説明

イオントラップ飛行時間型質量分析装置

【課題】本発明は、高感度なイオントラップ飛行時間型質量分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】マルチポール部5のイオン量の分布に応じて、PUSH電極6に印加する高電圧パルスの周期を可変させることにより、イオンは飛行時間型質量分析部9(飛行時間型質量分析手段)を飛行し、効率的にMCP(検出器)8へ輸送される。イオンを効率的に、MCP(検出器)8へ輸送し、高感度なマススペクトルが得られるイオントラップ飛行時間型質量分析装置を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンをトラップするイオントラップ部と質量分析部とを備える飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントラップ飛行時間型質量分析装置は、イオントラップ部と飛行時間型質量分析装置とが結合された質量分析装置であり、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
バイオ分野向けの質量分析計としては、測定する試料の分子量が大きいことから、多くの場合、飛行時間質量分析計(Time−of−flight,TOF)を用いる。
【0004】
TOFは、特許文献1に記載されているように、1951年に米国で特許が取得された技術であるが、最近のエレクトロニクスの進歩により身近な装置となり、バイオ分野をはじめ広い範囲で利用されている。
【0005】
特にバイオ分野においてはイオントラップを導入し、高い質量精度で、かつMS分析を可能とする手法が開発された。
【0006】
この手法によれば、イオン源とTOFの間にイオントラップを導入することで、イオントラップ内部でイオンの単離やイオン解離を繰り返すことができ、MS分析が可能である。
【0007】
特許文献2に示す質量分析装置は、イオントラップから排出したイオンがマルチポール部でイオンの運動エネルギーを収束させられ、TOF(質量分析部)のPUSH電極とPULL電極の間に導入される。PUSH電極とPULL電極の間に導入されたイオンは一定周期の高電圧パルスを印加することによってイオンを加速領域に導入し、直交方向に加速する。イオンの飛行時間に応じた電流値をMCPにて検出することで質量スペクトルを算出する飛行時間質量分析を行う。イオン導入方向と加速方向を直交配置することにより、高分解能及び高い質量精度を達成可能である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2,685,035号明細書
【特許文献2】特開2003−123685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のイオントラップ飛行時間型質量分析装置では、質量分析部のPUSH電極に印加する高電圧パルスの周期は一定であった。しかし、イオントラップ部の後段にある、マルチポール部のイオン量の存在分布は、図2のような分布をしている。同図から分かるように大多数の低質量数側のイオンが最初にマルチポール部からPUSH電極とPULL電極の間に移動し、その後少しずつ高い質量数側のイオンがPUSH電極とPULL電極の間に移動する。このため一定周期で高電圧パルスを発生させると、質量数により、輸送されるイオン量が異なる現象が生じていた。
【0010】
本発明の目的は、マルチポール部のイオン量の分布に応じて、PUSH電極に印加する高電圧パルスの周期を可変させることによって、イオンをMCP(検出器)に効率的に輸送し、低質量数側でも高感度なマススペクトルを得ることが可能なイオントラップ飛行時間型質量分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0012】
(1)本発明によるイオントラップ飛行時間型質量分析装置は、大気圧で動作するイオン源と、このイオン源で生成されたイオンを真空室内に導入し、この真空室内に導入されたイオンを中心軸方向に収束するイオン光学系と、真空室内でイオンを捕捉し、開烈反応を起こさせるイオントラップ部と、上記イオントラップ部から排出されたイオンの運動エネルギーを収束させるマルチポール部と、このマルチポール部から排出されたイオンを測定する飛行時間型質量分析手段とを有する。
【0013】
(2)更に、上記(1)において、上記マルチポール部のイオン量の分布に応じて、PUSH電極に印加する高電圧パルスの周期を可変させ、イオンを効率的にMCP(検出器)へ輸送し、高感度なマススペクトルが得られるイオントラップ飛行時間型質量分析装置を実現することである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PUSH電極に印加される高電圧パルスの発生間隔を可変させ、イオンをMCPにより効率的に輸送し、より高感度なマススペクトルを得ることが可能なイオントラップ飛行時間型質量分析装置を実現することである。
【0015】
また、イオントラップ部からマルチポール部に流入するイオン量の分布(図2)を予め、算出しておく。そして、予測される、上記イオントラップ部からマルチポール部への流入イオン量の分布に応じて、PUSH電極に印加される高電圧パルスの周期を制御すれば、イオンをMCP(検出器)に効率的に輸送し、高感度なマススペクトルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態であるイオントラップ飛行時間型質量分析装置の概略構成図である。
【0018】
まず、イオントラップ飛行時間型質量分析装置の基本動作を説明する。
【0019】
図1において、液体クロマトグラフシステム1により分離された試料は、エレクトロスプレーイオン源2にて脱溶媒・イオン化され、高真空におかれた装置内部(真空室内)に導入される。
【0020】
そして、導入されたイオンは、イオン光学系3で収束され、効率よくイオントラップ部4に導入される。
【0021】
イオントラップ部4では、イオンを閉じ込め、目的のイオンを選択し、開裂を行う。イオントラップ部4からマルチポール部5に流入する、イオン量の分布を予め(図2)、算出しておく。
【0022】
さらにイオンは、マルチポール部5から、PUSH電極6とPULL電極7の間に導入される。その際、まず低質量数のイオンから大量に導入される。次にこれらのイオンは飛行時間型質量分析部9(飛行時間型質量分析手段)を飛行する。このとき効率的にMCP(検出器)8まで輸送させるため、PUSH電極6から発生される高電圧パルスの周期T1を最大化する。それによって、効率的に低質量数側のイオンをMCP(検出器)8に輸送することができる。
【0023】
それから徐々に、マルチポール部5からPUSH電極6に到達するイオンは低質量数側のイオンから高質量数側のイオンに遷移していく。それに応じてPUSH電極6から発生される高電圧パルスの周期をT1からT2へと徐々に長くする。
【0024】
この高電圧パルスの周期の可変は、パルス周期の調整手段により行なわれる。
【0025】
本発明の実施例では、高電圧パルスの発生数はMS分析(ある目的の試料イオンを選択的に開裂させて,その断片の質量数より目的のイオンの構造を知る分析方法)では、200回であり、図2から従来の手法のように200回分の高電圧パルスを一定周期Tで発生させると、低質量数側のイオンがロスする。つまりその分だけ感度は低下する。そのため低質量数側のイオンが大量に存在するときは、高電圧パルスの周期を短くし、効率的に低質量数側のイオンをMCP(検出器)まで到達させ、低質量数側のイオンの感度を上昇させることが可能なイオントラップ飛行時間型質量分析装置を実現する。
【0026】
本発明は、トラップ部が、図1の概略図のように、4本の柱状の電極を持つイオントラップ型だけではなく、X軸に対して回転対称なリング電極と一対のエンドキャップ電極を用いた3次元イオントラップ型であっても同様に適用できる。
【0027】
また、図3、図4のようにイオントラップ部4とマルチポール部5の間に、偏向電極部10、ECD(Electron Capture Dissociation)反応部11を有する場合でも、飛行時間型質量分析部9(飛行時間型質量分析手段)へのイオン導入にマルチポール部5を介しているため本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係るもので、イオントラップ飛行時間型質量分析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係るもので、マルチポール部のイオンの分布図とPUSH電極から高電圧パルスが発生する間隔を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例に係るもので、イオントラップ飛行時間型質量分析装置の概略構成図である。
【図4】本発明の更なる他の実施例に係るもので、イオントラップ飛行時間型質量分析装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1…液体クロマトグラフシステム、2…エレクトロスプレーイオン源、3…イオン光学系、4…イオントラップ部、5…マルチポール部、6…PUSH電極、7…PULL電極、8…MCP(検出器)、9…飛行時間型質量分析部、10…偏向レンズ部、11…ECD反応部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧で動作するイオン源と、このイオン源で生成されたイオンを真空室内に導入し、
この真空室内に導入されたイオンを収束するイオン光学系と、真空室内でイオンを捕捉するイオントラップ部と、上記イオントラップから排出されたイオンの運動エネルギーを収束させるマルチポール部と、このマルチポール部から排出されたイオンを測定する飛行時間型質量分析手段とを有するイオントラップ飛行時間型質量分析装置において、
上記マルチポール部から導入されるイオン量に応じて、上記飛行時間型質量分析手段の電極から発生させる高電圧パルスの周期を可変することを特徴とするイオントラップ飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析装置において、
予め算出されたイオン分布に基づき前記高電圧パルスの周期を連続的に可変させるイオントラップ飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の質量分析装置において、
前記高電圧パルスの周期を時間経過にともなって長くすることを特徴とするイオントラップ飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
大気圧で動作するイオン源と、このイオン源で生成されたイオンを真空室内に導入し、
この真空室内に導入されたイオンを収束するイオン光学系と、真空室内でイオンを捕捉するイオントラップ部と、上記イオントラップから排出されたイオンの運動エネルギーを収束させるマルチポール部と、このマルチポール部から排出されたイオンを測定する飛行時間型質量分析手段とを有するイオントラップ飛行時間型質量分析装置において、
上記飛行時間型質量分析手段はイオンが間に導入されるPUSH電極とPULL電極を有し、
上記PUSH電極とPULL電極の間に導入されるイオン量に応じて、上記PUSH電極から発生させる高電圧パルスの周期を可変することを特徴とするイオントラップ飛行時間型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−84850(P2008−84850A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221374(P2007−221374)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】