説明

イオン伝導性微粒子とその製造方法、イオン伝導性複合体、膜電極接合体(MEA)、及び電気化学装置

【課題】 イオン解離性の基を有し、且つフッ素含有樹脂に対して親和性を示すイオン伝導性微粒子とその製造方法、このイオン伝導性微粒子を含有するイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置を提供すること。
【解決手段】 基材微粒子2の表面にイオン解離性の基3と第1の反応基12とを有する原料微粒子11に対し、一方の端部にのみ第1の反応基12と結合し得る第2の反応基14を有し、主部及び/又は他方の端部に、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団5を含有する反応分子13を作用させ、第1の反応基12と第2の反応基14との反応によって、基材微粒子2の表面に、一方の端部においてのみ基材微粒子2の表面に結合し、主部及び/又は他方の端部に、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団5を含有する改質基4を導入し、イオン伝導性微粒子1を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン解離性の基を有し、且つフッ素含有樹脂に対して親和性を示すイオン伝導性微粒子とその製造方法、このイオン伝導性微粒子を含有するイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、エネルギー変換効率が高く、窒素酸化物などの環境汚染物質を生成しないことから、電源装置として盛んに研究開発が行われている。また、近年、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯型電子機器では、その高機能化および多機能化にともない、消費電力が増加する傾向にあり、この傾向に対応できる携帯型電子機器用電源として、燃料電池に対する期待が大きい。
【0003】
燃料電池では、負極(アノード)側に燃料が供給されて燃料が酸化され、正極(カソ−ド)側に空気または酸素が供給されて酸素が還元され、燃料電池全体では燃料が酸素によって酸化される。このとき、燃料がもつ化学エネルギーが、効率よく電気エネルギーに変換されて取り出される。燃料電池には、故障しない限り、燃料を補給することで、電源として使い続けることができる特徴がある。
【0004】
すでに様々な種類の燃料電池が提案または試作され、一部は実用化されている。燃料電池は、用いられる電解質によって、アルカリ電解質形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、および高分子電解質形燃料電池(PEFC)などに分類される。このうち、PEFCは、電解質が固体で飛散するおそれがないことや、他の形式の燃料電池に比べて低い温度、例えば30℃〜130℃程度の温度で動作させることができ、起動時間が短いことなどから、携帯型電源として好適である。
【0005】
図8は、PEFCとして構成された燃料電池の構造の例を示す断面図である。燃料電池20では、水素イオン(プロトン)伝導性高分子電解質膜21の両側の面に、それぞれ、アノード(燃料極)22およびカソ−ド(酸素極)23が対向して接合され、膜電極接合体(MEA)24が形成されている。アノード22では、カーボンシートやカーボンクロスなどの多孔質導電材からなるガス透過性集電体(ガス拡散層)22aの表面に、水素イオン(プロトン)伝導性を有する高分子電解質粒子と、電子伝導性を有する触媒粒子とを含有する、多孔性のアノード触媒層22bが形成され、ガス拡散電極が形成されている。また、カソ−ド23では、同じく、カーボンシートなどの多孔質支持体からなるガス透過性集電体(ガス拡散層)23aの表面に、水素イオン(プロトン)伝導性を有する高分子電解質粒子と、電子伝導性を有する触媒粒子とを含有する、多孔性のカソ−ド触媒層23bが形成され、ガス拡散電極が形成されている。触媒粒子は、触媒材料単独からなる粒子であってもよいし、触媒材料が担体に担持された複合体粒子であってもよい。
【0006】
膜電極接合体(MEA)24は燃料流路31と酸素(空気)流路34との間に挟持され、燃料電池20に組み込まれる。発電時には、アノード22側では燃料が燃料導入口32から供給され、燃料排出口33から排出される。この間に、燃料の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)22aを通り抜け、アノード触媒層22bに到達する。燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の可燃性物質を用いることができる。カソード23側では酸素または空気が酸素(空気)導入口35から供給され、酸素(空気)排出口36から排出される。この間に、酸素(空気)の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)23aを通り抜け、カソード触媒層23bに到達する。
【0007】
例えば、燃料が水素である場合、アノード触媒層22bに供給された水素は、アノード触媒粒子上で下記の反応式(1)
2H2 → 4H+ +4e-・・・・・(1)
で示される反応によって酸化され、アノード22に電子を与える。生じた水素イオンH+は高分子電解質膜21を通ってカソ−ド23側へ移動する。カソ−ド触媒層23bに供給された酸素は、アノード側から移動してきた水素イオンと、カソ−ド触媒粒子上で下記の反応式(2)
2 +4H++4e- → 2H2O・・・・・(2)
で示される反応によって反応し、還元されてカソ−ド23から電子を取り込む。燃料電池20全体では、(1)式と(2)式を合わせた、下記の反応式(3)
2H2+O2 → 2H2O・・・・・(3)
で示される反応が起こる。
【0008】
水素などの気体燃料は、貯蔵用の高圧容器などが必要になるため、小型化には適さない。一方、メタノールなどの液体燃料は、貯蔵しやすいという利点があるが、改質器によって液体燃料から水素を取り出す方式の燃料電池は、構成が複雑になるので、小型化には適さない。これらに対し、メタノールを改質することなく、直接アノードに供給して反応させるダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)には、燃料を貯蔵しやすく、かつ、構成が簡素で、小型化が容易であるという特徴がある。従来、DMFCは、多くがPEFCと組み合わされて、PEFCの1種として研究されてきており、携帯型電子機器用電源として最も期待されている。
【0009】
さて、従来、水素イオン伝導性高分子電解質膜21の材料として、Nafion(デュポン社の登録商標)などのパーフルオロスルホン酸系樹脂が一般的に用いられてきた。Nafion(登録商標)は、パーフルオロ化された疎水性の分子骨格と、親水性のスルホン酸基を有し、パーフルオロ化された側鎖とを有する高分子からなる。Nafion(登録商標)では、スルホン酸基から解離した水素イオンが、高分子マトリックス中に取込まれた水をチャネルとして拡散移動することにより、水素イオン伝導性が発現する。従って、Nafion(登録商標)膜は、水分を十分に吸収した湿潤状態で優れた水素イオン伝導性を発揮する。
【0010】
しかし、水分含有量の少ない状態では、Nafion(登録商標)膜の水素イオン伝導率は急激に低下する。また、高分子中に取り込まれた水は、疎水性の高分子骨格から相分離した状態で保持されているので、不安定で、含水状態が温度によって大きく変化し、水素イオン伝導率の温度依存性が大きい。また、高温では水分が蒸発によって失われ、低温では水分が凍結するため、これらを防止するために、燃料電池が動作できる温度範囲が制限される。さらに、Nafion(登録商標)膜はメタノールの透過を阻止する性能が低く、Nafion(登録商標)膜を用いたDMFCではメタノールクロスオーバーによる発電性能の低下が著しい。さらに、フルオロスルホン酸系高分子は一般に材料コストが高く、結果としてそれらを用いる電気化学装置、例えば燃料電池などのコストを引き上げる原因になる。
【0011】
そこで、後述の特許文献1には、カーボンクラスター、特にフラーレンなどの特異な分子構造をもつカーボンクラスターなどを主成分とする炭素質材料に、プロトン解離性の基を導入した炭素質材料誘導体を、水素イオン伝導性電解質膜の材料として用いることが提案されている。なお、特許文献1において、「カーボンクラスター」とは、炭素原子が多数を占め、炭素−炭素間結合の種類は問わず、炭素原子が数個から数百個結合して形成されている集合体のことであるとされ、「プロトン解離性の基」とは、その基から水素原子がプロトン(水素イオンH+)として電離し、離脱し得る官能基を意味するとされている。本願においても、「カーボンクラスター」および「プロトン解離性の基」を同様に定義するものとする。
【0012】
フラーレンなどのカーボンクラスターにプロトン解離性の基を導入したプロトン解離性分子は、凝集状態で水素イオン伝導性を示す。これは、フラーレン1分子中に多数のプロトン解離性の基が存在するので、単位体積当たりに含まれるプロトン解離性の基の個数が非常に多くなるからであると考えられている。
【0013】
その後、フラーレン間が有機基で連結されたフラーレン系高分子など、様々なフラーレン誘導体が合成され、それらのうちには、特許文献1に例示されているフラーレン誘導体に比べ化学的および熱的安定性に優り、水素イオン伝導性電解質膜の構成材料として好適であると述べられているフラーレン誘導体が報告されている(例えば、特開2003-123793号公報、特開2003-187636号公報、特開2003-303513号公報、特開2004-55562号公報、および特開2005-68124号公報参照。)。
【0014】
しかし、燃料電池20などに用いられる水素イオン伝導性電解質膜21が満たすべき性能は多岐にわたり、水素イオン伝導性が高いことばかりではなく、機械的強度が優れ、かつ適度な可撓性を有すること、燃料や酸素の透過(クロスリーク)を防止する性能が十分であること、耐水性や化学的安定性や耐熱性が優れていることなどが要求される。現在容易に入手可能な水素イオン伝導性材料で、これらすべての要求に単独で応え得る材料は存在しない。例えば、フラーレン系水素イオン伝導性材料は多くが粉体であり、成膜性、膜の機械的強度および可撓性、並びに、燃料や酸素の透過防止性能が、成膜性に優れた高分子材料に比べて劣っている場合がある。
【0015】
そこで、特許文献1や後述の特許文献2には、プロトン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体を、成膜性に優れた高分子材料と複合体化することにより、成膜性、膜の機械的強度および可撓性、並びに燃料や酸素の透過防止性能を高める構成が提案されている。
【0016】
特許文献1には、成膜性に優れた高分子材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびポリビニルアルコール(PVA)が例示されている。
【0017】
特許文献2には、プロトン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体と、水及び/又はアルコール分子等の液体分子を透過しにくい高分子材料とが混合されてなり、この高分子材料の混合比率が15質量%を超え、95質量%以下、より望ましくは、20質量%以上、90質量%以下であるプロトン伝導性複合体が提案されている。この際、高分子材料が、少なくともフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体を含むのがよいとされ、共重合体はヘキサフルオロプロペンとの共重合体であるのがよいとされている。
【0018】
特許文献2には、次のように説明されている。すなわち、上記の構成により、カーボンクラスター誘導体が有する高いプロトン伝導性を維持しながら、上記高分子材料と同様に、成膜性や膜の機械的強度や化学的安定性に優れ、水およびメタノール等の液体分子の透過を遮断する性能に優れたプロトン伝導性複合体を実現できる。この際、カーボンクラスター誘導体は、高いプロトン伝導性を有する水素イオン伝達路を提供する。一方、上記高分子材料は、水およびメタノール等の液体分子の移動を遮断するとともに、高い成膜性と機械的強度によってカーボンクラスター誘導体の膨潤を阻止する機能を有する。
【0019】
また、後述の特許文献3には、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、製造コストも低い水素イオン伝導性材料として、スルホン酸基が導入された無定形炭素が提案されている。この材料は、有機化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理することによって製造することができる。この際、炭化、スルホン化、環同士の縮合が起こり、スルホン酸基導入無定形炭素が生成する。原料の有機化合物としては、芳香族炭化水素類を用いることができるが、糖類などの天然物や合成高分子化合物を用いてもよく、また、精製された有機化合物ではない原料、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを使用してもよい。
【0020】
上記のような固体酸も粉末状であるので、成膜するには、成膜性に優れた高分子材料と複合体化することが必要になる。特許文献3には、バインダー高分子として、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニルフルオリド、ビニリデンフルオリド、ヘキサフルオロプロペン、およびパーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーの、単独または共重合体を用いることで、電解質膜の安定性が飛躍的に向上すると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、カーボンクラスター誘導体やスルホン酸基導入無定形炭素などの、イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、PVDFやその共重合体などのフッ素含有樹脂とを複合体化することによって、イオン伝導性を有し、かつ、成膜性および膜の機械的強度や化学的安定性に優れた複合体を実現できる。とくに、フッ素含有樹脂は水やメタノールなどの透過を遮断する性能に優れているので、この複合体を用いて水素イオン伝導性電解質膜を作製すれば、ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)として好適な燃料電池を構成することができる。
【0022】
この際、上記のフッ素含有樹脂にはイオン伝導性はないので、複合体のイオン伝導性を高めるには、複合体におけるイオン伝導性微粒子の含有率をできるだけ大きくする必要がある。しかしながら、フッ素含有樹脂は非常に強い撥水性を示し、イオン伝導性微粒子が有する、親水性の強いイオン解離性の基とは親和しない。このため、フッ素含有樹脂と均一に混合できるイオン伝導性微粒子の含有率には上限がある。この上限を越えると、イオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とが相分離しやすくなり、イオン伝導性微粒子が複合体中で均一に分散せず、結果として、イオン伝導度が低下し、燃料電池などに応用した場合、その特性を低下させる原因になる。
【0023】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、イオン解離性の基を有し、且つフッ素含有樹脂に対して親和性を示すイオン伝導性微粒子とその製造方法、このイオン伝導性微粒子を含有するイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
即ち、本発明は、基材微粒子の表面に
イオン解離性の基と、
一方の端部においてのみ前記基材微粒子の表面に結合し、他方の端部にイオン解離性 の基をもたず、主部及び/又は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して親和性を有す る原子団を含有する改質基と
を併せ持つ、イオン伝導性微粒子に係わる。
【0025】
また、
基材微粒子の表面にイオン解離性の基と第1の反応基とを有する原料微粒子に対し、
一方の端部にのみ前記第1の反応基と結合し得る第2の反応基を有し、他方の端部に イオン解離性の基をもたず、主部及び/又は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して 親和性を有する原子団を含有する反応分子を作用させ、
前記第1の反応基と前記第2の反応基との反応によって、前記基材微粒子の表面に一 方の端部においてのみ結合し、他方の端部にイオン解離性の基をもたず、主部及び/又 は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団を含有する改質基を 導入する
、イオン伝導性微粒子の製造方法に係わる。
【0026】
本発明は、また、
前記イオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とを含有する、イオン伝導性複合体に係わる。
【0027】
また、前記イオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持されている膜電極接合体、及び、前記イオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持され、電気化学反応部を構成している電気化学装置に係わる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のイオン伝導性微粒子は、基材微粒子の表面に、イオン解離性の基に加え、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)を含有する改質基を併せ持つので、フッ素含有樹脂に対する親和性および分散性が向上する。この際、前記改質基は、一方の端部においてのみ前記基材微粒子の表面に結合し、他方の端部にイオン解離性の基を有していないので、前記改質基の主部及び/又は前記他方の端部を占める、前記フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)が、前記フッ素含有樹脂に容易に接触できる。このため、前記フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)が効果的に機能し、比較的少量の前記改質基を導入することによって、前記イオン伝導性微粒子と前記フッ素含有樹脂との親和性を向上させることができる。
【0029】
この結果、前記イオン伝導性微粒子と前記フッ素含有樹脂とからなるイオン伝導性複合体において、前記フッ素含有樹脂に均一に混合できる前記イオン伝導性微粒子の含有率の上限が向上し、結果的に、イオン伝導性複合体における前記イオン解離性の基の密度を増加させ、イオン伝導性複合体のイオン伝導度を向上させることができる。
【0030】
また、本発明のイオン伝導性微粒子の製造方法によれば、
基材微粒子の表面にイオン解離性の基と第1の反応基とを有する原料微粒子に対し、
一方の端部にのみ前記第1の反応基と結合し得る第2の反応基を有し、他方の端部に イオン解離性の基をもたず、主部及び/又は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して 親和性を有する原子団を含有する反応分子を作用させ、
前記第1の反応基と前記第2の反応基との反応によって、前記基材微粒子の表面に一 方の端部においてのみ結合し、他方の端部にイオン解離性の基をもたず、主部及び/又 は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団を含有する改質基を 導入する
ので、従来イオン伝導性微粒子として用いられてきた微粒子を原料として、簡易に、また確実に、本発明のイオン伝導性微粒子を製造することができる。
【0031】
また、本発明のイオン伝導性複合体は、本発明のイオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とからなるので、前記フッ素含有樹脂に均一に混合できる前記イオン伝導性微粒子の含有率の上限が向上したことを利用して、前記イオン伝導性複合体における前記イオン伝導性微粒子の含有率、ひいては前記イオン解離性の基の密度を増加させ、イオン伝導性複合体のイオン伝導度を向上させることができる。
【0032】
本発明の膜電極接合体(MEA)及び電気化学装置は、本発明のイオン伝導性複合体を電解質として有しているので、電気化学的特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく、イオン伝導性微粒子の表面の構造を示す概略図(a)、およびその作製工程を示す概略図(b)である。
【図2】同、シランカップリング剤を用いてイオン伝導性微粒子を作製する際の、反応過程を示す説明図である。
【図3】同、基本骨格に部分構造としてパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の例を示す説明図である。
【図4】同、基本骨格にフルオロ基を有するカルボン酸およびアルコールの例を示す説明図である。
【図5】フルオロアルキル基を導入する処理を行う前の試料、および導入処理後の生成物のFT−IR(フーリエ変換赤外)吸収スペクトルである。
【図6】実施例1および比較例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜の成膜状態を示す、デジタルカメラによる観察像である。
【図7】実施例1および比較例1で得られた燃料電池の発電試験の結果を示すグラフである。
【図8】PEFCとして構成された燃料電池の構造の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のイオン伝導性微粒子において、前記フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団が、フッ素含有の有機基であるのがよい。この際、前記フッ素含有の有機基がパーフルオロアルキル基を含有しているのがよい。
【0035】
また、前記基材微粒子がカーボンクラスター、無定形炭素微粒子、又はシリカ微粒子であるのがよい。
【0036】
また、前記カーボンクラスターが、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等、通称フラーレン)からなる群の中から選ばれた少なくとも1種であるのがよい。
【0037】
前記イオン解離性の基が、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+ 及びバリウムイオンBa2+ のいずれかを含むのがよい。
【0038】
前記イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、水素イオン伝導性を有するのがよい。この際、前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシ基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシ基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基であるのがよい。ここで、メタノ基>CH2とは、メタノ基の炭素原子が2本の結合手で前記カーボンクラスターの2個の炭素原子と単結合を形成し、橋かけ構造を作っている原子団のことである。
【0039】
本発明のイオン伝導性微粒子の製造方法において、前記反応を、前記反応分子としてシランカップリング剤を用いる反応、カルボキシ基のエステル化反応、又は前記反応分子としてクロロスルホニル化合物を用いる反応によって行うのがよい。
【0040】
本発明のイオン伝導性複合体において、前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、又はヘキサフルオロプロペンの単一重合体又は共重合体であるのがよい。この際、前記フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペンとの共重合体であるのがよい。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂、とくにヘキサフルオロプロペンとの共重合体は、成膜性に優れるとともに、メタノールの透過を遮断する性能が高い。
【0041】
本発明の電気化学装置は、燃料電池として構成されているのがよい。
【0042】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0043】
[実施の形態1]
実施の形態1では、主として、請求項1〜10に記載したイオン伝導性微粒子とその製造方法、および請求項11〜13に記載したイオン伝導性複合体の例について説明する。
【0044】
図1(a)は、実施の形態1に基づく、フッ素含有樹脂7に対する親和性が向上したイオン伝導性微粒子1の、表面の構造を示す概念図である。イオン伝導性微粒子1は、基材微粒子2、その表面に存在するイオン解離性の基3、および、一方の端部においてのみ基材微粒子2の表面に結合し、主部及び/又は他方の端部に、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)5を含有する改質基4によって構成されている。
【0045】
従来のイオン伝導性微粒子には、改質基4が存在しない。この場合、既述したように、フッ素含有樹脂は非常に強い撥水性を示すので、イオン伝導性微粒子が有する、親水性の大きいイオン解離性の基2とは親和しない。このため、フッ素含有樹脂と均一に混合できるイオン伝導性微粒子の含有率には上限がある。この上限を越えると、イオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とが相分離しやすくなり、イオン伝導性微粒子が複合体中で均一に分散せず、結果として、イオン伝導度が低下し、燃料電池などに応用した場合、その特性を低下させる原因になる。
【0046】
これに対して、本実施の形態に基づくイオン伝導性微粒子1は、フッ素含有樹脂7に対して親和性を有する原子団(基)5を含有する改質基4を併せ持つので、フッ素含有樹脂7に対する親和性および分散性が向上する。この際、改質基4は、一方の端部においてのみ基材微粒子2の表面に結合しているので、改質基4の主部及び/又は他方の端部を占める原子団(基)5が、フッ素含有樹脂7に容易に接触できる。このため、フッ素含有樹脂7に対して親和性を有する原子団(基)5が効果的に機能し、比較的少量の改質基4を導入することによって、イオン伝導性微粒子1とフッ素含有樹脂7との親和性を著しく向上させることができる。
【0047】
この結果、イオン伝導性微粒子1とフッ素含有樹脂7とからなるイオン伝導性複合体において、フッ素含有樹脂7に均一に混合できるイオン伝導性微粒子1の含有率の上限が向上し、結果的に、イオン伝導性複合体におけるイオン解離性の基2の密度を増加させ、イオン伝導性複合体のイオン伝導度を向上させることができる。
【0048】
ここで、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)5が、フッ素含有の有機基であり、さらに好ましくは、フッ素含有の有機基がパーフルオロアルキル基を含有しているのがよい。この構成によって原子団(基)5は、フッ素含有樹脂7に対して最も高い親和性を示す。
【0049】
図1(b)は、本発明の実施の形態1に基づく、イオン伝導性微粒子1の作製工程を示す概略図である。図1(b)に示すように、基4を導入する前の原料微粒子11は、基材微粒子2の表面に、(図1(b)では図示省略した)イオン解離性の基3に加えて、第1の反応基X12を有する。一方、これに作用させる反応分子13は、分子の一方の端部にのみ第1の反応基X12と結合可能な第2の反応基Y14を有し、主部及び/又は他方の端部に、フッ素含有樹脂7に対して親和性を有する原子団(基)5を含有している。適当な条件下で反応分子13を原料微粒子11に作用させると、第1の反応基X12と第2の反応基Y14との間で反応が起こり、連結基Z6が形成される。この結果、フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)5が連結基Z6を介して基材微粒子2の表面に導入される。
【0050】
第1の反応基X12と第2の反応基Y14とから連結基Z6を生成する反応は、特に限定されるものではないが、ヒドロキシ基間の脱水縮合反応や、エステル化反応などを挙げることができる。Xとしてヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基が挙げられる。以下、連結基Z6を生成する反応の違いに応じ、3つに分けて説明する。
【0051】
<1.反応分子としてシランカップリング剤を用いる場合>
シランカップリング剤を用いてイオン伝導性微粒子1を作製する場合には、まず、無水トルエンなどの有機溶媒に原料微粒子11を分散させ、これに少量の純水を添加した懸濁液に、反応分子13としてシランカップリング剤を徐々に滴下した後、室温下で1〜3日攪拌する。反応終了後、トルエンなどの有機溶媒で洗浄し、濾過または遠心分離によって沈殿物を回収する。得られた沈殿物を真空乾燥し、粉末状のイオン伝導性微粒子1を得る。
【0052】
図2は、シランカップリング剤を用いてイオン伝導性微粒子1を作製する際の、反応過程を示す説明図である。まず、シランカップリング剤R1Si(OR2)3は、加水分解により有機トリシラノールR1Si(OH)3に変化する。有機トリシラノールR1Si(OH)3の一部は互いに縮合してオリゴマーに変化する。次に、有機トリシラノールのモノマーまたはオリゴマーが、基材微粒子2の表面にあるヒドロキシ基−OH基とヒドロキシ基間の脱水縮合反応によって縮合する。この結果、連結基6として−O−Si−結合が形成され、連結基6を介して基本骨格−R1が基材微粒子2の表面に連結される。
【0053】
シランカップリング剤の一般式を下記に示す。
シランカップリング剤の一般式:
【化1】

【0054】
図2に示したシランカップリング剤は、上記の一般式においてR2=R3=R4である場合である。基本骨格である基−R1がフッ素原子を含有する有機基であれば、上記の反応でフッ素原子を含有する有機基を、フッ素含有樹脂7に対して親和性を有する原子団(基)5として基材微粒子2の表面に導入することができる。後述の実施例1では下記の構造式で示される2−(トリデカフルオロヘキシル)エチルトリエトキシシランを用いた。この場合、−R1=−CH2CH2613であり、−R2=−CH2CH3である。
【0055】
2−(トリデカフルオロヘキシル)エチルトリエトキシシランの構造式:
【化2】

【0056】
図3に、市販の試薬として容易に入手可能なもので、基本骨格である基−R1の部分構造としてパーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の例を示す。これらのシランカップリング剤を用いても、図2に示した反応過程によって基−R1を原料微粒子11の表面に導入することができ、実施例1と同様の効果を期待することができる。また、例示した以外にも、基本骨格にフルオロ基を有するシランカップリング剤であれば、問題なく用いることができる。
【0057】
図2の例では、原料微粒子11がもつ第1の反応基X12がヒドロキシ基−OHである例を示したが、広い意味での−OH基があればシランカップリング剤との反応が可能である。従って、第1の反応基X12がカルボキシ基−COOHやスルホン酸基−SO3Hであってもよい。また、シランカップリング剤がもつ第2の反応基Y14が−OR2基である例を示したが、第2の反応基Y14が−OH基、または、加水分解で−OH基を生成するハロゲン基(−Clなど)であっても、同様の反応が起こる。
【0058】
<2.カルボキシ基のエステル化反応を用いる場合>
原料微粒子11の表面にヒドロキシ基−OHがある場合には、カルボキシ基−COOHを有する反応分子13を作用させる。例えば、原料微粒子11と反応分子13とをそれぞれ適量秤量し、トルエンなどの有機溶媒中に分散させる。得られた分散液に、反応分子13の2倍当量程度のジシクロヘキシルカルボジイミドと、反応分子13の0.2倍当量程度のジメチルアミノピリジンを加えた後、室温下で1日攪拌する。反応終了後、トルエンおよびメタノールで洗浄し、濾過または遠心分離によって沈殿物を回収する。得られた沈殿物を真空乾燥し、粉末状のイオン伝導性微粒子1を得る。
【0059】
原料微粒子11の表面にカルボキシ基−COOHがある場合には、ヒドロキシ基−OHを有する反応分子13を作用させる。これ以外は上記と同様にして、イオン伝導性微粒子1を得る。
【0060】
図4に、市販の試薬として容易に入手可能なもので、基本骨格にフルオロ基を有するカルボン酸およびアルコールの例を示す。例示した以外にも、基本骨格にフルオロ基を有するカルボン酸およびアルコールであれば、それぞれ問題なく用いることができる。
【0061】
<3.反応分子としてクロロスルホニル化合物を用いる場合>
原料微粒子11の表面にヒドロキシ基−OHがある場合、第2の反応基Y14としてクロロスルホニル基−SO2Clを有するスルホニル化合物を反応分子13として用い、連結基Z6としてスルホン酸エステル結合を生成させることもできる。
【0062】
この場合、原料微粒子11をテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒中に分散させ、トリエチルアミンを加えて2時間攪拌する。一方、スルホニル化合物を少量のTHFに溶解させる。原料微粒子11の分散液を氷冷しながら、スルホニル化合物の溶液を徐々に滴下する。滴下終了後、反応溶液を室温下で1日攪拌する。反応終了後、THFおよびメタノールで洗浄し、濾過あるいは遠心分離によって沈殿物を回収する。得られた沈殿物を真空乾燥し、粉末状のイオン伝導性微粒子1を得る。
【0063】
下記に、市販の試薬として容易に入手可能なもので、基本骨格にフルオロ基を有するスルホニル化合物の例を示す。例示した以外にも、基本骨格にフルオロ基を有するクロロスルホニル化合物であれば、問題なく用いることができる。
【0064】
パーフルオロオクタンスルホニルクロリドの構造式:
【化3】

【0065】
<原料微粒子>
原料微粒子11は、表面構造を形成できるサイズ、例えば、外径が数nm〜数μmのサイズの粒子である。表面にイオン解離性の基3を有しており、水素イオン解離性である場合には、スルホン酸基、ホスホノ基、カルボキシ基などの酸性基を有する。さらに、改質基4を導入するために、第1の反応基12が必要である。第1の反応基12は、例えば、ヒドロキシ基−OHやカルボキシ基−COOHやスルホン酸基−SO3Hである。イオン解離性の基3がスルホン酸基やカルボキシ基である場合には、この一部を第1の反応基12として用いてもよい。さらに、原料微粒子11は水に不溶であり、基材微粒子2が電子伝達性を持つもの、例えば導電性カーボン材料などは除かれる。
【0066】
このような条件を満たす材料は、従来、イオン伝導性微粒子として用いられてきた材料の中に見出すことができ、例えば、スルホン酸基が導入されたカーボンクラスターや無定形炭素が適合する。これら以外に、スルホン酸基が導入されたシリカの多孔体(Chem.Rev.,2006,106,3790-3812参照。)や、Tungstophosphoric acidのような無機のポリ酸を用いることができる(Tungstophosphoric acidとPVDFとを混合したプロトン伝導膜の例は、Solid State Ionics,2007,178,527-531参照。)。また、有機高分子では、ポリスチレンスルホン酸、ポリイミドにスルホン酸基を導入した化合物、またはそれらの架橋体や共重合体などを用いることができる(プロトン伝導性ポリマーの例は、Chem.Rev.,2004,104,4587-4612参照。)。また、イオン伝導性微粒子として用いられてきた材料が第1の反応基12をもたない場合でも、第1の反応基12を導入する処理を追加すれば、原料微粒子11として用いることができる。
【0067】
イオン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体としては、例えば、特許文献1および2、並びに特開2003-123793号公報、特開2003-187636号公報、特開2003-303513号公報、特開2004-55562号公報、特開2005-68124号公報などに例示されているフラーレン誘導体などの中から、イオン伝導性や、化学的および熱的安定性を勘案して、使用条件などに応じて、適宜選択して用いるのがよい。フラーレンは、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等)であり、とくにC60及び/又はC70であるのが好ましい。現在用いられているフラーレンの製造方法では、C60およびC70の生成比率が圧倒的に高く、製造コスト的にC60及び/又はC70を用いるメリットが大きい。ただし、カーボンクラスター誘導体はフラーレン誘導体に限られるものではなく、カーボンナノホーンなどの他のカーボンナノ粒子の誘導体であってもよい。また、安価な石油ピッチなどの炭素材料に、スルホン酸基などの酸性基を導入したものであってよい。
【0068】
イオン解離性の基はとくに限定されるものではないが、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+、及びバリウムイオンBa2+のいずれかを含むのがよい。
【0069】
とくに、イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、カーボンクラスター誘導体が水素イオン伝導性を有するのがよい。この際、前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシ基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシ基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基であるのがよい。
【0070】
なお、スルホン酸基などのイオン解離性の基3と第2の反応基14とが反応する系では、イオン解離性の基3以外に第2の反応基14と反応し得る基が原料微粒子11に存在しない場合には、原料微粒子11におけるイオン解離性の基3の含有量(密度)をWs(mmol/g)としたときに、原料微粒子11の1g当たりに導入される改質基4の量Wf(mmol/g)は下記の条件を満たすことが必要である。
0<Wf<Ws・・・(式1)
これは、反応後もイオン伝導性微粒子1にイオン解離性の基3が残存し、イオン伝導性が失われない条件である。
【0071】
このとき、原料微粒子11とイオン伝導性微粒子1との質量の違いは無視できるとすると、イオン伝導性微粒子1におけるイオン解離性の基3の含有量(密度)Pは下記の(式2)で与えられる。
P=Ws−Wf・・・(式2)
また、イオン伝導性複合体におけるイオン伝導性微粒子1とフッ素含有樹脂との質量比を1:Rとすると、イオン伝導性複合体膜におけるイオン解離性の基3の含有量(密度)Qは下記の(式3)で与えられる。
Q=(Ws−Wf)/(1+R)・・・(式3)
イオン伝導性複合体の電解質としての性能としては、このQが、Nafion(登録商標)の一般的なイオン交換容量約0.9mmol/gよりも大きいことが望ましい。後述する実施例1で得られたイオン伝導性複合体では、Qは2.24mmol/g以上であると算出され、非常にイオン交換容量の大きい電解質膜が得られることがわかる。
【0072】
[実施の形態2]
実施の形態2では、主として、請求項11〜13に記載したイオン伝導性複合体、請求項9〜11に記載した膜電極接合体(MEA)、および電気化学装置の例として、実施の形態1で作製した水素イオン伝導性微粒子を、図8を用いて説明した燃料電池20に適用した例について説明する。
【0073】
<イオン伝導性複合体の作製>
イオン伝導性複合体を作製するには、まず、イオン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体を適当な有機溶媒に加え、撹拌し、均一に分散させる。続いて、この分散液に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはその共重合体の粉末を加えて撹拌し、塗液を調製する。次に、このようにして調製した塗液を基材上に均一に塗り広げ、塗膜を形成する。この塗膜から溶媒を徐々に蒸発させ、膜状のイオン伝導性複合体を作製する。イオン伝導性複合体膜の厚さは、塗布する塗液の量によって制御することができる。
【0074】
前記フッ素含有樹脂は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、又はヘキサフルオロプロペンの単一重合体又は共重合体であるのがよい。この際、前記フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペンとの共重合体であるのがよい。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂、とくにヘキサフルオロプロペンとの共重合体は、成膜性に優れるとともに、メタノールの透過を遮断する性能が高い。
【0075】
上記有機溶媒として、シクロペンタノン、アセトン、プロピレンカーボネート、およびγ−ブチロラクトンなどを用いることができる。また、基材として、ガラス板や、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、およびポリプロピレン(PP)などの有機高分子樹脂からなるフィルムやシートを用いることができる。
【0076】
<膜電極接合体(MEA)の作製>
上記のようにして作製した水素イオン伝導性複合体膜を適当な平面形状に切断する。これをアノード22とカソード23との間に挟み、例えば、温度130℃、圧力0.5kN/cm2の下で15分間加熱圧着することによって、膜電極接合体24を作製する。
【0077】
膜電極接合体(MEA)24は、図8を用いて説明したように、燃料流路31と酸素(空気)流路34との間に挟持され、燃料電池20に組み込まれる。発電時には、アノード22側では水素などの燃料が燃料導入口32から供給され、燃料排出口33から排出される。この間に、燃料の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)22aを通り抜け、アノード触媒層22bに到達する。燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の可燃性物質を用いることができる。カソード23側では酸素または空気が酸素(空気)導入口35から供給され、酸素(空気)排出口36から排出される。この間に、酸素(空気)の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)23aを通り抜け、カソード触媒層23bに到達する。
【0078】
燃料電池がダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)である場合には、燃料のメタノールは、メタノール水溶液または純メタノールとして供給され、蒸発したメタノール分子がアノード触媒層22bに到達する。メタノール分子は、アノード触媒粒子上で下記の反応式(4)
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e-・・・・・(4)
で示される反応によって酸化され、アノード22に電子を与える。生じた水素イオンH+は高分子電解質膜21を通ってカソ−ド23側へ移動する。カソ−ド触媒層23bに供給された酸素は、アノード側から移動してきた水素イオンと、カソ−ド触媒粒子上で下記の反応式(5)
(3/2)O2+6H++6e- → 3H2O・・・・・(5)
で示される反応によって反応し、還元されてカソ−ド23から電子を取り込む。燃料電池全体では、(4)式と(5)式を合わせた、下記の反応式(6)
CH3OH+(3/2)O2 → CO2+2H2O・・・・(6)
で示される反応が起こる。
【実施例】
【0079】
本実施例では、まず、実施の形態1で説明したシランカップリング剤を用いる製造方法によって、イオン伝導性微粒子1として水素イオン伝導性微粒子を作製した。次に、実施の形態2で説明したようにして、この水素イオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とで水素イオン伝導性複合体を作製し、その成膜状態を観察した。次に、この水素イオン伝導性複合体膜を電解質として用いて、実施の形態2で説明した膜電極接合体24および燃料電池20を作製し、発電性能を調べた。但し、本発明が下記の実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0080】
<原料微粒子(水素イオン解離性の基を有する微粒子)>
実施例1では、特許文献3に提案されている、スルホン酸基が導入された無定形炭素を、原料微粒子11として用いた。この材料は、有機化合物原料としてピッチ(コールタール)を用いて得られたものであるので、以下、スルホン化ピッチと呼ぶことにする。このスルホン化ピッチの元素分析結果を表1に示す。これから、スルホン化ピッチに含まれる硫黄Sがすべてスルホン酸基として存在していると仮定すると、スルホン酸基の含有量(密度)Wsは4.68mmol/gであると試算される。
【0081】
【表1】

【0082】
上述したスルホン化ピッチは、以下のようにして合成した。まず、コールタール(和光純薬工業(株)社製)10gを丸底フラスコにはかり取り、窒素気流によってフラスコ内部の空気を置換した後、フラスコごと氷浴に浸し、攪拌子で緩やかに攪拌した。次に、フラスコを十分に氷冷しながら、25質量%発煙硫酸(和光純薬工業(株)社製)200mLを、著しい発熱が起こらないように、注意深く徐々に滴下した。その後、しばらく氷浴に浸したまま室温下で激しく攪拌を続け、徐々に液温を室温に戻した後、さらに8時間撹拌を続けた。
【0083】
その後、再度フラスコごと氷浴に浸し、液温が高くなりすぎて突沸などが起こらないように注意しながら、イオン交換水500mLを徐々に加えた。得られた懸濁液を遠心分離処理し、上澄み液を除去した。この後、同様の洗浄操作を5回以上行った。上澄み液に硫酸イオンが含まれていないことを確認した後、得られた沈殿物を常温にて真空乾燥し、やや茶褐色がかった黒色の凝集物7gを得た。得られた凝集物は、ボールミル(フリッチュ社製)を用いて粉砕し、32μmメッシュのふるいを通過した微粉末を回収して、次の処理に用いた。
【0084】
<フルオロアルキル基を有する改質基4を導入する処理>
上述したスルホン化ピッチを原料微粒子11として用い、これに対してフルオロアルキル基を有する改質基4を導入する処理を行った。まず、スルホン化ピッチを乳鉢で粉砕し、75μmメッシュのふるいを用いてふるい分けた。ふるいを通過した原料1.5gを無水トルエン20mL中に分散させ、純水75μLを加え、攪拌した。得られた懸濁液に2−(トリデカフルオロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(東京化成工業(株)社製;製品番号T1770)75μLを徐々に滴下した。滴下終了後も懸濁液の攪拌を1〜3日続け、反応を完了させた。
【0085】
その後、黒色の懸濁液から遠心分離によって溶媒を除去した。続いて、トルエン20mLで洗浄後、遠心分離によって溶媒を除去する工程を3回以上行い、得られた沈殿物を6時間以上真空乾燥した。
【0086】
以上の工程で、フルオロアルキル基を有する改質基4が導入されたスルホン化ピッチを、用いた原料とほぼ同質量である約1.5g得ることができた。なお、本例では75μmメッシュのふるいを通過したスルホン化ピッチを原料として用いたが、これは反応時や乾燥時の扱いやすさを向上させるためである。また、この粒径は、二次凝集したスルホン化ピッチのサイズであって、スルホン化ピッチそのもののサイズではない。
【0087】
図5は、フルオロアルキル基を有する改質基4を導入する処理を行う前の原料、および導入処理後の生成物のFT−IR(フーリエ変換赤外)吸収スペクトルである。導入処理前の原料のスペクトルには、1143cm-1および1240cm-1付近に現れる、フルオロアルキル基による吸収ピークが存在しない。一方、導入処理後のスルホン化ピッチのスペクトルには、1143cm-1および1240cm-1付近にフルオロアルキル基による吸収ピークが観察された。これから、上述した処理によって、スルホン化ピッチにフルオロアルキル基が導入されたことを確認した。
【0088】
<水素イオン伝導性複合体膜の作製>
フルオロアルキル基を有する改質基4を導入したスルホン化ピッチをγ−ブチロラクトン(和光純薬工業(株)社製、特級)に加え、2時間攪拌し、均一に分散させた。この分散液にPVDF粉末を添加し、必要ならさらに溶媒を添加して、80℃に保ちながら3時間以上攪拌し、均一に分散させた。
【0089】
次に、このようにして調製した塗液をポリプロピレンシート上に均一に塗り広げ、塗膜を形成した。クリーンベンチ内でこの塗膜から溶媒を徐々に蒸発させ、膜状のイオン伝導性複合体を作製した。さらに、得られた薄膜を60℃に保った乾燥機中に3時間置き、溶媒を蒸発させ、乾燥させた。乾燥後の薄膜の厚さは15μmであった。
【0090】
イオン伝導性複合体膜の厚さは、塗布する塗液の濃度および単位面積当たりの塗布量を変えることなどによって制御することができる。例えば、塗液の濃度を溶媒に対する質量比で0.01〜0.030とし、濃度に応じて塗膜の厚さを30〜2000μmに変えることによって、イオン伝導性複合体膜の厚さを3〜50μm程度に制御できる。
【0091】
比較例1として、フルオロアルキル基を有する改質基4を導入したスルホン化ピッチの代わりに、フルオロアルキル基を導入していないスルホン化ピッチを用いた以外は実施例1と同様にして、水素イオン伝導性複合体膜を作製した。
【0092】
図6は、実施例1および比較例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜の、デジタルカメラによる観察像であり、成膜状態を示すものである。図6(b)に示す、比較例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜の観察像では、黒い部分がスルホン化ピッチであり、白い部分がPVDFであって、膜が均一に形成されていないことがわかる。これは、親水性の強いスルホン化ピッチと、強い撥水性を示すPVDFとが、相分離を生じたためと考えられる。これに対し、図6(a)に示す、実施例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜の観察像では、比較例1に比して全体的に均一性が向上していた。これは、フルオロアルキル基を導入することによって、PVDFに対する親和性および分散性が向上したことを示している。
【0093】
スルホン化ピッチとPVDF粉末との質量比を種々に変えて、成膜状態を観察した結果を表2に示す。表中、○は、成膜性が良好であること(相分離なし)を示し、△は、成膜性が不良であること(相分離が生じ、斑模様が入るなど、部分的欠陥あり)を示し、×は、成膜性が劣悪であること(凝集後の乾燥時に基材からのはがれなどあり)を示す。この表から、実施例1では、比較例1に比べて広い質量比の範囲で良好な成膜状態が実現されており、前記フッ素含有樹脂に均一に混合できる前記イオン伝導性微粒子の含有率の上限が向上したことがわかる。
【0094】
【表2】

【0095】
上記のように作製された水素イオン伝導性複合体膜は基材からはがし、適当な大きさに切断することで、燃料電池用電解質膜として利用できる。以下の実施例では、スルホン化ピッチとPVDF粉末との質量比が1:1になるように作製し、燃料電池試験を行った。
【0096】
ここで、上記の水素イオン伝導性複合体膜におけるスルホン酸基の含有量(密度)を試算してみる。2−(トリデカフルオロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(分子量 510.4、密度 1.34g/mL)75μLは、0.197mmolに相当する。従って、上述したシランカップリング剤の反応では、スルホン化ピッチ1g当たり0.197mmolのシランカップリング剤を作用させたことになる。仮に、その全量がスルホン酸基と反応したとし、スルホン化ピッチと、改質基4を導入したスルホン化ピッチとの質量の違いは無視できるとすると、反応後のイオン伝導性微粒子1に残存するスルホン酸基の含有量(密度)Pは、スルホン化ピッチにおけるスルホン酸基の含有量(密度)4.68mmol/gと(式2)から、
P=(4.68−0.197)(mmol/g)
=4.483(mmol/g)
である。また、水素イオン伝導性複合体における、改質基4を導入したスルホン化ピッチとPVDFとの質量比を1:1とすると、水素イオン伝導性複合体膜におけるスルホン酸基の含有量(密度)Qは(式3)から、
Q=4.483/(1+1)(mmol/g)≒2.24(mmol/g)
で与えられる。実際には、シランカップリング剤の一部は、スルホン化ピッチと反応しなかったり、スルホン化ピッチがもつヒドロキシ基やカルボキシ基と反応したりするので、上記のPおよびQの値は考え得る限りの最小値であり、実際のPおよびQの値はこれより大きい。
【0097】
<膜電極接合体(MEA)および燃料電池の作製>
上記の水素イオン伝導性複合体膜を14mm×14mmの正方形に切断し、電解質膜21として用いた。この電解質膜21を、平面形状が10mm×10mmの正方形であるアノード22とカソード23との間に挟み、温度130℃、圧力0.5kN/cm2の下で15分間加熱圧着して、膜電極接合体24を作製した。アノード22およびカソード23は、カーボンペーパー(商品名 TPG-H-090;東レ(株)社製)からなる集電体に、触媒粒子とNafion(登録商標)分散液(商品名 DE-1021;デュポン社製)とを混合した塗液を塗布した後、溶媒を蒸発させ、触媒層を形成したガス拡散電極を用いた。各電極で用いた触媒粒子は、それぞれ、カーボンブラックに白金触媒Ptを担持させた担持触媒(田中貴金属工業(株)社製、白金担持量70%)、およびカーボンブラックに白金ルテニウム合金触媒PtRuを担持させた担持触媒(E−TEK社製、Pt:Ru=2:1)を用いた。
【0098】
<燃料電池の発電試験>
燃料電池20に対し、アノード22に燃料として純メタノールを供給し、自然吸気にてカソード23に空気を供給し、室温25℃で発電試験を行った。
【0099】
図7は、実施例1および比較例1で得られた燃料電池の発電試験の結果を示すグラフである。図7から、電流密度−電圧曲線および電流密度−出力密度曲線のいずれにおいても、比較例1で得られた燃料電池に比して、実施例1で得られた燃料電池の方が発電性能が優れていることがわかる。これは、比較例1のようにスルホン化ピッチのPVDFに対する親和性および分散性が悪いまま成膜した場合、スルホン化ピッチが膜内で不均一に分散するため、スルホン化ピッチのスルホン酸基が埋没して水素イオン伝導に有効に寄与しないためと考えられる。
【0100】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、上述の例は、本発明の技術的思想に基づき、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のイオン伝導性複合体とその製造方法は、イオン伝導性電解質膜の製造歩留まりを向上させ、燃料電池などの電気化学装置の普及などに寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】
【特許文献1】WO01/06519(請求項1,4,5,16及び18、第3,6−11,13及び14頁、図1−5及び7)
【特許文献2】特開2005−93417号公報(第8及び12−14頁、図1−4、6及び7)
【特許文献3】特開2006−257234号公報(第3及び5−8頁、図1)
【符号の説明】
【0103】
1…イオン伝導性微粒子、2…基材微粒子、3…イオン解離性の基、4…改質基、
5…フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団(基)、6…連結基、
7…フッ素含有樹脂、11…原料微粒子、12…第1の反応基、13…反応基、
14…第2の反応基、20…燃料電池、
21…水素イオン(プロトン)伝導性高分子電解質膜、
22…アノード(負極;燃料極)、22a…ガス透過性集電体(ガス拡散層)、
22b…アノード触媒層、23…カソ−ド(正極;酸素極)、
23a…ガス透過性集電体(ガス拡散層)、23b…カソ−ド触媒層、
24…膜電極接合体(MEA)、25…アノード端子、26…カソ−ド端子、
31…燃料流路、32…燃料導入口、33…燃料排出口、34…酸素(空気)流路、
35…酸素(空気)導入口、36…酸素(空気)排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材微粒子の表面に
イオン解離性の基と、
一方の端部においてのみ前記基材微粒子の表面に結合し、他方の端部にイオン解離性 の基をもたず、主部及び/又は前記他方の端部に、フッ素含有樹脂に対して親和性を有 する原子団を含有する改質基と
を併せ持つ、イオン伝導性微粒子。
【請求項2】
前記フッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団が、フッ素含有の有機基である、請求項1に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項3】
前記フッ素含有の有機基がパーフルオロアルキル基を含有している、請求項2に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項4】
前記基材微粒子がカーボンクラスター、無定形炭素微粒子、又はシリカ微粒子である、請求項1に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項5】
前記カーボンクラスターが、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等、通称フラーレン)からなる群の中から選ばれた少なくとも1種である、請求項4に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項6】
前記イオン解離性の基が、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+、及びバリウムイオンBa2+のいずれかを含む、請求項1に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項7】
前記イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、水素イオン伝導性を有する、請求項6に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項8】
前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシ基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシ基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基である、請求項7に記載したイオン伝導性微粒子。
【請求項9】
基材微粒子の表面にイオン解離性の基と第1の反応基とを有する原料微粒子に対し、
一方の端部にのみ前記第1の反応基と結合し得る第2の反応基を有し、他方の端部に イオン解離性の基をもたず、主部及び/又は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して 親和性を有する原子団を含有する反応分子を作用させ、
前記第1の反応基と前記第2の反応基との反応によって、前記基材微粒子の表面に一 方の端部においてのみ結合し、他方の端部にイオン解離性の基をもたず、主部及び/又 は前記他方の端部にフッ素含有樹脂に対して親和性を有する原子団を含有する改質基を 導入する
、イオン伝導性微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記反応を、前記反応分子としてシランカップリング剤を用いる反応、カルボキシ基のエステル化反応、又は前記反応分子としてクロロスルホニル化合物を用いる反応によって行う、請求項9に記載したイオン伝導性微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載したイオン伝導性微粒子とフッ素含有樹脂とを含有する、イオン伝導性複合体。
【請求項12】
前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、又はヘキサフルオロプロペンの単一重合体又は共重合体である、請求項11に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項13】
前記フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペンとの共重合体である、請求項12に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載したイオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持されている、膜電極接合体。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれか1項に記載した水素イオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持され、電気化学反応部を構成している、電気化学装置。
【請求項16】
燃料電池として構成された、請求項15に記載した電気化学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−23185(P2011−23185A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166293(P2009−166293)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】