説明

アントラキノン系着色剤組成物の製造方法

【課題】
1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の製造方法が開示されている。
【解決手段】
この方法は、4−ハロ安息香酸を、該4−ハロ安息香酸1モル当たり約1〜約4モルのハロゲン化剤と反応させてハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物を形成し、第1の触媒組成物の存在下溶媒中でハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ハロベンゼン組成物を形成し、第2の触媒組成物及び酸スカベンジャーの存在下、双極性非プロトン性溶媒を含む反応媒質中で1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントラキノン誘導体は、トレーサー化学、ポリマー産業などの多様な分野で各種の染料及び顔料組成物中に広く使用されている。これらのアントラキノン誘導体を得るために数多くの合成経路が考案されている。
【特許文献1】英国特許第1061948号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許第222205号明細書
【非特許文献1】Arient,J. and Slavik,V., Collect. Czech. Commun., 34, February 13, 1969, 3582
【非特許文献2】Lord,W.M. and Peters, A.T., J. Chemical Society, Perkin Trans. 1(1973), 20, 2305−8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を製造するための便利でスケールアップ可能な方法を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を製造する方法は、
4−ハロ安息香酸を、この4−ハロ安息香酸の1モル当たり約1〜約4モルのハロゲン化剤と反応させてハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物を形成し、
第1の触媒組成物の存在下溶媒中で、ハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ハロベンゼン組成物を形成し、
第2の触媒組成物及び酸スカベンジャーの存在下、双極性非プロトン性共溶媒を含む反応媒質中で、1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成する
ことからなる。
【0005】
本発明の別の実施形態では、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を製造する方法は、
1モルの4−ブロモ安息香酸を、4−ブロモ安息香酸1モル当たり約1.1〜約4モルの塩化チオニルと反応させて塩化4−ブロモベンゾイル組成物を形成し、
塩化アルミニウムの存在下、ニトロベンゼンを含む溶媒中で、塩化4−ブロモベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼン組成物を形成し、
炭酸カリウム及び酢酸ナトリウムを含む酸スカベンジャー組成物、並びにヨウ化銅(I)1重量部当たり約1部の銅を含む第2の触媒組成物の存在下、N,N−ジメチルホルムアミドを含む溶媒中で、1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ブロモベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成する
ことからなる。
【0006】
上記実施形態及びその他の特徴は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の好ましい実施形態に関する以下の詳細な説明及びその後の実施例を参照すると本発明がより容易に理解されるであろう。本明細書及び特許請求の範囲では幾つかの用語に言及するが、その意味は以下の通り定義される。
【0008】
単数形は文脈上明らかに他の意味を表さない限り複数も含めて意味する。「適宜」は、その後に記載される事象又は状況が起こってもよいし起こらなくてもよく、またその事象が起こる場合と起こらない場合を含めて意味する。
【0009】
本明細書には、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の製造方法が開示されている。1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノンの構造を下記式(I)に示す。この着色剤は赤色のポリマー性樹脂組成物を製造するのに有益な物質である。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明では、4−ハロ安息香酸化合物をハロゲン化剤と反応させて対応する塩化4−ハロベンゾイルを生成させる。この4−ハロ安息香酸は4−クロロ安息香酸、4−ブロモ安息香酸、4−ヨード安息香酸及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上である。幾つかの実施形態では、ハロゲン化剤はハロゲン含有リン化合物、ハロゲン含有イオウ化合物及びハロゲン化カルボニルからなる。これらのハロゲン化剤はいかなる組合せでも使用することができる。一実施形態では、ハロゲン化剤は、PCl、PCl、PBr、POCl、POBr、塩化カルボニル、臭化カルボニル、塩化チオニル、臭化チオニル、塩化スルフリル及びこれらの混合物からなる群から選択される。好ましいハロゲン化剤としては、塩化チオニル、PCl、及びSOClがある。
【0012】
適宜、塩化4−ハロベンゾイルの製造の際に溶媒を使用することができる。反応条件下で不活性であると期待されるあらゆる溶媒を使用することができる。多くの実施形態では、溶媒は炭素原子数約6〜約9の芳香族化合物、並びに炭素原子数1〜約6の脂肪族及び脂環式化合物からなる。溶媒として使用することができる芳香族化合物の幾つかの例としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、クメン、キシレンの異性体、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンの異性体、クロロトルエンの異性体、クロロキシレンの異性体、ニトロベンゼンなどがある。溶媒として使用することができる脂肪族及び脂環式化合物の幾つかの例としては、特に限定されないが、ペンタン、ヘキサン、ネオヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、デカリン、ニトロメタン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、クロロプロパン、クロロブタン、クロロシクロヘキサンなどの線状及び枝分かれ炭化水素がある。特定の実施形態では、ニトロベンゼンが特に有利な溶媒であり、ハロゲン化反応で得られるニトロベンゼン溶媒中の塩化4−ハロベンゾイル組成物はそのままで直接ビフェニルを用いたアシル化反応(後述)に使用することができる。
【0013】
一実施形態では、4−ハロ安息香酸とハロゲン化剤との反応はまた、アミド又は尿素化合物を含む触媒の存在下で実施することもできる。一実施形態では、触媒は、4−ハロ安息香酸100部当たり約0.1〜約5部の、アミド化合物又は尿素化合物を含んでなる触媒を含む。アミド化合物と尿素化合物の混合物も使用することができる。
【0014】
4−ハロ安息香酸とハロゲン化剤の反応はほぼ周囲温度〜反応混合物のほぼ還流温度の範囲のいかなる温度でも実施することができる。一実施形態では、反応温度はほぼ周囲温度〜約100℃の範囲である。別の実施形態では、反応温度はほぼ周囲温度〜約60℃の範囲である。100℃より高い反応温度を使用することもできるが、反応の容易性のため一般に必要ではない。ハロゲン化剤の量は広範囲にわたり変えることができる。一実施形態では、ハロゲン化剤の量は4−ハロ安息香酸1モル当たり約1〜約4モルで変化する。特定の実施形態では、比較的揮発性であり、従って容易に反応混合物から除去することができる塩化チオニル、PCl、及びPOClのようなハロゲン化剤は、これらがハロゲン化4−ハロベンゾイルを製造するための溶媒としても機能するように過剰に使用する。
【0015】
以上記載したようにして得られたハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物を適切な溶媒中、第1の触媒組成物の存在下でビフェニルと反応させて、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ハロベンゼン組成物を形成する。このハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物によるビフェニルのアシル化は、ニトロ芳香族化合物、ニトロ脂肪族化合物、及びハロゲン含有C〜C脂肪族化合物又はこれらの混合物を含んでなる群から選択される溶媒中で実施する。代表的なニトロ芳香族化合物はニトロベンゼンであり、代表的なニトロ脂肪族化合物はニトロメタンである。
【0016】
このアシル化反応はLewis酸触媒を含む第1の触媒組成物を用いて実施する。芳香族化合物のアシル化を実施するための各種のLewis酸が当技術分野で利用可能である。幾つかの実施形態では、この第1の触媒組成物は式Mを有する化合物を含んでおり、ここで式中の「M」は周期表の第3〜15族から選択される1種以上の元素であり、「X」はハロゲン、トリフルオロ酢酸基、トリフルオロメタンスルホン酸基などの電子吸引基からなり、「m」は約2〜約5の値を有する整数である。第1の触媒組成物に含まれる代表的な化合物としては、限定されることはないが、塩化亜鉛(II)、臭化亜鉛(II)、塩化アルミニウム(III)、三フッ化ホウ素(III)、三フッ化ホウ素(III)エーテル化合物、トリフルオロメタンスルホン酸ホウ素(III)、四塩化スズ(IV)、四塩化チタン(IV)、塩化ジルコニウム(IV)、塩化鉄(III)、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)などがある。一実施形態では、第1の触媒組成物は1種類以上の塩化亜鉛(II)、塩化アルミニウム(III)、フッ化ホウ素(III)エーテル化合物、及び塩化鉄(III)を含む。以上の触媒の混合物もこのアシル化反応に使用することができる。第1の触媒組成物の量は塩化4−ハロベンゾイル100モル当たり約90〜約100モルで変化する。
【0017】
アシル化反応の実施に使用することができる温度範囲は、一実施形態ではほぼ周囲温度〜約200℃で、別の実施形態では約50〜約200℃で変化する。ビフェニルとハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物の反応の完了に要する時間は、一実施形態では
約1〜約10時間、別の実施形態では約2〜約8時間で変わる。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(以後「TLC」という)でハロゲン化4−ハロベンゾイルの消失をモニターすることによって追跡することができる。反応混合物の部分試料を取り、水性塩化水素酸で反応を停止させる。次に、有機層を分離し、過剰のメタノールで処理して未反応のハロゲン化4−ハロベンゾイルを対応する4−ハロ安息香酸メチルに変換させ、その後TLCで同定する。塩化4−ハロベンゾイルの完全な消費が示されたとき、上記のようにして反応混合物の反応を停止させ、その生成物を大気圧又は低圧での蒸留、水蒸気蒸留などの当技術分野で周知の技術により有機溶液から単離することができる。
【0018】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を、第2の触媒組成物の存在下、双極性非プロトン性溶媒を含む反応媒質中で、1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成する。代表的な双極性非プロトン性溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−3−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びスルホランからなる群から選択されるものである。上記双極性非プロトン性溶媒のいかなる混合物も使用することができる。多くの実施形態では、反応媒質はまた、上記双極性非プロトン性溶媒のいずれかと混和性である置換及び非置換脂肪族及び芳香族炭化水素のような不活性共溶媒も含むことができる。
【0019】
第2の触媒組成物は銅、Cu(I)ハロゲン化物(CuX)、及び銅(II)ハロゲン化物(CuX)を含み、ここで「X」は塩化物、臭化物、及びヨウ化物から選択される。これら3種の銅含有成分のいかなる組合せもこの反応に使用することができる。代表的な第2の触媒組成物としては、銅、CuCl、CuBr、CuI、CuCl、CuBr、及びCuIを含むものがある。ある特定の実施形態では、第2の触媒組成物が銅及びCuIからなる。別の特定の実施形態では、第2の触媒組成物が銅、CuI、及びCuIからなる。幾つかの実施形態では、銅−青銅又は銅−亜鉛合金のような銅含有合金も使用することができる。この第2の触媒組成物は、1−アミノアントラキノン100重量部当たり約0.05〜約25部からなる。
【0020】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物と1−アミノアントラキノンの反応では酸スカベンジャーを用いてハロゲン化水素副生物を捕捉する。酸スカベンジャーは1−アミノアントラキノンの1モル当量以上に対応する量で使用する。酸スカベンジャーは一般に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカルボン酸、炭酸、及び重炭酸塩からなる。カルボン酸塩は一般式M(COORを有しており、式中の「M」はアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Rは約1〜約6個の炭素を有する一価アルキル基であり、「n」は1又は2から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属カルボン酸塩の例としては、特に限定されないが、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸ナトリウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、安息香酸カルシウムなどがある。アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩及び重炭酸の例としては、特に限定されないが、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどがある。上記酸スカベンジャーの組合せも使用することができる。特定の実施形態では、酸スカベンジャーは炭酸カリウム及び酢酸ナトリウムからなる。
【0021】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物と1−アミノアントラキノンの反応は、一実施形態では約50〜約200℃の温度で、別の実施形態では約100〜約170℃の温度で実施することができる。この反応は一般に約12〜約30時間実施する。一実施形態では、反応は約18〜約24時間実施する。
【0022】
特定の実施形態では、上記の一般法は、出発物質として4−ブロモ安息香酸を用いて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を製造するのに使用することができる。この方法は、1モルの4−ブロモ安息香酸を、4−ブロモ安息香酸1モル当たり約1〜約4モルの塩化チオニルと反応させて塩化4−ブロモベンゾイル組成物を形成し、塩化アルミニウムの存在下、ニトロベンゼンからなる溶媒中で、塩化4−ブロモベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼン組成物を形成し、ヨウ化銅(I)1部当たり約1部の銅を含む第2の触媒組成物の存在下、N,N−ジメチルホルムアミドからなる溶媒中で、1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ブロモベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成することからなる。一実施形態では、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼン組成物を含むニトロベンゼン溶液を、ニトロベンゼンの完全又は部分的除去のようなさらなる加工処理をすることなく、後の1−アミノアントラキノンとの反応に有利に使用することができる。
【0023】
上記一般法及び特定の実施形態に記載した方法を用いて製造した1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]フェニルアミノアントラキノン組成物は、各種の着色熱硬化性及び熱可塑性樹脂組成物を製造するのに有益な着色剤として使用される。一実施形態では、着色樹脂組成物を製造するのに使用することができる熱可塑性樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネート、ビスフェノールAポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ゴム改質ポリスチレン、アクリロニトリル含有ポリマー、ポリアリーレンエーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0024】
以上説明した本発明の実施形態は、好都合かつ高い費用効率で1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を製造することができるという能力を始めとして多くの利点を有している。上記方法は、回分式に、又は当業者に自明の適切な修正を施して半連続式若しくは連続式に実施することができる。
【0025】
以上、本発明の幾つかの特徴のみを例示し説明して来たが、多くの修正及び変更が当業者には明らかであろう。従って、特許請求の範囲は本発明の真の思想の範囲内に入るものとしてかかる修正及び変更をすべて包含するものと了解されたい。
【実施例】
【0026】
実施例1
高性能薄層クロマトグラフィー(以後「HPTLC」という)は、炎イオン化検出器を装備したCamag TLC Scanner 3機器、及びCamag Linomat IV自動スポッターを用いて実施した。
【0027】
本実施例では、4−ブロモ安息香酸からの塩化4−ブロモベンゾイルの調製について説明する。
【0028】
4−ブロモ安息香酸(6.03g)を、温度計、冷水循環二面凝縮器、塩化カルシウム保護管、及び磁気攪拌機を装備した100mlの3つ首丸底フラスコに仕込んだ。この保護管をHClガススクラバーに接続した。4−ブロモ安息香酸に、撹拌しながら約10〜15分かけて塩化チオニル(14.27g)を滴下して加えた。次に、得られた懸濁液にN,N−ジメチルホルムアミドを一滴加えた。その後、反応混合物を撹拌しながら還流温度(油浴温度90〜92℃)まで加熱した。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(以後「TLC」という)で、まず反応混合物の部分試料を取りメタノールで反応を停止させた後、このメタノールで反応を停止させた試料を、あらかじめ塗布したシリカプレート上にスポットした後に 、ヘキサン中20%(体積基準)酢酸エチルで溶出することによってモニターした。一般に、反応混合物は、出発4−ブロモ安息香酸が完全に反応したときに均質になった。TLCで出発4−ブロモ安息香酸の完全な消失が示されたとき、油浴温度を約100℃に上げ、過剰の塩化チオニルを窒素雰囲気下で留去した。反応フラスコ中に残留している塩化4−ブロモベンゾイルをさらに精製することなく次の工程で使用した。
【0029】
実施例2
本実施例では、実施例1で説明したようにして調製した塩化4−ブロモベンゾイルからの1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼンの調製について説明する。
【0030】
100mlの単一首の丸底フラスコで、4.5gの無水塩化アルミニウムを50mlのニトロベンゼン中に溶解させた。温度計、冷水循環二面凝縮器、及びHClスクラバーに接続した塩化カルシウム保護管を装備した250mlの3つ首丸底フラスコに、実施例1で説明したようにして調製した塩化4−ブロモベンゾイルを仕込んだ。この混合物を撹拌しながら、ニトロベンゼン中無水塩化アルミニウムの溶液に一度に添加し、続いてビフェニル(4.62g)を添加した。次いで、撹拌を続けながら(約90℃に維持した油浴で反応フラスコを加熱することによって)反応温度を87℃に上げた。反応の進行は、反応混合物の部分試料を採り、希塩酸で反応を停止させた後、酢酸エチルで抽出することによってモニターした。この酢酸エチル抽出物をTLCシリカプレート上にスポットし、ヘキサン中20%(体積基準)酢酸エチルで溶出した。16時間加熱した後、わずかに痕跡量のビフェニルのみがTLC分析で検出された。加熱を止め、反応混合物をほぼ室温まで冷却し、約5℃に維持した250mlの10%(体積基準)塩酸上に注いだ。水層と有機層を分離し、各層を濾過して不溶性物質を除去した。水性層を各々75mlのジクロロメタンで三回洗浄し、合わせたジクロロメタン洗液をニトロベンゼン層と一緒にした。この一緒にした有機溶液をまず蒸発させてジクロロメタンを除去した。その後ニトロベンゼンを水を用いて共沸留去した。こうして得られた粗反応生成物をジクロロメタンに溶解させ、濾過して不溶性物質を除去した後、250mlの5%(重量)重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を分離し、無水硫酸ナトリウム上で10時間乾燥し、デカントした。このデカントした溶液から減圧下でジクロロメタンを除去した後、得られた固体生成物をヘキサン中20%(体積基準)酢酸エチルと共に30分間撹拌して痕跡量のビフェニルを溶解させた。残留している不溶性の固体を濾過し、減圧(100mmHg)下60℃で12時間乾燥して、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼンを得た。これは、ヘキサン中20%(体積基準)酢酸エチルを用いたTLC分析で1つのスポットを示した。この最終生成物の収量は7.2グラム、すなわち理論収率の70%であった。
【0031】
実施例3
本実施例では、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼンからの1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の調製について説明する。
【0032】
温度計、冷水循環二面凝縮器、及び塩化カルシウム保護管を装備した250mlの丸底フラスコに、乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(75ml)、7.2gの1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼン、1−アミノアントラキノン(4.7g)、ヨウ化銅(I)(426mg)、銅金属粉末(426mg)、炭酸カリウム(426mg)、及び酢酸ナトリウム(2.98g)をこの順に仕込んだ。得られた反応混合物を窒素下で撹拌しながら約25時間約150℃に加熱したところ、この時点でTLC分析により出発物質の完全な消費が示された。室温に冷却後、反応混合物を500mlの脱イオン水上に注いだ。こうして沈殿した固体を濾過し、1500mlの脱イオン水で洗浄して残留DMFを除去した後、250mlのメタノールで洗浄した。残留固体を真空オーブン(100mmHg、60℃)中で乾燥して、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノンを収量8.7g、すなわち理論収率の80%で得た。HPTLC分析により、この生成物の純度は約90%であることが示された。この物質の核磁気共鳴スペクトルは所望の生成物の構造と一致していた。
【0033】
代表的な実施形態に関連して本発明を説明して来たが、当業者には本発明の範囲から逸脱することなく各種の変更をすることができ、また等価物でその要素を置き換えることができるということが理解されよう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく特定の状況又は材料を本明細書の開示に適合させるために多くの修正をすることができる。従って、本発明は、本発明を実施する上で考えられる最良の実施形態として開示した個々の実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲の範囲内に入るあらゆる実施形態を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の製造方法であって、
4−ハロ安息香酸を、該4−ハロ安息香酸1モル当たり約1〜約4モルのハロゲン化剤と反応させてハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物を形成し、
第1の触媒組成物の存在下溶媒中でハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ハロベンゼン組成物を形成し、
第2の触媒組成物及び酸スカベンジャーの存在下、双極性非プロトン性溶媒を含んでなる反応媒質中で、1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて、1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
4−ハロ安息香酸とハロゲン化剤を反応させてハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物を形成させる段階を、さらに、炭素原子数約6〜約9の芳香族化合物、並びに炭素原子数約1〜約6の脂肪族及び脂環式化合物を含んでなる溶媒中で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
4−ハロ安息香酸が、4−クロロ安息香酸、4−ブロモ安息香酸、4−ヨード安息香酸及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ハロゲン化剤がハロゲン含有リン化合物、ハロゲン含有イオウ化合物及びハロゲン化カルボニルからなる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ハロゲン化剤が、PCl、PCl、PBr、POCl、POBr、塩化カルボニル、臭化カルボニル、塩化チオニル、臭化チオニル、塩化スルフリル及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
4−ハロ安息香酸をハロゲン化剤と反応させる段階をさらに、4−ハロ安息香酸100重量部当たり約0.1〜約5部のアミド化合物又は尿素化合物からなる触媒の存在下で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
溶媒が、ニトロ芳香族化合物、ニトロ脂肪族化合物、及びハロゲン含有C〜C脂肪族化合物からなる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させる段階をほぼ周囲温度〜約200℃で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させる段階を約50〜約200℃で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させる段階を約1〜約10時間実施する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ハロゲン化4−ハロベンゾイル組成物をビフェニルと反応させる段階を約2〜約8時間実施する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
第1の触媒組成物が式Mを有する無機ハロゲン化物を含んでなり、式中の「M」は周期表の第3〜15族から選択される1種以上の元素であり、「m」は約2〜約5の値を有する整数である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
第1の触媒組成物が塩化亜鉛(II)、塩化アルミニウム(III)、フッ化ホウ素(III)エーテル化合物、及び塩化鉄(III)の1種以上を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
第1の触媒組成物が塩化4−ハロベンゾイル100モル当たり約90〜約100モルからなる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
双極性非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−3−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びスルホラン、並びに以上の溶媒のいずれかを含む混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させる段階を約50〜約200℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させる段階を約100〜約170℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させる段階を約12〜約30時間実施する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ハロベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させる段階を約18〜約24時間実施する、請求項1記載の方法。
【請求項20】
第2の触媒組成物が銅、CuX及びCuXを含んでおり、ここで「X」は塩化物、臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
第2の触媒組成物が銅及びCuIを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項22】
第2の触媒組成物が1−アミノアントラキノン100重量部当たり約0.05〜約25部からなる、請求項1記載の方法。
【請求項23】
酸スカベンジャーがアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ土類金属重炭酸塩、並びに一般式M(COORを有するアルカリ金属カルボン酸塩及びアルカリ土類金属カルボン酸塩からなり、式中の「M」はアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、Rは約1〜約6個の炭素を有する一価アルキル基であり、「n」は1及び2から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項24】
請求項1記載の方法によって製造された1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を含んでなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項25】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル、ポリカーボネート、ビスフェノールAポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ゴム改質ポリスチレン、アクリロニトリル含有ポリマー、ポリアリーレンエーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物の製造方法であって、
1モルの4−ブロモ安息香酸を、4−ブロモ安息香酸1モル当たり約1.1〜約4モルの塩化チオニルと反応させて塩化4−ブロモベンゾイル組成物を形成し、
塩化アルミニウムの存在下、ニトロベンゼンを含む溶媒中で、塩化4−ブロモベンゾイル組成物をビフェニルと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]ブロモベンゼン組成物を形成し、
炭酸カリウム及び酢酸ナトリウムを含む酸スカベンジャー、並びにヨウ化銅(I)の1重量部当たり約1部の銅を含む第2の触媒組成物の存在下、N,N−ジメチルホルムアミドを含む溶媒中で、1−[4−(4−フェニルベンゾイル)]ブロモベンゼン組成物を1−アミノアントラキノンと反応させて1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を形成する
ことを含んでなる方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法によって製造された1−[4−(ビフェニル−4−カルボニル)]フェニルアミノアントラキノン系着色剤組成物を含んでなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項28】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル、ポリカーボネート、ビスフェノールAポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ゴム改質ポリスチレン、アクリロニトリル含有ポリマー、ポリアリーレンエーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項27記載の方法。

【公表番号】特表2006−504838(P2006−504838A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549946(P2004−549946)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/028265
【国際公開番号】WO2004/041939
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】