説明

アンブレラバルブ、エアポンプ用逆止弁装置およびエアポンプ

【課題】傘状部分を隔壁部分に当接させた閉弁状態で一定時間保持した後であっても、当該傘状部分が隔壁部分に粘着することなく、正流によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させることができるアンブレラバルブを提供すること。更に、そのようなアンブレラバルブを備えたエアポンプ用逆止弁装置およびエアポンプを提供すること。
【解決手段】逆止弁装置を構成するゴム製のアンブレラバルブであって、式(1):Si(OR1 4 で示されるテトラアルコキシシランと、式(2):Ti(OR2 4 で示されるテトラアルコキシチタンと、式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 で示されるシランカップリング剤と、これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤により処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンブレラバルブ、エアポンプ用逆止弁装置およびエアポンプに関し、更に詳しくは、特定の処理剤により表面処理されたアンブレラバルブ、当該アンブレラバルブを備えたエアポンプ用逆止弁装置およびエアポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内部が、吸気室、ポンプ室、排気室に区画されてなるエアポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図1は、そのようなエアポンプであるダイヤフラムポンプの構成を示す説明図である。 同図に示すダイヤフラムポンプは、樹脂製のハウジング1の内部が、樹脂製の隔壁2によって、吸気室4と、ポンプ室5と、排気室6とに区画されている。
【0004】
吸気室4には、1次側に連通する流路孔を形成する吸気管4pが設けられている。また、排気室6には、2次側に連通する流路孔を形成する排気管6pが設けられている。また、ポンプ室5にはダイヤフラム7が設けられ、これにより、ポンプ室5は、ポンプ空間5Aと、ダイヤフラムの駆動室5Bとに分割されている。
【0005】
ダイヤフラム7は、その外周部がポンプ室5の内壁に固定され、その中心部がピストン8の一端面(図1において上端面)に固定されている。適宜の手段によってピストン8を往復運動(図1において昇降運動)させることにより、ダイヤフラム7と隔壁2とにより囲まれるポンプ空間5Aの体積を増減させることができる。
【0006】
吸気室4とポンプ室5とを区切る隔壁2(2a)には、複数の流路孔9aが形成されているとともに、これらを塞ぐことができるように、ゴム製のアンブレラバルブ3aが設けられている。アンブレラバルブ3aの傘状部分はポンプ室5内に位置しており、このアンブレラバルブ3aによっては、吸気室4からポンプ空間5Aへのガスの流れのみが許容され、これにより、第1の逆止弁装置が構成される。
【0007】
一方、ポンプ室5と排気室6とを区切る隔壁2(2b)には、複数の流路孔9bが形成されているとともに、これを塞ぐことができるように、ゴム製のアンブレラバルブ3bが設けられている。アンブレラバルブ3bの傘状部分は排気室6内に位置しており、このアンブレラバルブ3bによっては、ポンプ空間5Aから排気室6へのガスの流れのみが許容され、これにより、第2の逆止弁装置が構成される。
【0008】
図1に示したダイヤフラムポンプにおいて、ピストン8を下降させることによりダイヤフラム7を変形させると、ポンプ空間5Aの体積が増加して圧力が低下し、1次側に連通する吸気室4内の圧力よりも低くなることにより、アンブレラバルブ3aの傘状部分が流路孔9aの開口から離間して第1の逆止弁装置が開弁状態となり(このときの吸気室4とポンプ空間5Aとの圧力差が第1の逆止弁装置の作動圧力に相当する。)、1次側のガスは、吸気管4pおよび吸気室4内を通って、ポンプ室5(ポンプ空間5A)内に流動する(吸引される)。このとき、第2の逆止弁装置は閉弁状態を維持している。
【0009】
次に、ピストン8を上昇させることによりダイヤフラム7を再度変形させると、ポンプ空間5Aの体積が減少して圧力が上昇し、2次側に連通する排気室6内の圧力よりも高くなることにより、アンブレラバルブ3bの傘状部分が流路孔9bの開口から離間して第2の逆止弁装置が開弁状態となり(このときのポンプ空間5Aと排気室6との圧力差が第2の逆止弁装置の作動圧力に相当する。)、ポンプ室5(ポンプ空間5A)内に吸引されたガスは、排気室6および排気管6pを通って、2次側に流動する(排出される)。このとき、第1の逆止弁装置は閉弁状態を維持している。
【0010】
ここに、ピストン8の往復運動はきわめて高速(例えば、1秒間に50〜60回の往復運動)で行われる。
【特許文献1】特開2003−278658
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような構成のエアポンプにおいて、一旦運転を停止した後に再度稼働させると、第1の逆止弁装置および/または第2の逆止弁装置が作動しなくなることがある。
すなわち、第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置が共に閉弁状態となるエアポンプの運転停止中において、逆止弁装置を構成するゴム製のアンブレラバルブ(傘状部分)が、流路孔の周囲の隔壁部分に粘着してしまい、この結果、逆止弁装置に設定される作動圧力(以下、「設定圧力」という。)に達する圧力の正流(1次側から2次側への流れ)によっても、アンブレラバルブが流路孔の開口から離間(開弁)できなくなる。
【0012】
上記の問題は、新品のエアポンプ(逆止弁装置)においては発生しにくく、ある程度の期間エアポンプを使用した後、例えば、ポンプの稼働(このとき逆止弁装置は開閉動作を繰り返す)と、ポンプの停止(このとき逆止弁装置は閉弁状態を維持する)とを、数百回程度繰り返して実施した後において頻繁に発生する。
また、この問題は、設定圧力の低い(例えば50KPa以下)応答性の良好な精密小型の逆止弁装置において頻繁に発生する。
【0013】
上記のような問題に対して、第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を構成するアンブレラバルブを、アルコキシシランを含有する表面処理剤で処理し、その表面にSiO2 系の被膜(表面処理層)を形成することによって非粘着性(粘着防止効果)を発現させることも考えられる。
【0014】
しかしながら、そのような表面処理剤によって処理されたアンブレラバルブを使用してなる逆止弁装置によっても、上記の問題を解決することはできない。
これは、形成される表面処理層(SiO2 系の被膜)のゴムに対する密着性が低いために、エアポンプの稼働時(逆止弁装置の開閉動作の繰り返し時)の衝撃などにより、当該表面処理層が脱離・飛散してしまい、当該表面処理層による粘着防止効果が極めて短時間で減殺・消滅してしまうからである。
【0015】
本発明は、以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、逆止弁装置を構成する非粘着性に優れたアンブレラバルブであって、その傘状部分を隔壁部分に当接させた状態(閉弁状態)で一定時間(5分間以上)保持した後であっても、当該傘状部分が隔壁部分に粘着することがなく、正流によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させることができるアンブレラバルブを提供することにある。
本発明の第2の目的は、エアポンプに用いられる逆止弁装置であって、閉弁状態で一定時間(5分間以上)保持した後であっても、正流によって、確実に開弁することができるエアポンプ用逆止弁装置を提供することにある。
本発明の第3の目的は、一旦運転を停止した後に再度稼働させても、これを構成する逆止弁(第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置)を確実に作動させることができるエアポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のアンブレラバルブは、逆止弁装置を構成するゴム製のアンブレラバルブであって、式(1):Si(OR1 4 (式中、R1 は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシシランと、式(2):Ti(OR2 4 (式中、R2 は、炭素数2〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシチタンと、式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 (式中、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数であり、nは0〜5の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。)で示されるシランカップリング剤と、これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤(以下、「特定の処理剤」という。)により処理されていることを特徴とする。
【0017】
特定の処理剤を構成するテトラアルコキシシランは、分子中に4個のアルコキシ基(−OR1 )を有し、また、テトラアルコキシチタンも、分子中に4個のアルコキシ基(−OR2 )を有し、更に、シランカップリング剤は、加水分解性基(−OR3 )および反応性の有機官能基(−R5 )を分子中に有する。
特定の処理剤によるアンブレラバルブの表面処理においては、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤とが反応(加水分解・縮合反応)することにより、Si−O結合およびTi−O結合による架橋構造を有する表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)が形成され、これにより、アンブレラバルブの表面に優れた非粘着性(SiO2 系の被膜によるものより優れた粘着防止効果)が発現される。
【0018】
しかも、表面処理層を構成するSiO2 −TiO2 系の被膜(または被膜の形成過程における構造)中には、シランカップリング剤に由来する反応性の有機官能基(−R5 )が導入され、この有機官能基は、アンブレラバルブを構成するゴムのポリマー主鎖と反応する。この結果、当該表面処理層は、シランカップリング剤を介して、当該ゴムのポリマー主鎖と化学的に結合する。このように、SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層と、ゴムのポリマー主鎖との間には、シランカップリング剤を介して化学的な結合が形成されるため、当該表面処理層は、アンブレラバルブを構成するゴムに対して強固に密着することになる。
【0019】
本発明のアンブレラバルブにおいては、下記の形態が好ましい。
〔1〕特定の処理剤に含有されているテトラアルコキシシランが、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランであり、テトラアルコキシチタンが、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラ−n−ブトキシチタンから選ばれた少なくとも1種であること。
〔2〕特定の処理剤が、酸または塩基を含有すること。
〔3〕特定の処理剤が、テトラエトキシシランと、テトラエトキシチタンまたはテトライソプロポキシチタンと、シランカップリング剤と、酸または塩基と、有機溶剤とを含有すること。
〔4〕特定の処理剤が、テトラアルコキシシランの含有量に対して1〜10質量%のテトラアルコキシチタンを含有すること。
〔5〕特定の処理剤が、テトラアルコキシシランの含有量に対して3〜10質量%のテトラアルコキシチタンを含有すること。
【0020】
本発明のエアポンプ用逆止弁装置は、ピストンまたはダイアフラムにより体積が増減するポンプ空間に連通する流路孔が形成された隔壁と、前記流路孔を塞ぐことができるよう前記隔壁に設けられたアンブレラバルブとを備え、前記ポンプ空間の圧力に応じて前記アンブレラバルブが変形することにより前記流路孔を開閉するエアポンプ用逆止弁装置であって、前記アンブレラバルブが、本発明のアンブレラバルブであることを特徴とする。
【0021】
本発明のエアポンプ用逆止弁装置においては、50KPa以下の圧力において作動するものであることが好ましい。
【0022】
本発明のエアポンプは、ハウジングと;このハウジングの内部を、1次側に連通する吸気室、ピストンまたはダイアフラムにより体積が増減するポンプ空間を含むポンプ室、2次側に連通する排気室に区画する隔壁と;前記吸気室と前記ポンプ室とを区切る隔壁に設けられたアンブレラバルブを備え、当該吸気室から前記ポンプ空間へのガスの流れのみを許容する第1の逆止弁装置と;前記ポンプ室と前記排気室とを区切る隔壁に設けられたアンブレラバルブを備え、前記ポンプ空間から当該排気室へのガスの流れのみを許容する第2の逆止弁装置とを有してなり;第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を構成するアンブレラバルブが、本発明のアンブレラバルブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
〔1〕特定の処理剤による表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)が形成されてなる本発明のアンブレラバルブによれば、優れた非粘着性(SiO2 系の被膜によるものより優れた粘着防止効果)が発揮される。
従って、本発明のアンブレラバルブにより構成される逆止弁装置において、当該アンブレラバルブの傘状部分を隔壁部分に当接させた状態(閉弁状態)で一定時間(5分間以上)保持した後であっても、当該傘状部分が隔壁部分に粘着するようなことはなく、正流によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させることができる。
【0024】
〔2〕特定の処理剤による表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)は、アンブレラバルブを構成するゴムに対して強固に密着しているので、エアポンプの稼働時(逆止弁装置の開閉動作の繰り返し時)の衝撃などによっても当該表面処理層が脱離・飛散するようなことはなく、優れた粘着防止効果を長期にわたり安定的に発揮することができる。
従って、本発明のアンブレラバルブを備えてなるエアポンプを長期にわたり使用(稼働および停止)した後においても、再稼働時の正流(1次側から2次側への流れ)によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させることができる。
【0025】
〔3〕本発明のアンブレラバルブを備えてなるエアポンプ用逆止弁装置によれば、エアポンプの停止に伴う閉弁状態で一定時間(5分間以上)保持した後であっても、再稼働時の正流(1次側から2次側への流れ)によって、確実に開弁することができる。
しかも、本発明のアンブレラバルブを備えてなるエアポンプを長期にわたり使用(稼働および停止)した後においても、再稼働時の正流によって、確実に開弁させることができる。
【0026】
〔4〕本発明のアンブレラバルブを備えてなるエアポンプによれば、一旦運転を停止した後に再度稼働させても、これを構成する逆止弁(第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置)を確実に作動させることができる。
しかも、長期にわたり使用(稼働および停止)した後においても、これを構成する逆止弁を確実に作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
<アンブレラバルブ>
図2は、本発明のアンブレラバルブの一部を破断して示す説明図である。
同図に示すアンブレラバルブ30は、傘状部分31と、抜け止め用の拡径部32が形成された軸部分33とからなるゴム製の成形品である。
アンブレラバルブ30の高さ(T)としては、例えば7〜15mmとされ、好ましくは7〜11mmとされる。また、傘状部分31の直径(D)としては、例えば5〜15mmとされ、好ましくは5.5〜12mmとされる。
【0028】
<逆止弁装置>
図3および図4は、本発明のアンブレラバルブを備えたエアポンプ用逆止弁装置(本発明の逆止弁装置)を示す断面図である。
この逆止弁装置は、ポンプ空間S1と排気室S2との間に装着されて、ポンプ空間S1から排気室S2へのガスの流れのみを許容するものであり、図1における「第2の逆止弁装置」に相当する。
【0029】
この逆止弁装置は、ポンプ空間S1と排気室S2を仕切る隔壁20と、この隔壁20に設けられたアンブレラバルブ30(図2に示した本発明のアンブレラバルブ)とを備えてなる。
隔壁20には、ポンプ空間S1と排気室S2とを連通する流路孔21が複数形成されている。流路孔21の径(d)としては、例えば0.5〜2mmとされ、好ましく0.5〜1.5mmとされる。流路孔21の数としては、例えば3〜6個とされる。
アンブレラバルブ30は、その傘状部分31により、隔壁20に形成された流路孔21を塞ぐことができるように設けられている。
【0030】
ポンプ空間S1の圧力が、排気室S2内の圧力よりも高くなり、その圧力差が設定圧力に達すると、図4に示すように、アンブレラバルブ30の傘状部分31が、流路孔21の開口から離間して開弁状態となり、ポンプ空間S1内のガスは排気室S2に流動して正流(1次側から2次側への流れ)が確保される。一方、ポンプ空間S1の圧力が、排気室S2内の圧力よりも低くなっても、傘状部分31は、流路孔21を塞いだ状態(図3に示す状態)を維持するため、排気室S2内のガスがポンプ空間S1内に流動(逆流)することはない。
【0031】
図3および図4に示す逆止弁装置の設定圧力としては、50KPa以下であることが好ましく、更に好ましくは30KPa以下とされる。
このような低い圧力で作動する逆止弁装置は、応答性に優れているものの、アンブレラバルブ(傘状部分)と、隔壁との間の粘着力の影響を受けやすい。
従って、本発明により達成される非粘着性(粘着防止効果)は、このような設定圧力の低い精密小型の逆止弁装置において特に重要な意義を有する。
【0032】
なお、上記においては、ポンプ空間S1から排気室S2へのガスの流れのみを許容する逆止弁装置(第2の逆止弁装置)について説明したが、これと同一構造のものを、吸気室とポンプ空間との間に装着されて、吸気室からポンプ空間へのガスの流れのみを許容する逆止弁装置(第1の逆止弁装置)として使用することも勿論可能である。
【0033】
本発明のアンブレラバルブは、特定の処理剤により表面処理されている点に特徴を有し、これにより、優れた非粘着性(粘着防止効果)およびその安定性(粘着防止効果の耐久性)を発揮することができる。
【0034】
<特定の処理剤>
特定の処理剤は、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤と、これらを溶解する溶剤とを必須成分として含有する。
テトラアルコキシシランを示す上記式(1)において、R1 は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基を表す。ここに、テトラアルコキシシランの好適な具体例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)およびテトラエトキシシラン(TEOS)を挙げることができ、TEOSが特に好ましい。
【0035】
テトラアルコキシチタンを示す上記式(2)において、R2 は、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの炭素数2〜4のアルキル基を表す。ここに、テトラアルコキシチタンの好適な具体例としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラ−n−ブトキシチタンを挙げることができ、テトラエトキシチタンおよびテトライソプロポキシチタンが特に好ましい。
【0036】
シランカップリング剤を示す上記式(3)において、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数、好ましくは3であり、nは0〜5の整数、好ましくは0〜3の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。
【0037】
上記式(3)において、Si(OR3 m 4 3-m −で表される基は、少なくとも1個、好ましくは3個の加水分解性基(−OR3 )を有する。これにより、上記式(3)で示されるシランカップリング剤は、4個のアルコキシ基(−OR1 )を有するテトラアルコキシシラン、および4個のアルコキシ基(−OR2 )を有するテトラアルコキシチタンの何れとも反応することができる。
【0038】
ここに、Si(OR3 m 4 3-m −で表される基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0039】
また、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基(R5 )としては、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、ウレイド基などを挙げることができる。これらのうち、不飽和結合を有するゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するメルカプト基、不飽和結合を有しないゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するビニル基を好適なものとして挙げることができる。
【0040】
特定の処理剤を構成する溶剤としては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタンおよびシランカップリング剤の何れも溶解することができるものの中から選択することができ、これらの種類によっても異なるが、ヘキサン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、アセトンなどの有機溶剤を例示することができ、これらのうち、ヘキサン、メタノール、エタノール、ジクロロメタンおよびアセトンが好ましい。
【0041】
特定の処理剤には、その効果が損なわれない限度において、上記の必須成分以外に各種の任意成分が含有されていてもよい。
【0042】
特定の処理剤には、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤との反応(加水分解・縮合反応)を効率的に行わせて、架橋構造の形成を促進させる観点から、特定の処理剤は、酸性またはアルカリ性であることが好ましく、酸性(pHが6以下、特に2〜5)であることが特に好ましい。
【0043】
特定の処理剤を酸性とするために含有される酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよい。ここに、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などを挙げることができ、塩酸が好ましい。また、有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸などを挙げることができ、酢酸が好ましい。
また、特定の処理剤をアルカリ性とするために含有される塩基としては、アンモニア水および各種アミン類などを挙げることができる。
【0044】
特定の処理剤の必須成分であるテトラアルコキシシランの含有割合としては、組成物全体の0.5〜20質量%であることが好ましく、更に好ましくは2〜10質量%とされる。テトラアルコキシシランの含有割合は、主に溶剤の使用量を調整することによって、適宜の割合に調整することができる。
【0045】
特定の処理剤の必須成分であるテトラアルコキシチタンは、テトラアルコキシシランの含有量に対して1〜10質量%の割合で含有されていることが好ましく、更に好ましくは3〜10質量%、特に好ましくは6〜10質量%とされる。
【0046】
テトラアルコキシチタンの含有割合(テトラアルコキシシランに対する相対的な割合)が過小である場合には、得られる組成物により形成される表面処理層が、十分な粘着防止効果を発揮することができない。
一方、テトラアルコキシチタンの含有割合(テトラアルコキシシランに対する相対的な割合)が過大である場合には、得られる組成物が短時間で硬化してしまい、塗布性などの作業性が低下する。
【0047】
特定の処理剤の必須成分であるシランカップリング剤は、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンとの合計の含有量に対して0.1〜100質量%の割合で含有されていることが好ましく、更に好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1〜10質量%とされる。
【0048】
シランカップリング剤の含有割合(テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンの合計に対する相対的な割合)が過小である場合には、得られる組成物によって形成される表面処理層がアンブレラバルブを構成するゴムに対して十分な密着性を有するものとならない。
一方、シランカップリング剤の含有割合(テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンの合計に対する相対的な割合)が過大である場合には、得られる組成物による架橋構造の形成が不十分となり、アンブレラバルブの表面を完全に覆うこと(表面処理層の形成)が困難となる。
【0049】
特定の処理剤において、溶剤の含有割合としては、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンとシランカップリング剤との合計の含有量(質量)の3〜50倍であることが好ましく、更に好ましくは10〜30倍とされる。
【0050】
溶剤の含有割合が過小である場合には、得られる組成物により形成される表面処理層がアンブレラバルブを構成するゴムに対して十分な密着性を示さないことがある。一方、この割合が過大である場合には、得られる組成物に占めるテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタンおよびシランカップリング剤の割合が過小となって塗布効率の低下を招く。
【0051】
特定の処理剤は、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤と、任意成分とを溶剤に溶解させることにより容易に製造することができる。 なお、得られた組成物を室温下に長時間静置すると、構成成分(特に、テトラアルコキシシランおよびテトラアルコキシチタン)の縮合物が形成されて沈澱物を生じるおそれがある。このため、特定の処理剤は、製造後24時間以内に使用することが好ましく、また、使用前に十分に(例えば1〜6時間)攪拌して組成物の均質化を図ることが肝要である。また、必要に応じて、60〜70℃に加温してもよい。
【0052】
アンブレラバルブを構成するゴム(原料ゴム)としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、ウレタンゴム(AU,EU)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)などを例示することができ、これらのうち、エチレンプロピレンゴムが好ましい。
【0053】
アンブレラバルブ(ゴム基材)を表面処理する方法としては、当該アンブレラバルブに特定の処理剤を塗布し、当該処理剤による塗膜を加熱する方法を挙げることができる。
特定の処理剤の塗布方法としては、当該処理剤中に、アンブレラバルブを浸漬する浸漬法、刷毛やローラなどの塗布手段を使用する方法など特に制限されるものではない。
なお、処理剤の塗布後、アンブレラバルブの表面に形成された塗膜から溶剤を除去するために乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥条件としては、処理剤を構成する溶剤の種類および含有割合などによっても異なるが、例えば室温で1分間〜24時間とされ、好ましくは3分間〜1時間とされる。
塗膜の加熱方法は、特に制限されるものではなく、オーブンによる加熱などを例示することができる。加熱条件としては、例えば50〜150℃で5分間〜24時間とされ、好ましくは80〜120℃で10〜120分間とされる。
【0054】
アンブレラバルブの表面に形成された塗膜(特定の処理剤による塗膜)を加熱することにより、テトラアルコキシシラン(−OR1 )と、テトラアルコキシチタン(−OR2 )と、シランカップリング剤(−OR3 )との反応(加水分解・縮合反応)が進行し、Si−O結合およびTi−O結合による架橋構造を有する表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)が形成され、これにより、優れた非粘着性(粘着防止効果)を有するアンブレラバルブ(本発明のアンブレラバルブ)が得られる。ここに、表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)により発現される粘着防止効果は、シロキサン架橋構造を有する表面処理層(SiO2 系の被膜)により発現されるものよりも格段に優れている。
従って、本発明のアンブレラバルブにより構成される逆止弁装置(本発明の逆止弁装置)において、当該アンブレラバルブの傘状部分を隔壁部分に当接させた状態(閉弁状態)で一定時間(5分間以上)保持しても、当該傘状部分が隔壁部分に粘着するようなことはなく、正流によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させ、本発明の逆止弁装置を開弁させることができる。
【0055】
しかして、表面処理層を構成するSiO2 −TiO2 系の被膜、または、その形成過程(加水分解・縮合反応過程)における構造中には、シランカップリング剤に由来する反応性の有機官能基(−R5 )が導入されており、この有機官能基(−R5 )は、アンブレラバルブを構成するゴムのポリマー主鎖と反応する。これにより、最終的に形成される表面処理層は、シランカップリング剤を介して、当該ゴムのポリマー主鎖と化学的に結合することになる。このように、SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層と、ゴムのポリマー主鎖との間には、シランカップリング剤を介して化学的な結合が形成されるため、当該表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)は、アンブレラバルブを構成するゴムに対して強固に密着することができ、エアポンプの稼働時(逆止弁装置の開閉動作の繰り返し時)の衝撃などによって、当該表面処理層が脱離・飛散するようなことはなく、優れた粘着防止効果を長期にわたり安定的に発揮することができる。
従って、本発明のアンブレラバルブを備えてなるエアポンプを長期にわたり使用(稼働および停止)した後においても、再稼働時の正流(1次側から2次側への流れ)によって、当該傘状部分を隔壁部分から確実に離間させ、本発明の逆止弁装置を開弁させることができる。
【0056】
<エアポンプ>
図5は、本発明のエアポンプであるダイヤフラムポンプの構成を示す説明図である。
同図に示すダイヤフラムポンプは、樹脂製のハウジング1と;このハウジング1の内部を、1次側に連通する吸気室4、ダイアフラム7により体積が増減するポンプ空間5Aを含むポンプ室5、2次側に連通する排気室6に区画する樹脂製の隔壁20と;吸気室4とポンプ室5とを区切る隔壁20(20a)に形成された流路孔21を塞ぐことができるよう設けられたアンブレラバルブ30(本発明のアンブレラバルブ)を備え、吸気室4からポンプ空間5Aへのガスの流れのみを許容する第1の逆止弁装置と;ポンプ室5と排気室6とを区切る隔壁20(20b)に形成された流路孔21を塞ぐことができるよう設けられたアンブレラバルブ30(本発明のアンブレラバルブ)を備え、ポンプ空間5Aから排気室6へのガスの流れのみを許容する第2の逆止弁装置とを有してなる。
【0057】
図5に示すダイヤフラムポンプは、第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を構成するアンブレラバルブとして、特定の処理剤により表面処理された本発明のアンブレラバルブ30を備えている点に特徴を有している。それ以外の構成は、図1に示したものと同様である。
【0058】
ハウジング1を構成する樹脂としては特に限定されるものではなく、例えばポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
【0059】
隔壁20を構成する樹脂としても、特に限定されるものではなく、ハウジング1の構成材料と同一の樹脂を使用することが好ましい。
また、ハウジング1と隔壁20とが一体的に成形されていてもよい。
【0060】
ダイヤフラム7を構成するゴムとしては、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フロロシリコーンゴムなどを例示することができる。
【0061】
ダイヤフラムの駆動室5Bの内径(シリンダー径)としては、例えば15〜100mmとされ、好ましくは20〜50mmとされる。
また、ダイヤフラム7の中心部が固定されるピストン8の径(ピストン径)としては、例えば5〜90mmとされ、好ましくは8〜40mmとされる。
そして、ダイヤフラムの有効受圧面積は、例えば0.9〜70cm2 とされ、好ましくは1.0〜15cm2 とされる。
また、ダイヤフラム7の高さは、10mm以下であることが好ましい。
また、ダイヤフラム7のストロークとしては、例えば2〜20mmとされ、好ましくは2〜10mmとされる。
【0062】
本発明のアンブレラバルブ30を備えてなるダイヤフラムポンプによれば、一旦運転を停止した後に再度稼働させても、これを構成する第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を確実に作動させることができる。
しかも、長期にわたり使用(稼働および停止)した後においても、これを構成する逆止弁を確実に作動させることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0064】
〔作製例(アンブレラバルブの作製)〕
エチレンプロピレンゴム「JSR EP33」(ジェイエスアール(株)製)70.0質量部と、エチレンプロピレンゴム「JSR EP96」(ジェイエスアール(株)製)45.0質量部と、酸化亜鉛5.0質量部と、ステアリン酸1.0質量部と、FEFブラック90.0質量部と、パラフィン系プロセスオイル25.0質量部と、老化防止剤(TMDQ)1.0質量部と、老化防止剤(MBI)0.5質量部と、硫黄0.3質量部と、過酸化物加硫剤3.0質量部とを8インチロールによって混練し、得られた未加硫ゴム組成物を熱プレスを用いて加熱処理(160℃×30分間)することにより、図2に示したような形状のアンブレラバルブ〔高さ(T)=7.6mm,傘状部分の直径(D)=7.8mm〕を作製した。
【0065】
<実施例1>
(1)特定の処理剤の調製:
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシシラン(TEOS)0.40gと、テトライソプロポキシチタン0.004gと、シランカップリング剤「A−189」〔日本ユニカー(株)製〕0.01gと、塩酸(0.1N)0.05gとを、アセトン7.91gに添加し、この系を室温下に1時間攪拌することにより、特定の処理剤(TEOS濃度=約4.8質量%,テトライソプロポキシチタン濃度=約0.05質量%,シランカップリング剤濃度=約0.12質量%)を調製した。
【0066】
(2)アンブレラバルブの表面処理:
上記(1)により得られた特定の処理剤(1時間の攪拌操作の終了直後における処理剤)中に、作製例により得られたアンブレラバルブを室温下に3分間浸漬することにより、当該アンブレラバルブの表面に特定の処理剤を塗布した。次いで、当該アンブレラバルブを室温下に10分間放置して塗膜を乾燥させた後、100℃のオーブン内で60分間加熱処理することにより、本発明のアンブレラバルブ(SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層が形成されたアンブレラバルブ)を製造した。
【0067】
(3)リリーフ弁の製造:
上記(2)により表面処理されたアンブレラバルブを、第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる、図5に示したような構造を有する本発明のエアポンプを製造した。得られたエアポンプについての主要な仕様・諸元は下記のとおりである。
【0068】
(a)ハウジングの構成樹脂:ポリブチレンテレフタレート
(b)隔壁の構成樹脂:ポリブチレンテレフタレート(ハウジングと一体成形)
(c)シリンダー径(ダイヤフラムの駆動室の内径):30mm
(d)ピストン径:18mm
(e)ダイヤフラムの有効受圧面積:4.5cm2
(f)ダイヤフラムの高さ:8mm
(g)ダイヤフラムのストローク:6mm
(h)隔壁に形成された流路孔:直径1.0mm×6箇所
(i)ピストンの駆動源:50Hzの交流電流に接続した電磁石
(j)設定圧力:約25KPa
【0069】
<実施例2>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.012gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤(テトライソプロポキシチタン濃度=約0.14質量%)を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0070】
<実施例3>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.024gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤(テトライソプロポキシチタン濃度=約0.29質量%)を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0071】
<実施例4>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.032gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤(テトライソプロポキシチタン濃度=約0.38質量%)を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0072】
<実施例5>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.040gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤(テトライソプロポキシチタン濃度=約0.48質量%)を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0073】
<実施例6>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.024gに変更し、シランカップリング剤の使用量を0.02gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤(TEOS濃度=約4.8質量%,テトライソプロポキシチタン濃度=約0.29質量%,シランカップリング剤濃度=約0.24質量%)を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0074】
<実施例7>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンの使用量を0.012gに変更し、塩酸に代えてアンモニア水(NH3 =28〜30%)0.1gを添加したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の処理剤を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、本発明のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる本発明のエアポンプを製造した。
【0075】
<比較例1>
作製例で得られたアンブレラバルブ(表面処理されていないアンブレラバルブ)を第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなる比較用のエアポンプを製造した。
【0076】
<比較例2>
下記表1に示す処方に従って、テトライソプロポキシチタンを使用しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして処理剤を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、比較用のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなるエアポンプを製造した。
【0077】
<比較例3>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を使用しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして処理剤を調製し、この処理剤を塗布したこと以外は実施例1(2)と同様にして、比較用のアンブレラバルブを製造し、得られたアンブレラバルブを第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置の構成部材として備えてなるエアポンプを製造した。
【0078】
<評価実験1(エアポンプの耐久試験)>
実施例1〜7および比較例1〜3により製造したエアポンプの各々について、10秒間の稼働(このとき逆止弁装置は開閉動作を繰り返す)と、10分間の停止(このとき逆止弁装置は閉弁状態を維持する)とを1サイクルとして、1600サイクル(最多)の耐久試験を行って、再稼働時に第1の逆止弁装置および/または第2の逆止弁装置が作動しないことによってポンプが停止したときのサイクル数を測定した。結果を(100サイクル単位で)表1に示す。
【0079】
ここに、エアポンプの稼働時(10秒間)において、ダイヤフラムを変形させるためのピストンの往復回数は50回/秒とした。従って、第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を構成するアンブレラバルブの各々も1秒間で50回の開閉動作をしたことになる。 また、エアポンプの1次側を大気圧とし、2次側は25KPaの加圧状態とした。
【0080】
<評価実験2(アンブレラバルブの非粘着性)>
実施例1〜7および比較例2〜3により得られたアンブレラバルブ、並びに比較例1で使用するアンブレラバルブ(作製例で得られたアンブレラバルブ)の各々について、ステンレスに対する粘着力を測定した。
更に、これらのアンブレラバルブの各々を備えてなるエアポンプの耐久試験(評価実験1)を行った後(実施例1〜7に係るエアポンプにあっては1600サイクルの終了後、比較例1〜3に係るエアポンプにあっては、表1に示したサイクルの終了後)、再度ステンレスに対する粘着力を測定した。
測定方法は下記のとおりである。結果を表1に併せて示す。
【0081】
(粘着力の測定方法)
ステンレス板に形成された貫通孔にアンブレラバルブの軸部分を挿通し、その傘状部分をステンレス板の表面(貫通孔の周囲)に接触(接触面積≒0.42cm2 )させ、接触領域に10Nの荷重をかけた。
次いで、貫通孔に挿通された軸部分の先端部を、ステンレス板の裏面側から押圧して、アンブレラバルブの傘状部分をステンレス板から離間させた。このときの押圧力を測定することにより、単位面積あたりの粘着力を測定した。
【0082】

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のアンブレラバルブは、エアポンプの逆止弁装置の構成部材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】従来のエアポンプ(ダイヤフラムポンプ)の構成を示す説明図である。
【図2】本発明のアンブレラバルブの一部を破断して示す説明図である。
【図3】本発明のエアポンプ用逆止弁装置(閉弁状態)を示す断面図である。
【図4】本発明のエアポンプ用逆止弁装置(開弁状態)を示す断面図である。
【図5】本発明のエアポンプ(ダイヤフラムポンプ)の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1 ハウジング
20 隔壁
21 流路孔
30 アンブレラバルブ
31 傘状部分
32 拡径部
33 軸部分
4 吸気室
4p 吸気管
5 ポンプ室
5A ポンプ空間
5B ダイヤフラムの駆動室
6 排気室
6p 排気管
7 ダイヤフラム
8 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆止弁装置を構成するゴム製のアンブレラバルブであって、
式(1):Si(OR1 4 (式中、R1 は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシシランと、
式(2):Ti(OR2 4 (式中、R2 は、炭素数2〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシチタンと、
式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 (式中、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数であり、nは0〜5の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。)で示されるシランカップリング剤と、
これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤により処理されているアンブレラバルブ。
【請求項2】
前記表面処理剤に含有されているテトラアルコキシシランが、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランであり、テトラアルコキシチタンが、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラ−n−ブトキシチタンから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のアンブレラバルブ。
【請求項3】
前記表面処理剤が、酸または塩基を含有する請求項1または請求項2に記載のアンブレラバルブ。
【請求項4】
前記表面処理剤が、テトラエトキシシランと、テトラエトキシチタンまたはテトライソプロポキシチタンと、シランカップリング剤と、酸または塩基と、有機溶剤とを含有する請求項1に記載のアンブレラバルブ。
【請求項5】
前記表面処理剤が、テトラアルコキシシランの含有量に対して1〜10質量%のテトラアルコキシチタンを含有する請求項1乃至請求項4の何れかに記載のアンブレラバルブ。
【請求項6】
前記表面処理剤が、テトラアルコキシシランの含有量に対して3〜10質量%のテトラアルコキシチタンを含有する請求項1乃至請求項4の何れかに記載のアンブレラバルブ。
【請求項7】
ピストンまたはダイアフラムにより体積が増減するポンプ空間に連通する流路孔が形成された隔壁と、前記流路孔を塞ぐことができるよう前記隔壁に設けられたアンブレラバルブとを備え、前記ポンプ空間の圧力に応じて前記アンブレラバルブが変形することにより前記流路孔を開閉するエアポンプ用逆止弁装置であって、
前記アンブレラバルブが、請求項1乃至請求項6の何れかに記載のアンブレラバルブであるエアポンプ用逆止弁装置。
【請求項8】
50KPa以下の圧力において作動する請求項7に記載のエアポンプ用逆止弁装置。
【請求項9】
ハウジングと、
このハウジングの内部を、1次側に連通する吸気室、ピストンまたはダイアフラムにより体積が増減するポンプ空間を含むポンプ室、2次側に連通する排気室に区画する隔壁と、
前記吸気室と前記ポンプ室とを区切る隔壁に設けられたアンブレラバルブを備え、当該吸気室から前記ポンプ空間へのガスの流れのみを許容する第1の逆止弁装置と、
前記ポンプ室と前記排気室とを区切る隔壁に設けられたアンブレラバルブを備え、前記ポンプ空間から当該排気室へのガスの流れのみを許容する第2の逆止弁装置とを有してなり、
第1の逆止弁装置および第2の逆止弁装置を構成するアンブレラバルブが、請求項1乃至請求項6の何れかに記載のアンブレラバルブであるエアポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266414(P2006−266414A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86586(P2005−86586)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】