法に従い、逆相HPLC 及びLC-ESIMSで分析した(Abe et al., FEBS Lett., 562, 171, 2004)。その結果、実施例6で精製した本発明のタンパク質であるアロエソン合成酵素は20%の収率でアロエソンを主生成物として与えた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により得られた、酵素タンパク及びその遺伝子を用いて、当業者に公知の醗酵工学や植物工学の手法を応用することにより、医薬品として重要な生理活性物質を大量生産することが可能となる。また、新機能付与形質転換植物の作出も期待される。
【0054】
本明細書中に引用される文献に記載された内容は、本明細書の一部として本明細書の開示内容を構成するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)、(b)、または(c)に記載の核酸:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸、
(b)配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸、またはこの核酸と相補的な核酸、
(c)上記(a)、または(b)に記載の核酸またはこの核酸と相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアロエソン合成活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【請求項2】
次の(d)または(e)に記載のタンパク質:
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつアロエソン合成活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸が発現可能に結合された発現用組換えベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項5】
請求項2に記載のタンパク質をアセチルCoA及びマロニルCoA、もしくは、マロニルCoAを含有する溶液中で反応させることを特徴とするアロエソンの合成方法。
【請求項6】
請求項5で合成されたアロエソンを配糖化することを含む、アロエシンの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法で製造されたアロエシンから成る抗炎症剤。

【公開番号】特開2008−178342(P2008−178342A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14183(P2007−14183)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】