説明

アンモニア分解触媒、及びアンモニアの分解方法

【課題】アンモニアガスを効率よく分解するための新規なアンモニア分解触媒、アンモニアの分解方法及びアンモニア分解反応装置を提供する。
【解決手段】スピネル構造を有し、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素A、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素B(ただし、元素Aと元素Bは異なる元素である。)、及び酸素を構成元素とする複合酸化物を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアガスを効率よく分解するための新規なアンモニア分解触媒、アンモニアの分解方法、及びアンモニア分解反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公害防止や環境破壊の観点から、アンモニア分解触媒は古くから研究や開発がなされ、例えば、各種排ガス中に含まれる有害なアンモニアを水と窒素に分解するアンモニア分解触媒や、また水素と窒素とに分解するアンモニア分解触媒が知られている。
一方で、エネルギーの観点から、水素/空気燃料電池は将来のクリーンなエネルギー源として有望視されている。この燃料電池の燃料として使用される水素をアンモニアから生成する試みがなされ、アンモニアから水素と窒素を高転化率で得ることが期待されている。
【0003】
従来、アンモニアを水素と窒素とに分解する方法や触媒としては、以下の技術が知られている。
(1)アルミナなどの無機質担体にニッケル、鉄、パラジウム、白金またはルテニウムを担持した触媒を使用し、加熱下でアンモニアを接触させ、水素と窒素とに分解する方法(特許文献1参照)。
(2)アルミナなどの無機質担体にニッケル−ランタン−白金族(白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムなど)を担持した触媒を使用し、加熱下でアンモニアを接触させ、水素と窒素とに分解する方法(特許文献2参照)。
(3)無機質担体であるMn−Cu系の複合酸化物やMn−Fe系の複合酸化物にルテニウム化合物を担持した触媒を使用し、加熱下でアンモニアを接触させ、水素と窒素とに分解する方法(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、このような従来のアンモニア分解触媒は、無機質担体を製造し、さらに、この無機質担体に触媒作用として機能する、いわゆる活性種となる金属を別途に担持せしめたものであるために、製造方法が複雑である。また、無機質担体に活性種となる金属を均一に分散し、担持させることは難しく、触媒としての充分な機能が発揮し難いものであった。
【0005】
また、担持触媒としての白金族はアンモニアの分解に際して高活性を示すが、貴金属なので高価であり、コストの面で課題であった。また、低温での使用条件では活性が不充分であり、高温での使用条件においては触媒のシンタリングによる性能の劣化が問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−84910号公報
【特許文献2】特開平5−329372号公報
【特許文献3】特開2002−79104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高価な白金族を用いず、触媒活性種を無機質担体に担持せしめなくても極めて高い触媒活性を有する新規なアンモニア分解触媒、および該触媒を用いたアンモニアの分解方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の元素の組み合わせを含むスピネル構造を有する複合酸化物、及び該複合酸化物を気相下に還元してなる触媒が上記目的を達成できることを見出した。その原理はまだ明らかになっていないが、スピネル構造を有する複合酸化物では、特定の金属元素同士が均一に結晶のレベルで分散した状態とすることができ、アンモニア分解反応に有効な距離に分散しているために高活性のアンモニア分解触媒を得ることができたものと思われる。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、以下の構成を要旨とするものである。
(1)スピネル構造を有し、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素A、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素B(ただし、元素Aと元素Bは異なる元素である。)、及び酸素を構成元素とする複合酸化物を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒。
(2)前記複合酸化物が、一般式AB24(ただし、AはMg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、BはMn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表わされる、(1)に記載のアンモニア分解触媒。
(3)前記複合酸化物が、Co−Fe系複合酸化物、Ni−Mn系複合酸化物、Co−Mn系複合酸化物またはMg−Fe系複合酸化物からなる(1)又は(2)に記載のアンモニア分解触媒。
(4)前記複合酸化物を還元ガスで還元処理してなる(1)〜(3)のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のスピネル構造を有する複合酸化物と、少なくとも該複合酸化物を構成する金属元素の単体金属、その金属元素の合金、又はその金属元素の酸化物のいずれか1種とを含有する、アンモニア分解触媒。
【0009】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のアンモニア分解触媒の存在下でアンモニアを分解することを特徴とするアンモニア分解方法。
(7)分解温度が300℃〜700℃である、(6)に記載のアンモニア分解方法。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を使用することを特徴とするアンモニア分解反応装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高価な白金族を用いず、触媒活性種を無機質担体に担持せしめなくても極めて高い触媒活性を有する安価なアンモニア分解能を示す触媒が提供される。
また、本発明によれば、かかる触媒を使用することにより、熱耐久性が高く高温においてもシンタリングによる触媒性能の劣化が起こらず、アンモニアを水と窒素に効率良く分解する方法、或いは、アンモニアから燃料電池用の水素と窒素とを効率的に製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アンモニア分解反応装置
【図2】アンモニア分解反応用触媒反応管
【図3】実施例1のCo−Fe複合酸化物のX線回折スペクトル
【図4】実施例1のCo−Fe複合酸化物の還元処理後のX線回折スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアンモニア分解触媒における複合酸化物は、スピネル構造を有し、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素A、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素B(ただし、元素Aと元素Bは異なる元素である。)、及び酸素を構成元素とする複合酸化物を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒である。
【0013】
本願においてスピネル構造とは、空間群Fd3mに属し、その空間群の酸素サイトである32eサイトのつくる正四面体型4配位空間である8aサイト及び正八面体型6配位空間である16dサイトが、A元素又はB元素で占有された結晶構造をいう。ここで、32eサイトの一部には欠損が存在していても構わない。
【0014】
前記複合酸化物は、一般式AB24(ただし、AはMg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、BはMn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される。
元素Aとしては、Mg、Mn、Co、Feが好ましい。特にCoが好ましい。B元素としては、Mn、Fe、Co、Niが好ましく、特にFeが好ましい。
また、本願においてスピネル構造とは基本的には一般式AB24で表されるが、Aサイトの元素の一部とBサイトの元素の一部が相互に置換していても良く、その酸素の組成は複合酸化物が電気的中性を保つように、欠損していても良いし、又は過剰量存在していても良い。その欠損量または過剰量をδとすると、δはスピネル構造を維持できる量であれば特に限定されないが、−0.05≦δ≦0.05であるのが好ましい。
【0015】
本発明の複合酸化物が、スピネル構造である場合は、一般式AB24で表わされるのが好ましい。本発明の複合酸化物における元素Aと元素Bの組み合わせとしては、Co−Fe,Ni−Fe,Co−Mn,Ni−Mn,Fe−Mn,Mg−Fe,Mg−Co,又はMg−Niが好ましい。
本発明のより好ましい複合酸化物としては、CoFe、FeCo、MnCo、MnNi、MgFeを例示することができる。
本発明では、これらの複合酸化物は、上記各金属元素の炭酸塩、塩基性炭酸塩、有機酸塩、又は水酸化物の共沈体、又はそれらの混合物を有機酸と水溶液または有機溶媒中で反応させて得られる複合有機酸塩を、乾燥し、焼成することにより得られる。
【0016】
本発明におけるスピネル構造を有する複合酸化物は、既知方法で製造でき、特に、構成元素の均質性の観点からクエン酸法で製造するのが好ましい。クエン酸法は、上記各金属元素の炭酸塩、塩基性炭酸塩、有機酸塩、又は水酸化物の共沈体、又はそれらの混合物を有機酸と水溶液または有機溶媒中で反応させて得られる複合有機酸塩を、乾燥し、焼成する方法である。
【0017】
上記有機酸としては、多塩基性の有機酸が好ましく、例えば、クエン酸、ギ酸、又は酢酸がより好ましく、なかでもクエン酸がその金属塩の水への溶解度を高くできるので更に好ましい。
複合有機酸塩を使用する場合は、400〜700℃、好ましくは500〜600℃,4〜24時間、好ましくは6〜12時間で酸素含有雰囲気、好ましくは大気中で仮焼成し、必要に応じて粉砕し、焼成することが好ましい。
【0018】
焼成は、酸素含有雰囲気、好ましくは大気中で、800〜1400℃、好ましくは900〜1100℃で4〜24時間、好ましくは6〜12時間行う。焼成後、得られた複合酸化物をボールミル、ジェットミル等で粉砕して、粒度及び比表面積を制御してもよい。
【0019】
上記複合酸化物は、好ましくは気相法で還元処理を行ってアンモニア分解反応に用いるのが好ましい。還元処理は、複合酸化物を、還元性のガスの雰囲気に暴露することにより行うのが好ましい。還元性のガスとしては、水素ガス、アンモニアガス、ヒドラジンガス、一酸化炭素等が挙げられるが、なかでも水素ガスが安価であり、還元力も高く好ましい。
還元性ガスは、それだけで使用することが好ましいが、不活性ガスと混合して用いても良い。その場合の混合ガス中の還元性ガス濃度は3〜100体積%が好ましい。また、還元性ガスはアンモニアガスを用いても良い。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン又はヘリウムが好ましいが、なかでも窒素ガス又はアルゴンガスが好ましい。
【0020】
複合酸化物と還元性ガスの還元処理時間は30分以上が好ましく、1〜2時間がより好ましい。また、還元反応の温度は、300℃以上が好ましく、300〜700℃がより好ましい。還元処理方法は、例えば、97パーセントAr+3パーセントHの還元性ガス下で上記アンモニア分解用触媒を1時間600℃で熱処理することで行う。またアンモニア気流中、400〜900℃で、直接還元処理を行うこともできる。
【0021】
上記複合酸化物は還元処理を行うことにより、アンモニアガスの分解やアンモニアガスから水素と窒素との生成をより高転化率で行うことができる。これは、複合酸化物中に活性点を析出させ、元素A及び/又は元素Bの金属の粒子が複合酸化物粒子中に分散された状態で形成されるためと思われる。
還元性ガスにより還元処理された複合酸化物は、スピネル構造を有する複合酸化物と、少なくとも該複合酸化物を構成する金属元素の単体金属、その金属元素の合金、又はその金属元素の酸化物のいずれか1種とを含有するが、特に、還元処理後に含まれる元素A及び元素Bの単独金属または合金の合計原子数が、還元処理前の複合酸化物中の元素A及び元素Bの合計原子数の1〜90%であるのが好ましい。
【0022】
本発明のアンモニア分解触媒は、上記した元素A又は元素Bを含むスピネル構造を有する複合酸化物を含有するが、これに加えて、該複合酸化物を構成する金属元素の単体金属、その金属の合金、および、その金属の酸化物の1種以上を含有することができる。
かかる場合、上記の金属元素の単体金属、その金属の合金、および、その金属の酸化物は、それぞれ、3〜90%、3〜90%、0〜90%含有することが好ましい。
【0023】
本発明の上記複合酸化物を含むアンモニア分解触媒は、高活性であるので、既知のアルミナ、シリカ、ムライト等の無機担体を用いなくても使用できるが、必要に応じて無機担体を用いてもよい。無機担体への本発明のアンモニア触媒の担持方法は、特に限定されず、既知の担持方法が採用される。無機担体に担持する場合、担持触媒中の本発明のアンモニア触媒の担持量は10質量%以上が好ましい。
本発明のアンモニア分解触媒は、粒状、造粒状、ペレット状、円柱状等の種々の形状が採用できる。
【0024】
本発明のアンモニア分解触媒は、BET比表面積は1.5〜8.0m/gであるのが好ましい。また、平均粒子径(D50)は1.5〜15μmが好ましく、1.0〜10μmがより好ましい。ペレット状である場合は、直径が3〜10mm、厚み1〜3mmであるのが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー散乱式粒度分布計で測定することができる。
【0025】
本発明のアンモニア分解触媒を用いることによりアンモニアを分解することができる。アンモニアの分解は、公害防止などの観点から、有害物としてのアンモニアを水素と窒素に分解する場合や、エネルギー源としての水素製造の観点からアンモニアを分解して水素と窒素を製造する場合のいずれにも使用される。
本発明におけるアンモニア分解触媒を用いるアンモニアの分解反応は、温度が300〜900℃であるのが好ましく、400〜600℃がより好ましい。分解反応の温度が低い場合にはNOxなどの窒素酸化物が副生されるが、本発明のアンモニア分解触媒は低い温度でも高い活性を有するので、窒素酸化物の副生を抑制できるので好ましい。アンモニアの体積空間速度は1000〜15000h−1であるのが好ましく、3000〜12000h−1であるのがより好ましい。アンモニアの分解時の圧力は、適宜調整することができ、常圧以下であるのがより好ましく、常圧であるのが特に好ましい。
【0026】
アンモニア分解反応の反応装置の形式に特に制限はないがバッチ式、連続式のいずれの装置も使用し得るが、連続式が効率が良く、量産性が良いので好ましい。また、固定床方式、又は流動床方式のいずれも採用できるが、固定床方式が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0028】
実施例1
Co:Feが原子比で1:2となるように、即ち炭酸コバルトを(Coとして45.520wt%)53.36gとクエン酸鉄(Feとして18.510wt%)248.70gを秤量し、純水1Lに分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。
得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後、電気炉内でそのまま徐冷した。サンプルミルで解砕して大気中で、900℃で6時間焼成した。その結果、90gの複合酸化物を得た。その後、ボールミルで粉砕を40時間行い粒度、及びBET比表面積を測定した。粒度分布測定にはHORIBA社製 レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LASER SCATTERING PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ANALTZER)LA−920を用い、BET比表面積測定にはMOUNTECH社製 全自動比表面積計(Auto surface Area Analyzer)Macsorb model−1208を用いた。その結果、平均粒径D50は9.42μm、比表面積は2.5m/gであった。
【0029】
この複合酸化物粉末をCu−Kα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)により構造解析し、図3に示すように立方晶スピネル構造に帰属できる回折ピークを確認した。
原料仕込み組成及びX線回折スペクトルより、この複合酸化物は、スピネル構造のCoFeOであることが分かった。
【0030】
ガラス製のアンモニア分解反応筒(1)(図2、参照、内径4mm、長さ180mm)にシリカウール(2)を詰め、その上に上記複合酸化物粉末(3)0.1gを充填した。更にそれをシリカウール(4)ではさんだ。そのアンモニア分解反応筒(1)を試験管(5)につないで電気炉(6)に入れ、600℃に設定した。(図1参照)
【0031】
アンモニア分解反応筒(1)に97%Ar+3%Hガスを約1時間流し、還元処理を行ったあとNHガスとArガスをマスフローコントローラーを用いて流量を調整し、アンモニア分解反応筒へ供給した。空間速度は4800h−1であった。
【0032】
アンモニア分解能力の測定方法は触媒が充填されている反応筒の後に吸収びん(7)を設置し、未反応のアンモニアガスを吸収させた後、アンモニア以外のガス出口流量を測定することで、窒素及び水素への転化率を下記式を用いて測定した。出口ではGC/MS(AMETEK社 ProLine Mass Spectrometer)で窒素と水素が生成し、それ以外の成分は副生していなことを確認した。
アンモニアの転化率は表1に示すように100%であった。
【0033】
【数1】

【0034】
また、別の実験で、97%Ar+3%Hガスを600℃で1時間流し、上記複合酸化物粉末の還元処理を行ったあと、アンモニアガスを流さずに、反応筒を解体して、還元処理を行った後の粉末を取り出し、粉末X線回折測定を行い、図4に示すX線回折スペクトルを得た。
【0035】
図4より、還元処理後に新たにCo金属、Co−Fe合金、及びCoOに帰属されるスペクトルが観察されることが分かった。図3および図4より、還元処理によって、もとの複合酸化物中の元素AおよびBが、還元されてCo金属、Fe金属及びCoOに転化していることがわかった。
【0036】
実施例2
Co:Feが原子比で2:1となるように、即ち、炭酸コバルト(Coとして45.520wt%)105.38g、クエン酸鉄(Feとして18.510wt%)122.79gを秤量し、純水1Lに分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後、電気炉内でそのまま徐冷した。サンプルミルで解砕して大気中で、900℃で6時間焼成した。
【0037】
その後、ボールミルで粉砕を行い粒度、及びBET比表面積を測定した。実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。原料仕込み組成と、X線回折スペクトルから、生成物は、立方晶スピネル構造を有するFeCoであることが分かった。平均粒径D50は1.81μm、比表面積は3.7m/gであった。以下実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。反応温度は600℃、空間速度は4500h−1であった。その結果、がアンモニアの転化率は表1に示すように84%であった。
【0038】
実施例3
Ni:Mnが原子比で2:1となるように、即ち、炭酸ニッケル(Niとして29.690wt%)173.16g、炭酸マンガン(Mnとして44.35wt%)54.25gを秤量し、純水1Lに分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後、電気炉内でそのまま徐冷した。サンプルミルで解砕して大気中で、900℃で6時間焼成した。
【0039】
その後、ボールミルで粉砕を行い粒度、及びBET比表面積を測定した。実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。原料仕込み組成と、X線回折スペクトルから、生成物は、立方晶スピネル構造を有するMnNiであることが分かった。平均粒径D50は1.4μm、比表面積は3.1m/gであった。以下実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。反応温度は600℃、空間速度は2900h−1であった。その結果アンモニアの転化率は表1に示すように93%であった。
【0040】
実施例4
Co:Mnが原子比で2:1となるように、即ち、炭酸コバルト(Coとして45.520wt%)105.77g、炭酸マンガン(Mnとして44.35wt%)50.60gを秤量し、純水1Lに分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後、電気炉内でそのまま徐冷した。サンプルミルで解砕して大気中で、900℃で6時間焼成した。
【0041】
その後、ボールミルで粉砕を行い粒度、及びBET比表面積を測定した。実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。原料仕込み組成と、X線回折スペクトルから、生成物は、立方晶スピネル構造を有するMnCo4であることが分かった。平均粒径D50は1.8μm、比表面積は1.9m/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。反応温度は600℃、空間速度は5200h−1であった。その結果アンモニアの転化率は表1に示すように77%であった。
【0042】
実施例5
Mg:Feが原子比で1:2となるように、即ち、炭酸マグネシウム(Mgとして25.20wt%)48.23g、クエン酸鉄(Feとして18.510wt%)301.71gを秤量し、純水1Lに分散させた。その溶液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を大気中で、600℃、6時間仮焼した後、電気炉内でそのまま徐冷した。サンプルミルで解砕して大気中で、900℃で6時間焼成した。
【0043】
その後、ボールミルで粉砕を行い粒度、及びBET比表面積を測定した。実施例1と同様にX線回折スペクトルを測定した。原料仕込み組成と、X線回折スペクトルから、生成物は、立方晶スピネル構造を有するMgFe4であることが分かった。平均粒径D50は2.4μm、比表面積は2.8m/gであった。以下、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。反応温度は600℃、空間速度は3500h−1であった。その結果、アンモニアの転化率は表1に示すように76%であった。
【0044】
比較例1
アルミナ(高純度化学研究所 比表面積 92.63m/g)に対して5wt%のルテニウムとなるように塩化ルテニウムを溶解させた溶液にアルミナを含浸させた後、600℃で焼成し、ルテニウムを担持したアルミナを得た。
実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は2.8μmであり、BET比表面積は85.6m/gであった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度1800h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は100%であった。
【0045】
比較例2
クエン酸鉄(鉄として18.510wt%)を900℃で6時間焼成し、酸化鉄(II,IIII)(Fe)を得た。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は1.93μmであり、BET比表面積は5.8m/gであった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度2700h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は63%であった。
【0046】
比較例3
炭酸コバルト(コバルトとして50.900wt%)を600℃で6時間焼成し、四酸化三コバルト(Co)を得た。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は1.10μmであり、BET比表面積は4.0m/gであった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度4800h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は62%であった。
【0047】
比較例4
アルミナ(高純度化学研究所 比表面積 92.63m/g)に対して5wt%の鉄となるように塩化鉄を溶解させた溶液にアルミナを含浸させた後、600℃で焼成し、鉄を担持したアルミナを得た。
実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は2.4μmであった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度2200h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は45%であった。
【0048】
比較例5
アルミナ(高純度化学研究所 比表面積 92.63m/g)に対して5wt%のコバルトとなるように炭酸コバルトを溶解させた溶液にアルミナを含浸させた後、600℃で焼成し、鉄を担持したアルミナを得た。
実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は2.16μmであり、BET比表面積は74.0m/gであった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度2100h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は36%であった。
【0049】
比較例6
比較例2での酸化鉄(II,III)に対して25wt%のコバルトとなるように炭酸コバルトを溶解させた溶液に比較例2で作成した酸化鉄(II,III)を含浸させた後、600℃で焼成し、コバルトを担持した酸化鉄(II,III)を得た。
アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度5600h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は11%であった。
【0050】
比較例7
Zn:Coが原子比で1:2となるように、即ち、炭酸亜鉛(Znとして58.57wt%)45.15g、炭酸コバルト(Coとして50.900wt%)93.65gを秤量し、純水1Lに分散させた。その分散液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を600℃で6時間仮焼した後、サンプルミルで解砕して、大気中で900℃6時間焼成した。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は1.19μmであり、BET比表面積は6.4m/gであった。X線回折スペクトルから、生成物は、スピネル構造を有することが分かった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度5300h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は36%であった。
【0051】
比較例8
Zn:Feが原子比で1:2となるように、即ち、炭酸亜鉛(Znとして58.57wt%)46.31g、クエン酸鉄(Feとして18.510wt%)250.29gを秤量し、純水1Lに分散させた。その分散液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を600℃で6時間仮焼した後、サンプルミルで解砕して、大気中で900℃6時間焼成した。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は1.85μmであり、BET比表面積は1.8m/gであった。X線回折スペクトルから、生成物は、スピネル構造を有することが分かった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度4500h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は38%であった。
【0052】
比較例9
ランタン:コバルト:鉄が原子比で1:0.5:0.5となるように、即ち、酸化ランタン(Laとして84.915wt%)40.18g、炭酸コバルト(Coとして45.700wt%)15.84g、クエン酸鉄(鉄として8.020wt%)85.51gを秤量し、純水1Lに分散させた。その分散液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を600℃で6時間仮焼した後、サンプルミルで解砕して、大気中で900℃6時間焼成した。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は0.53μmであり、BET比表面積は0.26m/gであった。X線回折スペクトルから、生成物は、ペロブスカイト型構造を有することが分かった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度12000h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は12%であった。
【0053】
比較例10
ランタン:コバルト:鉄:ニッケルが原子比で1:0.33:0.33:0.33となるように、即ち、酸化ランタン(Laとして84.915wt%)67.80g、炭酸コバルト(Coとして45.700wt%)17.64g、クエン酸鉄(鉄として8.020wt%)95.24g、炭酸ニッケル(ニッケルとして29.980wt%)27.05gを秤量し、純水1Lに分散させた。その分散液に全金属イオンが錯体を形成するのに必要なクエン酸を加え65±5℃で反応させた。反応終了後、得られた溶液を90℃で乾燥し、複合クエン酸塩を得た。得られた複合クエン酸塩を600℃で6時間仮焼した後、サンプルミルで解砕して、大気中で900℃6時間焼成した。実施例1と同様にして測定した平均粒径D50は0.89μmであり、BET比表面積は3.8m/gであった。X線回折スペクトルから、生成物は、ペロブスカイト型構造を有することが分かった。アンモニアガスとアルゴンガスの混合ガスの流量を空間速度3500h−1となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解評価を行った。その結果、転化率は42%であった。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に実施例と比較例の触媒評価の結果を示す。実施例1および実施例2において、本発明のCo−Fe系触媒の評価結果を示す。600℃という低温で転化率80%以上を示した。
実施例3のNi−Mn系触媒の転化率は93%と非常に高い値を示した。実施例4のCo−Mn系触媒は77%と比較的高い値を示した。実施例5のMg−Fe系触媒は金属の単純酸化物であるAlにFeやCoを担持した比較例4や比較例5の転化率より高い値を示した。以上の結果より、本発明のアンモニア分解触媒は高いアンモニア分解能を有していることが分かる。
比較例1(特開平8−84910号)記載の触媒であり、従来知られている白金族であるRuを無機質担体に担持したものは、600℃において100%の転化率を示した。しかし、Ruが非常に高価であるため実機への搭載は難しい。
【0056】
次に、比較例2、3において活性金属の単純酸化物を評価したが、転化率は63%、62%と比較的低い結果となった。比較例4、比較例5および比較例6において、本発明の活性金属種であると考えられる金属を無機質担体に担持した。しかしながら、その転化率は、それぞれ45%、36%、11%という低い結果となった。このことは金属活性種を単純酸化物である無機質担体に担持したのではアンモニアの分解に大きな効果を示さないことを示している。
【0057】
比較例7、8は鉄もしくはコバルト一方のみで構成したスピネル複合酸化物触媒であるが、転化率はどちらも低い結果となっている。これより、鉄とコバルトのどちらかを含有するスピネル構造触媒でも高転化率は得られないことがわかり、鉄とコバルトの両方がアンモニア分解反応に必要であることが示唆される。比較例9、10では鉄とコバルトを含有し、スピネル構造ではないペロブスカイト型構造をもつ複合酸化物を評価したが、いずれも転化率は低い結果となった。還元処理後のペロブスカイト触媒の相構造を観察すると還元処理前とほとんど変わらず、有効に活性金属種を生成できていない。
このことからスピネル構造を持つことが還元処理において活性金属種を析出させるのに適当な酸素不安定性を与えていることが示唆され、スピネル構造がアンモニア分解特性に重要であることがわかる。
【0058】
比較例1〜10の結果より活性種と考えられる鉄とコバルトのどちらかを含有、もしくはスピネル構造を有するだけではアンモニア分解に活性な触媒は得られず、本発明の触媒である特定の元素の組み合わせを含有し、スピネル構造を有することがアンモニア分解に活性な触媒を得るための鍵となっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のアンモニア分解触媒は、有害なアンモニアを水と窒素に効率良く分解する場合や、アンモニアから燃料電池用の水素と窒素とを効率的に製造する場合などのアンモニアの分解に広く利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1・・・アンモニア分解反応筒
2・・・シリカウール
3・・・複合酸化物粉末
4・・・シリカウール
5・・・試験管
6・・・電気炉
7・・・吸収びん

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有し、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素A、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素B(ただし、元素Aと元素Bは異なる元素である。)、及び酸素を構成元素とする複合酸化物を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物が、一般式AB24(ただし、AはMg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、BはMn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表わされる、請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物が、Co−Fe系複合酸化物、Ni−Mn系複合酸化物、Co−Mn系複合酸化物またはMg−Fe系複合酸化物からなる請求項1又は請求項2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物を還元ガスで還元処理してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のスピネル構造を有する複合酸化物と、少なくとも該複合酸化物を構成する金属元素の単体金属、その金属元素の合金、又はその金属元素の酸化物のいずれか1種とを含有する、アンモニア分解触媒。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒の存在下でアンモニアを分解することを特徴とするアンモニア分解方法。
【請求項7】
分解温度が300℃〜700℃である、請求項6に記載のアンモニア分解方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒を使用することを特徴とするアンモニア分解反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−78947(P2011−78947A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235590(P2009−235590)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】