説明

アンテナ装置

【課題】融合放物面からなる反射鏡を備えたアンテナ装置において、反射鏡の歪を、単焦点の反射鏡と同様の手順で、簡単且つ迅速に検査できるようにする。
【解決手段】アンテナ装置は、静止軌道上に投入された複数の衛星からの到来電波を各衛星に対応した複数の放射器に向けて反射する反射鏡として、鏡面が融合放物面にて形成された一つの反射鏡6を備える。融合放物面は、複数の衛星からの到来電波をそれぞれ反射するのに適した複数の個別放物面を、一点で接するように配置し、融合することにより形成されることから、融合放物面を、その中心軸に平行な中心軸を有する円形若しくは楕円形の筒にて切り出すと、反射鏡の開口端周縁に凹凸が形成される(a参照)。そこで、融合放物面から反射鏡6の鏡面を切り出す際には、融合放物面を側面方向から見たとき、開口周縁が直線になるよう、その直線に対応した切断用平面にて切り出す(b参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の衛星からの電波をそれぞれ受信する複数の放射器と、複数の衛星からの電波を各衛星に対応する放射器にそれぞれ入射させる一つの反射鏡とを備えたアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンテナ装置の一つとして、所謂多焦点アンテナ(或いは、多焦点マルチビームアンテナ)と呼ばれ、反射鏡の鏡面が、融合放物面にて形成されたものが知られている。
【0003】
融合放物面は、焦点位置が各衛星に対応した放射器の設置位置となる複数の個別放物面を、各個別放物面が一点で接するように配置し、融合することにより形成される(例えば、特許文献1,非特許文献1等、参照)。
【0004】
このため、反射鏡の鏡面が融合放物面にて形成されたアンテナ装置によれば、融合放物面を構成する各個別放物面の焦点位置に放射器を配置することで、複数の衛星からの電波を、一つ反射鏡を使って受信できることになり、複数の衛星からの電波を受信するマルチビームアンテナの小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2539104号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 Vol.J79-B-II No.11 pp.901-908 1996年11月 『小口径マルチビームアンテナの鏡面設計と特性』
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、融合放物面を使って反射鏡を製造する場合、一般的な反射鏡の製造方法を利用すると、反射鏡を側面方向から見たときに、反射鏡の開口端周縁が直線形状にならず、凹凸が形成されてしまうという問題があった。
【0008】
つまり、単焦点の放物面からなる一般的な反射鏡は、放物面の中心軸に平行な中心軸を有する円筒を使って放物面を切り出した形状を有し、その形状に対応した金型を使って金属板を加工(プレス加工等)することで作製される。
【0009】
そして、そのように作製された反射鏡は、反射鏡の中心軸に直交する側面方向から見たとき、反射鏡に歪がなければ、開口端周縁は直線形状になるため、開口端に検査用の板を当てることで、反射鏡に歪が生じているか否かを簡単に検査することができる。
【0010】
これに対し、融合放物面は、複数の個別放物面(換言すれば単焦点の放物面)を融合させたものである。このため、融合放物面を使って、単焦点の放物面からなる反射鏡と同様の手順で反射鏡を製造すると、反射鏡の開口端周縁には、個別放物面同士の融合部分に対応した凹凸が形成されてしまうのである。
【0011】
そして、このように反射鏡の開口端周縁に凹凸が形成されると、上記のように反射鏡の開口端に検査用の板を当てることで、反射鏡の歪を簡単に検知することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、融合放物面からなる反射鏡を備えたアンテナ装置において、反射鏡の歪を、単焦点の反射鏡と同様の手順で、簡単且つ迅速に検査できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載のアンテナ装置は、
静止軌道上の複数の衛星からの電波を反射する一つの反射鏡と、
前記反射鏡にて反射された前記各衛星からの電波をそれぞれ受信可能な位置に配置され、前記各衛星からの電波をそれぞれ受信する複数の放射器と、
を備え、
前記反射鏡の鏡面は、
前記複数の衛星からの電波を前記各放射器の設置位置に対応する焦点位置に集波可能な複数の個別放物面を、一つの融合点で接するように配置し、融合させた融合放物面からなり、
前記反射鏡は、
前記融合点を通る前記融合放物面の中心軸に対し直交する側面方向から前記融合放物面を見たとき、前記中心軸と交差する一本の直線として見える切断用平面にて、前記融合放物面を切り出した形状を有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアンテナ装置において、
前記融合放物面は、
静止軌道上に近接して配置され、直線偏波の電波をそれぞれ送信する2つの第1衛星と、
静止軌道上で、前記2つの第1衛星に対し、前記第1衛星同士の間隔よりも大きい間隔を空けて配置され、円偏波の電波を送信する第2衛星と、
からなる3つの衛星を受信点から見たとき、当該融合放物面の中心軸が、前記2つの第1衛星の中間点と前記第2衛星との間の中間位置を通るように、前記3つの衛星に対応した3つの個別放物面を配置し、融合させることにより形成され、
前記反射鏡は、
前記受信点で生じる前記2つの第1衛星からの電波の偏波面の傾斜角度に対応した補正角度分だけ、前記融合放物面を、前記中心軸を中心として前記偏波面の傾斜方向に回転させた状態で、前記融合放物面を前記側面方向から切り出した形状を有し、
前記放射器は、
当該アンテナ装置を前記受信点に配置した際、放射中心軸が、前記反射鏡の融合放物面を構成する3つの個別放物面によりそれぞれ反射される各衛星からの電波の入射方向に一致するように、前記各個別放物面の焦点位置にそれぞれ配置され、
しかも、前記2つの第1衛星からの電波を受信する2つの放射器は、各放射器での受信偏波面が、前記各第1衛星から前記反射鏡を介して入射する電波の偏波面に一致するよう、前記放射中心軸周りの回転位置が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載のアンテナ装置においては、反射鏡の鏡面が、複数の個別放物面を一つの融合点で接するように配置し、融合させた融合放物面からなる。そして、反射鏡は、融合放物面の中心軸に対し直交する側面方向から融合放物面を見たとき、その中心軸と交差する一本の直線として見える切断用平面にて、融合放物面を切り出した形状を有する。
【0016】
従って、反射鏡を、融合放物面の中心軸(詳しくは融合放物面において複数の個別放物面同士が接する融合点を通る中心軸)に直交する側面方向から見たとき、反射鏡に歪がなければ、反射鏡の開口端周縁は直線形状になる。
【0017】
よって、本発明のアンテナ装置によれば、反射鏡の鏡面が融合放物面であるにも関わらず、一般的な単焦点の反射鏡と同様、反射鏡の成型精度(歪等)を簡単に検査することができる。
【0018】
なお、この検査は、反射鏡の開口端に検査用の平板を当てるか、或いは、反射鏡の開口端を下向きにして、上面が平面状に形成された検査台に載置することで行うことができる。
【0019】
そして、この検査は簡単且つ迅速に行うことができるので、アンテナ装置の生産効率を高め、アンテナ装置の製造コストを低減することができる。
次に、請求項2に記載のアンテナ装置においては、受信点から静止軌道上の3つの衛星を見たとき、融合放物面の中心軸が、2つの第1衛星の中間点と第2衛星との間の中間位置を通るように、各衛星に対応した3つの個別放物面を配置し、融合させることにより、反射鏡の鏡面(つまり、融合放物面)が形成されている。
【0020】
また、その融合放物面を構成する3つの個別放物面に対応する3つの衛星は、静止軌道上に近接して配置されて直線偏波の電波をそれぞれ送信する2つの第1衛星と、この2つの第1衛星に対し、第1衛星同士の間隔よりも大きい間隔を空けて静止軌道上に配置され、円偏波の電波を送信する第2衛星とからなる。
【0021】
そして、反射鏡は、受信点で生じる2つの第1衛星からの電波の偏波面の傾斜角度に対応した補正角度分だけ、融合放物面を、その中心軸を中心として偏波面の傾斜方向に回転させた状態で、融合放物面を側面方向から切り出した形状を有する。
【0022】
このため、2つの第1衛星からの電波を受信する2つの放射器には、各第1衛星からの電波の偏波面が、受信点で生じる偏波面の傾斜角度に対応した補正角度分だけ補正されて入射することになる。
【0023】
なお、この補正角度としては、各第1衛星からの電波の偏波面の傾斜角度の中間値(例えば平均値)を設定してもよく、或いは、2つの第1衛星の内、一方の第1衛星からの電波の偏波面の傾斜角度を設定してもよい。
【0024】
また、上記のように融合放物面を中心軸周りに回転させても、その融合放物面から切り出される反射鏡は、融合放物面の中心軸が2つの第1衛星の中間点と第2衛星との間の中間位置を通るように配置することで、各衛星からの電波が各放射器に入射するようになる。
【0025】
このため、各第1衛星からの電波を受信する放射器にて受信可能な電波の偏波面(受信偏波面)と、これら各放射器に入射する電波の偏波面とを一致させて、各放射器における受信効率を高めるには、各放射器の受信偏波面を、反射鏡を介して入射する電波の偏波面に合わせて調整する必要がある。
【0026】
また、各衛星に対応した3つの放射器における受信効率を高めるには、放射器の放射中心軸を、反射鏡を介して入射される各衛星からの電波の入射方向に一致させる必要がある。
【0027】
そこで、請求項2に記載のアンテナ装置においては、当該アンテナ装置を受信点に配置した際、各放射器の放射中心軸が、反射鏡の融合放物面を構成する3つの個別放物面によりそれぞれ反射される各衛星からの電波の入射方向に一致するように、放射器が、各個別放物面の焦点位置にそれぞれ配置される。
【0028】
また、2つの第1衛星からの電波を受信する2つの放射器は、それぞれ、各放射器での受信偏波面が、各第1衛星から前記反射鏡を介して入射する電波の偏波面に一致するよう、放射中心軸周りの回転位置が設定されている。
【0029】
従って、請求項2に記載のアンテナ装置によれば、受信点において、反射鏡の鏡面である融合放物面の中心軸が2つの第1衛星の中間点と第2衛星との間の中間位置を通り、且つ、各放射器に、対応する衛星からの電波が入射するよう、反射鏡を設置することにより、3つの衛星からの電波を最も効率よく受信することができるようになる。
【0030】
また、請求項2に記載のアンテナ装置によれば、受信点周囲のエリアでも、上記と同様にアンテナ装置を設置することにより、3つの衛星からの電波を低損失で受信できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態のアンテナ装置を電波の到来方向から見た状態を表す正面図である。
【図2】実施形態の反射鏡の鏡面を構成する設計上の融合放物面と、その焦点及び衛星の位置関係を表す説明図である。
【図3】実施形態の反射鏡の鏡面を構成する設計上の融合放物面を表す説明図であり、(a)はその融合放物面を斜め上から見た斜視図、(b)はZ軸方向から見た正面図である。
【図4】実施形態の反射鏡を形成するために、設計上の融合放物面に対して行う処理を説明する説明図であり、(a)は融合放物面をZ軸周りに回転させた状態を表す斜視図、(b)は(a)の融合放物面をZ軸方向から見た正面図である。
【図5】図4の融合放物面から反射鏡の鏡面を切り出す方法を説明する説明図であり、(a)は従来の切り出し方法を表す説明図、(b)は本発明の切り出し方法を表す説明図である。
【図6】図5に示す従来の切り出し方法及び本発明の切り出し方法に則って設計・製造された反射鏡をそれぞれ側面方向から見た状態を表す側面図である。
【図7】実施形態の反射鏡の鏡面と放射器との位置関係を表す説明図である。
【図8】実施形態のアンテナ装置と、融合放物面を回転させない従来のアンテナ装置を使ってアンテナ利得(解析条件:周波数=12.2GHz)をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明が適用された実施形態のアンテナ装置を説明する。
本実施形態のアンテナ装置は、静止軌道上の3つの衛星からの電波をそれぞれ受信する所謂マルチビームアンテナであり、各衛星からの電波を受信する3つの放射器を内蔵した受信部2と、各衛星からの電波を受信部2の各放射器に向けて反射する反射鏡6とを備える(図1参照)。
【0033】
図2に示すように、上記3つの衛星の内の2つは、静止軌道上の東経124°及び東経128°の位置(図2に示すJ4:E124°、J3:E128°)にそれぞれ投入されて、直線偏波の電波を送信するCS用の衛星(以下、第1衛星という)24、28である。
【0034】
また、3つの衛星の内の残りの一つは、静止軌道上の東経110°の位置(図2に示すBS:E110°)に配置されて、円偏波の電波を送信するBS用の衛星(以下、第2衛星という)11である。
【0035】
このため、受信部2は、2つの第1衛星24、28からの電波を受信する2つの放射器3a、3b(図7参照)を内蔵したCS用の第1受信部3と、第2衛星11からの電波を受信する放射器4a(図7参照)を内蔵したBS用の第2受信部4とから構成されている。
【0036】
そして、受信部2は、反射鏡6に固定されたアーム部8を介して、反射鏡6の焦点位置に配置されている。
次に、反射鏡6について説明する。
【0037】
まず、反射鏡6の鏡面は、上記3つの衛星11、24、28からの電波を、それぞれ、図2に示す焦点位置F(BS)、F(J4)、F(J3)に集波するように形成される3つの個別放物面(詳しくは単焦点の放物面)を、一点(以下、融合点という)で接するように配置し、融合させた融合放物面30にて構成されている。
【0038】
つまり、上記3つの個別放物面は、図2に示すように、
・受信点Rの軸線(換言すれば融合放物面30の中心軸(ビーム中心軸:以下、Z軸という)を、2つの第1衛星24,28の中間点P1(第1中間点:E126°)と第2衛星11との間の中間位置P2(第2中間点:E118°)に向けた条件下で、Z軸を基準に形成される各衛星11、24、28のビーム分離角度をδ1、δ2、δ3、
・受信点Rの軸線(換言すればZ軸)に対する上記各焦点位置F(BS)、F(J4)、F(J3)のずれをd1、d2、d3、
・Z軸を水平にしたときZ軸に直交する水平及び垂直の各座標軸をX、Y、
・焦点距離をf(個別放物面で同じ)
とすると、次式で表すことができる。
【0039】
【数1】

【0040】
但し、Z1は、第2衛星11用の放物面を表し、Z2は、第1衛星24用の放物面を表し、Z3は、第1衛星28用の放物面を表す。
そして、反射鏡6の鏡面を構成する融合放物面30は、上記のように記述された3つの3次方程式に基づき、各個別放物面が一点(融合点)で接することを条件として、各個別放物面を配置し、融合することにより形成される。
【0041】
なお、こうした融合放物面30の設計手順については、上述した非特許文献1に記載のように、従来から知られているので、ここでは詳細な説明は省略する。
次に、反射鏡6は、上記のように設計された融合放物面30から、静止軌道上の中間位置P2から見た反射鏡6の大きさが所定の大きさになるよう、所定形状に切り出すことによって形成される。
【0042】
ところで、上記融合放物面30は、図3に示すように、融合放物面30の中心軸であるZ軸と、これに直交するX軸を水平にし、これら各軸に直交するY軸を垂直にした状態で設計され、Z軸は、上記中間位置P2を向いた状態となる。
【0043】
このため、融合放物面30をこのままの状態で切り出すことにより、反射鏡6を設計すると、直線偏波の第1衛星24、28からの電波の偏波面が、大きく傾くことになる。
この場合、第1衛星24、28からの電波を受信する放射器3a、3bにおいて、反射鏡6から入射した直線偏波の電波を正常に受信できるようにするには、放射器3a、3bにおける受信偏波面が電波の偏波面と対応するよう、放射器3a、3bを放射中心軸周りに回転させればよい。
【0044】
しかし、放射器3a、3bを放射中心軸周りに大きく回転させると、放射器3a、3bに接続される端子の位置が設計上の位置(通常、第1受信部3の下方)から大きく変化し、防水性が損なわれるとか、見栄えが悪くなるという問題が生じる。
【0045】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、図3に示した設計上の融合放物面30を、その中心軸であるZ軸を中心として所定の補正角度α分だけ回転させ、その回転させた融合放物面30から反射鏡6の鏡面として利用する面を切り出すことで、反射鏡6が設計されている。
【0046】
ここで、補正角度αは、図2に示した2つの第1衛星24、28の間の第1中間点P1に仮想の第1衛星を配置したと仮定して、受信点Rから仮想の第1衛星を見たとき、仮想の第1衛星から送出される電波の偏波面の傾き角度と同じ大きさとなるようにしている。
【0047】
具体的には、第1中間点P1は東経126°であるから、この東経126°に仮想の第1衛星を配置したとすると、受信点Rから仮想の第1衛星を見たときの偏波面の傾きは右向きに角度が15、05°だけ傾く。このため、設計上の融合放物面30に対する補正角度αは15.05°となる。
【0048】
図4(b)には、仮想の第1衛星から受信点Rを見たときの図が示されており、設計上の融合放物面30は、Z軸を回転軸として、左方向(図に示す矢印F方向)にα=15.05°だけ回転されている。
【0049】
そして、反射鏡6の鏡面は、上記のようにZ軸周りに補正角度αだけ回転された融合放物面30から切り出すことによって形成されるが、この切り出しに当たって、従来から知られている一般的な切り出し方法を利用すると、反射鏡の開口端周縁に凹凸が形成される。
【0050】
つまり、単焦点の放物面から反射鏡の鏡面を切り出す際には、図5(a)に示すように、放物面の中心軸(Z軸)に平行な中心軸を有する円柱(若しくは楕円柱)形状の筒を使って、放物面から反射鏡となる鏡面が切り出される。
【0051】
しかし、このような切り出し方法で融合放物面30から反射鏡6の鏡面を切り出し、その切り出した鏡面形状に従い、反射鏡6を設計し、製造すると、反射鏡6の開口端周縁に、個別放物面同士の融合部分に対応した凹凸が形成される。
【0052】
このため、反射鏡6を側面方向から見たときは、図6(a)に示すように、開口端周縁が直線にならず、反射鏡6の製造精度(歪等)を検査する際、検査用の板や検査台に反射鏡6の開口端を接触させても、反射鏡6が正常か否かを判定することができなくなる。
【0053】
そこで、本実施形態では、図5(b)に示すように、融合放物面30を、その中心軸であるZ軸に直交する側面方向から見たとき、切断面が直線となるように、融合放物面30を、側面方向から、Z軸に直交若しくは交差する切断用平面にて切り出し、その切り出した鏡面形状に従い、反射鏡6を設計し、製造するようにされている。
【0054】
なお、この製造は、例えば、上記のように切り出した鏡面形状に対応して金型を作製し、その金型を用いて反射鏡の材料(金属板若しくは樹脂板)を成形(プレス成形)することにより行われる。但し、反射鏡6の材料として樹脂を用い、上記鏡面形状に形成した際には、その表面に導電性材料を塗布することで、反射鏡6としての機能が実現される。
【0055】
そして、このように製造された本実施形態の反射鏡6は、側面方向から見たとき、図6(b)に示すように、開口端周縁が一本の直線上に配置されることになり、反射鏡6の製造精度(歪等)の検査を、検査用の板や検査台を利用して簡単且つ迅速に行うことが可能となる。
【0056】
従って、本実施形態のアンテナ装置によれば、反射鏡6の鏡面が融合放物面であるにも関わらず、従来と同様の一般的な検査で製造品質を確保することができ、この結果、反射鏡6の生産効率を上げて、アンテナ装置の製造コストを低減することができる。
【0057】
次に、受信部2において、各衛星11、24、28からの電波を受信する放射器4a、3a、3bは、図7に示すように、上記のように作製された反射鏡6に対し、その鏡面(つまり融合放物面)を構成する3つの個別放物面の焦点位置F(BS)、F(J4)、F(J3)に配置される。
【0058】
そして、本実施形態では、反射鏡6の鏡面が、設計上の融合放物面30をZ軸周りに補正角度αだけ回転させることにより形成されることから、上記各焦点位置F(BS)、F(J4)、F(J3)の配列方向は、図1で示した配列方向に対し、軸周りに補正角度αだけ回転した配列方向となる。
【0059】
ところで、このように放射器4a、3a、3b(換言すれば第2受信部4及び第1受信部3)を配置した場合、各放射器4a、3a、3bで各衛星11、24、28からの電波を効率よく受信できるようにするには、反射鏡6の鏡面に対する各放射器4a、3a、3bの放射中心軸の向きを最適化する必要がある。
【0060】
つまり、図5(b)に示すように、融合放物面30から反射鏡6の鏡面を切り出す際の切断用平面を、融合放物面30のZ軸と交差し、その交差角度が90度とならない所定角度に設定し、融合放物面30を、Z軸よりも上方部分が大きくなるよう切断すると、アンテナ装置は、所謂オフセットアンテナとなる。
【0061】
この場合、図7に示すように、反射鏡6の鏡面の中心Pを通る中心軸は、融合放物面30の中心軸であるZ軸からオフセットされたZ′軸となるため、各放射器4a、3a、3bの放射中心軸の向きを、そのZ′軸に対応して最適化する必要がある。
【0062】
また、直線偏波の電波を受信する放射器3a、3bについては、受信する電波の偏波面に対応して、受信可能な偏波面(受信偏波面)の角度を調整する必要もある。
そこで、実施形態では、アンテナ装置を受信点Rに配置した際、各放射器4a、3a、3bの放射中心軸が、反射鏡6を介して反射される各衛星11、24、28からの電波の入射方向に一致するように、各焦点位置F(BS)、F(J4)、F(J3)での放射器4a、3a、3bの向きが設定されている。
【0063】
また、第1衛星24、28からの電波を受信する放射器3a、3bは、それぞれ、各放射器3a、3bでの受信偏波面が、各第1衛星24、28から反射鏡6を介して入射する電波の偏波面に一致するよう、放射中心軸周りの回転位置が設定されている。
【0064】
従って、本実施形態のアンテナ装置によれば、受信点Rにおいて、反射鏡6の鏡面である融合放物面の中心軸が2つの第1衛星の中間点と第2衛星との間の中間位置を通り、且つ、各放射器4a、3a、3bに、対応する衛星11、24、28からの電波が入射するよう、反射鏡6を設置することにより、3つの衛星からの電波を効率よく受信することができる。
【0065】
ここで、図8は、融合放物面を回転させて反射鏡6を設計した本実施形態のアンテナ装置の送信電力と、融合放物面を回転させずに反射鏡を設計した参考例のアンテナ装置の送信電力とを、それぞれ測定した測定結果を表す。
【0066】
この測定結果から明らかなように、本実施形態のアンテナ装置によれば、参考例のアンテナ装置に比べ、円偏波の電波の送信電力は低くなるものの、直線偏波の電波の送信電力は垂直偏波(V)・水平偏波(H)共に増加している。
【0067】
従って、本実施形態のアンテナ装置の場合、衛星からの送信電力が高いBS放送の受信は問題なく行うことができ、衛星からの送信電力がBS放送に比べて低いCS放送については、より低損失で受信できることがわかる。
【0068】
よって、本実施形態のアンテナ装置によれば、BS放送用の衛星に比べ送信電力の低いCS放送用の衛星を受信することに対して極めて有用な装置となり得る。
また、本実施形態のアンテナ装置によれば、例えば、設計上の受信点Rとして日本列島の中心部(例えば、名古屋)を設定してアンテナ装置を設計すれば、アンテナ装置の構成を変更することなく、アンテナ装置の方向調整だけで、上記3つの衛星からの電波を日本列島の全域で受信することができるようになる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、反射鏡6の鏡面には、受信点Rでの直線偏波の電波の傾斜に対応して、図3に示した設計上の融合放物面30をZ軸周りに回転させたものを利用するようにしたが、この回転は必ずしも行う必要はなく、基準となる受信点Rで放射器3a、3bの受信偏波面が受信電波の偏波面と対応するように設計してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、受信部2には、2つの第1衛星24、28からの電波を受信する放射器4a、4bと、第2衛星11からの電波を受信する放射器3aが内蔵されるものとして説明したが、これら各放射器3a、4a、4bは、単に電波を受信するものであってもよいが、衛星放送受信用の通常のアンテナ装置のように、受信信号をダウンコンバートするダウンコンバータを内蔵したものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
2…受信部、3…第1受信部、3a…放射器、4…第2受信部、4a,4b…放射器、6…反射鏡、8…アーム部、11…第2衛星、24,28…第1衛星、30…融合放物面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止軌道上の複数の衛星からの電波を反射する一つの反射鏡と、
前記反射鏡にて反射された前記各衛星からの電波をそれぞれ受信可能な位置に配置され、前記各衛星からの電波をそれぞれ受信する複数の放射器と、
を備え、
前記反射鏡の鏡面は、
前記複数の衛星からの電波を前記各放射器の設置位置に対応する焦点位置に集波可能な複数の個別放物面を、一つの融合点で接するように配置し、融合させた融合放物面からなり、
前記反射鏡は、
前記融合点を通る前記融合放物面の中心軸に対し直交する側面方向から前記融合放物面を見たとき、前記中心軸と交差する一本の直線として見える切断用平面にて、前記融合放物面を切り出した形状を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記融合放物面は、
静止軌道上に近接して配置され、直線偏波の電波をそれぞれ送信する2つの第1衛星と、
静止軌道上で、前記2つの第1衛星に対し、前記第1衛星同士の間隔よりも大きい間隔を空けて配置され、円偏波の電波を送信する第2衛星と、
からなる3つの衛星を、受信点から見たとき、当該融合放物面の中心軸が、前記2つの第1衛星の中間点と前記第2衛星との間の中間位置を通るように、前記3つの衛星に対応した3つの個別放物面を配置し、融合させることにより形成され、
前記反射鏡は、
前記受信点で生じる前記2つの第1衛星からの電波の偏波面の傾斜角度に対応した補正角度分だけ、前記融合放物面を、前記中心軸を中心として前記偏波面の傾斜方向に回転させた状態で、前記融合放物面を前記側面方向から切り出した形状を有し、
前記放射器は、
当該アンテナ装置を前記受信点に配置した際、放射中心軸が、前記反射鏡の融合放物面を構成する3つの個別放物面によりそれぞれ反射される各衛星からの電波の入射方向に一致するように、前記各個別放物面の焦点位置にそれぞれ配置され、
しかも、前記2つの第1衛星からの電波を受信する2つの放射器は、各放射器での受信偏波面が、前記各第1衛星から前記反射鏡を介して入射する電波の偏波面に一致するよう、前記放射中心軸周りの回転位置が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−50074(P2012−50074A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164794(P2011−164794)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】