アンカー
【課題】接着系アンカーに使用されるカプセルを確実に破砕することにより母材に対して確実に定着できる、アンカーを提供する。
【解決手段】母材10に穿設された下孔11内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されてカプセルを破砕し、下孔11内に流出した接着剤の硬化により母材10に固定される棒状体3を有するアンカー1である。棒状体3における下孔11に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部4が形成されている。
【解決手段】母材10に穿設された下孔11内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されてカプセルを破砕し、下孔11内に流出した接着剤の硬化により母材10に固定される棒状体3を有するアンカー1である。棒状体3における下孔11に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部4が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の所謂接着系アンカーの施工においては、コンクリート(母材)に対しドリルにより一定深さの下孔を穿設し、その穿設された下孔内をブラシ等で清掃し、清掃された下孔内に接着剤が収容されたカプセルを挿入する。その後、アンカーボルト(アンカー)を回転又は回転・打撃を加えながら前記下孔のカプセルの上から押し込む。すると、下孔内のカプセルが破壊されて内部より接着剤が流出して下孔内を充満し、接着剤の硬化によりコンクリート上にアンカーボルトを固定することができる。
【0003】
このような接着系アンカーに使用されるカプセルとしては、紙チューブ、フィルムチューブやガラス製容器等が用いられている。カプセル内に収容される接着剤としては、不飽和ポリエステル系液状樹脂等からなる主剤と粒状の珪石等からなる骨材等がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「あと施工アンカー技術講習テキスト」社団法人日本建築あと施工アンカー協会 平成12年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来技術で用いられるアンカーボルトは円筒状のボルトから構成されている。そのため、下孔内に押し込まれた際に、接着剤を収容するカプセルの一部がボルトと下孔との間に残存してしまい、カプセルを十分に破砕できない可能性がある。すると、接着剤と下孔との密着性が低下することで施工信頼性が得られない可能性がある。
特に、フィルムチューブを用いる場合には、施工時における取り扱い性が良好であるが、下孔とアンカーボルトとの間にフィルムの一部により隔膜が形成されてしまうことがある。このため、この隔膜によって接着剤の固定力が低くなるのを防ぐことが要望されていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、接着系アンカーに使用されるカプセルを確実に破砕することにより母材に対して確実に定着できる、アンカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のアンカーは、母材に穿設された下孔内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されて前記カプセルを破砕し、前記下孔内に流出した接着剤の硬化により前記母材に固定される棒状体を有するアンカーであって、前記棒状体における前記下孔に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のアンカーにおいては、前記凸状部は、前記棒状体の延在方向にわたる板状からなるのが望ましい。
【0009】
また、本発明のアンカーにおいては、前記凸状部が複数形成され、これらのうち少なくとも一対が、前記棒状体の中心軸に対して対称となる位置に形成されているのが望ましい。
【0010】
さらに、前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の延在方向に位置を違えて形成されているのが望ましい。
【0011】
あるいは、前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成されているのが望ましい。
【0012】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、フィルム状のチューブからなるのが望ましい。
【0013】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、紙チューブからなるのが望ましい。
【0014】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、ガラス管からなるのが望ましい。
【0015】
また、本発明のアンカーにおいては、前記棒状体が、ねじ部を有するボルト、又は異形棒鋼から構成されるのが望ましい。
【0016】
また、本発明のアンカーにおいては、前記棒状体は、前記下孔内に挿入される側の端部に切欠が形成されているのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、棒状体における母材に打ち込まれる側の外周面に外方に突出する板状の凸状部が形成されているので、棒状体が下孔内に挿入された際に凸状部によってカプセルを確実に破砕することができる。これにより、カプセル内に収容された接着剤が下孔内に良好に流出することとなり、棒状体と下孔との間に良好に充填される。この状態で接着剤が硬化することで、前記棒状体は母材に穿設された下孔内に確実に固定されたものとなる。したがって、信頼性の高いアンカー施工を行うことができる。さらに、凸状部を備えることで打撃力を与えることなく、回転力のみによってカプセルを確実に破砕することが可能となる。よって、アンカーの施工時における振動や騒音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アンカーの概略構成を示す斜視図である。
【図2】アンカーを正面図である。
【図3】アンカーを母材中の孔に挿入した状態を説明する図である。
【図4】アンカーの要部拡大構成を示す図である。
【図5】アンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【図6】図5に続くアンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【図7】実験結果を示す表である。
【図8】実験結果を示すグラフを示す図である。
【図9】本実験に用いた引張試験機の構成を示す図である。
【図10】本発明に係るアンカーの効果を説明するための図である。
【図11】第1の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図12】第2の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図13】第3の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図14】第4の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図15】第5の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図16】第6の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図17】第7の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図18】第8の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図19】回転力のみを付与した際のアンカーの効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明は、母材を穿孔し、その内部に挿入したボルト等の棒状体を固着することで、母材に対して他の部材の固定を行う所謂接着系のアンカーに関するものである。ここで、母材はコンクリート製母材であり、例えば、建物の壁、天井、柱、コンクリート製パネル等である。
【0020】
図1は本実施形態のアンカーの概略構成を示す斜視図であり、図2はアンカーの正面図であり、図3はアンカーを母材中の孔に挿入した状態を説明する図であり、図4はアンカーの要部拡大構成を示す図であり、図5,6はアンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るアンカー(アンカー)1は、ねじ山が形成された円柱形状の軸部(棒状体)3を主体として構成されている。アンカー1は、後述するように母材(例えば、コンクリート躯体)10に穿孔されている孔(下孔)11内に接着剤が収容されてなるカプセル6とともに前記軸部3を挿入し、カプセル6を破砕し下孔内に流出した接着剤の硬化により母材10に固定されるようになっている(図5,6参照)。
【0022】
軸部3は、孔(下孔)11に挿入される側の端部が鋭角(例えば、45°)に加工されており、これにより挿入時に上記カプセル6を容易に突き破ることが可能となっている。軸部3としては、例えばM16全ねじボルト(SNB7材)を用いた。
また、アンカー1は、軸部3の外周面上に、この軸部3の外方(径方向)に突出する板状の凸状部4が形成されている。すなわち凸状部4は軸部3の延在方向にわたる板状に形成されている。ここで、延在方向にわたる板状とは、軸部3の延在方向に対し凸状部4が所定の長さ(寸法)を有していることを意味している。なお、凸状部4は、その長さ方向が軸部3の延在方向に対して平行、あるいは傾斜していてもよい(本実施形態は平行)。上記凸状部4はプレス加工により軸部3の外周面上に形成することができる。なお、凸状部4の加工方法は、プレスに限定されることはなく、例えば軸部3に形成した溝内に埋め込む、或いはねじ込むことで凸状部4を形成することができる。
【0023】
また、凸状部4は、図2に示されるように軸部3の中心軸Cに対し対称となる位置に対をなすように設けられている。具体的には、四対の凸状部4が軸部3に形成されている。
これら四対の凸状部4は、軸部3の正面(軸部3の延在方向)から視て互いが重ならない位置に配置されている。すなわち、前記軸部3の周方向に位置を違えた状態に形成されている。具体的には四対の凸状部4が外周面上に45°毎に位置を違えている。
また、四対の凸状部4が軸部3の長さ方向にそれぞれ位置を違えて形成されているので、孔11に挿入された際に凸状部4が孔11の内壁面に当接することでアンカーの傾きを防止することができるようになっている。
【0024】
図3は、アンカー1が母材10に穿設された孔11に挿入された状態を示す図であり、図3(a)は側面図を示し、図3(b)は正面図を示している。なお、説明を分かり易くするため、同図中では、孔11内に挿入されるカプセルの図示を省略している。
【0025】
図3(a),(b)に示されるように、アンカー1の外径φ1は母材10の孔11における内径aに対して、同等もしくは若干小さく形成されるのが望ましい。なお、アンカー1の外径φ1とは、図3(b)に示すように軸部3上に設けられた凸状部4における先端部4aを結ぶ同図中1点鎖線により示される円の径である。
【0026】
具体的に本実施形態においては、上記アンカー1の外径φ1を18mmとし、孔11における内径aを20mmとした。また、上述したようにアンカー1における軸部3はM16全ねじボルトから構成されており、その外径φ2が16mmに設定される。また、図3(a)に示したように、軸部3の先端部から最も離間して配置される凸状部4の端部までの距離Lは48mmに設定される。なお、本実施形態においては、上記アンカー1の外径φ1と孔11の内径aとの差が、0.0mm以上4.0mm以下とするのが望ましい(本実施形態では2.0mmである)。
【0027】
凸状部4は、図4に示されるように、軸部3の径方向の高さh(アンカーの外径φ1と軸部3の外径φ2との差)が1.0mmとされる。また、本実施形態に係る凸状部4は、平面視した状態で略矩形形状とされており、軸部3の延在方向に沿う長さBが8mmに設定される。
このような構成に基づいて、アンカー1は、凸状部4が孔11の径方向に対する動きを規制することで孔11に打ち込まれる際に位置ズレ等が生じるのを良好に防止できるようになっている。
【0028】
また、前記軸部3は、孔11への挿入側の反対側に不図示の回転操作部が形成されている。この回転操作部は、アンカー1をコンクリート躯体からなる母材10に穿孔されている孔11にねじ込む際に、工具(手工具又は電動工具)等を取り付けることでアンカー1を回転操作してアンカー1に回転力を与える機能をなす部分である。このような回転操作部の一例としては、ダブルナット六角形や四角形等の多角形状の頭部、軸部他端側の頭部の端面に開口する十字穴、マイナス溝、六角穴あるいは四角穴等のレンチ穴等を例示できる。
【0029】
アンカー1を固着する手段としては、接着剤をカプセル内に収容したものが用いられる(図5参照)。このカプセルとしては紙チューブ、ガラス管、或いはフィルムチューブ等を用いることができ、具体的に本実施形態ではフィルムチューブを用いた。
【0030】
(アンカーの施工方法)
以下、図5,6を参照しつつ、アンカー1の施工工程について説明するとともに、本発明のアンカー1を用いることで得られる格別の作用効果について述べる。なお、図5,6では断面形状で示される母材10の孔11内にアンカー1を施工している。
【0031】
本実施形態に係るアンカーの施工方法は、接着剤が収容されてなるカプセル6をコンクリート躯体からなる母材10に穿設された孔11に入れた後、孔11にアンカー1を挿入し、前記カプセル6を破壊することで、カプセル6から流出した接着剤の硬化により母材10と一体にアンカー1を固着させるものである。
【0032】
まず、図5に示すように母材10にアンカー1を挿入するための孔11を穿設する。この孔11は、マーキングを施したドリル等を用いることで母材10に所定の深さの孔を形成し、この孔内をブロアー又は吸塵機とブラシとで清掃することで形成される。なお、ブロアー又は吸塵機及びブラシを交互に繰り返し行うことで孔内清掃を行ってもよい。
【0033】
ここで、前記孔11にカプセル6を挿入する前処理として、アンカー1を前記孔11に挿入するとともにアンカー1における母材10の上面に対応する位置にマーキングを施す。このマーキングに基づいて、アンカー1における孔11内への挿入量が容易に把握できるようになる。
続いて、図6(a)に示すように、接着剤が収容されてなるカプセル6を挿入する。そして、図6(b)に示すように、このカプセル6上に、例えば電動ハンマードリル等に装着したアンカー1を軸部3の先端部側(前記凸状部4が形成された側)から挿入するとともに、他端側(回転操作部側)に回転打撃力を与えてアンカー1を回転させ、上記マーキングを参照にして軸部3に形成されたねじ部を孔11内の所定深さまでねじ込む。このとき、凸状部4が軸部3の延在方向に沿って形成されているので、軸部3の挿入時にカプセル6に接触する凸状部4の表面積が抑制でき、アンカー1をカプセル6上からスムーズに挿入することができる。そして、挿入時には凸状部4がカプセル(フィルム)を切り開くことで内部から接着剤を流出させる。
【0034】
さらに、カプセル6上から挿入したアンカー1を回転させることにより、凸状部4がカプセル6を良好に破砕することができる。また、上述したように(図3参照)アンカー1の外径φ1は孔11の内径aに対して僅かに小さくなっている。よって、孔11内にて前記凸状部4によってアンカー1の径方向の動きが規制されるとともに、孔11内にて良好に回転することができる。また、孔11の内壁面と軸部3との間に生じた僅かな隙間の間にカプセル6を構成するフィルムチューブが入り込んだ場合でも、凸状部4によって細かく破砕することができる。
【0035】
具体的には、図3に示したようにアンカー1の正面から視て、四対の凸状部4は軸部3の周方向に位置を違えて形成されているので、アンカー1が孔11内に挿入される際に異なる位置に配置された凸状部4によってカプセル6(フィルム)が捻られることで、容易に破壊することができる。
【0036】
また、アンカー1は、図3に示したように軸部3の中心軸に対して対称となる位置に凸状部4が対をなすように配置されているので、アンカー1を孔11内に挿入された際に、凸状部4と孔11の内壁との接触点が孔11の中心に関して対称の位置に配置されることで挿入時における位置ズレを良好に防止するとともに孔11の略中央にアンカーを配置できる(センタリング効果を得ることができる)。よって、孔11に挿入されたアンカー1が傾斜した状態で固定されてしまうのを良好に防止できる。
【0037】
また、四対の凸状部4は軸部3の延在方向に位置を違えて形成されている(図3参照)ので、凸状部4により孔11内の深さ方向においてアンカー1を位置決めすることができ、接着剤が硬化前における軸部3の傾きを防止できる。
【0038】
すると、上述したように凸状部4によって破砕されたカプセル6内に収容されていた接着剤が孔11内に良好に拡がって、軸部3と孔11との間に均一に行き渡る。ここで、アンカー1の外径φ1は孔11の内径aよりも小さくなっているので、凸状部4及び孔11の僅かな隙間にも接着剤が入り込んで、接着剤は軸部3の周囲に行き渡らせることができるのである。
このような状態で接着剤が硬化することで、本実施形態に係るアンカー1によれば、後述する実験結果に示されるように従来の凸状部4を有しないアンカーに比べ、母材10に穿設された孔11内に確実に定着されたものとすることができる。また、本実施形態に係るアンカー1は、凸状部4が孔11の内壁面に近接した状態となっているため、カプセル6の破砕時に凸状部4が孔11の内壁面に接着剤を擦りつけるようになる。よって、接着剤を孔11の内壁面に密着させることができ、施工信頼性を向上させることができる。
【0039】
(実験例)
図7は、コンクリート躯体からなる母材に形成した異なる径を有する穿孔内に、本発明に係るアンカー1をそれぞれ埋め込み、アンカー1の付着強度を計測し、その結果を示した表である。また、図8は図7における測定結果をグラフ化したものであり、横軸は母材に形成される穿孔径(単位;mm)を示し、縦軸は付着強度(単位;N/mm2)を示す。
【0040】
なお、実験方法(付着強度の測定方法)としては、例えば圧縮強度27.3N/mm2のコンクリート躯体からなる母材に、深さが約130mm、穿孔径18mm、19mm、20mm、22mm、23mmの条件で穿孔し、孔底の切粉を吸塵機で除去し、孔壁の切粉をナイロンブラシで除去した後、再度吸塵機で切粉を除去し、孔内の清掃を行う。そして、上記アンカー1を孔内へ挿入し、図5、6に示した工程に基づき、ハンマードリルにより回転と打撃力によってアンカー1を所定深さまで埋め込み、1日養生させた後、母材に対するアンカーの付着強度を測定する。
【0041】
アンカーの付着強度の測定時においては、図9に示す引張試験機100を用いた。引張試験機100は、母材に定着させたアンカー1にカップリング108を介してセンターシャフト101を装着し、架台102、球座103、支圧板104、ロードセル105、油圧ジャッキ106、および変位計107を取り付け、油圧ポンプ109の油圧を上げて油圧ジャッキ106、センターシャフト101を介してアンカー1に引抜荷重を与える。そして、ロードセル105によって荷重値を計測し、変位計107によってアンカー1の引抜量を計測し、データロガー110で記録を行う。そして、データロガー110で記録されたデータをコンピュータ111の表示画面に出力させることができる。
【0042】
ところで、本実験においては、母材10の孔11の穿孔径が18mmのものを実施例1、母材10の孔11の穿孔径が19mmのものを実施例2、母材10の孔11の穿孔径が20mmのものを実施例3、母材10の孔11の穿孔径が22mmのものを実施例4、母材10の孔11の穿孔径が23mmのものを実施例5とした。すなわち、上述した実施形態において母材10の孔11にアンカー1を埋め込んだ構成は、実施例3に相当する。
【0043】
また、上記各実施例1〜5において、それぞれの孔11内に埋め込むアンカー1を、従来のアンカー(凸状部4を備えず、M16全ねじボルトからなる軸部3)に置き換えたものをそれぞれ比較例1〜5とした。
【0044】
図8に示されるように、本発明に係るアンカー(実施例1〜5)によれば、比較例(従来のアンカー)に比べて付着強度が向上することが確認できた。特に、穿孔径が18mm〜20mmの範囲内(実施例1〜3)において、安定した付着強度を得ることができる。この理由としては、上述のように凸状部4を備えることでカプセル6を良好に破砕することができるためである。
【0045】
ここで、凸状部4によるカプセル6の優れた破砕性について述べる。
図10は本発明に係るアンカー(上記実施形態に係るアンカー1)、及び従来のアンカー(凸状部4を有しないアンカー)をそれぞれ母材10の孔11内に挿入した後、孔11内からカプセル6を取り出し、その破砕状態をそれぞれ確認した図である。なお、同図(a)は上記実施形態(実施例3)に係るアンカー1の破砕状態を示し、同図(b)は従来のアンカー(凸状部4を有しない比較例の構成)の破砕状態を示すものである。
【0046】
本発明に係るアンカー1によれば、図10(a)に示されるようにカプセル6が確実には破砕されているのが確認できる。一方、従来のアンカーはフィルムを十分に破砕することができず、図10(b)に示されるように不破砕フィルム片が発生しているのが確認できる。
【0047】
また、一般的に、アンカーは穿孔径が大きくなりすぎると、付着強度の低下が生じる。例えば、比較例に示されるように穿孔径が20mmを超えると付着強度が10.0N/mm2よりも低くなる。これは、従来構成のアンカー(比較例4,5)においては、穿孔径が20mmを超えると、孔内でカプセル6(フィルム)が十分に破砕できず、孔内における接着剤の攪拌性能が著しく低下することで接着剤が良好に分散されないため、接着強度が低下するからである。
【0048】
これに対し、本発明に係るアンカー1(実施例4)は、穿孔径が20mmを超えた場合でも、比較例4のように付着強度が10.0N/mm2よりも低くなることがない。これは、上述したように孔11内に挿入された軸部3は外周面に設けられた凸状部4によってカプセル6が確実に破砕されるため、軸部3と孔11との間にフィルム片が残存することがないからである。よって、孔内において攪拌され良好に分散された接着剤が硬化することで孔11内にアンカー1が確実に固定され、接着強度を向上できる。
【0049】
本発明に係るアンカー1(実施例1〜4)は、穿孔径18mm〜22mmの場合に、所望の付着強度(10.0N/mm2以上)を得る事ができる。これに対し、従来のアンカー(比較例1〜3)は、穿孔径18mm〜20mmの場合に、所望の付着強度(10.0N/mm2以上)を得る事ができる。
【0050】
したがって、本発明に係るアンカー1によれば、同一の軸部3を有する従来のアンカー(比較例1〜5)に比べ、所望の付着強度を得るために許容される穿孔径の幅が拡大している。よって、本発明に係るアンカー1は、従来のアンカーに比べ、母材に形成する穿孔径の管理を容易なものとすることができる。
【0051】
なお、上述の実験例においては、M16全ねじボルトからなる軸部3に凸状部4が形成されたアンカー1を、穿孔径18mm、19mm、20mm、22mm、23mmの孔内に挿入することで付着強度について評価し、この結果に基づき、本発明に係るアンカーの優れた作用効果について述べたが、本発明の適応範囲は上述した径(M16全ねじボルト)の軸部3、及び上述の凸状部4を有するアンカー1のみに限定されない。
本発明は、アンカーの外径φ1と、アンカーが挿入される孔の内径aとの差が、例えば0.0mm以上4.0mm以下の範囲を満たすものであれば種々のものに適応可能である。すなわち、本発明は、M16全ねじボルトよりも径が小さい或いは大きい軸部に凸状部を設けたアンカーを上述の穿孔径とは異なる孔内に埋め込んだ場合においても良好な付着強度を得ることができる。
【0052】
(変形例)
続いて、本発明のアンカーに係る変形例について説明する。図11(a)は第1の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図11(b)はアンカーの正面図を示すものである。図11(a)、(b)は上記実施形態の図1,2に対応するものである。また、図12(a)は第2の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図12(b)はアンカーの正面図を示すものである。また、図13(a)は第3の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図13(b)はアンカーの正面図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカーとは凸状部の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0053】
第1の変形例に係る構成では、図11(a)に示されるように軸部3に形成される板状の凸状部4´は外方に向かって板厚が次第に減少しており、先端が尖った断面形状を有する。本変形例に係る凸状部4´を有したアンカー1を用いれば、凸状部4´と孔11の内壁面との間に入り込んだカプセル6(フィルム)をより良好に破砕することができ、より高い施工信頼性を得ることができる。
【0054】
また、第2の変形例に係る構成は、図12(a),(b)に示されるように軸部3に形成される凸状部14が円錐形状から構成され、先端が尖った形状を有する。本変形例に係る凸状部14を有したアンカー1においても上記実施形態及び変形例と同様に、高い施工信頼性を得ることができる。
また、第3の変形例に係る構成は、図13(a),(b)に示されるように軸部3に形成される凸状部24が円柱形状から構成されている。本変形例に係る凸状部24を有したアンカー1においても上記実施形態及び変形例と同様に、高い施工信頼性を得ることができる。
【0055】
なお、本発明に係るアンカーは、上述した実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、凸状部4の数は上記実施形態(8個)に限定されることは無く、本発明は凸状部4のうちの少なくとも一対が、軸部3の中心軸に対して対象となる位置に形成してもよい。また、前記凸状部4のうち少なくとも二対が、軸部3の延在方向に位置を違えて形成してもよい。あるいは、前記凸状部4のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態及び変形例では、アンカー1を構成する軸部3として金属製のアンカーボルトを用いたが、後述するように異形棒鋼等であっても良い。また、例えば、プラスチック製、FRP(繊維強化プラスチック)製等の、棒状に形成された各種構成のものを採用できる。
また、本発明の適用対象となる母材10としては、コンクリート躯体に限定されず、例えばレンガ躯体、ALC、樹脂等からなる躯体等も採用可能である。また、棒状打ち込み式の金属拡張アンカー等に比べて、施工対象となる母材の要求強度が低くて済むため、例えば劣化したレンガ躯体等といった脆い母材であっても孔を形成できれば施工可能であり、孔を形成できれば殆どの母材に適用できるといった利点を有している。
【0057】
図14は第4の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3の先端の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0058】
第4の変形例に係る構成では、図14(a)、(b)に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部に切欠50が形成されている。切欠50の寸法としては、図14(b)に示されるように、例えば切り込みの角度θを60°、切り込みの深さdを2mmに設定した。
このような切欠50を有したアンカー1を用いれば、アンカー1を回転させた際、切欠50に挟み込まれたカプセル6(フィルム)が捻られるようになる。すなわち、切欠50は、カプセル6を良好に破砕させる起点として機能する。したがって、本変形例に係るアンカー1によれば、より良好にカプセル6を破砕することができ、高い施工信頼性を得ることができる。
【0059】
図15は第5の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図16は第6の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3の先端の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0060】
第5の変形例に係る構成では、図15に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部がV型カットに加工されている。第6の変形例に係る構成では、図16に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部がW型カットに加工されている。なお、V型カットとは軸部3の端部における断面形状がV字状をなすことを意味し、W型カットとは軸部3の端部における断面形状がW字状をなすことを意味している。本発明は、このような先端がV型カット又はW型カットからなる軸部3を有するアンカーにおいても適用可能であり、上記実施形態同様、高い施工信頼性を得ることができる。
【0061】
なお、第5の変形例或いは第6の変形例に係る構成と、第4の変形例に係る構成とを組み合わせるようにしてもよい。すなわち、V型カット或いはW型カットの先端部に切欠部を形成するようにしてもよい。
【0062】
図17は第7の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものであり、図18は第8の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3が異形棒鋼から構成されている点で異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0063】
第7の変形例に係る構成では、図17に示されるように軸部3が異形棒鋼から構成されており、且つ孔11内に挿入される側の端部がV型カットに加工されている。第8の変形例に係る構成では、図18に示されるように軸部3が異形棒鋼から構成されており、且つ孔11内に挿入される側の端部がW型カットに加工されている。本発明は、このような先端がV型カット又はW型カットからなる軸部3(異形棒鋼)を有するアンカーにおいても適用可能であり、上記実施形態同様、高い施工信頼性を得ることができる。なお、第6の変形例或いは第7の変形例に係る構成と、第4の変形例に係る構成とを組み合わせることで、先端部に切欠部を形成するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、回転打撃力を与えてアンカー1を回転させ、孔11内にアンカーをねじ込む場合(図10参照)について説明したが、回転力のみを与えてアンカーをねじ込む場合においても有効である。
【0065】
例えば、本発明に係るアンカー1は上記凸状部4を備えるため、回転力のみによって一般的に破砕し難いガラス管を確実に破砕するため、打撃力による騒音や振動の発生を防止するとともに高い施工信頼性を得ることができる。
図19は本発明に係るアンカー(上記実施形態に係るアンカー1)、及び従来のアンカー(凸状部4を有しないアンカー)をガラス管からなるカプセルとともに母材10の孔11内にそれぞれ挿入してアンカー1に回転力のみを付与した際、孔11内から溢れ出した余剰接着剤中に含まれるカプセル(ガラス管)の粉砕状態を示す図である。図19(a)は上記実施形態に係るアンカー1によるカプセルの粉砕状態を示し、図19(b)は従来のアンカー(凸状部4を有しない比較例の構成)によるカプセルの粉砕状態を示すものである。
【0066】
本発明に係るアンカー1によれば、図19(a)に示されるようにカプセル(ガラス管)が確実には破砕されているのが確認できる。一方、従来のアンカーはガラス管を十分に粉砕することができず、図19(b)に示されるように粉砕不良ガラス片が発生していることが確認できた。
以上述べたように本発明に係るアンカー1によれば、カプセルの種類(ガラス管、紙チューブ、チューブフィルム)によらず、高い破砕(粉砕)性が得られるので、孔11内に接着剤を良好に流出させることでアンカー1を母材10に確実に固定することで、高い施工信頼性を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…アンカー、3…軸部(棒状体)、4,14,24…凸状部、6…カプセル、10…母材、11…孔(下孔)、C…中心軸、φ1…外径、a…内径
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の所謂接着系アンカーの施工においては、コンクリート(母材)に対しドリルにより一定深さの下孔を穿設し、その穿設された下孔内をブラシ等で清掃し、清掃された下孔内に接着剤が収容されたカプセルを挿入する。その後、アンカーボルト(アンカー)を回転又は回転・打撃を加えながら前記下孔のカプセルの上から押し込む。すると、下孔内のカプセルが破壊されて内部より接着剤が流出して下孔内を充満し、接着剤の硬化によりコンクリート上にアンカーボルトを固定することができる。
【0003】
このような接着系アンカーに使用されるカプセルとしては、紙チューブ、フィルムチューブやガラス製容器等が用いられている。カプセル内に収容される接着剤としては、不飽和ポリエステル系液状樹脂等からなる主剤と粒状の珪石等からなる骨材等がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「あと施工アンカー技術講習テキスト」社団法人日本建築あと施工アンカー協会 平成12年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来技術で用いられるアンカーボルトは円筒状のボルトから構成されている。そのため、下孔内に押し込まれた際に、接着剤を収容するカプセルの一部がボルトと下孔との間に残存してしまい、カプセルを十分に破砕できない可能性がある。すると、接着剤と下孔との密着性が低下することで施工信頼性が得られない可能性がある。
特に、フィルムチューブを用いる場合には、施工時における取り扱い性が良好であるが、下孔とアンカーボルトとの間にフィルムの一部により隔膜が形成されてしまうことがある。このため、この隔膜によって接着剤の固定力が低くなるのを防ぐことが要望されていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、接着系アンカーに使用されるカプセルを確実に破砕することにより母材に対して確実に定着できる、アンカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のアンカーは、母材に穿設された下孔内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されて前記カプセルを破砕し、前記下孔内に流出した接着剤の硬化により前記母材に固定される棒状体を有するアンカーであって、前記棒状体における前記下孔に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のアンカーにおいては、前記凸状部は、前記棒状体の延在方向にわたる板状からなるのが望ましい。
【0009】
また、本発明のアンカーにおいては、前記凸状部が複数形成され、これらのうち少なくとも一対が、前記棒状体の中心軸に対して対称となる位置に形成されているのが望ましい。
【0010】
さらに、前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の延在方向に位置を違えて形成されているのが望ましい。
【0011】
あるいは、前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成されているのが望ましい。
【0012】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、フィルム状のチューブからなるのが望ましい。
【0013】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、紙チューブからなるのが望ましい。
【0014】
また、本発明のアンカーにおいては、前記カプセルが、ガラス管からなるのが望ましい。
【0015】
また、本発明のアンカーにおいては、前記棒状体が、ねじ部を有するボルト、又は異形棒鋼から構成されるのが望ましい。
【0016】
また、本発明のアンカーにおいては、前記棒状体は、前記下孔内に挿入される側の端部に切欠が形成されているのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、棒状体における母材に打ち込まれる側の外周面に外方に突出する板状の凸状部が形成されているので、棒状体が下孔内に挿入された際に凸状部によってカプセルを確実に破砕することができる。これにより、カプセル内に収容された接着剤が下孔内に良好に流出することとなり、棒状体と下孔との間に良好に充填される。この状態で接着剤が硬化することで、前記棒状体は母材に穿設された下孔内に確実に固定されたものとなる。したがって、信頼性の高いアンカー施工を行うことができる。さらに、凸状部を備えることで打撃力を与えることなく、回転力のみによってカプセルを確実に破砕することが可能となる。よって、アンカーの施工時における振動や騒音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アンカーの概略構成を示す斜視図である。
【図2】アンカーを正面図である。
【図3】アンカーを母材中の孔に挿入した状態を説明する図である。
【図4】アンカーの要部拡大構成を示す図である。
【図5】アンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【図6】図5に続くアンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【図7】実験結果を示す表である。
【図8】実験結果を示すグラフを示す図である。
【図9】本実験に用いた引張試験機の構成を示す図である。
【図10】本発明に係るアンカーの効果を説明するための図である。
【図11】第1の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図12】第2の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図13】第3の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図14】第4の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図15】第5の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図16】第6の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図17】第7の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図18】第8の変形例に係るアンカーの構成を示す図である。
【図19】回転力のみを付与した際のアンカーの効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明は、母材を穿孔し、その内部に挿入したボルト等の棒状体を固着することで、母材に対して他の部材の固定を行う所謂接着系のアンカーに関するものである。ここで、母材はコンクリート製母材であり、例えば、建物の壁、天井、柱、コンクリート製パネル等である。
【0020】
図1は本実施形態のアンカーの概略構成を示す斜視図であり、図2はアンカーの正面図であり、図3はアンカーを母材中の孔に挿入した状態を説明する図であり、図4はアンカーの要部拡大構成を示す図であり、図5,6はアンカーの施工手順を示す施工工程図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るアンカー(アンカー)1は、ねじ山が形成された円柱形状の軸部(棒状体)3を主体として構成されている。アンカー1は、後述するように母材(例えば、コンクリート躯体)10に穿孔されている孔(下孔)11内に接着剤が収容されてなるカプセル6とともに前記軸部3を挿入し、カプセル6を破砕し下孔内に流出した接着剤の硬化により母材10に固定されるようになっている(図5,6参照)。
【0022】
軸部3は、孔(下孔)11に挿入される側の端部が鋭角(例えば、45°)に加工されており、これにより挿入時に上記カプセル6を容易に突き破ることが可能となっている。軸部3としては、例えばM16全ねじボルト(SNB7材)を用いた。
また、アンカー1は、軸部3の外周面上に、この軸部3の外方(径方向)に突出する板状の凸状部4が形成されている。すなわち凸状部4は軸部3の延在方向にわたる板状に形成されている。ここで、延在方向にわたる板状とは、軸部3の延在方向に対し凸状部4が所定の長さ(寸法)を有していることを意味している。なお、凸状部4は、その長さ方向が軸部3の延在方向に対して平行、あるいは傾斜していてもよい(本実施形態は平行)。上記凸状部4はプレス加工により軸部3の外周面上に形成することができる。なお、凸状部4の加工方法は、プレスに限定されることはなく、例えば軸部3に形成した溝内に埋め込む、或いはねじ込むことで凸状部4を形成することができる。
【0023】
また、凸状部4は、図2に示されるように軸部3の中心軸Cに対し対称となる位置に対をなすように設けられている。具体的には、四対の凸状部4が軸部3に形成されている。
これら四対の凸状部4は、軸部3の正面(軸部3の延在方向)から視て互いが重ならない位置に配置されている。すなわち、前記軸部3の周方向に位置を違えた状態に形成されている。具体的には四対の凸状部4が外周面上に45°毎に位置を違えている。
また、四対の凸状部4が軸部3の長さ方向にそれぞれ位置を違えて形成されているので、孔11に挿入された際に凸状部4が孔11の内壁面に当接することでアンカーの傾きを防止することができるようになっている。
【0024】
図3は、アンカー1が母材10に穿設された孔11に挿入された状態を示す図であり、図3(a)は側面図を示し、図3(b)は正面図を示している。なお、説明を分かり易くするため、同図中では、孔11内に挿入されるカプセルの図示を省略している。
【0025】
図3(a),(b)に示されるように、アンカー1の外径φ1は母材10の孔11における内径aに対して、同等もしくは若干小さく形成されるのが望ましい。なお、アンカー1の外径φ1とは、図3(b)に示すように軸部3上に設けられた凸状部4における先端部4aを結ぶ同図中1点鎖線により示される円の径である。
【0026】
具体的に本実施形態においては、上記アンカー1の外径φ1を18mmとし、孔11における内径aを20mmとした。また、上述したようにアンカー1における軸部3はM16全ねじボルトから構成されており、その外径φ2が16mmに設定される。また、図3(a)に示したように、軸部3の先端部から最も離間して配置される凸状部4の端部までの距離Lは48mmに設定される。なお、本実施形態においては、上記アンカー1の外径φ1と孔11の内径aとの差が、0.0mm以上4.0mm以下とするのが望ましい(本実施形態では2.0mmである)。
【0027】
凸状部4は、図4に示されるように、軸部3の径方向の高さh(アンカーの外径φ1と軸部3の外径φ2との差)が1.0mmとされる。また、本実施形態に係る凸状部4は、平面視した状態で略矩形形状とされており、軸部3の延在方向に沿う長さBが8mmに設定される。
このような構成に基づいて、アンカー1は、凸状部4が孔11の径方向に対する動きを規制することで孔11に打ち込まれる際に位置ズレ等が生じるのを良好に防止できるようになっている。
【0028】
また、前記軸部3は、孔11への挿入側の反対側に不図示の回転操作部が形成されている。この回転操作部は、アンカー1をコンクリート躯体からなる母材10に穿孔されている孔11にねじ込む際に、工具(手工具又は電動工具)等を取り付けることでアンカー1を回転操作してアンカー1に回転力を与える機能をなす部分である。このような回転操作部の一例としては、ダブルナット六角形や四角形等の多角形状の頭部、軸部他端側の頭部の端面に開口する十字穴、マイナス溝、六角穴あるいは四角穴等のレンチ穴等を例示できる。
【0029】
アンカー1を固着する手段としては、接着剤をカプセル内に収容したものが用いられる(図5参照)。このカプセルとしては紙チューブ、ガラス管、或いはフィルムチューブ等を用いることができ、具体的に本実施形態ではフィルムチューブを用いた。
【0030】
(アンカーの施工方法)
以下、図5,6を参照しつつ、アンカー1の施工工程について説明するとともに、本発明のアンカー1を用いることで得られる格別の作用効果について述べる。なお、図5,6では断面形状で示される母材10の孔11内にアンカー1を施工している。
【0031】
本実施形態に係るアンカーの施工方法は、接着剤が収容されてなるカプセル6をコンクリート躯体からなる母材10に穿設された孔11に入れた後、孔11にアンカー1を挿入し、前記カプセル6を破壊することで、カプセル6から流出した接着剤の硬化により母材10と一体にアンカー1を固着させるものである。
【0032】
まず、図5に示すように母材10にアンカー1を挿入するための孔11を穿設する。この孔11は、マーキングを施したドリル等を用いることで母材10に所定の深さの孔を形成し、この孔内をブロアー又は吸塵機とブラシとで清掃することで形成される。なお、ブロアー又は吸塵機及びブラシを交互に繰り返し行うことで孔内清掃を行ってもよい。
【0033】
ここで、前記孔11にカプセル6を挿入する前処理として、アンカー1を前記孔11に挿入するとともにアンカー1における母材10の上面に対応する位置にマーキングを施す。このマーキングに基づいて、アンカー1における孔11内への挿入量が容易に把握できるようになる。
続いて、図6(a)に示すように、接着剤が収容されてなるカプセル6を挿入する。そして、図6(b)に示すように、このカプセル6上に、例えば電動ハンマードリル等に装着したアンカー1を軸部3の先端部側(前記凸状部4が形成された側)から挿入するとともに、他端側(回転操作部側)に回転打撃力を与えてアンカー1を回転させ、上記マーキングを参照にして軸部3に形成されたねじ部を孔11内の所定深さまでねじ込む。このとき、凸状部4が軸部3の延在方向に沿って形成されているので、軸部3の挿入時にカプセル6に接触する凸状部4の表面積が抑制でき、アンカー1をカプセル6上からスムーズに挿入することができる。そして、挿入時には凸状部4がカプセル(フィルム)を切り開くことで内部から接着剤を流出させる。
【0034】
さらに、カプセル6上から挿入したアンカー1を回転させることにより、凸状部4がカプセル6を良好に破砕することができる。また、上述したように(図3参照)アンカー1の外径φ1は孔11の内径aに対して僅かに小さくなっている。よって、孔11内にて前記凸状部4によってアンカー1の径方向の動きが規制されるとともに、孔11内にて良好に回転することができる。また、孔11の内壁面と軸部3との間に生じた僅かな隙間の間にカプセル6を構成するフィルムチューブが入り込んだ場合でも、凸状部4によって細かく破砕することができる。
【0035】
具体的には、図3に示したようにアンカー1の正面から視て、四対の凸状部4は軸部3の周方向に位置を違えて形成されているので、アンカー1が孔11内に挿入される際に異なる位置に配置された凸状部4によってカプセル6(フィルム)が捻られることで、容易に破壊することができる。
【0036】
また、アンカー1は、図3に示したように軸部3の中心軸に対して対称となる位置に凸状部4が対をなすように配置されているので、アンカー1を孔11内に挿入された際に、凸状部4と孔11の内壁との接触点が孔11の中心に関して対称の位置に配置されることで挿入時における位置ズレを良好に防止するとともに孔11の略中央にアンカーを配置できる(センタリング効果を得ることができる)。よって、孔11に挿入されたアンカー1が傾斜した状態で固定されてしまうのを良好に防止できる。
【0037】
また、四対の凸状部4は軸部3の延在方向に位置を違えて形成されている(図3参照)ので、凸状部4により孔11内の深さ方向においてアンカー1を位置決めすることができ、接着剤が硬化前における軸部3の傾きを防止できる。
【0038】
すると、上述したように凸状部4によって破砕されたカプセル6内に収容されていた接着剤が孔11内に良好に拡がって、軸部3と孔11との間に均一に行き渡る。ここで、アンカー1の外径φ1は孔11の内径aよりも小さくなっているので、凸状部4及び孔11の僅かな隙間にも接着剤が入り込んで、接着剤は軸部3の周囲に行き渡らせることができるのである。
このような状態で接着剤が硬化することで、本実施形態に係るアンカー1によれば、後述する実験結果に示されるように従来の凸状部4を有しないアンカーに比べ、母材10に穿設された孔11内に確実に定着されたものとすることができる。また、本実施形態に係るアンカー1は、凸状部4が孔11の内壁面に近接した状態となっているため、カプセル6の破砕時に凸状部4が孔11の内壁面に接着剤を擦りつけるようになる。よって、接着剤を孔11の内壁面に密着させることができ、施工信頼性を向上させることができる。
【0039】
(実験例)
図7は、コンクリート躯体からなる母材に形成した異なる径を有する穿孔内に、本発明に係るアンカー1をそれぞれ埋め込み、アンカー1の付着強度を計測し、その結果を示した表である。また、図8は図7における測定結果をグラフ化したものであり、横軸は母材に形成される穿孔径(単位;mm)を示し、縦軸は付着強度(単位;N/mm2)を示す。
【0040】
なお、実験方法(付着強度の測定方法)としては、例えば圧縮強度27.3N/mm2のコンクリート躯体からなる母材に、深さが約130mm、穿孔径18mm、19mm、20mm、22mm、23mmの条件で穿孔し、孔底の切粉を吸塵機で除去し、孔壁の切粉をナイロンブラシで除去した後、再度吸塵機で切粉を除去し、孔内の清掃を行う。そして、上記アンカー1を孔内へ挿入し、図5、6に示した工程に基づき、ハンマードリルにより回転と打撃力によってアンカー1を所定深さまで埋め込み、1日養生させた後、母材に対するアンカーの付着強度を測定する。
【0041】
アンカーの付着強度の測定時においては、図9に示す引張試験機100を用いた。引張試験機100は、母材に定着させたアンカー1にカップリング108を介してセンターシャフト101を装着し、架台102、球座103、支圧板104、ロードセル105、油圧ジャッキ106、および変位計107を取り付け、油圧ポンプ109の油圧を上げて油圧ジャッキ106、センターシャフト101を介してアンカー1に引抜荷重を与える。そして、ロードセル105によって荷重値を計測し、変位計107によってアンカー1の引抜量を計測し、データロガー110で記録を行う。そして、データロガー110で記録されたデータをコンピュータ111の表示画面に出力させることができる。
【0042】
ところで、本実験においては、母材10の孔11の穿孔径が18mmのものを実施例1、母材10の孔11の穿孔径が19mmのものを実施例2、母材10の孔11の穿孔径が20mmのものを実施例3、母材10の孔11の穿孔径が22mmのものを実施例4、母材10の孔11の穿孔径が23mmのものを実施例5とした。すなわち、上述した実施形態において母材10の孔11にアンカー1を埋め込んだ構成は、実施例3に相当する。
【0043】
また、上記各実施例1〜5において、それぞれの孔11内に埋め込むアンカー1を、従来のアンカー(凸状部4を備えず、M16全ねじボルトからなる軸部3)に置き換えたものをそれぞれ比較例1〜5とした。
【0044】
図8に示されるように、本発明に係るアンカー(実施例1〜5)によれば、比較例(従来のアンカー)に比べて付着強度が向上することが確認できた。特に、穿孔径が18mm〜20mmの範囲内(実施例1〜3)において、安定した付着強度を得ることができる。この理由としては、上述のように凸状部4を備えることでカプセル6を良好に破砕することができるためである。
【0045】
ここで、凸状部4によるカプセル6の優れた破砕性について述べる。
図10は本発明に係るアンカー(上記実施形態に係るアンカー1)、及び従来のアンカー(凸状部4を有しないアンカー)をそれぞれ母材10の孔11内に挿入した後、孔11内からカプセル6を取り出し、その破砕状態をそれぞれ確認した図である。なお、同図(a)は上記実施形態(実施例3)に係るアンカー1の破砕状態を示し、同図(b)は従来のアンカー(凸状部4を有しない比較例の構成)の破砕状態を示すものである。
【0046】
本発明に係るアンカー1によれば、図10(a)に示されるようにカプセル6が確実には破砕されているのが確認できる。一方、従来のアンカーはフィルムを十分に破砕することができず、図10(b)に示されるように不破砕フィルム片が発生しているのが確認できる。
【0047】
また、一般的に、アンカーは穿孔径が大きくなりすぎると、付着強度の低下が生じる。例えば、比較例に示されるように穿孔径が20mmを超えると付着強度が10.0N/mm2よりも低くなる。これは、従来構成のアンカー(比較例4,5)においては、穿孔径が20mmを超えると、孔内でカプセル6(フィルム)が十分に破砕できず、孔内における接着剤の攪拌性能が著しく低下することで接着剤が良好に分散されないため、接着強度が低下するからである。
【0048】
これに対し、本発明に係るアンカー1(実施例4)は、穿孔径が20mmを超えた場合でも、比較例4のように付着強度が10.0N/mm2よりも低くなることがない。これは、上述したように孔11内に挿入された軸部3は外周面に設けられた凸状部4によってカプセル6が確実に破砕されるため、軸部3と孔11との間にフィルム片が残存することがないからである。よって、孔内において攪拌され良好に分散された接着剤が硬化することで孔11内にアンカー1が確実に固定され、接着強度を向上できる。
【0049】
本発明に係るアンカー1(実施例1〜4)は、穿孔径18mm〜22mmの場合に、所望の付着強度(10.0N/mm2以上)を得る事ができる。これに対し、従来のアンカー(比較例1〜3)は、穿孔径18mm〜20mmの場合に、所望の付着強度(10.0N/mm2以上)を得る事ができる。
【0050】
したがって、本発明に係るアンカー1によれば、同一の軸部3を有する従来のアンカー(比較例1〜5)に比べ、所望の付着強度を得るために許容される穿孔径の幅が拡大している。よって、本発明に係るアンカー1は、従来のアンカーに比べ、母材に形成する穿孔径の管理を容易なものとすることができる。
【0051】
なお、上述の実験例においては、M16全ねじボルトからなる軸部3に凸状部4が形成されたアンカー1を、穿孔径18mm、19mm、20mm、22mm、23mmの孔内に挿入することで付着強度について評価し、この結果に基づき、本発明に係るアンカーの優れた作用効果について述べたが、本発明の適応範囲は上述した径(M16全ねじボルト)の軸部3、及び上述の凸状部4を有するアンカー1のみに限定されない。
本発明は、アンカーの外径φ1と、アンカーが挿入される孔の内径aとの差が、例えば0.0mm以上4.0mm以下の範囲を満たすものであれば種々のものに適応可能である。すなわち、本発明は、M16全ねじボルトよりも径が小さい或いは大きい軸部に凸状部を設けたアンカーを上述の穿孔径とは異なる孔内に埋め込んだ場合においても良好な付着強度を得ることができる。
【0052】
(変形例)
続いて、本発明のアンカーに係る変形例について説明する。図11(a)は第1の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図11(b)はアンカーの正面図を示すものである。図11(a)、(b)は上記実施形態の図1,2に対応するものである。また、図12(a)は第2の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図12(b)はアンカーの正面図を示すものである。また、図13(a)は第3の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図13(b)はアンカーの正面図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカーとは凸状部の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0053】
第1の変形例に係る構成では、図11(a)に示されるように軸部3に形成される板状の凸状部4´は外方に向かって板厚が次第に減少しており、先端が尖った断面形状を有する。本変形例に係る凸状部4´を有したアンカー1を用いれば、凸状部4´と孔11の内壁面との間に入り込んだカプセル6(フィルム)をより良好に破砕することができ、より高い施工信頼性を得ることができる。
【0054】
また、第2の変形例に係る構成は、図12(a),(b)に示されるように軸部3に形成される凸状部14が円錐形状から構成され、先端が尖った形状を有する。本変形例に係る凸状部14を有したアンカー1においても上記実施形態及び変形例と同様に、高い施工信頼性を得ることができる。
また、第3の変形例に係る構成は、図13(a),(b)に示されるように軸部3に形成される凸状部24が円柱形状から構成されている。本変形例に係る凸状部24を有したアンカー1においても上記実施形態及び変形例と同様に、高い施工信頼性を得ることができる。
【0055】
なお、本発明に係るアンカーは、上述した実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、凸状部4の数は上記実施形態(8個)に限定されることは無く、本発明は凸状部4のうちの少なくとも一対が、軸部3の中心軸に対して対象となる位置に形成してもよい。また、前記凸状部4のうち少なくとも二対が、軸部3の延在方向に位置を違えて形成してもよい。あるいは、前記凸状部4のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態及び変形例では、アンカー1を構成する軸部3として金属製のアンカーボルトを用いたが、後述するように異形棒鋼等であっても良い。また、例えば、プラスチック製、FRP(繊維強化プラスチック)製等の、棒状に形成された各種構成のものを採用できる。
また、本発明の適用対象となる母材10としては、コンクリート躯体に限定されず、例えばレンガ躯体、ALC、樹脂等からなる躯体等も採用可能である。また、棒状打ち込み式の金属拡張アンカー等に比べて、施工対象となる母材の要求強度が低くて済むため、例えば劣化したレンガ躯体等といった脆い母材であっても孔を形成できれば施工可能であり、孔を形成できれば殆どの母材に適用できるといった利点を有している。
【0057】
図14は第4の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3の先端の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0058】
第4の変形例に係る構成では、図14(a)、(b)に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部に切欠50が形成されている。切欠50の寸法としては、図14(b)に示されるように、例えば切り込みの角度θを60°、切り込みの深さdを2mmに設定した。
このような切欠50を有したアンカー1を用いれば、アンカー1を回転させた際、切欠50に挟み込まれたカプセル6(フィルム)が捻られるようになる。すなわち、切欠50は、カプセル6を良好に破砕させる起点として機能する。したがって、本変形例に係るアンカー1によれば、より良好にカプセル6を破砕することができ、高い施工信頼性を得ることができる。
【0059】
図15は第5の変形例に係るアンカーの斜視図を示し、図16は第6の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3の先端の形状が異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0060】
第5の変形例に係る構成では、図15に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部がV型カットに加工されている。第6の変形例に係る構成では、図16に示されるように軸部3の孔11内に挿入される側の端部がW型カットに加工されている。なお、V型カットとは軸部3の端部における断面形状がV字状をなすことを意味し、W型カットとは軸部3の端部における断面形状がW字状をなすことを意味している。本発明は、このような先端がV型カット又はW型カットからなる軸部3を有するアンカーにおいても適用可能であり、上記実施形態同様、高い施工信頼性を得ることができる。
【0061】
なお、第5の変形例或いは第6の変形例に係る構成と、第4の変形例に係る構成とを組み合わせるようにしてもよい。すなわち、V型カット或いはW型カットの先端部に切欠部を形成するようにしてもよい。
【0062】
図17は第7の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものであり、図18は第8の変形例に係るアンカーの斜視図を示すものである。なお、本変形例と上記実施形態に係るアンカー1とは軸部3が異形棒鋼から構成されている点で異なり、それ以外の構成については同等である。以下の説明では、上記実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、それ以外の構成については説明を省略若しくは簡略する。
【0063】
第7の変形例に係る構成では、図17に示されるように軸部3が異形棒鋼から構成されており、且つ孔11内に挿入される側の端部がV型カットに加工されている。第8の変形例に係る構成では、図18に示されるように軸部3が異形棒鋼から構成されており、且つ孔11内に挿入される側の端部がW型カットに加工されている。本発明は、このような先端がV型カット又はW型カットからなる軸部3(異形棒鋼)を有するアンカーにおいても適用可能であり、上記実施形態同様、高い施工信頼性を得ることができる。なお、第6の変形例或いは第7の変形例に係る構成と、第4の変形例に係る構成とを組み合わせることで、先端部に切欠部を形成するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、回転打撃力を与えてアンカー1を回転させ、孔11内にアンカーをねじ込む場合(図10参照)について説明したが、回転力のみを与えてアンカーをねじ込む場合においても有効である。
【0065】
例えば、本発明に係るアンカー1は上記凸状部4を備えるため、回転力のみによって一般的に破砕し難いガラス管を確実に破砕するため、打撃力による騒音や振動の発生を防止するとともに高い施工信頼性を得ることができる。
図19は本発明に係るアンカー(上記実施形態に係るアンカー1)、及び従来のアンカー(凸状部4を有しないアンカー)をガラス管からなるカプセルとともに母材10の孔11内にそれぞれ挿入してアンカー1に回転力のみを付与した際、孔11内から溢れ出した余剰接着剤中に含まれるカプセル(ガラス管)の粉砕状態を示す図である。図19(a)は上記実施形態に係るアンカー1によるカプセルの粉砕状態を示し、図19(b)は従来のアンカー(凸状部4を有しない比較例の構成)によるカプセルの粉砕状態を示すものである。
【0066】
本発明に係るアンカー1によれば、図19(a)に示されるようにカプセル(ガラス管)が確実には破砕されているのが確認できる。一方、従来のアンカーはガラス管を十分に粉砕することができず、図19(b)に示されるように粉砕不良ガラス片が発生していることが確認できた。
以上述べたように本発明に係るアンカー1によれば、カプセルの種類(ガラス管、紙チューブ、チューブフィルム)によらず、高い破砕(粉砕)性が得られるので、孔11内に接着剤を良好に流出させることでアンカー1を母材10に確実に固定することで、高い施工信頼性を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…アンカー、3…軸部(棒状体)、4,14,24…凸状部、6…カプセル、10…母材、11…孔(下孔)、C…中心軸、φ1…外径、a…内径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に穿設された下孔内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されて前記カプセルを破砕し、前記下孔内に流出した接着剤の硬化により前記母材に固定される棒状体を有するアンカーであって、
前記棒状体における前記下孔に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部が形成されていることを特徴とするアンカー。
【請求項2】
前記凸状部は、前記棒状体の延在方向にわたる板状からなることを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
前記凸状部が複数形成され、これらのうち少なくとも一対が、前記棒状体の中心軸に対して対称となる位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンカー。
【請求項4】
前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の延在方向に位置を違えて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアンカー。
【請求項5】
前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアンカー。
【請求項6】
前記カプセルが、フィルム状のチューブからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項7】
前記カプセルが、紙チューブからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項8】
前記カプセルが、ガラス管からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項9】
前記棒状体が、ねじ部を有するボルト、又は異形棒鋼から構成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項10】
前記棒状体は、前記下孔内に挿入される側の端部に切欠が形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項1】
母材に穿設された下孔内に、接着剤が収容されたカプセルとともに挿入されて前記カプセルを破砕し、前記下孔内に流出した接着剤の硬化により前記母材に固定される棒状体を有するアンカーであって、
前記棒状体における前記下孔に挿入される部分の外周面に、外方に突出する凸状部が形成されていることを特徴とするアンカー。
【請求項2】
前記凸状部は、前記棒状体の延在方向にわたる板状からなることを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
前記凸状部が複数形成され、これらのうち少なくとも一対が、前記棒状体の中心軸に対して対称となる位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンカー。
【請求項4】
前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の延在方向に位置を違えて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアンカー。
【請求項5】
前記複数の凸状部のうち少なくとも二対が、前記棒状体の周方向に位置を違えて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアンカー。
【請求項6】
前記カプセルが、フィルム状のチューブからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項7】
前記カプセルが、紙チューブからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項8】
前記カプセルが、ガラス管からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項9】
前記棒状体が、ねじ部を有するボルト、又は異形棒鋼から構成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項10】
前記棒状体は、前記下孔内に挿入される側の端部に切欠が形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のアンカー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図10】
【図14】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図10】
【図14】
【図19】
【公開番号】特開2009−221838(P2009−221838A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25071(P2009−25071)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
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