説明

アンテナシステム

【課題】本発明では、さらなる小型化が可能であり、設計が容易なアンテナシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】第1のスロットアンテナおよび第1の人工媒質を有する第1のアンテナと、該第1のアンテナと隣り合うように配置された、第2のスロットアンテナおよび第2の人工媒質を有する第2のアンテナと、を少なくとも有し、前記第1および第2の人工媒質は、絶縁層の同一平面上に配置され、電磁波が結合された際、第1の人工媒質には、第1の方向に電流が流れ、第2の人工媒質には、第1の方向とは異なる第2の方向に電流が流れることを特徴とするアンテナシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナシステムに関し、特にMIMO技術等に適用されるアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナを組み合わせて、無線システムの伝送容量を増大させるMIMO(Multiple Input Multipule Output)と呼ばれる無線通信技術がある。この技術では、複数のアンテナで、同時に異なるデータが送信される。一方、受信時には、異なるデータが合成される。従って、MIMO技術では、擬似的に広帯域化が実現され、通信の高速化が可能となる。理論的には、設置したアンテナの本数に比例して、帯域幅を増加させることができる。
【0003】
しかしながら、一般に、各アンテナ同士の間の距離が近づけば近づくほど、アンテナ同士の結合(カップリング)が大きくなり、一つのアンテナが他のアンテナの動作に及ぼす影響が無視できなくなる。特に、携帯電話機のような小型機器の場合、このようなアンテナ同士の結合の影響は、極めて顕著となる。そのため、MIMO技術を小型機器に適用する上で、アンテナシステムの小型化は、極めて大きな技術的課題となっている。
【0004】
近年、このような問題を克服するため、自然界では得られない電磁気的特性を有する、人工媒質(Artificial medium)と呼ばれる人工的な媒体を使用することにより、複数のアンテナ同士の結合(カップリング)を弱め、これらのアンテナを相互に独立に作動させる技術が検討されている(特許文献1−2、および非特許文献1)。
【0005】
例えば、非特許文献1には、矩形状の人工媒質を同一平面内に平行に配置し、さらにこれらの人工媒質のそれぞれの上面に、アンテナを相互に平行に配置することにより、アンテナシステムの小型化が可能であることが報告されている。
【0006】
また、特許文献1には、2本のアンテナを媒質の表面上に平行に配置し、この媒質中に、両アンテナの間と、それぞれのアンテナの上側とに、実効的に比誘電率が負となるようなSNGメタマテリアル材料(Single Negative Metamaterials)が「T」字型に配置されるようにして、アンテナシステムを構成することにより、両アンテナ間の結合を分離する技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0258993号公報
【特許文献2】国際公開第WO2008/136530号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mahara ACHOUR,Ajay GUMMALLA,Cheng−Jung LEE,Gregory POILASNE,MICROWAVE WORKSHOP AND EXIBITONS(MWE),2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の非特許文献1に記載のアンテナシステムにおいても、2つのアンテナ間の距離は、アンテナの動作周波数の波長で規格化すると、0.37波長程度までしか近づけることはできず、この構造では、アンテナシステムのさらなる小型化を図ることは難しい。
【0010】
また、前述の特許文献1に記載のアンテナシステムでは、上面側(媒質の厚さ方向)から見たとき、グラウンドプレーン(Ground Electrode)は、それぞれのアンテナの下側(すなわち「T」字型のSNGメタマテリアル材料によって囲まれていない側)に配置されるようにして、媒質の表面と同一の平面内に配置される。しかしながら、このような構成では、グラウンドプレーンの分だけ、アンテナの作動に必要な面内領域が広がってしまうため、アンテナシステム全体としての小面積化を図ることが難しくなるという問題がある。また、このような構成では、アンテナの特性がグラウンドプレーンの寸法(縦横の長さ)に大きく影響されるため、最適なシステム設計を行うことが難しいという問題がある。例えば、アンテナ特性を最適化するためには、グラウンドプレーンの寸法の他にも、SNGメタマテリアル材料の寸法、配置および比誘電率、ならびにアンテナの構造パラメータ等、多くのパラメータを調整する必要が生じる。
【0011】
この他、アンテナシステムの小型化を目的として、ダイポールアンテナシステムが提案されている(特許文献2)。しかしながら、ダイポールアンテナシステムは、使用部品等の観点から、例えば携帯電話のような小型機器に適用することには、あまり適してはいないという問題がある。
【0012】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、さらなる小型化が可能であり、設計が容易なアンテナシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、
第1のスロットアンテナおよび第1の人工媒質を有する第1のアンテナと、
該第1のアンテナと隣り合うように配置された、第2のスロットアンテナおよび第2の人工媒質を有する第2のアンテナと、
を少なくとも有し、
前記第1および第2の人工媒質は、絶縁層の同一平面上に配置され、
電磁波が結合された際、第1の人工媒質には、第1の方向に電流が流れ、第2の人工媒質には、第1の方向とは異なる第2の方向に電流が流れることを特徴とするアンテナシステムが提供される。
【0014】
ここで、当該アンテナシステムは、さらに、前記第2のアンテナと隣り合う第3のアンテナを有し、
該第3のアンテナは、第3のスロットアンテナおよび第3の人工媒質を有し、
前記第3の人工媒質は、前記絶縁層の前記同一平面上に配置され、
当該アンテナシステムに電磁波が結合された際、前記第3の人工媒質には、前記第2の方向とは異なる第3の方向に、電流が流れても良い。
【0015】
また、当該アンテナシステムは、第1および第2の2つのアンテナを備え、前記第1の方向と前記第2の方向は、実質的に直交していても良い。
【0016】
また、本発明によるアンテナシステムにおいて、前記人工媒質の少なくとも一つは、矩形状であっても良い。
【0017】
また、本発明によるアンテナシステムにおいて、前記各スロットアンテナのスロットの延伸方向は、実質的に等しくなっていても良い。
【0018】
また、本発明によるアンテナシステムにおいて、前記人工媒質は、誘電体層と、該誘電体層の表裏面に設置された導電性素子とにより構成されても良い。
【0019】
また、本発明によるアンテナシステムにおいて、前記第1、第2および/または第3のスロットアンテナは、スロットを備えるグラウンドプレーンで構成されても良い。
【0020】
さらに、本発明では、
第1面および該第1面に対向する第2面を有する絶縁体と、
前記絶縁体の前記第1面上に設けられたグランドプレーンであって、前記絶縁体の前記第1面の一部を露出する、少なくとも一つのスロットが形成されたグランドプレーンと、
前記絶縁体の第2面に、前記絶縁体を介して、前記グランドプレーンに形成された前記スロットを覆うように設置された人工媒質と、
を備えるアンテナシステムが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、さらなる小型化が可能であり、設計が容易なアンテナシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のアンテナシステム1を概略的に示した斜視図である。
【図2】従来のダイポールアンテナシステム10を概略的に示した上面図である。
【図3】従来のダイポールアンテナシステム10におけるダイポールアンテナ素子の全長とS11特性の関係の一例を示した図である。
【図4】本発明によるアンテナシステムの概略的な上面図である。
【図5】本発明によるアンテナシステムの概略的な断面図である。
【図6】本発明によるアンテナシステムの概略的な底面図である。
【図7】本発明によるアンテナシステム100を備えたMIMOアンテナ装置200を示した図である。
【図8】実施例1に係る、2つのアンテナを有するアンテナシステムの構成を概略的に示した図である。
【図9】実施例1に係るアンテナシステムにおいて得られた、アンテナ特性のシミュレーション結果である。
【図10】実施例2に係るアンテナシステムにおいて得られた、アンテナ特性のシミュレーション結果である。
【図11】実施例3に係るアンテナシステムにおいて得られた、アンテナ特性のシミュレーション結果である。
【図12】実施例4に係るアンテナシステムにおいて得られた、アンテナ特性のシミュレーション結果である。
【図13】本発明による別のアンテナシステム100'の概略的な底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明について説明する。
【0024】
まず、本発明の特徴およびその有意性をより良く理解するため、従来のアンテナシステムの構成について説明する。
【0025】
図1には、人工媒質を使用した、従来の(特許文献1に記載された)アンテナシステム1の構成の一例を模式的に示す。
【0026】
従来のアンテナシステム1は、通常の媒質2の第1表面3上に、相互に平行に設置したアンテナ4A、4Bと、メタマテリアル5と、グラウンドプレーン6とを有する。メタマテリアル5は、通常の媒質2内に、T字状に埋設されている。上面(図1のZ方向)から見たとき、メタマテリアル5により、アンテナ4Aと4Bの間が分離されるとともに、各アンテナ4A、4Bと、通常の媒質2の上方(Y方向)側とが分離される。グラウンドプレーン6は、通常の媒質2のY方向負側に設置され、グラウンドプレーン6には、各アンテナ4A、4Bが結合される。
【0027】
このアンテナシステム1では、メタマテリアル5により、アンテナ4Aと4Bの間が分離されており、アンテナシステムの小型化を図ることができる。
【0028】
しかしながら、このアンテナシステム1では、グラウンドプレーン6の分だけ、アンテナの作動に必要な面内領域が広がってしまうため、全体としてアンテナシステム1のXY平面での小面積化を図ることが難しくなるという問題がある。
【0029】
また、このような構成では、アンテナ4A、4Bの特性がグラウンドプレーン6の寸法(X方向の幅W1およびY方向の長さL1)に大きく影響されるため、最適なシステム設計を行うことが煩雑で難しくなるという問題がある。例えば、アンテナシステム1の特性を最適化するためには、グラウンドプレーン6の寸法(W1、L1)の他にも、メタマテリアル5の寸法、比誘電率およびアンテナ4A、4Bとの距離、ならびにアンテナ4A、4Bの構造パラメータ等、多くのパラメータを調整する必要が生じる。
【0030】
一方、図2には、特許文献2において、アンテナシステムの小型化を目的として提案された、ダイポールアンテナシステム10を示す。このアンテナシステム10は、ダイポールアンテナ素子群20A〜20Cと、誘電体基板30と、人工媒質群50A〜50Cと、をこの順に積層することにより構成される。なお、図2の上面図では、人工媒質群50A〜50Cは、誘電体基板30の存在により、直接視認することはできないため、破線で示されている。
【0031】
このようなダイポールアンテナシステム10を採用することにより、各アンテナ間の距離(正確には、隣り合うアンテナ同士の給電点間の距離)SPを狭めることができることが示されている。
【0032】
ここで、前述のようなMIMO技術を、例えば携帯電話のような小型機器に適用することを想定した場合、アンテナシステムの形態として、ダイポールアンテナ方式を採用することは、あまり現実的ではない。これは、ダイポールアンテナは、平衡系であるのに対し、多くのICチップの出力は、非平衡系であるため、ICチップとダイポールアンテナの間を接続する場合、バランと呼ばれる素子が必要になるからである。一般に、バランは、平衡系のアンテナに、非平衡伝送線路を結合する際に必要となる素子であり、この素子の追加により、アンテナシステムは、より大型化してしまう。また、無線機内には必ずグラウンドプレーンなどの金属が存在し、ダイポールアンテナは、これらの影響を受け易いと言う問題がある。
【0033】
従って、小型機器に適用する場合、より簡単な構造で、必要な素子が少ないアンテナ方式、例えばマイクロストリップ線路などの非平衡線路との結合が可能な、スロットアンテナ方式のアンテナシステムを採用することが望ましいと考えられる。
【0034】
しかしながら、これまでに、スロットアンテナと人工媒質を組み合わせたアンテナシステムは、提案されていない。これは、前述のようなダイポールアンテナシステム10の構造を、そのままスロットアンテナシステムに適用することは難しいためである。例えば、スロットアンテナに人工媒質を近接させると、入力インピーダンスが影響を受けるが、この影響の度合いは、ダイポールアンテナを用いた場合とは、異なることが予想される。
【0035】
図3には、本願発明者らによって測定された、前述のダイポールアンテナシステム10におけるダイポールアンテナ素子の全長とS11特性の関係の一例を示す。例えば5GHzの電磁波を想定した場合、共振が生じるアンテナ素子の全長は、λ(波長)/2、すなわち、30mm〜40mm程度であることが設計的に予想される。図の結果は、この予想に一致しており、ダイポールアンテナシステム10の場合、アンテナ素子の長さが約40mmの際に、良好な特性が得られることがわかる。
【0036】
一方、ダイポールアンテナ部分だけをスロットアンテナに変更して、スロットアンテナシステムにおいて同様の計算を行った場合、アンテナ素子の長さを約40mmとしても、良好な特性は得られない。図3において、白丸は、この計算結果を示しており、スロットアンテナシステムの場合、アンテナ素子の長さを約40mmとしても、適正な反射特性は得られないことがわかる。
【0037】
これは、ダイポールアンテナとスロットアンテナとでは、人工媒質をそれぞれのアンテナに近接させた場合、その影響が異なることを示すものである。すなわち、単に人工媒質の共振周波数とアンテナの共振周波数を合わせただけでは、インピーダンスは、適正に結合しない場合がある。従って、スロットアンテナを備えるアンテナシステムを適正に動作させるためには、アンテナの形状、材料構成、および/または人工媒質の配置を最適化して、インピーダンスを適正に調整しなければならない。
【0038】
本願発明者らは、このような背景の下、小型化が可能であり、設計が容易なアンテナシステムについて、鋭意研究開発を進め、本願発明に至った。すなわち、本発明では、
第1のスロットアンテナおよび第1の人工媒質を有する第1のアンテナと、
該第1のアンテナと隣り合うように配置された、第2のスロットアンテナおよび第2の人工媒質を有する第2のアンテナと、
を少なくとも有し、
前記第1および第2の人工媒質は、絶縁層の同一平面上に配置され、
電磁波が結合された際、第1の人工媒質には、第1の方向に電流が流れ、第2の人工媒質には、第1の方向とは異なる第2の方向に電流が流れることを特徴とするアンテナシステムが提供される。
【0039】
(本発明のアンテナシステムの構成)
以下、図4〜図6を参照して、本発明によるアンテナシステムについて、詳しく説明する。図4は、本発明によるアンテナシステムの概略的な上面図を示す。図5は、図4のI−I線での模式的な断面図である。また、図6は、本発明によるアンテナシステムの概略的な底面図である。
【0040】
なお、図4〜図6は、説明のための単なる一例であって、本発明によるアンテナシステムは、他の構成であっても良い。例えば、図において、アンテナシステムは、3つのアンテナを有するように示されている。しかしながら、この数は、異なっていても良く、アンテナの数は、例えば2つまたは4つ以上であっても良い。
【0041】
図4〜図6に示すように、本発明によるアンテナシステム100は、3つのアンテナ105A〜105Cを有する。また、本発明によるアンテナシステム100は、3つのスロット110A〜110Cを有するグラウンドプレーン120と、絶縁層130と、3つの人工媒質150A〜150Cとを有する。絶縁層130は、グラウンドプレーン120と、人工媒質150A〜150Cの間に設置されている。人工媒質150A〜150Cは、絶縁層130の同一平面上に配置される。
【0042】
図4に示すように、アンテナシステム100を上面から見た場合、グラウンドプレーン120の各スロット110A〜110Cは、それぞれ、人工媒質150A〜150Cと重なるようにして配置される。これにより、スロット110Aおよび人工媒質150Aを含むスロットアンテナ105Aと、スロット110Bおよび人工媒質150Bを含むスロットアンテナ105Bと、スロット110Cおよび人工媒質150Cを含むスロットアンテナ105Cの3つのアンテナが形成される。
【0043】
なお、図の例では、各スロット110は、いずれもX方向に対して45゜傾斜した状態で、構成されている。しかしながら、これは、一例であって、スロット110の方向は、特に限られないことは、当業者には明らかである。各スロット110は、該スロット110の中心が、Z方向に沿って、対応する人工媒質150の中心に配置されるようにして配置される。
【0044】
各人工媒質150(150A〜150C)は、誘電体層152(152A〜152C)の上下面に、それぞれ、導電性素子151(151A〜151C)および153(153A〜153C)を配置することにより構成される。
【0045】
図の例では、各人工媒質150は、矩形状となっており、同一の形状を有する。ただし、各人工媒質150(例えば150B)は、隣り合う人工媒質(例えば150Aおよび150C)に対して、長辺が90゜回転した状態で、絶縁層130上に配置される。
【0046】
このようなアンテナシステム100において、例えば、スロットアンテナ110Aに給電した場合、スロットアンテナ110Aからは、図6のX方向、Y方向の両方の成分を有する磁界が発生する。この磁界が、人工媒質150Aを構成する対向する導電性素子151A、153Aの内部を貫くことにより、人工媒質150Aの導電性素子151A、153Aに電流が誘起される。このとき、人工媒質150Aは、結合する磁界方向によって、2種類のモードで動作する。この2つのモードの周波数は、人工媒質150Aに誘起される電流の方向に沿った長さと、構成する誘電体152Aの比誘電率に応じた波長短縮効果を考慮して決定される。X方向の磁界と結合した場合には、人工媒質150Aの長手方向に電流が流れ(モード1)、また、Y方向の磁界と結合した場合には、短手方向に電流が流れるため(モード2)、結果的に、人工媒質150Aは、異なる2種類の周波数で動作する。人工媒質150Bにおいても、同様のことが言え、同じ周波数で隣り合う人工媒質150同士を、互いに直交した状態で動作させることが可能となる。その結果、アンテナ105間の結合を、減らすことができる。
【0047】
なお、係る人工媒質150の形状および配置は、一例であって、図とは異なる配置で、図とは異なる形状の人工媒質を配置しても良い。例えば、人工媒質150の形状は、長軸と短軸を有する楕円形、菱形等であっても良い。また、各人工媒質150の形状および/または寸法は、異なっていても良い。また、特に、矩形状の人工媒質150を使用する場合、各人工媒質は、隣り合う人工媒質と長手方向が平行になっていない限り、いかなる配置で、絶縁層130上に配置されても良い。
【0048】
(本発明のアンテナシステムの特徴)
本発明によるアンテナシステムでは、以下に示すような有意な効果が得られる。
(i)各人工媒質150A〜150Cは、アンテナシステムの共振時の電流の流れが、隣り合う人工媒質の電流の流れと非平行となるように設置されている。このため、2つの隣り合うアンテナ105を接近させても、カップリングの影響は、生じ難くなる。従って、各アンテナ105同士の間隔(SP)を小さくことができる。これにより、各アンテナ105の特性を劣化させることなく、アンテナシステム100全体の小型化を行うことが可能となる。
(ii)グラウンドプレーン120は、アンテナシステム100の厚さ方向(図5のZ方向)において、人工媒質150と重なるようにして配置され、アンテナシステム100の平面(図4のXY平面)が広がるようには配置されない。従って、前述の図1の場合とは異なり、アンテナシステム100全体の小面積化が可能となる。
(iii)本発明のアンテナシステム100では、アンテナ特性は、グラウンドプレーン120の寸法にあまり影響を受けない。従って、グラウンドプレーン120の寸法毎に、アンテナ特性を最適化する必要性が排除される。また、図1に示すような従来のアンテナシステム1とは異なり、設計パラメータには、人工媒質150の寸法およびスロット110の寸法等しか含まれない。従って、設計の際に使用されるパラメータ数が有意に抑制され、アンテナシステムの設計がより容易となる。
(iv)本発明のアンテナシステム100は、スロットアンテナと人工媒質を組み合わせた構成であるため、従来のダイポールアンテナと人工媒質を組み合わせた構成に比べて、必要な部品が少なくなり、構造が単純となる。従って、より小型機器への適用に適したアンテナシステムを提供することができる。
【0049】
(本発明によるアンテナシステムの適用例)
図7には、本発明によるアンテナシステムの適用例を模式的に示す。この図には、本発明によるアンテナシステム100を用いて、MIMOアンテナ装置200を構成した例が示されている。図7(a)は、MIMOアンテナ装置200の概略的な上面図であり、図7(b)は、MIMOアンテナ装置200の概略的な底面図である。
【0050】
MIMOアンテナ装置200は、前述のアンテナシステム100と、ICチップ210と、伝送線路(マイクロストリップ線路)220(220A〜220C)とを有する。
【0051】
アンテナシステム100のグラウンドプレーン120の上面には、各スリット110A〜110Cと交差するようにして、それぞれ、伝送線路(マイクロストリップライン)220A〜220Cが設置されている。これらの伝送線路220A〜220Cは、グラウンドプレーン120の上面に配置されたICチップ210に、一端が結合される。
【0052】
前述のように、アンテナシステム100により、各アンテナ105同士の間隔は、有意に狭めることができる。これによりMIMOアンテナ装置200も小型化され、MIMOアンテナ装置200を携帯電話等の小型機器に収容することが可能となる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0054】
(実施例1)
図8に示すような、2つのアンテナを有するアンテナシステムを想定し、得られる特性をシミュレーションで予測した。
【0055】
図8において、(a)は、2つのアンテナ105A、105Bを有するアンテナシステム500の上面図であり、(b)は、(a)のII−II線での断面図であり、(c)は、アンテナシステム500の底面図である。なお、アンテナシステム500を構成する各素子には、図4〜図6の対応する各素子において付した参照符号と同様の参照符号が付されている。
【0056】
2つのアンテナ105A、105Bの間の間隔(2つのスロットの給電点の間隔)SPは、57.5mmとした。
【0057】
スロット110A、110Bの全長は、20mmで、幅は、2mmであり、いずれも、X軸に対して、半時計方向に45゜回転した状態で設置した。
【0058】
絶縁層130は、厚さが1.6mmであり、比誘電率は、10とした。
【0059】
各人工媒質150A、150Bは、厚さが0.8mmで比誘電率が16の誘電体層(152A、152B)の両側に、厚さが0.01mmの導電性素子(151A、153A、151B、153B)を配置することにより構成される。各人工媒質150A、150Bは、縦15mm、横10mmの矩形状とした。
【0060】
図9には、アンテナシステム500において得られた、アンテナ105のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションには、FIT(Finite Integration Technique)法(有限積分法)による3次元電磁界シミュレーションを用いた。
【0061】
図において、太線は、一方のアンテナ(例えば105A)の反射特性(S11特性)を表しており、細線は、同アンテナから他方のアンテナ(例えば105B)への素子間結合(S21特性)を表している。この図において、2.6GHzでS11<−10dBとなっており、アンテナが良好に作動することがわかる。また、S21特性は、−20dB以下と低く抑えられており、図8に示したアンテナシステム500は、良好なアンテナ特性を示すことがわかる。このときのアンテナ間の間隔SPは、アンテナの動作周波数2.6GHzの波長で規格化した場合、1/2波長に相当する。なお、ここで言う波長とは、全て真空中の波長である。
【0062】
(実施例2)
図8に示すアンテナシステム500を用いて、実施例1と同様のシミュレーションを実施した。ただし、実施例2では、2つのアンテナの間隔SPを、28.75mmとした。
【0063】
結果を図10に示す。この結果から、実施例2においても、2.6GHzでS11<−10dBとなっており、アンテナシステム500は、良好に作動することがわかる。なお、アンテナの動作周波数は、実施例1と同様、約2.6GHzであり、変化していない。また、このときのS21特性は、−20dB以下と、依然低く抑えられている。
【0064】
実施例2におけるアンテナ間の間隔SPは、アンテナの動作周波数2.6GHzの波長で規格化した場合、1/4波長に相当する。このことから、アンテナシステム500では、アンテナ間隔SPを1/4波長程度に近づけても、実施例1で示したような、アンテナ間隔SPを1/2波長とした場合と同等の特性が得られることがわかる。
【0065】
(実施例3)
図8に示すアンテナシステム500を用いて、実施例1と同様のシミュレーションを実施した。ただし、実施例3では、2つのアンテナの間隔SPを、19.17mmとした。
【0066】
結果を図11に示す。この結果から、実施例3においても、2.6GHzでS11<−10dBとなっており、アンテナシステム500は、良好に作動することがわかる。なお、アンテナの動作周波数は、実施例1と同様、約2.6GHzであり、変化していない。また、このときのS21特性は、−15dB以下と、依然低く抑えられている。
【0067】
実施例3におけるアンテナ間の間隔SPは、アンテナの動作周波数2.6GHzの波長で規格化した場合、1/6波長に相当する。このことから、アンテナシステム500では、アンテナ間隔SPを1/6波長程度に近づけても、アンテナシステム500は、良好なアンテナ特性を示すことがわかる。
【0068】
このように、本発明によるアンテナシステム500は、アンテナ105間の距離が、その動作周波数の1/6波長となっても、良好な特性を示すことがわかった。これは、アンテナシステム500は、非特許文献1と同等の性能を維持しながら、小型化できることを示すものである。
【0069】
(実施例4)
前述の図4〜6に示したような、3つのアンテナ105A〜105Cを有するアンテナシステム100について、得られる特性をシミュレーションで予測した。シミュレーションには、FIT(Finite Integration Technique)法(有限積分法)による3次元電磁界シミュレーションを用いた。
【0070】
隣り合うアンテナ105A〜105Cの間の間隔SPは、いずれも19.17mmとした。また、各スロット110A〜110Cの全長は、20mmで、幅は、2mmであり、いずれも、X軸に対して、半時計方向に45゜回転した状態で設置されていると想定した。
【0071】
絶縁層130は、厚さが1.6mmであり、比誘電率は、10とした。
【0072】
各人工媒質150A〜150Cは、厚さが0.8mmで比誘電率が16の誘電体層(152A、152B、152C)の両側に、厚さが0.01mmの導電性素子(151A、153A、151B、153B、151C、153C)を配置することにより構成される。各人工媒質150150A〜150Cは、縦15mm、横10mmの矩形状とした。
【0073】
図12には、アンテナシステム100において得られた、アンテナ105のシミュレーション結果を示す。
【0074】
図において、太線は、一つのアンテナ(例えば105A)の反射特性(S11特性)を表しており、細線は、同アンテナ(例えば105A)から隣り合うアンテナ(例えば105Bへの結合(S21特性)を表しており、破線は、同アンテナ(例えば105A)から、配置方向の等しい他のアンテナ(例えば105C)への結合(S13特性)を表している。この図において、S21特性およびS13特性は、低く抑えられており、さらにS11特性は、十分に低くなっている。このことから、3つのアンテナを有するアンテナシステム100においても、良好なアンテナ特性を維持したまま、各アンテナ間の距離を狭めることが可能であることがわかった。
【0075】
なお、隣り合うアンテナの素子間結合、すなわちS21は、2素子の場合、隣り合う人工媒質が互いに直交して配置される構成において、最も小さくなる。しかしながら、3素子以上になると、必ずしもそのような構成が最適であるとは限られない。なぜなら、アンテナ間の間隔が狭くなると、隣り合うアンテナ同士の結合だけではなく、その他のアンテナ間の結合も、全体的な特性に影響を及ぼすようになるからである。例えば、図6のアンテナシステム100において、人工媒質150Aおよび150Cは、同じ配置となっている。しかしながら、この配置では、アンテナ間隔SPが短くなると、素子間結合が上昇し始める。
【0076】
そこで、例えば、図13に示すように、アンテナシステム100'において、人工媒質150A〜150Cを、順次、時計方向に60゜ずつ回転させて、配置することが考えられる。なお、図13は、アンテナシステム100'の概略的な底面図である。
【0077】
この場合、アンテナ間隔SPが短くなっても、各アンテナ105A〜105Cの素子間結合を有意に抑制することができる。ただし、この場合、各アンテナ105と人工媒質150の組(105A−150A、105B−150B、および105C−150C)は、各アンテナ105のスロット110に流れる磁流(磁界)の方向(図13のB1〜B3の方向)と、対応する人工媒質150の長手方向が平行にならないようにして、相互に配置する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、例えば、MIMO技術を適用した携帯電話等に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 従来のアンテナシステム
20 ダイポールアンテナ素子群
30 誘電体基板
50 人工媒質群
100 本発明によるアンテナシステム
100' 本発明による別のアンテナシステム
105(105A、105B、105C) アンテナ
110(110A、110B、110C) スロット
120 グラウンドプレーン
130 絶縁層
150(150A、150B、150C)人工媒質
151(151A、151B、151C)導電性素子
152(152A、152B、152C)誘電体層
153(153A、153B、153C)導電性素子
200 MIMOアンテナ装置
210 ICチップ
220(220A、220B、220C) 伝送線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスロットアンテナおよび第1の人工媒質を有する第1のアンテナと、
該第1のアンテナと隣り合うように配置された、第2のスロットアンテナおよび第2の人工媒質を有する第2のアンテナと、
を少なくとも有し、
前記第1および第2の人工媒質は、絶縁層の同一平面上に配置され、
電磁波が結合された際、第1の人工媒質には、第1の方向に電流が流れ、第2の人工媒質には、第1の方向とは異なる第2の方向に電流が流れることを特徴とするアンテナシステム。
【請求項2】
さらに、前記第2のアンテナと隣り合う第3のアンテナを有し、
該第3のアンテナは、第3のスロットアンテナおよび第3の人工媒質を有し、
前記第3の人工媒質は、前記絶縁層の前記同一平面上に配置され、
当該アンテナシステムに電磁波が結合された際、前記第3の人工媒質には、前記第2の方向とは異なる第3の方向に、電流が流れることを特徴とする請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項3】
当該アンテナシステムは、第1および第2の2つのアンテナを備え、
前記第1の方向と前記第2の方向は、実質的に直交していることを特徴とする請求項1に記載のアンテナシステム。
【請求項4】
前記人工媒質の少なくとも一つは、矩形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のアンテナシステム。
【請求項5】
前記各スロットアンテナのスロットの延伸方向は、実質的に等しいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のアンテナシステム。
【請求項6】
前記人工媒質は、誘電体層と、該誘電体層の表裏面に設置された導電性素子とにより構成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のアンテナシステム。
【請求項7】
前記第1、第2および/または第3のスロットアンテナは、スロットを備えるグラウンドプレーンで構成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のアンテナシステム。
【請求項8】
第1面および該第1面に対向する第2面を有する絶縁体と、
前記絶縁体の前記第1面上に設けられたグランドプレーンであって、前記絶縁体の前記第1面の一部を露出する、少なくとも一つのスロットが形成されたグランドプレーンと、
前記絶縁体の第2面に、前記絶縁体を介して、前記グランドプレーンに形成された前記スロットを覆うように設置された人工媒質と、
を備えたことを特徴とするアンテナシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−273273(P2010−273273A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125436(P2009−125436)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】