説明

アンテナ装置,放射特性調整方法

【課題】 小型な形状でありながら,1台で多数の加入者局との間で電波を送受信することができ,且つ,基地局が管轄するゾーン内の加入者局数に応じて電波の放射特性を好適且つ柔軟に調整することが可能なアンテナ装置及び放射特性の調整方法を提供すること。
【解決手段】 適宜設けられた一次放射器20から入射した電波を収束或いは発散させる球状レンズ2を利用したアンテナXに適用されるものであって,上記一次放射器20から上記球状レンズ2に放射され,その後,上記球状レンズ2を介して上記球状レンズ2の外部へ出射される電波の放射特性を変更するよう構成する。例えば,上記一次放射器20を,上記球状レンズ2に入射される電波の入射軸方向に自在に移動可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一又は二以上の方向から入射される電波を該電波の入射方向に収束或いは発散させる電波レンズと,上記電波レンズの周囲に適宜設けられ上記電波レンズに電波を放射する一又は二以上の電波放射器とを有するアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,1対多接続型のいわゆるP−MP(Point to Multi Point)型の加入者通信システムにおいては,一の基地局に複数の加入者局が属するシステム形態となっている。従来,上記基地局側では,該基地局が管轄するゾーン内の全ての加入者局との間で通信を確立するために,複数の加入者局が設置されたゾーン全域に電波を一様に照射させるべく,基地局側のアンテナ(以下,基地局アンテナ)として,広い角度範囲(例えば60°,90°,120°等)に一様な電波を放射するセクターアンテナが用いられてきた。また,加入者局側のアンテナ(以下,加入者局アンテナという)には,加入者局の属する基地局のみとの間で通信できれば良いので,指向性の強い(利得の高い)電波を放射するパラボラアンテナ等が用いられる。ここに,図9に上記セクターアンテナから放射される電波の放射特性(放射角度90°を例示)を示す。図9(a)は水平面方向の放射特性を示し,(b)は鉛直面方向の放射特性を示す。なお,図中のPは基地局,81はセクターアンテナ(基地局側アンテナ),Q1,Q2は加入者局,83Q1,83Q2はパラボラアンテナ(加入者局側アンテナ),Z1はセクターアンテナ81から放射される電波を示す。
【0003】
一方,特許文献1及び2には,ルーネベルグレンズを用いたルーネベルグレンズアンテナが開示されている。このアンテナは,複数の静止衛星からの電波(略平面波とみなされる電波)がルーネベルグレンズによって収束される複数の焦点部夫々に一次放射器(電波放射器に相当)が設けられた構成をしており,複数の静止衛星からの電波を捕捉することができ,且つ,複数の静止衛星個々への電波の送信をすることのできるマルチビームアンテナ(一台で複数の静止衛星と送受信可能なアンテナ)としての性格を有する。
【特許文献1】特開2003−110349号公報
【非特許文献1】黒田昌利,外8名,「マルチビームアンテナの開発」,沖テクニカルレビュー第161号,沖電気工業株式会社,2002年9月,p.71−75
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記基地局アンテナとして上記セクターアンテナ81(図9参照)を用いると,基地局Pで管轄するゾーン内の加入者局数が少なく,散在(点在)している場合でも,上記ゾーン全域に一様な電波を放射しなければならない。この場合,加入者局が存在しないエリアにも電波が照射されるため,このようなエリアに電波を照射するために電力を無駄に浪費することとなり問題である。また,電波障害により重大事故等が生じ得る設備や施設が上記ゾーン内に設置されている場合であっても,これらの設備や施設に対して無差別に電波が照射されるという点も問題である。
このような,加入者局数が少なく該加入者局が管轄ゾーンに点在している場合は,個々の加入者局に対して指向性の強い電波を放射させることにより上記問題を解消することができる。特に,消費電力量については,指向性の強い電波のほうが少ない電力量で同品質の電波を照射することが可能となる。この場合,加入者局毎に指向性の強いパラボラアンテナ等を設置して指向性の強い電波を放射する手法が考えられるが,加入者局数と同数のアンテナを設置しなければならず,設置費用が増大し,経済的な不利益が大きい。また,これらの基地局側アンテナが鉄塔やビル屋上等に設置されることを考えれば,設置場所の制約により,アンテナの設置台数が制限されるため実用的でない。更に,指向性の強いアンテナほど形状が大型化するため,設置場所の制限はより厳しくなる。
一方,図10に示すように,上記特許文献1及び非特許文献1に記載のルーネベルグレンズアンテナ91を基地局側アンテナとして用いれば,1台で複数の加入者局Q1,Q2夫々に対して指向性の強い電波Z2を送受信することができる。しかしながら,1台のアンテナで対応可能な加入者局数には制限があるため,加入者局の設置数如何によっては複数のアンテナを設置しなければならない。上記ルーネベルグレンズアンテナ91に多数の一次放射器を追加して,多数の加入者局に対応させることも可能であるが,この場合,レンズ形状及びアンテナ形状が大型化するため好ましくない。
また,基地局アンテナとして上記パラボラアンテナや上記ルーネベルグレンズアンテナを用いた場合,当初,セクターアンテナと較べて電力消費量や通信効率等の観点において有利であったとしても,将来的に上記基地局が管轄するゾーン内の加入者局数の増加に伴い,電力消費量や通信効率等の有利性が低下するおそれがある。そうすると,既設のパラボラアンテナ等をセクターアンテナ等に取り換える必要性が生じ得る。しかしながら,これではアンテナの取り換え費用が発生し,総合的に見てアンテナの設置費用が高騰することとなり,問題である。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,小型でありながら,1台で多数の加入者局との間で電波を送受信することができ,且つ,基地局が管轄するゾーン内の加入者局数に応じて電波の放射特性を好適且つ柔軟に調整することが可能なアンテナ装置及び放射特性の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は,適宜設けられた電波放射器から入射した電波を収束或いは発散させる電波レンズを利用したアンテナ装置に適用されるものであって,上記電波放射器から上記電波レンズに放射され,その後,上記電波レンズを介して上記電波レンズの外部へ出射される電波の放射特性を変更可能なアンテナ装置として構成されている。
このような構成を有することにより,例えば,基地局が管轄するゾーン内に一の加入者局のみが設置されている場合は,上記一の加入者局に対して指向性の強い電波を放射させることができる。また,その後,上記ゾーン内の加入者局が増加すれば,放射する電波を上記増加した加入者局の設置エリアをカバーできるような放射特性に変更することが可能となる。これにより,加入者局数の増減が生じた場合でも,一のアンテナで加入者局数に応じた好適な電波を放射することができるため,従来のような電力量の無駄な浪費やアンテナ設置費用の高騰等の問題が解消され得る。
ここで,上記放射特性を変更する手法としては,例えば,上記電波放射器を,上記電波レンズに入射される電波の入射軸方向に自在に移動可能に構成されたものが考えられる。これにより,上記電波放射器と上記電波レンズとの離間距離を調整することができるため,上記電波レンズを介して放射される電波の収束或いは発散の度合いを調整することが可能となる。
【0006】
また,上記電波レンズとしては,入射される略平面波形の電波を上記電波レンズの外側に予め設定された焦点或いは焦線で収束させるものが考えられる。もちろん,上記電波レンズ外周面上に焦点或いは焦線が設定されたものであっても良い。このような電波レンズを用いれば,上記電波放射器を上記焦点或いは焦線から上記電波レンズに近づける方向へ移動させることで移動した距離に応じて電波ンズを出射する電波を発散させることができ,上記焦点或いは焦線に移動させることで略平面波の電波を出射させることができる。なお,上記焦点或いは焦線から遠ざける方向へ移動させることで電波レンズを出射する電波を収束させることも可能である。この場合,収束された電波は再び発散方向へ進行することになる。
なお,上記電波レンズは,軸或いは点を中心とする対称構造を有する誘電体からなるものであって,その具体例としては,例えば,略球状,略半球状或いは略円筒状等に成形された電波レンズが考えられる。また,上記電波レンズは,誘電率を上記電波レンズの対称軸或いは対称点から離れる方向に略連続的に異ならせてなるものであってもよい。
更に,上記電波放射器を上記電波レンズの外周面に沿って移動自在に支持する放射器移動支持手段を備えていれば,上記電波放射器から放射される電波の放射方向を自在に偏向させることが可能となる。
【0007】
また,本発明は,適宜設けられた電波放射器から入射した電波を収束或いは発散させる電波レンズを利用したアンテナ装置に適用される放射特性調整方法として捉えたものであってもよい。
即ち,一又は二以上の方向から入射される電波を該電波の入射方向に収束或いは発散させる電波レンズと,上記電波レンズの周囲に適宜設けられ,上記電波レンズに電波を放射する一又は二以上の電波放射器と,を備えてなるアンテナ装置に用いられる放射特性調整方法であって,少なくとも一以上の上記電波放射器を上記電波レンズに入射される上記電波の入射軸方向に移動させることにより,上記電波放射器から上記電波レンズに放射され,その後,上記電波レンズを介して上記電波レンズの外部へ出射される電波の放射特性を調整するものであっても前記課題を解決することが可能である。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように,本発明は,電波放射器から電波レンズに放射され,その後,上記電波レンズを介して上記電波レンズの外部へ出射される電波の放射特性を変更可能なアンテナ装置として構成されているため,例えば,基地局が管轄するゾーン内に一の加入者局のみが設置されている場合は,上記一の加入者局に対して指向性の強い電波を放射させることができる。また,その後,上記ゾーン内の加入者局が増加すれば,放射する電波を上記増加した加入者局の設置エリアをカバーできるような放射特性に変更することが可能となる。これにより,加入者局数の増減が生じた場合でも,加入者局数に応じた好適な電波を放射することができるため,従来のような電力量の無駄な浪費やアンテナ設置費用の高騰等の問題が解消され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。なお,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xの外観模式図,図2は一次放射器を移動させるガイド機構を説明する模式図,図3は一次放射器から放射された電波の進行方向を示す模式図,図4は複数の方向から球状レンズ2に入射された電波の進行方向を示す模式図,図5は本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xから放射された電波の放射特性を示す模式図,図6は本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xに用いられる電波レンズの一例である円筒状レンズ60を示す模式図,図7は図6の円筒状レンズ60を外周面62の鉛直上方からみた平面模式図,図8は一次放射器から放射される電波の放射特性を示す模式図である。なお,図9はセクターアンテナ81から放射された電波の放射特性(放射角度90°を例示)を示す模式図であり,図10はルーネベルグレンズアンテナ91から放射された電波の放射特性を示す模式図である。
【0010】
ここで,図1及び図2を用いて,本発明の実施の形態に係るアンテナ装置X(以下,「アンテナX」と略す)の構成の概略について説明する。図1(a)はアンテナXの正面図,(b)は側面図,(c)は側面透視図を示す。
上記アンテナXは,球状レンズ2(電波レンズの一例)がアンテナXの筐体1の前面側にその半球体2aが突出するよう設けられ,更に,上記筐体1の内部側の半球体2bの外周面に沿って移動自在の周知の一次放射器20(電波放射器の一例)を支持するガイド機構10(放射器移動支持手段の一例)が設けられて構成されている。本実施の形態では,上述のように球状レンズ2の半球体2bが筐体1の内側に存在する例について説明するが,もちろん,上記球状レンズ2の外周面全域であらゆる方向の電波の送受信が可能なように支持されたものであってもかまわない。
【0011】
上記球状レンズ2は,一又は二以上の方向から入射される電波をその入射方向に収束或いは発散させる周知の電波レンズであって,点を中心とする対称構造を有する誘電体からなる球状の電波レンズである。なお,本実施の形態では上記したように球状の電波レンズを用いて説明するが,特に球状の電波レンズに限られるものではない。例えば,前記特許文献1等に記載された半球状の電波レンズ(ルーネベルグレンズに限らない)を本アンテナXの電波レンズに用いた例,或いは,少なくとも電波レンズの一部の面が球状面を有するレンズを用いた例であってもよい。
また,上記球状レンズ2は,該球状レンズ2に入射される略平面波形の電波を上記球状レンズ2の外側に設定された焦点で収束させるよう設計されたものである。即ち,上記球状レンズ2は,上記焦点がレンズの外側に設定された球状の電波レンズである。ここで,上記焦点をレンズの外側設定するための条件について間単に説明する。
一般に,略平面波形の電波が球状レンズに入射されたときの上記球状レンズの中心位置から焦点までの距離(焦点距離)L1,及び球状レンズの表面から焦点までの距離L2は,球状レンズによる電波の屈折率(電波レンズの屈折率)をn,球状レンズの半径をrとすると,それぞれ以下の式(1),(2)で表される。
【数1】

上式(2)から容易に理解できるように,球状レンズに略平面波形の電波が入射された際の電波の焦点を上記球状レンズの外側に設定するためには,少なくとも「L2が0以上(L2≧0)」,即ち,「1<n≦2」の条件を満足する必要がある。ここで,上記球状レンズ2のように誘電体から構成された球状レンズであれば,上記屈折率nと上記誘電体の誘電率εとの間には,
n=√ε…(3)
の関係が成立するため,上記焦点を上記球状レンズ2の外側に設定するためには,上記球状レンズ2は,「1<ε≦4」の条件を満足するものでなければならない。このような条件を満足する誘電体の一例として,例えば,プラスチック素材が挙げられる。
また,上記球状レンズ2を構成する誘電体に,多数の微小空孔を有するプラスチック素材(即ち多孔性のプラスチック素材)を用いてもよい。上記微小空孔の量的割合を変えることで上記プラスチック素材の誘電率を容易に変化させることができることは周知の事実である。したがって,このように誘電率を容易に変化させることができれば,上記焦点の位置だけでなく,上記焦点距離も所望の長さに容易に設定することが可能となる(式(2)参照のこと)。なお,ε=4(n=2)のときは上記球状レンズ2の表面上に焦点が定まる。
【0012】
続いて,上記一次放射器20を支持するガイド機構10について説明する。このガイド機構10は,図1及び図2に示すように,レール支持部12に支持され,筐体1の内部側の球状レンズ2の半球体2bの外周面から一定間隔を隔てて設けられた円弧状のガイドレール11と,該ガイドレール11上をその円弧方向に上記球状レンズ2の外周面に沿って移動自在に設けられた一次放射器20を支持する移動体13とを有する。
図2に示すように,上記移動体13には,上記ガイドレール11を挟持して該ガイドレール11上を移動可能にするための2つのガイドローラ対14,15が設けられており,上記ガイドローラ対14はガイドローラ14a,14b,上記ガイドローラ対15はガイドローラ15a,15bから成る。このように,上記ガイドローラ対14,15を有することにより,上記移動体13を上記ガイドレール11に沿って移動させることが可能となる。また,上記移動体13は,モータ等の動力により駆動されるよう構成されたものであってもよい。例えば,上記移動体13を移動させ得るのに十分なトルクを有するモータ16に上記ガイドローラ対15のうちの一のガイドローラ15aを連結し,上記モータ16を駆動制御することにより上記移動体13を遠隔で移動させることが考えられる。この場合,移動時の上記ガイドレール11と上記各ガイドローラとのすべりや磨耗等を考慮すると,上記ガイドレール11及び上記各ガイドローラが相互に噛合する歯車であることが好ましい。なお,上記モータ16の駆動制御は,モータドライバや上記移動体13の移動位置を検知するエンコーダ等を用いて実行される。
上記レール支持部12(12a,12b)は,上記筐体1の前面の裏側で上記ガイドレール11を支持するとともに,球状レンズ2の中心点を通る垂直軸を中心にして揺動させるよう構成されている。このようなレール支持部12の具体例としては,上記ガイドレール11を所定の揺動角で固定するロック機構を備えたボールジョイント等が該当するが,このような機構に限られることはない。
このように,上記ガイド機構10が構成されることで,上記一次放射器20の放射軸を上記球状レンズ2の中心に向けた状態で上記移動体13を上記球状レンズ2の外周面上に沿って自在に移動させることが可能となる。その結果,上記一次放射器20から放射される電波の放射方向を自在に偏向することが可能となる。
なお,図1及び図2は,上記ガイドレール11に一の移動体13が設けられた構成を示しているが,上記一次放射器20を備える移動体が複数上記ガイドレール11に設けられたものであってもよい。もちろん,上記ガイドレール11も1本に限られず,上記球状レンズ2の外周面に沿って複数設けられていてもかまわない。
【0013】
上記移動体13は,放射器取付部17に取り付けられた一次放射器20を,上記一次放射器20から放射され上記球状レンズ2の表面の法線方向に入射される電波の入射軸方向(即ち上記法線方向)に上記一次放射器20を自在にスライド移動させるスライドガイド18を有する。このスライドガイド18に沿って上記一次放射器20を移動させることにより,上記一次放射器20から放射され,その後,上記球状レンズ2を介して外部に出射される電波の放射特性を変更することが可能となる。ここに,電波の放射特性とは,電波の指向性,放射角あるいは照射される電波の照射範囲等のことを意味する。
例えば,図3(a)に示すように,上記一次放射器20を球状レンズ2の焦点FPに移動させた場合は,上記球状レンズ2の直径と略同一幅の平面波形の電波が上記球状レンズ2から出射される。即ち,この場合は,本アンテナXはパラボラアンテナのように指向性の強いアンテナとして機能することになる。これにより,電波の照射範囲を絞ることができる。また,図3(b)に示すように,上記一次放射器20を球状レンズ2の焦点FPより上記球状レンズ2側に移動させた場合は,上記球状レンズ2によって発散された電波,即ち,放射角度,照射範囲の広い電波が上記球状レンズ2から出射される。この場合は,本アンテナXはセクターアンテナのように広い範囲に一様な指向性を有するアンテナとして機能することになる。更にまた,図3(c)に示すように,上記一次放射器20を球状レンズ2の焦点FPよりも上記球状レンズ2と反対側に移動させた場合は,上記球状レンズ2によって収束された電波が上記球状レンズ2から出射される。この場合,上記球状レンズ2から出射された電波は一旦収束されるが,その後,発散する方向に電波が進行するため,結局のところ,図3(b)の場合と同じように,セクターアンテナとして機能することになる。そのため,焦点FPが上記球状レンズ2の外周面上に設定されている場合や,上記球状レンズ2と上記焦点FPとの距離が十分に確保されていない場合に,上記一次放射器20を図3(c)のような位置に移動させる実益がある。
なお,図4に,本アンテナXに3つの上記ガイド機構10が設けられ,それぞれのガイド機構10に取り付けられた一次放射器20の位置が図3(a)〜(c)のように設定されたときの一次放射器20の取付位置及び電波放射状態を示す。
【0014】
また,モータ等の動力により上記スライドガイド18上で上記放射器取付部17を移動させるべく,上記スライドガイド18上の上記球状レンズ2とは反対の一端部にボールねじ19が連結されたモータ21(ボールねじモータと呼ばれる)が設けられ,上記放射器取付部17には上記ボールねじ19に対応する固定ナット22が設けられている。 上記モータ21の駆動によりボールねじ19が回転すると,その回転トルクは上記固定ナット22を介して上記放射器取付部17を上記法線方向に直線運動させるよう伝えられる。もちろん,上記モータ21の回転方向を正転或いは逆転させることにより,上記放射器取付部17の移動方向(運動方向)を切り換えることができる。なお,このように構成された上記スライドガイド18,モータ21,ボールねじ19及び固定ナット22等からなるスライド機構は放射特性変更手段の一例である。上記スライド機構としては,上記ボールねじ19を用いたもの以外に,例えば,シャフトモータを用いたシャフト駆動機構やリニアモータを用いたリニア駆動機構等が考えられる。このような機構も上記放射特性変更手段の一例である。
【0015】
ここで,図4に示すように一次放射器20が取り付けられたアンテナXを加入者通信システムの基地局側アンテナに適用した例について,図5を用いて説明する。
例えば,図5に示すように,基地局Pが管轄するゾーン内に,加入者局Q1,加入者局Q2,複数の加入者局が密接する加入者局群Q3がそれぞれ離れた位置に点在する場合は,上記加入者局Q1,Q2に対しては上記一次放射器20を焦点FPに移動させて指向性の強い電波を照射させ,上記加入者局群Q3に対しては,上記加入者局群Q3全体に電波が照射されるように上記一次放射器20を焦点FPよりも上記球状レンズ2側或いは球状レンズ2の反対側に移動させて,放射角度,照射範囲の広い電波を照射させることができる。即ち,一のレンズから成るアンテナXで指向性の鋭い電波と放射角度,照射範囲の広い電波とを出射することが可能となる。
このように,上記一次放射器20の位置を変化させることにより,上記球状レンズ2から出射され,最終的に基地局が管轄するゾーンに照射される電波の照射範囲を任意に調整することができる。
【実施例】
【0016】
上述の実施の形態では,アンテナXに使用される電波レンズとして球状レンズ2を用いた例について説明してきた。ここでは,上記アンテナXに図6に示される円筒状レンズ60を用いた実施例について説明する。なお,本実施例では上記円筒状レンズ60を用いた例について説明するが,例えば,周知のシリンドリカルレンズのように,少なくとも電波レンズの一部の面が円柱の一部のような形状をしたレンズを用いてもかまわない。
図6に示す円筒状レンズ60は,円筒中心軸61を中心とする軸対称構造を有する誘電体からなる円筒状の電波レンズである。上記円筒状レンズ60では上記円筒中心軸61に垂直な外周面62に入射された電波に対しては収束,発散作用は生じないが,上記円筒中心軸61に平行な外周面,即ち上記円筒状レンズ60の局率を有する円筒外周面63に入射された電波に対しては収束,発散作用が生じる。例えば,図6に示されるように,上記円筒外周面63に略平面波形の電波が入射されると,入射された電波は上記円筒状レンズ60内部で上記円筒外周面63の法線方向(即ち,上記円筒中心軸61に垂直な方向)へ屈折され,上記円筒状レンズ60の内部或いは外周面63又はその外側において電波が線状に収束される。このように電波が収束される空間上の線を一般に焦線といい,図6中においてFLで示す。なお,上記円筒状レンズ60も,上述した実施の形態における球状レンズ2と同様に,入射される略平面波形の電波を上記円筒状レンズ60の外側(円筒外周面63を含む)に設定された焦線で収束させるよう設計されている。
したがって,本アンテナXの電波レンズとして上記球状レンズ2に代えて上記円筒状レンズ60を用いた場合は,上記円筒外周面63に電波を放射させるよう上記一次放射器20を上記焦線FL上に取り付け,この取り付け位置を上記円筒外周面63の法線方向に移動させることにより,上記球状レンズ2を用いた場合と同様に,上記一次放射器20を上記焦線FLより上記円筒状レンズ60側に移動させると,上記円筒状レンズ60から発散された電波が出射される。また,上記一次放射器20を上記焦線FLよりも上記球状レンズ2と反対側に移動させると,上記円筒状レンズ60から収束された電波が出射される。
なお,上記円筒状レンズ60を用いる場合は,上記一次放射器20を支持するガイド機構としては,上記円筒外周面63を円弧方向に沿って上記一次放射器20を移動自在に支持する機構,及び上記円筒中心軸61の方向に沿って上記一次放射器20を移動自在に支持する機構を備えたものが用いられる。
【0017】
また,収束,発散作用が生じない上記円筒中心軸61に垂直な面62に垂直に電波を放射するよう一次放射器20を設ける場合は,その放射向に設置された加入者局の設置数や設置範囲,該加入者局までの距離等を考慮して決定められた指向性,照射角度の電波を放射する一次放射器を設ける必要がある。一般に,上記一次放射器は,パッチアレー等のアンテナ素子と,該アンテナ素子から放射された電波を一方向に反射させる開口部を有する反射板とにより構成されている。また,上記反射板の開口形状が大きいほど電波の広がりは抑制され,図8(c)に示すように電波がより狭い角度内に収束し,上記反射板の開口形状が狭くなるほど電波は広範囲に発散し,図8(b)に示すように電波が広範囲に進行することになることが知られている。なお,図8(a)は上記一次放射器の一例を示す。
したがって,収束,発散作用が生じない上記面62に対して垂直に電波を放射する場合は,予め上記反射板の開口形状を,加入者局の設置数や設置範囲,該加入者局までの距離等を考慮して,好適な照射範囲となる形状に変更させておくことが望ましい。このような一次放射器を用いることで,上記円筒外周面63だけでなく,上記円筒中心軸61に垂直な面62も電波レンズとして有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xの外観模式図。
【図2】一次放射器を移動させるガイド機構を説明する模式図。
【図3】一次放射器から放射された電波の進行方向を示す模式図。
【図4】複数の方向から球状レンズ2に入射された電波の進行方向を示す模式図。
【図5】本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xから放射された電波の放射特性を示す模式図。
【図6】本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Xに用いられる電波レンズの一例である円筒状レンズ60を示す模式図。
【図7】図6の円筒状レンズ60を外周面62の鉛直上方からみた平面模式図。
【図8】一次放射器から放射される電波の放射特性を示す模式図。
【図9】セクターアンテナ81から放射された電波の放射特性(放射角度90°を例示)を示す模式図。
【図10】ルーネベルグレンズアンテナ91から放射された電波の放射特性を示す模式図。
【符号の説明】
【0019】
X…アンテナ装置
P…基地局
Q1〜Q3…加入者局又は加入者局群
1…筐体
2…球状レンズ(電波レンズの一例)
10…ガイド機構
11…ガイドレール
12…レール支持部
13…移動体
14,15…ガイドローラ対
16…モータ
17…放射器取付部
18…スライドガイド
19…ボールねじ
20…一次放射器(電波放射器の一例)
21…モータ
22…固定ナット
60…円筒状レンズ(電波レンズの一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一又は二以上の方向から入射される電波を該電波の入射方向に収束或いは発散させる電波レンズと,
上記電波レンズの周囲に適宜設けられ,上記電波レンズに電波を放射する一又は二以上の電波放射器と,
を備えてなるアンテナ装置であって,
上記電波放射器から上記電波レンズに放射され,その後,上記電波レンズを介して上記電波レンズの外部へ出射される電波の放射特性を変更する放射特性変更手段を具備してなることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
上記放射特性変更手段が,上記電波レンズに入射される電波の入射軸方向に上記電波放射器を自在に移動させるものである請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
上記電波レンズが,該電波レンズに入射される略平面波形の電波を上記電波レンズの外側に予め設定された焦点或いは焦線で収束させるものである請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
上記電波レンズが軸或いは点を中心とする対称構造を有する誘電体からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
上記電波レンズが,略球状,略半球状或いは略円筒状に成形されたものである請求項1〜4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
上記電波放射器から放射される電波の放射方向を偏向させるべく上記電波放射器を上記電波レンズの外周面に沿って移動自在に支持する放射器移動支持手段を更に備えてなる請求項1〜5のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
一又は二以上の方向から入射される電波を該電波の入射方向に収束或いは発散させる電波レンズと,上記電波レンズの周囲に適宜設けられ,上記電波レンズに電波を放射する一又は二以上の電波放射器と,を備えてなるアンテナ装置に用いられる放射特性調整方法であって,
少なくとも一以上の上記電波放射器を上記電波レンズに入射される上記電波の入射軸方向に移動させることにより,上記電波放射器から上記電波レンズに放射され,その後,上記電波レンズを介して上記電波レンズの外部へ出射される電波の放射特性を調整する放射特性調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−54730(P2006−54730A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235628(P2004−235628)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】