説明

イオンを捕捉する方法および装置

本発明は、イオンを捕捉する方法およびイオントラップアセンブリに関する。本発明は特に、質量分析計内でイオンの質量分析を行なう前に、イオントラップ内で気体を利用するイオンの捕捉に用途がある。本発明は、各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームからなるイオントラップアセンブリのターゲットイオントラップ内でイオンを捕捉する方法を提供し、これによりイオンが捕捉されることなく繰り返しボリュームを通過して、ターゲットイオントラップに流入および流出することが可能である。電位を用いて、イオントラップアセンブリの各々の端部からイオンを反射することができる。オプションとして、電位井戸および/または気体利用冷却を用いて、ターゲットイオントラップ内でイオンを安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを捕捉する方法およびイオントラップアセンブリに関する。特に、本発明は、質量分析計内でイオンの質量分析を行なう前にイオントラップ内で気体を利用したイオンの捕捉に用途がある。
【背景技術】
【0002】
上記のようなイオントラップを用いて、流入するイオン流に対するバッファを提供して、特定の質量分析器に十分な空間、角度、および時間的特徴を有するパケットを準備するために用いることができる。質量分析器の例として、単一または多反射飛行時間(TOF)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、静電トラップ(例えばオービトラップ型)、または更なるイオントラップが含まれる。
【0003】
イオントラップを備えた典型的な質量分析計のブロック図を図1に示す。質量分析計は、分析対象のイオンを生成して、後続の分析に利用できる所望の量だけイオンが集められる単一のイオントラップに供給するイオン源を含んでいる。第1の検知器がイオントラップに隣接して設けられているため、コントローラの指示の下で質量スペクトルを取得することができる。質量分析計全体もまたコントローラの指示の下で動作する。質量分析計は一般に、内部を真空にすべく1個以上のポンプを備えた真空室内に設けられている。
【0004】
イオンを搬送または貯蔵するためにRF場を用いたイオン貯蔵器は、図1に示すもののように質量分析計における標準となった。図2aに、DC、RFおよびAC場の組合せを用いてイオンを捕捉する線形イオントラップ装置内の4本の電極の典型的な構成を示す。細長い電極がz軸に沿って伸びており、電極はx、y軸で一対になっている。図2aから分かるように、4本の細長い電極の各々はz軸に沿って3分割されている。
【0005】
図2bと2cに、電極に印加される典型的な電位を示す。貯蔵器内での捕捉は、DCおよびRF場の組合せを用いて実現される。電極は、双曲線等電位を近似すべく整形されていて、捕捉装置に流入するかまたは生成されるイオンの収容を支援する四重極RF場を生成する。図2cに、x軸電極がy軸電極とは逆極性の電位を有するようにRF電位が対向する電極に印加されることを示す。この捕捉は、高められたDC電位を、各々の分割電極の長い中心部に比べて短い端部に印加することにより支援される。これにより、電位の井戸がRF場に重ね合わされる。
【0006】
AC電位もまた電極に印加されてイオンの選択を支援するAC場成分を生成することができる。
【0007】
イオンは一旦捕捉された後で、質量分析器へイオントラップの端部から軸方向に、または一方の電極の中央に設けられた開口部を通って直角に放出することができる。
【0008】
この種のイオントラップは米国特許第US5,420,425号により詳細に記述されている。
【0009】
イオントラップを気体で満たし、気体との低エネルギー衝突によりイオンが初期運動エネルギーを失うことによりイオンの捕捉が支援できるようにすることができる。イオンは十分にエネルギーを失った後で、イオントラップ内に形成された電位井戸内で捕捉される。第1通過の間に捕捉されなかったイオンは通常、隣接するイオン光学系で失われる。
【0010】
大多数のイオンの場合、広範な質量および構造にわたって気体の圧力とイオンが移動した距離の積(P×D)が約0.2〜0.5mmTorrを上回ったならば、大幅に運動エネルギーが失なわれる。大多数の実用的な3Dおよび線形イオントラップは、約1mTorr以下の圧力で動作する。これには、過度のイオン損失を避けるために十分に長い経路長を提供すべく長さ100〜150mmのイオントラップが必要となる。しかし、そのように長いイオントラップは結果として例えば極端に厳しい製造要件を必要とするため、好ましくない。従って、実用的なイオントラップは、イオンの捕捉効率とシステムの長さとの間の妥協を要する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
背景技術に対し、本発明は第1の態様において、ターゲットイオントラップ内でイオンを捕捉する方法であって、各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームからなるイオントラップアセンブリ内へイオンを導入するステップと、イオンが捕捉されることなくターゲットイオントラップに流入、通過、および流出できるようにするステップと、当該ターゲットイオントラップに2回流入するようにイオンを誘導するステップとを含んでいる。
【0012】
本発明は、特定のイオン光学的条件下で、一連のボリュームを通るイオンを複数回通過させることにより上述の妥協を回避し得るとの知見を利用するものであり、各々の通過におけるイオン損失は小さい。1個のボリューム内で捕捉が生じるのは、イオンの運動エネルギーが余りに低いためにイオンがもはや当該ボリュームから出られない場合の最終段階だけである。複数のボリュームを用いる場合、イオンを最終的に保存する必要があるボリュームを「ターゲットイオントラップ」と呼ぶことがある。
【0013】
ボリュームは、例えばイオントラップ、イオン反射器、イオン光学系(イオンが通過する際にイオンを単に誘導するだけの機能を果たす)等の別々の部品に対応することを意図している。いくつかの部品は、複合的であって複数のボリュームを含んでいてよい。例えば、ターゲットイオントラップは、単一のボリュームを含んでいても、あるいは電極により分離された一対のトラップボリュームを含んでいてもよい。電極の電圧をスイッチオン/オフすることにより、単一のトラップボリュームまたは一対のトラップボリュームを生成することができる。イオントラップアセンブリは、イオン取り扱い部品のより大きい集合体の一部、例えば、イオン源、更なるイオントラップまたは貯蔵器、イオン光学系等を含む装置の構成要素であってよい。
【0014】
ターゲットイオントラップおよび他のボリュームを含むイオントラップアセンブリを提供することは、イオンがターゲットイオントラップ自体の長さよりも長い経路を横断しながらエネルギーに失うことを意味する。これにより、0.2〜0.5mmのTorrよりはるかに小さいP×D(Dはターゲットイオントラップの長さ)が得られる。イオンがターゲットイオントラップに確実に戻るようにすることは、その内部でイオンを回収できることを意味する。
【0015】
本方法は好適には、ターゲットイオントラップに2回流入するようにイオンを反射するステップと、オプションとして、当該ターゲットイオントラップに3回流入するようにイオンを2回反射するステップとを含んでいる。これは、イオントラップアセンブリの一端部に第1の電位を設け、イオントラップアセンブリの他の端部に第2の電位を設けて、イオンをいずれかの端部で反射して、繰り返しターゲットイオントラップを横断させることにより実現できる。このような方法で、イオンは繰り返しイオントラップアセンブリを横断し、イオンがエネルギーを失うよりもはるかに長い経路長を提供する。これは特に、通常は長い停止経路(極端な場合、数十回の反射)を要する、重いペプチドおよびタンパク質に対して有効である。
【0016】
オプションとして、イオントラップアセンブリの両端にRF電位を印加することにより、イオンが所謂「擬似電位」または「有効電位」により捕捉されるようにできる。この疑似電位は、質量への高い依存度を示し、陽および陰の両極性のイオンを同時に捕捉するために用いることができる。
【0017】
イオンがターゲットイオントラップ内で確実に捕捉されるように、陽イオンの場合、ターゲットイオントラップが全ての気体で満たされたボリュームの中で最も低い電位にあって電位井戸を形成するようにイオントラップアセンブリに電位を印加するのが好適である。このような方法で、イオンは、エネルギーを失うにつれてターゲットイオントラップ内で安定する傾向がある。一方、通過毎の衝突回数が無視できるイオントラップアセンブリ内のボリューム(すなわちかなり良好な真空に維持されたボリューム)にはそのような制約がない。すなわちそれらの電位は、ターゲットトラップの電位より低くても高くてもよい。
【0018】
ターゲットイオントラップはオプションとして、一連のボリュームの第1および第2のボリュームを含んでいて、本方法は、ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することにより電位井戸を形成するように、且つイオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁を形成するように電位をイオントラップアセンブリに印加するステップと、イオントラップアセンブリにイオンを導入し、続いてこれらのイオンがイオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁により反射されることにより、これらのイオンが繰り返しターゲットイオントラップを横断しながらエネルギーを失って最終的にターゲットイオントラップ内で安定させるステップと、その後第1および第2のボリュームの間に作用すべく電位を印加することにより、ターゲットイオントラップ内で安定しているイオンを、一方は第1のボリュームに捕捉されていて他方は第2のボリュームに捕捉されている2個のグループに分割するステップとを含んでいる。
【0019】
このような方法により、2個以上のイオン束を閉じ込める便利な方向を提供する。イオン束は次いで、別々に処理され(例えば、異なる質量分析計へ送られ)ても、または同様に処理され(例えば、一対の後続パケットとして同一検知器へ送られ)てもよい。本方法は、検知器のクロス較正を改良し、且つより優れた定量分析を提供することができる。
【0020】
第1および第2のボリュームは互いに隣接していてよい。例えば、ターゲットイオントラップは、捕捉電位を間に設けることにより分離された2個のボリュームを含んでいてよい。イオントラップの周辺回りに伸びる電極を用いて、当該電位を提供することができる。あるいは、第1および第2のボリュームは、イオンガイド等の更なるボリュームまたはボリューム群により分離することができる。この意味で、ターゲットイオントラップは複合的であり、2個の別々のイオントラップを含んでいる。イオン束を分割する場合、分割ボリュームの電位を第1および第2のボリュームよりも高くすることができ、これにより第1および第2のボリュームに電位井戸が生成される。
【0021】
本発明は、第2の態様において、各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームからなるイオントラップアセンブリのターゲットイオントラップ内でイオンを捕捉する方法であって、本方法は、当該イオントラップアセンブリに電位を印加して、(i)ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することによりターゲットイオントラップ内で電位井戸を形成し、(ii)ターゲットイオントラップに隣接する1個以上のボリュームがターゲットイオントラップよりも電位が高く、(iii)イオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁を形成するステップと、イオントラップアセンブリ内へイオンを導入し、続いて電位障壁によりイオントラップアセンブリのいずれかの端部でイオンを反射することにより、イオンがターゲットイオントラップを繰り返し横断しながらエネルギーを失うにつれて電位井戸内で安定するステップとを含んでいる。
【0022】
本方法はオプションとして、少なくとも1個のボリュームに気体を導入することにより気体を利用してイオンを捕捉するステップを更に含んでいてよい。これは、ターゲットイオントラップ内に形成された電位井戸内でイオンが安定するようにイオンのエネルギー損失を支援する好適な方法を表わすものである。0.1mTorr〜10mTorrの圧力範囲が好適であり、0.5mTorr〜2mTorrが更に好適である。
【0023】
本方法はオプションとして、ターゲットイオントラップに隣接するボリュームに気体を導入するステップを更に含んでいてよい。好適には、ターゲットイオントラップ内の圧力が隣接するボリューム内より低いように、気体または各種の気体がターゲットイオントラップおよび隣接するボリュームに導入される。
【0024】
考察された一つの実施形態によれば、本方法は更に、イオン貯蔵器からイオンを解放してイオントラップアセンブリに流入させる前に、イオン貯蔵器にイオンを捕捉するステップを含んでいてよい。本方法はオプションとして、イオンを繰り返しイオン貯蔵器内で捕捉し、これらをイオントラップアセンブリ内へ解放することにより、最終的にターゲットイオントラップ内で安定するイオンの個数を連続的に増加させるステップを含んでいてよい。
【0025】
イオントラップアセンブリはオプションとして、一連のボリューム群を往復的に通過するイオンの動きに概ね一致する長軸を有し、本方法は更に、ターゲットイオントラップに捕捉されているイオンを、当該イオントラップからほぼ直角に放出するステップを含んでいる。イオンは例えば、静電(オービトラップ)型分析装置あるいは、単一または多反射飛行時間型の質量分析器の等の質量分析器の入口内へ放出することができる。湾曲したターゲットイオントラップを用いて、自身から直角に放出されるイオンを集中しやすくすることができる。
【0026】
本発明は第3の態様において、各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームと、電位を担持すべく構成された電極と、当該電極において(i)ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することによりターゲットイオントラップ内で電位井戸を形成し、(ii)ターゲットイオントラップに隣接する1個以上のボリュームがターゲットイオントラップよりも電位が高く、(iii)電位障壁がイオントラップアセンブリのいずれかの端部で形成されるように電位を設定するコントローラとを含むイオントラップアセンブリである。
【0027】
オプションとして、イオントラップアセンブリはターゲットイオントラップに隣接して設けられたボリュームの1個に対応するイオン光学系を含んでいても、あるいはターゲットイオントラップに隣接して設けられたボリュームの1個に対応するイオン反射器を含んでいてよい。
【0028】
本発明はまた、イオン源およびトラップアセンブリにも拡張され、イオン源、当該イオン源の下流に設けられたオプションのイオン貯蔵器、および下流に設けられた上述のようなイオントラップアセンブリとを含んでいる。コントローラは、イオン貯蔵器に電位を設定して、イオン源により生成されたイオンを捕捉し、次いで捕捉されたイオンを解放してイオントラップアセンブリに流入させるべく構成されていてよい。イオン源(例:電子スプレー)は圧力がより高い領域(例:差動排気および電圧によりイオンを強制的に通過させる大気対真空界面)含んでいる場合が多く、これらの領域が実際にイオントラップアセンブリの一部を構成して、イオンがターゲットイオントラップ内で安定する前に内部を通過して複数回反射される1個以上のボリュームを形成することができる。
【0029】
本発明はまた、上述のようなイオントラップアセンブリまたはイオン源およびトラップアセンブリを含む質量分析計に拡張される。
【0030】
本発明をわかりやすくするために、図面を例示目的でのみ参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
実物大ではないが、オービトラップ型の質量分析計10を図3aに示す。質量分析計10の構成は一般に線形であって、長さ方向の(z)軸に沿ってイオンが通過する。分光計10の前面はイオン源12を含んでいる。イオン源12は必要に応じて各種の公知の種類、例えば電子スプレー、MALDIその他任意の公知の種類から選択することができる。イオン光学系14はイオン源12に隣接して設けられており、これに線形イオントラップ16が続く。更なるイオン光学系18がイオントラップ16の先に設けられており、これにゲート20、24で両端の境界を定められた湾曲四重極線形イオントラップ22が続く。当該イオントラップ22が、質量分析のためにイオンがその後放出される前にここに蓄積される意味でターゲットイオントラップである。イオン反射器26が、下流のゲート24に隣接して設けられている。イオン光学系18、イオントラップ22、およびイオン反射器26は、イオントラップアセンブリを含んでいて、これらの要素の各々が当該アセンブリの別々のボリュームに対応している。
【0032】
ターゲットイオントラップ22はイオンを、ターゲットイオントラップ22の電極に設けられた開口部を通り、イオントラップ22からのイオンビームエマージェントの集中を支援する更なるイオン光学系28を通って、オービトラップ質量分析計30への入口の方向へ直角に放出すべく構成されている。
【0033】
動作時に、イオンはイオン源12内で生成され、イオン光学系14を通って搬送されてイオントラップ16内に一時的に蓄積される。イオントラップ16は1mTorrのヘリウムを含んでいて、イオンが気体分子と衝突した際に運動エネルギーの一部を失わせる。
【0034】
(イオントラップ16内に十分な量のイオンが蓄積できるように選ばれた)一定の遅延時間後、あるいは、イオントラップ16内で十分な量のイオンが検出された後で、イオンがイオントラップ16から放出されて、イオン光学系18を通ってターゲットイオントラップ22内へ移動する。十分なエネルギーを有するイオンは、ターゲットイオントラップ22を通過してイオン反射器26内へ流入し、そこで反射されてターゲットイオントラップ22へ戻る。イオンのエネルギーに応じて、ゲート20により、あるいはゲート20の電位に打ち勝ってその先まで進み続けるのに十分なエネルギーを有する場合、イオントラップ16のより高い電位により反射されることができる。これについて以下により詳細に述べる。
【0035】
冷却気体がイオン反射器26内へ導入され、そこからターゲットイオントラップ22内へ流入することができる。冷却気体として、窒素、アルゴン、ヘリウムその他任意の適切な気体状の物質を用いることができるが、本実施形態のイオントラップ16にはヘリウムが、またイオントラップ22には窒素が好適である。この構成から、イオン反射器26内に1mTorrの窒素、およびターゲットイオントラップ22内に0.5mTorrの窒素が得られる。すなわち、ターゲットイオントラップ22内の方が反射器26内よりも圧力が低い。使用するポンプ装置(ポンプポートおよび矢印32で示す)は、イオントラップ16をターゲットイオントラップ22から分離するイオン光学系18が実質的に気体を含まないことを保障する。
【0036】
図3bに、イオン源12からイオン反射器26へのイオン経路に沿って生じている電位を示す。当該電位は、イオン源12、イオン光学系14、18、イオントラップ16、22、ゲート20、24、およびイオン反射器26に存在する電極に適切な電圧を印加することにより生成される。図から分かるように、イオンはイオン源12内の高電位から始めて、ターゲットイオントラップ22内で最も低い値まで概ね減少する電位を辿ることにより、必要に応じてターゲットイオントラップ22内でイオンを捕捉する電位井戸を形成する。
【0037】
実際、最低電位はイオン光学系18に現れる。イオン光学系18内に気体が存在しないため、イオンはエネルギーを失うことなく単にイオン光学系18を通って飛行するに過ぎない。このように、イオン光学系18の電位は、イオンが内部を通る際のイオン損失が必ず最小限になるように最適化されている。この場合、イオン光学系18の電位は、イオントラップ22の電位を下回るため、ターゲットイオントラップ22内に捕捉されたイオンがイオン光学系18へ逃げないことを保証するために、両者の間の電位を高めることが必要である。
【0038】
イオン源12により生成されたイオンは電位勾配40を辿り、遠端にある高電位46および近端における電位降下42によりイオントラップ16内に形成された電位井戸44に捕捉される。そのように捕捉されたイオンは、イオントラップ16内でヘリウムとの衝突によりエネルギーを失う場合がある。イオントラップ16はまた、質量分析実験を実行すべく動作可能な検知器を含んでいてよい。
【0039】
イオントラップ16内に十分な量のイオンが蓄積された場合、電位46を図3bの破線で示す電位から実線で示す電位まで下げることにより解放される。イオンがイオントラップ16から出て、イオントラップ22内で後続する貯蔵のプロセスが完了したならば、電位46は破線に一致するまで高められる。その後、トラップ16は再び充填の準備ができる。あるいは、イオントラップ16全体のDCオフセットを高めることにより、イオンがイオントラップ16に再流入するのを防止できる。イオントラップ16をすなわち一定に設定された実線で示す電位46で送信モードだけに用いることもできる。
【0040】
イオントラップ16から出るイオンの概略的な経路を48で示す。イオンは、イオン光学系18およびターゲットイオントラップ22を横断し、ターゲットイオントラップ22およびイオン反射器26内に存在する窒素との衝突を通じて運動エネルギーを失いながらイオン反射器26に流入する。
【0041】
最終的に、イオンはイオン反射器26に設けられた極めて大きい電位48により反射される。図から分かるように、イオン反射器26内の電位は指数的に上昇すべく構成されている。1回反射されたイオンは、再びターゲットイオントラップ22を横断し、自身の運動エネルギーがゲート20上の電位50を上回るため、続いてイオン光学系18に入ってイオントラップ16とイオン光学系18の間の急峻な電位勾配52により反射される。イオントラップ22およびイオン反射器26内でのエネルギー損失が十分小さい場合、イオンはイオントラップ16に再び入り、気体との衝突で若干のエネルギーを失って、電位障壁42により反射されることも可能である。このように、イオンはターゲットイオントラップ22へ送り返されて、イオン反射器26に生じている電位48によりもう1回反射される。イオンは、ターゲットイオントラップ22を通って逆方向へ反射され、イオン反射器26に生じている電位48によりもう1回反射される。
【0042】
図3bにおいて、3回反射されたイオンは、再びターゲットイオントラップ22を横断するが、今回は気体分子との衝突で余りに多くのエネルギーを失っているためゲート20上の電位障壁50に打ち勝つことができない。このように、イオンは、反射されてターゲットイオントラップ22内へ戻る。ゲート24およびイオン反射器26への入口の電位は、ターゲットイオントラップ22より僅かに高い。結果として生じた電位勾配54によりイオンが反射され、これにより、ゲート20および24の間に形成されたターゲットイオントラップ22の電位井戸56内に捕捉される。
【0043】
イオンは、イオントラップ16からのイオンの1回または連続的な注入だけを用いてターゲットイオントラップ22内に蓄積することができる。あるいは、イオントラップ16からの2回以上の注入を用いてより多くのイオンをターゲットイオントラップ22内に蓄積することができる。これは、イオントラップ16の端に生じている電位46の適切なゲート制御により実現することができる。
【0044】
イオンがターゲットイオントラップ22内に蓄積されたならば、例えば以下のような各種の異なる方法で操作することができる。
1.イオンをイオントラップ16へ戻して、例えば検知器による検出または分裂等、更なる処理を受けることができる。(下記参照)
2.イオンをイオン反射器26を通過させて、更に下流にある別の質量分析器またはフラグメンタ等へ送ることができる。
3.イオンをターゲットイオントラップ22の軸から、例えばオービトラップ30等の質量分析器の方へパルス送出することができる。
【0045】
後者の目的のために、電位50、54を破線のピーク50’、54’で示す電位まで上昇させて、イオンを強制的にトラップ22の中央へ向かって移動させることができる。このような「搾り出し」の間に増大したイオンエネルギーは、ターゲットイオントラップ22内の気体との衝突により急激に消失する。
【0046】
ターゲットイオントラップ22内に蓄積されたイオンは、電極間の隙間を通って、または電極に設けられた開口部を通って、矢印58で示すように曲率中心へ向かって放出される。放出は、本明細書に全文を引用しているWO05/124821A2に記載された方法を用いて実行される。上述のようにイオンを束ねることで、開口部を通過するイオンビームの幅が狭まる。ターゲットイオントラップ22の湾曲は、イオンをオービトラップ質量分析計30の入口開口部に集中させる役割を果たし、イオン光学系28により集中を支援する。
【0047】
上述の実施形態は、圧力ゲインを提供することにより、複数回の反射によりターゲットイオントラップ22内で低い気体圧力を維持して、一定の衝突減衰が得られる。この圧力ゲインは反射回数にほぼ等しく、これはすなわち1回通過する毎にイオントラップアセンブリから失われたイオンの割合で0.3〜0.5を除算した値にほぼ等しい。どのイオントラップアセンブリでもイオン損失の大半は、ボリュームを概ね分離する電極に設けられた開口部で生じる。従って、透過率の高いイオン光学系は、特に開口部を定める電極に関する最適性能を得るために重要である。イオン冷却にも関与する他の捕捉領域については、それらの領域がターゲットイオントラップ22内よりも高い気体圧力を有する場合、圧力ゲインが極めて高くなる可能性がある。
【0048】
好適には、イオン光学系はRFガイドや周期的レンズ等、広範に変動するエネルギーのイオンを搬送できなければならない。実験を通じて、内径がrを0.3〜0.4を上回り、且つ厚さがrを大幅に下回る開口部により分離された内接半径がrのRF多重極の場合にイオン損失を少なくできることが分かった。
【0049】
例えば、上述の実施形態において、線形トラップ16の長さは通常50〜100mm、イオン光学系18の長さは約300mm、ターゲットイオントラップ22の軸長は約20mm、イオン反射器26の長さは約30mmである。ターゲットイオントラップ22は0.5mTorrの窒素を含んでいるためP×D=0.01mmTorrが得られ、イオン反射器は1mTorrの窒素を含んでいるためP×D=0.03mmTorrが得られる。
【0050】
ゲート20、24に設けられた開口部の内径は2.5〜3mmである一方、それらの厚さは1mmを超えない。線形イオントラップ16の内接直径は8mm、ターゲット湾曲線形イオントラップ22の内接直径は2×rclt=6mm、イオン光学系18の内接直径は5.5mmである。通常、捕捉は数msの時間尺度で生じる。
【0051】
全体的に、オービトラップ質量分析器30へ向けて差動排気をより効率的に行なうだけでなく、壊れやすいイオンを安全に直角にパルス送出できるようにするためにターゲットイオントラップ22内の圧力が低いことが好ましい。高エネルギーでのイオンの分裂を回避すべく、(イオンの質量、電荷、構造その他のパラメータに応じて)Pclt*rclt<10−3〜10−2mmTorrが必要である。rcit=3mmの場合、これはPclt<(0.3〜3)×10−3Torrを意味する。
【0052】
上述の実施形態から得られる圧力ゲインが性能を向上させることが分かっている。従来は、m/z500を超えるイオントラップにおいて顕著な性能低下が見られた。現在、m/z2000まで性能低下は見られない。
【0053】
上述の実施形態は、単に本発明の可能な実装例の一つに過ぎない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく本実施形態に対する変型が可能なことが理解されよう。
【0054】
例えば、図4a〜4eに、利用可能なイオン光学系およびイオントラップの異なる構成を示す。図4aに、イオン光学系60にターゲットイオントラップ62が続く簡単なイオントラップ構成を示す。イオンは、イオン源(図示せず)により生成されて64でイオン光学系60内へ注入される。イオンは、矢印66、68で示すように、イオントラップ装置の両端部で反射される。ターゲットイオントラップ62は、気体を利用した捕捉を実行すべく気体を含んでいる。イオン光学系60の電位はターゲットイオントラップ62の電位より高く保たれる。ターゲットイオントラップ62の電位井戸に捕捉されたイオンは、70に示すように軸方向に、あるいは72に示すように直角に放出することができる。
【0055】
図4bに、2組のイオン光学系82、84に挟まれたターゲットイオントラップ80を含むイオントラップ構成を示す。イオン光学系84はイオン反射器として機能する。イオンは86から注入され、88、90に示すようにイオン光学系82、84の両端部で反射される。ターゲットイオントラップ80は気体を含んでいる。捕捉されたイオンは、ターゲットイオントラップ80により形成された電位に集められ、92から直角に放出したり、または94に示すようにイオン光学系84を通って軸方向に放出することができる。
【0056】
図4cに、100から注入されたイオンがイオン光学系102、気体で満されたイオントラップ104、イオン光学系106、および気体で満たされたターゲットトラップ108を順に通過するイオントラップ構成を示す。イオンは、110でターゲットトラップ108の遠端により、および112でイオントラップ104の遠端により反射される。ターゲットイオントラップ108により生成された電位に捕捉されたイオンは、114から軸方向にまたは116から直角に放出することができる。
【0057】
図4dに、120から注入されたイオンがイオン光学系122、気体で満たされたイオントラップ124、イオン光学系126、気体で満たされたターゲットイオントラップ128、およびイオン反射器130を順に通過するイオントラップ装置を示す。イオンは、イオン反射器130により132で、およびイオントラップ124の遠端134で反射される。ターゲットイオントラップ128により生成された電位に捕捉されたイオンは、136でトラップ128から直角に放出したり、イオン反射器130を通って138から軸方向に放出することができる。
【0058】
図4eは、ターゲットイオントラップ128およびイオン反射器130の両方が気体で満たされている点を除いて図4dとほぼ一致している。このように、図4eのイオントラップ構成は、図3aに示すものと同一である。本発明の全ての実施形態において、ターゲットイオントラップ22を通る1回のイオン通過での衝突の結果、イオンビームの実質的に無視できる割合(通常は10%未満)を捕捉する点に注意することが重要である。本発明を適用することにより、1回の通過と比較して捕捉効率が少なくとも2〜5倍向上する。これにより本発明は、1回および複数回捕捉する各種の公知の構成から区別される。
【0059】
上述の捕捉原理は、構造に関係なく任意の種類のトラップに適用可能であり、従って、電極または多重極の拡張された組、直径が一定または変動する開口部、RFおよびDC印加電位を有する螺旋形または円形の電極、および電磁気トラップ等が含まれる。気体利用の捕捉が好適であるが、断熱捕捉等の他の構成を用いてもよい。また、イオントラップ電位を高めて、イオントラップ内でイオン雲圧縮を実行することができる。
【0060】
気体を利用して捕捉を行なう場合、使用する気体の選択およびこれらの気体の圧力を自由に変更することができる。必要に応じて反応性気体(メタン、水蒸気、酸素等)または非反応性気体(希ガス、窒素等)を用いてもよい。
【0061】
提案された捕捉方法の他の利用法を考案することができる。例えば、図3aまたは図4bの構成を用いて、イオントラップ16または104の長さ(従ってコスト)を増やす必要なくイオン源12から流入するイオンの捕捉効率を高めることができる。この場合、大部分のイオンは、最初にターゲットトラップ22または108に捕捉され、続いてイオントラップ16または104へ還送することができる。
【0062】
通常、イオントラップ16、22およびイオン光学系14、18のDCオフセットを変更するだけで、イオンは一つのイオントラップから別イオントラップまで移動することができる。この観点から、「ターゲットトラップ」という用語は、(質量分析の前に貯蔵すべく用いる最終イオントラップに対して)イオンが衝突冷却を用いて捕捉されるターゲットを意味するものと解釈すべきである。これはまた、イオン損失の診断および最小化も可能にする。例えば、一定数のイオンをイオントラップ16からイオントラップ22内へ移動させ、次いでイオントラップ16へ戻し、更にイオントラップ16内に設けられた検知器または複数の検知器を用いて計測することができる。イオントラップ16への移動の有無に拘わらず同一検知器(群)により集められた質量スペクトルの比較により、各々の質量ピークについてイオン透過の正確な測定が可能になる。
【0063】
複数回通過捕捉により開かれた他の可能性としてイオンビームの分割がある。例えば、2個のイオントラップが全く同一のDCオフセットを有し、且つそれらを分離する電位障壁が存在しない場合、イオン雲はこれらのトラップ間で分散される。イオントラップ間に電位障壁を生成することでイオンの個数が2分割される。これは、各々のトラップに異なる検知器を使用する場合、各々の検知器のクロス較正を向上させ、且つ定量分析の向上が可能になるため、有用である。例えば、イオン個数の第1部分をターゲットイオントラップ22の第1の部分に分割して、関連付けられた検知器で測定される前にそこで捕捉することができる。測定されたイオン個数は次いで、ターゲットイオントラップ22の第2の部分に貯蔵されて後でオービトラップ30へ放出され得るイオンの正確な個数を予測するために利用することができる。これにより、オービトラップ30内において、得られた質量スペクトルの質量較正に修正を施すことができる。これは、MALDI等の比較的不安定なイオン源と合わせて用いる場合に利点がある。
【0064】
上述の実施形態におけるイオントラップのいずれも、電位が適切に設定されている場合、ターゲットイオントラップとして動作可能であるため、これはまた、図4の破線矢印により模式的に示すように、各々のイオントラップが他の質量分析器と軸方向または直角に連結できることを意味する。このような質量分析器は、TOF、FTICR、静電トラップその他任意の種類のイオントラップであることが好適であるが、四重極質量分析器、イオン移動度スペクトロメータ、または磁気セクターを用いてもよい。質量分析器は、図3または4に示す任意のイオン光学系の不可欠な部分をなす。
【0065】
上の説明は、陽イオンの捕捉に関連して述べたものである。しかし、当業者は、本発明が陰イオンの捕捉にも容易に適用できることが理解されよう。電位(特に極性)の適合が必要であるが、このような適合は直接的であって当業者の技術で十分対応できる。
【0066】
実際、本発明は、両方の極性を捕捉可能な電位障壁を用いる前提で両方の極性のイオンを同時に捕捉するために利用可能である。このような電位障壁は、(イオントラップ内で任意の極性のイオンを保持するRF場と同様の)RF場の「疑似電位」(「有効電位」としても知られる)により生成することができる。例えば、RF電圧をターゲットトラップ22の端部(群)における開口部に印加してよく、あるいは2個の多重極のオフセット間にRF電圧が存在してもよい。
【0067】
イオンがRF場内で移動する場合、それらの運動は、滑らかな「平均化された」軌道に重ね合わされた、RF場の周波数における高周波リップルと考えることができる。ランダウ(Landau)およびリフシッツ(Lifshitz)(力学、パーガモンプレス(Pergamon Press)、オックスフォード、英国、1969)に示されているように、そのような「滑らかな」軌道に沿った質量対電荷比がm/qであるイオンの運動は、特定の条件下(例:リップルが比較的小さい場合)で疑似電位の運動に等価である。
【数1】

ここに、<...>はRF場の周期にわたる平均、|...|はベクトルの絶対値を意味し、∇ΦはRF電位の勾配である。疑似電位を用いて、DC電位と同程度有効な電位井戸または障壁を生成することができる。疑似電位は、場の勾配の2乗平均に比例し、且つm/qに反比例するため、強い質量依存性を示す。質量の選択が必要な場合に、疑似電位の質量依存が強いことを利用すれば好都合である。主な違いは、疑似電位井戸または障壁は負および正に帯電した粒子の両方に同様に作用するため、両方の極性のイオンを同時に捕捉することができる。疑似電位はまた、DC電位と結合することができる。明らかに、疑似電位はまた、一つの極性のイオンだけを捕捉するために用いてもよい。
【0068】
上述の実施形態において、イオンの捕捉が必要な場合、ターゲットトラップ22の端部開口部で、またはRF多重極(例:多重極のDCオフセットの頂部)の間であってもRF電圧をスイッチオンすることができる。例えば、DC電位井戸だけを用いて陽イオンをターゲットトラップ22の一端部の近くに貯蔵することができる。次いで、追加的なイオン源または同一イオン源12からさえも陰イオンを(ターゲットトラップ22を除く全てのイオン経路に沿って電圧極性が反転した後で)放出して、ターゲットトラップ22の他の端部の近くに貯蔵することができる。イオンは、更なるイオン源から導入することができる。その後、RFはターゲットトラップ22の両端部でスイッチオンされ、DC電位井戸が除去される。両方の極性のイオンは、同じトラップボリュームを共有し始めて、例えばWO2005/090978およびWO2005/074004に記載されているように互いに引き合い、その結果イオン間相互作用が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】質量分析計のブロック図である。
【図2a】線形四重極イオントラップの斜視図である。
【図2b】イオントラップの動作に用いるDC、ACおよびRF電位の構成図である。
【図2c】イオントラップの動作に用いるDC、ACおよびRF電位の構成図である。
【図3a】本発明の一実施形態によればイオントラップアセンブリを含むオービトラップ型質量分析計の平面図である。
【図3b】使用中のイオントラップアセンブリに印加される電位を示すグラフである。
【図4a】本発明によるイオントラップアセンブリの実施形態を示す模式図である。
【図4b】本発明によるイオントラップアセンブリの実施形態を示す模式図である。
【図4c】本発明によるイオントラップアセンブリの実施形態を示す模式図である。
【図4d】本発明によるイオントラップアセンブリの実施形態を示す模式図である。
【図4e】本発明によるイオントラップアセンブリの実施形態を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットイオントラップ内でイオンを捕捉する方法であって、
各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームからなるイオントラップアセンブリ内へイオンを導入するステップと、
イオンが捕捉されることなく前記ターゲットイオントラップに流入および流出できるようにするステップと、
イオンが前記ターゲットイオントラップに2回流入するようにイオンを誘導するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記ターゲットイオントラップに2回流入するようにイオンを反射するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲットイオントラップに3回流入するようにイオンを2回反射するステップを更に含む、請求項2の方法。
【請求項4】
前記イオントラップアセンブリの一端部に第1の電位を設け、前記イオントラップアセンブリの他の端部に第2の電位を設けることにより、いずれかの端部でイオンを反射させて、前記ターゲットイオントラップを繰り返し横断させるようにするステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ターゲットイオントラップの一端部が前記イオントラップアセンブリの一端部に対応する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
各ボリュームがターゲットイオントラップを含んでいて、一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームからなるイオントラップアセンブリのターゲットイオントラップ内で気体を利用してイオンを捕捉する方法であって、
少なくとも前記ターゲットイオントラップに対応するボリュームを気体で満たすステップと、
前記イオントラップアセンブリに電位を印加して、(i)前記ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することによりターゲットイオントラップ内で電位井戸を形成し、(ii)前記ターゲットイオントラップに隣接する気体で満たされた1個以上のボリュームが前記ターゲットイオントラップよりも電位が高く、(iii)前記イオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁を形成するステップと、
前記イオントラップアセンブリ内へイオンを導入し、続いて電位障壁によりイオントラップアセンブリのいずれかの端部でイオンを反射することにより、イオンがターゲットイオントラップを繰り返し横断しながらエネルギーを失うにつれて電位井戸内で安定するステップとを含む方法。
【請求項7】
前記ボリュームの少なくとも1個に気体を導入することにより、気体を利用してイオンを捕捉するステップを更に含む請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲットイオントラップに気体を導入するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ターゲットイオントラップに隣接するボリュームに気体を導入するステップを更に含む、請求項8に記載方法。
【請求項10】
前記ターゲットイオントラップおよび隣接するボリュームに気体を導入して、前記ターゲットイオントラップ内の圧力が隣接ボリューム内より低くなるようにするステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記イオントラップアセンブリにRF電位を印加して、イオンを捕捉するための疑似電位を生成するステップを更に含む、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
陽および陰イオンの両方を同時に捕捉するのに適したRF電位を印加するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イオントラップアセンブリに電位を印加して、前記ターゲットイオントラップが、気体で満たされたボリュームのうち最も低い電位であるようにするステップを更に含む、請求項8〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
前記イオントラップアセンブリ内の平均圧力と前記イオントラップアセンブリの長さの積が0.5Torr*mm未満であるように前記気体で満たされたボリュームを満たすステップを含む、請求項8〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
前記積が0.2Torr*mm未満であるように前記気体で満たされたボリュームを満たすステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記気体で満たされたボリュームを0.1mTorr〜10mTorrの範囲の圧力で動作させるステップを含む、請求項8〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
前記気体で満たされたボリュームを0.5mTorr〜2mTorrの範囲の圧力で動作させるステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
イオン貯蔵器からイオンを解放してイオントラップアセンブリに流入させる前に、イオンを前記イオン貯蔵器内で捕捉するステップを更に含む、請求項1〜17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
イオンをイオン貯蔵器内で繰り返し捕捉してイオントラップアセンブリ内へ解放することにより、ターゲットイオントラップ内のイオンの個数を連続的に増加させるステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記イオン貯蔵器のいずれかの端部に電位を印加して内部にイオンを捕捉し、次いで一方の端部の電位を下げることにより当該端部からイオンを解放して前記イオントラップアセンブリに流入させるステップを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記イオン貯蔵器に電位を印加して、前記イオントラップアセンブリより高い電位にあるようにするステップを含む、請求項18〜20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
前記イオントラップアセンブリが、前記一連のボリューム群を往復的に通過するイオンの動きに概ね一致する長軸を有し、前記ターゲットイオントラップに捕捉されているイオンを、前記イオントラップからほぼ直角に放出するステップを更に含む、請求項1〜21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
前記ターゲットイオントラップが、前記ボリュームの1個を含む、請求項1〜22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
前記ターゲットイオントラップが前記一連のボリュームのうち第1および第2のボリュームを含んでいて、
前記ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することにより電位井戸を形成するように、且つイオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁を形成するように電位をイオントラップアセンブリに印加するステップと、
前記イオントラップアセンブリにイオンを導入し、続いてこれらのイオンがイオントラップアセンブリのいずれかの端部で電位障壁により反射されることにより、これらのイオンが繰り返しターゲットイオントラップを横断しながらエネルギーを失って最終的にターゲットイオントラップ内で安定させるステップと、
その後前記第1および第2のボリュームの間に作用すべく電位を印加することにより、前記ターゲットイオントラップ内で安定しているイオンを、一方は前記第1のボリュームに捕捉されていて他方は前記第2のボリュームに捕捉されている2個のグループに分割するステップとを含む、請求項1〜22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
前記第1および第2のボリュームが、互いに隣接している、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1のボリューム内のイオンの個数を判定し、前記判定を用いて前記第2のボリューム内のイオンの個数を推定するステップを更に含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のボリュームに捕捉されているイオンを質量分析計へ放出し、イオンから質量スペクトルを取得して、前記第2のボリューム内の推定されたイオンの個数に従い、質量スペクトルのピークに質量を割り当てるステップを更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
イオントラップアセンブリであって、
一つのボリュームから次のボリュームへイオンが移動できるように構成された一連のボリュームにおいて、前記ボリュームのいくつかが気体で満たすべく適合されており、且つターゲットイオントラップを含む一連のボリュームと、
電位を担持すべく設けられた電極と、
前記電極において、(i)ターゲットイオントラップのいずれかの端部で電位が上昇することによりターゲットイオントラップ内で電位井戸を形成し、(ii)ターゲットイオントラップに隣接する1個以上のボリュームがターゲットイオントラップよりも電位が高く、(iii)電位障壁がイオントラップアセンブリのいずれかの端部で形成されるように電位を設定するコントローラとを含むイオントラップアセンブリ。
【請求項29】
前記ターゲットイオントラップに隣接して設けられたボリュームの1個に対応するイオン光学系を含む、請求項28に記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項30】
前記ターゲットイオントラップに隣接して設けられたボリュームの1個に対応するイオン反射器を含む請求項28または29に記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項31】
前記コントローラが、イオンを捕捉するために疑似電位を生成する電位を設定すべく構成されている、請求項28〜30のいずれか一つに記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項32】
前記コントローラが、陽および陰イオンを同時に捕捉するために疑似電位を生成する電位を設定すべく動作可能である、請求項31に記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項33】
少なくとも1個のボリュームに気体を導入すべく動作可能な気体源を更に含む、請求項28〜32のいずれか一つに記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項34】
前記ターゲットイオントラップが、前記ボリュームの1個を含む、請求項28〜33のいずれか一つに記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項35】
前記ターゲットイオントラップが、前記一連のボリュームの第1および第2のボリュームを含んでいて、前記コントローラが、前記ターゲットイオントラップの電位井戸内でイオンが安定するための遅延を許し、次いで前記第1および第2のボリュームの間に作用する電位を設定することにより、前記第1および第2のボリュームの各々に1個づつ、2個の電位井戸を形成すべく構成されている、請求項28〜34のいずれか一つに記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項36】
前記第1および第2のボリュームが互いに隣接している、請求項35に記載のイオントラップアセンブリ。
【請求項37】
イオン源と、前記イオン源の下流に設けられたイオン貯蔵器を含み、請求項28〜36に記載のいずれかのイオントラップアセンブリが前記イオン貯蔵器の下流に設けられているイオン源およびトラップアセンブリ。
【請求項38】
前記コントローラが、前記イオン源により生成されたイオンを捕捉し、次いで捕捉されたイオンを解放して前記イオントラップアセンブリに流入させるように前記イオン貯蔵器に電位を設定すべく構成されている、請求項37に記載のイオン源およびトラップアセンブリ。
【請求項39】
前記コントローラが、前記イオン貯蔵器内でイオンを捕捉するために前記イオン貯蔵器のいずれかの端部に電位を設定し、次いで一方の端部の電位を下げることにより当該端部からイオンを解放して前記イオントラップアセンブリに流入させるべく構成されている、請求項38に記載のイオン源およびトラップセンブリ。
【請求項40】
前記コントローラが、前記イオン貯蔵器内で繰り返しイオンを捕捉し、その都度イオンパケットを解放して前記イオントラップアセンブリに流入させることにより、前記ターゲットイオントラップ内に多数のイオンパケットを蓄積すべく構成されている、請求項38または39に記載のイオン源およびトラップアセンブリ。
【請求項41】
前記コントローラが、前記イオントラップアセンブリよりも高い電位になるように前記イオン貯蔵器に電位を印加すべく構成されている、請求項37〜40のいずれか一つに記載のイオン源およびトラップアセンブリ。
【請求項42】
前記イオントラップアセンブリが、前記一連のボリューム群を往復的に通過するイオンの動きに概ね一致する長軸を有し、前記コントローラが、前記ターゲットイオントラップ内に捕捉されているイオンを前記ターゲットイオントラップからほぼ直角に放出すべく構成されている、請求項37〜41のいずれか一つに記載のイオン源およびトラップアセンブリ。
【請求項43】
請求項28〜36のいずれか一つに記載のイオントラップアセンブリを含む質量分析計。
【請求項44】
請求項37〜42のいずれか一つに記載のイオン源およびトラップアセンブリを含む質量分析計。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【公表番号】特表2008−535169(P2008−535169A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503590(P2008−503590)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001170
【国際公開番号】WO2006/103445
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】