説明

アーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置

【課題】アーチ橋,高橋脚,斜張橋や吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置を提供する。
【解決手段】横ずれせず,浮き上がりや元の位置への接地がスムーズになるテーパー付きのガイド機構をもつ水平移動制限装置を柱やアーチリブの外部に取り入れる。軸降伏型ダンパーを柱基部の軸線方向に取り付けられないことを改善するために,水平移動制限装置にはダンパーを柱基部の軸線方向に取り付けるための穴ならびに空間を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アーチ橋,高橋脚,斜張橋や吊り橋主塔等に用いる耐震性能の向上方法として我が国では下記非特許文献1〜3のダンパーを柱やアーチリブのブレースに用いた構造が多く用いられる。
また、柱基部の浮き上がりを利用した制震・免震技術は国内では非特許文献4、海外では非特許文献5及び6にわずかに見られるが,アーチリブ基部の浮き上がりを利用したものは皆無である。
【0003】
【非特許文献1】宇佐美勉,葛漢彬,日沖賢治,路志浩,河野豪:制震ダンパーによるアーチ橋の耐震性向上−橋軸直角方向地震動に対する検討−,土木学会論文集,No.766/I-68,pp.245-261,2004.
【非特許文献2】森下邦宏,井上幸一,川島一彦,阿比留久徳,平井潤,本田誠:ダンパーブレースを組み込んだ上路式アーチ橋部分構造の動的地震応答実験,土木学会論文集,No.766/I-68,pp.277-290,2004.
【非特許文献3】福田智之,川島一彦,渡辺学歩:ブレースダンパーによる鋼製アーチ橋の地震応答の低減効果,構造工学論文集vol.51A,pp.847-858,2005.
【非特許文献4】緑川光正,小豆畑達哉,石原直,和田章:地震応答低減のためベースプレートを浮き上がり降伏させた鉄骨架構の動的挙動,日本建築学会構造系論文集第572号,pp.97-104,2003.
【非特許文献5】R.I.スキナー,W.H.ロビンソン,G.H.マックベリー(川島一彦,北川良和 訳):免震設計入門,鹿島出版会,1996.
【非特許文献6】Pollino,M.,Bruneau,M.,:Seismic Retrofit of Bridge Steel Truss Pier Anchorage Connections,Proc. Second New York City Bridge Conference,New York City,October 2003.
【非特許文献7】道路橋示方書・同解説I 共通編II鋼橋編,日本道路協会2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1〜3に記載の方法においては、ダンパーの設置に高所作業が必要であり、工期・工費が多くなる。また、損傷したダンパーの取り替えには高所作業にくわえて支保工が必要であることや損傷により生じた構造全体の変形の矯正などが困難であることなどの重大な問題点がある。
【0005】
非特許文献4は、柱のベースプレートの塑性化によるエネルギー吸収を利用するものである。この構造は建築構造に用いるもので橋梁のような大型の土木構造へは作用力の大きさから適用できない。また、損傷したベースプレートの交換が容易でなく、復旧に時間がかかり、公共性の高い土木構造物への適用は適当ではない。
【0006】
非特許文献5は、コンクリート製橋脚に適用が限定され、しかも既設橋脚への適用は不可能である。
【0007】
非特許文献6は、橋梁に用いるもので、ここで提案する構造に近いが以下のような問題がある。
【0008】
基部での水平方向の拘束がないため柱基部のスムーズな浮き上がりや元の位置への接地ができない。すなわち、柱基部が浮き上がった場合、作用する水平力により横滑りし、ダンパーならびに基部は崩壊する可能性がある。さらに、破壊しない場合も柱基部は接地時に横方向にずれ、もとの位置に戻らず、ダンパーや支承部に損傷を与える。
【0009】
また、柱基部の軸線方向の運動エネルギーを吸収するためのダンパーは本来ならば、運動方向に設置するのが効率的であるが、取り付け部の構造の制限により斜めに設置されている。このため、ダンパーの作用効率が悪くなるとともに柱基部により大きな偏心力が作用し、ダンパーの設計が不経済になる。
【0010】
上記従来の技術では柱基部の浮き上がりや元の位置への接地をスムーズにできないこと、浮き上がり時に柱基部が横滑りしダンパーならびに基部が崩壊する可能性があること、接地時に横にずれ支承部に損傷を与えるとともにダンパーを柱基部の軸線方向に取り付けられないという問題がある。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものでありアーチ橋,高橋脚,斜張橋や吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、柱やアーチリブ基部の浮き上がりと接地をスムーズに行う機構と浮き上がり時の水平方向の変位を拘束する免震機構を備えていることを特徴とする。
【0013】
第2発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、浮き上がりを許容した柱基部と基礎の間に軸降伏型金属ダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線に平行配置し,効率的に浮き上がり量を制御するとともに運動エネルギーを吸収する耐震機構を備えていることを特徴とする。
【0014】
第3発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、柱やアーチリブ基部が浮き上がったあと元に戻るとき,柱やアーチリブ基部がフーチングへ衝突するのを軸降伏型金属ダンパーの抵抗とエネルギー吸収で防止する免震・制震機構を備えていることを特徴とする。
【0015】
第4発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、
第1乃至3発明に記載の免震機構が、柱の外側に十分な強度を有するテーパー付きのガイドをもつ水平移動制限装置を備えることを特徴とする。
横ずれせず,浮き上がりや元の位置への接地がスムーズになるガイド機構をもつ該水平移動制限装置を柱外部に取り入れるのである。
【0016】
第5発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、第4発明に記載の水平移動制限装置に、ダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線方向に取り付けるための穴ならびに空間を備えることを特徴とする
ダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線方向に取り付けられないことを改善するために,水平移動制限装置にはダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線方向に取り付けるための穴ならびに空間を設ける。
【0017】
第6発明のアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置は、
本体を支持することなく損傷したダンパーを容易に取り替えられ,損傷による変形が残留しない構造を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本免震・制震構造は柱の基部に設置されるため,足場を組む必要が無く,施工が容易であり、工期,工費を小さくすることができる。
【0019】
死荷重作用下におけるダンパーの取替え作業が可能であり,取替え部材の支保工を必要としない。
【0020】
損傷したダンパーに発生する変形を死荷重によってもとの状態に戻す作用があるため,残留変位が生じにくい構造である。
【0021】
残留変位が生じた場合においても,構造物本体に損傷が無ければ,ダンパーを取り外すことで容易に残留変位を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、第1乃至6発明を具体化した実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1に示すアーチ橋の端柱やアーチリブ部のようにアスペクト比(高さ/幅)が大きく,ブレースによる補剛がなされたせん断剛性が高い骨組構造に,地震力等の水平力Hが頂部に作用した場合,片側の支承部が浮き上がろうとするロッキングが生ずる可能性がある。通常,このような浮き上がりを防ぐために,基部ピン支承では引き抜きに抵抗する構造となっている。したがって,骨組頂部に作用する水平力による転倒モーメント成分とつりあうため,正と負の反力が,それぞれの支承部に発生する。その結果,水平力の増加に伴い柱やアーチリブ基部の支承の一方に負反力が発生すると他方の柱やアーチリブ基部には死荷重による圧縮力に加え,この負反力に釣り合う圧縮力が作用しトータルとして大きな圧縮軸力が発生し,この部分が損傷する。上路式鋼アーチ橋に対して橋軸直角方向に地震波を入力した際に,端柱やアーチリブ基部に生ずる損傷は,このようなメカニズムによるものが主体である。
【0024】
そこで,ロッキングが生じる際に,柱基部やアーチリブ基部の浮き上がりを許容し免震機能を持たせるとともに,軸降伏型の履歴ダンパーを周辺に配置することで浮き上がり量を適切に調節しかつ制震機能を付加することにより,柱やアーチリブ基部など構造物本体の損傷を低減することができる図2に示すような免震・制震構造を発明するに至った。この構造では,まず,従来の支承の引き抜きに対する抵抗性を無くし,柱やアーチリブ基部が浮き上がった際に水平反力を受け持ち沓からの脱落を防止するための水平移動制限装置を新たに設ける。さらに,支承の周囲には軸降伏型ダンパーを柱の軸線方向の押し引きに抵抗するように一端を柱やアーチリブ下部に他端を支承あるいはアンカーを介して基礎に固定する。これにより,柱やアーチリブ基部の浮き上がりに対する抵抗を適度に与えるとともに,ダンパーの塑性化によるエネルギー吸収を図る。また,引張りにより塑性変形したダンパーの圧縮抵抗により柱やアーチリブ基部の作用力が引張りから圧縮へ反転するとき柱やアーチリブ基部が支承部に直接衝突することを防ぐ。なお,このダンパーは構造系の完成状態において設置することを前提とするので,死荷重下では無応力状態となる。また,ダンパーが受ける履歴特性としては座屈拘束ブレースのような両振りではなく,圧縮に較べ引張り変形が大きなものである。
【0025】
なお,本免震・制震機構はダンパーを取り外した状態でも死荷重に対しては機能を損なわないので,地震後の交換作業において,死荷重作用下でのダンパー交換が可能である。さらに,ダンパーは柱やアーチリブ基部に設置されているため,作業の際に大掛かりな足場や作業用機械を必要としない。
【0026】
ダンパーの設計は制震ブレースの設計(非特許文献1〜3)と同様に少なくとも主荷重や従荷重に対しては損傷せず,レベル2地震動で塑性化させるという考えで設計している。また,ダンパーの引張り塑性化後の浮き上がり残留変位を発生しないためには,下記の数式1のように1つの柱基部に設置する各軸降伏型ダンパーの降伏軸力の合計が柱基部の死荷重による初期軸力N0よりも小さくなればよい。このような条件を満足すると死荷重によるダンパーの再降伏でもとの状態へ戻る構造となる。なお,この条件では繰り返し載荷を受けるダンパーの弾塑性挙動をバイリニア移動硬化則で表せるものと仮定している。
【0027】
【数1】

【0028】
ここに,σyd,Aはダンパーの降伏応力と断面積,nは支承1基あたりに設置するダンパーの本数である。ただし,主荷重や従荷重に対して損傷しないように設計した場合には,数式1を満足させることは不可能な場合もある。つまり,数式1が満足されるか否かは構造系によってきまる。ダンパーの1次設計はレベル1地震動で支配されるケースが多いので,この場合について数式1を満足する構造を震度法で検討すると,後述のように骨組のアスペクト比が下記の数式2の条件を満たす場合であることが判明した。
【0029】
【数2】

【0030】
ここに,νは震度法による設計での安全率,khは設計水平震度である。
【0031】
数式2は、次により導かれる。
【0032】
図3に示す上部構造の重量P,地震慣性力khPが頂部に作用する骨組構造について基部の反力RAはB点に関するモーメントの釣り合いより下記の数式3のように求まる。
【0033】
【数3】

【0034】
ここに,khは設計水平震度である。
【0035】
柱基部に設置するダンパーは許容応力度設計法により,下記の数式4を満たすように設計する。
【0036】
【数4】

【0037】
ここに,νは震度法による設計での安全率,σyd,Aはダンパーの降伏応力と断面積,nは支承1基あたりに設置するダンパーの本数である。
【0038】
数式4を満足する範囲で,左辺の値を最小にすれば数式1が最も満足されやすくなる。従って,数式4より最小値を選んだ場合,下記の数式5が成立する。
【0039】
【数5】

【0040】
残留変位が生じない条件式である数式1において初期軸力N0がN0=P/2で表されることを考慮し,数式5を数式1に代入すると下記の条件式(数式6)が得られ,数式2が導かれる。
【0041】
【数6】

【0042】
実際のダンパーの設計としては,まず,1次設計において,ダンパー長と鋼種を設定して道路橋示方書(非特許文献7)に基づき断面積を決定する。ダンパーの断面積は可能な限り小さくなるように,ダンパーの配置などを工夫し,数式1を満たすように設計することが望ましい。つぎに,2次設計では,このダンパーを導入した構造系にレベル2地震動を入力して,制震・免震性能を検証し,不十分な場合はダンパー長や鋼種を変更して再設計する手続きをとる。2次設計における軸降伏型ダンパーの許容値としては,安全側の実現可能なものとして,非特許文献1の座屈拘束ブレースと同様に,最大ひずみを20ε,累積塑性ひずみを140εと設定する。ただ,本ダンパーが受ける履歴特性としては座屈拘束ブレースのような両振りではなく,圧縮に較べ引張り変形が大きなものであることが予想されるので,累積塑性ひずみの許容値はさらに大きな値を設定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、アーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、負反力が生じるアーチ橋を示した説明図である。
【図2】図2は、本発明の免震・制震構造の概要を示した説明図である。
【図3】図3は、頂部に上部構造の重量と地震慣性力が作用する骨組構造を示した説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱やアーチリブ基部の浮き上がりと接地をスムーズに行う機構と浮き上がり時の水平方向の変位を拘束する免震機構を備えていることを特徴とするアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置。
【請求項2】
浮き上がりを許容した柱やアーチリブ基部と基礎の間に軸降伏型金属ダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線に平行配置し,効率的に浮き上がり量を制御するとともに運動エネルギーを吸収する免震機構を備えていることを特徴とするアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置。
【請求項3】
柱やアーチリブ基部が浮き上がったあと元に戻るとき,柱やアーチリブ基部がフーチングへ衝突するのを軸降伏型金属ダンパーの抵抗とエネルギー吸収で防止する免震・制震機構を備えていることを特徴とするアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の免震機構が、柱の外側に十分な強度を有するテーパー付きのガイドをもつ水平移動制限装置を備えることを特徴とする請求項1乃至3記載の免震・制震装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水平移動制限装置に、ダンパーを柱やアーチリブ基部の軸線方向に取り付けるための穴ならびに空間を備えることを特徴とする請求項1乃至4記載の免震・制震装置。
【請求項6】
本体を支持することなく損傷したダンパーを容易に取り替えられ,損傷による変形が残留しない構造を備えていることを特徴とするアーチ橋,高橋脚,斜張橋及び吊り橋主塔等に用いる免震・制震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−197930(P2007−197930A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15267(P2006−15267)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】